説明

燃焼機関のためのピストン

本発明によっては、燃焼機関のためのピストン(1)であって、ピン孔(5,6)にその天底及び赤道領域に亘って環状に延びる潤滑溝(8,9)の形成されたピストン(1)が提案されている。潤滑溝(8,9)を有するピン孔(5,6)の製作を簡易化するためには潤滑溝(8,9)は溝底が100μmよりも小さい深さを有する中央領域(10,10′)をそれぞれ1つ有し、該中央領域(10,10′)にピストン内側及びピストン外側に向かって、溝底がピン孔の長手方向軸線(12)の方向で傾斜させられかつピン孔(5,6)の長手方向とそれぞれ鋭角を成している孔領域(13,13′,15,15′)が接続させられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は請求項1の上位概念部に記載した燃焼機関のためのピストンに関する。
【0002】
公開明細書DE3830033A1号によれば、燃焼機関のためのピストンのピン孔に、その天底及び赤道領域に亘って延在する環状の潤滑溝を形成し、これにより、ピン孔に導入されたピストンピンの潤滑に役立つオイルリザブを形成することが公知である。この場合には一般的な形式でまず、前チゼル加工でピン孔がピンボスに形成され、そのあとで第2の加工ステップでピン孔が精密加工される。第3の加工ステップではじめて本来の潤滑溝が、加工済みのピン孔にフライス加工される。
【0003】
本発明の課題はこれから出発して燃焼機関のためのピストンの、潤滑溝を備えたピン孔をその製作が簡易化されかつコストが低減されるように構成することである。
【0004】
前記課題は請求項1の特徴として記載した構成によって解決された。
【0005】
本発明の有利な構成は従属請求項の対象である。
【0006】
この場合、ピン孔の潤滑溝の本発明による構成は、ピン孔を形成したあとで、ピン孔を精密加工するためと潤滑溝を製作するためとに唯一の別の加工ステップしか必要ではないという利点を有している。何故ならばピン孔の内面に平溝として構成された潤滑溝を形成するためには、ピン孔の内面の精密加工に伴って、潤滑溝の形に相応する相対運動がピストンとチゼルとの間に与えられることしか必要ではないからである。
【0007】
以下、本発明の1実施例を図面に基づき説明する。
【0008】
図1は本発明の潤滑溝をそれぞれ1つ有しているピン孔を備えたピストンの断面図。
【0009】
図2は潤滑溝を断面して示した、図1のピストンの一部分の拡大図。
【0010】
図3は図1のIII−III線に沿ってピストンを断面して潤滑溝を側方から見た部分断面図。
【0011】
図1にはピストンヘッド2を有する燃焼機関用のピストン1が断面して示されている。ピストンヘッド2にはそれぞれ1つのピン孔5と8を有する2つのピンボス3と4が一体成形されている。図1にて選ばれた断面方向ではピストン1の両方のシャフトの一方は平面図で示されている。
【0012】
ピン孔5,6の中央領域にはそれぞれ1つの潤滑溝8,9が設けられている。これらの潤滑溝8,9は図2、すなわち図1からの一部IIの拡大図が示すように溝底11がピン孔5の長手方向軸線12に対し平行に位置する中央領域10を有している。ピストン内側に向かって中央領域10には、溝底14がピストン内側に向かって長手方向軸線12の方向で傾けられた溝領域13が続いている。溝底14はピン孔5の長手方向軸線12に対し、10°よりも小さい、有利には3°よりも小さい鋭角αを成している。ピストン外側に向かって中央領域10には、溝底16がピストン外側に向かってかつ同様に長手方向軸線12の方向に傾けられ、ピン孔5の長手方向に対し10°よりも小さい、有利には3°よりも小さい等角αを成す溝領域15が続いている。ピン孔6における潤滑溝9は潤滑溝8と同じ形を有している。両方の潤滑溝8,9の中央領域10の深さは約40から60μmの間の値を有している。
【0013】
概略図である図1及び潤滑溝8を図1のIII−III線に沿って部分的に断面して示した、寸法的には正確ではない側面図においては、潤滑溝8(同様に潤滑溝9も)はピン孔5の天底及び赤道領域に形成され、約270°の領域に亘っていることが明らかである。したがってこの場合には天頂では約90°の領域に亘っては溝は存在していない。この結果、導入されたピストンピンにて作業行程の力の作用のもとで発生する面圧が潤滑溝によって阻害されないという利点が得られる。
【0014】
潤滑溝8,9はそれぞれ1つのオイルリザーブを形成し、該オイルリザーブはピストン1を備えた機関の始動に際しても、継続運転に際しても、ピン孔5,6に導入された、図示されていないピストンピンを潤滑するためのオイルの供給を保証する。このオイルリザーブは、機関運転中に変形するピストンピンのポンプ作用によって充填されるので、このために特別なオイル供給装置は不要である。
【0015】
潤滑溝8,9は、従来の、ピン孔の端部に形成される成形孔と同じ形式で製作されている。この場合にはまず前ドリル鋼で本来のピン孔5,6がピンボス3,4に形成される。次いで測方へ突出する切刃を有する回転チゼルでピン孔5,6の内面が精密加工されると同時に平溝として構成された潤滑溝8,9がピン孔5,6,の内面に形成される。
【0016】
潤滑溝8,9はピン孔5,6の内面の天底及び赤道領域の約270°しかカバーせず、断面図で見て図3に示された三カ月形を成しているので、潤滑溝8,9を製作する場合には回転させられるチゼルは回転ごとに潤滑溝8,9の領域で、潤滑溝8,9に要求される40から60μmの深さが達成されるように変位させられる。
【0017】
択一的に、チゼルが回転させられた状態で、チゼルの刃が潤滑溝8,9を形成しょうとするピン孔5,6の内面領域に位置すると、常にピストン1をわずかに変位させることもできる。
【0018】
この場合に有利であることはピン孔を形成したあとで本発明による潤滑溝8,9を製作するためには別の加工ステップは1つしか必要でないことである。何故ならば潤滑溝8,9を製作するためには孔内面の精密加工に伴ってピストンとチゼルとの間に潤滑溝8,9の形に相応する相対運動が与えられるだけで済むからである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】潤滑溝をそれぞれ1つ有しているピン孔を備えたピストンの断面図。
【図2】図1のピストンの一部の拡大図。
【図3】図1のIII−III線に沿ってピストンを断面した図。
【符号の説明】
【0020】
1 ピストン
2 ピストンヘッド
3 ピンボス
4 ピンボス
5 ピン孔
6 ピン孔
7 シャフト
8 潤滑溝
9 潤滑溝
10,10′ 中央領域
11 溝底
12 長手方向軸線
13,13′ 溝領域
14 溝底
15,15′ 溝領域
16 溝底

