説明

燃料電池システム及びその運転方法

【課題】本発明の目的は、燃料の酸化電流を利用した濃度センサの安定性を向上できる燃料電池システムを提供することである。
【解決手段】本発明の燃料電池システムは、液体有機化合物を燃料とする燃料電池と、前記燃料電池に供給される燃料の燃料濃度を検出する燃料濃度検出装置を有し、前記燃料濃度検出装置が、一対の電極と、前記電極間に配置されたプロトン導電性固体高分子膜を有する濃度検出素子と、前記濃度検出素子に電圧を印加する直流電源と、前記濃度検出素子に印加する電圧の極性を切り替える極性切り替え手段と、前記濃度検出素子に電圧を印加することで生じる燃料の酸化電流を測定する電流測定手段と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体有機化合物を燃料とする燃料電池システムに関し、特に燃料電池に供給する燃料の燃料濃度の検出機構に関する。
【背景技術】
【0002】
液体有機化合物を燃料とする燃料電池には、メタノール,エタノール,ジメチルエーテルなどの液体有機化合物を燃料とする固体高分子形燃料電池は、騒音が小さく、運転温度が低い(約70〜80℃)、燃料の補給が容易であることなどの特徴を有する。そのため、可搬式電源,電気自動車の電源、あるいは電動バイクやアシスト式自転車、さらには医療介護用の車椅子やシニアカーなどの軽車両用電源として、幅広い用途が期待されている。
【0003】
これらの用途の中で、メタノールを燃料とする直接メタノール型燃料電池(以下、DMFCと称する。)は、改質器を省略できる点、燃料を室温で補給できる点、出力に対する燃料コストがガソリン等よりも安い点、50〜70℃の比較的低温で発電できるので起動時間が短い点などの利点を有している。特に、後述する燃料をポンプ等により強制的に流通させる“アクティブ式”DMFCは、数十Wから数百Wの高い出力が得られ、電子機器、照明器具などの比較的低電力機器の給電に適している。また、セルサイズの大型化、積層セル数の増加により1kW以上のDMFCを用いれば、移動体にも適用可能である。
【0004】
DMFCは、電解質膜として機能する固体高分子膜に触媒とカーボンを調合,塗布し電極部を形成した発電部分に対する燃料や空気の供給方式により、大きくパッシブ型とアクティブ型の2つに分類することができる。
【0005】
すなわち、パッシブ型DMFCは、発電部分であるMEA(膜電極接合体)へ燃料であるメタノール、及び酸素を含む空気をそれぞれ燃料供給ポンプや空気供給ファンなどの補機を使用しないで、自然拡散などの方法で供給するものである。燃料供給ポンプや空気供給ファンなどの補機を使用しないことから、燃料電池電源システムの小型軽量化が可能となり、携帯機器用電源として開発が進められている。
【0006】
一方、アクティブ型DMFCは、燃料供給ポンプや空気供給ファンなどの補機を使用してMEAに強制的に燃料及び空気を供給するものである。燃料及び空気を強制的に供給することにより、MEAでの燃料や空気の拡散供給を促進することができる。また、電池反応によって発生する二酸化炭素や反応生成水をMEA外部に排出可能である。これにより、高電流密度領域まで安定的に発電を実現することができる。これらのことから、アクティブ型DMFC電源システムは、電源システムとして機器構成は複雑になるものの高出力の燃料電池電源システムが実現できる。
【0007】
アクティブ型DMFC電源システムにおいては、必要としている電力に対して単セルでは発生電力が少ないために複数のセルを積層したスタックを使用することが一般的である。
【0008】
パッシブ型及びアクティブ型DMFCにおける電池反応は以下にて示される。
【0009】
(アノード反応) CH3OH+H2O → CO2+6H++6e-
(カソード反応) 3/2O2+6H++6e- → 3H2
(全体反応) CH3OH+3/2O2 → 2H2O+CO2
すなわち、DMFCにおいては、アノード反応では水とメタノールの両方が必要であり、また、カソード反応においては酸素が必要となる。従って、パッシブ型及びアクティブ型DMFCでは、水,メタノール及び酸素を供給することで電池反応を発生させ、この電池反応により発電するものである。DMFCにおいて、発電部分であるMEAへの水及びメタノールの供給方法としては、以下のようになる。先ず、MEAに対しては燃料及び空気を独立して供給する必要がある。複数のセルを積層してスタックを構成する場合においては、燃料と空気とを分離するために燃料及び空気の流路を有するセパレータを設ける。このセパレータはカーボンや金属などの導電性材料を用いることにより、燃料や空気の流体は分離しながら複数のセルを電気的に直列接続することができる。
