説明

燃料電池

【課題】長期にわたり高い発電性能を維持できる膜電極接合体および燃料電池を提供する。
【解決手段】本発明の膜電極接合体1は、アノード触媒層5と、前記アノード触媒層5に積層されたアノードガス拡散層6と、カソード触媒層7と、前記カソード触媒層7に積層されたカソードガス拡散層8と、前記カソード触媒層7及び前記アノード触媒層5の間に配置された電解質膜4とを具備し、前記カソード触媒層7は、撥水性を有する炭素材料担体と、前記炭素材料担体に担持される触媒粒子と、固体高分子電解質とを含み、前記カソード触媒層7中の前記固体高分子電解質の含有量は16.7〜28.6重量%であり、且つ発電後における前記カソード触媒層7と前記カソードガス拡散層8との間の剥離強度が0.256〜0.36N・cm−2であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜電極接合体及び燃料電池に関するもので、特に小型の固体高分子型燃料電池に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー問題や環境問題を背景とした社会的要求や動向に呼応して、燃料電池が車両用駆動源および定置型電源として注目されている。燃料電池は、電解質の種類や電極の種類等により種々のタイプに分類される。代表的なものとしては、アルカリ型、リン酸型、溶融炭酸塩型、固体電解質型、固体高分子型が挙げられる。この中でも、低温(通常100℃以下)で作動可能な直接メタノール型燃料電池(DMFC:Direct Methanol Fuel Cell)が注目を集めており、近年、小型携帯機器の動力源としての開発および実用化が進んでいる。
【0003】
DMFCの主発電部は、一般的に、膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)と呼ばれる。このMEAは、通常、アノードガス拡散層、アノード触媒層、電解質膜、カソード触媒層、およびカソードガス拡散層がこの順序で積層された構造を有する。発電反応は、触媒、当該触媒を担持するカーボン、および固体高分子を含む触媒層において進行する。
【0004】
具体的には、アノード触媒層では燃料ガスの酸化反応が進行し、プロトンおよび電子が生成する。このプロトンは電解質膜を通過してカソード触媒層に到達し、一方、電子は外部回路を通ってカソード触媒層に到達する。そして、カソード触媒層に供給される空気中の酸素分子が、カソード触媒層において前記プロトンおよび前記電子と反応し、還元されて水を生成する。
【0005】
実用的な燃料電池とするためには、長期にわたり高い発電性能を有するMEAが必要となる。これは、電極の構造維持、触媒層とガス拡散層との密着性の向上等により達成することができると考えられる。
【0006】
ところで、特許文献1には、電解質層上に形成される燃料電池用電極であって、電解質と、所定のカーボン粒子を1400℃〜1700℃の範囲内の所定の温度で加熱処理することにより自身の撥水性が高められた担持用カーボン粒子上に触媒金属を担持した触媒粒子と、が混合されて形成される触媒層からなることを特徴とする燃料電池用電極が開示されている。この燃料電池用電極は、電極が膨張することなく(体積を大きくすることなく)電極内部の撥水性が高められ、発電性能を向上させたことを特徴とする。
【0007】
また、特許文献2には、優れた初期電池特性と耐久電池特性とを得るために、触媒層と撥水性導電層間の剥離強度を0.2〜4.0gf/cmとした燃料電池用膜電極接合体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−41482号公報
【特許文献2】特開2005−71755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、長期にわたり高い発電性能を維持できる膜電極接合体および燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る膜電極接合体は、アノード触媒層と、前記アノード触媒層に積層されたアノードガス拡散層と、カソード触媒層と、前記カソード触媒層に積層されたカソードガス拡散層と、前記カソード触媒層及び前記アノード触媒層の間に配置された電解質膜と
を具備し、前記カソード触媒層は、撥水性を有する炭素材料担体と、前記炭素材料担体に担持される触媒粒子と、固体高分子電解質とを含み、前記カソード触媒層中の前記固体高分子電解質の含有量は16.7〜28.6重量%であり、且つ発電後における前記カソード触媒層と前記カソードガス拡散層との間の剥離強度が0.256〜0.36N・cm−2であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、長期にわたり高い発電性能を維持できる膜電極接合体および燃料電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係る燃料電池に用いる膜電極接合体の拡大断面図。
【図2】図1の膜電極接合体を用いる燃料電池を示す内部透視断面図。
【図3】図2の燃料電池の燃料分配機構を示す斜視図。
【図4】実施例1〜3および比較例3,4におけるカソード触媒層中の固体高分子電解質の割合を変化させた際の出力維持率と剥離強度との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施形態に係る燃料電池に用いる膜電極接合体の拡大断面図である。
【0015】
