説明

燃料電池システムおよび燃料電池システムの制御方法

【課題】酸化剤極への酸化剤ガスと希釈ガスとに対する各々の要求流量を精度よく供給する。
【解決手段】コンプレッサ10が設けられたメイン供給流路L1から分岐して燃料電池スタック1aの酸化剤極に空気を供給するFC供給流路L2およびその下流側を含む燃料電池ラインと、メイン供給流路L1から分岐してスタックケース1b内に空気を供給するケース供給流路L3およびその下流側を含む希釈ラインとを有している。ケース供給流路L3には、この流路における空気の流量を検出する第2の流量センサ31が設けられている。制御部30は、第2の流量センサ31の検出結果に基づいて、ケース供給流路L3における二方弁14を制御する。この場合、希釈ラインは、圧力損失が燃料電池ラインの圧力損失よりも低くなるように設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムおよびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、燃料極に燃料ガス(例えば、水素)が供給されるとともに、酸化剤極に酸化剤ガス(例えば、空気)が供給されることにより、これらのガスを電気化学的に反応させて発電を行う燃料電池を備えた燃料電池システムが知られている。この類の燃料電池システムでは、燃料電池から燃料ガスが漏洩する虞があるため、燃料電池をケースで収容する工夫がなされている(例えば、特許文献1参照)。そして、このケースに対し、燃料電池の酸化剤極に供給する酸化剤ガスの一部を希釈ガスとして分岐供給することにより、ケース内の燃料ガスを希釈する。ケース内のガスは、排出流路を介して、燃料電池の酸化剤極からの排出ガスと混合させた上で、外部に排出される。この手法では、燃料電池から漏出する燃料ガスの量は、燃料電池の発電量(発電電流)と相関があるとの知得に基づいて、燃料電池の発電量が大きくなる程、希釈ガスの流量を増量させている。
【特許文献1】特開2004−265750号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、燃料電池ではシール部材や電解質膜を透過する燃料ガスが存在するため、漏洩する燃料ガスの量が必ずしも燃料電池の発電量に対応しないこともある。そのため、従来の手法によれば、燃料電池の酸化剤極への酸化剤ガスと希釈ガスとに対して、それぞれの要求流量を満たすように、酸化剤ガスを供給することが困難となる可能性がある。
【0004】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、酸化剤極への酸化剤ガスと希釈ガスとに対する各々の要求流量を精度よく供給することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる課題を解決するために、本発明は、酸化剤ガス供給手段が設けられたメイン供給流路から分岐してこのメイン供給流路からの酸化剤ガスを燃料電池の酸化剤極に供給する第1の供給流路およびその下流側を含む燃料電池ラインと、メイン供給流路から分岐してこのメイン供給流路からの酸化剤ガスを収容ケース内に供給する第2の供給流路およびその下流側を含む希釈ラインとを有している。第2の供給流路には、この流路における酸化剤ガスの流量を検出する第1の流量検出手段が設けられている。制御部は、第1の流量検出手段の検出結果に基づいて、第2の供給流路における酸化剤ガスの流量を調整する流量調整手段を制御する。この場合、希釈ラインは、圧力損失が燃料電池ラインの圧力損失よりも低くなるように設定されている。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、燃料電池への酸化剤ガスの流量および収容ケースへの酸化剤ガスの流量をバランスよく制御することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態にかかる燃料電池システムの全体構成を示すブロック図である。燃料電池システムは、例えば、移動体である車両に搭載されており、この車両は燃料電池システムから供給される電力によって駆動する。
【0008】
