説明

燃料電池システム及び燃料電池システムの制御方法

【課題】劣化や温度などの燃料電池の状態に適合するように二次電池への充電制御を行いドライバビリティの向上、あるいは燃料電池の耐久性の向上を実現する。
【解決手段】燃料電池システムであって、燃料電池と、前記燃料電池の出力電力が前記燃料電池システムへの要求電力よりも大きい場合にその余剰の電力を蓄積するとともに、前記燃料電池の出力が前記燃料電池システムへの要求電力よりも小さいときにその不足分を補う二次電池と、前記燃料電池の電圧を測定する電圧測定部と、前記燃料電池の電流を測定する電流測定部と、前記燃料電池の電圧が予め設定された高電位回避電圧以上にならないように制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記燃料電池の電流電圧特性が、前記燃料電池の初期における特性よりも予め定められた量以上低下した場合に、前記高電位回避電圧の値を初期設定値よりも小さな値に再設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池を有する燃料電池システム及び燃料電池システムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バッテリ(二次電池)を有する燃料電池システムの制御方法としては、例えば、特許文献1に記載のものが知られている。特許文献1の燃料電池システムの制御ユニットは、システム要求電力Wreqが徐々に上がっていく場合であっても、燃料電池の出力電圧Vfcを酸化還元電位で一度制限し、制限した電圧に相当する電力をバッテリで補う制御をする。その後、アクセル開度が下がるなどして燃料電池の発電が必要なくなった場合でも、制御ユニットは、燃料電池の出力電圧を酸化還元電位以下で維持して、発電を継続する。制御ユニットは、このとき生成される余剰電力を二次電池に充電する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−5038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
燃料電池は、通常、長期間の使用により、劣化し、特性や燃料電池の状態が変動する。従来、特性や燃料電池の状態の変動に対し、バッテリ(二次電池)への電力充填制御をどうように行うかについては、十分に考慮されていなかった。また、燃料電池が劣化していない場合であっても、燃料電池やバッテリの温度が低い場合には、これらの昇温に最適な運転方法に変えることが好ましいが、この点についても十分な工夫がなされていないのが実情であった。
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、劣化や温度などの燃料電池の状態に適合するように二次電池への充電制御を行い、ドライバビリティの劣化抑制、あるいは燃料電池の耐久性の向上を実現することを目的とする。また、燃料電池やバッテリの温度が低い場合に、これらの温度を上昇させる制御を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
燃料電池システムであって、燃料電池と、前記燃料電池の出力電力が前記燃料電池システムへの要求電力よりも大きい場合にその余剰の電力を蓄積するとともに、前記燃料電池の出力が前記燃料電池システムへの要求電力よりも小さいときにその不足分を補う二次電池と、前記燃料電池の電圧を測定する電圧測定部と、前記燃料電池の電流を測定する電流測定部と、前記燃料電池の電圧が予め設定された高電位回避電圧以上にならないように制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記燃料電池の電流電圧特性が、前記燃料電池の初期における特性よりも予め定められた量以上低下した場合に、(i)前記高電位回避電圧の値を初期設定値よりも小さな値に再設定し、または、(ii)前記二次電池の充電量を保持する下限である充電残量目標値を、初期における設定値よりも大きな値に再設定する、のうちの少なくとも一方を実行する、燃料電池システム。
この適用例によれば、燃料電池の劣化の進行を遅らせることにより、燃料電池の耐久性の向上、あるいはドライバビリティの向上を実現することが可能となる。
【0008】
[適用例2]
適用例1に記載の燃料電池システムにおいて、前記制御部は、さらに、前記燃料電池の累積使用時間が予め定められた時間以上になった場合には、(i)前記高電位回避電圧の値を前記初期設定値よりも小さな値に再設定し、または(ii)前記二次電池の充電残量目標値を、前記初期設定値よりも大きな小さな値に再設定する、のうちの少なくとも一方を実行する、燃料電池システム。
