説明

燃料電池のクロスリーク判定方法と燃料電池システム

【課題】燃料電池のクロスリーク判定精度を向上する。
【解決手段】アノード3に水素ガスが供給されカソード4に酸素を含む空気が供給されて発電を行う燃料電池1のクロスリーク判定方法であって、燃料電池1を停止している間は遮断弁18とパージ弁22を閉じてアノード3に通じる流路を封止しておき、燃料電池1の停止後に所定時間毎に、封止されたアノード系内のアノード圧力をアノード圧力センサ33で測定し、該アノード圧力の大気圧に対する負圧値を求め、さらに、前記所定時間毎に求めた前記負圧値から最大負圧値を求め、この最大負圧値の絶対値が閾値より小さい場合に燃料電池1がクロスリークしていると判定する燃料電池のクロスリーク判定方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池のクロスリーク判定方法と、燃料電池システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子電解質膜を有し、アノードに水素(燃料ガス)が供給され、カソードに酸素(酸化剤ガス)を含む空気が供給されて発電をする燃料電池では、固体高分子電解質膜が破損してピンホール等が生じると、水素や空気がこうした破損箇所を通って固体高分子電解質膜を透過し(以下、膜破損によるリークをクロスリークという)、燃料電池の発電性能を低下させるので好ましくない。よって、固体高分子電解質膜の破損を検知することは、燃料電池の管理上、極めて重要である。
【0003】
例えば、特許文献1には、前記クロスリークを判定する方法として、燃料電池システムの低負荷時に燃料電池システム中の蓄電手段から補機等への電力供給を行い燃料電池の発電を一時休止させる間欠運転中、燃料電池の劣化を抑制する電流掃引が実施されている場合に、該電流掃引による消費水素に基づき燃料電池のアノードにおける水素圧力を補正し、補正後の水素圧力に基づいて、その圧力降下によりクロスリークの判定を行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−117251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、電流掃引に要する時間は極めて短時間であり、アノードの圧力降下時間も短いため、圧力降下を正確に検知することが困難で、その結果、判定精度が低く、誤判定をする場合があった。
【0006】
そこで、この発明は、判定精度が高い燃料電池のクロスリーク判定方法と、このクロスリーク判定方法の実施に直接使用する燃料電池システムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る燃料電池のクロスリーク判定方法と燃料電池システムでは、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
請求項1に係る発明は、
アノード(例えば、後述する実施例におけるアノード3)に燃料ガスが供給されカソード(例えば、後述する実施例におけるカソード4)に酸化剤ガスが供給されて発電を行う燃料電池(例えば、後述する実施例における燃料電池1)と、
前記燃料電池のアノードに燃料ガスを供給する燃料ガス供給手段(例えば、後述する実施例における水素タンク15等)と、
前記燃料電池のカソードに酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給手段(例えば、後述する実施例におけるコンプレッサ7等)と、
前記燃料電池のアノードに通じる流路を封止する封止手段(例えば、後述する実施例における遮断弁18、パージ弁22)と、
前記封止手段により封止されたアノード系内のアノード圧力を測定するアノード圧力測定手段(例えば、後述する実施例におけるアノード圧力センサ33)と、
システム停止中は燃料ガスが流通不可となるように前記封止手段を封止制御する制御部(例えば、後述する実施例における電子制御装置50)と、
を備える燃料電池システム(例えば、後述する実施例における燃料電池システム100)であって、
前記制御部は、
該燃料電池システムの停止後に所定時間毎に該燃料電池システムの一部を一時的に起動させるタイマー(例えば、後述する実施例におけるタイマー51)と、
前記タイマーによる起動時に前記アノード圧力測定手段を用いてアノード圧力を把握する圧力把握手段(例えば、後述する実施例における圧力把握部52)と、
前記圧力把握手段で把握したアノード圧力の大気圧に対する負圧値を求め、前記所定時間毎に求められた前記負圧値から最大負圧値を求める最大負圧値検出手段(例えば、後述する実施例における最大負圧値検出部53)と、
