説明

燃料電池システム

【課題】無加湿の空気を供給して燃料電池の無加湿運転を行う燃料電池システムにおいて、各電池セルのセル面内における水分量の不均一を抑制する。
【解決手段】各電池セル10における水素流路14および空気流路15が、水素の流れ方向と空気の流れ方向とが互いに対向するように配置されており、水素流路14の水素出口部14bから排出される未反応水素および水分を水素入口部14aに再循環させると共に、無加湿の空気を空気流路15の空気入口部15aに供給して無加湿運転を行う燃料電池システムにおいて、電池セル10における空気入口部15aの水分量が不足しているか否かを判定する水分量判定手段S10、S30、S50にて、空気入口部15aの水分量が不足していると判定された場合に、空気入口部15aにおける発電が促進されるように、エアストイキ比を低下させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素と酸素との化学反応により電気エネルギを発生させる燃料電池を備える燃料電池システムに関するもので、車両、船舶及びポータブル発電器等の移動体に適用して有効である。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料電池では、固体高分子からなる電解質膜を一対の電極(アノード、カソード)で狭持した膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)を有する電池セルを複数積層して構成された固体高分子電解質膜型燃料電池が知られている。
【0003】
この種の燃料電池では、電池セルの電解質膜の湿潤状態が、燃料電池の内部抵抗に影響することが知られている。例えば、燃料電池の内部水分量が少なく電解質膜が乾燥している場合には、燃料電池の内部抵抗が増大し、燃料電池の出力や発電効率が低下してしまうといった問題がある。
【0004】
このような問題の解決を図った技術が、種々提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0005】
特許文献1では、加湿した酸化剤ガスを燃料電池に供給して有加湿運転を行う燃料電池システムにおいて、燃料電池内部の水分量の過不足を判定して、当該判定の結果に応じて、燃料電池に供給する反応ガスの供給量や圧力を調整することで、燃料電池の内部水分量を調整する構成としている。
【0006】
一方、特許文献2では、無加湿の酸化剤ガスを供給して無加湿運転を行う燃料電池において、各電池セルにおける電解質膜の乾燥を抑制する構成としている。具体的には、電池セルにおける燃料ガスの流れ方向と酸化剤ガスの流れ方向とが対向するように燃料ガスおよび酸化剤ガスの各ガス流路を設定すると共に、酸化剤ガスのガス流路出口側の水を燃料ガスのガス流路入口側に流れ易くすることで、アノードとカソードとの間で水を循環させる構成としている。
【0007】
なお、特許文献2の如く、燃料電池の無加湿運転を行う燃料電池システムでは、特許文献1のように燃料電池に供給する酸化剤ガスを加湿する加湿器等を用いる必要がないので、燃料電池システムの部品点数の低減を図ることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−352827号公報
【特許文献2】特開2002−367655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、特許文献2の如く、無加湿の酸化剤ガスを供給して燃料電池の無加湿運転を行う燃料電池システムでは、酸化剤ガスのガス流路入口に乾燥した酸化剤ガスが供給されるので、酸化剤ガスのガス流路入口付近では、ガス流路出口側に比べて電解質膜が乾燥し易い。この結果、各電池セルのセル面内における水分量が不均一となり、セル面内における発電に寄与する部位の面積が減少し、燃料電池の出力低下を招くこととなる。
【0010】
これに対して、特許文献2では、各電池セルのカソードとアノードとの間で水を循環させる構成としているが、燃料電池の出力増加等の運転条件が変化すると、アノード側からカソード側への随伴水が増加し、カソード側における酸化剤ガスの下流側に水分が偏ってしまう。すなわち、特許文献2に記載の燃料電池でも、依然として、各電池セルのセル面内における水分量が不均一となってしまうことがある。
【0011】
本発明は上記点に鑑みて、無加湿の酸化剤ガスを供給して燃料電池の無加湿運転を行う燃料電池システムにおいて、各電池セルのセル面内における水分量の不均一を充分に抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、固体高分子からなる電解質膜(11)を一対の電極(12、13)で狭持した膜電極接合体、一対の電極(12、13)のアノード側に燃料ガスを供給するための燃料ガス流路(14)、および一対の電極(12、13)のカソード側に酸化剤ガスを供給するための酸化剤ガス流路(15)を有する電池セル(10)を複数積層して構成された燃料電池(1)を備え、燃料ガス流路(14)および酸化剤ガス流路(15)は、燃料ガスの流れ方向と酸化剤ガスの流れ方向とが互いに対向するように設けられており、燃料ガス流路(14)の燃料ガス出口部(14b)から排出される未反応燃料ガスおよび水分を燃料ガス流路(14)の燃料ガス入口部(14a)に再循環させると共に、無加湿の酸化剤ガスを酸化剤ガス流路(15)の酸化剤ガス入口部(15a)に供給して無加湿運転を行う燃料電池システムであって、酸化剤ガス流路(15)に供給する酸化剤ガスのストイキ比を調整する酸化剤ガス用ストイキ比調整手段(50a)と、電池セル(10)における酸化剤ガス流路(15)の酸化剤ガス入口部(15a)の水分量が不足しているか否かを判定する水分量判定手段(S10、S30、S50)と、水分量判定手段(S10、S30、S50)にて、酸化剤ガス入口部(15a)の水分量が不足していると判定された場合に、酸化剤ガス入口部(15a)の水分量が不足していないと判定された場合に比べて、酸化剤ガス入口部(15a)における発電が促進されるように、少なくとも酸化剤ガスのストイキ比を低下させる制御手段(50)と、を備えることを特徴とする。
【0013】
