説明

燃料電池及び燃料電池システム

【課題】燃料電池に関し、水が発電体近傍や反応ガス供給口に滞留することを抑制する技術を提供することを目的とする。
【解決手段】燃料電池であって、第1のセパレータ23には、少なくとも溝状の第1のガス流路230と、第1のガス供給口B1と、第1のガス排出口B2と、水排出口B3と、が形成され、第1のガス供給口B1は、第1のセパレータ23内において、第1のガス流路230と接続されておらず、第1のガス拡散層を介して第1のガス流路230と接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池及び燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質膜とガス拡散層を含む発電体と、反応ガスを発電体に供給するためのセパレータとを備える。燃料電池のアノード(水素極)には反応ガスとしての水素が供給され、カソード(酸素極)には反応ガスとしての空気が供給され、電極反応に供される。この電極反応によって水が生成する。また、電解質膜の含水率が低下しないように、反応ガスは加湿され燃料電池に供給される場合がある。電極反応により生成した水や反応ガス中に含まれる水蒸気(以下、「生成した水」や「水蒸気」を単に「水」と呼ぶ。)が、発電体近傍やセパレータに形成された反応ガス供給口に滞留することにより、反応ガスの供給及び拡散が阻害され、燃料電池の発電性能が低下する場合があった。
【0003】
従来、水の滞留を抑制するために、反応ガスの出口側マニホールドに延長部(水溜め部)を設け、反応ガスの流れによって水を延長部へ排出させる技術が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
しかしながら、反応ガスの供給量や水の量によっては、水を反応ガスの流れによって出口側ガスマニホールドの延長部まで導くことができず、発電体近傍での水の滞留を防止できない場合があった。また、延長部まで水を導けないことにより、水が入口側ガスマニホールド(ガス供給口)内に流れ込み、入口側マニホールド内で水が滞留し、反応ガスを安定して発電体に供給できない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−66225号公報
【特許文献2】特開2007−273326号公報
【特許文献3】特開2007−294339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って本発明は、発電体近傍や反応ガス供給口に水が滞留することを抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することができる。
【0008】
[適用例1]燃料電池であって、電解質膜と、前記電解質膜の2つの面のうち一方の面側に配置され、前記電解質膜に第1の反応ガスを供給するための第1のガス拡散層と、を含む発電体と、前記第1のガス拡散層の面上に配置された第1のセパレータと、を備え、前記第1のセパレータには、前記発電体と対向する面上に位置し、第1の反応ガスが流れる溝状の第1のガス流路と、当該燃料電池の外部から前記第1のガス流路に、前記第1の反応ガスを供給するための第1のガス供給口と、前記第1のガス流路を流れた前記第1の反応ガスを、当該燃料電池の外部へ排出するための第1のガス排出口と、前記第1のガス流路の水を外部へ排出するための水排出口と、が形成され、前記第1のガス供給口は、当該燃料電池の設置状態において、前記第1のガス排出口よりも鉛直方向について下側に位置し、前記水排出口は、当該燃料電池の設置状態において、前記第1のガス流路よりも鉛直方向について下側に位置し、前記水排出口は、前記第1のセパレータ内において、前記第1のガス流路と接続され、前記第1のガス供給口は、前記第1のセパレータ内において、前記第1のガス流路と接続されておらず、前記第1のガス拡散層を介して前記第1のガス流路と接続されている、燃料電池。
適用例1の燃料電池によれば、第1のガス流路の水は、重力により第1のガス流路内を下降し、下降した水は、第1のセパレータ内において、第1のガス流路と接続されていない第1のガス供給口ではなく、第1のガス流路と接続された水排出口へと流入する。これにより、水が発電体近傍や第1のガス供給口に滞留することを抑制することができる。
【0009】
[適用例2]適用例1に記載の燃料電池であって、前記第1のガス供給口と前記第1のガス流路は、前記第1のセパレータ内において間隔をあけて形成されている、燃料電池。
適用例2の燃料電池によれば、さらに、第1のガス流路と第1のガス供給口は、第1のセパレータ内において、間隔をあけて形成されていることから、水が第1のガス供給口に流入することを確実に防止できる。よって、水が第1のガス供給口に滞留することをより抑制することができる。
【0010】
[適用例3]適用例1又は適用例2に記載の燃料電池であって、当該燃料電池の設置状態において、前記第1のガス流路の底面の少なくとも一部は、前記水排出口に向かって傾斜している、燃料電池。
適用例3の燃料電池によれば、第1のガス流路の底面の少なくとも一部は、水排出口に向かって傾斜している。このため、重力により第1のガス流路内を下降した水は、傾斜した第1のガス流路の底面に沿って流れることで、水がより一層水排出口に流入しやすくなる。よって、水が発電体近傍や第1のガス供給口に滞留することをより抑制することができる。
【0011】
[適用例4]適用例1乃至適用例3のいずれか1つに記載の燃料電池であって、前記第1のガス拡散層は、少なくとも前記第1のガス供給口と前記第1のガス流路を接続する部分において撥水性を有する、燃料電池。
適用例4の燃料電池によれば、第1のガス拡散層は、少なくとも第1のガス供給口と第1のガス流路を接続する部分において撥水性を有するため、水が第1のガス拡散層を介して第1のガス供給口に流入することを防止することができる。よって、水が第1のガス供給口に滞留することをより一層抑制することができる。
【0012】
