説明

燃料電池システム

【課題】どのような方式・構成の燃料電池システムにも適用することができる簡素かつ安価な構成により、必要なときにはいつでもアノード側の残存ガスを安全に排出できるようにして発電効率と安全性の両方を十分に高くする。
【解決手段】燃料電池1のアノード側の残存ガスの排出前になると、アノード上流路7に設けられた供給弁5の閉またはレギュレータ4の絞りにより、燃料電池1のアノード側を減圧状態とする。すなわち、燃料タンク2から燃料電池1のアノード側への水素ガスの供給を遮断又は減少して燃料電池1を発電状態に維持し、アノード側の残存ガスを「濃縮」する。この「減縮」によりアノード側のガス全圧を減圧状態にしてアノード側の水素濃度を安全な状態に下げてから前記残存ガスを排出し、燃料電池1のアノード側の水素ガス濃度を元の高濃度の状態にリフレッシュする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば水素と空気を用いる固体高分子型燃料電池等の燃料電池システムに関し、詳しくは、アノード(水素極)側の残存ガスの排出の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載等される燃料電池システムは、固体高分子電解質膜を両側から挟むようにアノード(水素極)とカソード(酸素極)とが配設されている固体高分子型燃料電池によって形成される。
【0003】
そして、固体高分子型燃料電池では、アノードに燃料ガスとして水素ガスを、カソードに空気を供給することによって、電気化学反応が生じ、アノードとカソードとの間に起電力が発生する。
【0004】
この固体高分子型燃料電池の燃料電池システムにあっては、よく知られているように、固体高分子電解質膜の初期不良や耐久性劣化によるピンホールの発生、ガスケットの不良等により、発電中にカソードの窒素が固体高分子電解質膜を透過してアノード側に漏出する「クロスリーク」が発生する。
【0005】
そして、前記「クロスリーク」が発生すると、固体高分子電解質膜を透過した窒素がアノード側に蓄積することで、燃料電池のアノード側における水素濃度が低下し、燃料電池システムの発電効率が著しく低下する。
【0006】
そのため、発電によって水素濃度(水素ガス圧)が所定値(下限値)に低下する毎に、アノード側の残存ガスの一部を外部に排出し、その不要な残存ガスを水素ガスとともに排除することで、水素濃度を上げて発電に支障のない水素濃度を維持することが行なわれている。
【0007】
なお、水素濃度が下限値に低下してからアノード側の残存ガスを排出するのは、水素濃度が下限値に低下するまで待たないで排出すると、高濃度の水素を排出することになって、それに伴う種々の悪影響を招くおそれがあり、かつ、発電効率(発電の燃料効率)そのものも低下するからである。
【0008】
ところで、この種の固体高分子型燃料電池の燃料電池システムの一例である水素循環方式の燃料電池システムにおいて、前記アノード側の残存ガスの排出による無駄な水素ガスの排出を抑制するため、アノード循環経路に電気化学的水素ポンプを設けて排出する残存ガス(アノード排ガス)に含まれている水素ガスを選択的に取り出してアノードに戻し、前記残存ガスの残った不純物だけを循環経路外に排出することが提案されている。この場合、水素ガスの無駄な排出を低減し、発電効率の低下を抑制しつつ安全性も高めることが可能である(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
一方、本出願の出願人は、この種の固体高分子型燃料電池の燃料電池システムにおいて、発電によって燃料電池のアノード側に滞留する水(生成水)をポンプ等を用いないで良好に排出する簡易かつ安価な構成を既に出願している(特願2005−310221、特願2006−074825)。