累積使用時間が長くなると、燃料電池は劣化する。この適用例によれば、累積使用時間を用いて、燃料電池の劣化を容易に検知することが可能となる。
【0009】
[適用例3]
適用例2に記載の燃料電池システムにおいて、前記制御部は、前記燃料電池の累積使用時間が長いほど、(i)前記高電位回避電圧の再設定後の値と、前記初期設定値との差を大きくし、または、(ii)前記二次電池の充電残量目標値の再設定後の値と、前記初期設定値との差を大きくする、のうちの少なくとも一方を実行する、燃料電池システム。
一般に、累積使用時間が長いほどより劣化が進行していると考えられる。より劣化しているほど初期値との差を大きくすることにより、燃料電池の劣化の進行を遅らせて燃料電池の耐久性を向上させ、あるいはドライバビリティを向上させることが可能となる。
【0010】
[適用例4]
燃料電池システムであって、燃料電池と、前記燃料電池の出力電力が前記燃料電池システムへの要求電力よりも大きい場合にその余剰の電力を蓄積するとともに、前記燃料電池の出力が前記燃料電池システムへの要求電力よりも小さいときにその不足分を補う二次電池と、前記燃料電池の電圧を測定する電圧測定部と、前記燃料電池の電流を測定する電流測定部と、前記二次電池及び前記燃料電池の温度を測定する温度測定部と、前記燃料電池に供給する酸化ガスの流量を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、(i)前記二次電池の温度が予め定められた下限温度よりも低い場合には、前記二次電池の温度が予め定められた温度よりも高い場合に比べて前記酸化ガスの流量を低下させ、前記燃料電池システムへの要求出力に対し、前記燃料電池からの出力を減少させるとともに、前記二次電池からの出力を増加させ、(ii)前記燃料電池の温度が予め定められた下限温度よりも低い場合には、前記燃料電池の電圧が予め定められた高電位回避電圧以上にならないようにしながら、前記燃料電池の温度が予め定められた温度よりも高い場合に比べて前記酸化ガスの流量を減少させて、前記燃料電池の電流電圧特性において前記酸化ガスの流量を減少させる前の状態で高電位回避電圧以上となる低電流域において熱損失を発生させ、前記熱損失により生じる熱エネルギーを用いて前記燃料電池を昇温する、のうちの少なくとも一方を実行する、燃料電池システム。
この適用例によれば、二次電池や燃料電池が低いときに、それらの温度を上昇させることができる。
【0011】
[適用例5]
燃料電池システムの制御方法であって、
(a)燃料電池の電流電圧特性を取得する工程と、
(b)前記電流電圧特性が燃料電池の初期における特性よりも予め定められた量以上低下したか否かを判断する工程と、
(c)前記電流電圧特性が燃料電池の初期における特性よりも予め定められた量以上低下している場合に、(i)前記高電位回避電圧の値を初期設定値よりも小さな値に再設定する、または、(ii)前記二次電池の充電量を保持する下限である充電残量目標値を、初期における設定値よりも大きな値に再設定する、のうちの少なくとも一方を実行する工程と、
を備える、燃料電池システムの制御方法。
【0012】
本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、燃料電池システムの他、燃料電池システムの制御方法等、様々な形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施例に係る燃料電池システムの概略構成を示す説明図である。
【図2】燃料電池の特性を示すグラフである。
【図3】燃料電池の出力電力の時間変化を示すグラフである。
【図4】燃料電池の初期の特性と劣化したときの特性とを比較する説明図である。
【図5】初期における余剰電力と劣化時における余剰電力とを比較する説明図である。
【図6】高電位回避上限電圧を下げたときの余剰電力を示す説明図である。
【図7】本実施例の効果を示す説明図である。
【図8】第2の実施例を示す説明図である。
【図9】第2の実施例における燃料電池の特性を示す説明図である。
【図10】二次電池の温度を上昇させる制御を説明する説明図である。
【図11】燃料電池の温度を上昇させる制御を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[第1の実施例]
