説明

燃料電池用の膜・電極接合体

【課題】低湿度環境又は高湿度環境において、さらには低湿度環境から高湿度環境に亘って良好な発電性能を示す膜・電極接合体を提供する。
【解決手段】固体高分子電解質膜の一方の面上にアノード側触媒層とアノード側ガス拡散層が、他方の面上にカソード側触媒層とカソード側ガス拡散層がこの順序で積層されてなる膜・電極接合体であって、前記アノード側ガス拡散層の基材及びカソード側ガス拡散層の基材の気孔率[div(cc/cc)]分布において、気孔径10〜40μmの範囲での気孔率の最大値同士を比較したときに、カソード側ガス拡散層基材よりもアノード側ガス拡散層基材の方が大きいことを特徴とする膜・電極接合体、並びに、気孔径80〜120μmの範囲での気孔率分布の最大値同士を比較したときに、アノード側ガス拡散層基材よりもカソード側ガス拡散層基材の方が大きいことを特徴とする膜・電極接合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用の膜・電極接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電気的に接続された2つの電極に燃料と酸化剤を供給し、電気化学的に燃料の酸化を起こさせることで、化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換する。火力発電とは異なり、燃料電池はカルノーサイクルの制約を受けないので、高いエネルギー変換効率を示す。燃料電池は、通常、電解質膜を一対の電極で挟持した膜・電極接合体を基本構造とする単セルを複数積層して構成されている。中でも、電解質膜として固体高分子電解質膜を用いた固体高分子電解質型燃料電池は、小型化が容易であること、低い温度で作動すること、などの利点があることから、特に携帯用、移動体用電源として注目されている。
【0003】
従来、固体高分子型燃料電池では、膜・電極接合体として、固体高分子電解質膜の片面にアノード(燃料極)、他面にカソード(酸化剤極)を設けたものが用いられている。通常、アノードは、電解質膜側から順にアノード側触媒層とアノード側ガス拡散層が積層した構造、カソードは、電解質膜側から順にカソード側触媒層とカソード側ガス拡散層が積層した構造を有している。この膜・電極接合体は、集電体とガスシールの役割を兼ねているセパレータで狭持されて単セルを形成している。アノード側セパレータのアノードと接する側には燃料ガス流路が形成され、カソード側セパレータのカソードと接する側には酸化剤ガス流路が形成されている。
【0004】
固体高分子型燃料電池において、燃料として水素が供給されたアノード側触媒層では(1)式の反応が進行する。この時、(1)式で生じる電子は、外部回路を経由し、外部の負荷で仕事をした後、カソードに到達する。
→ 2H + 2e …(1)
この(1)式で生じたプロトンは、水と水和した状態で、固体高分子電解質膜内をアノード側からカソード側に、電気浸透により移動する。
【0005】
また、酸化剤として酸素が供給されたカソード側触媒層では(2)式の反応が進行する。
2H + (1/2)O + 2e → HO …(2)
カソード側触媒層で生成した水の一部は、カソード側ガス拡散層を経て蒸発し、燃料電池外部へと排出され、残りの一部は、濃度勾配によって、アノード方向へ逆拡散する。
【0006】
上述したように、固体高分子型燃料電池において、プロトンの電気浸透によるアノードからカソードへの移動には水を随伴する必要があるため、固体高分子電解質膜及びその両面に設けられた各電極のプロトン伝導度は、それら各部位が含有する水分量に影響を受ける。従って、膜・電極接合体内に部分的に含水率の低い領域があると、その領域でのプロトン伝導度が低下し、燃料電池全体としての発電効率が下がってしまう。また、膜・電極接合体内での含水率のバラツキも、プロトン伝導度に大きく影響する。
【0007】
一般に、カソードでは、アノードからの水の移動と電極反応による水の生成があるのに対して、アノードでは電気浸透により水が持ち去られ、カソードからの逆拡散によってのみ水の供給がなされる。このため、カソードの方がアノードよりも含水率が高くなる。
このアノード及びカソードにおける含水率は、膜・電極接合体の湿度環境により影響を受ける。すなわち、低湿度環境においては、系内の含水率は相対的に低下するため、アノードの含水率はより低くなり、アノード及びこれに隣接する電解質膜が著しく乾燥したドライアップ状態となりやすい。ドライアップ状態となったアノード側触媒層及び電解質膜は、随伴水が不足する上、水の浸透性が低下し、逆拡散によるカソードからアノードへの水の供給が行われなくなるために、プロトン伝導性を示さない。その結果、ドライアップ状態のアノード側触媒層では、上記式(1)の反応が進行しなくなる。さらには、一度ドライアップ状態となった触媒層及び電解質膜は、再び高湿度環境下に戻ったとしても、水の浸透性が著しく低下しているため、プロトン伝導性を発現しなくなる。
【0008】
一方、高湿度環境においては、系内の含水率は相対的に上昇するため、カソードの含水率はより高くなり、カソードが水浸しの状態になるいわゆるフラッディングが発生してしまう。フラッディング状態のカソードでは、余剰の水分によって反応ガスの拡散性が低下し、上記式(2)の反応の進行が妨げられる。
【0009】
以上のように固体高分子型燃料電池の発電性能は、膜・電極接合体の含水状態に大きく左右され、低湿度環境ではアノード側の乾燥が生じやすく、高湿度環境ではカソード側のフラッディングが生じやすいため、広い範囲の湿度環境下において発電性能が安定した固体高分子型燃料電池が望まれている。低湿度環境及び高湿度環境においても高い発電性能を示す膜・電極接合体を得るための技術としては以下のようなものが挙げられる。
例えば、低湿度環境におけるドライアップの防止を目的として、電解質膜や電解質ソリューションの低EW化や、膜・電極接合体を構成する部材への親水性の付与等によって、膜・電極接合体の保湿性を向上させる試みがなされている。一方、高湿度環境におけるフラッディングの防止を目的として、セル内部の余剰水の系外への排出性を高めるべくガス拡散層の高透気度化が図られている。しかしながら、このような構成では、充分な効果が得られないばかりか、燃料電池の耐久性を損ねてしまうおそれがある。