膜電極接合体1は、アノード2、カソード3及び電解質膜4を有する。膜電極接合体1の中央には、電解質膜4が配置される。電解質膜4の一方の側には、アノード触媒層5、およびアノードガス拡散層6がこの順序で積層され、アノード2が形成されている。また、電解質膜4の他方の側には、カソード触媒層7およびカソードガス拡散層8がこの順序で積層され、カソード3が形成されている。
【0016】
アノード触媒層5およびカソード触媒層7は、いずれも、触媒およびプロトン伝導性を有する固体高分子電解質を含有する。本発明において、カソード触媒層7は、撥水性を有する炭素材料担体と、該炭素材料担体に担持される触媒粒子と、固体高分子電解質とを含むことを特徴とする。また、カソード触媒層7中に含まれる固体高分子電解質の割合を所定の範囲に調節したこと、および発電後におけるカソード触媒層7とカソードガス拡散層8との間の剥離強度を向上させたことを特徴とする。
【0017】
発電によりカソード触媒層内部で生成した水を保持することが重要である。これは、カソード触媒層中の水を電解質膜を介してアノード触媒層に供給し、アノード触媒層での触媒反応を促進するためである。しかしながら、長期間に亘る発電ではカソード触媒層内の水の保持状態が経時的に変化するので、電解質膜とカソード触媒層またはカソード触媒層とカソードガス拡散層との間の密着強度が低下しやすく、酸素ガス供給が阻害されることで出力の低下が発生する。ガス拡散層に撥水性処理を施していることも、密着強度が低下する要因の一つである。
【0018】
そこで、本発明では、カソード触媒層7中に含まれる固体高分子電解質の割合を16.7〜28.6重量%の範囲にする。この理由は以下の通りである。固体高分子電解質の割合を16.7重量%未満にすると、電極内で生成した水により、長期評価において電極と電解質膜との密着強度が低下する。一方、固体高分子電解質の割合が28.6重量%を超えると、固体高分子電解質の割合が多いために、カソード触媒層とカソードガス拡散層の間に水が貯まりやすく、密着強度が低下する。
【0019】
また、本発明では、発電後におけるカソード触媒層とカソードガス拡散層との間の剥離強度を0.256〜0.36N・cm−2にする。固体高分子電解質の割合が16.7〜28.6重量%の範囲であっても、剥離強度が0.256N・cm−2未満であるものは、長期における評価において電極と電解質膜との密着性が低下し、また、0.36N・cm−2を超えるものは、酸素ガス供給が阻害されるからである。
【0020】
よって、カソード触媒層中に含まれる固体高分子電解質の割合を16.7〜28.6重量%の範囲にすると共に、発電後におけるカソード触媒層とカソードガス拡散層との間の剥離強度を0.256〜0.36N・cm−2にすることにより、カソード触媒層の水保持状態の変化を小さくすることができ、撥水性を有するガス拡散層を用いても高い密着強度を得ることが可能である。また、カソードへの酸素ガスの供給が円滑になる。
【0021】
さらに、触媒を担持するための炭素材料担体が撥水性を有することにより、カソードにおける酸素透過性が改善され、酸素ガスと触媒との接触がスムーズに行われる。その結果として、カソード触媒層における触媒反応の効率が上がる。
【0022】
上記構成によれば、カソードにおける酸素透過性の向上、カソード触媒層とカソードガス拡散層の密着性の向上、およびカソード触媒層における水分の保持能力の向上の結果として、長期にわたり高い発電性能を維持することが可能な膜電極接合体を提供できる。
【0023】
なお、剥離強度は、膜電極接合体のプレス条件、高分子電解質の量、撥水性触媒担持カーボンの量等により調節することができる。
【0024】
アノード触媒層5およびカソード触媒層7に含まれる触媒を担持するための炭素材料担体としては、粒子状のカーボン材料または繊維状のカーボン材料を使用することができる。繊維状カーボン材料の直径(外径)は、好ましくは5〜500nm程度であり、より好ましくは20〜200nmである。直径(外径)があまり小さいと炭素繊維が現実的に入手困難であり、一方、直径(外径)があまり大きいと塗布形成後の表面が凹凸になり、他層との接触面に不必要な抵抗が生じるおそれがあるからである。また、繊維状カーボン材料のアスペクト比(外径/長さの比)は、5〜200であることが好ましい。繊維状カーボン材料の具体例としては、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノコイル、カーボンシルク、気相成長炭素繊維等が挙げられる。
【0025】
粒子状カーボン材料のアスペクト比は、5以下であることが好ましい。粒子状カーボン材料の具体例としては、粒子状の黒鉛(例えば、天然黒鉛や人工黒鉛)、カーボンブラックが挙げられる。さらにカーボンブラックとしては、オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック等が挙げられる。炭素材料担体は、これらの繊維状または粒子状カーボン材料を1種類または複数種類使用して構成される。
【0026】
上述したように、本発明では、カソード触媒層に含まれるカーボン材料に撥水性を持たせたことを特徴とする。カーボン材料を1500〜2000℃の範囲内の所定の温度で加熱処理することにより、撥水性を持たせることができる。加熱処理時間は、5〜15時間の範囲内であることが好ましく、9〜11時間の範囲内であることがより好ましい。
【0027】
