説明

燃料電池システム及び移動体

【課題】弁装置の駆動周期途中に反応ガスの供給異常があった場合でも、燃料電池への反応ガスの供給量を適切に維持する。
【解決手段】燃料電池10と、燃料電池10に反応ガスを供給するガス供給流路31と、ガス供給流路31に設けられ、所定の駆動周期で駆動される弁装置35と、燃料電池10に供給する反応ガスが目標のガス状態となるように、弁装置35の駆動を制御する制御装置4と、弁装置35の下流側の反応ガスのガス状態を測定するセンサ43と、を備え、制御装置4は、目標のガス状態とセンサ43で測定したガス状態との差が所定値を超えたことを検知したときに、所定の駆動周期とは別に弁装置35を駆動する燃料電池システム1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システム及び移動体に関し、特に、燃料電池への反応ガスの供給を制御する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、反応ガス(燃料ガス及び酸化ガス)の供給を受けて発電を行う燃料電池を備えた燃料電池システムが提案され、実用化されている。かかる燃料電池システムには、水素タンク等の燃料供給源から供給される水素ガスを燃料電池へと流すための燃料供給流路やコンプレッサ等で取り込んだ大気中の空気を燃料電池へ流すための空気供給流路が設けられている。
【0003】
燃料電池の良好な発電状態を維持するためには、燃料供給流路や空気供給流路といったガス供給系における反応ガスの供給異常を検出し、この異常に対して迅速に対処することが重要である。このような燃料電池システムとして、例えば特許文献1には、ガス供給系にインジェクタを配置し、インジェクタの目標作動量とガス供給系の検出物理量に基づいてガス供給系の異常を検出し、インジェクタの弁体の開度、開放時間を設定することが提案されている。
【特許文献1】特開2007−165237
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような燃料電池システムにおいては、インジェクタは所定の駆動周期毎に反応ガスを噴出しており、駆動周期途中にガス供給系の下流側のガス漏れがある場合には目標作動量を維持することができなくなる。この場合、燃料電池への反応ガスの供給量が不足し、燃料電池の良好な発電状態を維持できなくなる。
【0005】
そこで、本発明は、上記従来技術の課題に鑑みてなされたものであり、弁装置の駆動周期途中に反応ガスの供給異常があった場合でも、燃料電池への反応ガスの供給量を適切に維持することができる燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明においては、上記課題を解決するために、以下の手段を採用した。すなわち、燃料電池と、前記燃料電池に反応ガスを供給するガス供給流路と、前記ガス供給流路に設けられ、所定の駆動周期で駆動される弁装置と、前記燃料電池に供給する反応ガスが目標のガス状態となるように、前記弁装置の駆動を制御する制御装置と、前記弁装置の下流側の反応ガスのガス状態を測定するセンサと、を備え、前記制御装置は、前記目標のガス状態と前記センサで測定したガス状態との差が所定値を超えたことを検知したときに、前記所定の駆動周期とは別に前記弁装置を駆動する燃料電池システムを構成する。
【0007】
この構成によれば、弁装置の駆動周期途中に、目標ガス状態と測定されたガス状態との差が所定値以上になったとしても(典型的にはガス漏れ等によりガス供給不足がある場合等)、制御装置が所定の駆動周期とは別に弁装置を駆動させるので、燃料電池への反応ガスの供給量を適切に維持することができる。
【0008】
尚、本明細書において、「ガス状態」とは、流量、圧力、温度、モル濃度などで表されるガスの状態を意味する。
【0009】
また、上記構成において、前記制御装置は、前記弁装置の開弁から所定時間経過後に、前記センサによる測定を許可するようにしてもよい。
【0010】
この構成によれば、所定時間経過後におけるガス供給流路の反応ガス状態を測定でき、開弁直後の不安定な状態でガス状態が測定されることを防止でき、ひいては、反応ガスの供給異常を適切に検知することができるようになる。
【0011】
