説明

燃料電池システムにおける水素ガス消費量算出方法

【課題】水素ガスの消費量を簡易且つ正確に計測することが可能な水素ガス消費量算出方法を提供する。
【解決手段】発電に使用された水素ガス量を算出する第一のステップと、発電電流、発電電流におけるカソード電極からアノード電極側へ透過する窒素ガス量、及びアノード電極における圧力に基づいて、循環経路内の水素ガス量を算出する第二のステップと、発電電流、電解質膜単体における水素ガス透過量の湿度依存性、電解質膜単体における窒素ガス透過量の湿度依存性、電解質膜の湿度、及び発電電流におけるカソード電極からアノード電極側へ透過する窒素ガス量に基づいて、アノード電極からカソード電極へ透過する水素ガス量を算出する第三のステップと、第一のステップ、第二のステップ、及び第三のステップによって算出された水素ガス量より燃料電池システムでの水素ガス消費量を算出する第四のステップと、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムにおける水素ガス消費量算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料ガスと酸化ガスとの電気化学反応によって電気を発生させる燃料電池は、発電効率が高く、排出されるガスがクリーンであるため、環境に対する影響が極めて小さい。そのため、燃料電池は、発電用、低公害の自動車用電源等の様々な用途に期待されている。
【0003】
この燃料電池において、燃料ガスである水素の消費量を計測し、水素燃料タンク内の水素残量を予測する必要がある。従来の燃料ガス消費量計測技術として、水素燃料タンクの重量変化を測定する重量法、水素燃料タンク内の圧力変化を測定する圧力法、水素燃料タンクからの流量を測定する流量法、及び燃料電池の発電電流からもとめる電流法等が挙げられる(特許文献1から3と、非特許文献1及び2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−245144号公報
【特許文献2】特開平10−252567号公報
【特許文献3】特開2005−123139号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】自動車研究、第24巻10号、2002年10月、p.49−55
【非特許文献2】2003JSAE Annual Congress、2003年5月21日、2003年春季大会、学術講演会前刷集No.19−03、p.5−8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
燃料電池おいて、酸化ガスである水素の消費量は、発電による消費量の他に、アノード電極側からカソード電極側への水素ガス透過による外部への排出量と、カソード電極側からアノード電極側への窒素ガス透過により希薄化された水素ガスを外部に排出する排出量が挙げられる。
【0007】
電解質膜は、発電により生成された水を吸収すると、可塑化して水素ガス透過量が増加する。可塑化をする前と後とでは、水素ガス透過量が10倍程度異なる事から、アノード電極側からカソード電極側への水素ガス透過による外部への排出量の影響を無視する事はできない。
【0008】
また、アノード電極からカソード電極へ透過された水素ガスは、カソード電極側触媒上にて酸化反応を起こして消費されるため、カソード電極側に設置したガス分析装置によって直接測定をすることができない。また、燃料ガスである水素ガスは、配管温度によって敏感に体積が変化することから、アノード電極側入口における投入水素と、アノード電極側出口における排出水素の体積変化から、簡易に定量的な関係を推定する事や、直接計測する事ができず、配管の温度補正をしても消費水素量に対してカソード電極側への透過水素量が1%程度であるため測定精度が悪い。
【0009】
そこで、本発明は、水素ガスの消費量を簡易且つ正確に計測することが可能な水素ガス消費量算出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために、発電に使用された水素ガス量と、循環経路内の水素ガス量と、アノード電極からカソード電極へ透過した水素ガス量とを算出する方法を工夫した。これにより、水素ガスの消費量を簡易且つ正確に計測することが可能である。
【0011】
