説明

燃料電池用膜−電極接合体

【課題】 耐久性と触媒性能との双方に優れる燃料電池用電極を提供する。
【解決手段】 触媒を担持した炭素粉末及び高分子電解質を含む触媒層と、高分子電解質膜と、ガス拡散層とから構成されるカソードであって、前記触媒層内における撥水性の高いカーボンの量が、高分子電解質膜と接する側からガス拡散層の側に向かって変化していることを特徴とする燃料電池用電極。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用膜−電極接合体に関し、より詳細には、酸素還元電極における耐久性と触媒性能とが両立された燃料電池用膜−電極接合体に関するものである。以下、膜−電極接合体はMEA(Membrane Electrode Assemblyの略)と、酸素還元電極はカソードと、ガス拡散層はGDL(Gas Deffusion Layerの略)とも称する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー・環境問題を背景とした社会的要求や動向と呼応して、常温でも作動し高出力密度が得られる固体高分子電解質型燃料電池を自動車用や定置用電源として利用する試みがなされている。こうした、燃料電池を自動車用や定置用電源として利用する上で、コスト低減要求と共に長期にわたって所望の発電性能を維持することが求められている。電池の寿命としては、自動車用電源で5000時間、定置用(家庭用)電源では4万時間ともいわれている。そのため、燃料電池用電極に用いられる触媒は、発電開始初期から長期にわたって所望の触媒活性を維持することが求められ、様々な研究開発が進められている。
【0003】
従来の触媒は、カソードおよびアノードともに白金または白金合金等の触媒粒子を微細化して、カーボンブラック等の250〜1600m/g程度の大きな表面積を有する炭素粉末(担体)に担持させた電極触媒が用いられている。
【0004】
しかしながら、様々な原因に起因して炭素粉末(担体)が腐食消失する場合がある。かような原因の一例としては、カソードにおける電極反応は活性化エネルギーが大きいため、カソードに大きな酸素還元過電圧が生じ、該カソードが貴電位環境(約0.8V)となった場合などが挙げられる。
【0005】
炭素粉末(担体)の腐食消失は、担持されていた白金などの触媒粒子の遊離・凝集を招き、有効電極面積が低下するため、電池性能が低下してしまうなど、燃料電池の効率を下げる主な原因となっている。従って、従来のカーボンブラック等の炭素粉末を用いた電極触媒は、高活性で触媒性能に優れる一方で、長時間の使用において触媒活性が徐々に低下し耐久性に劣る問題があった。
【0006】
そこで、異なる熱処理温度で熱処理された2種類以上の炭素粉末を混合して形成された担体に白金と卑金属を担持して形成された白金合金担持触媒を電極触媒として用いることが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
また、電極触媒を担持した炭素粉末および高分子電解質からなる触媒層と、炭素材料からなり前記触媒層を支持する多孔質基材と、前記多孔質基材に付与された撥水材とからなるガス拡散電極であって、前記多孔質基材内における前記撥水材の量が、前記触媒層と接する側から他方の側に向かって連続的に変化していることを特徴とする燃料電池用ガス拡散電極が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
さらに、膜−電極接合体の排水性を高めるためガス拡散層上に、親水性カーボン(ファーネスブラック、バルカン)と疎水性カーボン(アセチレンブラック、デンカブラック)と撥水剤とを配置してなるガス拡散電極が開示されている(例えば、特許文献3、4参照。)。
【特許文献1】特開2002−273224号公報
【特許文献2】特開2003−109604号公報
【特許文献3】特開平7−220734号公報
【特許文献4】特開平7−078617号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1の発明では、担体として、従来の炭素粉末を高温で熱処理(黒鉛化処理)をして腐食耐性を高めている。しかしながら、黒鉛化したカーボンは比表面積が非常に小さくなるため、白金や卑金属などの触媒成分を高分散担持できないので電池性能(初期性能および定常性能)に劣る。即ち、耐久性が向上するものの、特に発電開始初期において十分な触媒活性が得られず、また長時間の使用においても触媒活性が十分とはいえず触媒性能が劣る恐れがある。従って、担体の炭素粉末を高温で熱処理し黒鉛化したカーボンだけを利用する特許文献1の電極触媒では、電池性能(定常性能)と耐久性の両立が難しい。
【0010】
また、上記特許文献2の発明では、電極内への撥水性高分子であるフッ素樹脂(PTFE等)やシリコーン樹脂の分散液または溶液(撥水液)の浸透量の変化で、撥水材の含有量を高分子電解質膜側からセパレータ側に向かって連続的に変化させている。撥水材(撥水性高分子)は、多孔質基材内では撥水性向上に効果的に寄与する。しかしながら、該撥水材は、触媒担持担体として利用できないため、触媒層内で該撥水材を高めることで、相対的に触媒量が減少するため、発電性能と耐久性との両立を図ることが難しい。
【0011】
さらに、上記特許文献3、4の電極触媒では、ガス拡散層で撥水性カーボンによる排水性改善を行っているが、触媒層の耐久性改善には効果が小さい。
【0012】
そこで、本発明が目的とするところは、耐久性と触媒性能との双方に優れる燃料電池用膜−電極接合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者が上記課題に鑑みて鋭意検討した結果、触媒を担持した炭素粉末及び高分子電解質を含む触媒層と、高分子電解質膜と、ガス拡散層とを備えてなる燃料電池用膜−電極接合体であって、少なくともカソード側の前記触媒層内における撥水性の高いカーボンの量が、高分子電解質膜と接する側からガス拡散層の側に向かって変化していることを特徴とする燃料電池用膜−電極接合体により上記課題が解決されることを見出した。
【発明の効果】
【0014】
本発明の燃料電池用膜−電極接合体によれば、少なくともカソード側の触媒層内における生成水の除去を促進し、カーボンの耐食性を抑制でき、耐久性および触媒性能に優れた燃料電池用膜−電極接合体を提供することができる。従って、前記燃料電池用膜−電極接合体を用いた燃料電池では、発電開始初期から長期に亘って高い発電性能を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、触媒を担持した炭素粉末及び高分子電解質からなる触媒層と、高分子電解質膜と、ガス拡散層とを備えてなる燃料電池用MEAであって、前記触媒層内における撥水性の高いカーボンの量が、高分子電解質膜と接する側からガス拡散層の側に向かって変化していることを特徴とするものである。本発明では、カソード側の酸素還元反応で生成した水を速やかに除去するため、撥水材(PTFE等)添加に代わり、撥水性の高いカーボンを含有させ、しかも高分子電解質膜側(撥水性を高く)からガス拡散層側(撥水性を低く)に濃度勾配を設けることで、排水性を高めている。これにより、酸化腐食耐性の高いカーボンを有効に使用でき、かつ、従来の炭素粉末(担体)の酸化腐食も著しく抑制できる。
【0016】
本発明の燃料電池用MEAは、触媒を担持した炭素粉末および高分子電解質を含む触媒層と、高分子電解質膜と、ガス拡散層とから構成される。
【0017】
図1に、上記燃料電池用MEAを含む燃料電池10の基本構造を示す。図1に示すように、高分子電解質膜11は、触媒層12およびガス拡散層13からなる電極14で挟持されている。高分子電解質膜11と電極14との接合体は、MEA15と呼ばれる。MEA15は、燃料ガスまたは反応ガスの流路16を有するセパレータ17で挟持されている。燃料電池においては、電極14の触媒層12側が高分子電解質膜11と接触し、ガス拡散層13側がセパレータ17と接触する。
【0018】
上記基本構造では、燃料ガスは、アノード側と接するセパレータ17面が有する燃料ガス流路16aからガス拡散層13aに供給され、ガス拡散層13aを拡散しながら通過して、触媒層12aへ至る。また、酸化剤ガスは、カソード側と接するセパレータ17面が有する反応ガス流路16bからガス拡散層13bへ供給され、ガス拡散層13bを拡散しながら通過して、触媒層12bへ至る。
【0019】
電極反応は、触媒層12に含まれる触媒の表面で起こる。アノード側の触媒層12aでは、H→2H++2eの反応が起こる。カソード側の触媒層12bでは、1/2O+2H+2e→HOの反応が起こる。反応全体としては、H+1/2O→HO+Qとなる。この反応で起電力が得られ、発電が可能となるが、同時にカソード側の触媒層12bでは、水が生成する。また、反応の際にアノード側の触媒層12aで生じたHは、高分子電解質膜11内を移動して、カソード側の触媒層12bへ至る。この際、1個のHイオンが5〜20個のHO分子を同伴して移動する。
【0020】
高分子電解質膜11は、充分量の水で膨潤した状態において、初めて高い水素イオン導電性を発揮する。しかし、高分子電解質膜11中を移動するHイオンに同伴して多量の水がカソード14bへ移動するため、水を常に高分子電解質膜11に供給する必要がある。この水は、ガス流路16からガス拡散層13に水蒸気として供給され、カソード14bおよびアノード14aを通って高分子電解質膜11に供給される。また、カソード14b側の触媒層12b内で生成した水のうち、高分子電解質膜11が必要としない余剰水分は、触媒層12bからガス拡散層13bを通って、ガス流路16bから外部へ排出される。
【0021】
