説明

燃料電池用の電気式脱イオン水製造装置

【課題】脱塩室に充填するアニオン交換体の耐熱性が優れ、運転時に電圧異常が発生しない電気式脱イオン水製造装置を提供する。
【解決手段】燃料電池から回収した水を処理する燃料電池用の電気式脱イオン水製造装置であって、イオン交換基として下記一般式(1)で表される第4級アンモニウム塩基を有するアニオン交換体と、カチオン交換体と、が充填された脱塩室と、脱塩室を挟んで互いに平行となるように設けられた陽極板及び陰極板と、を備えた電気式脱イオン水製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用の電気式脱イオン水製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化炭素の排出量が少なく、環境性能に優れた発電手段として、燃料電池が注目されるようになってきている。この燃料電池は、水素と酸素から水を生成する反応を行わせる際に発生するエネルギーを電力として取り出している。
【0003】
燃料電池の作動時には水素と酸素の反応によって熱が発生する。このため、燃料電池本体の冷却のために循環冷却水系を設けて、この中に水を循環させることにより、燃料電池の冷却を行っている。また、燃料電池の前段部に改質器を設けて、燃料の水蒸気改質を行うことにより水素等を発生させ、これを燃料電池の燃料極(アノード)に導入している。このように燃料電池では水を使用している。
【0004】
一方、燃料電池では、発電時に空気極(カソード)から水蒸気が発生する。また、循環冷却水系を流れる冷却水は、燃料電池の発電時の熱によって水蒸気と水の二相系となっている。このため、これらの水蒸気を回収して、凝縮器で凝縮させて水(以下、この水を「凝縮水」と記載する場合がある)としている。そして、系全体の使用水量を減らすため、この凝縮水を循環させて上記循環冷却水系や改質器等で再使用している。
【0005】
しかし、凝縮水中には、様々なアニオン成分及びカチオン成分が溶存している。このため、凝縮水を上記循環冷却水系や改質器等で再使用するためには、水処理によりこれらのイオン成分を除去する必要がある。そこで、従来から、凝縮水中のイオン成分を除去するための水処理装置が検討されている。この中でも、電気式脱イオン水製造装置は、イオン成分の除去効率が高く、長期間の使用が可能であるため有用である。
【0006】
特許文献1(特開2008−212871号公報)、特許文献2(特開2008−161761号公報)及び特許文献3(特開2008−161760号公報)には、陽極と陰極との間にイオン交換膜を配置することにより、少なくとも陰極側濃縮室、脱塩室及び陽極側濃縮室を設けた電気式脱イオン水製造装置を有する純水製造装置が開示されている。これらの電気式脱イオン水製造装置は、脱塩室中に粒子状のアニオン交換体及びカチオン交換体が混床型、又は凝縮水の流れる方向に順に層を積層させた積層型となるように充填されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−212871号公報
【特許文献2】特開2008−161761号公報
【特許文献3】特開2008−161760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
燃料電池からの凝縮水は高温となっており、電気式脱イオン水製造装置により凝縮水を処理する場合には、この高温の凝縮水が脱塩室を通ることとなる。しかしながら、特許文献1〜3の電気式脱イオン水製造装置では、脱塩室に充填した粒子状のアニオン交換体の耐熱性について、十分に考慮していなかった。このため、凝縮水が脱塩室内を通る際、脱塩室に充填されたアニオン交換体が熱により劣化し、そのイオン交換能が低下する場合があった。
【0009】
また、一般的に、電気式脱イオン水製造装置では、脱塩室内に充填されたアニオン交換体とカチオン交換体の界面で、水の解離反応が起こっている。この水の解離反応によって生じた水素イオン(H+)及び水酸化物イオン(OH-)は、それぞれカチオン交換体とアニオン交換体のイオン交換基とイオン結合を形成する。これによってカチオン交換体とアニオン交換体は再生される。ここで、アニオン交換体の構造によっては、この水の解離反応が進行する電圧は低くなる場合があった。
しかしながら、特許文献1〜3の電気式脱イオン水製造装置では、アニオン交換体の種類を十分に検討していないため、水の解離反応が起こるのに必要な電圧が高くなる、電圧異常が発生する場合があった。
【0010】
以上のように、従来の電気式脱イオン水製造装置では、脱塩室に充填するイオン交換体の耐熱性及び電圧異常発生の防止について、十分に検討していなかった。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明は、脱塩室に充填するアニオン交換体の耐熱性が優れ、運転時に電圧異常が発生しない電気式脱イオン水製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一実施形態は、
燃料電池から回収した水を処理する燃料電池用の電気式脱イオン水製造装置であって、
イオン交換基として下記一般式(1)で表される第4級アンモニウム塩基を有するアニオン交換体と、カチオン交換体と、が充填された脱塩室と、
前記脱塩室を挟んで互いに平行となるように設けられた、陽極板及び陰極板と、
を備えた電気式脱イオン水製造装置に関する。
【0013】
【化1】

【0014】
(ただし、上記一般式(1)中、R1〜R3のうち少なくとも一つの基は炭素数が2以上のアルキル基、X-は対イオンを表す。)
【発明の効果】
【0015】
脱塩室に充填するアニオン交換体の耐熱性が優れ、電圧異常が発生しない電気式脱イオン水製造装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の電気式脱イオン水製造装置の一例を表す図である。
【図2】第1実施例の電気式脱イオン水製造装置を表す図である。
【図3】第2実施例の電気式脱イオン水製造装置を表す図である。
【図4】第3実施例の電気式脱イオン水製造装置を表す図である。
【図5】第4実施例の電気式脱イオン水製造装置を表す図である。
【図6】第5実施例の電気式脱イオン水製造装置を表す図である。
【図7】燃料電池及び電気式脱イオン水製造装置を備えた発電装置を表す図である。
【図8】比較例1の電気式脱イオン水製造装置を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.電気式脱イオン水製造装置
電気式脱イオン水製造装置は、燃料電池から回収した水を処理する燃料電池用のものであり、脱塩室と、脱塩室を挟むように脱塩室の両側に互いに平行となるようにそれぞれ設けられた陰極板及び陽極板と、を備える。脱塩室には、少なくとも、イオン交換基として下記一般式(1)で表される第4級アンモニウム塩基を有するアニオン交換体と、カチオン交換体と、が充填されている。