[適用例5]適用例1乃至適用例4のいずれか1つに記載の燃料電池であって、前記第1のガス供給口は、当該燃料電池の設置状態において、前記第1のガス流路よりも鉛直方向について下側に位置する、燃料電池。
適用例5の燃料電池によれば、さらに、第1のガス供給口が、燃料電池の設置状態において、第1のガス流路よりも鉛直方向について下側に位置することから、第1のガス供給口から第1のガス拡散層を介して第1のガス流路に供給された反応ガスは、第1のガス流路を鉛直方向で下側から上側に向かって流れる。よって、第1のガス流路内の反応ガスの流れによって、水が第1のガス供給口に流入することを抑制できると共に、水排出口への水の流入を促進することができる。
【0013】
[適用例6]適用例1乃至適用例5のいずれか1つに記載の燃料電池であって、前記第1のガス拡散層は、アノードガス拡散層であり、前記第1のセパレータは、アノードセパレータである、燃料電池。
特に、アノード側で水が滞留し、反応ガス(燃料ガス)の供給及び拡散が阻害されると、アノード側で異常電位が発生し、アノードの劣化が生じる可能性がある。しかしながら、適用例6に記載の燃料電池によれば、発電体のアノード側での水の滞留を抑制できることから、アノードの劣化を抑制し、燃料電池の発電性能の低下を抑制することができる。
【0014】
[適用例7]適用例1乃至適用例6のいずれか1つに記載の燃料電池であって、さらに、前記電解質膜の他方の面側に配置され、前記電解質膜に第2の反応ガスを供給するための第2のガス拡散層と、前記第2のガス拡散層の面上に配置された第2のセパレータと、を備え、
前記第2のセパレータには、前記発電体と対向する面上に位置し、第2の反応ガスが流れる溝状の第2のガス流路と、前記第2のガス流路に前記第2の反応ガスを供給するための第2のガス供給口と、前記第2のガス流路を流れた前記第2の反応ガスを外部へ排出するための第2のガス排出口と、が形成され、前記第2のガス供給口は、当該燃料電池の設置状態において、前記第2のガス排出口よりも鉛直方向について上側に位置する、燃料電池。
適用例7の燃料電池によれば、燃料電池の設置状態において、第1の反応ガスは第1のガス流路を鉛直方向で下側から上側に向かって流れ、第2の反応ガスは第2のガス流路を鉛直方向で上側から下側に向かって流れる。このように、第1と第2の反応ガスの流れが電解質膜を挟んで平行、かつ、逆向きになることで、電解質膜の両面で水を循環させることができ、電解質膜の含水率の低下を防止できる。これにより、発電性能の低下をより抑制することができる。
【0015】
[適用例8]燃料電池システムであって、適用例1乃至適用例7のいずれか1つに記載の燃料電池と、前記燃料電池内の水の滞留の程度を表す情報を取得する取得部と、前記水の排出を制御する水排出制御部と、を備え、当該燃料電池システムは、水を外部へ排出しない第1の状態と、水を外部へ排出する第2の状態と、を有し、前記水排出制御部は、前記取得部が取得した前記情報に基づき、水の滞留の程度が低い第1の場合に当該燃料電池システムを第1の状態とし、水の滞留の程度が第1の場合よりも高い第2の場合に当該燃料電池システムを第2の状態とする、燃料電池システム。
適用例8の燃料電池システムによれば、水の滞留の程度が高い第2の場合に水排水口の水を外部に排出するため、発電体近傍やガス供給口での水の滞留を継続的に抑制でき、水の滞留による燃料電池の発電性能の低下を長期的に抑制することができる。また、水の滞留の程度が低い第1の場合は水を外部へ排出することなく燃料電池を運転することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施例としての燃料電池10を備える燃料電池システム1の全体構成を示す説明図である。
【図2】モジュール20の概略構成を説明するための図である。
【図3】シール一体型膜電極接合体21の面のうちアノードセパレータ23と対向する面を説明するための図である。
【図4】シール一体型膜電極接合体21の面のうちカソードセパレータ22と対向する面を説明するための図である。
【図5】図3のP−P断面を示す図である。
【図6】アノードセパレータ23の面のうちシール一体型膜電極接合体21と対向する面を説明するための図である。
【図7】アノードセパレータ23の部分斜視図である。
【図8】モジュール20の第1の面23fa側の部分断面図である。
【図9】カソードセパレータ22の面のうちシール一体型膜電極接合体21と対向する面を説明するための図である。
【図10】水の排出方法を示すフローチャートである。
【図11】第2実施例としての燃料電池システム1aの全体構成を示す説明図である。
【図12】第2実施例の水排出方法を示すフローチャートである。
【図13】第1変形例のカソードセパレータ22aを説明するための図である。
【図14】第3変形例のアノードセパレータ23aを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施の形態を以下の順序で説明する。
A.第1実施例
B.第2実施例
C.変形例:
【0018】
A.第1実施例:
図1は、本発明の第1実施例としての燃料電池10を備える燃料電池システム1の全体構成を示す説明図である。第1実施例の燃料電池システム1は、例えば車両に搭載され、車両の動力源として使用することができる。燃料電池システム1は、主に燃料電池10と燃料ガス供給部としての水素タンク40と、酸化ガス供給部としてのエアポンプ60と、冷却媒体供給部としてのラジエータ74及び循環ポンプ70とを備えている。また、燃料電池システム1は、燃料電池10の出力電圧を測定するための電圧計80と、燃料電池10の外部へ水を排出するための制御を行う制御部90とを備えている。さらに、燃料電池システム1は、反応ガス(燃料ガスと酸化ガス)や冷却媒体を燃料電池10へ供給するための配管45,62,76とバルブ42とを備える。また燃料電池システム1は、燃料電池10から反応ガスや水や冷却媒体を排出するための配管47,50,64,72とバルブ46,52とを備えている。燃料電池システム1は、水が水排出配管50を介して外部へ排出されない第1の状態と、水が水排出配管50を介して外部へ排出される第2の状態とを有する。第1の状態では、燃料ガス排出バルブ46が開状態、水排出バルブ52が閉状態となり、第2の状態では、燃料ガス排出バルブ46が閉状態、水排出バルブ52が開状態となる。燃料電池システム1の通常運転時は第1の状態となっている。なお、水の排出制御方法及び制御部90の詳細については後述する。
