燃料噴射ノズルの噴孔内への皮膜形成方法
【課題】噴孔内において充分かつ均一に皮膜を形成することができ、狭小な噴孔に対しても適用することができる燃料噴射ノズルの噴孔内への皮膜形成方法を提供すること。
【解決手段】燃料噴射ノズル1の噴孔14内への皮膜形成方法は、管状体3の管状体先端部31をシート面12に当接させる管状体当接工程と、ノズル1のノズル先端部100をコーティング液2に浸漬し、噴孔14内をコーティング液2で満たす浸漬工程と、噴孔14内をコーティング液2で満たした状態で、コーティング液2を外部から噴孔14内を通って管状体3内に流入させるように吸引する吸引工程と、吸引したコーティング液2を管状体3内から噴孔14内を通って外部に排出させるように圧送する圧送工程と、管状体先端部31とシート面12との当接状態を解除した後、噴孔14内に塗布されたコーティング液2を乾燥及び焼成することにより皮膜を形成する皮膜形成工程とを有する。
【解決手段】燃料噴射ノズル1の噴孔14内への皮膜形成方法は、管状体3の管状体先端部31をシート面12に当接させる管状体当接工程と、ノズル1のノズル先端部100をコーティング液2に浸漬し、噴孔14内をコーティング液2で満たす浸漬工程と、噴孔14内をコーティング液2で満たした状態で、コーティング液2を外部から噴孔14内を通って管状体3内に流入させるように吸引する吸引工程と、吸引したコーティング液2を管状体3内から噴孔14内を通って外部に排出させるように圧送する圧送工程と、管状体先端部31とシート面12との当接状態を解除した後、噴孔14内に塗布されたコーティング液2を乾燥及び焼成することにより皮膜を形成する皮膜形成工程とを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の内燃機関に用いられる燃料噴射ノズルの噴孔内への皮膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の内燃機関に用いられる燃料噴射ノズル(以下、適宜、単にノズルという)は、近年、燃料の高噴射圧化によるノズル被熱の高温化、燃料の多様化による燃料事情の変化等により、燃料に起因する生成物等の異物が噴孔内や噴孔周辺等に付着・堆積し、いわゆるデポジットが生成される問題がある。このようなデポジットは、噴孔の摩耗、形状・サイズの変化等の原因となり、燃料の噴射方向や噴射量等の精度が低下する。
【0003】
そのため、従来から、このようなデポジットの生成を防止するために、噴孔内や噴孔周辺に例えば撥水性を有する皮膜を形成することが提案されている(特許文献1参照)。このような皮膜を形成することにより、皮膜形成部分への異物の付着・堆積を抑制し、デポジットの生成を防止することができる。
【0004】
上記皮膜を噴孔内に形成する場合、例えば浸漬法(ディッピング法)が用いられる。浸漬法は、噴孔が設けられた部分をコーティング液に浸漬させ、そのコーティング液が毛細管現象によって噴孔内に浸入することを利用して塗布する方法である。しかしながら、この方法は、皮膜を比較的容易に形成することができる反面、膜厚の制御が困難であり、また噴孔が狭小の場合には充分に成膜することができないという問題がある。
また、これ以外の方法では圧送法がある。圧送法は、噴孔内にコーティング液を圧送することによって塗布する方法である。しかしながら、この方法でも噴孔内に充分な膜厚で均一に成膜することができないという問題がある。
【0005】
このようなことから、燃料噴射ノズルの噴孔内に撥水性等の特性を有する皮膜を充分な膜厚で均一に形成することができ、噴孔が狭小である場合にも適用することができる噴孔内への皮膜形成方法が望まれている。
【0006】
【特許文献1】特開2002−4984号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたものであり、燃料噴射ノズルの噴孔内において目的とする皮膜を充分な膜厚で均一に形成することができ、狭小な噴孔に対しても適用することができる燃料噴射ノズルの噴孔内への皮膜形成方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、軸方向に穿設された案内孔の先端部に形成された円錐状のシート面と、該シート面の下流側に凹設されたサック部と、該サック部の内周面に開口する1又は複数の噴孔とを有する燃料噴射用ノズルの上記噴孔内に皮膜を形成する方法であって、
上記案内孔の内径よりも外径が小さい管状体の先端部を上記案内孔に挿入し、上記シート面に当接させる管状体当接工程と、
上記ノズルの先端部を皮膜原料液に浸漬し、少なくとも上記噴孔内を上記皮膜原料液で満たす浸漬工程と、
上記噴孔内を上記皮膜原料液で満たした状態で、上記皮膜原料液を外部から上記噴孔内を通って上記管状体内に流入させるように吸引する吸引工程と、
吸引した上記皮膜原料液を上記管状体内から上記噴孔内を通って外部に排出させるように圧送する圧送工程と、
上記管状体の先端部と上記シート面との当接状態を解除した後、上記噴孔の内壁面に塗布された上記皮膜原料液を乾燥、又は乾燥及び焼成することにより上記皮膜を形成する皮膜形成工程とを有することを特徴とする燃料噴射用ノズルの噴孔内への皮膜形成方法にある(請求項1)。
【0009】
本発明の皮膜形成方法では、上記浸漬工程において、上記ノズルの先端部を上記皮膜原料液に浸漬させ、上記噴孔内を上記皮膜原料液で満たした状態とする。そして、上記吸引工程において、上記の状態を保ったまま上記皮膜原料液を吸引し、上記ノズルの外部から内部に向かって上記噴孔内に流通させる。その後、上記圧送工程において、吸引した上記皮膜原料液を圧送し、上記ノズルの内部から外部に向かって上記噴孔内に流通させる。
【0010】
すなわち、上記吸引工程は、上記噴孔内を上記皮膜原料液で満たした状態で行うため、上記噴孔の内壁面に上記皮膜原料液を充分かつ確実に接触させることができる。
また、上記吸引工程及び上記圧送工程により、上記皮膜原料液を上記噴孔に対して両方向から流通させることになるため、上記皮膜原料液が上記噴孔の内壁面に接触する機会をより多くすることができ、また上記皮膜原料液を上記噴孔の内壁面に満遍なく均一に塗布することができる。
【0011】
また、本発明では、上述したように上記皮膜原料液を吸引及び圧送することによって上記噴孔の内壁面に塗布する。つまり、上記皮膜原料液に対して圧力が加わった状態で該皮膜原料液を上記噴孔内に流通させる。そのため、上記噴孔が小さく狭い場合であっても、上記皮膜原料液を上記噴孔内に確実に流通させることができる。
また、上記吸引工程及び上記圧送工程は、上記管状体を上記シート面に当接させた状態で行う。そのため、上記皮膜原料液を上記管状体内に吸引して該管状体内から圧送するという工程を容易かつ確実に行うことができるという効果も得られる。
【0012】
これにより、上記噴孔の内壁面に上記皮膜原料液を充分な塗布量で均一に塗布することができる。それ故、その後の皮膜形成工程において上記皮膜原料液を乾燥、又は乾燥及び焼成することにより、上記噴孔の内壁面に目的とする皮膜を充分な膜厚で均一に形成することができる。
なお、上記皮膜は、上記皮膜原料液の乾燥のみで形成することができるものについては乾燥のみを行い、焼成が必要なものについては乾燥及び焼成の両方を行う。
【0013】
以上のことから、本発明の皮膜形成方法によれば、燃料噴射ノズルの噴孔内において目的とする皮膜を充分な膜厚で均一に形成することができる。また、狭小な噴孔に対しても充分に適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
上記本発明において、上記燃料噴射ノズルは、自動車等の内燃機関に用いられるものである。一般に、上記ノズルを使用する場合、上記案内孔に摺動可能に挿通されるニードルと組み合わせて使用される。そして、このニードルを摺動させ、上記シート面に着座及び離座させることによって上記噴孔を開閉し、上記案内孔内に供給された燃料を上記噴孔から噴射することができるように構成されている。
【0015】
上記構成の燃料噴射ノズルの噴孔内に皮膜を形成するに当たっては、上記のごとく、管状体当接工程、浸漬工程、吸引工程、圧送工程及び皮膜形成工程を行う。
上記管状体当接工程では、その後の工程において上記皮膜原料液の吸引及び圧送を問題なく行うことができる程度に、上記管状体の先端部を上記シート面に当接させればよい。
また、上記浸漬工程では、上記ノズルの先端部を上記皮膜原料液に浸漬させ、該皮膜原料液が毛細管現象によって上記噴孔から上記ノズルの内部に浸入することを利用して、上記噴孔内を上記皮膜原料液で満たすことができる。
【0016】
また、上記吸引工程及び上記圧送工程における上記皮膜原料液の吸引及び圧送は、吸引及び圧送が可能な例えばピストンを備えたシリンジ、ポンプ等を上記管状体に取り付けて行うことができる。これにより、上記シート面に当接させた上記管状体の先端部から上記皮膜原料液を吸引及び圧送することができる。
【0017】
また、上記吸引工程の後には、上記ノズルの先端部を上記皮膜原料液から引き上げる引き上げ工程を行い、その後上記圧送工程を行う構成とすることができる(請求項2)。