詳細には、本発明に係る水素ガス消費量算出方法は、電解質膜と、該電解質膜の一方の面に設けられ、水素ガスが流れる前記アノード電極と、該電解質膜の他方の面に設けられ、酸化ガスが流れるカソード電極と、を有し、水素ガスと酸化ガスとの電気化学反応によって発電する燃料電池を備え、該アノード電極出口から排出されたアノードオフガスを該アノード電極入口側へと循環経路を通って循環させて再利用する燃料電池システムにおいて、水素ガスの消費量を計測する水素ガス消費量算出方法であって、前記燃料電池が発電する発電電流に基づいて、発電に使用された水素ガス量を算出する第一のステップと、前記発電電流、該発電電流における前記酸化ガス中の前記カソード電極から前記アノード電極側へ透過する窒素ガス量、及び該アノード電極における圧力に基づいて、前記循環経路内の水素ガス量を算出する第二のステップと、前記発電電流、前記電解質膜単体における水素ガス透過量の湿度依存性、該電解質膜単体における窒素ガス透過量の湿度依存性、該電解質膜の湿度、及び該発電電流における前記酸化ガス中の前記カソード電極から前記アノード電極側へ透過する窒素ガス量に基づいて、該アノード電極から該カソード電極へ透過する水素ガス量を算出する第三のステップと、前記第一のステップ、前記第二のステップ、及び前記第三のステップによって算出された水素ガス量より前記燃料電池システムでの水素ガス消費量を算出する第四のステップと、を含む。
【0012】
本発明に係る水素ガス消費量算出方法は、第一のステップから第四のステップを含み、発電に使用された水素ガス量と、循環経路内の水素ガス量と、アノード電極からカソード電極へ透過した水素ガス量とを算出する。発電に使用された水素ガス量は、第一のステップによって算出される。第一のステップは、水素ガスと酸化ガスとの電気化学反応によって燃料電池が発電する発電電流に基づいて、発電に使用された水素ガス量を算出する。
【0013】
次に、循環経路内の水素ガス量は、第二のステップによって算出される。尚、循環経路とは、アノード電極出口から排出されたアノードオフガスをアノード電極入口側へと循環させて再利用する経路のことである。第二のステップは、発電電流、発電電流における酸化ガス中のカソード電極からアノード電極側へ透過する窒素ガス量、及びアノード電極における圧力に基づいて、循環経路内の水素ガス量を算出する。また、燃料ガスである水素ガスは、配管温度によって敏感に体積が変化することから、アノード電極側入口における投入水素と、アノード電極側出口における排出水素の体積変化から、簡易に定量的な関係を推定する事や、直接計測する事ができず、配管の温度補正をしても消費水素量に対してカソード電極側への透過水素量が1%程度であるため測定精度が悪い。しかし、本発明に係る水素ガス消費量算出方法は、第二のステップによって、循環経路内の水素ガス量を算出することが可能である。
【0014】
次に、アノード電極からカソード電極へ透過した水素ガス量は、第三のステップによって算出される。第三のステップは、発電電流、電解質膜単体における水素ガス透過量の湿度依存性、電解質膜単体における窒素ガス透過量の湿度依存性、電解質膜の湿度、及び発電電流における酸化ガス中のカソード電極からアノード電極側へ透過する窒素ガス量に基づいて、アノード電極からカソード電極へ透過する水素ガス量を算出する。アノード電極からカソード電極へ透過された水素ガスは、カソード電極側触媒上にて酸化反応を起こして消費されるため、カソード電極側に設置したガス分析装置によって直接測定をすることができない。しかし、本発明に係る水素ガス消費量算出方法は、第三のステップによって、アノード電極からカソード電極へ透過した水素ガス量を算出することが可能である。ま
た、本発明に係る水素ガス消費量算出方法における第三のステップは、劣化による電解質膜の割れ等による急激な水素ガスのリーク量を検知することが可能であり、即座にユーザに警告を与えることが可能である。
【0015】