燃料電池システムは、燃料電池スタック1aと、スタックケース(収容ケース)1bとで構成される燃料電池ユニット1を備えている。燃料電池スタック1aは、固体高分子電解質膜を挟んで燃料極と酸化剤極とを対設した燃料電池構造体をセパレータで挟持して、これを複数積層して構成される。この燃料電池スタック1aは、個々の燃料極に燃料ガスが供給されるとともに、個々の酸化剤極に酸化剤ガスが供給されることにより、これらの反応ガスを電気化学的に反応させて発電電力を発生する。本実施形態では、燃料ガスとして水素を、酸化剤ガスとして空気を用いるケースについて説明する。
【0009】
スタックケース1bは、燃料電池スタック1aを収容するケースであり、燃料電池スタック1aのシール部材や電解質膜を透過して漏出する水素の外部放出を抑制する機能を担っている。スタックケース1bは、後述するように、主として燃料電池スタック1aの酸化剤極へと空気を供給する系統である燃料電池ラインと、主としてスタックケース1b内に空気を供給して漏出した燃料ガスを希釈する系統である希釈ラインとの比較において、希釈ラインの圧力損失が、燃料電池ラインの圧力損失よりも低くなるように、その容積が設定されている。この関係は、燃料電池システムの運転条件に拘わらず成立している。ただし、車両への搭載性を考慮して、圧力損失と小型化との両立を図るように、その容積を設定することが好ましい。
【0010】
燃料電池システムには、燃料電池スタック1aに空気を供給するための空気系と、燃料電池スタック1aに水素を供給するための水素系とが備えられている。
【0011】
空気系において、酸化剤ガスである空気は、例えば、大気がコンプレッサ10によって取り込まれると、これが加圧されて、メイン供給流路L1を介して後段の要素へと供給される。メイン供給流路L1において、コンプレッサ10の下流側には、コンプレッサ10によって加圧された空気を冷却するアフタークーラー11が設けられており、また、コンプレッサ10の上流側には、大気中に含まれるダストを除去するフィルター12が設けられている。メイン供給流路L1は、アフタークーラー11の後段に設けられた分岐部13を介して、FC供給流路(第1の供給流路)L2と、ケース供給流路(第2の供給流路)L3とに分岐している。
【0012】
FC供給流路L2は、メイン供給流路L1からの空気を燃料電池スタック1aの酸化剤極に供給する。FC供給流路L2には加湿装置15が設けられており、メイン供給流路L1からの空気は、加湿装置15において燃料電池スタック1aの反応に適した湿度まで加湿される。
【0013】
これに対して、ケース供給流路L3は、メイン供給流路L1からの酸化剤ガスをスタックケース1b内に供給する。このケース供給流路L3には、当該流路L3を通過する空気の流量、すなわち、FC供給流路L2とケース供給流路L3との流量配分を調整する二方弁(流量調整手段)14が設けられている。以下、メイン供給流路L1からFC供給流路L2へ分岐した空気と区別するため、説明の便宜上、メイン供給流路L1からケース供給流路L3へ分岐した空気を希釈空気という。
【0014】
酸化剤極からの排出ガス(酸素が消費された空気)は、FC排出流路L4を介して外部に排出される。このFC排出流路L4は、燃料電池スタック1aの下流において、上述した加湿装置15を経由して配設されている。この加湿装置15において、酸化剤極からの排出ガスと、コンプレッサ10側からの空気との間で水分の交換が行われことにより、燃料電池スタック1aに供給される空気に対する加湿が行われる。FC排出流路L4において、加湿装置15の下流には、燃料電池スタック1aの酸化剤極へ供給される空気の圧力を調整する空気調圧バルブ18が設けられている。また、FC排出流路L4において、空気調圧バルブ18の下流には、消音機能を備える第1のマフラー16および第2のマフラー17がそれぞれ設けられている。
【0015】
スタックケース1bには、ケース排出流路L5が接続されている。このケース排出流路L5は、他方の端部が、第1の混合部19を介してFC排出流路L4に接続されており、スタックケース1b内のガスは、第1の混合部19において、酸化剤極からの排出ガスと混合されて外部に排出される。また、ケース供給流路L3には、スタックケース1bの前段から分岐して、第2の混合部20を介してFC排出流路L4に接続するケースバイパス流路L6が設けられている。したがって、ケース供給流路L3を流れる希釈ガスの一部は、スタックケース1bへと流れず、ケースバイパス流路L6へと流れ、第2の混合部20において、酸化剤極からの排出ガスと混合されて外部に排出される。このケースバイパス流路L6には、この流路へと分岐する希釈ガスの流量を絞るために、オリフィス21が配設されている。なお、第1および第2の混合部19,20は、FC排出流路L4において、第1のマフラー16と第2のマフラー17との間に配置されており、また、第2の混合部20は、第1の混合部19よりも上流側に配置されている。