【0010】
DMFCにおいては、例えば、燃料として高濃度のメタノールをカートリッジやタンクに燃料の消費に応じて外部から補給する。高濃度のメタノールの補給により、長時間の連続発電を実現することが可能となる。一方、スタックへの燃料供給においては、MEAの燃料であるメタノール水溶液が燃料極から酸化極に透過するメタノールクロスオーバによる燃料の損失と発熱の抑制,メタノールに対するMEAの健全性確保の観点から、適切な燃料濃度が存在する。従って、高濃度のメタノール燃料に対し、予めカートリッジやタンクに用意した純水や非常に低濃度のメタノール水溶液で希釈し、適切なメタノールの濃度に調整したうえでスタックへ供給する。高濃度のメタノール燃料を希釈するための純水は、前述した電池反応で生成した水を回収して使用することもできる。
【0011】
スタックへ供給したメタノール燃料は、そのメタノールと水の一部は電池反応とそれに伴う発電に使用されて消費され、また、ごく一部はMEAのメタノールクロスオーバと水のクロスオーバとしてMEAを透過する。これらの電池反応による発電及びメタノールや水のクロスオーバによる透過にて消費されなかったメタノールと水はスタックから排出される。従って、スタックでのメタノール及び水の消費分を補給して所定のメタノール濃度に調整した後に、再びスタックに供給される。
【0012】
このとき、希釈したメタノール水溶液の濃度をメタノール濃度センサで測定し、このメタノール濃度に基づいて、予め設定されたメタノール濃度に希釈された後にスタックへ燃料が供給されることになる。
【0013】
このようなメタノール濃度センサには、光学式,超音波式,弾性表面波式など種々のメタノール濃度センサが知られている。また、特許文献1には、燃料電池に用いられているMEAと同様の構成である固体高分子膜とその両面に電極を備えた構成の濃度センサも提案されている。この濃度センサは、メタノールの酸化電流が濃度に依存することを利用して、メタノールの酸化電流から濃度を算出するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2006−048956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
燃料濃度を計測する濃度検出素子に必要な要件は、幅広い濃度範囲で対象物を検出でき、その検出信号が濃度に対して大きく低下しないことである。特許文献1に記載された燃料の酸化電流を利用する方式の濃度センサは、その構成の単純さや簡便性からコストを低く抑えられる点で有効な技術である。
【0016】
本方式のセンサを用いて濃度を検出するためには、センサへ電圧を印加する必要があるが、電圧を濃度検出素子へ印加し続けた場合、その酸化電流が時間経過と共に徐々に低下していく課題が判明した。
【0017】
例えば、DMFCでは使用頻度の高い出力範囲に適切なメタノール濃度を決め、その濃度を基準に所定の範囲にメタノール濃度を管理している。ところが、従来技術では時間経過と共に濃度変化とは関係のない酸化電流の低下が生じるため、濃度センサは実際のメタノール濃度よりも低く見積もった濃度を出力することとなる。この結果、燃料であるメタノール水溶液が燃料極から酸化極に透過するメタノールクロスオーバの量が増えることにより、出力低下や燃料損失の問題が生じてしまう。
【0018】
したがって、メタノール濃度を所定の範囲に制御しながら燃料電池システムを運転させるためには、この濃度センサの酸化電流の時間変化を生じさせない濃度センサの運転方法の確立が必要となる。
【0019】
本発明の目的は、燃料の酸化電流を利用した濃度センサの安定性を向上できる燃料電池システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
そこで発明者らは、濃度センサの感度低下に対する原因について鋭意検討した結果、燃料の酸化電流を利用した濃度センサの安定性を向上できる燃料電池システムを確立することができた。
【0021】