【特許文献1】特開2006−19120号公報(要約書、[0002]−[0004]、[0009]−[0010]、[0016]‐[0024]、図1等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記特許文献1の従来システムは、アノード循環経路に電気化学的水素ポンプを設ける必要があり、構成が複雑になり、システムのコストアップや制御の煩雑化を招来する問題がある。
【0011】
また、電気化学的水素ポンプの作用によって循環経路外に排出する水素ガスが少なくなるとはいえ、安全性を向上する面からは、排出時の前記残存ガス中の水素ガスの濃度は少しでも低いことが望ましい。そのため、前記特許文献1の従来システムにおいても、発電によってアノード側の水素濃度が十分に低くなるまで待ってから残存ガスを排出する必要がある。この場合、通常発電によってアノード側の水素濃度が十分に低くなるまで待ってから残存ガスを排出することになるため、水素濃度の低い状態での発電期間が長くなり、実際には十分な発電効率が得られない。すなわち、前記特許文献1の従来システムにおいても、発電効率と安全性の両方を十分に高くすることは困難である。
【0012】
しかも、適用範囲が燃料電池のアノード出口から排出された残存ガス(アノード排ガス)をアノード入口側へと循環させて再利用する水素循環方式の燃料電池システムに限られ、アノード循環経路がない燃料電池システムには適用できない問題がある。
【0013】
そして、前記した本出願人の既出願の燃料電池システム等の他の構成の従来システムににおいても、発電によって燃料電池のアノード側の水素濃度が十分に低くなるまで待ってから残存ガスを排出するため、発電効率と安全性の両方を十分に高くすることは困難である。
【0014】
本発明は、どのような方式・構成の燃料電池システムにも適用することができる簡素かつ安価な構成により、必要なときにはいつでも燃料電池のアノード側の残存ガスを安全に排出できるようにして発電効率と安全性の両方を十分に高くすることが可能な新規なアノード側の残存ガスの排出構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記した目的を達成するために、本発明の燃料電池システムは、燃料タンクから燃料電池のアノード側に至るアノード上流路に設けられ、前記燃料タンクから前記燃料電池のアノード側への燃料ガスの供給を調節する供給制御手段と、前記燃料電池のアノード側から排出口に至るアノード下流路を開閉し、前記燃料電池のアノード側の残存ガスを断続的に排出する排出制御手段とを備え、前記供給制御手段は、前記残存ガスの排出前に前記燃料タンクから前記燃料電池のアノード側への燃料ガスの供給を遮断又は減少して前記燃料電池を発電状態に維持し、前記燃料電池内のアノード側を減圧状態にする減圧機能を有し、前記排出制御手段は、前記燃料電池のアノード側が前記減圧状態になってから前記アノード下流路を開いて前記残存ガスを排出することを特徴としている(請求項1)。
【0016】
また、本発明の燃料電池システムにおける前記残存ガスの排出前とは、前記燃料電池のアノード側の燃料ガス濃度が設定濃度に低下したときであることが実用的であり(請求項2)、前記燃料電池の減圧状態は、前記燃料電池のアノード側の前記燃料ガスが設定ガス圧に低下した状態であることが実用的である(請求項3)。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の発明によれば、アノード側の残存ガスの排出前になると、アノード上流路に設けられた供給制御手段の減圧機能により、燃料電池のアノード側を減圧状態にする。すなわち、燃料タンクから燃料電池のアノード側への燃料ガスの供給を遮断又は減少して燃料電池を発電状態に維持する。
【0018】
そして、燃料ガスの供給を遮断又は減少した状態での燃料電池の発電により、燃料電池のアノード側の残存ガス(水素及び窒素)を「濃縮」する。
【0019】
ところで、本願の明細書等における残存ガスの「濃縮」とは、アノード側への燃料ガス供給を遮断又は減消することで、アノード側の残存ガスを構成している水素濃度(分圧)のみを低下させて、アノード側のガス全圧を減圧状態にすることである。
【0020】
