説明

燃料電池用燃料の脱硫方法

【課題】 最小限量の脱硫剤で燃料電池用燃料の硫黄分を極めて低濃度まで効率よく除去し得ると共に、この燃料の一時的な不純物や硫黄分濃度の変動においても、後流側への硫黄化合物の漏れ出しを制御することができる脱硫方法、この脱硫方法で脱硫された燃料電池用燃料を改質処理し、燃料電池用水素を製造する方法、及びこの方法により製造された水素を用いる燃料電池システムを提供すること。
【解決手段】 燃料電池システムに配設され、前段脱硫器と後段脱硫器とを具備した脱硫装置を用いて燃料電池用燃料を脱硫する方法であって、前段脱硫器中の脱硫剤を周期的に交換し、後段脱硫器中の脱硫剤を半恒久的に使用する燃料電池用燃料の脱硫方法、この脱硫方法で脱硫された燃料電池用燃料を改質処理し、燃料電池用水素を製造する方法、及びこの方法により製造された水素を用いる燃料電池システムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用燃料の脱硫方法、燃料電池用水素の製造方法及び燃料電池システムに関し、詳しくは、最小限量の脱硫剤で燃料電池用燃料の硫黄分を極めて低濃度まで効率よく除去し得ると共に、この燃料の一時的な不純物や硫黄分濃度の変動においても、後流側への硫黄化合物の漏れ出しを制御することができる脱硫方法、この脱硫方法で脱硫された燃料電池用燃料を改質処理し、燃料電池用水素を製造する方法、及びこの方法により製造された水素を用いる燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題から新エネルギー技術が脚光を浴びており、この新エネルギー技術の一つとして燃料電池が注目されている。この燃料電池は、水素と酸素を電気化学的に反応させることにより、化学エネルギーを電気エネルギーに変換するものであって、エネルギーの利用効率が高いという特徴を有しており、民生用、産業用あるいは自動車用などとして、実用化研究が積極的になされている。この燃料電池には、使用する電解質の種類に応じて、リン酸型、溶融炭酸塩型、固体酸化物型、固体高分子型などのタイプが知られている。一方、水素源としては、メタノール、メタンを主体とする液化天然ガス、この天然ガスを主成分とする都市ガス、天然ガスを原料とする合成液体燃料、液化石油ガス、さらには石油系のナフサや灯油などの炭化水素油の使用が研究されている。
【0003】
燃料電池発電システムに用いられる炭化水素系燃料には、通常、2〜50質量ppm程度の硫黄化合物が不純物として存在している。この硫黄化合物は、燃料電池用水素の製造で用いる改質器に充填される触媒や燃料電池セルで用いる触媒にとって、触媒毒となることから、取り除く必要がある。このため、この改質器の上流には、一般に、燃料中の硫黄化合物を除去するための脱硫器が設置されている。家庭用及び業務用の燃料電池システムで用いる液化石油ガス燃料としては、硫黄種、オレフィン及びメタノールなどの不純物含有量がある程度一定のものが流通しているが、これらの不純物が特異的に多く含まれる燃料もある。したがって、脱硫器は、極めて高い安全性を確保するために、脱硫器に充填する脱硫剤の量を多く設定するように設計されている。
【0004】
脱硫器としては、複数の硫黄分吸着部を直列に連結し、この吸着部が着脱可能である脱硫器が開示されている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1には、燃料ガスの流通方向に対して上流側にある吸着部を少なくとも1個取り外し、未使用の吸着剤を充填した少なくとも1個の吸着部を、取り外した上記吸着部よりも下流側に補充するメンテナンス方法が開示されている。
しかしながら、このような脱硫器を用いた場合でも、脱硫器から後段へ硫黄分が漏れ出
すと、硫黄分が微量であっても改質触媒を損傷してしまうため、燃料電池に供給される水素量が不十分となってしまう。そのため、改質触媒が損傷した場合は、高価な改質器を取り外して交換しなければならなくなる。
したがって、微量であっても硫黄化合物を脱硫器から漏れ出さないようにする必要がある。燃料電池用燃料である都市ガス、液化石油ガス(LPガス)、ジメチルエーテル、ナフサ及び灯油などには脱硫剤の性能を左右する水分が混入している。また、LPガスには、水分の他に脱硫剤の性能を左右するメタノールが含まれており、さらに、LPガスに含まれる硫黄化合物の種類や含有量は一定ではない。ガスボンベに封入されたLPガスは、その消費に伴い、原燃料ガス中の硫黄濃度が増加するという特性がある。
【0005】
【特許文献1】特開2000−119667号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような状況下で、最小限量の脱硫剤で燃料電池用燃料の硫黄分を極めて低濃度まで効率よく除去し得ると共に、この燃料の一時的な不純物や硫黄分濃度の変動においても、後流側への硫黄化合物の漏れ出しを制御することができる脱硫方法、この脱硫方法で脱硫された燃料電池用燃料を改質処理し、燃料電池用水素を製造する方法、及びこの方法により製造された水素を用いる燃料電池システムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく種々の研究を重ねた結果、前段脱硫器と後段脱硫器とを具備した脱硫装置において、前段脱硫器中の脱硫剤を周期的に交換し、後段脱硫器中の脱硫剤を半恒久的に使用する脱硫方法が上記問題点を解決し得ることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち本発明は、以下の脱硫方法、燃料電池用水素の製造方法及び燃料電池システムを提供するものである。
