燃料電池
【課題】電解質膜のより確実な湿潤を図ることで発電能力を向上させる。
【解決手段】燃料電池10は、それぞれの単セル15において、アノード側ガス拡散層23のアノード側MPL層23aに有底の溝部30を多列に有する。この溝部30は、アノード側MPL層23aにおいてMEAの逆側に位置する。そして、アノード側MPL層23aからアノード側ガス拡散層23に流入した水素ガスは、溝部30を通過した上で、下流側に流れ、有底の溝部30を通過する際に、その溝部30に入り込んでいる水成分を下流側に持ち去る。
【解決手段】燃料電池10は、それぞれの単セル15において、アノード側ガス拡散層23のアノード側MPL層23aに有底の溝部30を多列に有する。この溝部30は、アノード側MPL層23aにおいてMEAの逆側に位置する。そして、アノード側MPL層23aからアノード側ガス拡散層23に流入した水素ガスは、溝部30を通過した上で、下流側に流れ、有底の溝部30を通過する際に、その溝部30に入り込んでいる水成分を下流側に持ち去る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カソード側とアノード側とでガスの流れを逆向きとした燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料とその酸化剤、例えば、水素と酸素の電気化学反応によって発電する。この燃料電池では、プロトン伝導性を有する電解質膜(例えば、固体高分子膜)の両膜面に形成したアノードとカソードの両電極に、ガス拡散層を経て燃料ガスと酸化ガス、例えば水素ガスと空気を供給する。
【0003】
電解質膜のプロトン伝導性は、電解質膜の湿潤状態の影響を受け、電解質膜が湿潤不足となると概ね低下する。このため、電解質膜の湿潤を維持することで発電能力を高める技術が種々提案されている(例えば、下記特許文献1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−156144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記公報で提案された技術では、発電に伴って生成される生成水を運ぶガス(空気)の流路に対して電解質膜の膜面の一部を露出させ、電解質膜に生成水を直接与えている。電解質膜の露出部位には電極がないことから、この露出部位においては、電解質膜を介した電気化学反応の低下が危惧される。
【0006】
本発明は、上述した従来の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、電解質膜のより確実な湿潤を図ることで発電能力を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決することを目的としてなされたものであり、以下の構成を採用した。
【0008】
[適用1:燃料電池]
プロトン伝導性を有する電解質膜の両膜面に電極を形成した膜電極接合体と、該膜電極接合体の一方の電極面に設けられたアノード側拡散層と、前記膜電極接合体の他方の電極面に設けられたカソード側拡散層とを備え、該カソード側拡散層と前記アノード側拡散層におけるガスの流れを逆向きとした燃料電池であって、
前記アノード側拡散層の前記膜電極接合体とは逆側の表面に有底の凹部を備え、
該凹部は、前記アノード側拡散層に流入する前記ガスの流入側に位置する
ことを要旨とする。
【0009】
上記構成を備える燃料電池のアノード側拡散層では、燃料ガスは、その流入側(以下、アノード流入側と称する)において有底の凹部を通過した上で、下流側に流れ、燃料ガスが有底の凹部を通過する際に、その凹部に入り込んでいる水もしくは水蒸気(以下、これを総称して水成分と称する)を下流側に持ち去る。そうすると、有底の凹部の底部分のアノード側拡散層を挟んだ膜電極接合体と凹部の内側領域とで水成分の分布(水成分の濃度)にズレが起き、有底の凹部の底部分は水成分の透過が可能であることから、膜電極接合体から凹部の内側領域に向けた水成分の移動が進むことになる。
【0010】
その一方、膜電極接合体を挟んで向かい合うアノード側拡散層とカソード側拡散層とでガスの流れが逆向きであることから、アノード流入側は、カソード側拡散層では酸化ガスの流れの下流側(以下、カソード下流側と称する)となる。カソード側では、電気化学反応に伴い水が生成され、その生成水は、カソード側拡散層を流れる酸化ガスに運ばれてカソード下流側で多くなる。つまり、アノード側拡散層の側で膜電極接合体から凹部の内側領域に向けた水成分の移動が進む領域と、カソード側拡散層で生成水過多となりがちな領域が、膜電極接合体を挟んで一致する。その上で、膜電極接合体にあっても生成水の拡散浸透を起こすので、カソード側拡散層の生成水は、膜電極接合体を拡散して通過した後に、膜電極接合体から凹部の内側領域に向けて移動する。
【0011】
こうした現象は、アノード側拡散層における燃料ガスの凹部通過の間、即ち電池発電のためのガス供給の間に継続するので、膜電極接合体、詳しくはこれに含まれる電解質膜は、カソード側拡散層からの生成水の拡散浸透により自ずと湿潤状態となる。この結果、上記構成の燃料電池によれば、電解質膜をより確実に湿潤させて発電能力を高めることができる。しかも、膜電極接合体は、アノード流入側において、アノード側拡散層の有底の凹部の底部分外表を電極に接合させているので、膜電極接合体に含まれる電解質膜を、その全ての発電領域において活用でき、発電能力の低下を来さないようにできる。
【0012】
上記した燃料電池は、次のような態様とすることができる。例えば、有底の前記凹部を、最大で、前記ガスの流入側部位から前記アノード側拡散層の中央までとすることができる。アノード側拡散層は、膜電極接合体の一方の電極面に燃料ガスを供給することから、膜電極接合体と逆側のアノード側拡散層表面の全てに亘って凹部を有するようにしてしまうと、燃料ガスがこの凹部を通過してしまい膜電極接合体の電極面への燃料ガス供給の効率が悪くなる。よって、上記のように凹部の形成領域を規定すれば、凹部の形成領域では、凹部の底部位から電極面へのガス供給が可能なほか、凹部の形成領域以外でもアノード側拡散層を通過する際にガスが電極面に供給されるので、ガス供給の効率低下を抑制できる。
【0013】
また、前記凹部を、多列の有底の溝部とした上で、該溝部を、前記アノード側拡散層における前記ガスの流入側の部位から下流側に延在するようにできる。こうすれば、有底に窪んだだけの凹部に比べて、それぞれの溝部を通過するガスの流れは均一化する。よって、それぞれの溝部の底部位において起きるカソード側拡散層からの生成水の拡散浸透も溝部ごとにほぼ均一化するので、膜電極接合体に含まれる電解質膜の湿潤化が均等となり、望ましい。
【0014】
この場合、前記溝部を前記アノード側拡散層を流れる前記ガスの流れ方向と平行に延在させれば、各溝部を流れるガス流がより均一となるので、より望ましい。
【0015】
また、更に、前記アノード側拡散層に接合したセパレーターを備えた上で、このセパレーターを、前記アノード側拡散層における前記ガスの流れ方向を規定するガス流路を前記アノード側拡散層の側に多列に備えたものとし、多列のガス流路の間のリブを前記多列の前記溝部の間のリブに当接させるようにできる。こうすれば、各溝部を流れるガス流の均一化が簡便となる。
【0016】
また、前記凹部にプロトン伝導性を有する電解質樹脂を凹部のガス通過を許容して有するようにすれば、この凹部の電解質樹脂のイオン交換基による水成分の保持により、アノード側拡散層における水分量を増加できる。通常、燃料電池が高温で運転を継続すると、水分不足になりがちであるが、上記のようにアノード側拡散層での保水により、水分不足を補えるので、発電能力を維持できる。この場合、凹部に有する電解質樹脂による水分保持により、無加湿状態での燃料ガス供給に際しても、発電能力の低下を抑制できる。
【0017】
また、前記膜電極接合体の側のアノード側拡散層表面に、導電性の粉体をプロトン伝導性を有する電解質樹脂で保持して気孔を形成し気孔層を形成することができる。こうすれば、気孔層での水成分保持により、アノード側拡散層における水分量を増加させて、高温運転の際の水分不足を補えるので、発電能力を維持できる。この場合、気孔は連続気孔であることが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施例の燃料電池10を構成する単セル15の概略構成を分解して斜視にて示す説明図である。
【図2】この単セル15を断面視して概略的に示す説明図である。