撥水性を有する炭素材料担体と該炭素材料担体に担持される触媒粒子とからなる触媒担持カーボン(以下、撥水性触媒担持カーボンとも称する)の量は、カソード触媒層に含まれる触媒担持カーボン全体の少なくとも50重量%であり、好ましくは100重量%である。撥水性の触媒担持カーボンを50重量%以上含有することにより、本発明の目的を達成するのに十分な酸素透過性を有するカソード触媒層とすることができる。
【0028】
アノード触媒層5およびカソード触媒層7に含まれる触媒としては、少なくとも一元素以上の貴金属または該貴金属の合金触媒を使用することができる。触媒成分の具体的な組成は特に限定されないが、例えば、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム、銅、および銀等の金属、ならびにこれらの金属からなる合金が挙げられる。特定の組成を有する1種の触媒成分のみが触媒層に含まれてもよいし、組成の異なる2種以上の触媒成分が含まれてもよい。また、アノード触媒層5およびカソード触媒層7に含まれる触媒成分は、同一であっても異なってもよい。
【0029】
アノード触媒層5は、触媒活性の観点から、白金、白金合金、パラジウム合金等を多く含むことが好ましい。一方、カソード触媒層7は、触媒活性の観点から、白金または白金合金(例えば、白金−イリジウム合金もしくは白金−ロジウム合金)を多く含むことが好ましい。
【0030】
アノード触媒層5およびカソード触媒層7に含まれる固体高分子電解質には、プロトンを輸送可能な有機系材料あるいは無機系材料を使用することができる。触媒層に含まれる電解質は、発電の進行に伴って、アノード触媒層5から電解質膜4、カソード触媒層7へと移動するプロトンの移動度を向上させる役割を果たす。プロトン伝導性を有する電解質としては、例えばスルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体のようなフッ素系樹脂、スルホン酸基を有する炭化水素系樹脂等の有機系材料、あるいはタングステン酸やリンタングステン酸等の無機系材料が挙げられる。電解質は、具体的には、ナフィオン(商品名、デュポン社製)、フレミオン(商品名、旭硝子社製)、アシプレックス(商品名、旭化成工業社製)等により構成される。なお、プロトン伝導性を有する電解質は、これらに限られるものではなく、例えば、トリフルオロスチレン誘導体の共重合体、リン酸を含浸させたポリベンズイミダゾール、芳香族ポリエーテルケトンスルホン酸、あるいは脂肪族炭化水素系樹脂などのプロトンを輸送可能な電解質で構成することができる。
【0031】
触媒層は、図1に示すような1層構造である必要はなく、2層以上を有する多層構造であってもよい。
【0032】
次に、触媒層以外の構成部材について説明する。
【0033】
電解質膜4は、アノード触媒層5とカソード触媒層7との間に配置されるプロトン伝導性の膜である。電解質膜4に含まれる電解質としては、上記で挙げたようなプロトン伝導性を有する電解質を使用することができる。
【0034】
アノードガス拡散層6およびカソードガス拡散層8は、触媒層の電解質膜と対向する面に、電解質膜および触媒層を挟持するようにそれぞれ積層される。すなわち、アノードガス拡散層6は、アノード触媒層5の電解質膜4側とは反対側の面に積層される。一方、カソードガス拡散層8は、カソード触媒層7の電解質膜4とは反対側の面に積層される。全体としては、図1に示すように、ガス拡散層によって、電解質膜および触媒層が挟持される。その結果、アノードガス拡散層6/アノード触媒層5/電解質膜4/カソード触媒層7/カソードガス拡散層8の順に配置された積層体が得られる。
【0035】
アノードガス拡散層6は、アノード触媒層に燃料を均一に供給する役割を果たしていると共に、アノード触媒層の集電体としても機能している。カソードガス拡散層8は、カソード触媒層に酸化剤を均一に供給する役割を果たすと同時に、カソード触媒層の集電体としても機能している。
【0036】
ガス拡散層は、一般的に、多孔性の材料からなる。アノードガス拡散層6およびカソードガス拡散層8は、カーボンペーパ、カーボンクロス、不織布、炭素製の織物、紙状抄紙体、フェルトなどからなるシート状材料等で構成される。
【0037】
ガス拡散層は、電子伝導性、撥水性等の機能を示すことが好ましい。ガス拡散層が優れた電子伝導性を有していると、発電反応により生じた電子が効果的に運搬され、燃料電池の発電性能が向上する。また、ガス拡散層が優れた撥水性を有していると、生成した水が効率的に排出される。高い撥水性を確保するために、ガス拡散層を構成する材料を撥水化処理する技術も提案されている。例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系樹脂を含む溶液中にカーボンペーパなどのガス拡散層を構成する材料を含浸させ、大気中または窒素等の不活性ガス中で乾燥させる手法がある。
【0038】
続いて、上記構成部材からなる膜電極接合体を製造する方法について説明する。
【0039】
まず、ガス拡散層の上に触媒層を形成し、電極とする。触媒層を形成するために、触媒スラリーを調製する。この触媒スラリーは、例えば、触媒担持カーボンと、固体高分子電解質と、必要な添加剤とを溶媒に添加し、混合することにより調製される。触媒担持カーボンを構成する触媒成分およびカーボン材料、ならびに固体高分子電解質の具体的な構成については、上述した通りである。触媒スラリーを調製するための溶媒としては、水のほか、イソプロピルアルコール等のアルコールを使用することができる。また、触媒スラリーの特性を改善する目的で、添加剤として、エチレングリコール、プロピレングリコール等を使用してもよい。触媒スラリー中の各成分の配合量は特に制限されず、得られる膜電極接合体の触媒層における各成分の好ましい配合比を考慮して適宜調節することができる。
