説明

燃料蒸気に対する耐食性を有するパイプ製造用めっき鋼板、そのめっき鋼板を用いたパイプおよび給油パイプ

【課題】ガソリン、軽油、バイオエタノール、バイオディーゼル燃料などの燃料蒸気に対する耐食性を有するパイプ製造用めっき鋼板、パイプの提供。
【解決手段】鋼板の表面に、Zn、Co、およびMoを含有するめっき層と、Fe−Ni拡散層と、その間に軟質化されたNi層が形成されているパイプ製造用めっき鋼板。
鋼板からなるパイプの内面に、Zn、Co、およびMoを含有するめっき層と、その下にFe−Ni拡散層と、それらの間に軟質化されたNi層が形成されているパイプ及び給油パイプ。
燃料を燃料タンクに給油するための鋼板からなる給油パイプであって、燃料が通過する太径パイプ部と、太径パイプ部の上部と下部とを通気する細径パイプ部と、を有し、少なくとも前記太径パイプ部の内面に、Zn、Co、およびMoを含有するめっき層を有しており、その下に前記Fe−Ni拡散層が形成された給油パイプ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料蒸気に対して耐食性を有する表面処理鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、温室効果ガス削減のため、カーボンニュートラルとされるバイオエタノールをガソリンに混合したいわゆるバイオエタノール混合ガソリンを使用する動きが活発化している。しかしながら、ガソリンにエタノールを添加すると、ガソリンが吸湿しやすくなり、燃料タンク内に水が混入することが考えられる。
さらに、エタノール混合ガソリンを長期間放置したままであると、ガソリンが劣化しガソリン内に有機酸が形成される。
このように、吸湿状態とガソリンの劣化が発生した場合、エタノールは水とガソリンの両方に混合できるため、ガソリン内部に水と有機酸が含まれた状態になり、ガソリン表面から水と有機酸の混合物が気化することがある。
その場合には、通常は腐食性の殆ど無いガソリン蒸気にしか接触しないパイプの内面が、強い腐食環境下にさらされる。
よって、バイオエタノール混合ガソリンの雰囲気下に置かれるパイプにも、腐食環境を想定した耐食性が求められる。
これらの腐食環境に対応するものとして、例えば、特許文献1には、めっき付着量が10〜70g/m、Sn−1〜50%ZnであるSn−Zn合金めっき面に、付着量がCr換算で100mg/m以下であるクロム酸、シリカ、無機リン酸や有機リン酸からなるクロメート被膜を処理、或いは更に有機樹脂を含有した樹脂クロメート被膜を処理した鋼板を用い、フランジを有する一対の椀型成型体のフランジ部を連続的にシーム溶接して一体とした耐食性に優れた自動車用燃料容器が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−17450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1記載の自動車用燃料容器に用いられる素材は、ガソリンなどの自動車用燃料に浸漬され、直接自動車燃料と接触する燃料タンクのような部分の耐食性であり、蒸気に対する耐食性ではない。
例えば給油パイプのように燃料タンクに接続するパイプは、実際の使用環境として、自動車用燃料に直接暴露されることよりも、揮発性の高い自動車燃料の蒸気に暴露されるケースの方が圧倒的に多い。
また、国際的に化石燃料の枯渇化が深刻化しており、バイオエタノールやバイオディーゼル燃料などの普及が広まっている。
このように、従来の自動車燃料であるガソリン、軽油に加え、バイオエタノールやバイオディーゼル燃料及びその蒸気の両方に対して十分な特性を有する素材が求められていた。
そこで、本発明の目的は、上記の従来の課題を解決することであり、燃料特にガソリン、軽油、バイオエタノール、又はバイオディーゼル燃料などの燃料蒸気に対して十分な耐食性を有するパイプ製造用めっき鋼板を提供することである。
また、本発明の他の目的は、そのめっき鋼板を用いたパイプを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)本発明のパイプ製造用めっき鋼板は、鋼板の少なくとも片方の表面に、Zn、Co、およびMoを含有するめっき層とその下にFe−Ni拡散層が設けられ、燃料蒸気に対する耐食性を有していることを特徴とする。