そして、前記残存ガスの「濃縮」によりアノード側をガス全圧の減圧状態にすることでその燃料ガス濃度(水素濃度)を低下させ、安全な状態になるようにする。
【0021】
さらに、アノード側の燃料ガス濃度が低い安全な状態において、排出制御手段がアノード下流路を開いてアノード側の残存ガスを排出する。
【0022】
この場合、アノード側の残存ガスの排出前に、燃料ガスの燃料電池への供給を遮断又は減少することで、アノード側の残存ガスを「濃縮」してそのガス全圧を減圧状態とし、それによってアノード側の燃料ガス濃度を安全な状態にして残存ガスを排出するため、必要なときにはいつでもアノード側の残存ガスを安全に排出することができる。
【0023】
そして、アノード上流路の供給制御手段に減圧機能を付加し、アノード下流路に該下流路を開閉する簡単な排出制御手段を設ければよく、簡素かつ安価な構成で形成することができ、水素循環方式の燃料電池システムは勿論、本出願人の前記既出願の燃料電池システムを含むどのような方式・構成の燃料電池システムにも適用することができる。
【0024】
したがって、どのような方式・構成の燃料電池システムにも適用可能な簡素かつ安価な構成により、必要なときにはいつでもアノード側の残存ガスを安全に排出することができ、発電中に燃料電池のアノード側の燃料ガス濃度が高い状態で早めにその残存ガスを排出し、燃料電池のアノード側の燃料ガス濃度を元の高濃度の状態にリフレッシュして発電効率と安全性の両方を十分に高くするようにした新規なアノード側の残存ガスの排出構造を提供できる。
【0025】
請求項2の発明によれば、燃料電池のアノード側の燃料ガス濃度が設定濃度に低下したときにアノード側の燃料ガスの供給を遮断又は減少して発電を維持する簡単な構成であるため、例えば高発電効率を維持する必要があるときには、前記設定濃度を高く設定しておくことにより、簡単な制御によってアノード側の燃料ガス濃度が高い状態で早めに燃料ガスの供給の遮断又は減少を開始してアノード側の残存ガスの排出を行なう具体的な構成を提供することができる。
【0026】
さらに、請求項3の発明によれば、燃料電池のアノード側の簡単なガス圧管理により、燃料ガスの供給を遮断又は減少した状態での発電によってアノード側の燃料ガス濃度が一定濃度に低下した状態を検出してアノード側の残存ガスを排出することで、常に一定濃度の燃料ガスを排出できる一層具体的な構成を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
つぎに、本発明をより詳細に説明するため、一実施形態について、図1〜図4にしたがって詳述する。
【0028】
図1は燃料電池システムのアノード側のブロック図であり、図2は図1のアノード制御のフローチャートである。図3は図1の燃料電池のアノード側ガス分圧の時間変化の説明図、図4は比較のための従来システムの燃料電池のアノード側ガス分圧の時間変化の説明図である。
【0029】
図1の燃料電池システムは、前記した本出願人の既出願の固体高分子型燃料電池の燃料電池システムを改良したものであり、例えば軽自動車等の車両に搭載される。
【0030】
図1において、1は水素と酸素を使用する固体高分子型の燃料電池(FC:Fuel Cell)であり、アノード(水素極)側に供給された燃料ガスと、カソード(空気極)側に供給された空気中の酸素との高分子電解質膜を介した電気化学反応が生じて発電する。
【0031】
2は燃料電池1のアノード側上流の燃料タンク、3はその主止弁、4、5、6は燃料タンク2から燃料電池1に至るアノード上流路7に設けられたレギュレータ、供給弁、圧力センサである。
【0032】
そして、レギュレータ4、供給弁5はいずれか一方が本発明の供給制御手段を形成し、燃料タンク2から燃料電池1のアノード側への水素ガス(燃料ガス)の供給を調節(開閉を含む)し、また、本発明の減圧機能を有することによって燃料電池1の残存ガス排出前に燃料タンク2から燃料電池1のアノード側への水素ガスの供給を、供給弁5を閉じて遮断し、又は、ギュレータ4で絞ることにより、水素ガス圧を減少させてアノード側のガス全圧を調節する。なお、供給弁5は前記生成水の排出の制御にも用いられる。
