説明

燃料電池、および、燃料電池の検査方法

【課題】本発明は、燃料電池が負電圧となったときの発電効率の低下や性能の低下を抑制する技術の向上を図ることを目的とする。
【解決手段】燃料電池は、膜電極接合体を含んで構成される発電部材と、発電部材の両側にそれぞれ配置される一対のセパレータと、一対のセパレータの間に配置され、両端部が一対のセパレータとそれぞれ電気的に接続され、一対のセパレータの間に負電圧が生じたときに流れる電流によって発熱する発熱回路と、を備え、発熱回路は、発電部材とセパレータとの間に形成されるガス流路を加熱可能な位置に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池、および、燃料電池の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、燃料ガスと酸化剤ガスとを反応させて発電する燃料電池は、氷点下で始動したときに、いわゆる負電圧が発生して発電効率の低下や性能の低下が生じることが知られている。具体的には、複数の燃料電池が積層された燃料電池スタックを氷点下の環境で停止状態としていると、いくつかの燃料電池のガス流路が残留水の凍結によって閉塞する。この状態で燃料電池システムを始動させると、ガス流路が閉塞した燃料電池(セル)は、燃料ガスが欠乏した状態となりアノードの電位が上昇して負電圧となる。負電圧の燃料電池は外部に対して仕事をしないため、燃料電池スタック全体の発電効率が低下することがあった。また、この負電圧の燃料電池では、他の燃料電池と同じだけの電流を流そうとするために触媒を構成するカーボンの酸化が発生することあった。カーボンの酸化が発生すると、触媒面積の減少等によって、燃料電池の性能が低下する。なお、この負電圧の問題に関連して従来から、燃料電池スタックの外部にダイオードユニットを取り付けて負電圧を緩和する技術が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−212025号公報
【特許文献2】特開2011−003477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、負電圧の発生による燃料電池の発電効率の低下や性能の低下を抑制するための技術については、なお改善の余地があった。
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、燃料電池が負電圧となったときの発電効率の低下や性能の低下を抑制する技術の向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題の少なくとも一部を解決するために、本願発明は、以下の態様または適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
燃料電池であって、
膜電極接合体を含んで構成される発電部材と、
前記発電部材の両側にそれぞれ配置される一対のセパレータと、
前記一対のセパレータの間に配置され、両端部が前記一対のセパレータにそれぞれ電気的に接続され、前記一対のセパレータの間に負電圧が生じたときに流れる電流によって発熱する発熱回路と、を備え、
前記発熱回路は、前記発電部材と前記セパレータとの間に形成されるガス流路を加熱可能な位置に配置されている、燃料電池。
【0008】
この構成によれば、残留水の凍結により燃料電池に負電圧が発生した場合であっても、負電圧によって発熱回路が発熱してガス流路を閉塞している氷を融解することができるため、負電圧状態を早期に解消させて発電効率の低下を抑制することができる。
【0009】
[適用例2]
適用例1に記載の燃料電池において、
前記一対のセパレータは、前記膜電極接合体のアノード側と接触するアノード側セパレータと、前記膜電極接合体のカソード側と接触するカソード側セパレータとを含み、
前記発熱回路は、前記アノード側セパレータから前記カソード側セパレータに電流が流れるように配置されたダイオードを含んでいる、燃料電池。
【0010】
この構成によれば、ダイオードの発熱によって、ガス流路を閉塞している氷を融解することができるため、負電圧状態を早期に解消させて発電効率の低下を抑制することができる。
【0011】
[適用例3]
適用例1または適用例2に記載の燃料電池において、
前記発電部材は、前記膜電極接合体の外周部に形成される支持部材を含み、
前記発熱回路は、前記ガス流路のうち、前記セパレータと前記支持部材との間に形成されるガス流路を加熱可能な位置に配置されている、燃料電池。
【0012】
この構成によれば、ガス流路において、残留水が凍結しやすい部分を加熱することができるため、負電圧状態を早期に解消させて発電効率の低下を抑制することができる。
【0013】
[適用例4]
適用例3に記載の燃料電池において、
前記発熱回路は、前記セパレータと前記支持部材との間に形成されるガス流路の両側にそれぞれ配置されている、燃料電池。
【0014】
この構成によれば、ガス流路において、残留水が凍結しやすい部分を両側から加熱することができるため、負電圧状態を早期に解消させて発電効率の低下を抑制することができる。
【0015】
[適用例5]
適用例1または適用例2に記載の燃料電池において、
前記セパレータは、前記発電部材と接触する面と反対側の面に冷媒流路を形成するための冷媒流路形成部を備え、
前記発熱回路は、前記ガス流路のうち、前記反対側の面に前記冷媒流路が形成されていないガス流路を加熱可能な位置に配置されている、燃料電池。
【0016】
この構成によれば、ガス流路において、残留水が凍結しやすい部分を加熱することができるため、負電圧状態を早期に解消させて発電効率の低下を抑制することができる。
