説明

燃料電池の水処理装置及び燃料電池の水処理方法

【課題】本発明の目的は、被処理水中に含まれる炭酸ガスをイオン交換樹脂に依らずに処理することができる燃料電池用の水処理装置及び燃料電池の水処理方法を提供することにある。
【解決手段】本発明は、イオン交換樹脂を用いた燃料電池の水処理装置であって、イオン交換基を有しない疎水性粒子を含む気液分離部が前記イオン交換樹脂の上流側に設置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン交換樹脂を用いた燃料電池の水処理装置の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池には、水素が必要であり、都市ガスや天然ガス等から水素を製造するためは、その改質工程において水が必要である。また、燃料電池の冷却や、固体高分子型燃料電池の高分子膜の加湿等にも水が利用されている。
【0003】
このような燃料電池の運転に必要な水としては、例えば、燃料電池の発電反応により生じる凝縮水を処理することにより得られる処理水(純水)等が利用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
燃料電池から排出される凝縮水中には、炭酸イオン及び炭酸水素イオン(以下、炭酸イオン等または単に炭酸という)等の不純物イオンが含まれている。そして、凝縮水中の炭酸は、温度や圧力等の周囲状況の変化や気液分離の不良等により気泡(主に炭酸ガス)となる。
【0005】
そして、イオン交換樹脂を備える水処理装置内で上記気泡が発生すると、以下のような問題が起こりえる。1つは、イオン交換樹脂周辺で気泡が発生すると、イオン交換樹脂と凝縮水との接触が気泡により妨げられ、十分なイオン交換反応が行えなくなる。このような状態になると、水処理装置は所定の水処理性能を発揮することができず、処理水質が悪化する可能性がある。2つ目は、水処理装置内で気泡溜まりができると、その気泡を系外へ押し出すことができず、流量低下を引き起こす可能性がある。なお、水処理装置へ凝縮水を供給するポンプの出力を高くし、気泡を系外へ押し出すことも可能であるが、一般的に、燃料電池ではエネルギ効率を高めるため、燃料電池で使用する部品の使用電気量を極力少なくすることが望まれることから、凝縮水を供給するポンプ等の出力は低く設定されており、ポンプの出力を高くすることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−17457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、燃料電池は長期運用を目標に開発が進められているため、その燃料電池に用いる水処理装置も同様に、長期運用が期待される。しかし、水処理装置内に気泡が発生すると上記のような問題が発生するおそれがあり、長期運用に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0008】
この点、気泡発生を見込んで、イオン交換樹脂の充填量を増やして、気泡の原因となる炭酸イオン、炭酸水素イオンを除去する方法等が考えられるが、水処理に係るコスト増につながり、実質的な対策ではない。
【0009】
そこで、本発明の目的は、被処理水中に含まれる炭酸ガスをイオン交換樹脂に依らずに処理することができる燃料電池用の水処理装置及び燃料電池の水処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、イオン交換樹脂を用いた燃料電池の水処理装置であって、イオン交換基を有しない疎水性粒子を含む気液分離部が前記イオン交換樹脂の上流側に設置される。
【0011】
また、前記燃料電池の水処理装置において、前記イオン交換基を有しない疎水性粒子と前記イオン交換樹脂とは、同一の充填塔内に充填されることが好ましい。
【0012】
また、前記燃料電池の水処理装置において、前記イオン交換基を有しない疎水性粒子と前記イオン交換樹脂とは、別々の充填塔内に充填されることが好ましい。
【0013】
また、前記燃料電池の水処理装置において、前記イオン交換基を有しない疎水性粒子の比重は炭酸ガス含有液よりも軽いことが好ましい。
【0014】
また、前記燃料電池の水処理装置において、前記イオン交換基を有しない疎水性粒子の真比重は、1.04以下であることが好ましい。
【0015】
また、前記燃料電池の水処理装置において、前記イオン交換基を有しない疎水性粒子の水に対する接触角は、68°以上であることが好ましい。
【0016】