【図3】無加湿で水素ガスを供給した場合の単セル15のセル全長Lに対する溝部30の長さと発電電圧との関係を示すグラフである。
【図4】アノード側MPL層23aの形成の際の目付け量と当該MPL層での含水量との関係を示すグラフである。
【図5】アノード側MPL層23aの形成の際の目付け量とその層厚との関係を示すグラフである。
【図6】無加湿で水素ガスを供給した場合のアノード側MPL層23aの層厚と発電電圧との関係を示すグラフである。
【図7】無加湿で水素ガスを供給して発電した場合の発電電圧とセル内部抵抗のセル温度に対する依存の様子を示すグラフである。
【図8】変形例の単セル15Aの概略構成を分解して斜視にて示す説明図である。
【図9】この変形例の単セル15Aを断面視して概略的に示す説明図である。
【図10】多列の溝部30をガスの流れ方向に斜めに配置した変形例の単セル15Bの概略構成を分解して斜視にて示す説明図である。
【図11】多列の溝部30を並べて陥没した凹部30Aを有する変形例の単セル15Cを断面視して概略的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、その実施例を図面に基づき説明する。図1は本実施例の燃料電池10を構成する単セル15の概略構成を分解して斜視にて示す説明図、図2はこの単セル15を断面視して概略的に示す説明図である。本実施例の燃料電池10は、図1〜図2に示す構成の単セル15を複数積層したスタック構造を有している。なお、本実施例の燃料電池10は、固体高分子型燃料電池であるが、異なる種類の燃料電池、例えば固体電解質型燃料電池においても、同様に適用可能である。
【0020】
単セル15は、電解質膜20の両側にアノード21とカソード22の両電極を備える。このアノード21とカソード22は、電解質膜20の両膜面に形成され膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly/MEA)を形成する。この他、単セル15は、電極形成済みの電解質膜20を両側から挟持するアノード側ガス拡散層23とカソード側ガス拡散層24とガスセパレーター25,26を備え、両ガス拡散層は、対応する電極に接合されている。ガスセパレーター25は、アノード側ガス拡散層23の側に、水素を含有する燃料ガスを流すセル内燃料ガス流路47を備える。ガスセパレーター26は、カソード側ガス拡散層24の側に、酸素を含有する酸化ガス(本実施例では、空気)を流すセル内酸化ガス流路48を備える。なお、図1〜図2には記載していないが、隣り合う単セル15間には、例えば、冷媒が流れるセル間冷媒流路を形成することができる。
【0021】
電解質膜20は、固体高分子材料、例えばフッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜であり、湿潤状態で良好な電気伝導性を示す。アノード21およびカソード22は、触媒(例えば白金、あるいは白金合金)を備えており、これらの触媒を、導電性を有する担体(例えば、カーボン粒子)上に担持させることによって形成されている。
【0022】
アノード側ガス拡散層23とカソード側ガス拡散層24は、ガス透過性を有する導電性部材、例えば、カーボンペーパやカーボンクロスによって形成することができる。アノード側ガス拡散層23は、MEAにおけるアノード21と逆側の拡散層表面、つまり図示するようにガスセパレーター25の側の表面に、有底の溝部30を多列に備える。この溝部30と水素ガスの流れとの関係については、後述する。また、アノード側ガス拡散層23は、MEAにおけるアノード21の側の拡散層表面に、アノード側MPL層(Micro Porous Layer)23aを有する。このアノード側MPL層23aは、導電性の粉体であるカーボン粒子をプロトン伝導性を有する電解質樹脂(本実施例では、電解質膜20を構成するフッ素系樹脂)で保持することで、層において連続気孔を形成する。このアノード側MPL層23aは、種々の手法で形成可能であり、例えば、フッ素系樹脂の溶液にカーボン粒子を分散させたスラリーを、アノード側ガス拡散層23の表面に塗布して乾燥することで、100〜200μm程度の層厚で形成可能である。また、アノード側MPL層23aは、単位面積当たりのいわゆる目付け量も規定でき、本実施例では、2.6〜5.3mg/cm2とした。なお、アノード側MPL層23aに代えて、保水機能を有する親水性の薬剤層とすることもできる。
【0023】
カソード側ガス拡散層24は、MEAにおけるカソード22の側の拡散層表面に、カソード側撥水層24aを有する。このカソード側撥水層24aは、撥水剤をカソード側ガス拡散層24の表面にスプレー塗布して形成される。
【0024】
ガスセパレーター25,26は、ガス不透過な導電性部材、例えば、カーボンを圧縮してガス不透過とした緻密質カーボンや、焼成カーボン、あるいはステンレス鋼などの金属材料により形成されている。ガスセパレーター25,26は、既述したセル内燃料ガス流路47およびセル内酸化ガス流路48の壁面を成す部材であって、その表面には、ガス流路を形成するための凹凸形状が形成されている。
【0025】
図1〜図2では図示していないが、ガスセパレーター25,26の外周近傍の所定の位置には、複数の孔部が形成されている。これらの複数の孔部は、ガスセパレーター25,26が他の部材と共に積層されて燃料電池10が組み立てられたときに互いに重なって、燃料電池10内を積層方向に貫通する流路を形成する。すなわち、上記したセル内燃料ガス流路47やセル内酸化ガス流路48、あるいはセル間冷媒流路に対して、燃料ガスや酸化ガス、あるいは冷媒を給排するためのマニホールドを形成する。
【0026】
本実施例の燃料電池10は、上記したガスセパレーター25の外周近傍の孔部からセル内燃料ガス流路47に水素ガスを流すに当たり、図1における左方側から水素ガスを供給する。また、ガスセパレーター26外周近傍の孔部からセル内酸化ガス流路48に空気を流すに当たり、図1における右方側から空気を供給する。つまり、本実施例の燃料電池10は、アノード側ガス拡散層23とカソード側ガス拡散層24とで、それぞれのガスの流れを逆向きとし、アノード側ガス拡散層23におけるガス流入側23bの側に、既述した有底の溝部30を多列に備えることになる。そして、本実施例の燃料電池10は、ガス流入側23bからアノード側ガス拡散層23に流入した水素ガスを、溝部30の底部分23cに当たるアノード側ガス拡散層23と溝部30より下流側のアノード側ガス拡散層23とで拡散ししつつアノード21に供給する。空気については、水素ガスと逆向きの流れでカソード側ガス拡散層24に流入した空気を、カソード側ガス拡散層24で拡散ししつつカソード22に供給する。この場合、図1〜図2は単セル15の一部範囲を示しているのであって、図1においては3列の溝部30がガス流入側23bに位置するが、溝部30の列数は、単セル15の寸法により定まる。
【0027】
ここで、溝部30の寸法やアノード側MPL層23aの層厚、目付け量等について説明する。図3は無加湿で水素ガスを供給した場合の単セル15のセル全長Lに対する溝部30の長さと発電電圧との関係を示すグラフである。図示するように、溝部30の長さがゼロ、即ち溝部30を有しない比較例燃料電池に対して、溝部30を図1に示すようにガス流入側23bの側に有する燃料電池10では、溝部30の長さがセル全長Lの2/5とすると発電電圧の顕著な上昇が観察され、セル全長Lの1/2程度であれば、上記した比較例より確実に高い発電能力が得られることが判明した。また、溝部30がセル全長Lの1/2を超えるようになると、発電能力は低下し、セル全長Lの全てに亘る場合には、溝部30を有しない比較例燃料電池より発電能力が劣ることが判明した。これは、溝部30が長くなれば、溝部30の下流側は、カソード側ガス拡散層24における上流側なために生成水が少ない領域に重なり、こうした領域においても後述の水成分の持ち去りが起き、アノード側ガス拡散層23の乾燥が助長されるためと考えられる。そして、溝部30がセル全長Lの全長に亘れば、溝部30を通過するだけの燃料ガスが増えるため、その分、アノード側ガス拡散層23からMEA(詳しくは、アノード21)へのガス拡散供給が進まないので、溝部30を有しない比較例燃料電池より発電能力が劣ると考えられる。
【0028】
この場合、溝部30の深さについては、アノード側ガス拡散層23の厚みより小さくすれば、溝部30は有底となってその底部分23cをアノード側ガス拡散層23に残すことができる。よって、燃料電池10に求められる発電能力を勘案して、適宜定めればよい。
【0029】
