燃料噴射弁
【課題】噴霧を高分散/高微粒化させることが可能な燃料噴射弁を提供する。
【解決手段】燃料噴射弁は、燃料が噴射される噴孔3が形成された弁ボデーを備え、噴孔3は、複数の小噴孔5の各一部分を互いに重ねて形成することによって、噴孔3の内壁31に突出部6を設けて形成され、小噴孔5を、ジグザグ線LZの折り返し位置LZPに配置している。これにより、噴孔3からの噴霧を高分散/高微粒化させることができる。
【解決手段】燃料噴射弁は、燃料が噴射される噴孔3が形成された弁ボデーを備え、噴孔3は、複数の小噴孔5の各一部分を互いに重ねて形成することによって、噴孔3の内壁31に突出部6を設けて形成され、小噴孔5を、ジグザグ線LZの折り返し位置LZPに配置している。これにより、噴孔3からの噴霧を高分散/高微粒化させることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃料供給に用いられる燃料噴射弁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンの燃焼改善のため、ガソリン直噴エンジンでは、エンジン筒内に噴射される燃料の噴霧を、高分散/高微粒化させることが求められ、燃料噴射弁において、噴霧の分散および微粒化を向上させる試みが種々行なわれている。このような燃料噴射弁として、燃料が噴射される噴孔の形状を改善した燃料噴射弁が開示されている(特許文献1を参照)。
【0003】
この噴孔は、複数の小噴孔を直線状に配置し、且つ、複数の小噴孔の各一部分を互いに重ねて形成することによって内壁に突出部を設けて形成されている。このため、噴孔内および噴孔近傍において燃料流れには、突出部によりカルマン渦等の微小な渦が発生して、内部乱れが促進される。この内部乱れの促進により、噴孔からの噴霧の分散および微粒化を向上させようとしている。
【特許文献1】実開昭62−64875号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
噴霧の分散および微粒化をより向上させるには、燃料流れの内部乱れをより促進させる必要があり、このためには、突出部の個数を増加させる必要があるため、小噴孔の個数を増加させる必要がある。しかし、上述の従来技術では、複数の小噴孔を直線上に配置して突出部を設けているため、小噴孔の個数を増加させると、噴孔の長手方向の長さが長くなるという問題が生じる。このため、噴孔の長手方向の長さに制約がある場合には、噴霧の分散および微粒化をより向上させることができない。
【0005】
さらに、複数の小噴孔を直線上に配置して突出部を設けているため、互いに隣接する突出部間の寸法が大きくなり、突出部による燃料流れの内部乱れが、互いに分断されてしまうおそれがある。このため、噴孔からの噴霧は、突出部により微粒化が向上している領域が、突出部がないために微粒化が向上していない領域によって分断された、不均一なものとなってしまう。
【0006】
これらのことから、従来技術では、噴霧の分散および微粒化をより向上させることが困難になっている。
【0007】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、噴霧を高分散/高微粒化させることが可能な燃料噴射弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記目的を達成するため、以下の技術的手段を採用する。
【0009】
請求項1の発明によれば、燃料が噴射される噴孔が形成された弁ボデーを備え、噴孔は、複数の小噴孔の各一部分を互いに重ねて形成することによって、噴孔の内壁に突出部を設けて形成され、小噴孔を、ジグザグ線の折り返し位置に配置していることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、小噴孔を、ジグザグ線の折り返し位置に配置しているため、直線上に複数の小噴孔を配置する場合と比較して、噴孔の長手方向において単位長さあたりの突出部の個数を増加できる。このため、噴孔内および噴孔近傍において燃料流れに生じる突出部による内部乱れを、より促進できるため、噴孔からの噴霧を、高分散/高微粒化させることが可能となる。
【0011】
請求項2の発明によれば、小噴孔を、互いに隣接する突出部間の寸法が、小噴孔の孔面積と同一面積である円の半径未満となる配置で配置していることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、互いに隣接する突出部間の寸法を、小噴孔の孔面積と同一面積である円の半径未満としているため、噴孔内および噴孔近傍において燃料流れに生じる突出部による内部乱れが、互いに分断されてしまうことを、抑えることができる。このため、噴孔からの噴霧において、突出部により微粒化が向上している領域が、突出部がないために微粒化が向上していない領域によって分断されてしまうことを、抑えることができる。したがって、噴孔からの噴霧を、より高分散/高微粒化させることが可能となる。
【0013】
請求項3の発明によれば、噴孔は、噴孔の噴孔周長が、燃料の入口側から燃料の出口側へ向かって徐々に長くなるように形成されていることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、噴孔の噴孔周長が、燃料の入口側から燃料の出口側へ向かって徐々に長くなっているため、突出部により内部乱れが生じている燃料流れは、噴孔から噴出後、噴孔から遠ざかるにつれて拡大してゆく。このため、噴孔から遠ざかるにつれて、この燃料流れの燃料と空気の接触面積が増加して、この燃料流れの燃料が空気から受けるせん断力が増加する。したがって、噴孔から噴出後の燃料流れにおいて、突出部による内部乱れがより促進されて、噴孔からの噴霧において、突出部による高分散/高微粒化させる効果をより高めることが可能となる。
【0015】
請求項4の発明によれば、小噴孔は、互いに、同一形状と同一の大きさとを有することを特徴とする。このため、噴孔において、上述した小噴孔の配置関係を満足させる構成を採り易くなり、噴孔からの噴霧を、高分散/高微粒化させることが、より容易となる。