(2)本発明のパイプ製造用めっき鋼板は、前記(1)において、Zn、Co、およびMoを含有するめっき層と前記Fe−Ni拡散層との間に、軟質化されたNi層が形成されていることを特徴とする。
(3)本発明のパイプ製造用めっき鋼板は、前記(1)又は(2)において、Zn、Co、およびMoを含有するめっき層の厚みが、1.0〜8.0μmであることを特徴とする。
(4)本発明のパイプ製造用めっき鋼板は、前記(1)〜(3)のいずれかにおいて、燃料が、ガソリン、軽油、バイオエタノール、又はバイオディーゼル燃料を含むことを特徴とする。
(5)本発明のパイプは、鋼板からなるパイプの内面に、Zn、Co、およびMoを含有するめっき層を有しており、その下にFe−Ni拡散層が設けられ、燃料蒸気に対する耐食性を有することを特徴とする。
(6)本発明の給油パイプは、前記(5)において、Zn、Co、およびMoを含有するめっき層とFe−Ni拡散層との間に、軟質化されたNi層が形成されていることを特徴とする。
(7)本発明のパイプは、前記(5)又は(6)において、Zn、Co、およびMoを含有するめっき層の厚みが、1.0〜8.0μmであることを特徴とする。
(8)本発明のパイプは、前記(5)〜(7)のいずれかにおいて、前記燃料が、ガソリン、軽油、バイオエタノール、又はバイオディーゼル燃料を含むことを特徴とする。
(9)本発明の給油パイプは、燃料を燃料タンクに給油するための鋼板からなる給油パイプであって、
燃料が通過する太径パイプ部と、
太径パイプ部の上部と下部とを通気する細径パイプ部と、を有し、
少なくとも前記太径パイプ部の内面に、Zn、Co、およびMoを含有するめっき層を有しており、その下にFe−Ni拡散層が形成され、燃料蒸気に対する耐食性を有することを特徴とする。
(10)本発明の給油パイプは、前記(9)において、Zn、Co、およびMoを含有するめっき層とFe−Ni拡散層との間に、軟質化されたNi層が形成されていることを特徴とする。
(11)本発明の給油パイプは、前記(9)又は(10)において、Zn、Co、およびMoを含有するめっき層の厚みが、1.0〜8.0μmであることを特徴とする。
(12)本発明の給油パイプは、前記(9)〜(11)のいずれかにおいて、燃料が、ガソリン、軽油、バイオエタノール、又はバイオディーゼル燃料を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の、パイプ製造用めっき鋼板、そのめっき鋼板を用いたパイプは、燃料であるガソリン、軽油、バイオエタノール、又はバイオディーゼル燃料などの燃料蒸気に暴露されても、発錆を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明のめっき鋼板の構成を示す概略説明図であり、(a)は基板となる鋼板の両面に、Zn、Co、およびMoを含有するめっき層とその下にFe−Ni拡散層が設けられており、(b)は基板となる鋼板の両面に、Zn、Co、およびMoを含有するめっき層と、Fe−Ni拡散層と、それらの間に軟質化されたNi層が形成されている。
【図2】本発明のめっき鋼板のバイオエタノール混合ガソリンに対する耐食性試験の方法を示す概略説明図である。
【図3】本発明のめっき鋼板を用いた給油パイプの概略説明図であり、(a)は燃料が通過する太径パイプ部と太径パイプ部の上部と下部とを通気する細径パイプ部とを有する給油パイプを示し、(b)は燃料が通過する太径パイプ部と細径パイプ部とが独立して形成されている給油パイプを示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
<鋼板>
パイプ製造用めっき鋼板の原板としては、通常低炭素アルミキルド熱延コイルが用いられる。
また、炭素0.003重量%以下の極低炭素鋼、または更にこれにニオブ、チタンを添加し非時効連続鋳造鋼から製造されたコイルも用いられる。
【0009】
<めっき前処理>