【0019】
燃料電池10は、比較的小型で発電効率に優れる固体高分子型燃料電池である。燃料電池10は、モジュール20(「セル20」ともいう。)と、エンドプレート30と、インシュレータ33と、ターミナル34とを備えている。複数のモジュール20は、インシュレータ33およびターミナル34を挟んで、2枚のエンドプレート30によって挟持される。すなわち、燃料電池10は、モジュール20が、複数個積層されたスタック構造を有している。さらに、燃料電池10には、反応ガスや冷却媒体や水が流れるマニホールドが積層方向に沿って形成されている。図1には、マニホールドのうち、燃料ガスとしての水素を燃料電池10に供給するための燃料ガス供給マニホールドM1と、アノードを通過した水素(以下、「水素オフガス」ともいう。)を外部へ排出するための燃料ガス排出マニホールドM2と、水を外部へ排出するための水排出マニホールドM3を破線で示している。なお、後述する燃料電池10内で滞留した水を、燃料オフガスの風速を利用して効率良く外部へ排出させるために、水排出マニホールドM3の流路断面積は、燃料ガス供給マニホールドM1の流路断面積よりも小さいことが好ましい。例えば、水排出マニホールドM3の流路断面積を燃料ガス供給マニホールドM1の流路断面積の半分以下とすることが好ましい。水排出マニホールドM3の流路断面積を小さくすることで、一定量の水素オフガスであっても、水排出マニホールドM3内を通過する水素オフガスの流速が速くなり、効率良く水を外部へと排出させることができる。
【0020】
燃料ガスとしての水素は、高圧水素を貯蔵した水素タンク40から燃料ガス供給配管45及び燃料ガス供給マニホールドM1を介して各モジュール20に供給される。燃料ガス供給配管45には水素の供給を調整するためのバルブ42が設置されている。各モジュール20に供給された水素は、燃料電池10のアノードに供給され、電気化学反応による発電に供される。水素オフガスは、燃料ガス排出マニホールドM2及び燃料ガス排出配管47を介して燃料電池10外に放出される。燃料ガス排出配管47には、水素の排出量を調整するための燃料ガス排出バルブ46が設置されている。
【0021】
酸化ガスとしての空気は、エアポンプ60により大気中から酸化ガス供給配管62に取り込まれ、酸化ガス供給配管62及び酸化ガス供給マニホールドM4(図示せず)を介して各モジュール20に供給される。各モジュール20に供給された空気は燃料電池10のカソードに供給され、電気化学反応による発電に供される。カソードから排出された空気(以下、「空気オフガス」ともいう。)は、酸化ガス排出マニホールドM5(図示せず)及び酸化ガス排出配管64を介して大気中へと放出される。
【0022】
冷却媒体として冷却水は、ラジエータ74から冷却媒体供給配管76及び冷却媒体供給マニホールドM6(図示せず)を介して各モジュール20に供給される。各モジュール20を通過した冷却水は、冷却媒体排出マニホールドM7(図示せず)及び冷却媒体排出配管72を介して、ラジエータ74に送られ、再び各モジュール20に供給される。なお、冷却媒体としては、水だけでなく、エチレングリコール等の不凍液や空気等を用いることができる。
【0023】
各モジュール20内の水は、水排出配管50から水排出配管50と接続された燃料ガス排出配管47へと流れ、外部へ排出される。この水の排出は、燃料ガス排出バルブ46と水排出バルブ52の開閉を制御することで行われる。
【0024】
図2は、モジュール20の概略構成を説明するための図である。図2には、方向を特定するためにXYZ軸が図示されている。なお、Z軸方向を表す二重丸は、Z軸正方向側が、紙面手前側にあることを意味する。この二重丸は、以下同様の意味を表すものとする。モジュール20は、シール一体型膜電極接合体21と、その両側に配置された2枚のセパレータ22,23によって構成されている。シール一体型膜電極接合体21は、膜電極接合体200と、膜電極接合体200の外周を囲んで形成されているシール部材211とを備えている。ここで、膜電極接合体200が「課題を解決するための手段」に記載の「発電体」に相当する。
【0025】
膜電極接合体200は、電解質膜212と、電解質膜212の両面上にそれぞれ配置されたアノード触媒層218とカソード触媒層214と、アノード触媒層218の面上に配置されたアノードガス拡散層219と、カソード触媒層214の面上に配置されたカソードガス拡散層216とを備える。電解質膜212は、プロトン伝導性を有する固体高分子電解質により形成されている。このような電解質としては、例えばナフィオン(デュポン社の登録商標)を用いることができる。2つの触媒層214,218は、主に電極反応を促進するための触媒と高分子電解質により形成されている。2つのガス拡散層216,219は、ガス透過性及び導電性を有すると共に、撥水性を有する。例えば、2つのガス拡散層216,219は、カーボン繊維とポリテトラフロロエチレン(PTFE)により形成される。シール部材211は、シリコンゴム、ブチルゴム、フッ素ゴムなどの弾性を有する絶縁性樹脂材料からなり、膜電極接合体200の外周に射出成形することで形成される。なお、アノード触媒層218及びアノードガス拡散層219を併せて「アノード201」とも呼び、カソード触媒層214及びカソードガス拡散層216を併せて「カソード203」とも呼ぶものとする。
【0026】