また、前記燃料電池の水処理装置において、前記イオン交換基を有しない疎水性粒子の表面積/体積は、0.5m−1以上であることが好ましい。
【0017】
また、前記燃料電池の水処理装置において、前記イオン交換基を有しない疎水性粒子が充填された充填塔内の被処理水の滞留時間は0.5分〜100分の範囲であることが好ましい。
【0018】
また、前記燃料電池の水処理装置において、前記イオン交換基を有しない疎水性粒子が充填された充填塔内を冷却する冷却手段を有することが好ましい。
【0019】
また、本発明は、イオン交換樹脂を用いた燃料電池の水処理方法であって、前記イオン交換樹脂の上流側にイオン交換基を有しない疎水性粒子を含む気液分離部を設置し、燃料電池から排出される凝縮水を前記気液分離部に通水させた後、前記イオン交換樹脂に通水させる。
【0020】
また、前記燃料電池の水処理方法において、前記イオン交換基を有しない疎水性粒子と前記イオン交換樹脂とを同一の充填塔内に充填することが好ましい。
【0021】
また、前記燃料電池の水処理方法において、前記イオン交換基を有しない疎水性粒子と前記イオン交換樹脂とを別々の充填塔内に充填することが好ましい。
【0022】
また、前記燃料電池の水処理方法において、前記イオン交換基を有しない疎水性粒子の比重は、炭酸ガス含有液よりも軽いことが好ましい。
【0023】
また、前記燃料電池の水処理装置の製造方法において、前記イオン交換基を有しない疎水性粒子の真比重は、1.04以下であることが好ましい。
【0024】
また、前記燃料電池の水処理方法において、前記イオン交換基を有しない疎水性粒子の水に対する接触角は、68°以上であることが好ましい。
【0025】
また、前記燃料電池の水処理方法において、前記イオン交換基を有しない疎水性粒子の表面積/体積は、0.5m−1以上であることが好ましい。
【0026】
また、前記燃料電池の水処理装置の製造方法において、前記イオン交換基を有しない疎水性粒子が充填された充填塔内の被処理水の滞留時間を0.5分〜100分の範囲とすることが好ましい。
【0027】
また、前記燃料電池の水処理方法において、前記イオン交換基を有しない疎水性粒子が充填された充填塔内を冷却することが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、被処理水中に含まれる炭酸ガスをイオン交換樹脂に依らず処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態に係る燃料電池システムの構成の一例を示す模式図である。
【図2】本発明の実施形態に係る燃料電池の水処理装置の構成の一例を示す模式図である。
【図3】本発明の他の実施形態に係るカートリッジ(充填塔)の構成の一例を示す模式図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係るカートリッジ(充填塔)の構成の一例を示す模式図である。
【図5】本発明の他の実施形態に係るカートリッジ(充填塔)の構成の一例を示す模式図である。
【図6】本発明の他の実施形態に係るカートリッジ(充填塔)の構成の一例を示す模式図である。
【図7】本発明の他の実施形態に係るカートリッジ(充填塔)の構成の一例を示す模式図である。
【図8】(a),(b)は、カートリッジの構成の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0031】
図1は、本発明の実施形態に係る燃料電池システムの構成の一例を示す模式図である。図1に示す燃料電池システム1は、燃料電池10、イオン交換樹脂を用いた燃料電池の水処理装置12、熱交換器14、凝縮水タンク16、吐出ポンプ18a,18b、処理水タンク20、空気供給ライン22、燃料供給ライン24、水供給ライン26a,26b、循環ライン28、大気放出ライン30、温水供給ライン32を備える。
【0032】
燃料電池10には、空気供給ライン22、燃料供給ライン24、水供給ライン26aが接続されている。また、燃料電池10の凝縮水排出口(不図示)からの凝縮水を循環させる循環ライン28が水供給ライン26aに接続されている。水供給ライン26bは熱交換器14の供給口に接続され、温水供給ライン32は熱交換器14の排出口に接続されている。
【0033】
循環ライン28には、上流側から順に熱交換器14、凝縮水タンク16、吐出ポンプ18a、燃料電池の水処理装置12、処理水タンク20、吐出ポンプ18bが介装されている。また、熱交換器14と凝縮水タンク16間の循環ライン28には、大気放出ライン30が接続されている。
【0034】