【0008】
1. 燃料電池システムに配設され、前段脱硫器と後段脱硫器とを具備した脱硫装置を用いて燃料電池用燃料を脱硫する方法であって、前段脱硫器中の脱硫剤を周期的に交換し、後段脱硫器中の脱硫剤を半恒久的に使用することを特徴とする燃料電池用燃料の脱硫方法
2. 前段脱硫器中の脱硫剤の質量(a)に対する後段脱硫器中の脱硫剤の質量(b)の比(b/a)が、0.2〜2である上記1に記載の燃料電池用燃料の脱硫方法。
3. 燃料電池出力1kWあたりの硫黄分吸着量が、前段脱硫器において2g以上、後段脱硫器において0.5g以上である上記1又は2に記載の燃料電池用燃料の脱硫方法。
4. 燃料電池用燃料が、ガス状炭化水素化合物である上記1〜4のいずれかに記載の燃料電池用燃料の脱硫方法。
5. 前段脱硫器及び後段脱硫器に充填される脱硫剤が、硫化カルボニル、硫化水素、メルカプタン類、サルファイド類及びジサルファイド類を吸着する能力を有する脱硫剤である上記1〜4のいずれかに記載の燃料電池用燃料の脱硫方法。
6. 脱硫剤が、(A)ゼオライトを含む脱硫剤及び/又は(B)金属元素、金属酸化物及び金属成分担持酸化物の中から選ばれる少なくとも一種を含む脱硫剤である上記1〜5のいずれかに記載の燃料電池用燃料の脱硫方法。
7. ゼオライトが、ベータ(BEA)構造を有するゼオライト及び/又はフォージャサイト(FAU)構造を有するゼオライトである上記6に記載の燃料電池用燃料の脱硫方法。
8. ゼオライトを含む脱硫剤が、ゼオライトと共に、Ag成分、Cu成分、Ni成分、Zn成分、Mn成分、Fe成分、Co成分、アルカリ金属成分、アルカリ土類金属成分及び希土類金属成分よりなる群から選ばれる少なくとも一種の金属成分を含むものである上記6又は7に記載の燃料電池用燃料の脱硫方法。
9. 金属元素、金属酸化物及び金属成分担持酸化物の中から選ばれる少なくとも一種を含む脱硫剤が、Ag成分、Cu成分、Ni成分、Zn成分、Mn成分、Fe成分、Co成分、Al成分、Si成分、アルカリ金属成分、アルカリ土類金属成分及び希土類金属成分よりなる群から選ばれる少なくとも一種の金属成分を含むものである上記6〜8のいずれかに記載の燃料電池用燃料の脱硫方法。
10. 上記1〜9のいずれかに記載の脱硫方法で脱硫処理された燃料電池用燃料を改質することを特徴とする燃料電池用水素の製造方法。
11. 改質が水蒸気改質、部分酸化改質、又はオートサーマル改質である上記10に記載の燃料電池用水素の製造方法。
12. 改質に用いる触媒がルテニウム系触媒又はニッケル系触媒である上記10又は11に記載の燃料電池用水素の製造方法。
13. 改質に用いる触媒の担体成分が、酸化マンガン、酸化セリウム、及び酸化ジルコニウムから選ばれる少なくとも一種を含む上記12に記載の燃料電池用水素の製造方法。
14. 上記10〜13のいずれかに記載の方法により製造された水素を用いることを特徴とする燃料電池システム。
【発明の効果】
【0009】
本発明の脱硫方法によれば、最小限量の脱硫剤で燃料電池用燃料の硫黄分を極めて低濃度まで効率よく除去することができると共に、この燃料の一時的な不純物や硫黄分濃度の変動においても、後流側への硫黄化合物の漏れ出しを制御することができるので、燃料電池システムに搭載される改質器内触媒及び燃料電池セル触媒の硫黄による被毒を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の燃料電池用燃料の脱硫方法は、燃料電池システムに配設され、前段脱硫器と後段脱硫器とを具備した脱硫装置を用いた脱硫方法であって、前段脱硫器中の脱硫剤を周期的に交換し、後段脱硫器中の脱硫剤を半恒久的に使用する脱硫方法である。
本発明の脱硫方法において、前段脱硫器の脱硫性能は、燃料電池出力1kWあたり硫黄分吸着量が2g以上であることが好ましく、3〜50gがより好ましい。また、後段脱硫器の脱硫性能は、燃料電池出力1kWあたり硫黄分吸着量が0.5g以上であることが好ましく、1g以上がより好ましい。
前段脱硫器における上記硫黄分吸着量が2g以上であると、前段脱硫器の交換周期が長くなるため、交換作業の手間を削減することができる。また、後段脱硫器における上記硫黄分吸着量が0.5g以上であると、前段脱硫器から硫黄化合物が漏れ出した場合でも、後段脱硫器で硫黄化合物を取り除くことができる。
【0011】
本発明の脱硫方法において、前段脱硫器中の脱硫剤の質量(a)に対する後段脱硫器中の脱硫剤の質量(b)の比(b/a)は、0.2〜2であることが好ましい。この比が0.2以上であると、前段脱硫器の交換周期が長くなるため、交換作業の手間を削減することができる。また、この比が2以下であると、微量不純物が一時的に増加しても脱硫機能が有効に作用する。
本発明において、前段脱硫器中の脱硫剤は、周期的に交換することを要する。その周期は、用いる燃料電池用燃料中の硫黄分の平均値、燃料電池用燃料の使用量あるいは燃料電池システム稼動時間(発電量)などから算出される。
【0012】
本発明に係る燃料電池用燃料としては、ガス状炭化水素化合物及び液状炭化水素化合物などが挙げられ、本発明の脱硫方法は、ガス状炭化水素化合物、特にLPガスの脱硫処理に効果的である。ガス状炭化水素化合物としては、LPガスの他に、天然ガスなどが挙げられ、液状炭化水素化合物としては、灯油、軽油、ナフサ及びガソリンなどが挙げられる。