すなわち、この場合には、上記ノズルを上記皮膜原料液から引き上げた状態で上記管状体内に吸引した上記皮膜原料液を圧送する。そのため、上記噴孔内を通って外部に排出される上記皮膜原料液を確認することができる。つまり、これを確認することによって、圧送した上記皮膜原料液が上記噴孔内を確実に通過したかどうかを確認することができる。
【0018】
さらに、上記構成とした場合、上記管状体当接工程の後には、上記浸漬工程、上記吸引工程、上記引き上げ工程及び上記圧送工程を1サイクルとする吸引圧送ステップを複数回繰り返して行い、その後上記皮膜形成工程を行うことが好ましい(請求項3)。
この場合には、上記吸引圧送ステップを複数回行うことにより、上記噴孔の内壁面に上記皮膜原料液をより一層充分に塗布することができる。
【0019】
また、上記圧送工程は、上記噴孔内を上記皮膜原料液で満たした状態で行い、上記圧送工程の後には、上記ノズルの先端部を上記皮膜原料液から引き上げる引き上げ工程を行い、その後上記皮膜形成工程を行う構成とすることもできる(請求項4)。
すなわち、この場合には、上記ノズルの先端部を上記皮膜原料液に浸漬し、上記噴孔内を上記皮膜原料液で満たした状態で、上記皮膜原料液の吸引及び圧送を連続して行う。そのため、上記皮膜原料液の吸引及び圧送という工程を連続的に効率よく行うことができる。
【0020】
さらに、上記構成とした場合、上記浸漬工程の後には、上記吸引工程及び上記圧送工程を1サイクルとする吸引圧送ステップを複数回繰り返して行い、その後上記引き上げ工程を行うことが好ましい(請求項5)。
この場合には、上記吸引圧送ステップを複数回行うことにより、上記噴孔内に上記皮膜原料液をより一層充分に塗布することができる。
【0021】
また、上記管状体の先端部は、当接する上記シート面の形状に合致した形状を呈していることが好ましい(請求項6)。
この場合には、上記管状体当接工程において、上記管状体の先端部を上記シート面に対して密接状態で当接させることができる。また、これによって、その後の工程において、上記皮膜原料液が上記案内孔の内周面(特にシート面)に余計に接触しないようにすることができる。また、この場合、上記皮膜原料液の上記シート面に対する接触は、上記シート面の面積の10%以下であることが好ましい。
【0022】
さらに、上記管状体の先端部の形状が上記シート面の形状に合致した形状を呈している場合、上記管状体の内径は、上記サック部の内径と同じであることが好ましい(請求項7)。
この場合には、上記管状体当接工程において、上記管状体の先端部を上記サック部の直上、すなわち上記シート面の下流端部に当接させることができる。これにより、その後の工程において、上記皮膜原料液が上記シート面に接触することを防止することができる。
したがって、上記皮膜は、上記噴孔内及び上記サック部に形成され、上記シート面には形成されない。
【0023】
ここで、上記シート面への上記皮膜原料液の接触を防止することによる効果について説明する。
上記燃料噴射ノズルは、上述したとおり、使用時において上記ニードルと組み合わせて使用される。そのため、上記シート面に上記皮膜が形成されていると、上記ニードルと上記シート面との接触によって該シート面から上記皮膜が剥がれ、それが上記噴孔内に流れ込んで悪影響を及ぼす可能性がある。よって、このようなことを防止するためには、上記シート面への上記皮膜原料液の接触を極力避けたほうが好ましい。
【0024】
また、上記管状体としては、該管状体の先端部を上記シート面に当接させた際に、上記先端部が変形しない程度の剛性を有するものを用いることが好ましい。
よって、上記管状体は、樹脂又はゴムよりなることが好ましい(請求項8)。
この場合には、上記管状体の先端部を上記シート面に当接させた際に、上記シート面に傷が付くことを防止することができる。また、上記シート面への当接状態を維持し易いという効果もある。
【0025】
また、上記皮膜原料液は、フッ素を含有するフッ素含有液であることが好ましい(請求項9)。
この場合には、上記噴孔内に撥水性を有するフッ素系皮膜を形成することができる。これにより、上記噴孔内における異物の付着・堆積を抑制し、デポジットの生成を防止することができる。
【0026】
なお、上記皮膜原料液は、形成する皮膜によって様々な種類のものを用いることができる。例えば、フルオロアルキルシラン等を含有するものが挙げられる。
また、上記噴孔内に形成する皮膜も、目的に応じて様々な種類のものとすることができる。例えば、PTFE(四フッ化エチレン)等を含有するものが挙げられる。
【0027】
また、本発明の皮膜形成方法は、様々な形状・サイズの噴孔に適用することができる。特に、上記噴孔の内径が50〜300μmの範囲のものに適用した場合には、従来の浸漬法、圧送法を用いて皮膜を形成する場合に比べて、本発明の効果をより一層充分に発揮することができる。
【実施例】
【0028】
(実施例1)
本発明の実施例について説明する。
本例では、自動車エンジンに用いられる燃料噴射ノズルの噴孔内に撥水性を有するフッ素系皮膜を形成する。
【0029】
本例の燃料噴射ノズル1は、図1に示すごとく、ディーゼルエンジンのコモンレール噴射システムに適用され、ディーゼルエンジンの気筒内に高圧燃料を噴射するものである。
ノズル1は、軸方向に穿設された案内孔11と、案内孔11の途中に設けられた燃料溜まり部15と、燃料溜まり部15に連通される燃料導入部16と、案内孔11の先端部に形成された円錐状のシート面12と、シート面12の下流側に凹設されたサック部13と、サック部13の内周面に開口する複数の噴孔14とを有している。なお、各噴孔14の内径は、200μmである。
【0030】
ノズル1は、一般に、図2に示すごとく、案内孔11に摺動可能に挿通されるニードル19と組み合わせて使用される。そして、このニードル19を軸方向に摺動させ、シート面12に着座及び離座させることによって噴孔14を開閉し、案内孔11内に供給された燃料を複数の噴孔14から噴射することができるように構成されている。
【0031】
上記構成のノズル1の噴孔14内に撥水性を有するフッ素系皮膜を形成するに当たっては、図3〜図9に示すごとく、少なくとも管状体当接工程、浸漬工程、吸引工程、圧送工程及び皮膜形成工程を行う。なお、本例では、吸引工程と圧送工程との間に引き上げ工程を行う。
【0032】
管状体当接工程では、案内孔11の内径よりも外径が小さい管状体3の管状体先端部31を案内孔11に挿入し、シート面12に当接させる。
浸漬工程では、ノズル1のノズル先端部100をコーティング液(皮膜原料液)2に浸漬し、噴孔14内をコーティング液2で満たす。
吸引工程では、噴孔14内をコーティング液2で満たした状態で、コーティング液2を外部から噴孔14内を通って管状体3内に流入させるように吸引する。
引き上げ工程では、ノズル先端部100をコーティング液2から引き上げる。
圧送工程では、吸引したコーティング液2を管状体3内から噴孔14内を通って外部に排出させるように圧送する。
皮膜形成工程では、管状体先端部31とシート面12との当接状態を解除した後、噴孔14の内壁面に塗布されたコーティング液2を乾燥及び焼成することにより皮膜を形成する。
以下、これを詳説する。
【0033】
まず、ノズル1の洗浄を行う。
具体的には、ノズル1をエタノール中において常温、10分間の条件で超音波洗浄する。さらに、ノズル1をアセトン中において常温、10分間の条件で超音波洗浄する。その後、ノズル1を充分に乾燥させる。
【0034】
次いで、図3に示すごとく、ノズル1をコーティング装置5にセットする。このとき、ノズル1は、噴孔14を設けた側を下方に向けた状態でコーティング装置5の保持治具53に保持する。
なお、本例で使用するコーティング装置5は、同図に示すごとく、基台51と、基台51に設けられた支持部52と、支持部52に取り付けられたノズル1を保持するための保持治具53とにより構成されている。コーティング装置5は、保持治具53を上下動させることができるように構成されている。
【0035】
次いで、管状体当接工程を行う。
管状体当接工程では、図3に示すごとく、ノズル1の案内孔11の開口部111から、シリンジ4の先端取付部43に取り付けられた管状体3を挿入する。
なお、本例のシリンジ4は、円筒状のシリンジ本体41と可動式のピストン42と管状体3を取り付ける先端取付部43により構成されている。また、管状体3は、円筒管状を呈している。
【0036】
そして、図4に示すごとく、管状体3の管状体先端部31をノズル1のシート面12に当接させる。このとき、管状体先端部31をノズル1のシート面12に対して隙間なく密接させた状態で当接させる。
また、本例では、同図に示すごとく、管状体先端部31の外周面311には、シート面12と同じ傾斜を有する傾斜面312が設けられている。すなわち、管状体先端部31の形状をシート面12の形状に合致した形状としている。そのため、管状体先端部31をシート面12に隙間なく密接させた状態で当接させることができる。
【0037】
また、同図に示すごとく、管状体3の内径aは、サック部13の内径bと同じである。そのため、管状体先端部31をシート面12に当接させた場合、管状体先端部31がサック部13の直上に当たるシート面12の下流端部121に当接する。これにより、噴孔14と管状体3とは、サック部13を介して密閉状態で連通することになる。逆に、サック部13とシート面12との間は、管状体3によって遮断された状態となる。