【0017】
[適用例6]
適用例1ないし適用例5のいずれかに記載の燃料電池において、
前記発熱回路に電流が流れるときの前記一対のセパレータの間の負電圧が、前記膜電極接合体のアノードにおいて水電解反応が生じるときの電圧よりも大きい、燃料電池。
【0018】
この構成によれば、燃料ガスの欠乏によって、一対のセパレータの間に負電圧が発生しても、発熱回路に電流が流れることによって、セパレータの間の電圧がアノードでカーボンの酸化反応が発生する電圧まで下降しないため、触媒劣化による燃料電池の性能低下の発生を抑制することができる。
【0019】
[適用例7]
燃料電池の検査方法であって、
膜電極接合体と、前記膜電極接合体の両側にそれぞれ配置される一対のセパレータと、前記一対のセパレータの間に負電圧が生じたときに流れる電流によって発熱する発熱回路とを備える燃料電池を準備する工程と、
前記一対のセパレータの間の抵抗値が所定値以上となるまで前記膜電極接合体を乾燥させる工程と、
前記膜電極接合体を乾燥させた前記燃料電池の前記一対のセパレータの間に電流を流したときの前記一対のセパレータの間の負電圧が所定値以上か否かによって、前記燃料電池の状態を判断する工程と、を備える検査方法。
【0020】
この構成によれば、負電圧が生じたときに発熱する発熱回路を備える燃料電池において、負電圧が生じたときに触媒劣化を抑制することができるか否かを容易に検査することができる。
【0021】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、上記燃料電池を含んで構成される燃料電池システム、上記燃料電池を搭載する車両、上記燃料電池の製造方法などの形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1実施例に係る燃料電池の概略構成を説明するための説明図である。
【図2】セパレータの概略構成を説明するための説明図である。
【図3】シール部材一体型MEAの概略構成を説明するための説明図である。
【図4】図2および図3のB−B’断面を例示した説明図である。
【図5】正常時における燃料電池の発電状態を説明するための説明図である。
【図6】水素欠乏時における燃料電池の発電状態を説明するための説明図である。
【図7】本実施例の燃料電池の等価回路を説明するための説明図である。
【図8】ダイオードDの順方向電圧と順方向電流との関係を例示した説明図である。
【図9】バイパス電圧Vcbを説明するための説明図である。
【図10】燃料電池における水電解反応発生電圧Vcwの評価結果を示した説明図である。
【図11】燃料電池の検査方法の流れを例示した説明図である。
【図12】第2実施例に係るダイオードチップの設置位置を説明するための説明図である。
【図13】変形例1に係るダイオードチップの設置位置を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
A.第1実施例:
図1は、第1実施例に係る燃料電池の概略構成を説明するための説明図である。図1は、燃料電池スタック10の断面構成を例示しており、後述する図2、図3のA−A’断面と対応している。燃料電池スタック10は、複数の燃料電池100を積層した構成を備えている。この燃料電池スタック10は、例えば、車両等の移動体に搭載されて、移動体の動力源として使用される。また、定置型の電源等としても使用される。燃料電池100は、水素と酸素の供給を受けて発電する固体高分子型燃料電池である。
【0024】
燃料電池100は、シール部材一体型MEA(Membrane‐Electrode Assembly:膜電極接合体)200と、セパレータ310、330と、ダイオードチップ500とを備えている。燃料電池100は、セパレータ310、330によってシール部材一体型MEA200を挟持した構成を備えている。
【0025】
シール部材一体型MEA200は、MEA210とシール部材220とを備え、略長方形状のMEA210の外周に、枠状のシール部材220が形成されている。MEA210は、電解質膜212の一方の面にアノード側触媒層214、アノード側ガス拡散層410がこの順に積層され、他方の面にカソード側触媒層215、カソード側ガス拡散層430がこの順に積層された構成を備えている。本実施例のシール部材220は、特許請求の範囲における「発電部材」に該当する。
【0026】
電解質膜212は、プロトン伝導性の固体高分子材料としてのフッ素系スルホン酸ポリマーにより形成された高分子電解質膜(Nafion(登録商標))により構成されている。なお、高分子電解質膜としては、Nafion(登録商標)に限定されず、例えば、アシプレックス(登録商標)、フレミオン(登録商標)等の他のフッ素系スルホン酸膜を用いてもよい。また、例えば、フッ素系ホスホン酸膜、フッ素系カルボン酸膜、フッ素炭化水素系グラフト膜、炭化水素系グラフト膜、芳香族膜等を用いてもよい。
【0027】
アノード側触媒層214およびカソード側触媒層215は、例えば、電気化学反応を進行する触媒金属(例えば、白金)を担持したカーボン粒子(触媒担持担体)と、プロトン伝導性を有する高分子電解質(例えばフッ素系樹脂)を含んで構成されている。導電性担体としては、カーボン粒子の他に、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどの炭素材料のほか、炭化ケイ素などに代表される炭素化合物等を用いることができる。また、触媒金属としては、白金の他に、例えば、白金合金、パラジウム、ロジウム、金、銀、オスミウム、イリジウム等を用いることができる。
【0028】
