説明

燃料電池発電システムの運転方法

【課題】潜熱冷却運転時における気泡流入の抑制/気泡の排除を行い、広範囲の冷却水量で運転可能にする。
【解決手段】冷却水を供給する冷却水供給部15、複数の区画31〜34に分割され、各区画に複数の第1溝21が互いにほぼ平行に形成され、これら第1溝21に冷却水が上方に向かって流通する第1冷却水流路22と、第1溝21の両端部と連結する第2冷却水流路23、24、第2冷却水流路23、24と冷却水供給部15または冷却水排出部16とを連結する第3冷却水流路25、冷却水を排出する冷却水排出部16を有する燃料電池セパレータ2と単位セルを交互に積層して形成される燃料電池スタックの運転方法であり、燃料電池セパレータ2に一定の流量で冷却水を供給する冷却水供給工程と、燃料電池セパレータ2に、所定の時間間隔で冷却水の流量を増減させながら供給し、冷却水流路部内の気泡を排出する気泡排出工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、燃料電池発電システムの運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化剤(例えば空気)と燃料(例えば水素を含む混合ガス)とを電気化学的に反応させることで発電する燃料電池は、高効率でかつ環境負荷を低減可能な発電装置として近年脚光を浴びており、性能向上、コスト削減や高耐久化のための研究が行われている。この燃料電池の適用が検討される分野は多岐にわたるが、開発が特に活発化している分野の一つに家庭用コジェネレーションプラントが挙げられる。
【0003】
家庭用コジェネレーションプラントは、一般に、発電ユニットと熱利用ユニットなどから構成され、これらのユニット間が排熱回収に用いる温水を流通させる温水循環ライン等により接続されている。
【0004】
発電ユニットは、一般的に電解質、例えば固体高分子膜を、酸化剤極(カソード)と燃料極(アノード)で挟み込んで形成される単位セルが搭載されている燃料電池スタックを備えている。また、都市ガスやプロパンガス等の原燃料ガスを改質して水素リッチガスを生成し、水素リッチガスを燃料電池スタック内の燃料極に供給する燃料処理系などを備えている。
【0005】
さらに、この発電ユニットは、空気を燃料電池スタック内の酸化剤極に供給する酸化剤供給系と、電池や燃料処理系からの排熱を回収し熱利用ユニットに熱入力する熱管理システムと、燃料電池スタックにおいて生成された直流出力を電力系統に連係可能な交流に変換する電力変換装置などを備えている。
【0006】
燃料電池スタックで行われるエネルギー変換は、例えば固体高分子形では、下記の式(1)〜式(3)に示される単位セルにおける電気化学反応に基づいて行われる。なお、固体高分子形のように約100℃以下で動作する燃料電池では、一般的に反応促進のために白金触媒または白金を主体とする合金触媒などが使用される。また、この燃料電池は、酸化剤極と燃料極のいずれもガスを透過する導電性の多孔質体を基材とし、その表面に触媒が多孔質層を成すよう保持されている。この触媒は他方で電解質と接触している。
【0007】
燃料極での反応 :2H→4H+4e …(1)
酸化剤極での反応:O+4H+4e → 2HO …(2)
全反応 :2H+O→2HO …(3)
ここで、上記電気化学反応による単位セルの発生電圧は、動作条件での電極における酸化還元反応のギブスエネルギーに規制され、理論上の上限は1.2V程度である。さらに、反応に伴う活性化分極、濃度分極、および抵抗等の損失により、通常は1V以下のセル電圧しか得られない。
【0008】
したがって、燃料電池スタックは、所要の電圧を得るために単位セルを電気的直列になるよう複数積層して両端から締付けて、積層電池として構成されている。この積層電池に反応ガス、冷却水の取合い、電力の取出しタップ、計装線などを取り付けたものを燃料電池スタックと称している。
【0009】
なお、燃料電池スタックを構成する各単位セル間には、酸化剤と燃料との直接混合を防止するセパレータが挿入されている。このセパレータには、通常単位セルへ酸化剤と燃料を分配するための流路が設けられている。
【0010】
単位セルは化学反応に伴うエネルギー落差(生成熱)を電気エネルギーに変換する変換デバイスであるため、電気エネルギーに変換されなかったエネルギー落差(例えば束縛エネルギー分、分極による損失エネルギー分)は、熱として放出される。
【0011】
ここで、単位セルにおける過熱を防止し、放出される熱を回収してコジェネレーションプラント内で有効に活用するため、複数の単位セルには、それらの間に冷却板が挿入されている。つまり、冷却水が、燃料電池スタックを含む燃料電池発電システム内を冷却板を通じて循環することにより、セルで発生する熱を回収している。なお、この冷却板は通常セパレータと一体化されている。
