説明

燃料用ホース

【課題】燃料低透過性に優れ、低温性、柔軟性、耐加水分解性、耐候性および耐オゾン性にも優れる燃料用ホースを提供する。
【解決手段】内層1と、燃料低透過層2と、外層3とを備え、内層1が下記の(A)を用いて構成され、燃料低透過層2が下記の(B)を用いて構成され、外層3が下記の(C)を用いて構成されている。(A)エラストマー成分のアロイまたは共重合により柔軟化されたポリエステル系樹脂。(B)ポリブチレンナフタレート(PBN)およびポリブチレンテレフタレート(PBT)の少なくとも一方のポリエステル系樹脂。(C)ポリブチレンテレフタレート(PBT)に、コアシェル構造を有するポリマー微粒子、エチレン−アクリルゴム(AEM)およびスチレン−イソブチレンブロック共重合体からなる群から選ばれた少なくとも一つをブレンドしてなるポリマーであって、曲げ弾性率が350〜650MPaのポリマー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の燃料(ガソリン、アルコール混合ガソリン、ディーゼル燃料、水素、ジメチルエーテル、LPG、CNG等)の輸送等に用いられる燃料用ホースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車を取り巻く燃料ガスの蒸散規制は厳しくなってきており、これに対応する低透過な燃料用ホースが各種検討されている。このような燃料用ホースとしては、従来はフッ素樹脂製のホースであったが、材料コストが高くつくことから、近年では、安価なポリエステル樹脂製のホースの開発が推し進められている。例えば、燃料低透過性等に優れたポリブチレンナフタレート(PBN)やポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル系樹脂を用いて構成されたホースである。しかしながら、PBNやPBT等のポリエステル系樹脂は、剛性が高く、このポリエステル系樹脂のみを用いて単層構造のホースとした場合、そのホースは柔軟性に劣るものとなる。そのため、上記ポリエステル系樹脂層の厚みを薄くし、熱可塑性樹脂層との積層構造にするのが一般的である。
【0003】
しかしながら、上記PBNやPBTといったポリエステル系樹脂は、他の材料との接着性が悪いため、通常、上記ポリエステル系樹脂層と上記熱可塑性樹脂層との積層化には、その両層の界面に接着剤層を設ける必要がある。したがって、この場合、上記接着剤層の分だけ製造工程が複雑化する等の問題がある。このような問題を解消したものとして、例えば、上記PBNやPBT等のポリエステル系樹脂層と、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPEE)層とを積層形成してなるホースがある。すなわち、上記両層は、同じポリエステル系材料であるため、例えばその両層を共押出し成形等することにより、両層を接着剤レスで積層接着することができる。このようなホースの一例としては、例えば、その内側から順に、TPEE層/ポリエステル系樹脂層/TPEE層が積層されてなる三層構造のホースであって、その外層となるTPEE層が、ホース全体の柔軟化および耐加水分解性の向上を主たる目的とし、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)を共重合したTPEE(例えば、東レ・デュポン社製のハイトレル5577)によって形成されたものが既に提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−287165公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載のホースにおいて、その外層は、上述のようにPTMG共重合TPEEによって形成されており、通常のTPEEからなる外層と比べると、柔軟性や低温性(低温柔軟性)に優れ、かつ耐加水分解性にも優れるといった利点を有する。しかしながら、上記外層は、透水性が高い。そのため、上記外層を透過した水分が、その下のポリエステル系樹脂層(PBN層やPBT層)に吸収されると、そのポリエステル系樹脂層が加水分解されて脆くなる。そして、ホースの折り曲げ等により、その脆くなったポリエステル系樹脂層を起点とし、ホース折れを引き起こすおそれがある。