シール部材220は、MEA210を支持するための部材であり、シリコーンゴムを用いて射出成形により形成されている。シール部材220は、図1に示されているカソードガス供給用貫通孔223とアノード排ガス排出用貫通孔312のほか、図3を用いて後述する複数の貫通孔を備えている。各貫通孔は、セパレータ310、330にそれぞれ形成された貫通孔と共に、反応ガスおよび冷却水を給排するためのマニホールドを構成する。本実施例のシール部材220は、特許請求の範囲における「支持部材」に該当する。
【0029】
ガス拡散層410、430は、電極反応に用いられる反応ガス(アノードガスおよびカソードガス)を電解質膜212の面方向に沿って拡散させる層であり、多孔質の拡散層用基材により構成されている。拡散層用基材としては、例えば、カーボンペーパーやカーボンクロス等のカーボン多孔質体や、金属メッシュや発泡金属等の金属多孔質体を用いることができる。なお、ガス拡散層410、430は、撥水性を得るために、拡散層用基材が、撥水ペーストによりコーティング(撥水処理)されて撥水層が形成されていてもよい。
【0030】
セパレータ310、330は、ガス遮断性および電子伝導性を有する部材によって構成されている。アノード側セパレータ310は、一方の主面がシール部材一体型MEA200のアノード側ガス拡散層410と接触し、他方の主面がカソード側セパレータ330と接触している。カソード側セパレータ330は、一方の主面がシール部材一体型MEA200のカソード側ガス拡散層430と接触し、他方の主面がアノード側セパレータ310と接触している。セパレータ310、330は、それぞれ、マニホールドを形成するための複数の開口部を備えている。セパレータ310、330の具体的な形状や構成については、図2を用いて詳述する。
【0031】
ダイオードチップ500は、P型シリコン510とN型シリコン530からなるシリコンダイオードを含んで構成されている。ダイオードチップ500は、燃料電池100と並列に接続されている。具体的には、P型シリコン510がアノード側セパレータ310に電気的に接続され、N型シリコン530がカソード側セパレータ330に電気的に接続されている。ダイオードチップ500に使用されるシリコンダイオードは、順方向降下電圧がおよそ0.6Vであり、また、逆方向電圧への耐性が大きい特性を有している。セパレータ310、330におけるダイオードチップ500の取り付け位置については、図2を用いて詳述する。本実施例のダイオードチップ500は、特許請求の範囲における「発熱回路」に該当する。
【0032】
図2は、セパレータの概略構成を説明するための説明図である。図2には、アノード側セパレータのシール部材一体型MEA200と接触する側の主面が例示されている。カソード側セパレータ330の形状は、図2に示すアノード側セパレータ310と同様のため、説明を省略する。
【0033】
アノード側セパレータ310は、略矩形形状を有するステンレス鋼やチタン、アルミニウム、銅などの金属の薄板により形成されている。アノード側セパレータ310は、複数の溝によってシール部材一体型MEA200との間にガス流路を形成するためのガス流路形成部317を中心部付近に備え、両端部にマニホールドを構成するための複数の開口部(貫通孔)311〜316を備えている。以下、開口部311〜316を、それぞれ、アノードガス供給用貫通孔311、アノード排ガス排出用貫通孔312、カソードガス供給用貫通孔313、カソード排ガス排出用貫通孔314、冷却水供給用貫通孔315、冷却水排出用貫通孔316とも呼ぶ。
【0034】
ガス流路形成部317は、アノード側セパレータ310とシール部材一体型MEA200との間にアノードガスおよびアノード排ガスを流通させるためのガス流路を形成する。ガス流路形成部317は、MEA210と対向する部分である発電領域部分317Agと、シール部材220と対向する部分である非発電領域部分317Anの2つの部分を有している。発電領域部分317Agは、MEA210と対応した略矩形の形状を有し、発電時に電子の伝導に供される領域である。非発電領域部分317Anは、発電領域部分317Agとアノードガス供給用貫通孔311との間、および、発電領域部分317Agとアノード排ガス排出用貫通孔312との間にそれぞれ形成される領域である。非発電領域部分317Anには、シール部材220と接触する複数の凸部318が形成されているが、凸部318を備えていなくてもよい。以後、非発電領域部分317Anとシール部材220との間に形成されるガス流路を、非発電領域ガス流路GCnとも呼ぶ。本実施例の非発電領域ガス流路GCnは、特許請求の範囲における「セパレータと支持部材との間に形成されるガス流路」に該当する。
【0035】
ダイオードチップ500は、非発電領域ガス流路GCnを加熱可能な位置に配置されている。具体的には、後述するように、ダイオードチップ500は、燃料電池100に負電圧が生じたときに電流が流れて発熱する。ダイオードチップ500の位置は、この発熱によって、非発電領域ガス流路GCnを加熱することが可能な程度、非発電領域ガス流路GCnに近接した任意の場所に設定される。ダイオードチップ500の設置位置を非発電領域ガス流路GCnが加熱可能な位置としたのは、非発電領域ガス流路GCnは、燃料電池100の発電に伴う熱が伝わりにくい場所であり、氷点下始動時に氷が溶解しにくいためである。
【0036】
ここでは、ダイオードチップ500は、非発電領域ガス流路GCnの両側にそれぞれ配置されている。なお、ダイオードチップ500は、アノード排ガス排出用貫通孔312に接続されている非発電領域ガス流路GCnのみを加熱可能に配置されていてもよいし、アノードガス供給用貫通孔221と接続されている非発電領域ガス流路GCnについても加熱可能に配置されていてもよい。
