説明

燃料電池及び燃料電池の制御方法

【課題】ガス透過性を調整して電解質膜に加わる応力集中を緩和すると共に、電極触媒上の酸化皮膜の形成を抑制することを可能とする燃料電池の制御方法、及びガス圧力に応じて電解質膜が変位することによりガス透過性の調整を可能とする燃料電池。
【解決手段】カソード触媒上の酸化皮膜の形成状態に応じてアノードガス供給圧力とカソードガス供給圧力を調整することで電解質膜を変位させてガス透過性を調整する。また、燃料電池の膜電極接合体は、固体高分子からなる電解質片を電極片で挟持したスラットを複数備え、前記複数のスラットを平面方向に配列し、各々のスラットの一部分にて結合軸を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の制御方法及び燃料電池構造に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質膜の一方の面にアノード極を、他方の面にカソード極を配してなる膜―電極接合体を有し、この膜−電極接合体をガス流路層とセパレータで挟持した単セルを複数積層して燃料電池スタックを形成する。アノード極では、水素を含有する燃料ガスが供給され、下式(1)に示す電気化学反応により燃料ガスからプロトンを生成する。生成されたプロトンは電解質膜を通ってカソード極へ移動する。他方のカソード極では、酸素を含有する酸化剤ガスが供給され、アノード極から移動してきたプロトンと反応して下式(2)に示す電気化学反応により水を生成する。これら一対の電極構造体の電解質膜側の表面で生じる電気化学反応を利用して電極から電気エネルギを取り出す。
アノード反応:H → 2H + 2e …(1)
カソード反応:2H + 2e +(1/2)O → HO …(2)
【0003】
燃料電池の電解質膜は、燃料電池の稼動時の濡れ・渇きによって膨張・収縮を繰り返す。この膨張・収縮に伴い局所的にひっぱり応力が集中すると電解質膜に亀裂が生じるおそれがある。膜に亀裂が生じた場合には、裂け目からアノードガス及びカソードガスが流出してクロスリークを引き起こし、燃料電池の発電性能が著しく低下してしまう。そのため、特許文献1には電解質膜の製造過程において含水量の多い状態で外周部を固定して乾燥させることにより延伸し、強度の低下を抑制することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−035510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、電解質膜の平面方向に加わる応力に対しては伸縮性を有するため効果を奏するが、電解質膜の厚み方向に応力が加わると容易に変形を起こし、電解質膜に亀裂が生じる虞がある。燃料電池の電解質膜は、燃料電池の稼働時の濡れ・乾きによって平面方向に膨張・収縮を繰り返すだけでなく、アノード極とカソード極との間のガス圧力差によって厚み方向にも応力を受けることから、電解質膜の平面方向と厚み方向の双方からの応力に対しても応力集中を緩和する必要がある。また、電解質膜の亀裂、クロスリークを抑制する一方で、電解質膜のガス透過性が低くなると触媒表面にて酸化皮膜が形成されて出力低下を引き起こす虞もあるため、膜電極接合体には適度な強度とガス透過性を兼ね備えることが求められる。
【0006】
従って、本発明は、ガス圧力に応じて電解質膜が変位することによりガス透過性の調整を可能とする燃料電池を提供すること、並びに、該燃料電池を用いガス圧力を調整することにより電解質膜の強度向上と電極触媒上の酸化皮膜形成の抑制を可能とする燃料電池の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
電解質膜をアノード極及びカソード極で挟持し、アノード極にアノードガスを供給し、カソード極にカソードガスを供給して発電を行う燃料電池の制御方法において、カソードガスとアノードガスのガス圧力に応じて、電解質膜が変位することでアノードガスとカソードガスのガス透過性を調整するガス透過性調整機構と、アノードガス及びカソードガスの供給圧力を調整する圧力調整手段と、圧力調整手段を制御する圧力制御部とを備え、圧力制御部は、燃料電池の発電時にはアノードガス圧力とカソードガス圧力が等しい若しくはアノードガス圧力がカソードガス圧力より大きくなるよう圧力調整手段を制御することを特徴とする。