なお、本例の管状体3の内径a及びサック部13の内径bは、0.8mmである。
【0038】
次いで、図3に示すごとく、シャーレ59にフッ素系溶液(デュポン製)であるコーティング液2を入れる。そして、そのシャーレ59をコーティング装置5の基台51に載置し、保持治具53に保持されたノズル1の下方に位置させる。
【0039】
次いで、浸漬工程を行う。
浸漬工程では、図5に示すごとく、保持治具53を下方に移動させ、ノズル1がコーティング液2の液面に対して垂直となるようにして、ノズル1のノズル先端部100をコーティング液2に浸漬させる。そして、ノズル1の噴孔14がコーティング液2に充分浸される位置まで浸漬させる。
このとき、図6に示すごとく、コーティング液2は、毛細管現象によって噴孔14の噴孔出口141からノズル1の内部に浸入する。これにより、噴孔14内がコーティング液2で充分に満たされた状態とする。
【0040】
次いで、吸引工程を行う。
吸引工程では、図7に示すごとく、噴孔14内がコーティング液2で充分に満たされた状態で、シリンジ4によりコーティング液2を吸引する。このとき、コーティング液2を噴孔出口141から噴孔14内を通って管状体3内に流入させるように吸引を行う。つまり、コーティング液2をノズル1の外部から内部に向かって噴孔14内に流通させる。
【0041】
次いで、引き上げ工程を行う。
引き上げ工程では、管状体先端部31をシート面12に当接した状態で、かつ、コーティング液2を管状体3内に吸引した状態で、保持治具53を上方に移動させる。そして、コーティング液2からノズル先端部100を引き上げ、ノズル1を元の位置に戻す(図3参照)。
【0042】
次いで、圧送工程を行う。
圧送工程では、図8に示すごとく、ノズル1を引き上げた状態(図3参照)で、シリンジ4により管状体3内に吸引したコーティング液2を圧送する。このとき、コーティング液2を管状体3内から噴孔14内を通ってノズル1の外部に排出させるように圧送する。つまり、コーティング液2をノズル1の内部から外部に向かって噴孔14内に流通させる。このとき、すべての噴孔14の噴孔出口141からコーティング液2がノズル1の外部へと流れ出ていることを確認する。
【0043】
このようにして、ノズル1をコーティング液2に浸漬し(浸漬工程)、コーティング液2を吸引し(吸引工程)、ノズル1をコーティング液2から引き上げ(引き上げ工程)、吸引したコーティング液2を圧送する(圧送工程)という一連の工程を1サイクルとし、この一連の工程(吸引圧送ステップS1)を3回繰り返して行う。これにより、噴孔14の内壁面にコーティング液2を塗布する。
その後、管状体先端部31とシート面12との当接状態を解除し、管状体3をノズル1から取り外す。そして、コーティング装置5の保持治具53からノズル1を取り外す。
【0044】
次いで、皮膜形成工程を行う。
皮膜形成工程では、図9(a)に示すごとく、ノズル1の案内孔11の開口部111から0.3MPa、30秒の条件でエアAを送り、ノズル1内部の液切りを行う。このとき、エアAがノズル1の案内孔11から噴孔14内を通って外部へ出て行くようにエアAを送る。
そして、図9(b)に示すごとく、ノズル1の噴孔出口141周辺に向けて0.3MPa、10秒の条件でエアAを送り、噴孔出口141周辺の液切りを行う。
その後、図9(c)に示すごとく、噴孔14を設けた側を上方に向けてノズル1を静置し、乾燥させる。これにより、残留したコーティング液2がノズル1の内部に流れるようにすることができ、コーティング液2が噴孔14内やその周辺に溜まったりすることを抑制することができる。
【0045】
次いで、図9(d)に示すごとく、噴孔14の内壁面にコーティング液2が塗布された状態のノズル1を恒温槽6内に載置する。このとき、ノズル1は、噴孔14を設けた側を上方に向けて載置する。そして、280℃、10分の条件で焼成を行う。これにより、フッ素系溶液であるコーティング液2が焼成され、噴孔14の内壁面に厚み0.1μmのフッ素系皮膜が形成される。
以上により、ノズル1の噴孔14内に撥水性を有するフッ素系皮膜を形成する。
【0046】
次に、本例の作用効果について説明する。
本例の皮膜形成方法では、浸漬工程において、ノズル1のノズル先端部100をコーティング液2に浸漬させ、噴孔14内をコーティング液2で満たした状態とする。そして、吸引工程において、上記の状態を保ったままコーティング液2を吸引し、ノズル1の外部から内部に向かって噴孔14内に流通させる。その後、圧送工程において、吸引したコーティング液2を圧送し、ノズル1の内部から外部に向かって噴孔14内に流通させる。
【0047】
すなわち、吸引工程は、噴孔14内をコーティング液2で満たした状態で行うため、噴孔14の内壁面にコーティング液2を充分かつ確実に接触させることができる。
また、吸引工程及び圧送工程により、コーティング液2を噴孔14に対して両方向から流通させることになるため、コーティング液2が噴孔14の内壁面に接触する機会をより多くすることができ、またコーティング液2を噴孔14の内壁面に満遍なく均一に塗布することができる。
【0048】
また、本例では、上述したようにコーティング液2を吸引及び圧送することによって噴孔14の内壁面に塗布する。つまり、コーティング液2に対して圧力が加わった状態でコーティング液2を噴孔14内に流通させる。そのため、噴孔14が小さく狭い場合であっても、コーティング液2を噴孔14内に確実に流通させることができる。
また、吸引工程及び圧送工程は、管状体先端部3をシート面12に当接させた状態で行う。そのため、コーティング液2を管状体3内に吸引して管状体3内から圧送するという工程を容易かつ確実に行うことができるという効果も得られる。
【0049】
これにより、噴孔14の内壁面にコーティング液2を充分な塗布量で均一に塗布することができる。それ故、その後の皮膜形成工程においてコーティング液2を乾燥及び焼成することにより、噴孔14の内壁面に目的とする皮膜(フッ素系皮膜)を充分な膜厚で均一に形成することができる。
【0050】
また、本例では、吸引工程の後には、ノズル1のノズル先端部100をコーティング液2から引き上げる引き上げ工程を行い、その後圧送工程を行う。すなわち、この場合には、ノズル1をコーティング液2から引き上げた状態で管状体3内に吸引したコーティング液2を圧送する。そのため、噴孔14内を通ってノズル1の外部に排出されるコーティング液2を確認することができる。つまり、これを確認することによって、圧送したコーティング液2が噴孔14内を確実に通過したかどうかを確認することができる。
【0051】
また、管状体当接工程の後には、浸漬工程、吸引工程、引き上げ工程及び圧送工程を1サイクルとする吸引圧送ステップS1を複数回(本例では3回)繰り返して行い、その後皮膜形成工程を行う。そのため、噴孔14の内壁面にコーティング液2をより一層充分に塗布することができる。
【0052】
また、管状体先端部31は、当接するシート面12の形状に合致した形状を呈している。これにより、管状体当接工程において、管状体先端部31をシート面12に対して密接状態で当接させることができる。
そしてさらに、管状体3の内径aは、サック部13の内径bと同じである。そのため、管状体先端部31をサック部13の直上のシート面12の下流端部121に当接させることができる。これにより、その後の工程において、コーティング液2がシート面12に接触することを防止することができる。それ故、使用時においてニードル19と接触するシート面12にフッ素系皮膜が形成されることを防ぐことができ、ニードル19とシート面12との接触によるフッ素系皮膜の剥がれ等の不具合を抑制することができる。
【0053】
また、本例で使用したコーティング液2は、フッ素を含有するフッ素含有液である。そのため、噴孔14の内壁面に撥水性を有するフッ素系皮膜を形成することができる。これにより、噴孔14内における異物の付着・堆積を抑制し、デポジットの生成を防止することができる。
【0054】
以上のことから、本例の皮膜形成方法によれば、燃料噴射ノズルの噴孔内において目的とする皮膜を充分な膜厚で均一に形成することができる。また、狭小な噴孔に対しても充分に適用することができる。
【0055】
(実施例2)
本例は、実施例1において、工程の順序を変更した例である。
本例では、管状体当接工程、浸漬工程、吸引工程を順に行った後、圧送工程を行う。この圧送工程では、図10に示すごとく、噴孔14内がコーティング液2で充分に満たされた状態で、つまり吸引工程からコーティング液2に浸漬されたノズル1の位置を変えないで、シリンジ4により管状体3内に吸引したコーティング液2を圧送する。
【0056】
そして、コーティング液2を吸引し(吸引工程)、吸引したコーティング液2を圧送する(圧送工程)という一連の工程(吸引圧送ステップS2)を1サイクルとして3回繰り返して行う。これにより、噴孔14の内壁面にコーティング液2を塗布する。
その後、引き上げ工程、皮膜形成工程を順に行い、ノズル1の噴孔14内に撥水性を有するフッ素系皮膜を形成する。
なお、各工程の基本的な内容は、実施例1と同様である。
【0057】
