説明

燃料電池酸素濃度計測装置

【課題】燃焼電池内の酸素濃度の計測時間を短縮する。
【解決手段】カメラ22により撮像された蛍光画像を取り込んで酸素濃度分布の演算処理を行なう演算処理部24が設けられている。演算処理部24は、演算を行なう演算手段28のほか、蛍光画像取込み・保持部26、検量線選択手段30、マスキング手段32、検量線保持部34及びマスクマップ保持部36を備えている。蛍光画像取込み・保持部26はカメラ22の撮像した蛍光画像を取り込み、保持しておくものである。マスキング手段32は蛍光画像取込み・保持部26が取り込んだ蛍光画像のうち、酸素濃度の演算処理を行なう必要のない部分を演算対象点から除外するマスキング処理を行なうものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池やダイレクトメタノール形燃料電池の電池特性や電池寿命の研究及び評価に使用する燃料電池反応計測装置、具体的には燃料電池酸素濃度計測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
白金ポルフィリンなどの蛍光体は、励起光を照射すると蛍光を発し、その蛍光の強度は周辺の酸素濃度によって変化し、酸素濃度が高くなるほど蛍光強度が弱まることが知られている。このような蛍光体の特性を利用し、燃料電池セル内の酸素濃度分布を計測することが提案され(特許文献1参照。)、実施もなされている。
【0003】
具体的には、燃料電池セルの酸素を流通させるための酸素流路内に蛍光体を塗布するなどして固定し、その蛍光体に励起光を照射し、蛍光体から発せられる蛍光を撮像してその強度を検出し、酸素流路内の酸素濃度分布を計測する。酸素流路内の酸素濃度分布を計測することで、燃料電池セル内における酸素の消費状況を観測することができ、燃料電池の性能等を評価することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4677604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、燃料電池は高効率化と高出力化のため、燃料電池内の燃料用流路及び酸素用流路の構造の複雑化と燃料電池の大型化が進んでいる。そのため、燃料電池セル内の酸素の消費状況を詳細に観測するには、高い解像度を備えたカメラを用いて撮像することが必要である。しかし、高い解像度で蛍光画像を撮像すると、酸素濃度分布を演算するためのデータ量が多くなり、データ処理に要する時間が長くなる。これにより、蛍光画像を撮像しながら酸素濃度分布を表示するリアルタイム表示が困難になるという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、燃焼電池内の酸素濃度の計測時間を短縮することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の燃料電池酸素濃度計測装置は、電解質層を挟んでアノード電極とカソード電極が対向配置され、カソード電極側に酸素を流通させるための酸素流路が形成された酸素流路面をもつ酸素流通部が設けられ、酸素濃度により光特性が変化する蛍光体からなる酸素モニタ物質が酸素流路に固定されている燃料電池セルの酸素流路面の酸素濃度分布を計測する装置であって、酸素流路面に酸素モニタ物質を励起させるための励起光を照射する励起光照射部と、燃料電池セルの酸素流路面からの蛍光画像を撮像する撮像部と、撮像部が撮像した酸素流路面の蛍光画像を取り込み、酸素流路面の酸素濃度分布を演算する演算処理部と、を備え、演算処理部は、酸素流路面の蛍光画像のうち酸素流路以外の部分をマスク領域とするマスクマップを保持するマスクマップ保持部、マスクマップを用いて酸素流路面の蛍光画像のうち酸素流路以外の部分を酸素濃度分布の演算対象から除外するマスキング処理を行なうマスキング手段、蛍光画像において各画素についての蛍光強度と酸素濃度との相関関係を表わす検量線を保持する検量線保持部及びマスキング処理後の蛍光画像から検量線保持部に保持された検量線に基づいて各画素の酸素濃度を求めて酸素濃度分布を求める演算手段を備えているものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の燃料電池酸素濃度計測装置では、撮像部が撮像した酸素流路面の蛍光画像を取り込み、酸素流路面の酸素濃度分布を求める演算処理部が、酸素流路面の蛍光画像のうち酸素流路以外の部分をマスク領域とするマスクマップを保持するマスクマップ保持部、マスクマップを用いて酸素流路面の蛍光画像のうち酸素流路以外の部分を酸素濃度分布の演算対象から除外するマスキング処理を行なうマスキング手段及びマスキング処理後の蛍光画像の酸素濃度分布の演算を行なう演算手段を備えているので、撮像部が撮像した蛍光画像のうち、酸素流路部分のみについて酸素濃度の演算が行なわれるようになる。これにより、従来に比べて演算手段が行なうデータ処理量が低減され、酸素濃度の演算に要する時間が短縮される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】燃料電池酸素濃度計測装置の一実施例の概略構成図である。