【0008】
上記構成の燃料電池の制御方法によれば、ガス圧力に応じて電解質膜が変位することで電解質膜を介した電極間のガス透過性を調整することが可能である。具体的には、電解質膜はガス圧力が大きい電極側からガス圧力が小さい電極側へガスを透過するよう変位する。燃料電池の発電時にはカソード極の触媒上で酸化皮膜を形成しやすいため、アノード側のガス供給圧をカソード側のガス供給圧と同等もしくは大きくすることで、電解質膜の変位を通じて微量のアノードガスをカソード極へ流動し、カソード極の酸化皮膜を抑制することが可能である。また電解質膜の変位により、膜の乾湿状態に伴う平面方向の引っ張り応力に対しても、電極間の差圧による厚み方向の応力に対しても、発生する応力の集中を効率よく緩和することが可能であり、電解質膜の亀裂発生を抑制することが出来る。尚、電解質膜の変位とは電解質膜の位置、位相、角度のずれを意味し、電解質膜が複数の部材より構成される場合には各々の構成部材の位置、位相、角度のずれを含む。
【0009】
上記構成の燃料電池の制御方法において、カソード極の酸化状態を判定する酸化判定手段を備え、圧力制御部はカソード極が酸化していると判定された場合にアノードガス供給圧力がカソードガス供給圧力より大きくなるよう圧力調整手段を制御することが好ましい。
【0010】
通常時は膜電極接合体を通過するリークガスを低減し、カソード極の触媒酸化が進行していると判定された場合にのみ膜電極接合体を通ってアノードガスをカソード極へ流動することで効率的にカソード極の触媒酸化を抑制することが可能である。
【0011】
上記燃料電池の制御方法において、さらに、燃料電池の運転停止時には、圧力制御部はアノードガス供給圧力よりカソードガス供給圧力が大きくなるよう圧力調整手段を制御することが好ましい。
【0012】
燃料電池の運転停止時には、カソードガス供給圧力を大きくすることで、スラットが横たわる方向へ回転モーメントが働き、各々のスラットの間に生じていた隙間が閉ざされ、膜電極接合体を通過するガス量を低減することが出来る。燃料電池の停止時には、敢えてリークガスを停止することで、カソード極で既に形成されている酸化皮膜が防壁となり、更なる触媒酸化を抑制することが出来る。
【0013】
膜電極接合体と、前記膜電極接合体の両側に配されるアノードガス拡散層及びカソードガス拡散層と、アノードガス拡散層及びカソードガス拡散層を挟持するガス流路及びセパレータとからなるセルを備えた燃料電池において、膜電極接合体は、固体高分子からなる電解質片を電極片で挟持したスラットを複数備え、複数のスラットは燃料電池の平面方向に傾斜を設けて各々が平行となるよう配列され、隣接するスラットと一部にて接合されて接合軸を形成することを特徴とする。
【0014】
上記構成の燃料電池によれば、スラットが接合軸を中心に回転することにより膜電極接合体の平面方向及び厚み方向に変位が許容される。これにより、膜の乾湿状態に伴う平面方向の引っ張り応力に対しても、電極間の差圧による厚み方向の応力に対しても、発生する応力の集中を効率よく緩和することが可能であり、電解質膜の亀裂発生を抑制することが出来る。尚、スラットが平行とは、膜電極接合体に対して厚み方向から圧力が印加された場合に複数のスラットが互いに等しい挙動を示すことが可能であれば良く、製造誤差や多少のずれは平行の意に含まれる。また接合軸は、各スラットの表裏において隣接するスラットとの接合部分が近接していることにより各スラットが回転可能であれば良い。
【0015】
上記構成の膜電極接合体において、接合軸は前記スラットの重心位置より片側のガス拡散層側に偏りを持つことを特徴とする。
【0016】
スラットの接合軸が一方のガス拡散層側に偏りを持つことにより、アノード側とカソード側とでガス圧力が異なる場合にスラットの変位に差が生じる。接合軸を中心とした回転モーメントは、接合軸と近い側面からの圧力を受けた場合に比べて接合軸と遠い側面から圧力を受けた場合のほうが大きくなる。この回転モーメントに基づくスラットの変位差を利用し、アノード極とカソード極との極間を伸縮させることで、燃料電池セルの厚み方向に加わる応力集中を緩和できる。
【0017】
さらに、上記構成の膜電極接合体を構成するスラットの縁部は少なくとも一方の拡散層に接合されることが好ましい。
