説明

版、および版の製造方法

【課題】この発明は、現像剤の無駄が無くコストを低減でき、高精細なパターンを高い位置精度で形成できる版、および版の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】平面型表示装置の前面基板に蛍光体スクリーンをパターニングする版は、その表面20aに整列配置された多数の点状凹部21を有する。点状凹部21の底部の径をD1、開口径をD2、深さをTとした場合、点状凹部21は、D1が点状凹部の最小の径で、D2が点状凹部の最大の径で、且つ、D2≧D1+Tが成り立つ形状を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、平面型表示装置の蛍光体スクリーンを形成するための版、およびこの版の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、偏平な平面パネル構造の真空外囲器を有する平面型表示装置として、液晶ディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、プラズマディスプレイ(PDP)等が知られている。また、FEDの一種として、表面伝導型の電子放出素子を備えた表示装置(以下、SEDと称する)の開発が進められている。
【0003】
例えば、SEDは、一定の隙間を置いて対向配置された前面基板および背面基板を有する。これらの基板は、矩形枠状の側壁を介して周縁部を互いに接合され、内部を真空にされて偏平な平面パネル構造の真空外囲器を構成している。
【0004】
透明な前面基板の内面には3色の蛍光体層およびメタルバックを有する蛍光体スクリーンが形成され、背面基板の内面には、蛍光体層を励起発光させる電子の放出源として、画素毎に対応する多数の電子放出素子が整列配置されている。また、背面基板の内面上には、電子放出素子を駆動するための多数本の配線がマトリックス状に設けられ、その端部は真空外囲器の外部に引き出されている。
【0005】
前面基板と背面基板の間には、大気圧荷重を支えるための支持部材として、複数枚の板状のスペーサが配設されている。これら複数のスペーサは、前面基板および背面基板の内面に当接することで基板間の隙間を維持するよう機能する。
【0006】
このSEDを動作させる場合、基板間に10[kV]程度の高電圧を与え、配線に接続した駆動回路を介して各電子放出素子に選択的に駆動電圧を印加する。これにより、各電子放出素子から選択的に電子ビームが放出され、これら電子ビームが、対応する蛍光体層に照射され、蛍光体層が選択的に励起発光されてカラー画像が表示される。
【0007】
近年、この種の平面型表示装置では、高精細化の要求が高まりつつあり、蛍光体スクリーンの3色の蛍光体層の画素サイズがますます小さくなっている。このため、蛍光体層の微小なドットを高い位置精度で前面基板に印刷する要求が高まりつつある。このように、多数の蛍光体層を高精細に形成した表示装置として、フォトリソグラフィー技術を用いて蛍光体スクリーンを成膜した表示装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0008】
しかし、フォトリソグラフィーにより蛍光体スクリーンを形成する場合、例えば、蛍光体層を前面基板の全面に成膜した後、マスクを介して露光・現像するため、蛍光体の材料に無駄が多い。その上、フォトリソグラフィーによるパターニングは、成膜、マスキング、露光、現像と、工程数が多く、結果として表示装置の製造コストが高くなってしまう。
【特許文献1】特開2006−92878号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明の目的は、現像剤の無駄が無くコストを低減でき、高精細なパターンを高い位置精度で形成できる版、および版の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、この発明の版は、整列配置された多数の点状凹部を表面に有し、これら多数の点状凹部内に帯電した現像剤粒子を集めて、この集めた現像剤粒子に電界を作用させ、上記表面に対向した被転写媒体にこの現像剤粒子によるパターンを転写する版であって、上記多数の点状凹部は、底部の径が最小で上記被転写媒体に向けて開口した側の開口径が最大であり、且つ上記被転写媒体側の開口径が上記底部の径に該点状凹部の深さを足した値以上であることを特徴とする。
【0011】