このように、酸化剤ガス入口部(15a)における水分量が不足している場合には、酸化剤ガス入口部(15a)における発電が促進されるように、酸化剤ガスのストイキ比を低下させる構成とすることで、酸化剤ガス入口部(15a)側において発電による生成水やアノード側からカソード側へと移動する随伴水が多くなるので、酸化剤ガス入口部(15a)の乾燥を抑制することができる。そして、酸化剤ガス入口部(15a)側の水分は、酸化剤ガス流路(15)の下流側へ押し流されるので、電池セル(10)のカソード側全域において水分量を確保することができる。
【0014】
また、酸化剤ガス入口部(15a)における発電が促進されると、酸化剤ガス入口部(15b)の下流側では、酸化剤ガス入口部(15a)に比べて発電が抑制される。これにより、酸化剤ガス入口部(15a)の下流側におけるアノード側からカソード側へと移動する随伴水の量が少なくなり、カソード側(酸化剤ガス出口部(15b))からアノード側(燃料ガス入口部(14a))への拡散水の量が多くなる。そして、燃料ガス入口部(14a)側の水分は、燃料ガス流路(14)の下流側へ押し流されるので、電池セル(10)のアノード側全域において水分量を確保することができる。
【0015】
従って、無加湿の酸化剤ガスを供給して燃料電池(1)の無加湿運転を行う燃料電池システムにおいて、電池セル(10)のセル面内における水分量の不均一を充分に抑制することが可能となる。この結果、各電池セル(10)のセル面内における発電面積の減少を抑制することができる。
【0016】
ここで、本発明における酸化剤ガスの「ストイキ比」とは、燃料電池(1)に所定値の電流を流す際に必要となる酸化剤ガスの理論供給量と実際の酸化剤ガスの供給量との比を意味する。同様に、燃料ガスにおける「ストイキ比」は、燃料電池(1)に所定の電流を流すときに必要な燃料ガスの理論量と実際の燃料ガスの供給量との比を意味する。例えば、酸化剤ガスのストイキ比が1.3である場合、理論供給量の1.3倍の酸化剤ガスが燃料電池(1)に供給されていることを意味する。
【0017】
また、請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の燃料電池システムにおいて、酸化剤ガス流路(15)から酸化剤ガスを排出するための酸化剤ガス排出経路(31)に設けられ、電池セル(10)のセル面内における酸化剤ガスの圧力を調整するためのカソード側圧力調整手段(34)を備え、制御手段(50)は、水分量判定手段(S10、S30、S50)にて、酸化剤ガス入口部(15a)の水分量が不足していると判定された場合に、酸化剤ガスの圧力を増加させることを特徴とする。
【0018】
これによると、酸化剤ガス入口部(15a)における水分量が不足している場合には、酸化剤ガスのストイキ比の低下に加え、酸化剤ガスの圧力を増加させているので、酸化剤ガス流路(15)の下流側におけるカソード側からアノード側へと移動する拡散水の量を増加させることができる。このため、燃料ガス流路(14)の燃料ガス入口部(14a)側の水分量が増大し、増大した水分が燃料ガス流路(14)の下流側へ押し流されるので、電池セル(10)のアノード側全域において水分量を充分に確保することができる。
【0019】
これにより、各電池セル(10)のセル面内における発電面積の減少をより効果的に抑制することができる。
【0020】
また、請求項3に記載の発明では、請求項1または2に記載の燃料電池システムにおいて、燃料ガス流路(14)に燃料ガスを供給するための燃料ガス供給経路(20)に設けられ、電池セル(10)のセル面内における燃料ガスの圧力を調整するためのアノード側圧力調整手段(23)を備え、制御手段(50)は、水分量判定手段(S10、S30、S50)にて、酸化剤ガス入口部(15a)の水分量が不足していると判定された場合に、燃料ガスの圧力を低下させることを特徴とする。
【0021】
これによると、酸化剤ガス入口部(15a)における水分量が不足している場合には、酸化剤ガスのストイキ比の低下に加え、燃料ガスの圧力を低下させているので、酸化剤ガス流路(15)の下流側におけるカソード側からアノード側へと移動する拡散水の量を増加させることができる。このため、燃料ガス流路(14)の燃料ガス入口部(14a)側の水分量が増大し、増大した水分が燃料ガス流路(14)の下流側へ押し流されるので、電池セル(10)のアノード側全域において水分量を充分に確保することができる。
【0022】
これにより、各電池セル(10)のセル面内における発電面積の減少をより効果的に抑制することができる。
【0023】
また、請求項4に記載の発明では、請求項1ないし3のいずれか1つに記載の燃料電池システムにおいて、燃料ガス流路(14)に供給する燃料ガスのストイキ比を調整する燃料ガス用ストイキ比調整手段(50a)を備え、制御手段(50)は、水分量判定手段(S10、S30、S50)にて、酸化剤ガス入口部(15a)の水分量が不足していると判定された場合に、燃料ガスのストイキ比を増加させることを特徴とする。
【0024】
これによると、酸化剤ガス入口部(15a)における水分量が不足している場合には、酸化剤ガスのストイキ比の低下に加え、燃料ガスのストイキ比を増加させているので、燃料ガス流路(14)の下流側におけるアノード側からカソード側へと移動する随伴水の量を増加させることができる。このため、酸化剤ガス流路(15)の酸化剤ガス入口部(15a)側の水分量が増大し、増大した水分が酸化剤ガス流路(15)の下流側に押し流されるので、電池セル(10)のカソード側全域において水分量を充分に確保することができる。
【0025】
これにより、各電池セル(10)のセル面内における発電面積の減少をより効果的に抑制することができる。
【0026】
ここで、燃料電池(1)は、各種電気負荷(2)からの要求発電量に応じて燃料電池(1)に供給する燃料ガスおよび酸化剤ガスの供給量を設定している。このため、燃料電池(1)に対する要求発電量の増大に伴い、燃料ガスおよび酸化剤ガスの供給量が増加し、空気出口部15b側におけるアノード側からカソード側への随伴水が増加するので、電池セル(10)におけるセル面内の水分量が不均一となり易くなる。
【0027】
そこで、請求項5に記載の発明では、請求項1に記載の燃料電池システムにおいて、燃料電池(1)の発電量を要求発電量よりも低い所定の制限発電量に設定して燃料電池(1)の出力を制限する出力制限手段(50)を備え、制御手段(50)は、水分量判定手段(S10、S30、S50)にて、酸化剤ガス入口部(15a)の水分量が不足していると判定された場合に、当該判定から所定時間が経過するまで、燃料電池(1)の出力を制限することを特徴とする。