以下に述べるめっきの前処理としては、通常苛性ソーダを主剤としたアルカリ液に電解、または浸漬による脱脂を行い、冷延鋼板表面のスケール(酸化膜)を除去する。除去後、冷間圧延工程にて製品厚みまで圧延する。
【0010】
<焼鈍>
圧延で付着した圧延油を電解洗浄した後、焼鈍する。焼鈍は、連続焼鈍あるいは箱型焼鈍のどちらでもよく特にこだわらない。焼鈍した後、形状修正する。
【0011】
<ニッケルめっき>
焼鈍後の鋼板上に、まずニッケルめっきを施す。
一般に、ニッケルめっき浴としてはワット浴と称される硫酸ニッケル浴が主と用いられるが、この他、スファミン酸浴、ほうフッ化物浴、塩化物浴なども用いることができる。これらの浴を用いてめっきする場合のニッケルめっきの厚みは、1〜3μmの範囲が好ましい。
当該めっき厚みを得るには、代表的なワット浴を用いた場合は、硫酸ニッケル200〜350g/L、塩化ニッケル20〜50g/L、ほう酸20〜50g/Lの浴組成で、pH3.6〜4.6、浴温50〜65℃の浴にて、電流密度5〜50A/dm、クーロン数約900〜3000c/dmの電解条件によって得られる。安定剤として添加するほう酸はクエン酸でもよい。
ここで、ワット浴で形成されるニッケルめっきとしては、ピット抑制剤以外に有機化合物を添加しない無光沢ニッケルめっき、めっき層の析出結晶面を平滑化させたレベリング剤と称する有機化合物を添加した半光沢ニッケルめっき、さらにレベリング剤に加えニッケルめっき結晶組織を微細化することにより光沢を出すための硫黄成分を含有した有機化合物を添加した光沢ニッケルめっきがあるが、本発明においてはすべて用いることができる。
【0012】
<拡散>
次に、ニッケルめっき後、Fe−Ni拡散層を形成するための熱処理を行う。
この熱処理の目的は、ニッケルめっきのままの微細結晶状態を軟化再結晶させ、鋼素地―めっき層の密着性を高めるとともに、熱処理によって形成されるFe−Ni拡散層により、パイプへの造管や曲げ加工、スプール加工に対する皮膜加工性(追随性)を向上させることにある。
熱拡散の方法は、連続焼鈍炉を使用する方法や箱型焼鈍炉を使用する方法がある。熱拡散温度は400〜800℃の範囲で、拡散時間は60秒から12時間までの範囲が通常熱拡散に用いられるが、12時間以上での拡散処理も可能である。
拡散時のガス雰囲気は、非酸化性あるいは還元性保護ガス雰囲気で行う。
さらに、本発明では箱型焼鈍による熱処理方法として、熱伝達の良い水素富化焼鈍と称されるアンモニアクラック法により生成される75%水素―25%窒素からなる保護ガスによる熱処理が好適に適用される。この方法は、鋼帯の長手方向および幅方向の鋼帯内の温度分布の均一性がよいため、Fe−Ni拡散層の鋼帯内、鋼帯間のバラツキが小さいという利点がある。
拡散処理において、鉄が最表面に達した後も尚熱処理を続けると、最表層に露出する鉄の割合は増加する。
各めっき厚において熱処理条件を種々変化させ、軟質化されたNi層およびFe−Ni拡散層の厚みをグロ−放電発光分析、すなわちGDS分析(島津製 GDLS−5017)により求めた結果から算出した。多数の実験を行い、軟質化されたNi層およびFe−Ni拡散層の厚みを変えた多くのサンプルを作成した。
GDS分析とは、深さ方向の分析チャートを得る測定方法であり、本特許では、Ni、Feがそれぞれの強度が各々の強度最高値の1/10となるまで存在するとみなす。
軟質化したNi層の厚みは、表層すなわちGDSの測定時間0から、Feの強度が強度最高値の1/10となるまでの間のGDSの測定時間で表せる。
Fe−Ni拡散層の厚みはFeの強度が強度最高値の1/10となってから、Niの強度が強度最高値の1/10となるまでの間のGDSの測定時間で表せる。
加熱処理を行う前のNiめっき層について、表層すなわち測定時間0から、Niの強度が強度最高値の1/10となるまでの間のGDSの測定時間でNiめっき層の厚みを表し、このNiめっき層については蛍光X線で実際に厚みを測定する。
このNiめっき層のGDSの測定時間と、軟質化されたNi層のGDSの測定時間、およびFe−Ni拡散層のGDSの測定時間との比を算出し、この比とNiめっき層の実際の厚みとから、軟質化されたNi層の厚み、および、Fe−Ni拡散層の厚みを算出する。