【0016】
一方、水素系において、燃料ガスである水素は、例えば、燃料タンクといった水素供給手段から、水素供給流路L7を介して燃料電池スタック1aの燃料極に供給される。燃料極からの排出ガス(未使用の水素を含むガス)は、燃料電池スタック1aから水素排出流路L8に排出される。
【0017】
制御部(制御手段)30は、システム全体を制御する機能を担っており、制御プログラムに従って動作することにより、燃料電池スタック1aの運転状態を制御する。制御部30としては、CPU、ROM、RAM、I/Oインターフェースを主体に構成されたマイクロコンピュータを用いることができる。この制御部30は、システムの状態に基づいて、各種の演算を行い、この演算結果を制御信号として各種のアクチュエータ(図示せず)に出力し、例えば、コンプレッサ10の回転数、二方弁14の開度、空気調圧バルブ18の開度を制御する。また、制御部30には、システムの状態を検出するために、各種センサ等からのセンサ信号が入力されている。
【0018】
第1の流量センサ(第2の流量検出手段)31は、メイン供給流路L1においてコンプレッサ10よりも上流側に配置されており、コンプレッサ10によって供給される空気の流量(以下「メイン空気流量」)を検出する。第2の流量センサ(第1の流量検出手段)32は、ケース供給流路L3において二方弁14とスタックケース1bとの間に配置されており、ケース供給流路L3を流れる希釈空気の流量(以下「希釈空気流量」という)を検出する。空気圧力センサ33は、FC供給流路L2において加湿装置15よりも下流側に配置されており、燃料電池スタック1aの酸化剤極に供給される空気の圧力(以下「空気圧力」という)を検出する。電圧センサ34は、燃料電池スタック1aにおいて、個々の発電セルの電圧(以下「セル電圧」という)を検出する。
【0019】
このような構成の燃料電池システムにおいて、以下、本実施形態にかかる燃料電池システムの制御方法について説明する。ここで、図2は、燃料電池スタック1aの発電量(発電電流)と、この発電量に応じた各空気流量Lt,Lc,Lpの要求値との関係を示す説明図である。同図において、Ltはメイン空気流量を示し、LcはFC供給流路L2を介して燃料電池スタック1aの酸化剤極へ供給される空気流量を示し、Lpは希釈空気流量を示す。燃料電池スタック1aの発電量と、各空気流量Lt,Lc,Lpとの対応関係は、発電量に応じた各空気流量Lt,Lc,Lpの最適値を、実験やシミュレーションを通じて求めることにより、取得することができる。
【0020】
燃料電池スタック1aに用いられているシール材や電解質膜を透過してスタックケース1b内に漏出した水素を希釈するために、スタックケース1b内に希釈空気を供給する必要がある。同図から分かるように、この希釈空気は、発電量(すなわち、発電電流)が小さい状態でも供給する必要があり、その流量Lpは、燃料電池スタック1aへの空気流量Lcよりも大きくなる関係となっている。そして、発電量が大きくなるにつれ、燃料電池スタック1a側への空気流量Lcは増加し、希釈空気流路Lcは減少する傾向となり、ある基準発電量を境に、空気流量Lc,Lpの大小関係が逆転する。そして、発電量がさらに大きくなると、燃料電池スタック1aへの空気流量Lcは発電量の増加に応じてさらに増加し、希釈空気流量Lpはさらに減少を続けて所定の値へと収束する傾向となる。なお、メイン空気流量Ltは、燃料電池スタック1aへの空気流量Lcと、希釈空気流路Lpとの和となる。
【0021】
本実施形態において、制御部30は、燃料電池スタック1aの発電量が大きくなる程、希釈空気流量Lpが小さくなるように制御を行うとともに、燃料電池スタック1aへの空気流量Lcが大きくなるように制御を行う。この場合、希釈空気流量Lpおよび燃料電池スタック1aへの空気流量Lcは、基準発電量よりも発電量が小さい場合には、希釈空気流量Lpが燃料電池スタック1aへの空気流量Lcよりも大きくなっており、基準発電量よりも発電量が大きい場合には、希釈空気流量Lpが燃料電池スタック1aへの空気流量Lcよりも小さくなっている。ここで、基準発電量は、発電量およびこれに対応して要求される希釈空気流量Lpの関係と、発電量およびこれに対応する燃料電池スタック1aへの空気流量Lcの関係とを実験やシミュレーションを通じて求め、各空気流量Lp,Lcが交差する際の発電量として求めることができる。