また、上記構成において、前記制御装置は、所定の演算周期を有し、前記制御装置は、前記所定時間経過後の次の演算周期にて、前記目標のガス状態と前記センサで測定したガス状態との差が所定値を超えているかを検知するようにしてもよい。
【0012】
この構成によれば、所定の演算周期にあわせて、反応ガスの供給異常を検知することができる。
【0013】
また、上記構成において、前記所定時間は、前記弁装置の開弁後、該弁装置の下流側のガス状態が安定するまでの時間であるようにしてもよい。
【0014】
この構成によれば、弁装置の下流側のガス状態が安定した状態でガス供給流路の反応ガス状態を測定でき、不安定な状態でガス状態が測定されることを防止でき、ひいては、反応ガスの供給異常を適切に検知することができるようになる。
【0015】
また、上記構成において、前記ガス状態は、前記反応ガスのガス圧であり、前記センサは圧力センサであるようにしてもよい。
【0016】
本構成によれば、反応ガスのガス圧を検出することによって、反応ガスの供給異常を検知できる。
【0017】
また、上記構成において、前記弁装置は、インジェクタであるようにしてもよい。
【0018】
インジェクタは応答性が高く、駆動周期途中の変則的かつ微細な駆動指令にも応答可能であり、本発明に適用する有用性が高く、燃料電池への反応ガスの供給量をより適切に維持することができるようになる。
【0019】
尚、本明細書におけるインジェクタは、典型的には、弁体を電磁駆動力で直接的に所定の駆動周期で駆動して弁座から離隔させることによりガス状態を調整することが可能な電磁駆動式の開閉弁として構成される。
【0020】
また、本発明の移動体は、上記燃料電池システムを備える。
【0021】
この構成によれば、燃料電池への反応ガスの供給量をより適切に維持する燃料電池システムを備えているので、出力要求(例えば車両であればアクセルの開度等)に対して高い応答性を有する移動体を提供することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、弁装置の駆動周期途中に反応ガスの供給異常があった場合でも、燃料電池への反応ガスの供給量を適切に維持することができる燃料電池システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る燃料電池システムについて以下の順番で説明する。本実施形態においては、本発明を燃料電池車両(移動体)の車載発電システムに適用した例について説明することとする。尚、各図面において、同一の部品には同一の符号を付している。
1.本発明の実施の形態にかかる燃料電池システムの全体構成
2.同燃料電池システムのインジェクタの非同期噴射制御
3.同燃料電池システムの変形例
【0024】
1.本発明の実施の形態に係る燃料電池システムの全体構成
まず、図1を用いて、本発明の実施形態に係る燃料電池システム1の全体構成について説明する。本実施形態においては、本発明を燃料電池車両(移動体)の車載発電システムに適用した例について説明する。
【0025】
本実施形態に係る燃料電池システム1は、図1に示すように、反応ガス(酸化ガス及び燃料ガス)の供給を受けて電力を発生する燃料電池10を備えるとともに、燃料電池10に酸化ガスとしての空気を供給する酸化ガス配管系2、燃料電池10に燃料ガスとしての水素を供給する水素ガス配管系3、システム全体を統合制御する制御装置4等を備えている。
【0026】
燃料電池10は、反応ガスの供給を受けて発電する単セルを所要数積層して構成したスタック構造を有している。単セルはいずれも図示省略したが、イオン交換膜からなる電解質膜と、電解質膜を両面から挟んだ一対のアノードおよびカソードとで構成されている。
【0027】
カソードには、酸化ガス配管系2により所定の圧力の酸化ガス(空気)が供給され、アノードには水素ガス配管系3により所定の圧力の水素ガスが供給される。この両ガスの電気化学反応により各単セルの起電力が得られる。
【0028】
燃料電池10により発生した電力は、PCU(Power Control Unit)11に供給される。PCU11は、燃料電池10とトラクションモータ12との間に配置されるインバータやDC‐DCコンバータ等を備えている。また、燃料電池10には、発電中の電流を検出する電流センサ13が取り付けられている。
【0029】
