説明

燃料判別装置

【課題】燃料の状態を適切に判別することができる燃料判別装置の提供。
【解決手段】作業機械1は、エンジン2と、燃料タンク3と、フロート式センサ4と、燃料判別装置5とを備える。燃料判別装置5は、振動取得部54と、記憶部55と、燃料判別部56とを備える。振動取得部54は、フロート式センサ4からの出力信号に基づいて、燃料タンク3に貯留される燃料の液面の高さにおける振動状態を取得する。記憶部55は、正常燃料にてエンジン2を駆動した場合に、フロート式センサ4にて検出される燃料の液面の高さにおける振動状態を記憶する。燃料判別部56は、エンジン2を駆動した場合に振動取得部54により取得される振動状態と、記憶部55に記憶される振動状態とを比較して燃料が正常であるか否かを判別する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料判別装置に関する。
【背景技術】
【0002】
作業機械や、自動車等の駆動源であるエンジンの性能は、用いられる燃料の状態に影響を受ける。そこで、従来、燃料が正常であるか否かを判別することができるエンジンの制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1に記載の制御装置では、エンジンの回転数を検出することで燃料が正常であるか否かを判別している。
【0003】
【特許文献1】特開2006−132438号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の制御装置では、燃料の状態を直接的に検出することなく、エンジンの回転数を検出することで間接的に燃料が正常であるか否かを判別しているので、燃料の状態を適切に判別することができないという問題があった。
【0005】
本発明の目的は、燃料の状態を適切に判別することができる燃料判別装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1に係る燃料判別装置は、エンジンを有する作業機械に用いられる燃料が正常であるか否かを判別する燃料判別装置であって、前記作業機械は、前記燃料を貯留する燃料タンクと、前記燃料タンクに貯留される前記燃料の液面の高さを検出するフロート式センサとを備え、前記燃料判別装置は、前記フロート式センサにて検出される前記燃料の液面の高さにおける振動状態を取得する振動取得部と、正常な前記燃料にて前記エンジンを駆動した場合に、前記フロート式センサにて検出される前記燃料の液面の高さにおける振動状態を記憶する記憶部と、前記エンジンを駆動した場合に前記振動取得部により取得される振動状態と、前記記憶部に記憶される振動状態とを比較して前記燃料が正常であるか否かを判別する燃料判別部とを備えることを特徴とする。
【0007】
本発明の請求項2に係る燃料判別装置は、請求項1に記載の燃料判別装置において、前記振動状態は、前記燃料の液面の高さにおける振動の周波数および振幅の少なくともいずれかであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
ここで、燃料タンクに貯留される燃料が正常である場合(以下、正常燃料とする)における燃料の動粘性係数と、燃料が正常でない場合(以下、粗悪燃料とする)における燃料の動粘性係数とは、それぞれ異なっている。粗悪燃料では、例えば、燃料に不純物が混合する等して特性が変化しているためである。
一方、エンジンを有する作業機械においては、エンジンを駆動することにより燃料タンクが加振され、加振された燃料タンクに貯留される燃料の液面の高さが振動する。そして、燃料の液面の高さにおける振動状態は、燃料の動粘性係数に応じて変化する。すなわち、燃料の液面の高さにおける振動状態は、正常燃料と粗悪燃料とで異なる。
【0009】
したがって、請求項1の発明によれば、燃料判別部は、エンジンを駆動した場合に振動取得部により取得される振動状態と、記憶部に記憶された正常燃料にてエンジンを駆動した場合における振動状態とを比較することで燃料が正常であるか否かを判別することができる。すなわち、燃料タンクに貯留される燃料の振動状態をフロート式センサにて直接的に検出して燃料の状態、すなわち正常燃料であるか、粗悪燃料であるかを適切に判別することができる。また、フロート式センサは、一般的に、作業機械の燃料タンクに設けられているので、新たな部材を作業機械に追加する必要がなく、製造コストを低減させることができる。
【0010】
請求項2の発明によれば、燃料判別部は、燃料の液面の高さにおける振動の周波数および振幅の少なくともいずれかを比較するので、簡素な構成で燃料の状態を適切に判別することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
〔作業機械の構成〕
図1は、作業機械1の構成を示すブロック図である。
作業機械1は、油圧ショベル等の建設機械や、破砕機および発電機等の産業機械などの作業機械であり、図1に示すように、エンジン2と、燃料タンク3と、フロート式センサ4と、燃料判別装置5とを備える。
エンジン2は、作業機械1の駆動源である。なお、エンジン2には、回転量を検出するための回転センサ(図示略)が設けられている。
【0012】
燃料タンク3は、エンジン2にて用いられる燃料を貯留するものである。また、燃料タンク3には、貯留される燃料の温度を検出するための温度センサ6が設けられている。
フロート式センサ4は、燃料タンク3に貯留される燃料の液面の高さを検出するセンサであり、燃料の液面に浮かべられるフロート41と、フロート41の位置を検出するポテンショメータ42とを備える。