最後に、第四のステップは、第一のステップによって算出された発電に使用された水素ガス量と、第二のステップによって算出された循環経路内の水素ガス量と、第三のステップによって算出されたアノード電極からカソード電極へ透過した水素ガス量により、燃料電池システムでの水素ガス消費量を算出する。以上により、本発明に係る水素ガス消費量算出方法は、急激な水素ガス使用量の増加の算出が可能となり、瞬間燃費の計算が可能である。また、本発明に係る水素ガス消費量算出方法は、水素ガスの消費量を簡易且つ正確に計測し、水素ガスが蓄えられている燃料タンク部内の燃料の残量予測が可能である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、水素ガスの消費量を簡易且つ正確に計測することが可能な水素ガス消費量算出方法を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施例に係る燃料電池システムの概略構成図である。
【図2】ガス透過度と電流密度の関係を表すグラフである。
【図3】ガス透過度と相対湿度の関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
ここで、本発明の実施例に係る水素ガス消費量算出方法について、図面に基づいて説明する。以下に示す実施例は例示であり、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0019】
<燃料電池システムの構成>
図1は、燃料電池システム100の概略構成を示す図である。先ず、本発明の実施例に係る燃料電池システム100について説明する。本実施例に係る燃料電池システム100は、移動体である車両の駆動装置である駆動モータ(以下、単に「モータ」という。)6に対して電力を供給する供給源として、船舶やロボット等の車両以外の移動体での電力供給源として、移動は行わないが電力の供給を受ける必要がある物に対する電力供給源として採用が可能である。
【0020】
この燃料電池システム100は、セル部5が積層された固体高分子型の燃料電池1を有し、燃料としての水素ガスを貯蔵しており、燃料電池1のアノード電極に燃料供給路18を介して燃料を供給する燃料タンク部9が設けられている。この燃料タンク部9には、その内圧を調整するための調整弁10が設けられ、また燃料タンク部9から燃料供給路18への供給は、供給バルブ11の開閉に従って行われる。
【0021】
そして、燃料電池1のアノード電極に供給された水素は、後述するカソード電極への供給酸化ガスとの電気化学反応に供されることで、該燃料電池での発電が行われる。その後、燃料電池1のアノード電極から排出されるアノードオフガスは、オフガス排出路14に送り込まれ、その一部は減圧装置20を経て外部へ排気される。また、このアノードオフガスにはアノード電極に供給された水素であって燃料電池1での電気化学反応に使用されなかった水素が含まれているため、これを効率的に使用するために、バイパス路17が、オフガス排出路14から燃料供給路18に向かって分岐して設けられる。また、バイパス路17を設けることによって、オフガス排出路14から排出されたアノードオフガスを、バイパス路17及び燃料供給路18を介してアノード電極に循環する循環経路3が形成される。このバイパス路17にはポンプ16が設置されており、これによりバイパス路17を流れる水素を含むアノードオフガスの流量が調整される。また、バイパス路17には燃
料入替部2が設置されており、循環経路3を循環するアノードオフガスの水素ガス濃度が所定値以下になった場合に、燃料入替部2により循環経路3内のアノードオフガスを、バイパス路17を介さずにオフガス排出路14に排出し、燃料タンク部9からの水素ガスを燃料供給路18からアノード電極に供給することによって、循環経路内の水素ガスを入れ替える。燃料入替部2は、例えば、パージ弁である。尚、酸化ガス中の窒素ガスがカソード電極からアノード電極へ透過する量が増えると、循環経路3内の水素ガス濃度が低下する。
【0022】
次に、燃料電池1のカソード電極には、酸化ガスとしての空気を供給するコンプレッサ12が設けられている。コンプレッサ12によって圧縮空気が空気供給路13を介して、燃料電池1へ供給される。そして、上記供給された水素とこの圧縮空気中の酸素が燃料電池1の電解質膜を介して電気化学反応を起こすことで、発電が行われる。以下に、その電気化学反応の反応式を示す。
(アノード):2H2 → 4H++4e-
(カソード):O2+4H++4e- → 2H2
【0023】