【0018】
上記構成の膜電極接合体及び該膜電極接合体を備えた燃料電池によれば、アノード極とカソード極の極間幅が変化した場合に、スラットの縁部は接合された拡散層に追従して、各々のスラットが回転して厚み方向に立ち上がる態様で変位する。スラットが回転して厚み方向に立ち上がった場合、各々のスラットの間に生じる隙間を通じて一方の電極を流動するガスが他方の電極へ流動することが出来る。例えばカソード極の触媒酸化が進行しているような状況下において、電極の極間幅を変化させることでアノードガスを意図的にカソード側へ流動させ、カソード触媒の還元反応を生じさせることが可能である。つまり、通常時はスラットの回転により膜電極接合体に加わる応力集中を緩和してガスの膜間通過を抑制するが、触媒酸化時などガスの膜間通過を行いたい場合には極間幅を変化させることによってスラットを変位させてガス流路を形成することが出来る。従って、膜間でのガス流動の必要性に応じてスラットを自在に変位させることが可能であり、これにより発電性能を向上させることが可能である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ガス圧力に応じて電解質膜を変位させることよりガス透過性の調整を可能とし、電解質膜の強度向上と電極触媒上の酸化皮膜形成の抑制を可能とする燃料電池の制御方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態における燃料電池スタック及び燃料電池システムを示すである。
【図2】本発明の実施の形態における燃料電池セルを示す図である。
【図3】本発明の実施の形態における膜電極接合体を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態における膜電極接合体が変位する様子を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態における燃料電池システムの運転制御処理を示すフローチャートである。
【図6】変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図1から図4に基づいて、燃料電池の構成、燃料電池システムの順に説明する。まず、燃料電池の構成について述べる。図1に示すように、燃料電池スタック1は、燃料電池セル2(以下、セル2と称す)を基本単位として複数積層することでスタックを形成する。積層されたセル2は、電気的に直列に接続されている。各セル2による発電で得られた電流が、積層されたセル2の両端部に設けられた集電板3に集電され、電気負荷や2次電池等の電力機器に供給される。なお、本実施形態では、セル2を複数積層したスタック構造としているが、セル1個を備えるものとしてもよい。
【0022】
図1に示すように、本発明の実施の形態における燃料電池システム50は燃料電池スタックのカソード極には酸化剤ガスとして圧縮空気が供給される。フィルタ9から吸入され、コンプレッサ10で圧縮された後、燃料電池スタック1へ供給され、スタック内を流動した後外部へ排気される。空気の供給圧力は圧力センサ12によって検出され、制御部15によって背圧弁11を制御してカソードガス圧力を調整する。
【0023】
燃料電池スタック1のアノード極には、水素タンク4に貯蔵された水素ガスが配管を通って供給される。水素タンク4に高圧で貯蔵された水素ガスは、出口に設けられたシャットバルブ5、レギュレータ6によって圧力及び供給量が調整されてアノードに供給される。アノードからの排気は途中で二手に分かれ、一方は加圧ポンプ51を介して再度燃料電池スタック1へ循環される。他方は希釈器(図示せず)に接続され、空気により希釈された後に外部へ排出される。燃料電池スタック1を冷却する冷却水は、ラジエータ7で冷却、ポンプ8によって循環されて燃料電池スタック1に供給される。
【0024】
燃料電池システム50には、燃料電池システム50の制御を行う制御部(ECU)15が設けられる。制御部15には圧力センサ12や温度センサ(図示せず)などの検出信号が入力され、背圧弁11やレギュレータ6、コンプレッサ10などに信号が出力される。セルモニタ13により検出される電圧値や電流値も制御部15に入力される。また、制御部15にはイグニッションスイッチ52が接続され、イグニッションON、OFFの信号も入力される。尚、制御部52に入出力される信号の一部を図中に点線で示す。