【0040】
続いて、上記で調製した触媒スラリーを、ガス拡散層の上に塗布する。塗布する触媒スラリーの量および塗布手段に特に制限はなく、得られる触媒層の大きさ、厚さ等を考慮して適宜設定することができる。一般的には、膜電極接合体完成後の触媒層の塗布量が、膜電極接合体の積層面の単位面積当り5〜50mg/cm程度になるように塗布するとよい。触媒スラリー塗布後、乾燥することにより、触媒層が得られる。
【0041】
上記のようにして得られたアノード触媒層およびカソード触媒層の間に、別途準備した電解質膜が配置されるように、各層を積層する。続いて、積層方向に熱をかけながらプレスすることにより、膜電極接合体が完成する。ホットプレス処理により、各層間の接合性に優れた膜電極接合体が得られる。ホットプレスの具体的な手段および条件は、特に制限されない。例えば、ホットプレス温度は100〜200℃であり、好ましくは110〜170℃である。また、プレス圧力は、積層体の積層面に対して40〜80kg/cm程度にすればよい。
【0042】
ここで、(1)カソード触媒層とカソードガス拡散層との間の剥離強度、(2)カソード触媒層中に含まれる固体高分子電解質の割合、および(3)炭素材料担体の撥水性の測定方法について説明する。
【0043】
(1)剥離強度
発電したMEAから、電解質膜と電極(ガス拡散層と触媒層)をアルコール系の溶剤(具体的には、エタノール)により剥離し、分離させる。有機溶剤を使用すると、電解質膜と触媒層とをきれいに剥離することができる。その後、電極を25℃で3日間乾燥させ、触媒表面が濡れていない状態にする。表面が濡れていると、剥離試験に使用するテープの付きが悪くなるためである。乾燥させた電極の表面にテープを貼り付けて、剥離強度を測定する。
【0044】
剥離強度の測定は、ガス拡散層と触媒層との間の90°剥離試験により行う。使用する装置は、島津(SHIMADZU−AS-1S)測定装置である。剥離試験による密着強度の測定面は、測定試料のほぼ中央とし、長さ50mm×幅25mmとした。また、剥離速度は、10mm/60secとした。なお、測定試料が前記測定面より小さい場合には、最大で測定可能な面積にて測定を行うものとする。
【0045】
(2)固体高分子電解質の割合
カソード触媒層中に含まれる固体高分子電解質の割合は、カソード触媒スラリーの固形分(溶媒を除く成分)中に含まれる固体高分子電解質の割合をTG−DTAにより測定することで求められる。具体的には、発電したMEAから、電解質膜と電極(ガス拡散層と触媒層)をアルコール系の溶剤(具体的には、エタノール)により剥離し、分離させる。電極を真空乾燥後、測定試料の中央部の触媒層の粉末を剥がし取る。装置としては、TG/DTA6300を使用することができる。温度条件はR.T.〜20℃/min〜600℃、雰囲気はN(200mL/分)とする。
【0046】
TG/DTAにて温度を上昇させながら測定試料の重量変化を測定し、得られた結果から、固体高分子電解質の分解温度(ナフィオンであれば約420°)以上の温度に上昇後、すなわち固体高分子電解質分解後の重量を基準とし、加熱前の重量と分解後の重量の比から算出することができる。
【0047】
(3)撥水性
上述したように、MEAから、電解質膜と電極(ガス拡散層と触媒層)をアルコール系の溶剤(具体的には、エタノール)により剥離する。電極を25℃で3日間乾燥後、測定試料の中央部の触媒層の粉末を剥がし取る。この触媒層の粉末(50mg)を10%のアルコール水溶液に浸漬することで、水の浸透度によりカーボン材料の撥水性を調べる。親水性カーボンの場合、10%のアルコール水溶液に浸漬すると、水が浸透し、すぐに沈降する。測定対象のカーボン材料が5分以内に沈降しない場合は、撥水性カーボン材料であると判定する。
【0048】
図1に示す膜電極接合体を備えた燃料電池を図2および図3を参照して説明する。
【0049】
図2に示す燃料電池20は、膜電極接合体1と、この膜電極接合体1に燃料を供給する燃料供給部としての燃料分配機構21と、液体燃料を収容する燃料収容部22と、これら燃料分配機構21と燃料収容部22とを接続する流路23とから主として構成されている。
【0050】
膜電極接合体1において、電解質膜4と燃料分配機構21およびカバープレート24との間には、それぞれゴム製のOリング25が介在されており、これらによって膜電極接合体(MEA)1からの燃料漏れや酸化剤漏れを防止している。
【0051】
カソードガス拡散層8およびアノードガス拡散層6の外側に、それぞれ、カソード導電層およびアノード導電層を備えてもよい。あるいは、カソード導電層およびアノード導電層を設けずに、カソードガス拡散層8およびアノードガス拡散層6を拡散層として機能させるとともに、導電層として機能させてもよい。
【0052】
カバープレート24とカソード3との間には、必要に応じて保湿層が配置される。保湿層は、カソード触媒層7で生成された水の一部が含浸されて、水の蒸散を抑制すると共に、生成した水の一部をアノード側へ拡散させる機能を有する。また、カソードガス拡散層に酸化剤である空気を均一に導入し、カソード触媒層7への酸化剤の均一な拡散を促進する機能も有している。この保湿層は、例えば、ポリエチレン多孔質膜等からなる平板で構成される。
【0053】