【0018】
【化2】

【0019】
(ただし、上記一般式(1)中、R1〜R3のうち少なくとも一つの基は炭素数が2以上のアルキル基、X-は対イオンを表す。)。
【0020】
このように脱塩室中に充填されたアニオン交換体は、イオン交換基として上記一般式(1)で表される第4級アンモニウム塩基を有することにより、アニオン交換体を耐熱性に優れたものとすることができる。また、電気式脱イオン水製造装置の運転時に電圧異常の発生を防止することができる。
【0021】
図1は、電気式脱イオン水製造装置の一例を表す図面である。図1に示すように、アニオン交換膜2a、カチオン交換膜2bの間に、脱塩室3が設けられている。脱塩室3中には、アニオン交換体4及びカチオン交換体1が充填されている。また、アニオン交換膜2aの外側に陽極室5及び陽極板7、カチオン交換膜2bの外側に陰極室6及び陰極板8が設けられている。陽極板7及び陰極板8は直流電源(図示していない)に接続されている。そして、脱塩室3内を矢印の方向に凝縮水が流れ、陽極室5及び陰極室6内を矢印の方向に水が流れるようになっている。
【0022】
凝縮水が脱塩室3を流れている間に、凝縮水中のアニオン成分及びカチオン成分は、それぞれアニオン交換体4及びカチオン交換体1に捕捉される。そして、脱塩室3を流れる凝縮水に対して、陽極板7及び陰極板8を介して電源から直流電流を通電させる。これにより、アニオン交換体4に捕捉されたアニオン成分はアニオン交換膜2aを通って陽極室5まで電気的に泳動して除去される。同様に、カチオン交換体1に捕捉されたカチオン成分はカチオン交換膜2bを通って陰極室6まで電気的に泳動して除去される。このように電気式脱イオン水製造装置では、電極間に通電することによって、脱塩室3内のアニオン交換体4及びカチオン交換体1に捕捉されたイオン成分は、随時、陽極室5及び陰極室6内に除去される。
【0023】
また、脱塩室3内のアニオン交換体4及びカチオン交換体1の界面では水の解離反応により、水素イオン(H+)及び水酸化物イオン(OH-)が発生する。これらのイオンがアニオン交換体4及びカチオン交換体1とイオン結合を行うことによって、アニオン交換体4及びカチオン交換体1は再生される。
【0024】
このように電気式脱イオン水製造装置では、脱塩室内に充填されたイオン交換体によるイオン交換容量の低下を抑制することができ、長時間、安定的にイオン成分を除去できる。
【0025】
図1において、陽極室5及び陰極室6にはスペーサを配置しても、イオン交換体を充填しても良い。イオン交換体を充填する場合、陽極室5及び陰極室6は、アニオン交換体の単床、カチオン交換体の単床、又は、アニオン交換体とカチオン交換体の混床の何れの形態としても良い。このように陽極室5及び陰極室6にイオン交換体を充填することで、電気抵抗を低減することができる。
【0026】
図1では、脱塩室3内の凝縮水の流れと、陽極室5及び陰極室6内の水の流れは異なる方向とした。しかし、水の流れ方向はこれに限定されるわけではなく、脱塩室3内の凝縮水の流れ方向と、陽極室5及び陰極室6内の水の流れ方向は同じであっても、異なっていても良い。また、陽極室5内の水の流れ方向と、陰極室6内の水の流れ方向は同じとするのが好ましい。
【0027】
電気式脱イオン水製造装置は、図1に示すように陽極板と陰極板の間に、1つの陽極室/脱塩室/陰極室を設けた構造のものとしても良い。このタイプの電気式脱イオン水製造装置としては例えば、陽極板/陽極室/アニオン交換膜/アニオン交換領域/カチオン交換領域/カチオン交換膜/陰極室/陰極板の順に配置された構造を有するものを挙げることができる。また、電気式脱イオン水製造装置として、陽極板/陽極室/アニオン交換膜/アニオン交換領域/中間イオン交換膜/カチオン交換領域/カチオン交換膜/陰極室/陰極板の順に配置された構造を有するものを挙げることができる。これらのタイプの電気式脱イオン水製造装置は例えば、処理水量が少ない家庭用燃料電池から回収した水を処理する場合に使用できる。この電気式脱イオン水製造装置では、装置の構成を簡易化して、コストの低減を図ることができる。また、構造が簡便であるため故障しにくく、メンテナンスも簡単である。
【0028】
また、電気式脱イオン水製造装置は、陽極板/陽極室と、陰極室/陰極板の間に、脱塩室と濃縮室を複数、設けても良い。すなわち、この場合、電気式脱イオン水製造装置は、陽極板/陽極室/脱塩室/濃縮室/脱塩室/・・・・・/脱塩室/陰極室/陰極板の構造となる。陽極板/陽極室と、陰極室/陰極板の間に設ける、脱塩室と濃縮室の数は特に限定されず、要求される水の処理流量及び処理能力に応じて適宜、選択することができる。このタイプの電気式脱イオン水製造装置は、処理水量が多い場合に使用することができる。
【0029】
以下、(A)電気式脱イオン水製造装置の運転時における電圧異常発生の防止、及び(B)アニオン交換体の耐熱性の向上について詳細に説明する。
【0030】
(A)電圧異常発生の防止
電気式脱イオン水製造装置の脱塩室内のアニオン交換体及びカチオン交換体の界面では、水の解離反応により水素イオン(H+)及び水酸化物イオン(OH-)が発生する。これらのイオンがアニオン交換体及びカチオン交換体とイオン結合を行うことによって、アニオン交換体及びカチオン交換体は再生される。
【0031】
ここで、上記一般式(1)で表される第4級アンモニウム塩基を有するアニオン交換体は、R1〜R3のうち少なくとも一つの基が炭素数2以上のアルキル基となっている。このように炭素数2以上のアルキル基を有する第4級アンモニウム塩基を有すると、メチル基等のより低分子の基が窒素原子に結合した第4級アンモニウム塩基を有する場合と比べて塩基度が低下する。
【0032】
一方、下記式(A)で表される水の解離反応(可逆反応)に関する解離定数は一般的に、温度によって一義的に定まる値である。
【0033】
【数1】

【0034】
しかし、水の解離定数には、アニオン交換体の塩基度及び水に印加する電圧の値が影響し、一定温度であってもアニオン交換体の塩基度及び印加電圧の値によって水の解離定数は変化するものと考えられる。すなわち、アニオン交換体の塩基度が小さくなると水の解離定数は大きくなり、水の解離反応が進行するものと考えられる。また、水への印加電圧を大きくすると水の解離反応が進行するものと考えられる。
【0035】
従って、本発明のように、一般式(1)で表される第4級アンモニウム塩基を有し塩基度の小さなアニオン交換体を使用することによって、水の解離反応を促進させることができる。この結果、より低い電圧・電力で所望の程度まで水の解離反応を起こさせることができるようになる。これに対して、メチル基等の低分子の基が窒素原子に結合した第4級アンモニウム塩基を有するアニオン交換体では塩基度は大きくなる。このため、水の解離定数は小さくなり、所望の程度まで水の解離反応を起こさせるためには、水への印加電圧を大きくする必要がある。この結果、電圧異常が発生する原因となる。