【0025】
図2(a)はセル2の平面図、図2(b)は図2(a)におけるA−A‘断面図である。図2(a)に示すように、セル2は、中央部に発電部19を備え、外周端部には燃料ガス供給マニホールド16a、酸化剤ガス供給マニホールド17a、冷却水供給マニホールド18aを備える。また、外周端部において、発電部19を挟んでこれらの供給マニホールドと対向する位置に、燃料ガス排出マニホールド16b、酸化剤ガス排出マニホールド17b、冷却水排出マニホールド18bを備える。これらの供給・排出マニホールドは、セル2の積層方向に貫通するようにして設けられており、単セル2が複数積層されて燃料ガス、酸化剤ガス、冷却水の流路が各々形成される。
【0026】
図2(b)に示すように、セル2は膜電極接合体(MEA:Membrane-Electrode- Assembly)20、アノード拡散層21、カソード拡散層22、アノードセパレータ23、カソードセパレータ24から構成される。膜電極接合体20の両端にアノード拡散層21及びカソード拡散層22が配置され、さらにその両端をアノードセパレータ23及びカソードセパレータ24で挟持して形成される。アノードセパレータ23は拡散層と接する面に溝25を備え、外部から供給されたアノードガス及びカソードガスは溝25を通過してアノード拡散層21へ流動し、アノード拡散層21から膜電極接合体20へ供給される。カソード側も同様に、カソードセパレータ24に備えられた溝26を通ってカソードガスがカソード拡散層22及び膜電極接合体20へ供給される。冷却水は、アノードセパレータ23の膜電極接合体20とは反対側であって、隣接セルのカソードセパレータ24との間に形成される図示しない流路を流動する。
【0027】
図3(a)に膜電極接合体20を、図3(b)に図3(a)におけるB−B‘断面を示す。図3(b)では、図示明瞭化のため膜電極接合体20の表裏面に拡散層(21、22)及びセパレータ(23、24)を点線にて記載する。膜電極接合体20は、矩形状の電解質片30の表裏に同じく矩形状の電極片32を接合して一体化されたスラット34を複数配してなり、この複数のスラット34はセル2の平面方向に傾斜を設けて、各々が平行になるよう配列して形成される。複数のスラット34は長尺方向の一辺を隣り合うスラット34と重ね合わせ、対向する他辺を反対側の隣り合うスラット34と重ね合わせてブラインド状に形成される。各々のスラット34は隣接するスラット34と一部分にて接合されて膜電極接合体20全体として接合軸40を形成し、接合軸40を中心に各々のスラット34は回転可能である。
【0028】
電解質片30は一般的に用いられる燃料電池の電解質膜と同様の成分から成り、プロトン伝導性を有するイオン交換膜、例えばフッ素系樹脂などが用いられる。同じく、電極片34も一般的に用いられる燃料電池の電極触媒層と同様の成分からなり、白金等の金属を担持させたカーボン粒子から構成される。
【0029】
アノード拡散層21及びカソード拡散層22は、カーボンペーパやカーボンクロスなどの炭素繊維から構成され、場合によっては炭素繊維上に撥水層(MPL層)を塗布して構成される。撥水層には、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系ポリマーとカーボンブラックにより形成され、炭素繊維の集合体に撥水層が接合されて、アノード及びカソード拡散層21、22が形成されている。また、アノードセパレータ23及びカソードセパレータ24は、金属板を切削加工やプレス加工することにより形成される。
【0030】
図4(a)では膜電極接合体20を構成するスラット34が各々接合される様子を示す。スラット34は各々の重心位置よりアノード側へ偏った部位で隣接するスラット34と接合部39を形成し、膜電極接合体20全体では接合軸40が重心軸38よりアノード側へ偏って形成される。また、長尺方向かつアノード側の一辺はアノード拡散層21と接合される。これらの接合部位は、シリコーン樹脂、フッ素系樹脂、炭化水素系樹脂、アクリル系樹脂などの接合材料を用いることが出来る。具体的には、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレンなどが挙げられる。