カバープレート24は、酸化剤である空気を取り入れるための開口部を有している。カバープレート24は、空気の取り入れ量を調整するものであり、その調整は、空気導入口の個数や大きさ等を変更することで行われる。また、MEAや保湿層を加圧して密着性を高める役割も果たしている。カバープレート24は、例えば、SUS304のような金属で構成することができるが、これに限定されるものではない。このようなカバープレート24を備えることにより、酸化剤を供給するためのブロワを用いることなく、酸化剤をカソード3に自然供給することができる。なお、酸化剤は、空気に限定されるものではなく、Oを含むガスを使用可能である。
【0054】
膜電極接合体1のアノード(燃料極)2側には、燃料供給部としての燃料分配機構21が配置されている。燃料分配機構21は、配管のような液体燃料の流路23を介して燃料収容部22と接続されている。燃料分配機構21には、燃料収容部22から流路23を介して液体燃料が導入される。流路23は、燃料分配機構21や燃料収容部22と独立した配管に限られるものではない。例えば、燃料分配機構21と燃料収容部22とを積層して一体化する場合、これらを繋ぐ液体燃料の流路であってもよい。燃料分配機構21は、流路23を介して燃料収容部22と接続されていればよい。
【0055】
燃料収容部22には、膜電極接合体1に対応した液体燃料が収容されている。液体燃料としては、燃料電池セルに対応した液体燃料が収容されている。この液体燃料は、炭化水素を含むアルコール、カルボン酸およびアルデヒドからなる群から選択された一つ以上の物質の水溶液または非水溶液であることが好ましい。液体燃料として、具体的には、例えば、メタノール、エタノール、ギ酸、酢酸、ホルムアルデヒドおよびアセトアルデヒドからなる群から選択された一つ以上の物質の水溶液または非水溶液であることが好ましい。これらの液体燃料の中でも、メタノール水溶液は、炭素数が1で反応の際に発生するのが二酸化炭素であり、低温での発電反応が可能であり、産業廃棄物から比較的容易に製造することができる。そのため、液体燃料としてメタノール水溶液もしくは純メタノールを使用するのが好ましい。濃度が50mol%以上の液体燃料が好適に用いられるが、必ずしもこれに限定されない。
【0056】
液体燃料を燃料収容部22から燃料分配機構21まで送る機構は特に限定されるものではない。例えば、使用時の設置場所が固定される場合には、重力を利用して液体燃料を燃料収容部22から燃料分配機構21まで落下させて送液することができる。また、多孔体等を充填した流路23を用いることによって、毛細管現象で燃料収容部22から燃料分配機構21まで送液することができる。さらに、燃料収容部22から燃料分配機構21への送液は、図2に示すように、ポンプ26で実施してもよい。あるいは、燃料分配機構21から膜電極接合体1への燃料供給が行われる構成であれば、ポンプ26に代えて燃料遮断バルブを配置する構成とすることも可能である。この場合には、燃料遮断バルブは、流路による液体燃料の供給を制御するために設けられるものである。
【0057】
ポンプ26は、燃料収容部22から燃料分配機構21に液体燃料を単に送液する供給ポンプとして機能するものであり、燃料電池セルに供給された過剰な液体燃料を循環する循環ポンプとしての機能を備えるものではない。このポンプを備えた燃料電池は、燃料を循環しないことから、従来のアクティブ方式とは構成が異なり、従来の内部気化型のような純パッシブ方式とも構成が異なる、いわゆるセミパッシブ型と呼ばれる方式に該当する。なお、燃料供給手段として機能するポンプの種類は、特に限定されるものではないが、少量の液体燃料を制御性よく送液することができ、さらに小型軽量化が可能という観点から、ロータリベーンポンプ、電気浸透流ポンプ、ダイアフラムポンプ、しごきポンプ等を使用することが好ましい。ロータリベーンポンプは、モータで羽を回転させて送液するものである。電気浸透流ポンプは、電気浸透流現象を起こすシリカ等の焼結多孔体を用いたものである。ダイアフラムポンプは、電磁石や圧電セラミックスによりダイアフラムを駆動して送液するものである。しごきポンプは、柔軟性を有する燃料流路の一部を圧迫し、燃料をしごき送るものである。これらのうち、駆動電力や大きさ等の観点から、電気浸透流ポンプや圧電セラミックスを有するダイアフラムポンプを使用することがより好ましい。上記したようにポンプを設ける場合、ポンプは、制御手段(図示しない)と電気的に接続され、この制御手段によって、燃料供給部に供給される液体燃料の供給量が制御される。
【0058】
ここで、ポンプの送液量は、燃料電池の主たる対象物が小型電子機器であることから、10μL/分〜1mL/分の範囲とすることが好ましい。
【0059】
ポンプの送液量は10〜200μL/分の範囲とすることがより好ましい。このような送液量を安定して実現する上でも、ポンプには電気浸透流ポンプやダイアフラムポンプを適用することが好ましい。
【0060】
燃料分配機構21は、図3に示すように、液体燃料が流路23を介して流入する少なくとも1個の燃料注入口27と、液体燃料やその気化成分を排出する複数個の燃料排出口28とを有する燃料分配板29を備えている。燃料分配板29の内部には図3に示すように、燃料注入口27から導かれた液体燃料の通路となる空隙部30が設けられている。複数の燃料排出口28は燃料通路として機能する空隙部30にそれぞれ直接接続されている。
【0061】