【0036】
(B)アニオン交換体の耐熱性の向上
燃料電池から回収した凝縮水は高温となっている。このため、アニオン交換体の耐熱性が低い場合には、高温の凝縮水によってアニオン交換体が劣化する。これに対して、本発明の脱塩室に充填されたアニオン交換体は耐熱性に優れ、高温の凝縮水を脱塩室内に流した場合であってもアニオン交換体のイオン交換能は劣化しない。このため、長時間、安定して電気式脱イオン水製造装置を使用することができる。
【0037】
例えば、家庭用の比較的、小型の燃料電池システムについては、「独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構」(以下、「NEDO」と記載する場合がある)によって、このシステムを構成する各機器の標準規格が定められている。この規格によると、凝縮水の最高使用温度は50℃となっている。従って、家庭用燃料電池用として電気式脱イオン水製造装置を使用する場合には、上記標準規格に合致する必要がある。本発明のアニオン交換体はR1〜R3の基の種類によって耐熱温度を50℃以上とすることができ、電気式脱イオン水製造装置をNEDOの規格に合致させることができる。
【0038】
また、例えば、R1〜R3の基を全て炭素数2以上のアルキル基とすることによって、II型のアニオン交換樹脂(イオン交換基としてジメチルエタノールアンモニウム基を有するアニオン交換樹脂)よりも耐熱性に優れたものとすることができる。
【0039】
以下に、電気式脱イオン水製造装置を構成する各部及び材料を説明する。
【0040】
(アニオン交換体)
脱塩室には、少なくとも、イオン交換基として下記一般式(1)で表される第4級アンモニウム塩基を有するアニオン交換体が充填される。
【0041】
【化3】

【0042】
(ただし、上記一般式(1)中、R1〜R3のうち少なくとも一つの基は炭素数が2以上のアルキル基、X-は対イオンを表す。)。
【0043】
上記一般式(1)において、R1〜R3はそれぞれ独立して炭素数が2以上5以下のアルキル基であることが好ましい。R1〜R3は炭素数が2以上5以下のアルキル基であることにより、よりアニオン交換能に優れたアニオン交換体にすると共に、効果的に電圧異常の発生を防止することができる。
【0044】
上記一般式(1)において、R1〜R3はエチル基であることが好ましい。この場合、4級アンモニム塩基は、下記一般式(2)で表される基となる。
【0045】
【化4】

【0046】
このようにR1〜R3を全てエチル基とすることにより、アニオン交換体を安定して使用できる最大温度は75℃となり、耐熱性に優れたものとすることができる。また、アニオン交換体のアニオン交換能を優れたものとすることができる。このようなアニオン交換樹脂としてはローム・アンド・ハース社製のPWA6を使用することができる。
【0047】
上記一般式(2)のアニオンX-としては特に限定されるわけではないが例えば、Cl-、Br-、I-等のハロゲン化物イオン、硫酸イオン、NO3-、OH-、p−トルエンスルホン酸イオン等のアニオンを挙げることができる。
【0048】
アニオン交換体の母体構造としては、第4級アンモニウム塩基を付加できるものであれば特に限定されないが、例えば、下記構造を挙げることができる。
【0049】
母体構造を構成するポリマー材料としては、ポリスチレン、ポリ(α−メチルスチレン)、ポリビニルベンジルクロライド等のスチレン系ポリマー;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン等のポリ(ハロゲン化オレフィン);ポリアクリロニトリル等のニトリル系ポリマー、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル等の(メタ)アクリル系ポリマー;スチレン−ジビニルベンゼン共重合体、ビニルベンジルクロライド−ジビニルベンゼン共重合体等が挙げられる。上記ポリマーは、単独のモノマーを重合させて得られるホモポリマーでも、複数のモノマーを重合させて得られるコポリマーであってもよく、また、2種類以上のポリマーがブレンドされたものであってもよい。これら有機ポリマー材料の中で、イオン交換基の導入の容易性と機械的強度の高さから、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体やビニルベンジルクロライド−ジビニルベンゼン共重合体を挙げることができる。
【0050】
アニオン交換体としては特に限定されないが、アニオン交換樹脂、アニオン交換膜、アニオン交換繊維、モノリス状アニオン交換体の形態のものを使用することができる。また、アニオン交換樹脂を使用する場合、ゲル形、MR形のいずれも用いることができる。
【0051】
なお、脱塩室内には、イオン交換基として上記一般式(1)で表される第4級アンモニウム塩基を有するアニオン交換体以外に、他のアニオン交換体を充填しても良い。
【0052】
モノリス状アニオン交換体としては例えば、特開2002−306976号公報、特開2009−062512号公報、特開2009−067982号公報、及び特開2009−108294号公報に記載のものを用いることができる。
【0053】
特開2002−306976号公報に記載のアニオン交換体としては、互いにつながっているマクロポアとマクロポアの壁内に平均径が1〜1000μmのメソポアを有する連続気泡構造を有し、全細孔容積が1〜50ml/gであり、アニオン交換基が均一に分布され、イオン交換容量が0.5mg当量/g乾燥多孔質体以上であるものを挙げることができる。このアニオン交換体は、互いにつながっているマクロポアとマクロポアの壁内に平均径が1〜1000μm、好ましくは10〜100μmのメソポアを有する連続気泡構造を有している。この連続気泡は、通常、平均径2〜5000μmのマクロポアとマクロポアが重なり合り、この重なる部分が共通の開口となるメソポアを有するもので、その大部分がオープンポア構造となっている。マクロポアとマクロポアの重なりは、1個のマクロポアで1〜12個、多くのものは3〜10個となる。上記のようなアニオン交換体を用いることにより、弾力性が高く、膨潤又は収縮による形状変化を抑制することができる。また、操作電圧を安定化させることが可能であり、脱塩室に充填されたカチオン交換体の変形も防止することができる。
【0054】