【0013】
<Zn、Co、およびMoを含有するめっき層>
次に、Fe−Ni拡散層の上、又は軟質化したNi層の上に、Zn、Co、およびMoを含有するめっき層を施す。
Zn、Co、およびMoを含有するめっき層のめっき厚は、1.0〜8.0μmの範囲とすることが好ましい。
当該Zn、Co、およびMoを含有するめっき層において所定のめっき厚を得るには、硫酸亜鉛180〜280g/L、硫酸コバルト10〜70g/L、モリブデン酸アンモニウム0.01〜0.4g/L、硫酸アンモニウム10〜40g/L、硫酸ナトリウム20〜50g/Lの浴組成で、pH2.7〜3.7、浴温30〜50℃の浴にて、電流密度5〜50A/dmの電解条件によって得られる。
めっきされたZn、Co、およびMoを含有する層の成分割合としては、Co:0.1〜5%、Mo:0.001〜1%、残:Znとすることが好ましい。このようなめっきの成分割合は、前記浴組成、pH、浴温、電流密度等を好適な範囲に調整することによって実現できる。
このようにして形成されたZn、Co、およびMoを含有するめっき層を設けた鋼板の概略構成を図1に示す。(a)は、基板となる鋼板の両面に、Zn、Co、およびMoを含有するめっき層とその下にFe−Ni拡散層が設けられており、(b)は、基板となる鋼板の両面に、Zn、Co、およびMoを含有するめっき層と、Fe−Ni拡散層と、それらの間に軟質化されたNi層が形成されている。
【0014】
<評価方法>
各めっき厚の鋼板から評価試験片を作製し、バイオエタノール混合ガソリンに浸漬させることにより耐食性を調査した。耐食性は発錆の有無で確認した。
バイオエタノール混合ガソリンを試験的に模した腐食液を使用した。
腐食液は、JIS K2202に規定されているレギュラーガソリンに、ギ酸100ppm、酢酸200ppmを添加し、JASO M361に規定されているバイオエタノールを10%添加し、模擬的な劣化ガソリンを精製した。
更に腐食性を高めることを目的に、純水にギ酸1000ppm、酢酸2000ppm、塩素1000ppmを添加した腐食水を作製し、これを上記劣化ガソリンに10重量%添加して腐食液とした。
腐食液は、上層が劣化ガソリン、下層が腐食水の2層に分かれた状態となる。
この腐食液に評価試験片(本発明の鋼板)が半分浸漬するように密閉容器中に配置し、45℃の恒温槽にて経時した。
これにより、図2に示すように、評価試験片は、上部より、劣化ガソリンの燃料蒸気(気相)と接触した気相部11、劣化ガソリン(液相)と接触した液相部12、腐食水(水相)と接触した水相部13に分離されることになる。
そして、評価試験片の気相部11の腐食を調査することにより、評価試験片の燃料蒸気に対する耐食性を評価した。
評価は、めっき面を内面(凹部)として90°折り曲げを行ったものを使用した。谷部の半径は1.0mmとした。加工された谷部の発錆を評価した。
多くの実験結果から、Zn、Co、およびMoを含有するめっき層の厚みを1.0〜8.0μmの範囲とすることにより、気相部での発錆が抑制されることが分かった。
そして、Zn、Co、およびMoを含有するめっき層の下層に軟質化されたNi層を形成することにより、さらに気相部での発錆が抑制されることも分かった。
すなわち、実験結果から、Zn、Co、およびMoを含有するめっき層のめっき厚が1.0μm未満の場合、気相部における十分な耐食性が得られなかった。
また、Zn、Co、およびMoを含有するめっき層の厚みが8.0μmを超えると、パイプ造管などの加工の際に表面が削られ摩耗粉が発生する可能性があり、好ましくない。
また、Zn、Co、およびMoを含有するめっき層の下層に、軟質化されたNi層を形成することにより気相部での発錆がさらに抑制されるが、軟質化されたNi層の厚みが3.0μmを超えると、Zn、Co、およびMoを含有するめっき層と軟質化されたNi層とのトータル厚みが増加し、パイプ造管などの加工の際に表面が削られ摩耗粉が発生する可能性があり、好ましくない。
【0015】
<パイプ加工>