【0033】
8は燃料電池1から後述の常閉の排気弁10、排水弁11に至るアノード下流路、9はアノード下流路8に設けられた適当な大きさの矩形箱体或いは円筒体の容器であり、燃料電池1から排出された生成水を貯留する水溜り部を形成する。
【0034】
10は容器9の周面上部の挿通路(アノード下流路8の一方の終端部)に設けられた排気弁であり、本発明の排出制御手段を形成し、アノード下流路8を開閉して燃料電池1のアノード側の残存ガスを断続的に排出する。11は容器9の周面下部の挿通路(アノード下流路8の他方の方の終端部)に設けられた排水弁11であり、容器9の貯留水を排出するときにのみ開かれる。
【0035】
なお、弁3、5、10、11及びレギュレータ4は白抜きが開いた状態、黒塗りが閉じた状態であり、図示省略した制御ECUによって開閉等が制御される。
【0036】
つぎに、説明を簡単にするため、燃料電池1の残存ガスの排出前に供給弁5の減圧機能によって燃料タンク2から燃料電池1のアノード側への燃料ガス(水素ガス)の供給を遮断する場合の図1の燃料電池システムの動作を、図2〜図4を参照して説明する。
【0037】
まず、イグニッションキーのターンオン等に連動して発電が指令されると、図2のステップS1、S2のループの「加圧」により、発電開始前に排気弁10、排水弁11を閉じた状態で燃料タンク2の主止弁3を通った高圧の水素ガスがレギュレータ4及び供給弁5、圧力センサ6を通って燃料電池1のアノード側に供給され、燃料電池1のアノード側全体の水素ガス濃度が図3(b)に示す設定された初期ガス圧(上限圧)Pmaxの濃度(初期濃度)まで上昇して燃料電池1が図3(a)の「初期」の状態になる。なお、図3(a)は燃料電池1のアノード側の分圧状態を示し、斜線部αは水素分圧、斜線部βは窒素分圧でありる。また、この場合、水素分圧αと窒素分圧βとの和がアノード側のガス全圧となる。さらに、図3(b)の実線が燃料電池1のアノード側の水素ガス圧(水素分圧)の変化を示す。
【0038】
そして、前記「初期」の水素分圧状態になると、図2のステップS2からステップS3に移行し、ステップS3、S4のループにより、燃料タンク1の主止弁3を通った高圧の水素ガスがレギュレータ4で適当に減圧調整され、供給弁5、圧力センサ6を通って燃料電池1のアノード側に発電消費を考慮した定量制御で供給されるようになる。
【0039】
このとき、燃料電池1はアノード側に供給された水素ガスと、カソード側に供給された酸素(空気)との高分子電解質膜を介した電気化学反応により発電を開始し、図3(a)の「定常」の通常発電に移行する。
【0040】
そして、「定常」の通常発電により燃料電池1のアノード側に定量の水素ガスを供給しつつ発電が継続される間に、燃料電池1のカソードの窒素が高分子膜を透過してアノード側に蓄積すると、図3(b)に示すように燃料電池1のアノード側の水素分圧が次第に低くなってその水素濃度(燃料ガス濃度)が低下する。
【0041】
つぎに、例えば「定常」の通常発電で「初期」開始を基準とする「初期」の期間τ1+「定常」の期間τ2、または、「定常」開始を基準とする期間τ2のタイマ設定された時間(通常、分単位の時間)が経過し、前記アノード側の水素ガス濃度がガス圧Pxの設定濃度まで低下してアノード側の残存ガスの排出前になると、燃料電池1のアノード側の残存ガスを排出するため、図2のステップS4からステップS5に移行して従来システムにはない図3(a)の「減圧」に移行する。
【0042】
この「減圧」になると、図2のステップS5、S6のループにより、供給弁5が閉じられ、燃料タンク2から燃料電池1のアノード側への水素ガスの供給を遮断して燃料電池1が発電状態に維持される。このとき、燃料電池1のアノード側においては、残存ガスの「濃縮」によりガス全圧の減圧状態になることで、図3(b)に示すように水素分圧が急峻に低下して水素ガス濃度が減少する。
【0043】