【0037】
図3は、シール部材一体型MEAの概略構成を説明するための説明図である。シール部材一体型MEA200は、略矩形形状を有するシール部材220の中心部付近にMEA210が配置され、両端部にマニホールドを構成するための複数の開口部(貫通孔)221〜226を備えている。以下、開口部221〜226を、それぞれ、アノードガス供給用貫通孔221、アノード排ガス排出用貫通孔222、カソードガス供給用貫通孔223、カソード排ガス排出用貫通孔224、冷却水供給用貫通孔225、冷却水排出用貫通孔226とも呼ぶ。
【0038】
シール部材一体型MEA200は、マニホールドを形成するための上記の開口部(貫通孔)221〜226のほかに、図2のアノード側セパレータ310を積層したときに、ダイオードチップ500が配置された位置と対応する位置に、ダイオードチップ500を挿通させるための挿通口(貫通孔)220bを備えている。本実施例では、挿通口220bは、シール部材220に形成されている。
【0039】
図4は、図2および図3のB−B’断面を例示した説明図である。図4に示すように、ダイオードチップ500は、挿通口220bを介して、アノード側セパレータ310とカソード側セパレータ330にそれぞれ接続されている。燃料電池100に負電圧が発生し、アノード側セパレータ310の電位がカソード側セパレータ330の電位よりも高い状態となると、ダイオードチップ500を介してアノード側セパレータ310からカソード側セパレータ330に向かって電流が流れる。ダイオードチップ500に電流が流れることによって、ダイオードチップ500が発熱し、非発電領域ガス流路GCnを加熱する。
【0040】
一般的に、燃料電池は、氷点下環境下で停止状態としていると、燃料電池のガス流路が残留水などの液体の凍結によって閉塞することがある。この状態で燃料電池を始動させるとガス流路が閉塞した燃料電池は、燃料ガス(水素)が欠乏した状態となりアノードの電位が上昇し、アノード電位がカソード電位よりも高い負電圧となる。負電圧の燃料電池は外部に対して仕事をしないため、燃料電池全体の発電効率が低下する問題があった。また、負電圧の燃料電池では、隣接する他の燃料電池と同じだけの電流を流そうとするために触媒を構成するカーボンの酸化が発生して燃料電池の性能が低下する問題があった。
【0041】
しかし、本実施例の燃料電池100は、氷点下環境下の始動で負電圧が生じたときに、カーボン酸化反応が生じる電圧まで低下する前に、ダイオードチップ500に電流が流れるため、カーボン酸化反応の発生を抑制することができる。また、ダイオードチップ500に電流が流れると、ダイオードチップ500によって、非発電領域ガス流路GCnを加熱するため、非発電領域ガス流路GCnの内部の氷を融解させることができる。これにより、ガス流路の閉塞をより早く解消して負電圧状態を早期に解消することができる。以下では、燃料電池100の水素欠乏時における電子の流れや、アノードやカソードで生じる化学反応等について説明する。
【0042】
図5、図6は、燃料電池の正常運転時(正常時)と水素欠乏時の発電状態を説明するための説明図である。図5は、正常時における燃料電池100の発電状態を示し、図6は、水素欠乏時における燃料電池100の発電状態を示している。図5、6では、説明の便宜上、燃料電池スタック10を、3つの燃料電池100(100a,100b,100c)を積層した構成として示している。また、各燃料電池100a,100b,100cを電解質膜mとカソードcとアノードaとセパレータsによって示している。例えば、燃料電池100aは、セパレータs0の一部と、カソードc1と、電解質膜m1と、アノードa1と、セパレータs1の一部とで示している。なお、セパレータs0の一部とは、図1のカソード側セパレータ330と対応している。カソードc1は、カソード側ガス拡散層430およびカソード側触媒層215と対応している。電解質膜m1は、電解質膜212と対応している。アノードa1は、アノード側触媒層214およびアノード側ガス拡散層410と対応している。セパレータs1は、アノード側セパレータ310およびカソード側セパレータ330の積層体と対応している。
【0043】
図5に示すように、燃料電池100の正常発電時(正常時)、すなわち、各燃料電池100a,100b,100cに、水素ガス及び空気が十分に供給され、各燃料電池100a,100b,100cにおいて発電が行われているとき、アノードでは下記式(1)に示す反応が生じている。また、カソードでは下記式(2)に示す反応が生じている。このとき、各燃料電池100a,100b,100cの電圧(各燃料電池100のセパレータ間の電圧:セル電圧Vc)は、およそ+1.0Vとなっている。下記式(1),(2)の反応は、各燃料電池100a,100b,100cの電圧が0Vよりも高い場合に起こり得る。
【0044】
【数1】

【0045】
【数2】

【0046】
単セルである燃料電池100のセル電圧Vcは、下記式(3)に示すように定められる。なお、式(3)において、Vcはセル電圧を、Ecはカソードの電位を、Eaはアノードの電位を、IRは、単セルの抵抗(電解質膜の抵抗や、配線の接触抵抗など)による電圧降下を、それぞれ意味する。なお、セル電圧Vcは、換言すると、1つの燃料電池を間に挟んだ2つの燃料電池間(単セル間)の電位差を意味する。例えば、燃料電池100bのセル電圧Vcは、燃料電池100a(アノードa1)と燃料電池100c(カソードc3)との間の電位差を意味する。
【0047】
【数3】

【0048】