上述のように、カソード14b側の触媒層12bでは、触媒を担持した炭素粉末と高分子電解質とが形成する多孔質な電極構造の内部に、反応ガス(Oあるいは空気)が拡散し、アノード14a側より高分子電解質膜11を経由し移動して来たプロトン(H)が酸化され反応水(生成水)ができる。この水を速やかに除去しないと、反応ガスの拡散が妨げられ、発電性能を継続・維持することができなくなる。
【0022】
ガス拡散層13のカーボンペーパーやカーボンクロスなどの多孔質基材(支持体)は、ポーラスで細孔径も大きく、また、該多孔質基材上に必要に応じて塗布、形成されたカーボン層は、粒径が大きく層内の空隙率が高く、また、撥水材を添加しているため、触媒層12よりも撥水作用が著しく高い。一方、高分子電解質膜11近傍は膜自体が保水・含水しており、湿潤性が極めて高い。
【0023】
このため、生成水の除去を促進するには、触媒層12の撥水性を高分子電解質膜11側(撥水性が高く)からガス拡散層13側(撥水性を低く)に(連続的に)変化する事が有効である。即ち、カソード14b側の触媒層12bでは水の出入りが多いことから、触媒層12b内の撥水性を制御することが重要となる。特に、フラッディングを防止し、耐久性を高める観点からは、余剰水分を速やかにガス拡散層13bを通じて外部へ排出できるように触媒層12b内部の撥水性を設計する必要がある。
【0024】
そこで、本発明では、上記生成水の速やかな除去の観点から、水の出入りが多い触媒層内において、高分子電解質膜と接する側からガス拡散層の側に向かって排水性が高まるように、撥水性の高いカーボンの量を変化(減少)させることが効果的であることを見出したものである。即ち、本発明では、触媒層12b内における撥水性の高いカーボンの量が、高分子電解質膜11と接する側からガス拡散層13bの側に向かって変化していることを特徴とする。即ち、カソード14b側の電極反応(酸素還元反応)で生成した水を速やかに外部に除去するため、撥水材添加に代わり、撥水性の高いカーボンを含有させることとし、しかも撥水性の高いカーボンの分布に、高分子電解質膜11と接する側からガス拡散層(多孔質基材)13b側に傾斜を持たせることで、排水性を高めることができるように設計したものである。
【0025】
従来の触媒層では、長時間の使用において触媒担持担体として使用される炭素粉末の表面が劣化し徐々に親水性を帯びてくるため、反応生成水のうちの余剰水分を速やかに除去する目的で、PTFEなどの撥水材を添加している。一方、PTFEなどの撥水材添加は、触媒層の厚みを増加させて逆に生成水の除去を妨げたり、電極層の導電性を低下するため、添加方法が難しく、また、添加量の影響も大きいなど課題が多い。そのため、PTFE等の撥水材を用いないで炭素粉末(担体)の撥水性を長期間に渡って維持することが求められていた。
【0026】
触媒を担持する担体に使用される炭素粉末は、元々、炭素化に必要な温度、具体的には1000℃以上2000℃未満で熱処理されている。そのため、触媒担持担体として使用される(炭素化された)炭素粉末では、表面の官能基や酸点などが非常に少なく、酸化物などに比べ表面の疎水性が高い。ただし、上記したように使用において親水性を帯びてくる。即ち、親水性の高いカーボンになる。これら炭素粉末にあっても、さらに黒鉛化に必要な高温(2000℃〜3000℃)で熱処理したカーボンでは、さらに、表面の官能基などが減少し、疎水性が高く、長持間使用しても化学的に安定(不活性)な状態となる。即ち、撥水性の高いカーボンとなる。
【0027】
触媒を担持する担体に使用される炭素粉末は、黒鉛化処理されることにより耐食性が向上する。その一方で、黒鉛化処理されたカーボンは、高温熱処理により比表面積が著しく低下し、さらに、表面官能基も消失しているため、触媒粒子を好適な状態で担持させるのが困難であり、触媒粒子が凝集し易い状態となっている。従って、かような黒鉛化処理されたカーボンを担体として用いた電極触媒は、耐久性に優れるが、特に発電開始初期などにおける触媒活性が十分に得られず、また長時間の使用においても触媒活性が十分とはいえず、触媒性能に劣る問題があった。
【0028】
また、触媒の性能は、触媒粒子の分散性と密接な関係を有する。例えば、担体カーボンのBET表面積が大きいほど触媒粒子が高分散となり高い触媒性能が得られ、また、担体カーボンのBET表面積が小さいほど触媒粒子が凝集して触媒性能が低下する。
【0029】
また、黒鉛化処理されたカーボンは、表面に黒鉛化層が形成されることにより、耐食性が向上する。カーボンの耐食性は、黒鉛化層の黒鉛化率だけでなく、黒鉛化層の厚みが大きな影響を及ぼし、黒鉛化層の厚みが厚いほど高い耐食性が得られる。黒鉛化層の厚みは、BET表面積と反比例し、BET表面積が大きいほど黒鉛化層の厚みが薄く、BET表面積が小さいほど黒鉛化層の厚みが厚くなる。また、黒鉛化層の厚みは、熱処理条件によって制御することが困難であり、原料として用いたカーボンの種類に依存する。
【0030】
このように、導電性カーボンの耐食性と触媒の触媒性能とは、トレードオフの関係にある。本発明では、こうしたカーボン特性に着目して耐久性と触媒性能との双方に優れる燃料電池用膜−電極接合体について種々の検討した結果、黒鉛化処理したカーボンが撥水性が高く、また、長時間の使用後も撥水性を維持できることを知得し、炭素粉末(担体カーボン)のほかに、新たに撥水性の高い(黒鉛化処理した)カーボンを併用することで、触媒層内における生成水の除去を促進し、また、担体カーボンの耐食性を抑制できることを見出したものである。また、撥水性の高いカーボンに濃度勾配を持たせることで、触媒層12b内に、いわば、高分子電解質膜11側からガス拡散層13b側に向かう水の排水経路を設計したものといえる。これにより酸化腐食耐性の高いカーボンを有効に使用でき、かつ、従来の担体カーボンの酸化腐食も著しく抑制できる。その結果、水詰まりがなく、放電性能に優れ、耐久性、信頼性の高い燃料電池を提供することが可能になる。
【0031】
このように水を生成する触媒層12に高い撥水性を付与することにより、余剰水分は、より撥水性の低いガス拡散層13(または高分子電解質膜11)へ速やかに移動し、該ガス拡散層13内を速やかに通過してガス流路16まで移動する。このように、余剰水分は撥水性の制御により速やかに外部へ排出され、電極14内で水詰まりによるフラッディングが起こるのを抑制することができる。また、ガス透過性が低下することもなくなるため、放電特性および信頼性の高い燃料電池を得ることできる。
【0032】
ここで、触媒層12内における撥水性の高いカーボンの量が、「高分子電解質膜11と接する側からガス拡散層13の側に向かって変化する」とは、高分子電解質膜11と接する側からガス拡散層13の側に向かって、一定で変化しないものでなければよい。本発明では、触媒層12内における撥水性の高いカーボンの量を、図2に示すように、高分子電解質膜11と接する側からガス拡散層13の側に向かって、段階的(階段状)に変化させてもよいし、直線的に連続して変化(漸減)させてもよいし、散在的に変化させてもよい。撥水性の高いカーボンの量(濃度勾配)を変化させるには、触媒層を多層構造とし、各層ごとに撥水性の高いカーボンの量(濃度)を徐々に減らす(または増やす)ことで、段階的変化から直線的(連続した)変化まで、自在に調整することができる。即ち、各層ごとに撥水性の高いカーボンの量が異なる層を2層以上に積層した触媒層12とすることで、高分子電解質膜11側からガス拡散層13側に向けて撥水性の高いカーボンの量を自在に変化させることができる。これにより、触媒層12内における生成水の除去を促進し、また、カーボンの耐食性を高めることができる。なお、後述する実施例では、撥水性の高いカーボンの量(濃度)が異なる触媒層を2層積層して段階的(階段状)に変化させた例を示しているが、本発明は、これらに何ら制限されるものではない。
【0033】
また、上記触媒層12内の炭素粉末全体(撥水性の高いカーボンと、それ以外の担体カーボンである親水性の高いカーボン)の量は、高分子電解質膜11と接する側からガス拡散層13の側に向かって略一定で、炭素粉末を構成する撥水性の高いカーボンと親水性の高いカーボンとの配合比率が変化していてもよい。即ち、撥水性の高いカーボンの含有量を変化(減少)させるのに伴って、親水性の高いカーボンの含有量を変化(増加)させてもよい。あるいは触媒層12内の炭素粉末全体の量も変わってもよい。例えば、親水性の高いカーボンの含有量は、高分子電解質膜11と接する側からガス拡散層13の側に向かってほぼ一定で、撥水性の高いカーボンの含有量のみを高分子電解質膜11と接する側からガス拡散層13の側に向かって変化(減少)させえることで、触媒層12内の炭素粉末全体の量(濃度)も撥水性の高いカーボンの含有量(濃度)に比例して変化するようにしてもよい。さらに本発明では、撥水性の高いカーボンの含有量は、高分子電解質膜11と接する側からガス拡散層13の側に向かってほぼ一定で、親水性の高いカーボンの含有量のみを高分子電解質膜11と接する側からガス拡散層13の側に向かって変化(増加)させることで、触媒層12内の炭素粉末全体の量(濃度)も親水性の高いカーボンの含有量に比例して変化するようにしてもよい。即ち、高分子電解質膜11と接する側からガス拡散層13の側に向かって撥水性の高いカーボンの絶対量は一定であっても、炭素粉末全量に対する撥水性の高いカーボンの相対的な量(濃度)が変化すればよい。
【0034】
本発明では、上記触媒層12内における撥水性の高いカーボンの量は、高分子電解質膜11側からガス拡散層13側に向かって減少していることが好ましい。即ち、高分子電解質膜11側が撥水性が高く、ガス拡散層13側が低くなるように濃度勾配を設けることが好ましい。これを数式化すれば、次のように言うことができる。即ち、本発明では、触媒層12内における撥水性の高いカーボンの濃度勾配を設けるため、2層以上に積層する触媒層12において、図3(a)、(b)に示すように、高分子電解質膜11と接する側の触媒層12−1が、厚さX(μm)であって、1cmあたりA(g)の撥水性の高いカーボン(例えば、黒鉛化処理カーボン)を含み、前記ガス拡散層13と接する側の触媒層12−2が、厚さY(μm)であって、1cmあたりB(g)の撥水性の高いカーボン(黒鉛化処理カーボン)を含むとき、触媒層12内の撥水性の高いカーボンの含有率が、下記式(1)