【0013】
通常、燃料電池用燃料として用いる液化石油ガス中には、原油精製工程で除去されなかった微量の硫黄成分及び着臭剤として添加された硫黄成分、例えば、メチルメルカブタン等のメルカプタン類、硫化カルボニル、硫化水素、サルファイド類、ジサルファイド類等の硫黄化合物が含まれている。液化石油ガスを改質して燃料電池用水素を製造する場合、前述のように触媒の被毒を防ぐためには、これらの硫黄化合物を極力低減させることが要求される。従って、従来公知の脱硫剤を用いて脱硫処理が行なわれる。使用される脱硫剤は一種であってもよいし、硫黄化合物毎の吸着特性の異なる脱硫剤を組み合わせて使用してもよい。性能を最大限に発揮させるには、できるだけ硫黄分含有量が少ない液化石油ガス等を用いることが望ましい。
【0014】
本発明で用いるゼオライト系脱硫剤(以下、脱硫剤Aということがある)としては、特に制限はなく、従来公知のものを使用することができ、該ゼオライト系脱硫剤としては、例えば、ベータ(BEA)構造を有するゼオライト(β型ゼオライト)、フォージャサイト(FAU)構造を有するゼオライト、X型ゼオライト、Y型ゼオライトなどの一種又は二種以上を組み合わせたゼオライトを担体として用いて、Ag成分、Cu成分、Ni成分、Zn成分、Mn成分、Fe成分、Co成分、アルカリ金属成分、アルカリ土類金属成分及び希土類金属成分の中から選ばれる少なくとも一種の金属成分を担持したものを好ましく挙げることができる。ここで、アルカリ金属成分としては、カリウムやナトリウムなどが、アルカリ土類金属成分としては、カルシウムやマグネシウムなどが、希土類金属成分としては、ランタンやセリウムなどが好ましく挙げられる。これら金属成分の中で、特にAg成分及び/又はCu成分が好ましい。また、ゼオライトとしては、ベータ(BEA)構造を有するゼオライト及びフォージャサイト(FAU)構造を有するゼオライトが好ましい。
【0015】
ゼオライト系脱硫剤は、上記ゼオライトに上記の金属成分を担持させることにより調製することができる。具体的には、目的の金属成分の水溶性化合物を含む水溶液とゼオライトとを、攪拌法、含浸法、流通法などにより接触させ、次いで、水などで洗浄後、乾燥、焼成処理することにより得られる。
このようにして得られたゼオライト系脱硫剤中の金属成分の含有量は、金属として、通常1〜40質量%、好ましくは5〜30質量%の範囲である。
【0016】
金属元素、金属酸化物及び金属成分担持酸化物の中から選ばれる少なくとも一種からなる脱硫剤(以下、脱硫剤Bということがある)は、Ag成分、Cu成分、Ni成分、Zn成分、Mn成分、Fe成分、Co成分、Al成分、Si成分、アルカリ金属成分、アルカリ土類金属成分及び希土類金属成分の中から選ばれる少なくとも一種の金属成分を含む脱硫剤が好ましい。ここで、アルカリ金属成分としては、カリウムやナトリウムなどが、アルカリ土類金属成分としては、カルシウムやマグネシウムなどが、希土類金属成分としては、ランタンやセリウムなどが好ましく挙げられる。
該脱硫剤Bは、多孔質無機酸化物担体に各金属成分を担持させたものが好ましく、特にAg成分、Cu成分及びNi成分のうち少なくとも一種を担持させたものが好適である。各金属成分は共沈法や含浸法等の通常の担持方法で担持することができる。
【0017】
上記多孔質無機酸化物担体としては、例えば、シリカ、アルミナ、シリカーアルミナ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、珪藻土、白土、粘土又は酸化亜鉛から選ばれる少なくとも一種が挙げられ、このうち、アルミナ担体、シリカーアルミナ担体が好ましい。
以下に、該脱硫剤Bとして、好適なシリカーアルミナを担体とするNi−Cu系脱硫剤の調製方法について説明する。
該脱硫剤Bにおいては、脱硫性能及び脱硫剤の機械的強度などの点から、担持した総金属含有量(酸化物換算)が通常5〜90質量%で、かつ担体が95〜10質量%の範囲が好ましく、上記総金属含有量(酸化物換算)は、共沈法で担持される場合は40〜90質量%、更に70〜90質量%であり、含浸法で担持される場合は5〜40質量%であることが好ましい。
はじめに、ニッケル源、銅源及び/又はアルミニウム源を含む酸性の水溶液又は水分散液と、ケイ素源及び無機塩基を含む塩基性水溶液を調製する。前者の酸性の水溶液又は水分散液に用いられるニッケル源としては、例えば塩化ニッケル、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、酢酸ニッケル、炭酸ニッケル及びこれらの水和物などが、銅源としては、例えば塩化銅、硝酸銅、硫酸銅、酢酸銅及びこれらの水和物などが挙げられる。これらのニッケル源や銅源は、それぞれ単独で用いても、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
また、アルミニウム源としては、擬ベーマイト、ベーマイトアルミナ、バイヤライト、ジプサイトなどのアルミナ水和物や、γ−アルミナなどが挙げられる。これらの中で擬ベーマイト、ベーマイトアルミナ及びγ−アルミナが好適である。これらは粉体状又はゾルの形態で用いることができる。また、このアルミニウム源は一種を用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
