説明

燃料電池用セパレータおよびその製造方法、並びに、それを用いた燃料電池

【課題】本発明の課題は、セパレータのガス流路となる条溝部の水との親水性を上げて出力を向上させた燃料電池を提供するものである。
【解決手段】PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂と黒鉛を有する燃料電池用セパレータの条溝部をコロナ処理(無声放電処理)することにより、燃料電池用セパレータ条溝部に水酸基を設け親水性を付与する。
親水性を付与により、燃料電池用セパレータ条溝部の、純水との接触角を35°以下にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用セパレータのガス流路部分に濡れ性を付与する表面処理方法、および、それを用いて作製した燃料電池用セパレータおよび燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質膜の一方の面にアノード(燃料極)、他方の面にカソード(酸化剤極)を密着させて設け、その両側に、燃料ガスと酸化剤ガスが混じらないようにセパレータを配した構造になっている。
アノードに対向するセパレータ表面には、燃料ガスを流通させる凹溝状の流路を設けられている。
カソードに対向するセパレータ表面には、酸化剤ガスを流通させる凹溝状の流路を設けられている。
そして、燃料ガス流路に水素を主体とした改質ガス(又は水素ガス)を供給すると共に、酸化剤ガス流路に酸化剤ガス(通常は空気)を供給し、電解質膜を介して燃料ガスの水素と酸化剤ガスの酸素とにより下記の電気化学反応を生じさせて起電力を得るようにしたものである。
【0003】
燃料極;H→2H+2e− (1)
酸化剤極;4H+4e−+O→2HO (2)
【0004】
燃料極上で水素はプロトンとなり、水を伴って電解質中を酸化剤極上まで移動し、酸化剤極上で酸素と反応して水を生ずる。(特許文献1参照)
【0005】
セパレータの燃料ガスの流路となる条溝は、燃料ガスを燃料極に供給する役務の他に、水を燃料極に供給する役務を持つ。
【0006】
また、セパレータの酸化剤ガスの流路となる条溝は、酸化剤ガスを燃料極に供給する役務の他に、水を酸化剤極から排出する役務を持つ。
【0007】
セパレータの材質としては、フェノール樹脂と黒鉛からなる材質が用いられている。
【0008】
【特許文献1】特開2005−174641号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、フェノール樹脂と黒鉛からなるセパレータのガス流路となる条溝部は、水との親水性が悪く、燃料極への水の補給と酸化剤極からの水の排出を迅速に行えない。
このため、セパレータのガス流路に残留した水が邪魔をして、燃料ガスおよび酸化剤ガスの流通を妨げ、燃料電池の出力を低下させるという問題を抱えている。
【0010】
本発明の課題は、セパレータのガス流路となる条溝部の水との親水性を上げることにより、出力を向上させた燃料電池を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の発明は、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂および黒鉛を含有し、ガス流路となる条溝部を備えた燃料電池用セパレータであって、前記条溝部の純水との接触角が35゜以下であることを特徴とする燃料電池用セパレータである。
【0012】
セパレータ条溝部の純水との接触角と、燃料電池の出力の関係を図1に示す。
セパレータ条溝部の純水との接触角が35°より大きくなると、燃料電池の出力が0.95[W/cm]を下回る。
0.95[W/cm]は、燃料電池出力の許容下限値である。
【0013】
請求項2に記載の発明は、PET樹脂と黒鉛を揮発性の有機溶媒に溶解して溶解液を生成する溶解液生成工程と、前記溶解液を混練して混練物を作製する混練物作製工程と、前記混練物を乾燥および粉砕して粉砕物を作製する粉砕物作製工程と、前記粉砕物を凹凸部が形成された成型型を用いて等方加圧成型および加熱硬化して成形体を作製する成形体作製工程と、前記成形体に親水性を付与する親水性付与工程を有する燃料電池用セパレータの製造方法において、