図2は、本発明の実施形態に係る燃料電池の水処理装置の構成の一例を示す模式図である。図2に示すように、燃料電池の水処理装置12は、イオン交換樹脂から構成されるイオン交換部34、イオン交換基を有しない疎水性粒子から構成される気液分離部36、イオン交換樹脂等が充填されるカートリッジ38(充填塔)、排気ライン40を備える。イオン交換基を有しない疎水性粒子から構成された気液分離部36及びイオン交換樹脂から構成されたイオン交換部34は、カートリッジ38内に形成されている。
【0035】
図2の燃料電池の水処理装置12では、イオン交換基を有しない疎水性粒子及びイオン交換樹脂が同一のカートリッジ38内に充填されており、イオン交換部34の上に気液分離部36が配置されている。本実施形態では、イオン交換基を有しない疎水性粒子とイオン交換樹脂とが混ざり合わないように、気液分離部36とイオン交換部34との間に、仕切り板を設けてもよい。なお、該仕切り板を設ける場合には、被処理水(凝縮水)が通水可能な網目状とする必要がある。
【0036】
イオン交換基を有しない疎水性粒子及びイオン交換樹脂の配置は、図2の燃料電池の水処理装置12に制限されるものではなく、イオン交換基を有しない疎水性粒子から構成される気液分離部36が、イオン交換樹脂から構成されるイオン交換部34の上流側に配置されていればよい。
【0037】
排気ライン40は、凝縮水から分離した気泡(主に炭酸ガス)を燃料電池の水処理装置12の系外へ排出するためのものであり、カートリッジ38より上流側の循環ライン28、又はカートリッジ38の天盤等に設けられる。なお、排気ライン40の代わりに、排気口、排気弁等、気泡を系外へ排出することができれば、どのような排気構造であってもよい。
【0038】
本実施形態において、循環ライン28と処理水タンク20の供給口(不図示)との接続部42は、気液分離部36とイオン交換部34との境界から排気ライン40の排気口までの範囲(図2に示すL)に設けることが好ましい。接続部42を上記範囲外に設置すると、気液分離部内で発生した気泡を系外へ排出することが困難となり、カートリッジ内の液面低下やイオン交換部で気泡が発生する場合がある。
【0039】
次に、燃料電池システム1の動作を説明する。空気(酸素を含んでいる)及び燃料ガス(例えば都市ガス)が、それぞれ空気供給ライン22、燃料供給ライン24から燃料電池10に供給される。また、水道水(及び燃料電池の水処理装置12により処理された処理水)は、水供給ライン26aから燃料電池10に供給される。水供給ライン26aから燃料電池10に供給される水は、例えば、燃料電池の冷却、固体高分子型燃料電池の場合には高分子膜の加湿等、固体酸化物型燃料電池の場合には、都市ガスなどを一酸化炭素(CO)と水素ガス(H)とに改質する工程等に利用される。そして、燃料電池10に空気、燃料ガス、水の供給されることにより発電し、燃料電池10から電力が出力される。
【0040】
燃料電池10の発電により生じる凝縮水は、循環ライン28を通り、一旦凝縮水タンク16に貯留され、吐出ポンプ18aにより燃料電池の水処理装置12に供給される。燃料電池の水処理装置12に供給される凝縮水中には、例えば、炭酸(炭酸イオン、炭酸水素イオン)、塩化物イオン、硫酸イオン等の不純物イオンが含まれている。そして、凝縮水中の炭酸は、温度や圧力等の周囲状況の変化や気液分離の不良等により気泡(主に炭酸ガス)となる。
【0041】
本実施形態では、凝縮水がカートリッジ38内の気液分離部36を通過する際に、凝縮水から気泡を発生させ、分離させる。これは、イオン交換基を有しない疎水性粒子が、水との親和性が低いという疎水性の機能を有することによるものである。すなわち、イオン交換基を有しない疎水性粒子は、水とのなじみよりガスとのなじみの方がよいため、イオン交換基を有しない疎水性粒子と凝縮水とが接触すると、凝縮水中の過飽和の炭酸が疎水性粒子表面にトラップされ、大きな気泡に成長するためである。
【0042】
そして、分離された気泡は、排気ライン40から燃料電池の水処理装置12の系外へ排出される。一方、気泡が除去された凝縮水は、イオン交換部34を通過する。そして、イオン交換部34を構成するイオン交換樹脂により、凝縮水中の不純物イオンが除去される。本実施形態では、凝縮水中の気泡はほとんど除去されているため、イオン交換樹脂と凝縮水との接触が気泡により妨げられることはなく、イオン交換樹脂のイオン交換性能の低下を防止することができる。
【0043】
そして、不純物イオンが除去された凝縮水(処理水)は、一旦処理水タンク20に貯留され、吐出ポンプ18bにより、循環ライン28から水供給ライン26aに送液されて、燃料電池10に供給される。
