説明

燃焼コールドスプレー

【課題】 堆積膜(12,86)の製造装置(10,50)、その堆積方法及び物品(80)を提供する。
【解決手段】 装置(10)は、燃焼室(22)を備える溶射ガン(16)、燃焼ゾーン(28)、空気噴射ポート(18)、燃料噴射ポート(20)、ノズル(30)及び液体噴射ポート(34)を含む。燃焼ゾーン(28)は燃焼室(22)の入口側(24)と出口側(26)の間に位置する。方法は、特に、燃焼ゾーン(28)に燃料及び酸化剤を供給し、燃焼ゾーン(28)内部で燃焼を開始させ、燃焼の生成物を出口側(26)に向けて送って、燃焼生成物流を生じせしめることを含む。方法は、原料と液体を含む原料混合物を燃焼生成物流に導入して、同伴原料流を生じせしめ、物品の表面に堆積膜を形成するために溶射ガンからノズルから同伴原料流を放出することとをさらに含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は広義には燃焼コールドスプレーに関し、具体的には、燃焼コールドスプレーのための装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
表面が腐食、エロージョン又は高温を受けるものなど、多くの用途では接合表面層が望まれる。接合表面層は、金属原料を基材の表面層に沿って溶融させ、再凝固させて接合付着面を形成するクラッド法によって製造することができる。クラッド法は、特に耐熱合金に関しては、時間がかかり、かなりのコストを要するだけでなく、部品にかなりの入熱を要する。
【0003】
基材上で接合金属皮膜を製造するための別の方法はコールドスプレー技術である。コールドスプレー技術(本明細書では単に「コールドスプレー」ともいう。)では、粒子をガスと混合した後、ガスと粒子を加速して超音速ジェットを形成するが、その際、粒子の溶融を防ぐためガスと粒子の温度は十分低い温度に維持される。コールドスプレーを用いた銅皮膜の堆積が従前行われており、バルク状特性を得るのに十分な結合が達成されている。しかし、ステンレス鋼、ニッケル、ニッケル基超合金及びチタン合金のようなもっと高温用の材料では、高品質の堆積膜の形成にはさらに高い速度が必要とされるであろうが、従来のコールドスプレー装置による制約がある。特に、粒子及び堆積膜の温度を高くすることが望まれるであろう。
【0004】
粒子堆積法で製造される接合堆積膜は、クラッド法よりも経済的であり、高い堆積速度でのニアネットシェイプ成形が可能となる。コールドスプレー堆積法は、ガス温度の制約のため、現状では粒子固着の程度は限られている。銅よりも高融点の金属を用いて優れた性質を得るため、コールドスプレー装置はガス温度の高温化に向かっている。
【0005】
燃焼溶射装置が、粒子の溶融又は部分溶融及び基材への加速による金属皮膜の製造に現在使用されている。かかる装置では、粒子の融点を上回るガス温度と粒子を加速するためのガス圧力を生じさせるため、燃焼プロセスが利用されている。
【0006】
燃焼溶射法でみられる一般的な問題は、噴射された金属粉体が酸化されやすいことである。皮膜の形成性を改善し、皮膜の脆さを低減し、耐食性を向上するため、金属皮膜に存在する酸素量を減らすことが重要である。皮膜の酸素含有量を低減するのに常用される方法としては、窒素のような不活性ガスを満たしたチャンバ内で金属粉体を溶射し、溶射プロセス中に溶融粉体の酸化を防ぐための不活性ガスシュラウドを用いることが挙げらられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第7553385号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、クラッド法よりも費用効果が高い接合堆積膜を形成し、耐熱金属のコールドスプレーよりも経済的に高品質堆積膜を製造できるようにすることが求められている。さらに、追加の焼鈍ステップを必要とせずに低酸素レベルの金属皮膜が得られる高品質金属皮膜の堆積方法があれば望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
