説明

燃料電池システム

【課題】燃料電池の発電停止中における締切り性の向上と、バルブシート部の長寿命化とを両立した燃料電池システムを提供すること。
【解決手段】燃料電池システムは、燃料電池と、燃料電池に接続されて空気が流通するエア供給配管およびエア排出配管と、を備え、これら配管には、空気の流量を制御する出口流量制御バルブおよび入口流量制御バルブが設けられる。出口流量制御バルブ40は、筒状のハウジング41と、ハウジング41の内壁面に沿って設けられた固定バルブシート部42と、固定バルブシート部42の一端面側に設けられた弁体43と、を備え、弁体43は、燃料電池側のバルブシール面433で固定バルブシート部42のシール面421に着座し、ハウジング41の内部には、弁体43バルブシール面433を固定バルブシート部42に向って付勢するスプリング45が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに関する。詳しくは、カソードガスが流通する配管に流量制御バルブが設けられた燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車の新たな動力源として燃料電池システムが知られている。この燃料電池システムは、反応ガスの反応により発電する燃料電池と、燃料電池に反応ガスを供給する反応ガス流路と、を備える。
【0003】
燃料電池は、例えば、数十個から数百個のセルが積層されたスタック構造である。ここで、各セルは、膜電極構造体(MEA)を一対のセパレータで挟持して構成され、膜電極構造体は、アノード電極(陰極)およびカソード電極(陽極)の2つの電極と、これら電極に挟持された固体高分子電解質膜と、で構成される。
【0004】
この燃料電池のアノード電極にアノードガスとしての水素ガスを供給し、カソード電極にカソードガスとしての酸素を含む空気を供給すると、電気化学反応により発電する。この発電時に生成されるのは、基本的に無害な水だけであるため、環境への影響や利用効率の観点から、燃料電池が注目されている。
【0005】
ところで、燃料電池のカソード電極には、エアポンプなどで圧縮した大流量のカソードガスが供給される。このため、燃料電池システムにおいて、カソードガスが流通する配管には、バタフライバルブやボールバルブなどの大流量の制御に適したバルブが設けられる。
【0006】
ところで、燃料電池による発電が停止した後に燃料電池に反応ガスが流入すると、反応ガスの化学反応により電位が上昇して固体高分子電解質膜が劣化するため、カソード電極に連通するカソードガスの配管に設けられるバルブには閉弁時に高い締切り性が要求される。そこで従来、スプリングを利用してバルブを締め切る技術が提案されている。
【0007】
例えば特許文献1に示されたバタフライバルブでは、ハウジングの内部に回動可能に軸支された円盤状の弁体に対し、円環状のバルブシート部をスプリングで押し付ける。これにより、閉弁時には、バルブシート部を弁体の周縁のバルブシール面に密着させることができるので、締切り性を向上することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−259577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように、スプリングを利用したバルブでは、燃料電池の発電停止中における締切り性をさらに向上するためには、弁体とバルブシート部とが密着するようにスプリングの付勢力は大きい方が好ましい。
しかしながらスプリングの付勢力が強くなると、弁体とバルブシート部との間に作用する摩擦力も大きくなってしまうため、弁体の開閉に伴うバルブシート部の磨耗も激しくなる。したがって、弁体やバルブシート部の寿命を長くするためには、締切り性を向上する場合とは逆に、スプリングの付勢力は小さい方が好ましい。
【0010】