また、上記特許文献1に記載のホースは、その外層におけるPTMGに含まれるエーテル基の結合エネルギーが低く紫外線やオゾンに冒されやすく、そのため、耐候性および耐オゾン性といった物性に懸念がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、燃料低透過性に優れ、低温性、柔軟性、耐加水分解性、耐候性および耐オゾン性にも優れる燃料用ホースの提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明は、燃料を流通させる管状の内層と、その外周面に接して設けられる燃料低透過層と、さらにその外周面に設けられる外層とを備え、上記内層が下記の(A)を用いて構成され、上記燃料低透過層が下記の(B)を用いて構成され、かつ、上記外層が下記の(C)を用いて構成されている燃料用ホースを第一の要旨とする。
(A)エラストマー成分のアロイまたは共重合により柔軟化されたポリエステル系樹脂。
(B)ポリブチレンナフタレート(PBN)およびポリブチレンテレフタレート(PBT)の少なくとも一方のポリエステル系樹脂。
(C)ポリブチレンテレフタレート(PBT)に、コアシェル構造を有するポリマー微粒子、エチレン−アクリルゴム(AEM)およびスチレン−イソブチレンブロック共重合体からなる群から選ばれた少なくとも一つをブレンドしてなるポリマーであって、曲げ弾性率が350〜650MPaのポリマー。
【0007】
すなわち、本発明者らは、PBN層やPBT層といった燃料低透過層の外周面を被覆する外層の材料を中心に、研究を重ねた。そして、上記外層を、PBTに、コアシェル構造を有するポリマー微粒子、AEM、スチレン−イソブチレンブロック共重合体といった柔軟成分をブレンドしてなるポリマーを用いて形成したところ、PTMGのような成分を含まないことから、耐候性および耐オゾン性の問題が解消された。また、上記柔軟成分のブレンドにより、所望の柔軟性が得られ、さらに、上記ポリマーの曲げ弾性率を特定範囲内に設定することにより、所望の低温性も得られることを、多数の実験により突き止めた。また、上記のように、そのベースをPBTとすることにより、TPEEベースのものよりも透水性を低くすることができ、さらに上記柔軟成分が低透水性に優れる物性のものであることから、外層の下にある燃料低透過層の加水分解を防ぐことができることを突き止め、本発明に到達した。
【0008】
そして、本発明では、その燃料低透過層(PBN層やPBT層)の内周面に接する層(内層)を、エラストマー成分のアロイまたは共重合により柔軟化されたポリエステル系樹脂〔エラストマーとポリエステル系樹脂とのブレンド物(アロイ)、または、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPEE)〕によって形成している。このように、燃料低透過層の内周面および外周面に接する層が、燃料低透過層と同じポリエステル系材料で形成されるといった構成をとるため、その層間の接着を、接着剤レスで行うことが可能となる。そして、上記構成により、ポリエステルの利点である燃料低透過性を生かし、かつ、耐加水分解性に劣るといったポリエステルのデメリットを解消することができた。
【0009】
他方、本発明は、燃料を流通させる管状の内層と、その外周面に接して設けられる外層とを備え、上記内層が下記の(A)を用いて構成され、かつ、上記外層が下記の(C)を用いて構成されている燃料用ホースを第二の要旨とする。
(A)エラストマー成分のアロイまたは共重合により柔軟化されたポリエステル系樹脂。
(C)ポリブチレンテレフタレート(PBT)に、コアシェル構造を有するポリマー微粒子、エチレン−アクリルゴム(AEM)およびスチレン−イソブチレンブロック共重合体からなる群から選ばれた少なくとも一つをブレンドしてなるポリマーであって、曲げ弾性率が350〜650MPaのポリマー。
【0010】
すなわち、先述のように三層が積層された構成から、燃料低透過層(PBN層やPBT層)を省いた場合、上記三層のものよりも燃料低透過性にはやや劣るようになるが、より柔軟性の高いホースとすることができるため、組み付け性等が重要な場合は、このような構成のほうが有利であることを、本発明者らは突き止めた。そして、このホースも、先述の三層のホースと同様に、その層間の接着を接着剤レスで行うことができ、耐加水分解性等に優れ、実用に耐え得るポリエステルホースとすることができた。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明の燃料用ホースは、エラストマー成分のアロイまたは共重合により柔軟化されたポリエステル系樹脂を用いて構成された管状の内層と、その外周面に接して設けられる燃料低透過層(PBN層やPBT層)と、さらにその外周面に設けられる外層とを備えており、上記外層が、PBTに、コアシェル構造を有するポリマー微粒子、AEM、スチレン−イソブチレンブロック共重合体といった柔軟成分をブレンドしてなる、曲げ弾性率が特定範囲内のブレンドポリマーを用いて構成されている。そのため、本発明の燃料用ホースは、燃料低透過性に優れ、低温性、柔軟性、耐加水分解性、耐候性および耐オゾン性にも優れる。また、本発明の燃料用ホースは、その層間の接着を接着剤レスで行うことが可能であり、しかも、材料コストが安価であるため、上記のように高性能であるにもかかわらず、低コスト化を達成することができる。