【0016】
請求項5の発明によれば、小噴孔は、円形であることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、小噴孔が加工し易い円形であるため、加工コストを抑えて、上述の効果を奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、図中の互いに同一若しくは均等である部分に、同一符号を付している。
【0019】
図1と図2に示す燃料噴射弁1は、シリンダヘッド11に取り付けられ、シリンダブロック10の内周面と、シリンダヘッド11の内周面と、ピストン12の上端面とで形成される燃焼室14に、燃料噴射弁1の長手方向の軸線VAに対して噴霧Sの中心軸SAを傾斜させて燃料を噴射する。これにより、点火プラグ13やシリンダブロック10の内周面に噴霧Sが直接付着して液状となることを抑制している。
【0020】
上述したように燃料を噴射するため、燃料噴射弁1の先端側の弁ボデー2に、燃料が噴射される噴孔3が、図3〜5に示す形状で形成される。弁ボディ2は、図3に示すように有底筒状に形成され、燃料流れ方向(図3において下方向)に向けて縮径する円錐状の内面21を有し、ニードル4が着座可能な弁座22が内面21に形成される。弁ボディ2において弁座22に対し燃料流れの下流側(図3において下方向側)に、燃料を噴射する噴孔3が形成される。
【0021】
噴孔3を開閉するニードル4は、図3において上下方向へ移動するように構成される。ニードル4が上方へ移動して弁座22から離座すると、高圧燃料は、弁ボディ2の内面21とニードル4の隙間を通って、噴孔3の入口32から出口33へ向かって、噴孔3から噴霧Sとして噴射される。ニードル4が下方へ移動して弁座22に着座すると、噴孔3からの燃料噴射が遮断される。
【0022】
図4において上下方向を長手とするスリット状の噴孔3は、弁ボデー2の中心から図4において左側へずらし位置に形成される。高圧燃料は、スリット状の噴孔3から、図3に示す方向では扇状に広がる形状であって、図5に示す方向では、燃料噴射弁1の軸線VAに対して傾斜した扁平な噴霧Sとして噴射される。
【0023】
図6に示すように、噴孔3は、複数の小噴孔5の各一部分を互いに重ねて形成することによって、噴孔3の内壁31に突出部6を設けて形成される。図6に示す例では、7個の同一半径R(図7)の円の小噴孔5を、重ね領域A1で互いに重ねて穴加工し、これにより、噴孔3の内壁31に12個の突出部6を設けて噴孔3が形成される。小噴孔5は、ジグザグ線LZの折り返し位置LZPに配置され、小噴孔5の中心51は、折り返し位置LZPに位置する。小噴孔5を、ジグザグ線LZの折り返し位置LZPに配置しているため、噴孔3は、長手方向に長さL0を有するスリット形状で形成されているといえる。
【0024】
さらに、小噴孔5は、図7において、互いに隣接する突出部61,62間の寸法L1や、互いに隣接する突出部62,63間の寸法L2を含む、全ての互いに隣接する突出部6間の寸法が、小噴孔5の半径R未満となる配置で配置される。
【0025】
図8において、噴孔3は、噴孔3の噴孔周長C1,C2が、燃料の入口32側から燃料の出口33側へ向かって、噴孔周長C1から噴孔周長C2へ徐々に長くなるように、テーパ状に形成される。7個の小噴孔5は、互いに、同一形状と同一の大きさとを有し、具体的には、入口32側と出口33側の両方で、同一半径の円(出口33側では同一半径Rの円)を有すると共に、入口32側から出口33側へ向かって同一のテーパ状に形成される。小噴孔5の寸法は、例えば、入口32側の各小噴孔5の直径を0.2mmとし、出口33側の各小噴孔5の直径を0.3mmとし、入口32と出口33間の寸法を0.8mmとする。図8に示す例では、12個の突出部6は、それぞれ、入口32と出口33間で連続的に形成される。噴孔3は、上述した形状で、レーザ加工や、放電加工などによって形成される。
【0026】
以下、噴孔3からの噴霧Sの高分散/高微粒化について説明する。
【0027】
図8において、噴孔3内および噴孔3近傍において燃料流れS1には、入口32と出口33間で連続的に形成されている突出部6により、カルマン渦等による微小な渦S2が、入口32と出口33間で連続的に生じて、内部乱れが促進されている。
【0028】
噴孔3では、小噴孔5を、ジグザグ線LZの折り返し位置LZPに配置しているため、直線上に複数の小噴孔5を配置した、図9に示す噴孔30と比較して、噴孔3の長手方向において単位長さあたりの突出部6の個数を増加できる。具体的には、図9に示す例では、噴孔30は、噴孔3と同じ小噴孔5を直線上に配置すると共に、小噴孔5の各一部分を互いに重ねて形成することによって、形成される。また、噴孔30の長手方向の長さは、噴孔3と同じL0で形成される。このため、小噴孔5が直線上に配置された噴孔30では、小噴孔5の個数が5個であるのに対して、小噴孔5がジグザグ線LZの折り返し位置LZPに配置された噴孔3においては、小噴孔5の個数が7個に増加している。したがって、噴孔30においては、突出部60の個数の個数が8個であるのに対して、噴孔3においては、突出部6の個数の個数が12個に増加している。
【0029】
このように、噴孔3では、噴孔30と比較して、噴孔3の長手方向において単位長さあたりの突出部6の個数が増加できるため、噴孔3内および噴孔3近傍において燃料流れS1に生じる突出部6による微小な渦S2を増加でき、噴孔3内および噴孔3近傍において燃料流れS1に生じる内部乱れを、より促進できる。このため、噴孔3からの噴霧Sを、高分散/高微粒化させることが可能となる。
【0030】
さらに、噴孔3では、図7に示すように、互いに隣接する突出部61,62間の寸法L1や、互いに隣接する突出部62,63間の寸法L2を含む、全ての互いに隣接する突出部6間の寸法を、小噴孔5の半径R未満としている。このため、図10に示すように、突出部6が半径R未満の間隔で連なっている突出部領域A2が、噴孔3の中央側の長手に沿って形成され、突出部6が形成されていない突出部無し領域A3によって、突出部領域A2は分断されていない。