そして、例えばタイマ設定された時間τ3が経過し、燃料電池1のアノード側の水素ガス濃度が設定したガス圧Pyの安全な下限濃度まで低下し、図3(a)の空白部γに示すように燃料電池1のアノード側の水素ガスが減少し(空白部γは水素ガスの消失割合を示す)、燃料電池1のアノード側が減圧状態になると、図2のステップS6からステップS7に移行し、図3(a)の「排出」の状態になる。このとき、燃料電池1のアノード側のガス全圧は、減圧状態といえども大気圧より高い状態である。
【0044】
そして、「排出」の状態になると、図2のステップS7、S8のループにより、排気弁10が開かれて期間τ4に燃料電池1のアノード側の残留ガスの一部がアノード下流路8の排気弁10を通り、その排出口8aから系外に排出される。図3(a)の斜線部δ1が水素ガスの排出割り合いを示し、同図(a)の斜線部δ2が窒素ガスの排出割り合いを示す。
【0045】
さらに、例えば期間τ4が経過して燃料電池1のアノード側の水素ガス濃度が設定したガス圧(下限値)Pminの安全な下限濃度まで低下すると、図2のステップS8からステップS9に移行する。
【0046】
そして、発電の終了が指令されない限り、図2のステップS9からステップS1に戻り、排気弁10が閉じられて供給弁5が開かれ、図3(a)の「加圧」に移行する。このとき、排気弁10、排水弁11が閉じられた状態で、燃料タンク2の主止弁3を通った高圧の水素ガスがレギュレータ4及び供給弁5、圧力センサ6を介して燃料電池1のアノード側に供給される。
【0047】
そして、「加圧」の期間τ5に燃料電池1のアノード側全体の水素ガス濃度が元の初期ガス圧Pmaxの濃度まで上昇すると、再び、上述した「初期」の状態になる。このとき、図3(a)に示すように空白部γ及び斜線部δ1、δ2が水素ガスに入れ替わり、燃料電池1のアノード側の水素ガス濃度がガス圧Pmaxの元の高濃度の状態にリフレッシュされる。
【0048】
以降、「初期」、「定常」、「減圧」、「排出」、「加圧」に順に遷移するサイクル動作で、図1の燃料電池システムが発電を継続する。
【0049】
ところで、発電中には水素と酸素の電気化学反応によって燃料電池1のカソード側に発生した生成水が高分子電解質膜を通して燃料電池1のアノード側に逆拡散して混入する。
【0050】
そして、混入した生成水を放置して発電を長期間継続すると、生成水が燃料電池1のアノード側に蓄積し、生成水の堆積によってもアノード側の水素ガス濃度が次第に低下し、さらには燃料電池1の損傷を招来する。
【0051】
そこで、燃料電池1のアノード側の水素ガス濃度のリフレッシュとは別の制御により、前記生成水の堆積による燃料電池1のアノード側の濡れ状態を検出したときに、供給弁5を閉じて供給弁5、排気弁10、排水弁11が閉じた状態で燃料電池1の発電を行ない、燃料電池1内が減圧状態になった後に供給弁5を開き、減圧状態の燃料電池1内に水素ガスを噴入して燃料電池1のアノード側の生成水を容器9に押し出し、その後、排水弁11を開いて生成水を排水口8bからシステム外部に排出する。
【0052】
以上のように構成された本実施形態の燃料電池システムの場合、燃料電池1のアノード側の残存ガスの「排出」の前に、従来システムには存在しない「減圧」により、アノード上流路7に設けられた供給制御手段としての供給弁5の減圧機能(閉成)が動作し、燃料タンク2から燃料電池1のアノード側への水素ガスの供給を遮断した状態で燃料電池1を発電状態に維持し、燃料電池1のアノード側の残存ガスを「濃縮」し、アノード側のガス全圧をすみやかに減圧状態にしてその水素濃度(燃料ガス濃度)を安全な状態に下げ、その後、排出制御手段としての排気弁10を開いてアノード側の残存ガスを排出する構造である。
【0053】
そのため、従来システムのように通常発電によって燃料電池1内の水素ガス濃度が自然に安全な濃度(ガス圧Py)に下がるのを待たなくてよく、燃料電池1のアノード側の残存ガスの排出が必要なときにはいつでも、「減圧」を行なうことでアノード側の残存ガスを安全に排出することができる。
【0054】
