説明

燃料電池用燃料カートリッジ及びその製造方法

【課題】可撓性材料を製袋してなる容器本体にスパウトを取り付けて、これをケース内に収容してカートリッジ式とされた燃料電池用の燃料容器とするにあたり、収容された燃料が気化して容器本体が膨張しても、限られた容積の範囲内で、容器本体内の気密性が損なわれない構造の燃料電池用燃料カートリッジを提供する。
【解決手段】可撓性材料でスパウト3の基部31を挟み込みつつ、可撓性材料の端縁を重ね合わせてヒートシールすることによってスパウト3が取り付けられた容器本体2を、有底筒状のケース本体50と、スパウト3の基部31と可撓性材料とのシール部及び可撓性材料どうしのシール部を狭持した状態でケース本体50内に挿入されてケース本体50と嵌合するチャック51と、チャック51と嵌合してカップラ4をスパウト3の吸い出し口32に密着固定するトップベース52とを備える外装ケース5に収容する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、ダイレクトメタノール型燃料電池などの燃料電池に好適に利用することができる燃料電池用燃料カートリッジ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水素(プロトン)を取り出すための改質器を用いることなく、燃料であるメタノールを直接アノード極(燃料極)に供給して、電気化学反応を生じさせることができるダイレクトメタノール型燃料電池(DMFC)が注目されている。特に、このDMFCは、機器の小型化に適していることから、ノートパソコン(Laptop Computer)に代表されるような携帯機器用の燃料電池としての利用が期待されている。
【0003】
そして、このようなDMFCにおける燃料の供給手段も種々提案されており、例えば、特許文献1は、少なくとも一部が柔軟性を有する部材から構成された燃料容器を備え、ポンプにより燃料が供給される携帯機器用燃料電池を提案する。
また、本出願人も、特許文献2において、燃料電池用の燃料容器としても利用可能な容器として、フィルム材をガセット袋状のパウチに製袋した可撓性のパウチ本体に、流動性内容物の注口部となるスパウトを取り付けた容器を提案した。さらに、本出願人は、特許文献3において、フィルム材を製袋してなるパウチを、剛性材料からなるケース内に収容したカートリッジ式の燃料容器も提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−319388号公報
【特許文献2】特開2008−56326号公報
【特許文献3】WO2006/54489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、この種の燃料容器にあっては、引火の危険の高いメタノールを燃料として収容するに際し、メタノールの外部への漏洩を防止する必要があることに加え、燃料の供給が安定して行われるようにするためにも、容器内の気密性が十分に確保されていなければならない。
【0006】
しかしながら、メタノールは揮発性が高く、沸点も比較的低いため、一般に想定される機器の使用環境下の温度で容易に気化してしまう。このため、フィルム材を製袋したパウチにスパウトを取り付けた容器では、メタノールの気化に伴ってパウチが膨張してしまうことを考慮しなければならない。
【0007】
例えば、本発明者は、パウチが膨張すると、スパウトとのシール部に応力が集中してパウチを形成するフィルム材が破断してしまったり、スパウトとフィルム材とのシール部や、フィルム材どうしのシール部に剥離(シール後退)が生じてしまったりすることが危惧され、容器内の気密性が損なわれてしまうおそれがあるという問題を見出した。そして、カートリッジ式の燃料容器を携帯機器などの容積制限の厳しい機器に装填して使用する場合には、限られた容積の範囲内で、このような問題を解消しなければならない。
【0008】