【0028】
これよると、酸化剤ガス入口部(15a)における水分量が不足している場合には、酸化剤ガスのストイキ比の低下に加え、一時的に燃料電池(1)の発電量を低下させて燃料電池(1)の出力を制限しているので、燃料ガスおよび酸化剤ガスの供給量の増加を抑制することができる。これにより、電池セル(10)におけるセル面内の水分量の不均一を抑制することが可能となる。
【0029】
また、酸化剤ガスのストイキ比を低下させた状態が継続すると、酸化剤ガス中の酸素濃度の低下によって生ずるカソード側の過電圧の増大や、酸化剤ガス流路(15)の水分量増大によってカソードへの酸化剤ガスの供給が阻害されるといった問題が生ずる虞がある。
【0030】
そこで、請求項6に記載の発明では、請求項1ないし5のいずれか1つに記載の燃料電池システムにおいて、制御手段(50)は、水分量判定手段(S10、S30、S50)にて、酸化剤ガス入口部(15a)の水分量が不足していると判定された場合に、酸化剤ガスのストイキ比を周期的に低下させることを特徴とする。
【0031】
これによれば、周期的に酸化剤ガスのストイキ比を低下させる構成としているので、酸化剤ガス中の酸素濃度の低下による過電圧の増大や、酸化剤ガス流路(15)の水分量増大によるカソードへの酸化剤ガスの供給が阻害されることを抑制することができる。この結果、燃料電池(1)の出力低下を抑制することが可能となる。
【0032】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実施形態に係る燃料電池システムの全体構成図である。
【図2】実施形態に係る電池セルの概略構成図である。
【図3】実施形態に係るストイキ比制御処理を示すフローチャートである。
【図4】実施形態に係る可変ストイキ比制御処理を説明する説明図である。
【図5】実施形態に係るストイキ比制御処理を実行した際の空気入口部の電流密度と出力電圧との関係を説明する説明図である。
【図6】実施形態に係るストイキ比制御処理を実行した際のセル面内における膜中水分量およびその分布を説明する説明図である。
【図7】実施形態に係るストイキ比制御処理を実行した際のセル面内における随伴水分量およびその分布を説明する説明図である。
【図8】実施形態に係るストイキ比制御処理を実行した際のセル面内における電流密度およびその分布を説明する説明図である。
【図9】実施形態に係るストイキ比制御処理を実行した際のセル面内における温度およびその分布を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の一実施形態について図1〜図9に基づいて説明する。本実施形態では、本発明に係る燃料電池システムを、燃料電池1を走行用駆動源として走行する電気自動車(燃料電池自動車)に搭載したものである。
【0035】
図1は、第1実施形態に係る燃料電池システムの全体構成図を示し、図2は、電池セル10の概略構成図を示している。
【0036】
図1に示すように、本実施形態の燃料電池システムは、水素と酸素との電気化学反応を利用して電力を発生する燃料電池1を備えている。燃料電池1は、二次電池(図示略)、走行用モータ(図示略)、補機等の各種電気負荷2に電力を供給するものである。
【0037】
本実施形態の燃料電池1は、固体高分子電解質型燃料電池(PEFC)を採用しており、基本単位となる電池セル10(以下、単にセルとも呼ぶ。)が複数積層され、各セル10が電気的に直列に接続されている。
【0038】
ここで、図2に示すように、各セル10は、プロトン伝導性のイオン交換膜(固体高分子)からなる電解質膜11および電解質膜11を狭持する一対の電極12、13で構成される膜電極接合体と、これを両側から挟み込む一対のセパレータとを有している。
【0039】
一対の電極12、13の一方の電極12は、燃料ガスとしての水素が供給される水素極(アノード)として構成され、他方の電極13は、酸化剤ガスとしての空気が供給される空気極(カソード)として構成されている。なお、各電極12、13は、触媒層およびガス拡散層にて構成されている。
【0040】
また、一対のセパレータそれぞれは、水素極12と対向する面に水素極12に水素を供給するための水素流路14が形成され、空気極13と対向する面に空気極13に空気を供給するための空気流路15が形成されている。なお、本実施形態の水素流路14が本発明の燃料ガス流路に相当し、空気流路15が本発明の酸化剤ガス流路に相当している。
【0041】
本実施形態では、水素流路14および空気流路15は、水素流路14を流れる水素の流れ方向と空気流路15を流れる空気の流れ方向が対向するように設けられている。このため、水素流路14の水素入口部(燃料ガス入口部)14aが、膜電極接合体を介して空気流路15の空気出口部(酸化剤ガス出口部)15bに対向し、水素流路14の水素出口部(燃料ガス出口部)14bが、膜電極接合体を介して空気流路15の空気入口部(酸化剤ガス入口部)15aに対向するようになっている。
【0042】
燃料電池1に水素および空気といった反応ガスが供給されると、各セル10では、以下に示すように、水素と酸素とを電気化学反応して、電気エネルギを出力する。
【0043】
(水素極側) H→2H+2e
(空気極側) 2H+1/2O+2e→H
この際、水素極12では、内部に供給された水素が触媒層における触媒反応によって、電子(e)とプロトン(H)とに電離され、プロトン(H)は、水(随伴水)を随伴して空気極13側に移動する。
【0044】
一方、空気極13では、水素極12側から移動してきたプロトン(H)、外部から流通してきた電子、および空気中の酸素(O)が反応して、水(生成水)が生成される。空気極13側で生成された生成水は、空気流れ上流側から下流側へと流れる際に、空気極13側から水素極12側へと拡散する。つまり、水素極(アノード)12および空気極(カソード)13の間を水が循環する(図2の電解質膜11付近に示す矢印参照)。
【0045】
燃料電池1から出力される電気エネルギは、燃料電池1全体として出力される電圧を検出する電圧センサ4、および、燃料電池1全体として出力される電流を検出する電流センサ3によって計測される。なお、電圧センサ4および電流センサ3の検出信号は、後述する制御装置50に入力される。
【0046】