このようにカソード電極側では、発電のための電気化学反応において水が生成され、これを以下では単に「生成水」と呼ぶ。カソード電極からのオフガスは、オフガス排出路21に送り込まれ、その一部は減圧装置15を経て外部に排気される。また、電解質膜は生成水を吸収すると、可塑化して水素ガス透過量が増加する。可塑化をする前と後とでは、アノード電極からカソード電極へ透過する水素ガス量は、10倍程度異なる。
【0024】
このように構成される燃料電池システム100には、システム全体の運転制御を司る電子制御ユニット(ECU)8が備えられている。ECU8は、図示しない出力要求受付部(燃料電池システム100が車両に搭載される場合には、アクセルペダルの開度を検知する開度センサがこれに相当する。)が受け付けた出力要求に基づいて、燃料電池出力を制御するべく、コンプレッサ12による圧縮空気の供給や、燃料タンク部9からの水素の供給が制御される。そして、ECU8は、モータ6に設けられた燃料電池1が発電する発電電流を計測する電流センサ7や、燃料電池1のアノード電極の圧力を計測する圧力センサ22や、電解質膜の湿度を計測する湿度センサ23からデータを取得し、燃料ガス消費量を簡易且つ正確に計測する。尚、ECU8によってプログラムが実行されることで、上記制御が行われる。以下、ECU8によって行われる水素ガス消費量算出方法について、図2及び図3に基づいて説明する。
【0025】
本発明の実施例に係る水素ガス消費量算出方法では、電解質膜に、フッ素系電解質膜のF膜と、炭化水素系電解質膜のHC膜の二種類の電解質膜を各々用いたフルサイズのセルを用意し、F膜を用いたセルをF膜MEGA、HC膜を用いたセルをHC膜MEGAと呼ぶことにする。燃料電池1は、セル温度80度、アノード電極の加湿温度45度、カソード電極の加湿温度55度の環境下にて発電する。
【0026】
本発明に係る水素ガス消費量算出方法は、第一のステップから第四のステップを含み、発電に使用された水素ガス量と、循環経路内の水素ガス量と、アノード電極からカソード電極へ透過した水素ガス量とを算出する。
【0027】
先ず、発電に使用された水素ガス量は、第一のステップによって算出される。第一のステップは、燃料電池1が発電する発電電流を電流センサ7によって計測し、ECU8によって発電に使用された水素ガス量を算出する。
【0028】
次に、循環経路3内の水素ガス量は、第二のステップによって算出される。第二のステップは、発電電流、発電電流における酸化ガス中のカソード電極からアノード電極側へ透
過する窒素ガス量、及びアノード電極における圧力に基づいて、循環経路3内の水素ガス量を算出する。先ず、所定の発電電流におけるカソード電極からアノード電極側へ透過する窒素ガス量を計測し、窒素ガス透過度と発電電流との関係式を算出する。具体的に説明すると、電流密度が0.0 A/cm2、0.2 A/cm2、0.4 A/cm2、0.6A/cm2、0.8 A/cm2、1.0 A/cm2の場合における、定常発電を始めて30
分後の、アノード電極及びカソード電極の各出口側からサンプルガスを採集し、ガスクロマトグラフィーによってサンプルガスの成分を分析し、各々のガス透過量を測定する。また、ガスクロマトグラフィーによって、電解質膜であるF膜のみから構成されるF膜単身を透過する水素ガス透過量、該F膜単身を透過する窒素ガス透過量、電解質膜であるHC膜のみから構成されるHC膜単身を透過する水素ガス透過量、及び該HC膜単身を透過する窒素ガス量透過量も測定する。
【0029】
以下の(1)式に示すように、ガス透過度は、ガスクロマトグラフィーによって測定した単位時間当たりのガス透過量を、ガス分圧で割ることによって算出される。図2は、ガス透過度と電流密度の関係を表すグラフである。
ガス透過度=単位時間当たりのガス透過量/ガス分圧・・・・式(1)
【0030】
ガスクロマトグラフィーは、アノード電極の出口から窒素ガスを検出する。この窒素ガスは、カソード電極を流れる酸化ガスである空気中の窒素ガスが、カソード電極からアノード電極側へ電解質膜を透過したガスである。また、ガスクロマトグラフィーは、カソード電極の出口から水素ガスを検出する。この水素ガスは、アノード電極を流れる酸化ガスである水素ガスが、アノード電極からカソード電極側へ電解質膜を透過したガスである。このアノード電極からカソード電極へ透過する水素ガス量は、後述する第三のステップで算出する。
【0031】