こうした溝部30の影響を、他の観点から調べた。一般に、電解質膜20の湿潤が不足すると、電解質膜20のプロトン伝導性は低下するので、発電能力は低下し、単セル15の内部抵抗値は上昇する。溝部30を有しない比較例燃料電池とセル全長Lの2/5の長さで溝部30を有する本実施例の燃料電池10(以下、これを単に溝部30を有する燃料電池10と称する)とについて、両燃料電池を定常状態において運転し、ガス供給を停止して発電を停止してから30秒に亘って乾燥させ、その乾燥後のセル内部抵抗を測定した。溝部30を有しない比較例燃料電池の単位面積当たりのセル内部抵抗は0.338Ω/cm2であったのに対し、溝部30を有する燃料電池10では2.054Ω/cm2であった。この現象を、図3に見られる発電能力向上との関係から以下、説明する。なお、通常は、運転停止の後に乾燥を行うことはないので、溝部30を有しない比較例燃料電池および溝部30を有する燃料電池10にあっても、セル内部抵抗の上昇は問題とはならない。
【0030】
セル内部抵抗の上昇は、電解質膜20の湿潤不足によるプロトン伝導性の低下によって現れるので、溝部30を有する燃料電池10でのセル内部抵抗上昇から、この燃料電池10では、発電停止後の僅かな期間の乾燥で電解質膜20の湿潤不足が起きたことになる。こうした電解質膜20の湿潤不足は、溝部30の溝内に、溝部30の底部分23c(図2参照)におけるアノード側ガス拡散層23および当該底部分のアノード側ガス拡散層23と接合したMEAから水成分が引き抜かれたための電解質膜20の湿潤不足に符合する。つまり、本実施例の燃料電池10では、有底の溝部30を有することで、この溝部30の溝内への水成分の引き抜きを起こすと言える。それでいながら、図3のように発電能力が向上したことは、次のように説明できる。
【0031】
溝部30を有する燃料電池10のアノード側ガス拡散層23では、水素ガスは、ガス流入側23bからアノード側ガス拡散層23に流入するに当たり、有底の溝部30を通過した上で、下流側に流れる。こうして流れる水素ガスは、有底の溝部30を通過する際、その溝部30の内部に入り込んでいる水成分を下流側に持ち去る。そうすると、有底の溝部30の底部分23cに当たるアノード側ガス拡散層23を挟んだMEAと溝部30の内側領域とで水成分の分布(水成分の濃度)にズレが起きる。この場合、有底の溝部30の底部分23cに当たるアノード側ガス拡散層23は水成分の透過が可能であることから、電解質膜20を含むMEAから溝部30の内側領域に向けた水成分の移動が進むことになる。
【0032】
その一方、電解質膜20を含むMEAを挟んで向かい合うアノード側ガス拡散層23とカソード側ガス拡散層24とでは、既述したようにガスの流れが逆向きであることから、アノード側ガス拡散層23におけるガス流入側23bは、カソード側ガス拡散層24では空気の流れの下流側(カソード下流側)となる。カソード22では、電気化学反応に伴い水が生成され、その生成水は、カソード側ガス拡散層24を流れる空気に運ばれてカソード下流側で多くなる。つまり、アノード側ガス拡散層23の側でMEAから溝部30の内側領域に向けた水成分の移動が進む領域と、カソード側ガス拡散層24で生成水過多となりがちな領域が、電解質膜20を含むMEAを挟んで一致する。その上で、電解質膜20を含むMEAにあっても生成水の拡散浸透を起こすので、カソード側ガス拡散層24の生成水は、電解質膜20を含むMEAを拡散して通過した後に、MEAから溝部30の内側領域に向けて移動する。
【0033】
こうした現象は、アノード側ガス拡散層23における水素ガスの溝部30の通過の間、即ち電池発電のためのガス供給の間に継続するので、MEA、詳しくはこれに含まれる電解質膜20は、カソード側ガス拡散層24からの生成水の拡散浸透により自ずと湿潤状態となる。この結果、溝部30を有する本実施例の燃料電池10では、電解質膜20をより確実に湿潤させて発電能力を高めることができると言え、この結果が図3に反映したことになる。しかも、電解質膜20を含むMEAは、アノード側ガス拡散層23の全面、詳しくはガス流入側23bの側の溝部30の底部分23cに当たるアノード側ガス拡散層23の外表と、溝部30より下流側のアノード側ガス拡散層23の外表とにアノード21に接合させている。よって、ガス流入側23bの側の溝部30の底部分23cに当たるアノード側ガス拡散層23からアノード21へのガス供給が可能なほか、溝部30の下流側のアノード側ガス拡散層23からもアノード21にガス供給ができるので、ガス供給の効率低下を抑制できると共に、MEAに含まれる電解質膜20を、その全ての発電領域において活用でき、発電能力の低下を来さないようにできる。
【0034】
このように溝部30の底部分23cに当たるアノード側ガス拡散層23を通して、アノード側ガス拡散層23には、カソード側ガス拡散層24の側から生成水を浸透させることができるので、アノード側ガス拡散層23に無加湿の水素ガスが供給されても、アノード側ガス拡散層23には水成分が行き渡るようにできる。よって、本実施例の燃料電池10では、水素ガスを無加湿状態で供給しても高い発電能力を得ることができると共に、水素ガス加湿用の構成が不要もしくは簡略化でき、その分、コスト低減を図ることができる。つまり、本実施例の燃料電池10によれば、無加湿運転への適用を高めることができるほか、ガス加湿用の加湿器を備えた場合には、小さな容量の加湿器でのガス加湿による発電運転を行うことが可能となる。
【0035】
また、本実施例では、有底の溝部30を多列にガス流入側23bに配設して下流側に延在させると共に、溝部30をアノード側ガス拡散層23を流れる水素ガスの流れ方向と平行に延在させたので、それぞれの溝部30で水素ガスの流れをほぼ均一とできる。このため、それぞれの溝部30の底部分23cに当たるアノード側ガス拡散層23において起きるカソード側ガス拡散層24の側からの生成水の拡散浸透も溝部30ごとにほぼ均一化するので、MEAに含まれる電解質膜20の湿潤化が均等となり、発電能力向上の上からより好ましい。
【0036】
しかも、アノード側ガス拡散層23に接合するガスセパレーター25において、多列のセル内燃料ガス流路47にてアノード側ガス拡散層23における水素ガスの流れ方向を規定した上で、図1〜図2に示すように、多列のセル内燃料ガス流路47の間のリブを多列の溝部30の間のリブに当接させた。よって、それぞれの溝部30には、該当するセル内燃料ガス流路47から水素ガスを簡便且つより均一に供給できるので、発電能力向上の上から更に好ましい。
【0037】
次に、本実施例の燃料電池10では、溝部30に加えてアノード側MPL層23aを設けたので、このアノード側MPL層23aの利点について説明する。アノード側MPL層23aは、既述したようにカーボン粒子を電解質樹脂(電解質膜20を構成するフッ素系樹脂)で保持して連続気孔し、電解質樹脂のイオン交換基(フッ素系樹脂ではスルホン基)によりこの連続気孔に水成分を保持する。図4はアノード側MPL層23aの形成の際の目付け量と当該MPL層での含水量との関係を示すグラフ、図5はアノード側MPL層23aの形成の際の目付け量とその層厚との関係を示すグラフ、図6は無加湿で水素ガスを供給した場合のアノード側MPL層23aの層厚と発電電圧との関係を示すグラフである。
【0038】
図4〜図5のグラフに示すように、アノード側MPL層23aの目付け量が増えるに連れてアノード側MPL層23aでの含水量(保水量)は増加し、その層厚も増加する。その反面、図6に示すように、アノード側MPL層23aの層厚は、発電電圧に影響を及ぼし、層厚が100〜200μmの範囲であれば、発電能力の低下抑制の上で効果がある。つまり、アノード側MPL層23aの層厚が200μmを超えると、層厚増加によるアノード側MPL層23a自体の内部抵抗の増加も顕著となり、発電電圧の低下が起きると考えられる。その一方、アノード側MPL層23aの層厚が100μmを下回ると、このアノード側MPL層23aでの水成分保持が不足となり、無加湿での水素ガス供給ではアノード側ガス拡散層23の側における水分不足により発電電圧の低下が起きると考えられる。こうした知見に立ち、本実施例では、アノード側MPL層23aを100〜200μmの範囲の層厚とした上で、この層厚に対応させて、目付け量を2.6〜5.3g/cm2の範囲とした。
【0039】
次に、溝部30とアノード側MPL層23aとを備えた本実施例の燃料電池10の利点について説明する。図7は無加湿で水素ガスを供給して発電した場合の発電電圧とセル内部抵抗のセル温度に対する依存の様子を示すグラフである。
【0040】