本発明の燃料電池システムは、液体有機化合物を燃料とする燃料電池と、前記燃料電池に供給される燃料の燃料濃度を検出する燃料濃度検出装置を有し、前記燃料濃度検出装置が、一対の電極と、前記電極間に配置されたプロトン導電性固体高分子膜を有する濃度検出素子と、前記濃度検出素子に電圧を印加する直流電源と、前記濃度検出素子に印加する電圧の極性を切り替える極性切り替え手段と、前記濃度検出素子に電圧を印加することで生じる燃料の酸化電流を測定する電流測定手段と、を備えることを特徴とする。
【0022】
また、上記燃料電池システムにおいて、燃料タンクと、前記燃料タンクと前記燃料電池の間で燃料を循環させる燃料循環ラインと、前記燃料タンクまたは前記燃料循環ラインに前記燃料タンク中の燃料よりも高濃度の燃料,低濃度の燃料または水を供給する燃料制御機構を備え、前記濃度計測素子で検出した濃度を記憶,演算する機能を有し、燃料制御機構に前記燃料電池へ供給する燃料量または水量を変化させる制御を行う制御回路を備えることを特徴とする。
【0023】
また、上記燃料電池システムにおいて、前記濃度検出素子を複数備え、前記極性切り替え手段が、各前記濃度検出素子に印加される電圧の極性を異なるタイミングで切り替えることを特徴とする。
【0024】
本発明の燃料電池システムの運転方法は、一対の電極と、前記電極間に配置されたプロトン導電性固体高分子膜を有する濃度検出素子に電圧を印加することにより生じる燃料の酸化電流に基づいて燃料濃度を検出するステップを備え、上記ステップにおいて、濃度検出素子に印加する電圧の極性を交互に切り替えることを特徴とする。
【0025】
また、本発明の燃料電池システムの運転方法は、一対の電極と、前記電極間に配置されたプロトン導電性固体高分子膜を有する濃度検出素子を複数備え、前記複数の濃度検出素子に電圧を印加することにより生じる燃料の酸化電流に基づいて燃料濃度を検出するステップを備え、燃料濃度を検出するステップにおいて、前記複数の濃度検出素子に印加する電圧の極性を異なるタイミングで切り替えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によって、濃度センサを長期的に安定して運用できる運転方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の燃料電池システムの構成を示す。
【図2】本発明の燃料検知部の構成を示す。
【図3】本発明の濃度検出素子の分解図を示す。
【図4】本発明の濃度検出素子の断面構造を示す。
【図5】本発明による濃度検出素子の運転方法の実施例を示す。
【図6】本発明の運転方法による連続運転実施例と従来の運転方法による連続運転比較例を示す。
【図7】本発明による濃度検出素子の運転方法の実施例を示す。
【図8】本発明による濃度検出素子の運転方法の別の実施例を示す。
【図9】本発明の運転方法による燃料電池システムの濃度制御の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明で用いる濃度検出素子の原理は、DMFCに用いられる燃料、すなわちメタノールを例にして説明すると、以下のようになる。
【0029】
メタノールは、本発明の濃度検出素子を構成するメタノール酸化極上で、(式1)に従って酸化される。ここで、生じた二酸化炭素はメタノール酸化極近傍の燃料へ溶解またはガスとして放出される。水素イオンは、水素イオン伝導体を透過し、メタノール酸化極の反対面に設けた水素発生極で還元される(式2)。
【0030】
CH3OH+H2O → CO2+6H++6e- …(式1)
6H++6e- → 3H2 …(式2)
本発明の濃度検出素子の全体では、メタノールが二酸化炭素と水素に分解される反応が進行する(式3)。
【0031】
CH3OH+H2O → CO2+H2 …(式3)
このメタノール分解反応(式3)に伴う酸化電流(式1)を計測し、酸化電流がメタノール濃度によって規定される性質を利用するものである。
【0032】
他の燃料の場合も、酸化反応が定まれば、同様なメカニズムで反応が進行する。例えば、燃料がホルムアルデヒドの場合は(式4)と(式5)の組み合わせからなり、
HCHO+H2O → CO2+4H++4e- …(式4)
4H++4e- → 2H2 …(式5)
ギ酸の場合は、(式6)と(式7)の組み合わせからなる。
【0033】
HCOOH → CO2+2H++2e- …(式6)
2H++2e- → H2 …(式7)
他に、ジメチルエーテル,ジメトキシエタン,ジオキサンなど、酸化反応後に水素イオンが生じるものは、全て水素イオン伝導体を用いて、同様な反応形式で燃料を酸化電流として検知することができる。また、他のイオンが生じる燃料の場合は、そのイオンを伝導する材料を選択する。