次に、本例の作用効果について説明する。
本例において、圧送工程は、噴孔14内をコーティング液2で満たした状態で行い、圧送工程の後には、ノズル1のノズル先端部100をコーティング液2から引き上げる引き上げ工程を行い、その後皮膜形成工程を行う。すなわち、この場合には、ノズル先端部100をコーティング液2に浸漬し、噴孔14内をコーティング液2で満たした状態で、コーティング液2の吸引及び圧送を連続して行う。そのため、コーティング液2の吸引及び圧送という工程を連続的に効率よく行うことができる。
【0058】
また、浸漬工程の後には、吸引工程及び圧送工程を1サイクルとする吸引圧送ステップS2を複数回(本例では3回)繰り返して行い、その後引き上げ工程を行う。そのため、噴孔14内にコーティング液2をより一層充分に塗布することができる。
その他は、実施例1と同様の作用効果を有する。
【0059】
(実施例3)
本例は、実施例1の燃料噴射ノズル1に形成したフッ素系皮膜の表面状態を評価したものである。
本例では、燃料噴射ノズル1(本発明品E)の噴孔14内に形成したフッ素系皮膜表面におけるフッ素量を測定し、噴孔14内に目的とする皮膜が充分に形成されているかどうかを調べた。
また、本例では、比較のため、従来の浸漬法を用いて噴孔内にフッ素系皮膜を形成した燃料噴射ノズル(比較品C1)、圧送法を用いて噴孔内にフッ素系皮膜を形成した燃料噴射ノズル(比較品C2)を準備し、同様の評価を行った。なお、燃料噴射ノズルとしては、本発明品Eと同様のもの(後述のノズル91、92)を用いた。
【0060】
なお、比較品C1の燃料噴射ノズルは、次のようにして準備した。
まず、図11に示すごとく、洗浄済みのノズル91をコーティング装置5にセットする。なお、本例で使用するコーティング装置5は、保持治具53を一定速度で上下動させるためのモータ54が設けられていること以外は実施例1と同様の構成のものである。
次いで、同図に示すごとく、保持治具53を下方に移動させ、ノズル91のノズル先端部100をコーティング液2に浸漬させる。そして、図12に示すごとく、毛細管現象によってコーティング液2を噴孔14からノズル91の内部に浸入させる。
【0061】
次いで、保持治具53を上方に一定速度(30mm/分)で移動させ、コーティング液2からノズル91のノズル先端部100を引き上げる。これにより、ノズル91の噴孔14内へのコーティング液2の塗布を行う。その後、コーティング液2を乾燥及び焼成してフッ素系皮膜を形成する。
このように、浸漬法を用いて噴孔14内にフッ素系皮膜を形成した燃料噴射ノズル91を比較品C1とする。
【0062】
また、比較品C2の燃料噴射ノズルは、次のようにして準備した。
まず、図13に示すごとく、洗浄済みのノズル92の案内孔11に、予めビーカー58からコーティング液2を吸引しておいたシリンジ4の管状体3を挿入し、管状体先端部31をシート面12に当接させる(図4参照)。なお、本例の管状体3及びシリンジ4は、実施例1と同様の構成のものである。
【0063】
次いで、管状体3内に吸引したコーティング液2を圧送する。そして、コーティング液2を管状体3内から噴孔14内を通過させてノズル91の外部に排出させる(図8参照)。これを3回繰り返して行い、ノズル91の噴孔14内へのコーティング液2の塗布を行う。その後、コーティング液2を乾燥及び焼成してフッ素系皮膜を形成する。
このように、圧送法を用いて噴孔14内にフッ素系皮膜を形成した燃料噴射ノズル92を比較品C2とする。
【0064】
次に、フッ素系皮膜表面におけるフッ素量の測定方法について説明する。
本例では、EPMA(X線マイクロアナライザ)を用い、フッ素系皮膜表面の定量分析を行った。そして、皮膜表面に存在するフッ素(F)、シリコン(Si)、炭素(C)、酸素(O)、その他基材(ノズル)としての鉄(Fe)等の量を測定し、特にフッ素量について評価した。なお、測定条件は、加速電圧:10kV、照射電流:0.2μA、ビーム径:φ10μmとし、噴孔内の3箇所以上の測定を行った。
【0065】
次に、EMPA測定の結果を図14に示す。同図において、縦軸はフッ素量(X線強度比)、横軸は噴孔出口からの距離(μm)を示してある。なお、X線強度比は、X線ピーク強度を相対的に数値化したものである。
同図から知られるように、比較品C1、C2に形成されたフッ素系皮膜は、皮膜表面に存在するフッ素量が本発明品Eに比べて非常に少ない。また、噴孔出口からの距離が遠くなるにしたがってフッ素量が減少していることがわかる。
一方、本発明品Eに形成されたフッ素系皮膜は、皮膜表面に存在するフッ素量が比較品C1、C2に比べて非常に多く、撥水性に優れたフッ素系皮膜であることがわかる。また、噴孔出口からの距離によってフッ素量の大きな変化はなく、噴孔内にフッ素系皮膜が均一に形成されていることがわかる。
【0066】
このことから、本発明の皮膜形成方法を用いることにより、燃料噴射ノズルの噴孔内において目的とする皮膜を充分な膜厚で均一に形成することができることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】実施例1における、燃料噴射ノズルの構造を示す説明図。
【図2】実施例1における、燃料噴射ノズルの使用状態を示す説明図。
【図3】実施例1における、燃料噴射ノズルをコーティング装置に保持した状態を示す説明図。
【図4】実施例1における、燃料噴射ノズルのシート面に管状体を当接させた状態を示す説明図。
【図5】実施例1における、燃料噴射ノズルのノズル先端部をコーティング液に浸漬した状態を示す説明図。
【図6】実施例1における、燃料噴射ノズルの内部にコーティング液が浸入する状態を示す説明図。
【図7】実施例1における、コーティング液を吸引する工程を示す説明図。
【図8】実施例1における、コーティング液を圧送する工程を示す説明図。
【図9】実施例1における、燃料噴射ノズルに塗布したコーティング液を液切り、乾燥、焼成する工程を示す説明図。
【図10】実施例2における、コーティング液を圧送する工程を示す説明図。
【図11】実施例3における、浸漬法を用いて皮膜を形成する工程を示す説明図。
【図12】実施例3における、燃料噴射ノズルの内部にコーティング液が浸入する状態を示す説明図。
【図13】実施例3における、圧送法を用いて皮膜を形成する工程を示す説明図。
【図14】実施例3における、EPMA測定結果を示す説明図。
【符号の説明】
【0068】
1 燃料噴射ノズル
12 シート面
14 噴孔
100 ノズル先端部
2 コーティング液(皮膜原料液)
3 管状体
31 管状体先端部
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の内燃機関に用いられる燃料噴射ノズルの噴孔内への皮膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の内燃機関に用いられる燃料噴射ノズル(以下、適宜、単にノズルという)は、近年、燃料の高噴射圧化によるノズル被熱の高温化、燃料の多様化による燃料事情の変化等により、燃料に起因する生成物等の異物が噴孔内や噴孔周辺等に付着・堆積し、いわゆるデポジットが生成される問題がある。このようなデポジットは、噴孔の摩耗、形状・サイズの変化等の原因となり、燃料の噴射方向や噴射量等の精度が低下する。
【0003】
そのため、従来から、このようなデポジットの生成を防止するために、噴孔内や噴孔周辺に例えば撥水性を有する皮膜を形成することが提案されている(特許文献1参照)。このような皮膜を形成することにより、皮膜形成部分への異物の付着・堆積を抑制し、デポジットの生成を防止することができる。
【0004】
上記皮膜を噴孔内に形成する場合、例えば浸漬法(ディッピング法)が用いられる。浸漬法は、噴孔が設けられた部分をコーティング液に浸漬させ、そのコーティング液が毛細管現象によって噴孔内に浸入することを利用して塗布する方法である。しかしながら、この方法は、皮膜を比較的容易に形成することができる反面、膜厚の制御が困難であり、また噴孔が狭小の場合には充分に成膜することができないという問題がある。
また、これ以外の方法では圧送法がある。圧送法は、噴孔内にコーティング液を圧送することによって塗布する方法である。しかしながら、この方法でも噴孔内に充分な膜厚で均一に成膜することができないという問題がある。
【0005】
このようなことから、燃料噴射ノズルの噴孔内に撥水性等の特性を有する皮膜を充分な膜厚で均一に形成することができ、噴孔が狭小である場合にも適用することができる噴孔内への皮膜形成方法が望まれている。
【0006】
【特許文献1】特開2002−4984号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたものであり、燃料噴射ノズルの噴孔内において目的とする皮膜を充分な膜厚で均一に形成することができ、狭小な噴孔に対しても適用することができる燃料噴射ノズルの噴孔内への皮膜形成方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、軸方向に穿設された案内孔の先端部に形成された円錐状のシート面と、該シート面の下流側に凹設されたサック部と、該サック部の内周面に開口する1又は複数の噴孔とを有する燃料噴射用ノズルの上記噴孔内に皮膜を形成する方法であって、