上記の鋼板を使用し、レベラーにより形状修正し、スリッターで所定の外寸径にスリットした後、成形機によりパイプ状に造管し、長手方向の端面同士を高周波誘導溶接によりシーム溶接することにより燃料用のパイプを製造する。
図3(a)に示すように、給油パイプ20の燃料タンク23への取り付けは、燃料タンク23の上部から斜め上方向へ延出させた。
また、給油パイプ20には、燃料が通過する太径パイプ部21の途中から分岐をさせて、
太径パイプ部21の上部と下部とを通気する細径パイプ部22を接続した。
太径パイプ部21を本発明の鋼板を用いて製造する。なお、細径パイプ部も本発明の鋼板を用いて製造しても良い。
なお、本発明で規定する給油パイプ20は、図3(a)に示すような形状に限らず、例えば、図3(b)に示すように、燃料が通過する太径パイプ部21とは、独立した形状で細径パイプ部22が燃料タンク23に取り付けられているものであっても、燃料蒸気に対する耐食性が特に要求されることに変わりはないので、これらの形態のものも含む。
【実施例】
【0016】
以下に実施例を用いて、本発明を更に詳細に説明する。
<実施例1>
板厚0.70mmの、冷延、焼鈍済みの低炭素アルミキルド鋼板をめっき原板とした。
めっき原板である鋼板の成分は以下のとおりである。
C:0.045%、Mn:0.23%、Si:0.02%、P:0.012%、S:0.009%、Al:0.063%、N:0.0036%、残部:Fe及び不可避的不純物。
この鋼板を、アルカリ電解脱脂、硫酸浸漬の酸洗を行った後、ワット浴無光沢めっきの条件で、めっき厚2μmのニッケルめっきを行ってニッケルめっき鋼板を得た後、800℃、1minの条件で熱拡散処理を行い、鋼板の表面に、1.23μm厚のFe−Ni拡散層を形成した。
その後、その上に1μm厚のZn、Co、およびMoを含有する層をめっきにより設けた。
形成されたZn、Co、およびMoを含有するめっき層の組成割合は、Co:0.3%、Mo:0.01%、残:Zn(%は質量)であった。なお、Zn、Co、およびMoを含有するめっき層の厚みおよび組成割合は蛍光X線分析(リガク製 ZSX 100e)により測定した。
【0017】
<実施例2〜14>
Zn、Co、およびMoを含有するめっき層の厚みを変えて、表1の実施例2〜14の鋼板を得た。
実施例2〜14において、Zn、Co、およびMoを含有するめっき層とFe−Ni拡散層との間に、軟質化されたNi層を形成したものはその厚みの数値を記載した。軟質化されたNi層を形成しなかったものは、その厚みを0として記載した。
ニッケルめっきは、ワット浴無光沢めっきの条件で、めっき厚を変更した。ニッケルめっき厚は蛍光X線分析(リガク製 ZSX 100e)により測定した。
表1に記載のZn、Co、およびMoを含有するめっき層の厚み、ニッケルめっき厚および熱拡散処理、以外の条件は、実施例1と同様とした。
【0018】
<比較例>
Zn、Co、およびMoを含有するめっき層の厚み、ニッケルめっきの厚みおよび熱拡散処理を、表1に示すように変更し、その他の条件は実施例と同様として、表1の比較例1〜6のめっき鋼板を得た。
【0019】
<評価>
次に、実施例、比較例の各めっき鋼板から、評価試験片を作製し、45℃の恒温槽にて500時間経時させた後に、各めっき厚の評価試験片の気相部の外観を観察し、錆発生を調査した。この結果を表1の「気相部の赤錆発生結果」に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
本発明の実施例1〜14のめっき鋼板は、表1から明らかなように、錆の発生が無く、燃料蒸気に対して耐食性を有するパイプ用の素材として優れていた。
上記腐食液はガソリン、軽油、バイオエタノール、又はバイオディーゼル燃料よりも腐食性が強い蒸気を発生するのでこの腐食液での試験で錆の発生が無ければ、ガソリン、軽油、バイオエタノール、又はバイオディーゼル燃料に対しても錆の発生が無いものと考えられる。
一方、比較例1〜6のめっき鋼板は、赤錆が発生し、燃料蒸気に対して耐食性を有するパイプ製造用の素材として実用性に乏しい。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明のパイプ製造用めっき鋼板は、燃料であるガソリン、軽油、バイオエタノール、又はバイオディーゼル燃料などの燃料蒸気への暴露において発錆発生を抑制することが可能である。