【0034】
これらの反応は、濃度検出素子へ電圧を印加し続ける限り常に生じているものである。そのため、長時間の運転時において、濃度に対する酸化電流を安定して得るためには、酸化極で発生する二酸化炭素(式1,式4,式6)および水素発生極で発生する水素(式2,式5,式7)が全体の反応速度を阻害しないように、二酸化炭素と水素を排出することがポイントとなる。特に、濃度検出素子の外部から供給される有機物燃料の反応を阻害しうる二酸化炭素の排出が重要である。
【0035】
そこで本発明では、濃度検出素子へ印加する電圧の極を切り替えることで、二酸化炭素および水素の電極内の滞留を抑え、安定した酸化電流を得られるようにした。
【0036】
印加電圧の極を切り替えると、酸化極での反応(式1,式4,式6)と水素発生極での反応(式2,式5,式7)がそれぞれ反対の電極で生じることとなる。すなわち、二酸化炭素が発生していた電極からは、電圧を印加する極を切り替えることにより水素が発生し、水素が発生していた電極からは二酸化炭素が発生することとなる。この結果、電極内で滞留していた二酸化炭素は、極切り替えにより発生する水素により置換される。また、もう一方の電極内に滞留していた水素は、極切り替えにより酸化されて消失あるいは発生する二酸化炭素により置換される。このように、二酸化炭素および水素の滞留は印加する電圧を切り替えることでそれぞれ解消できる。この極切り替えを繰り返すことにより、長時間濃度検出素子を運転してもガスの滞留による酸化電流の低下を抑えることができる。
【0037】
以上で述べたように、濃度検出素子に電圧を印加する極を切り替える運転を行う燃料電池システムについて、より具体的な構成で本発明に係る実施形態について以下に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0038】
図1は、メタノール濃度センサを具備したDMFCシステム101の構成を示す。システム101のほぼ中央にDMFC本体102がある。このDMFC本体102の発電に使われる燃料は、メタノール容器103に充填されている。メタノール容器103に貯蔵されているメタノールは100%のメタノールでも良いが、一般的には水で希釈されたメタノール水溶液が用いられる。この中から必要量のメタノールが、バルブやポンプからなる燃料供給手段104によって燃料タンク108に導入される。前記燃料供給手段104は、メタノール濃度が所定濃度以下になったときに動作するものとする。これらの制御には、マイコン等の自動制御機構(制御回路120)が用いられる。
【0039】
また、燃料タンク108のメタノール濃度が上限値を超えたときには、純水供給手段107が作動し、純水容器106から必要な水が燃料循環ライン105に供給され、メタノール濃度は適正な範囲に維持される。なお、図1のDMFCシステムでは、純水容器を用いてメタノール濃度を調整するシステムとしたが、メタノール濃度を調整する観点からは純水に限られず、燃料タンク108中の燃料よりも低濃度の燃料とすることも可能である。
【0040】
燃料タンク108は、所定の濃度範囲に制御されたメタノール水溶液を一時的に貯蔵する機能のほか、上述のメタノール容器103と純水容器106から燃料や水が補充されたときの燃料濃度を均一にする機能も有する。
【0041】
この中の一部のメタノール水溶液が、燃料循環ポンプ109によって燃料循環ライン105を経由し、DMFC本体102に供給される。アノードにおいて、メタノールは酸化される(式8)。その後、未反応のメタノール水溶液は、再び燃料タンク108に戻される。
【0042】
CH3OH+H2O → CO2+6H++6e- …(式8)
メタノールの酸化反応(式8)によって発生した二酸化炭素は、DMFC本体102では、溶存あるいは微小な気泡として存在する。その二酸化炭素は燃料循環ライン105を経由して燃料タンク108に移り、その気相に大半の二酸化炭素が放出される。さらに、その気相の圧力が増加すると、燃料タンク108の上部に設置した気液分離膜110を通してシステム101の外部に放出される。この気液分離膜110には、触媒処理反応器を設け、微量の有機物を除去する機構を付与しても良い。
【0043】
空気は、ファンやその他の空気供給手段111からDMFC本体102に供給され、水を生成する(式9)。水素イオンは、アノードでメタノールが酸化された際に生成した水素イオンが(式8)、電解質膜を透過してきたものである。
