説明

燃料電池用両面離型フィルム

【課題】 セラミックグリーンシートを成形後の背面への固着(ブロッキング)およびこれによる破断を防止でき、ロール端面の不揃いが発生しにくく、フィルムロールの搬送、輸送時における軽微な衝撃でも、巻き芯付近が筍状に巻きずれしにくい離型フィルムを提供する。
【解決手段】 ポリエステルフィルムの一方の面にシリコーン離型層を有し、当該離型層表面(A面)の常態剥離力が10〜400mN/cmであり、もう一方の面にポリオレフィンまたは長鎖アルキル化合物を主成分とする離型層を有し、当該離型層表面(B面)の常態剥離力が10〜1000mN/cmであり、A面とB面との静摩擦係数が0.22〜0.35であることを特徴とする燃料電池用両面離型フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は離型フィルムに関するものであり、詳しくは固体酸化物形燃料電池(以下、Solid Oxide Fuel Cellの頭文字を用いてSOFCと略記する)の電解質として用いられるグリーンシートを成形するために使用される離型フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化対策や環境汚染対策の社会的必要性が高まり、クリーンエネルギー技術の開発が活発に行われている。その一つとして、燃料電池が注目を浴びている。
【0003】
燃料電池は水素と空気中の酸素を電解質内で反応させて発電することを原理とし、有害なガスを発生させないクリーンな発電システムとして有望視されている。中でもSOFCは作動温度が約500℃以上と高く、水素源として水素ガスのみならず天然ガスや一酸化炭素をも利用できる利点がある。さらに、SOFCは、その作動温度が高いことから廃熱の利用価値も高いため、いわゆるコジェネレーションシステムとすることで、総合的な効率が高く、ガスの燃焼による従来型の発電システムに比較して、二酸化炭素の発生量が抑制された発電システムを構成することができる。
【0004】
SOFCは、その電解質が固体であるために電解質の散逸の問題がなく、構造が比較的簡単で、改質器が不要なことから、コンパクトでかつ耐久性が高い、という利点がある。
【0005】
SOFCに用いる固体電解質は、イオン伝導性を有するセラミック粒子(例えば、ジルコニア系粒子等)およびバインダー、添加剤等から構成されるセラミックスラリーを塗布、シート成形して、これを焼成することにより作製することができる。
【0006】
従来、このようなセラミックシートは、セラミック積層コンデンサー、セラミック基板等の製造工程と同様に、ポリエステルフィルムを基材とする離型フィルムの上に上記セラミックスラリーを塗布、シート成形して得られている(例えば、特許文献1および2)。
【0007】
一方、SOFCは作動温度が高いため、使用できるセラミック材料が限定される。また、起動に時間がかかることから、作動温度を下げる検討が行われている。しかし、燃料電池の作動温度を下げると電極・電解質の内部抵抗が大きくなるため、低抵抗化のための電解質薄膜化、作動温度を下げても十分なイオン伝導性を有するセラミック材料の探索、触媒活性の高い電極材料の探索等の検討が続けられ、セラミック部材として高度化してきている(例えば、特許文献3〜6)。
【0008】
上記のようなセラミック材料の高度化に伴い、セラミックシート成形技術への要求レベルが高まって来ており、製造工程における困難性も増して来ていた。例えば、セラミックシートの薄膜化は、スラリーを薄塗りしても塗液がはじかないように離型面には適度な濡れ性を制御することが求められ、かつロール状に巻き取ったグリーンシートを一旦保管後、次工程にて巻き出す際に、セラミックシートが背面ポリエステルフィルム面に固着しないように適度な剥離性を制御することが求められている。
【0009】
離型フィルムは、当該離型フィルムの製造時に、離型層を片面に塗布形成した後に、反対面にも離型層を塗布形成するため、離型面同士が接触した状態でロール状に巻き取られるが、フィルムとフィルムの間が弱い力でも容易に滑り、巻き取り工程中にロール端面の不揃いが発生する不具合や、塗布に用いる基材フィルムの肉厚分布があると、蛇行しやすくなる結果、ロール端面が揃わない不具合や、ロールの搬送、輸送時における軽微な衝撃で巻き芯付近が筍状に巻きずれる不具合等を起こす場合がある。
