説明

爆発加工方法

【課題】爆薬を利用した爆発加工方法において、加工後の割れ、歪および接合性等を制御し、かつ低コストで製造性、安全性を向上させた方法を提供する。
【解決手段】爆薬2の爆轟によって発生した衝撃波により、爆薬2と被加工材料の間に配置された自己反応性物質5を反応させ、衝撃波と自己反応性物質5の反応熱との双方を、被加工材料に作用させる爆発加工方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、爆発加工方法に関し、より詳しくは、爆薬の衝撃波を利用し、様々な材料を接合、被覆、圧搾、成形、合成、分解する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
爆薬の衝撃波を利用し、各種材料を接合、被覆、圧搾、成形、合成、分解する方法は広く知られている。通常は、目的とする材料を試料容器に封入後、爆薬の爆轟による衝撃波を直接あるいは間接的に試料に作用させ、目的を達成している。
【0003】
例えば特許文献1には、円筒形圧搾装置の内部に磁石粉体を充填し、その周囲に爆薬を配置し、爆薬の爆轟と同時に粉体を圧縮固化する方法が開示されている。また、特許文献2には、円筒形圧搾装置の内部に磁石粉体を充填し、その周囲にそれぞれ隔離された水と爆薬を配置し、爆薬の爆轟と同時に磁石粉体を圧縮固化する方法が開示されている。また、特許文献3には、円柱状の試料ホルダー内に硬度のきわめて高い粉末を充填し、その上部に水と火薬をそれぞれ隔離して配置し、爆薬の爆轟と同時に粉末を固化成形する方法が開示されている。また、特許文献4には、試料を充填した板状の装置を水槽内にセットし、爆薬の爆轟と同時に容器内の試料を接合、圧着、被覆、固化、合成させる方法が開示されている。
【0004】
しかし、特許文献1〜4の方法は、粉体あるいは板材に対し、爆薬の衝撃波(衝撃圧力)だけを印加する爆発加工方法であり、高硬度材料や高融点材料等を加工する場合に、加工後の割れや歪が発生する場合があった。
【0005】
特許文献5には、特許文献3に類似した装置を用いて、より良好な成形体を得るために、粉末を予め加熱し圧縮固化する方法が開示されている。
【0006】
しかし、特許文献5の方法では、固化する粉末を電気炉等によって事前に加熱することで、加工後の割れや歪を制御することは可能であるが、装置には爆薬が充填されているため、装置全体を加熱することができず、事前に試料容器だけを分離させ、爆薬に影響を及ぼさない距離で加熱する必要がある。そのため、この方法では、まず電気炉が必要であり、かつ試料容器を自動あるいは手動にて移動させる装置も必要であるため、製造コストが高い。
【0007】
【特許文献1】特開2001−6959号公報
【特許文献2】特開2003−243212号公報
【特許文献3】特開平6−198496号公報
【特許文献4】特開2006−255710号公報
【特許文献5】特開平9−239257号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、爆薬を利用した爆発加工方法において、加工後の割れ、歪および接合性等を制御し、かつ低コストで製造性、安全性を向上させた方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、鋭意検討を行なった結果、爆薬と被加工材料の間に自己反応性物質を配置することで、前記課題を解決できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0010】
即ち、本発明の爆発加工方法は、爆薬の爆轟によって発生した衝撃波により、該爆薬と被加工材料の間に配置された自己反応性物質を反応させ、前記衝撃波と前記自己反応性物質の反応熱との双方を、前記被加工材料に作用させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の爆発加工方法によれば、加工後の割れ、歪および接合性を向上させることができる。
【0012】
しかも、従来は困難であった高硬度材料や高張力材料等の爆発加工を、安全にかつ効率よく行うことが可能になる。例えば、高硬度材料粉末を基材に被覆させる場合、割れがなくかつ緻密な被覆層が基材上に形成されるため、耐磨耗性の要求される超硬工具鋼やその他耐磨耗材料として使用できる。また、塑性変形のしにくい高張力鋼や伸びの少ないチタン合金、アルミ合金、ニッケル合金を、成形あるいは基材に接合させる場合も、従来の爆発加工法よりも、良好な成形あるいは接合が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について、粉末を基材表面にコーティングする場合を例にとり、詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明の方法を実施するための装置の一例を示す模式図である。図1に示すように、円柱状の容器8の内部には、基材7が配置され、その表面に粉末6が充填されている。本例においては、基材7と粉末6が、被加工材料である。さらに、粉末6の上には、それぞれ分離板3を介して、自己反応性物質5、水4が、この順で配置され、更にその上に爆薬2が配置されている。
【0015】
そして、雷管1を使って起爆すると、爆薬2の爆轟によって発生した衝撃波が、水4を媒体として伝播し、自己反応性物質5を反応させ、その反応熱が衝撃波とともに粉末6に作用し、粉末6が圧搾固化されて、基材7上にコーティングされる。
【0016】
本発明で用いられる爆薬2とは、爆轟波を発生する火薬類であり、火薬類取締法第1章第2条の2に定義された爆薬である。具体的には、硝酸エステル類のPETN(ペンタエリスリトールテトラナイトレート)やニトログリセリン、ニトロ化合物のTNT(トリニトロトルエン)、ニトラミンのシクロトリメチレントリニトラミンやシクロテトラメチレンテトラニトラミンなどが挙げられる。爆薬はこれらの単独を用いてもよく、2種以上の混合物を用いても良い。爆薬の爆速は特に限定されないが、好ましくは2000〜9000m/sec、より好ましくは5000m/sec〜8000m/secである。