図1は、本実施例に係る燃料電池システムの概略構成を示す説明図である。燃料電池システム10は、燃料電池100と、二次電池200と、燃料ガス供給部300と、酸化ガス供給部400と、DC−DCコンバーター500と、セルモニタ600と、制御部700と、を備える。燃料電池システム10は、負荷800に対して電力を供給する。燃料電池100は、複数の単セル(図示せず)を含んでいる。各単セルには、セルモニタ600が接続されており、各単セルの状態、例えば、電圧及び電流モニタすることが可能である。また、燃料電池100には、温度計110が接続され、燃料電池100の温度がモニタできるようになっている。
【0015】
燃料ガス供給部300は燃料電池100に接続されている。本実施例では、燃料ガスとして水素を用いる。燃料ガス供給部300は、燃料ガスタンク310と、遮断弁320と、レギュレータ330と、を有する。遮断弁320は、燃料電池システム10の停止時に遮断し、水素ガスの供給を停止する。レギュレータ330は、燃料電池100の供給する水素の圧力を調整する。
【0016】
酸化ガス供給部400は、燃料電池100に接続されている。本実施例では、酸化ガスとして空気を用いる。酸化ガス供給部400は、エアクリーナー410と、エアポンプ420と、インタークーラー430と、フィルター440と、を有する。エアクリーナー410は、大気中の空気を取り込むときに、空気中のゴミや塵を除去する。エアポンプ420は、空気を圧縮して燃料電池100に供給する。エアポンプ420には、モーター421が接続されている。インタークーラー430は、圧縮により熱くなった空気を冷却する。フィルター435は、エアクリーナー410により除去できなかった細かな塵や埃を除去する。
【0017】
二次電池200は、DC−DCコンバーター500を介して燃料電池100に接続されており、燃料電池100の補助電源として機能する。すなわち、燃料電池100の出力が負荷800からの出力要求に満たない場合には、二次電池200は、その差を出力して補う。逆に、燃料電池100の出力が負荷800の出力要求よりも大きい場合には、二次電池200はその差を充電する。二次電池200としては、例えば、鉛蓄電池や、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池などを採用することができる。二次電池200には、温度計210が接続され、二次電池200の温度がモニタできるようになっている。
【0018】
DC−DCコンバーター500は、二次電池200の充・放電を制御する充放電制御部としての機能を有しており、制御部700の指示によって二次電池200の充・放電を制御するとともに、負荷800に掛かる電圧レベルを可変に調整する。
【0019】
制御部700(「ECU(Electronic Control Unit)700」とも呼ぶ。)は、例えば、主記憶装置と中央演算処理装置とを備えるマイクロコンピューターとして構成することができる。制御部700は、負荷800からの出力要求に応じて、レギュレータ330を制御して燃料ガスの供給量を制御し、モーター421を制御して酸化ガスの供給量を制御する。また、制御部700は、負荷800からの出力要求に応じて、DC−DCコンバーター500を制御する。
【0020】
図2は、燃料電池の特性を示すグラフである。図2(A)は、電流−電圧特性を示すグラフであり、図2(B)は、電流−出力特性を示すグラフである。図2(A)に示すように、燃料電池100の出力電流が大きくなると、燃料電池100の出力電圧は小さくなる。一方、図2(B)に示すように燃料電池100の出力電流が大きくなると、燃料電池の出力電力は大きくなる。図2(A)には、高電位回避上限電圧VHlimit0を示す線が引かれている。制御部700は、燃料電池100を制御するときに、高電位回避上限電圧VHlimit0よりも出力電圧が高い状態にならないように制御する。その理由は、燃料電池100の出力電圧が高電位回避上限電圧VHlimit0よりも高いと、燃料電池100の触媒(図示せず)から触媒金属(例えば白金)が溶出し易くなり、燃料電池100が劣化し易くなるからである。
【0021】