【0012】
また、本発明の燃料用ホースは、エラストマー成分のアロイまたは共重合により柔軟化されたポリエステル系樹脂を用いて構成された管状の内層と、その外周面に接して設けられる外層とを備えており、上記外層が、PBTに、コアシェル構造を有するポリマー微粒子、AEM、スチレン−イソブチレンブロック共重合体といった柔軟成分をブレンドしてなる、曲げ弾性率が特定範囲内のブレンドポリマーを用いて構成されている。そのため、より柔軟性の高いホースとすることができ、組み付け性等が重要な場合において、有用である。また、このホースも、先述の三層のホースと同様に、その層間の接着を接着剤レスで行うことができ、耐加水分解性等に優れ、実用に耐え得るポリエステルホースとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
つぎに、本発明の実施の形態について説明する。
【0014】
本発明の燃料用ホースは、例えば、図1に示すように、燃料を流通させる管状の内層1の外周面に燃料低透過層2が形成され、さらにその外周面に外層3が形成されて構成されている。そして、本発明においては、上記内層1が、エラストマー成分のアロイまたは共重合により柔軟化されたポリエステル系樹脂〔エラストマーとポリエステル系樹脂とのアロイ、または、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPEE)〕を用いて構成され、上記燃料低透過層2が、ポリブチレンナフタレート(PBN)およびポリブチレンテレフタレート(PBT)の少なくとも一方からなるポリエステル系樹脂を用いて構成されている。さらに、上記外層3が、特定のブレンドポリマー、すなわち、PBTに、コアシェル構造を有するポリマー微粒子、エチレン−アクリルゴム(AEM)、スチレン−イソブチレンブロック共重合体といった柔軟成分をブレンドしてなる、曲げ弾性率が特定範囲内のブレンドポリマーを用いて構成されている。
【0015】
上記内層1を構成する、エラストマーとポリエステル系樹脂とのアロイは、特に限定されるものではなく、例えば、変性ポリオレフィンやコアシェル構造を有する柔軟成分(外層3に使用のものと同様のもの)を、PBTやPBNとアロイ化させた柔軟化ポリエステル等があげられる。これらは単独であるいは二種以上併せて用いられる。
【0016】
また、上記内層1を構成するポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPEE)は、特に限定されるものではなく、例えば、ポリブチレンナフタレート系熱可塑性エラストマー(PBN系TPE)、ポリブチレンテレフタレート系熱可塑性エラストマー(PBT系TPE)、ダイマー酸やPTMGを共重合成分とするPBT系TPE等があげられる。これらは単独であるいは二種以上併せて用いられる。
【0017】
なお、上記内層1は、燃料ポンプで発生した静電気をホース外部へ放電して逃がし、静電気による燃料(ガソリン等)への引火等の事故を防止する目的で、その形成材料中に、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、金属粉等の導電剤を配合して、導電化しても差し支えない。
【0018】
上記内層1の外周面に形成される燃料低透過層2は、先に述べたように、ポリブチレンナフタレート(PBN)およびポリブチレンテレフタレート(PBT)の少なくとも一方からなるポリエステル系樹脂を用いて構成されている。したがって、上記PBTやPBNは、単体で用いても、双方のブレンド物を用いてもよい。なお、上記PBTは、例えば、ジメチルテレフタレート(DMT)と、1,4−ブタンジオールとを原料とするDMT法や、テレフタル酸(TPA)と、1,4−ブタンジオールとを原料とする直接重合法等により得ることができる。また、上記PBNは、例えば、2,6−ジメチルナフタレート(DMN)と、1,4−ブタンジオールとを原料とするエステル交換法や、2,6−ナフタレンジカルボン酸と、1,4−ブタンジオールとを原料とする直接重合法等により得ることができる。