【0031】
一方、噴孔30では、図11に示すように、互いに隣接する突出部601,602間の寸法L10が小噴孔5の半径R未満となっているのに対して、互いに隣接する突出部602,603間の寸法L20が小噴孔5の半径Rより長くなっている。小噴孔5を互いに近づけるように配置すれば、寸法L20を短くできるが、寸法L10が長くなってしまう。さらには、小噴孔5を互いに近づけると、突出部60がなだらかになって、突出部6による微小な渦S2が生じにくくなるという問題も生じる。このように、噴孔30では、全ての互いに隣接する突出部60間の寸法を、小噴孔5の半径R未満となる配置にすることができない。このため、噴孔30では、図9に示すように、突出部6がない突出部無し領域A30によって、突出部60が互いに分断されてしまう。このため、噴孔30からの噴霧は、突出部60により微粒化が向上している領域が、突出部60がないために微粒化が向上していない領域によって分断された、不均一なものとなってしまう。
【0032】
これに対して、噴孔3では、図10に示すように、突出部無し領域A3によって、突出部領域A2は分断されていないため、噴孔3からの噴霧Sにおいて、突出部6により微粒化が向上している領域が、突出部6がないために微粒化が向上していない領域によって分断されてしまうことを、抑えることができる。したがって、噴孔3からの噴霧Sを、より高分散/高微粒化させることが可能となる。
【0033】
さらに、噴孔3では、噴孔3の噴孔周長C1,C2が、燃料の入口32側から燃料の出口33側へ向かって、噴孔周長C1から噴孔周長C2に徐々に長くなっているため、突出部6により内部乱れが生じている燃料流れS1は、噴孔3から噴出後、噴孔3から遠ざかるにつれて拡大してゆく。このため、噴孔3から遠ざかるにつれて、この燃料流れS1の燃料と空気の接触面積が増加して、この燃料流れS1の燃料が空気から受けるせん断力が増加する。したがって、噴孔3から噴出後の燃料流れS1において、突出部6による内部乱れがより促進されて、噴孔3からの噴霧Sにおいて、突出部6による高分散/高微粒化させる効果をより高めることが可能となる。
【0034】
さらに、噴孔3では、小噴孔5を、ジグザグ線LZの折り返し位置LZPに配置しているため、噴孔3からの噴霧Sは、長手方向と短手方向を有するスリット形状で噴射される。このため、突出部6により内部乱れが生じている燃料流れS1は、噴孔3の長手方向において空気との接触面積が増加して、燃料流れS1の燃料が空気から受けるせん断力が増加する。したがって、噴孔3から噴出後の燃料流れS1において、突出部6による内部乱れがより促進されて、噴孔3からの噴霧Sにおいて、突出部6による高分散/高微粒化させる効果をより高めることが可能となる。
【0035】
さらに、噴孔3では、噴孔3の噴孔周長C2のエッジ部分によって、燃料流れS1に乱れが生じているが、図6と図9の比較から明らかなように、噴孔3の噴孔周長C2は、噴孔30の噴孔周長C20より長くなっている。このため、噴孔周長C20のエッジ部分と比較して、噴孔周長C2のエッジ部分による燃料流れS1に生じる乱れが、より促進される。したがって、噴孔3からの噴霧Sにおいて、噴孔3の噴孔周長C2のエッジ部分による分散/微粒化させる効果をより高めることが可能となる。
【0036】
さらに、噴孔3では、7個の小噴孔5が、同一形状と同一の大きさとを有するため、上述した小噴孔5の配置関係を満足させる構成を、採り易くなる。具体的には、小噴孔5を、ジグザグ線LZの折り返し位置LZPに配置することや、さらには、全ての互いに隣接する突出部6間の寸法を、小噴孔5の半径R未満として配置することを、容易に実現することが可能となる。このため、噴孔3からの噴霧Sを、高分散/高微粒化させることが、より容易となる。
【0037】
さらに、噴孔3では、小噴孔5が加工し易い円形であるため、加工コストを抑えて、上述の効果を得ることができる。
【0038】
燃料噴射弁1の噴孔3から噴射された噴霧Sの平均粒径SMD(μm)を図12に示し、噴霧Sを撮影した写真を図13に示す。図12,13では、燃料として、n−ヘプタン(C7H16)を用い、図12では、平均粒径を、噴孔3直下50mmの位置でレーザー回折法によって、ザウターの平均粒径SMDとして計測した。ザウターの平均粒径SMDは、油滴の表面積と油滴の容積の合計が等しいとして求める平均粒径であり、蒸発や燃焼に最も合理的に関連付けられる平均粒径である。図12は、横軸を燃料圧力P(MPa)とし、縦軸を平均粒径SMDとしてグラフ化している。
【0039】
図13は、図3に示す方向において、燃料圧力Pを20MPaとし、パルス幅を1ミリ秒として、燃料噴射弁1の噴孔3から噴射された噴霧Sを撮影した写真を示す。これは、噴霧Sにレーザー光を照射し、噴霧Sからの散乱光を、噴霧Sとして撮影したものである。写真では、噴霧Sは、黒を背景として白色で表わされるが、図13を見易くするため、図13では、黒白を反転にして、黒色の噴霧Sを、白を背景として示している。図12に示す平均粒径SMDで高微粒化されている噴霧Sが、図13中の矢印S3で示すように、巻き上がりが強化されて、高分散化されている。
【0040】
(変形例)
上述の図8で示した噴孔3を、燃料の入口32と出口33間で小噴孔5を互いに重ねるように形成したが、これに限らない。図14に示すように、噴孔3Aを、燃料の出口33Aから寸法T2の間で小噴孔5Aを互いに重ね、燃料の入口32Aで小噴孔5Aを互いに重ねないように形成することも可能である。噴孔3では、突出部6が、入口32と出口33間で連続的に形成されているのに対して、噴孔3Aでは、突出部6Aが、出口33Aから寸法T2の間でのみ連続的に形成されている。噴孔3Aでも、上述と同様の効果を得ることができる。
【0041】
なお、突出部6Aによって燃料流れS1に生じる内部乱れを所定のレベルで確保するためには、突出部6Aが形成されている寸法T2を、入口32と出口33間の寸法T1の2/3以上とすることが望ましい。
【0042】