本実施例では、燃料電池100の出力電圧が高電位回避上限電圧VHlimit0となるときの電流をI0とする。なお、高電位回避上限電圧VHlimit0は、開放電圧(OCV、Open Circuit Voltage)よりも低く、触媒金属の溶出を防止または緩和できる電圧値として、実験的に予め設定される。このときの出力電力は、図2(B)に示すようにPlowとする。この出力電力Plowは出力下限であるので下限出力Plowとも呼ぶ。燃料電池100は、出力電圧を高電位回避上限電圧VHlimit0以下に維持する場合、燃料電池100の出力は下限出力Plow以下にはならない。例えば、アイドリング状態のように負荷800の要求電力Preq1が下限出力Plowよりも小さい場合、Plow−Preq1が余剰となる。制御部700は、DC−DCコンバーター500に対し、その余剰分(Plow−Preq1)を二次電池200に充填するように命令する。
【0022】
一方、負荷800の要求電力Preq2が下限出力Plowよりも大きい場合、制御部700は、燃料電池100から引く電流をI2に増加する。このときの燃料電池の出力は、負荷800の要求電力Preq2である。なお、二次電池200には、充電量(「SOC(State of Charge)」とも呼ぶ。)の目標値(例えば、全充電量に対するパーセンテージ)が定められている。二次電池200の充電量が目標値に満たない場合には、制御部700は、燃料電池100の出力電流をI2より多くして、燃料電池100の出力電力を大きくして、その差を二次電池200に充電させてもよい。また、アイドリング状態の期間が長く、二次電池200の充電量が目標値を越えている場合には、制御部700は、燃料電池100の出力電流をI2より少なくして、燃料電池100の出力電力を小さくしてもよい。このとき、燃料電池100の出力電力は、負荷800の要求電力よりも小さくなるが、その差分は、二次電池200からの出力で補うことができる。これにより、二次電池200の充電量を目標値まで下げることが可能となる。
【0023】
図3は、燃料電池の出力電力の時間変化を示すグラフである。図3(A)は、高電位回避上限電圧を設けた場合であり、図3(B)は、高電位回避上限電圧を設けない場合である。図3(A)に示すように、高電位回避上限電圧を設けた場合、燃料電池の出力電圧が下限電力Plowを下回ることはなく、負荷800からの要求電力が下限電力Plowを下回る場合には、その差分(Plow−要求電力)が二次電池200に充電される。一方、高電位回避上限電圧を設けない場合、負荷800からの要求電力が下限電力Plowを下回る場合、燃料電池100の出力電力も小さくなり、負荷800からの要求電力が下限電力Plowを下回る期間、触媒金属(例えば白金)が溶出し易い状態となる。
【0024】
図4は、燃料電池の初期の特性と劣化したときの特性とを比較する説明図である。図4(A)は、電流−電圧特性を示すグラフであり、図4(B)は、電流−出力特性を示すグラフであり、図4(C)は、図4(B)に示すグラフの一部を拡大したものである。燃料電池100は、劣化すると、同じ出力電流でも、出力電圧、出力電力が小さくなる。例えば、燃料電池100が劣化していないときに出力電圧がVHlimit0となる出力電流I0が、劣化した燃料電池100に流れるとき、その出力電圧、出力電力はそれぞれVout2(Vout2<VHlimit)、Pout2(Pout2<Plow)となる。
【0025】
図5は、初期における余剰電力と劣化時における余剰電力とを比較する説明図である。高電位回避時の余剰電力は、燃料電池100が出力する電力(PlowまたはPout2)と負荷800が要求する電力(Preq)の差である。すなわち、初期にはΔQ1(ΔQ1=Plow−Preq)の余剰電力があり、劣化した場合には、余剰電力はΔQ2(ΔQ2=Pout2−Preq)に減少する。
【0026】
第1の実施例では、制御部700は、燃料電池100が劣化したときには、図4(A)に示すように、高電位回避上限電圧を下げる制御を行う。本実施例では、制御部700は、例えば、劣化時の高電位回避上限電圧における出力電力が、初期における下限電力Plowと同じになるように、劣化時の高電位回避上限電圧VHlimit3を定める。このときの燃料電池100の出力電流はI3に増加する。
【0027】
図6は、高電位回避上限電圧を下げたときの余剰電力を示す説明図である。本実施例では、高電位回避上限電圧をVHlimit3に下げることにより、出力電流がI0からI3に増加し、燃料電池100の出力電力が、Pout2からPlowに増大する。したがって、負荷の要求電力Preqとの差である余剰電力は、ΔQ2からΔQ1に増大する。
【0028】
