説明

燃料噴射システムのコンポーネント

【課題】ハウジング部分と射出成形被覆体との間のシール性を改善する。
【解決手段】燃料噴射システムのコンポーネント1のハウジング部分2と射出成形被覆体3との間に形成された接触面5を周辺環境に対してシールする少なくとも1つのシールエレメント7が設けられ、シールエレメント7が、ハウジング部分2と射出成形被覆体3との共通の外面8に、少なくとも、該外面8に接するまで延びる接触面5の範囲で該外面8に取り付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に燃料噴射弁として構成されていてよい、燃料噴射システムのコンポーネントに関する。特に本発明は、空気圧縮型の自己着火式内燃機関の燃料噴射装置に用いられるインジェクタの分野に関する。
【背景技術】
【0002】
ドイツ連邦共和国特許出願公開第10336327号明細書に基づき、内燃機関、特に直接噴射式のディーゼルエンジンの燃料噴射システムに用いられるインジェクタが公知である。この公知のインジェクタは、インジェクタボディに配置されたピエゾアクチュエータを有している。このピエゾアクチュエータは一方ではインジェクタボディに、他方ではスリーブ状の変換ピストンに、それぞれ当て付けられた状態に保持される。インジェクタボディは、その長手方向延在長さの大部分にわたって円筒状に形成された、一貫して延びる切欠きを有している。この切欠きの上端部はまず、円錐状に先細りになった区分を有しており、そしてこの区分は、直角に折り曲げられて最終的に外側へ向かって開口した区分へ移行している。切欠きの、折り曲げられた上側の区分は、ピエゾアクチュエータへの電流供給のためのケーブル貫通案内部として働く。インジェクタの上端部には、燃料供給部、たとえばコモンレールシステムの高圧接続部が設けられている。インジェクタの下端部には、ノズルボディが続いており、このノズルボディは袋ナットによってインジェクタボディに固定されている。
【0003】
ピエゾアクチュエータに通じた電気的な供給線路を実現するためには、インジェクタボディに固着するように射出成形された射出成形被覆体(Umspritzung)が設けられている。電気的な接続部材、特にブシュはこの場合、射出成形被覆体内に埋め込まれていてよい。
【0004】
互いに異なる熱膨張率および/または互いに異なる膨張特性を有する複数の構成部分を取り囲むように射出成形された射出成形被覆体の構成では、熱負荷もしくは湿分持込みを受けて当該構成部分と射出成形被覆体との間にギャップが生ぜしめられる。このことは、このような複合体(アッセンブリ)の非シール性を招き、とりわけ電気的なコンポーネントにおいては危険となる。特に湿分が構成部分、たとえばインジェクタボディ内に侵入する恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】ドイツ連邦共和国特許出願公開第10336327号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、冒頭で述べた形式の燃料噴射システムのコンポーネントを改良して、ハウジング部分と射出成形被覆体との間のシール性が改善されているようなコンポーネントを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題を解決するために本発明の構成では、燃料噴射システムのコンポーネント、特に燃料噴射弁であって、ハウジング部分と、該ハウジング部分に少なくとも部分的に付着するように設けられた射出成形被覆体とが設けられている形式のコンポーネントにおいて、ハウジング部分と射出成形被覆体との間に形成された接触面を周辺環境に対してシールする少なくとも1つのシールエレメントが設けられているようにした。
【発明の効果】
【0008】
本発明によるコンポーネントには、ハウジング部分と射出成形被覆体との間のシール性が改善されているという利点がある。特に、このシール性は、不都合な環境条件、特に、たとえば自動車のエンジンルーム内に出現するような熱負荷、湿分負荷および媒体負荷を受ける条件においても、保証され得る。
【0009】
請求項2以下に記載の手段により、請求項1に記載のコンポーネントの有利な改良が可能となる。
【0010】
シールエレメントが、ハウジング部分と射出成形被覆体との共通の外面に、該外面に接するまで延びる接触面の範囲で該外面に取り付けられていると有利である。この場合さらに、シールエレメントが、ハウジング部分と射出成形被覆体との共通の外面に接着されていると有利である。これにより、ハウジング部分と射出成形被覆体との間の接触の範囲への媒体の侵入を阻止することができる。これにより、湿分、たとえば水蒸気の侵入ならびに固形物、たとえば汚れ粒子または煤粒子の侵入も阻止することができる。したがって、インジェクタにおけるシール性を保証することができる。これによって運転時には、電気的な短絡、アース接続または電解を阻止することができる。
