説明

燃料電池システム

【課題】空気流路から排出される空気中から回収される水分量を増加させ、余分な水を廃棄可能とすることによって水収容部内の水を希釈して水の浄化を行うことができ、気温の低いときにも暖房用の熱を十分に得ることができ、専用の暖房システムが不要であり、装置構成が簡素でスペース効率が高くなるようにする。
【解決手段】電解質層を燃料極と酸素極とで挟持した燃料電池が、酸素極に沿って空気流路が形成されたセパレータを挟んで積層されている燃料電池スタックと、空気流路に供給される空気中に水を供給する水供給ノズルと、空気流路から排出される空気中の水分を凝縮させて除去する凝縮器と、凝縮器によって除去された水を回収して水供給ノズルに供給する水循環システムと、凝縮器に冷媒を供給する冷媒供給システムと、冷媒供給システムの廃熱を回収して車両の室内を暖房する暖房システムとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料電池は発電効率が高く、有害物質を排出しないので、産業用、家庭用の発電装置として、又は、人工衛星や宇宙船などの動力源として実用化されてきたが、近年は、乗用車、バス、トラック、乗用カート、荷物用カート等の車両用の動力源として開発が進んでいる。そして、前記燃料電池は、アルカリ水溶液形(AFC)、リン酸形(PAFC)、溶融炭酸塩形(MCFC)、固体酸化物形(SOFC)、直接形メタノール(DMFC)等のものであってもよいが、固体高分子形燃料電池(PEMFC)が一般的である。
【0003】
この場合、固体高分子電解質膜を2枚のガス拡散電極で挟み、一体化させて接合する。そして、該ガス拡散電極の一方を燃料極(アノード極)とし、その表面に燃料としての水素ガスを供給すると、水素が水素イオン(プロトン)と電子とに解離され、水素イオンが固体高分子電解質膜を移動する。また、前記ガス拡散電極の他方を酸素極(カソード極)とし、その表面に酸化剤としての空気を供給すると、空気中の酸素と、前記水素イオン及び電子とが結合して、水が生成される。このような電気化学反応によって起電力が生じるようになっている。
【0004】
そして、車両用の燃料電池システムにおいては、車室内を暖房するために固体高分子電解質膜を冷却するための冷却システムが発生する廃熱を利用するシステムが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2004−146144号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来の燃料電池システムにおいては、固体高分子電解質膜を冷却した廃熱によって車室内を暖房するので、冬季のように気温が低いときは、固体高分子電解質膜の温度がそれほど上昇せず、冷却システムをそれほど稼働させる必要がないので、車室内を暖房するのに必要な熱を十分に得ることが困難となる。
【0006】
本発明は、前記従来の燃料電池システムの問題点を解決して、空気流路に供給される空気中に水を供給する燃料電池システムにおいて、空気流路から排出される空気中の水分を凝縮させて除去する凝縮器を冷却する冷媒供給システムの廃熱を車両の室内の暖房に利用することによって、空気流路から排出される空気中から回収される水分量を増加させ、余分な水を廃棄可能とすることにより水収容部内の水を希釈して水の浄化を行うことができ、気温の低いときにも暖房用の熱を十分に得ることができ、専用の暖房システムが不要であり、装置構成が簡素でスペース効率が高い燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そのために、本発明の燃料電池システムにおいては、電解質層を燃料極と酸素極とで挟持した燃料電池が、前記酸素極に沿って空気流路が形成されたセパレータを挟んで積層されている燃料電池スタックと、前記空気流路に供給される空気中に水を供給する水供給ノズルと、前記空気流路から排出される空気中の水分を凝縮させて除去する凝縮器と、該凝縮器によって除去された水を回収して前記水供給ノズルに供給する水循環システムと、前記凝縮器に冷媒を供給する冷媒供給システムと、該冷媒供給システムの廃熱を回収して車両の室内を暖房する暖房システムとを有する。
【0008】
本発明の他の燃料電池システムにおいては、さらに、前記冷媒供給システムは、気相の冷媒を圧縮する圧縮機、該圧縮機によって圧縮された冷媒を液化するコンデンサ、及び、液化された冷媒を気化するエバポレータを備え、該エバポレータが前記凝縮器に配設され、前記暖房システムは、前記コンデンサの熱を利用する。
【0009】