図7は、本実施例の効果を示す説明図である。図7の横軸は燃料電池100の累積運転時間であり、縦軸は出力電圧である。燃料電池の出力電圧は、一般に運転時間が長くなるにつれて劣化により下がってくる。累積運転時間が長くなると、高電位回避上限電圧VHlimit0近傍での運転時間の累積も長くなり、僅かずつではあるが、触媒金属が溶出し、燃料電池100の劣化が進んでいく。本実施例では、燃料電池100がある程度劣化した場合には、高電位回避上限電圧VHlimit3に下げる。その結果、それ以降の燃料電池100の劣化を緩和することが可能となる。
【0029】
上記説明では、燃料電池100の劣化の検知方法については、説明していないが、例えば、制御部700は、予め定められた出力電流における出力電圧を比較し、予め定められた値以上下がった場合には、劣化したと判断してもよい。あるいは、制御部700は、燃料電池100の運転時間(長いほど劣化)、電位の変動回数(多いほど劣化)、温度(高いほど劣化)、加湿状態(高いほど劣化)、始動停止の回数(多いほど劣化)に基づいて燃料電池100の劣化を推測してもよい。また、制御部700は、燃料電池100の劣化を考慮せず、単に燃料電池の累積運転時間に基づいて、高電位回避上限電圧を下げてもよい。累積運転時間がより長ければ、より劣化が進んでいると考えられるからである。こうすれば、制御部700は累積時間のみを計測すれば良く、燃料電池の劣化を測定する必要がなくなる。なお、制御部700は、累積時間が長いほど、高電位回避上限電圧の下げ幅を大きくしてもよい。燃料電池100は、より劣化が進行していると考えられるからである。
【0030】
[第2の実施例]
図8は、第2の実施例を示す説明図である。第2の実施例の構成は、第1の実施例の構成と同じである。ただし、燃料電池100の制御が異なる。第2の実施例では、燃料電池100が劣化したときは、制御部700は、二次電池200の充電量の目標値(SOC)を上げる。本実施例では、制御部700は、燃料電池100が劣化したときの充電量の目標値を、初期の55%から65%に引き上げている。
【0031】
図5に示すように、燃料電池100は、劣化すると、余剰電力が少なくなる。逆に言えば、初期は余剰電力が多い。したがって、二次電池200の充電量の目標値(SOC)が小さいと、二次電池の充填量が100%になる場合がある。二次電池の充填量が100%になると、充填できなくなるため、燃料電池100の発電電力を下げるか、負荷800に消費させる必要がある。しかし、燃料電池100の発電電力を下げると、出力電圧があがる。その結果、触媒金属が流出し、燃料電池100が劣化する恐れがある。一方、負荷800に消費させる場合には、無駄なエネルギー消費となる。したがって、二次電池200の充電量の目標値を、初期には少なめに設定することが好ましい。
【0032】
図9は、第2の実施例における燃料電池の特性を示す説明図である。図9(A)は、電流−電圧特性を示すグラフであり、図9(B)は、電流−出力特性を示すグラフである。負荷800からのPreq2の出力要求があったとき、初期では、燃料電池100は、出力電流I4を流すことにより、負荷800の要求する出力を出力することができる。一方、燃料電池100が劣化した後、負荷800からのPreq2の出力要求があったとき、燃料電池100は、出力電流I4では、負荷800の要求を満たすことが出来ず、足りない分は、二次電池200から補われる。
【0033】
ところで、燃料電池100が劣化すると、燃料電池100の内部抵抗が増大するので、燃料電池100の発熱が大きくなる。かかる場合には、制御部700は、燃料電池100の出力を制限する。したがって、燃料電池100は、出力電流I4よりも少ない出力電流I5の電流しか流すことが出来ず、出力電力もPlimに制限される。この場合、二次電池200が補う電力が増大する。このとき、劣化したときの二次電池200の充電量の目標値を大きく設定しておけば、負荷800は、長時間にわたり二次電池200からの電力供給を受けることが出来る。すなわち、燃料電池100及び二次電池200からの出力の合計が、要求電力より下回り難いので、ドライバビリティの劣化を抑制することが可能となる。
【0034】
なお、第2の実施例においても、単に燃料電池の累積運転時間に基づいて、二次電池200の充電量の目標値を上げてもよい。累積運転時間がより長ければ、より劣化が進んでいると考えられるからである。こうすれば、制御部700は累積時間のみを計測すれば良く、燃料電池の劣化を測定する必要がなくなる。なお、制御部700は、累積時間が長いほど、二次電池200の充電量の目標値の上げ幅を大きくしてもよい。燃料電池100は、より劣化が進行していると考えられるからである。
【0035】
[第3の実施例]