【0012】
ところで、単位セルで発生する電圧は、分極により低下する。分極は、活性化分極、抵抗分極、および拡散分極に大別される。これらの分極を制御して必要な電圧を確保することが、セル設計および運転制御の要諦である。特に固体高分子形燃料電池セルの場合には、電解質である固体高分子膜を湿潤状態に維持し、抵抗分極を低く維持するための加湿が重要である。
【0013】
しかし、加湿の方法がセル内部での反応ガスの拡散状態に大きく影響する。電解質膜が湿潤状態にある場合には電圧低下における拡散分極の寄与率が相対的に大きくなる。この拡散分極は、電気化学反応による反応ガスの消費速度が拡散速度に近づくにつれて顕著となるため、反応ガスの拡散を阻害する要因の制御が重要となる。
【0014】
固体高分子形燃料電池発電システムにおいて、例えば特許文献1および特許文献2などに開示されているように、電解質である固体高分子膜の湿潤状態を維持することを目的として、燃料電池セルを様々な方式で燃料電池スタック外部、あるいはセル内部から加湿する方法が提案されている。
【0015】
例えば、酸化剤供給系から供給される酸化剤ガスが、燃料電池スタックの入口付近に設けられた加湿器などにより加湿される方法が知られている。この例では、加湿された酸化剤ガスが、燃料電池スタックに導入される。また、燃料ガスには、燃料処理系における改質反応等の過程において、供給または生成された蒸気が混合されて燃料電池スタックに供給される。
【0016】
なお、外部から加湿する方式は、セル温度の露点に相当する蒸気圧を得る為のエネルギーを確保する必要がある。よって、システム効率への影響を抑えながら加湿に必要なエネルギーを取得する。このため、燃料電池スタック出口付近には排気または電池入口ガスの熱交換を行う方式が採用されている。
【0017】
しかしながら、加湿に必要なエネルギーをシステム効率への影響を抑えつつ取得することができても、外部から加湿する方式では、加湿後の加湿水の凝縮や積層セル間の配分の均一化等を配慮する必要がある。また、燃料電池セル内部には加湿水だけではなく、酸化剤極内で発電に伴い生成された水および燃料極から酸化剤極に向かう水素イオン等に伴って電解質膜内を通過する水(随伴水)の流れがある。さらに、含水率の勾配にしたがって拡散する水の流れなどが存在する。
【0018】
さらに、セルに導入される反応ガスとの熱交換によりセルから気相への蒸発や気相からセルへの凝縮が生じる。そのため、セル自身の発熱を考慮すると、セル内の水と熱が相互に影響し合って複雑な挙動を示す。
【0019】
セル内部の傾向は、セルの入口部では乾燥傾向に、出口部では水分過剰傾向となる。セルの触媒層またはセパレータと接する両電極のガス拡散層に対して、適切な範囲を超えて水が滞留した場合には、ガス拡散阻害が顕著となる。このガス拡散阻害の傾向は、生成水と随伴水により水分が潤沢になる酸化剤極で主に発生する。
【0020】
また、酸素の拡散速度が水素の拡散速度よりも遅いことから酸素極の分極がセル全体の性能を左右する。
【0021】
なお、セル内の凝縮に関して、加湿されたセル内の反応ガス中の水分はほぼ飽和湿度にあり、セル内の低温部分において反応ガス中の水分が凝縮する。この凝縮水がガス溝中に生じ、この凝縮水が排除できない場合には、溝が閉塞し、閉塞部分の下流において反応ガスの欠乏状態が発生する。
【0022】
反応ガスの欠乏状態が発生したセルでは、特性の急激な低下が生じる。そのため、安定した運転が困難になるだけではなく、局所的な電流集中による局所過熱や炭素部材の腐食等によりセルやセパレータの永久的な損傷が生じる可能性がある。
【0023】
上記の現象は酸化剤極および燃料極のいずれにおいても重大な問題である。直接内部加湿方式においてセル溝内への給水や蒸発のばらつきにより溝内に液滴が滞留した場合にも、同様な現象が発生することがある。
【0024】
そこで、特許文献4に開示されているように、セル内の加湿不均一と水滴の滞留によるガス溝閉塞の対策として、単位セル間に多孔質セパレータを配置して、冷却水の一部を多孔質セパレータを流通させて反応ガスの加湿に用いる手段が、提案されている。
【0025】
この方式によれば、冷却水を循環させる冷却系の圧力を反応ガスよりも低く(大気圧以下も含む)設定することにより、溝に滞留する水滴を当該冷却系に吸引することができ、溝閉塞に起因する諸問題を解決することが可能となる。さらに、本方式ではセル平面内の局所的な水のバランスに応じて自律的に加湿および吸湿が行われるため、セル平面内で均一な加湿状態を、溝閉塞のリスクを伴わずに実現することができる。
【0026】