【0044】
なお、燃料電池10は、高温で発電が行われるため、熱交換器14による発電排熱と、循環ライン28から供給される凝縮水や水供給ライン26bから供給される水道水等と熱交換して、温水供給ライン32から温水を供給することも可能である。
【0045】
次に、燃料電池の水処理装置12の構成の他の例を説明する。
【0046】
図3〜7は、本発明の他の実施形態に係るカートリッジ(充填塔)の構成の一例を示す模式図である。図3,4に示すカートリッジ38では、カートリッジ38内に、被処理水が通過できるように下部が開放された仕切り板44を設け、仕切られたカートリッジ38内の上流側にイオン交換基を有しない疎水性粒子から構成される気液分離部36が配置され、下流側にイオン交換樹脂から構成されるイオン交換部34が配置されている。但し、イオン交換基を有しない疎水性粒子とイオン交換樹脂との混合を避けるため、イオン交換基を有しない疎水性粒子の比重が被処理水(又はイオン交換樹脂)より軽い場合には、図3に示すように、気液分離部36はイオン交換部34の表面上に配置されることが好ましい。また、イオン交換基を有しない疎水性粒子の比重が被処理水(又はイオン交換樹脂)より重い場合には、図4に示すように、気液分離部36がイオン交換部34の上流側に配置されていれば、気液分離部36の表面上にイオン交換部34が配置されてもよい。
【0047】
図5に示す燃料電池の水処理装置12は、複数のカートリッジ38を並列に配置し、上流側のカートリッジ38にイオン交換基を有しない疎水性粒子から構成される気液分離部36が配置され、下流側のカートリッジ38にイオン交換樹脂から構成されるイオン交換部34が配置されている。図6に示す燃料電池の水処理装置12は、複数のカートリッジ38を直列に配置し、上流側のカートリッジ38にイオン交換基を有しない疎水性粒子から構成される気液分離部36が配置され、下流側のカートリッジ38にイオン交換樹脂から構成されるイオン交換部34が配置されている。
【0048】
上記いずれの例でも、イオン交換基を有しない疎水性粒子から構成される気液分離部36の上部から下部へ、凝縮水を通水させているが、必ずしもこれに制限されるものではない。例えば、図7に示すように、並列に配置したカートリッジ38において、イオン交換基を有しない疎水性粒子が充填されたカートリッジ38(気液分離部36)の下部から上部に向かって凝縮水を通水させてもよい。但し、イオン交換基を有しない疎水性粒子から構成される気液分離部36の上部から下部へ凝縮水を通水させる方が、凝縮水中の気泡の除去性能の点で好ましい。
【0049】
また、図2〜7に示すカートリッジ38を単独で複数配置してもよいし、図2〜7に示すカートリッジ38を組み合わせて配置してもよい。図2〜7に示すカートリッジ38を単独で複数配置する場合には、少なくとも最初の段のカートリッジにイオン交換基を有しない疎水性粒子が充填されていればよい。
【0050】
本実施形態に用いられるイオン交換樹脂は、陰イオン交換樹脂、陽イオン交換樹脂、又は陰イオン交換樹脂と陽イオン交換樹脂との混床樹脂等であり、燃料電池10から排出される凝縮水中の不純物イオンの種類、濃度等によって、適宜選択されればよい。
【0051】
本実施形態に用いられるイオン交換基を有しない疎水性粒子は、被処理水中の不純物イオンとイオン交換することのないものであって、水との親和性が低いという疎水性の機能によって、凝縮水中の微少な気泡をトラップし、より大きな気泡に成長させることで、凝縮水から分離することができるものである。イオン交換基を有しない疎水性粒子としては、例えば、疎水性樹脂粒子、脂肪酸誘導体粒子、及び無機酸化物粒子などが好適に用いられる。疎水性樹脂粒子としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリビニル系樹脂等の粒子等が挙げられる。脂肪酸誘導体粒子としては、ステアリル酸亜鉛、ステアリル酸アミドなどが挙げられる。無機酸化物粒子としては、酸化セリウム粒子、酸化チタン粒子、シリカ粒子、アルミナ粒子等が挙げられる。
【0052】
本実施形態に用いられるイオン交換基を有しない疎水性粒子の真比重は、凝縮水(炭酸ガス含有)よりも軽いことが好ましい。また、イオン交換基を有しない疎水性粒子の真比重は1.04以下であることが好ましく、0.97以下の範囲がより好ましい。また、イオン交換基を有しない疎水性粒子の真比重の上限値は0.9以上であることが好ましい。上記範囲を満たすことにより、疎水性粒子とイオン交換樹脂との混ざり合いを防止することができる。その一方で、例えば、図2に示すカートリッジ38において、気液分離部36とイオン交換部34との間の境界に、粒子の混在を防止する仕切り板を設ける場合には、必ずしも上記範囲を満たす必要はない。また、例えば、図4に示すカートリッジ38のように、気液分離部36上にイオン交換部34が配置されている場合には、イオン交換基を有しない疎水性粒子の真比重は1.04より大きい方が、粒子の混在を防止する点で好ましい。