上述の図8で示した噴孔3を、噴孔3の噴孔周長C1,C2が、燃料の入口32側から燃料の出口33側へ向かって、噴孔周長C1から噴孔周長C2に徐々に長くなるように、テーパ状に形成したが、これに限らない。図15に示すように、小噴孔5Bからなる噴孔3Bを、噴孔3Bの噴孔周長C11,C21が、燃料の入口32Bと出口33B間で等しくなるように、ストレート状に形成することも可能である。噴孔3Bでも、テーパ状に噴孔3を形成したことによる効果を除いて、上述と同様の効果を得ることができる。
【0043】
上述の例では、小噴孔5,5A、5Bは、円形であったが、図16に示す楕円の小噴孔5Cとすることも可能であり、図17に示す正方形の小噴孔5Dとすることも可能であり、図18に示す正六角形の小噴孔5Eとすることも可能である。
【0044】
図16では、噴孔3Cを、7個の小噴孔5Cの各一部分を互いに重ねて形成することによって、噴孔3Cの内壁に突出部6Cを設けて形成し、小噴孔5Cを、ジグザグ線の折り返し位置に配置する。さらに、小噴孔5Cを、互いに隣接する突出部6C間の寸法が、小噴孔5Cの楕円の孔面積と同一面積である円の半径未満となる配置で配置する。
【0045】
図17では、噴孔3Dを、7個の小噴孔5Dの各一部分を互いに重ねて形成することによって、噴孔3Dの内壁に突出部6Dを設けて形成し、小噴孔5Dを、ジグザグ線の折り返し位置に配置する。さらに、小噴孔5Dを、互いに隣接する突出部6D間の寸法が、小噴孔5Dの正方形の孔面積と同一面積である円の半径未満となる配置で配置する。
【0046】
図18では、噴孔3Eを、7個の小噴孔5Eの各一部分を互いに重ねて形成することによって、噴孔3Eの内壁に突出部6Eを設けて形成し、小噴孔5Eを、ジグザグ線の折り返し位置に配置する。さらに、小噴孔5Eを、互いに隣接する突出部6E間の寸法が、小噴孔5Eの正六角形の孔面積と同一面積である円の半径未満となる配置で配置する。
【0047】
噴孔3C,3D,3Eでも、それぞれ、上述と同様の効果を得ることができる。
【0048】
なお、小噴孔は、上述の形状に限るものではなく、正方形でない四角形や、その他の多角形であっても、上述と同様の効果を得ることができる。
【0049】
上述の例では、小噴孔5の各孔面積は互いに同一であり、小噴孔5Aの各孔面積は互いに同一であり、小噴孔5Bの各孔面積は互いに同一であり、小噴孔5Cの各孔面積は互いに同一であり、小噴孔5Dの各孔面積は互いに同一であり、小噴孔5Eの各孔面積は互いに同一であったが、これに限らない。噴孔を、孔面積が互いに異なる複数の小噴孔の各一部分を互いに重ねて形成することによって、噴孔の内壁に突出部を設けて形成し、小噴孔を、ジグザグ線の折り返し位置に配置することも可能である。この場合、さらに、小噴孔を、互いに隣接する突出部間の寸法が、互いに異なる小噴孔の孔面積の平均値と同一面積である円の半径未満となる配置で配置する。これにより、上述と同様の効果を得ることが可能となる。
【0050】
また、小噴孔は、7個の限らないで、他の個数とすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施形態による燃料噴射弁の取り付け位置および燃焼室への噴霧を示す断面図である。
【図2】図1中のII部の拡大断面図である。
【図3】図2中のIII−III線の断面図である。
【図4】図2中のIV矢視図である。
【図5】図4中のV−V線の断面図である。
【図6】図4中のVI部の拡大図である。
【図7】図6中のVII部の拡大図である。
【図8】図6に示す噴孔の斜視図である。
【図9】図6の比較例を示す拡大図である。
【図10】図6に示す噴孔の効果の説明図である。
【図11】図9中のXI部の拡大図である。
【図12】図6に示す噴孔からの噴霧の平均粒径と燃料圧力の関係を示すグラフである。
【図13】図6に示す噴孔からの噴霧を撮影した写真である。
【図14】図8の第1変形例を示す噴孔の斜視図である。
【図15】図8の第2変形例を示す噴孔の斜視図である。
【図16】図6の第1変形例を示す噴孔の拡大図である。
【図17】図6の第2変形例を示す噴孔の拡大図である。
【図18】図6の第3変形例を示す噴孔の拡大図である。
【符号の説明】
【0052】
1 燃料噴射弁、2 弁ボデー、21 内面、22 弁座
3,3A,3B,3C,3D,3E,30 噴孔、31,301 内壁
32,32A,32B 入口、33,33A,33B 出口、4 ニードル
5,5A,5B,5C,5D,5E 小噴孔、51 中心
6,6A〜6E,60、61〜63、601〜603 突出部
10 シリンダブロック、11 シリンダヘッド、12 ピストン、13 点火プラグ
14 燃焼室、S 噴霧、SA 中心軸、S1 燃料流れ、S2 渦
S3 巻き上がり、VA 軸線、A1 重ね領域、A2 突出部領域
A3、A30 突出部無し領域、C1,C11,C2,C20,C21 噴孔周長
L0,L1,L2,L10,L20、T1,T2 寸法、LZ ジグザグ線
LZP 折り返し位置、R 半径
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃料供給に用いられる燃料噴射弁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンの燃焼改善のため、ガソリン直噴エンジンでは、エンジン筒内に噴射される燃料の噴霧を、高分散/高微粒化させることが求められ、燃料噴射弁において、噴霧の分散および微粒化を向上させる試みが種々行なわれている。このような燃料噴射弁として、燃料が噴射される噴孔の形状を改善した燃料噴射弁が開示されている(特許文献1を参照)。
【0003】
この噴孔は、複数の小噴孔を直線状に配置し、且つ、複数の小噴孔の各一部分を互いに重ねて形成することによって内壁に突出部を設けて形成されている。このため、噴孔内および噴孔近傍において燃料流れには、突出部によりカルマン渦等の微小な渦が発生して、内部乱れが促進される。この内部乱れの促進により、噴孔からの噴霧の分散および微粒化を向上させようとしている。
【特許文献1】実開昭62−64875号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