上記のようにセルの水管理や熱管理に重要な役割を果たすセパレータ上の流路パターンは流路に沿って温度分布、湿度分布、圧損、入口部または出口部の取り合い位置等を考慮して決められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0027】
【特許文献1】特開2001−176529号公報
【特許文献2】特開2003−142134号公報
【特許文献3】特開2001−176522号公報
【特許文献4】特表平11−508726号公報
【特許文献5】特開2004−103456号公報
【特許文献6】特開平6−68884号公報
【特許文献7】特開2009−115649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
ところで、家庭用燃料電池発電システムを実用化するためには、信頼性向上のため、燃料電池スタックは、安定した出力を長期間供給する必要がある。したがって、燃料電池スタック内のセルに対して、セル特性の劣化防止を目的とした開発が進められている。
【0029】
セル特性劣化防止の対策の1つとして、潜熱冷却運転、すなわち冷却水の蒸発潜熱とセル発熱がバランスするように冷却水流量を減少させることで、燃料電池スタック温度を上昇させてセル内部での水凝縮を抑制し、長期的な電圧低下を抑制する方法が考えられている。
【0030】
また、潜熱冷却を行うことにより、冷却に必要な水循環流量を従来の1/10程度に削減することが可能である。この結果、冷却水ポンプの小型化および低動力化が可能になる。さらに、高温運転を行なうことにより排熱回収効率が向上し、システム全体としての総合熱効率(発電効率および排熱回収効率の和)向上にも寄与する。
【0031】
潜熱冷却運転においても多孔質セパレータを採用することにより、セルの反応面内に均一に水分を供給して蒸発させることが可能となり、電池内部の温度および湿度分布を均一に維持することができる。
【0032】
しかし、多孔質セパレータを冷却水流量が少ない条件で使用するためには、冷却水に混入するガスへの対策が必要となる。多孔質セパレータへは運転中に、多孔質部材内を貫通して反応ガス流路から冷却水流路にガスが混入する。冷却水流路に混入したガスは、水流により排出されれば問題ない。しかし、冷却水流路に混入したガスが、流路内部に堆積した場合には冷却水流路を閉塞してしまう可能性がある。冷却水流路の閉塞は、局所的な水供給不足による局所過熱や加湿不足の原因となり、燃料電池セルの運転を困難にする。さらに、冷却水流路の閉塞は、不可逆的な性能の低下や電解質膜の損傷等、製品寿命へ悪影響を及ぼす可能性が高い。
【0033】
電池内部における冷却水流路内への気泡混入への主要な対策方針としては以下のようなものが挙げられる。
【0034】
(1)冷却水流路の壁面から水流内へ気泡が排出される際の気泡サイズより溝の最小寸法を大きくする。
【0035】
(2)冷却水内の気泡の浮力による排出を促すため、冷却水溝を鉛直方向に延びる直線状とし、冷却水の流れ方向を浮力と同じ方向、すなわち上昇流とする。
【0036】
(3)気泡の合体を防ぐため、気泡と冷却水からなる冷却水流路内気液二相流の流動様式が気泡流になる様に、気泡混入量を抑制する。このため、セパレータ入口での冷却水と反応ガスの圧力差およびセパレータ内の冷却水圧損を小さくすることにより、ガス流路と冷却水流路内の圧力差、すなわち多孔質部材内を通過するガスの駆動力を小さくして混入ガス量を抑制する。
【0037】
(4)周期的に冷却水流量を増加させて強制的な気泡排除を行う。
【0038】
これらの対策方針を行うためには、特許文献5に開示されているようなサーペインタイン型流路、または特許文献6に開示されているような垂直溝流路などが知られている。
【0039】
サーペインタイン流路の大部分が水平溝となるため、気泡は、水流によって押し出すことによって排除される。したがって、潜熱冷却を行うために流量を下げると気泡排除に必要な流速を確保できなくなる場合がある。また、流路の本数が少ないため、流路1本あたりの面積が大きく、流路一本あたりの気泡混入の頻度が大きくなる。さらに、一度流路に閉塞が生じると、その影響範囲が大きくなる。
【0040】
また、長期の運転においては冷却水流路内に気泡が堆積する可能性が高まるため、周期的に冷却水流量を増加させて強制的な気泡排除を行うことが望ましい。しかし、この構成では流路の圧力損失が大きいため、流量を増加させたときの圧力損失の変化幅が大きくなる。したがって周期的な気泡排除運転を行う限り、冷却水循環ポンプの小型化には限界がある。また圧損が大きいことは気泡の流入量を増やしてしまうことにもなる。
【0041】
