説明

燃料電池システムと燃料電池システムの運転方法

【課題】燃料電池スタックの発電量を発電禁止領域を飛び越えて変化させたときにも、ユーザーに違和感を感じさせないようにする。
【解決手段】アノードに燃料ガスが供給されカソードに酸化剤ガスが供給されて発電を行う燃料電池スタック2を備えた燃料電池システム1の運転方法であって、所定の発電禁止領域では発電を行わず、発電禁止領域以外では燃料電池スタック2の要求発電量に応じた酸化剤ガスを供給し、燃料電池スタック2が発電禁止領域を飛び越えて発電量を変化させる場合には、酸化剤ガス供給量を要求発電量に対応させず、酸化剤ガス供給量の変化率を許容変化率にして漸次増加あるいは漸次減少して、発電禁止領域を飛び越した発電量に応じた酸化剤ガス供給量に近づけていく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池システムと燃料電池システムの運転方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池の劣化を抑制する対策として、高電位での発電を回避するように制御することが知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、近年、燃料電池を特定の発電領域で発電すると、燃料電池の劣化への影響が大きいことが判明した。そこで、燃料電池を運転する際に、前記特定の発電領域での発電を回避し、該発電領域を飛び越して発電量を制御することが考えられている。以下、このように特定の発電領域を飛び越す発電量の制御を、「またぎ制御」と称す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−129647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、燃料と酸化剤を供給して発電を行う燃料電池では、燃料と酸化剤の供給量を増減することによって発電量を制御している。
ここで、図8に示すように、前記またぎ制御のときに発電量の変化と同調させて空気の供給量を制御すると、またぎ制御では瞬時に発電量を変化させるため、燃料電池に供給する空気の供給量を急激に増加あるいは減少させる制御を行うこととなる。
【0005】
しかしながら、このように空気の供給量を急激に増加あるいは減少すると、空気の流れに起因して生じる振動や音の大きさが急激に変化するため、ユーザーが違和感を感じる虞がある。
【0006】
そこで、この発明は、またぎ制御を行ってもユーザーに違和感を感じさせない燃料電池システムと燃料電池システムの運転方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る燃料電池システムでは、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
請求項1に係る発明は、
アノードに燃料ガスが供給されカソードに酸化剤ガスが供給されて発電を行う燃料電池(例えば、後述する実施例における燃料電池スタック2)と、
前記燃料電池のアノードに燃料ガスを供給する燃料ガス供給手段(例えば、後述する実施例における水素タンク3等)と、
前記燃料電池のカソードに酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給手段(例えば、後述する実施例におけるエアポンプ10等)と、
制御部(例えば、後述する実施例における電子制御装置30)と、
を備え、通常発電時には前記燃料電池の要求発電量に応じた反応ガスを供給する燃料電池システム(例えば、後述する実施例における燃料電池システム1)であって、
前記制御部は、
酸化剤ガスの供給量を調整する酸化剤ガス供給調整手段(例えば、後述する実施例における供給空気量制御部31)と、
前記燃料電池の発電を制御し、所定の発電禁止領域では発電を行わない発電制御手段(例えば、後述する実施例におけるFC発電制御部32)と、を有し、