本発明は、上記のような事情にかんがみてなされたものであり、フィルム材の如き可撓性材料を製袋してなる容器本体としてのパウチにスパウトを取り付けて、これをケース内に収容してカートリッジ式とされた燃料電池用の燃料容器とするにあたり、収容された燃料が気化してパウチを膨張させたとしても、限られた容積の範囲内で、容器内の気密性が損なわれてしまうのを有効に回避できる構造とされた燃料電池用燃料カートリッジ及びその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る燃料電池用燃料カートリッジは、可撓性材料を製袋してなるとともに、燃料電池本体との接続機能を有するカップラが装着されるスパウトが、前記可撓性材料で前記スパウトの基部を挟み込みつつ、前記可撓性材料の端縁を重ね合わせてヒートシールすることによって取り付けられている容器本体を外装ケースに収容してなり、前記外装ケースが、長手方向の一端が開口する有底筒状のケース本体と、前記スパウトの基部と前記可撓性材料とのシール部及び前記可撓性材料どうしのシール部を狭持した状態で前記ケース本体内に挿入されて、前記ケース本体と嵌合する一対の押圧部材からなるチャックと、前記チャックと嵌合して前記カップラを前記スパウトの吸い出し口に密着固定するトップベースと、を備える構成としてある。
【0010】
また、本発明に係る燃料電池用燃料カートリッジの製造方法は、前記ケース本体の胴部の外面を成形する長尺筒状の成形面が形成された雌型と、前記ケース本体の胴部の傾斜する内面を成形する成形面が形成され、かつ、前記ケース本体の胴部の最も厚肉となる部位で分割された一対のコアからなる雄型とを有する成形型を用いて、前記雌型の長手方向両端から前記コアをそれぞれ挿通し、前記ケース本体の胴部の最も厚肉となる部位で前記コアを突き合わせて型閉めした後に、前記ケース本体の胴部を射出成形する方法としてある。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、収容された燃料が気化して容器本体が膨張しても、限られた容積の範囲内で、容器本体を形成する可撓性材料の破断や、剥離を防止することが可能な構造として、容器本体内の気密性が損なわれてしまうのを有効に回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る燃料電池用燃料カートリッジの実施形態の概略を示す正面図である。
【図2】図1のA−A断面の概略を示す断面図である。
【図3】図2のB−B断面の概略を示す断面図である。
【図4】本発明に係る燃料電池用燃料カートリッジの実施形態の一部を省略してその概略を示す分解図である
【図5】容器本体としてのパウチの一例を示す説明図である。
【図6】チャックをケース本体内に挿入して嵌合させた状態を示す平面図である。
【図7】スパウトの吸い出し口とカップラとを示す説明図である。
【図8】ケース本体の胴部の製造工程の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施形態について、図面を参照しながら説明する。
なお、図1は、本実施形態に係る燃料電池用燃料カートリッジの概略を示す正面図であり、図2は、図1のA−A断面の概略を示す断面図、図3は、図2のB−B断面の概略を示す断面図である。また、図4は、本実施形態に係る燃料電池用燃料カートリッジの一部を省略してその概略を示す分解図である。
【0014】
本実施形態の燃料カートリッジ1は、ダイレクトメタノール型燃料電池などの燃料電池を備える機器に着脱自在に装填されて、燃料Mが空になると燃料カートリッジ1ごと換装して燃料Mを補充するカートリッジ式の燃料容器であり、装填される機器に応じて外形寸法が規定された外装ケース5に、可撓性材料を製袋してなる容器本体としてのパウチ2が収容されている。
【0015】
また、燃料カートリッジ1は、燃料電池本体が備える吸引ポンプによって燃料Mが吸い出されて発電部に供給される、いわゆるアクティブ型の燃料電池に供されることから、本実施形態では、容積効率を高めるとともに、燃料Mの吸い出し性が良好となるように、可撓性材料を製袋してなる容器本体としてのパウチ2に燃料Mが充填されるようにしている。そして、このようなパウチ2には、充填された燃料Mを吸い出すためのスパウト3が、パウチ2を形成する可撓性材料に基部31を挟み込みつつ、当該可撓性材料の端縁を重ね合わせてヒートシールすることによって取り付けられている。
【0016】
本実施形態において容器本体とされるパウチ2は、例えば、側面にまちが形成されたガセット袋状に製袋されたものとすることができる。ガセット袋状に製袋されたパウチ2は、燃料Mが吸い出される際に、その吸い出された量に応じて徐々に平坦に折り畳まれていくようにすることができることから、容積効率を高めるとともに、吸い出し性を良好にして残液を少なくする上でも有利である。