【0035】
【数1】

【0036】
を満足することが望ましい。なお、触媒層12が3層以上の多層構造の場合、触媒層12を構成する両最外層12−1と12−2の関係が、上記式(1)を満足すればよいが、より好ましくは、触媒層12を構成する隣接する2層の関係が、いずれも上記式(1)を満足するものである。2層以上に積層した触媒層12が上記式(1)を満足することで、余剰水分の排出方向に沿って撥水性(即ち、撥水性の高いカーボンの量)が減少することになるため、水の移動方向がより確実に制御され、高分子電解質膜11側からガス拡散層13側に向けて、触媒層12内の生成水の除去がより促進され、触媒層12b内の水詰まりを抑制でき、更に炭素粉末として用いられてなる親水性の高いカーボン(炭素化された従来のカーボン)及び撥水性の高いカーボン(黒鉛化カーボン)の酸化腐食を抑制し、カーボン担体の耐久性をより一層向上する大きな効果が得られる。
【0037】
また、上記Aは、0.01〜1.0mg/cm、好ましくは0.05〜0.5mg/cmであり、上記Bは、0.01〜1.0mg/cm、好ましくは0.05〜0.5mg/cmであり、上記Xは、1〜20μm、好ましくは2〜15μmであり、上記Yは1〜20μm、好ましくは2〜15μmであるが、ここで規定する範囲に特に制限されるものではない。
【0038】
また、ガスの入口側から出口側に向かっても2以上に区画されて変化している場合にも同様に上記式(1)を満足することが望ましい。例えば、図3(b)にあるように、触媒層12内が12−1〜12−4の4つに区分されている場合、(A/X)>(B/Y)、(A/X)>(B/Y)である。好ましくは、(A/X)>(B/Y)、(A/X)>(B/Y)であって、さらに(A/X)>(B/Y)、(A/X)>(B/Y)を満足するものであり、より好ましくは(A/X)>(A/X)>(B/Y)>(B/Y)である。これらは、触媒層12内が更に細かく区分された場合でも、同様である。
【0039】
本発明では、黒鉛化処理したカーボンの撥水性が高く、また、長時間の使用後も撥水性を維持できることを見出し、従来の炭素化処理した担体カーボンと併用することで、電極触媒層内における生成水の除去を促進し、また、カーボンの耐食性を向上できる燃料電池用膜−電極接合体を得ることを見出したものである。
【0040】
即ち、本発明では、触媒層内の炭素粉末として2種以上を含有し、そのうちの1つの群が撥水性の高いカーボンであり、もう一方の群が親水性の高いカーボン、即ち、上記したように従来の炭素化処理した、触媒を担持に適した高導電性の担体カーボンである、2群に大別される。
【0041】
このうち、撥水性の高いカーボンとしては、黒鉛化処理したカーボンが挙げられる。具体的には、1000℃以上2000℃未満で熱処理して炭素化処理している従来のカーボン(導電性カーボンブラック)を、さらに高温で熱処理して黒鉛化処理しているカーボン(黒鉛化処理カーボンブラック;従来のカーボンブラックよりも、黒鉛化処理カーボンブラックの方が導電性が高い)などが挙げられる。黒鉛化処理したカーボンでは、表面の官能基が著しく少ないため疎水性が高く、また、高温処理で細孔が消失するなど表面積が小さく保水性も小さい。したがって、触媒層の厚みの増加や導電性を低下することなく、カーボンの撥水性を長期間に渡って維持できる。
【0042】
ここで、黒鉛化処理温度は、カーボン表面に所望の黒鉛化層が形成することができるものであれば特に制限されるものではない。かかる黒鉛化処理温度としては、カーボンの種類等によって好適な温度条件は若干異なっているが、通常2000℃以上、好ましくは2000〜3000℃、より好ましくは2400〜2800℃の範囲である。2000℃未満では、カーボン表面の黒鉛化層の形成が十分とは言えず、所望の撥水性および耐食性が十分に得られないおそれがある。黒鉛化処理時間も、カーボン表面に所望の黒鉛化層が形成することができるものであれば特に制限されるものではない。前記黒鉛化処理は、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。
【0043】
上記撥水性の高いカーボンとしては、例えば、実施例で用いたような、グラファイト化アセチレンブラック(GrAB)、グラファイト化ファーネスブラック(GrFB)、グラファイト化バルカン(GrVul)、グラファイト化ケッチェンブラック(GrKB)などの黒鉛化処理したカーボン(グラファイト化カーボン)が挙げられるが、これらに制限されるものではない。これら撥水性の高いカーボンは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0044】
上記撥水性の高いカーボンは、好ましくはBET表面積が150m/g未満、より好ましくは50〜140m/g、特に好ましくは80〜130m/gである、黒鉛化処理したカーボンが望ましい。なお、撥水性の高いカーボンを2種類以上を併用する場合、個々のカーボンのBET表面積が上記に規定する範囲を満足している必要がある。黒鉛化処理したカーボンのBET表面積が150m/g未満の場合には、表面の官能基が著しく少ないため疎水性が高く、表面積が小さく保水性も小さい。したがって、触媒層の厚みの増加や導電性を低下することなく、カーボンの撥水性を長期間に渡って維持できる。
【0045】
また、上記撥水性の高いカーボンは、X線回折の格子定数C値(Å)が7.0Å以下、好ましくは6.7〜7.0Å、より好ましくは6.8〜6.9Åである。理想的なグラファイトでは、C=6.707Åであり、例えば、実施例の黒鉛化処理条件(温度・時間)で作製したグラファイト化カーボンの場合、各C値は、それぞれGrAB=6.853Å、GrFB=6.852Å、GrVul=6.851Å、GrKB=6.879Åである。該X線回折の格子定数C値は、例えば、X線回折法(XRD)を用いた学振法(稲垣道夫、炭素 No.36、25−34(1963))により測定してもよいし、同法で測定した格子面間隔(d002)(導電性カーボンの黒鉛構造に基づく六角網面の面間隔を意味する。)から求めてもよい。即ち、カーボンの格子面間隔d002とは、カーボンの黒鉛構造に基づく六角網面の面間隔であり、六角網面の垂直方向であるc軸方向の格子定数Cの1/2層間距離の平均値を意味する。
【0046】
熱処理などにより黒鉛化されたカーボンは、黒鉛構造に似た三次元的結晶格子からなる黒鉛化層が表面に形成され、黒鉛化が進むにつれて結晶格子間の微細な空隙部分が少なくなり、炭素材の結晶構造が黒鉛の結晶構造に近づく。耐食性などを考慮すると、黒鉛化されたカーボンの結晶化度は高いものが好ましい。よって、黒鉛化されたカーボンの真密度が1.80g/cm未満、格子面間隔d002が3.50Åを超える場合には、十分に黒鉛構造が発達していない場合などが多く、高い耐食性、電子伝導性が得られない恐れがある。また、真密度が2.11g/cmを超え、格子面間隔d002が3.36Å未満では、黒鉛構造が発達しすぎる場合などが多く、十分な比表面積が得られない恐れがある。
【0047】
従って、黒鉛化されたカーボンには、真密度が1.80〜2.11g/cm、格子面間隔d002が3.36〜3.50Åであるものを用いるのが好ましいが、より好ましくは真密度が1.90〜2.11g/cm、格子面間隔d002が3.40〜3.49Åであり、特に好ましくは真密度が2.0〜2.11g/cm、格子面間隔d002が3.42〜3.49Åのものを用いるのがよい。
【0048】
なお、本発明において、真密度はヘリウムを用いた気相置換法により測定した値とし、格子面間隔d002はX線回折法を用いた学振法(稲垣道夫、炭素 No.36、25〜34(1963))により測定した値とする。
【0049】
次に、上記親水性の高いカーボンは、上記撥水性の高いカーボンよりも撥水性の低いものであればよく、黒鉛化処理していない従来の導電性カーボン担体として用いられているものが使用できる。言い換えれば、上記撥水性の高いカーボンよりも親水性の高いものであればよい。具体的には、1000℃以上2000℃未満で熱処理して炭素化したカーボンなどが挙げられる。なお、炭素化処理する温度によっては、得られるカーボン表面のごく一部に黒鉛化層が形成している場合もあるが、こうしたものも親水性の高いカーボンに含めるものとする。
【0050】
なお、上記炭素化処理温度は、通常1000℃以上2000℃未満である。1000℃未満では、十分に炭素化されず、一方、2000℃以上の場合には、撥水性は高まるが、担体として用いる上で重要となる表面積が十分に確保できない。
【0051】
上記親水性の高いカーボンは、好ましくはBET表面積が150m/g以上、好ましくは250〜2000cm/g、より好ましくは300〜1300m/gの(黒鉛化処理していない)カーボンが望ましい。なお、親水性の高いカーボンを2種類以上を併用する場合、個々のカーボンのBET表面積が上記に規定する範囲を満足している必要がある。カーボンのBET表面積が150m/g未満の場合には、触媒(Pt等)粒子の分散性及び粒径を制御し、高い発電性能を確保するのが困難となる。
【0052】
上記親水性の高いカーボンとして好ましくは、白金等の触媒粒子の分散性及び粒径を制御し、高い発電性能を確保する観点から、通常の高導電性担体として用いられているカーボンであればよく、例えば、実施例で用いたようなバルカン、ケッチェンブラック、ブラックパール、アセチレンブラック、ファーネスブラック等が挙げられる。これら親水性の高いカーボンは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0053】