前記酸化剤ガス供給調整手段は、前記発電制御手段が前記発電禁止領域を飛び越えて発電量を変化させる場合に、酸化剤ガス供給量を前記要求発電量に対応させず、酸化剤ガス供給量の変化率を許容変化率にして酸化剤ガス供給量を漸次増加あるいは漸次減少し、前記発電禁止領域を飛び越した発電量に応じた酸化剤ガス供給量に近づけていくことを特徴とする燃料電池システムである。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の発明において、前記酸化剤ガス供給調整手段は、前記発電禁止領域を飛び越した発電量に応じた酸化剤ガス供給量と、前記漸次増加あるいは漸次減少により調整された酸化剤ガス供給量との差が所定値以下となったときに、酸化剤ガス供給量の前記漸次増加あるいは漸次減少を解除することを特徴とする。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項1に記載の発明において、前記酸化剤ガス供給調整手段は、前記要求発電量が発電禁止領域に入った時点から所定時間経過後に前記制限による酸化剤ガス供給量の漸次増加あるいは漸次減少を解除することを特徴とする。
【0010】
請求項4に係る発明は、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の発明において、前記発電制御手段が前記発電禁止領域を飛び越えて発電量を増加させるときに前記燃料電池のアシストが可能な蓄電装置(例えば、後述する実施例における蓄電装置15)と、前記蓄電装置の残容量を検知する残容量検知手段(例えば、後述する実施例におけるSOC検出部16)と、を備え、
前記残容量検知手段により検知された前記蓄電装置の残容量が、前記アシストを禁止する残容量下限値よりも大きい場合に、前記酸化剤ガス供給調整手段が酸化剤ガス供給量の前記漸次増加を行っているときには、前記発電制御手段は前記発電禁止領域の下限値に対応する発電量で燃料電池の発電を制御し、この発電量だけでは前記発電禁止領域を飛び越した発電量に足りない電力分を前記蓄電装置により補うことを特徴とする。
【0011】
請求項5に係る発明は、
アノードに燃料ガスが供給されカソードに酸化剤ガスが供給されて発電を行う燃料電池(例えば、後述する実施例における燃料電池スタック2)と、
前記燃料電池のアノードに燃料ガスを供給する燃料ガス供給手段(例えば、後述する実施例における水素タンク3等)と、
前記燃料電池のカソードに酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給手段(例えば、後述する実施例におけるエアポンプ10等)と、
制御部(例えば、後述する実施例における電子制御装置30)と、
を備え、通常発電時には前記燃料電池の要求発電量に応じた反応ガスを供給する燃料電池システム(例えば、後述する実施例における燃料電池システム1)であって、
前記燃料電池のアシストが可能な蓄電装置(例えば、後述する実施例における蓄電装置15)と、
前記蓄電装置の残容量を検知する残容量検知手段(例えば、後述する実施例におけるSOC検出部16)と、
を備え、
前記制御部は、
酸化剤ガスの供給量を調整する酸化剤ガス供給調整手段(例えば、後述する実施例における供給空気量制御部31)と、
前記燃料電池の発電を制御し、所定の発電禁止領域では発電を行わない発電制御手段(例えば、後述する実施例におけるFC発電制御部32)と、を有し、
前記酸化剤ガス供給調整手段は、前記発電制御手段が前記発電禁止領域を飛び越えて発電量を増加させるときに 前記残容量検知手段により検知された前記蓄電装置の残容量が前記燃料電池のアシストを禁止する残容量下限値以下である場合に、前記要求発電量が発電禁止領域を飛び越える前に、酸化剤ガス供給量を前記要求発電量に対応させず、酸化剤ガス供給量の変化率を許容変化率にして酸化剤ガス供給量を漸次増加し、前記発電禁止領域を飛び越した発電量に応じた酸化剤ガス供給量に近づけておくことを特徴とする燃料電池システムである。
【0012】
また、この発明に係る燃料電池システムの運転方法では、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