【0017】
ここで、図5(a)に、ガセット袋状に製袋されたパウチ2の一例について、その可撓性材料の展開図を示す。この例において、ガセット袋状に製袋されたパウチ2は、図5(a)中破線で示す谷折り線VLと二点鎖線で示す山折り線MLとで、図5(b)に示すように折り返して、スパウト3が挟み込まれたスパウト側端縁2aと、ボトム側端縁2bと、背貼り側端縁2cとのそれぞれをヒートシールしたものに相当する。
【0018】
パウチ2から燃料Mを吸い出すために取り付けられるスパウト3は、パウチ2を形成する可撓性材料に挟み込まれてヒートシールされる基部31と、燃料電池本体との接続機能を有するカップラ4が装着される吸い出し口32とを有している。また、基部31と吸い出し口32との境には、長手方向に対してほぼ垂直に張り出すフランジ部30が設けられている。
【0019】
スパウト3に設けられたフランジ部30は、パウチ2を製袋する際に、パウチ2を形成する可撓性材料の端縁に当接して、その位置決めをするのに利用される。これに加えて、後述するように、チャック51によってスパウト3の基部31と可撓性材料とのシール部及び可撓性材料どうしのシール部20を狭持する際に、チャック51を形成する各押圧部材51a,51bの押圧部510の上面にフランジ部30を支持させることによって、その位置決めをするときにも利用することができる。
【0020】
また、本実施形態において、スパウト3の吸い出し口32に装着されるカップラ4は、燃料カートリッジ1を機器に装填したときに、このカップラ4の先端開口部側が、燃料電池本体に設けられた燃料吸引口に接続され、これとともに、カップラ4のバルブ機構が開放されて、パウチ2に充填された燃料Mの吸い出しが可能となるようになっている。
【0021】
カップラ4のバルブ機構としては、例えば、バネ42に付勢された弁体41が、カップラ4の開口端の内面側に形成された弁座43に密着することで、バルブ機構を閉塞する構成とすることができ、燃料カートリッジ1が機器に装填されると、燃料電池本体の燃料吸引口側に設けられた、図示しないピン状の部材が、カップラ4の先端開口部に挿通されるようにする。これにより、上記ピン状の部材が、弁座43との密着が解除されるように弁体41をバネ42に抗して押し下げることでバルブ機構が開放され、弁体41と弁座43との間に燃料Mの流通経路が形成される。
【0022】
なお、本実施形態では、燃料カートリッジ1を保管などする際に、カップラ4のバルブ機構の誤動作を防止して、燃料Mが漏れ出してしまわないように、カップラ4の先端開口部側には、保護部材としての蓋体7が取り付けられるようにしている。
【0023】
本実施形態において、容器本体としてのパウチ2が収容される外装ケース5は、長手方向の一端が開口する有底筒状のケース本体50と、スパウト3の基部31と可撓性材料とのシール部及び可撓性材料どうしのシール部20を狭持した状態でケース本体50内に挿入されて、ケース本体50と嵌合する一対の押圧部材51a,51bからなるチャック51と、チャック51と嵌合してカップラ4をスパウト3の吸い出し口32に密着固定するトップベース52とを備えている。
【0024】
チャック51を形成する各押圧部材51a,51bは、スパウト3の基部31と可撓性材料とのシール部及び可撓性材料どうしのシール部20を押圧しつつ、スパウト3に設けられたフランジ部30を支持する押圧部510と、この押圧部510から立ち上がって、スパウト3の吸い出し口32の周囲に、トップベース52に設けられた嵌合部が挿入される空間を形成する側板部511とを有している。
なお、このような形態とされるチャック51は、軽量化や使用樹脂量の削減を図るために、必要に応じて不要部位を切り抜くなどして、各押圧部材51a,51bに肉抜きを施しておくのが好ましい。
【0025】
本実施形態では、ケース本体50にチャック51を嵌合させるために、チャック51を形成する各押圧部材51a,51bの側板部511に嵌合爪513を設けるとともに、この嵌合爪513と嵌合する嵌合孔500をケース本体50に設けてある。
【0026】