【0010】
また、上記のようなアノードの乾燥やカソードの水分過多状態を改善する技術として、例えば、アノードガス拡散層を形成する少なくとも1つの多孔質層の平均気孔径がカソードガス拡散層を形成する多孔質層の平均気孔径よりも小さいことを特徴とする特許文献1に記載の燃料電池が挙げられる。
【0011】
【特許文献1】特開2001−57218号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1に記載の燃料電池は、アノードガス拡散層及びカソードガス拡散層の平均気孔径の大小関係のみを規定しており、実際の気孔径やその分布状態については記載されていない。従って、実際の気孔径やその分布によっては、膜・電極接合体を発電に適した含水率に保持できない場合がある。また、特許文献1においては、アノードガス拡散層及びカソードガス拡散層は、いずれもカーボンペーパーとカーボン層の2層で構成され、実質的には、アノードガス拡散層のカーボン層とカソードガス拡散層のカーボン層の平均気孔径を規定しているが、これらのカーボン層に含まれる気孔の90%以上は、気孔径が10μm以下である。
【0013】
本発明は上記実情を鑑みて成し遂げられたものであり、低湿度環境又は高湿度環境において、さらには低湿度環境から高湿度環境に亘って良好な発電性能を示す膜・電極接合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第一の膜・電極接合体は、固体高分子電解質膜と、当該電解質膜の一方の面上に少なくともアノード側触媒層とアノード側ガス拡散層がこの順序で積層されてなるアノードと、当該電解質膜の他方の面上に少なくともカソード側触媒層とカソード側ガス拡散層がこの順序で積層されてなるカソードとを備える燃料電池用の膜・電極接合体であって、前記アノード側ガス拡散層及びカソード側ガス拡散層は、それぞれ、少なくともガス拡散層基材を有し、前記アノード側ガス拡散層基材及びカソード側ガス拡散層基材各々の気孔率[div(cc/cc)]分布において、気孔径10〜40μmの範囲での気孔率の最大値同士を比較したときに、カソード側ガス拡散層基材よりもアノード側ガス拡散層基材の方が大きいことを特徴とするものである。
【0015】
本発明の第一の膜・電極接合体によれば、ガス拡散層に隣接する触媒層及び電解質膜の保湿性を高めることができる径(10〜40μm)を有する気孔の気孔率の最大値を、アノード側ガス拡散層基材とカソード側ガス拡散層基材とで異ならしめることによって、アノード側の乾燥状態を緩和することができる。従って、低湿度環境下においても、アノードにおけるドライアップを抑制し、アノードとカソードにおける含水率の均一化を図ることが可能である。
【0016】
アノードの含水率を確実に高く保持し、且つ、カソードにおける排水性を保持するためには、前記アノード側ガス拡散層基材の気孔率分布において、気孔径10〜40μmの範囲での気孔率の最大値が0.2〜2.0[div(cc/cc)]であり、且つ、前記カソード側ガス拡散層基材の気孔率分布において、気孔径10〜40μmの範囲での気孔率の最大値が0.01〜1.0[div(cc/cc)]であることが好ましい。
【0017】
本発明の第二の膜・電極接合体は、固体高分子電解質膜と、当該電解質膜の一方の面上に少なくともアノード側触媒層とアノード側ガス拡散層がこの順序で積層されてなるアノードと、当該電解質膜の他方の面上に少なくともカソード側触媒層とカソード側ガス拡散層がこの順序で積層されてなるカソードとを備える燃料電池用の膜・電極接合体であって、前記アノード側ガス拡散層及びカソード側ガス拡散層は、それぞれ、少なくともガス拡散層基材を有し、前記アノード側ガス拡散層基材及びカソード側ガス拡散層基材各々の気孔率[div(cc/cc)]分布において、気孔径80〜120μmの範囲での気孔率の最大値同士を比較したときに、アノード側ガス拡散層基材よりもカソード側ガス拡散層基材の方が大きいことを特徴とするものである。
【0018】
本発明の第二の膜・電極接合体によれば、ガス拡散層の排水性を高めることができる径(80〜120μm)を有する気孔の気孔率の最大値を、アノード側ガス拡散層基材とカソード側ガス拡散層基材とで異ならしめることによって、カソード側の過剰な湿潤状態を緩和することができる。従って、高湿度環境下においても、カソードにおけるフラッディングを抑制し、アノードとカソードにおける含水率の均一化を図ることができる。
【0019】
カソードの排水性を確実に高め、且つ、アノードにおける乾燥を助長しないためには、前記カソード側ガス拡散層基材の気孔率分布において、気孔径80〜120μmの範囲での気孔率の最大値が0.2〜2.0[div(cc/cc)]であり、且つ、前記アノード側ガス拡散層基材の気孔率分布において、気孔径80〜120μmの範囲での気孔率の最大値が0.01〜1.0[div(cc/cc)]であることが好ましい。
【0020】
本発明の第三の膜・電極接合体は、固体高分子電解質膜と、当該電解質膜の一方の面上に少なくともアノード側触媒層とアノード側ガス拡散層がこの順序で積層されてなるアノードと、当該電解質膜の他方の面上に少なくともカソード側触媒層とカソード側ガス拡散層がこの順序で積層されてなるカソードとを備える燃料電池用の膜・電極接合体であって、前記アノード側ガス拡散層及びカソード側ガス拡散層は、それぞれ、少なくともガス拡散層基材を有し、前記アノード側ガス拡散層基材及びカソード側ガス拡散層基材各々の気孔率[div(cc/cc)]分布において、気孔径10〜40μmの範囲での気孔率の最大値同士を比較したときに、カソード側ガス拡散層基材よりもアノード側ガス拡散層基材の方が大きく、且つ、気孔径80〜120μmの範囲での気孔率の最大値同士を比較したときに、アノード側ガス拡散層基材よりもカソード側ガス拡散層基材の方が大きいことを特徴とするものである。
【0021】
本発明の第一及び第二の膜・電極接合体の特徴を併せ持つ第三の膜・電極接合体によれば、アノード側の乾燥状態と共に、カソード側の過剰な湿潤状態を緩和することができる。従って、低湿度環境から高湿度環境までの広い湿度環境下において、アノードとカソードにおける含水率の均一化を図ることが可能である。