簡潔に述べると、一実施形態では、堆積膜の製造装置を提供する。本装置は、燃焼室を備える高速空気燃料(HVAF)ガンと、燃焼ゾーンと、空気噴射ポートと、燃料噴射ポートと、透過性バーナブロックと、ノズルと、液体噴射ポートとを備える。燃焼室は入口側と出口側を有し、燃焼室の入口側と出口側の間に燃焼ゾーンが存在する。空気噴射ポートは燃焼室の入口側に配置され、燃焼ゾーンに空気を噴射するように構成される。燃料噴射ポートは燃焼室の入口側に配置され、燃焼ゾーンに燃料を噴射するように構成される。透過性バーナブロックは燃焼ゾーンに配置される。ノズルは燃焼室の出口側に配置される。液体噴射ポートは液体供給源に接続され、入口側を通して燃焼室内に軸方向に配置される。
【0010】
一実施形態では、堆積膜の製造装置を提供する。本装置は、原料供給源と、液体供給源と、燃焼室と、燃焼ゾーンと、燃料噴射ポートと、酸化剤噴射ポートと、ノズルと同軸管噴射ポートとを備える。燃焼室は入口側と出口側を有し、入口側と出口側の間に燃焼ゾーンを有する。燃料噴射ポートは燃焼室の入口側に配置され、燃焼ゾーンに燃料を噴射するように構成される。酸化剤噴射ポートは燃焼室の入口側に配置され、燃焼ゾーンに酸化剤を噴射するように構成される。ノズルは燃焼室の出口側に配置される。同軸管噴射ポートは内側管と外側管とを備えていて、原料供給源及び液体供給源の双方に同軸管噴射ポートが接続されるように燃焼室の入口側に配置される。
【0011】
一実施形態では、堆積膜を有する物品を形成する方法を提供する。本方法は、入口側と出口側とを有する燃焼室を備える溶射ガンを設けるとともに、入口側と出口側の間に燃焼ゾーンを設けることを含む。本方法は、さらに、燃焼ゾーンに透過性バーナブロックを設け、燃焼ゾーンの内部に燃料及び酸化剤を供給し、燃焼ゾーンの内部で燃焼を開始させ、燃焼の生成物を出口側に向けて送って、燃焼生成物流を生じせしめることを含む。本方法は、さらに、原料と液体を含む原料混合物を燃焼生成物流に導入して同伴原料流を生じせしめ、ノズルを通して溶射ガンから同伴原料流を放出して物品の表面に堆積膜を形成することを含む。
【0012】
一実施形態では、物品を提供する。本物品は基材と該基材上の堆積膜とを備える。堆積膜は、複数の原料粒子がそれらの粒子境界に沿って接合したものからなり、粒子は約10μm未満のメジアン粒径を有する。
【0013】
本発明の上記その他の特徴、態様及び利点については、図面と併せて以下の詳細な説明を参照することによって理解を深めることができるであろう。図面を通して、同様の部材には同様の符号を付した。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係るHVAF装置を示す図である。
【図2】図2は本発明の一実施形態に係る堆積膜の製造装置を示す図である。
【図3】図3は本発明の一実施形態に係る堆積膜を有する物品を示す図である。
【図4】図4は溶射法を使用した堆積膜の断面を示すSEMである。
【図5】図5は本発明の一実施形態に係る堆積膜の断面を示すSEMである。
【図6】図6は本発明の別の実施形態に係る堆積膜の断面を示すSEMである。
【図7】図7は本発明のさらに別の実施形態に係る堆積膜の断面を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態には、燃焼溶射装置を微粒子金属原料と共に用いて、接合粒子での固相衝撃成膜法(solid-state impact deposition)で基材上に緻密な微細結晶粒金属堆積膜を製造するための装置及び方法が包含される。
【0016】
本明細書及び特許請求の範囲において、単数形で記載したものであっても、文脈から別途明らかでない限り、標記のものが複数存在する場合も含む。
【0017】
本明細書で用いる「接合」という用語は、接触及び付着していることを意味する。「接合」は堆積粒子間及び/又は堆積粒子と基材/基板粒子との間でもよい。本明細書で用いる「酸素含有量の低減」という用語は、本明細書に記載した装置及び方法を用いた金属又は合金堆積膜中の最終酸素含有量が、他の従来の金属/合金被覆装置及び技術に比べて、低減していることを意味する。「堆積膜」は基材/基板上のバルク又は層である。ある実施形態では、堆積膜は皮膜(コーティング)である。「液体噴射ポート」は、液体を含む流体(例えば液体又は液固混合物もしくは気液混合物のような液体含有混合物)を噴射するためのポートである。
【0018】