酸化ガス配管系2は、加湿器20により加湿された酸化ガス(空気)を燃料電池10に供給する酸化ガス供給流路21と、燃料電池10から排出された酸化オフガスを加湿器20に導く酸化ガス排出流路22と、加湿器20から希釈器40を介して外部に酸化オフガスを導くための排気流路23と、を備えている。酸化ガス供給流路21には、大気中の空気を取り込んで加湿器20に圧送するコンプレッサ24が設けられている。酸化ガス排出流路22には、燃料電池10内の酸化ガスの圧力を検出するためのカソード側圧力センサ25と、一次圧の変化に応じて酸化オフガスの流量を調整することにより、燃料電池10内の酸化ガスの圧力を調整する背圧弁26が配置されている。背圧弁26は、例えばバタフライ弁で構成される。
【0030】
水素ガス配管系3は、高圧の水素ガスを貯留した燃料供給源としての水素タンク30と、水素タンク30の水素ガスを燃料電池10に供給する水素供給流路31と、燃料電池10から排出された水素オフガスを水素供給流路31に戻すための循環流路32と、を備えている。なお、水素タンク30に代えて、炭化水素系の燃料から水素リッチな改質ガスを生成する改質器と、この改質器で生成した改質ガスを高圧状態にして蓄圧する高圧ガスタンクと、を燃料供給源として採用することもできる。また、水素吸蔵合金を有するタンクを燃料供給源として採用してもよい。
【0031】
水素供給流路31には、水素タンク30からの水素ガスの供給を遮断又は許容する遮断弁33と、水素ガスの圧力を調整するレギュレータ34と、インジェクタ35と、が設けられている。また、インジェクタ35の上流側には、水素供給流路31内の水素ガスの圧力及び温度を検出するインジェクタ上流側圧力センサ41及び温度センサ42が設けられている。また、インジェクタ35の下流側であって水素供給流路31と循環流路32との合流部A1の上流側には、燃料電池10内の水素ガスの圧力を検出するためのアノード側圧力センサ43が設けられている。
【0032】
レギュレータ34は、その上流側圧力(一次圧)を、予め設定した二次圧に調圧する装置である。本実施形態においては、一次圧を減圧する機械式の減圧弁をレギュレータ34として採用している。機械式の減圧弁の構成としては、背圧室と調圧室とがダイアフラムを隔てて形成された筺体を有し、背圧室内の背圧により調圧室内で一次圧を所定の圧力に減圧して二次圧とする公知の構成を採用することができる。本実施形態においては、図1に示すように、インジェクタ35の上流側にレギュレータ34を2個配置することにより、インジェクタ35の上流側圧力を低減させている。
【0033】
インジェクタ35は、弁体を電磁駆動力で直接的に所定の駆動周期で駆動して弁座から離隔させることによりガス流量やガス圧を調整することが可能な電磁駆動式の開閉弁である。インジェクタ35は、水素ガス等の気体燃料を噴射する噴射孔を有する弁座を備えるとともに、その気体燃料を噴射孔まで供給案内するノズルボディと、このノズルボディに対して軸線方向(気体流れ方向)に移動可能に収容保持され噴射孔を開閉する弁体と、を備えている。本実施形態においては、インジェクタ35の弁体は電磁駆動装置であるソレノイドにより駆動され、このソレノイドに給電されるパルス状励磁電流のオン・オフにより、噴射孔の開口面積を2段階又は多段階に切り替えることができるようになっている。制御装置4から出力される制御信号によってインジェクタ35のガス噴射時間及びガス噴射時期が制御されることにより、水素ガスの流量及び圧力が高精度に制御される。インジェクタ35は、弁体及び弁座を電磁駆動力で直接開閉駆動するものであり、その駆動周期が高応答の領域まで制御可能であるため、高い応答性を有する。本実施形態においては、インジェクタは所定の駆動周期とは別にも駆動される点に特徴を有するが、当該制御については後述する。
【0034】
なお、本実施形態においては、図1に示すように、水素供給流路31と循環流路32との合流部A1より上流側にインジェクタ35を配置している。また、図1に破線で示すように、燃料供給源として複数の水素タンク30を採用する場合には、各水素タンク30から供給される水素ガスが合流する部分(水素ガス合流部A2)よりも下流側にインジェクタ35を配置するようにする。
【0035】