特開2009−062512号公報に記載のアニオン交換体としては、気泡状のマクロポア同士が重なり合い、この重なる部分が水湿潤状態で平均直径30〜300μmの開口となる連続マクロポア構造体であり、厚み1mm以上、全細孔容積0.5〜5ml/g、水湿潤状態での体積当りのイオン交換容量0.4mg当量/ml以上であり、アニオン交換基が該多孔質アニオン交換体中に均一に分布しており、且つ該連続マクロポア構造体(乾燥体)の切断面のSEM画像において、断面に表れる骨格部面積が、画像領域中25〜50%であるものを挙げることができる。このアニオン交換体は、気泡状のマクロポア同士が重なり合い、この重なる部分が平均直径30〜300μm、好ましくは30〜200μm、特に35〜150μmの開口(メソポア)となる連続マクロポア構造体を有する。骨格部面積は好ましくは画像領域中25〜45%であり、イオン交換容量は好ましくは0.4〜1.8mg当量/mlである。
【0055】
特開2009−067982号公報に記載のアニオン交換体としては、アニオン交換基が導入された全構成単位中、架橋構造単位を0.3〜5.0モル%含有する芳香族ビニルポリマーからなる太さが1〜60μmの三次元的に連続した骨格と、その骨格間に直径が10〜100μmの三次元的に連続した空孔とからなる共連続構造体であって、全細孔容積が0.5〜5ml/gであり、水湿潤状態での体積当りのイオン交換容量が0.3mg当量/ml以上であり、アニオン交換基が該多孔質アニオン交換体中に均一に分布しているものを挙げることができる。このアニオン交換体は、アニオン交換基が導入された太さが1〜60μm、好ましくは3〜58μmの三次元的に連続した骨格と、その骨格間に直径が10〜100μm、好ましくは15〜90μm、特に20〜80μmの三次元的に連続した空孔とからなる共連続構造体を有する。イオン交換容量は好ましくは0.4〜1.8mg当量/mlである。
【0056】
特開2009−108294号公報に記載のアニオン交換体としては、連続骨格相と連続空孔相からなる有機多孔質体と、該有機多孔質体の骨格表面に固着する直径4〜40μmの多数の粒子体又は該有機多孔質体の骨格表面上に形成される最大径が4〜40μmの多数の突起体との複合構造体であって、厚み1mm以上、孔の平均直径10〜150μm、全細孔容積0.5〜5ml/gであり、水湿潤状態での体積当りのイオン交換容量0.2mg当量/ml以上であり、アニオン交換基が該複合構造体中に均一に分布したものを挙げることができる。この有機多孔質体としては、2種類の有機多孔質体を用いることができる。第1の有機多孔質体は、気泡状のマクロポア同士が重なり合い、この重なる部分が平均直径30〜300μm、好ましくは30〜200μm、特に35〜150μmの開口(メソポア)となる連続マクロポア構造体を構成する。第2の有機多孔質体は、直径が1〜50μmの三次元的に連続した骨格と、その骨格間に10〜100μmの三次元的に連続した空孔を有する共連続構造を構成する。
【0057】
上記特開2009−062512号公報、特開2009−067982号公報、及び特開2009−108294号公報に記載のアニオン交換体を用いることにより、脱塩室内の導電性を高めて、電気式脱イオン水製造装置の操作電圧を低くすることができる。
【0058】
また、上記の公報に記載のモノリス状アニオン交換体以外に、下記のモノリス状アニオン交換体を使用することができる。すなわち、このモノリス状アニオン交換体は、気泡状のマクロポア同士が重なり合い、この重なる部分が平均直径20〜200μmの開口となる厚みが1mm以上の連続マクロポア構造体であり、該連続マクロポア構造体の骨格部の表層部が多孔構造であり、水湿潤状態での体積当りのイオン交換容量0.4mg当量/ml以上であり、アニオン交換基が該多孔質アニオン交換体中に均一に分布している。この重なる部分の平均直径は、20〜150μmが好ましく、20〜100μmがより好ましい。また、この重なる部分の平均直径は、水湿潤状態で30〜300μmが好ましく、30〜200μmがより好ましく、35〜150μmが更に好ましい。モノリス状アニオン交換体の比表面積は、20m2/g〜70m2/gであることが好ましい。モノリス状アニオン交換体の厚みは、3mm〜1000mmであることが好ましい。モノリス状アニオン交換体の水湿潤状態での体積当りのイオン交換容量は、0.4〜1.8mg当量/mlであることが好ましい。
【0059】
(カチオン交換体)
カチオン交換体としては特に限定されないが、カチオン交換膜、カチオン交換繊維、モノリス状カチオン交換体、カチオン交換樹脂を使用することができる。カチオン交換樹脂を使用する場合、ゲル形、MR形のいずれも用いることができる。モノリス状カチオン交換体は、上記(アニオン交換体)に記載のモノリス状アニオン交換体の製法と同様の製法によって製造することができる。
【0060】
(脱塩室)
脱塩室は、中間イオン交換膜を設けない場合、カチオン交換膜、アニオン交換膜、及び枠体から構成されている。また、中間イオン交換膜を設ける場合、脱塩室は、カチオン交換膜、アニオン交換膜、中間イオン交換膜及び枠体から構成されている。
【0061】
枠体は、くりぬかれた内部空間を有するリブから構成されている。枠体の一方及び他方の側には、それぞれカチオン交換膜及びアニオン交換膜が配置されている。また、中間イオン交換膜を設ける場合、枠体の中央に中間イオン交換膜が配置されている。この枠体の内部空間には、アニオン交換体及びカチオン交換が充填されている。このアニオン交換体の少なくとも一部は、イオン交換基として上記一般式(1)で表される第4級アンモニウム塩基を有するアニオン交換体から構成される。また、アニオン交換体としては、上記一般式(1)で表される第4級アンモニウム塩基を有するアニオン交換体以外に、他のアニオン交換体を充填しても良い。
【0062】
脱塩室において、カチオン交換体が充填されたカチオン交換領域と、アニオン交換体が充填されたアニオン交換領域の境界面は、陰極板及び陽極板に対して平行であることが好ましい。このように陰極板及び陽極板に対して境界面を平行にすることによって、陽極板側から陰極板側に向かって、アニオン交換領域/カチオン交換領域の順にイオン交換領域を配置することができる(上記において、「/」が境界面に相当する)。
【0063】
この結果、脱塩室に通電した際、電圧異常の発生防止だけでなく、処理水質の低下を効果的に防止することができる。すなわち、一般的に、脱塩室に充填されたアニオン交換体とカチオン交換体は導電性が異なる。従って、例えば、凝縮水の流れ方向に沿って順に、脱塩室内にアニオン交換体とカチオン交換体を充填した場合(例えば、凝縮水の流れ方向に対して、入口側−アニオン交換体−カチオン交換体−出口側と配置した場合や、入口側−カチオン交換体−アニオン交換体−出口側と配置した場合など)などは、アニオン交換領域とカチオン交換領域との境界面が陰極板及び陽極板に対して垂直となる。この場合、アニオン交換体及びカチオン交換体のうち導電性が優れるイオン交換体を通して電流が流れる。そして、電流が流れにくいイオン交換体の部分ではイオン交換の効率が低下して、処理水質が低下する場合がある。