本発明は、以上の課題に鑑みてなされたものであり、燃料電池の発電停止中における締切り性の向上と、弁体やバルブシート部の長寿命化とを両立した燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため本発明は、反応ガスの反応により発電する燃料電池(例えば、後述の燃料電池10)と、当該燃料電池に接続されてカソードガスが流通するカソード流路(例えば、後述のエア供給配管21およびエア排出配管22)と、を備え、前記カソード流路には、カソードガスの流量を制御する流量制御バルブ(例えば、後述の出口流量制御バルブ40および入口流量制御バルブ50)が設けられる燃料電池システム(例えば、後述の燃料電池システム1)を提供する。前記流量制御バルブは、筒状のハウジング(例えば、後述のハウジング41)と、当該ハウジングの内壁面に沿って設けられたバルブシート部(例えば、後述の固定バルブシート部42)と、当該バルブシート部の一端面側に設けられた弁体(例えば、後述の弁体43)と、を備え、前記弁体は、前記燃料電池側のバルブシール面(例えば、後述のバルブシール面433)で前記バルブシート部に着座し、前記ハウジングの内部には、前記弁体のバルブシール面を前記バルブシート部に向って付勢する弾性体(例えば、後述のスプリング45)が設けられることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、燃料電池側のバルブシール面で弁体をバルブシート部に着座させ、さらにこの弁体のバルブシール面をバルブシート部に向って付勢する弾性体を設けた。例えば、燃料電池の発電停止後、発電停止中における燃料電池の劣化を抑制するために流量制御バルブを全閉しておくと、燃料電池の温度の低下、および封じ込めたカソードガス中の酸素が化学反応により消費されることにより負圧が発生し、弁体には燃料電池側へ負圧荷重が作用する。すなわち、本発明によれば、燃料電池の発電停止中に弁体に作用する負圧荷重の向きと弾性体の付勢力により弁体に作用する弾性体の押付け荷重の向きとを同じにすることができるので、発電停止中における流路の締切り性を向上することができる。また、このように発電停止中に作用する負圧荷重を利用して締切ることにより、締切り性を低下させることなく弾性体の付勢力を小さくすることができるので、弁体の開閉に伴うバルブシート部の磨耗を抑制し、結果として弁体およびバルブシート部の寿命を長くすることができる。また、付勢力の小さな弾性体を用いることにより、その分だけ流量制御バルブを小型かつ軽量にすることもできる。
【0013】
この場合、前記流量制御バルブは、前記カソード流路のうち前記燃料電池から排出されたカソードガスが流通する流路(例えば、後述のエア排出配管22)に設けられ、前記弾性体は、前記弁体に対し前記燃料電池の反対側に設けられた可動バルブシート部(例えば、後述の可動バルブシート部44)を介して前記弁体のバルブシール面を前記バルブシート部に向って付勢し、前記弁体は、当該弾性体の付勢力により前記可動バルブシート部と前記バルブシート部との間に支承され、前記ハウジングの内部には、前記可動バルブシート部の前記燃料電池の反対側への変位量を所定量以下に規制する規制手段(例えば、後述の可動シートストッパ416)が設けられていることが好ましい。
【0014】
この発明によれば、カソード流路のうち燃料電池から排出されたカソードガスが流通する流路に設けられた流量制御バルブについて、燃料電池の反対側に設けられた弾性体の付勢力により、弁体を可動バルブシート部とバルブシート部との間に支承した。このような流量制御バルブの弁体には、燃料電池の発電中、燃料電池の反対側へ弾性体による押付け荷重とは逆向きの差圧荷重が作用する。このため、差圧荷重が弾性体による押付け荷重を上回ると、可動バルブシート部が燃料電池の反対側へ変位してしまい、可動バルブシート部とバルブシート部との間から弁体が脱落するおそれがある。また、弁体とバルブシート部が大きく離れることにより、流量制御性が損なわれるおそれもある。本発明によれば、可動バルブシート部の燃料電池の反対側への変位量を所定量以下に規制する規制手段を設けたので、弾性体による押付け荷重を上回る負圧荷重が弁体に作用した場合であっても、弾性体の付勢力を強くすることなく、弁体が可動バルブシート部とバルブシート部との間から脱落することや、弁体とバルブシート部が大きく離れることにより、流量制御性が損なわれることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る燃料電池システムの概略構成を示すブロック図である。