前記親水性付与工程が、コロナ処理(無声放電処理)によって、前記成形体に親水性を付与する工程であることを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法である。
【0014】
PET樹脂と黒鉛を混合して成型型に入れ加熱硬化した成形体の純水との接触角は、60〜70°であり、親水性が悪い。
加熱により、親水性を発揮する水酸基が除去されたためと考えられる。
【0015】
成形体にコロナ処理(無声放電処理)を施すことにより、前記成形体に水酸基を設け親水性を付与する。
【0016】
請求項3に記載の発明は、前記燃料電池用セパレータの前記PET樹脂と前記黒鉛の配合量が、前記PET樹脂100重量部に対して前記黒鉛300〜800重量部であることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用セパレータである。
【0017】
PET樹脂100重量部に黒鉛300重量部未満の配合であると、燃料電池用セパレータの導電率は0.2S/cmを下回ってしまう。
導電率0.2S/cmは、燃料電池用セパレータ導電率の許容下限値である。
【0018】
また、PET樹脂100重量部に黒鉛800重量部以上であると、燃料電池用セパレータの曲げ強度は4kgf/mmを下回ってしまう。
曲げ強度4kgf/mmは、燃料電池用セパレータ強度の許容下限値である。
【0019】
請求項4に記載の発明は、固体高分子電解質膜の表裏面に触媒層が設けられ、該触媒層の前記固体高分子電解質膜と反対側の面にガス拡散材が設けられ、該ガス拡散材の前記触媒層と反対側の面に、請求項1または請求項3に記載の燃料電池用セパレータを設けたことを特徴とする燃料電池である。
【0020】
請求項5に記載の発明は、前記固体高分子電解質膜がスルホン基含有パーフルオロカーボン、または、カルボキシル基含有パーフルオロカーボンであることを特徴とする請求項4に記載の燃料電池である。
【0021】
請求項6に記載の発明は、前記触媒層が、プロトン伝導性物質、電子伝導性物質、および、触媒からなることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の燃料電池である。
【0022】
請求項7に記載の発明は、前記プロトン伝導性物質が、パーフルオロカーボンスルホン酸、ポリエーテルスルフォン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、または、スルホン化ポリイミドであることを特徴とする請求項6に記載の燃料電池である。
【0023】
請求項8に記載の発明は、前記電子伝導性物質が、二酸化珪素、または、炭素であることを特徴とする請求項6または請求項7に記載の燃料電池である。
【0024】
請求項9に記載の発明は、前記触媒が、金、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、オスミニウムおよびイリジウムから選ばれた1種または2種以上の金属からなることを特徴とする請求項6乃至請求項8のいずれか1項に記載の燃料電池である。
【0025】
触媒の材料としては、酸素還元能力、水素酸化能力の高い1B族または8族の金属を用いることが好ましい。
【0026】
請求項10に記載の発明は、前記触媒の平均粒径が1nm以上5nm以下であることを特徴とする請求項6乃至請求項9のいずれか1項に記載の燃料電池である。
【0027】
触媒となる金、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウムおよびイリジウムの最小粒径自体が1nm以上であり、触媒の平均粒径が5nmを超える時は、触媒の単位重量当たりの表面積が非常に小さく、よって、触媒活性も小さく、燃料電池の出力特性が悪い。
【0028】
請求項11に記載の発明は、前記電子伝導性物質の前記触媒の担持率が30%〜70%であることを特徴とする請求項6乃至請求項10のいずれか1項に記載の燃料電池である。
【0029】
触媒層における電子伝導性物質の触媒担持率と、燃料電池の出力の関係を図2に示す。
触媒の担持率が30%未満では燃料電池の出力が0.95[W/cm]を下回る。
9.5[W/cm]は、燃料電池出力の許容下限値である。
また、触媒の担持率が70%を超える範囲では燃料電池の出力は変わらず、触媒の無駄使いとなる。
【0030】
