説明

燃料電池システムおよび燃料電池に対するカソードガスの供給量を制御する方法、燃料電池に供給されるカソードガスの供給量を測定する方法

【課題】燃料電池に対する反応ガスの供給量を適切に制御できる技術を提供する。
【解決手段】燃料電池システム100は、カソードガスの供給量を計測するエアフロメータ33と、アノード排ガスを循環させて燃料電池10に再供給するための水素循環用ポンプ64とを備える。制御部20は、燃料電池10に予め設定された基準運転を実行させて、水素循環用ポンプ64の消費電力を計測し、水素循環用ポンプ64の消費電力とカソードガスの供給量との間の相関関係から、水素循環用ポンプ64の消費電力の計測値に対するカソードガスの供給量を取得する。そして、そのカソードガスの供給量と、エアフロメータ33の計測値との差を、エアフロメータ33の計測誤差として求め、その計測誤差を補償できる補正値を算出する。制御部20は、その補正値を用いて補正されたエアフロメータ33の計測値に基づいて、カソードガスの供給量を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池システムは、燃料電池に反応ガスを供給して発電させ、外部負荷の要求に応じた電力を出力する。一般に、燃料電池システムでは、反応ガスのうちのカソードガスについては、エアフロメータなどの流量計によって、その流量を計測し、その計測値に基づいて燃料電池に対する供給量を制御する(下記特許文献1など)。しかし、流量計は、経年劣化などによって、その計測精度が低下し、計測誤差を生じる場合がある。流量計に計測誤差が生じてしまうと、燃料電池にカソードガスが適切に供給されない可能性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−220625号公報
【特許文献2】特開2007−294116号公報
【特許文献3】特開2003−217624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、燃料電池に対する反応ガスの供給量を適切に制御できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]
外部負荷の要求に応じて電力を出力する燃料電池システムであって、燃料電池と、前記燃料電池に対してカソードガスを供給するカソードガス供給部と、前記カソードガス供給部が前記燃料電池に送り出すカソードガスの量を計測するガス送出量計測部と、前記燃料電池に対してアノードガスを供給するアノードガス供給部と、アノードガスに関連する値であって、前記燃料電池に対するカソードガスの実際の供給量と相関関係を有する値として予め選択された特徴値を検出する特徴値検出部と、前記燃料電池に対するアノードガスおよびカソードガスの供給量を制御して、前記燃料電池の運転を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記燃料電池を予め設定された条件で運転する基準運転を実行させたときのカソードガスの供給量と、前記特徴値との間の相関関係を予め記憶しており、前記燃料電池に前記基準運転を実行させて、前記ガス送出量計測部の計測値を取得するとともに、前記特徴値を検出し、前記相関関係を用いて、検出された前記特徴値に対するカソードガスの供給量を供給量基準値として取得し、前記供給量基準値と前記ガス送出量計測部の計測値との差を前記ガス送出量計測部の計測値の誤差として求め、前記制御部は、前記ガス送出量計測部の計測値に基づいて、前記燃料電池にカソードガスを供給する際に、前記誤差が補償されるように、前記カソードガス供給部が送り出すカソードガスの量を調整する、燃料電池システム。
この燃料電池システムによれば、カソードガスの実際の供給量と予め知られた相関関係を有する特徴値に基づき、カソードガスの供給量を計測し、その計測値を基準として、ガス送出量計測部の計測誤差を求める。そして、ガス送出量計測部の計測値に基づいて、カソードガスの供給量を制御する制御処理において、その計測誤差が補償されるようにカソードガスの送出量を調整する。従って、燃料電池に対するカソードガスの供給量を適切に制御できる。
【0007】
[適用例2]
適用例1記載の燃料電池システムであって、前記アノードガス供給部は、前記燃料電池にアノードガスを送り出すポンプを備え、前記特徴値検出部は、前記燃料電池に対するカソードガスの実際の供給量の増加に伴って低下する前記ポンプの消費電力を前記特徴値として検出する、燃料電池システム。
この燃料電池システムによれば、アノードガスを送り出すポンプの消費電力に基づいて、カソードガスの供給量を計測でき、その計測値を基準としたガス送出量計測部の計測誤差を求めることができる。従って、燃料電池に対するカソードガスの供給量を適切に制御できる。
【0008】
[適用例3]
適用例1記載の燃料電池システムであって、前記特徴値検出部は、前記燃料電池に対するカソードガスの実際の供給量の増加に伴って低下する前記燃料電池のアノード側のガス流路における圧力損失を前記特徴値として検出する、燃料電池システム。
この燃料電池システムによれば、燃料電池のアノード側のガス流路における圧力損失に基づいて、カソードガスの供給量を計測でき、その計測値を基準としたガス送出量計測部の計測誤差を求めることができる。
【0009】
[適用例4]
適用例1記載の燃料電池システムであって、前記特徴値検出部は、前記燃料電池に対するカソードガスの実際の供給量の増加に伴って低下する前記燃料電池のアノード側のガス流路における圧力損失を前記特徴値として検出する、燃料電池システム。
この燃料電池システムによれば、アノード排ガスの湿度に基づいて、カソードガスの供給量を計測でき、その計測値を基準としたガス送出量計測部の計測誤差を求めることができる。
【0010】
[適用例5]
適用例1〜4のいずれか一項に記載の燃料電池システムであって、前記基準運転は、前記燃料電池に対するアノードガスおよびカソードガスの供給量を予め設定された量で一定とするとともに、前記燃料電池を予め設定された一定の出力で一定とする運転を含む、燃料電池システム。
この燃料電池システムによれば、基準運転実行時におけるカソードガスの供給量と特徴値との間の相関関係を容易に取得することができる。従って、特徴値検出部が検出する特徴値に基づき、より正確なカソードガスの供給量を取得することが可能となる。