このとき、チャック51側に設ける嵌合爪513と、ケース本体50側に設ける嵌合孔500の具体的な形態や、これらを設ける数は、図示する例には限定されない。チャック51側に設けた嵌合爪513が、その内側からケース本体50側に設けた嵌合孔500に嵌合するようになっていればよい。また、このような嵌合爪513と嵌合孔500とを設けるにあたり、嵌合爪513の上端面が当接する嵌合孔500の上面は、図示するように、容器外方から容器内方に向かって斜め下方に傾斜するようになっているのが好ましい。このようにすることで、嵌合爪513と嵌合孔500との嵌合が解除され難くすることができる。
【0027】
また、本実施形態では、ケース本体50に嵌合されたチャック51にトップベース52を嵌合させるために、トップベース52には、その天板520から垂下する嵌合爪521を嵌合部として設けるとともに、この嵌合爪521が、チャック51の側板部511によって囲繞される空間に挿入されて、当該側板部511に設けられた嵌合孔514と嵌合するようにしてある。
【0028】
このとき、トップベース52側に設ける嵌合爪521と、チャック51側に設ける嵌合孔514の具体的な形態や、これらを設ける数は、図示する例には限定されない。トップベース52側に設けた嵌合爪521が、チャック51の側板部511によって囲繞される空間に挿入されて、その内側からチャック51側に設けた嵌合孔514に嵌合するようになっていればよい。
【0029】
本実施形態において、外装ケース5にパウチ2を収容するには、まず、チャック51を形成する各押圧部材51a,51bを組み合わせて、それぞれの押圧部510の上面にスパウト3のフランジ部30を支持して位置決めをしながら、スパウト3の基部31と可撓性材料とのシール部及び可撓性材料どうしのシール部20を狭持する。そして、その状態で、パウチ2ともにチャック51をケース本体50内に挿入してケース本体50に嵌合させる。
【0030】
このようにすることで、パウチ2は、上記各シール部20がチャック51で押圧された状態で外装ケース5に収容されることになる。このため、充填された燃料Mが気化するに伴ってパウチ2が膨張しても、限られた容積の範囲内で、パウチ2を形成する可撓性材料が応力集中により破断してしまったり、上記各シール部20が剥離(シール後退)してしまったりするのを防止することが可能な構造として、パウチ2内の気密性が損なわれてしまうのを有効に回避することができる。
【0031】
ここで、チャック51によって上記各シール部20を押圧するにあたり、各押圧部材51a,51bの押圧部510には、スパウト3の基部31の外形形状に対応する押圧面を設けておき、上記各シール部20に押圧部510が密接するようにしておくものとする。
【0032】
また、押圧部510の幅Wは、図示するように、上記各シール部20のシール幅Wより長く、かつ、スパウト3の基部31の先端側を越える長さとするのが好ましい。これによって、上記各シール部20の剥離をより確実に防止することができる。さらに、押圧部510は、図示するように、スパウト3の基部31の先端側において、パウチ2から離れていく方向に湾曲する面を有しているのが好ましい。これによって、パウチ2が膨張する際に、パウチ2を形成する可撓性材料が当該湾曲面に沿って外方に膨らむようになり、張力を適度に緩和して、可撓性材料に応力が集中してしまうのを避けることができる。
【0033】
また、チャック51を形成する各押圧部材51a,51bを組み合わせて、上記各シール部20を狭持するにあたり、各押圧部材51a,51bには、図示するように、スパウト3に設けられたフランジ部30を支持する押圧部510との間に、フランジ部30を遊嵌状に挿通可能な空隙を形成する梁部512を設けておくことができる。このような梁部512を設けておくことで、上記各シール部20をチャック51で挟持する際のスパウト3の位置決めが容易になるとともに、スパウト3の位置ずれを防止することもできる。
なお、押圧部510と梁部512との間に形成される空隙は、フランジ部30との間に若干のクリアランスが形成される程度のものとするのが好ましい。
【0034】
次に、ケース本体50に収容されたパウチ2には、スパウト3の吸い出し口32から燃料Mを充填する。そして、所定量の燃料Mをパウチ2に充填した後に、カップラ4をスパウト3の吸い出し口32に装着するとともに、トップベース52をチャック51に嵌合させて、カップラ4をスパウト3の吸い出し口32に密着固定する。