【0019】
なお、上記燃料低透過層2も、上記内層1と同様、その形成材料中に、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、金属粉等の導電剤を配合して、導電化しても差し支えない。
【0020】
そして、上記燃料低透過層2の外周面に形成される外層3は、先にも述べたように、特定のブレンドポリマー、すなわち、PBTに、コアシェル構造を有するポリマー微粒子、エチレン−アクリルゴム(AEM)、スチレン−イソブチレンブロック共重合体といった柔軟成分をブレンドしてなる、曲げ弾性率が特定範囲内(350〜650MPa)のブレンドポリマーを用いて構成される。なお、上記ブレンドに用いられる柔軟成分は、単独であるいは二種以上併せて用いられる。上記ブレンドポリマーの曲げ弾性率は、ISO 178に準じて測定される。
【0021】
上記ブレンドポリマーは、通常、そのベースとなるPBTからなる海相(マトリクス)中に、上記特定の柔軟成分からなる島相(ドメイン)が分散された、海島構造のアロイとなっている。
【0022】
ここで、上記ブレンドポリマーに用いられるPBTは、先の燃料低透過層2の材料と同様のものが用いられる。
【0023】
また、上記ブレンドポリマーにおける柔軟成分である、コアシェル構造を有するポリマー微粒子としては、特に限定されるものではなく、例えば、アクリルゴム(ACM)、ジエン系エラストマー、硅素系エラストマー等からなる弾性のコアに、アクリル樹脂、ビニル系ポリマー等からなるシェル層が被覆された構造のものが用いられる。なかでも、アクリルゴム(ACM)からなるコアに、極性官能基を有するアクリル樹脂からなるシェル層が被覆された構造のものが、ベースとなるPBTとの相溶性に優れることから、好ましい。また、上記シェル層を形成するアクリル樹脂の極性官能基としては、特に限定はないが、なかでも、エポキシ基、カルボキシル基を有するアクリル樹脂が、上記相容性の観点において、より好ましく用いることができる。
【0024】
また、上記ブレンドポリマーにおける柔軟成分に、エチレン−アクリルゴム(AEM)を用いることもできる。上記エチレン−アクリルゴム(AEM)としては、例えば、エチレンと、アクリル酸エステルと、少量の架橋性モノマーとを重合させたもの等があげられる。また、上記AEMには、必要に応じ、アクリルゴム(ACM)をブレンドしてもよい。上記アクリルゴム(ACM)としては、例えば、エチレンと、酢酸ビニルと、アクリル酸エステルと、少量の架橋性モノマーとを重合させたもの等があげられる。なお、上記アクリル酸エステルとしては、例えば、ブチルアクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等があげられ、これらは単独であるいは二種以上併せて用いられる。また、上記架橋性モノマーとしては、例えば、ブチレンジアクリレート,ブチレンジメタクリレート,トリメチロールプロパン等のポリオールとアクリル酸とのエステル類、ジビニルベンゼン,ビニルアクリレート,ビニルメタクリレート等のビニル化合物、アリルアクリレート,アリルメタクリレート,ジアリルマレート,ジアリルフマレート,ジアリルイタニレート,モノアリルマレート,モノアリルフマレート,トリアリルシアヌレート等のアリル化合物等があげられ、これらも、単独であるいは二種以上併せて用いられる。そして、上記AEMやACMは、少量の加硫剤を用いて溶融混合時に反応・架橋させることで、柔軟性を損なわず、耐熱性や耐油性を向上させることができる。
【0025】
また、上記ブレンドポリマーにおける柔軟成分である、スチレン−イソブチレンブロック共重合体としては、ハードセグメントにポリスチレン(PS)を、ソフトセグメントにポリイソブチレン(PIB)を用いたものであれば特に限定はなく、例えば、スチレン−イソブチレンジブロック共重合体(SIB)や、スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体(SIBS)があげられる。これらのなかでも、強度に優れる点で、SIBSが好適に用いられる。このSIBSとしては、具体的には、カネカ社製のシブスター等があげられる。
【0026】