噴霧の分散および微粒化をより向上させるには、燃料流れの内部乱れをより促進させる必要があり、このためには、突出部の個数を増加させる必要があるため、小噴孔の個数を増加させる必要がある。しかし、上述の従来技術では、複数の小噴孔を直線上に配置して突出部を設けているため、小噴孔の個数を増加させると、噴孔の長手方向の長さが長くなるという問題が生じる。このため、噴孔の長手方向の長さに制約がある場合には、噴霧の分散および微粒化をより向上させることができない。
【0005】
さらに、複数の小噴孔を直線上に配置して突出部を設けているため、互いに隣接する突出部間の寸法が大きくなり、突出部による燃料流れの内部乱れが、互いに分断されてしまうおそれがある。このため、噴孔からの噴霧は、突出部により微粒化が向上している領域が、突出部がないために微粒化が向上していない領域によって分断された、不均一なものとなってしまう。
【0006】
これらのことから、従来技術では、噴霧の分散および微粒化をより向上させることが困難になっている。
【0007】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、噴霧を高分散/高微粒化させることが可能な燃料噴射弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記目的を達成するため、以下の技術的手段を採用する。
【0009】
請求項1の発明によれば、燃料が噴射される噴孔が形成された弁ボデーを備え、噴孔は、複数の小噴孔の各一部分を互いに重ねて形成することによって、噴孔の内壁に突出部を設けて形成され、小噴孔を、ジグザグ線の折り返し位置に配置していることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、小噴孔を、ジグザグ線の折り返し位置に配置しているため、直線上に複数の小噴孔を配置する場合と比較して、噴孔の長手方向において単位長さあたりの突出部の個数を増加できる。このため、噴孔内および噴孔近傍において燃料流れに生じる突出部による内部乱れを、より促進できるため、噴孔からの噴霧を、高分散/高微粒化させることが可能となる。
【0011】
請求項2の発明によれば、小噴孔を、互いに隣接する突出部間の寸法が、小噴孔の孔面積と同一面積である円の半径未満となる配置で配置していることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、互いに隣接する突出部間の寸法を、小噴孔の孔面積と同一面積である円の半径未満としているため、噴孔内および噴孔近傍において燃料流れに生じる突出部による内部乱れが、互いに分断されてしまうことを、抑えることができる。このため、噴孔からの噴霧において、突出部により微粒化が向上している領域が、突出部がないために微粒化が向上していない領域によって分断されてしまうことを、抑えることができる。したがって、噴孔からの噴霧を、より高分散/高微粒化させることが可能となる。
【0013】
請求項3の発明によれば、噴孔は、噴孔の噴孔周長が、燃料の入口側から燃料の出口側へ向かって徐々に長くなるように形成されていることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、噴孔の噴孔周長が、燃料の入口側から燃料の出口側へ向かって徐々に長くなっているため、突出部により内部乱れが生じている燃料流れは、噴孔から噴出後、噴孔から遠ざかるにつれて拡大してゆく。このため、噴孔から遠ざかるにつれて、この燃料流れの燃料と空気の接触面積が増加して、この燃料流れの燃料が空気から受けるせん断力が増加する。したがって、噴孔から噴出後の燃料流れにおいて、突出部による内部乱れがより促進されて、噴孔からの噴霧において、突出部による高分散/高微粒化させる効果をより高めることが可能となる。
【0015】
請求項4の発明によれば、小噴孔は、互いに、同一形状と同一の大きさとを有することを特徴とする。このため、噴孔において、上述した小噴孔の配置関係を満足させる構成を採り易くなり、噴孔からの噴霧を、高分散/高微粒化させることが、より容易となる。
【0016】
請求項5の発明によれば、小噴孔は、円形であることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、小噴孔が加工し易い円形であるため、加工コストを抑えて、上述の効果を奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、図中の互いに同一若しくは均等である部分に、同一符号を付している。
【0019】
図1と図2に示す燃料噴射弁1は、シリンダヘッド11に取り付けられ、シリンダブロック10の内周面と、シリンダヘッド11の内周面と、ピストン12の上端面とで形成される燃焼室14に、燃料噴射弁1の長手方向の軸線VAに対して噴霧Sの中心軸SAを傾斜させて燃料を噴射する。これにより、点火プラグ13やシリンダブロック10の内周面に噴霧Sが直接付着して液状となることを抑制している。
【0020】
上述したように燃料を噴射するため、燃料噴射弁1の先端側の弁ボデー2に、燃料が噴射される噴孔3が、図3〜5に示す形状で形成される。弁ボディ2は、図3に示すように有底筒状に形成され、燃料流れ方向(図3において下方向)に向けて縮径する円錐状の内面21を有し、ニードル4が着座可能な弁座22が内面21に形成される。弁ボディ2において弁座22に対し燃料流れの下流側(図3において下方向側)に、燃料を噴射する噴孔3が形成される。
【0021】
噴孔3を開閉するニードル4は、図3において上下方向へ移動するように構成される。ニードル4が上方へ移動して弁座22から離座すると、高圧燃料は、弁ボディ2の内面21とニードル4の隙間を通って、噴孔3の入口32から出口33へ向かって、噴孔3から噴霧Sとして噴射される。ニードル4が下方へ移動して弁座22に着座すると、噴孔3からの燃料噴射が遮断される。
【0022】
図4において上下方向を長手とするスリット状の噴孔3は、弁ボデー2の中心から図4において左側へずらし位置に形成される。高圧燃料は、スリット状の噴孔3から、図3に示す方向では扇状に広がる形状であって、図5に示す方向では、燃料噴射弁1の軸線VAに対して傾斜した扁平な噴霧Sとして噴射される。