【図2】全開時の出口流量制御バルブの縦断面の斜視図である。
【図3】全閉時の出口流量制御バルブの縦断面図である。
【図4】中間の開度における出口流量制御バルブの横断面図である。
【図5】全開時、中間開度時、および全閉時の出口流量制御バルブの横断面図である。
【図6】燃料電池の発電停止中における入口流量制御バルブおよび出口流量制御バルブの状態を模式的に示す図である。
【図7】燃料電池の発電中における入口流量制御バルブおよび出口流量制御バルブの状態を模式的に示す図である。
【図8】上記実施形態の変形例に係る出口流量制御バルブの横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る燃料電池システム1の概略構成を示すブロック図である。
燃料電池システム1は、自動車に搭載され、反応ガスを反応させて発電を行う燃料電池10と、この燃料電池10に水素ガスやエア(空気)を供給および排出する供給装置20と、これら燃料電池10および供給装置20を制御する制御装置30と、を有する。
燃料電池10は、アノード電極(陰極)側にアノードガスとしての水素ガスが供給され、カソード電極(陽極)側にカソードガスとしての酸素を含む空気が供給されると、電気化学反応により発電する。
【0017】
供給装置20は、圧縮空気を生成するエアポンプ24と、燃料電池10に接続されエアポンプ24で圧縮した空気をカソード電極側に供給するカソードガス流路としてのエア供給配管21と、燃料電池10に接続されそのカソード電極側から空気を排出するカソードガス流路としてのエア排出配管22と、を備える。この他、供給装置20は、燃料電池10のアノード電極側に水素ガスを供給する図示しない水素供給配管と、燃料電池10のアノード電極側から水素ガスを排出する図示しない水素排出配管と、を備える。
エア供給配管21およびエア排出配管22には、加湿器23が設けられる。この加湿器23は、エア排出配管22を流通する空気に含まれる水分を回収し、この回収した水分を、エア供給配管21を流通する空気に加える。
【0018】
エア供給配管21およびエア排出配管22のうち燃料電池10と加湿器23との間には、それぞれ、空気の流量を制御する入口流量制御バルブ50および出口流量制御バルブ40とが設けられる。これら流量制御バルブ40、50は、図示しないアクチュエータを介して制御装置30に接続されており、その開度は制御装置30から送信される制御信号に応じて制御される。
【0019】
図2は、出口流量制御バルブ40の縦断面の斜視図である。
出口流量制御バルブ40は、筒状のハウジング41と、ハウジング41の内壁面に沿って設けられた円環状の固定バルブシート部42と、固定バルブシート部42の一端面側に設けられた球状の弁体43と、環状の可動バルブシート部44を介して弁体43を固定バルブシート部42に向って付勢する弾性体としてのスプリング45と、弁体43を回動するシャフト軸46と、を備える。
【0020】
この出口流量制御バルブ40は、ハウジング41の内部に回動可能に組み込まれた弁体43をシャフト軸46で回動することにより、ハウジング41内を流れる空気の流量を制御する所謂ボールバルブである。なお、図2の斜視図は、全開時における出口流量制御バルブ40の縦断面を示す。
図3は、全閉時における出口流量制御バルブ40の縦断面図である。
図4は、上記全開と全閉の間の中間開度における出口流量制御バルブ40の、シャフト軸46の延出方向に対し垂直な横断面図である。
【0021】
ハウジング41は、円筒状のハウジング本体411と、このハウジング本体411の両端側に設けられた第1継手412および第2継手413と、を備える。第1継手412は、エア排出配管のうち燃料電池側に接続され、第2継手413は、エア排出配管のうち燃料電池の反対側すなわち排気側に接続される。したがって、エアポンプで圧縮空気を燃料電池に供給し発電している間、出口流量制御バルブ40では、第1継手412側から第2継手413側へ向って空気が流れる。なお以下では、出口流量制御バルブ40について、ハウジング41の延出方向に沿って第1継手412側を燃料電池側といい、第2継手413側を排気側という。