【0013】
ポテンショメータ42は、内部にプーリ(図示略)を備え、このプーリは、フロート41とロッドを介して連結している。燃料の液面の高さが変化すると、フロート41は、燃料の液面の高さ方向に移動してプーリを回転させる。そして、ポテンショメータ42は、プーリの回転量を検出することで燃料の液面の高さを検出する。なお、ポテンショメータ42は、燃料の液面の高さをアナログ電圧値として出力する。
ここで、前述したように、燃料の液面の高さにおける振動状態は、正常燃料と粗悪燃料とで異なる。したがって、ポテンショメータ42から出力されるアナログ電圧値の波形は、正常燃料と粗悪燃料とで異なる。
【0014】
燃料判別装置5は、燃料タンク3に貯留される燃料が正常であるか否か、すなわち、正常燃料であるか、粗悪燃料であるかを判別するものであり、エンジン回転数取得部51と、エンジン状態判定部52と、燃料温度取得部53と、振動取得部54と、記憶部55と、燃料判別部56とを備える。
エンジン回転数取得部51は、エンジン2に設けられた回転センサからの出力信号に基づいて、エンジン2の回転数を取得する。
【0015】
エンジン状態判定部52は、エンジン回転数取得部51により取得されるエンジン2の回転数に基づいて、エンジン2の駆動状態を判定する。
具体的に、エンジン状態判定部52は、エンジン2の回転数がアイドリング状態における回転数であるか否かを判定する。なお、アイドリング状態における回転数であるか否かの判定は、例えば、エンジン2の回転数が、所定時間以上の間、所定範囲内(例えば、600rpm前後の回転数)にある場合に、アイドリング状態であると判定することで行うことができる。
ここで、エンジン2の駆動が開始された直後や、エンジン2の回転数が変化している際には、燃料タンク3に貯留される燃料の液面の高さにおける振動状態が過渡的に変化する。一方、エンジン2の回転数がアイドリング状態である場合には、燃料タンク3に貯留される燃料の液面の高さにおける振動状態が安定する。したがって、本実施形態では、燃料判別装置5は、エンジン状態判定部52にて、エンジン2の回転数がアイドリング状態における回転数であると判定された場合に、燃料タンク3に貯留される燃料が正常であるか否かを判別する。これにより、燃料判別装置5は、燃料タンク3に貯留される燃料の液面の高さにおける振動状態を適切に判別することができる。
【0016】
燃料温度取得部53は、燃料タンク3に設けられた温度センサ6からの出力信号に基づいて、燃料タンク3に貯留される燃料の温度を取得する。
振動取得部54は、フロート式センサ4のポテンショメータ42からの出力信号に基づいて、燃料タンク3に貯留される燃料の液面の高さにおける振動状態を取得する。
具体的に、ポテンショメータ42からの出力信号は、燃料の液面の高さをアナログ電圧値として出力したものであるので、振動取得部54は、出力されるアナログ電圧値をサンプリングすることで、時系列の電圧値データとして取得する。そして、振動取得部54は、取得された時系列の電圧値データから振幅と、平均の高さを算出する。また、振動取得部54は、この時系列の電圧値データを、FFT(Fast Fourier Transform)変換することで、周波数(ピーク周波数)を算出する。すなわち、本実施形態では、振動取得部54は、燃料の液面の高さにおける振動状態として、周波数、振幅、および平均の高さを取得する。
【0017】
記憶部55は、正常燃料にてエンジン2を駆動した場合に、フロート式センサ4にて検出される燃料の液面の高さにおける振動状態を記憶する。具体的に、振動状態としては、正常燃料にてエンジン2を駆動した場合に振動取得部54により取得される周波数および振幅(以下、正常燃料の周波数および振幅とする)が燃料の液面の高さに関連付けて記憶されている。燃料タンク3は、エンジン2が駆動することで加振されるが、貯留される燃料の量により燃料タンク3全体の質量が変化する。これにより、燃料タンク3全体の振動伝達特性が変化するため、正常燃料の周波数および振幅は、燃料の液面の高さに関連付けられている。また、燃料の動粘性係数は、燃料の温度に応じて変化するため、正常燃料の周波数および振幅は、燃料の温度にも関連付けて記憶されている。
【0018】
燃料判別部56は、エンジン2を駆動した場合に振動取得部54により取得される振動状態と、記憶部55に記憶される振動状態とを比較して燃料が正常であるか否かを判別する。
具体的に、燃料判別部56は、まず、燃料温度取得部53により取得される燃料タンク3に貯留される燃料の温度と、振動取得部54により取得される平均の高さとに関連付けられた正常燃料の周波数および振幅を記憶部55から読み出す。さらに、エンジン2を駆動した場合に振動取得部54にて取得される周波数および振幅と、記憶部55から読み出された正常燃料の周波数および振幅との差分値を算出する。そして、この周波数および振幅の差分値における絶対値のうち、少なくともいずれか一方が所定の閾値よりも大きい場合には、燃料タンク3に貯留される燃料を粗悪燃料と判別し、いずれもが所定の閾値よりも小さい場合には、正常燃料と判別する。
【0019】
〔燃料判別装置による燃料判別処理〕
次に、燃料判別装置5による燃料判別処理について、図2を参照して説明する。
図2は、燃料判別処理を示すフローチャートである。
作業機械1のオペレータにより、エンジン2が駆動されると、燃料判別装置5は、以下のステップS1〜S5を実行する。
エンジン2が駆動されると、エンジン回転数取得部51は、エンジン2に設けられた回転センサからの出力信号に基づいて、エンジン2の回転数を取得する(S1)。