請求項6に係る発明は、アノードに燃料ガスが供給されカソードに酸化剤ガスが供給されて発電を行う燃料電池(例えば、後述する実施例における燃料電池スタック2)を備えた燃料電池システム(例えば、後述する実施例における燃料電池システム1)の運転方法であって、所定の発電禁止領域では発電を行わず、前記発電禁止領域以外では前記燃料電池の要求発電量に応じた酸化剤ガスを供給し、前記燃料電池が前記発電禁止領域を飛び越えて発電量を変化させる場合には、酸化剤ガス供給量を前記要求発電量に対応させず、酸化剤ガス供給量の変化率を許容変化率にして漸次増加あるいは漸次減少して、前記発電禁止領域を飛び越した発電量に応じた酸化剤ガス供給量に近づけていくことを特徴とする燃料電池システムの運転方法である。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明によれば、燃料電池の発電量を発電禁止領域を飛び越えて変化させた場合にも、酸化剤ガス供給量は漸次変化して、発電禁止領域を飛び越した発電量に応じた酸化剤ガス供給量に近づいていくので、酸化剤ガス供給量の急激な変化がない。その結果、酸化剤ガスの流れに起因して生じる振動や音の大きさが急変することがないので、ユーザーが違和感を感じることがなく、燃料電池システムの商品性が向上する。
【0014】
請求項2に係る発明によれば、酸化剤ガス供給量の漸次増加あるいは漸次減少を解除したときに、酸化剤ガスの流れに起因して生じる振動や音の変化を、ユーザーが違和感を感じない程度にすることができる。また、酸化剤ガスのストイキ不足を抑制することができる。
ここで、酸化剤ガスのストイキとは、要求発電量の発電に必要な必要酸化剤ガス流量に対する、過剰な酸化剤ガス流量を含む酸化剤ガス供給流量の比をいう。
【0015】
請求項3に係る発明によれば、酸化剤ガス供給量の漸次増加あるいは漸次減少を解除したときに、酸化剤ガスの流れに起因して生じる振動や音の変化を、ユーザーが違和感を感じない程度にすることができる。また、酸化剤ガスのストイキ不足を抑制することができる。
【0016】
請求項4に係る発明によれば、蓄電装置によるアシストが可能な場合には、酸化剤ガス供給調整手段が前記制限による酸化剤ガス供給量の漸次増加を行っている間、発電禁止領域の下限値に対応する発電量で燃料電池を発電するので、酸化剤ガスのストイキが低下するのを防止することができる。また、その間、発電量の不足分を蓄電装置で補うことで発電禁止領域を飛び越した発電量を得ることができるので、燃料電池システムの商品性が向上する。
【0017】
請求項5に係る発明によれば、蓄電装置によるアシストができない場合に、発電禁止領域に入る前に予め酸化剤ガス供給量を増加させておくことにより、燃料電池の発電量を発電禁止領域を飛び越えて変化させたときに酸化剤ガスのストイキが低下するのを防止することができる。
【0018】
請求項6に係る発明によれば、燃料電池の発電量を発電禁止領域を飛び越えて変化させた場合にも、酸化剤ガス供給量は漸次変化して、発電禁止領域を飛び越した発電量に応じた酸化剤ガス供給量に近づいていくので、酸化剤ガス供給量の急激な変化がない。その結果、酸化剤ガスの流れに起因して生じる振動や音の大きさが急変することがないので、ユーザーが違和感を感じることがなく、燃料電池システムの商品性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明に係る燃料電池システムの概略構成図である。
【図2】前記燃料電池システムの燃料電池に供給する空気の供給量制御を示すフローチャートである。
【図3】この発明の実施例1におけるまたぎ制御での空気流量増加制御のタイムチャートである。
【図4】この発明の実施例1におけるまたぎ制御での空気流量減少制御のタイムチャートである。
【図5】この発明の実施例2におけるまたぎ制御での空気流量増加制御のタイムチャートである。
【図6】この発明の実施例3におけるまたぎ制御での発電制御と空気流量増加制御のタイムチャートである。
【図7】この発明の実施例4におけるまたぎ制御での発電制御と空気流量増加制御のタイムチャートである。
【図8】従来の技術のまたぎ制御におけるまたぎ制御での空気流量増加制御のタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明に係る燃料電池システムとその運転方法の実施例を図1から図7の図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施例における燃料電池システムは燃料電池車両に搭載された態様であり、燃料電池車両は、燃料電池システムの燃料電池で発電した電気で走行用駆動モータを駆動し走行する。
【0021】
図1は、燃料電池車両に搭載された燃料電池システム1の概略構成を示した図である。