【0023】
図6に示すように、噴孔3は、複数の小噴孔5の各一部分を互いに重ねて形成することによって、噴孔3の内壁31に突出部6を設けて形成される。図6に示す例では、7個の同一半径R(図7)の円の小噴孔5を、重ね領域A1で互いに重ねて穴加工し、これにより、噴孔3の内壁31に12個の突出部6を設けて噴孔3が形成される。小噴孔5は、ジグザグ線LZの折り返し位置LZPに配置され、小噴孔5の中心51は、折り返し位置LZPに位置する。小噴孔5を、ジグザグ線LZの折り返し位置LZPに配置しているため、噴孔3は、長手方向に長さL0を有するスリット形状で形成されているといえる。
【0024】
さらに、小噴孔5は、図7において、互いに隣接する突出部61,62間の寸法L1や、互いに隣接する突出部62,63間の寸法L2を含む、全ての互いに隣接する突出部6間の寸法が、小噴孔5の半径R未満となる配置で配置される。
【0025】
図8において、噴孔3は、噴孔3の噴孔周長C1,C2が、燃料の入口32側から燃料の出口33側へ向かって、噴孔周長C1から噴孔周長C2へ徐々に長くなるように、テーパ状に形成される。7個の小噴孔5は、互いに、同一形状と同一の大きさとを有し、具体的には、入口32側と出口33側の両方で、同一半径の円(出口33側では同一半径Rの円)を有すると共に、入口32側から出口33側へ向かって同一のテーパ状に形成される。小噴孔5の寸法は、例えば、入口32側の各小噴孔5の直径を0.2mmとし、出口33側の各小噴孔5の直径を0.3mmとし、入口32と出口33間の寸法を0.8mmとする。図8に示す例では、12個の突出部6は、それぞれ、入口32と出口33間で連続的に形成される。噴孔3は、上述した形状で、レーザ加工や、放電加工などによって形成される。
【0026】
以下、噴孔3からの噴霧Sの高分散/高微粒化について説明する。
【0027】
図8において、噴孔3内および噴孔3近傍において燃料流れS1には、入口32と出口33間で連続的に形成されている突出部6により、カルマン渦等による微小な渦S2が、入口32と出口33間で連続的に生じて、内部乱れが促進されている。
【0028】
噴孔3では、小噴孔5を、ジグザグ線LZの折り返し位置LZPに配置しているため、直線上に複数の小噴孔5を配置した、図9に示す噴孔30と比較して、噴孔3の長手方向において単位長さあたりの突出部6の個数を増加できる。具体的には、図9に示す例では、噴孔30は、噴孔3と同じ小噴孔5を直線上に配置すると共に、小噴孔5の各一部分を互いに重ねて形成することによって、形成される。また、噴孔30の長手方向の長さは、噴孔3と同じL0で形成される。このため、小噴孔5が直線上に配置された噴孔30では、小噴孔5の個数が5個であるのに対して、小噴孔5がジグザグ線LZの折り返し位置LZPに配置された噴孔3においては、小噴孔5の個数が7個に増加している。したがって、噴孔30においては、突出部60の個数の個数が8個であるのに対して、噴孔3においては、突出部6の個数の個数が12個に増加している。
【0029】
このように、噴孔3では、噴孔30と比較して、噴孔3の長手方向において単位長さあたりの突出部6の個数が増加できるため、噴孔3内および噴孔3近傍において燃料流れS1に生じる突出部6による微小な渦S2を増加でき、噴孔3内および噴孔3近傍において燃料流れS1に生じる内部乱れを、より促進できる。このため、噴孔3からの噴霧Sを、高分散/高微粒化させることが可能となる。
【0030】
さらに、噴孔3では、図7に示すように、互いに隣接する突出部61,62間の寸法L1や、互いに隣接する突出部62,63間の寸法L2を含む、全ての互いに隣接する突出部6間の寸法を、小噴孔5の半径R未満としている。このため、図10に示すように、突出部6が半径R未満の間隔で連なっている突出部領域A2が、噴孔3の中央側の長手に沿って形成され、突出部6が形成されていない突出部無し領域A3によって、突出部領域A2は分断されていない。
【0031】
一方、噴孔30では、図11に示すように、互いに隣接する突出部601,602間の寸法L10が小噴孔5の半径R未満となっているのに対して、互いに隣接する突出部602,603間の寸法L20が小噴孔5の半径Rより長くなっている。小噴孔5を互いに近づけるように配置すれば、寸法L20を短くできるが、寸法L10が長くなってしまう。さらには、小噴孔5を互いに近づけると、突出部60がなだらかになって、突出部6による微小な渦S2が生じにくくなるという問題も生じる。このように、噴孔30では、全ての互いに隣接する突出部60間の寸法を、小噴孔5の半径R未満となる配置にすることができない。このため、噴孔30では、図9に示すように、突出部6がない突出部無し領域A30によって、突出部60が互いに分断されてしまう。このため、噴孔30からの噴霧は、突出部60により微粒化が向上している領域が、突出部60がないために微粒化が向上していない領域によって分断された、不均一なものとなってしまう。
【0032】
これに対して、噴孔3では、図10に示すように、突出部無し領域A3によって、突出部領域A2は分断されていないため、噴孔3からの噴霧Sにおいて、突出部6により微粒化が向上している領域が、突出部6がないために微粒化が向上していない領域によって分断されてしまうことを、抑えることができる。したがって、噴孔3からの噴霧Sを、より高分散/高微粒化させることが可能となる。
【0033】
さらに、噴孔3では、噴孔3の噴孔周長C1,C2が、燃料の入口32側から燃料の出口33側へ向かって、噴孔周長C1から噴孔周長C2に徐々に長くなっているため、突出部6により内部乱れが生じている燃料流れS1は、噴孔3から噴出後、噴孔3から遠ざかるにつれて拡大してゆく。このため、噴孔3から遠ざかるにつれて、この燃料流れS1の燃料と空気の接触面積が増加して、この燃料流れS1の燃料が空気から受けるせん断力が増加する。したがって、噴孔3から噴出後の燃料流れS1において、突出部6による内部乱れがより促進されて、噴孔3からの噴霧Sにおいて、突出部6による高分散/高微粒化させる効果をより高めることが可能となる。
