説明

燃料電池及びその製造方法

【課題】ショートカット流を防止出来、容易に単電池間の圧力損失バラツキを低減出来、燃料電池の安定性の向上を図ることが可能な、又は低コスト化を図ることが可能な燃料電池及びその製造方法を提供する。
【解決手段】電解質1と、電解質1を挟み込むように配設された一対の燃料ガス及び酸化剤ガス拡散電極2a,2bと、一対のガス拡散電極2a,2bを外側から挟み込むように配設された一対の燃料ガス側及び酸化剤ガス側セパレータ6、7と、ガス拡散電極2a,2bの周囲の、電解質1と一対のセパレータ6、7との間に配設された、一対の燃料ガス側及び酸化剤ガス側シール手段4、5とを備え、燃料ガス側セパレータ6と燃料ガス拡散電極2aと電解質1と燃料ガス側シール手段4とによって囲まれた燃料ガス側の空間9の少なくとも一部を燃料ガスが通れないように、液状シール剤11が硬化した状態で燃料ガス側の空間9の少なくとも一部に形成されている燃料電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポータブル電源、携帯機器用電源、電気自動車用電源、家庭内コージェネシステム等に使用する燃料電池及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子電解質を用いた燃料電池は、反応ガスである水素を含有する燃料ガスと、空気など酸素を含有する酸化剤ガスとを、電気化学的に反応させることで、電力と熱とを同時に発生させるものである。
【0003】
その構造は、まず、水素イオンを選択的に輸送する高分子電解質膜の両面に、白金系の金属触媒を担持したカーボン粉末を主成分とする触媒反応層を形成する。次に、この触媒反応層の外面に、反応ガスの通気性と、電子導電性を併せ持つ拡散層を形成し、この拡散層と触媒反応層とを合わせて電極とする。これをMEA(電極電解質膜接合体)と呼ぶ。
【0004】
次に、供給する反応ガスが外にリークしたり、二種類の反応ガスが互いに混合しないように、電極の周囲には高分子電解質膜を挟んでガスシール材やガスケットを配置する。このシール材やガスケットは、電極及び高分子電解質膜と一体化してあらかじめ組み立て、これを、MESA(電極電解質膜シール材接合体)と呼ぶ。MESAの外側には、これを機械的に固定するとともに、隣接したMEAを互いに電気的に直列に接続するための導電性のセパレータ板を配置する。セパレータ板のMEAと接触する部分には、電極面に反応ガスを供給し、生成ガスや余剰ガスを運び去るためのガス流路が形成されている。ガス流路はセパレータ板と別に設けることも出来るが、セパレータの表面に溝を設けてガス流路とする方式が一般的である。
【0005】
この溝に反応ガスを供給するためは、反応ガスを供給する配管を、使用するセパレータの枚数に分岐し、その分岐先を直接セパレータ状の溝につなぎ込む配管治具が必要となる。この治具をマニホールドと呼び、上記のような反応ガスの供給配管から直接つなぎ込むタイプを外部マニホールドと呼ぶ。このマニホールドには、構造をより簡単にした内部マニホールドと呼ぶ形式のもある。内部マニホールドとは、ガス流路を形成したセパレータ板に、貫通した孔を設け、ガス流路の出入り口をこの孔まで通し、この孔から直接反応ガスを供給するものである。
【0006】
燃料電池は運転中に発熱するので、電池を良好な温度状態に維持するために、冷却水等で冷却する必要がある。通常、1〜3セル毎に冷却水を流す冷却部をセパレータとセパレータとの間に挿入するが、セパレータの背面に冷却水流路を設けて冷却部とする場合が多い。これらのMESAとセパレータ及び冷却部を交互に重ねていき、10〜200セル積層した後、集電板と絶縁板を介し、端板でこれを挟み、締結ボルトで両端から固定し、まわりを断熱材で囲むのが一般的な積層電池の構造である。
【0007】
このような固体高分子型の燃料電池におけるガスケットは、セパレータと拡散層との接触を行わせつつガスシールを行うため、高い寸法精度か十分な弾性と十分なガスケット締め代が必要であった。
【0008】
このような理由から、従来のガスケットは樹脂やゴムで出来たシート状の平ガスケットやゴムで出来たOリング等が用いられていた。
【0009】
また、最近ではスタックの締結荷重を低下させ、構造部材の軽量化、簡素化、低コスト化を行うためガスケットのシールに必要な荷重を下げる試みも行われており、Oリング形状だけでなく三角形状や半円形状等の断面を持ったガスケットによる構成が試みられている(例えば、特許文献1、及び2参照。)。
【0010】
また、Oリング形状等ガスケットにある程度の断面積があるものは、ガスケットをセパレータ側に構成した試みも行われている。
【特許文献1】特開平11−233128号公報
【特許文献2】特開2002−141082号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
電解質膜を挟んでシールするOリング形状等のガスケット構成では、Oリング部で電解質膜をセパレータに押し付けることでシールを行う。そのため燃料極側ガスシールと酸化極側ガスシールとの二重ガスシール構成が必要でありシール部位が大型化する課題があった。さらにOリング部が入る溝をセパレータに構成する必要があり、その溝寸法を確保するためセパレータの厚さを薄く出来ない等の制約があった。そのため積層電池での体積の増大やコスト増、複雑なセパレータ形状が必要であるため、セパレータ加工時の歩留まりの悪化原因になっていた。
【0012】
また、積層電池を組み付ける際、セパレータを下に置きその上にMESAあるいはMEAを置き、その上にセパレータあるいはガスケットとセパレータを重ねそれを積み重ねていく工程をとる。その際MEAの上に置くガスケットあるいはセパレータは組み付け治具のガイドにより組み付けていた。しかし、各部品には寸法誤差があり電極とガスケット、セパレータの組み付け性の観点からガスシール部と電極部の間には作業性あるいは製造の歩留まり性を確保するためのクリアランスが必要であった。
【0013】
このクリアランスが小さい場合、組み付け時の信頼性が低くシール部に電極の一部が噛み込む等でシール不良が生じたり、電極にシール部が当たり、電池性能の低下や、電極への過大な面圧が働き電解質膜の破損、耐久性の低下等を引き起こしていた。
【0014】
特にガスケットとMEAの間のクリアランスは大きくとらなければ、組み付け性を確保出来なかった。ここで、このガスケットとMEAの間のクリアランスには反応ガスが流れるため、クリアランスを大きくすると、反応ガスがセパレータ流路を流れずにショートカットしてしまう。さらに、このクリアランスはMEA、ガスケット、組み付け誤差等で各セル毎にばらつき、各セル間の圧力損失ばらつきの原因となっていた。