図示するグラフには、溝部30もアノード側MPL層23aも備えない比較例燃料電池と、溝部30を有するもののアノード側MPL層23aを有しない参考燃料電池と、アノード側MPL層23aを有するものの溝部30を有しない参考燃料電池と、溝部30とアノード側MPL層23aとを備えた本実施例の燃料電池10とについて、発電電圧とセル内部抵抗のセル温度に対する依存の様子を示している。図示するように、セル温度が低い領域Txでは、比較例燃料電池、両参考燃料電池および本実施例の燃料電池10において、発電電圧とセル内部抵抗に有意な差は見られないものの、セル温度が上昇すると、比較例燃料電池では、電圧の著しい低下とセル内部抵抗の上昇が見られ、電池性能は低下する。溝部30或いはアノード側MPL層23aのいずれかを有する参考燃料電池では、比較例燃料電池より高い電池能力を得られ、溝部30とアノード側MPL層23aの両者を有する本実施例の燃料電池10では、溝部30とアノード側MPL層23aの相乗効果により、より高い電池性能を得ることができた。つまり、本実施例の燃料電池10によれば、通常の運転ではあまり起き得ない無加湿での水素ガス供給によっても、溝部30によるカソード側ガス拡散層24から電解質膜20を経た生成水のアノード側ガス拡散層23への拡散浸透とアノード側MPL層23aによる保水とにより、高い電池性能を得ることができる。
【0041】
また、本実施例の燃料電池10では、カソード側ガス拡散層24におけるMEAの側にカソード側撥水層24aを有する。よって、このカソード側撥水層24aによる撥水機能により、カソード側ガス拡散層24の生成水を、積極的に電解質膜20を経てアノード側ガス拡散層23に拡散浸透させることができる。
【0042】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこのような実施の形態になんら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様での実施が可能である。図8は変形例の単セル15Aの概略構成を分解して斜視にて示す説明図、図9はこの変形例の単セル15Aを断面視して概略的に示す説明図である。
【0043】
図示するように、この変形例の単セル15Aは、MEAや溝部30、アノード側ガス拡散層23、カソード側ガス拡散層24等の構成において既述した実施例の単セル15と代わるものではなく、溝部30に、電解質膜20を構成する電解質樹脂(フッ素系樹脂31)を備える点で相違し、溝部30にフッ素系樹脂31を備える様子は、図において30/31と付して示されている。この場合、例えば、溝部30の壁面に電解質樹脂(フッ素系樹脂31)を塗布したりして、溝部30を水素ガスが通過できるようにする。この変形例の単セル15Aでは、溝部30に有する電解質樹脂(フッ素系樹脂31)のイオン交換基(スルホン基)による水成分の保持により、アノード側ガス拡散層23における水分量を増加できる。この溝部30の電解質樹脂(フッ素系樹脂31)による水成分保持は、既述した溝部30を通過する水素ガスによる水成分の持ち去りと並行して起きる。よって、この変形例では、溝部30の内部に入り込んでいる水成分の持ち去りによる既述した電解質膜20の湿潤化を図りつつ、アノード側ガス拡散層23における水分量を増加できる。通常、燃料電池が高温で運転を継続すると、水分不足になりがちであるが、上記のように溝部30のフッ素系樹脂31での保水により、水分不足を補えるので、この変形例によれば、発電能力を維持できる。この場合、溝部30に有するフッ素系樹脂31による水分保持により、無加湿状の水素ガス供給に伴う運転に際しても、発電能力の低下を抑制できる。
【0044】
なお、この変形例の単セル15Aでは、溝部30のフッ素系樹脂31にて水成分保持を図るので、アノード側MPL層23aについては、省略することもできる。或いは、アノード側ガス拡散層23におけるガスの流れ方向に沿った筋状のアノード側MPL層23aと筋状の撥水層とを、ガスの流れに交差する方向に交互に並べた層構成としたり、アノード側MPL層23aに代わり撥水層を有するようにすることもできる。筋状のアノード側MPL層23aと筋状の撥水層とを交互に並べるには、フッ素系樹脂の溶液にカーボン粒子を分散させたスラリーの噴射ノズルと、撥水剤の噴射ノズルとがガスの流れに交差する方向に交互に並んだ噴射装置から、スラリーおよび撥水剤をアノード側ガス拡散層23の表面に噴射塗布して乾燥させればよい。撥水層とする場合には、アノード側ガス拡散層23の表面に撥水剤を塗布して乾燥させればよい。こうしてアノード側ガス拡散層23に形成した撥水層は、溝部30からの水成分の持ち去りに寄与するように働く。即ち、底部分23cに当たるアノード側ガス拡散層23では、カソード側ガス拡散層24の側からの生成水の浸透が起きているので、アノード側ガス拡散層23の表面の撥水層は、溝部30の内部の側への水の移動を助けることになり、溝部30からの水成分の持ち去りに寄与する。
【0045】
この他、次のように変形することもできる。既述した実施例では、アノード側ガス拡散層23のアノード側MPL層23aにガスの流れ方向に沿った溝部30を設けたが、この溝部30については、アノード側ガス拡散層23にアノード側MPL層23aの側から流入した水素ガスが溝部を通過すればよい。また、溝部30が並んで陥没したような単純な凹部とすることもできる。図10は多列の溝部30をガスの流れ方向に斜めに配置した変形例の単セル15Bの概略構成を分解して斜視にて示す説明図、図11は多列の溝部30を並べて陥没した凹部30Aを有する変形例の単セル15Cを断面視して概略的に示す説明図である。これらに示す変形例であっても、斜めの溝部30或いは凹部30Aを通過する水素ガスによる水成分の持ち去りによる電解質膜20の湿潤化に伴う効果を奏することができる。なお、図11では、凹部30Aをアノード側ガス拡散層23の一部部位に描画して示しているが、凹部30Aは、アノード側ガス拡散層23の図における紙面手前側から紙面奥側に掛けた拡散層幅方向に亘って幅広に形成したり、この拡散層幅においてガス流入側23bに点在させてもよい。
【0046】
また、上記の実施例では固体高分子形燃料電池を例に説明したが、ダイレクトメタノール形燃料電池、リン酸形燃料電池など種々の燃料電池に適用することができる。
【符号の説明】
【0047】
10…燃料電池
15、15A〜15C…単セル
20…電解質膜
21…アノード
22…カソード
23…アノード側ガス拡散層
23a…アノード側MPL層
23b…ガス流入側
23c…底部分
24…カソード側ガス拡散層
24a…カソード側撥水層
25…ガスセパレーター
26…ガスセパレーター
30…溝部
30A…凹部
31…フッ素系樹脂
47…セル内燃料ガス流路
48…セル内酸化ガス流路
【技術分野】
【0001】
本発明は、カソード側とアノード側とでガスの流れを逆向きとした燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料とその酸化剤、例えば、水素と酸素の電気化学反応によって発電する。この燃料電池では、プロトン伝導性を有する電解質膜(例えば、固体高分子膜)の両膜面に形成したアノードとカソードの両電極に、ガス拡散層を経て燃料ガスと酸化ガス、例えば水素ガスと空気を供給する。
【0003】
電解質膜のプロトン伝導性は、電解質膜の湿潤状態の影響を受け、電解質膜が湿潤不足となると概ね低下する。このため、電解質膜の湿潤を維持することで発電能力を高める技術が種々提案されている(例えば、下記特許文献1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−156144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記公報で提案された技術では、発電に伴って生成される生成水を運ぶガス(空気)の流路に対して電解質膜の膜面の一部を露出させ、電解質膜に生成水を直接与えている。電解質膜の露出部位には電極がないことから、この露出部位においては、電解質膜を介した電気化学反応の低下が危惧される。
【0006】
本発明は、上述した従来の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、電解質膜のより確実な湿潤を図ることで発電能力を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決することを目的としてなされたものであり、以下の構成を採用した。
【0008】
[適用1:燃料電池]
プロトン伝導性を有する電解質膜の両膜面に電極を形成した膜電極接合体と、該膜電極接合体の一方の電極面に設けられたアノード側拡散層と、前記膜電極接合体の他方の電極面に設けられたカソード側拡散層とを備え、該カソード側拡散層と前記アノード側拡散層におけるガスの流れを逆向きとした燃料電池であって、