【0022】
本実施形態において、希釈空気流量Lpおよび燃料電池スタック1aへの空気流量Lcは、二方弁14の開度を制御することにより設定することができる。そこで、制御部30は、燃料電池スタック1aにおける発電量に基づいて、二方弁14の開度を制御する。この際、制御部30は、第1の流量センサ31によって検出されるメイン空気流量と、第2の流量センサ32によって検出される希釈空気流量とを参照する。そして、燃料電池スタック1aへの空気流量を、第1の流量センサ31において検出されるメイン空気流量から第2の流量センサ32において検出される希釈空気流量を減算することにより求める。制御部30は、このようにして検出された各流量を参照し、発電量に対応した要求流量となるように、二方弁14を制御する。
【0023】
このように本実施形態において、空気系は、メイン供給流路L1の後段が、燃料電池ラインと、希釈ラインとに分岐している。燃料電池ラインは、FC供給流路L2およびその下流側、すなわち、燃料電池スタック1a内の空気流路、FC排出流路L4を主体に構成されている。一方、希釈系ラインは、ケース供給流路L3およびその下流側、すなわち、スタックケース1b、ケース排出流路L5を主体に構成されている。
【0024】
希釈ラインの圧力損失が燃料電池ラインの圧力損失よりも高い場合には、燃料電池スタック1aの酸化剤側へ要求される空気流量を供給しつつ、スタックケース1b側へ要求される空気流量を供給することが困難となる。しかしながら、本実施形態によれば、スタックケース1bの容量によって、希釈ラインの圧力損失が、燃料電池ラインの圧力損失よりも低くなるように設定されている。そのため、基準発電量まで、燃料電池スタック1aへの空気流量Lcよりも希釈空気流量Lpを大きく制御することも可能となる。また、基準発電量より大きい場合は、希釈空気流量Lpよりも燃料電池スタック1aへの空気流量Lcを大きく制御することが可能となる。これにより、全ての発電条件を通じて、燃料電池スタック1aへの空気流量および希釈空気流量をバランスよく制御することが可能となる。
【0025】
また、燃料電池スタック1aの発電量が小さい場合、燃料電池スタック1a下流の空気調圧バルブ18は、酸化剤極における空気圧力が低くなるよう開度が大きく設定されている(開いた状態)。しかしながら、希釈ラインの圧力損失が、燃料電池ラインの圧力損失よりも低いため、コンプレッサ10からの空気は、希釈ラインに向かって多く流れる。その希釈ラインに向かう空気を、ケース供給流路L3に設けた二方弁14によって、希釈ラインと燃料電池ラインとに分配することができる。これにより、燃料電池スタック1aへの空気流量および希釈空気流量の制御に関する精度の向上を図ることができる。また、第2の流量センサ32によって検出される希釈空気流量を参照することにより、さらに精度よく空気流量の制御を行うことができる。
【0026】
また、本実施形態によれば、二方弁14により希釈空気流量が制御される。二方弁14は、弁全体の大きさに対して、流路断面積を大きく設定することができるので、弁の位置ばらつきによる流量ばらつきの影響を小さくすることができる。これにより、FC供給流路L2とケース供給流路L3との流量配分を精度よく制御することができる。
【0027】
また、本実施形態において、メイン空気流量を検出する第1の流量センサ31は、メイン供給流路L1においてコンプレッサ10よりも上流に設けられている。そのため、コンプレッサ10単体の性能ばらつきや性能低下の影響を受けにくい構成となるので、メイン空気流量を精度よく特定することができる。これにより、流量制御精度の向上を図ることができる。
【0028】
また、希釈空気流量を検出する第2の流量センサ32は、ケース供給流路L3において、二方弁14よりも下流側に設けられている。このように、希釈空気流量を検出するセンサを備えることにより、希釈空気流量を直接検出することができるので、その値を精度よく検出することができる。これにより、流量制御精度の向上を図ることができる。
【0029】