請求項12に記載の発明は、前記ガス拡散材が、導電性多孔性基材であることを特徴とする請求項4乃至請求項11のいずれか1項に記載の燃料電池である。
【0031】
請求項13に記載の発明は、前記導電性多孔性基材が、カーボンペーパー、カーボンクロスであることを特徴とする請求項12に記載の燃料電池である。
【発明の効果】
【0032】
本発明では、セパレータのガス流路となる条溝部の水との親水性を上げることよって、出力を向上させた燃料電池を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
まず、PET樹脂100重量部に対して黒鉛300〜800重量部を加えて混練する。
【0034】
黒鉛の材料としては、天然黒鉛、キッシュ黒鉛を用いることができる。
中でも、経済性を考慮すると天然黒鉛が好ましい。
【0035】
黒鉛の製造方法としては、原料炭素を酸性物質及び酸化剤を含む溶液中に浸漬して炭素化合物を生成させ、粉砕する方法を用いることができる。
【0036】
原料炭素を処理する酸性物質としては、酸濃度90重量%以上の硫酸または硫酸と硝酸の混合液を用いることができる。
【0037】
原料炭素と酸性物質の混合比は、原料炭素100重量部に対して酸性物質100〜1000重量部が好ましい。
【0038】
酸化剤としては、酸濃度10〜40重量%の過酸化水素または塩酸を用いることができる。
【0039】
原料炭素と酸化剤の混合比は、原料炭素100重量部に対して酸化剤10〜60重量部が好ましい。
【0040】
黒鉛の粒径は、10〜100μmが好ましい。
粒径が10μm未満の場合、セパレータの導電率は0.2S/cmを下回ってしまう。
また、粒径が100μmを超える場合、黒鉛とPET樹脂との相溶性が悪く、セパレータの導電率は0.2S/cmを下回ってしまう。
導電率0.2S/cmは、燃料電池用セパレータ導電率の許容下限値である。
【0041】
PET樹脂と黒鉛との配合割合は、PET樹脂100重量部に黒鉛300〜800重量部を用いることができる。
【0042】
PET樹脂100重量部に黒鉛300重量部未満の配合であると、セパレータの導電率は0.2S/cmを下回ってしまう。
導電率0.2S/cmは、燃料電池用セパレータ導電率の許容下限値である。
【0043】
また、PET樹脂100重量部に黒鉛800重量部以上の配合であると、セパレータの曲げ強度は4kgf/mmを下回ってしまう。
曲げ強度4kgf/mmは、燃料電池用セパレータ強度の許容下限値である。
【0044】
混練する方法としては、PET樹脂と黒鉛をアルコール等の揮発性の有機溶媒に溶解して混練する方法を用いることができる。
【0045】
次に、PET樹脂と黒鉛の混練物を乾燥して含有溶剤を除去した後、粉砕機により150メッシュ以下の粒度に粉砕する。
【0046】
次に、粉砕物をセパレータ条溝部形成のための凹凸部を有する成型型に充填し、成型型内を50〜150Torrに減圧して揮発性成分を脱気した後、成型圧1.5〜2.5ton/cmで等方加圧成型する。
【0047】
次に、280〜300℃の温度に加熱してPET樹脂成分を硬化する。
【0048】
次に、課電密度50〜100W/m/minの条件でコロナ処理(無声放電処理)を施して燃料電池用セパレータを得る。
【0049】
課電密度50W/m/min未満であると、燃料電池の出力が0.95[W/cm]を下回る。
0.95[W/cm]は、燃料電池出力の許容下限値である。
【0050】
また、課電密度100W/m/を超える範囲では燃料電池の出力は変わらない。
【0051】
次に、ガス拡散材1またはガス拡散材5上に触媒層2または触媒層4を形成する。(図3(a))
【0052】
ガス拡散材1またはガス拡散材5の材料としては、カーボンペーパー、カーボンクロスを用いることができる。
【0053】
触媒層2および触媒層4の材料としては、プロトン伝導性物質であるパーフルオロカーボンスルホン酸、ポリエーテルスルフォン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリイミド等、および、電子伝導性物質である二酸化珪素、炭素等、および、触媒である金、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、オスミニウムおよびイリジウムを用いることができる。
【0054】