上記撥水性の高いカーボンと親水性の高いカーボンとは、製造時の熱履歴(熱処理温度)、カーボンのBET表面積、カーボンの微視的観察(X線回折の格子定数C値)などで区別(判別)することができる。またカーボン単体であれば、BET表面積やCo値でカーボンの種類や黒鉛化の度合いをある程度推定することもできる。また、製品になった場合には、ラマン分光法で結晶性カーボン(黒鉛;グラファイト)および非晶性(黒鉛以外のカーボン)のピークの有無と強度比を測定すれば、触媒層に黒鉛化カーボンが含有されているかどうか、また、含有比率を推定できる。親水性カーボンでは結晶性カーボンに帰属するピークがほとんど観測されず、撥水性カーボンでは結晶性カーボンに帰属するピークと非晶性カーボンに帰属するピークの両方が観測され、黒鉛化の度合いでピークの比率が変化(結晶性カーボンのピーク強度が大きくなる)する。また、厚さ方向や流路方向に製品を幾つかに分割して、触媒層を剥がしてサンプリングし、それをラマン分光法などで測定すれば、同様に推定できる。
【0054】
本発明では、上記触媒層内における撥水性の高いカーボンの量は、高分子電解質膜と接する側からガス拡散層の側に向かって連続的に変化、好ましくは連続的に減少していることが望ましい。フラッディング防止のためには、高分子電解質膜と接する側からガス拡散層の側に向かって連続的に変化していることが最適だからである。即ち、触媒層では、触媒と高分子電解質(アイオノマー)とが形成する多孔質な電極構造の内部に、反応ガス(Oあるいは空気)が拡散し、アノード側より高分子電解質膜を経由し移動して来たプロトンとの間で、酸素還元反応(カソード側の反応;4H+O+4e→2HO)が起こり、反応水(生成水)ができる。この水を速やかに除去しないと、反応ガスの拡散が妨げられ、発電性能を継続・維持することができなくなる。ガス拡散層のカーボンペーパーやカーボンクロスなどの多孔質基材(支持体)は、ポーラスで細孔径も大きく、また、該支持体上に塗布されたカーボン層は、粒径が大きく層内の空隙率が高く、また、撥水材を添加しているため、電極触媒層よりも撥水作用が著しく高い。一方、高分子電解質膜近傍は膜自体が保水・含水しており、湿潤性が極めて高い。このため、生成水の除去を促進するには、触媒層の撥水性を高分子電解質膜側(撥水性が高く)からガス拡散層側(撥水性を低く)に連続的に変化する事が有効である。そのためには、撥水性の高い導電性カーボン料(黒鉛化処理したカーボン)の量が、高分子電解質膜と接する側からガス拡散層(の多孔質基材)の側に向かって連続的に変化(減少)することが効果的である。
【0055】
また本発明では、上記触媒層内における撥水性の高いカーボンの量が、ガスの入口側から出口側に向かって変化(減少)、好ましくは連続的に変化(減少)していることを特徴とするものである。氷点下起動性改善のためには、ガスの入口側から出口側に向かって変化(減少)しているのが最適なためである。氷点下起動ではガス流れ方向の下流部分で、電極触媒層とガス拡散層との間に溜まる生成水が、氷点下で凍結しガスの拡散を妨げるのが問題となる。このため、電極触媒層内のうち、ガス流れ方向の下流部分での撥水性が最も高いのが望ましい。よって、上記生成水の速やかな除去の観点から、撥水性の高い導電性カーボン料(黒鉛化処理したカーボン)の量が、ガスの入口側から出口側に向かって(連続的に)変化することが効果的である。
【0056】
ここで、触媒層12内における撥水性の高いカーボンの量が、「ガスの入口側から出口側に向かって変化する」とは、ガスの入口側から出口側に向かって、一定で変化しないものでなければよい。本発明では、触媒層12内における撥水性の高いカーボンの量を、ガスの入口側から出口側に向かって、段階的(階段状)に変化させてもよいし、直線的に連続して変化(漸減)させてもよいし、散在的に変化させてもよい。ガスの入口側から出口側に向かって撥水性の高いカーボンの量(濃度勾配)を変化させるには、触媒層のガスの入口側から出口側に向かって、撥水性の高いカーボンの量(濃度勾配)が異なる複数の領域(区画)を有する構造とし、各領域(区画)ごとに撥水性の高いカーボンの量(濃度)を徐々に減らす(または増やす)ことで、段階的変化から直線的(連続した)変化まで、自在に調整することができる。即ち、各領域(区画)ごとに撥水性の高いカーボンの量が異なる触媒スラリー(触媒層形成用の原料)を用いて塗り分けて触媒層12を形成することで、ガスの入口側から出口側に向けて撥水性の高いカーボンの量を自在に変化させることができる。これにより、触媒層12内における生成水の除去をより一層促進し、氷点下起動性を改善することができる。なお、後述する実施例11、12では、撥水性の高いカーボンの量(濃度)が異なる触媒スラリーを、ガスの入口側(上流側)と出口側(下流側)の2領域(区画)に分けて塗り分けて段階的(階段状)に変化させた例を示しているが、本発明は、これらに何ら制限されるものではない。
【0057】
また、上記触媒層12内の炭素粉末全体の量は、ガスの入口側から出口側に向かってほぼ一定で、炭素粉末を構成する撥水性の高いカーボンと親水性の高いカーボンとの配合比率が変化していてもよい。即ち、撥水性の高いカーボンの含有量を変化(減少)させるのに伴って、親水性の高いカーボンの含有量を変化(増加)させてもよい。あるいは触媒層12内の炭素粉末全体の量も変わってもよい。例えば、親水性の高いカーボンの含有量は、ガスの入口側から出口側に向かってほぼ一定で、撥水性の高いカーボンの含有量のみをガスの入口側から出口側に向かって変化(減少)させえることで、触媒層12内の炭素粉末全体の量(濃度)も撥水性の高いカーボンの含有量(濃度)に比例して変化するようにしてもよい。さらに本発明では、撥水性の高いカーボンの含有量は、ガスの入口側から出口側に向かってほぼ一定で、親水性の高いカーボンの含有量のみをガスの入口側から出口側に向かって変化(増加)させることで、触媒層12内の炭素粉末全体の量(濃度)も親水性の高いカーボンの含有量に比例して変化するようにしてもよい。即ち、ガスの入口側から出口側に向かって撥水性の高いカーボンの絶対量は一定であっても、炭素粉末全量に対する撥水性の高いカーボンの相対的な量(濃度)が変化すればよい。
【0058】
「ガスの入口側から出口側に向かって」とは、ガスの入口と出口のみによって規定されるものであって、必ずしもこの間のガス経路によらなくてもよい。これはガスの内部経路の形態はいろいろあるので、必ずしもガス経路に沿わなくてもよい為であるが、ガスの内部経路の形態によっては、ガス経路に沿って変化するようにしてもよい。
【0059】
また、本発明では、前記触媒層内における撥水性の高いカーボン(黒鉛化処理したカーボン)の量が、高分子電解質膜と接する側からガス拡散層(多孔質基材)の側に向かって、及び、ガスの入口側から出口側に向かっても変化(減少)、好ましくは連続して変化(減少)していることを特徴とするものである。これにより、それぞれの作用効果を有効に発現させることができるためである。即ち、フラッディング抑制及び氷点下起動性改善のためには、高分子電解質膜と接する側からガス拡散層(多孔質基材)の側に向かって連続的に変化していること、さらに、ガスの入口側から出口側に向かって連続的に変化しているのが最適である。氷点下起動ではガス流れ方向の下流部分で、触媒層とガス拡散層との間に溜まる生成水が、氷点下で凍結しガスの拡散を妨げるのが問題となる。このため、触媒層内のうち、ガス流れ方向の下流部分での撥水性が最も高いのが望ましい。上記生成水の速やかな除去の観点から、撥水性の高いカーボン(黒鉛化処理したカーボン)の量が、高分子電解質膜と接する側からガス拡散層(多孔質基材)の側に向かって連続的に、かつ、ガスの入口側から出口側に向かって連続的に変化することが効果的であるといえる。
【0060】
本発明では、上述したように、触媒担持能力が高く、高導電性の従来のカーボン(上記した親水性の高いカーボン)を、触媒を担持する炭素粉末として用い、更にこれに加えて、新たに撥水性の高いカーボンを用いてなるものである。よって、撥水性の高いカーボンには、触媒を担持させてもさせなくてもよいが、触媒担持量を高める観点からは、撥水性の高いカーボンにも触媒成分(貴金属)を担持したものが望ましい。触媒成分には、耐食性(耐酸化性)が高く、発電性能に優れる、貴金属が望ましい。
【0061】
よって、本発明では、触媒層内における撥水性の高いカーボンは、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム及びイリジウムから群より選ばれた少なくとも一種以上の触媒貴金属成分を含有している(担持している)ことが望ましい。電池性能(初期の発電性能)と耐食性とを向上し両立を図るには、触媒貴金属成分を担持した親水性カーボンと触媒貴金属成分を担持した撥水性カーボンとの混合比率を最適な範囲に設定する必要があるためである。
【0062】
また、性能の観点から、撥水性の高いカーボンに担持される触媒の平均粒子径は、1〜10nm、好ましくは2〜6nmの範囲が望ましい。1nm未満の場合には粒子の耐久性が劣り、10nmを超える場合にはアイオノマーとの接触状態が悪く性能が低い。
【0063】
また、本発明では、前記触媒層内における撥水性の高いカーボンは、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム及びイリジウムから群より選ばれた少なくとも一種以上の触媒貴金属成分を含有(担持)し、さらにCo、Cr、Mn、Ni及びFeから群より選ばれた少なくとも一種以上の触媒卑金属成分を含有し、前記貴金属の担持量/前記卑金属の担持量=5/1〜1/2、好ましくは5/1〜1/1であることを特徴とする。電池性能(初期の発電性能)と耐食性とを向上し両立を図るには、触媒層内における撥水性の高いカーボンにも触媒成分が担持されていることが重要であるためである。上記触媒成分は、耐食性(耐酸性)が高く、発電性能に優れる、貴金属系合金が望ましいが、更に適量の卑金属成分を含有することで、更に触媒性能の向上を図ることができる点で有利である。即ち、貴金属と卑金属を併用する場合、性能の観点から、撥水性の高いカーボンに担持される貴金属合金の平均粒子径は1〜10nm、好ましくは2〜6nmの範囲が望ましい。貴金属合金の平均粒子径が1nm未満の場合には粒子の耐久性が劣り、10nmを超える場合にはアイオノマーとの接触状態が悪く性能が低い。ここで、上記貴金属の担持量/卑金属の組成比(モル比)>5/1の場合には卑金属の添加効果が発現せず、貴金属の担持量/卑金属の組成比(モル比)<1/2の場合には逆に貴金属の活性が阻害される。