また、本実施形態の燃料電池1は、図1中の斜線で示すように、所定位置で隣接するセル10間に局所電流測定装置5が配置されている。局所電流測定装置5は、隣接するセル10間の局所電流値(電流密度)を検出可能に構成されている。本実施形態では、局所電流測定装置5にて、空気流路15の空気入口部15a(水素流路14の水素出口部14b)における電流(電流密度)を検出するようにしている。
【0047】
空気流路15の空気入口部15aを流れる電流は、空気流路15の空気入口部15aにおける水分量の減少に応じて低下するといった相関関係があるので、局所電流測定装置5の検出値に基づいて、空気流路15の空気入口部15aが乾燥しているか否かを判定することが可能となる。なお、局所電流測定装置5の検出信号は、後述する制御装置50に入力される。
【0048】
燃料電池システムには、燃料電池1の水素極12側に供給される水素ガスが通過する水素供給配管20、および燃料電池1の水素極12側から排出される排ガスが通過する水素排出配管21が設けられている。なお、水素供給配管20が本発明の燃料ガス供給経路を構成している。
【0049】
水素供給配管20の最上流部には、燃料電池1の水素極に水素ガスを供給するための水素供給装置22が設けられている。本実施形態では、水素供給装置22として、高圧の水素が充填された水素タンクを用いている。
【0050】
水素供給配管20には、水素供給装置22の下流側に水素調圧弁23が設けられている。燃料電池1に水素を供給する際には、水素調圧弁23によって所望の水素圧力にして燃料電池1に供給する。なお、本実施形態では、水素調圧弁23が本発明のアノード側圧力調整手段を構成している。
【0051】
水素排出配管21には、シャット弁24が設けられている。必要に応じてシャット弁24を開くことで、燃料電池1の水素極側から水素排出配管21を介して、微量の水素、蒸気(あるいは水)および空気極13側から電解質膜11を通過して水素極12側に混入した窒素、酸素などの不純物が排出される。
【0052】
本実施形態の水素排出配管21には、シャット弁24の上流側に、水素排出配管21を通過する未反応水素(未反応燃料ガス)や水分等を燃料電池1に再循環させるための水素循環配管25が接続されている。具体的には、水素循環配管25は、水素排出配管21のシャット弁24の上流側と、水素供給配管20の水素調圧弁23の下流側との間に接続されている。
【0053】
水素循環配管25には、水素排出配管21中の未反応水素等を水素供給配管20に戻すための循環ポンプ26が設けられている。この循環ポンプ26は、駆動用の電動モータ26aに接続されている。
【0054】
また、燃料電池システムには、燃料電池1の空気極13に供給される空気(酸化剤ガス)が通過する空気供給配管30、および燃料電池1の空気極13から排出される排ガスが通過する空気排出配管31が設けられている。なお、空気排出配管31が本発明の酸化剤ガス排出経路を構成している。
【0055】
空気供給配管30には、空気流れ上流側に燃料電池1に供給する空気の流量を検出するためのエアフロセンサ32が設けられている。このエアフロセンサ32の検出信号は、後述する制御装置50に入力される。
【0056】
また、空気供給配管30には、エアフロセンサ32の空気流れ下流側に空気を圧縮して吐出するための空気供給装置33が設けられている。本実施形態では、空気供給装置33として圧送ポンプを用いている。空気供給装置33は駆動用の電動モータ33aに接続されている。
【0057】
また、空気排出配管31には、所望の圧力になるよう空気流路15内の空気の圧力を調整する背圧調整弁34が設けられている。なお、本実施形態の背圧調整弁34は、本発明のカソード側圧力調整手段を構成している。
【0058】
ここで、本実施形態の燃料電池システムには、空気供給配管30および空気排出配管31に燃料電池1に供給する空気を加湿する専用の加湿手段を設けられておらず、無加湿の空気を燃料電池1に供給して無加湿運転を行うように構成されている。
【0059】
ところで、燃料電池1は発電に伴い熱を生じる。燃料電池1の発電に伴い発生する熱を冷却するため、燃料電池システムには、燃料電池1を冷却して作動温度が電気化学反応に適した温度(例えば80℃程度)となるようにする冷却システムが設けられている。
【0060】
冷却システムには、燃料電池1に冷却水(熱媒体)を循環させる冷却水配管40、冷却水を循環させるウォータポンプ41、ウォータポンプ41を駆動する電動モータ41a、ファン(図示略)を備えたラジエータ42が設けられている。燃料電池1で発生した熱は、冷却水を介してラジエータ42で系外に排出される。なお、冷却水配管40における燃料電池1の出口側付近には、冷却水の温度を検出する温度センサ(図示略)が設けられており、この温度センサの検出信号は、後述する制御装置50に入力される。
【0061】
また、本実施形態の燃料電池システムには、各種制御を行う制御手段としての制御装置(ECU)50が設けられている。制御装置50は、各種入力信号に基づいて、燃料電池システムを構成する各種制御機器の作動を制御するもので、CPU、ROM、RAM、I/O等を備えた周知のマイクロコンピュータによって構成され、ROM等の記憶部に記憶された制御プログラムに従って各種演算等の処理を実行する。
【0062】
具体的には、制御装置50の入力側には、各種電気負荷2からの要求電力信号、二次電池(図示略)、二次電池からの充電量に関する検出信号、電流センサ3、電圧センサ4、局所電流測定装置5、エアフロセンサ32、および温度センサからの検出信号が入力される。
【0063】
一方、制御装置50の出力側には、水素調圧弁23、シャット弁24、循環ポンプ26の電動モータ26a、空気供給装置33の電動モータ33a、背圧調整弁34、ウォータポンプ41の電動モータ41a等が接続され、各種制御機器に制御信号を出力する。
【0064】
本実施形態の制御装置50は、基本的に、電気負荷2からの要求電力信号に応じて、燃料電池1に供給する各反応ガス(水素および空気)のストイキ比を制御している。
【0065】
例えば、制御装置50は、水素のストイキ比(以下、水素ストイキ比と呼ぶ。)を増大させる場合に、循環ポンプ26を駆動する電動モータ26aの回転数を増加させ、水素のストイキ比を減少させる場合に、循環ポンプ26の電動モータ26aの回転数を低下させる。なお、水素ストイキ比を調整する際には、水素排出配管21のシャット弁24は閉鎖された状態で行われる。