また、本実施形態では、メイン空気流量から希釈空気流量を減算することにより、燃料電池スタック1aの酸化剤極に供給される空気流量が演算される。FC供給流路L2に流量センサを設けて流量を検出した場合には、圧力変動幅が大きいため、センサの使用環境が厳しく、故障等の虞がある。しかしながら、本実施形態によれば、メイン空気流量と希釈空気流量との演算によって、それを求めることができるので、センサ等を使用した場合の不都合を解消することができる。
【0030】
なお、本実施形態では、ケース供給流路L3に二方弁14を備える構成であるが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、図3に示すように、燃料電池システムは、二方弁14に代えて、希釈空気流量を調整する流量調整装置22を備える構成であってもよい。ここで、流量調整装置22としては、弁回転方式、ソレノイド方式、可変オリフィス方式など種々のタイプを採用することができる。
【0031】
また、燃料電池スタック1aからの排出ガスは、第1および第2のマフラー16,17のみを備えるFC排出流路L4を介して外部に排出する構成であってもよい。ただし、本実施形態に示すように、ケース排出流路L5をFC排出流路L4に合流させることにより、希釈ラインに要求される希釈空気流量を低減させることができる。そのため、燃料電池システムの効率の向上を図ることができる。
【0032】
(第2の実施形態)
図3および図4は、第2の実施形態にかかる燃料電池システムの制御方法の手順を示すフローチャートである。第2の実施形態にかかる燃料電池システムが、第1の実施形態のそれと相違する点は、燃料電池スタック1aの湿潤状態に応じて、酸化剤極に対する空気供給を制御する点にある。なお、燃料電池システムの構成は、第1の実施形態と同じであるため、共通する構成については符号を引用してその詳細な説明は省略することとし、相違点を中心に説明を行う。
【0033】
図3は、ドライアウトに対応した燃料電池システムの制御方法の手順を示すフローチャートである。このフローチャートに示す処理は、所定の周期で呼び出され、制御部30によって実行される。
【0034】
まず、ステップ10(S10)において、電圧センサ34から読み込んだセル電圧と、発電量に応じて設定される目標セル電圧とが比較される。
【0035】
ステップ11(S11)において、ドライアウトか否か、すなわち、燃料電池スタック1aの湿潤状態が湿潤不足であるか否かが判断される。ドライアウトか否かの判断は、セル電圧の挙動に基づいて、行うことができる。なお、ドライアウトの判断の手法については、特開2007−265956号公報に開示されているので必要ならば参照されたい。このステップ11において肯定判定された場合には、ステップ12(S12)に進む。一方、ステップ11において否定判定された場合には、本ルーチンを抜ける。
【0036】
ステップ12において、燃料電池スタック1aにおける酸化剤極および燃料極の間の膜間差圧を考慮して、燃料極における水素圧力との比較から、燃料極における空気圧力を増加することができるか否かが判断される。ステップ12において肯定判定された場合には、ステップ13に進む。一方、ステップ12において否定判定された場合には、後述するステップ16(S16)に進む。
【0037】
ステップ13において、制御部30は、燃料電池スタック1aからの水の持ち出しを抑制すべく、空気調圧バルブ18を制御して、燃料電池スタック1aの酸化剤極における空気圧力を増加させる。
【0038】
ステップ14において、酸化剤極への空気流量の減少が必要であるか否かが判断される。燃料電池スタック1aがまだ湿潤不足である場合には、空気流量を減少させて、燃料電池スタック1aからの水の持ち出しを抑制する必要がある。空気流量の減少が必要であるか否かの判断は、ステップ11の処理と同様に、ドライアウトか否かを判断することにより行うことができる。このステップ14において肯定判定された場合、すなわち、まだドライアウト傾向にある場合には、ステップ15(S15)に進む。一方、ステップ14において否定判定された場合、すなわち、ドライアウト傾向ではない場合には、本ルーチンを抜ける。
【0039】
ステップ15において、制御部30は、コンプレッサ10の回転数を下げるとともに、ケース供給流路L3に設けた二方弁14にて、燃料電池スタック1aへの空気流量を減少させる。この場合、スタックケース1b側への希釈空気流量は、発電量に応じた流量に維持されたままとなる。
【0040】