【0034】
さらに、噴孔3では、小噴孔5を、ジグザグ線LZの折り返し位置LZPに配置しているため、噴孔3からの噴霧Sは、長手方向と短手方向を有するスリット形状で噴射される。このため、突出部6により内部乱れが生じている燃料流れS1は、噴孔3の長手方向において空気との接触面積が増加して、燃料流れS1の燃料が空気から受けるせん断力が増加する。したがって、噴孔3から噴出後の燃料流れS1において、突出部6による内部乱れがより促進されて、噴孔3からの噴霧Sにおいて、突出部6による高分散/高微粒化させる効果をより高めることが可能となる。
【0035】
さらに、噴孔3では、噴孔3の噴孔周長C2のエッジ部分によって、燃料流れS1に乱れが生じているが、図6と図9の比較から明らかなように、噴孔3の噴孔周長C2は、噴孔30の噴孔周長C20より長くなっている。このため、噴孔周長C20のエッジ部分と比較して、噴孔周長C2のエッジ部分による燃料流れS1に生じる乱れが、より促進される。したがって、噴孔3からの噴霧Sにおいて、噴孔3の噴孔周長C2のエッジ部分による分散/微粒化させる効果をより高めることが可能となる。
【0036】
さらに、噴孔3では、7個の小噴孔5が、同一形状と同一の大きさとを有するため、上述した小噴孔5の配置関係を満足させる構成を、採り易くなる。具体的には、小噴孔5を、ジグザグ線LZの折り返し位置LZPに配置することや、さらには、全ての互いに隣接する突出部6間の寸法を、小噴孔5の半径R未満として配置することを、容易に実現することが可能となる。このため、噴孔3からの噴霧Sを、高分散/高微粒化させることが、より容易となる。
【0037】
さらに、噴孔3では、小噴孔5が加工し易い円形であるため、加工コストを抑えて、上述の効果を得ることができる。
【0038】
燃料噴射弁1の噴孔3から噴射された噴霧Sの平均粒径SMD(μm)を図12に示し、噴霧Sを撮影した写真を図13に示す。図12,13では、燃料として、n−ヘプタン(C7H16)を用い、図12では、平均粒径を、噴孔3直下50mmの位置でレーザー回折法によって、ザウターの平均粒径SMDとして計測した。ザウターの平均粒径SMDは、油滴の表面積と油滴の容積の合計が等しいとして求める平均粒径であり、蒸発や燃焼に最も合理的に関連付けられる平均粒径である。図12は、横軸を燃料圧力P(MPa)とし、縦軸を平均粒径SMDとしてグラフ化している。
【0039】
図13は、図3に示す方向において、燃料圧力Pを20MPaとし、パルス幅を1ミリ秒として、燃料噴射弁1の噴孔3から噴射された噴霧Sを撮影した写真を示す。これは、噴霧Sにレーザー光を照射し、噴霧Sからの散乱光を、噴霧Sとして撮影したものである。写真では、噴霧Sは、黒を背景として白色で表わされるが、図13を見易くするため、図13では、黒白を反転にして、黒色の噴霧Sを、白を背景として示している。図12に示す平均粒径SMDで高微粒化されている噴霧Sが、図13中の矢印S3で示すように、巻き上がりが強化されて、高分散化されている。
【0040】
(変形例)
上述の図8で示した噴孔3を、燃料の入口32と出口33間で小噴孔5を互いに重ねるように形成したが、これに限らない。図14に示すように、噴孔3Aを、燃料の出口33Aから寸法T2の間で小噴孔5Aを互いに重ね、燃料の入口32Aで小噴孔5Aを互いに重ねないように形成することも可能である。噴孔3では、突出部6が、入口32と出口33間で連続的に形成されているのに対して、噴孔3Aでは、突出部6Aが、出口33Aから寸法T2の間でのみ連続的に形成されている。噴孔3Aでも、上述と同様の効果を得ることができる。
【0041】
なお、突出部6Aによって燃料流れS1に生じる内部乱れを所定のレベルで確保するためには、突出部6Aが形成されている寸法T2を、入口32と出口33間の寸法T1の2/3以上とすることが望ましい。
【0042】
上述の図8で示した噴孔3を、噴孔3の噴孔周長C1,C2が、燃料の入口32側から燃料の出口33側へ向かって、噴孔周長C1から噴孔周長C2に徐々に長くなるように、テーパ状に形成したが、これに限らない。図15に示すように、小噴孔5Bからなる噴孔3Bを、噴孔3Bの噴孔周長C11,C21が、燃料の入口32Bと出口33B間で等しくなるように、ストレート状に形成することも可能である。噴孔3Bでも、テーパ状に噴孔3を形成したことによる効果を除いて、上述と同様の効果を得ることができる。
【0043】
上述の例では、小噴孔5,5A、5Bは、円形であったが、図16に示す楕円の小噴孔5Cとすることも可能であり、図17に示す正方形の小噴孔5Dとすることも可能であり、図18に示す正六角形の小噴孔5Eとすることも可能である。
【0044】
図16では、噴孔3Cを、7個の小噴孔5Cの各一部分を互いに重ねて形成することによって、噴孔3Cの内壁に突出部6Cを設けて形成し、小噴孔5Cを、ジグザグ線の折り返し位置に配置する。さらに、小噴孔5Cを、互いに隣接する突出部6C間の寸法が、小噴孔5Cの楕円の孔面積と同一面積である円の半径未満となる配置で配置する。
【0045】
図17では、噴孔3Dを、7個の小噴孔5Dの各一部分を互いに重ねて形成することによって、噴孔3Dの内壁に突出部6Dを設けて形成し、小噴孔5Dを、ジグザグ線の折り返し位置に配置する。さらに、小噴孔5Dを、互いに隣接する突出部6D間の寸法が、小噴孔5Dの正方形の孔面積と同一面積である円の半径未満となる配置で配置する。
【0046】
図18では、噴孔3Eを、7個の小噴孔5Eの各一部分を互いに重ねて形成することによって、噴孔3Eの内壁に突出部6Eを設けて形成し、小噴孔5Eを、ジグザグ線の折り返し位置に配置する。さらに、小噴孔5Eを、互いに隣接する突出部6E間の寸法が、小噴孔5Eの正六角形の孔面積と同一面積である円の半径未満となる配置で配置する。
【0047】
噴孔3C,3D,3Eでも、それぞれ、上述と同様の効果を得ることができる。
【0048】
なお、小噴孔は、上述の形状に限るものではなく、正方形でない四角形や、その他の多角形であっても、上述と同様の効果を得ることができる。