前記最大負圧値検出手段で求めた最大負圧値の絶対値が閾値よりも小さい場合に燃料電池がクロスリークしていると判定するクロスリーク判定手段(例えば、後述する実施例におけるクロスリーク判定部54)と、
を備えることを特徴とする燃料電池システムである。
【0008】
請求項2に係る発明は、
アノード(例えば、後述する実施例におけるアノード3)に燃料ガスが供給されカソード(例えば、後述する実施例におけるカソード4)に酸化剤ガスが供給されて発電を行う燃料電池(例えば、後述する実施例における燃料電池1)と、
前記燃料電池のアノードに燃料ガスを供給する燃料ガス供給手段(例えば、後述する実施例における水素タンク15等)と、
前記燃料電池のカソードに酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給手段(例えば、後述する実施例におけるコンプレッサ7等)と、
前記燃料電池のアノードに通じる流路を封止する封止手段(例えば、後述する実施例における遮断弁18、パージ弁22)と、
前記封止手段により封止されたアノード系内のアノード圧力を測定するアノード圧力測定手段(例えば、後述する実施例におけるアノード圧力センサ33)と、
システム停止中は燃料ガスが流通不可となるように前記封止手段を封止制御する制御部(例えば、後述する実施例における電子制御装置50)と、
を備える燃料電池システム(例えば、後述する実施例における燃料電池システム100)であって、
前記制御部は、
該燃料電池システムの停止後に所定時間毎に該燃料電池システムの一部を一時的に起動させるタイマー(例えば、後述する実施例におけるタイマー51)と、
前記タイマーによる起動時に前記アノード圧力測定手段を用いてアノード圧力を把握する圧力把握手段(例えば、後述する実施例における圧力把握部52)と、
前記圧力把握手段で把握したアノード圧力の大気圧に対する負圧値を求め、前記所定時間毎に求められた前記負圧値から最大負圧値を求める最大負圧値検出手段(例えば、後述する実施例における最大負圧値検出部53)と、
前記最大負圧値検出手段が前記最大負圧値を検出してから、前記圧力把握手段で把握したアノード圧力の大気圧に対する負圧値が大気圧から所定の範囲内に入ったときまでの時間である負圧維持時間を計測する負圧維持時間計測手段(例えば、後述する実施例における負圧維持時間計測部56)と、
前記負圧維持時間計測手段により計測された負圧維持時間が閾値以下である場合に燃料電池がクロスリークしていると判定するクロスリーク判定手段(例えば、後述する実施例におけるクロスリーク判定部54)と、
を備えることを特徴とする燃料電池システムである。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に記載の発明において、前記制御部は、前記最大負圧値検出手段により検出された最大負圧値に基づいて、燃料電池における燃料ガスのクロスリーク量を推定し、該クロスリーク量が多いほど該燃料電池システム起動時の酸化剤ガスの供給量を多くするように酸化剤ガス供給量を算出する起動時酸化剤ガス供給量算出手段(例えば、後述する実施例における起動時空気供給量算出部56)を備えることを特徴とする。
【0010】
請求項4に係る発明は、アノード(例えば、後述する実施例におけるアノード3)に燃料ガスが供給されカソード(例えば、後述する実施例におけるカソード4)に酸化剤ガスが供給されて発電を行う燃料電池(例えば、後述する実施例における燃料電池1)のクロスリークを判定する方法であって、
前記燃料電池を停止している間は前記アノードに通じる流路を封止しておき、
前記燃料電池の停止後に所定時間毎に、封止されたアノード系内のアノード圧力を測定し、該アノード圧力の大気圧に対する負圧値を求め、
さらに、前記所定時間毎に求めた前記負圧値から最大負圧値を求め、
この最大負圧値の絶対値が閾値より小さい場合に前記燃料電池がクロスリークしていると判定することを特徴とする燃料電池のクロスリーク判定方法である。
【0011】
請求項5に係る発明は、アノード(例えば、後述する実施例におけるアノード3)に燃料ガスが供給されカソード(例えば、後述する実施例におけるカソード4)に酸化剤ガスが供給されて発電を行う燃料電池(例えば、後述する実施例における燃料電池1)のクロスリークを判定する方法であって、
前記燃料電池を停止している間は前記アノードに通じる流路を封止しておき、
前記燃料電池の停止後に所定時間毎に、封止されたアノード系内のアノード圧力を測定し、該アノード圧力の大気圧に対する負圧値を求め、