燃料電池スタック(燃料電池)2は、例えば固体ポリマーイオン交換膜等からなる固体高分子電解質膜をアノードとカソードとで両側から挟み込んで形成されたセルを複数積層して構成されており、アノードに燃料として水素ガス(燃料ガス)を供給し、カソードに酸化剤として酸素を含む空気(酸化剤ガス)を供給すると、アノードで触媒作用により発生した水素イオンが、固体高分子電解質膜を通過してカソードまで移動して、カソードで空気中の酸素と電気化学反応を起こして発電をする。
【0022】
水素タンク3に収容された水素ガスは、水素ガス供給流路4、エゼクタ5を通って燃料電池スタック2のアノードに供給される。燃料電池スタック2で消費されなかった未反応の水素ガスは、燃料電池スタック2からアノードオフガスとしてアノードオフガス流路6に排出され、さらにエゼクタ5に吸引され、水素タンク3から供給される新鮮な水素ガスと合流し再び燃料電池スタック2のアノードに供給される。この実施例において、水素タンク3、水素ガス供給流路4、エゼクタ5、アノードオフガス排出流路6は、燃料ガス供給手段を構成する。
【0023】
空気はエアポンプ10により所定圧力に加圧され、空気供給流路9を通って燃料電池スタック2のカソードに供給される。燃料電池スタック2に供給された空気は発電に供された後、燃料電池スタック2からカソードオフガス流路11を介して排出される。空気供給流路9には、空気供給流路9を通って燃料電池スタック2に供給される空気(以下、供給空気という)の流量(以下、供給空気流量という)を検出する流量センサ12が設けられている。また、カソードオフガス流路11には、供給空気の圧力を調節するための背圧弁13が設けられている。この実施例において、エアポンプ10と空気供給流路9は、酸化剤ガス供給手段を構成する。
【0024】
また、燃料電池スタック2はDC/DCコンバータ14を介して蓄電装置15に接続されており、燃料電池スタック2で発電した電気を蓄電装置15に蓄電可能となっている。燃料電池スタック2と蓄電装置15は、エアポンプ10や図示しない走行用駆動モータ等に電力供給可能に接続されている。
蓄電装置15は、蓄電装置15の残容量を検知する残容量検出部(残容量検知手段)16を備えている。
燃料電池スタック2は、燃料電池スタック2の出力電流を検出する電流センサ17を備えている。
【0025】
さらに、燃料電池システム1は電子制御装置30を備えている。電子制御装置30は、エアポンプ10を制御して燃料電池スタック2のカソードに供給される供給空気流量を制御する供給空気量制御部31と、燃料電池スタック2の発電を制御するFC発電制御部32とを備えている。
流量センサ12、残容量検出部16(以下、SOC検出部16と略す)、電流センサ17は、それぞれ検出値に応じた出力信号を電子制御装置30へ出力する。
【0026】
この燃料電池システム1において、電子制御装置30のFC発電制御部32は、燃料電池スタック2の劣化抑制のためにまたぎ制御を行う。前述したように、またぎ制御では、燃料電池スタック2の劣化への影響が大きい所定の発電領域(以下、発電禁止領域という)での発電を行わず、発電量を増加しているときおよび発電量を減少しているときのいずれの場合も、燃料電池スタック2に要求される発電量(すなわち要求発電量)が発電禁止領域内となるときには、発電禁止領域を飛び越して燃料電池スタック2の発電量を制御する。なお、この実施例では、発電禁止領域を燃料電池スタック2に対する要求電流値により規定し、要求電流値がIaからIbの間を発電禁止領域とする(Ia<Ib)。
【0027】
電子制御装置30の供給空気量制御部31は、FC発電制御部32がまたぎ制御ではない通常発電の制御を行うときには、燃料電池スタック2に供給される供給空気流量が、要求発電量(要求電流値)に応じた空気流量となるようにエアポンプ10の制御を行う。
【0028】
また、供給空気量制御部31は、FC発電制御部32がまたぎ制御を行うときには、燃料電池スタック2への供給空気流量の変化に起因して生じる振動や音の変化がユーザーに違和感を感じさせないように、供給空気流量を漸次増加あるいは漸次減少させて、発電禁止領域を飛び越した発電量に応じた空気流量(以下、飛び越し必要空気流量という)に接近させていく。
【0029】
次に、この実施例におけるまたぎ制御時の供給空気流量制御を図2のフローチャートに従って説明する。図2のフローチャートに示されるまたぎ制御時の供給空気流量制御ルーチンは、電子制御装置30の供給空気量制御部31によって燃料電池スタック2の発電中、一定時間毎に繰り返し実行される。なお、燃料電池スタック2の発電は、燃料電池車両のスタートスイッチ(図示略)のオン信号をトリガーとして開始される。