一方、上記問題を解決する方法としては、鉛直流路を採用する手法もある。これは、比較的面積の小さいセルに使用され、水透過板と組み合わされることもある。この鉛直流路の構成は溝が鉛直方向に配置されていることから、流路内の流れが気泡流であれば、気泡を浮力で上昇させることが可能である。また、サーペインタイン型と比較して、流路長が短く並列流路数が多いため圧力損失が小さく、ポンプの小型化も可能となる。
【0042】
しかし、この構成では流速が大きくなるにつれて鉛直流路間の流量配分の不均一が増加してしまう問題点がある。この問題はセルを大型化して、冷却水流路の数が多くなると顕著になる。この流量配分の不均一化は、分岐および合流に伴う静圧の変化と水平部での圧力損失の関係に起因している。さらに、この不均一化は、合流および分岐損失、並びに水平部での圧力損失と比較して、鉛直流路での圧力損失および重力(水頭)の影響が相対的に小さくなるほど、顕著になる。長期の運転においては冷却水流路内に気泡が堆積する可能性が高まるため、周期的に冷却水流量を増加させて強制的な気泡排除を行うことが望ましい。しかし、この構成では流量を増加させても一部の流路においては流量が増加しないため、当該部に気泡が堆積した場合にはその排除が困難になることがある。
【0043】
さらに、プラントでの運転では上述したセパレータ内部での気泡混入の他に、電池スタック以外の部位で冷却水循環系に混入する気泡の対策も考慮する必要がある。多孔質セパレータは反応ガス圧力より冷却水圧力を下げて運転することで、その特徴を有効に活用することが可能である。しかし、常圧運転、すなわち反応ガスが大気圧近くで電池スタックに導入される場合においては、冷却水圧力を大気圧より低くする場合がある。よって、配管接続部などで大気が冷却水循環系内にリークインするリスクがある。
【0044】
冷却水循環系内へのリークインは配管系の適切な施工と検査により抑制することは可能ではある。しかし、現地での長期間運転においては不測の事態に対するロバスト性を確保する等の要求もある。
【0045】
前述した2つの構成のいずれも、燃料電池スタック入口の気泡の影響を抑制するための配慮がなされていない。
【0046】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものであり、その目的は、多孔質セパレータによる内部加湿セルにおいて、潜熱冷却運転時における気泡流入の抑制および気泡の排除を行い、広範囲の冷却水量で運転可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0047】
上記目的を達成するために、本発明の実施形態に係る燃料電池発電システムの運転方法は、電解質を酸化剤極および燃料極により挟持して形成される単位セルと、冷却水を供給する冷却水供給部と、複数の区画に分割されてこれらの区画それぞれには複数の第1溝が互いにほぼ平行に形成されており、これらの第1溝に前記冷却水が上方に向かって流通するように構成されている第1冷却水流路と、前記複数の区画それぞれに形成される前記第1溝に垂直な方向に延びて前記第1溝の両端部それぞれに形成される溝に前記冷却水が流通し前記第1冷却水流路と連結するように構成される第2冷却水流路と、前記第2冷却水流路と前記冷却水供給部または前記冷却水排出部とを連結し前記冷却水が流通するように構成される第3冷却水流路と、前記冷却水を排出する冷却水排出部を有する燃料電池セパレータと、を交互に積層して形成される燃料電池スタックを具備する燃料電池発電システムの運転方法において、前記燃料電池セパレータに一定の流量で冷却水を供給する冷却水供給工程と、前記燃料電池セパレータに、所定の時間間隔で冷却水の流量を増減させながら供給し、前記冷却水流路部内の気泡を排出する気泡排出工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0048】
本発明の実施形態によれば、多孔質セパレータによる内部加湿セルにおいて、潜熱冷却運転時における気泡流入の抑制および気泡の排除を行い、広範囲の冷却水量で運転を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に係る燃料電池スタックの一実施形態を示す平面図である。
【図2】図1の燃料電池スタックのII−II矢視立断面図である。
【図3】図2の冷却水供給部付近の部分拡大立断面図である。
【図4】図2の冷却水流路の壁面を示す概略立断面図である。
【図5】図2の燃料電池セパレータにおける気泡直径と気泡上昇速度の関係を示すグラフである。
【図6】図1の燃料電池スタックの運転時間と冷却水流量の関係を示すグラフである。
【図7】図2の燃料電池セパレータの第1溝の番号と溝流量の関係を示すグラフである。
【図8】従来の冷却水流路部を示す立断面図である。
【図9】図8の冷却水流路部における冷却水溝の番号と溝流量の関係を数値解析により算出した結果を示すグラフである。