これに対して、ステップ16において、酸化剤極への空気流量の減少が可能であるか否かが判断される。このステップ16において肯定判定された場合には、上述したステップ15に進む。一方、ステップ16において否定判定された場合には、ステップ17(S17)に進み、燃料電池スタック1aの発電量を制限する(ステップ17)。
【0041】
これに対して、図4は、フラッディングに対応した燃料電池システムの制御方法の手順を示すフローチャートである。このフローチャートに示す処理は、所定の周期で呼び出され、制御部30によって実行される。
【0042】
まず、ステップ20(S20)において、電圧センサ34から読み込んだセル電圧と、発電量に応じて設定される目標セル電圧とが比較される。
【0043】
ステップ21(S21)において、フラッディングか否か、すなわち、燃料電池スタック1aの湿潤状態が湿潤過多であるか否かが判断される。フラッディングか否かの判断は、セル電圧の挙動に基づいて、行うことができる。なお、フラッディングの判断の手法については、特開2007−265956号公報に開示されているので必要ならば参照されたい。このステップ21において肯定判定された場合には、ステップ22(S22)に進む。一方、ステップ21において否定判定された場合には、本ルーチンを抜ける。
【0044】
ステップ22において、酸化剤極への空気流量の減少が可能であるか否かが判断される。このステップ22において肯定判定された場合には、ステップ23に進む。一方、ステップ22において否定判定された場合には、ステップ25(S25)に進み、燃料電池スタック1aの発電量を制限する(ステップ25)。
【0045】
ステップ23において、制御部30は、コンプレッサ10の回転数を増加させ、ステップ24(S24)において、ケース供給流路L3に設けた二方弁14にて、燃料電池スタック1aへの空気流量を増加させる。この場合、スタックケース1b側への希釈空気流量は、発電量に応じた流量に維持されたままとなる。
【0046】
このように本実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を奏するとともに、燃料電池スタック1aへの空気流量と、希釈空気流量との分配を精度よく行うことができるので、ドライアウトまたはフラッディングによる出力低下から迅速に回復することができる。
【0047】
(第3の実施形態)
図6は、本発明の第3の実施形態にかかる燃料電池システムの全体構成を示すブロック図である。本発明の燃料電池システムが第1の実施形態のそれと相違する点は、温度センサからの検出値を参照して制御を行うことにある。なお、第1の実施形態と共通する構成については符号を引用してその詳細な説明は省略することとし、相違点を中心に説明を行う。
【0048】
本実施形態において、制御部30は、第1の温度センサ(第1の温度検出手段)35および第2の温度センサ(第1の温度検出手段)36からのセンサ信号が入力されている。ここで、第1の温度センサ35は、ケース供給流路L3において二方弁14よりも下流で、ケースバイパス流路L6よりも上流に設けられており、希釈空気の温度を検出する。第2の温度センサ36は、外気温度を検出する。
【0049】
制御部30は、第1の流量センサ31から読み込まれたメイン流量を、この流量センサ31よりも上流側に配置された部品の圧力損失と、大気圧と、第2の温度センサから読み込まれた外気温度とによって補正する(第2の補正処理)。制御部30は、それ以後の演算では、補正されたメイン流量を用いる。また、制御部30は、第2の流量センサ32から読み込まれた希釈空気流量を、第2の流量センサ32よりも下流側に配置された部品の圧力損失と、大気圧と、第1の温度センサ35から読み込まれた希釈空気の温度とにより補正する(第1の補正処理)。制御部30は、それ以後の演算では、補正された希釈流量を用いる。
【0050】
このように本実施形態によれば、補正を行うことにより、燃料電池スタック1aの酸化剤極への空気の流量と、希釈空気の流量とをそれぞれ高精度に計測することができる。これにより、流量制御を精度よく行うことができる。
【0051】
(第4の実施形態)
図7は、本発明の第4の実施形態にかかる燃料電池システムの全体構成を示すブロック図である。本発明の燃料電池システムが第1の実施形態のそれと相違する点は、第2の流量センサのレイアウトである。なお、第1の実施形態と共通する構成については符号を引用してその詳細な説明は省略することとし、相違点を中心に説明を行う。
【0052】
本実施形態において、第2の流量センサ32は、ケース供給流路L3において分岐部13よりも下流側で、二方弁14よりも上流側に配置されている。