【0064】
これに対して、カチオン交換領域とアニオン交換領域との境界面を、陰極板及び陽極板に対して平行に設けた場合、通電時には、カチオン交換領域及びアニオン交換領域の両方の領域を通って電流が流れることとなる。従って、この場合には何れか一方のイオン交換体を介した電流の流れは起こらず、処理水質の低下を防止することができる。なお、カチオン交換領域とアニオン交換領域との境界面は、陽極板及び陰極板に対して略平行となっていれば良く、陽極板及び陰極板に対して厳密に平行となっている必要はない。
【0065】
「アニオン交換領域」とは、脱塩室内に充填されたアニオン交換体が占める領域を表す。粒子状アニオン交換樹脂については、脱塩室内において粒子状アニオン交換樹脂が充填された領域がアニオン交換領域を構成する。なお、脱塩室内に複数のアニオン交換体が充填されている場合には、全てのアニオン交換体が占める領域が、「アニオン交換領域」となる。
【0066】
同様にして、「カチオン交換領域」とは、脱塩室内に充填されたカチオン交換体が占める領域を表す。粒子状カチオン交換樹脂については、脱塩室内において粒子状カチオン交換樹脂が充填された領域がカチオン交換領域を構成する。なお、脱塩室内に複数のカチオン交換体が充填されている場合には、全てのカチオン交換体が占める領域が、「カチオン交換領域」となる。
【0067】
また、「境界面」とは、アニオン交換領域とカチオン交換領域の境界部分を構成する面を表す。例えば、アニオン交換体及びカチオン交換体が共に、イオン交換膜、イオン交換繊維、モノリス状イオン交換体により構成される場合、アニオン交換体とカチオン交換体が接触する面が境界面を構成する。
アニオン交換体及びカチオン交換体のうち、何れか一方が粒子状イオン交換樹脂、他方がイオン交換膜、イオン交換繊維、モノリス状イオン交換体の場合、イオン交換膜、イオン交換繊維、モノリス状イオン交換体の粒子状イオン交換樹脂に対向している面が実質的に境界面を構成する。
アニオン交換体及びカチオン交換体が共に、粒子状イオン交換樹脂から構成される場合、アニオン交換領域とカチオン交換領域の境界部分には中間膜が配置され、この中間膜が境界面を構成する。
【0068】
(陽極板及び陰極板)
陽極板の材料としては特に限定されないが、電気式脱イオン水製造装置の運転時に塩素が発生する場合があるため、耐塩素性を有するものが好ましい。陽極板の材料としては例えば、白金、パラジウム、イリジウム等の貴金属、あるいはこれらの貴金属をチタン等に被覆した網状あるいは板状の電極を用いることができる。
【0069】
陰極板の材料としては、陰極としての機能を発揮するものであれば特に限定されないが、例えば、板状のステンレスや網状のステンレスを用いることができる。
【0070】
なお、陽極板及び陰極板は、略平行となるように配置されていれば良く、厳密に平行となるように配置されていなくても良い。
【0071】
2.発電装置
図7は、本発明の電気式脱イオン水製造装置を備えた発電装置の一例を表す図である。図7に示すように、この発電装置では、燃料極21、電解質膜24、空気極25、冷却部29を有する燃料電池を備える。この燃料電池の発電時には、空気極25及び冷却部29から水蒸気が発生する。
【0072】
これらの水蒸気は凝縮器23で回収、凝縮されて、凝縮水となる。この凝縮水は、電気式脱イオン水製造装置26に導入され、アニオン成分及びカチオン成分が除去される。
【0073】
電気式脱イオン水製造装置26で処理された凝縮水は処理タンク28で冷却されて冷却水となる。この冷却水は冷却部29に供給されると共に、改質器22の前段部分に供給されて燃料ガスと混合される。燃料ガスと混合された冷却水は、改質器22に導入される。改質器22の中では、燃料ガスの水蒸気改質が行われ、水素を生成させる。改質器22の中で生成した水素は、燃料電池の燃料極21に導入される。一方、燃料電池の空気極25には空気が導入される。この燃料極21に導入された水素と、空気極25に導入された空気中の酸素の反応により、燃料電池は発電する。
【0074】
空気極25と冷却部29で発生した水蒸気は上記のようにして凝縮後、電気式脱イオン水製造装置26で再生された後、再利用される。
【0075】
なお、上記発電装置では、概念的に1セルの燃料電池を示した。しかし、必要な発電量に応じて、複数のセルを、セパレータを介して積層させたセルスタックの形態の燃料電池としても良い。また、使用する燃料電池の種類は特に限定されず、固体高分子形燃料電池(PEFC, Polymer Electrolyte Fuel Cell)、りん酸形燃料電池(PAFC, Phosphoric Acid Fuel Cell)、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC, Molten Carbonate Fuel Cell)、固体酸化物形燃料電池(SOFC, Solid Oxide Fuel Cell)、アルカリ電解質形燃料電池(AFC, Alkaline Fuel Cell)等を使用することができる。なお、内部改質型の燃料電池の場合は、改質器を設けずに、冷却水を直接、燃料電池内に供給する。
【0076】
上記発電装置では、空気極25及び冷却部29から回収した水蒸気を凝縮させた凝縮水は高温となっている。そこで、従来の電気式脱イオン水製造装置では、脱塩室内のアニオン交換体が高温の凝縮水によって劣化する場合がある。しかし、本発電装置では、電気式脱イオン水製造装置の脱塩室内に充填されたアニオン交換体は上記一般式(1)で表されるイオン交換基を有するため、耐熱性に優れる。このため、安定して長時間、凝縮水中のアニオン成分を除去することができる。また、このアニオン交換体が存在するため低電圧で水の解離反応を促進させることができ、電圧異常の発生を防止することができる。
【0077】
以下、電気式脱イオン水製造装置の具体例を説明する。下記第1〜第5実施例では、アニオン交換体は、イオン交換基として上記一般式(1)で表される第4級アンモニウム塩基を有するアニオン交換体となっている。
【0078】
なお、下記具体例は、本発明のより一層の深い理解のために示される具体例であって、本発明は、これらの具体例に何ら限定されるものではない。また、下記具体例では、便宜上、複数の実施例に分割して説明する。しかし、特に明示した場合及び原理的に不可能な場合を除き、それらは互いに無関係なものではなく、一方は他方の一部または全部の変形例の関係にある。
【0079】
(第1実施例)
図2は、本実施例の電気式脱イオン水製造装置を示す図である。図2に示すように、この電気式脱イオン水製造装置では、陽極板7/陽極室5/アニオン交換膜2a/モノリス状アニオン交換体11からなるアニオン交換領域15/粒子状カチオン交換樹脂10が充填されたカチオン交換領域16/カチオン交換膜2b/陰極室6/陰極板8の順に配置されている。脱塩室3内には、モノリス状アニオン交換体11及び粒子状カチオン交換樹脂10が充填されている。