上記案内孔の内径よりも外径が小さい管状体の先端部を上記案内孔に挿入し、上記シート面に当接させる管状体当接工程と、
上記ノズルの先端部を皮膜原料液に浸漬し、少なくとも上記噴孔内を上記皮膜原料液で満たす浸漬工程と、
上記噴孔内を上記皮膜原料液で満たした状態で、上記皮膜原料液を外部から上記噴孔内を通って上記管状体内に流入させるように吸引する吸引工程と、
吸引した上記皮膜原料液を上記管状体内から上記噴孔内を通って外部に排出させるように圧送する圧送工程と、
上記管状体の先端部と上記シート面との当接状態を解除した後、上記噴孔の内壁面に塗布された上記皮膜原料液を乾燥、又は乾燥及び焼成することにより上記皮膜を形成する皮膜形成工程とを有することを特徴とする燃料噴射用ノズルの噴孔内への皮膜形成方法にある(請求項1)。
【0009】
本発明の皮膜形成方法では、上記浸漬工程において、上記ノズルの先端部を上記皮膜原料液に浸漬させ、上記噴孔内を上記皮膜原料液で満たした状態とする。そして、上記吸引工程において、上記の状態を保ったまま上記皮膜原料液を吸引し、上記ノズルの外部から内部に向かって上記噴孔内に流通させる。その後、上記圧送工程において、吸引した上記皮膜原料液を圧送し、上記ノズルの内部から外部に向かって上記噴孔内に流通させる。
【0010】
すなわち、上記吸引工程は、上記噴孔内を上記皮膜原料液で満たした状態で行うため、上記噴孔の内壁面に上記皮膜原料液を充分かつ確実に接触させることができる。
また、上記吸引工程及び上記圧送工程により、上記皮膜原料液を上記噴孔に対して両方向から流通させることになるため、上記皮膜原料液が上記噴孔の内壁面に接触する機会をより多くすることができ、また上記皮膜原料液を上記噴孔の内壁面に満遍なく均一に塗布することができる。
【0011】
また、本発明では、上述したように上記皮膜原料液を吸引及び圧送することによって上記噴孔の内壁面に塗布する。つまり、上記皮膜原料液に対して圧力が加わった状態で該皮膜原料液を上記噴孔内に流通させる。そのため、上記噴孔が小さく狭い場合であっても、上記皮膜原料液を上記噴孔内に確実に流通させることができる。
また、上記吸引工程及び上記圧送工程は、上記管状体を上記シート面に当接させた状態で行う。そのため、上記皮膜原料液を上記管状体内に吸引して該管状体内から圧送するという工程を容易かつ確実に行うことができるという効果も得られる。
【0012】
これにより、上記噴孔の内壁面に上記皮膜原料液を充分な塗布量で均一に塗布することができる。それ故、その後の皮膜形成工程において上記皮膜原料液を乾燥、又は乾燥及び焼成することにより、上記噴孔の内壁面に目的とする皮膜を充分な膜厚で均一に形成することができる。
なお、上記皮膜は、上記皮膜原料液の乾燥のみで形成することができるものについては乾燥のみを行い、焼成が必要なものについては乾燥及び焼成の両方を行う。
【0013】
以上のことから、本発明の皮膜形成方法によれば、燃料噴射ノズルの噴孔内において目的とする皮膜を充分な膜厚で均一に形成することができる。また、狭小な噴孔に対しても充分に適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
上記本発明において、上記燃料噴射ノズルは、自動車等の内燃機関に用いられるものである。一般に、上記ノズルを使用する場合、上記案内孔に摺動可能に挿通されるニードルと組み合わせて使用される。そして、このニードルを摺動させ、上記シート面に着座及び離座させることによって上記噴孔を開閉し、上記案内孔内に供給された燃料を上記噴孔から噴射することができるように構成されている。
【0015】
上記構成の燃料噴射ノズルの噴孔内に皮膜を形成するに当たっては、上記のごとく、管状体当接工程、浸漬工程、吸引工程、圧送工程及び皮膜形成工程を行う。
上記管状体当接工程では、その後の工程において上記皮膜原料液の吸引及び圧送を問題なく行うことができる程度に、上記管状体の先端部を上記シート面に当接させればよい。
また、上記浸漬工程では、上記ノズルの先端部を上記皮膜原料液に浸漬させ、該皮膜原料液が毛細管現象によって上記噴孔から上記ノズルの内部に浸入することを利用して、上記噴孔内を上記皮膜原料液で満たすことができる。
【0016】
また、上記吸引工程及び上記圧送工程における上記皮膜原料液の吸引及び圧送は、吸引及び圧送が可能な例えばピストンを備えたシリンジ、ポンプ等を上記管状体に取り付けて行うことができる。これにより、上記シート面に当接させた上記管状体の先端部から上記皮膜原料液を吸引及び圧送することができる。
【0017】
また、上記吸引工程の後には、上記ノズルの先端部を上記皮膜原料液から引き上げる引き上げ工程を行い、その後上記圧送工程を行う構成とすることができる(請求項2)。
すなわち、この場合には、上記ノズルを上記皮膜原料液から引き上げた状態で上記管状体内に吸引した上記皮膜原料液を圧送する。そのため、上記噴孔内を通って外部に排出される上記皮膜原料液を確認することができる。つまり、これを確認することによって、圧送した上記皮膜原料液が上記噴孔内を確実に通過したかどうかを確認することができる。
【0018】
さらに、上記構成とした場合、上記管状体当接工程の後には、上記浸漬工程、上記吸引工程、上記引き上げ工程及び上記圧送工程を1サイクルとする吸引圧送ステップを複数回繰り返して行い、その後上記皮膜形成工程を行うことが好ましい(請求項3)。
この場合には、上記吸引圧送ステップを複数回行うことにより、上記噴孔の内壁面に上記皮膜原料液をより一層充分に塗布することができる。
【0019】
また、上記圧送工程は、上記噴孔内を上記皮膜原料液で満たした状態で行い、上記圧送工程の後には、上記ノズルの先端部を上記皮膜原料液から引き上げる引き上げ工程を行い、その後上記皮膜形成工程を行う構成とすることもできる(請求項4)。
すなわち、この場合には、上記ノズルの先端部を上記皮膜原料液に浸漬し、上記噴孔内を上記皮膜原料液で満たした状態で、上記皮膜原料液の吸引及び圧送を連続して行う。そのため、上記皮膜原料液の吸引及び圧送という工程を連続的に効率よく行うことができる。
【0020】
さらに、上記構成とした場合、上記浸漬工程の後には、上記吸引工程及び上記圧送工程を1サイクルとする吸引圧送ステップを複数回繰り返して行い、その後上記引き上げ工程を行うことが好ましい(請求項5)。
この場合には、上記吸引圧送ステップを複数回行うことにより、上記噴孔内に上記皮膜原料液をより一層充分に塗布することができる。
【0021】
また、上記管状体の先端部は、当接する上記シート面の形状に合致した形状を呈していることが好ましい(請求項6)。
この場合には、上記管状体当接工程において、上記管状体の先端部を上記シート面に対して密接状態で当接させることができる。また、これによって、その後の工程において、上記皮膜原料液が上記案内孔の内周面(特にシート面)に余計に接触しないようにすることができる。また、この場合、上記皮膜原料液の上記シート面に対する接触は、上記シート面の面積の10%以下であることが好ましい。
【0022】
さらに、上記管状体の先端部の形状が上記シート面の形状に合致した形状を呈している場合、上記管状体の内径は、上記サック部の内径と同じであることが好ましい(請求項7)。
この場合には、上記管状体当接工程において、上記管状体の先端部を上記サック部の直上、すなわち上記シート面の下流端部に当接させることができる。これにより、その後の工程において、上記皮膜原料液が上記シート面に接触することを防止することができる。
したがって、上記皮膜は、上記噴孔内及び上記サック部に形成され、上記シート面には形成されない。
【0023】
ここで、上記シート面への上記皮膜原料液の接触を防止することによる効果について説明する。
上記燃料噴射ノズルは、上述したとおり、使用時において上記ニードルと組み合わせて使用される。そのため、上記シート面に上記皮膜が形成されていると、上記ニードルと上記シート面との接触によって該シート面から上記皮膜が剥がれ、それが上記噴孔内に流れ込んで悪影響を及ぼす可能性がある。よって、このようなことを防止するためには、上記シート面への上記皮膜原料液の接触を極力避けたほうが好ましい。
【0024】
また、上記管状体としては、該管状体の先端部を上記シート面に当接させた際に、上記先端部が変形しない程度の剛性を有するものを用いることが好ましい。
よって、上記管状体は、樹脂又はゴムよりなることが好ましい(請求項8)。
この場合には、上記管状体の先端部を上記シート面に当接させた際に、上記シート面に傷が付くことを防止することができる。また、上記シート面への当接状態を維持し易いという効果もある。
【0025】
また、上記皮膜原料液は、フッ素を含有するフッ素含有液であることが好ましい(請求項9)。
この場合には、上記噴孔内に撥水性を有するフッ素系皮膜を形成することができる。これにより、上記噴孔内における異物の付着・堆積を抑制し、デポジットの生成を防止することができる。
【0026】
なお、上記皮膜原料液は、形成する皮膜によって様々な種類のものを用いることができる。例えば、フルオロアルキルシラン等を含有するものが挙げられる。