本発明の更に他の燃料電池システムにおいては、さらに、前記暖房システムは、前記コンデンサを通過した空気を車両の室内に導入する暖房用空気ダクトを有し、該暖房用空気ダクトには、冷気を選択的に導入する冷気導入管路及び暖気を選択的に排出する暖気排出管路が接続されるとともに、前記エバポレータから排出された気相の冷媒を選択的に通過させる暖気冷却管路が配設されている。
【0010】
本発明の更に他の燃料電池システムにおいては、さらに、前記水循環システムは、排水手段を備え、前記凝縮器によって除去されて回収された水によって置き換えられた循環水は、前記排水手段から排出される。
【0011】
本発明の更に他の燃料電池システムにおいては、さらに、前記水循環システムは、循環水を貯留する水貯留容器を備え、該水貯留容器内の循環水が所定量以上になると、余剰分の循環水が前記排水手段から排出される。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の構成によれば、空気流路から排出される空気中から回収される水分量を増加させ、暖房用の熱を十分に得ることができ、専用の暖房システムが不要であり、装置構成を簡素化することができ、エネルギー効率、及び、スペース効率の高い燃料電池システムを得ることができる。
【0013】
請求項2の構成によれば、エバポレータによって、凝縮器内を通過する空気を効果的冷却することができ、空気中の水分を効率的に凝縮して回収することができる。
【0014】
請求項3の構成によれば、コンデンサを通過した空気によって、廃熱を利用して車両の室内を効率的に暖房することができるとともに、車両の室内に導入される空気の温度を適切に制御することができる。
【0015】
請求項4の構成によれば、回収された水によって循環水を置換することにより、循環される水の不純物濃度を低下させることができ、不純物濃度が低い水を燃料電池スタックに供給することができ、燃料電池スタックの性能低下を抑制することができる。
【0016】
請求項5の構成によれば、循環水の量を適切に保持することができ、燃料電池に必要とされる量の水を確実に供給することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
図1は本発明の実施の形態における燃料電池システムの構成を示す図、図2は本発明の実施の形態における燃料電池システムの要部の構成を示す図であり図1におけるA部拡大図である。
【0019】
図において、11は燃料電池装置としての燃料電池スタックであり、乗用車、バス、トラック、乗用カート、荷物用カート等の車両用の動力源として使用される。ここで、前記車両は、照明装置、ラジオ、パワーウィンドウ等の車両の停車中にも使用される電気を消費する補機類を多数備えており、また、走行パターンが多様であり動力源に要求される出力範囲が極めて広いので、動力源としての燃料電池スタック11と蓄電手段としてのキャパシタユニット63とを併用して使用することが望ましい。
【0020】
そして、燃料電池スタック11は、アルカリ水溶液形、リン酸形、溶融炭酸塩形、固体酸化物形、直接形メタノール等のものであってもよいが、固体高分子形燃料電池であることが望ましい。
【0021】
なお、更に望ましくは、水素ガスを燃料ガス、すなわち、アノードガスとし、酸素又は空気を酸化剤、すなわち、カソードガスとするPEMFC(Proton Exchange Membrane Fuel Cell)形燃料電池、又は、PEM(Proton Exchange Membrane)形燃料電池と呼ばれるものである。ここで、該PEM形燃料電池は、一般的に、プロトン等のイオンを移動する電解質層としての固体高分子電解質膜の両側に触媒、電極及びセパレータを結合した燃料電池としてのセル(Fuel Cell)を複数及び直列に結合したスタック(Stack)から成る。
【0022】
本実施の形態において、燃料電池スタック11は、複数の図示されないセルモジュールを有する。該セルモジュールは、燃料電池としての単位セル(MEA:Membrane Electrode Assembly)と、該単位セル同士を電気的に接続するとともに、単位セルに導入される、アノードガスとしての水素ガスの流路とカソードガスとしての空気の流路とを分離するセパレータとを1セットとして、板厚方向に複数のセットを重ねて構成されている。なお、セルモジュールは、単位セル同士が所定の間隙(げき)を隔てて配置されるように、単位セルとセパレータとが、多段に重ねられて積層されている。
【0023】
この場合、セルモジュールは、導電可能に、かつ、燃料流路、すなわち、水素ガス流路が連続するように相互に接続されている。