【0022】
アノードにおける保湿性及びカソードの排水性を同時に且つ確実に高めるためには、前記アノード側ガス拡散層基材の気孔率分布において、気孔径10〜40μmの範囲での気孔率の最大値が0.2〜2.0[div(cc/cc)]、気孔径80〜120μmの範囲での気孔率の最大値が0.01〜1.0[div(cc/cc)]であり、且つ、前記カソード側ガス拡散層基材の気孔率分布において、気孔径10〜40μmの範囲での気孔率の最大値が0.01〜1.0[div(cc/cc)]であり、気孔径80〜120μmの範囲での気孔率の最大値が0.2〜2.0[div(cc/cc)]であることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、低湿度環境又は高湿度環境において、さらには低湿度環境から高湿度環境に亘って、膜・電極接合体の含水率を発電性能に適した状態に保持することが可能であるため、膜・電極接合体内の湿度環境による大きな影響を受けずに安定した発電性能を示す燃料電池を提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の燃料電池用の膜・電極接合体は、固体高分子電解質膜と、当該電解質膜の一方の面上に少なくともアノード側触媒層とアノード側ガス拡散層がこの順序で積層されてなるアノードと、当該電解質膜の他方の面上に少なくともカソード側触媒層とカソード側ガス拡散層がこの順序で積層されてなるカソードを備え、前記アノード側ガス拡散層及びカソード側ガス拡散層が、それぞれ少なくともガス拡散層基材を有する基本構造を有するものである。
本発明の第一の膜・電極接合体は、上記基本構造のうち、前記アノード側ガス拡散層基材及びカソード側ガス拡散層基材各々の気孔率[div(cc/cc)]分布において、気孔径10〜40μmの範囲での気孔率の最大値同士を比較したときに、カソード側ガス拡散層基材よりもアノード側ガス拡散層基材の方が大きいことを特徴とするものである。
【0025】
また、本発明の第二の膜・電極接合体は、上記基本構造のうち、前記アノード側ガス拡散層基材及びカソード側ガス拡散層基材各々の気孔率[div(cc/cc)]分布において、気孔径80〜120μmの範囲での気孔率の最大値同士を比較したときに、アノード側ガス拡散層基材よりもカソード側ガス拡散層基材の方が大きいことを特徴とするものである。
【0026】
また、本発明の第三の膜・電極接合体は、上記基本構造のうち、前記アノード側ガス拡散層基材及びカソード側ガス拡散層基材各々の気孔率[div(cc/cc)]分布において、気孔径10〜40μmの範囲での気孔率の最大値同士を比較したときに、カソード側ガス拡散層基材よりもアノード側ガス拡散層基材の方が大きく、且つ、気孔径80〜120μmの範囲での気孔率の最大値同士を比較したときに、アノード側ガス拡散層基材よりもカソード側ガス拡散層基材の方が大きいことを特徴とするものである。
【0027】
本発明において、ガス拡散層基材とは、ガス拡散層に要求される導電性、多孔性及び強度を有すると共に、独立した部材として存在でき、触媒層等の脆弱な層の支持体となる強度を有する導電性多孔質体である。具体的には、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルト等の炭素質多孔質体や、チタン、アルミニウム、銅、ニッケル、ニッケル−クロム合金、鋼、銀、アルミ合金、亜鉛合金、鉛合金、ニオブ、タンタル、鉄、ステンレス、金、白金等の金属より構成される金属メッシュ又は金属多孔質体が挙げられる。
【0028】
ここで、アノード側及びカソード側ガス拡散層基材の気孔率[div(cc/cc)]分布について説明する。本発明において各ガス拡散層基材の気孔率分布は、水銀圧入法により求められる気孔径(気孔直径)及び気孔径に対する気孔率累計(cc/cc)の曲線(図4(A)参照)を、気孔径について微分することにより得られる(図4(B)参照)ものであり、気孔径に対する気孔率(体積)の分布を示す。
水銀圧入法は、水銀の圧入圧力を徐々に高めながら気孔内に水銀を圧入し、その圧力に対応する気孔径を下記式によって換算する。同時に、気孔内に圧入された水銀の浸入容積を測定し、その浸入容積から気孔率の累計を算出することができる。求められた気孔径を横軸に、気孔径に対する気孔率累計を縦軸にして気孔率累計のグラフ(図4(A)参照)を作成し、この気孔率累計の曲線を気孔径について微分することで、気孔径に対する気孔率の分布(図4(B)参照)が得られる。水銀圧入法による気孔径の測定は、気孔の断面を円形として仮定して導かれた以下の式によって求められる。
【0029】
【数1】

【0030】
上記式において、水銀の表面エネルギーγは480erg/cm(480mJ/m)、水銀と気孔壁面と接触角は140°とする。
【0031】
尚、本発明において、アノード側ガス拡散層基材及びカソード側ガス拡散層基材の気孔率とは、アノード側ガス拡散層、カソード側ガス拡散層を構成する各ガス拡散層基材の気孔率であって、例えば、ガス拡散層が、上記したような導電性多孔質体からなるガス拡散層基材と後述するような撥水層等とが積層した多層構造を有する場合でも、これら多層構造のうち、ガス拡散層基材のみの気孔率となる。すなわち、本発明において、撥水層等、ガス拡散層基材以外にガス拡散層を構成するその他の層の気孔率は特に限定されるものではない。
また、ガス拡散層基材は、異なる種類の導電性多孔質体が積層した構造を有するものであってもよい。或いは、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等の撥水性樹脂溶液に、導電性多孔質体を含浸、焼結することによって、その表面を撥水処理したものであってもよい。
また、ガス拡散層基材の気孔率分布において、気孔径10〜40μm、或いは気孔径80〜120μmの範囲にピーク(極大値)が2つ以上ある場合には、それらのうち最大の値を有するものが各気孔径範囲における最大値である。
【0032】
次に、図1を用いて本発明の膜・電極接合体の基本構造について説明する。図1は、本発明の膜・電極接合体10を有する単セル100を積層方向に切断した断面図である。尚、本発明の膜・電極接合体は本実施形態に限定されるものではない。