典型的な溶射皮膜又は堆積膜は、粒子を溶融して、基材上で再凝固させることによって製造される。このプロセスでは、原料(通常は粉体又はワイヤの形で供給される)は溶射装置内で高温に加熱される。原料は、完全に溶融して液滴を形成したものでもよいし、部分的に溶融して半可塑性粒子を形成したものでもよいし、或いは溶融していない固体粉体粒子であってもよい。加熱された原料は溶射装置から高速で放出され、その後、基材物品面に吹き付けられる。吹き付けられた物質は表面に堆積し、物質が液体であれば凝固する。液滴及び粒子は高速で表面に衝突し、表面で平らになる。堆積は、凝固堆積膜が所望の厚さ(数mm程度であることが多い。)に達するまで継続される。
【0019】
溶射法では、原料を加熱するため燃料を酸化剤と共に燃焼させることが多い。燃焼プロセスは、デトネーションによる周期的燃焼に基づくものであってもよいし、連続燃焼に基づくものであってもよい。高速酸素燃料(HVOF)技術と高速空気燃料(HVAF)技術の2通りの燃焼溶射法が堆積膜の施工に用いられることがある。いずれの技術も、ガス又は液体燃料を酸素(HVOF)又は空気(HVAF)と共に燃焼させて高速排気流を生じさせる。排気流の中に噴射された原料粉体は加熱され、所望の基材に向かって音速又は超音速で加速される。得られる堆積膜は、通例、他の溶射施工技術に比べて高い密度を有する。しかし、平均粒径が約15〜20μm未満の原料粒子は、従来のHVOF装置及びHVAF装置では閉塞又は凝集を起こす傾向があり、供給速度及び堆積膜の品質に影響を与える。
【0020】
さらに、HVOFプロセスは、酸素での燃焼という性質上、非常に高い燃焼温度を生じ、高い粒子温度を生じる。炭化物粒子は金属バインダーマトリックス中で酸化又は溶解を起こし、皮膜の性質に影響を与えかねない。対照的に、HVAFプロセスは、燃焼温度及び粒子温度の低い、当技術分野で「ウォームキネティックスプレー(warm kinetic spray)」といわれるプロセス範囲で作動する。比較的大きい粉体原料を用いたHVAFプロセスで製造された皮膜は、HVOF堆積膜に比べて酸素含有量が少ないことが観察されており、特に微粒子をスプレーする際に有利である。しかし、低い燃焼温度のため、粒子間の結合が低下するので、堆積膜の機械的強度が制限されかねない。
【0021】
本発明の一実施形態では、堆積膜の製造装置を提供する。本装置は堆積膜の製造にHVAF溶射ガンを使用する。この装置について例示的な図面を用いて説明し、参照される。本明細書に記載した各実施例は本発明を例示するためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明の技術的範囲及び技術的思想から逸脱せずに本発明に様々な修正及び変更を加えることができることは当業者には明らかであろう。例えば、ある実施形態の一部として例示又は記載した特徴を別の実施形態に用いてさらに別の実施形態としてもよい。従って、かかる修正及び変更を特許請求の範囲及びその均等の範囲に属するものとして包含する。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態によって、基材14に堆積膜12を施工する装置10の簡略化した図である。装置10はHVAF溶射ガン16を含む。様々なHVAF溶射ガンが当技術分野で知られており、本発明の様々な実施形態で使用し得るが、本実施例に関して図1に示す溶射ガン16は複数の周方向に離隔した空気噴射ポート18及び燃料噴射ポート20を含んでおり、それぞれ空気及び燃料(気体又は液体)を燃焼室22に供給する。溶射ガン16は、入口側24と出口側26を有する燃焼室22内で燃料/空気混合物を点火する。燃焼室22の入口側24と出口側26の間に燃焼ゾーン28が位置する。燃焼室22の出口側26に配置されたノズル30は、燃焼ガスを高速に加速する。ノズル30は様々な幾何形状のものでよい。燃焼ガスの速度は通例約600m/sを超える。
【0023】
堆積粒子の温度及び速度は、顕著な跳ね(splashing)や跳ね飛ばし(sputtering)を起こさずに、基材14に皮膜12を接合させるように調整すればよい。従って、高い燃焼ガス速度で、低温の燃焼ガスを用いて衝撃を生じさせることができる。一実施形態では、燃焼室22には、上流側面31及び下流側面32を有する透過性バーナブロック32が配置されており、高速燃焼ガス流の発生を補助する。一実施形態では、透過性バーナブロック32は燃焼室22の燃焼ゾーン28に配置される。一実施形態では、透過性バーナブロック32は燃料噴射ポート20から燃料を受け取り、燃料の効率的燃焼を促して高速燃焼ガスを発生させる。一実施形態では、透過性バーナブロック32は、燃焼ゾーン28での効率的燃焼のため燃料を輸送するのに役立つ複数のオリフィス(図示せず)を含む。一実施形態では、透過性バーナブロック32はセラミック材料からなる。一実施形態では、透過性バーナブロック32は触媒プレートである。