【図2】カメラにより撮像される燃料電池セルの酸素流路部分の一例を示す図である。
【図3】マスクマップの一例を示す図である。
【図4】酸素モニタ物質の発光強度と酸素分圧との相関関係を表わす検量線の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
燃料電池セルの酸素流路に固定されている酸素モニタ物質としては、励起光として400nm付近の光を照射すると650nm付近の蛍光を発する蛍光体が使用される。この燃料電池酸素濃度計測装置は、酸素モニタ物質の発する蛍光の強度は酸素分圧が高くなるほど弱くなる酸素消光の現象を利用したものである。酸素消光は、蛍光体の励起エネルギーが酸素分子によって奪われ、蛍光体が光を放射せずに基底状態に戻るためであり、理論的には次式のStern-Volmerの関係式に従うことが知られている。
【数1】

ここで、Pは酸素分圧、Prefは基準データの酸素分圧、Iは発光強度、Irefは基準データの発光強度である。
【0011】
酸素モニタ物質の発光強度と酸素分圧との相関関係を示す検量線は予め測定されて装置に保持されている。発光強度と酸素分圧との相関関係は図4に示されているような形状をとるため、従来は常に上記のStern-Volmerの関係式によって近似されていた。この検量線によって各計測点の蛍光強度の計測値から各計測点の酸素分圧が求められ、酸素流路面全体の酸素濃度分布が求められる。
【0012】
3次式で近似したStern‐Volmerの関係式による検量線を用いて酸素分圧の演算を行なうと次数が高いことから、演算処理が複雑になる。酸素流路面を撮像する撮像部を高解像度にした場合、酸素分圧の演算を行なう計測点の数が膨大になり、その膨大な数の計測点すべてについて3次式で近似された検量線を用いて演算を行なうと、酸素流路面全体の酸素濃度分布の演算処理に長時間を要することになる。例えば1画面を構成する画素数が(1000×1000)であるとすると、1画面を構成するには106個の画素それぞれの検量線が保持され、画素ごとに検量線を用いて酸素濃度が計算される。
【0013】
酸素流路における酸素の消費傾向を大まかに知りたいようなときは、各計測点についての酸素濃度の演算がある程度の精度で行なわれればよい場合がある。このような場合には、必ずしも3次式で近似された検量線を用いて演算される必要はなく、3次式よりも次数の低い1次式や2次式で近似された検量線を用いて演算しても問題がないことがある。また、検量線の直線に近い領域を用いて酸素濃度を求める場合にも上記と同様の演算をおこなうことに問題はない。1次式や2次式の検量線を用いた演算は3次式の検量線を用いて演算よりも簡略化されるため、酸素濃度の演算処理に要する時間が短くなる。
【0014】
そこで、本発明の燃料電池酸素濃度計測装置の好ましい実施形態では、検量線保持部は1次式又は2次式により近似した低次検量線と3次式により近似した高次検量線を保持しており、演算処理部は、低次検量線又は高次検量線のいずれかの検量線を選択する検量線選択手段をさらに備えており、演算手段は検量線選択手段により選択された検量線を用いて各画素の酸素濃度を求める。この実施形態では、必要な測定精度に応じて使用する検量線の次数が選択されるようになっている。これにより、求める酸素濃度分布がそれほどの精度を必要としないような場合に1次式又は2次式で近似した低次検量線を使用することで、各計測点の酸素濃度の演算処理を簡略化し、演算処理に要する時間を短縮することができる。
【0015】
以下に、燃料電池酸素濃度計測装置の一実施例について図面を参照しながら説明する。図1は燃料電池酸素濃度計測装置の一実施例の概略構成図であり、図2は酸素流路面の一例を示す図である。
燃料電池セル16の酸素を流通させるための酸素流路が形成された酸素流路面に酸素モニタ物質18が固定されている。燃料電池セル16の酸素流路面は、図2に示されているように、蛇行した酸素流路40が形成された面である。酸素モニタ物質18は酸素流路18の底部に固定されており、400nm付近の光が照射されることで励起され、650nm付近の蛍光を発する。
【0016】