前記アノード側拡散層の前記膜電極接合体とは逆側の表面に有底の凹部を備え、
該凹部は、前記アノード側拡散層に流入する前記ガスの流入側に位置する
ことを要旨とする。
【0009】
上記構成を備える燃料電池のアノード側拡散層では、燃料ガスは、その流入側(以下、アノード流入側と称する)において有底の凹部を通過した上で、下流側に流れ、燃料ガスが有底の凹部を通過する際に、その凹部に入り込んでいる水もしくは水蒸気(以下、これを総称して水成分と称する)を下流側に持ち去る。そうすると、有底の凹部の底部分のアノード側拡散層を挟んだ膜電極接合体と凹部の内側領域とで水成分の分布(水成分の濃度)にズレが起き、有底の凹部の底部分は水成分の透過が可能であることから、膜電極接合体から凹部の内側領域に向けた水成分の移動が進むことになる。
【0010】
その一方、膜電極接合体を挟んで向かい合うアノード側拡散層とカソード側拡散層とでガスの流れが逆向きであることから、アノード流入側は、カソード側拡散層では酸化ガスの流れの下流側(以下、カソード下流側と称する)となる。カソード側では、電気化学反応に伴い水が生成され、その生成水は、カソード側拡散層を流れる酸化ガスに運ばれてカソード下流側で多くなる。つまり、アノード側拡散層の側で膜電極接合体から凹部の内側領域に向けた水成分の移動が進む領域と、カソード側拡散層で生成水過多となりがちな領域が、膜電極接合体を挟んで一致する。その上で、膜電極接合体にあっても生成水の拡散浸透を起こすので、カソード側拡散層の生成水は、膜電極接合体を拡散して通過した後に、膜電極接合体から凹部の内側領域に向けて移動する。
【0011】
こうした現象は、アノード側拡散層における燃料ガスの凹部通過の間、即ち電池発電のためのガス供給の間に継続するので、膜電極接合体、詳しくはこれに含まれる電解質膜は、カソード側拡散層からの生成水の拡散浸透により自ずと湿潤状態となる。この結果、上記構成の燃料電池によれば、電解質膜をより確実に湿潤させて発電能力を高めることができる。しかも、膜電極接合体は、アノード流入側において、アノード側拡散層の有底の凹部の底部分外表を電極に接合させているので、膜電極接合体に含まれる電解質膜を、その全ての発電領域において活用でき、発電能力の低下を来さないようにできる。
【0012】
上記した燃料電池は、次のような態様とすることができる。例えば、有底の前記凹部を、最大で、前記ガスの流入側部位から前記アノード側拡散層の中央までとすることができる。アノード側拡散層は、膜電極接合体の一方の電極面に燃料ガスを供給することから、膜電極接合体と逆側のアノード側拡散層表面の全てに亘って凹部を有するようにしてしまうと、燃料ガスがこの凹部を通過してしまい膜電極接合体の電極面への燃料ガス供給の効率が悪くなる。よって、上記のように凹部の形成領域を規定すれば、凹部の形成領域では、凹部の底部位から電極面へのガス供給が可能なほか、凹部の形成領域以外でもアノード側拡散層を通過する際にガスが電極面に供給されるので、ガス供給の効率低下を抑制できる。
【0013】
また、前記凹部を、多列の有底の溝部とした上で、該溝部を、前記アノード側拡散層における前記ガスの流入側の部位から下流側に延在するようにできる。こうすれば、有底に窪んだだけの凹部に比べて、それぞれの溝部を通過するガスの流れは均一化する。よって、それぞれの溝部の底部位において起きるカソード側拡散層からの生成水の拡散浸透も溝部ごとにほぼ均一化するので、膜電極接合体に含まれる電解質膜の湿潤化が均等となり、望ましい。
【0014】
この場合、前記溝部を前記アノード側拡散層を流れる前記ガスの流れ方向と平行に延在させれば、各溝部を流れるガス流がより均一となるので、より望ましい。
【0015】
また、更に、前記アノード側拡散層に接合したセパレーターを備えた上で、このセパレーターを、前記アノード側拡散層における前記ガスの流れ方向を規定するガス流路を前記アノード側拡散層の側に多列に備えたものとし、多列のガス流路の間のリブを前記多列の前記溝部の間のリブに当接させるようにできる。こうすれば、各溝部を流れるガス流の均一化が簡便となる。
【0016】
また、前記凹部にプロトン伝導性を有する電解質樹脂を凹部のガス通過を許容して有するようにすれば、この凹部の電解質樹脂のイオン交換基による水成分の保持により、アノード側拡散層における水分量を増加できる。通常、燃料電池が高温で運転を継続すると、水分不足になりがちであるが、上記のようにアノード側拡散層での保水により、水分不足を補えるので、発電能力を維持できる。この場合、凹部に有する電解質樹脂による水分保持により、無加湿状態での燃料ガス供給に際しても、発電能力の低下を抑制できる。
【0017】
また、前記膜電極接合体の側のアノード側拡散層表面に、導電性の粉体をプロトン伝導性を有する電解質樹脂で保持して気孔を形成し気孔層を形成することができる。こうすれば、気孔層での水成分保持により、アノード側拡散層における水分量を増加させて、高温運転の際の水分不足を補えるので、発電能力を維持できる。この場合、気孔は連続気孔であることが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施例の燃料電池10を構成する単セル15の概略構成を分解して斜視にて示す説明図である。
【図2】この単セル15を断面視して概略的に示す説明図である。
【図3】無加湿で水素ガスを供給した場合の単セル15のセル全長Lに対する溝部30の長さと発電電圧との関係を示すグラフである。
【図4】アノード側MPL層23aの形成の際の目付け量と当該MPL層での含水量との関係を示すグラフである。
【図5】アノード側MPL層23aの形成の際の目付け量とその層厚との関係を示すグラフである。
【図6】無加湿で水素ガスを供給した場合のアノード側MPL層23aの層厚と発電電圧との関係を示すグラフである。
【図7】無加湿で水素ガスを供給して発電した場合の発電電圧とセル内部抵抗のセル温度に対する依存の様子を示すグラフである。
【図8】変形例の単セル15Aの概略構成を分解して斜視にて示す説明図である。
【図9】この変形例の単セル15Aを断面視して概略的に示す説明図である。
【図10】多列の溝部30をガスの流れ方向に斜めに配置した変形例の単セル15Bの概略構成を分解して斜視にて示す説明図である。
【図11】多列の溝部30を並べて陥没した凹部30Aを有する変形例の単セル15Cを断面視して概略的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、その実施例を図面に基づき説明する。図1は本実施例の燃料電池10を構成する単セル15の概略構成を分解して斜視にて示す説明図、図2はこの単セル15を断面視して概略的に示す説明図である。本実施例の燃料電池10は、図1〜図2に示す構成の単セル15を複数積層したスタック構造を有している。なお、本実施例の燃料電池10は、固体高分子型燃料電池であるが、異なる種類の燃料電池、例えば固体電解質型燃料電池においても、同様に適用可能である。
【0020】
単セル15は、電解質膜20の両側にアノード21とカソード22の両電極を備える。このアノード21とカソード22は、電解質膜20の両膜面に形成され膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly/MEA)を形成する。この他、単セル15は、電極形成済みの電解質膜20を両側から挟持するアノード側ガス拡散層23とカソード側ガス拡散層24とガスセパレーター25,26を備え、両ガス拡散層は、対応する電極に接合されている。ガスセパレーター25は、アノード側ガス拡散層23の側に、水素を含有する燃料ガスを流すセル内燃料ガス流路47を備える。ガスセパレーター26は、カソード側ガス拡散層24の側に、酸素を含有する酸化ガス(本実施例では、空気)を流すセル内酸化ガス流路48を備える。なお、図1〜図2には記載していないが、隣り合う単セル15間には、例えば、冷媒が流れるセル間冷媒流路を形成することができる。
【0021】
電解質膜20は、固体高分子材料、例えばフッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜であり、湿潤状態で良好な電気伝導性を示す。アノード21およびカソード22は、触媒(例えば白金、あるいは白金合金)を備えており、これらの触媒を、導電性を有する担体(例えば、カーボン粒子)上に担持させることによって形成されている。
【0022】