【0015】
このように各セル間に圧力損失のばらつきがあった場合、積層電池において各セルの圧力損失に見合った反応ガスがそれぞれのセルに流れるため、反応ガス流量にばらつきが生じ、結果電池性能がばらつき、発電電圧低下、耐久性低下、低出力運転時の安定性低下等の弊害があった。これらの症状は反応ガスの利用率が比較的大きい燃料ガス側で顕著であった。
【0016】
また、それらのクリアランスを低減するためガスケットと電極間のクリアランスを少なくしていった場合、部品寸法の精度向上の必要性があり、歩留まりの低下、部品コストの上昇を招いていた。特に成形セパレータでは組み立て時に利用する位置決め用ガイド部等の加工精度に限界があるため、位置決め用ガイド部の精度向上に限界があり、クリアランスを低減することが困難であった。そのためセパレータを成形後、位置決め用ガイド部分を後加工で追加していた。結果、コスト上昇を招いていた。
【0017】
また、平形状のガスケットでは、ガスケットの占める体積は低減可能であるものの、上記の組付けに関する課題やクリアランス部の反応ガスのバイパスに関する課題は共通で存在する。
【0018】
上記従来の課題を考慮し、本発明の目的は、ショートカット流を防止出来、容易に単電池間の圧力損失バラツキを低減出来、燃料電池の安定性の向上を図ることが可能な、又は低コスト化を図ることが可能な燃料電池及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記の目的を達成するために、第1の本発明は、電解質と、前記電解質を挟み込むように配設された一対の燃料ガス及び酸化剤ガス拡散電極と、前記燃料ガス又は酸化剤ガスを前記一対のガス拡散電極に供給するためのガス流路溝部とガス供給溝部とガス排出溝部を有するガス流路溝が形成され、前記一対のガス拡散電極を外側から挟み込むように配設された一対の燃料ガス側及び酸化剤ガス側セパレータと、前記ガス拡散電極の周囲の、前記電解質と前記一対のセパレータとの間に配設された、前記ガスの気密を保つための一対の燃料ガス側及び酸化剤ガス側シール手段とを備え、前記ガス流路溝部は前記一対のセパレータの前記ガス拡散電極に対応する箇所に形成され、前記ガス供給溝部と前記ガス排出溝部は、前記ガス拡散電極に対応する以外の箇所に形成されており、(1)前記燃料ガス側セパレータと前記燃料ガス拡散電極と前記電解質と前記燃料ガス側シール手段とによって囲まれた燃料ガス側の空間へ前記燃料ガス側セパレータのガス供給溝部から前記燃料ガスが通れず、かつ前記燃料ガス側セパレータのガス流路溝部へ前記燃料ガスが供給されるように、(2)又は前記燃料ガス側の空間から、前記燃料ガス側セパレータのガス排出溝部へ前記燃料ガスが通れず、かつ前記燃料ガス側セパレータのガス排出溝部から前記燃料ガスが排出されるように、(3)又は前記燃料ガス側の空間の、前記燃料ガスが通った場合の流通方向に対する断面の少なくとも一部を前記燃料ガスが通れないように、液状シール剤が硬化した状態で前記燃料ガス側の空間の少なくとも一部に形成されている燃料電池である。
【0020】
又、第2の本発明は、(1)前記酸化剤ガス側セパレータと前記酸化剤ガス拡散電極と前記電解質と前記酸化剤ガス側シール手段とによって囲まれた酸化剤ガス側の空間へ前記酸化剤ガス側セパレータのガス供給溝部から前記酸化剤ガスが通れず、かつ前記酸化剤ガスセパレータのガス流路溝部へ前記酸化剤ガスが供給されるように、(2)又は前記酸化剤ガス側の空間から前記酸化剤ガス側セパレータのガス排出溝部へ前記酸化剤ガスが通れず、かつ前記酸化剤ガス側セパレータのガス排出溝部から前記酸化剤ガスが排出されるように、(3)又は前記酸化剤ガス側の空間の、前記酸化剤ガスが通った場合の流通方向に対する断面の少なくとも一部を前記酸化剤ガスが通れないように、前記液状シール剤が硬化した状態で前記酸化剤ガス側の空間の少なくとも一部に更に形成されている第1の本発明の燃料電池である。
【0021】
又、第3の本発明は、前記燃料ガス側の空間は、前記燃料ガス側セパレータに形成された前記ガス流路溝を基準として形成される燃料ガス側第1の空間と燃料ガス側第2の空間で構成され、前記燃料ガス側の空間を前記ガスが通れないように前記空間を塞ぐための液状シール剤は、前記燃料ガス側第1の空間と前記燃料ガス側第2の空間の少なくとも各々一箇所ずつに形成されている第1の本発明の燃料電池である。
【0022】
又、第4の本発明は、前記酸化剤ガス側の空間は、前記酸化剤ガス側セパレータに形成された前記ガス流路溝を基準として形成される酸化剤ガス側第1の空間と酸化剤ガス側第2の空間で構成され、前記酸化剤ガス側の空間を前記ガスが通れないように、前記空間を塞ぐための液状シール剤は、前記酸化剤ガス側第1の空間と前記酸化剤ガス側第2の空間の少なくとも各々一箇所ずつに形成されている第2の本発明の燃料電池である。
【0023】
又、第5の本発明は、前記液状シール剤は、オレフィン系シール剤であり、硬化前の粘度が500〜2000Pa・Sの範囲である第1の本発明の燃料電池である。
【0024】
又、第6の本発明は、前記オレフィン系シール剤は、硬化後の硬さがA30〜A60である第5の本発明の燃料電池である。
【0025】
又、第7の本発明は、前記オレフィン系シール剤は、ブチルゴムを含んでいる第5の本発明の燃料電池である。
【0026】
又、第8の本発明は、前記燃料側、及び/又は酸化剤ガス側の拡散層は、カーボンクロスを主成分としている第1の本発明の燃料電池である。
【0027】
又、第9の本発明は、第1〜8のいずれかの本発明の燃料電池を製造する方法において、前記電解質に前記ガス拡散電極を接合し、電極/電解質接合体を作成する工程と、前記シール手段を前記セパレータに圧着する工程と、前記電極/電解質接合体と前記セパレータを組み付ける工程と、前記セパレータに設けられた、前記空間に連通した貫通孔から前記液状シール剤を注入する工程とを備えた燃料電池の製造方法である。
【発明の効果】
【0028】
本発明により、ショートカット流を防止出来、容易に単電池間の圧力損失バラツキを低減出来、燃料電池の安定性の向上を図ることが可能な、又は低コスト化を図ることが可能な燃料電池及び製造方法を提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0030】
(実施の形態1)