【0053】
本実施形態に用いられるイオン交換基を有しない疎水性粒子の接触角(20℃/50%RH)は、68°以上であることが好ましく、73°以上であることがより好ましい。イオン交換基を有しない疎水性粒子の接触角は、68°未満であると、水との親和性が高くなって、疎水性の機能が弱くなり、凝縮水中の気泡を凝縮水から分離することが不十分になる場合がある。また、イオン交換基を有しない疎水性粒子の接触角の上限値は115°以下であることが好ましい。
【0054】
本実施形態に用いられるイオン交換基を有しない疎水性粒子の表面積/体積は0.5m−1以上であることが好ましく、1m−1以上であることがより好ましい。イオン交換基を有しない疎水性粒子の表面積/体積が0.5m−1未満であると、被処理水から気泡を分離する気液分離性能が低下する場合がある。また、イオン交換基を有しない疎水性粒子の表面積/体積の上限値は90m−1以下であることが好ましい。イオン交換基を有しない疎水性粒子の表面積/体積が90m−1を超えると、粒子がポーラス状となっているため、気泡が気液分離部36内に留まり易く、カートリッジ38系外へ排出し難くなる場合がある。
【0055】
本実施形態に用いられるイオン交換基を有しない疎水性粒子の形状は、立方体、球、円柱、中空円柱、片等、特に制限されるものではない。
【0056】
本実施形態では、カートリッジ38内の凝縮水の滞留時間は0.5〜100分の範囲であることが好ましい。カートリッジ38内の凝縮水の滞留時間が0.5分より短いと、凝縮水中の気泡がイオン交換基を有しない疎水性粒子により十分に除去されない場合がある。また、カートリッジ38内の凝縮水の滞留時間が100分より長いと、水処理効率が悪く、水処理コストが高くなる場合がある。
【0057】
以上のように、本実施形態の燃料電池の水処理装置12では、イオン交換基を有しない疎水性粒子により凝縮水中の気泡を除去することができるため、その後のイオン交換樹脂と凝縮水との接触を気泡により妨げられず、イオン交換樹脂のイオン交換性能の低下を防止することができる。
【0058】
また、例えば、燃料電池の起動や停止、外気温等によって凝縮水の温度は変化する。そして、水温が低温から高温に変化すると、炭酸ガスを含むガスの水への溶解度は低下するため、気泡が発生し易くなる。この気泡発生を抑制するためには、カートリッジ38内の水温を一定にすることが好ましく、特にカートリッジ38内の凝縮水の温度がカートリッジ38の入口側の循環ライン28内の凝縮水の温度より低温であることが好ましい。カートリッジ38内の凝縮水を低温にする方法としては、特に制限されるものではないが、以下にその一例を示す。
【0059】
図8(a),(b)は、カートリッジの構成の一例を示す模式図である。図8(a)のカートリッジ38には、冷却水が流れる冷却水ライン46(冷却手段)がカートリッジ38の外周の長手方向に沿って設置され、図8(b)のカートリッジ38には、冷却水が流れる冷却水ライン46(冷却手段)が螺旋状にカートリッジ38の外周に設置されている。なお、冷却水ライン46は、カートリッジ38を冷却することができるように設置されていれば、上記に制限されるものではない。冷却水ライン46に流す冷却水は、装置構成を簡素化することができる点で、図1の熱交換器14に使用する冷却水(水道水等)を用いることが好ましい。このように、熱交換器14及びカートリッジ38の冷却水を共有する場合には、水供給ライン26bを冷却水ライン46の入口に接続させ、さらに、冷却水ライン46の出口と熱交換器14との間に水供給ライン26bを接続させて、まず、カートリッジ38を冷却して、次に熱交換器14を冷却することが好ましい。これにより、カートリッジ38での冷却水の温度は、熱交換器14での冷却水の温度より低くなり、凝縮水の温度は熱交換器14の出口よりもカートリッジ38内の方を低くすることができる。
【0060】
冷却水の流れ方向は、特に限定されないが、図8(a),(b)に示すようにカートリッジ下部から上部へ向かう流れにすることが好ましい。カートリッジ下部で気泡が発生すると、その気泡がカートリッジ38から抜け難くなるが、冷却水をカートリッジ下部から上部へ流すことにより、カートリッジ下部をより冷却することができるため、カートリッジ下部での気泡発生リスクを抑えることができる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例及び比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0062】