【0030】
まず、ステップS101において、FC発電制御部32が発電量を増加するまたぎ制御を行っているか否かを判定する。例えば燃料電池車両が加速するために走行用駆動モータの負荷(電力量)が増加し、その結果、燃料電池スタック2に対する要求発電量が発電禁止領域に入った場合に、発電量を増加するまたぎ制御が実行される。
ステップS101における判定結果が「YES」である場合には、ステップS102に進み、空気流量増加制御を実行して、本ルーチンの実行を終了する。
【0031】
一方、ステップS101における判定結果が「NO」である場合には、ステップS103に進み、FC発電制御部32が発電量を減少するまたぎ制御を行っているか否かを判定する。例えば燃料電池車両が減速するために走行用駆動モータの負荷(電力量)が減少し、その結果、燃料電池スタック2に対する要求発電量が発電禁止領域に入った場合に、発電量を減少するまたぎ制御が実行される。
ステップS103における判定結果が「YES」である場合には、ステップS104に進み、空気流量減少制御を実行し、本ルーチンの実行を終了する。
ステップS103における判定結果が「NO」である場合には、FC発電制御部32はまたぎ制御を行っていないので、本ルーチンの実行を終了する。
【0032】
次に、ステップS102において実行される空気流量増加制御の実施例1を図3のタイムチャートを参照して説明する。
図3に示すように、FC発電制御部32は、発電量を増加するまたぎ制御において、燃料電池スタック2に対する要求電流値が発電禁止領域の下限電流値Iaを越えた時点から、燃料電池スタック2の出力電流値を、発電禁止領域を飛び越した電流値(以下、飛び越し電流値という)Ibにステップ状に変化させる。つまり、燃料電池スタック2に対する要求電流値が下限電流値Iaを越えたときが、またぎ制御開始となる。
【0033】
これに対して、供給空気量制御部31は、燃料電池スタック2に供給される供給空気流量を、またぎ制御開始と同時にステップ状に増加させず、供給空気流量をまたぎ制御開始から漸次増加するように制御する(以下、漸次増加制御という)。そして、そのときの供給空気流量の単位時間当たりの増加量である変化率を許容変化率となるように制御する。ここで、供給空気流量の許容変化率は、供給空気流量の増加に起因して生じる振動や音の変化がユーザーに違和感として感じられない変化率とする。
そして、供給空気流量が、飛び越し電流値Ibに応じた空気流量(すなわち飛び越し必要空気流量)に達したときに、供給空気流量の漸次増加制御を終了し、またぎ制御が終了するまで供給空気流量を飛び越し必要空気流量に保持する制御を行う。
【0034】
次に、ステップS104において実行される空気流量減少制御の実施例1を図3のタイムチャートを参照して説明する。
図4に示すように、FC発電制御部32は、発電量を減少するまたぎ制御において、燃料電池スタック2に対する要求電流値が発電禁止領域の上限電流値Ibを下回った時点から、燃料電池スタック2の出力電流値を飛び越し電流値Iaにステップ状に変化させる。
【0035】
これに対して、供給空気量制御部31は、燃料電池スタック2に供給される供給空気流量をまたぎ制御開始と同時にステップ状に減少させず、供給空気流量をまたぎ制御開始から漸次減少するように制御する(以下、漸次減少制御という)。そして、そのときの供給空気流量の単位時間当たりの減少量である変化率を許容変化率となるように制御する。ここで、供給空気流量の許容変化率は、供給空気流量の減少に起因して生じる振動や音の変化がユーザーに違和感として感じられない変化率とする。
【0036】
そして、供給空気量制御部31は、供給空気流量が飛び越し電流値Iaに応じた空気流量(すなわち飛び越し必要空気流量)に達したときに、供給空気流量の漸次減少制御を終了し、またぎ制御が終了するまで供給空気流量を飛び越し必要空気流量に保持する制御を行う。したがって、供給空気流量の漸次減少制御を実行している間は、燃料電池スタック2へ供給空気を通常発電時よりも過剰に供給することとなる。
【0037】