【0022】
ハウジング本体411の内壁面には、周方向に沿って段差部414が形成され、固定バルブシート部42は、ハウジング本体411の内部の段差部414に嵌挿されている。この固定バルブシート部42の内壁面のうち排気側には、部分球面状のシール面421が形成されている。
【0023】
弁体43は、ハウジング41の内部のうち、固定バルブシート部42の排気側に設けられている。弁体43の外周面は、球面状に形成されバルブシール面433となっている。弁体43は、このバルブシール面433の燃料電池側の面で固定バルブシート部42のシール面421に着座する。弁体43には、中心を貫通する貫通流路431が形成されている。この貫通流路431は、弁体43の一側面から反対側の側面へ直線状に延びる。また、弁体43の上部には、貫通流路431の延出方向に対し垂直な方向に沿って延びるキー溝432が形成されている。
シャフト軸46は、ハウジング本体411に形成された貫通孔415に挿通されている。シャフト軸46の先端には、弁体43のキー溝432に係合するキー部461が形成されている。
【0024】
可動バルブシート部44は、ハウジング41の内部のうち弁体43に対し排気側に設けられている。この可動バルブシート部44の内壁面のうち燃料電池側には、弁体43のバルブシール面433が着座するように部分球面状のシール面441が形成されている。
スプリング45は、ハウジング41の内部のうち、可動バルブシート部44よりも排気側に設けられており、可動バルブシート部44を介して弁体43のバルブシール面433を固定バルブシート部42のシール面421に向って付勢する。これにより弁体43は、スプリング45の付勢力により可動バルブシート部44と固定バルブシート部42との間に回動可能に支承される。
【0025】
このように、弁体43は2つのバルブシート部42、44に挟まれた状態でハウジング41内に保持されているため、例えば、弁体43が固定バルブシート部42に着座した状態から排気側へ変位すると、弁体43がこれらバルブシート部42、44の間から脱落したり、弁体43と固定バルブシート部42とが大きく離れてしまい流量制御性が低下したりするおそれがある。そこで、ハウジング本体411の内壁面のうち、可動バルブシート部44よりも排気側には、この可動バルブシート44の排気側への変位量を、弁体43が脱落しない程度の量、より好ましくは流量制御性が損なわれない程度の量に規制する規制手段としての環状の可動シートストッパ416が嵌挿されている。
【0026】
以上の出口流量制御バルブ40の動作について、図5を参照して説明する。
図5(a)は全開時の出口流量制御バルブの横断面図であり、図5(b)は中間開度時の出口流量制御バルブの横断面図であり、図5(c)は全閉時の出口流量制御バルブの横断面図である。
シャフト軸を駆動し、貫通流路431の延出方向とハウジング41の延出方向とが平行になるまで弁体43を回動すると、貫通流路431の開口と固定バルブシート部42の開口とが一致する。これにより、出口流量制御バルブ40は全開となる(図5(a)参照)。
シャフト軸を駆動し、弁体43を全開の状態から図5中時計周りに回動すると、固定バルブシート部42の開口の一部が弁体43のバルブシール面433により塞がれた状態となる(図5(b)参照)。
さらにシャフト軸を駆動し、貫通流路431の延出方向とハウジング41の延出方向とが垂直になるまで弁体43を回動すると、固定バルブシート部42の開口は、弁体43のバルブシール面433により完全に塞がれた状態となる。これにより、出口流量制御バルブ40は全閉となる(図5(c)参照)。
以上のように、固定バルブシート部42と可動バルブシート部44との間に支承された弁体43を回動し、貫通流路431の延出方向とハウジング41の延出方向との成す角を0〜90度の間で変えることにより、ハウジング41内を流通する空気の流量を連続的に変えることができる。
【0027】