膜・電極接合体10は、固体高分子電解質膜1と、この固体高分子電解質膜1の一方の面に設けられたアノード2と、固体高分子電解質膜1の他方の面に設けられたカソード3とからなる。アノード2は、電解質膜側から順にアノード側触媒層4、アノード側ガス拡散層5が積層した構造を有している。カソード3は、電解質膜側から順にカソード側触媒層6、カソード側ガス拡散層7が積層した構造を有している。ガス拡散層5,7は、触媒層4,6に対する反応ガス(酸化剤ガス又は燃料ガス)の拡散性と電極の電子伝導性を向上させることを目的として設けられるものであり、複数の気孔を有する多孔質体である。ガス拡散層5,7は、導電性多孔質体から構成されるガス拡散層基材を少なくとも有し、必要に応じて、付加的な層が設けられることもある。
【0033】
図1に示すように、固体高分子型燃料電池の単セル100は、膜・電極接合体10がアノード側セパレータ8aとカソード側セパレータ8bとに狭持された構造を有している。アノード側セパレータ8aの片面には、燃料ガス流路9aを形成する溝が設けられ、その反対面には冷却水流路(図示せず)を形成する溝が設けられている。また、カソード側セパレータ8bの片面には、酸化剤ガス流路9bを形成する溝が設けられ、その反対面には冷却水流路(図示せず)を形成する溝が設けられている。
【0034】
燃料ガス流路9aは、アノード側セパレータ8aの一面内に形成された溝と、アノード2のガス拡散層5とで画成された空間からなり、アノード2に燃料ガス(水素を含む又は水素を発生させる気体)を供給するため経路である。
一方、酸化剤ガス流路9bは、カソード側セパレータ8bの一面内に形成された溝と、カソード3のガス拡散層7とで画成された空間からなり、カソード3に酸化剤ガス(酸素を含む又は酸素を発生させる気体)を供給するための経路である。
【0035】
(第一の膜・電極接合体)
本発明者は、既述したようなアノード側の乾燥、特にドライアップを防止するために、カソード3からアノード4への水の逆拡散を促進することが有効であることに着目した。水の逆拡散を促進するためには、アノード2、電解質膜1及びカソード3からなる膜・電極接合体10の水拡散係数を高く保つ必要があり、そのためには膜・電極接合体の含水率が非常に重要となる。すなわち、膜・電極接合体10のうちアノード側の含水率を高く保つことができれば、膜・電極接合体10の水拡散係数も高く保つことができる。
しかしながら、電極反応による水の生成がなく、その上電気浸透により水が奪われるアノード2は乾燥しやすく、低加湿環境下においてはさらに含水率が低下してしまう。その結果、アノード2の水拡散係数が低下し、カソード3からの逆拡散による水の供給量が減少するため、アノード2の含水率のさらなる低下を招く。このようにアノード2は、含水率低下の悪循環に陥ることによって、過度な乾燥状態に陥る場合がある。
【0036】
そこで、本発明者は鋭意検討した結果、乾燥しやすいアノード2の含水率の保持には、アノード側ガス拡散層5を構成するアノード側ガス拡散層基材の10〜40μm程度の径を有する気孔が大きく寄与しており、ガス拡散層のガス拡散性を保持しつつ、アノード2の含水率を向上させることを見出した。
そして、アノード側ガス拡散層5を構成するアノード側ガス拡散層基材及びカソード側ガス拡散層7を構成するカソード側ガス拡散層基材の各々の気孔率[div(cc/cc)]分布において、気孔径10〜40μmの範囲での気孔率[div(cc/cc)]の最大値同士を比較したときに、カソード側ガス拡散層基材よりもアノード側ガス拡散層基材の方が上記気孔率の最大値が大きい膜・電極接合体は、アノード側の含水率を高く保持することが可能であること発見した。
【0037】
10〜40μmの径を有する比較的小さな気孔は、水を保持する力が強いことから、ガス拡散層と接する触媒層やこれに隣接する電解質膜の保湿性を高めることができる。ガス拡散層基材の気孔径は、電極の保湿性を高め、高含水率を保持できるようにするためには小さいほどよいが、ガス拡散層のガス拡散性を保持するという観点からは、ある程度以上、すなわち10μm以上の径を有している必要がある。
本発明の第一の膜・電極接合体は、ガス拡散層のガス拡散性を保持しつつ、高含水率を保つことが可能な10〜40μmの径を有する気孔を、カソード側ガス拡散層基材よりもアノード側ガス拡散層基材に多く分布するようにすることによって、アノード2の保湿性を高めたものである。アノード2の保湿性を高め、高い含水率を保持できるようにすることによって、膜・電極接合体10の水拡散係数が高まり、カソード3からアノード2への水の逆拡散を促進することができる。従って、本発明によれば、従来の膜・電極接合体では、ドライアップが発生していたような低湿度環境下における電池運転でも、過度の乾燥が発生せず、発電性能を保持することが可能である。
【0038】
以上のように、本発明の第一の膜・電極接合体は、ガス拡散層に隣接する触媒層及び電解質膜の保湿性を高めることができる径(10〜40μm)を有する気孔の気孔率の最大値を、アノード側ガス拡散層基材とカソード側ガス拡散層基材とで異ならしめることによって、アノード2を乾燥しにくくしてアノード2とカソード3における含水率の均一化を図り、膜・電極接合体10を発電に適した含水状態にすることが可能である。
【0039】
アノード2の含水率を確実に高く保持し、且つ、カソード3における排水性を保持するためには、アノード側ガス拡散層基材の気孔率分布において、気孔径10〜40μmでの気孔率の最大値が、0.2〜2.0cc/cc、特に1〜2.0cc/ccであり、且つ、カソード側ガス拡散層基材の気孔率分布において、気孔径10〜40μmでの気孔率の最大値が、0.01〜1.0cc/cc、特に0.01〜0.5cc/ccであることが好ましい。
【0040】
アノード側ガス拡散層基材において、気孔径10〜40μmでの気孔率の最大値を0.2cc/cc以上にすることによって、アノード側ガス拡散層5に充分な保湿性を付与し、アノード2の含水率を充分に保持することができる。
【0041】