カソードセパレータ22とアノードセパレータ23は水素透過性が低く導電性の良好な材料で形成されており、例えば樹脂に導電材料を混入して成形したものが用いられる。2つのセパレータ22,23の膜電極接合体200と対向する面上には、反応ガスが流れる溝状の反応ガス流路220,230が形成されている。反応ガス流路220,230を流れる反応ガスはガス拡散層216,219を通ることで拡散され、触媒層214,218に供給される。図2では、一例として、燃料ガス供給マニホールドM1を通過する水素が燃料ガス流路230を流れ、燃料ガス流路230を流れた水素が燃料ガス排出マニホールドM2を流れる様子を一点鎖線及び矢印で示している。また、2つのセパレータ22,23の他方の面上(膜電極接合体200が位置する側とは反対側の面上)には冷却媒体が流れる溝状の冷却媒体流路222,232が形成されている。冷却媒体流路222,232に冷却媒体が流れることで燃料電池10の内部温度が調節される。
【0027】
図3〜図5を用いてシール一体型膜電極接合体21を説明する。図3は、シール一体型膜電極接合体21の面のうち、アノードセパレータ23と対向する面を説明するための図である。図4は、シール一体型膜電極接合体21の面のうち、カソードセパレータ22と対向する面を説明するための図である。図5は、図3のP−P断面を示す図である。なお、図3〜図5には、方向を特定するためにXYZ軸が図示されている。なお、図3のX軸方向を表す丸印の中に記したバツ印は、X軸正方向側が紙面奥側にあることを意味する。この丸印の中に記したバツ印は、以下同様の意味を表すものとする。燃料電池10が車両等に設置された状態では、図3〜図5のY軸方向が鉛直方向となり、Y軸正方向側が上側でY軸負方向側が下側となる。図3と図4の違いは、膜電極接合体200の外周を覆うシール部材211の形状のみであるため、図3をもとにシール一体型膜電極接合体21の構成を説明し、相違点については図4を用いて説明する。
【0028】
図3に示すように、シール一体型膜電極接合体21は、中央に形成された膜電極接合体200と、膜電極接合体200の外周を覆うシール部材211を備える。シール部材211には複数の貫通孔A1〜A7が形成されている。これらの貫通孔A1〜A7は、モジュール20を複数積層した場合に、燃料電池10のマニホールドM1〜M7の一部を構成する。貫通孔A1には、外部から供給された水素が通過し、貫通孔A2には水素オフガスが通過する。貫通孔A3には水が通過し、水は水排出配管50を介して外部へ排出される。貫通孔A4には、外部から供給された空気が通過し、貫通孔A5には、空気オフガスが通過する。貫通孔A6は外部から供給された冷却媒体が通過し、貫通孔A7には、冷却に供された冷却媒体が通過する。貫通孔A1〜A7の開口面積の大小は特に限定されないが、滞留した水を外部へ効率良く排出させるために、貫通孔A3の開口面積は、貫通孔A1の開口面積よりも小さいことが好ましい。例えば、貫通孔A3の開口面積は、貫通孔A1の開口面積の半分以下であることが好ましい。
【0029】
シール部材211において、貫通孔A1,A3,A5は下辺(Y軸負方向側の辺)に沿って形成され、貫通孔A2,A4は上辺(Y軸正方向側の辺)に沿って形成され、貫通孔A6は左辺(Z軸負方向側の辺)に沿って形成され、貫通孔A7は右辺(Z軸正方向側の辺)に沿って形成されている。また、貫通孔A2〜A7は、反応ガス等が貫通孔から漏れ出さないように周囲全体がシール部材211で覆われている。これに対し貫通孔A1は、その上面A1faの一部が図5に示すようにシール部材211で覆われておらず、膜電極接合体200(詳細にはアノードガス拡散層219)で構成されている。
【0030】
図4に示すように、カソードセパレータ22と対向する面においては、貫通孔A1〜A7の周囲はシール部材211で覆われている。詳細には図5に示すように、貫通孔A1の上面A1faの内、カソードセパレータ22(図2)と接する側(X軸負方向側)はシール部材211で構成されている。言い換えれば、貫通孔A1と、電解質膜212、触媒層214,218、カソードガス拡散層216の間にはシール部材211が位置している。
【0031】
次に、図6〜図8を用いてアノードセパレータ23の構成と、水素及び水の流れについて説明する。図6は、アノードセパレータ23の面のうち、シール一体型膜電極接合体21と対向する面23fa(以下、この面を「第1の面23fa」とも呼ぶ。)を示している。図7は、アノードセパレータ23の第1の面23fa側の部分斜視図である。図8は、モジュール20の部分断面図である。図8は、モジュール20を作製した場合において、図3のP−P断面に相当する断面を示している。なお、図6〜図8には、方向を特定するためにXYZ軸が図示されている。燃料電池10が車両等に設置された状態では、図6〜図8のY軸方向が鉛直方向となり、Y軸正方向側が上側でY軸負方向側が下側となる。
【0032】
図6に示すように、アノードセパレータ23には、第1の面23fa上に位置する燃料ガス流路230と、第1の面23faとは反対側の面上に位置する冷却媒体流路232(図2)と、アノードセパレータ23を貫通する複数の貫通孔B1〜B7とが形成されている。この貫通孔B1〜B7は、燃料ガス流路230よりもアノードセパレータ23の外周側に位置している。
【0033】
貫通孔B1〜B7は、モジュール20を複数積層した場合に、燃料電池10の内部に形成されるマニホールドM1〜M7の一部を構成するように、貫通孔A1〜A7(図3)に対応した位置に形成されている。貫通孔B1には、外部から供給された水素が通過し、貫通孔B2には水素オフガスが通過する。貫通孔B3には水が通過し、水排出配管50を介して外部へ排出される。貫通孔B4には、外部から供給された空気が通過し、貫通孔B5には、空気オフガスが通過する。貫通孔B6は外部から供給された冷却媒体が通過し、貫通孔A7には、冷却に供された冷却媒体が通過する。また、貫通孔A1,A3と同様、貫通孔B3の開口面積は、貫通孔B1の開口面積よりも小さい(例えば半分以下)ことが好ましい。ここで貫通孔B1,B2,B3をそれぞれ、「燃料ガス供給口B1」,「燃料ガス排出口B2」,「水排出口B3」ともいう。なお、貫通孔B1,B2,B3がそれぞれ「課題を解決するための手段」の「第1のガス供給口」,「第1のガス排出口」,「水排出口」に相当し、アノードセパレータ23が「課題を解決するための手段」の第1のセパレータに相当する。
【0034】