上記発明によると、多数の点状凹部の底部の径に対して被転写媒体に向けて開口した開口の径を大きくしたため、点状凹部内に集めた現像剤粒子に電界を作用させて被転写媒体に転写したとき、点状凹部内に残留する現像剤粒子の量を極めて少なくでき、高精細なパターンを高い位置精度で形成できる。また、上記発明の版を用いることで、現像剤粒子の無駄を無くすことができ、且つパターンの製造工数を少なくでき、コストを低減できる。
【発明の効果】
【0012】
この発明の版、および版の製造方法によると、現像剤の無駄が無くコストを低減でき、高精細なパターンを高い位置精度で形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
始めに、図1乃至図3を参照して、本発明の実施の形態に係る版を用いて製造する表示装置の一例として、SED(Surface-conduction Electron-emitter Display)1について説明する。図1は、前面基板2を部分的に切り欠いた状態のSED1の真空外囲器10を示す斜視図であり、図2は、図1の真空外囲器10を線分II-IIで切断した断面図であり、図3は、図2の断面を部分的に拡大した部分拡大断面図である。SED1は、図1に示す真空外囲器10に駆動回路や電源回路を接続して背面側に図示しない筐体を取り付けることによって構成される。
【0014】
図1乃至図3に示すように、真空外囲器10は、それぞれ矩形の透明なガラス板からなる前面基板2および背面基板4を備え、これらの基板は約1.0〜2.0mmの隙間をおいて互いに平行に対向配置されている。なお、背面基板4は、前面基板2より1回り大きいサイズを有する。また、前面基板2および背面基板4は、ガラスからなる矩形枠状の側壁6を介して周縁部同志が接合され、内部が真空の扁平な平面パネル構造の真空外囲器10を構成している。
【0015】
前面基板2の内面には画像表示面として機能する蛍光体スクリーン12が形成されている。この蛍光体スクリーン12は、赤、青、緑の蛍光体層R、G、B、および遮光層11を並べて構成され、これらの蛍光体層はストライプ状あるいはドット状に形成されている。また、蛍光体スクリーン12上には、アルミニウム等からなるメタルバック14が形成されている。
【0016】
背面基板4の内面には、蛍光体スクリーン12の蛍光体層R、G、Bを励起発光させるための電子を放出する電子放出源として、それぞれ電子ビームを放出する多数の表面伝導型の電子放出素子16が設けられている。これらの電子放出素子16は、画素毎、すなわち蛍光体層R、G、B毎に対応して複数列および複数行に配列されている。各電子放出素子16は、図示しない電子放出部、この電子放出部に電圧を印加する一対の素子電極等で構成されている。また、背面基板4の内面上には、各電子放出素子16に駆動電圧を与えるための多数本の配線18がマトリックス状に設けられ、その端部は真空外囲器10の外部に引き出されている。
【0017】
接合部材として機能する側壁6は、例えば、低融点ガラス、低融点金属等の封着材19により、前面基板2の周縁部および背面基板4の周縁部に封着され、これらの基板同士を接合している。本実施の形態では、背面基板4と側壁6をフリットガラス19aを用いて接合し、前面基板2と側壁6をインジウム19bを用いて接合した。もし、配線18のある背面基板4と側壁6を低融点金属で封着する場合は、配線18と封着材19の電気ショートを避けるため、中間層として絶縁層を設ける必要がある。
【0018】
また、真空外囲器10は、前面基板2と背面基板4の間にガラスからなる複数の細長い板状のスペーサ8を備えている。本実施の形態において、スペーサ8は、複数の細長いガラス板としたが、矩形板状の金属板からなるグリッド(図示せず)と、グリッドの両面に一体的に立設された多数の柱状のスペーサ(図示せず)と、で構成しても良い。
【0019】
各スペーサ8は、上述したメタルバック14、および蛍光体スクリーン12の遮光層11を介して前面基板2の内面に当接する上端8a、および背面基板4の内面上に設けられた配線18上に当接する下端8bを有する。しかして、これら複数のスペーサ8は、前面基板2および背面基板4の外側から作用する大気圧荷重を支持し、基板間の間隔を所定値に維持している。
【0020】
さらに、SED1は、前面基板2のメタルバック14と背面基板4との間にアノード電圧を印加する図示しない電圧供給部を備えている。電圧供給部は、例えば、背面基板4の電位を0Vに設定し、メタルバック14の電位を10kV程度にするよう、両者の間にアノード電圧を印加する。