循環流路32には、気液分離器36及びパージバルブ37を介して、排出流路38が接続されている。気液分離器36は、水素オフガスから水分を回収するものである。パージバルブ37は、制御装置4からの指令によって作動することにより、気液分離器36で回収した水分と、循環流路32内の不純物を含む水素オフガス(燃料オフガス)と、を外部に排出(パージ)するものである。また、循環流路32には、循環流路32内の水素オフガスを加圧して水素供給流路31側へ送り出す水素ポンプ39が設けられている。
【0036】
希釈手段としての希釈器40は、パージバルブ37及び排出流路38を介して排出される水素オフガスを、排気流路23を介して排出される酸化オフガスによって希釈し、外部に排出するようになっている。
【0037】
制御装置4は、車両に設けられた加速操作部材(アクセル等)の操作量を検出し、加速要求値(例えばトラクションモータ12等の負荷装置からの要求発電量)等の制御情報を受けて、システム内の各種機器の動作を制御する。なお、負荷装置とは、トラクションモータ12のほかに、燃料電池10を作動させるために必要な補機装置(例えばコンプレッサ24、水素ポンプ39、冷却ポンプのモータ等)、車両の走行に関与する各種装置(変速機、車輪制御装置、操舵装置、懸架装置等)で使用されるアクチュエータ、乗員空間の空調装置(エアコン)、照明、オーディオ等を含む電力消費装置を総称したものである。
【0038】
制御装置4は、図示していないコンピュータシステムによって構成されている。かかるコンピュータシステムは、CPU、ROM、RAM、HDD、入出力インタフェース及びディスプレイ等を備えるものであり、ROMに記録された各種制御プログラムをCPUが読み込んで実行することにより、各種制御動作が実現されるようになっている。
【0039】
具体的には、制御装置4は、燃料電池10の運転状態(電流センサ13で検出した燃料電池10の発電時の電流値等)に基づいて、燃料電池10で必要とされる酸化ガス及び水素ガスの供給量を算出する。そして、制御装置4は、背圧弁26およびインジェクタ35を制御することで所望の流量、圧力の酸化ガス、水素ガスを燃料電池10に供給する。イカ、図2を用いて、制御装置4によるインジェクタ35の制御機能についてより詳細に説明する。ここで、図2は、本発明の実施の形態に係るインジェクタ35の制御に関する機能ブロック図である。
【0040】
制御装置4は、図2に示すように、燃料電池10の運転状態(電流センサ13で検出した燃料電池10の発電時の電流値)に基づいて、燃料電池10で消費される水素ガスの量(以下「水素消費量」という)を算出する(燃料消費量算出機能:B1)。本実施形態においては、燃料電池10の電流値と水素消費量との関係を表す特定の演算式を用いて、制御装置4の演算周期毎に水素消費量を算出して更新することとしている。
【0041】
また、制御装置4は、燃料電池10の運転状態(電流センサ13で検出した燃料電池10の発電時の電流値)に基づいて、インジェクタ35下流位置における水素ガスの目標圧力値(燃料電池10への目標ガス供給圧)を算出する(目標圧力値算出機能:B2)。本実施形態においては、燃料電池10の電流値と目標圧力値との関係を表す特定のマップを用いて、制御装置4の演算周期毎に、二次側圧力センサ43が配置された位置における目標圧力値を算出して更新することとしている。
【0042】
また、制御装置4は、算出した目標圧力値と、二次側圧力センサ43で検出したインジェクタ35下流位置の圧力値(検出圧力値)と、の偏差に基づいてフィードバック補正流量を算出する(フィードバック補正流量算出機能:B3)。フィードバック補正流量は、目標圧力値と検出圧力値との偏差を低減させるために水素消費量に加算される水素ガス流量である。本実施形態においては、PI型フィードバック制御則を用いて、制御装置4の演算周期毎にフィードバック補正流量を算出して更新することとしている。
【0043】
また、制御装置4は、インジェクタ35の上流のガス状態(一次側圧力センサ41で検出した水素ガスの圧力及び温度センサ42で検出した水素ガスの温度)に基づいてインジェクタ35の上流の静的流量を算出する(静的流量算出機能:B4)。本実施形態においては、インジェクタ35の上流側の水素ガスの圧力及び温度と静的流量との関係を表す特定の演算式を用いて、制御装置4の演算周期毎に静的流量を算出して更新することとしている。
【0044】