【0010】
【特許文献1】特開平10−29205号公報
【特許文献2】特開2001−205607号公報
【特許文献3】特開2002−358976号公報
【特許文献4】特開2003−263994号公報
【特許文献5】特開2003−346816号公報
【特許文献6】特開2004−200125号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、その解決課題は、SOFCのグリーンシートを成形後の背面への固着(ブロッキング)およびこれによる破断を防止でき、当該離型フィルムの製造中にロール端面の不揃いが発生しにくく、塗布に用いる基材フィルムの肉厚分布があっても端面不揃いが発生しにくく、当該離型フィルムロールの搬送、輸送時における軽微な衝撃でも、巻き芯付近が筍状に巻きずれしにくい両面離型フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記実情に鑑み、鋭意検討した結果、特定の構成からなる両面離型フィルムを用いれば、上記の課題を容易に解決できることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明の要旨は、ポリエステルフィルムの一方の面にシリコーン離型層を有し、当該離型層表面(A面)の常態剥離力が10〜400mN/cmであり、もう一方の面にポリオレフィンまたは長鎖アルキル化合物を主成分とする離型層を有し、当該離型層表面(B面)の常態剥離力が10〜1000mN/cmであり、A面とB面との静摩擦係数が0.22〜0.35であることを特徴とする燃料電池用両面離型フィルムに存する。
【0014】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明における離型フィルムを構成するポリエステルフィルムは単層構成であっても積層構成であってもよく、例えば、2層、3層構成以外にも本発明の要旨を超えない限り、4層またはそれ以上の多層であってもよく、特に限定されるものではない。
【0015】
本発明においてポリエステルフィルムに使用するポリエステルは、ホモポリエステルであっても共重合ポリエステルであってもよい。ホモポリエステルからなる場合、芳香族ジカルボン酸と脂肪族グリコールとを重縮合させて得られるものが好ましい。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、脂肪族グリコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。代表的なポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)等が例示される。一方、共重合ポリエステルのジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、フタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、オキシカルボン酸(例えば、P−オキシ安息香酸など)等の一種または二種以上が挙げられ、グリコール成分として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール等の一種または二種以上が挙げられる。何れにしても本発明でいうポリエステルとは、通常60モル%以上、好ましくは80モル%以上がエチレンテレフタレート単位であるポリエチレンテレフタレート等であるポリエステルを指す。
【0016】
使用する粒子の平均粒径は、0.1〜5μmの範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは0.5〜5μmの範囲である。平均粒径が0.1μm未満の場合には、粒子が凝集しやすく、分散性が不十分となる傾向があり、一方、5μmを超える場合には、フィルムの表面粗度が粗くなりすぎて、後工程において離型層を設ける場合等に不具合を生じることや、得られるグリーンシートの品質の低下を招くという問題が起こることがある。