【0031】
図4(b)、(c)にはアノード極及びカソード極から供給されるガスの圧力によって電解質電極片34が変位する様子を示す。図4(b)はアノードガス圧力よりもカソードガス圧力が大きい場合、図4(c)はアノードガス圧力がカソードガス圧力よりも小さい場合である。白抜き矢印にてアノード及びカソードのガス圧力の大きさを示す。アノードガス圧力とカソードガス圧力に差が生じた場合、スラット34には接合軸40を基点として回転モーメントが働く。アノード側からの圧力に対しては、接合軸40がアノード側に偏っているために各々のスラット34において接合部39へ加わる時計回りの回転モーメントは小さく、アノード極とカソード極の極間距離が広がる(矢印41)。極間距離の拡大に伴い、アノードガス拡散層21と接合されたスラット34は立ち上がるように回転しながらアノード拡散層21に追従して変位するため、厚み方向への伸縮性を持たせることができる。また、この変位によりスラット34の各々の間に隙間を生じさせることが出来るため、アノードガスの圧力が大きい場合には、この隙間をアノードガスが通過しカソード側へ流動することも可能である。
【0032】
反対に、カソード側からの圧力に対しては、接合軸40がアノード側に偏っているために各々のスラット34において接合部39に加わる時計回りの回転モーメントは大きく、アノード極とカソード極の極間距離が狭まる(矢印42)。極間距離の狭窄に伴い、アノードガス拡散層21と接合されたスラット34は横たわるように回転しながらアノード拡散層21に追従して変位するため、厚み方向への伸縮性を持たせることが出来る。また、この変異によりスラット34の各々の重なり部を密着させることが出来るため、カソードガスの圧力が大きい場合には、スラット34同士の間に隙間を生じさせず、アノードガスのカソード側への流動を抑制出来る(矢印43)。
【0033】
即ち、回転モーメントに基づくスラット34の変位を利用することで、アノード極とカソード極との極間距離を伸縮させることが可能であり、燃料電池セルの厚み方向に加わる応力集中を緩和できる。これにより膜電極接合体20へ撓み、亀裂が生じることを抑制し出力を向上させることが可能である。また、接合軸40と近いアノード側からの圧力を受けた場合には、スラット34は隣接するスラット34との間に隙間を生じ、そこからアノードガスをカソード極へ流動することが出来る。一方で、接合軸40と遠いカソード側からの圧力を受けた場合には、スラット34は隣接するスラット34との間に隙間を生じず、寧ろ両者の重なりは強固に密着する。これによりアノードガスがカソード極へ流動することを抑制できる。
【0034】
次に燃料電池システムの制御方法について図5に基づいて説明する。図5は図1に示す燃料電池システム50の制御の処理内容を示すフローチャートであり、図5(a)は燃料電池の発電時、図5(b)は燃料電池の停止時における制御内容を示す。まず、図5(a)に示すように、イグニッションスイッチ52がOFFからONに切り換わると運転開始信号が入力され(IG−ON)、燃料電池システム50が始動し、発電が開始する。
【0035】
通常発電時(ステップS101)は、制御部15はアノードガス圧力P1とカソードガス圧力P2が等しくなるよう調整する。例えば、アノードガス流路のシャットバルブ6及びカソードガス流路の背圧弁11の開閉を制御することにより、各々のガス圧力を150kPaとする。
【0036】
ステップS102からステップS104では、制御部15はカソード極の触媒酸化が進行しているか否かを判定する。カソード極の触媒酸化が進行しているか否かは、セルモニタ13に検出されるセル2の電圧値Vが0.8V以上で一定時間Tだけ継続しているか否かを指標として判定することが可能である。一般的に、カソード極においてはセル2の電圧値Vが示す値がある閾値(例えば0.8V)を境として酸化反応と還元反応が進行することが知られている。セル2の電圧値Vが0.8V以上の場合にはカソード極において触媒酸化反応が進行しやすく触媒表面上に酸化皮膜を形成するが、反対に0.8V以下の場合には還元反応が進行しやすい。
【0037】
まず、ステップS102にてセル2の電圧値Vが0.8V以上であるか以下であるかを判定する。セル2の電圧Vが0.8V以上(Yes)の場合には、カソード極の触媒酸化が進行している可能性があるとしてステップS103へ進む。セル2の電圧Vが0.8V以下(No)の場合には触媒酸化反応は進行していないと判断し、ステップS101へ戻り、発電を継続して行う。