以上、出口流量制御バルブ40の構造について、図2から図5を参照して説明した。これに対して、入口流量制御バルブ50は、上述の可動シートストッパ416を備えない点のみ出口流量制御バルブ40と異なり、その他の構成は同じである。したがって、入口流量制御バルブ50の構造の詳細な説明を省略する。また、入口流量制御バルブ50の第1継手は、エア供給配管のうち燃料電池側に接続され、第2継手は、エア供給配管のうち燃料電池の反対側すなわちエアポンプ側に接続される。したがって、エアポンプで圧縮空気を燃料電池に供給し発電している間、入口流量制御バルブ50では、第2継手から第1継手側へ向って空気が流れる。なお以下では、入口流量制御バルブ50について、ハウジングの延出方向に沿って第1継手側を燃料電池側といい、第2継手側をエアポンプ側という。
【0028】
次に、燃料電池の発電停止中、並びに燃料電池の発電中において、各流量制御バルブの弁体に作用する荷重について説明する。
図6は、燃料電池の発電停止中における流量制御バルブ40、50の状態を模式的に示す図である。図6に示すように、制御装置は、燃料電池10の発電停止中、燃料電池10の劣化を防ぐために流量制御バルブ40、50を共に全閉する。
【0029】
先ず、入口流量制御バルブ50に着目する。燃料電池10の発電停止後、流量制御バルブ40、50を全閉しておくと、その温度低下、および封じ込めた空気中の酸素が化学反応により消費されることに起因して燃料電池内で発生する負圧により、弁体53には正の負圧荷重Fviが燃料電池側へ向って作用する。また、スプリング55により弁体53を燃料電池側の固定バルブシート部52へ向って付勢したので、弁体53には、正のスプリング荷重Fsiが上記負圧荷重Fviと同じ向きに作用する。したがって、固定バルブシート部52に作用するシート荷重Ftiは、下記式(1)に示すように、これらスプリング荷重Fsiと負圧荷重Fviとを合わせたものとなる。
Fti=Fsi+Fvi (1)
【0030】
次に、出口流量制御バルブ40に着目する。入口流量制御バルブ50と同様に、燃料電池の発電停止中、弁体43には正の負圧荷重Fvoが燃料電池側へ向って作用する。また、スプリング45により弁体43を燃料電池側の固定バルブシート部42へ向って付勢したので、弁体43には、正のスプリング荷重Fsoが上記負圧荷重Fvoと同じ向きに作用する。したがって、固定バルブシート部42に作用するシート荷重Ftoは、下記式(2)に示すように、これらスプリング荷重Fsoと負圧荷重Fvoとを合わせたものとなる。
Fto=Fso+Fvo (2)
【0031】
以上のように、本実施形態によれば、流量制御バルブ40、50共に、燃料電池10の発電停止中には、スプリング45、55によるスプリング荷重と同じ向きに負圧荷重が生じる。したがって、負圧荷重を利用して流量制御バルブ40、50共に締め切ることができるので、その分だけスプリング45、55の付勢力を小さくすることができる。
【0032】
ここで例えば、燃料電池の発電停止中における配管21、22の締切り性を補償するために、最低限必要なシート荷重(以下、「必要シート荷重」という)をFt1とした場合に、発電停止中常にこの必要シート荷重Ft1より大きなシート荷重Fto、Ftiを加え続けるために必要なスプリング荷重の大きさについて検討する。
発電を停止してから再び発電を開始するまでの間において、上記負圧荷重Fvo、Fviは、発電停止直後がゼロであり最も小さく、その後、燃料電池の温度が下がるに従い、並びに、封じ込めた空気中の酸素の消費されるに従い大きくなる。したがって、上記式(1)、(2)によれば、発電停止中にシート荷重Fto、Ftiが最も小さくなるのは発電停止直後であり、その時のシート荷重はそれぞれのスプリング荷重Fso、Fsiと等しい。したがって、発電停止中、常に上記必要シート荷重Ft1より大きな荷重をかけ続けるためには、スプリング45、55ともに、高々必要シート荷重Ft1以上のスプリング荷重を生じるものを用いればよい。
【0033】
以上のような本実施形態の流量制御バルブ40、50に対して、負圧荷重の向きとスプリングによるスプリング荷重の向きとが逆である場合、負圧荷重に抗してスプリングの付勢力で上記必要シート荷重を確保する必要があることから、上記必要シート荷重Ft1に負圧荷重の最大値を加えたスプリング荷重を生じるスプリングを用いなければならない。
【0034】