一方、塩基性水溶液に用いられるケイ素源としては、アルカリ水溶液に可溶であって、焼成によりシリカになるものであれば、特に制限されず、例えばオルトケイ酸、メタケイ酸、及びそれらのナトリウム塩やカリウム塩、水ガラスなどが挙げられる。これらは一種を用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよいが、特にケイ酸ナトリウム水和物の一種である水ガラスが好適である。
また、無機塩基としては、アルカリ金属の炭酸塩や水酸化物などが好ましく、例えば炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられる。これらは一種を用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてよいが、特に炭酸ナトリウム単独又は炭酸ナトリウムと水酸化ナトリウムとの組み合わせが好適である。この無機塩基の使用量は、次の工程において、酸性の水溶液又は水分散液と、この塩基性水溶液を混合した場合、混合液が実質上中性から塩基になるように選ぶのが有利である。
また、この無機塩基は、全量を該塩基性水溶液の調製に用いてもよいし、又はその一部を、次の工程における上記酸性の水溶液又は水分散液と塩基性水溶液との混合液に加えてもよい。
【0020】
このようにして調製した酸性水溶液又は水分散液と塩基性水溶液を、それぞれ50〜90℃程度に加温したのち、両者を混合する。混合後、必要に応じて、50〜90℃に加温された無機塩基を含む水溶液を更に加えたのち、混合液を50〜90℃程度の温度において0.5〜3時間程度攪拌し、反応を完結させる。
次に、生成した固形物を充分に洗浄したのち固液分離するか、又は生成した固形物を固液分離したのち充分に洗浄し、次いで、この固形物を公知の方法により80〜150℃程度の温度で乾燥処理する。このようにして得られた乾燥処理物を、好ましくは200〜400℃の範囲の温度において焼成することにより、担体上にニッケル成分及び銅成分が担持された脱硫剤Bが得られる。焼成温度が上記範囲を逸脱すると所望の性能をもつNi−Cu系脱硫剤が得られにくい。
【0021】
次に、該脱硫剤Bとして好適なアルミナを担体とする銀担持脱硫剤の調製方法について説明する。
脱硫性能の観点から銀成分の担持量は5〜30質量%の範囲が好ましい。銀源を含む水溶液を調製する。銀源としては、例えば硝酸銀、酢酸銀、硫酸銀が挙げられる。これらの銀源はそれぞれ単独で用いてもよいし、組み合わせて用いてもよい。アルミナとしてはγ型、φ型、χ型、δ型、η型のアルミナが挙げられるが、γ型、χ型、η型が好ましく用いられる。上記銀源を含む水溶液を、アルミナに含浸担持し、80〜150℃程度の温度において乾燥し、次いで200〜400℃程度の温度において焼成することによりアルミナ担体上に銀成分が担持された脱硫剤Bが得られる。
【0022】
本発明の脱硫方法による脱硫処理の際の条件としては、燃料電池用燃料の原料の性状に応じて適宜選択することができ、特に限定されないが、通常−40〜300℃の範囲で脱硫することができる。この原料としてガス状炭化水素化合物、例えば液化石油ガスを用いる場合には、温度−40〜200℃程度、圧力0〜0.2Mpa・G程度、ガス時空間速度(GHSV)が50〜1500h-1の条件で脱硫処理することが好ましい。この際、必要により、少量の水素を共存させてもよい。脱硫条件を上記範囲で適当に選択することにより、硫黄分0.2質量ppm以下のガス状炭化水素化合物を得ることができる。
【0023】
次に本発明の燃料電池用水素の製造方法は、上記のようにして脱硫処理した燃料電池用燃料を、水蒸気改質、部分酸化改質又はオートサーマル改質を行って、より具体的には水蒸気改質触媒、部分酸化改質触媒又はオートサーマル改質触媒と接触させることにより、燃料電池用水素を製造するものである。
ここで用いられる改質触媒としては特に制限はなく、従来から炭化水素の改質触媒として知られている公知のものの中から任意のものを適宜選択して用いることができる。このような改質触媒としては、例えば適当な担体にニッケルやジルコニウム、あるいはルテニウム、ロジウム、白金などの貴金属を担持したものを挙げることができる。上記担持金属は一種でもよく、二種以上を組み合わせてもよい。これらの触媒の中で、ニッケルを担持させたもの(以下、ニッケル系触媒という)とルテニウムを担持させたもの(以下、ルテニウム系触媒という)が好ましく、これらは、水蒸気改質処理、部分酸化改質処理又はオートサーマル改質処理中の炭素析出を抑制する効果が大きい。
上記改質触媒を担持させる担体には、酸化マンガン、酸化セリウム、酸化ジルコニウム等が含まれていることが好ましく、特にこれらのうち少なくとも一種を含む担体が特に好ましい。
【0024】
ニッケル系触媒の場合、ニッケルの担持量は担体基準で3〜60質量%の範囲が好ましい。この担持量が上記範囲内であると、水蒸気改質触媒、部分酸化改質触媒又はオートサーマル改質触媒の活性が十分に発揮されるとともに、経済的にも有利なものとなる。触媒活性及び経済性などを考慮すると、ニッケルのより好ましい担持量は5〜50質量%であり、特に10〜30質量%の範囲が好ましい。
また、ルテニウム系触媒の場合、ルテニウムの担持量は担体基準で0.05〜20質量%の範囲が好ましい。ルテニウムの担持量が上記範囲内であると、水蒸気改質触媒、部分酸化改質触媒又はオートサーマル改質触媒の活性が十分に発揮されるとともに経済的にも有利なものとなる。触媒活性及び経済性などを考慮すると、ルテニウムのより好ましい担持量は0.05〜15質量%であり、特に0.1〜2質量%の範囲が好ましい。