【0064】
本発明において、親水性の高いカーボン及びこれに担持される触媒粒子の種類及び平均粒径については、特に制限されるべきものではなく、従来公知のもののなかから適宜選択することができる。
【0065】
本発明では、電極触媒の耐久性と触媒性能とを両立させ、かつ、経時的な触媒活性の低下幅をより小さくするために、撥水性の高いカーボンと親水性の高いカーボンとに担持させる触媒粒子は、それぞれに平均粒径を調整して担持させるのが好ましい。かかる観点からが、撥水性の高いカーボンにおける触媒粒子の平均粒径は、1〜10nm、好ましくは2〜6nmとするのがよい。前記平均粒径が、1nm未満であると発電開始初期において高い触媒活性が得られるが長期間の使用で耐久性が劣る恐れがあり、10nmを超えると触媒粒子の粒子表面積が小さくなりアイオノマーとの接触状態が悪くなるなどして却って触媒活性が低下する恐れがある。一方、親水性の高いカーボンにおける触媒粒子の平均粒径は、1〜10nm、好ましくは2〜6nmとするのがよい。前記平均粒径が、1nm未満であると経時的な触媒活性の低下を十分に小さくすることができない恐れがあり、10nmを超えると触媒粒子の粒子表面積が小さくなりアイオノマーとの接触状態が悪くなるなどして却って触媒活性が低下する恐れがある。
【0066】
ここで「触媒粒子の平均粒径」とはX線回折における触媒粒子の回折ピークの半値幅より求められる結晶子径あるいは透過型電子顕微鏡像より調べられる触媒粒子の粒子径の平均値を示す。
【0067】
また、本発明の電極触媒は、電極触媒に用いられる触媒粒子の全量に対して、前記撥水性の高いカーボンにおける触媒粒子の担持量を10〜70質量%、好ましくは20〜60質量%、より好ましくは30〜50質量%とし、前記親水性の高いカーボンにおける触媒粒子の担持量を5〜70質量%、好ましくは20〜60質量%、より好ましくは30〜50質量%とするのが好ましい。
【0068】
電極触媒の耐久性と触媒性能とをより向上させ、かつ、経時的な触媒活性の低下幅をより小さくするためには、前記撥水性の高いカーボンと親水性の高いカーボンとのそれぞれに担持させる触媒粒子の担持量を、上記した範囲内とするのが好ましい。
【0069】
前記撥水性の高いカーボンにおける前記担持量が、10質量%未満であると発電開始初期において高い触媒活性が得られない恐れがあり、70質量%を超えると担持される触媒粒子量が多すぎて触媒粒子同士が重なるなどして却って触媒活性が低下する恐れがある。
【0070】
前記親水性の高いカーボンにおける前記担持量が、70質量%を超えると担持される触媒粒子量が多すぎて触媒粒子同士が重なるなどして却って触媒活性が低下する恐れがあり、5質量%未満であると経時的な触媒活性の低下を十分に小さくすることができない恐れがある。
【0071】
本発明の電極触媒は、電極触媒の耐久性と触媒性能とをさらに向上させるために、前記撥水性の高いカーボンに触媒粒子が担持されたものと、前記親水性の高いカーボンに触媒粒子が担持されたものとを、所定の比率で混合させるのが好ましい。
【0072】
すなわち、本発明の電極触媒は、前記撥水性の高いカーボンに前記触媒粒子が担持されてなる電極触媒(C)と、前記親水性の高いカーボンに前記触媒粒子が担持されてなる電極触媒(D)とが、質量比(D)/(C)が4/1〜1/2、好ましくは3/1〜1/2、より好ましくは2/1〜1/1、で混合されてなるのがよい。この関係は、撥水性の高いカーボンが触媒を担持しても、担持しなくても、触媒層全体で見た場合に、撥水性の高いカーボンと親水性の高いカーボンとが、上記質量比(D)/(C)と略同様の比率で混合されているのが望ましい。ただし、撥水性の高いカーボンの量、更には、親水性の高いカーボンの量も、上述したように、触媒層内で変化するため、必ずしも上記範囲内にない領域が存在してもよいことはいうまでもない。
【0073】
電極触媒(C)と電極触媒(D)との混合される質量比(D)/(C)が、1/2未満になると触媒性能が低下する恐れがあり、4/1を超えると十分な耐久性が得られない恐れがあるため、上記範囲内とするのが好ましい。
【0074】
本発明の電極触媒に用いられる、前記親水性の高いカーボンは、導電率が1〜10S/cmのものを用いるのがよい。親水性の高いカーボンは、高性能な燃料電池の電極触媒に用いられるため、触媒粒子を担持するだけではなく、電子を外部回路に取り出すあるいは外部回路から取り入れるための集電体としての機能を有することなどが求められる。前記親水性の高いカーボンの導電率が、1S/cm未満であると燃料電池の内部抵抗が高くなり電池性能の低下を招く恐れがあり、10S/cmを超えると触媒活性が低下する恐れがある。一方、撥水性の高いカーボンでは、導電率が10〜1000S/cmのものを用いるのがよい。前記撥水性の高いカーボンの導電率が、10S/cm未満であると耐久性が低下する恐れがあり、1000S/cmを超えると触媒活性が低下する恐れがある。
【0075】
次に、親水性の高いカーボンに担持される触媒粒子としては、水素の酸化反応および/または酸素の還元反応に対して触媒作用を示すものであればよい。例えば、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム及びイリジウムから群より選ばれた少なくとも一種以上の貴金属が挙げられる。特に白金は、触媒活性が高いため単独で触媒粒子として用いることができる。しかしながら、耐熱性、一酸化炭素等への耐被毒性などを向上させることを目的として、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、もしくはイリジウムから選ばれる少なくとも一種以上の卑金属と白金等の貴金属との合金として用いてもよい。
【0076】
親水性の高いカーボンに担持される触媒粒子においても、合金における貴金属と卑金属との混合比は、質量比で白金/卑金属が、1/1〜5/1、特に2/1〜4/1とするのが好ましい。これにより、高い触媒活性を維持しつつ、耐被毒性、耐食性などを有する触媒粒子とすることができる。
【0077】
前記撥水性の高いカーボンおよび親水性の高いカーボンへの触媒粒子の担持方法としては、含浸法、液相還元担持法、蒸発乾固法、コロイド吸着法、噴霧熱分解法、逆ミセル法(マイクロエマルジョン法)など、従来一般的に用いられている方法であればよい。
【0078】
また、触媒層には、上記した触媒粒子を担持した炭素粉末(親水性の高いカーボン)および触媒粒子を担持または非担持の撥水性の高いカーボンの他に、イオン交換樹脂などの高分子電解質が含まれる。イオン交換樹脂がバインダーポリマーとして電極触媒の少なくとも一部を被覆しているのが好ましい。これにより、イオン伝導性などを向上させるだけでなく、電極構造を安定して維持することができ、電極性能を高めることができる。
【0079】
イオン交換樹脂は、特に限定されず、Nafion溶液などのパーフルオロスルホン酸ポリマー系のプロトン導電体、リン酸などの無機酸を炭化水素系高分子化合物にドープさせたもの、一部がプロトン導電体の官能基で置換された有機/無機ハイブリッドポリマー、高分子マトリックスにリン酸溶液や硫酸溶液を含浸させたプロトン導電体などからなるイオン交換樹脂が挙げられる。
【0080】
パーフルオロスルホン酸ポリマー系のプロトン導電体として、具体的には、炭素原子とフッ素原子のみからなる重合体だけではなく、水素原子が全てフッ素原子と置換されていれば酸素原子等を含有するものなどが挙げられ、CF=CFに基づく重合単位とCF=CF−(OCFCFX)−O−(CF−SOHに基づく重合単位(式中、Xはフッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、mは0〜3の整数であり、nは1〜12の整数であり、pは0又は1である。)とを含む共重合体などがある。
【0081】
前記触媒層には、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体といった撥水性高分子などが含まれてもよい。これにより、得られる触媒層の撥水性を高めることができ、発電時に生成した水などを速やかに排出することができる。
【0082】
次に、高分子電解質膜としては、特に限定されないが、イオン交換樹脂からなる膜などが挙げられる。前記イオン交換樹脂は、本発明の第二の電極触媒層において説明したのと同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。イオン交換樹脂は、電極触媒層と固体高分子電解質膜とで同じものを用いてもよく、異なるものを用いてもよいが、イオン伝導性などを考慮すると同じものを用いるのが好ましい。該高分子電解質膜としては、例えば、デュポン社製の各種のナフィオン(デュポン社登録商標:NAFION)やフレミオンに代表されるパーフルオロスルホン酸膜、ダウケミカル社製のイオン交換樹脂、エチレン-四フッ化エチレン共重合体樹脂膜、トリフルオロスチレンをベースポリマーとする樹脂膜などのフッ素系高分子電解質や、スルホン酸基を有する炭化水素系樹脂系膜などの市販品を用いてもよい。
【0083】
ガス拡散層としては、特に限定されないが、炭素製の織物、紙状抄紙体、フェルト、不織布といった導電性及び多孔質性を有するシート状材料を基材とする多孔質基材などが挙げられる。また、ガス拡散層でも触媒層と同様に撥水性を高めてフラッディング現象を防ぐために、公知の手段を用いて、前記ガス拡散層の撥水処理を行ったり、前記ガス拡散層上に炭素粒子集合体からなる層を形成してもよい。