第3の実施例の構成は、第1、第2の実施例と同じである。第3の実施例では、制御部700は、二次電池200の温度が低い場合に、その温度を上昇させるように制御する。具体的には、制御部700は、酸化ガスの流量を少なくする。
【0036】
図10は、二次電池の温度を上昇させる制御を説明する説明図である。図10(A)は、電流−電圧特性を示すグラフであり、図10(B)は、電流−出力特性を示すグラフである。図10のグラフと、図4あるいは図9のグラフと、を比較すると、酸化ガスの流量を減らした場合の特性と、燃料電池が劣化した場合の特性と、が良く似ていることがわかる。
【0037】
二次電池200の温度が低い場合には、制御部700は空気の流量を少なくする。負荷800よりPreq6の出力要求があった場合、酸化ガスの流量を減少させていなければ、制御部700は、出力電流I6で電流を引けば、要求出力を出力することが出来る。一方、酸化ガスの流量を減少させている場合でも、制御部700は、出力電流I7で電流を引けば、要求出力を出力することが出来る。本実施例では、制御部700は、出力電流I6で電流を引く。この場合、燃料電池100の出力電力は、Pout6であり、負荷800の要求出力Preq6よりも小さい。制御部700は、不足する分を二次電池200から出力する。この結果、二次電池200の充放電回数が増加させ、二次電池200の温度を増加させることが可能となる。
【0038】
第2の実施例では、ドライバビリティの劣化を抑制するために、積極的に二次電池を用いたが、本実施例では、二次電池の温度を上昇させるために、第2の実施例と同様な動作原理の元、積極的に二次電池200を用いることにより、二次電池の温度を上昇させることが可能となる。
【0039】
[第4の実施例]
第4の実施例の構成は、第1、第2の実施例と同じである。第4の実施例では、制御部700は、燃料電池100の温度が低い場合に、その温度を上昇させるように制御する。具体的には、制御部700は、高電位回避上限電圧を維持したまま酸化ガスの流量を少なくする。
【0040】
図11は、燃料電池の温度を上昇させる制御を説明する説明図である。図11(A)は、電流−電圧特性を示すグラフであり、図11(B)は、電流−出力特性を示すグラフである。図4(C)は、図4(B)に示すグラフの一部を拡大したものである。制御部700は、高電位回避上限電圧を維持したまま酸化ガスの流量(供給量)を少なくすると、高電位回避上限電圧のときの燃料電池の出力電流は、I8に減少する。このときの燃料電池の出力をPout8とする。一方、制御部700が、高電位回避上限電圧を維持せずに、燃料電池100から出力電流I8を引いたときの出力をPout9とする。このときPout9>Pout8である。制御部700が燃料電池100から同じ電流を引いた場合でも、出力電力は(Pout9−Pout8)だけ少なくなっている。すなわち、この分だけ燃料電池100の効率が悪くなっており、燃料電池100を発熱させる。燃料電池100が冷えている場合には、制御部700は、高電位回避上限電圧を維持したまま燃料電池に供給する酸化ガスの流量を少なくすることにより、燃料電池の効率を下げ、その効率が下がることによる発熱を用いて、燃料電池100の温度を上昇させることが可能となる。
【0041】
上記各実施例につき、任意の2つ以上、例えば、制御部700は、実施例1と実施例2と、を同時に実行するようにしてもよい。すなわち、制御部700は、燃料電池100が劣化したときには、高電位回避上限電圧を下げると共に、二次電池200の充電量の目標値を上げてもよい。また、燃料電池100と二次電池200の温度が共に低い場合には、制御部700は、実施例3と実施例4と、を同時に実行するようにしてもよい。さらに、燃料電池100が劣化し、燃料電池100と二次電池200の温度が共に低い場合には、制御部700は、全ての実施例を実施してもよい。
【0042】
以上、いくつかの実施例に基づいて本発明の実施の形態について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれることはもちろんである。
【符号の説明】
【0043】
10…燃料電池システム
100…燃料電池
110…温度計
200…二次電池
210…温度計
300…燃料ガス供給部
310…燃料ガスタンク
320…遮断弁
330…レギュレータ
400…酸化ガス供給部
410…エアクリーナー
420…エアポンプ
421…モーター
430…インタークーラー
435…フィルター
440…フィルター
600…セルモニタ
700…制御部
800…負荷

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池システムであって、