【0024】
そして、単位セルは、電解質層としての固体高分子電解質膜の側に設けられた酸素極としての空気極及び他側に設けられた燃料極とで構成されている。前記空気極は、反応ガスを拡散しながら透過する導電性材料から成る電極拡散層と、該電極拡散層上に形成され、固体高分子電解質膜と接触させて支持される触媒層とから成る。また、単位セルの空気極側の電極拡散層に接触して集電するとともに、空気と水との混合流を透過する多数の開口が形成された網状の集電体としての空気極側コレクタと、単位セルの燃料極側の電極拡散層に接触して同じく電流を外部に導出するための網状の集電体としての燃料極側コレクタとを有する。
【0025】
前記単位セルにおいては、水が移動する。この場合、燃料極側コレクタの燃料室内に燃料ガス、すなわち、アノードガスとしての水素ガスを供給すると、水素が水素イオンと電子とに分解され、水素イオンがプロトン同伴水を伴って、固体高分子電解質膜を透過する。また、前記空気極をカソード極とし、酸化剤流路としての酸素室内に酸化剤、すなわち、カソードガスとしての空気を供給すると、空気中の酸素と、前記水素イオン及び電子とが結合して、水が生成される。なお、水分が逆拡散水として固体高分子電解質膜を透過し、燃料極側コレクタの燃料室内に移動する。ここで、逆拡散水とは、空気流路としての酸素室において生成される水が固体高分子電解質膜内に拡散し、該固体高分子電解質膜内を前記水素イオンと逆方向に透過して燃料室にまで浸透したものである。
【0026】
図には、燃料電池スタック11に燃料ガスとしての水素ガスを供給する装置、及び、酸化剤としての空気を供給する装置が示されている。なお、図示されない改質装置によってメタノール、ガソリン等を改質して取り出した燃料である水素ガスを燃料電池スタック11に直接供給することもできるが、車両の高負荷運転時にも安定して十分な量の水素ガスを供給することができるようにするためには、燃料貯蔵手段21に貯蔵した水素ガスを供給することが望ましい。これにより、該水素ガスがほぼ一定の圧力で、常に、十分に供給されるので、前記燃料電池スタック11は車両の負荷の変動に遅れることなく追随して、必要な電流を供給することができる。
【0027】
水素ガスは、水素吸蔵合金を収納した容器、デカリンのような水素吸蔵液体を収納した容器、水素ガスボンベ等の燃料貯蔵手段21から、燃料供給管路としての第1燃料供給管路22、及び、該第1燃料供給管路22に接続された燃料供給管路としての第2燃料供給管路33を通って、燃料電池スタック11の燃料ガス流路の入口に供給される。そして、前記第1燃料供給管路22には、燃料貯蔵手段元開閉弁23、第1圧力センサ27a、第1燃料圧力調整弁25a、第2燃料圧力調整弁25b、燃料供給電磁弁26及び第3圧力センサ27cが配設される。また、前記第1燃料供給管路22には、第2燃料圧力調整弁25bをバイパスするバイパス管路22aが接続され、該バイパス管路22aには第2圧力センサ27b及び起動用電磁弁26aが配設される。
【0028】
この場合、前記燃料貯蔵手段21は、十分に大きな容量を有し、常に、十分に高い圧力の水素ガスを供給することができる能力を有するものである。なお、図に示される例においては、燃料貯蔵手段21が複数、例えば、3つ配設され、また、第1燃料供給管路22は、各燃料貯蔵手段21に接続される部分で複数本に分割され、途中で合流して1本になっている。前記燃料貯蔵手段21は、単数であってもよいし、複数であってもよいし、複数の場合にはいくつであってもよい。
【0029】
そして、燃料電池スタック11の水素ガス流路の出口から未反応成分として排出される水素ガスは、第1燃料排出管路30を通って燃料電池スタック11外に排出される。前記第1燃料排出管路30にはポンプとしての吸引循環ポンプ36が配設されている。また、前記第1燃料排出管路30には水素循環電磁弁34が配設されている。さらに、前記第1燃料排出管路30における燃料電池スタック11と反対側の端部は、第2燃料供給管路33に接続されている。これにより、燃料電池スタック11外に排出された水素ガスを回収し、燃料電池スタック11の水素ガス流路に供給して再利用することができる。
【0030】
また、前記第1燃料排出管路30における燃料電池スタック11と吸引循環ポンプ36との間には、第2燃料排出管路38が接続され、該第2燃料排出管路38には水素起動排気電磁弁37が配設され、燃料電池スタック11の起動時に燃料ガス流路から排出される水素ガスを大気中に排出することができるようになっている。なお、第2燃料排出管路38の出口端は排気マニホールド13に接続されている。
【0031】