このように供給空気流量を制御することにより、燃料電池スタック2に対してまたぎ制御が行われたときにも、供給空気流量は漸次変化して、飛び越し必要空気流量に近づいていくので、供給空気流量の急激な変化がなく、しかも、そのときの供給空気流量の変化率が許容変化率に設定されているので、供給空気流量の変化に起因して生じる振動や音の変化に対して、ユーザーが違和感を感じることがない。これにより、燃料電池システム1の商品性が向上する。
なお、空気流量増加制御の場合の許容変化率と空気流量減少制御の場合の許容変化率は、それぞれ別の値としてもよいし、同じ値としてもよい。
【0038】
次に、ステップS102において実行される空気流量増加制御の実施例2を図5のタイムチャートを参照して説明する。
この実施例2における空気流量増加制御は、またぎ制御開始から供給空気流量を許容変化率で漸次増加する点は、実施例1の場合と同じである。
しかしながら、実施例2においては、FC発電制御部32は、供給空気流量の漸次増加制御を供給空気流量が飛び越し必要空気流量に達するより前に解除し、その後は供給空気流量を飛び越し必要空気流量にステップ状に一度に増加させ、またぎ制御が終了するまで供給空気流量を飛び越し必要空気流量に保持する制御を行う。
供給空気流量の漸次増加制御を解除するタイミングは、供給空気流量と飛び越し必要空気流量との差が所定値以下となったとき、あるいは、またぎ制御開始から所定時間経過したときとする。
【0039】
ここで、前記所定値は、飛び越し必要空気流量に一度に増加させても、供給空気流量の増加に起因して生じる振動や音の変化に対して、ユーザーが違和感を感じない程度の空気流量差とする。
また、前記所定時間は、前記所定時間後の供給空気流量から飛び越し必要空気流量に一度に増加させても、供給空気流量の増加に起因して生じる振動や音の変化に対して、ユーザーが違和感を感じない時間とする。
このようにすると、供給空気流量の漸次増加制御を解除したときに、供給空気流量の増加に起因して生じる振動や音の変化を、ユーザーが違和感を感じない程度にすることができる。
【0040】
また、またぎ制御の間、供給空気流量の漸次増加制御を行っていると、供給空気流量が飛び越し必要空気流量に満たないので、燃料電池スタック2おいて通常発電時よりも空気のストイキが低下した状態となるが、実施例2では漸次増加制御を早めに終了して、飛び越し必要空気流量に移行することができるので、燃料電池スタック2において空気のストイキ不足となるのを抑制することができる。
ここで、空気のストイキとは、要求発電量の発電に必要な必要空気流量に対する、過剰な空気流量を含む供給空気流量の比をいう。
【0041】
次に、実施例3における燃料電池システムの運転方法を図6を参照して説明する。
前述した実施例1および実施例2における燃料電池システム1の運転方法は、発電量を増加するまたぎ制御の間、燃料電池スタック2において空気のストイキ不足になるのを容認することができる場合に実施可能な運転方法である。
しかしながら、燃料電池システム1の運転状態によっては、またぎ制御の間であっても、燃料電池スタック2において空気のストイキ不足になるのを容認することができない場合がある。例えば、燃料電池スタック2の発電安定性が低下しているときに、燃料電池スタック2への供給空気のストイキが低下すると、発電安定性が更に悪化することが考えられる。
【0042】
このように燃料電池スタック2において空気のストイキ不足になるのを容認することができないときに発電量を増加するまたぎ制御を行う場合には、実施例1あるいは実施例2と同様にまたぎ制御開始と同時に空気流量増加制御を行うとともに、燃料電池スタック2の出力電流をまたぎ制御開始と同時に飛び越し電流値Ibに増加させずに、図6に示すようにまたぎ制御開始から遅延させて飛び越し電流値Ibに増加する制御を行う。
【0043】
図6を参照して、実施例3における空気流量増加制御と燃料電池スタック2の発電制御を説明する。
図6における空気流量増加制御は実施例1における空気流量増加制御と同じであり、供給空気量制御部31は、またぎ制御開始から供給空気流量を許容変化率で漸次増加し、供給空気流量が飛び越し必要空気流量に達したときに、供給空気流量の漸次増加制御を終了し、またぎ制御が終了するまで供給空気流量を飛び越し必要空気流量に保持する。
【0044】