燃料電池と、
前記燃料電池の出力電力が前記燃料電池システムへの要求電力よりも大きい場合にその余剰の電力を蓄積するとともに、前記燃料電池の出力が前記燃料電池システムへの要求電力よりも小さいときにその不足分を補う二次電池と、
前記燃料電池の電圧を測定する電圧測定部と、
前記燃料電池の電流を測定する電流測定部と、
前記燃料電池の電圧が予め設定された高電位回避電圧以上にならないように制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記燃料電池の電流電圧特性が、前記燃料電池の初期における特性よりも予め定められた量以上低下した場合に、(i)前記高電位回避電圧の値を初期設定値よりも小さな値に再設定し、または、(ii)前記二次電池の充電量を保持する下限である充電残量目標値を、初期における設定値よりも大きな値に再設定する、のうちの少なくとも一方を実行する、燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池システムにおいて、
前記制御部は、さらに、前記燃料電池の累積使用時間が予め定められた時間以上になった場合には、(i)前記高電位回避電圧の値を前記初期設定値よりも小さな値に再設定し、または(ii)前記二次電池の充電残量目標値を、前記初期設定値よりも大きな小さな値に再設定する、のうちの少なくとも一方を実行する、燃料電池システム。
【請求項3】
請求項2に記載の燃料電池システムにおいて、
前記制御部は、前記燃料電池の累積使用時間が長いほど、(i)前記高電位回避電圧の再設定後の値と、前記初期設定値との差を大きくし、または、(ii)前記二次電池の充電残量目標値の再設定後の値と、前記初期設定値との差を大きくする、のうちの少なくとも一方を実行する燃料電池システム。
【請求項4】
燃料電池システムであって、
燃料電池と、
前記燃料電池の出力電力が前記燃料電池システムへの要求電力よりも大きい場合にその余剰の電力を蓄積するとともに、前記燃料電池の出力が前記燃料電池システムへの要求電力よりも小さいときにその不足分を補う二次電池と、
前記燃料電池の電圧を測定する電圧測定部と、
前記燃料電池の電流を測定する電流測定部と、
前記二次電池及び前記燃料電池の温度を測定する温度測定部と、
前記燃料電池に供給する酸化ガスの流量を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、(i)前記二次電池の温度が予め定められた下限温度よりも低い場合には、前記二次電池の温度が予め定められた温度よりも高い場合に比べて前記酸化ガスの流量を低下させ、前記燃料電池システムへの要求出力に対し、前記燃料電池からの出力を減少させるとともに、前記二次電池からの出力を増加させ、または、(ii)前記燃料電池の温度が予め定められた下限温度よりも低い場合には、前記燃料電池の電圧が予め定められた高電位回避電圧以上にならないようにしながら、前記燃料電池の温度が予め定められた温度よりも高い場合に比べて前記酸化ガスの流量を減少させて、前記燃料電池の電流電圧特性において前記酸化ガスの流量を減少させる前の状態で高電位回避電圧以上となる低電流域において熱損失を発生させ、前記熱損失により生じる熱エネルギーを用いて前記燃料電池を昇温する、のうちの少なくとも一方を実行する、燃料電池システム。
【請求項5】
燃料電池システムの制御方法であって、
(a)燃料電池の電流電圧特性を取得する工程と、
(b)前記電流電圧特性が燃料電池の初期における特性よりも予め定められた量以上低下したか否かを判断する工程と、
(c)前記電流電圧特性が燃料電池の初期における特性よりも予め定められた量以上低下している場合に、(i)前記高電位回避電圧の値を初期設定値よりも小さな値に再設定する、または、(ii)前記二次電池の充電量を保持する下限である充電残量目標値を、初期における設定値よりも大きな値に再設定する、のうちの少なくとも一方を実行する工程と、
を備える、燃料電池システムの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−222281(P2011−222281A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−89969(P2010−89969)
【出願日】平成22年4月9日(2010.4.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】