さらに、前記所定時間毎に求めた前記負圧値から最大負圧値を求め、
前記アノード圧力が最大負圧値となったときから、前記アノード圧力の大気圧に対する負圧値が大気圧から所定の範囲内に入ったときまでの時間である負圧維持時間を計測し、
この負圧維持時間が閾値以下である場合に燃料電池がクロスリークしていると判定することを特徴とする燃料電池のクロスリーク判定方法である。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明によれば、燃料電池システムの停止中に所定時間毎に燃料電池システムを一時的に起動してクロスリーク判定を行うので、燃料電池システムの消費電力を低減することができる。また、外乱がない状態でアノード圧力を検出することができるので、クロスリーク判定の精度が高く、誤判定をなくすことができる。
【0013】
請求項2に係る発明によれば、燃料電池システムの停止中に所定時間毎に燃料電池システムを一時的に起動してクロスリーク判定を行うので、燃料電池システムの消費電力を低減することができる。また、外乱がない状態でアノード圧力を検出することができるので、クロスリーク判定の精度が高く、誤判定をなくすことができる。
【0014】
請求項3に係る発明によれば、燃料電池にクロスリークが生じている場合にも、燃料電池システムの起動時に排出されるガス中の燃料ガス濃度を許容範囲内に収めることができる。また、希釈用の酸化剤ガスの過剰供給を防止することができる。
【0015】
請求項4に係る発明によれば、燃料電池の停止中に所定時間毎にアノード圧力を測定しクロスリーク判定を行うので、外乱がない状態でアノード圧力を検出することができ、その結果、クロスリーク判定の精度を高めることができ、誤判定をなくすことができる。
【0016】
請求項5に係る発明によれば、燃料電池の停止中に所定時間毎にアノード圧力を測定しクロスリーク判定を行うので、外乱がない状態でアノード圧力を検出することができ、その結果、クロスリーク判定の精度を高めることができ、誤判定をなくすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明に係る燃料電池システムの実施例1における概略構成図である。
【図2】この発明に係る燃料電池のクロスリーク判定の原理を説明する図である。
【図3】この発明に係る燃料電池システムの実施例2における電子制御装置の構成図である。
【図4】実施例1および実施例2における燃料電池システムの停止から起動までのフローチャートである
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明に係る燃料電池のクロスリーク判定方法と、このクロスリーク判定方法の実施に直接使用する燃料電池システムの実施例を図1から図4の図面を参照して説明する。なお、以下に説明する各実施例における燃料電池システムは燃料電池車両に搭載された態様であり、燃料電池車両は、燃料電池システムの燃料電池で発電した電気で走行用駆動モータを駆動し走行する。
【0019】
<実施例1>
図1は、実施例1における燃料電池システム100の概略構成図である。
燃料電池1は、例えば固体ポリマーイオン交換膜等からなる固体高分子電解質膜2をアノード3とカソード4とで両側から挟み込んで形成されたセルを複数積層して構成されており(図示の都合上、図1では単セルのみ示す)、アノード3に燃料ガスとして水素ガスを供給し、カソード4に酸化剤ガスとして酸素を含む空気を供給すると、アノード3で触媒反応により発生した水素イオンが、固体高分子電解質膜2を通過してカソード4まで移動して、カソード4で空気中の酸素と電気化学反応を起こして発電をする。
【0020】
空気はスーパーチャージャーなどのコンプレッサ7により所定圧力に加圧され、空気供給流路8を通って燃料電池1内の酸化剤流通路6に導入され、各セルのカソード4に供給される。燃料電池1に供給された空気は発電に供された後、燃料電池1から空気排出流路9に排出され、圧力制御弁10を介して希釈ボックス11へ排出される。この実施例1において、コンプレッサ7、空気供給流路8は、酸化剤ガス供給手段を構成する。
【0021】