【0066】
また、制御装置50は、空気のストイキ比(以下、エアストイキ比と呼ぶ。)を増大させる場合に、空気供給装置33を駆動する電動モータ33aの回転数を増加させ、エアストイキ比を減少させる場合に、空気供給装置33の電動モータ33aの回転数を低下させる。
【0067】
なお、本実施形態の制御装置50は、各種制御機器を制御する制御手段が一体に構成されたものであるが、本実施形態では、特に、燃料電池1に供給する水素のストイキ比を制御する構成(ハードウェアおよびソフトウェア)を燃料ガス用ストイキ比調整手段50aとする。また、燃料電池1に供給する空気のストイキ比を制御する構成(ハードウェアおよびソフトウェア)を酸化剤ガス用ストイキ比調整手段50bとする。
【0068】
ここで、本実施形態の如く、無加湿の空気を燃料電池1に供給する場合には、各セル10の空気流路15の空気入口部15aに乾燥した空気が供給されるので、セル面内における空気入口部15a側(水素出口部14b側)の電解質膜11が乾燥し易くなる。
【0069】
空気入口部15a側の電解質膜11が乾燥している状態で、電気負荷2からの要求電力信号に応じて、燃料電池1に供給する各反応ガス(水素および空気)のストイキ比を制御すると、セル面内における空気入口部15a付近での発電が阻害されてしまう。この結果、セル面内における発電に寄与する部位の面積が減少してしまい、燃料電池1全体での出力低下を招くこととなる。
【0070】
そこで、本実施形態では、空気入口部15aが乾燥している場合に、空気入口部15a付近での発電が促進されるようにエアストイキ比等を制御するストイキ比制御処理を行っている。これにより、セル面内における水素極(アノード)12および空気極(カソード)13の間の水循環を効率よく行うようにしている(図2の電解質膜11付近に示す矢印参照)。
【0071】
以下、制御装置50にて行うストイキ比制御処理について図3のフローチャートに基づいて説明する。図3に示す制御フローは、燃料電池1に水素および空気が供給され、燃料電池1で電気エネルギを出力可能な状態で実行される。
【0072】
図3に示すように、先ず、空気流路15の空気入口部15aが乾燥しているか否か、すなわち、空気入口部15aの水分量が不足しているか否かを判定する(S10)。この判定処理では、空気流路15の空気入口部15aを流れる局所電流を測定する局所電流測定装置5の検出値に基づいて行う。
【0073】
具体的には、局所電流測定装置5の検出値が、予め設定された基準電流密度以下である場合に、空気入口部15aが乾燥している(空気入口部15aの水分量が不足している)と判定し(S10:YES)、基準電流密度より大きい場合に、空気入口部15aが乾燥していない(空気入口部15aの水分量が不足していない)と判定する(S10:NO)。
【0074】
S10の判定処理の結果、空気入口部15aが乾燥していないと判定された場合(S10:NO)には、ストイキ比制御処理を終了し、空気入口部15aが乾燥していると判定された場合(S10:YES)には、空気入口部発電促進処理を行う(S20)。
【0075】
この空気入口部発電促進処理では、空気入口部15a付近での発電が促進されるように、エアストイキ比Stを、燃料電池1に対する要求発電電力に応じて設定され得る基準範囲(例えば、1.3〜1.6)よりも低い低ストイキ比ASt(例えば、1.0〜1.1)に設定する。
【0076】
具体的には、エアストイキ比が低ストイキ比AStとなるように、空気供給装置33の電動モータ33aの回転数を低下させる。なお、空気供給装置33の電動モータ33aの回転数は、エアストイキ比と電動モータ33aの回転数との関係を定めた制御マップに基づいて決定される。なお、当該制御マップは、予め制御装置50のROM等の記憶部に記憶されている。
【0077】
このように、エアストイキ比Stを低ストイキ比AStとすることで、空気流路15の空気入口部15a側に充分に空気が供給され、空気入口部15aにおいて発電による生成水および水素極12側から空気極13側へと移動する随伴水が多くなるので、空気入口部15aの乾燥を抑制することができる。そして、空気入口部15aの水分は、空気流れ下流側の空気出口部15bに向かって押し流されるので、セル10の空気極13側全域において水分量を確保できる。
【0078】
また、エアストイキ比Stの低下によって、空気入口部15aにおける発電が促進されると、空気入口部15aの下流側では、空気入口部15aに比べて発電が抑制される。このため、空気入口部15aの下流側におけるアノード側からカソード側へと移動する随伴水の量が少なくなり、空気極13側における空気出口部15b付近から水素極12側の水素入口部14a付近への拡散水の量が多くなる。そして、水素入口部14a側の水分は、水素流路14の下流側へ押し流されるので、セル10における水素極12側全域において水分量を確保することができる。
【0079】
空気入口部発電促進処理(S20)を実行した後、再び、空気流路15の空気入口部15aが乾燥しているか否かを判定する(S30)。なお、S30の判定処理は、S10の判定処理と同等の処理であるため、説明を省略する。
【0080】
S30の判定処理の結果、空気入口部15aが乾燥していないと判定された場合(S30:NO)には、後述するS60の処理に移行し、空気入口部15aが乾燥していると判定された場合(S30:YES)には、水循環量増加処理を行う(S40)。
【0081】
この水循環量増加処理では、水素極12および空気極13間の水の循環量を増加させるための制御処理である。具体的には、水循環量増加処理では、空気流路15内の空気の圧力を高める空気圧力増加処理、水素流路14内の水素の圧力を低くする水素圧力低下処理、燃料電池1に供給する水素ストイキ比を高くする水素ストイキ比制御処理の少なくとも1つを実行する。
【0082】
空気圧力増加処理では、空気排出配管31の通路開度が小さくなるように背圧調整弁34を制御して、空気流路15内の空気の圧力を増加させ、空気流路15の下流側における空気極13側から水素極12側へと移動(拡散)する拡散水の量を増加させる。これにより、水素流路14の水素入口部14a側の水分量が増大し、増大した水分が水素流路14の下流側の水素出口部14b側に押し流され、セル10の水素極12側全域に水分が行き渡る。
【0083】