一方、カソード側ガス拡散層基材において、気孔径10〜40μmでの気孔率の最大値を1.0cc/cc以下にすることによって、カソード側ガス拡散層7の保湿力が過度に高まり、カソード3の排水性が低下することを充分に防止することができる。
【0042】
(第二の膜・電極接合体)
さらに本発明者は、鋭意検討の結果、既述したようなカソード側の水分過剰状態によるフラッディングを防止するための排水性には、カソード側ガス拡散層7を構成するカソード側ガス拡散層基材に含まれる80〜120μm程度の径を有する気孔が大きく寄与しており、カソード3の排水性を向上させることを見出した。
そして、アノード側ガス拡散層基材及びカソード側ガス拡散層基材各々の気孔率[div(cc/cc)]分布において、気孔径80〜120μmの範囲での気孔率[div(cc/cc)]の最大値同士を比較したときに、アノード側ガス拡散層基材よりもカソード側ガス拡散層基材の方が、上記気孔率の最大値が大きい膜・電極接合体は、カソード側の排水性を向上させることが可能であること発見した。
【0043】
80〜120μmの径を有する比較的大きな気孔は、ガスの拡散性が優れることから反応ガスが流通する際に電極(アノード2、カソード3)から水分を持ち去りやすく、また、液水が気孔内に滞留しにくい。ゆえに、80〜120μmの範囲の径を有する気孔は、電極の排水性を高めることができる。80μm以上の径を有する気孔は、ガス拡散性と排水性に優れるが、気孔径が過度に大きくなると、逆に電極の乾燥を引きおこすおそれがある。
本発明の第二の膜・電極接合体は、ガス拡散層の適度な湿潤状態を保持しつつ、余分な水分の排出性に優れる80〜120μmの径を有する気孔を、アノード側ガス拡散層基材よりもカソード側ガス拡散層基材に多く分布するようにすることによって、カソード3の排水性を高め、適度な湿潤状態を保持するものである。カソード3の排水性を高め、余剰の水分の排出をスムーズに行うことで、フラッディングの発生を防止し、カソード3における反応ガスの拡散性低下を防ぐことができる。従って、本発明によれば、従来の膜・電極接合体では、フラッディングが発生していたような高湿度環境下における電池運転でも、排水性に優れ、発電性能を保持することが可能である。
【0044】
以上のように、本発明の第二の膜・電極接合体は、ガス拡散層の排水性を高めることができる径(80〜120μm)を有する気孔の気孔率の最大値を、アノード側ガス拡散層基材とカソード側ガス拡散層基材とで異ならしめることによって、カソード側の過剰な湿潤状態を緩和して、アノード2とカソード3における含水率の均一化を図ることが可能である。その結果、膜・電極接合体内の含水率分布を発電に適した含水状態にすることが可能である。
【0045】
カソード3の排水性を確実に高め、且つ、アノード2における過度の乾燥を助長しないためには、カソード側ガス拡散層基材の気孔率分布において、気孔径80〜120μmでの気孔率の最大値が、0.2〜2.0cc/cc、特に1.2〜2.0cc/ccであり、且つ、アノード側ガス拡散層基材の気孔率分布において、気孔径80〜120μmでの気孔率の最大値が、0.01〜1.0cc/cc、特に0.01〜0.05cc/ccであることが好ましい。
【0046】
カソード側ガス拡散層基材において、気孔径80〜120μmでの気孔率の最大値を0.2cc/cc以上とすることによって、カソード側ガス拡散層7の排水性を十分高めることができる。
【0047】
一方、アノード側ガス拡散層基材において、気孔径80〜120μmでの気孔率の最大値を1.0cc/cc以下とすることによって、アノード側ガス拡散層5の保湿力が低下することを防止することができる。
【0048】
(第三の膜・電極接合体)
本発明の第三の膜・電極接合体は、上記第一の膜・電極接合体及び第二の膜・電極接合体の特徴を併せ持つものである。すなわち、本発明の第三の膜・電極接合体は、アノード側ガス拡散層基材及びカソード側ガス拡散層基材各々の気孔率[div(cc/cc)]分布において、気孔径10〜40μmμmの範囲での気孔率の最大値同士を比較したときに、カソード側ガス拡散層基材よりもアノード側ガス拡散層基材の方が大きく、且つ、気孔径80〜120μmの範囲での気孔率の最大値同士を比較したときに、アノード側ガス拡散層基材よりもカソード側ガス拡散層基材の方が大きいことを特徴とするものである。
【0049】
第三の膜・電極接合体は、第一の膜・電極接合体と第二の膜・電極接合体の特徴を兼ね備えるものであることから、アノード2の含水率とカソード3の排水性を同時に高めることが可能である。従って、本発明の第三の膜・電極接合体は、アノード2が乾燥しやすい低加湿環境から、カソード3がフラッディングを生じやすい加湿環境に亘る広い湿度環境下において、膜・電極接合体の含水率を発電に適した状態に保持することが可能であり、安定し且つ優れた発電性能を発現することができる。
【0050】
このとき、アノード2の保湿性を充分高めるためには、アノード側ガス拡散層基材の気孔率分布において、気孔径10〜40μmの範囲での気孔率の最大値は、アノード側ガス拡散層基材の気孔径80〜120μmの範囲での気孔率の最大値よりも大きいことが好ましい。また、カソード3の排水性を充分高めるためには、カソード側ガス拡散層基材の気孔率分布において、気孔径80〜120μmの範囲での気孔率の最大値は、カソード側ガス拡散層基材の気孔径10〜40μmの範囲での気孔率の最大値よりも大きいことが好ましい。
【0051】
アノード2における保湿性及びカソード3の排水性を同時に確実に高めるためには、具体的には、アノード側ガス拡散層基材の気孔率分布において、気孔径10〜40μmの範囲での気孔率の最大値が0.2〜2.0cc/cc、気孔径80〜120μmの範囲での気孔率の最大値が0.01〜1.0cc/ccであり、且つ、カソード側ガス拡散層基材の気孔率分布において、気孔径10〜40μmの範囲での気孔率の最大値が0.01〜1.0cc/ccであり、気孔径80〜120μmの範囲での気孔率の最大値が0.2〜2.0cc/ccであることが好ましい。
【0052】
以下、本発明の膜・電極接合体の各構成部材及び製造方法について説明する。