一方、水素タンク15から供給される水素ガスは水素ガス供給流路16を介して燃料電池1内の燃料流通路5に導入され、各セルのアノード3に供給される。水素ガス供給流路16には、上流側から順に、ガス供給弁17、遮断弁18、レギュレータ19、エゼクタ20が設けられており、水素タンク15から供給された水素ガスはレギュレータ19によって所定圧力に減圧されて燃料電池1の燃料流通路5に供給される。そして、消費されなかった未反応の水素ガスは、燃料電池1からアノードオフガスとして排出され、アノードオフガス流路21を通ってエゼクタ20に吸引され、水素タンク15から供給される新鮮な水素ガスと合流し再び燃料電池1の燃料流通路5に供給される。すなわち、燃料電池1から排出されるアノードオフガスは、アノードオフガス流路21、およびエゼクタ20よりも下流の水素ガス供給流路16を通って、燃料電池1を循環する。この実施例1において、水素タンク15、水素ガス供給流路16、エゼクタ20、アノードオフガス流路21は、燃料ガス供給手段を構成する。
【0022】
エゼクタ20よりも下流の水素ガス供給流路16には、燃料電池1のアノード3に供給される水素ガスの圧力を検出するためのアノード圧力センサ(アノード圧力測定手段)33と、該水素ガスの温度を検出するための温度センサ34が設けられており、アノード圧力センサ33と温度センサ34は、それぞれ検出値に応じた電気信号を電子制御装置50に出力する。なお、アノード圧力センサ33で検出される水素ガスの圧力は、燃料電池1のアノード3における水素ガス圧力と殆ど同圧であり、この実施例1ではアノード圧力センサ33によってアノード圧力を検知している。
【0023】
また、アノードオフガス流路21からは、パージ弁22を備えたパージ流路23が分岐し、希釈ボックス11に接続されている。
パージ弁22は、燃料電池1の発電時において、通常は閉じており、所定の条件が満たされたときに開いて、アノードオフガス中に含まれる不純物をアノードオフガスとともに希釈ボックス11へ排出する。
また、希釈ボックス11には空気供給流路8から分岐した希釈ガス流路31が接続されている。希釈ガス流路31に設けられた開閉弁32は、燃料電池1を通さずに希釈ガス(空気)を希釈ボックス11に供給する場合に開かれる。
【0024】
そして、パージ流路23を介して希釈ボックス11に排出されたアノードオフガスは、空気排出流路9または希釈ガス流路31を介して希釈ボックス11に流入する空気によって希釈され、希釈されたガスが希釈ボックス11から排気管33を介して大気に排出される。
【0025】
電子制御装置(制御部)50は、スタートスイッチ35から入力したオン・オフ信号に基づいて燃料電池システム100の起動・停止を制御し、燃料電池1の出力制御等、制御内容に応じて、コンプレッサ7、圧力制御弁10、ガス供給弁17、遮断弁18、パージ弁22、開閉弁32等を制御する。なお、図1ではこれらの制御信号線を省略している。
【0026】
この燃料電池システム100では、電子制御装置50は、燃料電池システム100の停止時に遮断弁18とパージ弁22を閉じる制御を行い、アノード系の流路を封止して、燃料電池1のアノード3側に所定圧力の水素ガスを封じ込めた状態にする。なお、カソード系の流路については、燃料電池システム停止によりコンプレッサ7が停止されるが、特に封止することはなく、コンプレッサ7を介して大気開放の状態とする。この実施例1において、遮断弁18とパージ弁22は封止手段を構成する。
【0027】
また、この燃料電池システム100では、電子制御装置50が、燃料電池システム100の停止後に自動的に、燃料電池1の固体高分子電解質膜2の破損により水素ガスがクロスリークしているか否かの判定(以下、クロスリーク判定と略す)を行う。
【0028】
ここで、クロスリーク判定の原理を図2の図面を参照して説明する。
図2は燃料電池システム停止時にアノード系の流路を封止した状態でシステム停止状態を保持したときに、燃料電池1のアノード3におけるアノード圧力が時間経過とともにどの様に変化するかを調べた実験結果である。
燃料電池1の固体高分子電解質膜2は、破損していない正常な状態においても、微量ながらガスが透過することが知られている。以下、正常な固体高分子電解質膜におけるガスの透過をクロスオーバーと称し、膜破損に起因するクロスリークと区別する。また、固体高分子電解質膜2は、空気よりも水素ガスの方が透過し易いことも知られている。
【0029】
この固体高分子電解質膜2の特性により、燃料電池システム停止時のアノード圧力を大気圧よりも若干高くしてアノード系の流路を封止しておいても、燃料電池1の固体高分子電解質膜2が正常な場合には、初めにアノード3側の水素ガスが固体高分子電解質膜2をクロスオーバーしてカソード4側へ移動するため、アノード圧力が時間経過にしたがって徐々に低下していき、大気圧よりも低い負圧値まで下がっていく。このように負圧値となるのは、水素ガスの膜透過性が良いことによる。そして、ある程度まで水素のクロスオーバーが進行してアノード3側が最大負圧値に達すると、今度はカソード4側の空気が固体高分子電解質膜2をクロスオーバーしてアノード3側へ移動していくようになり、その結果、アノード圧力は徐々に上昇し、最終的にカソード4側の圧力、すなわち大気圧と平衡となる。