触媒層2および触媒層4の製造方法としては、触媒を担持した電子伝導性物質とプロトン伝導性物質を、IPAやNPA等のアルコール、および、水に溶解して触媒インクを生成した後、触媒インクをガス拡散材1または5上に、バーコート、スプレー、または、スクリーン印刷する方法を用いることができる。
【0055】
触媒を担持した電子伝導性物質とプロトン伝導性物質は、重量比で1:1〜50:1の範囲にすることが好ましい。
【0056】
次に、触媒層2および触媒層4を向かい合わせにして、固体高分子電解質膜3を挟み込み、固体高分子電解質膜電極接合体6(以下MEAと記述する)を作製する。(図3(c))
【0057】
固体高分子電解質膜3の材料としては、スルホン基含有パーフルオロカーボン、または、カルボキシル基含有パーフルオロカーボンを用いることができる。
【0058】
MEA6の製造方法としては、触媒層4(燃料極側)と触媒層2(酸化剤極側)を向かい合わせにして固体高分子電解質膜3を挟み、熱圧着する方法を用いることができる。
加熱温度としては、触媒層2、触媒層4および固体高分子電解質膜3の樹脂の軟化温度やガラス転位温度を超える温度を用いることができる。
触媒層2、触媒層4および固体高分子電解質膜3の樹脂がパーフルオロカーボンスルホン酸の場合は、温度=100℃〜300℃、圧力=1MPa〜15MPa、時間=5秒〜400秒の熱圧着条件を用いることができる。
【0059】
最後に、セパレータ7(燃料極側)およびセパレータ8(酸化剤極側)のガス流路形成面どうしを向かい合わせにして、MEA6を挟み込み、その両側に集電板9(燃料極側)および集電板10(酸化剤極側)を配置してロッドで締結して燃料電池を得た。(図3(d))
【0060】
集電板9(燃料極側)およびセパレータ10(酸化剤極側)の材料としては、SUSを用いることができる。
【実施例1】
【0061】
まず、PET樹脂100重量部に対して黒鉛600重量部をメタノールに溶解した溶液(樹脂濃度50重量%)を、ニーダーを用いて混練した。
【0062】
次に、大気中で加熱乾燥してメタノールおよびその他の揮発性成分を揮散除去した。
【0063】
次に、混練物を粉砕した後、面中央の11cm×11cmの領域に20本の並行した溝(幅:2mm、長さ:10cm、深さ:1mm、溝間隔:2mm)が刻んであるオスメス金型に充填し、成形型内を100Torrに減圧して揮発性成分を脱気した後、成形圧2ton/cmで等方加圧成形した後、温度290℃でPET樹脂を硬化して、厚さ3mmのセパレータを作製した。
【0064】
次に、セパレータの条溝面に、課電密度50〜100W/m/minまで条件を振ってコロナ処理を施した。
セパレータの条溝面に、スポイトで純水を1滴垂らし、接触角測定機(エルマ社製、G−1−1000型)を用いて純水との接触角を測定したところ、セパレータの条溝面の純水との接触角は、20°〜35°であった。
【0065】
次に、以下の組成になるように、平均粒径が3nmの白金を担持した電子伝導性物質(白金:電子伝導性物質=1:1(重量比))、プロトン伝導性物質を溶媒に溶解した触媒インクを調整した。
・白金を担持したカーボン(電子伝導性物質) 7.5重量%
・パーフロロカーボンスルホン酸(プロトン伝導性物質) 2.5重量%
・水 30.0重量%
・IPA 30.0重量%
・NPA 30.0重量%
【0066】
次に、この触媒インクを、バーコーターを使用して、200mm×200mmのサイズに断裁した厚さ190μmのカーボンペーパー上に塗布した。
【0067】
次に、窒素雰囲気中、120℃、1時間の熱処理を施した後、30分間放冷し、燃料電池用触媒電極を作製した。
【0068】
次に、上記の方法で作製した2枚の燃料電池用触媒電極の触媒層どうしを向かい合わせにして、厚さ50μmのスルホン基含有パーフルオロカーボンを挟んで、130℃、30分、3MPaの条件で加熱成型しMEAを作製した。
【0069】
最後に、2つのセパレータのガス流路形成面どうしを向かい合わせにして、MEAを挟み込み、その両側にSUS製の厚さ0.3mmの集電板を配置して、ロッドで締結して、燃料電池を得た。
【0070】
次に、燃料電池の出力を、エレクトロケミカルインターフェース(ソーラトロン社製SI−1287)、周波数応答アナライザー(ソーラトロン社製SI−1260)、電子負荷器(スクリブナー社製890CL)が用いられている燃料電池測定システムGFT−SG1(株式会社東陽テクニカ製)を用いて、以下のように測定した。