【0044】
3/2O2+6H+ → 3H2O …(式9)
発電後の排ガスは、システム101の外部に放出される。空気排ガス出口に気液分離膜と冷却器を設置し、水を回収し、冷却水タンク106に戻す方法も採ることができる。
【0045】
図1に示したDMFCシステム101において、燃料濃度検出装置はメタノール濃度を検知するための濃度検出素子112と、濃度検出素子112に電圧を印加する直流電源113と、直流電源113から濃度検出素子112に印加される電圧の極性を切り替える極性切り替え手段114で構成されている。濃度検出素子112と直流電源113とは、極性切り替え手段114を介して、電流信号ライン121により接続されている。直流電源から出力される直流電圧は極性切り替え手段114によって、所定の時間毎に極性が切り替えられて、濃度検出素子112に印加される。これにより、濃度検出素子112の各電極がそれぞれメタノール酸化極と水素発生極に切り替えられる。
【0046】
本発明のDMFCシステム101では、直流電源113から濃度検出素子112に電圧が印加されることにより、上述した原理により、濃度検出素子112で燃料の酸化電流が計測される。計測された酸化電流は電流信号ライン121を通して直流電源113で計測される。制御回路120では、直流電源で計測された酸化電流に基づいて燃料濃度を算出あるいは推定し、燃料濃度が所定の範囲から外れている場合には、燃料制御ライン122あるいは水制御ライン123を介して、燃料供給手段104,純水供給手段107に対して所定量の燃料あるいは純水を燃料タンク108または燃料循環ライン105に供給するように制御信号を送信する。この燃料濃度検出装置および制御回路120による制御によって、燃料電池102に供給される燃料濃度を所定の範囲内に安定させることができる。また、本発明のDMFCシステム101では、極性切り替え手段114により電圧の極性を切り替えて濃度検出素子112に印加することにより、二酸化炭素および水素の電極内の滞留を抑え、安定した酸化電流を得られ、濃度検出素子112を長時間運転してもガスの滞留による酸化電流の低下を抑えることができる。
【0047】
極性切り替え手段114としては、直流電源113の電圧の極性を所定時間毎に入れ替えることができればよく、公知の切り替え手段を用いることができる。例えば、直流電源の陽極端子と第1のスイッチを介して一方の電極側の出力に導通するライン、直流電源の陽極端子と第2のスイッチを介して他方の電極側の出力に導通するライン、直流電源の陰極端子と第3のスイッチを介して一方の電極側の出力に導通するライン、直流電源の陰極端子と第4のスイッチを介して他方の電極側の出力に導通するラインを設け、第1〜第4のスイッチのオン,オフを制御することで直流電源113の電圧の極性を切り替えられる。具体的には第1,第4のスイッチがオン、第2,第3のスイッチがオフの場合に一方の電極がプラス、他方の電極がマイナスとなる。また、第1,第4のスイッチがオフ、第2,第3のスイッチがオンの場合に一方の電極がマイナス、他方の電極がプラスとなる。この第1〜第4のスイッチのオン,オフを所定の時間で自動的に切り替えるように回路を構成して極性切り替え手段114とすることができる。
【0048】
本発明で用いる濃度検出素子112の設置場所は、メタノール水溶液が循環するライン上であれば特に制限はないが、ここでは燃料タンク108内に設置する。メタノール濃度をより迅速に計測するためには、燃料タンク108あるいは燃料タンク108に近い場所に濃度検出素子112を設置することが望ましい。燃料タンクあるいはその近傍に設けることで、計測の時間遅れを回避し、濃度制御を迅速に行うことができる。このような構成によって、メタノール濃度を調整した燃料を、燃料タンク108からDMFCシステム102に供給することができる。
【0049】
本発明で用いる濃度検出素子112の燃料検知部204の基本構成を図2に示す。イオン伝導体201のそれぞれの面に電極202と電極203が積層されている。電極202に正の電位を印加する場合は、メタノールは電極202においてメタノール酸化反応(式1)が進行し、電極203では水素発生反応(式2)が起こる。電極203に正の電位を印加した場合は、メタノールは電極203においてメタノール酸化反応(式1)が進行し、電極202では水素発生反応(式2)が起こる。イオン伝導体201は、水素イオンを透過させるプロトン導電性の固体高分子電解質膜を選択することができる。燃料の種類に応じて、電極202および電極203とイオン伝導体201の材料を変更することも可能である。電極202および電極203は、印加極を切り替える観点から同じ材料を選択することが望ましい。また、触媒担持量や電極厚さ等の電極の仕様は同等にすることが望ましい。