一方、FC発電制御部32は、またぎ制御開始から、供給空気流量の漸次増加制御によって供給空気流量が飛び越し必要空気流量に達するまで、燃料電池スタック2の出力電流値を発電禁止領域の下限電流値Iaに保持する。そして、供給空気流量が飛び越し必要空気流量に達したときに、燃料電池スタック2の出力電流値を飛び越し電流値Ibにステップ状に増加させる。
このようにすると、またぎ制御の間、燃料電池スタック2において空気のストイキ不足になるのを防止することができる。
【0045】
なお、このように燃料電池スタック2の発電を制御すると、燃料電池スタック2の出力電流値を発電禁止領域の下限電流値Iaに保持している間は、出力電流が不足してしまう。
そこで、SOC検出部16により検出した蓄電装置15の残容量が、アシスト禁止残容量(残容量下限値)よりも大きい場合には、出力電流の不足分、すなわち飛び越し電流値Ibと下限電流値Iaとの差分を、蓄電装置15の出力によって補うことも可能である。
このようにすると、燃料電池スタック2の発電量の不足分を蓄電装置15で補うことで要求発電量を満足することができ、燃料電池システムの商品性が向上する。
【0046】
次に、実施例4における燃料電池システム1の運転方法を図7を参照して説明する。
実施例4は、燃料電池スタック2において空気のストイキ不足になるのを容認することができないときに発電量を増加するまたぎ制御を行う場合であって、しかも蓄電装置の残容量がアシスト禁止残容量以下であるために蓄電装置15によるアシストが不可能な場合に、要求発電量を満足させるようにする運転方法である。
【0047】
図7を参照して、実施例4における空気流量増加制御と燃料電池スタック2の発電制御を説明する。
実施例4においては、蓄電装置15の残容量がアシスト禁止残容量以下であって、燃料電池スタック2に対する要求電流値が発電禁止領域の下限電流値Iaよりも小さいときに、供給空気量制御部31は、要求電流値が発電禁止領域を飛び越える前に予め供給空気流量を許容変化率で漸次増加する制御を行い、所定の予備空気流量まで増加させ、供給空気流量を予備空気流量に保持する制御を行う。ここで、予備空気流量は、予備空気流量から飛び越し必要空気流量に一度に変化させても、空気流量の変化に起因して生じる振動や音の変化に対して、ユーザーが違和感を感じない程度の空気流量とする。
【0048】
そして、燃料電池スタック2に対する要求電流値が発電禁止領域の下限電流値Iaを越えたときに、FC発電制御部32はまたぎ制御を開始し、燃料電池スタック2の出力電流を飛び越し電流値Ibにステップ状に増加する制御を行う。
一方、供給空気量制御部31は、またぎ制御開始と同時に、供給空気流量を予備空気流量から飛び越し必要空気流量にステップ状に増加する制御を行い、またぎ制御が終了するまで供給空気流量を飛び越し必要空気流量に保持する制御を行う。
【0049】
このようにすると、またぎ制御の間、燃料電池スタック2において空気のストイキ不足になるのを防止することができるとともに、蓄電装置15による電流アシストなしに、要求発電量を確保することができる。
【0050】
〔他の実施例〕
なお、この発明は前述した実施例に限られるものではない。
例えば、供給空気流量はエアポンプ10の回転数に相関があるので、前述した実施例における供給空気流量の制御を、エアポンプ10の回転数制御に置き換えることが可能である。
【符号の説明】
【0051】
1 燃料電池システム
2 燃料電池スタック(燃料電池)
3 水素タンク(燃料ガス供給手段)
10 エアポンプ(酸化剤ガス供給手段)
15 蓄電装置
16 SOC検出部(残容量検知手段)
30 電子制御装置(制御部)
31 供給空気量制御部(酸化剤ガス供給調整手段)
32 FC発電制御部(発電制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードに燃料ガスが供給されカソードに酸化剤ガスが供給されて発電を行う燃料電池と、
前記燃料電池のアノードに燃料ガスを供給する燃料ガス供給手段と、
前記燃料電池のカソードに酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給手段と、
制御部と、
を備え、通常発電時には前記燃料電池の要求発電量に応じた反応ガスを供給する燃料電池システムであって、
前記制御部は、
酸化剤ガスの供給量を調整する酸化剤ガス供給調整手段と、
前記燃料電池の発電を制御し、所定の発電禁止領域では発電を行わない発電制御手段と、を有し、