燃料ガス流路230には、アノードセパレータ23の第1の面23fa上において、主に上下方向(Y軸方向)の溝が形成されている。これにより、燃料ガス流路230に供給された燃料ガスは、膜電極接合体200と対向する面上を鉛直方向について下側から上側に向かって流れることになる。燃料ガス流路230は、燃料ガス流路230の外縁を形成する底面230fa,上面230fb,左側面230fd,右側面230fcを有する。また、底面230faは、セパレータ23の底面と平行な平行面230feと、水排出口B3へ向かって傾斜する傾斜面230ffとを有する。なお、セパレータ23の底面は、燃料電池10の車両等への設置状態において、水平方向とほぼ平行となる。
【0035】
図6及び図7に示すように、燃料ガス供給口B1と燃料ガス流路230は、アノードセパレータ23において、間隔をあけて形成されている。つまり、燃料ガス供給口B1と燃料ガス流路230は直接には接続されておらず、アノードガス拡散層219を介して接続されている(図8)。つまり、モジュール20を作製した場合には、図8に示すように第1の面23fa上のうち、鉛直方向について燃料ガス供給口B1の上面B1faと燃料ガス流路230(詳細には燃料ガス流路230の底面230fa)との間の区間には、アノードガス拡散層219が配置される。これにより、燃料ガス供給口B1はカソードガス拡散層216を介して燃料ガス流路230と接続されることになり、燃料ガス供給マニホールドM1を流れる水素は、図8の一点鎖線及び矢印で示すようにガス拡散層219を通り、燃料ガス流路230へと供給される。
【0036】
図6及び図7に示すように、水排出口B3と燃料ガス流路230は、アノードセパレータ23において、間隔をあけずにアノードセパレータ23に形成されている。言い換えれば、水排出口B3と燃料ガス流路230は直接に接続されている。これにより、図7の太線及び矢印で示したように、燃料ガス流路230の水は、重力によって鉛直方向で下向きに流れ落ち、燃料ガス供給口B1ではなく水排出口B3に流入する。
【0037】
上記のように、アノードセパレータ23において、燃料ガス流路230の水は、重力によって鉛直方向で下向きに流れ落ち、燃料ガス供給口B1ではなく水排出口B3に流入する。よって、膜電極接合体200に対向する位置に形成された燃料ガス流路230(言い換えれば、膜電極接合体200近傍に位置する燃料ガス流路230)及び燃料ガス供給口B1に水が滞留することを抑制することができる。これにより、燃料ガス供給マニホールドM1から安定して水素を供給できると共に、燃料ガス流路230による水素の拡散を安定して行うことができる。また、アノードセパレータ23の第1の面23fa上のうち、燃料ガス流路230の上面B1faと燃料ガス供給口B1の位置には、撥水性を有するアノードガス拡散層219が配置されている。このことから、燃料ガス流路230の水がカソードガス拡散層216を介して水排出口B3へ流入することを防止し、燃料ガス供給口B1に水が滞留することをより抑制することができる。さらに、燃料ガス流路230の底面230faの傾斜面230ffは水排出口B3に向かって傾斜していることから、燃料ガス流路230を下降してきた水は、水排出口B3へ向かってより一層流入しやすくなる。これにより燃料ガス流路230及び燃料ガス供給口B1に水が滞留することをより一層抑制することができる。
【0038】
図9は、カソードセパレータ22の構成を示す図である。ここで図9は、シール一体型膜電極接合体21と対向する面(以下、この面を「第1の面22fa」とも呼ぶ。)を示している。図9には、方向を特定するためにXYZ軸が図示されている。なお、燃料電池10が車両等に設置された状態では、Y軸方向が鉛直方向となり、Y軸正方向側が上側でY軸負方向側が下側となる。
【0039】
カソードセパレータ22には、第1の面22fa上に位置する酸化ガス流路220と、第1の面22faとは反対側の面上に位置する冷却媒体流路222(図2)と、カソードセパレータ22を貫通する複数の貫通孔C1〜C7とが形成されている。この貫通孔C1〜C7は、酸化ガス流路220よりもカソードセパレータ22の外周側に位置している。また、酸化ガス流路220は、底面220faを有し、底面220faは貫通孔C5に向かって傾斜している。
【0040】
貫通孔C1〜C7は、モジュール20を複数積層した場合に、燃料電池10の内部に形成されるマニホールドM1〜M7の一部を構成するように、貫通孔A1〜A7(図3)に対応した位置に形成されている。貫通孔C1には、外部から供給された水素が通過し、貫通孔C2には水素オフガスが通過する。貫通孔C3には水が通過し、水排出配管50を介して外部へ排出される。貫通孔C4には、外部から供給された空気が通過し、貫通孔C5には、空気オフガスが通過する。貫通孔C6は外部から供給された冷却媒体が通過し、貫通孔C7には、冷却に供された冷却媒体が通過する。貫通孔C1〜C7のうち、貫通孔C4,C5と酸化ガス流路220は間隔をあけずにカソードセパレータ22に形成されている。言い換えれば、貫通孔C4,C5と酸化ガス流路220は直接に接続されている。また、貫通孔A1,A3と同様、貫通孔C3の開口面積は、貫通孔C1の開口面積よりも小さい(例えば、半分以下)ことが好ましい。なお、貫通孔C4,C5をそれぞれ「酸化ガス供給口C4」,「酸化ガス排出口C5」とも呼ぶ。ここで、貫通孔C4,C5がそれぞれ「課題を解決するための手段」の「第2のガス供給口」,「第2のガス排出口」に相当し、カソードセパレータ22が「課題を解決するための手段」の「第2のセパレータ」に相当する。
【0041】
酸化ガス流路220には、カソードセパレータ22の第1の面22fa上において、主に上下方向(Y軸方向)に溝が形成されている。これにより、酸化ガス供給口C4から酸化ガス流路220に供給された空気は、膜電極接合体200と対向する面上を鉛直方向について上側から下側に向かって流れ、酸化ガス流路220を流れた空気は酸化ガス排出口C5に流入する。また、酸化ガス流路220の水は、重力及び空気の流れにより鉛直方向下方に向かって流れ落ち、酸化ガス排出口C5に流入する。酸化ガス排出口C5に流入した水は、空気オフガスと共に酸化ガス排出用マニホールドM5及び酸化ガス排出配管64(図1)を介して外部へ排出される。
【0042】