本発明の燃料電池の一実施例である、本実施の形態1における固体高分子型燃料電池の構成について以下に説明する。
【0031】
図1は、本実施の形態1における固体高分子型燃料電池を構成する単電池の縦断面図である。本実施の形態1における固体高分子型燃料電池は、複数の積層された単電池16を備えている。この単電池16は、水素イオンを選択的に輸送する、本発明の電解質の一例であるプロトン伝導性高分子電解質膜1を備えている。このプロトン伝導性高分子電解質膜1の両面には、白金系の金属触媒を担持したカーボン粉末を主成分とする触媒反応層が形成されている。
【0032】
また、この触媒反応層の外面に、反応ガスの通気性と、電子導電性を併せ持つ拡散層が形成されており、この拡散層と触媒反応層とを合わせてガス拡散電極2とする。このガス拡散電極2は、プロトン伝導性高分子電解質膜1の両面に形成されており一方が燃料ガス拡散電極2aであり、他方が酸化剤ガス拡散電極2bである。これら、プロトン伝導性高分子電解質膜1と燃料ガス拡散電極2aと酸化剤ガス拡散電極2bを合わせて、MEA3(電極電解質膜接合体)と呼ぶ。
【0033】
また、この一対のガス拡散電極2の周囲には、供給する反応ガスが外にリークしたり、二種類の反応ガスが互いに混合しないように、プロトン伝導性高分子電解質膜1を挟んで、本発明の燃料ガス側シール手段の一例である燃料ガス側ガスケット4と本発明の酸化剤ガス側シール手段の一例である酸化剤ガス側ガスケット5が設置されている。これら燃料ガス側ガスケット4及び酸化剤ガス側ガスケット5は、ガス拡散電極2及びプロトン伝導性高分子電解質膜1と一体化して予め組み立てられており、これをMESA(電極電解質膜シール材接合体)と呼ぶ。
【0034】
このMESAを機械的に固定するとともに、隣接したMEAを互いに電気的に直列に接続するための燃料ガス側セパレータ6と酸化剤ガス側セパレータ7が、MEA3を外側から挟むように配設されている。この燃料ガス側セパレータ6には、MEA3と接触する部分である電極面に反応ガスを供給し、生成水や余剰ガス等を運び去るための燃料ガス流路溝12が形成されている。また、その反対面には冷却するための冷却水を流すための冷却水流路溝14が形成されている。燃料ガス側セパレータと同様に、酸化剤ガス側セパレータ7にも酸化剤ガス流路溝13が形成されており、その反対面に冷却水流路溝15が形成されている。
【0035】
ここで、組み立てる際に燃料ガス拡散電極2aと接触しないように、燃料ガス側ガスケット4は設置されている。このため、プロトン伝導性高分子電解質膜1と燃料ガス側セパレータ6と燃料ガス拡散電極2aと燃料ガス側ガスケット4の間に、本発明の燃料ガス側の空間の一例であるクリアランス部9が形成される。尚、酸化剤ガス側にも上記と同様に、本発明の酸化剤ガス側の空間の一例であるクリアランス部10が形成される。
【0036】
また、燃料ガス側セパレータ6には、燃料ガス流路溝12の形成面から反対面まで、クリアランス部9に開口部を有する貫通孔8が設けられている。同様に、酸化剤ガス側セパレータ7にも、そのクリアランス部10に開口部を有する貫通孔8が設けられている。これらクリアランス部9、10には、液状シール剤11が硬化した状態で充填されている。
【0037】
この燃料ガス側ガスケット4のプロトン伝導性高分子電解質膜1と接触する部分は、図1に示す様にリップ形状をしている。また、酸化剤ガス側ガスケット5は、プロトン伝導性高分子電解質膜1と接触する側は、平形状をしている。
【0038】
次に、セパレータの構造について以下に詳しく述べる。
【0039】
図2(a)は燃料ガス流路溝12が形成された側の燃料ガス側セパレータ6の平面図である。図2(b)は、図2(a)の反対の面である冷却水流路溝14が形成された側の燃料ガス側セパレータ6の平面図である。図2(c)は、燃料ガス側セパレータ6の側面図である。
【0040】
また、図3(a)は、酸化剤ガス流路溝13が形成された側の酸化剤ガス側セパレータ7の平面図である。図3(b)は、図3(a)の反対面である冷却水流路溝15が形成された側の酸化剤ガス側セパレータ7の平面図である。図3(c)は、酸化剤ガス側セパレータ7の側面図である。
【0041】
図2、3に示す様に、燃料ガス側セパレータ6及び、酸化剤ガス側セパレータ7には、その周囲に燃料ガスを供給し、その残存ガス等を排出するための燃料ガス入口マニホールド21と燃料ガス出口マニホールド22が開設されている。さらに、酸化剤ガス入口マニホールド23及び酸化剤ガス出口マニホールド24と、冷却水入口マニホールド25及び冷却水出口マニホールド26も各セパレータの周囲に開設されている。
【0042】
これら各出入口マニホールドに囲まれた部分に、各流路溝が形成されている。燃料ガス側セパレータ6には、片面に燃料ガス流路溝12が、反対面には冷却水流路溝14が形成されている。また、酸化剤ガス側セパレータ7には、片面に酸化剤ガス流路溝13が、反対面には冷却水流路溝15が形成されている。
【0043】
ここで、流路溝について、燃料ガス流路溝12を例に挙げて説明をする。図4は、燃料ガス流路溝12の平面図である。図4に示す様に、燃料ガス流路溝12は、複数本の平行な溝によって構成されている。また、燃料ガス流路溝12は、燃料ガス入口マニホールド21から燃料ガス流路溝12へ燃料ガスを導く、燃料ガス供給溝部12aと、燃料ガス拡散電極2aに燃料ガスを供給する燃料ガス流路溝部12bと、本発明の燃料ガス流路溝12から燃料ガス出口マニホールド22へと残存ガス等を導く、燃料ガス排出溝部12cとを有している。この燃料ガス流路溝部12bは、この形成面を上面から見ると実質上正方形状になっている。
【0044】
また、酸化剤ガス流路溝13も上記と同様に、酸化剤ガス供給溝部13aと、酸化剤ガス流路溝部13bと、酸化剤ガス排出溝部13cとを有している。又、冷却水流路溝14、15は冷却水入口マニホールド25と冷却水出口マニホールド26に繋がっている。
【0045】
これらの各マニホールドの位置は、この燃料ガス側セパレータ6と酸化剤ガス側セパレータ7を組み立てた際に、一致するように開設されている。
【0046】
また、図1において説明した様に、燃料ガス側セパレータ6及び酸化剤ガス側セパレータ7には、燃料ガス流路溝部12b及び酸化剤ガス流路溝部13bの周囲近傍に貫通孔8が8箇所設けられている。これらの貫通孔8が設けられている場所は、燃料ガス流路溝部12b及び酸化剤ガス流路溝部13b流路溝が形成されている部分である正方形状の各頂点の周囲4箇所と各辺の中心の周囲4箇所である。