なお、上記スチレン−イソブチレンブロック共重合体を用いる場合、それに加え、相溶化剤を併用することが好ましい。このように相溶化剤を併用すると、ベースとなるPBTに対し、スチレン−イソブチレンブロック共重合体の分散性が向上するとともに、ホースの伸びが向上するという効果が得られる。
【0027】
上記相溶化剤としては、例えば、エチレン−グリシジルメタクリレート(EGMA)、変性EGMA、エチレン−グリシジルメタクリレート−酢酸ビニル三元共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート−アクリル酸メチル三元共重合体、エチレン−メチルアクリレート共重合体、エチレン−メチルアクリレート−アクリル酸三元共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)、変性EEA、変性エチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸共重合体、エチレン−メタクリレート共重合体、アクリルゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVAc)、変性EVAc、変性ポリプロピレン(PP)、変性ポリエチレン(PE)、エチレン−アクリル酸エステル−無水マレイン酸三元共重合体、エポキシ化スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(エポキシ化SBS)、エポキシ化スチレン−エチレンブテン−スチレンブロック共重合体(エポキシ化SEBS)、酸変性SBS、酸変性SEBS、スチレン−イソプロペニルオキサゾリン共重合体、グリシジルメタクリレート−メチルメタクリレート共重合体、グリシジルメタクリレート−スチレン共重合体、熱可塑性ウレタン等があげられる。これらは単独であるいは二種以上併せて用いられる。
【0028】
上記変性EGMAとしては、例えば、EGMAに、ポリスチレン(PS),ポリメチルメタクリレート(PMMA),アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS),PMMAとブチルアクリレートとの共重合体等をグラフトしたもの等があげられる。
【0029】
また、上記変性EEAとしては、例えば、EEAに、PS,PMMA,AS,PMMAとブチルアクリレートとの共重合体等をグラフトしたものや、無水マレイン酸変性EEA、シラン変性EEA等があげられる。
【0030】
また、上記変性エチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸共重合体としては、例えば、エチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸共重合体に、PS,PMMA,AS,PMMAとブチルアクリレートとの共重合体等をグラフトしたもの等があげられる。
【0031】
また、上記変性EVAcとしては、例えば、EVAcに、PS,PMMA,AS,PMMAとブチルアクリレートとの共重合体等をグラフトしたもの等があげられる。
【0032】
また、上記変性PPとしては、例えば、PPに、PSまたはASをグラフトしたものや、無水マレイン酸変性PP、水酸基変性PP等があげられる。
【0033】
また、上記変性PEとしては、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)に、PS,PMMA,AS,PMMAとブチルアクリレートとの共重合体等をグラフトしたものや、無水マレイン酸変性PE、水酸基変性PE等があげられる。
【0034】
上記外層3形成用のブレンドポリマーは、先に述べたように、その曲げ弾性率を350〜650MPaの範囲内に設定することを要する。好ましくは、曲げ弾性率400〜500MPaの範囲内である。すなわち、このような範囲に設定することにより、低温性、耐加水分解性等のバランスに優れるようになり、本発明に要求されるホース性能を発揮することができるようになるからである。そして、このような範囲に曲げ弾性率を設定するための、PBTに対する上記各種の柔軟成分の配合割合は、以下の通りである。すなわち、柔軟成分としてコアシェル構造を有するポリマー微粒子を用いる場合、PBT100重量部(以下「部」と略す)に対して、柔軟成分を70〜120部の範囲内で配合することが好ましい。また、柔軟成分としてACMを用いる場合、PBT100部に対して、柔軟成分を30〜100部の範囲内で配合することが好ましい。さらに、柔軟成分としてスチレン−イソブチレンブロック共重合体を用いる場合、PBT100部に対して、柔軟成分を50〜400部の範囲内で配合し相容化剤を5〜20部の割合で配合することが好ましい。