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼機関のためのピストン(1)であって、
−ピストンヘッド(2)と、
−ピストンヘッド(2)に一体成形された2つのピンボス(3,4)と、
−ピンボス(3,4)に形成されたそれぞれ1つのピン孔(5,6)と、
を有しており、
−ピン孔(5,6)の長手方向軸線(12)の方向で見てピン孔内面の中央領域に、それ
ぞれ少なくとも1つの、ピン孔(5,6)の天底及び赤道領域にわたって延在する少な
くとも半円形の潤滑溝(8,9)が形成されている
形式のものにおいて、
−溝底(11)がピン孔(5,6)の内面に対し100μmよりも小さい深さを有する中
央領域(10,10′)を潤滑溝(8,9)が有していること、
−ピストン内側に向かって潤滑溝(8,9)の中央領域(10,10′)に、溝底(14
)が長手方向軸線(12)の方向で傾斜しかつピン孔(5,6)の長手方向に対し鋭角
を成す溝領域(13,13′)が続いており、
−ピストン外側に向かって潤滑溝(8,9)の中央領域(10,10′)に、溝底(16
)がピストン外側に向かって長手方向軸線(12)の方向で傾斜しかつピン孔(5,6
)の長手方向に対し鋭角を成す溝領域(15,15′)が続いている
ことを特徴とする、燃焼機関のためのピストン。
【請求項2】
各潤滑溝(8,9)の中央領域(10,10′)の溝底(11)がピン孔(5,6)の長手方向軸線(12)に対し平行に位置している、請求項1記載のピストン。
【請求項3】
各潤滑溝(8,9)の深さが各ピン孔(5,6)の内面に対し40から60μmである、請求項1又は2記載のピストン。
【請求項4】
溝領域(13,13′)の溝底(14)もしくは溝領域(15,15′)の溝底(16)とピン孔(5,6)の長手方向との間の鋭角が10°よりも小さい、請求項1から3までのいずれか1項記載のピストン。
【請求項5】
溝領域(13,13′)の溝底(14)もしくは溝領域(15,15′)の溝底(16)とピン孔(5,6)の長手方向との間の鋭角が3°よりも小さい、請求項1から4までのいずれか1項記載のピストン。
【請求項6】
各ピン孔(5,6)内に2つ以上の潤滑溝が形成されている、請求項1から5までのいずれか1項記載のピストン。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼機関のためのピストン(1)であって、
−ピストンヘッド(2)と、
−ピストンヘッド(2)に一体成形された2つのピンボス(3,4)と、
−ピンボス(3,4)に形成されたそれぞれ1つのピン孔(5,6)と、
を有しており、
−ピン孔(5,6)の長手方向軸線(12)の方向で見て、ピン孔内面の中央領域に、ピ
ン孔(5,6)の天底及び赤道領域に亘って環状に延在する少なくとも半円形の潤滑溝
(8,9)がそれぞれ少なくとも1つ形成されている
形式のものにおいて、
−溝底(11)がピン孔(5,6)の長手方向軸線(12)に対し平行に位置しかつピン
孔(5,6)の各内面に対し100μmよりも小さい深さを有する中央領域(10,1
0′)を潤滑溝(8,9)が有していること、
−ピストン内側に向かって潤滑溝(8,9)の中央領域(10,10′)に溝底(14)
がピストン内側に向かって長手方向軸線(12)の方向で傾斜しかつピン孔(5,6)
の長手方向と3°よりも小さい鋭角を成す溝領域(13,13′)が続いており、
−ピストン外側に向かって潤滑溝(8,9)の中央領域(10,10′)に、溝底(16
)がピン外側に向かって長手方向軸線(12)の方向で傾斜しかつピン孔(5,6)の
長手方向に対し3°よりも小さい鋭角を成す溝領域(15,15′)が続いている
ことを特徴とする、燃焼機関のためのピストン。
【請求項2】
各潤滑溝(8,9)の中央領域(10,10′)の溝底(11)がピン孔(5,6)の長手方向軸線(12)に対し平行に位置している、請求項1記載のピストン。
【請求項3】
各潤滑溝(8,9)の深さが各ピン孔(5,6)の内面に対し40から60μmである、請求項1又は2記載のピストン。
【請求項4】
各ピン孔(5,6)内に2つ以上の潤滑溝(8,9)が形成されている、請求項1から3までのいずれか1項記載のピストン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2006−508293(P2006−508293A)
【公表日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−556019(P2004−556019)
【出願日】平成15年11月27日(2003.11.27)
【国際出願番号】PCT/DE2003/003928
【国際公開番号】WO2004/051118
【国際公開日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(390009069)マーレ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (39)
【氏名又は名称原語表記】MAHLE GmbH
【Fターム(参考)】