【0024】
一実施形態では、HVAF溶射ガンは、さらに、液体供給源36に接続されていて入口側24を通して燃焼室に配置された液体噴射ポート34をさらに含む。液体噴射ポート34は周方向、軸方向、又はノズル30に対して斜角に配置し得る。一実施形態では、液体噴射ポート34はHVAF溶射ガン16に軸方向に配置される。別の実施形態では、図1に示すように、HVAF溶射ガン16は燃焼室22の中心軸に液体噴射ポート34を含む。
【0025】
一実施形態では、HVAF溶射ガンは、原料供給源40に接続された原料噴射ポート38をさらに含む。原料噴射ポート38は周方向、軸方向、又は燃焼室22に対して斜角に配置し得る。一実施形態では、図1に示すように、溶射ガン16は燃焼室22に軸方向に配置された原料噴射ポート38を含む。一実施形態では、原料噴射ポート38は原料を燃焼ガスの流れの中に供給する。燃焼ガスは原料を加速し、原料はHVAF溶射ガン16を出て基材14上で皮膜12を生じる。
【0026】
従来のコーティング装置での粒径の小さな粒子の供給の際の問題を解決するため、液体噴射ポート34は、原料を分散させる液体材料を供給して溶射ガン16の燃焼ガス流の中に噴射する。一実施形態では、原料又は原料混合物を、液体供給源36の液体と混合して液体噴射ポート34から燃焼ガス流に噴射する。別の実施形態では、液体及び原料混合物は、それぞれ液体噴射ポート34及び原料噴射ポート38を通して別個に燃焼ガス流に同時噴射される。
【0027】
原料を分散させるための好適な液体としては、例えば、水、アルコール、有機可燃性液体、有機不燃性液体又はこれらの混合物がある。原料組成物を分散させるための好適な液体の具体例としては、水、エタノール、メタノール、イソプロパノール、ブタノール、ヘキサン、エチレングリコール、グリセロール又はこれらの組合せが挙げられる。平均粒径の小さい原料粒子を液体中に分散させることによって、平均粒径約16μm未満、ある実施形態では約5μm未満、別の実施形態では2μm未満の皮膜12を本装置10で形成することができる。
【0028】
特に原料、燃料、燃焼温度及び燃焼ガス流の速度などの変数によっては、液体又は液体−原料混合物を燃焼ガス流に導入する液体噴射ポート34の先端の位置は異なる。一実施形態では、液体噴射ポート34は透過性バーナブロック32の下流側面33まで延在する。別の実施形態では、液体噴射ポート34は燃焼ゾーン28内の透過性バーナブロック32とノズル30の間まで延在する。さらに別の実施形態では、液体噴射ポート34は燃焼ゾーン28を経てノズル30まで延在する。
【0029】
本発明の一実施形態では、堆積膜の製造装置50は図2に示す実施例として表される。装置50では、例えばHVAF又はHVOF溶射ガンを始めとする任意の溶射ガンを使用し得る。図1で説明した装置と同様に、装置50も、本発明の一実施形態に従って基材54に皮膜52を施工するのに使用できる。装置50は溶射ガン56を含む。様々な溶射ガンが当技術分野で知られており、本発明の様々な実施形態で使用し得るが、図2に示す実施例の溶射ガン56は、複数の周方向に離隔した酸化剤噴射ポート58及び燃料噴射ポート20を備えており、それぞれ酸化剤及び燃料(気体又は液体)を燃焼室22に供給する。酸化剤は空気でも、酸素でも、それらの組合せでもよい。溶射ガン56は、入口側24と出口側26とを有する燃焼室22内で燃料/酸化剤混合物を点火する。燃焼室22の入口側24と出口側26の間に燃焼ゾーン28が位置する。図1と同様に、燃焼室22の出口側26に配置されたノズル30は燃焼ガスを高速に加速する。
【0030】
燃焼室22に原料及び液体をそれぞれ供給するため、原料供給源62及び液体供給源64が装置50に設けられる。一実施形態では、内側管68と外側管70とを備える同軸管噴射ポート66が燃焼室22の入口側に配置される。一実施形態では、同軸管噴射ポート66は原料供給源62と液体供給源64の両方に接続される。一実施形態では、同軸管噴射ポート66の内側管68は原料供給源62に接続され、外側管70は液体供給源64に接続される。一実施形態では、同軸管噴射ポート66の内側管68は、原料を分散用のガス又は空気と共に通過させるために使用される。