図7は、燃料電池の発電中における流量制御バルブ40、50の状態を示す図である。図6に示すように、制御装置は、燃料電池の発電中、入口流量制御バルブ50を全開にし、出口流量制御バルブ40を中間開度にすると共に、エアポンプを駆動し圧縮空気を燃料電池10に供給する。これにより、図6に示すように、入口流量制御バルブ50においては、エアポンプ側から燃料電池側へ空気が流れ、出口流量制御バルブ40においては、燃料電池側から排気側へ空気が流れる。
【0035】
先ず、入口流量制御バルブ50に着目する。入口流量制御バルブ50は、上述のように燃料電池の発電中、全開にする。このため、弁体53のエアポンプ側と燃料電池側との間で差圧が発生せず、したがって弁体53に差圧荷重は作用しない。一方、スプリング55によるスプリング荷重が弁体53に作用する。このため、発電中の入口流量制御バルブ50において、弁体53はスプリング55の付勢力により可動バルブシート部54と固定バルブシート部52との間に支承される。したがって、発電中に弁体53がバルブシート部52、54の間から脱落するおそれはない。
【0036】
次に、出口流量制御バルブ40に着目する。出口流量制御バルブ40の弁体43には、スプリング45によるスプリング荷重が燃料電池側に作用する。また、出口流量制御バルブ40は、上述のように燃料電池の発電中、中間開度にする。このため、上述の入口流量制御バルブ50とは異なり、弁体53の燃料電池側と排気側との間で差圧が発生し、弁体43には正の差圧荷重がスプリング荷重とは反対の排気側に向って作用する。このため、この差圧荷重がスプリング荷重より大きくなると、可動バルブシート部44が排気側へ変位し、弁体43が固定バルブシート部42から離座するおそれがある。これに対して、上述のように、出口流量制御バルブ40には、可動バルブシート部44の排気側への変位量を、弁体43が脱落しない程度の量に規制する可動シートストッパ416を設けたので、弁体43がバルブシート部42、44の間から脱落したり、弁体43と固定バルブシート部42とが大きく離れてしまい流量制御性が低下したりすることがない。
【0037】
本実施形態によれば、以下の効果を奏する。
(1)本実施形態によれば、燃料電池10の発電停止中に弁体43、53に作用する負圧荷重の向きとスプリング荷重の向きとを同じにすることができるので、発電停止中における配管21、22の締切り性を向上することができる。また、このように発電停止中に作用する負圧荷重を利用して締切ることにより、締切り性を低下させることなくスプリング45、55の付勢力を小さくすることができるので、弁体の開閉に伴う固定バルブシート部42、52の磨耗を抑制し、結果として弁体43、53および固定バルブシート部42、52の寿命を長くすることができる。また、付勢力の小さなスプリング45、55を用いることにより、その分だけ流量制御バルブ40、50を小型かつ軽量にすることもできる。
【0038】
(2)本実施形態によれば、可動バルブシート部44の排気側への変位量を、弁体43が脱落しない程度の量以下に規制する可動シートストッパ416を設けたので、スプリング45によるスプリング荷重を上回る負圧荷重が弁体43に作用した場合であっても、スプリング45の付勢力を強くすることなく、弁体43がバルブシート部42、44の間から脱落したり、弁体43と固定バルブシート部42とが大きく離れてしまい流量制御性が低下したりするのを防止することができる。
【0039】
<変形例>
以下、上記実施形態の変形例を図面に基づいて説明する。
図8は、中間開度における出口流量制御バルブ40Aの、シャフト軸の延出方向に対し垂直な横断面図である。
図8に示すように、変形例の出口流量制御バルブ40Aは、上記実施形態の可動シートストッパ416と同じ構成の第1可動シートストッパ416Aに加えて、第2可動シートストッパ417Aをさらに備える点が上記実施形態と異なる。
【0040】
上述のように、シャフト軸は、その先端に形成されたキー部461を、弁体43の上部に形成されたキー溝432に係合させることで連結されている。また、このキー溝432は、貫通流路431に対して垂直に形成されているため、弁体43の貫通流路431の延出方向に沿った変位はシャフト軸により規制されるが、貫通流路431の延出方向に対し垂直な方向への変位はシャフト軸により規制されない。