【0071】
まず、上記の燃料電池をグラファイト製の発電セルに装着後、40℃、相対湿度100%の条件にて1時間保管した。
この間、厚さ50μmのスルホン基含有パーフルオロカーボン膜を十分に湿潤させる目的で、燃料電池には1A/cmの直流電流を発電モードで流し続けた。
【0072】
次に、セル温度を80℃、アノード加湿器温度を80℃、カソード加湿器温度を80℃、配管温度を120℃、アノードの水素ガス流量を0.3リットル/分、カソードの酸素ガス流量を1.0リットル/分の条件で燃料電池の出力を測定した。
燃料電池の出力を図1に示した。
【0073】
<比較例1>
実施例1に対して、コロナ処理の条件を課電密度10〜40W/m/minに変更した以外は、実施例1と同様に燃料電池用セパレータを作製した。
セパレータの条溝面に、スポイトで純水を1滴垂らし、接触角測定機(エルマ社製、G−1−1000型)を用いて純水との接触角を測定したところ、セパレータの条溝面の純水との接触角は、40°〜45°であった。
【0074】
次に実施例1と同様の方法で、燃料電池の出力を測定した。
燃料電池の出力を図1に示した。
【0075】
<比較例2>
【0076】
まず、フェノール樹脂40重量部に対して黒鉛60重量部をメタノールに溶解した溶液(樹脂濃度50重量%)を、ニーダーを用いて混練した。
【0077】
次に、大気中で加熱乾燥してメタノールおよびその他の揮発性成分を揮散除去した。
【0078】
次に、混練物を粉砕した後、面中央の11cm×11cmの領域に20本の並行した溝(幅:2mm、長さ:10cm、深さ:1mm、溝間隔:2mm)が刻んであるオスメス金型に充填し、成形型内を100Torrに減圧して揮発性成分を脱気した後、成形圧2ton/cmで等方加圧成形した後、温度180℃でPET樹脂を硬化して、厚さ3mmのセパレータを作製した。
【0079】
次に、以下の組成になるように、平均粒径が3nmの白金を担持した電子伝導性物質(白金:電子伝導性物質=1:1(重量比))、プロトン伝導性物質を溶媒に溶解した触媒インクを調整した。
・白金を担持したカーボン(電子伝導性物質) 7.5重量%
・パーフロロカーボンスルホン酸(プロトン伝導性物質) 2.5重量%
・水 30.0重量%
・IPA 30.0重量%
・NPA 30.0重量%
【0080】
次に、この触媒インクを、バーコーターを使用して、200mm×200mmのサイズに断裁した厚さ190μmのカーボンペーパー上に塗布した。
【0081】
次に、窒素雰囲気中、120℃、1時間の熱処理を施した後、30分間放冷し、燃料電池用触媒電極を作製した。
【0082】
次に、上記の方法で作製した2枚の燃料電池用触媒電極の触媒層どうしを向かい合わせにして、厚さ50μmのスルホン基含有パーフルオロカーボンを挟んで、130℃、30分、3MPaの条件で熱圧着し平板状のMEAを作製した。
【0083】
最後に、面中央の11cm×11cmの領域に20本の並行した溝(幅:2mm、長さ:10cm、深さ:3mm、溝間隔:2mm)が刻んである厚さ3mmの銅製のセパレータを2組用意し、2つのセパレータのガス流路形成面どうしを向かい合わせにして、MEAを挟み込み、その両側にSUS製の厚さ0.3mmの集電板を配置して、ロッドで締結して、燃料電池を得た。
【0084】
次に実施例1と同様の方法で、燃料電池の出力を測定した。
燃料電池の出力を図1に示した。
【0085】
本発明のセパレータを使用した燃料電池は、従来使用されているフェノール樹脂と黒鉛からなるセパレータを使用した燃料電池の5割増以上の出力特性が有ることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の、燃料電池用セパレータおよびその製造方法、並びに、それを用いた燃料電池は、電気自動車用電源、携帯電話用電源等に用いるPAFC(リン酸型)、PEFC(固体高分子型)燃料電池に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】燃料電池用セパレータ条溝部の純水との接触角と、燃料電池出力の関係を示すための図である。
【図2】本発明の燃料電池の触媒層における電子伝導性物質の触媒担持率と、燃料電池の出力の関係を示すための図である。
【図3】本発明の燃料電池の作製方法を説明するための断面図である。