【0017】
さらにポリエステル中の粒子含有量は、0.01〜5重量%の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは0.01〜3重量%の範囲である。粒子含有量が0.01重量%未満の場合には、フィルムの易滑性が不十分になる場合があり、一方、5重量%を超えて添加する場合には、粒子の粒径が大きすぎる場合と同様に、離型層を設ける工程で不具合が生じたり、得られるグリーンシートの品質低下を招いたりすることがある。
【0018】
ポリエステル中に粒子を添加する方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を採用しうる。例えば、ポリエステルを製造する任意の段階において粒子を添加することができるが、好ましくはエステル化の段階、もしくはエステル交換反応終了後、重縮合反応を進めてもよい。
【0019】
また、ベント付き混練押出機を用い、エチレングリコールまたは水などに分散させた粒子のスラリーとポリエステル原料とをブレンドする方法、または、混練押出機を用い、乾燥させた粒子とポリエステル原料とをブレンドする方法などによって行われる。
【0020】
なお、本発明において、離型フィルムを構成するポリエステルフィルム中には上記の粒子の他に、本発明の主旨を損なわない範囲において、必要に応じて、従来公知の酸化防止剤、帯電防止剤、熱安定剤、潤滑剤、染料、顔料、紫外線吸収剤、蛍光増白剤等を添加し併用することができる。
【0021】
本発明の離型フィルムを構成するポリエステルフィルムの厚みは、フィルムとして製膜可能な範囲であれば特に限定されるものではないが、用途上、通常は25〜250μmの範囲であり、好ましくは38〜188μmの範囲である。
【0022】
次に本発明におけるポリエステルフィルムの製造例について具体的に説明するが、以下の製造例に何ら限定されるものではない。
【0023】
まず、先に述べたポリエステル原料を使用し、ダイから押し出された溶融シートを冷却ロールで冷却固化して未延伸シートを得る方法が好ましい。この場合、シートの平面性を向上させるためシートと回転冷却ドラムとの密着性を高める必要があり、静電印加密着法および/または液体塗布密着法が好ましく採用される。次に得られた未延伸シートは二軸方向に延伸される。その場合、まず、前記の未延伸シートを一方向にロールまたはテンター方式の延伸機により延伸する。延伸温度は、通常70〜120℃、好ましくは80〜 110℃であり、延伸倍率は通常2.5〜7倍、好ましくは3.0〜6倍である。次いで、一段目の延伸方向と直交する延伸温度は通常70〜170℃であり、延伸倍率は通常 3.0〜7倍、好ましくは3.5〜6倍である。そして、引き続き180〜270℃の 温度で緊張下または30%以内の弛緩下で熱処理を行い、二軸配向フィルムを得る。上記の延伸においては、一方向の延伸を2段階以上で行う方法を採用することもできる。その場合、最終的に二方向の延伸倍率がそれぞれ上記範囲となるように行うのが好ましい。
【0024】
また、本発明におけるポリエステルフィルム製造に関しては同時二軸延伸法を採用することもできる。同時二軸延伸法は前記の未延伸シートを通常70〜120℃、好ましくは80〜110℃で温度コントロールされた状態で機械方向および幅方向に同時に延伸し配向させる方法で、延伸倍率としては、面積倍率で4〜50倍、好ましくは7〜35倍、さらに好ましくは10〜25倍である。そして、引き続き、170〜250℃の温度で緊張下または30%以内の弛緩下で熱処理を行い、延伸配向フィルムを得る。上記の延伸方式を採用する同時二軸延伸装置に関しては、スクリュー方式、パンタグラフ方式、リニアー駆動方式等、従来から公知の延伸方式を採用することができる。
【0025】