【0038】
ステップS103では一定時間Tが経過したかを判断し、ステップS104へ進む。一定時間Tは、セル2の電圧値Vが0.8Vである場合に、カソード極において触媒酸化形成に要する時間を設定することが好ましく、任意に可能であるが例えば60secと設定できる。
【0039】
ステップS104では、ステップS102と同様、セル2の電圧値Vが0.8V以上であるか以下であるかを判定する。セル2の電圧Vが0.8V以上(Yes)の場合には、0.8V以上の電圧値Vを一定時間Tの間維持しており、カソード極の触媒酸化皮膜が形成していると判断してステップS105へ進む。セル2の電圧Vが0.8V以下(No)の場合には触媒の酸化皮膜は形成していないと判断し、ステップS101へ戻り、発電を継続して行う。
【0040】
ステップS105では、制御部15はアノードガス流路のシャットバルブ6及びカソードガス流路の背圧弁11の開閉を制御して、カソードガス圧力P2に対してアノードガス圧力P1が大きくなるよう制御する。例えば、アノードガス圧力P1を200kPa、カソードガス圧力P2を150kPaとする。アノードガス圧力P1がカソードガス圧力P2より大きくなることにより、セル2内部の膜電極接合体20において、アノード極とカソード極の極間距離が拡大し、スラット34が立ち上がるように回転しながらアノード拡散層21に追従して変位する。これによりスラット34の各々の間に隙間が生じるため、この隙間をアノードガスがカソード側へ流動し、カソード極の触媒還元反応が進行する。カソード極の触媒酸化抑制と触媒還元により電極反応面積が増大し、発電性能を向上させることが可能である。ステップS105実施後はステップS102へ戻り、燃料電池の発電中は継続して本フローチャートを繰り返す。
【0041】
図5(b)に示すように、イグニッションスイッチ52がONからOFFに切り換わると運転停止信号が入力され(IG−OFF)、燃料電池の発電が停止される(ステップS104)。燃料電池の発電が停止している状態においては、制御部15はアノードガスP1に対してカソードガス圧力P2を大きくする。ステップS102と同様に、制御部15はカソードガス流路の背圧弁11及びアノードガス流路のシャットバルブ6の開閉を制御することにより各々のガス圧力を調整する。例えば、アノードガス流路のシャットバルブ6を閉弁してアノードガス圧力P1を150kPaとし、カソードガス流路の背圧弁は発電時に比べてやや開弁してカソードガス圧力P2を200kPaとする。アノードガスP1に対してカソードガス圧力P2が大きくなることにより、セル2内部の膜電極接合体20において、アノード極とカソード極の極間距離が狭まり、スラット34は横たわるように回転しながらアノード拡散層21に追従して変位する。これによりスラット34間に生じていた隙間は閉じ、各々の重なり部を密着させることが出来るため、アノードガスのカソード側への流動を抑制出来る。アノードガスのカソード側への流動を抑制し、敢えてカソード触媒層状の酸化皮膜を維持することにより、更なる触媒酸化を抑制することが可能である。
【0042】
本実施の形態においては、アノードガス圧力P1及びカソードガス圧力P2を、通常発電時にはP1、P2:150kPa、触媒還元時にはP1:200kPa、P2:150kPa、発電停止時にはP1:150kPa、P2:200kPaと設定しているが、本態様に限られるものではなく、適宜設定可能である。本発明を実施するにあたり、より効果が期待できる好適な範囲としては、アノードガス圧力P1及びカソードガス圧力P2の比P1/P2が0.6〜2.2である。この圧力比の範囲内で圧力調整を行うことが好ましい。
【0043】
以上、本実施の形態による燃料電池装置によれば、スラット34の回転により膜電極接合体20に加わる応力集中を緩和して、膜の亀裂によるガスの膜間通過を抑制することが可能である。さらに、カソード極の触媒酸化時など意図的にガスの膜間通過を行いたい場合には、アノードガス及びカソードガスの圧力を調整し極間幅を変化させることによってスラット34を変位させてガス流路を形成することが出来る。膜間でのガス流動の必要性に応じてスラットを自在に変位させることにより触媒酸化抑制、触媒還元を実施し、発電性能を向上させることが出来る。従って、膜電極接合体に加わる応力集中を緩和して電解質膜への亀裂発生を抑制すると共に、膜電極接合体のガス透過性を自在に調整することが可能となる。