【0084】
本発明のMEAの構成を有する燃料電池用電極において、触媒層、ガス拡散層、および高分子電解質膜の厚さは、燃料ガスの拡散性などを向上させるには薄い方が望ましいが、薄すぎると十分な電極出力が得られない。従って、所望の特性を有するMEAが得られるように適宜決定すればよい。
【0085】
上述したMEAは、燃料電池として好適に用いられる。燃料電池の種類としては、実用性・安全性などの観点から、固体高分子電解質型燃料電池(PEFC)が好ましく挙げられる。
【0086】
燃料電池の構造は、特に限定されないが、MEAをセパレータで積層した構造などが挙げられる。
【0087】
前記セパレータとしては、カーボンペーパー、カーボンクロスなど、一般的に用いられているものであればよい。また、前記セパレータは、空気と燃料ガスとを分離する機能を有するものであり、それらの流路を確保するためにガス流通溝が形成されてもよく、従来公知の技術を適宜利用することができる。セパレータの厚さや大きさについては、特に限定されず、得られる燃料電池の出力特性などを考慮して適宜決定すればよい。
【0088】
さらに、燃料電池が所望する電圧等を得られるように、セパレータを介してMEAを複数積層して直列に繋いだスタックを形成してもよい。燃料電池の形状などは、特に限定されず、所望する電圧などの電池特性が得られるように適宜決定すればよい。
【0089】
本発明の燃料電池用電極は、発電性能および耐久性に優れるため、長期に亘り優れた特性を示すことが可能となる。従って、かような燃料電池用電極を用いたMEAおよび燃料電池は、従来のものと比較して、より優れた性能を発揮することができる。よって、燃料電池システムの高効率化などを図ることができ、定置用電源、車両などの移動体用電源などとして有用である。
【実施例】
【0090】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されることはない。また、当該実施例において、「%」は特記しない限り質量百分率を表わすものとする。
【0091】
(触媒1)
高導電性カーボンブラック(ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製ケッチェンブラックEC、BET表面積=804m/g)4.0gにジニトロジアンミン白金水溶液(Pt濃度1.0%)400gを加えて1時間撹拌、次いで還元剤として50%−エタノール200gを混合し1時間攪拌した。30分で85℃まで加温し、さらに、85℃で6時間撹拌・混合した後、1時間で室温まで降温した。沈殿物を濾過した後、得られた固形物を減圧下85℃において12時間乾燥した後に、乳鉢で粉砕し、触媒1(Pt粒子の平均粒径は、2.3nm、Pt担持濃度47%)を得た。
【0092】
(触媒2)
高導電性カーボンブラック(Cabot社製VulcanXC−72、BET表面積=280m/g)4.0gにジニトロジアンミン白金水溶液(Pt濃度1.0%)400gを加えて1時間撹拌、次いで還元剤として50%−エタノール200gを混合し1時間攪拌した。30分で85℃まで加温し、さらに、85℃で6時間撹拌・混合した後、1時間で室温まで降温した。沈殿物を濾過した後、得られた固形物を減圧下85℃において12時間乾燥した後に、乳鉢で粉砕し、触媒2(Pt粒子の平均粒径は、2.6nm、Pt担持濃度45%)を得た。
【0093】
(触媒3)
高導電性カーボンブラック(ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製ケッチェンブラックEC、BET表面積=804m/g)を2800℃で10時間熱処理し、黒鉛化処理カーボンブラック(BET表面積=125m/g)を得た。この黒鉛化処理したカーボンブラックに4.0gにジニトロジアンミン白金水溶液(Pt濃度1.0%)200gを加えて1時間撹拌、次いで還元剤として25%−蟻酸水溶液200gを混合し1時間攪拌した。30分で50℃まで加温し、50℃で12時間撹拌・混合した後、1時間で室温まで降温した。沈殿物を濾過した後、得られた固形物を減圧下85℃において12時間乾燥した後に、乳鉢で粉砕し、触媒3(Pt粒子の平均粒径は、2.5nm、Pt担持濃度45%)を得た。
【0094】
(触媒4)
高導電性カーボンブラック(Cabot社製VulcanXC−72、BET表面積=280m/g)を2800℃で10時間熱処理し、黒鉛化処理カーボンブラック(BET表面積=90m/g)を得た。この黒鉛化処理したカーボンブラックに4.0gにジニトロジアンミン白金水溶液(Pt濃度1.0%)200gを加えて1時間撹拌し、次いで還元剤として25%−蟻酸水溶液200gを混合し1時間攪拌した。30分で40℃まで加温し、40℃で16時間撹拌・混合した後、1時間で室温まで降温した。沈殿物を濾過した後、得られた固形物を減圧下85℃において12時間乾燥した後に、乳鉢で粉砕し、触媒4(Pt粒子の平均粒径は、2.7nm、Pt担持濃度45%)を得た。
【0095】
(触媒5)
高導電性カーボンブラック(電気化学社製デンカブラック(ファーネスブラック)、BET表面積=120m/g)を2800℃で10時間熱処理し、黒鉛化処理カーボンブラック(BET表面積=85m/g)を得た。この黒鉛化処理したカーボンブラックに4.0gにジニトロジアンミン白金水溶液(Pt濃度1.0%)200gを加えて1時間撹拌、次いで還元剤として25%−蟻酸水溶液200gを混合し1時間攪拌した。30分で60℃まで加温し、60℃で12時間撹拌・混合した後、1時間で室温まで降温した。沈殿物を濾過した後、得られた固形物を減圧下85℃において12時間乾燥した後に、乳鉢で粉砕し、触媒5(Pt粒子の平均粒径は、2.8nm、Pt担持濃度46%)を得た。
【0096】
(触媒6)
高導電性カーボンブラック(Cabot社製アセチレンブラック、BET表面積=120m/g)を2800℃で10時間熱処理し、黒鉛化処理カーボンブラック(BET表面積=88m/g)を得た。この黒鉛化処理したカーボンブラックに4.0gにジニトロジアンミン白金水溶液(Pt濃度1.0%)200gを加えて1時間撹拌、次いで還元剤として25%−蟻酸水溶液200gを混合し1時間攪拌した。30分で60℃まで加温し、60℃で12時間撹拌・混合した後、1時間で室温まで降温した。沈殿物を濾過した後、得られた固形物を減圧下85℃において12時間乾燥した後に、乳鉢で粉砕し、触媒6(Pt粒子の平均粒径は、2.7nm、Pt担持濃度48%)を得た。
【0097】
触媒を担持した炭素粉末の製造例である上記触媒1〜6の諸特性(撥水性の高い導電性カーボン担体のBET表面積、触媒(Pt)平均粒子径、触媒(Pt)担持量)を下記表1に示す。
【0098】
【表1】

【0099】
1)表中のBET表面積は、撥水性の高いカーボンである黒鉛化処理カーボンブラックのBET表面積を表す。
【0100】
2)表中のPt平均粒子径は、透過型電子顕微鏡による観察及びX線回折により測定した。
【0101】
3)表中のPt担持量は、触媒を担持した炭素粉末(高導電性カーボンブラック及び黒鉛化処理カーボンブラックの両方)を対象とするものであり、蛍光X線回折により測定した。
【0102】
[実施例1]
MEAは、以下の手順で行った。
【0103】
触媒1を150g、触媒3を50g、カーボンと同量のNafion、精製水、イソプロピルアルコールとを加えてホモジナイザでよく分散させ、さらに脱泡操作を加えて触媒スラリー(B1)を作製した。
【0104】
これをガス拡散層(GDL)であるカーボンペーパー(東レ製「TGP−H」)の片面にスクリーン印刷法によって所定量印刷し、60℃で24時間乾燥させた。
【0105】
次いで、触媒1を50g、触媒3を150g、カーボンと同量のNafionを含んだ5%−Nafion溶液(DuPont製DE−520、EW=1000) 2000g、精製水、イソプロピルアルコールとを加えてホモジナイザでよく分散させ、さらに脱泡操作を加えて触媒スラリー(A1)を作製した。これを、上記触媒スラリー(B1)を塗布したカーボンペーパーの上にスクリーン印刷法によって所定量印刷し、60℃で24時間乾燥させた。
【0106】
その後、触媒層を塗布した面を高分子電解質膜に合わせて120℃、0.2MPaで、3分間ホットプレスを行うことによって、それぞれのMEAを作製した。一方、アノードとしては同様な方法を用いて電極触媒として47%Pt担持カーボンを用いてMEAを作製した。
【0107】
これらのMEAは、アノード、カソードともにPt使用量を見かけの電極面積1cmあたり0.5mgとし、電極面積は300cmとした。また、電解質膜としてDuPont製Nafion膜(NRE−211,膜厚み=25μm)を用いた。
【0108】
[実施例2]
触媒1を150g、触媒4を50g、カーボンと同量のNafion、精製水、イソプロピルアルコールとを加えてホモジナイザでよく分散させ、さらに脱泡操作を加えて触媒スラリー(B2)を作製した。
【0109】
これをガス拡散層であるカーボンペーパーの片面にスクリーン印刷法によって所定量印刷し、60℃で24時間乾燥させた。
【0110】
次いで、触媒1を50g、触媒4を150g、カーボンと同量のNafionを含んだ5%−Nafion溶液 2000g、精製水、イソプロピルアルコールとを加えてホモジナイザでよく分散させ、さらに脱泡操作を加えて触媒スラリー(A2)を作製した。これを、上記触媒スラリー(B2)を塗布したカーボンペーパーの上にスクリーン印刷法によって所定量印刷し、60℃で24時間乾燥させた。
【0111】
以降は、実施例1と同様にして、カソード触媒層を作製した。
【0112】
[実施例3]
触媒1を150g、触媒5を50g、カーボンと同量のNafion、精製水、イソプロピルアルコールとを加えてホモジナイザでよく分散させ、さらに脱泡操作を加えて触媒スラリー(B3)を作製した。