【0050】
本発明で用いる濃度検出素子の構成例を図3に例示する。燃料検知部204は、集電板301,302によって挟持され、締結ネジ304によって締結されている。集電板301,302はそれぞれ開口窓を有しており、ここから燃料を燃料検知部204へ供給する。燃料検知部の外周には両面の電極の短絡を防止するために絶縁シート303を備えている。集電板および締結ネジは、燃料中で電位にさらされるため、耐食性であることが条件である。本実施例ではチタン材を用いた。絶縁シートは、燃料に対して耐性を有した材料を選択することが条件である。本実施例ではフッ素系シートを用いた。
【0051】
濃度検出素子の設置例を図4に例示する。電極402および403に電気を取り出すための電流端子412および413がそれぞれ接続されている。電流端子412,413は、電極402,403の電位にさらされるので、耐食性であることが条件である。また、燃料に対し電気化学的に不活性であると、電流端子412,413上の酸化電流が電極402,403での酸化電流の誤差にならなくなるので、濃度計測精度を高める上で好ましい。燃料に対し電気化学的に活性があっても、電流端子412,413の表面積が小さくなるように線径,長さを制限すれば、誤差をできるだけ小さくすることは可能である。濃度検出素子全体は、燃料タンク108の内部に収納され、電極402,403は、燃料と常時接触している。
【0052】
図5は、濃度検出素子の本発明による運転方法における酸化電流特性の時間推移を示している。本実施例では、印加電圧を30秒毎に1Vから−1Vへ、あるいは−1Vから1Vへ切り替えている。印加電圧の極切り替え直後の酸化電流特性は、極切り替え前に滞留していた水素が酸化することに起因して1A以上の大きな電流が流れるが、電流値は水素の酸化消失あるいは濃度検出素子外部への排出とともに急激に低下し、メタノール酸化に起因する緩和な酸化電流変化になる。この水素の酸化反応を伴う急激な酸化電流変化は、極切り替え後から約10秒間観測されていることから、極の切り替え時間周期は、10秒よりも長くすることが望ましく、20秒周期で極を切り替えることが望ましい。さらに切り替え時間を長くすることで、水素残留の影響はなくなり、メタノールの酸化に起因した酸化電流特性が得られることから、30秒周期で極を切り替えることがより望ましい。
【0053】
図6は、本発明による濃度検出素子の極切り替え運転を30秒周期で行った際の連続運転の実施例である。連続運転の条件は、メタノール水溶液の質量濃度が2%、混合タンク内の燃料温度が60℃となるようにそれぞれ制御し、濃度検出素子への印加電圧は±1Vとし、極を切り替えてから30秒後の酸化電流密度をプロットした。比較例として、極の切り替えを行わず、メタノール酸化極に1V一定の電圧印加を行った際の連続運転の例を合わせて示している。比較例は、メタノール水溶液濃度や燃料温度が一定であるにもかかわらず、運転時間経過と共に徐々に酸化電流密度が低下していく性能を示した。電圧印加を一時停止し、再印加することで酸化電流密度の一時的な回復はみられたが、試験開始直後の酸化電流密度まで回復するには至らなかった。一方、本発明による実施例は、終始安定した酸化電流特性が得られた。
【0054】
本発明による運転方法での濃度検出は、電圧を印加する極の切り替えを行う直前の酸化電流の値を用いるため、濃度検出ができない時間帯が数十秒間存在する。この時間帯の存在は、燃料電池システムの濃度制御において問題を生じるものではないが、より短い時間での濃度検出が所望な場合、濃度検出素子を複数用いることで実現できる。この方法について、図7および図8を用いて説明する。
【0055】