なお、図6は、パウチ2ともにチャック51をケース本体50内に挿入してケース本体50に嵌合させた状態を示す平面図であり、この状態で燃料Mの充填が行われる。また、図7は、スパウト3の吸い出し口32とカップラ4とを示す説明図である。
【0035】
このとき、トップベース52には、天板520からカップラ4の外周に沿って垂下するガイド片522を設けておくのが好ましい(図3及び図4参照)。トップベース52がチャック51に嵌合されるまでは、カップラ4はスパウト3の吸い出し口32に載せてあるだけなので、このようなガイド片522を設けておくことで、トップベース52をチャック51に嵌合させる際に、カップラ4がスパウト3の吸い出し口32から脱落しないようにしつつ、トップベース52をチャック51との嵌合位置に案内することができる。
図示する例では、カップラ4を間に挟んで対向する位置に一対のガイド片522を設けてあるが、ガイド片522は、必要に応じてカップラ4の全周を囲むように筒状に設けてもよく、その具体的な形態は限定されない。
【0036】
このように、本実施形態では、カップラ4を固定するための機構をスパウト3側に設けることなく、トップベース52をチャック51に嵌合させるだけで、カップラ4をスパウト3の吸い出し口32に密着固定している。このため、カップラ4を固定するための機構をスパウト3側に設ける必要がない分、燃料カートリッジ1を小型化したり、パウチ2に充填される燃料Mの容量を増やしたりすることが可能になり、限られた容積を有効に活用することができる。
【0037】
しかも、トップベース52は、その嵌合部としての嵌合爪521が、チャック51を形成する各押圧部材51a,51bに設けられた側板部511に囲繞される空間に挿入されてチャック51と嵌合する。このため、ケース本体50の外側に突出する部位がなく、装填される機器に応じて寸法が規定される外装ケース5の外形寸法に影響を及ぼすことがない。
また、トップベース52はチャック51に嵌合されるので、ケース本体50には、チャック51を嵌合させるための嵌合孔500を設けるだけでよい。これにより、嵌合のための孔を設けることによるケース本体50の強度低下を最小限に抑えることができる。
【0038】
本実施形態では、カップラ4をスパウト3の吸い出し口32に装着するにあたり、カップラ4に、スパウト3の吸い出し口32の外周面に沿って垂下する突片45を設けるとともに、スパウト3の吸い出し口32の外周面には、カップラ4に設けられた突片45を係止する突起320を設けてある(図6参照)。このようにすることで、スパウト3の吸い出し口32にカップラ4の装着する際に、突片45を突起320に係止させて、カップラ4が周方向に回動してしまわないようにして、その位置決めがなされるようにすることができる。
【0039】
また、本実施形態において、ケース本体50は、長手方向の両端が開口する長尺筒状の胴部50aと、嵌合爪531が立設された底板部50bとを有している。そして、底板部50bに立設された嵌合爪531が胴部内に挿通されて、胴部50aに設けられた嵌合孔501に嵌合することにより、底板部50bが胴部50aに取り付けられて、長手方向の一端が開口する有底筒状のケース本体50が形成されるようにしている。
【0040】
このとき、底板部50b側に設ける嵌合爪531と、胴部50a側に設ける嵌合孔501の具体的な形態や、これらを設ける数は、図示する例には限定されない。底板部50b側に設けた嵌合爪531が、その内側から胴部50a側に設けた嵌合孔501に嵌合し、充填された燃料Mが気化するに伴って膨張したパウチ2によって嵌合爪531が押さえつけられて、底板部52の脱落が防止されるようになっていればよい。
【0041】
さらに、ケース本体50の胴部50aには、その両端の開口部から長手方向の中央に向かって肉厚が増すように内面を傾斜させることによって、長手方向中央側に最も厚肉となる部位(厚肉部)504を設けてある。
【0042】
長手方向中央側に厚肉部504を設けることで、ケース本体50の強度を高めて、充填された燃料Mの気化に伴うパウチ2の膨張を抑制しつつ、ケース本体50の変形を防止することができる。しかも、このような肉厚部504は、ケース本体50の胴部内面を傾斜させることによって設けてあるため、装填される機器に応じて寸法が規定される外装ケース5の外形寸法に影響を及ぼすこともなく、ケース本体50内の容積減少を極力抑えて、限られた容積の範囲内でケース本体50の強度を高めることができる。