アノード側ガス拡散層23とカソード側ガス拡散層24は、ガス透過性を有する導電性部材、例えば、カーボンペーパやカーボンクロスによって形成することができる。アノード側ガス拡散層23は、MEAにおけるアノード21と逆側の拡散層表面、つまり図示するようにガスセパレーター25の側の表面に、有底の溝部30を多列に備える。この溝部30と水素ガスの流れとの関係については、後述する。また、アノード側ガス拡散層23は、MEAにおけるアノード21の側の拡散層表面に、アノード側MPL層(Micro Porous Layer)23aを有する。このアノード側MPL層23aは、導電性の粉体であるカーボン粒子をプロトン伝導性を有する電解質樹脂(本実施例では、電解質膜20を構成するフッ素系樹脂)で保持することで、層において連続気孔を形成する。このアノード側MPL層23aは、種々の手法で形成可能であり、例えば、フッ素系樹脂の溶液にカーボン粒子を分散させたスラリーを、アノード側ガス拡散層23の表面に塗布して乾燥することで、100〜200μm程度の層厚で形成可能である。また、アノード側MPL層23aは、単位面積当たりのいわゆる目付け量も規定でき、本実施例では、2.6〜5.3mg/cm2とした。なお、アノード側MPL層23aに代えて、保水機能を有する親水性の薬剤層とすることもできる。
【0023】
カソード側ガス拡散層24は、MEAにおけるカソード22の側の拡散層表面に、カソード側撥水層24aを有する。このカソード側撥水層24aは、撥水剤をカソード側ガス拡散層24の表面にスプレー塗布して形成される。
【0024】
ガスセパレーター25,26は、ガス不透過な導電性部材、例えば、カーボンを圧縮してガス不透過とした緻密質カーボンや、焼成カーボン、あるいはステンレス鋼などの金属材料により形成されている。ガスセパレーター25,26は、既述したセル内燃料ガス流路47およびセル内酸化ガス流路48の壁面を成す部材であって、その表面には、ガス流路を形成するための凹凸形状が形成されている。
【0025】
図1〜図2では図示していないが、ガスセパレーター25,26の外周近傍の所定の位置には、複数の孔部が形成されている。これらの複数の孔部は、ガスセパレーター25,26が他の部材と共に積層されて燃料電池10が組み立てられたときに互いに重なって、燃料電池10内を積層方向に貫通する流路を形成する。すなわち、上記したセル内燃料ガス流路47やセル内酸化ガス流路48、あるいはセル間冷媒流路に対して、燃料ガスや酸化ガス、あるいは冷媒を給排するためのマニホールドを形成する。
【0026】
本実施例の燃料電池10は、上記したガスセパレーター25の外周近傍の孔部からセル内燃料ガス流路47に水素ガスを流すに当たり、図1における左方側から水素ガスを供給する。また、ガスセパレーター26外周近傍の孔部からセル内酸化ガス流路48に空気を流すに当たり、図1における右方側から空気を供給する。つまり、本実施例の燃料電池10は、アノード側ガス拡散層23とカソード側ガス拡散層24とで、それぞれのガスの流れを逆向きとし、アノード側ガス拡散層23におけるガス流入側23bの側に、既述した有底の溝部30を多列に備えることになる。そして、本実施例の燃料電池10は、ガス流入側23bからアノード側ガス拡散層23に流入した水素ガスを、溝部30の底部分23cに当たるアノード側ガス拡散層23と溝部30より下流側のアノード側ガス拡散層23とで拡散ししつつアノード21に供給する。空気については、水素ガスと逆向きの流れでカソード側ガス拡散層24に流入した空気を、カソード側ガス拡散層24で拡散ししつつカソード22に供給する。この場合、図1〜図2は単セル15の一部範囲を示しているのであって、図1においては3列の溝部30がガス流入側23bに位置するが、溝部30の列数は、単セル15の寸法により定まる。
【0027】
ここで、溝部30の寸法やアノード側MPL層23aの層厚、目付け量等について説明する。図3は無加湿で水素ガスを供給した場合の単セル15のセル全長Lに対する溝部30の長さと発電電圧との関係を示すグラフである。図示するように、溝部30の長さがゼロ、即ち溝部30を有しない比較例燃料電池に対して、溝部30を図1に示すようにガス流入側23bの側に有する燃料電池10では、溝部30の長さがセル全長Lの2/5とすると発電電圧の顕著な上昇が観察され、セル全長Lの1/2程度であれば、上記した比較例より確実に高い発電能力が得られることが判明した。また、溝部30がセル全長Lの1/2を超えるようになると、発電能力は低下し、セル全長Lの全てに亘る場合には、溝部30を有しない比較例燃料電池より発電能力が劣ることが判明した。これは、溝部30が長くなれば、溝部30の下流側は、カソード側ガス拡散層24における上流側なために生成水が少ない領域に重なり、こうした領域においても後述の水成分の持ち去りが起き、アノード側ガス拡散層23の乾燥が助長されるためと考えられる。そして、溝部30がセル全長Lの全長に亘れば、溝部30を通過するだけの燃料ガスが増えるため、その分、アノード側ガス拡散層23からMEA(詳しくは、アノード21)へのガス拡散供給が進まないので、溝部30を有しない比較例燃料電池より発電能力が劣ると考えられる。
【0028】
この場合、溝部30の深さについては、アノード側ガス拡散層23の厚みより小さくすれば、溝部30は有底となってその底部分23cをアノード側ガス拡散層23に残すことができる。よって、燃料電池10に求められる発電能力を勘案して、適宜定めればよい。
【0029】
こうした溝部30の影響を、他の観点から調べた。一般に、電解質膜20の湿潤が不足すると、電解質膜20のプロトン伝導性は低下するので、発電能力は低下し、単セル15の内部抵抗値は上昇する。溝部30を有しない比較例燃料電池とセル全長Lの2/5の長さで溝部30を有する本実施例の燃料電池10(以下、これを単に溝部30を有する燃料電池10と称する)とについて、両燃料電池を定常状態において運転し、ガス供給を停止して発電を停止してから30秒に亘って乾燥させ、その乾燥後のセル内部抵抗を測定した。溝部30を有しない比較例燃料電池の単位面積当たりのセル内部抵抗は0.338Ω/cm2であったのに対し、溝部30を有する燃料電池10では2.054Ω/cm2であった。この現象を、図3に見られる発電能力向上との関係から以下、説明する。なお、通常は、運転停止の後に乾燥を行うことはないので、溝部30を有しない比較例燃料電池および溝部30を有する燃料電池10にあっても、セル内部抵抗の上昇は問題とはならない。
【0030】
セル内部抵抗の上昇は、電解質膜20の湿潤不足によるプロトン伝導性の低下によって現れるので、溝部30を有する燃料電池10でのセル内部抵抗上昇から、この燃料電池10では、発電停止後の僅かな期間の乾燥で電解質膜20の湿潤不足が起きたことになる。こうした電解質膜20の湿潤不足は、溝部30の溝内に、溝部30の底部分23c(図2参照)におけるアノード側ガス拡散層23および当該底部分のアノード側ガス拡散層23と接合したMEAから水成分が引き抜かれたための電解質膜20の湿潤不足に符合する。つまり、本実施例の燃料電池10では、有底の溝部30を有することで、この溝部30の溝内への水成分の引き抜きを起こすと言える。それでいながら、図3のように発電能力が向上したことは、次のように説明できる。
【0031】
溝部30を有する燃料電池10のアノード側ガス拡散層23では、水素ガスは、ガス流入側23bからアノード側ガス拡散層23に流入するに当たり、有底の溝部30を通過した上で、下流側に流れる。こうして流れる水素ガスは、有底の溝部30を通過する際、その溝部30の内部に入り込んでいる水成分を下流側に持ち去る。そうすると、有底の溝部30の底部分23cに当たるアノード側ガス拡散層23を挟んだMEAと溝部30の内側領域とで水成分の分布(水成分の濃度)にズレが起きる。この場合、有底の溝部30の底部分23cに当たるアノード側ガス拡散層23は水成分の透過が可能であることから、電解質膜20を含むMEAから溝部30の内側領域に向けた水成分の移動が進むことになる。
【0032】
その一方、電解質膜20を含むMEAを挟んで向かい合うアノード側ガス拡散層23とカソード側ガス拡散層24とでは、既述したようにガスの流れが逆向きであることから、アノード側ガス拡散層23におけるガス流入側23bは、カソード側ガス拡散層24では空気の流れの下流側(カソード下流側)となる。カソード22では、電気化学反応に伴い水が生成され、その生成水は、カソード側ガス拡散層24を流れる空気に運ばれてカソード下流側で多くなる。つまり、アノード側ガス拡散層23の側でMEAから溝部30の内側領域に向けた水成分の移動が進む領域と、カソード側ガス拡散層24で生成水過多となりがちな領域が、電解質膜20を含むMEAを挟んで一致する。その上で、電解質膜20を含むMEAにあっても生成水の拡散浸透を起こすので、カソード側ガス拡散層24の生成水は、電解質膜20を含むMEAを拡散して通過した後に、MEAから溝部30の内側領域に向けて移動する。