前記酸化剤ガス供給調整手段は、前記発電制御手段が前記発電禁止領域を飛び越えて発電量を変化させる場合に、酸化剤ガス供給量を前記要求発電量に対応させず、酸化剤ガス供給量の変化率を許容変化率にして酸化剤ガス供給量を漸次増加あるいは漸次減少し、前記発電禁止領域を飛び越した発電量に応じた酸化剤ガス供給量に近づけていくことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記酸化剤ガス供給調整手段は、前記発電禁止領域を飛び越した発電量に応じた酸化剤ガス供給量と、前記漸次増加あるいは漸次減少により調整された酸化剤ガス供給量との差が所定値以下となったときに、酸化剤ガス供給量の前記漸次増加あるいは漸次減少を解除することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記酸化剤ガス供給調整手段は、前記要求発電量が発電禁止領域に入った時点から所定時間経過後に前記制限による酸化剤ガス供給量の漸次増加あるいは漸次減少を解除することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記発電制御手段が前記発電禁止領域を飛び越えて発電量を増加させるときに前記燃料電池のアシストが可能な蓄電装置と、
前記蓄電装置の残容量を検知する残容量検知手段と、
を備え、
前記残容量検知手段により検知された前記蓄電装置の残容量が、前記アシストを禁止する残容量下限値よりも大きい場合に、前記酸化剤ガス供給調整手段が酸化剤ガス供給量の前記漸次増加を行っているときには、前記発電制御手段は前記発電禁止領域の下限値に対応する発電量で燃料電池の発電を制御し、この発電量だけでは前記発電禁止領域を飛び越した発電量に足りない電力分を前記蓄電装置により補うことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
アノードに燃料ガスが供給されカソードに酸化剤ガスが供給されて発電を行う燃料電池と、
前記燃料電池のアノードに燃料ガスを供給する燃料ガス供給手段と、
前記燃料電池のカソードに酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給手段と、
制御部と、
を備え、通常発電時には前記燃料電池の要求発電量に応じた反応ガスを供給する燃料電池システムであって、
前記燃料電池のアシストが可能な蓄電装置と、
前記蓄電装置の残容量を検知する残容量検知手段と、
を備え、
前記制御部は、
酸化剤ガスの供給量を調整する酸化剤ガス供給調整手段と、
前記燃料電池の発電を制御し、所定の発電禁止領域では発電を行わない発電制御手段と、を有し、
前記酸化剤ガス供給調整手段は、前記発電制御手段が前記発電禁止領域を飛び越えて発電量を増加させるときに 前記残容量検知手段により検知された前記蓄電装置の残容量が前記燃料電池のアシストを禁止する残容量下限値以下である場合に、前記要求発電量が発電禁止領域を飛び越える前に、酸化剤ガス供給量を前記要求発電量に対応させず、酸化剤ガス供給量の変化率を許容変化率にして酸化剤ガス供給量を漸次増加し、前記発電禁止領域を飛び越した発電量に応じた酸化剤ガス供給量に近づけておくことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項6】
アノードに燃料ガスが供給されカソードに酸化剤ガスが供給されて発電を行う燃料電池を備えた燃料電池システムの運転方法であって、
所定の発電禁止領域では発電を行わず、前記発電禁止領域以外では前記燃料電池の要求発電量に応じた酸化剤ガスを供給し、
前記燃料電池が前記発電禁止領域を飛び越えて発電量を変化させる場合には、酸化剤ガス供給量を前記要求発電量に対応させず、酸化剤ガス供給量の変化率を許容変化率にして漸次増加あるいは漸次減少して、前記発電禁止領域を飛び越した発電量に応じた酸化剤ガス供給量に近づけていくことを特徴とする燃料電池システムの運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−129072(P2012−129072A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−279652(P2010−279652)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】