また、水素圧力低下処理では、水素供給配管20の通路開度が小さくなるように水素調圧弁23を制御して、水素流路14内の水素の圧力を低下させ、空気流路15の下流側における空気極13側から水素極12側へと移動(拡散)する拡散水の量を増加させる。これにより、空気背圧制御処理と同様に、セル10の水素極12側全域に水分が行き渡る。
【0084】
また、水素ストイキ比制御処理では、循環ポンプ26の電動モータ26aの回転数を増加させる制御を行って水素ストイキ比を高くし、水素流路14を流れる水素の流量を増加させて、水素流路14の水素出口部14b側における水素極12側から空気極13側へと移動する随伴水を増加させる。これにより、空気流路15の空気入口部15a側の水分量が増大し、増大した水分が空気流路15の下流側の空気出口部15b側に押し流され、セル10の空気極13側全域に水分が行き渡る。
【0085】
S40にて、水循環量増加処理を実行した後、再び、空気流路15の空気入口部15aが乾燥しているか否かを判定する(S50)。このS50の判定処理は、S10、S30の判定処理と同等の処理であるため説明を省略する。なお、S10、S30、S50の判定処理が、本発明の水分量判定手段に相当している。
【0086】
S50の判定処理の結果、空気入口部15aが乾燥していると判定された場合(S50:YES)には、再び、水循環量増加処理を行う(S40)。この水循環量増加処理では、空気入口部15aの乾燥度合いが高いと判断できるので、空気圧力増加処理、水素圧力低下処理、水素ストイキ比制御処理のうち2つ以上の制御処理を組み合わせて実行してもよい。
【0087】
一方、S50の判定処理の結果、空気入口部15aが乾燥していないと判定された場合(S50:NO)には、可変ストイキ比制御処理を実行する(S60)。
【0088】
この可変ストイキ比制御処理は、エアストイキ比を低下させた状態を継続すると、空気流路15内の酸素濃度の低下や空気流路15内における水分量の増加による空気極13側への空気の供給が阻害されることを抑制するために、周期的にエアストイキ比を低下させる制御を実行する。
【0089】
具体的には、図4に示すように、エアストイキ比を、低ストイキ比AStから徐々に低ストイキ比AStよりも高い基準ストイキ比Stにまで上昇させた後、基準ストイキ比Stから徐々に低ストイキ比AStにまで低下させる処理を連続的に繰り返し行う。基準ストイキ比Stとしては、燃料電池1に対する要求発電電力に応じて設定されるストイキ比Stを採用することができる。
【0090】
ここで、図4では、低ストイキ比AStから基準ストイキ比Stまで上昇させる際の時間T1と、基準ストイキ比Stから低ストイキ比AStまで低下させる際に要する時間T2とを異なる時間としているが、同じ時間を設定してもよい。また、図4では、三角波状にエアストイキ比を可変させていているが、これに限らず、例えば、正弦波状にエアストイキ比を可変させてもよい。
【0091】
ここで、空気流路15の空気入口部15aが乾燥している場合において、本実施形態のストイキ比制御処理を実行した場合の作用を図5〜図9に示す実験データに基づいて説明する。
【0092】
図5は、本実施形態のストイキ比制御処理を実行した際の所定のセル10における空気入口部15aの電流密度[A/cm]と出力電圧[V]との関係を説明する説明図である。図5中の実線が、本実施形態に係るストイキ比制御処理(基準ストイキ比=1.5、低ストイキ比=1.1、背圧(空気の圧力)=180kPa)の実行時の実験データを示している。なお、図5中の破線は可変ストイキ比制御処理(図4のS60)を伴わないストイキ比制御処理の実行時の実験データを示し、一点鎖線は燃料電池1の要求発電電力に応じてストイキ比(=1.5、背圧(空気の圧力)=140kPa)を制御した際の実験データを示し、二点差線が燃料電池1の要求発電電力に応じたストイキ比(=1.5)の制御に加えて、水分量増加処理(背圧(空気の圧力)=180kPa)を実行した際の実験データを示している。
【0093】
図5の一点鎖線で示すように、燃料電池1の要求発電電力に応じてストイキ比(=1.5)を制御する場合、電流密度が約0.6[A/cm]を超えると発電ができなくなることがわかる。また、図5の二点鎖線で示すように、燃料電池1の要求発電電力に応じたストイキ比(=1.5)の制御に加えて、水分量増加処理(背圧(空気の圧力)=180kPa)を実行したとしても、電流密度が約1.3[A/cm]を超えると発電ができなくなることがわかる。
【0094】
これに対して、図5の破線で示すように、可変ストイキ比制御処理(図4のS60)を伴わないストイキ比制御処理(低ストイキ比=1.1、背圧(空気の圧力)=180kPa)を実行した場合には、電流密度の増大に応じて出力電圧が低下するものの、電流密度が約2.0[A/cm]を超えても発電可能であることがわかる。
【0095】
また、図5の実線で示すように、可変ストイキ比制御処理を伴うストイキ比制御処理を実行した場合には、電流密度の増大に応じて出力電圧が若干低下するものの、図5中の破線で示す実験データよりも出力電圧が高い状態を維持していることがわかる。なお、図5中の実線における上方に突出している部分(図中黒三角で示す部分)が基準ストイキ比まで上昇させた際の状態を示し、下方に突出している部分(図中黒丸で示す部分)が低ストイキ比まで低下させた際の状態を示している。
【0096】
次に、図6は、本実施形態のストイキ比制御処理を実行した際のセル面内(空気流路15側)における電解質膜11の水分量(膜中水分量)および水分量の分布(膜中水分の分布)を示し、図7は、セル面内における水素極12側から空気極13側へと移動する随伴水の水分量と水分量の分布(膜中水分の分布)を説明する説明図である。また、図8は、本実施形態のストイキ比制御処理を実行した際のセル面内における電流密度と電流密度分布を示し、図9は、セル面内における温度と温度分布を示している。
【0097】
ここで、図6〜図9における実線(太実線、細実線)は、本実施形態のストイキ比制御処理を実行した際の実験データを示し、破線(太破線、細破線)は、燃料電池1の要求発電電力に応じてストイキ比(=1.5)を制御した際の実験データを示している。また、各図中矢印で示すように、実線および破線における太線が、左側の縦軸に対応し、細線が、右側の縦軸に対応している。
【0098】