また、上記噴孔内に形成する皮膜も、目的に応じて様々な種類のものとすることができる。例えば、PTFE(四フッ化エチレン)等を含有するものが挙げられる。
【0027】
また、本発明の皮膜形成方法は、様々な形状・サイズの噴孔に適用することができる。特に、上記噴孔の内径が50〜300μmの範囲のものに適用した場合には、従来の浸漬法、圧送法を用いて皮膜を形成する場合に比べて、本発明の効果をより一層充分に発揮することができる。
【実施例】
【0028】
(実施例1)
本発明の実施例について説明する。
本例では、自動車エンジンに用いられる燃料噴射ノズルの噴孔内に撥水性を有するフッ素系皮膜を形成する。
【0029】
本例の燃料噴射ノズル1は、図1に示すごとく、ディーゼルエンジンのコモンレール噴射システムに適用され、ディーゼルエンジンの気筒内に高圧燃料を噴射するものである。
ノズル1は、軸方向に穿設された案内孔11と、案内孔11の途中に設けられた燃料溜まり部15と、燃料溜まり部15に連通される燃料導入部16と、案内孔11の先端部に形成された円錐状のシート面12と、シート面12の下流側に凹設されたサック部13と、サック部13の内周面に開口する複数の噴孔14とを有している。なお、各噴孔14の内径は、200μmである。
【0030】
ノズル1は、一般に、図2に示すごとく、案内孔11に摺動可能に挿通されるニードル19と組み合わせて使用される。そして、このニードル19を軸方向に摺動させ、シート面12に着座及び離座させることによって噴孔14を開閉し、案内孔11内に供給された燃料を複数の噴孔14から噴射することができるように構成されている。
【0031】
上記構成のノズル1の噴孔14内に撥水性を有するフッ素系皮膜を形成するに当たっては、図3〜図9に示すごとく、少なくとも管状体当接工程、浸漬工程、吸引工程、圧送工程及び皮膜形成工程を行う。なお、本例では、吸引工程と圧送工程との間に引き上げ工程を行う。
【0032】
管状体当接工程では、案内孔11の内径よりも外径が小さい管状体3の管状体先端部31を案内孔11に挿入し、シート面12に当接させる。
浸漬工程では、ノズル1のノズル先端部100をコーティング液(皮膜原料液)2に浸漬し、噴孔14内をコーティング液2で満たす。
吸引工程では、噴孔14内をコーティング液2で満たした状態で、コーティング液2を外部から噴孔14内を通って管状体3内に流入させるように吸引する。
引き上げ工程では、ノズル先端部100をコーティング液2から引き上げる。
圧送工程では、吸引したコーティング液2を管状体3内から噴孔14内を通って外部に排出させるように圧送する。
皮膜形成工程では、管状体先端部31とシート面12との当接状態を解除した後、噴孔14の内壁面に塗布されたコーティング液2を乾燥及び焼成することにより皮膜を形成する。
以下、これを詳説する。
【0033】
まず、ノズル1の洗浄を行う。
具体的には、ノズル1をエタノール中において常温、10分間の条件で超音波洗浄する。さらに、ノズル1をアセトン中において常温、10分間の条件で超音波洗浄する。その後、ノズル1を充分に乾燥させる。
【0034】
次いで、図3に示すごとく、ノズル1をコーティング装置5にセットする。このとき、ノズル1は、噴孔14を設けた側を下方に向けた状態でコーティング装置5の保持治具53に保持する。
なお、本例で使用するコーティング装置5は、同図に示すごとく、基台51と、基台51に設けられた支持部52と、支持部52に取り付けられたノズル1を保持するための保持治具53とにより構成されている。コーティング装置5は、保持治具53を上下動させることができるように構成されている。
【0035】
次いで、管状体当接工程を行う。
管状体当接工程では、図3に示すごとく、ノズル1の案内孔11の開口部111から、シリンジ4の先端取付部43に取り付けられた管状体3を挿入する。
なお、本例のシリンジ4は、円筒状のシリンジ本体41と可動式のピストン42と管状体3を取り付ける先端取付部43により構成されている。また、管状体3は、円筒管状を呈している。
【0036】
そして、図4に示すごとく、管状体3の管状体先端部31をノズル1のシート面12に当接させる。このとき、管状体先端部31をノズル1のシート面12に対して隙間なく密接させた状態で当接させる。
また、本例では、同図に示すごとく、管状体先端部31の外周面311には、シート面12と同じ傾斜を有する傾斜面312が設けられている。すなわち、管状体先端部31の形状をシート面12の形状に合致した形状としている。そのため、管状体先端部31をシート面12に隙間なく密接させた状態で当接させることができる。
【0037】
また、同図に示すごとく、管状体3の内径aは、サック部13の内径bと同じである。そのため、管状体先端部31をシート面12に当接させた場合、管状体先端部31がサック部13の直上に当たるシート面12の下流端部121に当接する。これにより、噴孔14と管状体3とは、サック部13を介して密閉状態で連通することになる。逆に、サック部13とシート面12との間は、管状体3によって遮断された状態となる。
なお、本例の管状体3の内径a及びサック部13の内径bは、0.8mmである。
【0038】
次いで、図3に示すごとく、シャーレ59にフッ素系溶液(デュポン製)であるコーティング液2を入れる。そして、そのシャーレ59をコーティング装置5の基台51に載置し、保持治具53に保持されたノズル1の下方に位置させる。
【0039】
次いで、浸漬工程を行う。
浸漬工程では、図5に示すごとく、保持治具53を下方に移動させ、ノズル1がコーティング液2の液面に対して垂直となるようにして、ノズル1のノズル先端部100をコーティング液2に浸漬させる。そして、ノズル1の噴孔14がコーティング液2に充分浸される位置まで浸漬させる。
このとき、図6に示すごとく、コーティング液2は、毛細管現象によって噴孔14の噴孔出口141からノズル1の内部に浸入する。これにより、噴孔14内がコーティング液2で充分に満たされた状態とする。
【0040】
次いで、吸引工程を行う。
吸引工程では、図7に示すごとく、噴孔14内がコーティング液2で充分に満たされた状態で、シリンジ4によりコーティング液2を吸引する。このとき、コーティング液2を噴孔出口141から噴孔14内を通って管状体3内に流入させるように吸引を行う。つまり、コーティング液2をノズル1の外部から内部に向かって噴孔14内に流通させる。
【0041】
次いで、引き上げ工程を行う。
引き上げ工程では、管状体先端部31をシート面12に当接した状態で、かつ、コーティング液2を管状体3内に吸引した状態で、保持治具53を上方に移動させる。そして、コーティング液2からノズル先端部100を引き上げ、ノズル1を元の位置に戻す(図3参照)。
【0042】
次いで、圧送工程を行う。
圧送工程では、図8に示すごとく、ノズル1を引き上げた状態(図3参照)で、シリンジ4により管状体3内に吸引したコーティング液2を圧送する。このとき、コーティング液2を管状体3内から噴孔14内を通ってノズル1の外部に排出させるように圧送する。つまり、コーティング液2をノズル1の内部から外部に向かって噴孔14内に流通させる。このとき、すべての噴孔14の噴孔出口141からコーティング液2がノズル1の外部へと流れ出ていることを確認する。
【0043】
このようにして、ノズル1をコーティング液2に浸漬し(浸漬工程)、コーティング液2を吸引し(吸引工程)、ノズル1をコーティング液2から引き上げ(引き上げ工程)、吸引したコーティング液2を圧送する(圧送工程)という一連の工程を1サイクルとし、この一連の工程(吸引圧送ステップS1)を3回繰り返して行う。これにより、噴孔14の内壁面にコーティング液2を塗布する。
その後、管状体先端部31とシート面12との当接状態を解除し、管状体3をノズル1から取り外す。そして、コーティング装置5の保持治具53からノズル1を取り外す。
【0044】
次いで、皮膜形成工程を行う。
皮膜形成工程では、図9(a)に示すごとく、ノズル1の案内孔11の開口部111から0.3MPa、30秒の条件でエアAを送り、ノズル1内部の液切りを行う。このとき、エアAがノズル1の案内孔11から噴孔14内を通って外部へ出て行くようにエアAを送る。
そして、図9(b)に示すごとく、ノズル1の噴孔出口141周辺に向けて0.3MPa、10秒の条件でエアAを送り、噴孔出口141周辺の液切りを行う。
その後、図9(c)に示すごとく、噴孔14を設けた側を上方に向けてノズル1を静置し、乾燥させる。これにより、残留したコーティング液2がノズル1の内部に流れるようにすることができ、コーティング液2が噴孔14内やその周辺に溜まったりすることを抑制することができる。
【0045】
次いで、図9(d)に示すごとく、噴孔14の内壁面にコーティング液2が塗布された状態のノズル1を恒温槽6内に載置する。このとき、ノズル1は、噴孔14を設けた側を上方に向けて載置する。そして、280℃、10分の条件で焼成を行う。これにより、フッ素系溶液であるコーティング液2が焼成され、噴孔14の内壁面に厚み0.1μmのフッ素系皮膜が形成される。
以上により、ノズル1の噴孔14内に撥水性を有するフッ素系皮膜を形成する。
【0046】
次に、本例の作用効果について説明する。