【0017】
また、本発明で用いられる自己反応性物質5としては、例えば、火薬類取締法第1章第2条の1に定義された火薬等、爆轟波を伴わない火薬が挙げられ、爆発時の発生熱量が高いものが好ましい。具体的には、硝酸エステル類のニトログリセリンやニトログリコールやニトロセルロース、過塩素酸を主とするコンポジット推進薬などが挙げられる。自己反応性物質はこれらの単独を用いてもよく、2種類以上の混合物を用いても良い。
【0018】
水4は必要に応じて用いればよく、また衝撃波の伝播状態を変更させるために、水4の代替として油やその他の粘性物質を配置しても良い。水4を用いる場合、衝撃波を作用させる全面に、厚さ1mm以上となるように配置することが好ましい。
【0019】
容器8の材質は、取り扱い時に破壊しないものであれば良いが、金属製が好ましい。また、分離板3は必要に応じて配置すればよく、爆薬2と水4の間に両者を分離させる分離板3を配置してもよい。分離板3は特に材質の限定はないが、薄い金属が好ましく、特に自己反応性物質5の上に配置する分離板3は、熱伝導性の良い銅箔またはアルミ箔が好ましい。
【0020】
被加工材料としては特に限定されないが、金属またはセラミックスからなる粉体、金属またはセラミックスからなる板材等が挙げられ、二種以上の粉体、二種以上の板材が混在していてもよい。特に、本発明は、WC/Co混合粉末等の高硬度材料、高張力鋼や、チタン合金、アルミ合金、ニッケル合金等の高張力材料を被加工材料とした場合に、有用である。
【0021】
本発明の加工方法は、コーティングに限定されず、接合、被覆、圧搾、成形、合成、分解等にも適用できる。
【0022】
また、本発明を実施するための装置も図1のものに限定されず、例えば、図2、3に示す装置等が挙げられる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は以下の実施例に示されたものに限定されるものではない。
【0024】
<実施例1>
図1の装置(軟鋼製、内径30mm)に、以下に示す爆薬等を充填し、雷管1を使って起爆し、粉末を基材の上にコーティングした。尚、分離板としては、粉末上に厚み50μmの銅箔、自己反応性物質上に厚み2mmのSUS板を用いた。
爆薬:SEP爆薬(旭化成ケミカルズ(株)製)、45g(爆速約7000m/sec)
自己反応性物質:ニトロセルロース、3.05g(0.96mm厚、密度約4.5g/cm3
水:3.53g(5mm厚)
粉末:WC/Co混合粉末(WC75mass%、Co25mass%)、9.82g
基材:SS400、直径3cm×厚さ3mm
【0025】
目視および光学顕微鏡観察では、コーティング層の割れ・空隙はなく、良好な成形体であることを確認し、コーティング層と基材との接合も良好であった。また、成形体を1100℃、1時間熱処理し、マイクロビッカース硬度計にて硬度を測定した結果、平均1085Hvの高い硬度を示すことも確認した。さらに、ボールオンディスクタイプの磨耗試験により0.1m/sの速度で、1kg荷重を1日作用させて磨耗重量を計測した結果、10mgの磨耗減量であった。
【0026】
<比較例1>
自己反応性物質を用いない以外は、実施例1と同様にしてコーティングした。
【0027】
目視および光学顕微鏡観察では、コーティング層の組織は、実施例1に比べて、粒子の脱落が多く見られた。また、実施例1と同様にして硬度を測定した結果、平均1076Hv程度の硬度を示した。さらに、実施例1と同様にして測定した磨耗減量は17mgであった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明によれば高硬度材料や高張力材料等の爆発加工が可能であり、例えば、本発明により高硬度材料粉末を基材に被覆した加工品は耐磨耗性の要求される超硬工具鋼やその他耐磨耗材料として使用できる。
【0029】
また、塑性変形のしにくい高張力鋼や伸びの少ないチタン合金、アルミ合金、ニッケル合金を成形あるいは基材に接合させる場合にも、本発明は有用であるし、新たな合成、分解技術への展開も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の方法を実施するための装置の一例を示す模式図である。
【図2】本発明の方法を実施するための装置の他の例を示す模式図である。
【図3】本発明の方法を実施するための装置の他の例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0031】
1 雷管
2 爆薬
3 分離板
4 水
5 自己反応性物質
6 粉末
7 基材
8 容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
爆薬の爆轟によって発生した衝撃波により、該爆薬と被加工材料の間に配置された自己反応性物質を反応させ、前記衝撃波と前記自己反応性物質の反応熱との双方を、前記被加工材料に作用させることを特徴とする爆発加工方法。
【請求項2】
前記自己反応性物質が、火薬類取締法第1章第2条の1に定義される火薬であることを特徴とする請求項1に記載の爆発加工方法。
【請求項3】
前記被加工材料が、1種類以上の金属あるいはセラミックスからなる粉体または板材であることを特徴とする請求項1または2に記載の爆発加工方法。
【請求項4】
前記衝撃波を、前記爆薬と前記自己反応性物質との間に配置した水を媒体として伝播させることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の爆発加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−307592(P2008−307592A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−159896(P2007−159896)
【出願日】平成19年6月18日(2007.6.18)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】