【0031】
一実施形態では、同軸管噴射ポート66は3以上の同軸管を備える。一実施形態では、装置50は2以上の同軸管噴射ポート66を備える。ある実施形態では、装置50はHVOF溶射ガンで作動する。別の実施形態では、装置50は、燃焼室22に配置され高速燃焼ガス流の発生を助ける透過性バーナブロック32を備える。一実施形態では、透過性バーナブロック32は燃焼室22の燃焼ゾーン28に配置される。別の実施形態では、装置50はHVAF溶射ガンを備える。図1の装置10と同様に、一実施形態では、透過性バーナブロック32は燃料噴射ポート20から燃料を受け取り、燃料の効率的燃焼を促して高速燃焼ガスを発生させる。一実施形態では、透過性バーナブロック32は、燃焼ゾーン28での効率的燃焼のため燃料を輸送するのに役立つ複数のオリフィスを含む。一実施形態では、透過性バーナブロック32はセラミック材料からなる。一実施形態では、透過性バーナブロック32は触媒プレートである。
【0032】
一実施形態では、堆積膜を有する物品を形成する方法を提供する。「燃焼コールドスプレー法」とも呼ばれるこの方法は、例えば、図1又は図2に示すように、燃焼室22と、燃料噴射ポート20と、酸化剤噴射ポート(18,58)と、液体噴射ポート(34,70)と、原料噴射ポート(38,68)とを含む堆積膜製造装置(10,50)を用意することを含む。一実施形態では、成膜に用いられる溶射ガンはHVAF溶射ガンである。一実施形態では、燃料又は可燃性燃料は、プロピレン、プロパン、メタン、ブタン、天然ガス、水素又はそれらの混合物である。酸化剤は空気でも、酸素でもよい。
【0033】
本方法は、さらに、燃焼ゾーン28に透過性バーナブロック32を設け、燃料及び酸化剤を燃焼ゾーンへ輸送した後に燃焼ゾーンで燃焼を開始させることを含む。燃焼生成物を次いで出口側26に向けて送り、燃焼生成物流を生じせしめる。原料と液体を含む原料混合物を燃焼生成物流に導入して、同伴原料流を生じせしめ、ノズル30を通して溶射ガン(10,50)から同伴原料流を放出して物品の表面に堆積膜を形成する。
【0034】
一実施形態では、本明細書に開示した燃焼コールドスプレー法は、ガスの温度及びガスを超音速まで加速する方法の点で、従来のコールドスプレー法とは異なる。従来のコールドスプレーでは、ガスは外部電気加熱装置で加熱して、高圧で加速していたが、燃焼コールドスプレーでは、ガスは燃焼の際の化学反応で加熱され、燃焼副生物の膨張を利用して加速する。従来のコールドスプレーでは、加熱ガスは粒子の融点温度未満に維持される。燃焼コールドスプレーでは、一実施形態では、燃焼ガスは粒子の融点温度を超える温度まで加熱されるが、液体噴射ポート34又は70から噴射される液体で粒子はその融点未満の温度に維持される。
【0035】
一実施形態では、本明細書に開示した燃焼コールドスプレー法は、金属皮膜の製造に常用される従来の燃焼溶射法とは異なる。従来の燃焼溶射法では、粒子を完全又は部分的に溶融させ、基材に向けて加速させることによって金属皮膜を形成する。従来の燃焼溶射法では、燃焼プロセスを利用して、粒子の融点を超えるガス温度を生じさせる。
【0036】
本発明の一実施形態に係る燃焼コールドスプレー法では、粒子を溶融させずに原料の高速・高温の粒子を生じさせて、粒子の接合した緻密な堆積膜を形成するために、液体媒体を導入する。原料への液体キャリアの導入によって、本方法は、大半が未溶融の接合粒子からなる堆積膜を製造するのに微粒子を使用し易くなる。本方法では、未溶融粒子を堆積できるので、堆積の際の粒子の酸化傾向が低減し、従来の燃焼溶射法に比べて堆積膜の酸素含有量が低減する。
【0037】
本方法の一実施形態では、キャリア液と原料との混合で形成される混合物は、10重量%以上の液体を含む原料混合物である。別の実施形態では、原料混合物は50重量%以上の液体を含む。ある実施形態では、混合物は80重量%以上の液体を含む。液体/固体混合物のキャリア液は、水でも、アルコールその他の有機溶媒でも、これらの液体の組合せであってもよい。一実施形態では、液体は、水、有機液体、油、アルコール又はこれらの1種以上を含む組合せである。
【0038】