固体高分子電解質膜1は、燃料ガスと酸化剤ガスとを隔離しつつ、固体電解質として働くもので、例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマー膜(例えば米国デュポン社製ナフィオン(商品名)や旭硝子社製フレミオン(商品名)等)、スルホン酸基を含有するポリスチレン系陽イオン交換膜等、公知の材料が使用できる。好ましくはパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマー膜である。これらの膜は、分子中に水素イオンの交換基を持ち、水の存在下において、プロトン伝導性の電解質として機能する。固体高分子電解質膜1は、プロトン伝導、及び逆拡散特性の向上の点からは薄い方が好ましいが、あまりに薄すぎるとガス隔離機能が低下し、未反応水素の透過量が増大してしまう。かかる観点から、固体高分子電解質膜1の厚さは、通常1〜200μm、好ましくは10〜100μmである。
【0053】
アノード側ガス拡散層5及びカソード側ガス拡散層7は、少なくともガス拡散層基材を含むガス拡散層シートを用いて形成することができる。ガス拡散層基材である導電性多孔質体の厚みは、通常、100〜1000μm程度とすればよい。
ガス拡散層5,7は、ガス拡散層基材の単層からなるものであってもよいが、触媒層4,6に面する側に撥水層を設けることもできる。撥水層は、通常、炭素粒子や炭素繊維等の導電性粉粒体、ポリテトラフルオロエチレン等の撥水性樹脂等を含み、ガス拡散層基材よりも緻密な(気孔径が小さい)多孔質構造を有するものである。撥水層は、必ずしも必要なものではないが、触媒層4,6及び電解質膜1内の水分量を適度に保持しつつ、ガス拡散層5,7の排水性を高めることができる上に、触媒層4,6とガス拡散層5,7間の電気的接触を改善することができるという利点がある。撥水層は、アノード側ガス拡散層又はカソード側ガス拡散層のみに設けてもよいし、アノード側ガス拡散層及びカソード側ガス拡散層の両方に設けてもよい。
【0054】
撥水層をガス拡散層基材である導電性多孔質体上に形成する方法は特に限定されない。例えば、炭素粒子等の導電性粉粒体と撥水性樹脂、及び必要に応じてその他の成分を、エタノール、プロパノール、プロピレングリコール等の有機溶剤、水又はこれらの混合物等の溶剤と混合した撥水層ペーストを、ガス拡散層基材の少なくとも触媒層4,6に面する側に塗布し、その後、乾燥及び/又は焼成すればよい。
【0055】
このとき撥水層ペーストは、ガス拡散層基材の内部に含浸してもよい。また、撥水層の形状は特に限定されず、例えば、ガス拡散層基材の触媒層側の面全体を覆うような形状でもよいし、格子状等の所定パターンを有する形状でもよい。撥水層ペーストをガス拡散層基材に塗布する方法としては、例えば、スクリーン印刷法、スプレー法、ドクターブレード法、グラビア印刷法、ダイコート法等が挙げられる。撥水層の厚み(ガス拡散層基材に含浸した部分を除く、ガス拡散層基材表面からの厚み)は、通常、1〜200μm程度とすればよい。
【0056】
ガス拡散層基材の気孔径及び気孔率を制御する方法は特に限定されない。例えば、ガス拡散層基材である導電性多孔質体の形成材料と造孔剤とを分散したものを適切な温度で焼結することにより造孔剤を除去し、複数の気孔を有する多孔質体を形成する際、造孔剤の量や造孔剤の大きさ、焼結温度等を調節することによって、得られる導電性多孔質体の気孔径や気孔率を制御することができる。造孔剤としては、特に限定されないが、例えば、焼結時に酸化により除去されるものが挙げられ、具体的には、ポリ乳酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、セルロース等のポリマービーズが挙げられる。或いは、酸洗浄で除去できる金属、例えばニッケル等を用いることもできる。また、市販品を用いることもできる。
【0057】
アノード側触媒層4、カソード側触媒層6には、通常、イオン伝導性材料、触媒材料が含有される。触媒材料としては、触媒成分を炭素質粒子、炭素質繊維のような炭素材料等の導電性材料に担持させた触媒粒が好適に用いられる。触媒成分としては、燃料極における水素の酸化反応、酸化剤極における酸素の還元反応に対して触媒作用を有するものであれば特に限定されず、例えば、白金、又は、ルテニウム、鉄、ニッケル、マンガン等の金属と白金との合金等が挙げられる。
【0058】
イオン伝導性材料としては、電解質として用いられる材料の中から、適宜選択することができ、具体的には、パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーに代表されるフッ素系ポリマーやスルホン酸基、カルボン酸基、ボロン酸基等のイオン伝導性基を側鎖に有する炭化水素系ポリマー等の固体高分子電解質が挙げられる。
【0059】
触媒層4,6は、上記イオン伝導性材料及び触媒材料、さらに必要に応じて撥水性高分子や結着剤等その他の材料を溶媒に混合・分散させることにより得られる触媒層ペーストを用いて形成することができる。溶媒としては、エタノール、メタノール、プロパノール、プロピレングリコール等のアルコール類と水の混合物等を用いることができるが、これらに限定されない。
【0060】
触媒層ペーストを用いて触媒層を形成する方法としては、以下のような方法が挙げられる。例えば、触媒層ペーストを、ガス拡散層基材或いはガス拡散層基材及び撥水層からなるガス拡散層シートの触媒層側に直接塗布する方法や、触媒層ペーストを一旦ポリテトラフルオロエチレン等の転写基材上に塗布・乾燥して形成した触媒層シートをガス拡散層シート又は電解質膜に転写する方法や、触媒層ペーストを電解質膜に直接塗布する方法等が挙げられる。このようにしてガス拡散層シート又は電解質膜と接合した触媒層は、さらに、電解質膜又はガス拡散層シートと、ホットプレス等により接合することで膜・電極接合体を形成することができる。
触媒層ペーストをガス拡散層シート、転写基材又は電解質膜上に塗布する方法は特に限定されず、例えば、スプレー法、スクリーン印刷法、ドクターブレード法、グラビア印刷法、ダイコート法等が挙げられる。触媒層4,6の膜厚は、特に限定されないが、通常、1〜50μm程度とすればよい。
【0061】