【0080】
脱塩室3内において、このモノリス状アニオン交換体11が占める領域がアニオン交換領域15を構成する。また、脱塩室3内において、この粒子状カチオン交換樹脂10が充填された領域がカチオン交換領域16を構成する。このアニオン交換領域15とカチオン交換領域16の境界面14は、陽極板7及び陰極板8に対して平行となっている。すなわち、本実施例では、実質的に、モノリス状アニオン交換体11の陰極側の面(陰極板8に対向する面)が境界面14を構成する。
【0081】
本実施例では、モノリス状アニオン交換体11を用いることにより、境界面14を陽極板7及び陰極板8に対して平行となるように制御し易くなる。この結果、通電時の脱塩室内の電流の流れの偏りが生じにくくなり、処理水質の低下を効果的に防止できる。また、上記一般式(1)で表される第4級アンモニウム塩基を有するアニオン交換体を使用しているため、電圧異常の発生を防止できると共に耐熱性を向上させることができる。
【0082】
また、装置の構成が簡易であるため、低コスト化を図ることができる。更に、通常の運転時には、従来の電気式脱イオン水製造装置では、脱塩室内への水の流れの発生/停止に伴い粒子状カチオン交換樹脂の充填状態が不均一となる場合があった。しかし、本実施例では、脱塩室3内にモノリス状アニオン交換体11を設けることにより、粒子状カチオン交換樹脂10の充填状態を固定して、その充填状態が不均一となるのを防止することができる。
【0083】
(第2実施例)
図3は、本実施例の電気式脱イオン水製造装置を示す図である。図3に示すように、この電気式脱イオン水製造装置では、陽極板7/陽極室5/アニオン交換膜2a/粒子状アニオン交換樹脂13が充填されたアニオン交換領域15/モノリス状カチオン交換体12からなるカチオン交換領域16/カチオン交換膜2b/陰極室6/陰極板8の順に配置されている。脱塩室3内には、モノリス状カチオン交換体12及び粒子状アニオン交換樹脂13が充填されている。
【0084】
脱塩室3内において、このモノリス状カチオン交換体12が占める領域がカチオン交換領域16を構成する。また、脱塩室3内において、この粒子状アニオン交換樹脂13が充填された領域がアニオン交換領域15を構成する。このアニオン交換領域15とカチオン交換領域16との境界面14は、陽極板7及び陰極板8に対して平行となっている。すなわち、本実施例では、実質的に、モノリス状カチオン交換体12の陽極側の面(陽極板7に対向する面)が境界面14を構成する。
【0085】
本実施例ではモノリス状カチオン交換体12を用いることにより、境界面14を陽極板7及び陰極板8に対して平行に制御し易くなり、処理水質の低下を効果的に防止できる。また、上記一般式(1)で表される第4級アンモニウム塩基を有するアニオン交換体を使用しているため、電圧異常の発生を防止できると共に耐熱性を向上させることができる。
【0086】
また、装置の構成が簡易であるため、低コスト化を図ることができる。更に、脱塩室3内にモノリス状カチオン交換体12を設けることにより、粒子状アニオン交換樹脂13の充填状態を固定して、その充填状態が不均一となるのを防止することができる。
【0087】
(第3実施例)
図4は、本実施例の電気式脱イオン水製造装置を示す図である。図4に示すように、この電気式脱イオン水製造装置では、陽極板7/陽極室5/アニオン交換膜2a/モノリス状アニオン交換体11からなるアニオン交換領域15/モノリス状カチオン交換体12からなるカチオン交換領域16/カチオン交換膜2b/陰極室6/陰極板8の順に配置されている。脱塩室3内には、モノリス状アニオン交換体11及びモノリス状カチオン交換体12が充填されている。
【0088】
脱塩室3内において、このモノリス状アニオン交換体11が占める領域がアニオン交換領域15を構成する。また、脱塩室3内において、このモノリス状カチオン交換体12が占める領域がカチオン交換領域16を構成する。このアニオン交換領域15とカチオン交換領域16の境界面14は、陽極板7及び陰極板8に対して平行となっている。すなわち、本実施例では、実質的に、モノリス状アニオン交換体11とモノリス状カチオン交換体12が接触する面が境界面14を構成する。
【0089】
本実施例では、モノリス状アニオン交換体11とモノリス状カチオン交換体12を用いることにより、境界面14を陽極板7及び陰極板8に対して平行とすることが非常に容易となる。この結果、処理水質の低下をより効果的に防止できる。また、上記一般式(1)で表される第4級アンモニウム塩基を有するアニオン交換体を使用しているため、電圧異常の発生を防止できると共に耐熱性を向上させることができる。
【0090】
また、装置の構成が簡易であるため、低コスト化を図ることができる。更に、脱塩室3内に粒子状イオン交換樹脂が存在しないため、脱塩室内への水の流れの発生/停止に伴い粒子状イオン交換樹脂の充填状態が不均一となるといったことがない。
【0091】
(第4実施例)
図5は、本実施例の電気式脱イオン水製造装置を示す図である。図5に示すように、この電気式脱イオン水製造装置では、陽極板7/陽極室5/アニオン交換膜2a/粒子状アニオン交換樹脂13が充填されたアニオン交換領域15/中間イオン交換膜17/粒子状カチオン交換樹脂10が充填されたカチオン交換領域16/カチオン交換膜2b/陰極室6/陰極板8の順に配置されている。この中間イオン交換膜17が、境界面14を構成する。
【0092】
一般的に、脱塩室内に粒子状アニオン交換樹脂と粒子状カチオン交換樹脂を充填する際には、境界面を陽極板及び陰極板に平行にすることが困難である。また、脱塩室内への水の流れの発生/停止によって、脱塩室内に充填された粒子状アニオン交換樹脂と粒子状カチオン交換樹脂の充填状態が変化して境界面が不確定となったり、変化する場合がある。しかし、本実施例では、脱塩室3内に中間イオン交換膜17を設けることによって、粒子状アニオン交換樹脂13と粒子状カチオン交換樹脂10が充填される領域を区画することができる。この結果、中間イオン交換膜17の部分を境界面14として画定することができる。そして、境界面14を、陽極板7及び陰極板8に対してより平行に配置しやすくなる。また、処理水質の低下をより効果的に防止しやすくなる。
【0093】
中間イオン交換膜17としては、カチオン交換膜またはアニオン交換膜の単一膜、あるいは、アニオン交換膜及びカチオン交換膜の両方を配置した複式膜、のいずれであってもよい。この複式膜とは例えば、上半分をアニオン交換膜、下半分をカチオン交換膜とした場合のように、その厚さ方向に垂直な面において一定の領域をアニオン交換膜が占有し、残りの領域をカチオン交換膜が占有する膜のことを表す。