一実施形態では、原料混合物は、溶射ガンに導入される前に原料と液体を混合することによって形成される。別の実施形態では、原料混合物は、溶射ガンに導入した後、燃焼室内で原料と液体を混合することによって形成される。
【0039】
前述の通り、本明細書に開示した燃焼コールドスプレー法の一実施形態では、原料は溶射時に溶融しない。一実施形態では、原料の融点は、溶射中に原料が経験する温度よりも高い。別の実施形態では、原料が経験する温度は原料の融点の約0.9倍未満である。
【0040】
本明細書に開示した燃焼コールドスプレー法の一実施形態では、原料は金属又は合金である。具体例としては、ニッケル、コバルト、チタン、アルミニウム、ジルコニウム及び銅のような金属が挙げられる。合金の具体例としては、ニッケル基合金、コバルト基合金、チタン基合金、鉄基合金、鋼、ステンレス鋼及びアルミニウム基合金が挙げられる。ニッケル基合金の非限定的な例は、約50重量%〜約55重量%のニッケル、約17重量%〜約21重量%のクロム、約4.75重量%〜約5.50重量%のニオブ+タンタル、約2.8重量%〜約3.3重量%のモリブデン、約0.65重量%〜約1.15重量%のチタン、約0.20重量%〜約0.80重量%のアルミニウム、1.0重量%以下のコバルト及び残部の鉄で合計100重量%となる仕様組成を有する合金718である。炭素、マンガン、ケイ素、リン、イオウ、ホウ素、銅、鉛、ビスマス及びセレンのような他の元素を少量含んでいてもよい。一実施形態では、原料は、第1の金属と、金属、合金、セラミック又はポリマーを含む第2の相とを含む。一実施形態では、かかる原料から得られる体積膜は金属マトリックス複合材を含む。金属マトリックス複合材は、金属又は合金からなるマトリックス相と、マトリックス中に分散された金属、合金、セラミック又はポリマー材料を含む第2相(多くの場合、強化相である。)とを含む。一実施形態では、原料は、合金マトリックスとセラミック第2相を有する金属マトリックス複合材である。
【0041】
本明細書に記載した燃焼コールドスプレー法では、様々な粒径の原料を使用して、強固で緻密な堆積膜を形成することができる。キャリア液と燃焼ガス流として低温ガスを使用することによって、通常の溶射法よりも格段に微細な粒子を燃焼コールドスプレー法に用いて堆積膜を形成することができる。一実施形態では、燃焼コールドスプレー法で用いる原料のメジアン粒径は約100μm未満である。一実施形態では、原料のメジアン粒径は約30μm未満である。さらに別の実施形態では、原料のメジアン粒径は約16μm未満である。
【0042】
一実施形態では、堆積膜を形成すべき物品は、堆積膜を堆積するために準備する。燃焼コールドスプレーのための物品表面の準備としては、表面の清浄化及び/又は脱脂が挙げられる。一実施形態では、物品表面の準備領域は、燃焼コールドスプレーによる原料の誘導によって形成された堆積物が物品に接合するように物品の表面から酸化物層のような既存の材料又は層を除去することによって形成される。
【0043】
一実施形態では、物品は、既存の堆積膜が劣化して補修を要するような装置の部材である。一実施形態では、堆積膜又は皮膜はクラッディングを置き換えて、構造表面層を提供するため或いはニアネットシェイプ部品と部品上の特徴的形状を形成するために使用される。燃焼コールドスプレーは多種多様な組成及び基材物品で使用することができ、多種多様な性質を得ることができる。一例では、以前の供用中に部分的に摩耗した物品を修復するため、皮膜材料は基材物品と同一の組成を有するものであってもよい。別の例では、表面に耐摩耗性皮膜を形成するため、皮膜は基材物品とは異なる組成を有していて、基材物品よりも耐摩耗性が高い。さらに別の例では、表面に摩耗性又はアブレイダブル皮膜を形成するため、皮膜は基材物品とは異なる組成を有していて、基材物品よりも耐摩耗性が低い。
【0044】
本発明の一実施形態では、物品を提供する。物品は任意の加工可能な形状、寸法及び構成を有する。物品の具体例としては、ガスタービンエンジンのシール及びフランジのような部品並びにその他の種類の物品が挙げられる。例えば、図3に示すような物品80は、物品80の基材82に堆積膜を形成すれば形成される。基材82は堆積面84を有する。堆積膜86は、物品80の堆積面84上に形成される。堆積膜86は、複数の原料粒子88がそれらの粒子境界90に沿って接合したものからなる。堆積材料86と基材82表面84との接触面がボンドライン92である。
【0045】