【0011】
[適用例6]
アノードガスとカソードガスとを燃料電池に供給する際に、ガス送出量計測部に前記燃料電池に対するカソードガスの供給量を計測させ、前記ガス送出量計測部の計測値に基づき、前記燃料電池に対するカソードガスの供給量を制御する方法であって、
(a)前記燃料電池を予め設定された条件で運転する基準運転を実行し、前記燃料電池に対して送り出されるカソードガスの量を計測するとともに、アノードガスに関連する値であって、前記燃料電池に対するカソードガスの実際の供給量と相関関係を有する値として予め選択された特徴値を検出する工程と、
(b)予め準備された、前記基準運転の実行時におけるカソードガスの供給量と前記特徴値との間の相関関係を参照して、前記工程(a)において検出された前記特徴値に対するカソードガスの供給量を供給量基準値として取得する工程と、
(c)前記工程(a)において計測したカソードガスの量と、前記工程(b)において取得した供給量基準値との差として求められた誤差を補償しつつ、前記ガス送出量計測部の計測値に基づいて前記カソードガスを前記燃料電池に供給する工程と、
を備える、方法。
【0012】
[適用例7]
アノードガスとカソードガスとを燃料電池に供給する際に、前記燃料電池に対するカソードガスの供給量を測定する方法であって、
(a)前記燃料電池を予め設定された条件で運転する基準運転を実行し、前記燃料電池に対して送り出されるカソードガスの量を計測するとともに、アノードガスに関連する値であって、前記燃料電池に対するカソードガスの実際の供給量と相関関係を有する値として予め選択された特徴値を検出する工程と、
(b)予め準備された、前記基準運転の実行時におけるカソードガスの供給量と前記特徴値との間の相関関係を用いて、前記工程(a)において検出された前記特徴値に対するカソードガスの供給量を取得する工程と、
を備える、方法。
この方法によれば、特徴値を検出することによって、カソードガスの供給量を計測することができる。この計測値を用いれば、カソードガスの供給量の制御をより、容易かつ適切に実行することができる。
【0013】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、燃料電池システム、その燃料電池システムにおいて実行される制御方法、それらのシステムまたは方法を実現するためのコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した記録媒体、その燃料電池システムを搭載する車両等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】燃料電池システムの構成を示す概略図。
【図2】燃料電池システムの電気的構成を示す概略図。
【図3】燃料電池システムにおける燃料電池に対するカソードガスの供給量の制御処理を説明するための説明図。
【図4】エアフロメータの計測誤差を補償するための計測誤差補償処理の処理手順を示す説明図。
【図5】燃料電池に対するエア供給量と水素循環用ポンプの消費電力との関係を説明するための説明図。
【図6】エア供給量基準値の取得処理および補正値の算出処理を説明するための説明図。
【図7】第2実施例としての燃料電池システムの構成を示す概略図。
【図8】第2実施例の計測誤差補償処理の処理手順を示す説明図。
【図9】第3実施例としての燃料電池システムの構成を示す概略図。
【図10】第3実施例の計測誤差補償処理の処理手順を示す説明図。
【図11】第4実施例としての燃料電池システムの構成を示す概略図。
【図12】第4実施例におけるカソードガスの供給量の制御処理を説明するための説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
A.第1実施例:
図1は本発明の一実施例としての燃料電池システムの構成を示す概略図である。この燃料電池システム100は、燃料電池10と、制御部20と、カソードガス供給部30と、カソードガス排出部40と、アノードガス供給部50と、アノードガス循環排出部60と、冷媒供給部70とを備える。
【0016】
燃料電池10は、反応ガスとして水素(アノードガス)と空気(カソードガス)の供給を受けて発電する固体高分子型燃料電池である。燃料電池10は、単セルとも呼ばれる複数の発電体(図示せず)が積層されたスタック構造を有する。また、各単セルは、湿潤状態で良好なプロトン伝導性を示す電解質膜の両側に電極が一体的に配置された膜電極接合体を有する。なお、燃料電池10としては、固体高分子型燃料電池に限らず、種々のタイプの燃料電池を採用することが可能である。
【0017】
制御部20は、中央処理装置と主記憶装置とを備えるマイクロコンピュータによって構成されている。制御部20は、外部負荷200からの出力電力の要求を受け付け、その要求に応じて、以下に説明する燃料電池システム100の各構成部を制御し、燃料電池10に発電させる。
【0018】
カソードガス供給部30は、カソードガス配管31と、エアコンプレッサ32と、エアフロメータ33と、開閉弁34とを備える。カソードガス配管31は、燃料電池10のカソード側に接続された配管である。エアコンプレッサ32は、カソードガス配管31を介して燃料電池10と接続されている。エアコンプレッサ32は、制御部20からの指令により、外気を取り込んで圧縮した空気を、カソードガスとして燃料電池10に供給する。
【0019】
エアフロメータ33は、エアコンプレッサ32の上流側において、エアコンプレッサ32が取り込む外気の量を計測し、制御部20に送信する。このエアフロメータ33の計測値は、エアコンプレッサ32が送り出すカソードガスの量を表している。制御部20は、この計測値に基づいて、燃料電池10に対するカソードガスの供給量をフィードバック制御するが、その詳細については後述する。
【0020】
開閉弁34は、エアコンプレッサ32と燃料電池10との間に設けられており、カソードガス配管31におけるカソードガスの流れに応じて開閉する。具体的には、開閉弁34は、通常、閉じた状態であり、エアコンプレッサ32から所定の圧力を有する空気がカソードガス配管31に供給されたときに開く。
【0021】