さらに上記のポリエステルフィルムの延伸工程中にフィルム表面を処理する、いわゆる塗布延伸法(インラインコーティング)を施すことができる。塗布延伸法によりポリエステルフィルム上に塗布層が設けられる場合には、延伸と同時に塗布が可能になると共に塗布層の厚みを延伸倍率に応じて薄くすることができ、ポリエステルフィルムとして好適なフィルムを製造できる。この塗布層は離型層であってもよいし、この塗布層の上に設ける離型層のポリエステルフィルムへの密着性を高めるための接着層であってもよい。
【0026】
ところで、上記の通り燃料電池の内部抵抗を小さくするためには固体電解質の厚みを薄くする必要があるが、その場合離型フィルムの表面に形成された凹凸が大きいと、得られる固体電解質の品質が低下し、問題が発生するようになる。かかる目的で、具体的には本発明における離型フィルムを構成するポリエステルフィルム表面の最大高さ(Rmax)は好ましくは1.5〜30μm、さらには3〜20μmの範囲とするのが望ましい。
【0027】
また、本発明における離型フィルムを構成するポリエステルフィルムにおいて、上記最大高さ(Rmax)を有するフィルム表面を形成する手法としては、粒子練り込み法、粒子塗布法、エンボス法、サンドブラスト法、エッチング法、放電加工法等の方法を用いることができる。本発明においては上記の何れの方法を採用してもよく、特に限定されるものではない。
【0028】
次に本発明における離型層の形成について説明する。すなわち、本発明の離型フィルムの、通常セラミックグリーンシートが形成されることになる、シリコーン離型面(A面)の常態剥離力は、10〜400mN/cmの範囲であり、好ましくは20〜200mN/cmの範囲である。常態剥離力が400mN/cmを超える場合は、特にグリーンシートが薄い場合にはグリーンシート剥離時に、グリーンシートが剥がれにくく、無理に剥がすと破断する。一方、10mN/cm未満の場合、工程中に、グリーンシートがキャリアフィルムの端部から部分的に剥がれる等の不具合を生じる。
【0029】
一方、セラミックグリーンシートが形成されるA面の背面(B面)に形成された、ポリオレフィンまたは長鎖アルキル化合物を主成分とする離型層面は、グリーンシートが乾燥してから接触することから、元々の接着性が高くないので、常態剥離力は、10〜1000mN/cmの範囲であり、好ましくは20〜500mN/cmの範囲である。
【0030】
本発明のフィルムのA面とB面との静摩擦係数は、0.22〜0.35の範囲である。静摩擦係数が0.022未満の時は、フィルムとフィルムの間が弱い力でも容易に滑り、巻き取り工程中にロール端面の不揃いが発生する不具合や、塗布に用いる基材フィルムの肉厚分布があると、蛇行しやすくなる結果、ロール端面が揃わない不具合や、ロールの搬送、輸送時における軽微な衝撃で巻き芯付近が筍状に巻きずれる不具合等を起こす懸念が生じる。一方、静摩擦係数が0.35を超える場合は、巻き取り時のフィルム端の位置調整に支障が生じ、ロール端面が揃わない不具合を起こしやすくなる。また、無理にフィルム端位置を強制調整すると、フィルム同士が強く擦れる結果、キズを生じやすくなる。さらには、巻き取り時に巻き締まりが起きにくいため、装置の精度が悪い場合には不均一に巻かれ、それが緩和できずにフィルム間に空気層が残り、いわゆる鬆(ス)が入った状態になりやすい。
【0031】
本発明における離型フィルムを構成する離型層は上記の塗布延伸法(インラインコーティング)等のフィルム製造工程内において、ポリエステルフィルム上に設けられてもよく、一旦製造したフィルム上に系外で塗布する、いわゆるオフラインコーティングを採用しても良く、何れの手法を採用してもよい。塗布延伸法(インラインコーティング)については以下に限定するものではないが、例えば、逐次二軸延伸においては特に1段目の延伸が終了して、2段目の延伸前にコーティング処理を施すことができる。塗布延伸法によりポリエステルフィルム上に離型層が設けられる場合には、延伸と同時に塗布が可能になると共に離型層の厚みを延伸倍率に応じて薄くすることができ、ポリエステルフィルムとして好適なフィルムを製造できる。
【0032】
また、本発明における上記A面および上記B面を構成する離型層は離型性を良好とするために硬化型シリコーン樹脂を含有するのが好ましい。硬化型シリコーン樹脂を主成分とするタイプでもよいし、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂等の有機樹脂とのグラフト重合等による変性シリコーンタイプ等を使用してもよい。