以上のようにして、作製した膜・電極接合体は、セパレータ8a,8bによって挟持することによって単セル100となる。セパレータ8a,8bは、スタック内で単セル100同士を電気的に接続するための導電性を有すると共に、耐熱性、加工性、強度等に優れていることが求められるので、例えば耐蝕性の金属板、高密度のカーボン板、あるいはカーボンと樹脂との複合板等が使用される。
【実施例】
【0062】
(実施例1)
(1)アノード側ガス拡散層シートの作製
カーボン製多孔体(厚さ250μm)をアノード側ガス拡散層基材として用いた。当該アノード側ガス拡散層基材の気孔径及び気孔率分布を、ポロシメーターを用いて水銀圧入法により測定し求めた。アノード側ガス拡散層基材の気孔率分布を図2に示す。このアノード側ガス拡散層基材の気孔径10〜40μm及び気孔径80〜120μmの範囲における気孔率分布は、それぞれ、気孔径約25μm、気孔径約80μmに最大値を有し、各最大値は表1に示す通りである。
カーボンブラック粉とPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)ディスパージョン溶液を、カーボンブラック粉:PTFEが重量比で1:1となるように加え、よく攪拌し、撥水層ペーストを調製した。得られた撥水層ペーストをスクリーン印刷により、上記アノード側ガス拡散層基材上に塗布し、350℃で減圧乾燥してアノード側ガス拡散層シートとした。
【0063】
(2)カソード側ガス拡散層シートの作製
カーボン製多孔体(厚さ250μm)をカソード側ガス拡散層基材として用いた。当該カソード側ガス拡散層基材の気孔径及び気孔率分布を、ポロシメーターを用いて水銀圧入法により測定し求めた。カソード側ガス拡散層基材の気孔率分布を図2に示す。このカソード側ガス拡散層基材の気孔径10〜40μm及び気孔径80〜120μmの範囲における気孔率分布は、それぞれ、気孔径約40μm、気孔径約110μmに最大値を有し、各最大値は表1に示す通りである。
カーボンブラック粉とPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)ディスパージョン溶液を、カーボンブラック粉:PTFEが重量比で1:1となるように加え、よく攪拌し、撥水層ペーストを調製した。得られた撥水層ペーストをスクリーン印刷により、上記カソード側ガス拡散層基材上に塗布し、350℃で減圧乾燥してカソード側ガス拡散層シートとした。
【0064】
【表1】

【0065】
(3)単セルの作製
40重量%の白金を担持した白金触媒カーボンに、パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーの5重量%溶液を、白金とパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーとの重量比が2:1となるように添加し、均一に分散させて触媒インクを調製した。この触媒インクをドクターブレード法によりポリテトラフルオロエチレンシート上に塗布した後、N雰囲気中100℃で乾燥・固定化し、白金担持量0.5mg/cmのカソード側触媒層シートを得た。
カソード側触媒層シートと同様の手順により、アノード側触媒層シートを作製し、これらカソード、アノード触媒シートを向かい合わせ、その間に電解質膜(パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマー膜、厚さ50μm)を挟み、100℃、50kg/cmでホットプレスした。その後、両面のポリテトラフルオロエチレンシートを剥がし、膜と触媒層を接合した。
続いて、上記にて作製したアノード側ガス拡散層シート及びカソード側ガス拡散層シートで、膜・触媒層接合体を挟み、150℃、100kg/cmでホットプレスして、膜・電極接合体を得た。
さらに、その両側をカーボン製のセパレータで挟みこんで単セルを得た。
【0066】
(比較例1)
実施例1において作製したアノード側ガス拡散層シートと同様のものを、アノード側ガス拡散層シート及びカソード側ガス拡散層シートとして用いた以外は、実施例1と同様にして単セルを作製した。比較例1のアノード側ガス拡散層基材及びカソード側ガス拡散層基材の気孔径10〜40μm及び気孔径80〜120μmの範囲おける気孔率分布は、それぞれ、気孔径約25μm、気孔径約80μmに最大値を有し、各最大値は表2に示す通りである。
【0067】
【表2】

【0068】
(比較例2)
実施例1において作製したカソード側ガス拡散層シートと同様のものを、アノード側ガス拡散層シート及びカソード側ガス拡散層シートとして用いた以外は、実施例1と同様にして単セルを作製した。比較例2のアノード側ガス拡散層基材及びカソード側ガス拡散層基材の気孔径10〜40μm及び気孔径80〜120μmの範囲おける気孔率分布は、それぞれ、気孔径約40μm、気孔径約110μmに最大値を有し、各最大値は表3に示す通りである。
【0069】
【表3】

【0070】
(単セル性能の評価)
上記のようにして得られた実施例1、比較例1及び比較例2の各単セルに、アノード側に水素ガス、カソード側に空気を供給し、電圧一定の条件下、出力電流を測定し、水素ガス及び空気の加湿温度との関係を調べた。運転条件は以下のように設定した。
【0071】
(1)運転条件
電圧:0.2V
反応ガスの加湿温度:水素ガス、空気共に50〜80℃
セル温度:80℃
【0072】
(2)単セル性能の評価結果
各膜・電極接合体の燃料電池特性の測定結果を図3に示す。
図3より、実施例1の膜・電極接合体は、50〜80℃の広い加湿温度範囲において、安定して優れた発電性能を示すことがわかる。これは、加湿温度が低い低湿度環境下においても、アノードにおける乾燥が抑制され、加湿温度が高い高湿度環境下においても、カソードにおけるフラッディングが抑制されたためである。
【0073】
一方、比較例1の膜・電極接合体は、加湿温度が低い条件下においては優れた発電性能を示したものの、加湿温度が80℃と高くなると、実施例1及び比較例2と比較して出力電流が低下した。これは、カソード側ガス拡散層基材とアノード側ガス拡散層基材の気孔率分布が同じであり、且つ、保湿性の高い実施例1におけるアノード側用ガス拡散層基材をカソード側ガス拡散層基材として用いたためである。すなわち、加湿温度が低い低湿度環境下においては、アノードにおける乾燥が抑制されたが、加湿温度が高い高湿度環境下においては、カソード側ガス拡散層によるカソード側触媒層の保湿性が高いため、カソードにおいてフラッディングが発生したためである。