【0035】
なお、上記外層3も、上記内層1や燃料低透過層2と同様、その形成材料中に、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、金属粉等の導電剤を配合して、導電化しても差し支えない。
【0036】
ここで、本発明の燃料用ホースは、例えば、つぎのようにして製造することができる。すなわち、まず、前記の、内層1用材料と、燃料低透過層2用材料と、外層3用材料とを準備し、それぞれ、混練等し、各層形成用の組成物に調製する。ついで、これらを、押出し成形機を用いて三層同時押出し成形をし、真空サイジング等でサイジングと同時に、冷却水槽中で冷却固化することにより、目的とする燃料用ホース(図1参照)を作製することができる。また、上記燃料用ホース作製時において、必要に応じ、その燃料低透過層2用材料と、外層3用材料との間に、上記内層1用材料に用い得る材料(エラストマーとポリエステル系樹脂とのアロイ、または、ポリエステル系熱可塑性エラストマーであって、上記内層1用材料と同じであっても異なっていてもよい)を押出し成形機を用いて押出し成形(四層同時押出し成形)をし、四層構造の燃料用ホースとなるよう製造してもよい。なお、このようにして得られる本発明の燃料用ホース(三層ないし四層構造のホース)は、コルゲータを用いて、ホースの少なくとも一部に蛇腹構造を形成した構造であっても差し支えない。
【0037】
なお、上記の製法においては、ホースの各層の成形を、同時押出し(共押出し成形)によって行う方法について説明したが、これに限定するものではなく、例えば、マンドレルを用いてマンドレル上に内層1を押出し成形した後、この内層1の外周面に、燃料低透過層2、外層3等を、順次、押出し成形しても差し支えない。
【0038】
このようにして得られる本発明の燃料用ホース各層の厚みは、その内層1の厚みが、通常、0.01〜0.5mmであり、好ましくは0.1〜0.4mmである。上記燃料低透過層2の厚みは、通常、0.01〜0.5mmであり、好ましくは0.05〜0.4mmである。また、上記外層3の厚みは、通常、0.1〜3mmであり、好ましくは0.3〜1mmである。なお、上記燃料低透過層2と外層3との間に必要に応じ設けられる層の厚みは、通常、0.01〜0.5mmであり、好ましくは0.1〜0.4mmである。そして、本発明の燃料用ホースの内径は、通常、3〜60mmであり、好ましくは4〜40mmである。
【0039】
本発明の燃料用ホースにおいて、内層1の曲げ弾性率は400〜2000MPaの範囲内が好ましく、特に好ましくは450〜1500MPaの範囲内である。また、燃料低透過層2の曲げ弾性率は1400〜2400MPaの範囲内が好ましく、特に好ましくは1400〜2100MPaの範囲内である。また、外層3の曲げ弾性率は350〜650MPaの範囲内であり、好ましくは400〜500MPaの範囲内である。なお、上記曲げ弾性率は、ISO 178に準拠して測定した値を示す。
【0040】
なお、本発明の燃料用ホースは、図1に示したような三層構造に限定されるものではなく、先に述べたように、燃料低透過層2と外層3との間に、内層1用材料に用い得る材料(エラストマーとポリエステル系樹脂とのアロイ、または、ポリエステル系熱可塑性エラストマーであって、内層1用材料と同じであっても異なっていてもよい)を用いて構成された層を備えた、四層構造の燃料用ホースであってもよい。このような構成とすることにより、積層体の強度が上がり、大口径ホースとした際の耐圧向上性に、より優れるようになる。さらに、本発明の燃料用ホースの外周面には、必要に応じ、ワイヤーメッシュや補強糸層を設けたりしても差し支えない。
【0041】
また、図1のような三層構造から、燃料低透過層2を省き、内層1に直接上記外層3を積層し二層構造とした場合、上記三層のものよりも燃料低透過性にはやや劣るようになるが、より柔軟性の高いホースとすることができる。そのため、さほどバリア性能は必要でないが、組み付け性等が重要な場合は、このような構成のほうが有利である。そして、このホースも、図1の三層のホースと同様にして製造することができ、また、図1の三層のホースと同様に、その層間の接着を接着剤レスで行うことができ、耐加水分解性等に優れ、実用に耐え得るポリエステルホースとすることができる。
【0042】
なお、上記二層構造のホースの外周面にも、必要に応じ、ワイヤーメッシュや補強糸層を設けたりしても差し支えない。