【0033】
また、本発明における上記A面を構成する離型層は離型性を良好とするために硬化型シリコーン樹脂を含有するのが好ましい。硬化型シリコーン樹脂を主成分とするタイプでもよいし、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂等の有機樹脂とのグラフト重合等による変性シリコーンタイプ等を使用してもよい。
【0034】
硬化型シリコーン樹脂の種類としては付加型・縮合型・紫外線硬化型・電子線硬化型・無溶剤型等、何れの硬化反応タイプでも用いることができる。具体例を挙げると、信越化学工業(株)製KS−774、KS−775、KS−778、KS−779H、KS−847H、KS−856、X−62−2422、X−62−2461、X−62−1387、KNS−3051、X−62−1496、KNS320A、KNS316、X−62−1574A/B、X−62−7052、X−62−7028A/B、X−62−7619、X−62−7213、東レ・ダウコーニング(株)製DKQ3−202、DKQ3−203、DKQ3−204、DKQ3−205、DKQ3−210、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製YSR−3022、TPR−6700、TPR−6720、TPR−6721、TPR6500、TPR6501、UV9300、UV9425、XS56−A2775、XS56−A2982、UV9430、TPR6600、TPR6604、TPR6605、東レ・ダウコーニング(株)製SRX357、SRX211、SD7220、LTC750A、LTC760A、SP7259、BY24−468C、SP7248S、BY24−452等が例示される。さらに離型層の剥離性等を調整するために剥離コントロール剤を併用してもよい。
【0035】
さらに、本発明における上記B面を構成する離型層は、離型性を良好とするために主としてポリオレフィンまたは長鎖アルキル化合物を含有する。ポリオレフィンとは、特に限定されるものではないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリヘキセンや、これらが共重合されたものが挙げられる。ホモポリマーよりは他成分との共重体であって、結晶性を若干低減したものがより好ましい。長鎖アルキル化合物とは炭素数が6以上、特に好ましくは8以上の直鎖または分岐のアルキル基を有する化合物のことである。具体例としては、特に限定されるものではないが、長鎖アルキル基含有ポリビニル樹脂、長鎖アルキル基含有アクリル樹脂、長鎖アルキル基含有ポリエステル樹脂、長鎖アルキル基含有アミン化合物、長鎖アルキル基含有エーテル化合物、長鎖アルキル基含有四級アンモニウム塩等が挙げられる。汚染性を考慮すると高分子化合物であることが好ましい。またこれらは概ね100℃から180℃での加工に耐えることが必要であることから架橋されていることがより好ましい。ポリオレフィンまたは長鎖アルキル化合物の架橋構造の形成方法としては、ポリオレフィンまたは長鎖アルキルの一部に反応性を付与し、これを多官能化合物にて架橋する方法などが挙げられる。
【0036】
本発明において、ポリエステルフィルムに離型層を設ける方法として、リバースグラビアコート、ダイレクトグラビアコート、ロールコート、ダイコート、バーコート、カーテンコート等、従来公知の塗工方式を用いることができる。塗工方式に関しては「コーティング方式」槇書店 原崎勇次著 1979年発行に記載例がある。
【0037】