(実施例1)
図1及び図2に示す装置を用いて、固体酸化物型燃料電池から排出される凝縮水の水処理を行った。凝縮水中に溶解している塩化物イオン濃度は約100ppbであった。また、凝縮水中には、炭酸が溶解しており、この炭酸により凝縮水のpHは5であった。水処理装置に用いたカートリッジ(内径40mm×高さ120mm)に充填するイオン交換樹脂として、トリメチルアンモニウム基を交換基とする強塩基性陰イオン交換樹脂75mLと強酸性陽イオン交換樹脂15mLとを混床充填したイオン交換樹脂を使用した。強塩基性陰イオン交換樹脂には、Amberjet4002(OH)を用いた。また、強酸性陽イオン交換樹脂には、Amberjet1024(H)を用いた。そして、この樹脂の上部にイオン交換基を有しない疎水性粒子としてポリプロピレンを20mL充填した。ポリプロピレンの形状は、1辺が約1mmの立方体であり、表面積/体積の値は6m−1であった。また、このポリプロピレンの接触角は91°であり、真比重は0.90であった。
【0063】
実施例1において、カートリッジへの被処理水の通水を下向流で行い、流量を10mL/min、流速を0.13mm/sに設定した。そして、10日間運転後、イオン交換部内の気泡の有無(目視により確認)、液面差(カートリッジ内の水位−カートリッジ出口のタンク接続高さ)、処理水中の塩化物イオン濃度を測定した。その結果を表1にまとめた。
【0064】
(比較例1)
比較例1は、カートリッジにポリプロピレンを充填しないこと以外は、実施例1と同様とした。
【0065】
【表1】

【0066】
表1から判るように、イオン交換基を有しない疎水性粒子を充填した実施例1では、イオン交換部内での気泡の発生を防止することができた。なお、比較例1では、カートリッジ内の水位が上昇し液面差が実施例1に比べて大きくなった。これは、イオン交換樹脂層内で発生した気泡によってエアロックが生じ、通液が一部で阻害されたためであると考えられる。
【0067】
(実施例2)
実施例2では、接触角の異なるイオン交換基を有しない疎水性粒子として、ポリ塩化ビニル(接触角68°)、ポリエチレンテレフタレート(接触角69°)、高密度ポリエチレン(接触角73°)、低密度ポリエチレン(接触角81°)、ポリスチレン(接触角84°)、ポリプロピレン(接触角91°)、ポリテトラフルオロエチレン:PFA(接触角115°)を用いたこと以外は実施例1と同様の条件で試験を行った。そして、10日間運転後、イオン交換部内の気泡の有無を目視により確認し、その結果を表2にまとめた。
【0068】
【表2】

【0069】
表2から判るように、イオン交換基を有しない疎水性粒子の接触角は、(比較例より)気泡を抑えることができる点で、68°以上とすることが好ましく、73°以上とすることがより好ましい。なお、接触角が115°以上でも気泡を抑えることは可能であるが、材料コストが高くなるため、あまり実用的ではない。
【0070】
(実施例3)
実施例3では、真比重の異なるイオン交換基を有しない疎水性粒子として、ポリプロピレン(真比重0.9)、低密度ポリエチレン(真比重0.92)、高密度ポリエチレン(真比重0.97)、ポリスチレン(真比重1.04)、ポリエチレンテレフタレート(真比重1.38)、ポリ塩化ビニル(真比重1.50)、ポリテトラフルオロエチレン:PFA(真比重2.1)を用いたこと以外は、実施例1と同様の条件で水処理装置を作成した。そして、この装置のカートリッジを24時間振とうした。そして、カートリッジ内のイオン交換部内へイオン交換基を有しない疎水性粒子が拡散しているか否かを目視により確認し、その結果を表3にまとめた。
【0071】
【表3】

【0072】
表3から判るように、イオン交換基を有しない疎水性粒子の真比重は、イオン交換部内へイオン交換基を有しない疎水性粒子が拡散することを抑制することができる点で、1.04以下であることが好ましく、0.97以下であることが好ましい。ここで、イオン交換部内へイオン交換基を有しない疎水性粒子が拡散すると、拡散したイオン交換基を有しない疎水性粒子による短絡流が発生し、水処理装置の処理性能が十分に発揮されない可能性がある。
【0073】
(実施例4)