燃料分配板29は、例えば、液体燃料の気化成分や液体燃料を透過させない材料で構成され、具体的には、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂、ポリイミド系樹脂等で構成される。ここで、燃料電池において、燃料分配機構21に導入された液体燃料は、燃料分配板29の複数の開口部から燃料電池セルに導かれ、液体燃料の気化成分がアノード(燃料極)の全面に対して供給される。このように、燃料分配板29によって、アノード(燃料極)に供給される燃料供給量を均一化することが可能となる。
【0062】
燃料注入口27から燃料分配機構21に導入された液体燃料は空隙部30に入り、この燃料通路として機能する空隙部30を介して複数の燃料排出口28にそれぞれ導かれた後、複数の燃料排出口28からアノード2の複数個所に向けて排出される。複数の燃料排出口28には、例えば液体燃料の気化成分のみを透過し、液体成分は透過させない気液分離体(図示せず)を配置してもよい。これによって、膜電極接合体1のアノード2に液体燃料の主に気化成分が供給される。なお、気液分離体は燃料分配機構21とアノード2との間に気液分離膜等として設置してもよい。
【0063】
気液分離膜は、液体燃料の気化成分と液体燃料とを分離し、その気化成分をアノード(燃料極)側に通過させるものである。この気液分離膜は、液体燃料に対して不活性で溶解しない材料でシート状に構成され、具体的には、シリコーンゴム、低密度ポリエチレン(LDPE)薄膜、ポリ塩化ビニル(PVC)薄膜、ポリエチレンテレフタレート(PET)薄膜、フッ素樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)など)微多孔膜などの材料で構成される。また、気液分離膜は、周縁から燃料などが漏れないように構成されている。
【0064】
なお、気液分離膜とアノード層との間に、樹脂製のフレーム(図示しない)を設けてもよい。フレームで囲まれた空間は、気液分離膜を拡散してきた気化燃料を一時的に収容する気化燃料収容室(いわゆる蒸気だまり)として機能するとともに、燃料電池セルとアノード層を密着させる補強板としても機能する。この気化燃料収容室および気液分離膜の透過メタノール量抑制効果により、一度に多量の気化燃料がアノード触媒層に供給されるのを回避することができる。なお、フレームは、短形のフレームで、例えばポリエーテルエーテルケトン(PEEK:ヴィクトレックス社商標)等の耐薬性の高いエンジニアリングプラスチックで構成される。
【0065】
次に、実施形態に示した燃料電池の発電反応について説明する。燃料収容部22から流路23を通って燃料分配機構21に供給された液体燃料は、液体燃料のまま、もしくは液体燃料と液体燃料が気化した気化燃料が混在する状態で燃料分配板29を通った後、気液分離膜を通り、液体燃料の気化成分のみがアノード2に供給される。アノードガス拡散層6に供給された燃料は、アノードガス拡散層6で拡散してアノード触媒層5に供給される。液体燃料としてメタノール燃料を用いた場合、アノード触媒層5では、次式(1)に示すメタノールの内部改質反応が生じる。
【0066】
CHOH+HO → CO+6H+6e ・・・(1)
メタノール燃料として純メタノールを使用した場合には、メタノールは、カソード触媒層7で生成した水や電解質膜4中の水との前記式(1)の反応により改質される。あるいは、水を必要としない他の反応機構によりメタノールを改質することも可能である。
【0067】
この反応で生成した電子(e)は、集電体を経由して外部に導かれ、いわゆる電気として電子機器等を動作させた後、カソード3に導かれる。また、式(1)の内部改質反応で生成したプロトン(H)は、電解質膜4を経てカソード3に導かれる。カソード3には、酸化剤として空気が供給される。カソード3に到達した電子(e)とプロトン(H)は、カソード触媒層7で空気中の酸素と次式(2)に示す反応を生じ、この反応により水を生成する。
【0068】
(3/2)O+6e+6H → 3HO ……(2)
上述した実施形態の燃料電池は、各種の液体燃料を使用した場合に効果を発揮し、液体燃料の種類や濃度は限定されるものではない。さらに、上述した実施形態は、燃料電池本体の構成として燃料の供給にポンプを使用したセミパッシブ型のものを例に挙げて説明したが、内部気化型のような純パッシブ型の燃料電池に対しても本発明を適用することが可能である。
【実施例】
【0069】
次に、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は、以下の実施
例に限定されない。
【0070】
(実施例1)
(1)カソード電極の作製
白金担持カーボン(カーボン担体:撥水性を有するケッチェンブラック、白金含有量:50質量%)、20質量%ナフィオン(登録商標)分散液、純水、およびイソプロピルアルコールを、1:1:2:1の質量比で混合し、ボールミルを用いて分散して、触媒スラリーを調製した。ガス拡散層となるカーボンペーパは、撥水性を有するH090(東レカーボンペーパ)を使用した。このガス拡散層の一方の面に、先に作製したカソード触媒スラリーをダイコーターで塗布した。スラリーを塗布した後、20℃にて1時間乾燥させることにより、カソード触媒層を作製した。なお、触媒層の単位面積あたりの触媒スラリーの塗布量は、7.12mg/cmとした。
【0071】
(2)アノード電極の作製