【0011】
また、共通の外面に接するまで延びる接触面が、該外面において円形線状に形成されており、シールエレメントが、円環状のシールエレメントとして形成されており、該シールエレメントが、接触面を共通の外面において、その円形線状の形成部に沿って閉鎖していても有利である。たとえば、ハウジング部分は円筒周壁状の外面を有していてよく、この円筒周壁状の外面が射出成形被覆体によって取り囲まれている。その場合、ハウジング部分と射出成形被覆体との間の接触面は、円筒周壁状の外面に相応して円筒周壁状に形成されている。その場合、射出成形被覆体とハウジング部分との、自由のままの共通の外面に関して、接触面はこの外面に円環状の形成部を有している。シールラベルを介して、比較的僅かな組付け手間をかけるだけで、この円筒周壁状の接触面を周辺環境に対してシールすることができる。
【0012】
シールエレメントがシールラベルとして形成されており、該シールラベルが、キャリヤシートと、該キャリヤシートの片側に設けられた接着剤とを有していることが有利である。したがって、このシールラベルを射出成形被覆体とハウジング部分、特にインジェクタボディとの間の面およびインタフェースに簡単に被着させることができる。シールラベルのキャリヤシートと接着剤とは、各使用事例において与えられた要求、特に頑丈性要求を考慮して選択されている。たとえば、シールラベルのキャリヤシートと接着剤とは、エンジンルーム内で必要となるような頑丈性要求に応えることができる。このことには、媒体、たとえばオイルまたは塩水ならびに高い温度変化に対する耐性が所属している。
【0013】
したがって、シールラベルが、耐媒体性のシールラベルとして形成されており、ただし耐媒体性は少なくとも耐燃料性を包含していることも有利である。付加的にまたは択一的に、シールラベルが、耐媒体性のシールラベルとして形成されており、ただし耐媒体性は、温度変化と相まった塩水に対する耐性を包含していることが有利である。
【0014】
ハウジング部分は有利には鋼を主体としていてよい。ハウジング部分が、リン酸塩処理された鋼を主体としていると特に有利である。射出成形被覆体は有利にはプラスチックを主体としていてよい。シールラベルにより、互いに異なる材料特性の場合でも、たとえばこのような鋼とこのようなプラスチックの場合でも、これら両材料の間の接触面に関してシール性を実現することができる。したがって、熱膨張率差および熱負荷時の膨張特性差が存在するにもかかわらず、湿分持込みを阻止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の1実施形態に相当する燃料噴射システムの1つのコンポーネントを示す部分的な概略図である。
【図2】図1に示したコンポーネントを図1の「II」で示した方向から見た図である。
【図3】前記実施形態におけるコンポーネントのシールエレメントを、外面に取り付けられる前の出発状態で示す概略的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明を実施するための形態を図面につき詳しく説明する。
【0017】
図1には、本発明の1実施形態に相当する燃料噴射システムの1つのコンポーネント1が、部分的な概略図で図示されている。コンポーネント1は特に燃料噴射弁1として構成されていてよい。特にコンポーネント1は燃料噴射装置の一部として自動車のエンジンルーム内に配置されていてよい。エンジンルーム内ではコンポーネント1が、不都合な環境条件にさらされている。特にコンポーネント1はオイルおよび塩水による媒体影響ならびに温度変動にさらされている恐れがある。しかし、本発明によるコンポーネント1は別の使用事例のためにも適している。
【0018】
コンポーネント1はハウジング部分2と、このハウジング部分2を取り囲んで被覆するように射出成形された射出成形被覆体3とを有している。ハウジング部分2は、たとえば円筒周壁状の外面4を有していてよい。この外面4に付着するように射出成形被覆体3が設けられている。これにより、円筒周壁状の外面4には、ハウジング部分2と射出成形被覆体3との間の接触面5が形成されている。この接触面5はこの場合、同じく円筒周壁状に形成されていてよい。
【0019】
本実施形態では、射出成形被覆体3内に電気的な接続部6が埋め込まれている。この電気的な接続部6を介して、コネクタプラグ(図示しない)によってコンポーネント1のアクチュエータまたはこれに類するもののための電気的な供給線路をコンタクトすることができる。
【0020】