さらに、前記第1燃料排出管路30における吸引循環ポンプ36と水素循環電磁弁34との間には、他端が前記第2燃料排出管路38に接続された第3燃料排出管路38aが接続されている。そして、該第3燃料排出管路38aには、燃料電池スタック11内を減圧する際に開となる減圧水素排出弁37aが配設されている。また、前記第1燃料排出管路30には、外気導入電磁弁35及びエアフィルタ35aが接続され、燃料電池スタック11の停止時に外気を導入することができるようになっている。
【0032】
ここで、前記第1燃料圧力調整弁25a及び第2燃料圧力調整弁25bは、バタフライバルブ、レギュレータバルブ、ダイヤフラム式バルブ、マスフローコントローラ、シーケンスバルブ等のものであるが、前記第1燃料圧力調整弁25a及び第2燃料圧力調整弁25bの出口から流出する水素ガスの圧力をあらかじめ設定した圧力に調整することができるものであれば、いかなる種類のものであってもよい。なお、前記圧力の調整は、手動によってなされてもよいが、電気モータ、パルスモータ、電磁石等から成るアクチュエータによってなされることが望ましい。
【0033】
また、前記燃料供給電磁弁26、起動用電磁弁26a、水素循環電磁弁34及び水素起動排気電磁弁37は、いわゆる、オン−オフ式のものであり、電気モータ、パルスモータ、電磁石等から成るアクチュエータによって作動させられる。なお、前記燃料貯蔵手段元開閉弁23は手動又は電磁弁を用いて自動的に作動させられる。さらに、前記吸引循環ポンプ36は、水素ガスとともに逆拡散水を強制的に排出し、燃料ガス流路内を負圧の状態にすることができるポンプであれば、いかなる種類のものであってもよい。
【0034】
一方、酸化剤としての空気は、エアフィルタ53を通って、酸化剤供給源としての空気供給ファン51に吸引され、該空気供給ファン51から、空気供給管路52及び吸気マニホールド12を通って、燃料電池スタック11の酸化剤流路としての酸素室、すなわち、空気流路に供給される。
【0035】
本実施の形態における燃料電池システムは、直接噴射型常圧燃料電池システム、すなわち、DWI−FC(Direct Water Injection Fuel Cell)システムであって、アノードガスを常圧下において供給し、燃料電池に直接水を吹き掛けて冷却する固体高分子形燃料電池システムである。この場合、供給される空気の圧力は大気圧程度の常圧である。なお、前記空気供給ファン51は、空気を吸引して吐出することができるものであれば、いかなる種類のものであってもよい。また、前記エアフィルタ53は、空気に含まれる塵埃(じんあい)、不純物等を除去することができるものであれば、いかなる種類のものであってもよい。なお、酸化剤として、空気に代えて酸素を使用することもできる。そして、空気流路から排出される空気は、マニホールドとしての排気マニホールド13及び凝縮器14を通って大気中へ排出される。
【0036】
また、前記空気供給管路52には、空気流路に供給される空気中に水をスプレーして供給し、燃料電池スタック11の酸素極としての空気極を湿潤な状態に維持するための水供給ノズル47が配設される。なお、スプレーされた水によって前記空気極及び燃料極を冷却することもできる。さらに、前記排気マニホールド13の端部に配設された凝縮器14は、前記燃料電池スタック11から排出される空気中の水分を凝縮して除去するためのものであり、前記凝縮器14によって凝縮された水は凝縮水排出管路41を通って水貯留容器としての水タンク43に回収される。なお、前記凝縮水排出管路41には排水ポンプ42が配設され、前記水タンク43にはレベルゲージが取り付けられている。
【0037】
そして、前記水タンク43内の水は、給水管路46を通って水供給ノズル47に供給される。なお、前記給水管路46には、給水ポンプ44及び水フィルタ45が配設されている。ここで、前記排水ポンプ42及び給水ポンプ44は、水を吸引して吐出することができるポンプであれば、いかなる種類のものであってもよい。前記凝縮水排出管路41、排水ポンプ42、水タンク43、給水ポンプ44、水フィルタ45及び給水管路46は、水循環システムとして機能する。
【0038】
さらに、燃料電池スタック11の図示されない電気端子には、負荷としての駆動制御装置であるインバータ装置61、及び、蓄電手段としてのキャパシタユニット63が並列に接続されている。該キャパシタユニット63は、電気二重層キャパシタのようなキャパシタ(コンデンサ)を備えるものである。なお、前記蓄電手段は、必ずしもキャパシタでなくてもよく、鉛蓄電池、ニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池、ナトリウム硫黄電池等の二次電池は、いわゆる、バッテリ(蓄電池)であってもよいし、フライホイール、超伝導コイル、蓄圧器等のように、エネルギを電気的に蓄積し放出する機能を有するものであれば、いかなる形態のものであってもよい。さらに、これらの中のいずれかを単独で使用してもよいし、複数のものを組み合わせて使用してもよい。