【0025】
水蒸気改質処理における反応条件としては、水蒸気と原料に由来する炭素との比であるスチーム/カーボン(モル比)は、通常1.5〜10の範囲で選定される。スチーム/カーボン(モル比)が1.5以上であると水素の生成量が十分であり、10以下であると過剰の水蒸気を必要としないため、熱ロスが小さく、水素製造が効率的に行える。上記観点から、スチーム/カーボン(モル比)は1.5〜5の範囲であることが好ましく、さらには2〜4の範囲であることが好ましい。
また、水蒸気改質触媒層の入口温度を630℃以下に保って水蒸気改質を行うのが好ましい。入口温度が630℃以下であると、原料の熱分解が起こらないため、炭素ラジカルを経由した触媒あるいは反応管壁への炭素析出が生じにくい。以上の観点から、さらに水蒸気改質触媒層の入口温度は600℃以下であることが好ましい。なお、触媒層出口温度は特に制限はないが、650〜800℃の範囲が好ましい。650℃以上であると水素の生成量が十分であり、800℃以下であると、反応装置を耐熱材料で構成する必要がなく、経済的に好ましい。
【0026】
部分酸化改質処理における反応条件としては、通常、圧力は常圧〜5MPa・G、温度は400〜1100℃、酸素(O2)/カーボン(モル比)は0.2〜0.8、液時空間速度(LHSV)は0.1〜100h-1の条件が採用される。
また、オートサーマル改質処理における反応条件としては、通常、圧力は常圧〜5MPa・G、温度は400〜1100℃、スチーム/カーボン(モル比)は0.1〜10、酸素(O2)/カーボン(モル比)は0.1〜1、液時空間速度(LHSV)は0.1〜2h-1、ガス時空間速度(GHSV)は1000〜100000h-1の条件が採用される。
なお、上記水蒸気改質、部分酸化改質又はオートサーマル改質により得られるCOが水素生成に悪影響を及ぼすため、COを反応によりCO2に変換して除くことが好ましい。
このように、本発明の方法によれば、燃料電池用水素を効率よく製造することができる。
【0027】
本発明の燃料電池システムは、上記のようにして製造された水素を用いることを特徴とし、具体的には、原料供給装置、脱硫装置、改質装置、燃料電池から構成されている。この燃料電池システムにおける燃料電池は例えば、固体酸化物型燃料電池(SOFC)、固体高分子型燃料電池(PEFC)、リン酸型燃料電池(PAFC)、溶融炭酸塩型燃料電池(MCFC)などいずれであってもよい。
次に、ガス状炭化水素化合物を燃料電池用原料とする燃料電池システムを図1により説明する。ガス状炭化水素化合物ボンベ21内の燃料は、自然気化方式により、燃料供給ライン22を経て、水素製造システム20内の脱硫器23に導入される。脱硫器23は、前段脱硫器と後段脱硫器とを有し、前段脱硫器は燃料供給ライン22と、後段脱硫器は燃料導入管12と接続され、前段脱硫器と後段脱硫器とは直列に接続されている。脱硫器23には、例えば活性炭、ゼオライト又は金属系の吸着剤などを充填することができる。脱硫器23で脱硫された燃料は、水タンクから水ポンプ24、水供給管11を経た水と混合された後、空気ブロアー35から送り出された空気と共に改質器31に送り込まれる。改質器31には改質触媒が充填されており、改質器31に送り込まれた燃料混合物(炭化水素化合物、水蒸気及び酸素を含む混合気体)から、前述した改質反応のいずれかによって水素が製造される。なお、符号38は、燃料ガスの流量調節バルブである。
【0028】
このようにして製造された水素はCO変成器32、CO選択酸化器33を通じてCO濃度が燃料電池の特性に及ぼさない程度まで低減される。これらの反応器に用いる触媒例としては、CO変成器32には、鉄−クロム系触媒、銅−亜鉛系触媒又は貴金属系触媒が挙げられ、CO選択酸化器33には、ルテニウム系触媒、白金系触媒又はそれらの混合触媒が挙げられる。改質反応で製造された水素中のCO濃度が低い場合、CO変成器32とCO選択酸化器33を取り付けなくてもよい。
【0029】
燃料電池34は負極34Aと正極34Bとの間に高分子電解質34Cを備えた固体高分子形燃料電池の例である。負極側には上記の方法で得られた水素リッチガスが、正極側には空気ブロアー35から送られる空気が、それぞれ必要であれば適当な加湿処理を行った後(加湿装置は図示せず)導入される。
この時、負極側では水素ガスがプロトンとなり電子を放出する反応が進行し、正極側では酸素ガスが電子とプロトンを得て水となる反応が進行し、両極34A、34B間に直流電流が発生する。その場合、負極には、白金黒もしくは活性炭担持のPt触媒又はPt−Ru合金触媒などが使用され、正極には、白金黒もしくは活性炭担持のPt触媒などが使用される。
【0030】
負極34A側に改質器31のバーナ31Aを接続して余った水素を燃料とすることができる。また、正極34B側に気水分離器36を接続し、正極34B側に供給された空気中の酸素と水素との結合により生じた水と排気ガスとを分離し、水を水蒸気の生成に利用することができる。燃料電池34では発電に伴って熱が発生するため、排熱回収装置37を付設してこの熱を回収して有効利用することができる。排熱回収装置37は、燃料電池34に付設され反応時に生じた熱を奪う熱交換器37Aと、この熱交換器37Aで奪った熱を水と熱交換するための熱交換器37Bと、冷却器37Cと、これら熱交換器37A、37B及び冷却器37Cへ冷媒を循環させるポンプ37Dとを備え、熱交換器37Bにおいて得られる温水は他の設備などで有効に利用することができる。