【0094】
本実施例の電気式脱イオン水製造装置では、アニオン交換領域15内と、カチオン交換領域16内をそれぞれ別々に通水できるようになっている。これらのイオン交換領域への通水の順序は特に限定されず、アニオン交換領域15→カチオン交換領域16の順に通水しても、カチオン交換領域16→アニオン交換領域15の順に通水しても良い。
【0095】
以下では、カチオン交換領域16→アニオン交換領域15の順に通水した場合を例に挙げて、電気式脱イオン水製造装置の使用方法を説明する。
【0096】
図5に示すように凝縮水はまず、カチオン交換領域16内を流れ、この間に凝縮水中のカチオン成分が除去される。この後、凝縮水はアニオン交換領域15内を流れ、この間に凝縮水中のアニオン成分が除去される。また、陽極室5内には水が流れ、アニオン交換膜2aを介して電気的に泳動してくるアニオン成分を受取る。同様に、陰極室6内には水が流れ、カチオン交換膜2bを介して電気的に泳動してくるカチオン成分を受取る。
【0097】
本実施例ではまず、カチオン交換領域16においてカチオン成分が除去されるため、凝縮水中にはアニオン成分が残り、これらの対イオンとして水の解離反応により生じた水素イオンが凝縮水中に増えることとなる。この結果、カチオン成分除去後の凝縮水のpHは、酸性寄り(例えばpH5〜6)になる。従って、この後、アニオン交換領域15に流入する凝縮水は酸性寄りとなり、凝縮水中において泳動しやすいアニオン成分である水酸化物イオンが少なくなる。この結果、凝縮水中の水酸化物イオン以外のアニオン成分を除去しやすくなる。このようにして本実施例の電気式脱イオン水製造装置では、高純度の水を得ることができる。
【0098】
また、以下に、カチオン交換領域16→アニオン交換領域15の順に通水した場合の中間イオン交換膜17の機能を説明する。
【0099】
中間イオン交換膜17としてカチオン交換膜の単一膜を用いた場合、カチオン交換領域16で完全に除去できず、アニオン交換領域15を流れる凝縮水中に存在するカチオン成分を、カチオン交換膜(中間イオン交換膜)17を介して再除去することができる。この結果、アニオン成分の除去性能を向上させることができる。
【0100】
中間イオン交換膜17としてアニオン交換膜の単一膜を用いた場合、凝縮水がカチオン交換領域16内を流れている間に、凝縮水中のアニオン成分がアニオン交換膜(中間イオン交換膜)17を通ってアニオン交換領域15まで泳動する。これによって、アニオン成分の除去効率を高めることができる。また、カチオン交換領域16における凝縮水のpHが酸性からやや中性寄りとなり、カチオン交換領域16の末端付近におけるカチオン成分の除去効率をより高めることができる。
【0101】
中間イオン交換膜17としてアニオン交換膜及びカチオン交換膜の複式膜を用いた場合、上記カチオン交換膜の単一膜を用いた時、及び上記アニオン交換膜の単一膜を用いた時の両方の利点を兼ね備えることができる。
【0102】
また、図5では、カチオン交換領域16及びアニオン交換領域15内の凝縮水の流れは同方向とした。しかし、水の流れ方向はこれに限定されるわけではなく、カチオン交換領域16内の凝縮水の流れ方向と、アニオン交換領域15内の凝縮水の流れ方向は逆方向であっても異なっていても良い。
【0103】
(第5実施例)
図6は、第1実施例の変形例を示す図である。図6に示すように、この電気式脱イオン水製造装置では、陽極板7/陽極室18aと陰極室18b/陰極板8との間に、脱塩室3と濃縮室18cとが交互に配置された構造を構成する点が第1実施例と異なる。脱塩室3は、陽極側から陰極側に向かって、アニオン交換膜2a/アニオン交換領域15/カチオン交換領域16/カチオン交換膜2bの順に配置されている。各脱塩室3内には境界面14が存在する。本実施例の電気式脱イオン水製造装置は、複数の脱塩室と濃縮室が設けられたものであるため、凝縮水中のイオン交換能を高めることができる。
【0104】
濃縮室18cには、陽極室18a及び陰極室18bと同様にイオン交換体を充填しても良い。この場合、濃縮室18cは、アニオン交換体の単床、カチオン交換体の単床、又は、アニオン交換体とカチオン交換体の混床の何れの形態としても良い。
【0105】
なお、本実施例では、第1実施例の変形例として、脱塩室及び濃縮室を複数、設けた例を挙げた。しかし、この脱塩室及び濃縮室を複数、設ける構造は、第1実施例の変形例に限定されるわけではなく、上記第2〜第4実施例の電気式脱イオン水製造装置において、上記のように複数の脱塩室と濃縮室を設けても良い。
【0106】
また、上記第1〜第5実施例において、アニオン交換領域には、イオン交換基として上記一般式(1)で表される第4級アンモニウム塩基を有するアニオン交換体以外に、他のアニオン交換体を充填しても良い。
【実施例】
【0107】
(実施例1)
図5に示す電気式脱イオン水製造装置を準備した。粒子状アニオン交換樹脂13には、イオン交換基として上記一般式(2)で表される第4級アンモニウム塩基を有する、PWA6(ローム・アンド・ハース社製)を用いた。また、粒子状カチオン交換樹脂10にはIR120B(ローム・アンド・ハース社製)、中間イオン交換膜17にはカチオン交換膜(アストム社製)を用いた。
【0108】
脱塩室3内の中央に中間イオン交換膜17を配置した後、粒子状アニオン交換樹脂13を80mL、粒子状カチオン交換樹脂10を80mL、充填させた。なお、粒子状アニオン交換樹脂13と粒子状カチオン交換樹脂10の体積はタッピング法によって測定した。陽極板7及び陰極板8の大きさは縦10cm、横10cmとした。
【0109】
4L/hの流量でUPW(超純水、温度25℃、導電率0.1μS/cm)を、最初に脱塩室のカチオン交換領域16に流した後、アニオン交換領域15に流した。アニオン交換領域15とカチオン交換領域16をUPWが流れる方向は、同方向とした。
【0110】
また、陽極室5及び陰極室6には、UPW(超純水、温度25℃、導電率0.1μS/cm)を4L/hの流量で流した。UPWが陽極室5及び陰極室6を流れる方向は、凝縮水がアニオン交換領域15及びカチオン交換領域16を流れる方向と逆方向とした。そして、陽極板7と陰極板8間に0.20A及び1.0Aの電流を流し、2時間、経過した時の、領域20における電圧を測定した。この結果を、表1に示す。
【0111】
(実施例2)
図2に示す電気式脱イオン水製造装置を準備した。アニオン交換体として、モノリス状アニオン交換体11を80mL、アニオン交換領域に充填した以外は、実施例1と同様にして試験を行った。なお、モノリス状アニオン交換体11の体積は、モノリス状アニオン交換体11の外形部分が占める体積として測定した。
【0112】