上記のように、反応ガス流路220,230内を流れる反応ガスの向きを、膜電極接合体200を挟んで平行、かつ、逆向きとすることで、電解質膜212面の両面で水を循環させることができ、電解質膜の含水率の低下を防止することができる。これにより、燃料電池10の発電性能の低下をより抑制することができる。
【0043】
次に、図1及び図10を用いて水の排出方法について説明する。図10は水の排出方法を示すフローチャートである。図1に示すように制御部90は、水排出制御部92と取得部94とを備える。取得部94は、燃料電池10の出力電圧の計測値を取得する。水排出制御部92は、出力電圧の計測値に応じて燃料電池システム1の運転状態を制御する。すなわち、水排出制御部92は、出力電圧の計測値に応じて、水を積極的に水排出口B3(詳細には、水排出マニホールドM3)から燃料電池10の外部へ排出しない第1の状態と、水を積極的に水排出口B3(詳細には、水排出マニホールドM3)から燃料電池10の外部へ排出する第2の状態とを制御する。
【0044】
図10に示すように、水排出制御部92は、出力電圧の変動幅が基準値以上か否かを判断する(ステップS10)。この変動幅の基準値は適宜設定可能であり、本実施例では、出力電圧の変動幅の基準値を、予め定めた出力電圧設定値の10%とした。つまり、出力電圧が出力電圧設定値より5%以上上昇したか否か、または、5%以上低下したか否かを判断する。水排出制御部92は、出力電圧の変動幅が基準値以上である場合は、水排出マニホールドM3(図1)に所定量の水が溜まり、膜電極接合体200や燃料ガス供給口B1付近にも水が滞留してきたため、水素が流れにくくなったと判断する。すなわち、本実施例では、出力電圧(詳細には出力電圧の変動幅)を水の滞留の程度を表す情報として採用している。そして、水排出制御部92は、水排出バルブ52を全開状態、燃料ガス排出バルブ46を全閉状態(すなわち、燃料電池システム1を第2の状態)とし(ステップS20)、水排出マニホールドM3内の水を燃料オフガスの流れにより外部へ排出させる。
【0045】
次に、水排出制御部92は、出力電圧が基準値未満となったか否かを判断する(ステップS30)。基準値未満の場合は、水の滞留が低減したと判断し、水排出バルブ52を全閉状態、燃料ガス排出バルブ46を全開状態とし(ステップS40;すなわち、燃料電池システム1を第1の状態)、再びステップS10からステップS40を繰り返す。なお、変動幅が基準値未満でない場合は、ステップS30を繰り返して行う。
【0046】
ステップS20において、水排出バルブ52を全開状態、燃料ガス排出バルブ46を全閉状態として水を外部へ排出させたが、これに限定されるものではなく水を外部へ排出させるようにバルブ46,52の開閉を行えば良い。例えば、ステップS20において、水排出バルブ52をある程度開き、水排出バルブ52をある程度閉じることでも、水を外部へと排出できる。さらに、燃料ガス排出バルブ46及び水排出バルブ52を常に全開状態とし、水を水排出マニホールド内から常に外部へ排出することもできる。但し、この場合、水排出マニホールドM3及び水排出配管50を流れる燃料ガスの流量が上記の場合に比べ少なくなる為、水を外部へ排出できるだけの流量を確保するために、燃料ガス供給配管45からより多くの量の水素を燃料電池10に供給する必要がある。
【0047】
上記のように、燃料電池10内の水の滞留の程度が高い場合(本実施例では、出力電圧の変動幅が基準値以上となった場合)は、水を外部へ排出させることから、膜電極接合体200近傍や燃料ガス供給マニホールドM1での水の滞留を継続して低減させることができ、水の滞留による燃料電池10の発電性能の低下を抑制することができる。また、水の滞留の程度の高低により燃料ガス排出バルブ46及び水排出バルブ52の開閉を制御することで、燃料電池10に供給する水素の量を通常運転時(第1の状態)よりも多くすることなく、水を外部へと排出することができる。
【0048】
B.第2実施例:
図11は、第2実施例としての燃料電池システム1aの全体構成を示す説明図である。第1実施例の燃料電池システム1との違いは、電圧計80に代えて第1と第2の差圧計82,84を設けた点である。その他の構成については第1実施例と同様の構成であるため、第1実施例と同様の構成については同一符号を付すと共に説明を省略する。
【0049】
第1の差圧計82は、燃料電池システム1aの通常運転時(燃料電池システム1aの第1の状態)でのアノード201の圧力損失(以下、「第1の圧力損失」ともいう。)を計測する。すなわち、燃料ガス排出バルブ46が開状態、水排出バルブ52が閉状態における燃料ガス供給配管45内の圧力と燃料ガス排出配管47内の圧力の差を計測する。第2の差圧計84は、燃料電池システム1aの水排出時(燃料電池システム1aの第2の状態)でのアノード201の圧力損失(以下、「第2の圧力損失」ともいう。)を計測する。すなわち、燃料ガス排出バルブ46が閉状態、水排出バルブ52が開状態における、燃料ガス供給配管45内の圧力と水排出配管50内の圧力の差を計測する。取得部94は、第1と第2の圧力損失の計測値を取得する。
【0050】
図12は、第2実施例の水の排出方法を示すフローチャートである。燃料電池システム1aの通常運転時において、取得部94は、第1の差圧計82で計測した第1の圧力損失の計測値を取得する。水排出制御部92は、第1の圧力損失が第1の閾値以上であるか否かを判断する(ステップS10a)。この第1の閾値は適宜設定可能である。水排出制御部92は、第1の圧力損失が第1の閾値以上である場合は、水排出マニホールドM3(図1)に所定量の水が溜まり、膜電極接合体200や燃料ガス供給口B1付近にも水が滞留してきたために、水素が流れにくくなったと判断する。そして、第1実施例のステップS20と同様のステップS20aを行う。次に、水排出制御部92は、第2の圧力損失が第2の閾値以下であるか否かを判断する(ステップS30a)。第2の閾値以下である場合は、水が水排出マニホールドM3及び水排出配管50を介して外部に排出され、水素の流れが水により阻害されなくなったと判断し、第1実施例のステップS40と同様のステップS40aを行う。ステップS40aの後に再び、ステップS10a〜ステップS40aを繰り返す。