本発明において、ポリエステルフィルム上に離型層を形成する際の硬化条件に関しては特に限定されるわけではなく、オフラインコーティングにより離型層を設ける場合、通常、120〜200℃で3〜40秒間、好ましくは100〜180℃で3〜40秒間を目安として熱処理を行うのが良い。また、必要に応じて熱処理と紫外線照射等の活性エネルギー線照射とを併用してもよい。なお、活性エネルギー線照射による硬化のためのエネルギー源としては、従来から公知の装置,エネルギー源を用いることができる。離型層の塗工量は塗工性の面から、通常0.005〜1g/m、好ましくは0.005〜0.5g/mの範囲である。塗工量が0.005g/m未満の場合、塗工性の面より安定性に欠け、均一な塗膜を得るのが困難になる場合がある。一方、1g/mを超えて厚塗りにする場合には離型層自体の塗膜密着性、硬化性等が低下する場合がある。
【0038】
本発明の両面離型フィルムの上記A面および上記B面の残留接着率は、ともに80%以上が好ましい。さらに好ましくはともに85%以上が良い。残留接着率が80%未満の場合、離型フィルムの離型面と接する相手方グリーンシート表面への汚染原因物の移行が多くなり、当該グリーンシートをSOFC用として使用した場合、移行した汚染原因物が焼成後も酸化物等として残り、正常な電極反応を阻害することが懸念される。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、固体酸化物型燃料電池の電解質に用いるグリーンシート成形用として好適なフィルムを提供することができ、本発明の工業的価値は高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。また、本発明で用いた測定法は次のとおりである。
【0041】
(1)ポリエステルの固有粘度の測定
サンプル1gを精秤し、フェノール/テトラクロロエタン=50/50(重量比)の混合溶媒100mlを加えて溶解させ、30℃で測定した。
【0042】
(2)平均粒径(d50:μm)の測定
遠心沈降式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所社製SA−CP3型)を使用して測定した等価球形分布における積算(重量基準)50%の値を平均粒径とした。
【0043】
(3)ポリエステルフィルムの最大高さ(Rmax)の測定
(株)小坂研究所製 表面粗さ測定機(SE−3F)によって得られた断面曲線から、基準長さ(2.5mm)だけ抜き取った部分(以下、抜き取り部分という)の平均線に平行2直線で抜き取り部分を挟んだ時、この2直線の間隔を断面曲線の縦倍率の方向に測定してその値をマイクロメートル(μm)単位で表したものを抜き取り部分の最大高さとした。最大高さは、試料フィルム表面から10本の断面曲線を求め、これらの断面曲線から求めた抜き取り部分の最大高さの平均値で表した。なお、この時使用した触針の半径は2.0μmとし、荷重は30mg、カットオフ値は0.08mmとした。
【0044】
(4)離型フィルムの剥離力(F)の評価
測定試料の離型層に両面粘着テープ(日東電工製「No.502」)の片面を貼り付け、50mm×300mmのサイズにカットし、室温にて1時間放置後の剥離力を測定した。剥離力は、引張試験機((株)インテスコ製「インテスコモデル2001型」)を使用し、引張速度300mm/分の条件下、180°剥離を行った。
【0045】
(5)静摩擦係数(μs)の測定
試験片を2枚重ねて一方を平坦な金属板に固定し、他方を荷重計に接続して試験片の上におもりを載せ、試験片に平行に20mm/分の速度で移動させ、移動し始めた時の荷重Fsを求め、下式により算出した(ASTM D1894−73に準拠)。
μs=Fs/おもり重量
【0046】
(6)グリーンシ−ト剥離性評価
離型フィルムのA面に、下記組成からなるセラミックスラリーを塗布量(乾燥後)が50μmになるように塗布し、120℃にて乾燥してグリーンシ−トを得た。
得られたグリーンシ−トを剥離する際の剥離性を下記判定基準により判定を行った。
《セラミックスラリー組成》
セラミック粉体(ジルコニア粒子) 100部
結合剤(ポリビニルブチラール樹脂) 20部
可塑剤(フタル酸ジオクチル) 1部
トルエン/MEK(1:1)混合溶媒 20部
【0047】
《判定基準》
○:スムーズに剥離可能(実用上問題ないレベル)
×:剥離困難(実用上問題あるレベル)
【0048】
(7)グリーンシ−トのフィルム背面への耐ブロッキング性評価