また、制御装置4は、インジェクタ35の上流のガス状態(水素ガスの圧力及び温度)及び印加電圧に基づいてインジェクタ35の無効噴射時間を算出する(無効噴射時間算出機能:B5)。本実施形態においては、インジェクタ35の上流側の水素ガスの圧力及び温度と印加電圧と無効噴射時間との関係を表す特定のマップを用いて、制御装置4の演算周期毎に無効噴射時間を算出して更新することとしている。
【0045】
また、制御装置4は、水素消費量とフィードバック補正流量とを加算することにより、インジェクタ35の噴射流量を算出する(噴射流量算出機能:B6)。そして、制御装置4は、インジェクタ35の噴射流量を静的流量で除した値にインジェクタ35の駆動周期を乗じることにより、インジェクタ35の基本噴射時間を算出するとともに、この基本噴射時間と無効噴射時間とを加算してインジェクタ35の総噴射時間を算出する(総噴射時間算出機能:B7)。ここで、駆動周期とは、インジェクタ35の噴射孔の開閉状態を表す段状(オン・オフ)波形の周期を意味する。本実施形態においては、制御装置4により駆動周期は一定の値(T1)に設定している。
【0046】
そして、制御装置4は、以上の手順を経て算出したインジェクタ35の総噴射時間を実現させるための制御信号を送出することにより、インジェクタ35のガス噴射時間及びガス噴射時期を制御してインジェクタ35を所定の駆動周期で駆動させることにより、燃料電池10に供給される水素ガスの流量及び圧力を調整する。
【0047】
2.インジェクタの非同期噴射制御
本実施の形態の燃料電池システム1では、制御装置4が燃料電池10への水素ガスの供給異常を検知し、供給異常がある場合は、インジェクタ35を上記所定の駆動周期とは別に噴射させ(以下「非同期噴射」ともいう)、燃料電池10への水素ガスの供給量を適切な量に維持する。以下、この非同期噴射の制御方法について図3乃至図5を用いて詳細に説明する。ここで、図3は、本発明の実施の形態に係る非同期噴射制御のフローチャート、図4は、同実施の形態に係る圧力測定及び非同期噴射のタイミング例を示すタイムチャート、図5は、同実施の形態に係る圧力測定の他のタイミング例を示すタイムチャートである。
【0048】
図3に示すように、はじめに制御装置4において、インジェクタ噴射流量演算(S1)、インジェクタ噴射時間(τ)演算(S2)が行われる。これら演算は、上述した制御装置4の噴射流量算出機能及び総噴射時間算出機能(図2参照)によりなされ、ここでは説明は省略する。
【0049】
次に、制御装置4は、算出したインジェクタ35の総噴射時間を実現させるため、制御信号(インジェクタ開指令)をインジェクタ35に送出する(S3)。これにより、インジェクタ35が開弁状態になり、水素ガスがインジェクタ35の下流側に流れて燃料電池10に供給される。制御装置4は、インジェクタ35が開弁してからの経過時間をカウントし、インジェクタの噴射時間(τ)を経過した段階で、制御信号(インジェクタ閉指令)をインジェクタ35に送出する。これによりインジェクタ35は閉弁状態になり、燃料電池10への水素ガスの供給は停止する。
【0050】
制御装置4は、インジェクタ35が開弁してからの経過時間を引き続きカウントし、インジェクタの噴射時間(τ)に所定時間t0を加えた時間が経過したか否か(=インジェクタ35が閉弁してから時間t0が経過したか否か)を判定し(S4)、経過した場合(S4:YES)は圧力検出許可指令をセンサ31に送出する(S5)。ここで、時間t0は、インジェクタ35の閉弁後インジェクタ35の下流側の圧力が安定するまでの時間を示し、本実施の形態においては、9msである。圧力検出指令を受けた圧力センサ43は、インジェクタ35の下流側の圧力(=燃料電池10への供給圧力)を測定する。測定は例えば4点移動平均等により行われる。
【0051】
次に、制御装置4は、算出した目標圧力値から圧力センサ43で測定した圧力値を引いた値(ΔP)が所定値(P0)より大きいか否かを判断し(S6)、大きいと判断した場合(S6:YES)は、非同期噴射許可指令をインジェクタ35に送出し(S7)、大きいと判断しなかった場合は、非同期噴射許可指令を出さずに次のステップに(S8)に移る。ここで、所定値P0は、燃料電池10を劣化させずに要求水素流量を確保できる供給圧力の許容制御誤差を示し、本実施の形態においては、10kPaに設定されている。
【0052】