実施例4では、イオン交換基を有しない疎水性粒子として用いたポリプロピレンの形状及び表面積/体積の値を変化させたこと以外は実施例1と同様の条件で試験を行った。そして、10日間運転後、イオン交換部内の気泡の有無を目視により確認し、その結果を表4にまとめた。
【0074】
【表4】

【0075】
表4から判るように、イオン交換基を有しない疎水性粒子の表面積/体積の値は、気泡を抑えることができる点で、0.5以上とすることが好ましく、1以上とすることがより好ましい。但し、イオン交換基を有しない疎水性粒子の表面積/体積の値が90を超えると、凝縮水から気泡を分離することができても、カートリッジ内に留まる気泡の量が多くなる場合がある。
【0076】
(実施例5)
実施例5では、カートリッジ内の被処理水の滞留時間を0.5,1,10,100分と変化させた。また、各滞留時間に合わせて、寸法の異なるカートリッジを使用した。それ以外は実施例1と同様の条件で試験を行った。そして、10日間運転後、イオン交換部内の気泡の有無を目視により確認し、その結果を表5にまとめた。
【0077】
なお、充填量は以下の式により求めた。
充填量(mL)=カートリッジ内の被処理水の滞留時間(分)×通水流量(mL/分)
【0078】
【表5】

【0079】
表5から判るように、カートリッジ内の被処理水の滞留時間は、気泡を抑えることができる点で、0.5分以上が好ましく、1分以上がより好ましい。滞留時間として100分を超えると、カートリッジ内に充填するイオン交換樹脂等の量が多くなり、設置スペースが大きくなるため、実用的ではない。
【0080】
(実施例6)
実施例6では、実施例1と同様の水処理装置を用い、循環ラインと処理水タンクの供給口(不図示)との接続部の位置、カートリッジの流入口(循環ラインとカートリッジの接続部)の径、流速を変化させて、水処理装置の運転を行った。
【0081】
その結果、循環ラインと処理水タンクの供給口(不図示)との接続部を、気液分離部とイオン交換部との境界から排気ラインの排気口までの範囲(図2に示すL)に設けていない場合、若しくはカートリッジの流入口の径が6mm未満の場合では、カートリッジ内の気液分離部で発生した気泡を排出することが困難となり、カートリッジ内の液面低下やイオン交換部での気泡の発生に繋がった。
【0082】
さらに、流速を1mm/s超とすると、カートリッジ内での気泡発生量が増加する傾向が見られた。また、流速を0.1mm/s以下にすると、イオン交換樹脂の充填量にもよるが、流速が1mm/s超の場合と同一の充填量とすると、樹脂充填高さが低くなり、処理水質が悪化した。
【0083】
したがって、循環ラインと処理水タンクの供給口(不図示)との接続部は、気液分離部とイオン交換部との境界から排気ラインの排気口までの範囲(図2に示すL)に設けること、カートリッジの流入口の径は6mm〜カートリッジの外径の範囲とすること、カートリッジへ供給する被処理水の流速は0.01〜1mm/sの範囲とすることが好ましいと判った。
【0084】
(実施例7)
実施例7では、実施例1と同様の水処理装置を用い、外気温30℃、水温20℃で水処理装置の運転を行う間、カートリッジを水冷し、10日間運転後のイオン交換部内の気泡の有無を目視により確認し、その結果を表6にまとめた。
【0085】
(比較例2)
比較例2は、カートリッジを水冷しないこと以外は、実施例7と同様の条件で試験を行い、10日間運転後のイオン交換部内の気泡の有無を目視により確認し、その結果を表6にまとめた。
【0086】
【表6】

【0087】
表6から判るように、比較例2では外気温やイオン交換樹脂塔との接触により、カートリッジ出口の凝縮水温度がカートリッジ入口よりも高くなっており、気泡が発生した。一方、実施例7では、カートリッジを水冷しているため、カートリッジの入口、出口の凝縮水の温度を低温で一定に保つことができ、気泡の発生も見られなかった。また、液面差(カートリッジ内の水位−カートリッジ出口のタンク接続高さ)も小さくすることができた。このように冷却を組み合わせることでより高い効果を得られた。
【符号の説明】
【0088】
1 燃料電池システム、10 燃料電池、12 燃料電池の水処理装置、14 熱交換器、16 凝縮水タンク、18a,18b 吐出ポンプ、20 処理水タンク、22 空気供給ライン、24 燃料供給ライン、26a,26b 水供給ライン、28 循環ライン、30 大気放出ライン、32 温水供給ライン、34 イオン交換部、36 気液分離部、38 カートリッジ、40 排気ライン、42 接続部、44 仕切り板、46 冷却水ライン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン交換樹脂を用いた燃料電池の水処理装置であって、イオン交換基を有しない疎水性粒子を含む気液分離部が、前記イオン交換樹脂の上流側に設置されることを特徴とする燃料電池の水処理装置。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池の水処理装置であって、前記イオン交換基を有しない疎水性粒子と前記イオン交換樹脂とは、同一の充填塔内に充填されることを特徴とする燃料電池の水処理装置。