上記(6)項で得られたグリーンシ−トに、グリーンシートを塗布した離型フィルムのB面が接触するように積層し、温度40℃、湿度80%RH、荷重10kg/cmで20時間プレス処理を行い、耐ブロッキング性を評価した。判定基準は以下のとおりである。
《判定基準》
○:離型フィルムのB面を手で剥がせる(実用上問題ないレベル)
×:離型フィルムのB面を手で剥がすのが困難である(取り扱い時にシートに亀裂が入りやすい等、実用上問題あるレベル)
【0049】
(8)耐巻きずれ性の評価
1100mm巾の離型フィルムを、通称3インチの紙製コアに500m巻きつけたロール状フィルムを、水平なゴム台の上に巻き芯が床と平行となるように置いた状態で、巻き芯を引っ張るための金属棒を巻き芯の中に通して巻き芯の端部に金属金具を介して固定し、固定した側と反対側に最大計測荷重10kg重のバネばかりを連結した状態で、巻き芯に手動でゆっくり引っ張り荷重をかけて行き、バネばかりが5kg重を示すまでの間に、巻き芯が動くかどうかを目視評価した。
【0050】
《判定基準》
○:巻き芯がまったく動かない(実用上問題ないレベル)
×:巻き芯が動く(実用上問題あるレベル)
【0051】
〈ポリエステルの製造〉
ジメチルテレフタレート100部、エチレングリコール60部および酢酸マグネシウム・4水塩0.09部を反応器にとり、加熱昇温すると共にメタノールを留去し、エステル交換反応を行い、反応開始から4時間を要して230℃に昇温し、実質的にエステル交換反応を終了した。次いで、エチルアシッドフォスフェート0.04部、三酸化アンチモン0.03部、平均粒径2.5μmのシリカ粒子を0.06部添加した後、100分で温度を280℃、圧力を15mmHgに達せしめ、以後も徐々に圧力を減じ、最終的に0.3mmHgとした。4時間後、系内を常圧に戻し、固有粘度0.65のポリエチレンテレフタレートを得た。
【0052】
塗布延伸法(インラインコーティング)離型層を構成する化合物例は以下のとおりである。
(化合物例)
・長鎖アルキル化合物(A):
4つ口フラスコにキシレン200部、オタデシルイソシアネート600部を加え、攪拌下に加熱した。キシレンが還流し始めた時点から、平均重合度500、ケン化度88モル%のポリビニルアルコール100部を少量ずつ10分間隔で約2時間にわたって加えた。
ポリビニルアルコールを加え終わってから、さらに2時間還流を行い、反応を終了した。
反応混合物を約80℃まで冷却してから、メタノール中に加えたところ、反応生成物が白色沈殿として析出したので、この沈殿を濾別し、キシレン140部を加え、加熱して完全に溶解させた後、再びメタノールを加えて沈殿させるという操作を数回繰り返した後、沈殿をメタノールで洗浄し、乾燥粉砕して得た。
【0053】
〈ポリエステルフィルムF1の製造〉
平均粒径3.5μmの二酸化珪素粒子を3部含有し、極限粘度0.65のポリエチレンテレフタレートを180℃で4時間、不活性ガス雰囲気中で乾燥し、溶融押出機により290℃で溶融し、口金から押出し静電印加密着法を用いて表面温度を40℃に設定した冷却ロール上で冷却固化して未延伸シートを得た。得られたシートを85℃で3.5倍縦方向に延伸した後、この縦延伸フィルムに上記化合物Aを水分散液とした塗布液を乾燥後の塗布量が0.02g/mとなるように塗布し、次いで、フィルムをテンターに導き、100℃で3.7倍横方向に延伸した後、230℃にて熱固定を行い、厚さ50μmのポリエステルフィルムF1(Rmax=4.5μm)を得た。
【0054】
〈ポリエステルフィルムF2の製造〉
ポリエステルフィルムF1の製造において、上記化合物Aの塗布を行わないこと以外は同様にして、厚さ50μmのポリエステルフィルムF2(Rmax=4.5μm)を得た。
【0055】
実施例1:
上記で得られたポリエステルフィルムF1のインラインコーティングされた面(B面)の反対の面(A面)にシリコーン樹脂A1からなる離型層を塗布量が0.1g/m(乾燥後)になるように設け、A面の常態剥離力が20mN/cm、B面が255mN/cmの両面離型フィルムを得た。
《離型剤組成》A1
硬化性シリコーン樹脂(信越化学製:X62−5039) 100部
硬化剤(信越化学製:CAT−PL−50T) 5部