【0030】
これに対して、固体高分子電解質膜2の破損によりクロスリークが生じているときには、燃料電池システム停止時におけるアノード圧力値が同じであっても、水素ガスのクロスオーバーによってアノード3側に生じる負圧状態を、破損部分があるために保持することができなくなり、アノード圧力の最大負圧値が小さくなり(最大負圧値の絶対値が小さくなり)、その後、直ぐに大気圧に近づいき大気圧と平衡となる。また、クロスリークが生じていると、カソード4側への水素ガスの移動量が多くなる。
【0031】
そして、クロスリークの程度の異なる固体高分子電解質膜2に対して上記実験を多数行った結果、クロスリークが大きいほど、アノード圧力の最大負圧値の絶対値が小さくなること(換言すると、大気圧に近くなること)、および、アノード圧力が最大負圧値から大気圧と平衡となるまでの時間が短くなることが判明した。また、クロスリークの程度(固体高分子電解質膜2の破損程度)が大きいほど、カソード4側への水素ガスの移動量が大きいことが判明した。
そこで、アノード圧力の最大負圧値の絶対値が閾値以下である場合には燃料電池1においてクロスリークが生じていると判定する(実施例1)。あるいは、アノード圧力が最大負圧値から大気圧(あるいは大気圧から所定範囲内の圧力)と平衡となるまでの時間が閾値以下である場合には、燃料電池1においてクロスリークが生じていると判定する(後述する実施例2)。
【0032】
このクロスリーク判定を行うために、実施例1の電子制御装置50は、タイマー51と、圧力把握部(圧力把握手段)52と、最大負圧値検出部(最大負圧値検出手段)53と、クロスリーク判定部(クロスリーク判定手段)54とを備えている。
タイマー51は、燃料電池システム100の停止中に所定時間毎に燃料電池システム100の一部を一時的に起動させるためのタイマーであり、燃料電池システム100の停止中、電子制御装置50のタイマー51だけは作動している。このように、燃料電池システム100の停止中に所定時間毎に一時的に燃料電池システム100の一部を起動させる制御をRTC(Real Time Clock)制御と称す。
【0033】
圧力把握手段52は、前記タイマー51のタイムアップにより燃料電池システム100のを一部を一時的に起動させたときに、アノード圧力センサ33により検出したアノード圧力を取り込む。
最大負圧値検出部53は、圧力把握手段52で把握したアノード圧力の大気圧に対する負圧値を求め、所定時間毎に求められたアノード圧力の負圧値から最大負圧値を求める。詳述すると、最大負圧値検出部53は、圧力把握手段52に取り込まれたアノード圧力の大気圧に対する負圧値を求め、この負圧値(以下、今回負圧値という)と、前回のRTC制御において最大負圧値検出部53が求めた負圧値(以下、前回負圧値という)とを比較し、今回負圧値の絶対値が前回負圧値の絶対値よりも大きい場合には、今回負圧値を前回負圧値に置き換えて記憶し、今回負圧値の絶対値が前回負圧値の絶対値よりも小さい場合には、前回負圧値を最大負圧値として判定する。
【0034】
クロスリーク判定部54は、最大負圧値検出部53で求めた最大負圧値の絶対値が閾値よりも小さい場合に、燃料電池2が固体高分子電解質膜2の破損によりクロスリークしていると判定し、最大負圧値検出部53で求めた最大負圧値の絶対値が前記閾値以上の場合には、燃料電池1はクロスリークしていないと判定する。
【0035】
つまり、この実施例1では、燃料電池1を停止している間はアノード3に通じる流路を封止しておき、燃料電池1の停止後に所定時間毎に、封止されたアノード系内のアノード圧力を測定し、該アノード圧力の大気圧に対する負圧値を求め、さらに、前記所定時間毎に求めた前記負圧値から最大負圧値を求め、この最大負圧値の絶対値が閾値より小さい場合に燃料電池1がクロスリークしていると判定する。
【0036】
この実施例1の燃料電池システム100および燃料電池のクロスリーク判定方法によれば、燃料電池システム100の停止中のRTC起動によりクロスリーク判定を行うので、燃料電池システム100の消費電力を低減することができる。また、外乱がない状態でアノード圧力を検出することができるので、クロスリーク判定精度が高く、誤判定をなくすことができる。
【0037】