【0021】
そして、上記SED1において、画像を表示する場合、配線18に接続した図示しない駆動回路を介して電子放出素子16の素子電極間に電圧を与え、任意の電子放出素子16の電子放出部から電子ビームを放出するとともに、メタルバック14にアノード電圧を印加する。電子放出部から放出された電子ビームは、アノード電圧により加速され、蛍光体スクリーン12に衝突する。これにより、蛍光体スクリーン12の蛍光体層R、G、Bが励起されて発光し、カラー画像を表示する。
【0022】
また、上記構造のSED1の真空外囲器10を製造する場合、予め、蛍光体スクリーン12およびメタルバック14の設けられた前面基板2を用意し、電子放出素子16および配線18が設けられているとともに側壁6およびスペーサ8が接合された背面基板4を用意しておく。そして、前面基板2、および背面基板4を図示しない真空チャンバ内に配置し、真空チャンバ内を真空排気した後、側壁6を介して前面基板2を背面基板4に接合する。これにより、複数のスペーサ8を備えた真空外囲器10が製造される。
【0023】
ところで、上述したSED1などの平面型表示装置において、解像度が高く高精細で品質の高い良質な画像を表示させるためには、例えば、前面基板2の内面に形成する蛍光体スクリーン12の遮光層11や蛍光体層R、G、Bを高い位置精度で且つできるだけ高精細にパターニングする必要がある。近年、このような蛍光体スクリーン12のパターニング方法として、フォトリソグラフィー技術を用いたパターン形成方法が知られているが、本願の背景技術で説明したように、工数が多く、現像剤の無駄が多いため、表示装置の製造コストが高くなる問題がある。
【0024】
このため、本願発明者等は、図4に例示したように、整列配置した多数の点状凹部21を表面20aに有する版20を開発し、この版20を用いて蛍光体スクリーン12の例えば3色の蛍光体層R、G、Bをパターニングするようにした。なお、図4では、説明を分かり易くするため点状凹部21を略矩形に描き且つその数も少なく描いたが、実際にはより多くの点状凹部21が版20の表面20aに形成されており形状も矩形に限らない。また、この版20は、図示しない転写装置に組み込まれて繰り返し使用され、各色の蛍光体層R、G、Bを前面基板2の内面に転写する度に必要に応じてクリーニングされて次の色の蛍光体層R、G、Bの転写工程で使用されるものとする。
【0025】
ここで、上記版20を用いて蛍光体粒子(現像剤粒子)による1色分のパターンを前面基板2に形成する方法について図5乃至図9を参照して簡単に説明する。なお、ここでは、ガラス板22の表面に電極層23を形成し、この電極層23の表面に絶縁層24を積層して、絶縁層24の表面20a(すなわち、版20の表面20a)から点状凹部21を刻設した版20(平版)を用いるものとする。また、点状凹部21の最適形状については後に詳述する。
【0026】
まず、図5に示すように、帯電した蛍光体粒子31を絶縁性溶媒32に分散させた現像液30を現像ローラ41と版20の表面20aとの間に供給し、両者の間を現像液30で満たした状態で、版20の点状凹部21の底に配置した電極層23と現像ローラ41との間に現像バイアスを印加する。すると、現像液30内の蛍光体粒子31に点状凹部21に向かう電界が作用し、絶縁性溶媒32中に分散された蛍光体粒子31がクーロン力によって絶縁性溶媒32中を泳動し、図6に示すように、蛍光体粒子31が点状凹部21内に集められてパターンが現像される。このとき、版20の表面20a、すなわち絶縁層24の表面20aは、予め、蛍光体粒子31と正極性に帯電させておく。
【0027】
次に、図7に示すように、蛍光体粒子31が点状凹部21内に集められてパターンを現像された版20の表面20aに被転写媒体としての前面基板2が近接対向して位置決め配置され、両者の間に絶縁性溶媒が満たされる。この絶縁性溶媒として、例えば、上述した現像液30の絶縁性溶媒32が使用される。また、前面基板2の内面には、予め電極膜51が設けられている。この電極膜51は、後の工程で焼失される。
【0028】
そして、この状態で、版20の電極層23と前面基板2の電極膜51との間に転写バイアスが印加されると、版20の点状凹部21内に集められていた蛍光体粒子31に前面基板2に向かう電界が作用され、蛍光体粒子31が点状凹部21から剥離される。このように、点状凹部21から剥離された蛍光体粒子31は、図8に示すように、版20と前面基板2の間を満たした絶縁性溶媒32中を泳動し、図9に示すように、前面基板2の内面(電極膜51上)に転写される。以上の工程によって、前面基板2の内面に蛍光体粒子31によるパターン33が形成される。
