説明

燃料噴射装置

【課題】開弁圧が精度良く調整された噴射ノズルを有する燃料噴射装置を提供する。
【解決手段】この燃料噴射装置は、ボデーと、このボデー内に設けられて燃料を吸引圧送するプランジャポンプと、ボデーに設けられて燃料を噴射する噴射ノズル61とを備えている。噴射ノズル61は、噴射口62aが形成されたノズルボデー62と、噴射口62aを開閉する弁体63と、この弁体63が噴射口62aを閉じるようにこの弁体63を付勢するばね67とを備え、弁体63は、弁部64aが設けられたバルブ軸64と、ばね67が係止される係止部65aを備えるとともにバルブ軸64を保持するリテーナ65とを備え、リテーナ65にバルブ軸64が挿入される挿入孔が設けられ、この挿入孔に縮径部65cが設けられ、この縮径部65cにバルブ軸64が圧入された後固着されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の吸気通路内に燃料を噴射する燃料噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プランジャポンプによって燃料を圧送して噴射ノズルから内燃機関の吸気通路内に、燃料を噴射する燃料噴射装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
噴射ノズルは、噴射口が形成されたノズルボデーと、この噴射口を開閉する弁体と、この弁体が噴射口を一定の圧力で閉じるように弁体を付勢するスプリングとを備え、プランジャポンプによって噴射口の内側に燃料が圧送されたときに、噴射ノズルが所定の圧力(開弁圧)で開いて燃料が噴射される。
【0004】
従来の燃料噴射装置の噴射ノズルにおいては、噴射口を開閉する弁体が軸形状にされるとともに、この弁体の根元側にばね座(例えばCリングなど)を設け、このばね座にスプリングの一端を係止させて、弁体が噴射口を閉じる方向に付勢されるように構成されるのが一般的である。特許文献2には、このような構造を燃料噴射装置の燃料吸入弁に適用した例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−248882号公報
【特許文献2】特開2010−007521号公報(段落0004−0005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、内燃機関の排出ガス濃度をより低減させるために、内燃機関に噴射する燃料の噴射流量の精度を向上させる必要性が生じている。燃料の噴射流量の精度を向上させるには噴射ノズルの弁体が噴射口を開放する開弁圧が一定になるように調整する必要がある。しかしながら、上記従来の噴射ノズルの構造では、ばね座の配置ばらつきや、スプリングのばね特性のばらつきなどによって、噴射ノズルの開弁圧にばらつきが生じるという課題がある。
【0007】
本発明は、前記事情に鑑みて為されたもので、製造段階において開弁圧を精度良く調整することのできる噴射ノズルを有する燃料噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、内燃機関の吸気通路内に燃料を噴射する燃料噴射装置であって、ボデーと、このボデー内に設けられて前記燃料を吸引圧送するプランジャポンプと、前記ボデーに設けられて前記燃料を噴射する噴射ノズルとを備え、前記噴射ノズルは、噴射口が形成されたノズルボデーと、前記噴射口を開閉する弁体と、この弁体が前記噴射口を閉じるようにこの弁体を付勢するばねとを備え、前記弁体は、弁部が設けられたバルブ軸と、前記ばねが係止される係止部を備えるとともに前記バルブ軸を保持するリテーナとを備え、前記リテーナに前記バルブ軸が挿入される挿入孔が設けられ、この挿入孔に縮径部が設けられ、この縮径部に前記バルブ軸が圧入された後固着されていることを特徴とする。
【0009】
この請求項1に記載の発明においては、製造段階において、リテーナにバルブ軸を徐々に圧入していく処理と、開弁圧を確認する処理とを繰り返していくことで、所定の開弁圧が得られるバルブ軸の位置を決定することができる。このバルブ軸の位置調整の際には、リテーナの縮径部によってバルブ軸が保持される。そして、所定の開弁圧が得られる位置が決まったら、リテーナとバルブ軸とが固着されて、バルブ軸が完全に脱落しないようにされる。リテーナやバルブ軸の長さに誤差があったり、ばねの特性にばらつきがあったりしても、上記の調整処理が行われることで、所定の開弁圧で燃料が噴射されるようになる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記バルブ軸の挿入側の先端部には、先端が小径のテーパ部が設けられていることを特徴とする。