【0113】
これをガス拡散層であるカーボンペーパーの片面にスクリーン印刷法によって所定量印刷し、60℃で24時間乾燥させた。
【0114】
次いで、触媒1を50g、触媒5を150g、カーボンと同量のNafionを含んだ5%−Nafion溶液 2000g、精製水、イソプロピルアルコールとを加えてホモジナイザでよく分散させ、さらに脱泡操作を加えて触媒スラリー(A3)を作製した。これを、上記触媒スラリー(B3)を塗布したカーボンペーパーの上にスクリーン印刷法によって所定量印刷し、60℃で24時間乾燥させた。
【0115】
以降は、実施例1と同様にして、カソード触媒層を作製した。
【0116】
[実施例4]
触媒1を150g、触媒6を50g、カーボンと同量のNafion、精製水、イソプロピルアルコールとを加えてホモジナイザでよく分散させ、さらに脱泡操作を加えて触媒スラリー(B4)を作製した。
【0117】
これをガス拡散層であるカーボンペーパーの片面にスクリーン印刷法によって所定量印刷し、60℃で24時間乾燥させた。
【0118】
次いで、触媒1を50g、触媒6を150g、カーボンと同量のNafionを含んだ5%−Nafion溶液 2000g、精製水、イソプロピルアルコールとを加えてホモジナイザでよく分散させ、さらに脱泡操作を加えて触媒スラリー(A4)を作製した。これを、上記触媒スラリー(B4)を塗布したカーボンペーパーの上にスクリーン印刷法によって所定量印刷し、60℃で24時間乾燥させた。
【0119】
以降は、実施例1と同様にして、カソード触媒層を作製した。
【0120】
[実施例5]
触媒2を150g、触媒3を50g、カーボンと同量のNafion、精製水、イソプロピルアルコールとを加えてホモジナイザでよく分散させ、さらに脱泡操作を加えて触媒スラリー(B5)を作製した。
【0121】
これをガス拡散層(GDL)であるカーボンペーパーの片面にスクリーン印刷法によって所定量印刷し、60℃で24時間乾燥させた。
【0122】
次いで、触媒2を50g、触媒3を150g、カーボンと同量のNafionを含んだ5%−Nafion溶液 2000g、精製水、イソプロピルアルコールとを加えてホモジナイザでよく分散させ、さらに脱泡操作を加えて触媒スラリー(A5)を作製した。これを、上記触媒スラリー(B5)を塗布したカーボンペーパーの上にスクリーン印刷法によって所定量印刷し、60℃で24時間乾燥させた。
【0123】
以降は、実施例1と同様にして、カソード触媒層を作製した。
【0124】
[実施例6]
触媒2を150g、触媒4を50g、カーボンと同量のNafion、精製水、イソプロピルアルコールとを加えてホモジナイザでよく分散させ、さらに脱泡操作を加えて触媒スラリー(B6)を作製した。
【0125】
これをガス拡散層であるカーボンペーパーの片面にスクリーン印刷法によって所定量印刷し、60℃で24時間乾燥させた。
【0126】
次いで、触媒2を50g、触媒4を150g、カーボンと同量のNafionを含んだ5%−Nafion溶液 2000g、精製水、イソプロピルアルコールとを加えてホモジナイザでよく分散させ、さらに脱泡操作を加えて触媒スラリー(A6)を作製した。これを、上記触媒スラリー(B6)を塗布したカーボンペーパーの上にスクリーン印刷法によって所定量印刷し、60℃で24時間乾燥させた。
【0127】
以降は、実施例1と同様にして、カソード触媒層を作製した。
【0128】
[実施例7]
触媒2を150g、触媒5を50g、カーボンと同量のNafion、精製水、イソプロピルアルコールとを加えてホモジナイザでよく分散させ、さらに脱泡操作を加えて触媒スラリー(B7)を作製した。
【0129】
これをガス拡散層であるカーボンペーパーの片面にスクリーン印刷法によって所定量印刷し、60℃で24時間乾燥させた。
【0130】
次いで、触媒1を50g、触媒5を150g、カーボンと同量のNafionを含んだ5%−Nafion溶液 2000g、精製水、イソプロピルアルコールとを加えてホモジナイザでよく分散させ、さらに脱泡操作を加えて触媒スラリー(A7)を作製した。これを、上記触媒スラリー(B7)を塗布したカーボンペーパーの上にスクリーン印刷法によって所定量印刷し、60℃で24時間乾燥させた。
【0131】
以降は、実施例1と同様にして、カソード触媒層を作製した。
【0132】
[実施例8]
触媒2を150g、触媒6を50g、カーボンと同量のNafion、精製水、イソプロピルアルコールとを加えてホモジナイザでよく分散させ、さらに脱泡操作を加えて触媒スラリー(B8)を作製した。
【0133】
これをガス拡散層であるカーボンペーパーの片面にスクリーン印刷法によって所定量印刷し、60℃で24時間乾燥させた。
【0134】
次いで、触媒2を50g、触媒6を150g、カーボンと同量のNafionを含んだ5%−Nafion溶液 2000g、精製水、イソプロピルアルコールとを加えてホモジナイザでよく分散させ、さらに脱泡操作を加えて触媒スラリー(A8)を作製した。これを、上記触媒スラリー(B8)を塗布したカーボンペーパーの上にスクリーン印刷法によって所定量印刷し、60℃で24時間乾燥させた。
【0135】
以降は、実施例1と同様にして、カソード触媒層を作製した。
【0136】
[実施例9]
触媒1を100g、触媒3を100g、カーボンと同量のNafion、精製水、イソプロピルアルコールとを加えてホモジナイザでよく分散させ、さらに脱泡操作を加えて触媒スラリー(B9)を作製した。
【0137】
これをガス拡散層であるカーボンペーパー(東レ製「TGP−H」)の片面にスクリーン印刷法によって所定量印刷し、60℃で24時間乾燥させた。
【0138】
次いで、触媒1を50g、触媒4を150g、カーボンと同量のNafionを含んだ5%−Nafion溶液 2000g、精製水、イソプロピルアルコールとを加えてホモジナイザでよく分散させ、さらに脱泡操作を加えて触媒スラリー(A9)を作製した。これを、上記触媒スラリー(B9)を塗布したカーボンペーパーの上にスクリーン印刷法によって所定量印刷し、60℃で24時間乾燥させた。
【0139】
以降は、実施例1と同様にして、カソード触媒層を作製した。
【0140】
[実施例10]
触媒1を100g、触媒3を100g、カーボンと同量のNafion、精製水、イソプロピルアルコールとを加えてホモジナイザでよく分散させ、さらに脱泡操作を加えて触媒スラリー(B10)を作製した。
【0141】
これをガス拡散層であるカーボンペーパー(東レ製「TGP−H」)の片面にスクリーン印刷法によって所定量印刷し、60℃で24時間乾燥させた。
【0142】
次いで、触媒2を50g、触媒5を150g、カーボンと同量のNafionを含んだ5%−Nafion溶液 2000g、精製水、イソプロピルアルコールとを加えてホモジナイザでよく分散させ、さらに脱泡操作を加えて触媒スラリー(A10)を作製した。これを、上記触媒スラリー(B10)を塗布したカーボンペーパーの上にスクリーン印刷法によって所定量印刷し、60℃で24時間乾燥させた。
【0143】
以降は、実施例1と同様にして、カソード触媒層を作製した。
【0144】
[実施例11]
触媒スラリー(B1)をガス拡散層であるカーボンペーパー(東レ製「TGP−H」)の片面にスクリーン印刷法によって所定量印刷し、60℃で24時間乾燥させた。
【0145】
次いで、触媒スラリー(A1)を、上記触媒スラリー(B1)を塗布したカーボンペーパーの上のガス入口側半分にスクリーン印刷法によって所定量印刷し、60℃で24時間乾燥させた。
【0146】
次いで、触媒スラリー(A2)を、上記触媒スラリー(B1)を塗布したカーボンペーパーの上のガス出口側半分にスクリーン印刷法によって所定量印刷し、60℃で24時間乾燥させた。
【0147】
その後、触媒層を塗布した面を電解質膜に合わせて120℃、0.2MPaで、3分間ホットプレスを行うことによって、それぞれのMEAを作製した。一方、アノードとしては同様な方法を用いて電極触媒として47%Pt担持カーボンを用いてMEAを作製した。
【0148】
以降は、実施例1と同様にして、カソード触媒層を作製した。
【0149】
[実施例12]
触媒スラリー(B1)をガス拡散層であるカーボンペーパー(東レ製「TGP−H」)の片面のガス入口側半分にスクリーン印刷法によって所定量印刷し、60℃で24時間乾燥させた。
【0150】
次いで、触媒スラリー(A1)をガス拡散層であるカーボンペーパーの片面のガス出口側半分にスクリーン印刷法によって所定量印刷し、60℃で24時間乾燥させた。
【0151】
次いで、触媒スラリー(A1)を、上記触媒スラリー(B1)を塗布したカーボンペーパーの上のガス入口側半分にスクリーン印刷法によって所定量印刷し、60℃で24時間乾燥させた。
【0152】
次いで、触媒スラリー(A5)を、上記触媒スラリー(A1)を塗布したカーボンペーパーの上のガス出口側半分にスクリーン印刷法によって所定量印刷し、60℃で24時間乾燥させた。
【0153】
その後、触媒層を塗布した面を電解質膜に合わせて120℃、0.2MPaで、3分間ホットプレスを行うことによって、それぞれのMEAを作製した。一方、アノードとしては同様な方法を用いて電極触媒として47%Pt担持カーボンを用いてMEAを作製した。
【0154】
以降は、実施例1と同様にして、カソード触媒層を作製した。
【0155】
[比較例1]
触媒1を100g、カーボンと同量のNafion、精製水、イソプロピルアルコールとを加えてホモジナイザでよく分散させ、さらに脱泡操作を加えて触媒スラリー(B11)を作製した。
【0156】
これをガス拡散層であるカーボンペーパーの片面にスクリーン印刷法によって所定量印刷し、60℃で24時間乾燥させた。次いで、同じ触媒スラリー(B11)を同様にして、さらに、スクリーン印刷法によって所定量印刷し、60℃で24時間乾燥させた。