【0044】
図6に膜電極接合体20の変形例を示す。スラット34の形状は矩形状に限られない。図6に示すように、八角形状のスラット34aとし、縦横に並べ、各々端部に重なりを持たせてうろこ状の態様としても良い。膜電極接合体20に平面方向及び厚み方向の応力が働くと、スラット34aは二方向に回転することが可能であるため、高い伸縮性を持たせることが可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 燃料電池スタック、2 燃料電池セル、3 集電板、4 水素タンク、5 シャットバルブ、6 レギュレータ、7 ラジエータ、8 ポンプ、9 フィルタ、10 コンプレッサ、11 背圧弁、12 圧力センサ、13 セルモニタ、14 圧力センサ、15 制御部、16a、16b 燃料ガスマニホールド、17a、17b 酸化剤ガスマニホールド、18a、18b 冷却水マニホールド、19 発電部、20 膜電極接合体、21 アノード拡散層、22 カソード拡散層、23 アノードセパレータ、24 カソードセパレータ、25、26 溝、30 電解質片、32 電極片、34 スラット、36、37 矢印、38 重心軸、39 接合部、40 接合軸、41、42、43 矢印








【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜をアノード極及びカソード極で挟持し、
アノード極にアノードガスを供給し、カソード極にカソードガスを供給して発電を行う燃料電池の制御方法において、
カソードガスとアノードガスのガス圧力に応じて、電解質膜が変位することでアノードガスとカソードガスのガス透過性を調整するガス透過性調整機構と、
アノードガス及びカソードガスの供給圧力を調整する圧力調整手段と、
圧力調整手段を制御する圧力制御部とを備え、
圧力制御部は、
燃料電池の発電時にはアノードガス圧力とカソードガス圧力が等しい若しくはアノードガス圧力がカソードガス圧力より大きくなるよう圧力調整手段を制御することを特徴とする燃料電池の制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池の制御方法において、
カソード極の酸化状態を判定する酸化判定手段を備え、
圧力制御部はカソード極が酸化していると判定された場合にアノードガス供給圧力がカソードガス供給圧力より大きくなるよう圧力調整手段を制御することを特徴とする燃料電池の制御手法。
【請求項3】
請求項1若しくは請求項2に記載の燃料電池の制御方法において、
燃料電池の運転停止時には、圧力制御部はアノードガス供給圧力よりカソードガス供給圧力が大きくなるよう圧力調整手段を制御することを特徴とする燃料電池の制御手法。
【請求項4】
膜電極接合体と、
前記膜電極接合体の両側に配されるアノードガス拡散層及びカソードガス拡散層と、
アノードガス拡散層及びカソードガス拡散層を挟持するガス流路及びセパレータとからなるセルを備えた燃料電池において、
前記膜電極接合体は固体高分子からなる電解質片を電極片で挟持したスラットを複数備え、
前記複数のスラットはセルの平面方向に傾斜を設けて各々が平行となるよう配列され、
隣接するスラットと一部にて接合されて接合軸を形成することを特徴とする燃料電池。
【請求項5】
請求項4に記載の燃料電池セルにおいて、
前記接合軸は前記スラットの重心位置より片側のガス拡散層側に偏りを持つことを特徴とする燃料電池セル。
【請求項6】
請求項5に記載の燃料電池において、
膜電極接合体を構成するスラットの端部は少なくとも片側のガス拡散層に接合されることを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−12446(P2013−12446A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145905(P2011−145905)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】