【0047】
また、燃料ガス流路溝12が形成されている燃料ガス側セパレータ6の平面6a上に、各マニホールドと、貫通孔8も含めて燃料ガス流路溝部12bが形成されている部分とを囲うように燃料ガス側ガスケットライン27が形成されている。この燃料ガス側ガスケットライン27には、燃料ガス側ガスケット4が取り付けられている。燃料ガス側セパレータ6と同様に、酸化剤ガス流路溝13が形成されている酸化剤ガス側セパレータの平面7aにも酸化剤ガス側ガスケットライン28が形成されており、酸化剤ガス側ガスケット5が取り付けられている。
【0048】
また、冷却水流路溝15が形成されている酸化剤ガス側セパレータの平面7bにも、上記と同様に冷却水用ガスケットライン29が形成されており、ガスケットが取り付けられている。尚、この面は単電池の積層時に、図1(b)に示す、ガスケットを有していない燃料ガス側セパレータの冷却水流路溝14の形成面6bに対面する。尚、図2及び図3に示されている燃料ガス側セパレータ6及び酸化剤ガス側セパレータ7を単電池に組んだ際のAA´における断面図が図1である。
【0049】
次に、クリアランス部9、10について詳しく述べる。
【0050】
図5は、燃料ガス側セパレータ6に燃料ガス拡散電極2a(拡散層と触媒反応層)を設置した状態の平面図である。図2(a)と比較すると明らかなように、燃料ガス流路溝部12bが形成されている部分に対応して燃料ガス拡散電極2aが設置されている。単電池16を組み立てる際に、燃料ガス拡散電極2aとガスケットライン27の間がクリアランス部9を形成し、貫通孔8の開口部を有している。
【0051】
また、燃料ガス入口マニホールド21から燃料ガス出口マニホールド22へクリアランス部9を介して燃料ガスがショートカットする経路は、燃料ガス入口マニホールド21から燃料ガス供給溝部12a方向をみて(図5における矢印S方向)、右方向への経路と、左方向への経路の2つの経路がある。この右側の経路は、図5では、燃料ガス流路溝12を基準とする左側の空間であるクリアランス部9aに相当し、左側の経路は、右側の空間であるクリアランス部9bに相当する。
【0052】
尚、本発明の燃料ガス側第1の空間と第2の空間は、本実施の形態1におけるクリアランス部9a及び9bに相当する。また、図5では、クリアランス部9aを左下がりの斜線、クリアランス部9bを右下がりの斜線で示している。
【0053】
尚、酸化剤ガス側も同様にクリアランス部10は、2つの空間で構成され、それらの2つの空間は、本発明の酸化剤ガス側第1の空間と第2の空間に相当する。
【0054】
また、図1と図5に示される様に、燃料ガス供給溝部12aと燃料ガス排出溝部12cはクリアランス部9をまたいでおり、溝が形成されている面上に燃料ガス側ガスケット4が設置されている。酸化剤ガス側も同様に、酸化剤ガス供給溝部13aと酸化剤ガス排出溝部13cがクリアランス部10をまたいでいる。
【0055】
本実施の形態1の固体高分子型燃料電池は、10〜200セル積層された上記構成の単電池16を備えており、その両端に集電板と絶縁板が配置されている。この絶縁板の外側には、積層された単電池と集電板と絶縁板を固定するための端板と締結ボルトが配設されており、これらは断熱材によって囲まれている(図示せず)。
【0056】
上記構成の本実施の形態1における固体高分子型燃料電池の製造方法について以下に述べる。
【0057】
始めに、アセチレンブラック系カ−ボン粉末に、平均粒径約30Åの白金粒子を25重量%担持したものとパーフルオロカーボンスルホン酸の粉末を混合したものを、厚み250μmのカ−ボン不織布を主成分とする拡散層の一方の面に塗布乾燥しガス拡散電極2を形成した。形成後の反応電極中に含まれる白金量は0.5mg/cm、パーフルオロカーボンスルホン酸の量は1.2mg/cmとなるよう調整した。
【0058】
次に、これらのガス拡散電極2は、正極・負極共に同一構成とし、ガス拡散電極2より大きい面積を有するプロトン伝導性高分子電解質膜1の中心部の両面に、印刷した触媒層が電解質膜側に接するようにホットプレスによって接合し、電極/電解質接合体(MEA)3を作成した。
【0059】
ここでは、プロトン伝導性高分子電解質膜1として、パーフルオロカーボンスルホン酸を175μmの厚みに薄膜化したものを用いた。このプロトン伝導性高分子電解質膜1のサイズは後述するセパレータサイズと同じ大きさとし、プロトン伝導性高分子電解質膜1には燃料ガス用、冷却水用、酸化剤ガス用入口及び出口マニホールドに対応した大きさの穴を打ち抜き型により加工した。
【0060】
次に、気密等方性黒鉛板に機械加工によりガス流路、及びマニホールドを形成した。燃料ガス側セパレータ6は、片側に燃料ガス流路溝12と燃料ガス側ガスケットライン27を加工し、反対の面に冷却水流路溝14を加工した。また、酸化剤ガス側セパレータ7は、片側に酸化剤ガス流路溝13と酸化剤ガス側ガスケットライン28を加工し、反対の面に冷却水流路溝15及び冷却水用ガスケットライン29を加工した。これらのセパレータの厚さは3mm、板状部分の両側に形成された流路は3mmピッチ(溝幅1.5mm)の溝形状から構成される形状とした。
【0061】
これら流路部の周辺には酸化剤ガス用マニホールド、燃料ガス用マニホールド、冷却水用マニホールドを入口用、出口用合計2個づつ設けた。また、それぞれのセパレータの流路部の周辺には、組み立て後の液状シールを封入するための貫通孔8を8箇所形成した。
【0062】
次に、酸化剤ガス側ガスケット5の材料として、片側に25ミクロンのブチルゴム粘着剤のついた、厚さ100ミクロンのポリイミドフィルム上に125ミクロンのフッ素ゴムを成形したものを作成した。続いて、そのガスケット材料にマニホールド、締結用ボルト穴、電極に対応する部位を抜き型で抜いてガスケットを作製した。電極に対応する箇所の寸法は、電極部とのクリアランスが片側で1mmとなるように作製した。
【0063】
また、燃料ガス側ガスケット4の材料として、片側に25ミクロンのブチルゴム粘着剤のついた、厚さ100ミクロンのポリイミドフィルムの上に、幅が3mm、厚さ125ミクロンのフッ素ゴム層を設けたものを作成した。さらに、その上に電極からの距離1mmのところから垂直方向に半径2.5mmの曲率で開き角度35°、電極側に凸な断面形状を有するリップ状シール部材を電極を囲む位置にフッ素ゴムにて形成した。それ以外の箇所は厚さ125ミクロンのゴム層の幅3mmの中心部に同様な断面形状を持つリップ状シール部材を形成した。
【0064】