【0157】
以降は、実施例1と同様にして、カソード触媒層を作製した。
【0158】
[比較例2]
触媒3を100g、カーボンと同量のNafion、精製水、イソプロピルアルコールとを加えてホモジナイザでよく分散させ、さらに脱泡操作を加えて触媒スラリー(B12)を作製した。
【0159】
これをガス拡散層であるカーボンペーパーの片面にスクリーン印刷法によって所定量印刷し、60℃で24時間乾燥させた。次いで、同じ触媒スラリー(B12)を同様にして、さらに、スクリーン印刷法によって所定量印刷し、60℃で24時間乾燥させた。
【0160】
以降は、実施例1と同様にして、カソード触媒層を作製した。
【0161】
[比較例3]
触媒4を100g、カーボンと同量のNafion、精製水、イソプロピルアルコールとを加えてホモジナイザでよく分散させ、さらに脱泡操作を加えて触媒スラリー(B13)を作製した。
【0162】
これをガス拡散層であるカーボンペーパーの片面にスクリーン印刷法によって所定量印刷し、60℃で24時間乾燥させた。次いで、同じ触媒スラリー(B13)を同様にして、さらに、スクリーン印刷法によって所定量印刷し、60℃で24時間乾燥させた。
【0163】
以降は、実施例1と同様にして、カソード触媒層を作製した。
【0164】
[比較例4]
触媒5を100g、カーボンと同量のNafion、精製水、イソプロピルアルコールとを加えてホモジナイザでよく分散させ、さらに脱泡操作を加えて触媒スラリー(B14)を作製した。
【0165】
これをガス拡散層であるカーボンペーパーの片面にスクリーン印刷法によって所定量印刷し、60℃で24時間乾燥させた。次いで、同じ触媒スラリー(B14)を同様にして、さらに、スクリーン印刷法によって所定量印刷し、60℃で24時間乾燥させた。
【0166】
以降は、実施例1と同様にして、カソード触媒層を作製した。
【0167】
[比較例5]
触媒スラリー(A1)をガス拡散層であるカーボンペーパーの片面にスクリーン印刷法によって所定量印刷し、60℃で24時間乾燥させた。
【0168】
次いで、触媒スラリー(B1)を、上記触媒スラリー(A1)を塗布したカーボンペーパーの上にスクリーン印刷法によって所定量印刷し、60℃で24時間乾燥させた。
【0169】
その後、触媒層を塗布した面を電解質膜に合わせて120℃、0.2MPaで、3分間ホットプレスを行うことによって、それぞれのMEAを作製した。一方、アノードとしては同様な方法を用いて電極触媒として47%Pt担持カーボンを用いてMEAを作製した。
【0170】
以降は、実施例1と同様にして、カソード触媒層を作製した。
【0171】
(電極触媒の性能評価)
各実施例1〜12および比較例1〜5で得た電極触媒について、MEA(Membrane Electrode Assembly:膜−電極接合体)を作製し、燃料電池単セルの性能測定を行った。
【0172】
得られた燃料電池単セルの性能測定は以下に従った。なお、測定に際しては、アノード側に燃料として水素を供給し、カソード側には空気を供給した。両ガスとも供給圧力は大気圧とし、水素は80℃、空気は60℃で飽和加湿し、燃料電池本体の温度は80℃に設定し、水素利用率は70%、空気利用率は30%として、電流密度1.0A/cmで30分間運転を続けた。発電を停止する場合には取り出す電流密度をゼロとした後、アノードは空気パージをして水素を排出した。カソードは大気圧で出口側を解放とした。このとき燃料電池本体の温度制御は行わず、停止時間は30分とした。停止後運転を再開する場合には、再び上記条件でセルにガスを導入し、発電を行った。この起動−停止サイクルを繰り返す事によって、燃料電池単セルの耐久性評価を行った。結果を下記表2に示す。
【0173】
【表2】

【0174】
図3は、実施例及び比較例の電極触媒を用いて構成した各固体高分子電解質型燃料電池の電流密度1.0A/cmにおけるセル電圧の起動−停止サイクル数に対する変化を表すグラフである。図に示すように、本発明の触媒(実施例)を用いた燃料電池の方が、従来の触媒(比較例)を用いた燃料電池よりも、運転開始から起動停止サイクル数に対してセル電圧の低下速度が小さいことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0175】
【図1】本発明の燃料電池用MEAを含む燃料電池の基本構造ごとに分解して示した概略斜視図である。
【図2】本発明の触媒層内における撥水性の高いカーボンの量が、「高分子電解質膜と接する側からガス拡散層の側に向かって変化している」形態ないしガスの入口側から出口側に向かって変化している」形態の例を表したグラフである。
【図3】図3(a)は、高分子電解質膜と接する側の触媒層が、厚さX(μm)であって、A(g/1cm)の撥水性の高いカーボンを含み、前記ガス拡散層と接する側の触媒層が、厚さY(μm)であって、B(g/1cm)の撥水性の高いカーボンを含むとき、触媒層内の撥水性の高いカーボンの含有率が、(A/X)>(B/Y)を満足することを示す解説した断面図である。図3(b)は、本発明の触媒層内における撥水性の高いカーボンの量が、「高分子電解質膜と接する側からガス拡散層の側に向かって変化している」形態及びガスの入口側から出口側に向かって変化っしている」形態の例を表した断面図である。
【図4】実施例において作製した電極触媒を含む各燃料電池用単セルの運転−停止サイクル数に対するセル電圧の変化を表すグラフである。
【符号の説明】
【0176】
10 MEAを含む燃料電池、
11 高分子電解質膜、
12a アノード側の触媒層、
12b カソード側の触媒層、
13a アノード側のガス拡散層、
13b カソード側のガス拡散層、
14a アノード、
14b カソード、
15 MEA、
16a アノード側の燃料ガスの流路、
16b カソード側の反応ガスの流路、
17 セパレータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒を担持した炭素粉末及び高分子電解質を含む触媒層と、高分子電解質膜と、ガス拡散層と、を備えてなる燃料電池用膜−電極接合体であって、
少なくとも酸素還元電極側の前記触媒層内における撥水性の高いカーボンの量が、高分子電解質膜と接する側からガス拡散層の側に向かって変化していることを特徴とする燃料電池用膜−電極接合体。
【請求項2】
前記高分子電解質膜側の触媒層が、厚さX(μm)であって、1cmあたりA(g)の撥水性の高いカーボンを含み、
前記ガス拡散層側の触媒層が、厚さY(μm)であって、1cmあたりB(g)の撥水性の高いカーボンを含むとき、
前記触媒層内の撥水性の高いカーボンの含有率が、下記式(1)
【数1】

を満足することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用膜−電極接合体。
【請求項3】
前記触媒層における撥水性の高いカーボンが、BET表面積が150m/g未満の黒鉛化処理されたカーボンであることを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池用膜−電極接合体。
【請求項4】
前記触媒層における親水性の高いカーボンが、BET表面積が150m/g以上のカーボンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池用膜−電極接合体。
【請求項5】
前記触媒層内における撥水性の高いカーボンの量が、高分子電解質膜と接する側からガス拡散層の側に向かって連続的に変化していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の燃料電池用膜−電極接合体。
【請求項6】
前記触媒層内における撥水性の高いカーボンの量が、ガスの入口側から出口側に向かって変化していることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の燃料電池用膜−電極接合体。
【請求項7】
前記触媒層内における撥水性の高いカーボンの量が、高分子電解質膜と接する側からガス拡散層の側に向かって、及び、ガスの入口側から出口側に向かっても連続的に変化していることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の燃料電池用膜−電極接合体。
【請求項8】
前記触媒層内における撥水性の高いカーボンは、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム及びイリジウムからなる群より選ばれた少なくとも一種の触媒成分を担持していることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の燃料電池用膜−電極接合体。
【請求項9】
前記触媒層内における撥水性の高いカーボンは、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウムおよびイリジウムからなる群より選ばれた少なくとも一種の貴金属成分を担持し、さらに、Co、Cr、Mn、Ni及びFeからなる群より選ばれた少なくとも一種の卑金属成分を担持し、前記貴金属の担持量/前記卑金属の担持量(モル比)=5/1〜1/2であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の燃料電池用膜−電極接合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−12476(P2006−12476A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−184637(P2004−184637)
【出願日】平成16年6月23日(2004.6.23)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】