なお、厚肉部504を設ける位置は、パウチ2の膨張によるケース本体50の変形を有効に防止できるように、パウチ2の膨張による応力が集中しやすい位置に任意に設定することができる。
【0043】
ケース本体50の変形を防止するには、ケース本体50の胴部50aに設けた厚肉部504が、ケース本体50の長手方向に直交して延在するように設けるとともに、この厚肉部504に沿って第一のリブ502を設けるのが好ましく、これに加えて、第一のリブ502とともに、第一のリブ502から延びる第二のリブ503をケース本体50の長手方向に沿って櫛歯状に設けるのがより好ましい。
【0044】
また、本実施形態において、ケース本体50を胴部50aと底板部50bとに分けて、これらを別体に成形するのは、長手方向中央側に厚肉部504が設けられたケース本体50の胴部50aを射出成形によって成形することを考慮したためである。すなわち、このようなケース本体50の胴部50aを射出成形によって製造するには、その型開きを考慮して成形型を設計しなければならない。
【0045】
このため、本実施形態では、図8に概略を示すように、ケース本体50の胴部50aの外面を成形する長尺筒状の成形面が形成された雌型80と、ケース本体50の胴部50aの傾斜する内面を成形する成形面が形成され、かつ、ケース本体50の胴部50aの最も厚肉となる部位で分割された一対のコア81からなる雄型とを有する成形型8を用いて、ケース本体50の胴部50aを射出成形によって製造するのが好ましい。
【0046】
このような成形型8を用いてケース本体50の胴部50aを射出成形によって製造するには、まず、雌型80の長手方向両端からコア81をそれぞれ挿通する(図8(a)参照)。そして、ケース本体50の胴部50aの最も厚肉となる部位でコア81を突き合わせて型閉めした後に、図示しないゲートから材料樹脂をキャビティ内に充填する(図8(b)参照)。次いで、成形型8の型開きをして(図8(c)参照)、所定形状に成形された胴部50aを取り出せばよい(図8(d)参照)。
【0047】
以上のような燃料カートリッジ1において、パウチ2を形成する可撓性材料としては、一般に、燃料電池用の燃料として用いられるメタノールなどのアルコール類に対して耐性を有し、かつ、ヒートシール可能な樹脂をヒートシール層とし、これに、バリア材層などを積層したフィルム材が好適に使用される。
【0048】
ヒートシール層には、例えば、低溶出性、耐熱性、低剛性の低密度ポリエチレン,線状低密度ポリエチレン,中密度ポリエチレン,高密度ポリエチレン,結晶性ポリプロピレン,結晶性プロピレン−エチレン共重合体,エチレン−酢酸ビニル共重合体,結晶性ポリブテン−1,結晶性ポリ4−メチルペンテン−1,ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、EVAケン化物、エチレン−アクリル酸エチル共重合体(EEA)などのポリオレフィン類等が好適に使用できる。これらのなかでも、特に、燃料への溶出が少ない無添加の線状低密度ポリエチレンが好ましい。また、ヒートシール層の厚みは5〜200μmとするのが好ましく、パウチ2の排液性を考慮すると、20〜70μが特に好適である。
【0049】
バリア材層には、環状オレフィン系樹脂フィルム,ポリエステル系樹脂フィルム,ポリアミド系樹脂フィルム,アルミ箔,シリカ蒸着ポリエステルフィルム,アルミナ蒸着ポリエステルフィルムなどが好適に使用できる。厚みの薄い積層フィルム材で長期間の保存性を確保するためには、アルミ箔を用いるのが最も好ましい。また、バリア材層の厚さは1〜50μmとするのが好ましく、より好ましくは3〜9μmである。
【0050】
ヒートシール層にバリア材層を積層するにあたっては、必要に応じて、両者の間に、ポリウレタン系接着剤、酢酸ビニル系接着剤、酸変性オレフィン樹脂、無水マレイン酸変性オレフィン樹脂などの接着剤層を介在させるようにすることもできる。燃料に用いられるメタノールなどのアルコール類は材料中への浸透力が高く、低分子量成分の溶出や層間剥離を引き起こしやすい。このため、上記したもののなかでも、ヒートシール層との相性が良好な酸変性オレフィン樹脂や無水マレイン酸変性オレフィン樹脂を用いるのが最も好ましい。接着剤層の厚みは0.1〜30μmとするのが好ましく、より好ましくは1〜15μmである。