【実施例】
【0031】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
製造例1
硫酸ニッケル・6水和物(特級、和光純薬株式会社製)36.01kg及び硫酸銅・5水和物(特級、和光純薬株式会社製)8.52kgを80℃に加温したイオン交換水400Lに溶解し、これに擬ベーマイト(C−AP、Al23として67質量%、触媒化成工業株式会社製)を720g混合し調製液Aを得た。別に用意した、80℃に加温したイオン交換水400Lに炭酸ナトリウム30.00kgを溶解し、水ガラス9.36kg(JIS−3号、Si濃度29質量%、日本化学工業株式会社製)を加え、調製液Bを得た。
調製液A,Bの温度をそれぞれ80℃に保ちながら、両者を内径8mm、長さ10cmのステンレス鋼製の反応管内に導入し、沈殿ケーキを得た。その後、イオン交換水6000Lを用いて沈殿ケーキの洗浄・ろ過を行い、120℃送風乾燥機にて生成物を12時間乾燥させた後、350℃で3時間焼成した。この焼成物のニッケル含有量(NiO換算)は64質量%、銅含有量(CuO換算)は16質量%、担体であるシリカ−アルミナ量は20質量%、Si/Al比(原子比)は4.8であった。
次に、得られた焼成物に対して、アルミナ換算で5質量%のアルミナゾルを添加して混練し、直径1mmのダイスを使用して押し出し成形した。次いで、120℃のオーブン中にて3時間乾燥処理を行い、さらに350℃で3時間焼成し、脱硫剤aを得た。
【0032】
実施例1
図1に示す燃料電池システムにおいて、下記の試験を行った。直径2.5cmのステンレス鋼製の前段脱硫器及び後段脱硫器に、製造例1で得られた脱硫剤aをそれぞれ150g及び80g充填した。前段脱硫器と後段脱硫器は直列に接続されている。硫化カルボニル、ジメチルサルファイド、ジメチルジサルファイド及びt−メルカプタンを、硫黄分濃度がそれぞれ1.25質量ppmとなるように脱硫プロパンガス(高千穂化学工業株式会社製)に添加し、常圧下、室温において、PEFC燃料電池1kW出力に相当する供給速度である2L/分で前段脱硫器に供給した。露点計を用いて、供給時の硫黄含有プロパンガスの水分濃度を露点として測定したところ、−97℃であった。
硫黄含有プロパンガスの供給を開始してから1780時間経過した後、水分を窒素ガスで希釈し、この窒素ガスを、露点計で測定される露点が−35℃となるまで、硫黄含有プロパンガスに添加した。硫黄含有プロパンガスの供給開始から1785時間経過した後に、後段脱硫器出口の硫黄分濃度を測定したところ、0.05質量ppm未満であった。硫黄含有プロパンガスの供給開始から1800時間経過した後に、硫黄含有プロパンガスの供給を停止し、前段脱硫器中の脱硫剤を取り出した。前段脱硫器に脱硫剤を充填し、硫黄含有プロパンガスを供給し、この脱硫剤を取り出すまでの操作を1サイクルとする。
【0033】
1サイクル目が終了した後、引き続きこの前段脱硫器に脱硫剤aを150g充填し、上記と同様の操作を繰り返して、2サイクル目、3サイクル目及び4サイクル目の試験を行った。各サイクルにおける、硫黄含有プロパンガスの供給開始から1785時間経過した後の硫黄分濃度は全て0.05質量ppm未満であった。4サイクル目終了までの全脱硫剤使用量は680gであり、前段脱硫器中の脱硫剤の質量(a)に対する後段脱硫器中の脱硫剤の質量(b)の比(b/a)は0.53である。
1サイクル目が終了した後、前段脱硫器から取り出した脱硫剤中の硫黄分濃度を測定したところ、2.0gの硫黄分が含まれていることがわかった。また、4サイクル目が終了した後、後段脱硫器から脱硫剤を取り出し、脱硫剤中の硫黄分濃度を測定したところ、硫黄分0.5gが含まれていることがわかった。燃料電池出力1kWあたりの硫黄分吸着量は、前段脱硫器では2g以上、後段脱硫器では0.5g以上であることがわかる。
【0034】
比較例1
実施例1において、後段脱硫器中における脱硫剤aの充填量を20gとし、かつ各サイクルの終了時に、後段脱硫器における使用済みの脱硫剤aを新しい脱硫剤a 20gと交換した以外は、実施例1と同様に試験を行った。
各サイクルにおける、硫黄含有プロパンガスの供給開始から1785時間経過した後の硫黄分濃度は、1サイクル目では1.3質量ppm、2サイクル目では1.0質量ppm、3サイクル目では1.5質量ppm、4サイクル目では1.2質量ppmであった。4サイクル目終了までの全脱硫剤使用量は680gであり、前段脱硫器中の脱硫剤の質量(a)に対する後段脱硫器中の脱硫剤の質量(b)の比(b/a)は0.13である。
1サイクル目が終了した後、前段脱硫器及び後段脱硫器から脱硫剤を取り出し、脱硫剤中の硫黄分濃度を測定したところ、前段脱硫器中の脱硫剤には2.0g、後段脱硫器中の脱硫剤には0.1gの硫黄分が含まれていることがわかった。
【0035】
実施例2
図1に示す燃料電池システムにおいて、下記の試験を行った。直径2.5cmのステンレス鋼製の前段脱硫器及び後段脱硫器に、製造例1で得られた脱硫剤aをそれぞれ150g及び80g充填した。前段脱硫器と後段脱硫器は直列に接続されている。硫化カルボニル、ジメチルサルファイド、ジメチルジサルファイド及びt−メルカプタンを、硫黄分濃度がそれぞれ1.25質量ppmとなるように脱硫プロパンガス(高千穂化学工業株式会社製)に添加し、常圧下、室温において供給速度2L/分で前段脱硫器に供給した。