【0011】
この請求項2に記載の発明においては、バルブ軸をリテーナに挿入する際、バルブ軸のテーパ部がリテーナの縮径部を徐々に押し広げていくようにされ、このテーパ部によってリテーナによるバルブ軸の仮固定が強固なものとなる。そのため、位置調整中にバルブ軸がリテーナから脱落してしまうことが確実に防止される。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記バルブ軸の前記テーパ部の終端は、前記リテーナの前記縮径部に位置していることを特徴とする。
【0013】
この請求項3に記載の発明においては、リテーナの縮径部がバルブ軸のテーパ部によって完全に押し広げられてしまう前の段階で、バルブ軸の位置調整が完了していることになる。バルブ軸の位置調整時において、バルブ軸の挿入量が長くなって、バルブ軸のテーパ部によってリテーナの縮径部が完全に押し広げられてしまうと、縮径部によるバルブ軸の仮固定力が弱まり、開弁圧の高精度な調整の妨げとなる可能性がある。しかしながら、その前の段階で、バルブ軸の位置調整が完了しているので、開弁圧の正確な調整が達成されていることになる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、バルブ軸の長さやばね特性にばらつきがあっても、噴射ノズルの開弁圧がばらつきなく所定の圧力に調整された燃料噴射装置を提供することができる。それゆえ、この燃料噴射装置を搭載した内燃機関において燃料の噴射流量の精度が向上して、排ガス濃度をより低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る燃料噴射装置を示す図であって、断面図である。
【図2】同、燃料噴射装置の噴射バルブを示す断面図である。
【図3】バルブ軸の挿入側の部位とリテーナとを示す拡大断面図である。
【図4】バルブ軸をリテーナに圧入する際のストロークと荷重との関係を示すグラフであって、(a)はバルブ軸の先端にテーパ部が形成された本実施形態のグラフ、(b)はバルブ軸の先端にテーパを設けていない場合のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る燃料噴射装置の断面図である。この燃料噴射装置は、電子制御によって内燃機関の吸気通路へ燃料を噴射する電磁式高圧噴射型の燃料噴射装置である。この燃料噴射装置は、ケーシング11と、燃料を吸入するインレットチェックバルブ21と、燃料を圧送するプランジャポンプ31と、燃料を噴射する噴射バルブ41と、圧送室80の余剰の燃料を燃料タンクへ戻すためのスピルバルブ71とを備えている。
【0017】
プランジャポンプ31は、電磁コイル32と、電磁コイル32の磁力によって図1の下方に駆動されるアマチャ(可変磁気片)33と、アマチャ33を押し戻すリターンスプリング34と、アマチャ33に接続されて圧送室80内を摺動するプランジャ35を備え、電子的な制御によってプランジャ35を動かして圧送室80に燃料を吸引したり、燃料を圧縮して噴射バルブ41へ送ったりする。
【0018】
インレットチェックバルブ21は、弁体22と、圧送室80および燃料供給通路20の両方に開口した弁室23と、弁体22の位置を戻すためのリターンスプリング24とを備えている。そして、プランジャ35が圧送室80を圧縮する際には、弁体22が弁室23の開口を塞いで燃料を通さないが、プランジャ35がリターンスプリング34により戻されて圧送室80が負圧になった際に弁体22が移動して燃料供給通路20から圧送室80へ燃料が吸入されるように動作する。
【0019】
スピルバルブ71は、弁体72と、圧送室80および燃料の戻し通路70との両方に開口した弁室73と、弁体72の位置を戻すためのリターンスプリング73とを備えている。そして、プランジャ35がリターンスプリング34により戻されて圧送室80が負圧にされた際には弁体72が弁室73の開口を塞いで燃料を通さないが、プランジャ35が圧送室80の圧縮を開始した直後の期間に弁体72が移動して余剰の燃料が戻し通路70へ送られるように動作する。
【0020】
図2は、噴射バルブ41の断面図である。噴射バルブ41は、圧送室80側のバルブ51と、燃料を噴射する噴射ノズル61とを備え、第1のボデー52と、第2のボデー62とによって弁室45が密閉状態に覆われて構成される。これら第1のボデー52と第2のボデー62とは別体に構成され、互いに嵌合されて固着されている。
【0021】