【0051】
上記した各層は、それぞれ単独、又は複数の材料の組み合わせ、あるいは複数の層の組み合わせで構成することができる。また、上記した各層以外にも、さらに他の層を適宜積層することができる。
例えば、耐ピンホール性や、強度を向上させることを目的として、耐衝撃層を設けることができる。耐衝撃層としては、ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリエステル,ナイロン(ポリアミド)などの樹脂フィルム、ナイロンとエチレン−ビニルアルコール共重合体の共押出フィルム、及びこれらの2軸延伸フィルムなどが好適に使用できる。
なお、これらの付加的な層はバリア材層よりも外側に積層するのが好ましい。
【0052】
また、スパウト3、カップラ4、ケース本体50、チャック51、トップベース52、底板部50bなどの他の部材は、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS),ポリスチレン(PS),アクリロニトリル−スチレン樹脂(AS),ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリブチレンテレフタレート(PBT),ポリエチレンナフタレート(PEN),ポリカーボネート(PC),ポリプロピレン(PP),ポリエチレン(PE),ポリアセタール(POM),ポリメチルメタクリレート(PMMA),変性ポリフェニレンエーテル(PPE)などの合成樹脂材料を単独で、又は二種以上ブレンドして用いて、さらには、これらのものに必要に応じてガラス繊維や、タルクなどの充填材を配合した複合材料として用いて、射出成形などにより所定形状に成形することができる。また、必要に応じて、アルミ、鉄、ステンレスなどの金属材料を用いることもできる。
【0053】
以上、本発明について、好ましい実施形態を示して説明したが、本発明は、前述した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
【0054】
例えば、前述した実施形態において、ケース本体50は、底板部50bが別体に形成されたものを示したが、必要に応じて、底板部が一体に成形されたものであってもよい。
【0055】
また、カップラ4のバルブ機構をなす弁体41と弁座43との間や、カップラ4とスパウト3との間など、シール性を要する箇所には適宜、弾性材料からなるO−リングなどのようなシール部材を介在させることもできる。
【0056】
また、スパウト3の具体的な形態も、前述した実施形態で示したものに限られない。例えば、パウチ2を形成する可撓性材料に挟み込まれてヒートシールされる基部31と、パウチ2に取り付けられた状態で外部に開口する吸い出し口32とを有していれば、フランジ部30は必要に応じて省略してもよい。また、基部31の形状も、中空円筒状とするほか、パウチ2を形成する可撓性材料とのヒートシールが良好になされるようにするために、例えば、中空円筒状とされた部位の周囲に、長手方向に対してほぼ垂直に張り出すひし形状の複数のシール片を、長手方向に沿って列設するなどしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0057】
以上説明したように、本発明の燃料電池用燃料カートリッジは、例えば、ダイレクトメタノール型燃料電池などの燃料電池に用いる換装可能なカートリッジ式の燃料容器として利用することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 燃料カートリッジ
2 パウチ(容器本体)
20 シール部
3 スパウト
30 フランジ部
31 基部
32 吸い出し口
320 突起
4 カップラ
45 突片
5 外装ケース
50 ケース本体
500 嵌合孔
501 嵌合孔
502 第一のリブ
503 第二のリブ
504 厚肉部
50a 胴部
50b 底板部
51 チャック
51a 押圧部材
51b 押圧部材
510 押圧部
511 側板部
512 梁部
513 嵌合爪
514 嵌合孔
52 トップベース
520 天板
521 嵌合爪
531 嵌合爪
8 成形型
80 雌型
81 コア