【0033】
こうした現象は、アノード側ガス拡散層23における水素ガスの溝部30の通過の間、即ち電池発電のためのガス供給の間に継続するので、MEA、詳しくはこれに含まれる電解質膜20は、カソード側ガス拡散層24からの生成水の拡散浸透により自ずと湿潤状態となる。この結果、溝部30を有する本実施例の燃料電池10では、電解質膜20をより確実に湿潤させて発電能力を高めることができると言え、この結果が図3に反映したことになる。しかも、電解質膜20を含むMEAは、アノード側ガス拡散層23の全面、詳しくはガス流入側23bの側の溝部30の底部分23cに当たるアノード側ガス拡散層23の外表と、溝部30より下流側のアノード側ガス拡散層23の外表とにアノード21に接合させている。よって、ガス流入側23bの側の溝部30の底部分23cに当たるアノード側ガス拡散層23からアノード21へのガス供給が可能なほか、溝部30の下流側のアノード側ガス拡散層23からもアノード21にガス供給ができるので、ガス供給の効率低下を抑制できると共に、MEAに含まれる電解質膜20を、その全ての発電領域において活用でき、発電能力の低下を来さないようにできる。
【0034】
このように溝部30の底部分23cに当たるアノード側ガス拡散層23を通して、アノード側ガス拡散層23には、カソード側ガス拡散層24の側から生成水を浸透させることができるので、アノード側ガス拡散層23に無加湿の水素ガスが供給されても、アノード側ガス拡散層23には水成分が行き渡るようにできる。よって、本実施例の燃料電池10では、水素ガスを無加湿状態で供給しても高い発電能力を得ることができると共に、水素ガス加湿用の構成が不要もしくは簡略化でき、その分、コスト低減を図ることができる。つまり、本実施例の燃料電池10によれば、無加湿運転への適用を高めることができるほか、ガス加湿用の加湿器を備えた場合には、小さな容量の加湿器でのガス加湿による発電運転を行うことが可能となる。
【0035】
また、本実施例では、有底の溝部30を多列にガス流入側23bに配設して下流側に延在させると共に、溝部30をアノード側ガス拡散層23を流れる水素ガスの流れ方向と平行に延在させたので、それぞれの溝部30で水素ガスの流れをほぼ均一とできる。このため、それぞれの溝部30の底部分23cに当たるアノード側ガス拡散層23において起きるカソード側ガス拡散層24の側からの生成水の拡散浸透も溝部30ごとにほぼ均一化するので、MEAに含まれる電解質膜20の湿潤化が均等となり、発電能力向上の上からより好ましい。
【0036】
しかも、アノード側ガス拡散層23に接合するガスセパレーター25において、多列のセル内燃料ガス流路47にてアノード側ガス拡散層23における水素ガスの流れ方向を規定した上で、図1〜図2に示すように、多列のセル内燃料ガス流路47の間のリブを多列の溝部30の間のリブに当接させた。よって、それぞれの溝部30には、該当するセル内燃料ガス流路47から水素ガスを簡便且つより均一に供給できるので、発電能力向上の上から更に好ましい。
【0037】
次に、本実施例の燃料電池10では、溝部30に加えてアノード側MPL層23aを設けたので、このアノード側MPL層23aの利点について説明する。アノード側MPL層23aは、既述したようにカーボン粒子を電解質樹脂(電解質膜20を構成するフッ素系樹脂)で保持して連続気孔し、電解質樹脂のイオン交換基(フッ素系樹脂ではスルホン基)によりこの連続気孔に水成分を保持する。図4はアノード側MPL層23aの形成の際の目付け量と当該MPL層での含水量との関係を示すグラフ、図5はアノード側MPL層23aの形成の際の目付け量とその層厚との関係を示すグラフ、図6は無加湿で水素ガスを供給した場合のアノード側MPL層23aの層厚と発電電圧との関係を示すグラフである。
【0038】
図4〜図5のグラフに示すように、アノード側MPL層23aの目付け量が増えるに連れてアノード側MPL層23aでの含水量(保水量)は増加し、その層厚も増加する。その反面、図6に示すように、アノード側MPL層23aの層厚は、発電電圧に影響を及ぼし、層厚が100〜200μmの範囲であれば、発電能力の低下抑制の上で効果がある。つまり、アノード側MPL層23aの層厚が200μmを超えると、層厚増加によるアノード側MPL層23a自体の内部抵抗の増加も顕著となり、発電電圧の低下が起きると考えられる。その一方、アノード側MPL層23aの層厚が100μmを下回ると、このアノード側MPL層23aでの水成分保持が不足となり、無加湿での水素ガス供給ではアノード側ガス拡散層23の側における水分不足により発電電圧の低下が起きると考えられる。こうした知見に立ち、本実施例では、アノード側MPL層23aを100〜200μmの範囲の層厚とした上で、この層厚に対応させて、目付け量を2.6〜5.3g/cm2の範囲とした。
【0039】
次に、溝部30とアノード側MPL層23aとを備えた本実施例の燃料電池10の利点について説明する。図7は無加湿で水素ガスを供給して発電した場合の発電電圧とセル内部抵抗のセル温度に対する依存の様子を示すグラフである。
【0040】
図示するグラフには、溝部30もアノード側MPL層23aも備えない比較例燃料電池と、溝部30を有するもののアノード側MPL層23aを有しない参考燃料電池と、アノード側MPL層23aを有するものの溝部30を有しない参考燃料電池と、溝部30とアノード側MPL層23aとを備えた本実施例の燃料電池10とについて、発電電圧とセル内部抵抗のセル温度に対する依存の様子を示している。図示するように、セル温度が低い領域Txでは、比較例燃料電池、両参考燃料電池および本実施例の燃料電池10において、発電電圧とセル内部抵抗に有意な差は見られないものの、セル温度が上昇すると、比較例燃料電池では、電圧の著しい低下とセル内部抵抗の上昇が見られ、電池性能は低下する。溝部30或いはアノード側MPL層23aのいずれかを有する参考燃料電池では、比較例燃料電池より高い電池能力を得られ、溝部30とアノード側MPL層23aの両者を有する本実施例の燃料電池10では、溝部30とアノード側MPL層23aの相乗効果により、より高い電池性能を得ることができた。つまり、本実施例の燃料電池10によれば、通常の運転ではあまり起き得ない無加湿での水素ガス供給によっても、溝部30によるカソード側ガス拡散層24から電解質膜20を経た生成水のアノード側ガス拡散層23への拡散浸透とアノード側MPL層23aによる保水とにより、高い電池性能を得ることができる。
【0041】
また、本実施例の燃料電池10では、カソード側ガス拡散層24におけるMEAの側にカソード側撥水層24aを有する。よって、このカソード側撥水層24aによる撥水機能により、カソード側ガス拡散層24の生成水を、積極的に電解質膜20を経てアノード側ガス拡散層23に拡散浸透させることができる。
【0042】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこのような実施の形態になんら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様での実施が可能である。図8は変形例の単セル15Aの概略構成を分解して斜視にて示す説明図、図9はこの変形例の単セル15Aを断面視して概略的に示す説明図である。
【0043】
図示するように、この変形例の単セル15Aは、MEAや溝部30、アノード側ガス拡散層23、カソード側ガス拡散層24等の構成において既述した実施例の単セル15と代わるものではなく、溝部30に、電解質膜20を構成する電解質樹脂(フッ素系樹脂31)を備える点で相違し、溝部30にフッ素系樹脂31を備える様子は、図において30/31と付して示されている。この場合、例えば、溝部30の壁面に電解質樹脂(フッ素系樹脂31)を塗布したりして、溝部30を水素ガスが通過できるようにする。この変形例の単セル15Aでは、溝部30に有する電解質樹脂(フッ素系樹脂31)のイオン交換基(スルホン基)による水成分の保持により、アノード側ガス拡散層23における水分量を増加できる。この溝部30の電解質樹脂(フッ素系樹脂31)による水成分保持は、既述した溝部30を通過する水素ガスによる水成分の持ち去りと並行して起きる。よって、この変形例では、溝部30の内部に入り込んでいる水成分の持ち去りによる既述した電解質膜20の湿潤化を図りつつ、アノード側ガス拡散層23における水分量を増加できる。通常、燃料電池が高温で運転を継続すると、水分不足になりがちであるが、上記のように溝部30のフッ素系樹脂31での保水により、水分不足を補えるので、この変形例によれば、発電能力を維持できる。この場合、溝部30に有するフッ素系樹脂31による水分保持により、無加湿状の水素ガス供給に伴う運転に際しても、発電能力の低下を抑制できる。