カソード電極からアノード電極側へF膜MEGAを透過した窒素ガス透過度と、電流密度との関係についての実験値において、最小二乗法によりフィッティングした式を、下記の式(2)に示す。
F膜のN2ガス透過度=37841×発電電流+107920・・・式(2)
【0032】
次に、式(2)のF膜MEGAの窒素ガス透過度の変化幅と、F膜単身の窒素ガス透過度を図1によって比較すると、下記の式(3)に示すように、F膜MEGAの窒素ガス透過度は、F膜単身の窒素ガス透過度の1.6から2.3倍である。
F膜のN2ガス透過度=F膜単身の窒素透過度×(1.6〜2.3)・・・式(3)
【0033】
次に、アノード電極からカソード電極側へHC膜MEGAを透過した窒素ガス透過度と、電流密度との関係についての実験値において、最小二乗法によりフィッティングした式を、下記の式(4)に示す。
HC膜のN2ガス透過度=26931×発電電流+28286・・・式(4)
【0034】
次に、式(4)のHC膜MEGAの窒素ガス透過度の変化幅と、HC膜単身の窒素ガス透過度を図2によって比較すると、下記の式(5)に示すように、HC膜MEGAの窒素ガス透過度は、HC膜単身の窒素ガス透過度の6から8倍である。
HC膜N2ガス透過度=HC膜単身の窒素透過度×(6〜8)・・・式(5)
【0035】
また、図2に示すように、F膜単身を透過する水素ガス透過度と、HC膜単身を透過する水素ガス透過度とを比較すると、HC膜単身を透過する水素ガス透過度の方が小さい。また、F膜単身を透過する窒素ガス透過度と、HC膜単身を透過する窒素ガス量透過度とを比較すると、HC膜単身を透過する窒素ガス透過度の方が小さい。
【0036】
F膜単身とHC膜単身によって予測されているように、アノード電極からカソード電極側へF膜MEGAを透過した水素ガス透過度と、アノード電極からカソード電極側へHC膜MEGAを透過した水素ガス透過度とを比較すると、アノード電極からカソード電極側へHC膜MEGAの電解質膜を透過した水素ガス透過度の方が小さい。また、カソード電極からアノード電極側へF膜MEGAの電解質膜を透過した窒素ガス透過度と、カソード電極からアノード電極側へHC膜MEGAの電解質膜を透過した窒素ガス透過度とを比較すると、カソード電極からアノード電極側へHC膜MEGAの電解質膜を透過した窒素ガス透過度の方が小さい。また、図2から、電流密度とガス透過度は比例することから、発電電流とガス透過度も比例することが分かる。尚、OCV時の値は、F膜単身とHC膜単身からの予測とは一致しない。
【0037】
尚、F膜単身を透過する水素ガス透過度と、アノード電極からカソード電極側へF膜MEGAを透過した水素ガス透過度とを比較すると、アノード電極からカソード電極側へF膜MEGAを透過した水素ガス透過度の方が小さい。また、HC膜単身を透過する水素ガス透過度と、アノード電極からカソード電極側へHC膜MEGAを透過した水素ガス透過度とを比較すると、アノード電極からカソード電極側へHC膜MEGAを透過した水素ガス透過度の方が小さい。これは、アノード電極からカソード電極側に透過してきた水素ガスがカソード電極側触媒上にて酸化反応を起こして消費されてしまった事を示している。
【0038】
次に、算出された窒素ガス透過度と発電電流との関係式(2)又は(4)から、電流センサ7によって計測した発電電流における窒素ガス量を算出する。そして、ボイル・シャルルの法則により、算出された窒素ガス量と、圧力センサ22によって計測したアノード電極における圧力と、アノード電極における温度に基づいて、ECU8によって循環経路3内の水素ガス量を算出する。
【0039】
次に、算出されたアノード電極の水素ガス濃度が所定値以下になった場合に、燃料入替部2によって入れ替えられた循環経路3を循環するアノードオフガスの水素ガス量をECU8によって算出する。以上により、本発明の実施例に係る水素ガス消費量算出方法は、第二のステップによって、燃料入替部2によって入れ替えられた循環経路3内の水素ガス量を算出することが可能である。
【0040】