【実施例】
【0043】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0044】
まず、実施例および比較例に先立ち、下記に示す材料を準備した。
【0045】
〔変性ポリオレフィンアロイPBT〕
EMSケミー社製、グリルペットB24HNZ( 曲げ弾性率:1490MPa)
【0046】
〔熱可塑性PBN系エラストマー〕
東洋紡社製、ペルプレンEN5030( 曲げ弾性率:480MPa)
【0047】
〔PBT樹脂〕
ポリプラスチックス社製、ジュラネックス700FP(曲げ弾性率:2030MPa)
【0048】
〔PBN樹脂〕
帝人化成社製PBN樹脂TQB−OT( 曲げ弾性率:1900MPa)
【0049】
〔カーボンブラック〕
旭カーボン社製、旭サーマル
【0050】
〔コアシェル微粒子(i)〕
ガンツ化成社製、IM−203
【0051】
〔コアシェル微粒子(ii)〕
ガンツ化成社製、IM−301
【0052】
〔AEMポリマー〕
VAMAC G、デュポン社製
【0053】
〔加硫剤〕
ダイアック#1、デュポン社製
【0054】
〔スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体(SIBS)〕
カネカ社製、シブスター103T−U
【0055】
〔相溶化剤〕
エポキシ化SBS(ダイセル化学工業社製、エポフレンドAT501)
【0056】
〔実施例1〜9、比較例1〜3〕
まず、下記の表1に示す材料をそれぞれ準備し、外層用材料a、 b、d、eおよびgは、これらを同表に示す割合で混合・攪拌し、2軸押出機にて溶融混合およびペレット化し調製した。外層用材料cおよびfは、AEMポリマーと加硫剤およびカーボンブラックをニーダーで混合し、ロールにてリボン状に成形した。さらに、リボン状の混合物を2軸押出機の付帯設備であるサイドフィーダーを用いPBT樹脂と2軸押出機にて溶融混合およびペレット化し、調製した。なお、これらの材料をインジェクション成形し、曲げ弾性率(MPa)を、ISO178に準じて測定した。また、これらの材料をシート状に押出し成形し、それを冷却固化することにより得られるシート(厚み0.3mm)の物性(伸び、透水率)についても、同表に併せて示した。上記伸び(%)は、ASTMD 638に準じて測定される。上記透水性は、カップ式試験治具を用い、80℃温度下で測定される。すなわち、カップ式試験治具(内径66mm、内容積135cm3 、透過面積34.2cm2 )を準備し、このカップ式試験治具に純水100cm3 を充填し、ブチルゴムパッキンを介し、試料シートで蓋をした。そして、天地逆さまにして、純水と試料シートが接するようにし、80℃温度下で重量変化を時間とともにプロットし、その傾きにより、透過係数〔(mg・mm)/(cm2 ・day)〕を算出した。
【0057】
【表1】

【0058】
つぎに、上記外層用材料a〜gとともに、内層用材料および燃料低透過層用材料として、後記の表2および表3に示す材料をそれぞれ準備した。ついで、これら内層用材料、燃料低透過層用材料および外層用材料を、押出し機を用いて同時押出し成形し、冷却水槽中で冷却固化することにより、内層(厚み0.3mm)の外周面に燃料低透過層(厚み0.2mm)が形成され、さらにその外周面に外層(厚み0.5mm)が形成されてなる、実施例および比較例の燃料用ホース(内径6mm)を作製した。なお、実施例6では、上記燃料低透過層の形成を行ってない。また、実施例8では、PBTペレットとPBNペレットを各50wt%ドライブレンドしたものを燃料低透過層用材料としており、それ以外は、実施例1と同様にし、ホースの作製を行った。また、実施例9では、燃料低透過層と外層との間に、さらに変性ポリオレフィンアロイPBT層を形成し、四層構造のものとした。すなわち、実施例9では、四層押出し機を用い、冷却水槽中で冷却固化することにより、内層(厚み0.3mm)の外周面に燃料低透過層(厚み0.1 mm)が形成され、燃料低透過層の外周面に変性ポリオレフィンアロイPBT(EMSケミー社製、グリルペットB24HNZ)からなる厚み0.2mmの層が形成され、さらにその外周面に外層(厚み0.4mm)が形成されてなる、四層構造の燃料用ホース(内径6mm)を作製した。
【0059】
このようにして得られた実施例および比較例の各ホースを用いて、下記の基準に従い、各特性の評価を行った。これらの結果を、後記の表2および表3に併せて示した。
【0060】
〔耐加水分解性〕