そして、電子制御装置50は、クロスリーク判定部54がクロスリークであると判定した場合には、燃料電池システム100の起動前に図示しない警報手段により警報を発する。なお、クロスリーク判定部54によりクロスリークであると判定された回数が所定回数となったときに、初めて警報を発するようにしてもよい。
また、電子制御装置50は、起動時空気供給量算出部(起動時酸化剤ガス供給量算出手段)55を備えている。起動時空気供給量算出部55は、クロスリーク判定部54がクロスリークであると判定した場合には、最大負圧値検出部53により検出された最大負圧値に基づいてアノード3側からカソード4側へクロスリークした水素ガス量を、予め求めておいたマップ等を参照して推定し、推定されたクロスリーク量が多いほど燃料電池システム100の起動時における供給空気量が多くなるように、燃料電池システム起動時の供給空気量を算出する。
【0038】
そして、電子制御装置30は、クロスリーク判定部54によって燃料電池1がクロスリークしていると判定された後の燃料電池システム起動時に、起動時空気供給量算出部55で算出された空気量の供給空気が燃料電池1のカソード4に供給されるように、コンプレッサ7を制御する。これにより、カソード4側にクロスリークした水素を、正常時よりも多量に供給される供給空気によって、希釈ボックス11において許容水素濃度まで希釈することができ、且つ、希釈用の空気の過剰供給を防止することができる。なお、この場合、希釈ガス流路31の開閉弁32を開き、供給空気の増量分を希釈ガス流路31を介して希釈ボックス11に導入するようにしてもよい。
【0039】
また、電子制御装置30は、燃料電池システム100の起動時にパージ弁22を開いて水素ガスを排出する場合には、供給空気量の前記増量制御の実施と同時に、パージ弁22から排出される水素ガスの排出量を低減するようにパージ弁の開度制御を行う。これにより、パージ弁22から排出される水素ガスを、希釈ボックス11において許容水素濃度まで希釈することができる。
【0040】
<実施例2>
次に、この発明に係る燃料電池のクロスリーク判定方法と燃料電池システム100の実施例2を図3の図面を参照して説明する。
実施例2では、前述したように、アノード圧力が最大負圧値から大気圧(あるいは大気圧から所定範囲内の圧力)と平衡となるまでの時間が閾値以下である場合に、燃料電池1においてクロスリークが生じていると判定する。
【0041】
この実施例2の燃料電池システム100が実施例1の燃料電池システム100と相違する点は、電子制御装置50の構成にある。その他の構成は実施例1と同じであるので、該その他の構成については図1を援用して説明を省略する。
図3は、実施例2における電子制御装置50の構成図である。実施例2の電子制御装置50は、実施例1の電子制御装置50の構成に加えて、負圧維持時間計測部(負圧維持時間計測手段)56をさらに有している。
タイマー51、圧力把握部52、最大負圧値検出部53、起動時空気供給量算出部55については、実施例1の電子制御装置50におけるものと同じであるので説明を省略する。
【0042】
負圧維持時間計測部56は、最大負圧値検出部53が最大負圧値を検出してから、アノード圧力の大気圧に対する負圧値が、大気圧あるいは大気圧から所定範囲内の圧力と等圧となるまでの時間である負圧維持時間を計測する。詳述すると、最大負圧値検出部53が最大負圧値を検出した後も、タイマー51によるRTC起動時に、圧力把握手段52で把握したアノード圧力の大気圧に対する負圧値を求め、この負圧値と大気圧との差圧が所定の閾値以下となるまでアノード圧力の負圧値を求め続ける。ここで、大気圧との差圧が所定の閾値となるアノード圧力の負圧値とは、負圧維持時間の判断に利用できる大気圧付近の圧力である。そして、負圧維持時間計測部56は、最大負圧値検出部53が最大負圧値を検出してから、アノード圧力の負圧値と大気圧との差圧が前記閾値以下となるまでに要した時間、すなわち負圧維持時間を計測する。
【0043】
クロスリーク判定部54は、負圧維持時間計測部56により計測された負圧維持時間が閾値以下である場合に、燃料電池1にクロスリークが生じていると判定し、負圧維持時間計測部56により計測された負圧維持時間が前記閾値を越える場合には、燃料電池1にクロスリークが生じていないと判定する。
【0044】
つまり、この実施例2では、燃料電池1を停止している間はアノード3に通じる流路を封止しておき、燃料電池1の停止後に所定時間毎に、封止されたアノード系内のアノード圧力を測定し、該アノード圧力の大気圧に対する負圧値を求め、さらに、前記所定時間毎に求めた前記負圧値から最大負圧値を求め、アノード圧力が最大負圧値となったときから、アノード圧力の大気圧に対する負圧値が大気圧から所定の範囲内に入ったときまでの時間である負圧維持時間を計測し、この負圧維持時間が閾値以下である場合に燃料電池1がクロスリークしていると判定する。