上記離型剤をトルエン/メチルエチルケトン混合溶媒(混合比率=1:1)にて希釈し、固型分濃度2重量%の塗布液を得た。
【0056】
実施例2:
上記で得られたポリエステルフィルムF2に一方の面に実施例1で用いたシリコーン樹脂A1からなる離型層を塗布量が0.1g/m 2 (乾燥後)になるようにポリエステルフィルムの片方の面(A面)に設け、さらに、他方の面(B面)にポリオレフィン塗布剤B1をメイヤーバー#6を用いてB面に塗工し、130℃1分間熱処理を施して、A面の常態剥離力が20mN/cm、B面が31mN/cmの両面離型フィルムを得た。
【0057】
《離型剤組成》A1
硬化性シリコーン樹脂(信越化学製:X62−5039) 100部
硬化剤(信越化学製:CAT−PL−50T) 5部
上記離型剤をトルエン/メチルエチルケトン混合溶媒(混合比率=1:1)にて希釈し、固型分濃度2重量%の塗布液を得た。
【0058】
《離型剤組成》B1
メタロセンポリエチレン(カーネルKS340T;日本ポリエチレン製) 792部
エチレン・プロピレンゴム(EP02P;JSR製) 792部
低分子量ポリオレフィン系ポリオール(ポリテールHA;三菱化学製) 16部
イソシアネート(マイテックNY718A;三菱化学製) 10部
アミン触媒(1,4−ジアザビシクロ−[2.2.2]−オクタン;和光純薬製)16部
トルエン(和光純薬製 特級) 98374部
上記の割合にて混合して塗布液B1を得た。
【0059】
実施例3:
実施例2においてA面のシリコーン樹脂A1からなるシリコーン離型層をシリコーン樹脂A2に変える以外は、実施例2と同様にして、A面の常態剥離力が48mN/cm、B面が31mN/cmの両面離型フィルムを得た。
【0060】
《離型剤組成》A2
硬化性シリコーン樹脂(信越化学製:KS−723A) 100部
硬化性シリコーン樹脂(信越化学製:KS−723B) 25部
硬化剤(信越化学製:CAT−PS−3) 5部
上記離型剤をトルエン/メチルエチルケトン混合溶媒(混合比率=1:1)にて希釈し、固型分濃度2重量%の塗布液を得た。
【0061】
比較例1:
実施例2において、B面のポリオレフィンの代わりにシリコーン樹脂A1を用いて塗布量が0.1g/m 2 (乾燥後)になるように塗布する以外は、実施例2と同様にして、常態剥離力がA面20mN/cm、B面20mN/cmの両面離型フィルムを得た。
【0062】
比較例2:
実施例2において、B面には離型層を設けないこと以外は、実施例2と同様にして常態剥離力が20mN/cmの片面離型フィルムを得た。
【0063】
比較例3:
比較例2において、A面のシリコーン樹脂A1からなるシリコーン離型層をシリコーン樹脂A2に変える以外は、比較例2と同様にして常態剥離力が48mN/cmの片面の離型フィルムを得た。
【0064】
比較例4:
上記で得られたポリエステルフィルムF2を評価した。
上記実施例および比較例で得られた各フィルムの特性を下記表1に示す。
【0065】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明のフィルムは、例えば、SOFCの電解質として用いられるグリーンシートを成形するために好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルムの一方の面にシリコーン離型層を有し、当該離型層表面(A面)の常態剥離力が10〜400mN/cmであり、もう一方の面にポリオレフィンまたは長鎖アルキル化合物を主成分とする離型層を有し、当該離型層表面(B面)の常態剥離力が10〜1000mN/cmであり、A面とB面との静摩擦係数が0.22〜0.35であることを特徴とする燃料電池用両面離型フィルム。

【公開番号】特開2009−231030(P2009−231030A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−74766(P2008−74766)
【出願日】平成20年3月22日(2008.3.22)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】