カソードガス排出部40は、カソード排ガス配管41と、調圧弁43と、圧力計測部44とを備える。カソード排ガス配管41は、燃料電池10のカソード側に接続された配管であり、カソード排ガスを燃料電池システム100の外部へと排出する。調圧弁43は、カソード排ガス配管41に設けられており、制御部20がその開度を制御する。
【0022】
圧力計測部44は、カソード排ガス配管41において、調圧弁43の上流側に設けられている。圧力計測部44は、燃料電池10のカソードの出口側の圧力(背圧)を計測し、その計測値を制御部20に送信する。制御部20は、圧力計測部44の計測値に基づいて調圧弁43の開度を調整することにより、燃料電池10のカソードにおける圧力を制御する。
【0023】
アノードガス供給部50は、アノードガス配管51と、水素タンク52と、開閉弁53と、レギュレータ54と、インジェクタ55とを備える。水素タンク52は、アノードガス配管51を介して燃料電池10のアノード側に接続されており、タンク内に充填された水素を燃料電池10に供給する。なお、燃料電池システム100は、水素タンク52に換えて、炭化水素系の燃料を改質して水素を生成する改質部を、水素の供給源として備えているものとしても良い。
【0024】
アノードガス配管51には、開閉弁53、レギュレータ54、インジェクタ55が、上流側(水素タンク52側)から、この順序で設けられている。開閉弁53は、制御部20からの指令により開閉し、水素タンク52からインジェクタ55の上流側への水素の流入を制御する。レギュレータ54は、インジェクタ55の上流側における水素の圧力を調整するための減圧弁であり、その開度が制御部20によって制御されている。インジェクタ55は、制御部20によって設定された駆動周期や開弁時間に応じて、弁体が電磁的に駆動する電磁駆動式の開閉弁である。制御部20は、インジェクタ55の駆動周期や開弁時間を制御することによって、燃料電池10に供給される水素量を制御する。
【0025】
アノードガス循環排出部60は、アノード排ガス配管61と、気液分離部62と、アノードガス循環配管63と、水素循環用ポンプ64と、アノード排水配管65と、排水弁66とを備える。アノード排ガス配管61は、燃料電池10のアノードの出口と気液分離部62とを接続する配管であり、発電反応に用いられることのなかった未反応ガス(水素や窒素など)を含むアノード排ガスを気液分離部62へと誘導する。
【0026】
気液分離部62は、アノードガス循環配管63と、アノード排水配管65とに接続されている。気液分離部62は、アノード排ガスに含まれる気体成分と水分とを分離し、気体成分については、アノードガス循環配管63へと誘導し、水分についてはアノード排水配管65へと誘導する。アノードガス循環配管63は、アノードガス配管51のインジェクタ55より下流に接続されている。
【0027】
アノードガス循環配管63には、水素循環用ポンプ64が設けられており、気液分離部62において分離された気体成分に含まれる水素を、アノードガス配管51へと循環させる。制御部20は、水素循環用ポンプ64の駆動モータ(図示せず)を、予め設定された一定レベルの電圧で駆動させる。
【0028】
アノード排水配管65は、気液分離部62において分離された水分を燃料電池システム100の外部へと排出するための配管である。排水弁66は、アノード排水配管65に設けられており、制御部20からの指令に応じて開閉する。制御部20は、燃料電池システム100の運転中には、通常、排水弁66を閉じておき、予め設定された所定の排水タイミングで排水弁66を開く。また、制御部20は、燃料電池10の発電量の変化に基づいて、燃料電池10に循環供給される水素の濃度を検出し、その濃度が所定の値より低下していると判定した場合には、排水弁66を開き、アノードガス中の不活性ガスを排出する。
【0029】
冷媒供給部70は、冷媒用配管71と、ラジエータ72と、冷媒循環用ポンプ73と、2つの冷媒温度計測部74,75とを備える。冷媒用配管71は、燃料電池10に設けられた冷媒用の入口マニホールドと出口マニホールドとを連結する配管であり、燃料電池10を冷却するための冷媒を循環させる。ラジエータ72は、冷媒用配管71に設けられており、冷媒用配管71を流れる冷媒と外気との間で熱交換させることにより、冷媒を冷却する。
【0030】
冷媒循環用ポンプ73は、冷媒用配管71において、ラジエータ72より下流側(燃料電池10の冷媒入口側)に設けられており、ラジエータ72において冷却された冷媒を燃料電池10に送り出す。2つの冷媒温度計測部74,75はそれぞれ、冷媒用配管71において、燃料電池10の冷媒出口の近傍と、冷媒入口の近傍とに設けられており、計測値を制御部20へと送信する。制御部20は、2つの冷媒温度計測部74,75のそれぞれの計測値の差から燃料電池10の運転温度を検出し、その検出結果に基づき、冷媒循環用ポンプ73が送り出す冷媒量を制御することにより、燃料電池10の運転温度を調整する。
【0031】
図2は、燃料電池システム100の電気的構成を示す概略図である。なお、燃料電池システム100では、燃料電池10と二次電池81とが出力する電力を、外部負荷200と水素循環用ポンプ64以外に、燃料電池システム100の他の補機類にも供給するが、そのための配線の図示および説明は省略する。
【0032】
燃料電池システム100は、二次電池81と、DC/DCコンバータ82と、第1と第2のDC/ACインバータ83,84とを備える。第1のDC/ACインバータ83は、外部負荷200に接続されており、第2のDC/ACインバータ84は、水素循環用ポンプ64の駆動モータ(図示は省略)に接続されている。第1と第2のDC/ACインバータ83,84は、直流電源ラインDCLを介して、燃料電池10に対して互いに並列に接続されている。
【0033】
第1と第2のDC/ACインバータ83,84はそれぞれ、燃料電池10と二次電池81とが出力する直流電力を交流電力へと変換し、外部負荷200または水素循環用ポンプ64に供給する。ここで、第2のDC/ACインバータ84は、電圧センサ841と電流センサ842とを有している。制御部20は、電圧センサ841と電流センサ842の計測値に基づき、水素循環用ポンプ64における消費電力を計測することが可能である。
【0034】