M 燃料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性材料を製袋してなるとともに、燃料電池本体との接続機能を有するカップラが装着されるスパウトが、前記可撓性材料で前記スパウトの基部を挟み込みつつ、前記可撓性材料の端縁を重ね合わせてヒートシールすることによって取り付けられている容器本体を外装ケースに収容してなり、
前記外装ケースが、
長手方向の一端が開口する有底筒状のケース本体と、
前記スパウトの基部と前記可撓性材料とのシール部及び前記可撓性材料どうしのシール部を狭持した状態で前記ケース本体内に挿入されて、前記ケース本体と嵌合する一対の押圧部材からなるチャックと、
前記チャックと嵌合して前記カップラを前記スパウトの吸い出し口に密着固定するトップベースと、
を備えることを特徴とする燃料電池用燃料カートリッジ。
【請求項2】
前記スパウトに、前記可撓性材料の端縁に当接するフランジ部を設けるとともに、
前記チャックを形成する各押圧部材が、
前記スパウトの基部と前記可撓性材料とのシール部及び前記可撓性材料どうしのシール部を押圧しつつ、前記フランジを支持する押圧部と、
前記押圧部から立ち上がって、前記スパウトの吸い出し口の周囲に、前記トップベースに設けられた嵌合部が挿入される空間を形成する側板部と、
を有する請求項1に記載の燃料電池用燃料カートリッジ。
【請求項3】
前記チャックを形成する各押圧部材に、
前記フランジを支持する前記押圧部との間に前記フランジを遊嵌状に挿通可能な空隙を形成する梁部を設けた請求項2に記載の燃料電池用燃料カートリッジ。
【請求項4】
前記チャックを形成する各押圧部材の側板部に少なくとも一つの嵌合爪を設けるとともに、前記ケース本体に当該嵌合爪と嵌合する嵌合孔を設けた請求項2又は3に記載の燃料電池用燃料カートリッジ。
【請求項5】
前記トップベースの嵌合部が、前記トップベースの天板から垂下して設けられた少なくとも一つの嵌合爪からなり、前記チャックを形成する各押圧部材の側板部に当該嵌合爪と嵌合する嵌合孔を設けた請求項2〜4のいずれか一項に記載の燃料電池用燃料カートリッジ。
【請求項6】
前記カップラに、前記スパウトの吸い出し口の外周面に沿って垂下する少なくとも一つの突片を設けるとともに、前記スパウトの吸い出し口の外周面に前記突片を係止する突起を設けた請求項1〜5のいずれか一項に記載の燃料電池用燃料カートリッジ。
【請求項7】
前記ケース本体が、
長手方向の両端が開口する長尺筒状の胴部と、前記胴部内に挿通されて前記胴部に設けられた嵌合孔に嵌合する嵌合爪が立設された底板部とを有する請求項1〜6のいずれか一項に記載の燃料電池用燃料カートリッジ。
【請求項8】
前記ケース本体の胴部内面を傾斜させて、前記ケース本体の胴部の長手方向中央側に最も厚肉となる部位を設けた請求項7に記載の燃料電池用燃料カートリッジ。
【請求項9】
前記ケース本体の胴部の最も厚肉となる部位が、前記ケース本体の長手方向に直交して延在するとともに、当該部位に沿ってリブを設けた請求項8に記載の燃料電池用燃料カートリッジ。
【請求項10】
前記ケース本体の長手方向に沿って、前記リブから延びる第二のリブを設けた
請求項9に記載の燃料電池用燃料カートリッジ。
【請求項11】
請求項8〜10のいずれか一項に記載の燃料電池用燃料カートリッジを製造するに際し、
前記ケース本体の胴部の外面を成形する長尺筒状の成形面が形成された雌型と、前記ケース本体の胴部の傾斜する内面を成形する成形面が形成され、かつ、前記ケース本体の胴部の最も厚肉となる部位で分割された一対のコアからなる雄型とを有する成形型を用いて、
前記雌型の長手方向両端から前記コアをそれぞれ挿通し、前記ケース本体の胴部の最も厚肉となる部位で前記コアを突き合わせて型閉めした後に、前記ケース本体の胴部を射出成形することを特徴とする燃料電池用燃料カートリッジの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−287422(P2010−287422A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−140123(P2009−140123)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】