【0053】
制御部30は、第2の流量センサ32から希釈空気流量を、また、第1の流量センサ31において検出されるメイン空気流量から第2の流量センサ32において検出される希釈空気流量を減算することにより、燃料電池スタック1aへの空気流量を求めることができる。
【0054】
かかる構成であっても、第1の実施形態と同様に、その作用・効果を奏することができる。
【0055】
以上、本発明の実施形態にかかる燃料電池システムおよびその制御方法について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、その発明の範囲内において種々の変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】第1の実施形態にかかる燃料電池システムの全体構成を示すブロック図
【図2】燃料電池スタック1aの発電量(発電電流)と、この発電量に応じた各空気流量Lt,Lc,Lpの要求値を示す説明図
【図3】第1の実施形態にかかる燃料電池システムの変形例を示すブロック図
【図4】第2の実施形態にかかる燃料電池システムの制御方法の手順を示すフローチャート
【図5】第2の実施形態にかかる燃料電池システムの制御方法の手順を示すフローチャート
【図6】第3の実施形態にかかる燃料電池システムの全体構成を示すブロック図
【図7】第4の実施形態にかかる燃料電池システムの全体構成を示すブロック図
【符号の説明】
【0057】
L1 メイン供給流路
L2 FC供給流路
L3 ケース供給流路
L3 流路
L4 FC排出流路
L5 ケース排出流路
L6 ケースバイパス流路
L7 水素供給流路
L8 水素排出流路
1 燃料電池ユニット
1a 燃料電池スタック
1b スタックケース
10 コンプレッサ
11 アフタークーラー
12 フィルター
13 分岐部
14 二方弁
15 加湿装置
16 第1のマフラー
17 第2のマフラー
18 空気調圧バルブ
19 第1の混合部
20 第2の混合部
21 オリフィス
22 流量調整装置
30 制御部
31 流量センサ
31 第1の流量センサ
32 第2の流量センサ
33 空気圧力センサ
34 電圧センサ
35 第1の温度センサ
36 第2の温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池システムにおいて、
燃料極に供給される燃料ガスと酸化剤極に供給される酸化剤ガスとを電気化学的に反応させて発電を行う燃料電池と、
前記燃料電池を収容する収容ケースと、
酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給手段が設けられたメイン供給流路と、
前記メイン供給流路から分岐して当該メイン供給流路からの酸化剤ガスを前記燃料電池の酸化剤極に供給する第1の供給流路および当該第1の供給流路の下流側を含む燃料電池ラインと、
前記メイン供給流路から分岐して当該メイン供給流路からの酸化剤ガスを前記収容ケース内に供給する第2の供給流路および当該第2の供給流路の下流側を含む希釈ラインと、
前記第2の供給流路に設けられ、当該流路における酸化剤ガスの流量を調整する流量調整手段と、
前記第2の供給流路に設けられ、当該流路における酸化剤ガスの流量を検出する第1の流量検出手段と、
前記第1の流量検出手段の検出結果に基づいて、前記流量調整手段を制御する制御手段とを有し、
前記希釈ラインは、圧力損失が前記燃料電池ラインの圧力損失よりも低くなるように設定されていることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記第1の流量検出手段は、前記第2の供給流路において、前記流量調整手段よりも下流側に配置されていることを特徴とする請求項1に記載された燃料電池システム。
【請求項3】
前記メイン供給流路において前記酸化剤ガス供給手段よりも上流側に設けられており、当該酸化剤ガス供給手段によって供給される酸化剤ガスの流量を検出する第2の流量検出手段をさらに有し、
前記制御手段は、前記第2の流量検出手段の検出結果から前記第1の流量検出手段の検出結果を減算することにより、前記燃料電池の酸化剤極に供給される酸化剤ガスの流量を演算することを特徴とする請求項1または2に記載された燃料電池システム。
【請求項4】