二次電池81は、DC/DCコンバータ82を介して直流電源ラインDCLに接続されている。二次電池81は、燃料電池10の補助電源として機能し、例えば充・放電可能なリチウムイオン電池で構成することができる。DC/DCコンバータ82は、二次電池81の充・放電を制御する充放電制御部としての機能を有しており、制御部20からの指令に応じて直流電源ラインDCLの電圧レベルを可変に調整する。
【0035】
制御部20は、燃料電池10の出力が、外部負荷200からの出力要求に対して不足するような場合には、DC/DCコンバータ82に二次電池81の放電を指令し、その不足分を補償させる。なお、外部負荷200において回生電力が発生する場合には、その回生電力は、第1のDC/ACインバータ83によって直流電力に変換され、DC/DCコンバータ82を介して二次電池81に充電される。
【0036】
図3(A),(B)は、燃料電池システム100における燃料電池10に対するカソードガスの供給量の制御処理を説明するための説明図である。燃料電池システム100では、制御部20は、予め記憶部に格納されている2つのマップ21,22を用いて、エアコンプレッサ32の回転数を制御することにより、燃料電池10へのカソードガスの供給量(以下、「エア供給量」とも呼ぶ)を制御する。
【0037】
図3(A)には、燃料電池10に供給するエア供給量(目標エア供給量)を決定するためのエア供給量決定マップ21の一例が、縦軸を燃料電池10の出力電力とし、横軸をエア供給量とするグラフによって表されている。エア供給量決定マップ21には、燃料電池10の出力電力が増大するほど、エア供給量が線形的に増大する関係が設定されている。制御部20は、外部負荷200が要求する出力電力に基づいて、燃料電池10に出力させる目標出力電力WFCを設定する。そして、エア供給量決定マップ21を用いて、目標出力電力WFCに対する目標エア供給量QATを取得する(グラフ中に破線矢印で図示)。
【0038】
図3(B)には、エアコンプレッサ32の回転数を決定するための回転数決定マップ22の一例が、縦軸をエアコンプレッサ32の回転数とし、横軸をエア供給量とするグラフによって表されている。この回転数決定マップ22には、エア供給量の増加に応じて、エアコンプレッサ32の回転数が線形的に増大する関係が設定されている。
【0039】
制御部20は、目標エア供給量QATに補正値Kを乗算し、フィードバック補正値ΔQFを加算した補正後目標エア供給量CQATを取得する(CQAT=K・QAT+ΔQF)。ここで、「補正値K」とは、エアフロメータ33の計測誤差を補償するための補正値であり、後述する補正値取得処理によって取得される値である。また、フィードバック補正値ΔQFは、エアフロメータ33の計測結果に基づいて、エア供給量をフィードバック制御するためのエア供給量の補正値である。制御部20は、フィードバック補正値ΔQFを、目標エア供給量QATと、エアフロメータ33の計測値QAMとの差として求める(ΔQF=QAT−QAM)。
【0040】
制御部20は、回転数決定マップ22を用いて、補正後目標エア供給量CQATに対するエアコンプレッサの回転数RAC(以後、「指令回転数RAC」と呼ぶ)を取得する。そして、この指令回転数RACでエアコンプレッサ32を駆動させ、燃料電池10にカソードガスを供給する。このように、本実施例の燃料電池システム100では、エア供給量について、エアフロメータ33の計測値に基づき、フィードバック制御を実行することにより、適切なエア供給量の制御を可能とする。
【0041】
ところで、エアフロメータ33は、エアフロメータ33の初期不良や経年劣化などによって計測誤差を生じる場合がある。エアフロメータ33にプラス側の計測誤差が生じている場合には、エア供給量が目標値より低く制御されてしまうため、燃料電池10において、目標とする出力が得られない可能性がある。また、そのように、エア供給量が低く制御されてしまうと、燃料電池10からの排水が十分になされず、燃料電池10の発電性能の低下が促進される可能性がある。
【0042】
一方、エアフロメータ33にマイナス側の計測誤差が生じている場合には、エア供給量が目標値より高く制御されてしまう。燃料電池10に対して目標値以上のエア供給量が供給される場合には、燃料電池10からの排水量が増大して電解質膜が乾燥し、燃料電池10の出力が低下してしまう可能性がある。そこで、本実施例の燃料電池システム100では、水素循環用ポンプ64における消費電力に基づいて、エアフロメータ33の計測誤差を求め、その計測誤差を補償するための補正値Kを取得する。
【0043】
図4は、エアフロメータ33の計測誤差を補償するための補正値を取得する補正値取得処理の処理手順を示すフローチャートである。この計測誤差補償処理は、燃料電池システム100の運転終了時に、定期的に制御部20が実行する。即ち、エアフロメータ33の計測誤差は、燃料電池システム100を再起動後の運転において補償されることとなる。
【0044】
ステップS10では、制御部20は、燃料電池10を予め設定された条件で運転する基準運転を開始する。具体的には、制御部20は、燃料電池10に予め設定された一定量の反応ガスが供給されるように、反応ガスの供給制御を開始する。即ち、カソードガスの供給制御については、予め設定されたエア供給量を目標エア供給量としてエアコンプレッサ32を駆動し、調圧弁43を所定の開度で開く。一方、アノードガスの供給制御については、インジェクタ55を予め設定された駆動周期で駆動し、水素循環用ポンプ64を所定の電圧で駆動させる。
【0045】
また、制御部20は、燃料電池10に一定の電力を出力させるように、DC/DCコンバータ82に指令する。さらに、制御部20は、燃料電池10の運転状態を安定化させるために、冷媒供給部70の冷媒循環用ポンプ73の回転数を制御することにより、燃料電池10が予め設定された一定の運転温度(例えば80℃)に維持する。なお、この基準運転における燃料電池10の出力電力は、二次電池81に蓄えられるものとしても良い。
【0046】
ステップS20では、制御部20は、燃料電池10が基準運転を実行している状態における水素循環用ポンプ64の消費電力を計測する。具体的には、基準運転を実行している一定期間における水素循環用ポンプ64の消費電力の時間平均を求めるものとしても良い。ここで、水素循環用ポンプ64の消費電力と、エア供給量との間には、以下に説明する相関関係があることを本発明の発明者は見出した。