本例の皮膜形成方法では、浸漬工程において、ノズル1のノズル先端部100をコーティング液2に浸漬させ、噴孔14内をコーティング液2で満たした状態とする。そして、吸引工程において、上記の状態を保ったままコーティング液2を吸引し、ノズル1の外部から内部に向かって噴孔14内に流通させる。その後、圧送工程において、吸引したコーティング液2を圧送し、ノズル1の内部から外部に向かって噴孔14内に流通させる。
【0047】
すなわち、吸引工程は、噴孔14内をコーティング液2で満たした状態で行うため、噴孔14の内壁面にコーティング液2を充分かつ確実に接触させることができる。
また、吸引工程及び圧送工程により、コーティング液2を噴孔14に対して両方向から流通させることになるため、コーティング液2が噴孔14の内壁面に接触する機会をより多くすることができ、またコーティング液2を噴孔14の内壁面に満遍なく均一に塗布することができる。
【0048】
また、本例では、上述したようにコーティング液2を吸引及び圧送することによって噴孔14の内壁面に塗布する。つまり、コーティング液2に対して圧力が加わった状態でコーティング液2を噴孔14内に流通させる。そのため、噴孔14が小さく狭い場合であっても、コーティング液2を噴孔14内に確実に流通させることができる。
また、吸引工程及び圧送工程は、管状体先端部3をシート面12に当接させた状態で行う。そのため、コーティング液2を管状体3内に吸引して管状体3内から圧送するという工程を容易かつ確実に行うことができるという効果も得られる。
【0049】
これにより、噴孔14の内壁面にコーティング液2を充分な塗布量で均一に塗布することができる。それ故、その後の皮膜形成工程においてコーティング液2を乾燥及び焼成することにより、噴孔14の内壁面に目的とする皮膜(フッ素系皮膜)を充分な膜厚で均一に形成することができる。
【0050】
また、本例では、吸引工程の後には、ノズル1のノズル先端部100をコーティング液2から引き上げる引き上げ工程を行い、その後圧送工程を行う。すなわち、この場合には、ノズル1をコーティング液2から引き上げた状態で管状体3内に吸引したコーティング液2を圧送する。そのため、噴孔14内を通ってノズル1の外部に排出されるコーティング液2を確認することができる。つまり、これを確認することによって、圧送したコーティング液2が噴孔14内を確実に通過したかどうかを確認することができる。
【0051】
また、管状体当接工程の後には、浸漬工程、吸引工程、引き上げ工程及び圧送工程を1サイクルとする吸引圧送ステップS1を複数回(本例では3回)繰り返して行い、その後皮膜形成工程を行う。そのため、噴孔14の内壁面にコーティング液2をより一層充分に塗布することができる。
【0052】
また、管状体先端部31は、当接するシート面12の形状に合致した形状を呈している。これにより、管状体当接工程において、管状体先端部31をシート面12に対して密接状態で当接させることができる。
そしてさらに、管状体3の内径aは、サック部13の内径bと同じである。そのため、管状体先端部31をサック部13の直上のシート面12の下流端部121に当接させることができる。これにより、その後の工程において、コーティング液2がシート面12に接触することを防止することができる。それ故、使用時においてニードル19と接触するシート面12にフッ素系皮膜が形成されることを防ぐことができ、ニードル19とシート面12との接触によるフッ素系皮膜の剥がれ等の不具合を抑制することができる。
【0053】
また、本例で使用したコーティング液2は、フッ素を含有するフッ素含有液である。そのため、噴孔14の内壁面に撥水性を有するフッ素系皮膜を形成することができる。これにより、噴孔14内における異物の付着・堆積を抑制し、デポジットの生成を防止することができる。
【0054】
以上のことから、本例の皮膜形成方法によれば、燃料噴射ノズルの噴孔内において目的とする皮膜を充分な膜厚で均一に形成することができる。また、狭小な噴孔に対しても充分に適用することができる。
【0055】
(実施例2)
本例は、実施例1において、工程の順序を変更した例である。
本例では、管状体当接工程、浸漬工程、吸引工程を順に行った後、圧送工程を行う。この圧送工程では、図10に示すごとく、噴孔14内がコーティング液2で充分に満たされた状態で、つまり吸引工程からコーティング液2に浸漬されたノズル1の位置を変えないで、シリンジ4により管状体3内に吸引したコーティング液2を圧送する。
【0056】
そして、コーティング液2を吸引し(吸引工程)、吸引したコーティング液2を圧送する(圧送工程)という一連の工程(吸引圧送ステップS2)を1サイクルとして3回繰り返して行う。これにより、噴孔14の内壁面にコーティング液2を塗布する。
その後、引き上げ工程、皮膜形成工程を順に行い、ノズル1の噴孔14内に撥水性を有するフッ素系皮膜を形成する。
なお、各工程の基本的な内容は、実施例1と同様である。
【0057】
次に、本例の作用効果について説明する。
本例において、圧送工程は、噴孔14内をコーティング液2で満たした状態で行い、圧送工程の後には、ノズル1のノズル先端部100をコーティング液2から引き上げる引き上げ工程を行い、その後皮膜形成工程を行う。すなわち、この場合には、ノズル先端部100をコーティング液2に浸漬し、噴孔14内をコーティング液2で満たした状態で、コーティング液2の吸引及び圧送を連続して行う。そのため、コーティング液2の吸引及び圧送という工程を連続的に効率よく行うことができる。
【0058】
また、浸漬工程の後には、吸引工程及び圧送工程を1サイクルとする吸引圧送ステップS2を複数回(本例では3回)繰り返して行い、その後引き上げ工程を行う。そのため、噴孔14内にコーティング液2をより一層充分に塗布することができる。
その他は、実施例1と同様の作用効果を有する。
【0059】
(実施例3)
本例は、実施例1の燃料噴射ノズル1に形成したフッ素系皮膜の表面状態を評価したものである。
本例では、燃料噴射ノズル1(本発明品E)の噴孔14内に形成したフッ素系皮膜表面におけるフッ素量を測定し、噴孔14内に目的とする皮膜が充分に形成されているかどうかを調べた。
また、本例では、比較のため、従来の浸漬法を用いて噴孔内にフッ素系皮膜を形成した燃料噴射ノズル(比較品C1)、圧送法を用いて噴孔内にフッ素系皮膜を形成した燃料噴射ノズル(比較品C2)を準備し、同様の評価を行った。なお、燃料噴射ノズルとしては、本発明品Eと同様のもの(後述のノズル91、92)を用いた。
【0060】
なお、比較品C1の燃料噴射ノズルは、次のようにして準備した。
まず、図11に示すごとく、洗浄済みのノズル91をコーティング装置5にセットする。なお、本例で使用するコーティング装置5は、保持治具53を一定速度で上下動させるためのモータ54が設けられていること以外は実施例1と同様の構成のものである。
次いで、同図に示すごとく、保持治具53を下方に移動させ、ノズル91のノズル先端部100をコーティング液2に浸漬させる。そして、図12に示すごとく、毛細管現象によってコーティング液2を噴孔14からノズル91の内部に浸入させる。
【0061】
次いで、保持治具53を上方に一定速度(30mm/分)で移動させ、コーティング液2からノズル91のノズル先端部100を引き上げる。これにより、ノズル91の噴孔14内へのコーティング液2の塗布を行う。その後、コーティング液2を乾燥及び焼成してフッ素系皮膜を形成する。
このように、浸漬法を用いて噴孔14内にフッ素系皮膜を形成した燃料噴射ノズル91を比較品C1とする。
【0062】
また、比較品C2の燃料噴射ノズルは、次のようにして準備した。
まず、図13に示すごとく、洗浄済みのノズル92の案内孔11に、予めビーカー58からコーティング液2を吸引しておいたシリンジ4の管状体3を挿入し、管状体先端部31をシート面12に当接させる(図4参照)。なお、本例の管状体3及びシリンジ4は、実施例1と同様の構成のものである。
【0063】
次いで、管状体3内に吸引したコーティング液2を圧送する。そして、コーティング液2を管状体3内から噴孔14内を通過させてノズル91の外部に排出させる(図8参照)。これを3回繰り返して行い、ノズル91の噴孔14内へのコーティング液2の塗布を行う。その後、コーティング液2を乾燥及び焼成してフッ素系皮膜を形成する。
このように、圧送法を用いて噴孔14内にフッ素系皮膜を形成した燃料噴射ノズル92を比較品C2とする。
【0064】
次に、フッ素系皮膜表面におけるフッ素量の測定方法について説明する。
本例では、EPMA(X線マイクロアナライザ)を用い、フッ素系皮膜表面の定量分析を行った。そして、皮膜表面に存在するフッ素(F)、シリコン(Si)、炭素(C)、酸素(O)、その他基材(ノズル)としての鉄(Fe)等の量を測定し、特にフッ素量について評価した。なお、測定条件は、加速電圧:10kV、照射電流:0.2μA、ビーム径:φ10μmとし、噴孔内の3箇所以上の測定を行った。
【0065】
次に、EMPA測定の結果を図14に示す。同図において、縦軸はフッ素量(X線強度比)、横軸は噴孔出口からの距離(μm)を示してある。なお、X線強度比は、X線ピーク強度を相対的に数値化したものである。