【0051】
上記のように、第1実施例と同様、膜電極接合体200近傍や燃料ガス供給マニホールドM1での水の滞留を継続して低減することができ、燃料電池10の水の滞留による発電性能の低下を抑制することができる。また、第1実施例と同様、燃料電池10に供給する水素の量を通常運転時(第1の状態)よりも多くすることなく、水を外部へと排出することができる。さらに、水排出マニホールドM3の流路断面積を燃料ガス供給マニホールドM1の流路断面積よりも小さくした場合は、第2の圧力損失をより精度良く計測することができ、水が外部へ排出されたか否かの判断をより精度良く行うことができる。これにより、水を確実に外部へ排出させることができる。
【0052】
C.変形例:
なお、上記実施例における構成要素の中の、特許請求の範囲の独立項に記載した要素以外の要素は、付加的な要素であり、適宜省略可能である。また、本発明の上記実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0053】
C−1.第1変形例:
図13は第1変形例のカソードセパレータ22aを説明するための図である。図13は第1の面22faを示している。上記実施例では、アノードセパレータ23内において、水排出口B3と燃料ガス流路230が接続され、燃料ガス供給口B1と燃料ガス流路230は接続されていない構成であったが、上記構成をカソードセパレータ22a内においても採用することができる。すなわち、図13に示すように、カソードセパレータ22a内において、酸化ガス供給口C4が酸化ガス排出口C5よりも鉛直方向で下側に位置する場合(言い換えれば、空気が酸化ガス流路220を鉛直方向で下側から上側に向かって流れる場合)は、カソードセパレータ22a内において、水排出口C3と酸化ガス流路220aが接続され、酸化ガス供給口C4と酸化ガス流路220aが接続されていない構成とすることもできる。ここで、上記実施例と同様、酸化ガス供給口C4と酸化ガス流路220aはカソードガス拡散層を介して接続されている。これにより、酸化ガス流路220aの水は、重力によって鉛直方向で下向きに流れ落ち、酸化ガス供給口C4ではなく水排出口C3に流入する。よって、膜電極接合体200に対向する位置に形成された酸化ガス流路220a及び酸化ガス供給口C4に水が滞留することを抑制することができる。
【0054】
C−2.第2変形例:
上記第1実施例では、燃料ガス流路230の底面230faは平行面230feと傾斜面230ffとを有していたが、これに限定されるものではない。例えば、傾斜面230ffを有さず平行面230feのみであっても良いし、底面230faが全て傾斜面230ffであっても良い。さらには、傾斜面230ffを左側面230fd及び右側面230fcから水排出口B3へ向かって所定長さ形成させ、次いで平行面230feが水排出口B3と接続されるように形成しても良い。このようにしても、上記第1実施例と同様、膜電極接合体200に対向する位置に形成された燃料ガス流路230及び燃料ガス供給口B1に水が滞留することを抑制することができる。
【0055】
C−3.第3変形例:
図14は第3変形例のアノードセパレータ23aを説明するための図である。図14は、アノードセパレータ23aの内、燃料ガス供給口B1付近のみを示している。上記第1実施例では、燃料ガス供給口B1は燃料ガス排出口B2及び燃料ガス流路230よりも鉛直方向で下側に位置していたが、少なくとも燃料ガス供給口B1が燃料ガス排出口B2よりも鉛直方向で下側に位置してれば良い。例えば、図14に示すように燃料ガス供給口B1をアノードセパレータ23aの左辺下側(言い換えれば、燃料ガス流路230の左側)に形成しても良い。こうすることで、燃料ガス流路230を重力により流れ落ちた水が燃料ガス供給口B1へ流入することをより抑制することができる。
【0056】
C−4.第4変形例:
上記第1実施例では、燃料電池10内の水の滞留の程度を表す情報として燃料電池10の出力電圧を採用したが、これに限定されるものではない。例えば、出力電圧に代えて、単モジュール20の電圧を水の滞留の程度を表す情報として採用することもできる。この場合、単モジュール20の電圧が所定値以上に低下したか否かに応じてバルブ46,52の開閉を制御すれば良い。具体的には、例えば、単モジュールの電圧値が運転開始時よりも所定値(例えば10%)以上低下した場合は、ステップS20の操作を行い、所定値未満となった場合は、ステップS40の操作を行えば良い。
【0057】
C−5.第5変形例:
上記実施例では、燃料ガス排出配管47を介して水素オフガスを外部へ排出していたが、水素オフガスを、再び燃料ガス供給配管45を介して燃料電池10に供給しても良い。これにより、水素を効率良く燃料電池10の電極反応に利用することができる。なお、この場合、燃料ガス排出配管47のうち、水排出配管50と合流する地点よりも下流側の地点に、水と水素を分離する気液分離装置を設置し、気液分離後の水素オフガスを燃料ガス供給配管45に供給することが好ましい。
【0058】
C−6.第6変形例:
上記実施例では、アノードガス拡散層219及びカソードガス拡散層216は共に撥水性を有する材料により形成されていたが、ガス透過性及び導電性有すれば他の材料(例えば、カーボンペーパーやカーボンクロス)により形成されても良い。また、2つのガス拡散層216,219のうち、ガス供給口と反応ガス流路がセパレータ内において接続されておらず、ガス拡散層を介して接続されているセパレータと接するガス拡散層についてのみ、撥水性を有しても良い。例えば、上記実施例では、アノードガス拡散層219のみが撥水性を有し、カソードガス拡散層216は撥水性を有さなくても良い。さらには、撥水性は、アノードガス拡散層219全体について有する必要はなく、少なくとも燃料ガス供給口B1と燃料ガス流路230を接続する部分において有すれば良い。
【符号の説明】
【0059】
1,1a…燃料電池システム
10…燃料電池
20…モジュール(セル)
21…シール一体型膜電極接合体