【図10】内部マニホールド方式の燃料電池スタックに図1の冷却水流路構造を適用した例を示す立断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、図面を用いて本発明に係る燃料電池スタックの一実施形態について説明する。図1は、本実施形態の燃料電池スタックの一部を示す平面図であって、2つの燃料電池セパレータ2によって、単位セル1が挟み込まれた状態を示すものである。
【0051】
燃料電池スタックは、ほぼ鉛直に立てられた平板状の単位セル1と、これと同様にほぼ鉛直に立てられた平板状の燃料電池セパレータ2が、水平方向に交互に積層されて構成されている。単位セル1は、固体分子電解質膜3が酸化剤極4および燃料極5によって挟み込まれた構造を有している。
【0052】
単位セル1を挟み込むように構成される燃料電池セパレータ2は、多孔質材で形成されており、燃料ガス流路部6、酸化剤ガス流路部7、および冷却水流路部8を有している。燃料ガス流路部6には、水素等の燃料ガスが流通する燃料ガス流路11が形成されている。酸化剤ガス流路部7には、空気等の酸化剤ガスが流通する酸化剤ガス流路12が形成されている。冷却水流路部8は、冷却水が流通する冷却水流路13が形成されている。冷却水流路13が形成された燃料電池セパレータの表面を流路面と定義する。
【0053】
この燃料電池セパレータ2は、冷却水流路部8が、燃料ガス流路部6と酸化剤ガス流路部7によって挟み込まれた構造を有している。なお、単位セル1の酸化剤極4側には酸化剤ガス流路部7が接しており、燃料極5側には、燃料ガス流路部6が接している。
【0054】
燃料電池スタックで行われるエネルギー変換は、例えば固体高分子形では、式(1)〜式(3)に示される単位セル1における電気化学反応に基づいて行われる。このとき、冷却水流路13を流通する冷却水の一部は、上記式(1)〜(3)の電気科学反応に使用されるため、図1に示す反応用冷却水流通方向40に沿った経路を流通する。
【0055】
図2は、図1の燃料電池スタックに配置された燃料電池セパレータ2の冷却水流路部8のII−II矢視立断面図である。
【0056】
この冷却水流路部8には、燃料電池セパレータ2の外部から冷却水を供給する冷却水供給部15、および冷却水を燃料電池セパレータ2の外部に排出する冷却水排出部16が設けられている。燃料電池スタックが組み上がった状態では、下方に冷却水供給部15、上方に冷却水排出部16となるように配置される。
【0057】
冷却水流路部8には、冷却水流路部8が形成される面上に沿ってほぼ全域に複数平行に配置された第1溝21が形成されている。なお、この第1溝21は、燃料電池スタックが組み上がった状態では、鉛直方向に延びるように形成されている。また、この第1溝21には、冷却水が流通するように形成されている。これら複数の第1溝21からなる流路群を第1冷却水流路22と定義する。
【0058】
第1冷却水流路22は、4つの区画、例えば第1区画31、第2区画32、第3区画33、第4区画34に分割されている。4つの区画31、32、33、34それぞれには、ほぼ同数程度の第1溝21が配置されている。
【0059】
なお、冷却水供給部15には、4つの区画31、32、33、34に冷却水を分配する連絡溝部17が形成されている。
【0060】
4つの区画31、32、33、34に分割された第1冷却水流路22それぞれには、複数の第1溝21の冷却水入口側の端部に、第1溝21が延びる方向に垂直な方向、すなわち水平方向に冷却水が流れるように溝が形成されている。同様に冷却水出口側の端部にも、水平方向に冷却水が流れるように溝が形成されている。これらの溝を、入口側第2冷却水流路23および出口側第2冷却水流路24と定義する。なお、入口側第2冷却水流路23および出口側第2冷却水流路24は、4つの区画31、32、33、34それぞれに配置されている。
【0061】
さらに、冷却水供給部15に配置される連絡溝部17と入口側第2冷却水流路23を接続する流路が形成されており、この流路を入口側第3冷却水流路25と定義する。一方、冷却水排出部16と出口側第2冷却水流路24を接続する流路が形成されており、この流路を出口側第3冷却水流路26と定義する。
【0062】
ここで、燃料電池セパレータ2内の冷却水の流れについて説明する。
【0063】
冷却水は、冷却水供給部15から燃料電池セパレータ2に供給される。冷却水供給部15から供給される冷却水は、連絡溝部17によって4つの区画31、32、33、34それぞれに配置される入口側第3冷却水流路25に分配される。入口側第3冷却水流路25を流通する冷却水は、入口側第2冷却水流路23に流入し、複数の第1溝21を有する第1冷却水流路22に分配される。なお、入口側第2冷却水流路23は、入口側第3冷却水流路25から供給された冷却水を、第1冷却水流路22に分配する分配ヘッダとして利用される。