白金ルテニウム担持カーボン(カーボン担体:ケッチェンブラック、白金含有量:50質量%)、20質量%ナフィオン(登録商標)分散液、純水、およびイソプロピルアルコールを、1:6:2:1の質量比で混合し、ボールミルを用いて分散して、アノード触媒スラリーを調製した。ガス拡散層となるカーボンペーパは、カソードと同じ撥水性を有するH090(東レカーボンペーパ)を使用した。このガス拡散層の一方の面に、先に作製したアノード触媒スラリーをダイコーターで塗布した。スラリーを塗布した後、20℃にて1時間乾燥させることにより、アノード触媒層を作製した。なお、触媒層の単位面積あたりの触媒スラリーの塗布量は、41.1mg/cmとした。
【0072】
カソード触媒層とアノード触媒層の間に電解質膜を挟持して、ホットプレスすることにより、これを実施例1の膜電極接合体とした。
【0073】
(実施例2)
白金担持カーボン(カーボン担体:撥水性を有するケッチェンブラック、白金含有量:50質量%)、20質量%ナフィオン(登録商標)分散液、純水、およびイソプロピルアルコールを、1:1.5:2:1の質量比で混合し、ボールミルを用いて分散して、カソード触媒スラリーを調製した。ガス拡散層となるカーボンペーパは、撥水性を有するH090(東レカーボンペーパ)を使用した。このガス拡散層の一方の面に、先に作製したカソード触媒スラリーをダイコーターで塗布した。スラリーを塗布した後、20℃にて1時間乾燥させることにより、カソード触媒層を作製した。なお、触媒層の単位面積あたりの触媒スラリーの塗布量は、7.12mg/cmとした。
【0074】
また、アノード電極は実施例1と同様に作製した。カソード触媒層とアノード触媒層の間に電解質膜を挟持し、実施例1と同様にホットプレスを行い、実施例2の膜電極接合体とした。
【0075】
(実施例3)
白金担持カーボン(カーボン担体:撥水性を有するケッチェンブラック、白金含有量:50質量%)、20質量%ナフィオン(登録商標)分散液、純水、およびイソプロピルアルコールを、1:2:2:1の質量比で混合し、ボールミルを用いて分散して、カソード触媒スラリーを調製した。ガス拡散層となるカーボンペーパは、撥水性を有するH090(東レカーボンペーパ)を使用した。このガス拡散層の一方の面に、先に作製したカソード触媒スラリーをダイコーターで塗布した。スラリーを塗布した後、20℃にて1時間乾燥させることにより、カソード触媒層を作製した。なお、触媒層の単位面積あたりの触媒スラリーの塗布量は、7.12mg/cmとした。
【0076】
また、アノード電極は実施例1と同様に作製した。カソード触媒層とアノード触媒層の間に電解質膜を狭持し、実施例1と同様にホットプレスを行い、実施例3の膜電極接合体とした。
【0077】
(比較例1)
白金担持カーボン(カーボン担体:親水性を有するケッチェンブラック、白金含有量:50質量%)、20質量%ナフィオン(登録商標)分散液、純水、およびイソプロピルアルコールを、1:1:2:1の質量比で混合し、ボールミルを用いて分散して、カソード触媒スラリーを調製した。ガス拡散層となるカーボンペーパは、撥水性を有するH090(東レカーボンペーパ)を使用した。このガス拡散層の一方の面に、先に作製したカソード触媒スラリーをダイコーターで塗布した。スラリーを塗布した後、20℃にて1時間乾燥させることにより、カソード触媒層を作製した。なお、触媒層の単位面積あたりの触媒スラリーの塗布量は、7.12mg/cmとした。
【0078】
また、アノード電極は実施例1と同様に作製した。カソード触媒層とアノード触媒層の間に固体電解質膜を狭持し、実施例1と同様にホットプレスを行い、比較例1の膜電極接合体とした。
【0079】
(比較例2)
白金担持カーボン(カーボン担体:親水性を有するケッチェンブラック、白金含有量:50質量%)、20質量%ナフィオン(登録商標)分散液、純水、およびイソプロピルアルコールを、1:2:2:1の質量比で混合し、ボールミルを用いて分散して、カソード触媒スラリーを調製した。ガス拡散層となるカーボンペーパは、撥水性を有するH090(東レカーボンペーパ)を使用した。このガス拡散層の一方の面に、先に作製したカソード触媒スラリーをダイコーターで塗布した。スラリーを塗布した後、20℃にて1時間乾燥させることにより、カソード触媒層を作製した。なお、触媒層の単位面積あたりの触媒スラリーの塗布量は、7.12mg/cmとした。
【0080】
また、アノード電極は実施例1と同様に作製した。カソード触媒層とアノード触媒層の間に電解質膜を狭持し、実施例1と同様にホットプレスを行い、比較例2の膜電極接合体とした。
【0081】
(比較例3)
白金担持カーボン(カーボン担体:撥水性を有するケッチェンブラック、白金含有量:50質量%)、20質量%ナフィオン(登録商標)分散液、純水、およびイソプロピルアルコールを、1:0.6:2:1の質量比で混合し、ボールミルを用いて分散して、カソード触媒スラリーを調製した。ガス拡散層となるカーボンペーパは、撥水性を有するH090(東レカーボンペーパ)を使用した。このガス拡散層の一方の面に、先に作製したカソード触媒スラリーをダイコーターで塗布した。スラリーを塗布した後、20℃にて1時間乾燥させることにより、カソード触媒層を作製した。なお、触媒層の単位面積あたりの触媒スラリーの塗布量は、7.12mg/cmとした。
【0082】
また、アノード電極は実施例1と同様に作製した。カソード触媒層とアノード触媒層の間に電解質膜を狭持し、実施例1と同様にホットプレスを行い、比較例3の膜電極接合体とした。
【0083】
(比較例4)