22,22a…カソードセパレータ
22fa…第1の面
23,23a…アノードセパレータ
23fa…第1の面
30…エンドプレート
33…インシュレータ
34…ターミナル
40…水素タンク
42…バルブ
45…燃料ガス供給配管
46…燃料ガス排出バルブ
47…燃料ガス排出配管
50…水排出配管
52…水排出バルブ
60…エアポンプ
62…酸化ガス供給配管
64…酸化ガス排出配管
70…循環ポンプ
72…冷却媒体排出配管
74…ラジエータ
76…冷却媒体供給配管
80…電圧計
82…第1の差圧計
84…第2の差圧計
90…制御部
92…水排出制御部
94…取得部
200…膜電極接合体
201…アノード
203…カソード
211…シール部材
212…電解質膜
214…カソード触媒層
216…カソードガス拡散層
218…アノード触媒層
219…アノードガス拡散層
220,220a…酸化ガス流路
220fa…底面
222…冷却媒体流路
230…燃料ガス流路
230fa…底面
230fb…上面
230fc…右側面
230fd…左側面
230fe…平行面
230ff…傾斜面
232…冷却媒体流路
A1fa…上面
B1fa…上面
A1〜A7…貫通孔
B1〜B7…貫通孔
C1〜C7…貫通孔
M1…燃料ガス供給マニホールド
M2…燃料ガス排出マニホールド
M3…水排出マニホールド
M4…酸化ガス供給マニホールド
M5…酸化ガス排出マニホールド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池であって、
電解質膜と、前記電解質膜の2つの面のうち一方の面側に配置され、前記電解質膜に第1の反応ガスを供給するための第1のガス拡散層と、を含む発電体と、
前記第1のガス拡散層の面上に配置された第1のセパレータと、を備え、
前記第1のセパレータには、
前記発電体と対向する面上に位置し、第1の反応ガスが流れる溝状の第1のガス流路と、
当該燃料電池の外部から前記第1のガス流路に、前記第1の反応ガスを供給するための第1のガス供給口と、
前記第1のガス流路を流れた前記第1の反応ガスを、当該燃料電池の外部へ排出するための第1のガス排出口と、
前記第1のガス流路の水を外部へ排出するための水排出口と、が形成され、
前記第1のガス供給口は、当該燃料電池の設置状態において、前記第1のガス排出口よりも鉛直方向について下側に位置し、
前記水排出口は、当該燃料電池の設置状態において、前記第1のガス流路よりも鉛直方向について下側に位置し、
前記水排出口は、前記第1のセパレータ内において、前記第1のガス流路と接続され、
前記第1のガス供給口は、前記第1のセパレータ内において、前記第1のガス流路と接続されておらず、前記第1のガス拡散層を介して前記第1のガス流路と接続されている、
燃料電池。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池であって、
前記第1のガス供給口と前記第1のガス流路は、前記第1のセパレータ内において間隔をあけて形成されている、燃料電池。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の燃料電池であって、
当該燃料電池の設置状態において、前記第1のガス流路の底面の少なくとも一部は、前記水排出口に向かって傾斜している、燃料電池。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の燃料電池であって、
前記第1のガス拡散層は、少なくとも前記第1のガス供給口と前記第1のガス流路を接続する部分において撥水性を有する、燃料電池。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の燃料電池であって、
前記第1のガス供給口は、当該燃料電池の設置状態において、前記第1のガス流路よりも鉛直方向について下側に位置する、燃料電池。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の燃料電池であって、
前記第1のガス拡散層は、アノードガス拡散層であり、
前記第1のセパレータは、アノードセパレータである、燃料電池。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の燃料電池であって、さらに、
前記電解質膜の他方の面側に配置され、前記電解質膜に第2の反応ガスを供給するための第2のガス拡散層と、
前記第2のガス拡散層の面上に配置された第2のセパレータと、を備え、
前記第2のセパレータには、
前記発電体と対向する面上に位置し、第2の反応ガスが流れる溝状の第2のガス流路と、
前記第2のガス流路に前記第2の反応ガスを供給するための第2のガス供給口と、
前記第2のガス流路を流れた前記第2の反応ガスを外部へ排出するための第2のガス排出口と、が形成され、
前記第2のガス供給口は、当該燃料電池の設置状態において、前記第2のガス排出口よりも鉛直方向について上側に位置する、燃料電池。
【請求項8】
燃料電池システムであって、
請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の燃料電池と、
前記燃料電池内の水の滞留の程度を表す情報を取得する取得部と、
前記水の排出を制御する水排出制御部と、を備え、
当該燃料電池システムは、水を外部へ排出しない第1の状態と、水を外部へ排出する第2の状態と、を有し、
前記水排出制御部は、前記取得部が取得した前記情報に基づき、水の滞留の程度が低い第1の場合に当該燃料電池システムを第1の状態とし、水の滞留の程度が第1の場合よりも高い第2の場合に当該燃料電池システムを第2の状態とする、
燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−272350(P2010−272350A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123139(P2009−123139)
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】