【0049】
上述の例では、小噴孔5の各孔面積は互いに同一であり、小噴孔5Aの各孔面積は互いに同一であり、小噴孔5Bの各孔面積は互いに同一であり、小噴孔5Cの各孔面積は互いに同一であり、小噴孔5Dの各孔面積は互いに同一であり、小噴孔5Eの各孔面積は互いに同一であったが、これに限らない。噴孔を、孔面積が互いに異なる複数の小噴孔の各一部分を互いに重ねて形成することによって、噴孔の内壁に突出部を設けて形成し、小噴孔を、ジグザグ線の折り返し位置に配置することも可能である。この場合、さらに、小噴孔を、互いに隣接する突出部間の寸法が、互いに異なる小噴孔の孔面積の平均値と同一面積である円の半径未満となる配置で配置する。これにより、上述と同様の効果を得ることが可能となる。
【0050】
また、小噴孔は、7個の限らないで、他の個数とすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施形態による燃料噴射弁の取り付け位置および燃焼室への噴霧を示す断面図である。
【図2】図1中のII部の拡大断面図である。
【図3】図2中のIII−III線の断面図である。
【図4】図2中のIV矢視図である。
【図5】図4中のV−V線の断面図である。
【図6】図4中のVI部の拡大図である。
【図7】図6中のVII部の拡大図である。
【図8】図6に示す噴孔の斜視図である。
【図9】図6の比較例を示す拡大図である。
【図10】図6に示す噴孔の効果の説明図である。
【図11】図9中のXI部の拡大図である。
【図12】図6に示す噴孔からの噴霧の平均粒径と燃料圧力の関係を示すグラフである。
【図13】図6に示す噴孔からの噴霧を撮影した写真である。
【図14】図8の第1変形例を示す噴孔の斜視図である。
【図15】図8の第2変形例を示す噴孔の斜視図である。
【図16】図6の第1変形例を示す噴孔の拡大図である。
【図17】図6の第2変形例を示す噴孔の拡大図である。
【図18】図6の第3変形例を示す噴孔の拡大図である。
【符号の説明】
【0052】
1 燃料噴射弁、2 弁ボデー、21 内面、22 弁座
3,3A,3B,3C,3D,3E,30 噴孔、31,301 内壁
32,32A,32B 入口、33,33A,33B 出口、4 ニードル
5,5A,5B,5C,5D,5E 小噴孔、51 中心
6,6A〜6E,60、61〜63、601〜603 突出部
10 シリンダブロック、11 シリンダヘッド、12 ピストン、13 点火プラグ
14 燃焼室、S 噴霧、SA 中心軸、S1 燃料流れ、S2 渦
S3 巻き上がり、VA 軸線、A1 重ね領域、A2 突出部領域
A3、A30 突出部無し領域、C1,C11,C2,C20,C21 噴孔周長
L0,L1,L2,L10,L20、T1,T2 寸法、LZ ジグザグ線
LZP 折り返し位置、R 半径
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料が噴射される噴孔が形成された弁ボデーを備え、
前記噴孔は、複数の小噴孔の各一部分を互いに重ねて形成することによって、前記噴孔の内壁に突出部を設けて形成され、
前記小噴孔を、ジグザグ線の折り返し位置に配置していることを特徴とする燃料噴射弁。
【請求項2】
前記小噴孔を、互いに隣接する前記突出部間の寸法が、前記小噴孔の孔面積と同一面積である円の半径未満となる配置で配置していることを特徴とする請求項1に記載の燃料噴射弁。
【請求項3】
前記噴孔は、前記噴孔の噴孔周長が、前記燃料の入口側から前記燃料の出口側へ向かって徐々に長くなるように形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の燃料噴射弁。
【請求項4】
前記小噴孔は、互いに、同一形状と同一の大きさとを有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の燃料噴射弁。
【請求項5】
前記小噴孔は、円形であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の燃料噴射弁。
【請求項1】
燃料が噴射される噴孔が形成された弁ボデーを備え、
前記噴孔は、複数の小噴孔の各一部分を互いに重ねて形成することによって、前記噴孔の内壁に突出部を設けて形成され、
前記小噴孔を、ジグザグ線の折り返し位置に配置していることを特徴とする燃料噴射弁。
【請求項2】
前記小噴孔を、互いに隣接する前記突出部間の寸法が、前記小噴孔の孔面積と同一面積である円の半径未満となる配置で配置していることを特徴とする請求項1に記載の燃料噴射弁。
【請求項3】
前記噴孔は、前記噴孔の噴孔周長が、前記燃料の入口側から前記燃料の出口側へ向かって徐々に長くなるように形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の燃料噴射弁。
【請求項4】
前記小噴孔は、互いに、同一形状と同一の大きさとを有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の燃料噴射弁。
【請求項5】
前記小噴孔は、円形であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の燃料噴射弁。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2009−299630(P2009−299630A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−156969(P2008−156969)
【出願日】平成20年6月16日(2008.6.16)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月16日(2008.6.16)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【Fターム(参考)】
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