硫黄含有プロパンガスの供給を開始してから1780時間経過した後、この硫黄含有プロパンガスに、硫化カルボニル、ジメチルサルファイド、ジメチルジサルファイド及びt−メルカプタンを添加し、それぞれの硫黄分濃度が2.5質量ppmとなるように調整した。硫黄含有プロパンガスの供給開始から1785時間経過した後に、後段脱硫器出口の硫黄分濃度を測定したところ、0.05質量ppm未満であった。硫黄含有プロパンガスの供給開始から1800時間経過した後に、硫黄含有プロパンガスの供給を停止し、前段脱硫器中の脱硫剤を取り出した。前段脱硫器に脱硫剤を充填し、硫黄含有プロパンガスを供給し、この脱硫剤を取り出すまでの操作を1サイクルとする。
1サイクル目が終了した後、引き続きこの前段脱硫器に脱硫剤aを150g充填し、上記と同様の操作を繰り返して、2サイクル目、3サイクル目及び4サイクル目の試験を行った。各サイクルにおける、硫黄含有プロパンガスの供給開始から1785時間経過した後の硫黄分濃度は全て0.05質量ppm未満であった。4サイクル目終了までの全脱硫剤使用量は680gであり、前段脱硫器中の脱硫剤の質量(a)に対する後段脱硫器中の脱硫剤の質量(b)の比(b/a)は0.53である。
【0036】
比較例2
実施例2において、後段脱硫器中における脱硫剤aの充填量を20gとし、かつ各サイクルの終了時に、後段脱硫器における使用済みの脱硫剤aを新しい脱硫剤a 20gと交換した以外は、実施例2と同様に試験を行った。
各サイクルにおける、硫黄含有プロパンガスの供給開始から1785時間経過した後の硫黄分濃度は、1サイクル目では2.5質量ppm、2サイクル目では2.1質量ppm、3サイクル目では2.3質量ppm、4サイクル目では2.0質量ppmであった。4サイクル目終了までの全脱硫剤使用量は680gであり、前段脱硫器中の脱硫剤の質量(a)に対する後段脱硫器中の脱硫剤の質量(b)の比(b/a)は0.13である。
1サイクル目が終了した後、前段脱硫器及び後段脱硫器から脱硫剤を取り出し、脱硫剤中の硫黄分濃度を測定したところ、前段脱硫器中の脱硫剤には2.0g、後段脱硫器中の脱硫剤には0.1gの硫黄分が含まれていることがわかった。
【0037】
実施例3
図1に示す燃料電池システムにおいて、下記の試験を行った。直径2.5cmのステンレス鋼製の前段脱硫器及び後段脱硫器に、製造例1で得られた脱硫剤aをそれぞれ150g及び240g充填した。前段脱硫器と後段脱硫器は直列に接続されている。硫化カルボニル、ジメチルサルファイド、ジメチルジサルファイド及びt−メルカプタンを、硫黄分濃度がそれぞれ1.25質量ppmとなるように脱硫プロパンガス(高千穂化学工業株式会社製)に添加し、常圧下、室温において供給速度2L/分で前段脱硫器に供給した。
硫黄含有プロパンガスの供給を開始してから2780時間経過した後、この硫黄含有プロパンガスに、硫化カルボニル、ジメチルサルファイド、ジメチルジサルファイド及びt−メルカプタンを添加し、それぞれの硫黄分濃度が2.5質量ppmとなるように調整した。硫黄含有プロパンガスの供給開始から2785時間経過した後に、後段脱硫器出口の硫黄分濃度を測定したところ、0.05質量ppm未満であった。硫黄含有プロパンガスの供給開始から2800時間経過した後に、硫黄含有プロパンガスの供給を停止し、前段脱硫器中の脱硫剤を取り出した。前段脱硫器に脱硫剤を充填し、硫黄含有プロパンガスを供給し、この脱硫剤を取り出すまでの操作を1サイクルとする。
1サイクル目が終了した後、引き続きこの前段脱硫器に脱硫剤aを150g充填し、上記と同様の操作を繰り返して、2〜8サイクル目の試験を行った。各サイクルにおける、硫黄含有プロパンガスの供給開始から2800時間経過した後の硫黄分濃度は全て0.05質量ppm未満であった。8サイクル目終了までの全脱硫剤使用量は1440gであり、前段脱硫器中の脱硫剤の質量(a)に対する後段脱硫器中の脱硫剤の質量(b)の比(b/a)は1.6である。
【0038】
実施例4
図1に示す燃料電池システムにおいて、下記の試験を行った。直径2.5cmのステンレス鋼製の前段脱硫器及び後段脱硫器に、製造例1で得られた脱硫剤aをそれぞれ150g及び30g充填した。前段脱硫器と後段脱硫器は直列に接続されている。硫化カルボニル、ジメチルサルファイド、ジメチルジサルファイド及びt−メルカプタンを、硫黄分濃度がそれぞれ1.25質量ppmとなるように脱硫プロパンガス(高千穂化学工業株式会社製)に添加し、常圧下、室温において供給速度2L/分で前段脱硫器に供給した。露点計を用いて、供給時の硫黄含有プロパンガスの水分濃度を露点として測定したところ、−97℃であった。
硫黄含有プロパンガスの供給を開始してから1780時間経過した後、水分を窒素ガスで希釈し、この窒素ガスを、露点計で測定される露点が−35℃となるまで、硫黄含有プロパンガスに添加した。硫黄含有プロパンガスの供給開始から1785時間経過した後に、後段脱硫器出口の硫黄分濃度を測定したところ、0.05質量ppm未満であった。硫黄含有プロパンガスの供給開始から1800時間経過した後に、硫黄含有プロパンガスの供給を停止し、前段脱硫器中の脱硫剤を取り出した。前段脱硫器に脱硫剤を充填し、硫黄含有プロパンガスを供給し、この脱硫剤を取り出すまでの操作を1サイクルとする。