接触面5の範囲では、ハウジング部分2に、たとえばハウジング部分2の内室に通じた孔、開口またはこれに類するものが設けられていてよい。この理由からも、周辺環境に対して接触面5を信頼性良くシールすることが必要となる。
【0021】
ハウジング部分2は機械的な要求、特に供給される燃料の圧力や、寿命にわたり必要となる耐摩耗性を考慮して、鋼から形成されている。特にリン酸塩処理された鋼が使用され得る。それに対して、射出成形被覆体3は、ハウジング部分2に対する付着射出成形を可能にするために、プラスチックから形成されている。したがって、接触面5の範囲では、互いに著しく異なっている材料が互いに接触している。たとえばこれらの材料は、互いに異なる熱膨張率および媒体作用時における互いに異なる膨張特性を有している。したがって、熱負荷および湿分持込みを受けた場合、接触面5にギャップが形成されるという問題が生じる。このことは、このアッセンブリの非シール性を招き、そして媒体、特に水、塩水およびオイルの侵入を招く恐れがある。その結果、電気的な短絡、アース接続、あるいはまた電解反応(電解)の出現が生じる恐れがある。
【0022】
接触面5を周辺環境に対して信頼性良くシールし、ひいては接触面5の範囲への媒体の侵入を信頼性良く阻止するためには、コンポーネント1が、少なくとも1つのシールエレメント7を有している。ハウジング部分2と射出成形被覆体3とには、共通の外面8が形成されている。共通の外面8の一方の部分9はハウジング部分2に位置しており、共通の外面8の他方の部分10は射出成形被覆体3に形成されている。共通の外面8はこの場合、少なくとも部分的に平坦に形成されている。
【0023】
ハウジング部分2と射出成形被覆体3との間の接触面5は、共通の外面8に接するまで延びており、この場所で外面8には閉じた曲線15が生ぜしめられる。閉じた曲線15は本実施形態では円形線状に形成されている。したがって、この共通の外面8に接するまで延びる接触面5は外面8において本実施形態では円形線状に形成されており、つまり円形線状の閉じた曲線15に沿って形成されている。シールエレメント7は閉じた曲線15の範囲において、共通の外面8に被着されている。被着はこの場合、ハウジング部分2と射出成形被覆体3との共通の外面8にシールエレメント7を接着することにより行われる。したがって、接触面5は周辺環境に対して信頼性良くシールされている。シールエレメント7はこの場合、閉じた曲線15において接触面5を閉鎖している。
【0024】
図2には、図1に示したコンポーネント1を図1の「II」で示した方向から見た図が示されている。シールエレメント7は円形線状の曲線15(図1)の範囲において、共通の外面8に接着されている。シールエレメント7はこの場合、円環状に形成されている。これにより、シールエレメント7はハウジング部分2の円筒状の端区分16を取り囲んでいる。しかし、シールエレメント7は別の幾何学的形状を有していてもよい。
【0025】
図3の概略的な断面図には、シールエレメント7が、外面8に取り付けられる前の出発状態で図示されている。シールエレメント7はシールラベル7として形成されている。このシールラベル7はキャリヤシート20と、このキャリヤシート20の一方の側21に設けられた接着剤22とを有している。シールラベル7は、耐媒体性のシールラベル7として形成されている。この場合、温度変化と相まって燃料および塩酸に対する耐媒体性が得られる。
【0026】
シールエレメント7の耐熱性は、たとえば約−40℃〜約140℃の範囲に合わせて設定されていてよい。
【0027】
耐媒体性はその都度の使用事例を考慮して設定され得る。
【0028】
燃料蒸気(フューエルべーパ)の作用に関する検査では、シールエレメント7を備えたコンポーネント1を、燃料表面に対してたとえば20cmの間隔を置いて検査容器内に持ち込むことができる。24時間の検査サイクルの枠内で、3時間、室温から出発して約70℃まで加熱を行うことができる。次いで、この温度が約5時間、約70℃に保持される。引き続き、16時間、70℃から出発して室温にまで冷却を行うことができる。特にエンジンルーム内でのコンポーネントの使用のためには、このような検査サイクルが2回または2回以上実施されると有利である。
【0029】
シール性を検出するための別の検査方法は、燃料を用いたクリーニングにあってよい。この場合、シールエレメント7および共通の外面8の範囲に位置する検査したい表面が、検査液で含浸された機械拭取りクロスを用いて、軽度の圧力を加えながら擦られる。擦り過程の回数は、たとえば10回であってよい。
【0030】
別の検査方法は、燃料を用いた湿潤にある。この場合、湿潤は刷毛塗り、注ぎかけまたは浸漬により行うことができる。1検査サイクルはこの場合、約24時間かかる。まず、5秒間、室温で検査液による湿潤を行うことができる。次いで、24時間、室温で、または場合によってはそれよりも高い温度でも、蒸発除去を行うことができる。特にエンジンルーム内での使用のためには、2回またはそれ以上の検査サイクルが実施されると有利である。