【0047】
図5(A),(B)は、燃料電池に対するエア供給量と水素循環用ポンプ64の消費電力との間の相関関係を説明するための説明図である。図5(A)は、エア供給量と燃料電池10のアノード側のガス流路の圧力損失との関係を説明するための模式図である。図5(A)には、燃料電池10と水素循環用ポンプ64とが模式的に図示されており、反応ガスの流れや、水分の移動を模式的に示す矢印が図示されている。
【0048】
燃料電池10は、電解質膜1と、電解質膜1の両側に配置されたアノード2およびカソード3とを有する。アノード2およびカソード3は、導電性を有するとともに、ガス透過性を有する多孔質部材によって構成されており、反応ガスを拡散させて電極の全面に行き渡らせるガス流路としても機能する。
【0049】
ここで、燃料電池10の運転中に、カソード3へのエア供給量を次第に増大させる場合を想定する。このとき、エア供給量の増大にともなって、カソード排ガスの量が増大し、カソード3から排出される排水量も増大する。そして、電解質膜1を介したアノード2からカソード3への水分移動が促進される。即ち、エア供給量の増大に伴い、アノード2の細孔に含まれる水分量が低下し、アノード2における圧力損失が低下する。アノード2の圧力損失が低下すると、その分だけ水素循環用ポンプ64に対する負荷トルクが低下するため、水素循環用ポンプ64の消費電力も低下する。
【0050】
図5(B)は、燃料電池10に基準運転を実行させたときのエア供給量と水素循環用ポンプ64の消費電力との関係を示すグラフである。燃料電池10の基準運転実行時のように、水素循環用ポンプ64を一定の電圧で駆動させ、燃料電池10に一定の電力を出力させる場合を想定する。この場合には、燃料電池10に対するエア供給量の増大に伴って、アノード2における圧力損失が線形的に低下し、水素循環用ポンプ64の消費電力も線形的に低下する。
【0051】
このようなエア供給量と水素循環用ポンプ64の消費電力との間の相関関係を予め取得しておくことにより、水素循環用ポンプ64の消費電力の計測値に基づき、燃料電池10のエア供給量を計測することが可能となる。そこで、本実施例の燃料電池システム100では、以下の処理において、水素循環用ポンプ64の消費電力の計測値に対するエア供給量を取得し、そのエア供給量を基準として、エアフロメータ33の計測誤差を求める。
【0052】
なお、以後、本明細書では、エアフロメータ33によって計測されるエア供給量を「エア供給量実測値」と呼ぶ。また、水素循環用ポンプ64の消費電力に基づいて取得されるエア供給量を「エア供給量基準値」と呼ぶ。
【0053】
図6は、ステップS30におけるエア供給量基準値の取得処理と、ステップS40における補正値Kの算出処理を説明するための説明図である。図6には、エア供給量基準値を取得するために用いられる基準値取得用マップ23の一例が、縦軸を水素循環用ポンプ64の消費電力の計測値とし、横軸をエア供給量とするグラフとして図示されている。基準値取得用マップ23には、図5(B)で説明したのと同様な水素循環用ポンプ64の消費電力とエア供給量との間の対応関係が設定されている。制御部20は、この基準値取得用マップ23を用いて、ステップS20で取得した水素循環用ポンプ64の消費電力の計測値PHPに対するエア供給量基準値QAEを取得する(グラフ中に破線矢印で図示)。
【0054】
ステップS40では、ステップS30で取得したエア供給量基準値QAEとエアフロメータ33の実測値との差ΔQを、エアフロメータ33の計測誤差として求める(式(1))。
ΔQ=QAM−QAE …(1)
そして、その計測誤差を補償するための補正値Kを下記の式(2)により求める。
K=(QAM+ΔQ)/QAM …(2)
【0055】
制御部20は、この補正値Kを記憶部(図示せず)に不揮発的に記憶する。そして、燃料電池システム100の再起動後に、この補正値Kを読み出し、エアコンプレッサ32の駆動制御に用いる(図3(B))。
【0056】
このように、本実施例の燃料電池システム100によれば、補正値取得処理において、アノードガスに関連するとともに、実際のエア供給量と相関関係を有する値として、水素循環用ポンプ64の消費電力を検出する。そして、その検出値に対して取得されるエア供給量を基準として、エアフロメータ33の計測誤差をもとめ、その計測誤差を補償するための補正値を取得する。この補正値を用いて、エアフロメータ33の計測値に基づくフィードバック制御を実行することにより、エアフロメータ33の計測誤差が補償されるため、適切なカソードガスの供給制御が可能となる。
【0057】
B.第2実施例:
図7は本発明の第2実施例としての燃料電池システム100Aの構成を示す概略図である。図7は、第1と第2の水素圧力計測部58,68が設けられている点以外は、図1とほぼ同じである。第1の水素圧力計測部58は、アノードガス配管51において、アノードガス循環配管63との合流部より下流側に設けられており、燃料電池10のアノード入口近傍における供給水素の圧力を計測する。第2の水素圧力計測部68は、アノード排ガス配管61に設けられており、燃料電池10のアノード出口近傍における排ガスの圧力を計測する。
【0058】
なお、第2実施例の燃料電池システム100Aの電気的構成は、第1実施例の燃料電池システム100と同様である(図2)。また、第2実施例の燃料電池システム100Aのカソードガスの供給制御については、第1実施例の燃料電池システム100と同様なエアフロメータ33の計測値に基づくフィードバック制御が実行される(図3)。
【0059】
図8(A)は、第2実施例の燃料電池システム100Aにおいて実行される補正値取得処理の処理手順を示すフローチャートである。図8(A)は、ステップS20の工程に換えて、ステップS20Aの工程が設けられている点以外は、図4とほぼ同じである。ステップS20Aでは、制御部20は、第1と第2の水素圧力計測部58,68の計測値を取得する。制御部20は、これらの計測値の差から、燃料電池10のアノードにおける圧力損失を検出する。
【0060】