【0064】
第1冷却水流路22を流通した冷却水は、出口側第2冷却水流路24で合流して、出口側第3冷却水流路26を流通して、冷却水排出部16から排出される。なお、出口側第2冷却水流路24は、第1冷却水流路22から供給された冷却水を合流させて、出口側第3冷却水流路26に供給する合流ヘッダとして利用されている。
【0065】
第1冷却水流路22に流入された冷却水の一部は、反応用冷却水流通方向40に沿った経路を流通することでセパレータ内部を移動し、式(1)〜式(3)の反応によりセル内で生成された水とともに酸化剤ガス流路12で蒸発する。
【0066】
4つの区画31、32、33、34に配置された第1冷却水流路22それぞれの長さおよび冷却水の流通方向に垂直な断面の断面寸法は等しくなるように形成されている。また入口側および出口側第2冷却水流路23、24についても同様に、その長さおよび断面寸法は等しい。
【0067】
入口側および出口側第3冷却水流路25、26を構成する溝については、各区画の水流入部と水出口部の長さの合計値が流路面内で等しくなるように構成されている。
【0068】
さらに、第1冷却水流路22の断面の最小寸法は式(4)のDで規定される値よりも大きく、さらに2倍以上であることが望ましい。
【0069】
ここで、dは流路面を構成する多孔質材の平均気孔径、σは冷却水の表面張力、θは冷却水と冷却水流路13の接触面における冷却水の接触角、gは重力加速度、ρは冷却水の密度、ρGは冷却水内に混入するガスの密度である。
【0070】
=[4dσsinθ/g(ρ−ρG)]1/3 …(4)
本実施形態では、Dは約0.3mm、第1冷却水流路22の最小寸法は約0.7mmである。また、入口側および出口側第2冷却水流路23、24の断面積は第1冷却水流路22の断面積よりも大きい。本実施形態では、第1冷却水流路22の断面積の約2倍を有している。一方、入口側および出口側第3冷却水流路25、26の断面積は、第1冷却水流路22とほぼ等しい。
【0071】
図3は、図2に示す燃料電池セパレータ2の冷却水供給部15付近の部分拡大立断面図であり、燃料電池スタックの外部からの流入する気泡42に対する、冷却水供給部15における流路形状の作用を示したものである。
【0072】
また、冷却水供給部15は、連絡溝部17を境に流路の幅とピッチを変えている。連絡溝部17より上流側では流路の幅とピッチを第1冷却水流路22と等しく、連絡溝部17より下流側では流路の幅寸法を入口側第2冷却水流路23と等しくしている。また、冷却水排出部16では流路の幅を出口側第2冷却水流路24と等しくしている。
【0073】
燃料電池スタックの外部から、内部流路よりも大きな気泡42が入ってきた場合、特に潜熱冷却運転時のように流速が小さい場合において、気泡42冷却水供給部15の流路の一部を塞いだまま滞留してしまう場合がある。このような場合でも連絡溝部17があることで、塞がれていない流路から全ての内部流路に冷却水を流入することが可能である。
【0074】
次に、図4および図5により、流路内部の多孔質壁面からの気泡42の流入に対する、流路サイズの作用について説明する。
【0075】
図4は、燃料電池セパレータ2の冷却水路における気泡42を示す立断面図である。図5は、気泡直径に対する気泡上昇速度を示すグラフである。
【0076】
多孔質の垂直壁を透過してきたガスは、液体と接する壁面で気泡42となり、気泡42が成長して、ある程度大きくなると浮力の作用により壁面から離れる。壁面から離れた気泡42は、単独気泡として液体内を上昇していく。壁面、冷却水、およびガスの間の界面張力と浮力の関数として前述した式(4)で与えられる。
【0077】
一度壁面を離れた気泡42は、浮力により上昇していく。この浮力の大きさは上昇距離に相当する水頭分の圧力変化のみに依存する。このため、気泡42同士が合体しなければ、気泡42の大きさの変化はわずかである。通常の上昇管の場合には、気泡42同士の合体が生ずる条件は、ボイド率が約25%を超える場合である。本実施形態では、合体することなく単独の気泡42として上昇する。
【0078】
図5に示すように、垂直管内の単独気泡42の上昇速度は、気泡42の直径が大きくなると、これに伴い大きくなる傾向がある。しかし、気泡直径が流路断面寸法Dpに近づくにしたがって、壁面の影響を受けて減速する。本実施形態では気泡径0.3mm〜0.4mmに対して、第1冷却水流路の断面寸法Dpを0.7mmとしているため、浮力による気泡上昇速度は最大になり、気泡42の排出効率は最も高くなる。
【0079】
次に、第1冷却水流路22、入口側および出口側第2冷却水流路23、24、および入口側および出口側第3冷却水流路25、26の組合せの作用について説明する。