圧送室80側のバルブ51は、第1のボデー52に形成された開口部52aと、球状の弁体53と、この弁体53を弁室45から開口部52aの方へ押しつけるリターンスプリング54と、リターンスプリング54を弁室45内で保持する保持枠55とを備えている。保持枠55には、燃料を通過させる貫通孔55aが設けられている。そして、プランジャ35が燃料の吸入されている圧送室80を圧縮したときに、弁体53が押されて開口部52aが開き、この開口部52aから弁室45へ燃料を流入させるように動作する。
【0022】
噴射ノズル61は、第2のボデー62に形成された噴射口62aと、噴射口62aを開閉する一方に長い弁体63と、弁体63を引き戻して噴射口62aを塞ぐ方向に付勢するリターンスプリング67とを備えている。弁体63は、噴射口62aに接触して噴射口62aを実際に開閉する一方に長い軸形状のバルブ軸64と、バルブ軸64の一端側を保持するようにバルブ軸64と固着されるリテーナ65とから構成される。バルブ軸64とリテーナ65とは力を加えることで塑性変形する金属により形成されている。
【0023】
噴射口62aは、噴射端に近づくに従って孔径が大きくなるテーパ形状にされている。バルブ軸64は、噴射口62aの上記形状に対応して、噴射側に先端が大径となる弁部64aが形成されている。そして、このバルブ軸64が噴射口62aに通されて引き上げられることで噴射口62aが塞がれる一方、バルブ軸64が押し下げられることで噴射口62aが開いて弁室45の燃料が噴射される。
【0024】
図3は、バルブ軸64の挿入側の部位とリテーナ65とを示している。バルブ軸64は、上記の弁部64aに加えて、同一径で所定の長さを有する胴部64bと、リテーナ65への挿入側(図3の上側)に形成されて先端が徐々に小径となるテーパ部64cとを備えている。少なくとも胴部64bとテーパ部64cとは一体的な構成である。
【0025】
リテーナ65は、中央に貫通孔を有する筒状の部材であり、軸方向の中央から下端(バルブ軸64側)にかけてほぼ同一径にされた胴部65bと、径が大きくされてリターンスプリング67を係止する部分が形成された上端側のばね座部65aとを有している。胴部65bの孔径は、バルブ軸64の軸径とほぼ同等に形成されている。
【0026】
また、リテーナ65の胴部65bには、孔径をバルブ軸64よりわずかに小さくするために、三方(例えば周方向に120°の間隔を開けた三方)から中心側へ向けてプレスされた縮径部65cが形成されている。なお、この縮径部65cは、孔径がバルブ軸64の軸径よりもわずかに小さくされれば、その形成方法は特に制限されるものでない。この縮径部65cは、バルブ軸64の軸方向に一定長の範囲にわたって形成されている。この縮径部65cは、バルブ軸64をリテーナ65に圧入して位置決めされる際に、そのテーパ部64cの終端(胴部64bの始端)が位置する範囲を含むように形成されている。
【0027】
バルブ軸64は、テーパ部64cの側からリテーナ65に圧入されて位置調整された後、溶接等によりリテーナ65に固着されている。このときテーパ部64cの終端は縮径部65cの形成範囲に配置されている。
【0028】
本実施形態の燃料噴射装置においては、次のようにして、製造段階に噴射バルブ41の弁体63の開弁圧の調整が行われる。すなわち、噴射バルブ41の第1のボデー52と第2のボデー62とが分離している段階で、第2のボデー62の噴射口62aにバルブ軸64が通されて、第2のボデー62の内側でバルブ軸64がリテーナ65に徐々に圧入される。このとき、リターンスプリング67は第2のボデー62とリテーナ65との間に配設された状態にされる。また、第1のボデー52は外され、外部からリテーナ65を把持可能な状態にされる。
【0029】
そして、バルブ軸64をリテーナ65に圧入する量(ストローク)を徐々に増していくとともに、各段階で噴射ノズル61の開弁圧の確認を行うことで、この開弁圧が所定値になるように調整する。開弁圧の確認は、弁が開く圧力を計測したり、実際に弁室45に液体を圧送して所定の噴射がなされるか測定することで行うことができる。この開弁圧の確認の処理の際、バルブ軸64とリテーナ65との間にはリターンスプリング67の作用によって互いを引き離す方向に力が掛けられるが、リテーナ65の縮径部65cとバルブ軸64のテーパ部64cの作用によって、両者は強固に仮固定されて、リテーナ65かバルブ軸64が脱落してしまうことが防止される。なお、通常は所定の圧入荷重で圧入することで目標の開弁圧に収まるが、微調整が必要なものも数個に1個程度は生じる。
【0030】