【0045】
この実施例2の燃料電池システム100および燃料電池のクロスリーク判定方法によれば、燃料電池システム100の停止中のRTC起動によりクロスリーク判定を行うので、燃料電池システム100の消費電力を低減することができる。また、外乱がない状態でアノード圧力を検出することができるので、クロスリーク判定精度が高く、誤判定をなくすことができる。
【0046】
図4は、実施例1および実施例2における燃料電池システム100の停止から起動までのフローチャートである。
スタートスイッチ35のオフ信号により燃料電池システム100が停止されると、RTC制御が開始され(ステップS101)、タイマー51が所定時間を計時する毎に、前述したクロスリーク判定処理が実行される(ステップS102)。
次に、起動時に供給空気量を増量する必要があるか否かの起動時供給空気量増加判定処理を行い、供給空気量の増量が必要な場合には増加量を算出する(ステップS103)。すなわち、クロスリークありと判断された場合には、燃料電池システム100の起動時に供給空気量を増量する必要があるので、増加量を算出し、クロスリークなしと判断された場合には、燃料電池システム100の起動時に供給空気量を増量する必要はないので、増加量を算出しない。
【0047】
次に、ステップS104において、燃料電池システム100が停止中か否かを判定し、停止中である場合にはステップS101に戻る。
一方、燃料電池システム100が停止中でない場合には、燃料電池システム100が起動開始となり(ステップS105)、燃料電池1のアノード3側に封止されていた水素ガスの排出に対して、空気供給による希釈処理を行う(ステップS106)。この希釈処理において、ステップS103において供給空気の増加量が算出されている場合には、その増加量による供給空気で希釈処理を実行する。
希釈処理の終了後、燃料電池1における発電を開始する(ステップS107)。
【0048】
〔他の実施例〕
なお、この発明は前述した実施例に限られるものではない。
例えば、アノード圧力を求める際に、アノード圧力センサ33で検出されたアノード圧力に対して、温度センサ34で検出された温度に基づき温度補正をしてアノード圧力を求めるようにすると、クロスリークの判定精度をさらに高めることができる。
また、前述した各実施例では、アノード圧力センサ33で検出されたアノード圧力から負圧値を求めているが、アノード圧の負圧値を直接検出するアノード圧力測定手段(例えば真空計)を用いてもよい。
また、燃料電池システムの停止後に燃料電池のカソード側の圧力(以下、カソード圧力という)が負圧になる場合には、前述した各実施例においてアノード圧力に代えてカソード圧力を用いることも可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 燃料電池
3 アノード
4 カソード
7 コンプレッサ(酸化剤ガス供給手段)
8 空気供給流路(酸化剤ガス供給手段)
15 水素タンク(燃料ガス供給手段)
16 水素ガス供給流路(燃料ガス供給手段)
20 エゼクタ(燃料ガス供給手段)
21 アノードオフガス流路(燃料ガス供給手段)
18 遮断弁(封止手段)
22 パージ弁(封止手段)
33 アノード圧力センサ(アノード圧力測定手段)
50 電子制御装置(制御部)
51 タイマー
52 圧力把握部(圧力把握手段)
53 最大負圧値検出部(最大負圧値検出手段)
54 クロスリーク判定部(クロスリーク判定手段)
55 起動時空気供給量算出部(起動時酸化剤ガス供給量算出手段)
56 負圧維持時間計測部(負圧維持時間計測手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードに燃料ガスが供給されカソードに酸化剤ガスが供給されて発電を行う燃料電池と、
前記燃料電池のアノードに燃料ガスを供給する燃料ガス供給手段と、
前記燃料電池のカソードに酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給手段と、
前記燃料電池のアノードに通じる流路を封止する封止手段と、
前記封止手段により封止されたアノード系内のアノード圧力を測定するアノード圧力測定手段と、
システム停止中は燃料ガスが流通不可となるように前記封止手段を封止制御する制御部と、