【0080】
気泡42は第1冷却水流路22を上昇し出口側第2冷却水流路24に突き当たり、そのまま出口側第3冷却水流路26を通過して燃料電池セパレータ2の外部に排出される。出口側第2冷却水流路24および出口側第3冷却水流路26は、水平流路である。しかし、第1冷却水流路22の流れが合流するため、出口側第2冷却水流路24および出口側第3冷却水流路26の流速は、第1冷却水流路22よりも速い。したがって、気泡42を速やかに外部に排出することが可能である。
【0081】
気泡42を排出する速度は、出口側第2冷却水流路24によって連通される第1冷却水流路22に配置される第1溝22の数、すなわち区画1つ当りの第1溝22の数によって決定される。
【0082】
入口側および出口側第2冷却水流路23、24と第1冷却水流路22との寸法の組合せは、区画内での第1冷却水流路22の第1溝21間の流量配分に影響する。すなわち、第1冷却水流路22での圧力損失が入口側および出口側第2冷却水流路23、24での圧力損失および第1冷却水流路22と入口側および出口側第2冷却水流路23、24との間の分岐または合流時の圧力損失の効果に比べて小さくなるにしたがって、第1冷却水流路22の第1溝21間の流量配分の不均一が増大する。
【0083】
第1冷却水流路22の圧損は、上述の気泡上昇速度の観点からは、流路断面寸法Dpを小さくするのに制限がある。また、入口側および出口側第2冷却水流路23、24の流速は、気泡排除の点からなるべく大きくとる必要がある。したがって、入口側および出口側第2冷却水流路23、24の断面寸法を大きくすること、および分岐数すなわち区画あたりの第1冷却水流路22の第1溝21の数を少なくすること、の双方を満足するように最適化する必要がある。
【0084】
本実施形態では、入口側および出口側第2冷却水流路23、24の断面積は第1冷却水流路22の断面積の約2倍としている。
【0085】
流路面内の各区画31、32、33、34間の流量配分を均一化するためには、入口側および出口側第3冷却水流路25、26の寸法を最適化する必要がある。本実施形態では、各区画31、32、33、34の間で入口側および出口側第3冷却水流路25、26の長さを揃えること、および第1冷却水流路22の圧損より入口側および出口側第3冷却水流路25、26の圧損をより大きく取ることによって、均一化が図られている。
【0086】
図6は、本実施形態における燃料電池スタックの運転時間と冷却水流量の関係を示すグラフである。
【0087】
上述のように燃料電池セパレータ2の設計を施策したにも関わらず、長期運転においては、冷却水流路13内に気泡42が堆積する場合もある。冷却水供給部15に堆積した気泡42の強制的に排除するためには、例えば図6に示すように、周期的に冷却水流量を流量Q1から流量Q3まで増加させて強制的な気泡排除を行ってもよい。
【0088】
図7は、燃料電池セパレータ2の複数の第1溝21それぞれに番号付けした番号と、その番号に対応する第1溝21に流れる冷却水流量の関係を示すグラフである。また、図8および図9は、図1および図7の比較例である。
【0089】
図8は従来型燃料電池セパレータの従来型冷却水流路部110を示す立断面図である。この従来型冷却水流路部110には、従来型燃料電池セパレータの外部から冷却水を供給する冷却水供給部15、および冷却水を外部に排出する冷却水排出部16が設けられている。
【0090】
従来型冷却水流路部110が形成される面上には、冷却水が流通する冷却水溝120が、この面に沿ってほぼ全域に複数平行に配置されている。なお、この冷却水溝120は、燃料電池スタックが組み上がった状態では、鉛直方向に延びるように形成されている。この冷却水溝120に冷却水が流通するように形成されている。
【0091】
図9は、図8に示した構成において流量を増加した場合に各冷却水溝120に流れる冷却水の量を数値解析によって示したものである。この従来の構成では流速が大きくなるにしたがって、冷却水溝120間の流量不均一が増加してしまう問題点がある。
【0092】
図9に示すように、流量Q1、流量Q2、および流量Q3は、セパレータ1枚当りの冷却水流量を示し、流量Q2および流量Q3は、それぞれ流量Q1の2.5倍および5倍の流量である。図9に示すように流量の増加にともない冷却水溝120間の流量配分が著しく不均一化していることが分かる。
【0093】
これに対して、図7に示すように、冷却水流量を増減させても第1冷却水流路22の第1溝21間の流量配分は、従来の構成に比べて均一化されていることから、気泡42の排除を確実に行なうことが可能となる。
【0094】
また、従来の例えばサーペインタイン型の流路に比較して圧損が小さくまた流量変化に対する圧損変化を小さくすることができるため、冷却水ポンプの小型化および小動力化にも寄与する。