その後フッ素ゴムが成形されたポリイミドフィルムに、マニホールド、締結用ボルト穴、電極に対応する部位を抜き型で抜いてガスケットを作製した。電極に対応する箇所の寸法は上述した電極部とのクリアランスからあらかじめマーキングし作製した。ポリイミドフィルムへのフッ素ゴムの成形は、金型にポリイミドフィルムをセットし金型を締め、温度200℃、射出圧力150kgf/cmでフッ素ゴムを成型し、二次架橋は200℃、10hourで行った。その後、ブチルゴム粘着面をポリイミドフィルムに転写接合し粘着面にはポリプロピレン製の離型フィルムでカバーを行った。
【0065】
次に、上記のように製作した各ガスケットを対応する各セパレータにセットし、ホットプレスによりガスケットとセパレータの圧着を行った。このとき温度は100℃、プレス荷重は2000kgf、加圧時間は1minであった。断面がリップ形状ガスケットをホットプレスする際は、リップ部をプレスでつぶさないよう治具を用いて作業を行った。
【0066】
次に、燃料ガス側ガスケット4を接合した燃料ガス側セパレータ6と酸化剤ガス側ガスケット5を接合した酸化剤ガス側セパレータ7によって、電極面積100cmのMEA3を挟み、単位電池を構成した。単電池の積層毎に冷却水用ガスケット又はOリングを介し冷却水を流す冷却部を設けた。
【0067】
その組み立て手順を詳しく説明する。始めに、ガイドピンを立てた組み立て用治具を置き、その上に平形状ガスケットが付いた酸化剤ガス側セパレータ7を置く。
【0068】
次に、MEA3をガイドピンにそってセットする。その際MEA3の酸化剤ガス拡散電極2b(ガス拡散層と触媒反応層を合わせたもの)と酸化剤ガス側ガスケット5が干渉しないように積層する必要がある。ここで、MEA3は組み立てる環境の湿度により大きく寸法が変化するため、酸化剤ガス側ガスケット5と酸化剤ガス拡散電極2bのクリアランスは大きくとる必要がある。MEA3を安定的に組み付けるにはこのクリアランスは1mm以上必要であった。
【0069】
次に、MEA3をセットした後に、燃料ガス側セパレータ6を組み付ける。セパレータは不透明であるため、MEA3の燃料ガス拡散電極2aとガスケットが接する様を目視出来ないため、ガイドピンにしたがって組み付けを行った。
【0070】
次に、上記の様に組み立てた単電池16において、あらかじめ作製しておいた、燃料ガス側セパレータ6に設けられたクリアランス部9に開口部を有する貫通孔8と、酸化剤ガス側セパレータ7に設けられたクリアランス部10に開口部を有する貫通孔8とから液状シール剤11を封入し、図1に示す様にクリアランス部9、10を封止した。
【0071】
ここで、液状シール剤11としてはスリ−ボンド製TB1152やTB1153が使用可能であるが、その他にもブチルゴム系が主成分であり、硬化前の粘度が500〜2000Pa・sの範囲であり、硬化後の硬さがA30〜A60の範囲の液状シール剤であれば使用可能である。
【0072】
なお、硬化前の粘度が、400Pa・Sである液状シール剤を用いて上記と同様に貫通孔8から注入を行った後、単電池を分解し封止されているかの確認を行った。しかし、粘性が低いためにクリアランス部9、10に沿って液状シール剤は流れていき、貫通孔8の周囲にて硬化しなかった。また、硬化前の粘度が、3000Pa・Sである液状シール剤を用いて貫通孔8から注入を行ったが、粘性が高すぎるため注入出来なかった。
【0073】
次に、上記の様に作成した単電池16を交互に重ねていき、10〜200セル積層する。続いて、集電板と絶縁板を介し端板で積層された複数の単電池16を挟み、締結ボルトで両端から固定する。最後に、固定された複数個の単電池16と集電板と絶縁板のまわりを断熱材で囲む。
【0074】
以上の構成及び製造方法の本実施の形態1における高分子電解質型燃料電池の動作について以下に述べる。
【0075】
積層された単電池16の燃料ガス入口マニホールド21から燃料ガスを、酸化剤ガス入口マニホールド23から、本発明の酸化剤ガスの一例である空気を各単電池16に供給する。各単電池16に供給された燃料ガスは、燃料ガス流路溝12を通り、燃料ガス拡散電極2aに供給される。また酸化剤ガスも同様に酸化剤ガス拡散電極2bに供給される。
【0076】
ここで、燃料ガス側を例に挙げて説明する。本実施の形態1では、クリアランス部9の一部を液状シール剤11が硬化した状態で塞いでいるため、燃料ガス供給溝部12aからクリアランス部9を通って燃料ガス排出溝部12cまで燃料ガスはショートカットすることが出来ない。そのため、燃料ガスは、クリアランス部9を通らずに、燃料ガス流路溝部12bへと供給される。また、酸化剤ガス側も同様である。そして、燃料ガス及び酸化剤ガスが電極に供給されることで、電気化学的反応を起こし電気と熱が発生する。
【0077】
上述した様に、供給されたガスが入口から出口へ、クリアランス部9、10を通ることを防ぐことにより安定した発電の可能な固体高分子型燃料電池を提供することが出来る。
【0078】
また、クリアランス部9、10を小さくする必要がないため、部品の精度向上を抑えることが出来、又、位置決め用ガイド部分を後加工で追加する必要がないため、製造時のコストの低減を図ることが可能である。
【0079】
また、一対のガスケットの一方をリップ形状にしたことにより、より小さい締結力で良くなり、スタック締結部材の軽量化、コンパクト化、又は低コスト化を図ることが可能である。
【0080】
尚、ガスケットの形態としてO−リングを用いたシール方式に比較し、本実施の形態1はO−リングシール溝の必要性がないため、その分セパレータ厚さを薄くし、積層電池をコンパクトに出来ることは言うまでもない。
【実施例】
【0081】
以下に実施例にて更に詳しく本発明の燃料電池について述べる。
【0082】
(実施例1)
上記実施の形態1の固体高分子型燃料電池を構成する単電池を10個用意し、単電池の状態で圧力損失を測定した結果を表1に示す。
【0083】
この圧力損失測定方法としては、まず、酸化剤ガス入口マニホールド23に2L/minの流量の空気を流し、酸化剤ガス出口マニホールド24を大気開放の状態で入り口部の圧力を測定した。次に、酸化剤ガス側を開放し、燃料ガス入口マニホールド21に0.5L/minのヘリウムを流し、出口を大気開放状態での入り口側の圧力を測定した。表1には、単電池の圧力損失の平均値とバラツキ範囲を示した。
【0084】
(比較例1)