燃料電池100bの正常時(すなわち、セル電圧Vcが0V以上の場合)には、ダイオードチップ500には、逆方向バイアスがかかるのでほぼ電流が流れない。なお、ダイオードチップ500に電流が流れない状態は、燃料電池100bの正常時(0≦Vcの場合)に限らず、燃料電池100bのセル電圧Vcが、負電圧になり、その絶対値がダイオードチップ500に含まれるダイオードの順方向電圧Vf(例えば、0.6V)よりも小さい場合(−Vf<Vc<0)にも起こり得る。
【0049】
燃料電池100への水素ガス供給量が、発電に必要な量よりも少ない場合(水素欠乏時)には、上記式(3)におけるアノード電位Eaが上昇するために、セル電圧Vcが負電圧(Vc<0)となり得る。水素欠乏は、上述したように、氷点下環境下において、燃料ガス流路や、アノード側触媒層214などに溜まった生成水が凍結してガス流路が閉塞した場合のほか、電気化学反応により生じた水(生成水)が燃料ガス流路に溜まり、この生成水によって燃料ガス流路における圧力損失が増大した場合などに発生することがある。
【0050】
図6では、燃料電池100bにおいて水素欠乏が生じ、セル電圧Vcが負電圧となっている状態が示されている。このとき、他の燃料電池100a,100cでは正常に発電が行われているため、燃料電池100bにおいても、電流を発生させようとする(すなわち、電子のやりとりを行おうとする)。しかしながら、水素欠乏のため、燃料電池100bのアノードa2において、上記式(1)に示す反応は生じず、下記式(4)及び下記式(5)に示す反応が生じ得る。式(4)の水電解反応は、セル電圧Vcがおよそ−0.7V以下の場合に生じ得る。式(5)のカーボン酸化反応は、セル電圧Vcがおよそ−1.5V以下の場合に生じ得る。なお、カソードc2では、下記式(2)に示す反応が発生する。以後、式(4)の水電解反応が生じるときのセル電圧Vcを水電解反応発生電圧Vcwとも呼び、式(5)のカーボン酸化反応が生じるときのセル電圧Vcをカーボン酸化反応発生電圧Vccとも呼ぶ。
【0051】
【数4】

【0052】
【数5】

【0053】
ここで、式(5)に示す反応は、アノードa2を構成する触媒に含まれるカーボンの酸化を意味する。すなわち、水素欠乏時には、アノードa2において、式(5)に示す反応によって触媒が劣化するおそれがある。しかし、本実施例の燃料電池100bは、ダイオードチップ500が配置されているため、セル電圧Vcが負電圧になり、その絶対値がダイオードチップ500に含まれるダイオードの順方向電圧Vfよりも大きく(Vc<−Vf<0)になれば、アノードa2から燃料電池100cのカソードc3に電子が供給されなくても、ダイオードチップ500を介して燃料電池100aのアノードa1において発生した電子が燃料電池100cのカソードc3に供給される。したがって、燃料電池100bが水素欠乏状態であっても、アノードa2における上記式(4),(5)に示す反応の発生が抑制される。そのため、アノードa2の触媒劣化の発生が抑制される。
【0054】
本実施例の燃料電池100は、ダイオードチップ500に電流が流れるときのセル電圧Vcであるバイパス電圧Vcbが水電解反応発生電圧Vcwよりも大きく(Vcw<Vcb<0)なるように構成されている。このようにすれば、セル電圧Vcが降下して負電圧状態(Vc<0)となったときに、ダイオードチップ500に電流が流れることによって、セル電圧Vcが水電解反応発生電圧Vcwやカーボン酸化反応発生電圧Vccまで降下することを抑制することができる。図7〜図10を用いて、バイパス電圧Vcbが水電解反応発生電圧Vcwよりも大きくなるための燃料電池100の具体的な構成について説明する。
【0055】
図7は、本実施例の燃料電池の等価回路を説明するための説明図である。図7の上段に示すように、ここでは、アノード側セパレータ310およびカソード側セパレータ330の厚さをそれぞれt(m)とし、ダイオードチップ500とセパレータ310、330との間の接着剤の厚さをそれぞれt(m)とする。また、ダイオードチップ500とセパレータ310、330との接触面積の合計をS(m)とする。S(m)は、ダイオードチップ500の断面積の合計と等しい。ダイオードチップ500を流れる電流の合計をI(A)とする。また、セパレータの電気抵抗率をρ(Ω・m)とし、接着剤の電気抵抗率をρ(Ω・m)とする。
【0056】
燃料電池100の等価回路は、発電部Gと、ダイオードDと、セパレータと接着剤との合成抵抗Rsと、によって図7の下段のように表すことができる。発電部Gとは、燃料電池100において発電に供される部分、具体的には、MEA210とアノード側セパレータ310とカソード側セパレータ330とが積層された部分である。ダイオードDは、ダイオードチップ500に含まれるダイオードである。合成抵抗Rs(Ω)は、セパレータの抵抗と接着剤の抵抗とを合わせた抵抗であり、上述した、セパレータの電気抵抗率ρ(Ω・m)、パレータの厚さt(m)、接触面積S(m)、接着剤の電気抵抗率ρ(Ω・m)、および、接着剤の厚さt(m)を用いて下記式(6)のように表すことができる。
【0057】
【数6】

【0058】
図8は、ダイオードDの順方向電圧と順方向電流との関係を例示した説明図である。図8の縦軸はダイオードDの順方向電圧(バイアス電圧)Vf(V)を示し、横軸はダイオードDの順方向の電流I(A)を示している。図8には、ダイオードDの温度Tcが150℃の場合と、25℃の場合における順方向電圧Vfと電流Iとの関係を示している。図8には、典型値(TYP値)と最大値(MAX値)が示されている。ダイオードDの順方向電圧Vfは、ダイオードDの温度Tcが高いほど減少し、電流Iが大きいほど大きくなることがわかる。
【0059】