【0095】
よって、本実施形態の燃料電池のセパレータ2、およびそれを使用した燃料電池スタックによれば、均一加湿と溝閉塞の回避において特に優れている多孔質セパレータを用いながら、燃料電池スタック内への気泡42の堆積を抑制することが可能となる。
【0096】
したがって、潜熱冷却運転を安定して継続することが可能となり、製品価値の向上に大きく寄与する。
【0097】
以上、本発明に係る実施形態について説明したが、これらは単なる例示であって、本発明はこれらに限定されるものではない。上記実施形態で例示した構成は図1の形状に限るものではなく、例えば図10に示すように、内部マニホールド方式の燃料電池スタックに図1の冷却水流路構造を適用することも可能である。
【0098】
また、上記実施形態では、燃料電池セパレータ2の冷却水流路13を4つの区画31、32、33、34に分割したが、これに限らず、複数に分割することが可能である。
【0099】
なお、上記実施形態の燃料電池セパレータ2の燃料ガス流路部6、酸化剤ガス流路部7、および冷却水流路部8は、それぞれが独立の層を形成して、3層構造となっているが、これに限らない。例えば、1つの平板の片面に燃料ガス流路11を形成し、反対面に冷却水流路13を形成してもよい。
【符号の説明】
【0100】
1…単位セル、2…燃料電池セパレータ、3…固体分子電解質膜、4…酸化剤極、5…燃料極、6…燃料ガス流路部、7…酸化剤ガス流路部、8…冷却水流路部、11…燃料ガス流路、12…酸化剤ガス流路、13…冷却水流路、15…冷却水供給部、16…冷却水排出部、17…連絡溝部、21…第1溝、22…第1冷却水流路、23…入口側第2冷却水流路、24…出口側第2冷却水流路、25…入口側第3冷却水流路、26…出口側第3冷却水流路、31…第1区画、32…第2区画、33…第3区画、34…第4区画、40…反応用冷却水流通方向、42…気泡、110…従来型冷却水流路部、120…冷却水溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質を酸化剤極および燃料極により挟持して形成される単位セルと、
冷却水を供給する冷却水供給部と、複数の区画に分割されてこれらの区画それぞれには複数の第1溝が互いにほぼ平行に形成されており、これらの第1溝に前記冷却水が上方に向かって流通するように構成されている第1冷却水流路と、前記複数の区画それぞれに形成される前記第1溝に垂直な方向に延びて前記第1溝の両端部それぞれに形成される溝に前記冷却水が流通し前記第1冷却水流路と連結するように構成される第2冷却水流路と、前記第2冷却水流路と前記冷却水供給部または前記冷却水排出部とを連結し前記冷却水が流通するように構成される第3冷却水流路と、前記冷却水を排出する冷却水排出部を有する燃料電池セパレータと、
を交互に積層して形成される燃料電池スタックを具備する燃料電池発電システムの運転方法において、
前記燃料電池セパレータに一定の流量で冷却水を供給する冷却水供給工程と、
前記燃料電池セパレータに、所定の時間間隔で冷却水の流量を増減させながら供給し、前記冷却水流路部内の気泡を排出する気泡排出工程と、
を有することを特徴とする燃料電池発電システムの運転方法。
【請求項2】
前記冷却水流路の流路面は、多孔質材であることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池スタック。
【請求項3】
前記流路面を構成する多孔質材の平均気孔径をd、前記冷却水の表面張力をσ、前記冷却水と冷却水流路の接触面における前記冷却水の接触角をθ、重力加速度をg、前記冷却水の密度をρ、前記冷却水内に混入するガスの密度をρG、とするとき、
前記第1冷却水流路の前記冷却水の流通方向に垂直な断面の最小寸法は、
=[4dσsinθ/g(ρ−ρG)]1/3
で規定される値Dよりも大きいことを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料電池スタック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−101949(P2013−101949A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−286951(P2012−286951)
【出願日】平成24年12月28日(2012.12.28)
【分割の表示】特願2007−310661(P2007−310661)の分割
【原出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(301060299)東芝燃料電池システム株式会社 (358)
【Fターム(参考)】