【0039】
また、インバータ装置61は、前記燃料電池スタック11又はキャパシタユニット63からの直流電流を交流電流に変換して、車両の車輪を回転させる駆動源である図示されない交流モータに供給する。ここで、燃料電池システムにおいては、前記燃料電池スタック11又はキャパシタユニット63が並列に接続されて、前記インバータ装置61に電流を供給するようになっているので、例えば、車両の停止時に前記燃料電池スタック11が停止した場合や、坂道等の高負荷運転時に燃料電池スタック11からの電流だけでは要求電流に満たない場合等には、前記キャパシタユニット63からインバータ装置61に電流が自動的に供給される。
【0040】
なお、62は、充電用スイッチング素子としての高速スイッチング素子であるIGBT(絶縁ゲート・バイポーラ・トランジスタ)を備えるIGBTユニットであり、キャパシタユニット63の充電を制御する制御回路である。
【0041】
そして、前記交流モータが、車両の減速運転時には発電器として機能して、いわゆる回生電流を発生する場合には、前記車両の減速運転時に回生電流がキャパシタユニット63に供給され、該キャパシタユニット63が再充電される。さらに、前記回生電流が供給されない場合であっても、前記キャパシタユニット63が放電して端子電圧が低下すると、前記燃料電池スタック11が発生する電流が自動的に前記キャパシタユニット63に供給される。
【0042】
このように、燃料電池システムにおいては、前記キャパシタユニット63が常時充電され、前記燃料電池スタック11からの電流だけでは要求電流に満たない場合等には、前記キャパシタユニット63からインバータ装置61に電流が自動的に供給されるようになっているので、車両は各種の走行モードにおいて、安定して走行することができる。
【0043】
また、70は、凝縮器14に冷媒を供給するための冷媒供給システムとしての冷却システムであり、冷蔵庫、冷凍庫、家庭用空調機、車両用空調機等に利用される冷凍サイクルと同様の蒸気圧縮式の冷凍サイクルを利用したシステムである。ここで、71は、内部を冷媒が流通するパイプとしての冷媒管路72に配設された圧縮機としてのコンプレッサであり、気相の冷媒を圧縮する。なお、前記冷媒は、例えば、特定フロン類の代替品として開発が進められたフロン類似品である、いわゆる代替フロンであるが、いかなる種類の冷媒であってもよい。
【0044】
さらに、前記冷媒管路72における冷媒の流通方向に関するコンプレッサ71の下流側には、冷媒用凝縮器としてのコンデンサ74が配設されている。そして、コンプレッサ71によって高温高圧の過熱ガスの状態にまで圧縮された気相の冷媒は、前記コンデンサ74内において冷却されることによって液化され、飽和液又は過冷却液の状態となる。なお、前記コンプレッサ71は、燃料電池スタック11又はキャパシタユニット63から供給される電流を利用する図示されないモータによって駆動される。
【0045】
また、前記冷媒管路72における冷媒の流通方向に関するコンプレッサ71の下流側には、膨張弁75が配設されている。さらに、前記冷媒管路72における冷媒の流通方向に関する下流側の部分は、冷凍サイクルのエバポレータとして機能する部分であり、凝縮器14内部を通過するように配設されている。そして、飽和液又は過冷却液の状態となった冷媒は、膨張弁75を通過することによって低温低圧の湿り蒸気の状態にまで減圧されて、エバポレータとして機能する部分に流入する。該部分において、前記冷媒は凝縮器14内を通過する空気から熱を吸収し、再び、コンプレッサ71に吸引される。
【0046】
一方、前記凝縮器14内を通過する空気は、冷媒によって熱を吸収されることにより冷却される。そのため、燃料電池スタック11から排出される空気の温度が凝縮器14内において大幅に低下し、それとともに前記空気の飽和水蒸気圧も大幅に低下するので、凝縮されて前記空気から回収される水分量が増加する。これにより、前記空気に含まれる水分を凝縮する凝縮器14の能力が向上し、燃料電池スタック11から排出される空気からの水分の回収効率が向上する。
【0047】