図8(B)は、ステップS30で用いられる基準値取得用マップ23Aの一例を示すグラフである。図8(B)では、基準値取得用マップ23が、縦軸を燃料電池10のアノードにおける圧力損失とし、横軸をエア供給量とするグラフとして図示されている。ここで、図5(A)において説明したように、燃料電池10の基準運転実行時には、エア供給量が増大するほど、燃料電池10のアノードにおける圧力損失が線形的に低下する。
【0061】
第2実施例の基準値取得用マップ23Aには、基準運転実行時におけるエア供給量と燃料電池10のアノードにおける圧力損失との間の比例関係が設定されている。制御部20は、この基準値取得用マップ23Aを用いて、ステップ20で取得した燃料電池10のアノードの圧力損失ΔPに対するエア供給量をエア供給量基準値QAEとして取得する(ステップS30)。そして、ステップS40では、第1実施例で説明した数式(1),(2)を用いて、補正値Kを算出する。
【0062】
このように、第2実施例の燃料電池システム100Aでは、第1と第2の水素圧力計測部58,68を用いて、燃料電池10のアノード側のガス流路における圧力損失を、アノードガスに関連するとともに、実際のエア供給量と相関関係を有する値として計測する。そして、その計測値を用いて、補正値取得処理を実行する。従って、カソードガスの供給制御において、エアフロメータ33の計測誤差を適切に補償することができる。
【0063】
C.第3実施例:
図9は、本発明の第3実施例としての燃料電池システム100Bの構成を示す概略図である。図9は、第1と第2の水素圧力計測部58,68に換えて、湿度計測部69が設けられている点以外は、図7とほぼ同じである。湿度計測部69は、アノード排ガス配管61に設けられており、アノード排ガスの湿度を計測して、制御部20に送信する。
【0064】
なお、第3実施例の燃料電池システム100Bの電気的構成は、第2実施例の燃料電池システム100Aと同様である(図2)。また、第3実施例の燃料電池システム100Bのカソードガスの供給制御については、第2実施例の燃料電池システム100Aと同様なエアフロメータ33の計測値に基づくフィードバック制御が実行される(図3)。
【0065】
図10(A)は、第3実施例の燃料電池システム100Bにおいて実行される補正値取得処理の処理手順を示すフローチャートである。図10(A)は、ステップS20Aの工程に換えて、ステップS20Bの工程が設けられている点以外は、図8(A)とほぼ同じである。ステップS20Bでは、制御部20は、湿度計測部69の計測値を取得する。
【0066】
図10(B)は、ステップS30で用いられる基準値取得用マップ23Bの一例を示すグラフである。図10(B)では、基準値取得用マップ23Bが、縦軸をアノード排ガスの湿度とし、横軸をエア供給量とするグラフとして図示されている。ここで、図5(A)において説明したように、燃料電池10に対するエア供給量が増大するほど、燃料電池10のアノード2の水分が、電解質膜1を介してカソード3側へと移動する。特に、燃料電池10の基準運転実行時には、エア供給量の増大に伴い、カソード3側への水分移動量が線形的に増大するため、アノード排ガスの湿度は線形的に低下する。
【0067】
第3実施例の基準値取得用マップ23Bには、基準運転実行時におけるエア供給量とアノード排ガスの湿度との間の比例関係が設定されている。制御部20は、この基準値取得用マップ23Bを用いて、ステップ20で取得した燃料電池10のアノード排ガスの湿度HEに対するエア供給量をエア供給量基準値QAEとして取得する(ステップS30)。そして、ステップS40では、第1実施例で説明した数式(1),(2)を用いて、補正値Kを算出する。
【0068】
このように、第3実施例の燃料電池システム100Bでは、アノード排ガスの湿度を、アノードガスに関連するとともに、実際のエア供給量と相関関係を有する値として検出する。そして、その検出値から取得したエア供給量基準値とエア供給量の計測値とを用いて、エアフロメータ33の計測誤差を求め、その計測誤差が補償されるようにカソードガスの供給量を制御する。従って、より適切なカソードガスの供給量制御が可能となる。
【0069】
D.第4実施例:
図11は本発明の第4実施例としての燃料電池システム100Cの構成を示す概略図である。図11はエアフロメータ33が省略されている点以外は、図1とほぼ同じである。なお、燃料電池システム100Cの電気的構成は、第1実施例で説明した構成とほぼ同じである(図2)。
【0070】
この燃料電池システム100Cでは、外部負荷200の要求に応じた電力を出力するための通常の運転において、第1実施例で説明した基準運転と同様な条件下で燃料電池10に発電させる。即ち、制御部20は、燃料電池10に、予め設定された一定の目標供給量で反応ガスを供給し、予め設定された一定の電力を出力させる。なお、外部負荷200の要求に対して不足する電力については、二次電池81からの出力によって補償する。
【0071】
図12(A),(B)は、燃料電池システム100Cにおけるカソードガスの供給量の制御処理を説明するための説明図である。図12(A)は、制御部20が、水素循環用ポンプ64の消費電力に基づいてエア供給量の実測値を取得するために用いるエア供給量計測用マップ24を表すグラフである。エア供給量計測用マップ24は、第1実施例で説明したエア供給量基準値取得用マップ23(図6)と同様なマップである。
【0072】
制御部20は、水素循環用ポンプ64の消費電力を計測し、エア供給量計測用マップ24を用いて、その計測値PHPに対するエア供給量をエア供給量の実測値QAMとして取得する。制御部20は、このエア供給量の実測値QAMに基づいて、エアコンプレッサ32の回転数を補正することにより、エア供給量についてのフィードバック制御を実行する。
【0073】
図12(B)には、制御部20がエアコンプレッサ32の回転数の補正値を取得するために用いる回転数補正値取得用マップ25の一例が、縦軸を補正値とし、横軸をエア供給量とするグラフによって表されている。なお、図8(B)のグラフは、図8(A)のグラフと横軸が互いに対応するように図示されている。
【0074】