適宜、物品80は燃焼コールドスプレープロセス後に加熱処理してもよい。例えば焼鈍のような作業可能な熱処理を使用し得る。熱処理は、堆積材料86を物品80の基材82材料とある程度相互拡散を起こさせるものでもよい。一実施形態では、原料として使用される粒子は約10μm未満のメジアン粒径を有する。別の実施形態では、粒子は約5μm未満のメジアン粒径を有する。さらに別の実施形態では、粒子は約2μm未満のメジアン粒径を有する。一実施形態では、物品80の堆積膜86は堆積材料の理論密度の約95%超の密度を有する。別の実施形態では、堆積膜86は理論密度の約99%超の密度を有する。
【実施例】
【0046】
以下の実施例では、特定の実施形態に係る方法、材料及び結果を示すが、特許請求の範囲を限定するものではない。すべての成分は一般の化学品供給業者から市販されている。
【0047】
実施例1
Kermatico 9300 HVAF溶射ガンを利用した装置によってニッケル堆積膜を製造した。IN718合金を基材として使用し、Alfa Aesar社から入手した粒径約3〜7μmのニッケル粉体を原料として使用した。プロピレン燃料を83psigでガンに供給し、空気を85psigで供給した。燃焼圧は約70psigに調整した。ガンは、基材から6〜7cmのスプレー距離で約0.8m/sのガン移動速度で操作した。堆積膜は約200μm厚に成膜した。後方散乱電子モードで断面走査型電子顕微鏡(SEM)画像を得た。得られた図4のSEM画像は、堆積膜が、主に再凝固した溶融スプラットからなることを示している。SEM図から大量の酸化物系介在物の存在が明らかである。
【0048】
Unique Coat Technologies社(アメリカ合衆国バージニア州オイルビル)製のSB9300 HVAF溶射ガンを用いて、Alfa Aesar社の粒径3〜7μmのニッケル粉体の10重量%水中スラリーを使用して、IN718基材上に第2のニッケル堆積膜を製造した。プロピレン燃料を83psigでガンに供給し、空気を85psigで供給した。燃焼圧は70psigであった。ガンは、基材から6〜7cmの距離で約0.8m/sのガン移動速度で操作した。堆積膜は約200μm厚に成膜した。後方散乱電子モードで撮影したSEM画像(図5)は、堆積膜が、主に溶融したことのない接合粒子からなることを示している。平均粒径は約4μmであった。
【0049】
実施例2
粒径2〜3μmのニッケル粉体の10重量%水中スラリーを使用してステンレス鋼基材上にニッケルを堆積させた。プロピレン燃料を83psigでガンに供給し、空気を85psigで供給した。燃焼圧は70psigであった。ガンは、基材から6〜7cmの距離で約1.2m/sのガン移動速度で操作した。1パス当たり約8μm堆積させ、合計膜厚を約480μmとした。図6の断面SEM画像は、堆積膜が、主に溶融したことのない接合粒子からなることを示している。平均粒径は約2μmであった。
【0050】
実施例3
粒径2〜3μmのニッケル粉体の10重量%水中スラリーを使用してステンレス鋼基材上にニッケルを堆積させた。プロピレン燃料を83psigでガンに供給し、空気を85psigで供給した。燃焼圧は70psigであった。ガンは、基材から6〜7cmの距離で約1.2m/sのガン移動速度で操作した。1パス当たり約12μm堆積させ、合計膜厚を約480μmとした。図7の断面SEM画像は、堆積膜が、主に溶融したことのない接合粒子からなることを示している。平均粒径は約2μmであった。
【0051】
本発明の幾つかの特徴のみを例示し、説明してきたが、数多くの修正及び変更が当業者には自明であろう。従って、特許請求の範囲は本発明の技術的思想に属するかかる修正及び変更をすべて包含する。
【符号の説明】
【0052】
10 装置
12 堆積膜
14 基材
16 溶射ガン
18 空気噴射ポート
20 燃料噴射ポート
22 燃焼室
24 燃焼室の入口側
26 燃焼室の出口側
28 燃焼ゾーン
30 ノズル
31 透過性バーナブロックの上流側面
32 透過性バーナブロック
33 透過性バーナブロックの下流側面
34 液体噴射ポート
36 液体供給源
38 原料噴射ポート
40 原料供給源
50 装置
52 堆積膜
54 基材
56 HOVF溶射ガン
58 酸化剤噴射ポート
62 原料供給源
64 液体供給源
66 同軸管噴射ポート
68 同軸管噴射ポートの内側管
70 同軸管噴射ポートの外側管