図9は、バイパス電圧Vcbを説明するための説明図である。バイパス電圧Vcbは、上述した、電流Iと、ダイオードDの順方向電圧Vfと、合成抵抗Rsを構成するセパレータの電気抵抗率ρ(Ω・m)、パレータの厚さt(m)、接触面積S(m)、接着剤の電気抵抗率ρ(Ω・m)、接着剤の厚さt(m)と、を用いて、下記式(7)のように表すことができる。
【0060】
【数7】

【0061】
図10は、燃料電池における水電解反応発生電圧Vcwの評価結果を示した説明図である。図10の横軸は、MEAを流れる電流の電流密度Dc(A/cm)を示し、縦軸は、セル電圧Vc(V)を示している。図10には、燃料電池の温度と電流密度が異なった各状態における、水電解反応発生電圧が示されている。図10の評価結果を得るために、ダイオードチップ500を備えない燃料電池において、アノードに窒素、カソードに空気を流した状態で外部から電流を掃引し、水電解反応が発生したときのセル電圧Vc(=水電解反応発生電圧)を測定した。燃料電池の温度は、40℃、60℃、80℃の3通りであり、相対湿度は100%である。また、セル電圧Vcを測定したときの電流密度は0.05、0.1、0.2、0.3、0.4(A/cm)である。図10から、水電解反応発生電圧Vcwは、燃料電池の温度が高くなるほど大きくなり、また、電流密度が小さくなるほど大きくなることがわかる。
【0062】
よって、燃料電池100のバイパス電圧Vcbを評価するために用いる水電解反応発生電圧Vcwは、例えば、燃料電池の温度が高く、燃料電池に流れる電流が小さいときの水電解反応発生電圧Vcwを用いると、安全側の評価をおこなうことができる。本実施例では、バイパス電圧Vcbを評価するために用いる水電解反応発生電圧Vcwを−0.6Vとした。これは、図10に示すように、セル電圧Vcが−0.6Vより大きいときには、燃料電池の温度や電流にかかわらず水電解反応が起こらないためである。
【0063】
本実施例の燃料電池100は、水電解反応の発生を抑制するために、電流I、セパレータの電気抵抗率ρ(Ω・m)、パレータの厚さt(m)、接着剤の電気抵抗率ρ(Ω・m)、接着剤の厚さt(m)、が下記式(8)の関係となるように、設計されている。
【0064】
【数8】

【0065】
式(8)において、Vccは、式(5)のカーボン酸化反応が生じるときのセル電圧Vcであり、Vcwは、設計用の水電解反応発生電圧である。燃料電池100を上記式(8)の関係が成り立つように設計すれば、カーボン酸化反応の発生も抑制することができる。なお、燃料電池100のバイパス電圧Vcbを調べる方法としては、上記式(7)を用いる方法以外にも、例えば、MEA210を絶縁体とみなせるぐらいに十分に乾燥させた状態で燃料電池100の両側から電流を流したときのセル電圧Vcによってバイパス電圧Vcbを調べることができる。また、MEA210の替わりに絶縁体を挟んだ燃料電池100を作製し、この燃料電池100の両側から電流を流すことによってバイパス電圧Vcbを調べてもよい。MEA210を乾燥させた状態でセル電圧Vcを測定する方法であれば、組み立て後の燃料電池100に対して非破壊でバイパス電圧Vcbを特定することができるので、設計どおり、バイパス電圧Vcbが水電解反応発生電圧Vcwよりも大きくなるか否かを製品の出荷時に検査することができる。以下に、この検査方法の流れについて説明する。
【0066】
図11は、燃料電池の検査方法の流れを例示した説明図である。作製した燃料電池100を用意し、まず、MEA210の乾燥をおこなう(ステップS110)。MEA210の乾燥は、燃料電池100の積層方向の抵抗値が所定値以上となるまでおこなわれる(ステップS120:NO)。この所定値とは、MEA210が乾燥してほぼ絶縁体となったときの燃料電池100の積層方向の抵抗値である。この所定値としては、例えば、100(Ω)を設定することができる。
【0067】
MEAの乾燥によって、燃料電池100の抵抗値が所定値以上となると(ステップS120:YES)、外部電源を用いて燃料電池100に対して、アノードからカソードに向かう方向に電流を流し(ステップS130)、セル電圧Vc(<0)が水電解反応発生電圧Vcwとして予め設定された値(ここでは、−0.6V)より大きい否かを判定する(ステップS140)。
【0068】
セル電圧Vc(<0)が水電解反応発生電圧Vcwより大きい場合(ステップS140:YES)、この燃料電池100のバイパス電圧Vcbは、水電解反応発生電圧Vcwよりも大きいため、検査合格として、例えば出荷することができる。一方、セル電圧Vc(<0)が水電解反応発生電圧Vcw以下の場合(ステップS140:NO)、この燃料電池100のバイパス電圧Vcbは、水電解反応発生電圧Vcw以下のおそれがあるため、検査不合格として、例えば破棄することができる。また、検査不合格のときには、燃料電池100の作製方法の見直しなどをおこなうことができる。このような検査をおこなうことで、負電圧が発生したときに水電解反応が発生する電圧となる前に、ダイオードチップ500に電流が流れる燃料電池100を出荷することができる。
【0069】
以上説明した、第1実施例の燃料電池100によれば、氷点下環境下の始動で負電圧が生じたときに、ダイオードチップ500に電流が流れることによって、セル電圧がカーボン酸化反応の生じる電圧まで低下しないため、カーボン酸化反応の発生による燃料電池の性能の低下を抑制することができる。また、ダイオードチップ500に電流が流れると、ダイオードチップ500の加熱によって内部の氷を融解するため、発電効率の低下した状態を早期に解消することができる。
【0070】