次に、アノード電極からカソード電極へ透過した水素ガス量は、第三のステップによって算出される。第三のステップは、発電電流、電解質膜単体における水素ガス透過量の湿度依存性、電解質膜単体における窒素ガス透過量の湿度依存性、電解質膜の湿度、及び発電電流における酸化ガス中のカソード電極からアノード電極側へ透過する窒素ガス量に基づいて、アノード電極からカソード電極へ透過する水素ガス量を算出する。先ず、電解質膜単体における水素ガス透過度の湿度依存性と、電解質膜単体における窒素ガス透過度の湿度依存性を計測することにより、水素ガスが電解質膜を透過する量と、窒素ガスが電解質膜を透過する量の比を算出する。具体的に説明すると、電解質膜単身のガス透過試験におけるRH依存性を測定する。本実施例では、GTRテック社製のガス透過試験装置を用いたが、ガス透過試験をすることが可能な装置であればよい。相対湿度が0%の時と、相対湿度が80%の時のガス透過度を測定する。図3は、電解質膜単身におけるガス透過度と相対湿度の関係を表すグラフである。
【0041】
F膜単身における水素ガス透過の湿度依存性と、F膜単身における窒素ガス透過の湿度依存性の比を算出する。湿度依存性は、水素ガス透過と窒素ガス透過の各々における、相対湿度が0%の時と、相対湿度が80%の時のガス透過度をプロットする直線の傾きのことである。以下の式(6)に示すように、F膜単身における水素ガス透過の湿度依存性は、F膜単身における窒素ガス透過の湿度依存性の4.22倍となる。
F膜のH2ガス透過の湿度依存性/F膜のN2ガス透過の湿度依存性=
4.22・・・式(6)
【0042】
また、湿度センサ23が計測した電解質膜の湿度における、水素ガス透過度と窒素ガス透過度の比を算出する。本発明の実施例に係る水素ガス消費量算出方法では、湿度センサ23が計測した湿度は80%であるとし、湿度80%のF膜単身における水素ガス透過度と、湿度80%のF膜単身における窒素ガス透過度の比を算出する。以下の式(7)に示すように、湿度80%のF膜単身における水素ガス透過度は、湿度80%のF膜単身における窒素ガス透過度の5.51倍となる。
F膜のH2ガス透過度(湿度80%)/F膜のN2ガス透過度(湿度80%)=5.51・・・式(7)
【0043】
次に、HC膜単身における水素ガス透過の湿度依存性と、HC膜単身における窒素ガス透過の湿度依存性の比を算出する。上述したように、湿度依存性は、水素ガス透過と窒素ガス透過の各々における、相対湿度が0%の時と、相対湿度が80%の時のガス透過度をプロットする直線の傾きのことである。以下の式(8)に示すように、HC膜単身における水素ガス透過度は、HC膜単身における窒素ガス透過度の6.68倍となる。
HC膜のH2ガス透過の湿度依存性/HC膜のN2ガス透過の湿度依存性=
6.68・・・式(8)
【0044】
また、湿度センサ23によって計測された湿度が80%の場合において、湿度80%のHC膜単身における水素ガス透過度と、湿度80%のHC膜単身における窒素ガス透過度の比を算出する。以下の式(9)に示すように、湿度80%のHC膜単身における水素ガス透過度は、湿度80%のHC膜単身における窒素ガス透過度の12.27倍となる。
HC膜のH2ガス透過度(湿度80%)/HC膜のN2ガス透過度(湿度80%)=12.27・・・式(9)
【0045】
次に、F膜において、カソード電極からアノード電極側へ透過する窒素ガス透過度と発電電流との関係式である式(2)と、F膜単身における水素ガス透過の湿度依存性と、F膜単身における窒素ガス透過の湿度依存性の比を示す式(6)と、湿度センサ23が計測した電解質膜の湿度における、水素ガス透過度と窒素ガス透過度の比を示す式(7)に基づいて、アノード電極からカソード電極へ透過した水素ガス透過度と発電電流との関係式を算出する。アノード電極からカソード電極へ透過した水素ガス透過度と発電電流との関係式は、以下に示す式(10)となる。
F膜のN2ガス透過度=(37841×4.22)×発電電流+107920×5.5
1・・・式(10)
【0046】
次に、HC膜において、カソード電極からアノード電極側へ透過する窒素ガス透過度と発電電流との関係式である式(4)と、HC膜単身における水素ガス透過の湿度依存性と、HC膜単身における窒素ガス透過の湿度依存性の比を示す式(8)と、湿度センサ23が計測した電解質膜の湿度における、水素ガス透過度と窒素ガス透過度の比を示す式(9)に基づいて、アノード電極からカソード電極へ透過した水素ガス透過度と発電電流との関係式を算出する。アノード電極からカソード電極へ透過した水素ガス透過度と発電電流との関係式は、以下に示す式(11)となる。
HC膜のN2ガス透過度=(26931×6.68)×発電電流+28286×12.