しかも、「減圧」に移行するガス圧Pxは「排出」のガス圧Pyより高く、その分、「定常」の期間τ2は、従来システムのように「定常」の通常発電によって燃料電池1内の水素ガス濃度が自然に安全なガス圧Pyに下がるのを待つ場合に比して短くなる。その結果、燃料電池1がガス圧Px以上の高い水素ガス濃度の状態でのみ発電するようになり、燃料電池1の発電効率も向上する。
【0055】
そして、アノード上流路7に設けた供給弁5とアノード下流路8に設けた排気弁10との開閉制御を行なえばよいため、どのような方式・構成の燃料電池システムにも適用することができる簡素かつ安価な構成で実現される。
【0056】
したがって、どのような方式・構成の燃料電池システムにも適用することができる簡素かつ安価な構成により、必要なときにはいつでも燃料電池1のアノード側の残存ガスを安全に排出できるようにして発電効率と安全性の両方を十分に高くすることが可能な新規なアノード側の残存ガスの排出構造を提供することができる。
【0057】
なお、比較のために従来システムの発電のサイクル及び分圧状態を図4に示す。図4(a)は図3(a)に対応する燃料電池1のアノード側の分圧状態を示し、図4(b)は図3(b)に対応する燃料電池1のアノード側の水素ガス圧(水素分圧)の変化を示す。
【0058】
そして、図4に示すように、従来システムは「初期」、「定常」、「排出」、「加圧」を一周期とするサイクル動作で発電を継続し、「定常」の通常発電で燃料電池1内の水素ガス濃度が自然に安全な濃度(ガス圧Py)に下がるの待ってから「排出」に移行する。図中の「初期」、「定常」、「排出」、「加圧」の期間τ11、τ21、τ31、τ51は図3の期間τ1、τ2、τ3、τ5に対応し、一周期Tbは図3の一周期Taに対応する。また、図3(a)の斜線部δ11、δ21は図3(a)の斜線部δ1、δ2に対応する。
【0059】
そして、図3と図4との比較からも明らかなように、例えば図3(b)のガス圧Pxをなるべく初期ガス圧Pmaxに近いガス圧に設定することにより、図3(a)の「定常」の期間τ2が従来システムの期間τ21より極めて短くなって従来システムの一周期Tbより短い周期Taで発電を継続する。このとき、期間τ2が短く、燃料電池1はガス圧Px以上の水素ガス濃度の濃い状態で発電をくり返し、従来システムのようにガス圧Pxからガス圧Pyに低下するまでの水素ガス濃度の低い状態での発電に長期間維持されることがなく、発電効率が著しく向上する。なお、ガス圧Pxを高くする程発電効率は高くなるが、その分、「排出」1回当たりの水素ガスのリフレッシュ効果が少なくなる。そのため、ガス圧Pxは発電効率とアノード側の水素ガス濃度のリフレッシュ効果との兼ね合い等から決定することが好ましい。
【0060】
また、必要なときにはいつでも燃料電池1のアノード側の残存ガスを排出してその水素ガス濃度を「初期」の高濃度の状態にリフレッシュできるため、例えば車両に搭載したカーナビゲーションの道路情報に基づき、水素ガスが滞留し易く途中での残存ガスの排出が好ましくないトンネルのような構造物等に接近したときには、ガス圧Pxを燃料電池1のアノード側の現在の水素ガス圧(検出値又は経過時間からの推定値)以下のガス圧に一時的に可変し、トンネルのような構造物に入る前等に強制的に「定常」から「減圧」に移行して燃料電池1のアノード側の残存ガスを排出し、水素ガス濃度を「初期」の高濃度の状態にリフレッシュしておき、構造物内では燃料電池1のアノード側の残存ガスを排出しないようにして安全性を一層向上することも可能である。
【0061】
その他、ガス圧Pxの設定や可変調整等に基づき、車両の走行、停止に関わらず、発電の継続中に必要になったときにはいつでも燃料電池1のアノード側の残存ガスを安全に排出し、燃料電池1のアノード側の水素ガス濃度を「初期」の元の高濃度の状態にリフレッシュすることができる。
【0062】