また、前記コンデンサ74は、後述される暖房用空気ダクト82の空気取入口又は途中に配設され、前記暖房用空気ダクト82を通過する空気によってコンデンサ74内の冷媒が冷却される。一方、暖房用空気ダクト82を通過して車両の室内に導入される空気は、コンデンサ74によって加熱される。すなわち、凝縮器14を冷却する冷却システム70の廃熱によって、車両の室内を暖房することができるようになっている。
【0048】
なお、図2において、76は温度調整管路であり、内部を水等の流体が流通し、途中にに配設された流量調整弁77によって前記流体の流量を調整することにより、凝縮器14とコンデンサ74との温度差を適宜調整することができる。
【0049】
なお、本実施の形態において、燃料電池システムは制御装置として、後述されるECU(Electronic Control Unit)81を有する。前記ECU81は、CPU、MPU等の演算手段、磁気ディスク、半導体メモリ等の記憶手段、入出力インターフェイス等を備え、各種のセンサから、燃料電池スタック11の燃料ガス流路及び空気流路に供給される水素、酸素、空気等の流量、温度、出力電圧等を検出して、前記空気供給ファン51、第1燃料圧力調整弁25a、第2燃料圧力調整弁25b、燃料供給電磁弁26、水素循環電磁弁34、吸引循環ポンプ36、排水ポンプ42、給水ポンプ44、コンプレッサ71等の動作を制御する。さらに、前記ECU81は、車両に配設された他のセンサ、及び、車両の制御手段としての図示されないEV(Electric Vehicle)コントロールECUと連携して、燃料電池スタック11に燃料及び酸化剤を供給するすべての装置の動作を統括的に制御する。また、前記ECU81は、車両の室内を暖房するために車両の室内に導入される空気の温度も制御する。
【0050】
次に、車両の室内に導入される空気の温度を制御するためのシステムについて説明する。
【0051】
図3は本発明の実施の形態における車両の室内に導入される空気の温度を制御するシステムの構成を示す図である。
【0052】
図に示される例において、80は車両の室内を暖房する暖房システムであり、コンデンサ74を通過した空気を車両の室内に導入する暖房用空気ダクト82を有する。前記コンデンサ74は、暖房用空気ダクト82の空気取入口に配設され、車両の室内に導入される空気を加熱する。なお、前記暖房用空気ダクト82と排気マニホールド13の出口との間には断熱壁91を配設し、凝縮器14内を通過して冷却された空気が当たることによって暖房用空気ダクト82が冷却されてしまうことを防止することが望ましい。
【0053】
また、図に示される例において、冷却システム70は、冷媒管路72の一部をバイパスする暖気冷却管路としてのバイパス冷媒管路79を有する。該バイパス冷媒管路79は、冷媒管路72において凝縮器14を通過してコンプレッサ71に吸引される気相の冷媒が通過する部分の一部をバイパスするものであって、暖房用空気ダクト82内を通過するように配設される。また、前記バイパス冷媒管路79の冷媒管路72側の端部は、三方弁78を介して冷媒管路72に接続されているので、前記三方弁78の開度を制御することによって、バイパス冷媒管路79に流入する冷媒の流量を制御することができる。前記バイパス冷媒管路79に冷媒を流入させ、その流量を制御することによって、コンデンサ74により加熱された空気を冷却して、車両の室内に導入される空気の温度を調整することができる。
【0054】
なお、前記暖房用空気ダクト82の途中には、空気に含まれる塵埃、不純物等を除去するためにエアフィルタ83を配設することが望ましい。該エアフィルタ83は、空気に含まれる塵埃、不純物等を除去することができるものであれば、いかなる種類のものであってもよい。
【0055】
さらに、前記暖房用空気ダクト82の途中には、車両の室内に導入される空気の温度及び風量を調整するために、冷気導入管路84及び暖気排出管路85が接続されることが望ましい。そして、冷気導入管路84の暖房用空気ダクト82への接続部には、温度調節弁として、冷気導入管路84から導入される加熱されていない空気の流量を調整する冷気導入量調整弁84aが配設されている。該冷気導入量調整弁84aの開度を制御して冷気導入管路84から導入される空気の流量を制御することによって、車両の室内に導入される空気の温度及び風量を調整することができる。なお、冷気導入管路84には、空気に含まれる塵埃、不純物等を除去するために、前記エアフィルタ83と同様のエアフィルタ86を配設することが望ましい。
【0056】
また、暖気排出管路85の暖房用空気ダクト82への接続部には、温度調節弁として、暖気排出管路85から排出されるコンデンサ74によって加熱された空気の流量を調整する暖気排出量調整弁85aが配設されている。該暖気排出量調整弁85aの開度を制御して暖気排出管路85から排出される空気の流量を制御することによって、車両の室内に導入される空気の温度及び風量を調整することができる。