【請求項3】
請求項1記載の燃料電池の水処理装置であって、前記イオン交換基を有しない疎水性粒子と前記イオン交換樹脂とは、別々の充填塔内に充填されることを特徴とする燃料電池の水処理装置。
【請求項4】
請求項2記載の燃料電池の水処理装置であって、前記イオン交換基を有しない疎水性粒子の比重は、炭酸ガス含有液よりも軽いことを特徴とする燃料電池の水処理装置。
【請求項5】
請求項4記載の燃料電池の水処理装置であって、前記イオン交換基を有しない疎水性粒子の真比重は、1.04以下であることを特徴とする燃料電池の水処理装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の燃料電池の水処理装置であって、前記イオン交換基を有しない疎水性粒子の水に対する接触角は、68°以上であることを特徴とする燃料電池の水処理装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の燃料電池の水処理装置であって、前記イオン交換基を有しない疎水性粒子の表面積/体積は、0.5m−1以上であることを特徴とする燃料電池の水処理装置。
【請求項8】
請求項2〜7のいずれか1項に記載の燃料電池の水処理装置であって、前記イオン交換基を有しない疎水性粒子が充填された充填塔内の被処理水の滞留時間は0.5分〜100分の範囲であることを特徴とする燃料電池の水処理装置。
【請求項9】
請求項2〜8のいずれか1項に記載の燃料電池の水処理装置であって、前記イオン交換基を有しない疎水性粒子が充填された充填塔内を冷却する冷却手段を有することを特徴とする燃料電池の水処理装置。
【請求項10】
イオン交換樹脂を用いた燃料電池の水処理方法であって、前記イオン交換樹脂の上流側にイオン交換基を有しない疎水性粒子を含む気液分離部を設置し、燃料電池から排出される凝縮水を前記気液分離部に通水させた後、前記イオン交換樹脂に通水させることを特徴とする燃料電池の水処理方法。
【請求項11】
請求項10記載の燃料電池の水処理方法であって、前記イオン交換基を有しない疎水性粒子と前記イオン交換樹脂とを同一の充填塔内に充填することを特徴とする燃料電池の水処理方法。
【請求項12】
請求項10記載の燃料電池の水処理方法であって、前記イオン交換基を有しない疎水性粒子と前記イオン交換樹脂とを別々の充填塔内に充填することを特徴とする燃料電池の水処理方法。
【請求項13】
請求項11記載の燃料電池の水処理方法であって、前記イオン交換基を有しない疎水性粒子の比重は、炭酸ガス含有液よりも軽いことを特徴とする燃料電池の水処理方法。
【請求項14】
請求項13記載の燃料電池の水処理方法であって、前記イオン交換基を有しない疎水性粒子の真比重は、1.04以下であることを特徴とする燃料電池の水処理方法。
【請求項15】
請求項10〜14いずれか1項に記載の燃料電池の水処理方法であって、前記イオン交換基を有しない疎水性粒子の水に対する接触角は、68°以上であることを特徴とする燃料電池の水処理方法。
【請求項16】
請求項10〜15のいずれか1項に記載の燃料電池の水処理方法であって、前記イオン交換基を有しない疎水性粒子の表面積/体積は、0.5m−1以上であることを特徴とする燃料電池の水処理方法。
【請求項17】
請求項10〜15のいずれか1項に記載の燃料電池の水処理方法であって、前記イオン交換基を有しない疎水性粒子が充填された充填塔内の被処理水の滞留時間を0.5分〜100分の範囲とすることを特徴とする燃料電池の水処理方法。
【請求項18】
請求項11〜17のいずれか1項に記載の燃料電池の水処理方法であって、前記イオン交換基を有しない疎水性粒子が充填された充填塔内を冷却することを特徴とする燃料電池の水処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−103292(P2011−103292A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180753(P2010−180753)
【出願日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】