図6の破線で示すように、燃料電池1の要求発電電力に応じてストイキ比(=1.5)を制御した際には、膜中水分量およびその分布が空気流路15における空気出口部15b側に偏って多くなっており、空気入口部15a側の電解質膜11が乾燥していることがわかる。
【0099】
また、図7の破線で示すように、水素極12側から空気極13側に移動する随伴水およびその分布が、空気流路15における空気出口部15b側に偏って多くなっており、空気入口部15a側ではほとんど随伴水の水分量が確認できず、水素極12および空気極13の間の一部で水循環が成立していないことがわかる。
【0100】
さらに、図8、図9に示すように、セル面内の電流密度および温度が空気出口部15b側に偏って高くなっており、セル面内における発電に寄与する発電面積が著しく小さくなっていることがわかる。
【0101】
これに対して、図6の実線で示すように、ストイキ比制御処理を実行した際には、膜中水分量およびその分布が空気流路15における空気入口部15a側が多く、空気入口部15a側の電解質膜11が乾燥していないことがわかる。また、空気入口部15a側から空気出口部15b側の広範囲にわたって所定量以上の膜中水分量が存在し、セル面内における全域で膜水分量が確保されていることがわかる。
【0102】
また、図7の実線で示すように、水素極12側から空気極13側に移動する随伴水およびその分布は、空気流路15における空気入口部15a側に多く、空気入口部15a側での発電が促進されていることがわかる。また、空気入口部15a側から空気出口部15b側に向かって随伴水が絞られているので、空気極13側に生成された生成水が空気極13側から水素極12側に拡散し易い状態となっていることがわかる。
【0103】
さらに、図8の実線で示すように、セル面内の電流密度およびその分布が空気入口部15a側で高くなっており、空気入口部15aにて発電可能であることがわかる。また、空気入口部15a側から空気出口部15b側の広範囲にわたって所定量以上の電流密度が存在し、発電に寄与する発電面積がセル面の略全域となっていることがわかる。
【0104】
さらにまた、図9の実線で示すように、セル面内の温度およびその分布は、図9の破線で示すセル面内の温度およびその分布よりも、空気入口部15a側から空気出口部15b側との温度差が縮小していることがわかる。
【0105】
以上、説明した本実施形態では、空気流路15の空気入口部15aにおける水分量が不足している場合には、空気入口部15a側における発電が促進されるように、エアストイキ比を通常のエアストイキ比の設定範囲よりも低い低ストイキ比AStまで低下させる。
【0106】
これにより、各セル10のセル面内における空気入口部15a側の電解質膜11の乾燥を充分に抑制することができるので、無加湿の空気を燃料電池1に供給して無加湿運転を行う燃料電池システムにおいて、セル面内の水分の不均一を抑制することが可能となる。
【0107】
また、エアストイキ比を低ストイキ比AStまで低下させても、空気入口部15aにおける水分量が不足している場合には、エアストイキ比の低下に加えて、水素極12および空気極13間の水の循環量を高めるための水循環量増加処理を実行するので、水素極12と空気極13との間の水の循環量を増大させることができる。
【0108】
これにより、各セル10のセル面内の全域において電解質膜11の乾燥を充分に抑制して、セル面内の水分の不均一をより効果的に抑制することが可能となる。
【0109】
さらに、エアストイキ比を周期的に低下させる可変ストイキ比制御処理を実行する構成としているので、空気流路15における空気中の酸素濃度の低下による空気極13側の過電圧の増大や空気流路15中の水分量の増大による空気極13側への空気の供給の阻害を抑制することができる。この結果、燃料電池1の出力低下を抑制することが可能となる。
【0110】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各請求項に記載した範囲を逸脱しない限り、各請求項の記載文言に限定されず、当業者がそれらから容易に置き換えられる範囲にも及び、かつ、当業者が通常有する知識に基づく改良を適宜付加することができる。例えば、以下のように種々変形可能である。
【0111】
(1)上記実施形態では、ストイキ比制御処理において、空気入口部発電促進処理を行った後、空気入口部15aが乾燥している場合に、水循環量増加処理を実行する構成としているが、水循環量増加処理の変わりに、燃料電池1の要求発電電力を一時的に低下させる出力制限処理を行ってもよい。
【0112】
具体的には、ストイキ比制御処理において、空気入口部発電促進処理を行った後、空気入口部15aが乾燥している場合に、当該判定後、所定時間が経過するまで燃料電池1の発電量を要求発電量よりも低い所定の制限発電量に設定し、燃料電池1の出力を制限すればよい。なお、制限発電量は、固定値でもよいし、燃料電池1の要求発電量に応じて変動する変動値としてもよい。
【0113】
これよると、空気入口部15aにおける水分量が不足している場合には、エアストイキ比の低下に加え、一時的に燃料電池1の発電量を低下させて燃料電池1の出力を制限しているので、水素および空気の供給量の増加を抑制することができる。この結果、一時的に水素極12側から空気極13側への随伴水が増加を抑制することができ、セル面内の水分量の不均一を抑制することが可能となる。なお、出力電圧処理を実行する制御装置50が、本発明の出力制限手段を構成している。
【0114】
(2)上記実施形態では、ストイキ比制御処理において、空気入口部発電促進処理を行った後、空気入口部15aが乾燥している場合に、水循環量増加処理を実行するようにしているが、これに限定されず、例えば、空気入口部発電促進処理および水循環量増加処理を同時に実行してもよい。
【0115】
(3)上記実施形態では、ストイキ比制御処理において、空気入口部発電促進処理を行った後、必ず、可変ストイキ比制御処理を実行するようにしているが、これに限定されない。例えば、エアストイキ比を低ストイキ比とする期間が短く、空気極13側の過電圧の増大等が生じない場合には、ストイキ比制御処理において、可変ストイキ比制御処理を実行しないようにしてもよい。
【0116】
(4)上記実施形態では、空気入口部15aが乾燥しているか否かの水分量判定処理(図3のS10、S30、S50参照)を、局所電流測定装置5にて測定した空気入口部15aを流れる電流密度に基づいて行っているが、これに限定されない。