【0020】
エンジン回転数取得部51によりエンジン2の回転数が取得されると、エンジン状態判定部52は、エンジン回転数取得部51により取得されるエンジン2の回転数に基づいて、エンジン2の駆動状態を判定する(S2)。
エンジン状態判定部52にて、エンジン2の回転数がアイドリング状態における回転数であると判定されない場合には、燃料判別装置5は、再度、ステップS1を実行する。
【0021】
一方、エンジン状態判定部52にて、エンジン2の回転数がアイドリング状態における回転数であると判定された場合には、燃料温度取得部53は、燃料タンク3に設けられた温度センサ6からの出力信号に基づいて、燃料タンク3に貯留される燃料の温度を取得する(S3)。
次に、振動取得部54は、フロート式センサ4のポテンショメータ42からの出力信号に基づいて、燃料タンク3に貯留される燃料の液面の高さにおける振動状態を取得する(S4)。
そして、燃料判別部56は、振動取得部54により取得される振動状態と、記憶部55に記憶される振動状態とを比較して燃料が正常であるか否かを判別する(S5)。
【0022】
本実施形態に係る燃料判別装置5によれば、燃料判別部56は、エンジン2を駆動した場合に振動取得部54により取得される振動状態と、記憶部55に記憶された正常燃料にてエンジン2を駆動した場合における振動状態とを比較することで燃料が正常であるか否かを判別することができる。すなわち、燃料タンク3に貯留される燃料の振動状態をフロート式センサ4にて直接的に検出して燃料の状態、すなわち正常燃料であるか、粗悪燃料であるかを適切に判別することができる。また、フロート式センサ4は、一般的に、作業機械1の燃料タンクに設けられているので、新たな部材を作業機械1に追加する必要がなく、製造コストを低減させることができる。
【0023】
〔実施形態の変形〕
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【0024】
前記実施形態では、振動状態は、燃料の液面の高さにおける振動の周波数および振幅であったが、例えば、所定時間内における燃料の液面の高さにおけるピーク値等としてもよく、要するに、燃料の液面の高さにおける振動状態を示すものであればよい。
前記実施形態では、記憶部55には、周波数および振幅が温度に関連付けられて記憶されていたが、燃料の動粘性係数の温度による変化が少ない場合などには、所定温度における周波数および振幅のみを記憶させていてもよい。また、記憶部55には、周波数および振幅が燃料の液面における平均の高さに関連付けられて記憶されていたが、燃料タンク3の質量による振動伝達特性の変化が少ない場合などには、所定の高さにおける周波数および振幅のみを記憶させていてもよい。
【0025】
前記実施形態では、燃料判別装置5は、エンジン回転数取得部51およびエンジン状態判定部52を備え、エンジン2の回転数がアイドリング状態における回転数であると判定された場合に、燃料タンク3に貯留される燃料が正常であるか否かを判別していた。これに対して、例えば、バンドパスフィルタなどを用いることにより過渡的な変化を除去する等してもよく、要するに、振動取得部にて取得される燃料の液面の高さにおける振動状態を、燃料判別部が適切に判別することができればよい。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、エンジンを有する作業機械に好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態に係る作業機械の構成を示すブロック図。
【図2】前記実施形態における燃料判別処理を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0028】
1…作業機械、2…エンジン、3…燃料タンク、4…フロート式センサ、5…燃料判別装置、54…振動取得部、55…記憶部、56…燃料判別部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンを有する作業機械に用いられる燃料が正常であるか否かを判別する燃料判別装置であって、
前記作業機械は、
前記燃料を貯留する燃料タンクと、
前記燃料タンクに貯留される前記燃料の液面の高さを検出するフロート式センサとを備え、
前記燃料判別装置は、
前記フロート式センサにて検出される前記燃料の液面の高さにおける振動状態を取得する振動取得部と、
正常な前記燃料にて前記エンジンを駆動した場合に、前記フロート式センサにて検出される前記燃料の液面の高さにおける振動状態を記憶する記憶部と、
前記エンジンを駆動した場合に前記振動取得部により取得される振動状態と、前記記憶部に記憶される振動状態とを比較して前記燃料が正常であるか否かを判別する燃料判別部とを備えることを特徴とする燃料判別装置。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料判別装置において、
前記振動状態は、前記燃料の液面の高さにおける振動の周波数および振幅の少なくともいずれかであることを特徴とする燃料判別装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−249592(P2008−249592A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−93194(P2007−93194)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】