【符号の説明】
【0088】
1・・・・ガス拡散材(酸化剤極側)
2・・・・触媒層(酸化剤極側)
3・・・・固体高分子電解質膜
4・・・・触媒層(燃料極側)
5・・・・ガス拡散材(燃料極側)
6・・・・MEA(固体高分子電解質膜電極接合体)
7・・・・セパレータ(燃料極側)
8・・・・セパレータ(酸化剤極側)
9・・・・集電板(燃料極側)
10・・・集電板(酸化剤極側)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂および黒鉛を含有し、ガス流路となる条溝部を備えた燃料電池用セパレータであって、前記条溝部の純水との接触角が35゜以下であることを特徴とする燃料電池用セパレータ。
【請求項2】
PET樹脂と黒鉛を揮発性の有機溶媒に溶解して溶解液を生成する溶解液生成工程と、前記溶解液を混練して混練物を作製する混練物作製工程と、前記混練物を乾燥および粉砕して粉砕物を作製する粉砕物作製工程と、前記粉砕物を凹凸部が形成された成型型を用いて等方加圧成型および加熱硬化して成形体を作製する成形体作製工程と、前記成形体に親水性を付与する親水性付与工程を有する燃料電池用セパレータの製造方法において、
前記親水性付与工程が、コロナ処理(無声放電処理)によって、前記成形体に親水性を付与する工程であることを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項3】
前記燃料電池用セパレータの前記PET樹脂と前記黒鉛の配合量が、前記PET樹脂100重量部に対して前記黒鉛300〜800重量部であることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項4】
固体高分子電解質膜の表裏面に触媒層が設けられ、該触媒層の前記固体高分子電解質膜と反対側の面にガス拡散材が設けられ、該ガス拡散材の前記触媒層と反対側の面に、請求項1または請求項3に記載の燃料電池用セパレータを設けたことを特徴とする燃料電池。
【請求項5】
前記固体高分子電解質膜がスルホン基含有パーフルオロカーボン、または、カルボキシル基含有パーフルオロカーボンであることを特徴とする請求項4に記載の燃料電池。
【請求項6】
前記触媒層が、プロトン伝導性物質、電子伝導性物質、および、触媒からなることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の燃料電池。
【請求項7】
前記プロトン伝導性物質が、パーフルオロカーボンスルホン酸、ポリエーテルスルフォン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、または、スルホン化ポリイミドであることを特徴とする請求項6に記載の燃料電池。
【請求項8】
前記電子伝導性物質が、二酸化珪素、または、炭素であることを特徴とする請求項6または請求項7に記載の燃料電池。
【請求項9】
前記触媒が、金、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、オスミニウムおよびイリジウムから選ばれた1種または2種以上の金属からなることを特徴とする請求項6乃至請求項8のいずれか1項に記載の燃料電池。
【請求項10】
前記触媒の平均粒径が1nm以上5nm以下であることを特徴とする請求項6乃至請求項9のいずれか1項に記載の燃料電池。
【請求項11】
前記電子伝導性物質の前記触媒の担持率が30%〜70%であることを特徴とする請求項6乃至請求項10のいずれか1項に記載の燃料電池。
【請求項12】
前記ガス拡散材が、導電性多孔性基材であることを特徴とする請求項4乃至請求項11のいずれか1項に記載の燃料電池。
【請求項13】
前記導電性多孔性基材が、カーボンペーパー、カーボンクロスであることを特徴とする請求項12に記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−157473(P2007−157473A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−350281(P2005−350281)
【出願日】平成17年12月5日(2005.12.5)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】