白金担持カーボン(カーボン担体:撥水性を有するケッチェンブラック、白金含有量:50質量%)、20質量%ナフィオン(登録商標)分散液、純水、およびイソプロピルアルコールを、1:2.4:2:1の質量比で混合し、ボールミルを用いて分散して、カソード触媒スラリーを調製した。ガス拡散層となるカーボンペーパは、撥水性を有するH090(東レカーボンペーパ)を使用した。このガス拡散層の一方の面に、先に作製したカソード触媒スラリーをダイコーターで塗布した。スラリーを塗布した後、20℃にて1時間乾燥させることにより、カソード触媒層を作製した。なお、触媒層の単位面積あたりの触媒スラリーの塗布量は、7.12mg/cmとした。
【0084】
また、アノード電極は実施例1と同様に作製した。カソード触媒層とアノード触媒層の間に電解質膜を狭持し、実施例1と同様にホットプレスを行い、比較例4の膜電極接合体とした。
【0085】
<剥離試験とMEA評価結果>
カソード触媒層とカソードガス拡散層の密着強度を測定するために、90度剥離試験によって評価を行った。剥離強度は島津(SHIMADZU−AS-1S)測定装置により測定した。剥離試験による密着強度の測定面は、長さ50mm×幅25mmとした。また、剥離速度は、10mm/60secとした。膜電極接合体からのカソードの分離は、前述の方法で行った。
【0086】
剥離強度は、発電試験前と発電試験1000時間後について測定した。発電試験は、各膜電極接合体のアノード側にメタノール燃料室、カソード側を大気中に開放した状態とした評価用の燃料電池セルを製作して行った。また、発電試験前の出力値を100として、1000時間後の出力維持率を算出した。なお、出力は55℃での運転時の試験結果である。
【0087】
表1に、剥離試験により測定した密着強度とMEA評価結果を示す。また、図4は、出力維持率と剥離強度の関係を示す図である。
【表1】

【0088】
実施例1〜3では、出力維持率がよい。これは、カソード触媒層とカソードガス拡散層の密着強度が維持できていることによると考えられる。比較例3は密着強度が低いが、これは、クロスオーバーにより固体高分子電解質が劣化したためと考えられる。比較例4では固体高分子電解質の割合が多いために、触媒層とガス拡散層の間に水が貯まりやすくなり、1000時間後では性能が低下したものと考えられる。また、比較例1および2(親水性のカーボン担体)では、撥水性のカーボン担体に比べて剥離強度が低く、出力維持率も低いため、長期信頼性に劣ることが分かる。
【0089】
このように、撥水性を有するカーボン材料を使用し、カソード触媒層中の固体高分子電解質の割合を調整し、カソード触媒層とカソードガス拡散層の密着強度を高めることにより、長期にわたって高い発電性能を維持できることが分かった。
【0090】
また、本発明では、カソード触媒内で発生した水により、カソードガス拡散層とカソード触媒層の密着性に対する耐性が向上したものと考えられる。このことは、MEAおよびDMFCにおける発電性能および/または耐久性の向上に有効に寄与しうる。
【0091】
本発明は液体燃料を使用した各種の燃料電池に適用することができる。また、燃料電池の具体的な構成や燃料の供給状態等も特に限定されるものではない。実施段階では本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。さらに、上記実施形態に示される複数の構成要素を適宜組み合わせたり、また実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除する等、種々の変形が可能である。本発明の実施形態は本発明の技術的思想の範囲内で拡張もしくは変更することができ、この拡張、変更した実施形態も本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0092】
1…膜電極接合体(MEA)、2…アノード、3…カソード、4…電解質膜、5…アノード触媒層、6…アノードガス拡散層、7…カソード触媒層、8…カソードガス拡散層、20…燃料電池、21…燃料分配機構、22…燃料収容部、23…流路、24…カバープレート、25…Oリング、26…ポンプ、27…燃料注入口、28…燃料排出口、29…燃料分配板、30…空隙部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード触媒層と、
前記アノード触媒層に積層されたアノードガス拡散層と、
カソード触媒層と、
前記カソード触媒層に積層されたカソードガス拡散層と、
前記カソード触媒層及び前記アノード触媒層の間に配置された電解質膜と
を具備する膜電極接合体であって、
前記カソード触媒層は、撥水性を有する炭素材料担体と、前記炭素材料担体に担持される触媒粒子と、固体高分子電解質とを含み、前記カソード触媒層中の前記固体高分子電解質の含有量は16.7〜28.6重量%であり、且つ発電後における前記カソード触媒層と前記カソードガス拡散層との間の剥離強度が0.256〜0.36N・cm−2であることを特徴とする膜電極接合体。
【請求項2】
請求項1に記載の膜電極接合体を具備することを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−65963(P2011−65963A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−217885(P2009−217885)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(000221339)東芝電子エンジニアリング株式会社 (238)
【Fターム(参考)】