【0117】
例えば、空気入口部15aに対向する電解質膜11の膜抵抗を検出するセンサを設け、当該センサの検出値が予め設定された基準値以上である場合に、空気入口部15aが乾燥していると判定してもよい。
【0118】
また、空気入口部15aに対向する電解質膜11の膜内水分量および膜伝導率の一方を検出するセンサを設け、当該センサの検出値が予め設定された基準値以下である場合に、空気入口部15aが乾燥していると判定してもよい。
【0119】
また、空気入口部15aにおける湿度を検出する湿度センサを設け、当該湿度センサの検出値が予め設定された基準値以下である場合に、空気入口部15aが乾燥していると判定してもよい。
【0120】
(5)上記実施形態では、本発明の燃料電池システムを車両に適用したが、これに限定されず、船舶及びポータブル発電器等の移動体や、家庭用や工場用等の設置型に適用してもよい。
【符号の説明】
【0121】
1 燃料電池
10 電池セル(セル)
11 電解質膜
12 水素電極(アノード)
13 空気電極(カソード)
14 水素流路(燃料ガス流路)
14a 水素入口部(燃料ガス入口部)
14b 水素出口部(燃料ガス出口部)
15 空気流路(酸化剤ガス流路)
15a 空気入口部(酸化剤ガス入口部)
15b 空気出口部(酸化剤ガス出口部)
20 水素供給配管(燃料ガス供給経路)
23 水素調圧弁(アノード側圧力調整手段)
31 空気排出配管(酸化剤ガス排出経路)
34 背圧調整弁(カソード側圧力調整手段)
50 制御装置(制御手段)
50a 燃料ガス用ストイキ比調整手段
50b 酸化剤ガス用ストイキ比調整手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子からなる電解質膜(11)を一対の電極(12、13)で狭持した膜電極接合体、前記一対の電極(12、13)のアノード側に燃料ガスを供給するための燃料ガス流路(14)、および前記一対の電極(12、13)のカソード側に酸化剤ガスを供給するための酸化剤ガス流路(15)を有する電池セル(10)を複数積層して構成された燃料電池(1)を備え、前記燃料ガス流路(14)および前記酸化剤ガス流路(15)は、前記燃料ガスの流れ方向と前記酸化剤ガスの流れ方向とが互いに対向するように配置されており、前記燃料ガス流路(14)の燃料ガス出口部(14b)から排出される未反応燃料ガスおよび水分を前記燃料ガス流路(14)の燃料ガス入口部(14a)に再循環させると共に、無加湿の前記酸化剤ガスを前記酸化剤ガス流路(15)の酸化剤ガス入口部(15a)に供給して無加湿運転を行う燃料電池システムであって、
前記酸化剤ガス流路(15)に供給する前記酸化剤ガスのストイキ比を調整する酸化剤ガス用ストイキ比調整手段(50b)と、
前記電池セル(10)における前記酸化剤ガス流路(15)の酸化剤ガス入口部(15a)の水分量が不足しているか否かを判定する水分量判定手段(S10、S30、S50)と、
前記水分量判定手段(S10、S30、S50)にて、前記酸化剤ガス入口部(15a)の水分量が不足していると判定された場合に、前記酸化剤ガス入口部(15a)の水分量が不足していないと判定された場合に比べて、前記酸化剤ガス入口部(15a)における発電が促進されるように、少なくとも前記酸化剤ガスのストイキ比を低下させる制御手段(50)と、
を備えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記酸化剤ガス流路(15)から前記酸化剤ガスを排出するための酸化剤ガス排出経路(31)に設けられ、前記電池セル(10)のセル面内における前記酸化剤ガスの圧力を調整するためのカソード側圧力調整手段(34)を備え、
前記制御手段(50)は、前記水分量判定手段(S10、S30、S50)にて、前記酸化剤ガス入口部(15a)の水分量が不足していると判定された場合に、前記酸化剤ガスの圧力を増加させることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記燃料ガス流路(14)に前記燃料ガスを供給するための燃料ガス供給経路(20)に設けられ、前記電池セル(10)のセル面内における前記燃料ガスの圧力を調整するためのアノード側圧力調整手段(23)を備え、
前記制御手段(50)は、前記水分量判定手段(S10、S30、S50)にて、前記酸化剤ガス入口部(15a)の水分量が不足していると判定された場合に、前記燃料ガスの圧力を低下させることを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記燃料ガス流路(14)に供給する前記燃料ガスのストイキ比を調整する燃料ガス用ストイキ比調整手段(50a)を備え、
前記制御手段(50)は、前記水分量判定手段(S10、S30、S50)にて、前記酸化剤ガス入口部(15a)の水分量が不足していると判定された場合に、前記燃料ガスのストイキ比を増加させることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記燃料電池(1)の発電量を要求発電量よりも低い所定の制限発電量に設定して前記燃料電池(1)の出力を制限する出力制限手段(50)を備え、
前記制御手段(50)は、前記水分量判定手段(S10、S30、S50)にて、前記酸化剤ガス入口部(15a)の水分量が不足していると判定された場合に、当該判定から所定時間が経過するまで、前記燃料電池(1)の出力を制限することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記制御手段(50)は、前記水分量判定手段(S10、S30、S50)にて、前記酸化剤ガス入口部(15a)の水分量が不足していると判定された場合に、前記酸化剤ガスのストイキ比を周期的に低下させることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載の燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−238360(P2011−238360A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−106266(P2010−106266)
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】