を備える燃料電池システムであって、
前記制御部は、
該燃料電池システムの停止後に所定時間毎に該燃料電池システムの一部を一時的に起動させるタイマーと、
前記タイマーによる起動時に前記アノード圧力測定手段を用いてアノード圧力を把握する圧力把握手段と、
前記圧力把握手段で把握したアノード圧力の大気圧に対する負圧値を求め、前記所定時間毎に求められた前記負圧値から最大負圧値を求める最大負圧値検出手段と、
前記最大負圧値検出手段で求めた最大負圧値の絶対値が閾値よりも小さい場合に燃料電池がクロスリークしていると判定するクロスリーク判定手段と、
を備えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
アノードに燃料ガスが供給されカソードに酸化剤ガスが供給されて発電を行う燃料電池と、
前記燃料電池のアノードに燃料ガスを供給する燃料ガス供給手段と、
前記燃料電池のカソードに酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給手段と、
前記燃料電池のアノードに通じる流路を封止する封止手段と、
前記封止手段により封止されたアノード系内のアノード圧力を測定するアノード圧力測定手段と、
システム停止中は燃料ガスが流通不可となるように前記封止手段を封止制御する制御部と、
を備える燃料電池システムであって、
前記制御部は、
該燃料電池システムの停止後に所定時間毎に該燃料電池システムの一部を一時的に起動させるタイマーと、
前記タイマーによる起動時に前記アノード圧力測定手段を用いてアノード圧力を把握する圧力把握手段と、
前記圧力把握手段で把握したアノード圧力の大気圧に対する負圧値を求め、前記所定時間毎に求められた前記負圧値から最大負圧値を求める最大負圧値検出手段と、
前記最大負圧値検出手段が前記最大負圧値を検出してから、前記圧力把握手段で把握したアノード圧力の大気圧に対する負圧値が大気圧から所定の範囲内に入ったときまでの時間である負圧維持時間を計測する負圧維持時間計測手段と、
前記負圧維持時間計測手段により計測された負圧維持時間が閾値以下である場合に燃料電池がクロスリークしていると判定するクロスリーク判定手段と、
を備えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項3】
前記制御部は、
前記最大負圧値検出手段により検出された最大負圧値に基づいて、燃料電池における燃料ガスのクロスリーク量を推定し、該クロスリーク量が多いほど該燃料電池システム起動時の酸化剤ガスの供給量を多くするように酸化剤ガス供給量を算出する起動時酸化剤ガス供給量算出手段を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
アノードに燃料ガスが供給されカソードに酸化剤ガスが供給されて発電を行う燃料電池のクロスリークを判定する方法であって、
前記燃料電池を停止している間は前記アノードに通じる流路を封止しておき、
前記燃料電池の停止後に所定時間毎に、封止されたアノード系内のアノード圧力を測定し、該アノード圧力の大気圧に対する負圧値を求め、
さらに、前記所定時間毎に求めた前記負圧値から最大負圧値を求め、
この最大負圧値の絶対値が閾値より小さい場合に前記燃料電池がクロスリークしていると判定することを特徴とする燃料電池のクロスリーク判定方法。
【請求項5】
アノードに燃料ガスが供給されカソードに酸化剤ガスが供給されて発電を行う燃料電池のクロスリークを判定する方法であって、
前記燃料電池を停止している間は前記アノードに通じる流路を封止しておき、
前記燃料電池の停止後に所定時間毎に、封止されたアノード系内のアノード圧力を測定し、該アノード圧力の大気圧に対する負圧値を求め、
さらに、前記所定時間毎に求めた前記負圧値から最大負圧値を求め、
前記アノード圧力が最大負圧値となったときから、前記アノード圧力の大気圧に対する負圧値が大気圧から所定の範囲内に入ったときまでの時間である負圧維持時間を計測し、
この負圧維持時間が閾値以下である場合に燃料電池がクロスリークしていると判定することを特徴とする燃料電池のクロスリーク判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−133997(P2012−133997A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−284908(P2010−284908)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】