ΔPが所定値P0より大きい場合は、目標圧力にくらべ実際の圧力が大きく下がっている場合であり、燃料電池10への水素ガスの供給異常(ここでは、供給不足)が起きている場合である。このとき、インジェクタ35は、制御装置4から非同期噴射許可指令を受け、強制的に(所定の駆動周期とは関係なく)開弁される。これにより、水素ガスが燃料電池10に供給される。
【0053】
制御装置4は、インジェクタ35の開弁経過時間が駆動周期T1より大きいか否かを判断し(S8)、達していない場合(S8:NO)は、圧力測定(S6)にもどってステップが継続される。すなわち、インジェクタ35の下流側圧力安定後次の駆動周期まで常に水素ガスの供給異常があるか否かが監視され、異常がある場合は駆動周期に関係なくインジェクタ35が噴射される(非同期噴射)ようになっている。
【0054】
図3のフローにおける圧力測定と非同期噴射とのタイミング例を、図4を用いて説明する。図4に示すとおり、圧力検出許可がなされる(圧力検出許可フラグがOFFからON)タイミングは、インジェクタ35が開弁(INJ駆動許可フラグがONまたはINJ開信号がopen)してからの経過時間が、インジェクタの噴射時間(τ)に所定時間t0を加えた時間に達した時である。ΔPの演算及び非同期噴射(非同期噴射許可フラグがOFFからON)は、圧力検出許可がなされてから次の制御装置の演算周期(本実施の形態ではインジェクタ35の開弁後16ms)となっている。これにより、所定の演算周期のタイミングにあわせて、水素ガスの供給異常を検知することが可能にある。
【0055】
尚、上記圧力検出タイミングは、インジェクタ35の駆動周期(T1)に比してインジェクタ35の開時間(τ)が十分小さい(具体的にはT1<τ+t0)場合である。しかし、水素ガスの要求流量が多くインジェクタ35の駆動周期よりもインジェクタ35の開時間(τ)が大きい運転条件であれば、圧力検出のタイミングを例えば、図5に示すようにしてもよい。すなわち、図5に示すように、制御装置4は、インジェクタ35が閉弁していなくとも、開時間が駆動周期に達した段階で圧力検出許可指令を圧力センサ43に送出する(圧力検出許可フラグをOFFからON)ようにしてもよい。
【0056】
尚、制御装置4は、非同期噴射制御においては、演算が複雑になることを避けるために、インジェクタ35の駆動周期毎に行われる学習制御や積分制御等を行わないようにしてもよい。一方で、制御装置4は、パージバルブ37を介した排気排水制御については、非同期噴射中も駆動周期毎の制御と同様に行うようになっている。
【0057】
次に、本発明の非同期噴射制御を行った場合の効果について図6と図7とを比較して説明する。ここで、図6は、本発明の実施の形態に係る非同期噴射制御を行った場合のインジェクタ下流圧の時間変動を示す図、図7は、比較例に係る従来の噴射制御を行った場合のインジェクタ下流圧の時間変動を示す図である。いずれもパージバルブに漏れを模擬的に発生させた場合のインジェクタ下流圧の時間変動の実験結果である。
【0058】
図6に示すように、非同期噴射制御を行った場合は、たとえ駆動周期途中で水素ガスがパージバルブから漏れでても、駆動周期途中であってもINJ開信号がopenとなり水素ガスが供給される。そのため、インジェクタ下流圧の検出値は、常に指令値から10KPa内の許容範囲に収まっている。
【0059】
これに対し、図7に示すように従来の噴射制御においては、非同期噴射を行わず、駆動周期毎にINJ開信号がopenになるのみである。そのため、インジェクタ下流圧の検出値は、駆動周期途中は特に許容範囲を大きく下回ってしまっている。
【0060】
以上のとおり、本発明の実施の形態における燃料電池システム1は、制御装置4が所定の駆動周期とは別にインジェクタ35を駆動させるので、燃料電池10への水素ガスの供給量を常に所望の範囲に維持することができる。
【0061】
3.本発明の実施の形態にかかる燃料電池システムの変形例
以上本発明の実施形態を示したが、本発明はこの実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において様々な態様での実施が可能である。例えば以下のような変形例が可能である。
【0062】
また、以上の実施形態においては、本発明における弁装置としてインジェクタ35を採用した例を示したが、上流側のガス状態を調整して下流側に供給する弁装置であればよく、インジェクタ35に限られるものではない。
【0063】