このモノリス状アニオン交換体11は、イオン交換基として上記一般式(2)で表される第4級アンモニウム塩基を有する。また、モノリス状アニオン交換体11の開口部の平均直径は62μm、全細孔容積は2.39ml/g、イオン交換量は0.50mg当量/g、湿潤多孔質体(3.2mg当量/g乾燥多孔質体)、水分保有能力は84%、1.3モル%の架橋構造単位、単位断面積当たりの骨格部の面積30%であった。
【0113】
この後、実施例1と同様にして、領域20における電圧を測定した。この結果を、表1に示す。
【0114】
(比較例1)
図8に示すように、アニオン交換体として、粒子状アニオン交換樹脂19 IRA402BL(ローム・アンド・ハース社製)を80mL、アニオン交換領域に充填した以外は、実施例1と同様にして試験を行った。この粒子状アニオン交換樹脂19は、イオン交換基として上記一般式(1)で表される第4級アンモニウム塩基を有さない。この後、実施例1と同様にして、領域20における電圧を測定した。この結果を表1に示す。
【0115】
【表1】

【0116】
表1に示すとおり、実施例1では、電流0.2Aにおいて電圧1V、電流1.0Aにおいて電圧2Vであり、電流0.2A及び1.0Aの何れの場合も電圧値は小さな値となった。同様に、実施例2では、電流0.2Aにおいて電圧1.5V、電流1.0Aにおいて電圧2.5Vであり、電流0.2A及び1.0Aの何れの場合も電圧値は小さな値となった。
【0117】
これに対して、比較例1では、電流0.2Aにおいて電圧4V、1.0Aにおいて電圧45Vであり、電流0.2A及び1.0Aの何れの場合も電圧値は大きな値を示した。
【0118】
このように電流が0.2A及び1.0Aの何れのときも、実施例1、2と比べて比較例1では電圧値が大きな値となっており、電圧異常が発生していることが分かる。
【0119】
なお、上記実施例及び比較例では、脱塩室内にUPWを流した場合の電圧の値を調べた。しかし、燃料電池からの凝縮水中にはUPWよりも多い量のイオン成分が溶存しているため、凝縮水の導電率はUPWよりも大きい値となっている。従って、UPWを脱塩室内に流した場合と比べて、凝縮水を脱塩室内に流した場合には電圧値はより大きな値となり、比較例1では電圧異常がより顕著になるものと考えられる。
【0120】
また、実施例1で使用したPWA6(ローム・アンド・ハース社製)及び実施例2で使用したモノリス状アニオン交換体の耐熱温度は75℃であるため、脱塩室内に高温の凝縮水を流した場合であってもアニオン交換体が劣化しない。
【0121】
以上より、脱塩室内に、イオン交換基として上記一般式(1)で表される第4級アンモニウム塩基を有するアニオン交換体を充填することにより、耐熱性に優れ、操作電圧を低くして安定した電気式脱イオン水製造装置の運転が可能なことを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明の電気式脱イオン水製造装置は、燃料電池から回収した水を処理する燃料電池用の電気式脱イオン水製造装置に利用することができる。特に、家庭用燃料電池向けの電気式脱イオン水製造装置として好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0123】
1 カチオン交換体
2a アニオン交換膜
2b カチオン交換膜
3 脱塩室
4 アニオン交換体
5 陽極室
6 陰極室
7 陽極板
8 陰極板
10 粒子状カチオン交換樹脂
11 モノリス状アニオン交換体
12 モノリス状カチオン交換体
13 粒子状アニオン交換樹脂
14 境界面
15 アニオン交換領域
16 カチオン交換領域
17 中間イオン交換膜
18a 陽極室
18b 陰極室
18c 濃縮室
19 粒子状アニオン交換樹脂
21 燃料極
22 改質器
23 凝縮器
24 イオン交換膜
25 空気極
26 電気式脱イオン水製造装置
28 処理タンク
29 冷却部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池から回収した水を処理する燃料電池用の電気式脱イオン水製造装置であって、
イオン交換基として下記一般式(1)で表される第4級アンモニウム塩基を有するアニオン交換体と、カチオン交換体と、が充填された脱塩室と、
前記脱塩室を挟んで互いに平行となるように設けられた、陽極板及び陰極板と、
を備えた電気式脱イオン水製造装置。
【化1】

(ただし、上記一般式(1)中、R1〜R3のうち少なくとも一つの基は炭素数が2以上のアルキル基、X-は対イオンを表す。)
【請求項2】
前記一般式(1)において、前記R1〜R3はそれぞれ独立して炭素数が2以上5以下のアルキル基である請求項1に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項3】
前記一般式(1)において、前記R1〜R3はエチル基である請求項1又は2に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項4】
前記脱塩室において、カチオン交換体が充填されたカチオン交換領域と、アニオン交換体が充填されたアニオン交換領域の境界面は、前記陽極板及び陰極板に対して平行である請求項1〜3の何れか1項に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項5】
下記(a)〜(c)のうち何れか一つの形態となるように、前記脱塩室に前記カチオン交換体及びアニオン交換体が充填される請求項4に記載の電気式脱イオン水製造装置。
(a)前記カチオン交換体はモノリス状カチオン交換体、前記アニオン交換体は粒子状アニオン交換樹脂である形態、
(b)前記カチオン交換体は粒子状カチオン交換樹脂、前記アニオン交換体はモノリス状アニオン交換体である形態、
(c)前記カチオン交換体はモノリス状カチオン交換体、前記アニオン交換体はモノリス状アニオン交換体である形態。
【請求項6】
前記電気式脱イオン水製造装置は、陽極板/陽極室/アニオン交換膜/アニオン交換領域/カチオン交換領域/カチオン交換膜/陰極室/陰極板の順に配置された構造を有する請求項4又は5に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項7】
前記電気式脱イオン水製造装置は、陽極板/陽極室/アニオン交換膜/アニオン交換領域/中間イオン交換膜/カチオン交換領域/カチオン交換膜/陰極室/陰極板の順に配置された構造を有する請求項4又は5に記載の電気式脱イオン水製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−104513(P2011−104513A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−261915(P2009−261915)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】