また、比較例として、実施例1の単電池の各セパレータに貫通孔を設けず、クリアランス部に液状シール剤による封止を行っていない単電池を用いた。また、組み立て方法も実施例1の単電池と同様の方法である。この比較例1の単電池の圧力損失値を実施例1と同様の方法を用いて測定した。実施例1の結果とともに表1に併記する。
【0085】
【表1】



表1より、本実施例1の評価結果では、クリアランス部をガスが流れるショートカットが防止されているために、空気側、燃料側の圧力損失が比較例と比較して、高くなっていることが判る。また、比較例1では、MEA3とガスケット4、5の位置がずれることによってクリアランスの大きさが変化し、ショートカットするガス量が増減するために、単電池間の圧力損失のバラツキが大きいが、本実施例ではショートカットが減少することによって、バラツキ幅も減少していることが判る。
【0086】
(実施例2)
また、実施例1に用いた単電池の液状シール剤11による封止箇所を変更し、実施例1と同様の方法で圧力損失値を測定した結果を表2に示す。
【0087】
ここで、液状シール剤11による封止箇所が2箇所の場合は、クリアランス部9aとクリアランス部9bに開口部を有する貫通孔8を一箇所づつ設けて、そこに液状シール剤11による封止を行う。これにより、ガスがクリアランス部9a及びクリアランス部9bを通るショートカット経路を遮断することが出来る。具体的には本実施例1では、図5において矢印S方向からみて、燃料ガス供給溝部12aの左近傍のクリアランス部9bに一箇所(図5における貫通孔8a)、燃料ガス排出溝部12cの右近傍のクリアランス部9aに一箇所(図5における貫通孔8b)、貫通孔8を設けた。また、酸化剤ガス側も同様の構成とした。
【0088】
また、封止箇所が4箇所の場合は、ガス流路溝が形成されている部分である正方形状の辺の中心4箇所に対応する箇所に封止を行う。尚、頂点4箇所に対応する箇所に封止を行っても良い。
【0089】
また、封止箇所が8箇所の場合は、正方形状の頂点4箇所と辺4箇所に対応する場所に封止を行う。
【0090】
また、封止箇所が12箇所の場合は、8箇所の封止の場合に比べて、8箇所の場合の封止箇所の頂点と辺の中心の間に一箇所づつ、4箇所増やした箇所に封止を行う。このとき、クリアランス部9aとクリアランス部9bのそれぞれに2箇所づつ振り分けられる。尚、酸化剤ガス側のクリアランス部10aと10bも同様の構成とした。
【0091】
【表2】



表2より、封止箇所は2箇所以上で効果があり、12箇所以上では飽和することが判る。
【0092】
(実施例3)
実施例1における単電池を50セル積層した後、集電板と絶縁板を介し、ステンレス製の端板と締結ロッドで、1000kgfの締結荷重で締結した。このとき感圧紙でMEA3とセパレータのあたりを確認した結果、MEA3にかかる面圧は10kgf/cmであった。
【0093】
この電池を燃料利用率80%、電流密度0.3A/cm、燃料ガスの加湿を露点70℃、酸化剤ガス側の加湿を65℃、酸化剤利用率を20%から5%刻みで変更していく条件で発電を開始し、各条件で12hrの発電の安定性を示した特性を図6に示した。
【0094】
(比較例2)
また、比較例1における単電池を実施例3と同様に積層し、実施例3と同じ条件で12hourにおける発電の安定性を測定した。その結果を実施例3とともに図6に示した。
【0095】
図6に示す様に、比較例2の積層電池は酸化剤利用率が40%以上の条件で出力電圧が不安定となり、50%の酸化剤利用率では出力電圧の低下が確認された。それに対し本実施例の電池は65%の酸化剤利用率まで安定した出力電圧が確認された。また、同様に水素側の利用率依存性も測定したが、結果は同様であった。
【0096】
このことから比較例2における単電池を構成する酸化剤側のガス拡散電極とガスケットクリアランスでは、ガス拡散層とガスケットの間のクリアランスに反応ガスがバイパスし電池性能を維持するに必要な量の反応ガスを電極部へ供給出来ていないことが確認された。それに対して本実施例3では、ガス拡散電極とガスケットとのクリアランスを流れるバイパス流を低減し、電池性能の低下を防止することが可能であることが確認された。
【0097】
(実施例4)
次に、本実施例ではMEA3に用いたGDL(ガス拡散層)の種類を変更したときの、本発明の効果を検証する。
【0098】
GDLの種類としては、カーボンペーパーとカーボンクロスを用い、燃料ガス側、酸化剤ガス側に組み合わせた。
【0099】
すなわち、両極にカーボンペーパーを用いた場合、及び燃料ガス側にカーボンペーパー、酸化剤ガス側にカーボンクロスを用いた場合、及び両極にカーボンクロスを用いた場合の3種類の単電池を用意した。
【0100】
ここで、カーボンペーパーとしては、東レ製TGPH060を用いた、またカーボンクロスとしては日本カーボン製GF−20−Eを用いた。
【0101】
これら3種類の単電池の圧力損失値を実施例1と同様の方法で測定した。その結果を表3に示す。
【0102】
【表3】



一般的に、カーボンクロスはカーボンペーパーに対して形状安定性が悪く、端部のほつれなどによってクリアランス部の形状が安定しない傾向にある。一方、カーボンクロスはカーボンペーパーに比較して柔らかいために、セパレータによって締結された際に、セパレータの流路部にカーボンクロスが垂れ込むために、圧力損失が40%程度上昇することが知られている。このため、カーボンクロスを用いた場合には、ショートカットの影響を大きく受けると考えられ、実際に従来例ではカーボンペーパーを用いた場合よりも、圧力損失のバラツキが増大していた。
【0103】
従来例である(表1)の比較例1(燃料極及び空気極ともにカーボンペーパーを用いている。)と比較して、表3に示す様に、本発明のクリアランス部を封止した場合には、カーボンクロスを燃料極及び空気極のどちらに用いても圧力損失のバラツキを低減出来ることが判る。
【0104】
以上のような3種類の単電池をそれぞれ50セル積層した後、集電板と絶縁板を介し、ステンレス製の端板と締結ロッドで、1000kgfの締結荷重で締結した。このとき感圧紙でMEA3とセパレータのあたりを確認した結果、MEA3にかかる面圧は10kgf/cmであった。
【0105】
これらの3種類の電池を燃料利用率80%、電流密度0.3A/cm、燃料ガスの加湿を露点70℃、酸化剤ガス側の加湿を65℃、酸化剤利用率を20%から5%刻みで変更していく条件で発電を開始し、各条件で12hourの発電の安定性を示した特性を図7に示した。
【0106】