前記制御手段は、前記第1の流量検出手段よりも下流側における圧力損失と大気圧とに基づいて、前記第1の流量検出手段の検出結果を補正する第1の補正処理を行うとともに、前記第2の流量検出手段よりも上流側における圧力損失と大気圧とに基づいて、前記第2の流量検出手段の検出結果を補正する第2の補正処理を行うことを特徴とする請求項3に記載された燃料電池システム。
【請求項5】
前記第2の供給流路に設けられ、当該流路における酸化剤ガスの温度を検出する第1の温度検出手段と、
前記酸化剤ガス供給手段によって取り込まれる酸化剤ガスの温度を第2の温度検出手段とをさらに有し、
前記制御手段は、さらに前記第1の温度検出手段の検出結果に基づいて、前記第1の補正処理を行うとともに、さらに前記第2の温度検出手段の検出結果に基づいて、前記第2の補正処理を行うことを特徴とする請求項4に記載された燃料電池システム。
【請求項6】
前記制御手段は、前記燃料電池の湿潤状態が湿潤不足であると判断した場合、前記流量調整手段により、前記燃料電池の酸化剤極に供給される酸化剤ガスの流量を減少させることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載された燃料電池システム。
【請求項7】
前記制御手段は、前記燃料電池の湿潤状態が湿潤不足であると判断した場合、前記燃料電池の酸化剤極に供給される酸化剤ガスの圧力を増加させることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載された燃料電池システム。
【請求項8】
前記制御手段は、前記燃料電池の湿潤状態が湿潤過多であると判断した場合、前記酸化剤ガス供給手段により、酸化剤ガスの供給流量を増加させるとともに、前記流量調整手段により、前記燃料電池の酸化剤極に供給される酸化剤ガスの流量を増加させることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載された燃料電池システム。
【請求項9】
前記制御手段は、前記燃料電池の発電量の増加に応じて、前記燃料電池の酸化剤極に供給する酸化剤ガスの流量を増加させるとともに、前記収容ケース内に供給する酸化剤ガスの流量を減少させるように、前記流量調整手段を制御しており、
前記燃料電池の酸化剤極に供給する酸化剤ガスの流量と前記収容ケース内に供給する酸化剤ガスの流量との大小関係は、基準発電量よりも小さな発電量において、前記収容ケース内に供給する酸化剤ガスの流量が前記燃料電池の酸化剤極に供給する酸化剤ガスの流量よりも多く、基準発電量よりも大きな発電量において、前記収容ケース内に供給する酸化剤ガスの流量が前記燃料電池の酸化剤極に供給する酸化剤ガスの流量よりも少なくなる傾向を有することを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載された燃料電池システム。
【請求項10】
燃料極に供給される燃料ガスと酸化剤極に供給される酸化剤ガスとを電気化学的に反応させて発電を行う燃料電池を備える燃料電池システムの制御方法において、
酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給手段が設けられたメイン供給流路から分岐するとともに当該メイン供給流路からの酸化剤ガスを前記燃料電池を収容する収容ケース内に供給する第2の供給流路に設けられ、当該第2の供給流路における酸化剤ガスの流量を検出し、
前記第2の供給流路における酸化剤ガスの流量に基づいて、前記第2の供給流路に設けられた流量調整手段により、当該第2の供給流路における酸化剤ガスの流量を調整しており、
前記希釈ラインは、前記第2の供給流路および当該第2の供給流路の下流側を含み、当該希釈ラインの圧力損失が、前記メイン供給流路から分岐するとともに当該メイン供給流路からの酸化剤ガスを前記燃料電池の酸化剤極に供給する第1の供給流路および当該第1の供給流路の下流側を含む燃料電池ラインの圧力損失よりも低くなるように設定されていることを特徴とする燃料電池システムの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−193713(P2009−193713A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−30583(P2008−30583)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】