【0057】
なお、前記三方弁78、冷気導入量調整弁84a及び暖気排出量調整弁85aの動作は、ECU81によって制御される。該ECU81は、暖房用空気ダクト82の出口近傍に配設された温度センサ87の検出した温度に基づき、図において矢印Bで示されるような暖房用空気ダクト82を通過して車両の室内に導入される空気の温度が車両の乗員等によって設定された温度となるように、三方弁78、冷気導入量調整弁84a及び暖気排出量調整弁85aの動作を制御する。
【0058】
また、本実施の形態においては、排水手段としての水廃棄管路48が給水管路46に接続され、水循環システムを循環する水としての循環水を排出することができ、水タンク43内に収容しきれない余分な循環水を廃棄するようになっている。これにより、水タンク43内の循環水の不純物を希釈して循環水の浄化を行うことができる。
【0059】
そもそも、燃料電池スタック11から回収された水には、不可避的に不純物が含まれている。例えば、空気流路に供給される空気中に含まれる塵埃、雨水、エアロゾル、海塩、黄砂、花粉等が不純物として含まれてしまう。また、例えば、配管、電極部材、ガスケット、接着剤等の燃料電池スタック11を構成する各種の部材から溶出した成分が不純物として含まれてしまう。そのため、水循環システムによって循環される循環水は、次第に不純物濃度が増加してしまう。
【0060】
ところで、空気流路から排出される空気に含まれる水分の量は、水供給ノズル47から空気中にスプレーして供給された水の量よりも多くなる。これは、前述のように、各単位セルにおいて、空気中の酸素と水素イオン及び電子とが結合して水が生成され、この生成水が空気流路から排出される空気に含まれるからである。そのため、凝縮器14によって燃料電池スタック11から排出される空気から除去される水分の割合が高くなり、凝縮器14によって凝縮されることなく、排気マニホールド13の出口から外気中に放出されてしまう水分の割合が低くなれば、水供給ノズル47から供給された水の量よりも多い量の水を水タンク43に回収することができる。
【0061】
そして、冬季のように気温が低いときには、凝縮器14の温度を低くすることができ、その結果、燃料電池スタック11から排出された直後の空気の温度と凝縮器14内の空気の温度との差が大きくなり、凝縮して回収される水分の量が増加する。したがって、気温の低いときに冷却システム70を稼働させることによって、より多くの量の水を回収して循環水として水タンク43に収容することができる。
【0062】
このように、多量の水を水タンク43に回収し、該水タンク43内に収容しきれない余分な循環水を水廃棄管路48から廃棄すると、水タンク43内の循環水が新たに回収された水によって置換される。そして、新たに回収された水に含まれる不純物の量のほうが、循環を繰り返した循環水に含まれる不純物の量よりも少ないのであるから、水タンク43内の循環水を新たに回収された水によって置換することにより、水タンク43内の循環水の不純物を希釈して水の浄化を行うことができる。また、格別のメンテナンス作業を行うことなく、不純物濃度を低く維持することができる。これにより、不純物濃度が低い循環水を燃料電池スタック11に供給することができ、燃料電池スタック11の性能低下を抑制することができる。
【0063】
本実施の形態においては、前記水廃棄管路48には水廃棄調整弁48aが配設され、ECU81が水廃棄調整弁48aの動作を制御することによって、廃棄される水の量を調整して、水タンク43内に収容される循環水の量及び不純物の希釈状態を調整することができる。例えば、水タンク43内の循環水が所定量以上になると、水廃棄調整弁48aを開いて水廃棄管路48から余分な循環水を廃棄するようにしてもよい。なお、前記水廃棄管路48は、必ずしも給水管路46に接続される必要はなく、凝縮水排出管路41に接続されてもよいし、水タンク43に直接接続されてもよい。
【0064】
また、冬季のように気温が低いときには、車両の室内を暖房する必要性が高くなる。そのため、水タンク43内の循環水の不純物を希釈するために冷却システム70を稼働させたことによってコンデンサ74が発生する熱を、暖房用空気ダクト82を流れる空気に与えることにより、車両の室内を十分に暖房することができる。
【0065】