同図から知られるように、比較品C1、C2に形成されたフッ素系皮膜は、皮膜表面に存在するフッ素量が本発明品Eに比べて非常に少ない。また、噴孔出口からの距離が遠くなるにしたがってフッ素量が減少していることがわかる。
一方、本発明品Eに形成されたフッ素系皮膜は、皮膜表面に存在するフッ素量が比較品C1、C2に比べて非常に多く、撥水性に優れたフッ素系皮膜であることがわかる。また、噴孔出口からの距離によってフッ素量の大きな変化はなく、噴孔内にフッ素系皮膜が均一に形成されていることがわかる。
【0066】
このことから、本発明の皮膜形成方法を用いることにより、燃料噴射ノズルの噴孔内において目的とする皮膜を充分な膜厚で均一に形成することができることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】実施例1における、燃料噴射ノズルの構造を示す説明図。
【図2】実施例1における、燃料噴射ノズルの使用状態を示す説明図。
【図3】実施例1における、燃料噴射ノズルをコーティング装置に保持した状態を示す説明図。
【図4】実施例1における、燃料噴射ノズルのシート面に管状体を当接させた状態を示す説明図。
【図5】実施例1における、燃料噴射ノズルのノズル先端部をコーティング液に浸漬した状態を示す説明図。
【図6】実施例1における、燃料噴射ノズルの内部にコーティング液が浸入する状態を示す説明図。
【図7】実施例1における、コーティング液を吸引する工程を示す説明図。
【図8】実施例1における、コーティング液を圧送する工程を示す説明図。
【図9】実施例1における、燃料噴射ノズルに塗布したコーティング液を液切り、乾燥、焼成する工程を示す説明図。
【図10】実施例2における、コーティング液を圧送する工程を示す説明図。
【図11】実施例3における、浸漬法を用いて皮膜を形成する工程を示す説明図。
【図12】実施例3における、燃料噴射ノズルの内部にコーティング液が浸入する状態を示す説明図。
【図13】実施例3における、圧送法を用いて皮膜を形成する工程を示す説明図。
【図14】実施例3における、EPMA測定結果を示す説明図。
【符号の説明】
【0068】
1 燃料噴射ノズル
12 シート面
14 噴孔
100 ノズル先端部
2 コーティング液(皮膜原料液)
3 管状体
31 管状体先端部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に穿設された案内孔の先端部に形成された円錐状のシート面と、該シート面の下流側に凹設されたサック部と、該サック部の内周面に開口する1又は複数の噴孔とを有する燃料噴射ノズルの上記噴孔内に皮膜を形成する方法であって、
上記案内孔の内径よりも外径が小さい管状体の先端部を上記案内孔に挿入し、上記シート面に当接させる管状体当接工程と、
上記ノズルの先端部を皮膜原料液に浸漬し、少なくとも上記噴孔内を上記皮膜原料液で満たす浸漬工程と、
上記噴孔内を上記皮膜原料液で満たした状態で、上記皮膜原料液を外部から上記噴孔内を通って上記管状体内に流入させるように吸引する吸引工程と、
吸引した上記皮膜原料液を上記管状体内から上記噴孔内を通って外部に排出させるように圧送する圧送工程と、
上記管状体の先端部と上記シート面との当接状態を解除した後、上記噴孔の内壁面に塗布された上記皮膜原料液を乾燥、又は乾燥及び焼成することにより上記皮膜を形成する皮膜形成工程とを有することを特徴とする燃料噴射ノズルの噴孔内への皮膜形成方法。
【請求項2】
請求項1において、上記吸引工程の後には、上記ノズルの先端部を上記皮膜原料液から引き上げる引き上げ工程を行い、その後上記圧送工程を行うことを特徴とする燃料噴射ノズルの噴孔内への皮膜形成方法。
【請求項3】
請求項2において、上記管状体当接工程の後には、上記浸漬工程、上記吸引工程、上記引き上げ工程及び上記圧送工程を1サイクルとする吸引圧送ステップを複数回繰り返して行い、その後上記皮膜形成工程を行うことを特徴とする燃料噴射ノズルの噴孔内への皮膜形成方法。
【請求項4】
請求項1において、上記圧送工程は、上記噴孔内を上記皮膜原料液で満たした状態で行い、上記圧送工程の後には、上記ノズルの先端部を上記皮膜原料液から引き上げる引き上げ工程を行い、その後上記皮膜形成工程を行うことを特徴とする燃料噴射ノズルの噴孔内への皮膜形成方法。
【請求項5】
請求項4において、上記浸漬工程の後には、上記吸引工程及び上記圧送工程を1サイクルとする吸引圧送ステップを複数回繰り返して行い、その後上記引き上げ工程を行うことを特徴とする燃料噴射ノズルの噴孔内への皮膜形成方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項において、上記管状体の先端部は、上記シート面の形状に合致した形状を呈していることを特徴とする燃料噴射ノズルの噴孔内への皮膜形成方法。
【請求項7】
請求項6において、上記管状体の内径は、上記サック部の内径と同じであることを特徴とする燃料噴射ノズルの噴孔内への皮膜形成方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項において、上記管状体は、樹脂又はゴムよりなることを特徴とする燃料噴射ノズルの噴孔内への皮膜形成方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項において、上記皮膜原料液は、フッ素を含有するフッ素含有液であることを特徴とする燃料噴射ノズルの噴孔内への皮膜形成方法。
【請求項1】
軸方向に穿設された案内孔の先端部に形成された円錐状のシート面と、該シート面の下流側に凹設されたサック部と、該サック部の内周面に開口する1又は複数の噴孔とを有する燃料噴射ノズルの上記噴孔内に皮膜を形成する方法であって、
上記案内孔の内径よりも外径が小さい管状体の先端部を上記案内孔に挿入し、上記シート面に当接させる管状体当接工程と、
上記ノズルの先端部を皮膜原料液に浸漬し、少なくとも上記噴孔内を上記皮膜原料液で満たす浸漬工程と、
上記噴孔内を上記皮膜原料液で満たした状態で、上記皮膜原料液を外部から上記噴孔内を通って上記管状体内に流入させるように吸引する吸引工程と、
吸引した上記皮膜原料液を上記管状体内から上記噴孔内を通って外部に排出させるように圧送する圧送工程と、
上記管状体の先端部と上記シート面との当接状態を解除した後、上記噴孔の内壁面に塗布された上記皮膜原料液を乾燥、又は乾燥及び焼成することにより上記皮膜を形成する皮膜形成工程とを有することを特徴とする燃料噴射ノズルの噴孔内への皮膜形成方法。
【請求項2】
請求項1において、上記吸引工程の後には、上記ノズルの先端部を上記皮膜原料液から引き上げる引き上げ工程を行い、その後上記圧送工程を行うことを特徴とする燃料噴射ノズルの噴孔内への皮膜形成方法。
【請求項3】
請求項2において、上記管状体当接工程の後には、上記浸漬工程、上記吸引工程、上記引き上げ工程及び上記圧送工程を1サイクルとする吸引圧送ステップを複数回繰り返して行い、その後上記皮膜形成工程を行うことを特徴とする燃料噴射ノズルの噴孔内への皮膜形成方法。
【請求項4】
請求項1において、上記圧送工程は、上記噴孔内を上記皮膜原料液で満たした状態で行い、上記圧送工程の後には、上記ノズルの先端部を上記皮膜原料液から引き上げる引き上げ工程を行い、その後上記皮膜形成工程を行うことを特徴とする燃料噴射ノズルの噴孔内への皮膜形成方法。
【請求項5】
請求項4において、上記浸漬工程の後には、上記吸引工程及び上記圧送工程を1サイクルとする吸引圧送ステップを複数回繰り返して行い、その後上記引き上げ工程を行うことを特徴とする燃料噴射ノズルの噴孔内への皮膜形成方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項において、上記管状体の先端部は、上記シート面の形状に合致した形状を呈していることを特徴とする燃料噴射ノズルの噴孔内への皮膜形成方法。
【請求項7】
請求項6において、上記管状体の内径は、上記サック部の内径と同じであることを特徴とする燃料噴射ノズルの噴孔内への皮膜形成方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項において、上記管状体は、樹脂又はゴムよりなることを特徴とする燃料噴射ノズルの噴孔内への皮膜形成方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項において、上記皮膜原料液は、フッ素を含有するフッ素含有液であることを特徴とする燃料噴射ノズルの噴孔内への皮膜形成方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2008−255870(P2008−255870A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−98264(P2007−98264)
【出願日】平成19年4月4日(2007.4.4)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年4月4日(2007.4.4)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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