【0044】
なお、この変形例の単セル15Aでは、溝部30のフッ素系樹脂31にて水成分保持を図るので、アノード側MPL層23aについては、省略することもできる。或いは、アノード側ガス拡散層23におけるガスの流れ方向に沿った筋状のアノード側MPL層23aと筋状の撥水層とを、ガスの流れに交差する方向に交互に並べた層構成としたり、アノード側MPL層23aに代わり撥水層を有するようにすることもできる。筋状のアノード側MPL層23aと筋状の撥水層とを交互に並べるには、フッ素系樹脂の溶液にカーボン粒子を分散させたスラリーの噴射ノズルと、撥水剤の噴射ノズルとがガスの流れに交差する方向に交互に並んだ噴射装置から、スラリーおよび撥水剤をアノード側ガス拡散層23の表面に噴射塗布して乾燥させればよい。撥水層とする場合には、アノード側ガス拡散層23の表面に撥水剤を塗布して乾燥させればよい。こうしてアノード側ガス拡散層23に形成した撥水層は、溝部30からの水成分の持ち去りに寄与するように働く。即ち、底部分23cに当たるアノード側ガス拡散層23では、カソード側ガス拡散層24の側からの生成水の浸透が起きているので、アノード側ガス拡散層23の表面の撥水層は、溝部30の内部の側への水の移動を助けることになり、溝部30からの水成分の持ち去りに寄与する。
【0045】
この他、次のように変形することもできる。既述した実施例では、アノード側ガス拡散層23のアノード側MPL層23aにガスの流れ方向に沿った溝部30を設けたが、この溝部30については、アノード側ガス拡散層23にアノード側MPL層23aの側から流入した水素ガスが溝部を通過すればよい。また、溝部30が並んで陥没したような単純な凹部とすることもできる。図10は多列の溝部30をガスの流れ方向に斜めに配置した変形例の単セル15Bの概略構成を分解して斜視にて示す説明図、図11は多列の溝部30を並べて陥没した凹部30Aを有する変形例の単セル15Cを断面視して概略的に示す説明図である。これらに示す変形例であっても、斜めの溝部30或いは凹部30Aを通過する水素ガスによる水成分の持ち去りによる電解質膜20の湿潤化に伴う効果を奏することができる。なお、図11では、凹部30Aをアノード側ガス拡散層23の一部部位に描画して示しているが、凹部30Aは、アノード側ガス拡散層23の図における紙面手前側から紙面奥側に掛けた拡散層幅方向に亘って幅広に形成したり、この拡散層幅においてガス流入側23bに点在させてもよい。
【0046】
また、上記の実施例では固体高分子形燃料電池を例に説明したが、ダイレクトメタノール形燃料電池、リン酸形燃料電池など種々の燃料電池に適用することができる。
【符号の説明】
【0047】
10…燃料電池
15、15A〜15C…単セル
20…電解質膜
21…アノード
22…カソード
23…アノード側ガス拡散層
23a…アノード側MPL層
23b…ガス流入側
23c…底部分
24…カソード側ガス拡散層
24a…カソード側撥水層
25…ガスセパレーター
26…ガスセパレーター
30…溝部
30A…凹部
31…フッ素系樹脂
47…セル内燃料ガス流路
48…セル内酸化ガス流路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロトン伝導性を有する電解質膜の両膜面に電極を形成した膜電極接合体と、該膜電極接合体の一方の電極面に設けられたアノード側拡散層と、前記膜電極接合体の他方の電極面に設けられたカソード側拡散層とを備え、該カソード側拡散層と前記アノード側拡散層におけるガスの流れを逆向きとした燃料電池であって、
前記アノード側拡散層の前記膜電極接合体とは逆側の表面に有底の凹部を備え、
該凹部は、前記アノード側拡散層に流入する前記ガスの流入側に位置する
燃料電池。
【請求項2】
有底の前記凹部は、最大で、前記ガスの流入側部位から前記アノード側拡散層の中央までとされている請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
前記凹部は、多列の有底の溝部とされ、該溝部は、前記アノード側拡散層における前記ガスの流入側の部位から下流側に延在する請求項1または請求項2に記載の燃料電池。
【請求項4】
前記溝部は、前記アノード側拡散層を流れる前記ガスの流れ方向と平行に延在する請求項3に記載の燃料電池。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の燃料電池であって、
更に、
前記アノード側拡散層に接合したセパレーターを備え、
該セパレーターは、
前記アノード側拡散層における前記ガスの流れ方向を規定するガス流路を、前記アノード側拡散層の側に多列に備え、該多列のガス流路の間のリブを前記多列の前記溝部の間のリブに当接させている
燃料電池。
【請求項6】
前記凹部に、プロトン伝導性を有する電解質樹脂を前記凹部のガス通過を許容して有する請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項7】
前記アノード側拡散層は、前記膜電極接合体の側の表面に、導電性の粉体をプロトン伝導性を有する電解質樹脂で保持して気孔を形成した気孔層を有する請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項1】
プロトン伝導性を有する電解質膜の両膜面に電極を形成した膜電極接合体と、該膜電極接合体の一方の電極面に設けられたアノード側拡散層と、前記膜電極接合体の他方の電極面に設けられたカソード側拡散層とを備え、該カソード側拡散層と前記アノード側拡散層におけるガスの流れを逆向きとした燃料電池であって、
前記アノード側拡散層の前記膜電極接合体とは逆側の表面に有底の凹部を備え、
該凹部は、前記アノード側拡散層に流入する前記ガスの流入側に位置する
燃料電池。
【請求項2】
有底の前記凹部は、最大で、前記ガスの流入側部位から前記アノード側拡散層の中央までとされている請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
前記凹部は、多列の有底の溝部とされ、該溝部は、前記アノード側拡散層における前記ガスの流入側の部位から下流側に延在する請求項1または請求項2に記載の燃料電池。
【請求項4】
前記溝部は、前記アノード側拡散層を流れる前記ガスの流れ方向と平行に延在する請求項3に記載の燃料電池。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の燃料電池であって、
更に、
前記アノード側拡散層に接合したセパレーターを備え、
該セパレーターは、
前記アノード側拡散層における前記ガスの流れ方向を規定するガス流路を、前記アノード側拡散層の側に多列に備え、該多列のガス流路の間のリブを前記多列の前記溝部の間のリブに当接させている
燃料電池。
【請求項6】
前記凹部に、プロトン伝導性を有する電解質樹脂を前記凹部のガス通過を許容して有する請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の燃料電池。
【請求項7】
前記アノード側拡散層は、前記膜電極接合体の側の表面に、導電性の粉体をプロトン伝導性を有する電解質樹脂で保持して気孔を形成した気孔層を有する請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の燃料電池。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−69260(P2012−69260A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−210647(P2010−210647)
【出願日】平成22年9月21日(2010.9.21)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月21日(2010.9.21)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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