1サイクル目が終了した後、引き続きこの前段脱硫器に脱硫剤aを150g充填し、上記と同様の操作を繰り返して、2サイクル目の試験を行った。2サイクル目における、硫黄含有プロパンガスの供給開始から1785時間経過した後の硫黄濃分度は0.05質量ppm未満であった。2サイクル目終了までの全脱硫剤使用量は330gであり、前段脱硫器中の脱硫剤の質量(a)に対する後段脱硫器中の脱硫剤の質量(b)の比(b/a)は0.2である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の脱硫方法によれば、最小限量の脱硫剤で燃料電池用燃料の硫黄分を極めて低濃度まで効率よく除去することができると共に、この燃料の一時的な不純物や硫黄分濃度の変動においても、後流側への硫黄化合物の漏れ出しを制御することができるので、燃料電池システムに搭載される改質器内触媒及び燃料電池セル触媒の硫黄による被毒を防止することができ、燃料電池用の水素を効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の燃料電池システムの一例を示す概略フロー図である。
【符号の説明】
【0041】
1:燃料電池システム
11:水供給管
12:燃料導入管
20:水素製造システム
21:ガス状炭化水素化合物ボンベ
22:燃料供給ライン
23:脱硫器
24:水ポンプ
31:改質器
31A:改質器のバーナ
32:CO変成器
33:CO選択酸化器
34:燃料電池
34A:燃料電池負極
34B:燃料電池正極
34C:燃料電池高分子電解質
35:空気ブロワー
36:気水分離器
37:排熱回収装置
37A:熱交換器
37B:熱交換器
37C:冷却器
37D:冷媒循環ポンプ
38: 流量調節バルブ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池システムに配設され、前段脱硫器と後段脱硫器とを具備した脱硫装置を用いて燃料電池用燃料を脱硫する方法であって、前段脱硫器中の脱硫剤を周期的に交換し、後段脱硫器中の脱硫剤を半恒久的に使用することを特徴とする燃料電池用燃料の脱硫方法。
【請求項2】
前段脱硫器中の脱硫剤の質量(a)に対する後段脱硫器中の脱硫剤の質量(b)の比(b/a)が、0.2〜2である請求項1に記載の燃料電池用燃料の脱硫方法。
【請求項3】
燃料電池出力1kWあたりの硫黄分吸着量が、前段脱硫器において2g以上、後段脱硫器において0.5g以上である請求項1又は2に記載の燃料電池用燃料の脱硫方法。
【請求項4】
燃料電池用燃料が、ガス状炭化水素化合物である請求項1〜4のいずれかに記載の燃料電池用燃料の脱硫方法。
【請求項5】
前段脱硫器及び後段脱硫器に充填される脱硫剤が、硫化カルボニル、硫化水素、メルカプタン類、サルファイド類及びジサルファイド類を吸着する能力を有する脱硫剤である請求項1〜4のいずれかに記載の燃料電池用燃料の脱硫方法。
【請求項6】
脱硫剤が、(A)ゼオライトを含む脱硫剤及び/又は(B)金属元素、金属酸化物及び金属成分担持酸化物の中から選ばれる少なくとも一種を含む脱硫剤である請求項1〜5のいずれかに記載の燃料電池用燃料の脱硫方法。
【請求項7】
ゼオライトが、ベータ(BEA)構造を有するゼオライト及び/又はフォージャサイト(FAU)構造を有するゼオライトである請求項6に記載の燃料電池用燃料の脱硫方法。
【請求項8】
ゼオライトを含む脱硫剤が、ゼオライトと共に、Ag成分、Cu成分、Ni成分、Zn成分、Mn成分、Fe成分、Co成分、アルカリ金属成分、アルカリ土類金属成分及び希土類金属成分よりなる群から選ばれる少なくとも一種の金属成分を含むものである請求項6又は7に記載の燃料電池用燃料の脱硫方法。
【請求項9】
金属元素、金属酸化物及び金属成分担持酸化物の中から選ばれる少なくとも一種を含む脱硫剤が、Ag成分、Cu成分、Ni成分、Zn成分、Mn成分、Fe成分、Co成分、Al成分、Si成分、アルカリ金属成分、アルカリ土類金属成分及び希土類金属成分よりなる群から選ばれる少なくとも一種の金属成分を含むものである請求項6〜8のいずれかに記載の燃料電池用燃料の脱硫方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の脱硫方法で脱硫処理された燃料電池用燃料を改質することを特徴とする燃料電池用水素の製造方法。
【請求項11】
改質が水蒸気改質、部分酸化改質、又はオートサーマル改質である請求項10に記載の燃料電池用水素の製造方法。
【請求項12】
改質に用いる触媒がルテニウム系触媒又はニッケル系触媒である請求項10又は11に記載の燃料電池用水素の製造方法。
【請求項13】
改質に用いる触媒の担体成分が、酸化マンガン、酸化セリウム、及び酸化ジルコニウムから選ばれる少なくとも一種を含む請求項12に記載の燃料電池用水素の製造方法。
【請求項14】
請求項10〜13のいずれかに記載の方法により製造された水素を用いることを特徴とする燃料電池システム。



【図1】
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【公開番号】特開2006−277980(P2006−277980A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−91002(P2005−91002)
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】