また、以上実施形態においては、本発明の非同期制御を水素ガス供給流路31の水素ガスの供給に用いた例を示したが、これに限られるものではなく、酸化ガス供給流路21の酸化ガスの供給に用いてもよい。
【0064】
また、以上の各実施形態においては、本発明に係る燃料電池システムを燃料電池車両に搭載した例を示したが、燃料電池車両以外の各種移動体(ロボット、船舶、航空機等)に本発明に係る燃料電池システムを搭載することもできる。また、本発明に係る燃料電池システムを、建物(住宅、ビル等)用の発電設備として用いられる定置用発電システムに適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施形態に係る燃料電池システムの構成図。
【図2】同実施の形態に係る燃料電池システムのインジェクタの制御に関する機能ブロック図。
【図3】同実施の形態に係る非同期噴射制御のフローチャート
【図4】同実施の形態に係る圧力測定及び非同期噴射のタイミング例を示すタイムチャート
【図5】同実施の形態に係る圧力測定の他のタイミング例を示すタイムチャート
【図6】同実施の形態に係る非同期噴射制御を行った場合のインジェクタ下流圧の時間変動を示す図
【図7】比較例に係る従来の噴射制御を行った場合のインジェクタ下流圧の時間変動を示す図
【符号の説明】
【0066】
1 ……燃料電池システム
2 ……酸化ガス配管系
3 ……水素ガス配管系
4 ……制御装置
10……燃料電池
11……PCU
12……トランクションモータ
13……電流センサ
20……加湿器
21……酸化ガス供給流路
22……酸化ガス排出流路
23……排気流路
24……コンプレッサ
25……カソード側圧力センサ
26……背圧弁
27……ステップモータ
30……水素タンク
31……水素供給流路(燃料ガス供給手段)
32……循環流路
33……遮断弁
34……レギュレータ
35……インジェクタ
36……気液分離器
37……パージバルブ
38……排出流路
39……水素ポンプ
40……希釈器(希釈手段)
41……インジェクタ上流側圧力センサ
42……温度センサ
43……アノード側圧力センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池と、
前記燃料電池に反応ガスを供給するガス供給流路と、
前記ガス供給流路に設けられ、所定の駆動周期で駆動される弁装置と、
前記燃料電池に供給する反応ガスが目標のガス状態となるように、前記弁装置の駆動を制御する制御装置と、
前記弁装置の下流側の反応ガスのガス状態を測定するセンサと、を備え、
前記制御装置は、前記目標のガス状態と前記センサで測定したガス状態との差が所定値を超えたことを検知したときに、前記所定の駆動周期とは別に前記弁装置を駆動する燃料電池システム。
【請求項2】
前記制御装置は、前記弁装置の開弁から所定時間経過後に、前記センサによる測定を許可する請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記制御装置は、所定の演算周期を有し、
前記制御装置は、前記所定時間経過後の次の演算周期にて、前記目標のガス状態と前記センサで測定したガス状態との差が所定値を超えているかを検知する請求項2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記所定時間は、前記弁装置の開弁後、該弁装置の下流側のガス状態が安定するまでの時間である請求項2または請求項3に記載の燃料電池。
【請求項5】
前記ガス状態は、前記反応ガスのガス圧であり、前記センサは圧力センサである請求項1から請求項4いずれかに記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記弁装置は、インジェクタである請求項1から請求項5のいずれかに記載の燃料電池システム。
【請求項7】
請求項1から請求項6に記載の燃料電池システムを備えた移動体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−146618(P2009−146618A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−320159(P2007−320159)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】