その結果、両極にカーボンペーパーを用いた場合、及び燃料極にカーボンペーパー、空気極にカーボンクロスを用いた場合、及び両極にカーボンクロスを用いた場合の全てにおいて、本発明を用いた場合には65%の酸化剤利用率まで安定した出力電圧が確認された。また、同様に水素側の利用率依存性も結果は同様であった。
【0107】
尚、本発明の燃料電池は、実施の形態1では、固体高分子型燃料電池に相当するが、リン酸型燃料電池でも良く、要するに各単電池のクリアランス部を封止することによってガスのショートカットを防ぐことが出来れば良い。
【0108】
また、本実施の形態1では、燃料ガス側のクリアランス部及び酸化剤ガス側のクリアランス部をともに封止しているが、燃料ガス側の方がショートカットの影響を大きく受けるため、燃料ガス側のクリアランス部のみを液状シール剤によって封止しても良い。
【0109】
また、本発明の燃料ガス側の空間へ、燃料ガス側セパレータのガス供給溝から燃料ガスが通れず、かつ燃料ガス流路溝部へ燃料ガスが供給される状態とは、本実施の形態1では燃料ガス側セパレータ6の燃料ガス供給溝部12aからクリアランス部へ燃料ガスが漏れず、燃料ガス流路溝部12bに供給される状態を示している。この場合、クリアランス部9をまたいでいる、燃料ガス供給溝部12aが形成されている燃料ガス側セパレータ6の表面部のみを、燃料ガス供給溝部12aを埋めないように液状シール剤11で封止すれば良い。
【0110】
また、本発明の燃料ガス側の空間から、燃料ガス側セパレータのガス排出溝へ燃料ガスが通れず、かつ燃料ガス側セパレータのガス流路溝から燃料ガスが排出される状態とは、本実施の形態1では燃料ガス側セパレータ6の燃料ガス排出溝部12cへクリアランス部9から燃料ガスが通らず、燃料ガス出口マニホールド22へ燃料ガスが排出される状態を示している。この場合、クリアランス部9をまたいでいる、燃料ガス排出溝部12cが形成されている燃料ガス側セパレータ6の表面部のみを、燃料ガス排出溝部12cを埋めないように液状シール剤11で封止すれば良い。尚、酸化剤ガス側も上記と同様である。
【0111】
また、本発明の燃料ガスが通った場合の流通方向に対する断面の少なくとも一部をガスが通れないように液状シール剤が硬化して形成されている状態とは、本実施の形態1におけるクリアランス部9の断面の一部が硬化した液状シール剤11によって塞がれている状態を示している。この場合燃料ガスがクリアランス部9を通ってショートカットするのを完全に防ぐことは出来ないが、従来と比較するとショートカット率を低減させることは可能である。尚、酸化剤ガス側においても上記燃料ガス側と同様である。
【0112】
また、本発明の液状シール剤が硬化した状態で燃料ガス側の空間の少なくとも一部に形成されている状態とは、本実施の形態1ではクリアランス部9の一部に液状シール剤11が硬化した状態で形成されている状態を示している。即ち、実施の形態1の貫通孔8を少なくとも一箇所設けて、そこに液状シール剤11を注入し、封止する状態を示しており、燃料ガスのショートカットの率は、従来に比べて低減はするが、ショートカットする流路を塞ぐためには、クリアランス部9a、クリアランス部9bの各々に1箇所ずつ以上封止箇所を設けたほうが好ましい。尚、酸化剤ガス側においても上記燃料ガス側と同様である。
【0113】
また、本実施の形態1では、燃料ガス側ガスケット4の断面形状はリップ形状であり、酸化剤ガス側ガスケット5の形状が平形状であったが、燃料ガス側と酸化剤ガス側のガスケットを入れ替えても良い。また、リップ形状でなくとも積層された単電池の締結力が低減できれる形状であれば良い。
【0114】
また、本実施の形態1におけるセパレータは、図2及び図3に示したように、片側に燃料ガス流路溝が加工され、反対の面に冷却水流路溝が加工された燃料極用セパレータと、片側に空気流路溝が加工され反対の面に冷却水流路溝が加工された酸化極用セパレータである。これら2つのセパレータでは、積層した際に1つの単電池毎に冷却部を設けることになるため、冷却水流路溝の形成されていないセパレータを更に備えて、複数の単電池毎に冷却水を流す冷却部を設ける構成にしても良い。また、片側に燃料ガス流路溝が加工され、反対の面に空気流路溝が加工されたセパレータを更に備え、3種類のセパレータを適宜組み合わせて、複数の単電池毎に冷却水を流す冷却部を設ける構成にしても良い。
【0115】
また、本実施の形態1におけるセパレータは、燃料ガス入口マニホールドの隣に酸化剤ガス入口マニホールドが形成されているが、酸化剤ガス出口マニホールドを形成しても良く、本構成に限定されるものではない。
【0116】
また、本実施の形態1におけるガスケットに使用する部材についてはフッ素ゴム以外にも、ポリイソブレン、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、シリコーンゴム、ニトリルゴム、熱可塑性エラストマー、液晶ポリマー、ポリイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、テレフタルアミド樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリサルホン樹脂、シンジオタクチックポリスチレン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリプロピレン樹脂、フッ素樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、またはそれらの複合材でもかまわない。さらに、粘着剤は、スチレンとエチレンブチレンの共重合体、ポリイソブチレン、エチエンプロピレンゴム、ブチルゴム、それらの複合品でもかまわない。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明にかかる燃料電池及びその製造方法は、ショートカット流を防止出来、容易に単電池間の圧力損失バラツキを低減出来、燃料電池の安定性の向上が図ることが可能な、または、低コスト化を図ることが可能な効果を有し、ポータブル電源、携帯機器用電源、電気自動車用電源、家庭内コージェネシステム等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】本発明にかかる実施の形態1における燃料電池を構成する単電池の縦断面図
【図2】(a)本発明にかかる実施の形態1における燃料電池の燃料ガス供給溝が形成されている側の燃料ガス側セパレータの平面図(b)本発明にかかる実施の形態1における燃料電池の冷却水供給溝が形成されている側の燃料ガス側セパレータの平面図(c)本発明にかかる実施の形態1における燃料電池の燃料ガス側セパレータの側面図