従来から、負電圧を検出して燃料電池に流れる電流を制御する制御部を備えた燃料電池が知られている。しかし、この燃料電池は、氷点下始動時にすばやく温度を上昇させるために大電流で発電すると、負電圧発生時の電圧降下速度が速く、制御部が負電圧を検出して電流制限などの制御を実行する前にカーボン酸化反応等が発生することがあった。また、上記制御をおこなうためには、各燃料電池セルの負電圧を検出するためのセルモニタを設置する必要があり、コストが高くなる問題があった。本実施例の燃料電池100によれば、バイパス電圧Vcbが水電解反応発生電圧Vcwよりも大きくなるように設計されているため、カーボン酸化反応の発生を抑制することができる。また、各燃料電池セルの負電圧を検出するためのセルモニタを設置する必要がないため、コストの上昇を抑制することができる。
【0071】
また、従来から、ヒータによってガス流路内部の氷を融解する燃料電池が知られている。しかし、始動時に負電圧を検出した後ヒータを発熱させる構成では、氷を十分に融解することができず、カーボン酸化反応の発生を十分に回避することができなかった。また、ヒータを発熱させるための電力を要するため、発電電力の供給効率が低下するおそれがあった。本実施例の燃料電池100によれば、負電圧の発生に伴ってダイオードチップ500が発熱するため、発熱に要する時間の短縮を図ることができる。また、負電圧を用いてダイオードチップ500に電力を供給するため電力の使用効率の低下を抑制することができる。
【0072】
B.第2実施例:
第1実施例のダイオードチップ500は、非発電領域ガス流路GCnを加熱可能な位置に配置されるものとして説明したが、第2実施例のダイオードチップ500は、非発電領域ガス流路GCn以外のガス流路を加熱可能な位置に配置されている。
【0073】
図12は、第2実施例に係るダイオードチップの設置位置を説明するための説明図である。図12には、第2実施例のセパレータのアノード側セパレータ310bとダイオードチップ500が示されている。図12は、第1実施例の図2と対応している。図12では、ガス流路形成部317におけるリブの表示を省略している。一方、図12では、ガス流路形成部317が形成された主面と反対側の主面(以後「背面」とも呼ぶ)に形成されている溝状の冷却水流路形成部の位置を破線BLで示している。冷却水流路形成部は、アノード側セパレータ310とカソード側セパレータ330とを積層したときに冷却水が流通する冷却水流路を形成する。
【0074】
ガス流路形成部317は、背面に冷却水流路が形成された部分である冷却水流通領域部分317Awと、背面に冷却水流路が形成されていない部分である冷却水非流通領域部分317Acの2つの部分を有している。ここでは、冷却水非流通領域部分317AcとMEA210との間、もしくは、冷却水非流通領域部分317Aとシール部材220と、の間に形成されるガス流路を冷却水非流通領域ガス流路GCcとも呼ぶ。本実施例の冷却水非流通領域ガス流路GCcは、特許請求の範囲における「反対側の面に冷媒流路が形成されていないガス流路」に該当する。
【0075】
ダイオードチップ500は、この冷却水非流通領域ガス流路GCcを加熱可能な位置に配置されている。ダイオードチップ500の位置は、負電圧発生時の発熱によって、冷却水非流通領域ガス流路GCcを加熱することが可能な程度、冷却水非流通領域ガス流路GCcに近接した位置であれば、ガス流路の内部でも外部でもいずれでもよい。また、冷却水非流通領域ガス流路GCcを加熱可能であれば、ダイオードチップ500の位置は、発電領域部分317Ag(図2)であてもよいし、非発電領域部分317Anであってもよい。ダイオードチップ500の設置位置を冷却水非流通領域ガス流路GCcが加熱可能な位置としたのは、冷却水非流通領域ガス流路GCcは、冷却水からの熱が伝わりにくい場所であり、氷点下始動時に氷が溶解しにくいためである。
【0076】
以上説明した、第2実施例の燃料電池100によれば、ダイオードチップ500の位置は、非発電領域ガス流路GCn(図2)を加熱可能な位置以外の位置に配置されたばあいであっても、氷点下環境下の始動で負電圧が生じたときに、ダイオードチップ500に電流が流れることによって、セル電圧がカーボン酸化反応の生じる電圧まで低下しないため、カーボン酸化反応の発生による燃料電池の性能の低下を抑制することができる。また、ダイオードチップ500に電流が流れると、ダイオードチップ500の加熱によって内部の氷を融解するため、発電効率の低下した状態を早期に解消することができる。
【0077】
C.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0078】
C−1.変形例1:
ダイオードチップ500の設置位置は、ガス流路において、氷点下始動時に氷が溶解しにくい部分を加熱可能な位置であれば、上述した位置以外の位置に設置してもよい。また、本実施例で説明したダイオードチップ500の数、位置、および、範囲は例示であり、ダイオードチップ500の数、位置、および、範囲は、実施例以外の構成としてもよい。
【0079】
図13は、変形例1に係るダイオードチップの設置位置を説明するための説明図である。説明図である。図13(a)に示すように、ダイオードチップ500は、非発電領域ガス流路GCnや、凸部318などのリブと対向する位置に配置されていてもよい。また、図13(b)に示すように、ダイオードチップ500は、凸部318などのリブとそれぞれ対向する位置に複数配置されていてもよい。なお、ダイオードチップ500の設置位置を上記のようにする場合には、ダイオードチップ500の腐食を抑制するために、ダイオードチップ500の表面を金メッキなどによって被覆することが好ましい。
【0080】
C−2.変形例2:
本実施例で示した、ダイオードチップ500の替わりにダイオードを含まず、抵抗体や、電流量を制御可能な制御部等によって構成される発熱回路を使用してもよい。この構成であっても、発熱回路に電流が流れることによって、セル電圧がカーボン酸化反応の生じる電圧まで低下しないため、カーボン酸化反応の発生による燃料電池の性能の低下を抑制することができる。また、発熱体に電流が流れると、発熱体の加熱によって内部の氷を融解するため、発電効率の低下した状態を早期に解消することができる。
【0081】
C−3.変形例3:
本実施例では、ガス流路は、アノード側セパレータ310に形成されたガス流路形成部317とシール部材一体型MEA200との間に形成されるものとして説明したが、ガス流路は、アノード側セパレータ310とシール部材一体型MEA200との間に配置されたガス流路形成部材によって形成されていてもよい。ガス流路形成部材とは、例えば、チタン、ステンレス、ニッケルもしくは銅等の発泡金属や、ステンレス鋼により形成されたエキスパンドメタルなどによって構成することができる。
【0082】
C−4.変形例4:
燃料電池スタック10は、ダイオードチップ500を備える燃料電池100のみを積層した構成に限定されず、ダイオードチップ500を備えていない燃料電池を一部含んでいてもよい。
【0083】
C−5.変形例5:
本実施例では、燃料電池に固体高分子型燃料電池を用いたが、リン酸型燃料電池、溶融炭酸塩型燃料電池、固体酸化物形燃料電池等、種々の燃料電池を用いることができる。
【符号の説明】
【0084】
10…燃料電池スタック
100…燃料電池
200…シール部材一体型MEA
210…MEA
212…電解質膜
214…アノード側触媒層
215…カソード側触媒層
220…シール部材
220b…挿通口
221…アノードガス供給用貫通孔
222…アノード排ガス排出用貫通孔
223…カソードガス供給用貫通孔
224…カソード排ガス排出用貫通孔
225…冷却水供給用貫通孔
226…冷却水排出用貫通孔
310…アノード側セパレータ
311…アノードガス供給用貫通孔
312…アノード排ガス排出用貫通孔
313…カソードガス供給用貫通孔
314…カソード排ガス排出用貫通孔
315…冷却水供給用貫通孔
316…冷却水排出用貫通孔
317…ガス流路形成部
318…凸部
330…カソード側セパレータ
410…アノード側ガス拡散層
430…カソード側ガス拡散層
500…ダイオードチップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池であって、
膜電極接合体を含んで構成される発電部材と、
前記発電部材の両側にそれぞれ配置される一対のセパレータと、
前記一対のセパレータの間に配置され、両端部が前記一対のセパレータにそれぞれ電気的に接続され、前記一対のセパレータの間に負電圧が生じたときに流れる電流によって発熱する発熱回路と、を備え、
前記発熱回路は、前記発電部材と前記セパレータとの間に形成されるガス流路を加熱可能な位置に配置されている、燃料電池。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池において、
前記一対のセパレータは、前記膜電極接合体のアノード側と接触するアノード側セパレータと、前記膜電極接合体のカソード側と接触するカソード側セパレータとを含み、
前記発熱回路は、前記アノード側セパレータから前記カソード側セパレータに電流が流れるように配置されたダイオードを含んでいる、燃料電池。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の燃料電池において、
前記発電部材は、前記膜電極接合体の外周部に形成される支持部材を含み、
前記発熱回路は、前記ガス流路のうち、前記セパレータと前記支持部材との間に形成されるガス流路を加熱可能な位置に配置されている、燃料電池。
【請求項4】
請求項3に記載の燃料電池において、
前記発熱回路は、前記セパレータと前記支持部材との間に形成されるガス流路の両側にそれぞれ配置されている、燃料電池。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の燃料電池において、
前記セパレータは、前記発電部材と接触する面と反対側の面に冷媒流路を形成するための冷媒流路形成部を備え、
前記発熱回路は、前記ガス流路のうち、前記反対側の面に前記冷媒流路が形成されていないガス流路を加熱可能な位置に配置されている、燃料電池。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の燃料電池において、
前記発熱回路に電流が流れるときの前記一対のセパレータの間の負電圧が、前記膜電極接合体のアノードにおいて水電解反応が生じるときの電圧よりも大きい、燃料電池。
【請求項7】
燃料電池の検査方法であって、
膜電極接合体と、前記膜電極接合体の両側にそれぞれ配置される一対のセパレータと、前記一対のセパレータの間に負電圧が生じたときに流れる電流によって発熱する発熱回路とを備える燃料電池を準備する工程と、
前記一対のセパレータの間の抵抗値が所定値以上となるまで前記膜電極接合体を乾燥させる工程と、
前記膜電極接合体を乾燥させた前記燃料電池の前記一対のセパレータの間に電流を流したときの前記一対のセパレータの間の負電圧が所定値以上か否かによって、前記燃料電池の状態を判断する工程と、を備える検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−20795(P2013−20795A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152923(P2011−152923)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】