この回転数補正値取得用マップ25は、予め実験等によって得られた補正値とエア供給量の実測値との間の対応関係に基づいて設定されている。第4実施例では、回転数補正値取得用マップ25には、エア供給量が大きいほどエアコンプレッサ32の回転数の補正値が線形的に小さくなる比例関係が設定されている。ここで、燃料電池システム100Cでは、燃料電池10に一定の電力を出力させるためのエア供給量の目標値として、初期設定値QASが設定される。回転数補正値取得用マップ25では、この初期設定値QASより、エア供給量の実測値が大きい場合には、マイナス側の補正値が得られ、エア供給量の実測値が小さい場合には、プラス側の補正値が得られる。
【0075】
制御部20は、回転数補正値取得用マップ25を用いて、エア供給量の実測値QAMに対するエアコンプレッサ32の回転数の補正値ΔRを取得する。制御部20は、補正値ΔRに基づいて、エアコンプレッサ32の回転数を調整する。このように、第2実施例の燃料電池システム100Cでは、水素循環用ポンプ64の消費電力の計測値と、エア供給量計測用マップ24とを用いて、エア供給量を計測することにより、エア供給量のフィードバック制御を実行している。即ち、エアフロメータ33を省略した場合であっても、水素循環用ポンプ64の消費電力の計測値に基づき、適切にカソードガスの供給量を制御することができる。
【0076】
E.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0077】
E1.変形例1:
上記実施例では、エア供給量基準値を取得するために、アノードガスに関連する値であって、実際のエア供給量と相関関係を有する値として、水素循環用ポンプ64の消費電力や、燃料電池10のアノード側のガス流路における圧力損失、アノード排ガスの湿度を検出していた。しかし、アノードガスに関連する値であって、実際のエア供給量と相関関係を有する値としては、他の値が検出されるものとしても良い。
【0078】
E2.変形例2:
上記実施例では、制御部20は予め記憶しておいた対応関係(相関関係)としてのマップ21〜25を用いて、カソードガスの供給量の制御に用いるための目標エア供給量やエア供給量基準値、エアコンプレッサ32の回転数の補正値を取得していた。しかし、制御部20には、マップ21〜25に換えて、マップ21〜25に設定されているのと同様な対応関係を表す演算式や関数などが予め記憶されているものとしても良い。
【0079】
E3.変形例3:
上記第1ないし第3実施例では、補正値取得処理を、燃料電池システム100,100A,100Bの運転終了時に実行していた。しかし、補正値取得処理は、他のタイミングで実行されるものとしても良い。例えば、ユーザからの指令に基づくタイミングで実行されるものとしても良いし、システムの起動時に実行されるものとしても良い。なお、補正値取得処理を燃料電池システム100,100A,100Bの運転終了時に実行する方が、燃料電池10の温度などの状態が比較的安定している可能性が高いため、より好ましい。
【0080】
E4.変形例4:
上記第1ないし第3実施例では、補正値取得処理における燃料電池10の基準運転として、反応ガスの供給量や、燃料電池10の出力、燃料電池10の温度を一定とする運転制御を実行していた。しかし、燃料電池10の基準運転としては、予め設定された他の条件による運転であっても良い。例えば、反応ガスの供給量は、予め設定されたとおりに、時間変化するものとしても良い。なお、この場合には、その基準運転の条件に応じて、基準値取得用マップが準備されることが望ましい。
【0081】
E5.変形例5:
上記実施例では、カソードガス供給部30には、カソードガスを加湿するための加湿部が設けられていなかった。しかし、燃料電池10の運転中における電解質膜の湿潤状態を良好に維持するために、カソードガス供給部30には、カソードガスを加湿するための加湿部が設けられるものとしても良い。ただし、加湿部が設けられると、その加湿部において、エアフロメータ33の計測誤差は丸められる可能性がある。そのため、上記実施例で説明したエアフロメータ33の計測誤差を補償するための補正値を用いたカソードガスの供給制御は、カソードガス供給部30に加湿部が省略された燃料電池システム100に、より適している。
【0082】
E6.変形例6:
上記実施例では、制御部20は、エアフロメータ33の計測誤差が補償されるように、補正値Kや、エアコンプレッサ32の回転数の補正値ΔRを取得していた。しかし、制御部20は、カソードガスの供給量制御において、他の方法によって、エアフロメータ33の計測誤差を補償するものとしても良い。例えば、エアフロメータ33の計測誤差を補償されるように、エアコンプレッサ32の回転数決定マップ22を補正するものとしても良い。具体的には、エア供給量実測値QAMに対するエア供給量基準値QAEの割合(QAM/QAE)を、回転数決定マップ22におけるエア供給量に対するエアコンプレッサ32の回転数の変化率に乗算するものとしても良い。
【0083】
E7.変形例7:
上記第1実施例では、燃料電池システム100は、燃料電池10にアノードガスを供給するためのインジェクタ55や、燃料電池10にアノード排ガスを循環させるための水素循環用ポンプ64を備えていた。しかし、燃料電池システム100は、インジェクタ55や水素循環用ポンプ64に換えて、燃料電池10に水素を供給するためのポンプを備えているものとしても良い。この場合には、補正値取得処理において、そのポンプの消費電力に基づいてエア供給量基準値を取得するものとしても良い。
【0084】
E8.変形例8:
上記第1実施例では、制御部20は、水素循環用ポンプ64を一定電圧で駆動していた。しかし、制御部20は、水素循環用ポンプ64を一定電圧で駆動しなくとも良く、水素循環用ポンプ64の回転数や、水素循環用ポンプ64が送り出すガス量を一定に維持するように駆動するものとしても良い。この場合には、制御部20は、水素循環用ポンプ64の回転数や水素循環用ポンプ64が送り出すガス量を検出して、フィードバック制御することが好ましい。
【0085】
E9.変形例9:
上記第4実施例では、制御部20は、燃料電池10に一定の電力を出力させていた。しかし、制御部20は、予め設定された多段階の出力レベルごとの電力を燃料電池10に出力させるものとしても良い。この場合には、出力レベルごとにエア供給量計測用マップ24が準備されていることが望ましい。
【符号の説明】
【0086】
1…電解質膜
2…アノード
3…カソード
10…燃料電池
20…制御部
21…エア供給量決定マップ
22…回転数決定マップ
23,23A,23B…基準値取得用マップ