図7は、図5に示した酸化電流特性の符合をどちらも正として表記したものである。電圧を印加する極を切り替えることで、電極701およびその背面にある電極702を酸化極として運転した際の酸化電流特性は30秒周期で得られている。この濃度検出素子を2個用いて、電圧を印加する極を切り替える周期を40秒とし、各々の電圧印加の位相を20秒ずらして運転すると、図8のようになる。運転開始後20秒から40秒までの間は、電極701の酸化電流を用いて濃度を検出する。運転開始後40秒から60秒までの間は電極711の酸化電流を用いて濃度を検出する。運転開始後60秒から80秒までの間は、電極701の背面にある電極702の酸化電流を用いて濃度を検出し、その次の20秒間は電極711の背面にある電極712の酸化電流を用いて濃度を検出する。このように、酸化電流が急激に変化する過渡状態の時間帯を別の濃度検出素子が補うように濃度検出に用いる酸化極を選択することで、所望の検出時間で濃度を検出することができる。酸化電流特性の時間に対する変化は、図6に示したように連続して電圧を印加し続けると時間経過と共に低下していくが、数分程度の短時間においては、大きく見積もっても数mA/cm2程度の変化であり、濃度検出においては測定誤差レベルであることから、本実施例で示した数十秒の時間の酸化電流は連続して検出することができる。
【0056】
図3あるいは図4に示した濃度検出素子は、図1に示した燃料電池システムに組み込まれ(図1の112)、電流端子412,413を介して制御回路120に接続されている。電流端子412と413は、図1では電流信号ライン121で表示されている。
【0057】
制御回路120は直流電源を有している。これは、燃料検知部204に電流信号ライン121を通じて図5から図8で示した周期的に極性を切り替えながら電圧を印加する運転方法と、その際に流れた電流を計測する機能を有する。計測した燃料濃度のデータは電気信号に変換され、その信号は電流信号ライン121から制御回路120に伝達され、燃料データに基づいた演算処理が開始される。
【0058】
DMFC本体102に設けた温度検出素子、または燃料タンク108に設けた温度検出素子(いずれも図1では省略されている。)にて計測した温度データも、電気信号として制御回路120に取り込むことができる。温度データも演算処理に加えることにより、燃料濃度の精度の向上に有効である。
【0059】
また、燃料タンク108に燃料の容積を計測するセンサを設置すれば、そのセンサから容積計測結果を表す信号を、制御回路120に取り込むことができる。このようにすれば、燃料タンク108に貯蔵されている燃料容積も管理し、制御することが可能となる。
【0060】
制御回路120の演算結果に基づき、燃料濃度が目標値より低いと判断されたときには、燃料制御ライン122から燃料供給手段104にメタノールの供給指令信号を出力する。逆に、燃料濃度が目標値より高いと判断されたときには、純水制御ライン123から純水供給手段107に純水の供給指令信号を出力する。
【0061】
燃料タンク108の燃料容積が不足している場合には、制御回路120から燃料供給指令と純水供給指令の両方を出力する。
【0062】
このような方法によって燃料濃度が2%を目標値として制御し、図1に示す燃料電池システムに定電流負荷を与えて発電したところ、図9に示したようにメタノール濃度を制御できることがわかった。
【符号の説明】
【0063】
101 燃料電池システム
102 燃料電池
103 燃料原液を貯蔵する容器
104 燃料供給手段
105 燃料循環ライン
106 純水容器
107 純水供給手段
108 燃料タンク
109 燃料循環ポンプ
110 気液分離膜
111 空気供給手段
112 濃度検出素子
113 直流電源
114 極性切り替え手段
120 制御回路
121 電流信号ライン
122 燃料制御ライン
123 純水制御ライン
201 イオン伝導体
202,203,402,403,701,702,711,712 電極
204 燃料検知部
301,302 集電板
303 絶縁シート
304 締結ネジ
412,413 電流端子
501 酸化電流
502 印加電圧
703 電極701における酸化電流特性
704 電極702における酸化電流特性

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体有機化合物を燃料とする燃料電池と、前記燃料電池に供給される燃料の燃料濃度を検出する燃料濃度検出装置を備えた燃料電池システムにおいて、
前記燃料濃度検出装置が、一対の電極と、前記電極間に配置されたプロトン導電性固体高分子膜を有する濃度検出素子と、
前記濃度検出素子に電圧を印加する直流電源と、
前記濃度検出素子に印加する電圧の極性を切り替える極性切り替え手段と、