80 物品
82 基材
84 基材の堆積面
86 堆積膜
88 複数の原料粒子
90 前駆的粒子境界
92 ボンドライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
堆積膜(12)の製造装置(10)であって、
入口側(24)と出口側(26)とを有する燃焼室(22)を備える高速空気燃料(HVAF)ガン(16)と、
燃焼室(22)の入口側(24)と出口側(26)の間の燃焼ゾーン(28)と、
燃焼室(22)の入口側(24)に配置され燃焼ゾーン(28)に空気を噴射するように構成された空気噴射ポート(18)と、
燃焼室(22)の入口側(24)に配置され燃焼ゾーン(28)に燃料を噴射するように構成された燃料噴射ポート(20)と、
燃焼ゾーン(28)に配置された透過性バーナブロック(32)と、
燃焼室(22)の出口側(26)に配置されたノズル(30)と、
液体供給源(36)に接続され入口側(24)を通して燃焼室(22)に軸方向に配置された液体噴射ポート(34)と
を備える装置(10)。
【請求項2】
前記液体噴射ポート(34)が燃焼室(22)の中心軸に沿って配置される、請求項1記載の装置(10)。
【請求項3】
前記液体噴射ポート(22)が燃焼ゾーン(28)を通してノズル(30)内まで延在する、請求項1記載の装置(10)。
【請求項4】
HVAF溶射ガン(16)が、原料供給源(40)に接続され入口側(24)を通して燃焼室(22)に軸方向に配置された原料噴射ポート(38)をさらに備える、請求項1記載の装置(10)。
【請求項5】
前記液体供給源(36)が、キャリア液及びキャリア液中に配合された原料又は原料前駆体を含む原料混合物を含む、請求項1記載の装置(10)。
【請求項6】
堆積膜(52)の製造装置(50)であって、
原料供給源(62)と、
液体供給源(64)と、
入口側(24)と出口側(26)とを有する燃焼室(22)と、
燃焼室(22)の入口側(24)と出口側(26)の間の燃焼ゾーン(28)と、
燃焼室(22)の入口側(24)に配置され燃焼ゾーン(28)に燃料を噴射するように構成された燃料噴射ポート(20)と、
燃焼室(22)の入口側(24)に配置され燃焼ゾーン(28)に酸化剤を噴射するように構成された酸化剤噴射ポート(58)と、
燃焼室(22)の出口側(26)に配置されたノズル(30)と、
内側管(68)と外側管(70)とを備える同軸管噴射ポート(60)であって、原料供給源(62)及び液体供給源(64)の双方に接続されるように燃焼室(22)の入口側(24)に配置された同軸管噴射ポート(60)と
を備える装置(50)。
【請求項7】
前記内側管(68)が原料供給源(62)と接続している、請求項6記載の装置(50)。
【請求項8】
前記外側管(70)が液体供給源(64)と接続している、請求項6記載の装置(50)。
【請求項9】
堆積膜(86)を有する物品(80)を形成する方法であって、
入口側(24)と出口側(26)とを有する燃焼室(22)を備える溶射ガン(16)を設け、
燃焼室(22)の入口側(24)と出口側(26)の間に燃焼ゾーン(28)を設け、
燃焼ゾーン(28)に透過性バーナブロック(32)を設け、
燃焼ゾーン(28)の内部に燃料及び酸化剤を供給し、
燃焼ゾーン(28)の内部で燃焼を開始させ、
燃焼の生成物を出口側(26)に向けて送って、燃焼生成物流を生じせしめ、
原料と液体を含む原料混合物を燃焼生成物流に導入して、同伴原料流を生じせしめ、
ノズル(30)を通して溶射ガン(16)から同伴原料流を放出して物品(80)の表面(84)に堆積膜(86)を形成する
ことを含む方法。
【請求項10】
基材(82)と基材(82)上の堆積膜(86)とを備える物品であって、該堆積膜(86)が、複数の原料粒子(88)がそれらの粒子境界90に沿って接合したものからなり、該粒子が約10μm未満のメジアン粒径を有する、物品(80)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−246816(P2011−246816A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116459(P2011−116459)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【Fターム(参考)】