そして、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能であり、例えば、燃料電池1のアノード側の水素ガスのガス圧の図3(b)の各ガス圧Pmax、Px、Py、Pminへの上昇又は低下は、前記実施形態のようにタイマ設定された時間の経過から間接的に検出する代わりに、実際に水素濃度センサ、水素ガス圧センサ等を設けて燃料電池1のアノード側の水素ガスの濃度、ガス圧から直接検出してもよく、この場合は、水素ガスの管理精度が向上する利点がある。
【0063】
また、前記実施形態においては、燃料電池1の残存ガスの排出前に供給弁5の減圧機能により、燃料タンク2から燃料電池1のアノード側への燃料ガス(水素ガス)の供給を遮断してアノード側におけるガス全圧を減圧状態とし、水素濃度を低下させる場合について説明したが、燃料電池1の残存ガスの排出前にレギュレータ4の減圧機能により、燃料タンク2から燃料電池1のアノード側への燃料ガス(水素ガス)の供給を絞ってアノード側におけるガス全圧を減圧状態とし、水素濃度を低下させてもよく、この場合は、レギュレータ4が本発明の供給制御手段を形成する。
【0064】
さらに、図3の各期間τ1〜τ5や一周期Taは燃料電池1の性能等に応じて種々に設定等してよいのは勿論であり、それらの制御手段等はどのようであってもよい。
【0065】
そして、本発明は、例えば図1の容器9や排水弁11を省いた構成の燃料電池システムや、上述した水素循環方式の燃料電池システムは勿論、リン酸型や溶融炭酸塩型等の燃料電池の燃料電池システム、更には、改質型等の構成の燃料電池システムにも適用することができる。その際、燃料ガスが水素ガス以外であってもよいのは勿論であり、また、車両に搭載する燃料電池システムは勿論、種々の用途の燃料電池システムであってよいのも勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の一実施形態の燃料電池システムのブロック図である。
【図2】図1のアノード制御のフローチャートである。
【図3】図1の燃料電池のアノード側ガス分圧の時間変化の説明図である。
【図4】比較のための従来システムの燃料電池のアノード側ガス分圧の時間変化の説明図である。
【符号の説明】
【0067】
1 燃料電池
2 燃料タンク
4 レギュレータ
5 供給弁
7 アノード上流路
8 アノード下流路
8a 排出口
10 排気弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料タンクから燃料電池のアノード側に至るアノード上流路に設けられ、前記燃料タンクから前記燃料電池のアノード側への燃料ガスの供給を調節する供給制御手段と、
前記燃料電池のアノード側から排出口に至るアノード下流路を開閉し、前記燃料電池のアノード側の残存ガスを断続的に排出する排出制御手段とを備え、
前記供給制御手段は、前記残存ガスの排出前に前記燃料タンクから前記燃料電池のアノード側への燃料ガスの供給を遮断又は減少して前記燃料電池を発電状態に維持し、前記燃料電池内のアノード側を減圧状態にする減圧機能を有し、
前記排出制御手段は、前記燃料電池のアノード側が前記減圧状態になってから前記アノード下流路を開いて前記残存ガスを排出することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記残存ガスの排出前とは、前記燃料電池のアノード側の燃料ガス濃度が設定濃度に低下したときであることを特徴とする請求項1記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記燃料電池の減圧状態は、前記燃料電池のアノード側の前記燃料ガスが設定ガス圧に低下した状態であることを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−251177(P2008−251177A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−86988(P2007−86988)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】