【0041】
このため、燃料電池の発電中に出口流量制御バルブ40Aを図8に示すような中間開度にすると、弁体43および可動バルブシート部44は、弁体43の径方向に沿って変位するおそれがある(図8中、白抜き矢印参照)。そこで、ハウジング本体411の内壁面のうち第1可動シートストッパ416Aよりも燃料電池側には、可動バルブシート部44の外周面に沿って、可動バルブシート部44の上記径方向に沿った変位量を所定量に規制する環状の第2可動シートストッパ417Aが嵌挿されている。
【0042】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良などは本発明に含まれるものである。
例えば、上記実施形態では、出口流量制御バルブ40および入口流量制御バルブ50を、エア供給配管21およびエア排出配管22のうち加湿器23と燃料電池10との間に設けたが、これに限らない。例えば、これら流量制御バルブ40、50を、エア供給配管およびエア排出配管のうち加湿器を挟んで燃料電池と反対側の部分に設けてもよい。
【0043】
また、上記実施形態では、円筒状の可動バルブシート部44に対し、環状の可動シートストッパ416により、可動バルブシート部44の全周に当接してその変位を規制したが、これに限らない。可動シートストッパは、可動バルブシート部44の排気側への変位を規制できるものであればよく、例えばピンやプレートなどを用いてもよい。
また、上記実施形態では、2つの流量制御バルブ40、50のうち、出口流量制御バルブ40にのみ可動シートストッパ416を設けたが、これに限らない。入口流量制御バルブにも可動シートストッパを設けてもよい。
【符号の説明】
【0044】
1…燃料電池システム
10…燃料電池
21…エア供給配管(カソード流路)
22…エア排出配管(カソード流路)
40…出口流量制御バルブ(流量制御バルブ)
41…ハウジング
416…可動シートストッパ(規制部材)
416A…第1可動シートストッパ(規制部材)
42…固定バルブシート部(バルブシート部)
43…弁体
433…バルブシール面
44…可動バルブシート部
50…入口流量制御バルブ(流量制御バルブ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応ガスの反応により発電する燃料電池と、当該燃料電池に接続されてカソードガスが流通するカソード流路と、を備え、前記カソード流路には、カソードガスの流量を制御する流量制御バルブが設けられる燃料電池システムであって、
前記流量制御バルブは、筒状のハウジングと、当該ハウジングの内壁面に沿って設けられたバルブシート部と、当該バルブシート部の一端面側に設けられた弁体と、を備え、
前記弁体は、前記燃料電池側のバルブシール面で前記バルブシート部に着座し、
前記ハウジングの内部には、前記弁体のバルブシール面を前記バルブシート部に向って付勢する弾性体が設けられることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記流量制御バルブは、前記カソード流路のうち前記燃料電池から排出されたカソードガスが流通する流路に設けられ、
前記弾性体は、前記弁体に対し前記燃料電池の反対側に設けられた可動バルブシート部を介して前記弁体のバルブシール面を前記バルブシート部に向って付勢し、
前記弁体は、当該弾性体の付勢力により前記可動バルブシート部と前記バルブシート部との間に支承され、
前記ハウジングの内部には、前記可動バルブシート部の前記燃料電池の反対側への変位量を所定量以下に規制する規制手段が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−222356(P2011−222356A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−91427(P2010−91427)
【出願日】平成22年4月12日(2010.4.12)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】