27・・・式(11)
【0047】
次に、アノード電極からカソード電極へ透過した水素ガス透過度と発電電流との関係式(10)又は(11)から、電流センサ7によって計測した発電電流における水素ガス量をECU8によって算出する。以上により、本発明の実施例に係る水素ガス消費量算出方法は、第三のステップによって、アノード電極からカソード電極へ透過した水素ガス量を
算出することが可能である。また、本発明の実施例に係る水素ガス消費量算出方法における第三のステップは、劣化による電解質膜の割れ等による急激な水素ガスのリーク量を検知することが可能であり、即座にユーザに警告を与えることが可能である。
【0048】
最後に、第四のステップは、第一のステップによって算出された発電に使用された水素ガス量と、第二のステップによって算出された循環経路3内の水素ガス量と、第三のステップによって算出されたアノード電極からカソード電極へ透過した水素ガス量をECU8によって加算し、燃料電池システム100での水素ガス消費量を算出する。以上により、本発明の実施例に係る水素ガス消費量算出方法は、急激な水素ガス使用量の増加の算出が可能となり、瞬間燃費の計算が可能となる。また、本発明の実施例に係る水素ガス消費量算出方法は、水素ガスの消費量を簡易且つ正確に計測し、水素ガスが蓄えられている燃料タンク部9内の燃料の残量予測が可能である。
【符号の説明】
【0049】
100・・・燃料電池システム
1・・・燃料電池
2・・・燃料入替部
3・・・循環経路
5・・・セル部
6・・・駆動モータ
7・・・電流センサ
8・・・ECU
9・・・燃料タンク部
10・・・調整弁
11・・・供給バルブ
12・・・コンプレッサ
13・・・空気供給路
14・・・オフガス排出路
15・・・減圧装置
16・・・ポンプ
17・・・バイパス路
18・・・燃料供給路
20・・・減圧装置
21・・・オフガス排出路
22・・・圧力センサ
23・・・湿度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と、該電解質膜の一方の面に設けられ、水素ガスが流れる前記アノード電極と、該電解質膜の他方の面に設けられ、酸化ガスが流れるカソード電極と、を有し、水素ガスと酸化ガスとの電気化学反応によって発電する燃料電池を備え、該アノード電極出口から排出されたアノードオフガスを該アノード電極入口側へと循環経路を通って循環させて再利用する燃料電池システムにおいて、水素ガスの消費量を計測する水素ガス消費量算出方法であって、
前記燃料電池が発電する発電電流に基づいて、発電に使用された水素ガス量を算出する第一のステップと、
前記発電電流、該発電電流における前記酸化ガス中の前記カソード電極から前記アノード電極側へ透過する窒素ガス量、及び該アノード電極における圧力に基づいて、前記循環経路内の水素ガス量を算出する第二のステップと、
前記発電電流、前記電解質膜単体における水素ガス透過量の湿度依存性、該電解質膜単体における窒素ガス透過量の湿度依存性、該電解質膜の湿度、及び該発電電流における前記酸化ガス中の前記カソード電極から前記アノード電極側へ透過する窒素ガス量に基づいて、該アノード電極から該カソード電極へ透過する水素ガス量を算出する第三のステップと、
前記第一のステップ、前記第二のステップ、及び前記第三のステップによって算出された水素ガス量より前記燃料電池システムでの水素ガス消費量を算出する第四のステップと、を含む、
燃料電池システムにおける水素ガス消費量算出方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−262841(P2010−262841A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−113167(P2009−113167)
【出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】