【0074】
また、比較例2の膜・電極接合体は、加湿温度が高い条件下においては優れた発電性能を示したものの、加湿温度が50℃と低くなると、実施例1及び比較例1と比較して出力電流が低下した。これは、カソード側ガス拡散層基材とアノード側ガス拡散層基材の気孔率分布が同じであり、且つ、排水性の高い実施例1におけるカソード側ガス拡散層基材をアノード側ガス拡散層基材として用いたためである。すなわち、加湿温度が高い高湿度環境下においては、カソードにおけるフラッディングが抑制されたが、加湿温度が低い低湿度環境下においては、アノード側ガス拡散層によるアノード側触媒層の保湿性が低いため、アノードが乾燥状態となってしまったためである。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の膜・電極接合体に係る固体高分子型燃料電池の単セル構造を模式的に示す断面図である。
【図2】実施例1の単セルに用いたアノード側ガス拡散層及びカソード側ガス拡散層の気孔径と気孔率分布を示すものである。
【図3】実施例における単セルの発電性能評価の結果を示す図である。
【図4】アノード側及びカソード側ガス拡散層基材の気孔率分布について説明する図である。
【符号の説明】
【0076】
1…固体高分子電解質膜
2…アノード
3…カソード
4…アノード側触媒層
5…アノード側ガス拡散層
6…カソード側触媒層
7…カソード側ガス拡散層
8a…アノード側セパレータ
8b…カソード側セパレータ
9a…燃料ガス流路
9b…酸化剤ガス流路
10…膜・電極接合体
100…単セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子電解質膜と、当該電解質膜の一方の面上に少なくともアノード側触媒層とアノード側ガス拡散層がこの順序で積層されてなるアノードと、当該電解質膜の他方の面上に少なくともカソード側触媒層とカソード側ガス拡散層がこの順序で積層されてなるカソードとを備える燃料電池用の膜・電極接合体であって、
前記アノード側ガス拡散層及びカソード側ガス拡散層は、それぞれ、少なくともガス拡散層基材を有し、
前記アノード側ガス拡散層基材及びカソード側ガス拡散層基材各々の気孔率[div(cc/cc)]分布において、気孔径10〜40μmの範囲での気孔率の最大値同士を比較したときに、カソード側ガス拡散層基材よりもアノード側ガス拡散層基材の方が大きいことを特徴とする膜・電極接合体。
【請求項2】
前記アノード側ガス拡散層基材の気孔率分布において、気孔径10〜40μmの範囲での気孔率の最大値が0.2〜2.0[div(cc/cc)]であり、且つ、前記カソード側ガス拡散層基材の気孔率分布において、気孔径10〜40μmの範囲での気孔率の最大値が0.01〜1.0[div(cc/cc)]である、請求項1に記載の膜・電極接合体。
【請求項3】
固体高分子電解質膜と、当該電解質膜の一方の面上に少なくともアノード側触媒層とアノード側ガス拡散層がこの順序で積層されてなるアノードと、当該電解質膜の他方の面上に少なくともカソード側触媒層とカソード側ガス拡散層がこの順序で積層されてなるカソードとを備える燃料電池用の膜・電極接合体であって、
前記アノード側ガス拡散層及びカソード側ガス拡散層は、それぞれ、少なくともガス拡散層基材を有し、
前記アノード側ガス拡散層基材及びカソード側ガス拡散層基材各々の気孔率[div(cc/cc)]分布において、気孔径80〜120μmの範囲での気孔率の最大値同士を比較したときに、アノード側ガス拡散層基材よりもカソード側ガス拡散層基材の方が大きいことを特徴とする膜・電極接合体。
【請求項4】
前記カソード側ガス拡散層基材の気孔率分布において、気孔径80〜120μmの範囲での気孔率の最大値が0.2〜2.0[div(cc/cc)]であり、且つ、前記アノード側ガス拡散層基材の気孔率分布において、気孔径80〜120μmの範囲での気孔率の最大値が0.01〜1.0[div(cc/cc)]である、請求項3に記載の膜・電極接合体。
【請求項5】
固体高分子電解質膜と、当該電解質膜の一方の面上に少なくともアノード側触媒層とアノード側ガス拡散層がこの順序で積層されてなるアノードと、当該電解質膜の他方の面上に少なくともカソード側触媒層とカソード側ガス拡散層がこの順序で積層されてなるカソードとを備える燃料電池用の膜・電極接合体であって、
前記アノード側ガス拡散層及びカソード側ガス拡散層は、それぞれ、少なくともガス拡散層基材を有し、
前記アノード側ガス拡散層基材及びカソード側ガス拡散層基材各々の気孔率[div(cc/cc)]分布において、気孔径10〜40μmの範囲での気孔率の最大値同士を比較したときに、カソード側ガス拡散層基材よりもアノード側ガス拡散層基材の方が大きく、且つ、気孔径80〜120μmの範囲での気孔率の最大値同士を比較したときに、アノード側ガス拡散層基材よりもカソード側ガス拡散層基材の方が大きいことを特徴とする膜・電極接合体。
【請求項6】
前記アノード側ガス拡散層基材の気孔率分布において、気孔径10〜40μmの範囲での気孔率の最大値が0.2〜2.0[div(cc/cc)]、気孔径80〜120μmの範囲での気孔率の最大値が0.01〜1.0[div(cc/cc)]であり、且つ、前記カソード側ガス拡散層基材の気孔率分布において、気孔径10〜40μmの範囲での気孔率の最大値が0.01〜1.0[div(cc/cc)]であり、気孔径80〜120μmの範囲での気孔率の最大値が0.2〜2.0[div(cc/cc)]である、請求項5に記載の膜・電極接合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−27811(P2008−27811A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−200978(P2006−200978)
【出願日】平成18年7月24日(2006.7.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】