レーザ光を発する光源2が燃料電池セル16側へレーザ光を発する向きに配置されている。光源2と燃料電池セル16との間には、ハーフミラー4、シャッタ8、拡散フィルタ10、レンズ12及びダイクロックミラー14が光源2側から順に配置されている。光源2、ハーフミラー4、シャッタ8、拡散フィルタ10及びレンズ12は、酸素モニタ物質18に励起光を照射するための励起光照射部を構成している。ハーフミラー4は光源2からの光の一部を反射させ、残りを透過させるものである。ハーフミラー4で反射した光を受光する位置に光検出器6が配置されており、光源2の発光強度が監視されている。
【0017】
ダイクロックミラー14は例えば450nm未満の波長の光を透過させ、600nm以上の波長の光を反射させるものである。励起波長成分はダイクロックミラー14を透過して燃料電池セル16の酸素モニタ物質18に照射され、酸素モニタ物質18が励起されて波長650nm付近の蛍光を発する。
【0018】
酸素モニタ物質18が発した蛍光の画像を撮像するための撮像部としてカメラ22が設けられている。酸素モニタ物質18が発した蛍光はダイクロックミラー14で反射し、さらにミラー20で反射してカメラ22に導かれる。カメラ22の解像度は100万画素程度である。
【0019】
カメラ22により撮像された蛍光画像を取り込んで酸素濃度分布の演算処理を行なう演算処理部24が設けられている。演算処理部24は、演算を行なう演算手段28のほか、蛍光画像取込み・保持部26、検量線選択手段30、マスキング手段32、検量線保持部34及びマスクマップ保持部36を備えている。
【0020】
蛍光画像取込み・保持部26はカメラ22の撮像した蛍光画像を取り込み、保持しておくものである。マスキング手段32は蛍光画像取込み・保持部26が取り込んだ蛍光画像のうち、酸素濃度の演算処理を行なう必要のない部分を演算対象点から除外するマスキング処理を行なうものである。
【0021】
マスキング手段32が行なうマスキング処理について説明する。
カメラ22の撮像した蛍光画像は、図2に示した燃料電池セル16の酸素流路面38の全面を撮像したものである。この蛍光画像について詳細な酸素濃度分布を得ようとした場合には、この蛍光画像のドット数分の点について酸素濃度の演算を行なう必要がある。しかし、この蛍光画像には、本来は酸素濃度の演算を行なう必要のない酸素流路40以外の部分が含まれている。
【0022】
そこで、図3に示されているマスクマップを使用してカメラ22から取り込んだ蛍光画像にマスキング処理を施す。マスクマップはマスクマップ保持部36に保持されている。図3のハッチング部分は酸素流路40以外の領域である。このマスクマップをカメラ22から取り込んだ蛍光画像に重ね合わせ、酸素流路40以外の領域を酸素濃度の演算対象領域から除外する。これにより、酸素濃度の演算対象領域が減少し、酸素濃度分布の演算に要する時間が短縮される。
【0023】
マスクマップは、以下の方法により作成することができる。
燃料電池セル内の流路部分にのみ蛍光試薬(酸素モニタ物質)を塗布されている場合、酸素流路面全体に励起光を照射すると酸素流路部分のみから蛍光が発せられるため、酸素流路面全体に励起光を照射したときの蛍光画像を撮像し、その画像上において蛍光が発せられている画素と発せられていない画素の2値化処理を行ない、マスク領域を画定する。2値化処理は、例えばマスクする全画素(蛍光の発せられていない画素)の値を0、マスクしない全画素(蛍光の発せられている画素)の値を1とする。なお、マスクマップはカメラで取得する画像サイズを同じサイズとする。
【0024】
また、燃料電池セル内の酸素流路面全面に蛍光試薬(酸素モニタ物質)が塗布されている場合には、酸素流路に塗布されている蛍光試薬は酸素流路内の酸素濃度によって発せられる蛍光量が変化するのに対し、酸素流路以外の部分に塗布されている蛍光試薬は酸素流路内の酸素濃度が変化しても一定であることを利用することができる。
すなわち、照射する励起光の強度が同じで酸素分圧の異なる条件についての酸素流路面全体の蛍光画像を取得し、それらの蛍光画像の解析により全画素についての蛍光強度の差分を求め、蛍光強度の変化している画素を酸素流路、蛍光強度の変化していない画素を酸素流路以外とし、2値化処理によりマスク領域を画定する。
【0025】
また、燃料電池セルの酸素流路面の画像を取得し、その画像から画像処理用のソフトウェア等を用いてマスクマップのレイアウトを作成することも可能である。事前に酸素流路のパターンが判明している場合には、CADデータ等を用いてマスクマップを作成することも可能である。
【0026】
以上のようにして作成したマスクマップを使用し、測定時に取得した蛍光画像に対してこのマスクマップとの論理積をとる。2値化処理されたマスクマップを使用することで、マスク領域に該当する画素の値は0であり、値が0の画素については酸素濃度の計算をしないことと検量線情報をもたないこととすることで、酸素濃度分布を求める演算処理の軽減を実現することができる。