【図3】(a)本発明にかかる実施の形態1における燃料電池の酸化剤ガス供給溝が形成されている側の酸化剤ガス側セパレータの平面図(b)本発明にかかる実施の形態1における燃料電池の冷却水供給溝が形成されている側の酸化剤ガス側セパレータの平面図(c)本発明にかかる実施の形態1における燃料電池の酸化剤ガス側セパレータの側面図
【図4】本発明にかかる実施の形態1における燃料電池の燃料ガス流路溝の平面図
【図5】本発明にかかる実施の形態1における燃料電池の燃料ガス側セパレータに電極を組み合わせた状態を示す平面図
【図6】本発明にかかる実施例1における燃料電池と比較例の燃料電池の出力特性を示した図
【図7】本発明にかかる実施例3における3種類の燃料電池の出力特性を示した図
【符号の説明】
【0119】
1 プロトン導電性電解質膜
2 電極
2a 燃料ガス拡散電極
2b 酸化剤ガス拡散電極
3 MEA
4 燃料ガス側ガスケット
5 酸化剤ガス側ガスケット
6 燃料ガス側セパレータ
6a 燃料ガス側セパレータの燃料ガス流路溝形成面
6b 燃料ガス側セパレータの冷却水流路溝形成面
7 酸化剤ガス側セパレータ
7a 酸化剤ガス側セパレータの酸化剤ガス流路形成面
7b 酸化剤ガス側セパレータの冷却水流路溝形成面
8 貫通孔
9 クリアランス部
10 クリアランス部
11 液状シール剤
12 燃料ガス流路溝
12a 燃料ガス供給溝部
12b 燃料ガス流路溝部
13 酸化剤ガス流路溝
13a 酸化剤ガス供給溝部
13b 酸化剤ガス流路溝部
14 冷却水流路溝
15 冷却水流路溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質と、
前記電解質を挟み込むように配設された一対の燃料ガス及び酸化剤ガス拡散電極と、
前記燃料ガス又は酸化剤ガスを前記一対のガス拡散電極に供給するためのガス流路溝部とガス供給溝部とガス排出溝部を有するガス流路溝が形成され、前記一対のガス拡散電極を外側から挟み込むように配設された一対の燃料ガス側及び酸化剤ガス側セパレータと、
前記ガス拡散電極の周囲の、前記電解質と前記一対のセパレータとの間に配設された、前記ガスの気密を保つための一対の燃料ガス側及び酸化剤ガス側シール手段とを備え、
前記ガス流路溝部は前記一対のセパレータの前記ガス拡散電極に対応する箇所に形成され、前記ガス供給溝部と前記ガス排出溝部は、前記ガス拡散電極に対応する以外の箇所に形成されており、
(1)前記燃料ガス側セパレータと前記燃料ガス拡散電極と前記電解質と前記燃料ガス側シール手段とによって囲まれた燃料ガス側の空間へ前記燃料ガス側セパレータのガス供給溝部から前記燃料ガスが通れず、かつ前記燃料ガス側セパレータのガス流路溝部へ前記燃料ガスが供給されるように、
(2)又は前記燃料ガス側の空間から、前記燃料ガス側セパレータのガス排出溝部へ前記燃料ガスが通れず、かつ前記燃料ガス側セパレータのガス排出溝部から前記燃料ガスが排出されるように、
(3)又は前記燃料ガス側の空間の、前記燃料ガスが通った場合の流通方向に対する断面の少なくとも一部を前記燃料ガスが通れないように、
液状シール剤が硬化した状態で前記燃料ガス側の空間の少なくとも一部に形成されている燃料電池。
【請求項2】
(1)前記酸化剤ガス側セパレータと前記酸化剤ガス拡散電極と前記電解質と前記酸化剤ガス側シール手段とによって囲まれた酸化剤ガス側の空間へ前記酸化剤ガス側セパレータのガス供給溝部から前記酸化剤ガスが通れず、かつ前記酸化剤ガスセパレータのガス流路溝部へ前記酸化剤ガスが供給されるように、
(2)又は前記酸化剤ガス側の空間から前記酸化剤ガス側セパレータのガス排出溝部へ前記酸化剤ガスが通れず、かつ前記酸化剤ガス側セパレータのガス排出溝部から前記酸化剤ガスが排出されるように、
(3)又は前記酸化剤ガス側の空間の、前記酸化剤ガスが通った場合の流通方向に対する断面の少なくとも一部を前記酸化剤ガスが通れないように、
前記液状シール剤が硬化した状態で前記酸化剤ガス側の空間の少なくとも一部に更に形成されている請求項1記載の燃料電池。
【請求項3】
前記燃料ガス側の空間は、前記燃料ガス側セパレータに形成された前記ガス流路溝を基準として形成される燃料ガス側第1の空間と燃料ガス側第2の空間で構成され、
前記燃料ガス側の空間を前記ガスが通れないように前記空間を塞ぐための液状シール剤は、前記燃料ガス側第1の空間と前記燃料ガス側第2の空間の少なくとも各々一箇所ずつに形成されている請求項1記載の燃料電池。
【請求項4】
前記酸化剤ガス側の空間は、前記酸化剤ガス側セパレータに形成された前記ガス流路溝を基準として形成される酸化剤ガス側第1の空間と酸化剤ガス側第2の空間で構成され、
前記酸化剤ガス側の空間を前記ガスが通れないように、前記空間を塞ぐための液状シール剤は、前記酸化剤ガス側第1の空間と前記酸化剤ガス側第2の空間の少なくとも各々一箇所ずつに形成されている請求項2記載の燃料電池。
【請求項5】
前記液状シール剤は、オレフィン系シール剤であり、
硬化前の粘度が500〜2000Pa・Sの範囲である請求項1記載の燃料電池。
【請求項6】
前記オレフィン系シール剤は、硬化後の硬さがA30〜A60である請求項5記載の燃料電池。
【請求項7】
前記オレフィン系シール剤は、ブチルゴムを含んでいる請求項5記載の燃料電池。
【請求項8】
前記燃料側、及び/又は酸化剤ガス側の拡散層は、カーボンクロスを主成分としている請求項1に記載の燃料電池。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の燃料電池を製造する方法において、
前記電解質に前記ガス拡散電極を接合し、電極/電解質接合体を作成する工程と、
前記シール手段を前記セパレータに圧着する工程と、
前記電極/電解質接合体と前記セパレータを組み付ける工程と、
前記セパレータに設けられた、前記空間に連通した貫通孔から前記液状シール剤を注入する工程とを備えた燃料電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2005−174875(P2005−174875A)
【公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−416973(P2003−416973)
【出願日】平成15年12月15日(2003.12.15)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】