図4は、バルブ軸64をリテーナ65に圧入する際のストロークと荷重との関係を示している。同図(a)はテーパ部64cの形成された本実施形態の関係グラフ、(b)はテーパ部64cのない挿入側が同一径にされたバルブ軸64Pの関係グラフである。図4(b)に示すように、テーパ部が形成されていないバルブ軸64Pでは、バルブ軸64Pの先端がリテーナ65の縮径部65cに差し掛かる際に大きな荷重がかかるが、それ以後のストロークでは圧入時の荷重は低下し、縮径部65cを通りすぎるとこの荷重が大きく低下する。図4(b)においては、矢印L2によりバルブ軸64Pの先端とリテーナ65の縮径部65cとが重なるストローク範囲を示している。圧入する際の荷重の低下はバルブ軸64Pをリテーナ65から引き抜く際の荷重の低下を意味し、それゆえ、このバルブ軸64Pとリテーナ65とでは両者を仮固定する一定の強度が得られにくいことが分かる。
【0031】
一方、図4(a)に示すように、バルブ軸64の先端にテーパ部64cか形成されていると、このテーパ部64cの終端がリテーナ65の縮径部65cと重なるストローク範囲L2において、圧入時にほぼ一定の大きな荷重がかかる。これは縮径部65cがバルブ軸64のテーパ部64cにより徐々に押し広げられていき、テーパ部64cの一定の範囲が縮径部65cに圧接しているためである。それゆえ、テーパ部64cの終端が縮径部65cに差し掛かっている範囲においては、バルブ軸64とリテーナ65との強固な仮固定が実現されることが分かる。
【0032】
そして、バルブ軸64の位置調整において、所定の開弁圧が得られる位置までバルブ軸64を圧入したら、その時点でバルブ軸64とリテーナ65とを溶接等により固着して、噴射ノズル61の組み立てが完了する。溶接は、例えばリテーナ65の貫通孔の一方側からレーザや溶接機の電極を差し入れて行うことができる。
【0033】
本実施形態の燃料噴射装置にあっては、上記のように、バルブ軸64による開弁圧が調整されて製造されているので、バルブ軸64やリテーナ65の長さ、および、リターンスプリング67のばね特性にばらつきがあっても、噴射ノズル61の開弁圧をばらつきなく所定の圧力にすることができる。したがって、燃料噴射装置による燃料の噴射流量の精度が向上して、内燃機関の排出ガス濃度のさらなる低減を図ることができる。
【0034】
なお、上述の実施形態では、リテーナとしてばね座部の部分を大径にした筒形状の部材を示したが、ばね座部の部分はリテーナの一部にフランジを形成して設けるようにしてもよい。また、リテーナのバルブ軸が挿入される孔は上端側に貫通せずに、リテーナの上端側が塞がれた形態にしても良い。また、上述の実施形態では、噴射ノズル61が燃料の圧力によって噴射口62aが開かれる構成としたが、例えば電子制御に基づき電磁力によって噴射口が開かれる形式の噴射ノズルとしてもよい。また、本発明の燃料噴射装置によって燃料を内燃機関に直接に噴射するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0035】
41 噴射バルブ
61 噴射ノズル
62 第2のボデー
62a 噴射口
63 弁体
64 バルブ軸
64a 弁部
64b 胴部
64c テーパ部
65 リテーナ
65a ばね座部
65b 胴部
65c 縮径部
67 リターンスプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の吸気通路内に燃料を噴射する燃料噴射装置であって、
ボデーと、このボデー内に設けられて前記燃料を吸引圧送するプランジャポンプと、前記ボデーに設けられて前記燃料を噴射する噴射ノズルとを備え、
前記噴射ノズルは、噴射口が形成されたノズルボデーと、前記噴射口を開閉する弁体と、この弁体が前記噴射口を閉じるようにこの弁体を付勢するばねとを備え、
前記弁体は、弁部が設けられたバルブ軸と、前記ばねが係止される係止部を備えるとともに前記バルブ軸を保持するリテーナとを備え、
前記リテーナに前記バルブ軸が挿入される挿入孔が設けられ、この挿入孔に縮径部が設けられ、この縮径部に前記バルブ軸が圧入された後固着されていることを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項2】
前記バルブ軸の挿入側の先端部には、先端が小径のテーパ部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の燃料噴射装置。
【請求項3】
前記バルブ軸の前記テーパ部の終端は、前記リテーナの前記縮径部に位置していることを特徴とする請求項2に記載の燃料噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−246766(P2012−246766A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116509(P2011−116509)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(000177612)株式会社ミクニ (332)
【Fターム(参考)】