各ホースを、温度80℃、湿度95%の条件下において3000時間放置した。その後、上記ホースを−40℃まで冷却し、それを180°に折り曲げ、折れ等の異常が生じるか否かを、目視により観察した。その結果、折れ等の異常がみられたものを×、折れ等の異常がみられなかったものを○として、耐加水分解性の評価を行った。
【0061】
〔低温柔軟性〕
各ホースを、−40℃にて4時間冷却した後、180°に折り曲げ、低温柔軟性の評価を行った。評価は、ホース内面割れや、外面亀裂等の異常が生じたものを×、ホースに異常が生じなかったものを○とした。
【0062】
【表2】

【0063】
【表3】

【0064】
上記結果から、全実施例品は、その外層用材料に、特定のブレンドポリマー、すなわち、PBTに、コアシェル構造を有するポリマー微粒子、エチレン−アクリルゴム(AEM)、スチレン−イソブチレンブロック共重合体といった柔軟成分をブレンドしてなる、曲げ弾性率が特定範囲内(350〜650MPa)のブレンドポリマーを用いているため、低透水性等に優れ、さらに、ホースの低温柔軟性や耐加水分解性にも優れる。
【0065】
これに対して、比較例1〜3品は、外層用材料に、上記ブレンドポリマーと同様の材料を用いているが、その曲げ弾性率が本発明の規定を満たしておらず、そのため、低透水性、低温柔軟性、耐加水分解性等のバランスに劣り、所望のホース性能を発揮し得ないものであることがわかる。比較例3品ついては、PBT樹脂との接着性が乏しく補強効果が得られず低温柔軟性に劣るものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の燃料用ホースは、主に、自動車用の燃料用ホースに好適に用いられるが、トラクター、耕運機等にも用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の燃料用ホースの一例を示す構成図である。
【符号の説明】
【0068】
1 内層
2 燃料低透過層
3 外層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料を流通させる管状の内層と、その外周面に接して設けられる燃料低透過層と、さらにその外周面に設けられる外層とを備え、上記内層が下記の(A)を用いて構成され、上記燃料低透過層が下記の(B)を用いて構成され、かつ、上記外層が下記の(C)を用いて構成されていることを特徴とする燃料用ホース。
(A)エラストマー成分のアロイまたは共重合により柔軟化されたポリエステル系樹脂。
(B)ポリブチレンナフタレート(PBN)およびポリブチレンテレフタレート(PBT)の少なくとも一方のポリエステル系樹脂。
(C)ポリブチレンテレフタレート(PBT)に、コアシェル構造を有するポリマー微粒子、エチレン−アクリルゴム(AEM)およびスチレン−イソブチレンブロック共重合体からなる群から選ばれた少なくとも一つをブレンドしてなるポリマーであって、曲げ弾性率が350〜650MPaのポリマー。
【請求項2】
上記燃料低透過層と、上記外層との間に、上記(A)を用いて構成された層を備えている請求項1記載の燃料用ホース。
【請求項3】
燃料を流通させる管状の内層と、その外周面に接して設けられる外層とを備え、上記内層が下記の(A)を用いて構成され、かつ、上記外層が下記の(C)を用いて構成されていることを特徴とする燃料用ホース。
(A)エラストマー成分のアロイまたは共重合により柔軟化されたポリエステル系樹脂。
(C)ポリブチレンテレフタレート(PBT)に、コアシェル構造を有するポリマー微粒子、エチレン−アクリルゴム(AEM)およびスチレン−イソブチレンブロック共重合体からなる群から選ばれた少なくとも一つをブレンドしてなるポリマーであって、曲げ弾性率が350〜650MPaのポリマー。
【請求項4】
上記(C)成分の、コアシェル構造を有するポリマー微粒子が、アクリルゴム(ACM)からなるコアに、極性官能基を有するアクリル樹脂からなるシェル層が被覆された構造となっている請求項1〜3のいずれか一項に記載の燃料用ホース。

【図1】
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【公開番号】特開2007−261078(P2007−261078A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−89072(P2006−89072)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】