24…エア供給量計測用マップ
25…回転数補正値取得用マップ
30…カソードガス供給部
31…カソードガス配管
32…エアコンプレッサ
33…エアフロメータ
34…開閉弁
40…カソードガス排出部
41…カソード排ガス配管
43…調圧弁
44…圧力計測部
50…アノードガス供給部
51…アノードガス配管
52…水素タンク
53…開閉弁
54…レギュレータ
55…インジェクタ
58…第1の水素圧力計測部
60…アノードガス循環排出部
61…アノード排ガス配管
62…気液分離部
63…アノードガス循環配管
64…水素循環用ポンプ
65…アノード排水配管
66…排水弁
68…第2の水素圧力計測部
69…湿度計測部
70…冷媒供給部
71…冷媒用配管
72…ラジエータ
73…冷媒循環用ポンプ
74,75…冷媒温度計測部
81…二次電池
82…DC/DCコンバータ
83…第1のDC/ACインバータ
84…第2のDC/ACインバータ
100,100A,100B,100C…燃料電池システム
200…外部負荷
841…電圧センサ
842…電流センサ
DCL…直流電源ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部負荷の要求に応じて電力を出力する燃料電池システムであって、
燃料電池と、
前記燃料電池に対してカソードガスを供給するカソードガス供給部と、
前記カソードガス供給部が前記燃料電池に送り出すカソードガスの量を計測するガス送出量計測部と、
前記燃料電池に対してアノードガスを供給するアノードガス供給部と、
アノードガスに関連する値であって、前記燃料電池に対するカソードガスの実際の供給量と相関関係を有する値として予め選択された特徴値を検出する特徴値検出部と、
前記燃料電池に対するアノードガスおよびカソードガスの供給量を制御して、前記燃料電池の運転を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記燃料電池を予め設定された条件で運転する基準運転を実行させたときのカソードガスの供給量と、前記特徴値との間の相関関係を、予め記憶しており、
前記燃料電池に前記基準運転を実行させて、前記ガス送出量計測部の計測値を取得するとともに、前記特徴値を検出し、前記相関関係を用いて、検出された前記特徴値に対するカソードガスの供給量を供給量基準値として取得し、前記供給量基準値と前記ガス送出量計測部の計測値との差を前記ガス送出量計測部の計測値の誤差として求め、
前記制御部は、前記ガス送出量計測部の計測値に基づいて、前記燃料電池にカソードガスを供給する際に、前記誤差が補償されるように、前記カソードガス供給部が送り出すカソードガスの量を調整する、燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池システムであって、
前記アノードガス供給部は、前記燃料電池にアノードガスを送り出すポンプを備え、
前記特徴値検出部は、前記燃料電池に対するカソードガスの実際の供給量の増加に伴って低下する前記ポンプの消費電力を前記特徴値として検出する、燃料電池システム。
【請求項3】
請求項1記載の燃料電池システムであって、
前記特徴値検出部は、前記燃料電池に対するカソードガスの実際の供給量の増加に伴って低下する前記燃料電池のアノード側のガス流路における圧力損失を前記特徴値として検出する、燃料電池システム。
【請求項4】
請求項1記載の燃料電池システムであって、
前記特徴値検出部は、前記燃料電池に対するカソードガスの実際の供給量の増加に伴って低下するアノード排ガスの湿度を前記特徴値として検出する、燃料電池システム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の燃料電池システムであって、
前記基準運転は、前記燃料電池に対するアノードガスおよびカソードガスの供給量を予め設定された量で一定とするとともに、前記燃料電池を予め設定された一定の出力で一定とする運転を含む、燃料電池システム。
【請求項6】
アノードガスとカソードガスとを燃料電池に供給する際に、ガス送出量計測部に前記燃料電池に対するカソードガスの供給量を計測させ、前記ガス送出量計測部の計測値に基づき、前記燃料電池に対するカソードガスの供給量を制御する方法であって、
(a)前記燃料電池を予め設定された条件で運転する基準運転を実行し、前記燃料電池に対して送り出されるカソードガスの量を計測するとともに、アノードガスに関連する値であって、前記燃料電池に対するカソードガスの実際の供給量と相関関係を有する値として予め選択された特徴値を検出する工程と、
(b)予め準備された、前記基準運転の実行時におけるカソードガスの供給量と前記特徴値との間の相関関係を参照して、前記工程(a)において検出された前記特徴値に対するカソードガスの供給量を供給量基準値として取得する工程と、
(c)前記工程(a)において計測したカソードガスの量と、前記工程(b)において取得した供給量基準値との差として求められた誤差を補償しつつ、前記ガス送出量計測部の計測値に基づいて前記カソードガスを前記燃料電池に供給する工程と、
を備える、方法。
【請求項7】
アノードガスとカソードガスとを燃料電池に供給する際に、前記燃料電池に対するカソードガスの供給量を測定する方法であって、
(a)前記燃料電池を予め設定された条件で運転する基準運転を実行し、前記燃料電池に対して送り出されるカソードガスの量を計測するとともに、アノードガスに関連する値であって、前記燃料電池に対するカソードガスの実際の供給量と相関関係を有する値として予め選択された特徴値を検出する工程と、
(b)予め準備された、前記基準運転の実行時におけるカソードガスの供給量と前記特徴値との間の相関関係を用いて、前記工程(a)において検出された前記特徴値に対するカソードガスの供給量を取得する工程と、
を備える、方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2012−3957(P2012−3957A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−138153(P2010−138153)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】