前記濃度検出素子に電圧を印加することで生じる燃料の酸化電流を測定する電流測定手段と、を備えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池システムにおいて、前記濃度計測素子で計測された酸化電流から燃料濃度を検出し、該燃料濃度に基づき、燃料濃度を制御する制御回路を備えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項3】
請求項1に記載の燃料電池システムにおいて、
燃料タンクと、前記燃料タンクと前記燃料電池の間で燃料を循環させる燃料循環ラインと、前記燃料タンクまたは前記燃料循環ラインに前記燃料タンク中の燃料よりも高濃度の燃料,低濃度の燃料または水を供給する燃料制御機構を備え、
前記濃度計測素子で検出した濃度を記憶,演算する機能を有し、燃料制御機構に前記燃料電池へ供給する燃料量または水量を変化させる制御を行う制御回路を備えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項4】
請求項1に記載の燃料電池システムにおいて、前記濃度検出素子を複数備え、前記極性切り替え手段が、各前記濃度検出素子に印加される電圧の極性を異なるタイミングで切り替えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項5】
請求項1に記載の燃料電池システムにおいて、前記燃料がメタノールと水を含むことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項6】
液体有機化合物を燃料とする燃料電池と、前記燃料電池に供給される燃料の燃料濃度を検出する燃料濃度検出装置を備えた燃料電池システムの運転方法であって、
一対の電極と、前記電極間に配置されたプロトン導電性固体高分子膜を有する濃度検出素子に電圧を印加することにより生じる燃料の酸化電流に基づいて燃料濃度を検出するステップを備え、
燃料濃度を検出するステップにおいて、濃度検出素子に印加する電圧の極性を交互に切り替えることを特徴とする燃料電池システムの運転方法。
【請求項7】
請求項6に記載の燃料電池システムの運転方法において、
検出した燃料濃度に基づいて、燃料電池に供給する燃料の燃料濃度を所定の範囲内に制御することを特徴とする燃料電池システムの運転方法。
【請求項8】
請求項7に記載の燃料電池システムの運転方法において、
燃料電池に供給する燃料に補給される燃料または水の量を制御することにより、燃料電池に供給する燃料の燃料濃度を所定の範囲内に制御することを特徴とする燃料電池システムの運転方法。
【請求項9】
請求項6に記載の燃料電池システムの運転方法において、前記燃料がメタノールと水を含むことを特徴とする燃料電池システムの運転方法。
【請求項10】
液体有機化合物を燃料とする燃料電池と、前記燃料電池に供給される燃料の燃料濃度を検出する燃料濃度検出装置を備えた燃料電池システムの運転方法であって、
一対の電極と、前記電極間に配置されたプロトン導電性固体高分子膜を有する濃度検出素子を複数備え、
前記複数の濃度検出素子に電圧を印加することにより生じる燃料の酸化電流に基づいて燃料濃度を検出するステップを備え、
燃料濃度を検出するステップにおいて、前記複数の濃度検出素子に印加する電圧の極性を異なるタイミングで切り替えることを特徴とする燃料電池システムの運転方法。
【請求項11】
請求項10に記載の燃料電池システムの運転方法において、
検出した燃料濃度に基づいて、燃料電池に供給する燃料の燃料濃度を所定の範囲内に制御することを特徴とする燃料電池システムの運転方法。
【請求項12】
請求項11に記載の燃料電池システムの運転方法において、
燃料電池に供給する燃料に補給される燃料または水の量を制御することにより、燃料電池に供給する燃料の燃料濃度を所定の範囲内に制御することを特徴とする燃料電池システムの運転方法。
【請求項13】
請求項10に記載の燃料電池システムの運転方法において、前記燃料がメタノールと水を含むことを特徴とする燃料電池システムの運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−94461(P2012−94461A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−242950(P2010−242950)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】