【0031】
相応して、防水検査を行うことができる。
【0032】
温度変化と相まった塩水に対する耐性は、エア−ブライン−検査法(Luft-Sole-Pruefmethode)により行うことができる。この場合、コンポーネント1は交互に熱炉内で加熱され、次いで、たとえば0℃の温度を有する塩水内に浸漬される。これにより、コンポーネント1およびその構成要素は強力な熱衝撃にさらされる。
【0033】
エア−ブライン−検査法では、熱炉内の範囲を最大150℃にまで加熱することができる。冷浴はこの場合、0℃を有していると有利である。熱炉内での滞留時間は、コンポーネント1の被検体質量に関連してこの場合、30分間またはそれ以上であってよい。冷浴内での滞留時間は被検体質量に関連して5分間またはそれ以上であってよい。移し替え時間は、たとえば5秒間であってよい。シール性を検査するためには、たとえば10回のサイクルを選択することができる。
【0034】
したがって、その都度の使用事例を考慮して、適当なシールエレメント7を使用することができる。
【0035】
本発明は、上で説明した実施形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0036】
1 コンポーネント
2 ハウジング部分
3 射出成形被覆体
4 外面
5 接触面
6 電気的な接続部
7 シールエレメント
8 外面
15 曲線
16 端区分
20 キャリヤシート
22 接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料噴射システムのコンポーネント(1)、特に燃料噴射弁であって、ハウジング部分(2)と、該ハウジング部分(2)に少なくとも部分的に付着するように設けられた射出成形被覆体(3)とが設けられている形式のコンポーネント(1)において、ハウジング部分(2)と射出成形被覆体(3)との間に形成された接触面(5)を周辺環境に対してシールする少なくとも1つのシールエレメント(7)が設けられていることを特徴とする、燃料噴射システムのコンポーネント。
【請求項2】
シールエレメント(7)が、ハウジング部分(2)と射出成形被覆体(3)との共通の外面(8)に、少なくとも、該外面(8)に接するまで延びる接触面(5)の範囲で該外面(8)に取り付けられている、請求項1記載のコンポーネント。
【請求項3】
シールエレメント(7)が、ハウジング部分(2)と射出成形被覆体(3)との共通の外面(8)に接着されている、請求項2記載のコンポーネント。
【請求項4】
共通の外面(8)に接するまで延びる接触面(5)が、該外面(8)において少なくともほぼ円形線状に形成されており、シールエレメント(7)が、少なくともほぼ円環状のシールエレメント(7)として形成されており、該シールエレメント(7)が、接触面(5)を共通の外面(8)において、その円形線状の形成部(15)に沿って閉鎖している、請求項2または3記載のコンポーネント。
【請求項5】
シールエレメント(7)がシールラベル(7)として形成されており、該シールラベル(7)が、キャリヤシート(20)と、該キャリヤシート(20)の一方の側に設けられた接着剤(22)とを有している、請求項1から4までのいずれか1項記載のコンポーネント。
【請求項6】
シールラベル(7)が、耐媒体性のシールラベル(7)として形成されており、耐媒体性は少なくとも耐燃料性を包含している、請求項1から5までのいずれか1項記載のコンポーネント。
【請求項7】
シールラベル(7)が、耐媒体性のシールラベル(7)としても形成されており、耐媒体性は、少なくとも、温度変化と相まった塩水に対する耐性を包含している、請求項1から6までのいずれか1項記載のコンポーネント。
【請求項8】
ハウジング部分(2)が鋼を主体としている、請求項1から7までのいずれか1項記載のコンポーネント。
【請求項9】
ハウジング部分(2)が、リン酸塩処理された鋼を主体としている、請求項8記載のコンポーネント。
【請求項10】
射出成形被覆体(3)がプラスチックを主体としている、請求項1から9までのいずれか1項記載のコンポーネント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−15139(P2013−15139A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−145916(P2012−145916)
【出願日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】