【0027】
検量線選択手段30は、演算手段28が蛍光画像の各画素の酸素濃度の演算に使用する検量線を選択するよう構成されている。検量線はカメラの撮像画像の各画素ごとに予め作成されており、検量線保持部34に保持されている。検量線保持部32には、下の3次式(1)により近似された検量線、2次式(2)により近似された検量線及び1次式(3)により近似された検量線が保持されている。酸素濃度分布を高精度に求めるときには3次式(1)により近似された検量線を選択し、それほどの精度を必要としない場合には2次式(2)又は1次式(3)により近似された検量線を選択するよう構成されている。酸素濃度分布に求める精度は装置の操作者により設定される。
【数1】

【数2】

【数3】

【0028】
検量線は表示される画面の全ての画素について同じ次数(3次式、2次式又は1次式)のものが選択されるようになっていてもよく、表示画面によって次数が異なるように選択できるようになっていてもよい。
【0029】
演算手段28は、マスキング手段32によりマスキング処理が施された蛍光画像に基づき、検量線選択手段30により選択された検量線を使用して蛍光画像の各画素について酸素濃度を求め、酸素流路40についての酸素濃度分布を作成する。作成した酸素濃度分布は例えばPCモニタなどの表示装置に即時に出力し、リアルタイム表示を行なう。
【0030】
なお、演算処理部24に検量線選択手段30は必ずしも設けられている必要はなく、常に上記3次式(1)により近似された検量線を用いて演算手段28が酸素濃度を求める演算を行なうようになっていてもよい。
また、燃料電池セル16の酸素流路面38の画像は、必ずしもカメラ22による一度の撮像で得られたものである必要はなく、複数回の撮像で得られた酸素流路面38の各部分の画像を合成して得られたものであってもよい。
【符号の説明】
【0031】
2 光源
4 ハーフミラー
6 光検出器
8 シャッタ
10 拡散フィルタ
12 レンズ
14 ダイクロックミラー
16 燃料電池セル
18 酸素モニタ物質
20 ミラー
22 カメラ
24 演算処理部
26 蛍光画像取込み・保持部
28 演算手段
30 検量線選択手段
32 マスキング手段
34 検量線保持部
36 マスクマップ保持部
38 酸素流路面
40 酸素流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質層を挟んでアノード電極とカソード電極が対向配置され、前記カソード電極側に酸素を流通させるための酸素流路が形成された酸素流路面をもつ酸素流通部が設けられ、酸素濃度により光特性が変化する蛍光体からなる酸素モニタ物質が前記酸素流路に固定されている燃料電池セルの前記酸素流路面の酸素濃度分布を計測する装置であって、
前記酸素流路面に前記酸素モニタ物質を励起させるための励起光を照射する励起光照射部と、
前記燃料電池セルの前記酸素流路面からの蛍光画像を撮像する撮像部と、
前記撮像部が撮像した前記酸素流路面の蛍光画像を取り込み、前記酸素流路面の酸素濃度分布を演算する演算処理部と、を備え、
前記演算処理部は、前記酸素流路面の蛍光画像のうち前記酸素流路以外の部分をマスク領域とするマスクマップを保持するマスクマップ保持部、前記マスクマップを用いて前記酸素流路面の蛍光画像のうち前記酸素流路以外の部分を酸素濃度分布の演算対象から除外するマスキング処理を行なうマスキング手段、蛍光画像において各画素についての蛍光強度と酸素濃度との相関関係を表わす検量線を保持する検量線保持部及び前記マスキング処理後の蛍光画像から前記検量線保持部に保持された検量線に基づいて各画素の酸素濃度を求めて酸素濃度分布を求める演算手段を備えている燃料電池酸素濃度計測装置。
【請求項2】
前記検量線保持部は1次式又は2次式により近似した低次検量線と3次式により近似した高次検量線を保持しており、
前記演算処理部は、前記低次検量線又は高次検量線のいずれかの検量線を選択する検量線選択手段をさらに備えており、
前記演算手段は前記検量線選択手段により選択された検量線を用いて各画素の酸素濃度を求めるものである請求項1に記載の燃料電池酸素濃度計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−108811(P2013−108811A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253168(P2011−253168)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】