また、本発明のパイプ製造用めっき鋼板を用いたパイプおよび給油パイプは、燃料蒸気に対する耐食性が優れており、産業上の利用可能性が極めて高い。
【符号の説明】
【0023】
11:気相部
12:液相部
13:水相部
20:給油パイプ
21:太径パイプ部
22:細径パイプ部
23:燃料タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板の少なくとも片方の表面に、Zn、Co、およびMoを含有するめっき層とその下にFe−Ni拡散層が設けられていることを特徴とする、燃料蒸気に対する耐食性を有するパイプ製造用めっき鋼板。
【請求項2】
前記Zn、Co、およびMoを含有するめっき層と前記Fe−Ni拡散層との間に、軟質化されたNi層が形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の燃料蒸気に対する耐食性を有するパイプ製造用めっき鋼板。
【請求項3】
前記Zn、Co、およびMoを含有するめっき層の厚みが、1.0〜8.0μmであることを特徴とする、請求項1または2に記載の燃料蒸気に対する耐食性を有するパイプ製造用めっき鋼板。
【請求項4】
前記燃料が、ガソリン、軽油、バイオエタノール、又はバイオディーゼル燃料を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の燃料蒸気に対する耐食性を有するパイプ製造用めっき鋼板。
【請求項5】
鋼板からなるパイプの内面に、Zn、Co、およびMoを含有するめっき層を有しており、その下にFe−Ni拡散層が設けられていることを特徴とする、燃料蒸気に対する耐食性を有するパイプ。
【請求項6】
前記Zn、Co、およびMoを含有するめっき層と前記Fe−Ni拡散層との間に、軟質化されたNi層が形成されていることを特徴とする、請求項5に記載の燃料蒸気に対する耐食性を有するパイプ。
【請求項7】
前記Zn、Co、およびMoを含有するめっき層の厚みが、1.0〜8.0μmであることを特徴とする、請求項5または6に記載の燃料蒸気に対する耐食性を有するパイプ。
【請求項8】
前記燃料が、ガソリン、軽油、バイオエタノール、又はバイオディーゼル燃料を含むことを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の燃料蒸気に対する耐食性を有するパイプ。
【請求項9】
燃料を燃料タンクに給油するための鋼板からなる給油パイプであって、
燃料が通過する太径パイプ部と、
太径パイプ部の上部と下部とを通気する細径パイプ部と、を有し、
少なくとも前記太径パイプ部の内面に、Zn、Co、およびMoを含有するめっき層を有しており、その下にFe−Ni拡散層が形成されていることを特徴とする、燃料蒸気に対する耐食性を有する給油パイプ。
【請求項10】
前記Zn、Co、およびMoを含有するめっき層と前記Fe−Ni拡散層との間に、軟質化されたNi層が形成されていることを特徴とする、請求項9に記載の燃料蒸気に対する耐食性を有する給油パイプ。
【請求項11】
前記Zn、Co、およびMoを含有するめっき層の厚みが、1.0〜8.0μmであることを特徴とする、請求項9または10に記載の燃料蒸気に対する耐食性を有する給油パイプ。
【請求項12】
前記燃料が、ガソリン、軽油、バイオエタノール、又はバイオディーゼル燃料を含むことを特徴とする請求項9〜11のいずれかに記載の燃料蒸気に対する耐食性を有する給油パイプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−63862(P2011−63862A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−216693(P2009−216693)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(390003193)東洋鋼鈑株式会社 (265)
【Fターム(参考)】