このように、本実施の形態においては、燃料電池システムが、燃料電池スタック11の空気流路に供給される空気中に水を供給するDWI−FCシステムであり、燃料電池スタック11から排出された空気中の水分を冷却システム70によって冷却された凝縮器14により凝縮させて除去するとともに、コンデンサ74が発生する熱、すなわち、冷却システム70の廃熱を車両の室内の暖房に利用する。
【0066】
これにより、水分を効率よく回収して循環させ、空気流路に供給される空気中に供給される循環水として再利用することができる。また、廃熱を車両の室内の暖房に利用するので、エネルギー効率を高めることができる。特に、気温が低いときに冷却システム70を積極的に稼働させることによって、回収される水の量を多くし、新たに回収された水によって旧来の循環水を置換することにより、循環される水の不純物濃度を低下させることができる。そのため、不純物濃度が低い水を燃料電池スタック11に供給することができ、該燃料電池スタック11の性能低下を抑制することができる。
【0067】
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々変形させることが可能であり、それらを本発明の範囲から排除するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の実施の形態における燃料電池システムの構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態における燃料電池システムの要部の構成を示す図であり図1におけるA部拡大図である。
【図3】本発明の実施の形態における車両の室内に導入される空気の温度を制御するシステムの構成を示す図である。
【符号の説明】
【0069】
11 燃料電池スタック
14 凝縮器
41 凝縮水排出管路
42 排水ポンプ
43 水タンク
44 給水ポンプ
45 水フィルタ
46 給水管路
47 水供給ノズル
48 水廃棄管路
70 冷却システム
71 コンプレッサ
74 コンデンサ
79 バイパス冷媒管路
80 暖房システム
82 暖房用空気ダクト
84 冷気導入管路
85 暖気排出管路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質層を燃料極と酸素極とで挟持した燃料電池が、前記酸素極に沿って空気流路が形成されたセパレータを挟んで積層されている燃料電池スタックと、
前記空気流路に供給される空気中に水を供給する水供給ノズルと、
前記空気流路から排出される空気中の水分を凝縮させて除去する凝縮器と、
該凝縮器によって除去された水を回収して前記水供給ノズルに供給する水循環システムと、
前記凝縮器に冷媒を供給する冷媒供給システムと、
該冷媒供給システムの廃熱を回収して車両の室内を暖房する暖房システムとを有することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記冷媒供給システムは、気相の冷媒を圧縮する圧縮機、該圧縮機によって圧縮された冷媒を液化するコンデンサ、及び、液化された冷媒を気化するエバポレータを備え、
該エバポレータが前記凝縮器に配設され、
前記暖房システムは、前記コンデンサの熱を利用する請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記暖房システムは、前記コンデンサを通過した空気を車両の室内に導入する暖房用空気ダクトを有し、
該暖房用空気ダクトには、冷気を選択的に導入する冷気導入管路及び暖気を選択的に排出する暖気排出管路が接続されるとともに、前記エバポレータから排出された気相の冷媒を選択的に通過させる暖気冷却管路が配設されている請求項2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記水循環システムは、排水手段を備え、
前記凝縮器によって除去されて回収された水によって置き換えられた循環水は、前記排水手段から排出される請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記水循環システムは、循環水を貯留する水貯留容器を備え、
該水貯留容器内の循環水が所定量以上になると、余剰分の循環水が前記排水手段から排出される請求項4に記載の燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−251216(P2008−251216A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−87868(P2007−87868)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】