【0029】
上記のように、1色分の蛍光体層のパターン33が前面基板2の内面に形成された後、混色のないように次の色のパターンを形成するため、版20の表面20aおよび多数の点状凹部21に残留した蛍光体粒子31を除去するクリーニング工程が必要となる。しかし、版20の点状凹部21内に残留する蛍光体粒子31の量を極めて少なくすることができれば、版20を洗浄するクリーニング工程を不要とすることができる。つまり、次の色のパターンを形成する際に、混色を許容するレベルまで前の色の蛍光体粒子の残留量を少なくできれば版20のクリーニング工程が不要となる。また、単色で使用する場合でも、残留する蛍光体粒子により画素形状が悪化するため、多数の点状凹部21に残留した蛍光体粒子31を除去するクリーニング工程が必要となるが、版20の点状凹部21内に残留する蛍光体粒子31の量を極めて少なくすることができれば、版20を洗浄するクリーニング工程を不要とすることができる。
【0030】
具体的には、版20における蛍光体粒子の転写効率を略100%にできればクリーニングが不要となる。クリーニング工程が不要となると、そのための構成、すなわち、クリーナが不要となり、その分、装置の製造コストも低減できる。
【0031】
本願発明者等は、上述した版20の転写効率を高める目的で、点状凹部21の最良な形状を調べるためのいくつかの実験をした。その結果、クリーニング工程を必要としない程度に離型性の良い点状凹部21の形状の条件を見出した。以下、蛍光体粒子の転写効率を高めるための点状凹部21の形状について、いくつかの実施例を上げて説明する。
【0032】
図10には、この発明の第1の実施例に係る版20の1つの点状凹部21を拡大した部分拡大平面図を示してある。また、図11には、図10の線分XI-XIで点状凹部21を切断した部分拡大断面図を示してある。
【0033】
以下に説明するいくつかの点状凹部は、例えば本実施の形態で説明したように表示装置の1つの画素に相当する程度に微小なものであるため、所望する形状を有する多数の点状凹部を整列配置した版を作成するには、その製造方法に工夫が必要となる。
【0034】
以下、図10および図11に示した点状凹部21を形成する方法について図12に示すフローチャートを参照しつつ説明する。
【0035】
まず、Fe−Ni合金などの金属板61(基材)の表面に10[μm]の厚さ(第1の厚さ)を有するドライフィルムレジスト62(第1の感光層)をラミネートする(図12、ステップ1)。そして、90[μm]×190[μm]の矩形の多数の開口パターン(第1の開口)を有する図示しないマスク(第1のマスク)を介して、ドライフィルムレジスト62を露光して現像する(ステップ2)。
【0036】
これにより、多数の点状凹部21に対応する位置に図11に示すようなドライフィルムレジスト62を貫通した矩形の開口62a(第1の孔)が形成される。このとき、ドライフィルムレジスト62に形成される多数の開口62aのサイズは、マスクの開口のサイズに依存して、90[μm]×190[μm]となる。
【0037】
次に、上記ドライフィルムレジスト62の上に10[μm]の厚さ(第2の厚さ)を有する別のドライフィルムレジスト63(第2の感光層)をラミネートする(ステップ3)。そして、今度は、115[μm]×215[μm]の矩形の多数の開口パターン(第2の開口)を有する図示しない別のマスク(第2のマスク)を介して、ドライフィルムレジスト63を露光して現像する(ステップ4)。
【0038】
これにより、ステップ2でドライフィルムレジスト62に形成した多数の開口62aに対応する位置に2層目のドライフィルムレジスト63を貫通した矩形の開口63a(第2の孔)が形成される。このとき、ドライフィルムレジスト63に形成される多数の開口63aのサイズは、マスクの開口のサイズに依存して、115[μm]×215[μm]となる。つまり、底部に向けて開口径が段階的に狭くなった多数の点状凹部21を有する版20が製造される。
【0039】
この版20を用いて前面基板2の内面に蛍光体層R、G、Bを形成したときの蛍光体粒子の転写効率を調べたところ、蛍光体層のパターンの転写位置精度±10[μm]/1[m]を確保した上で、蛍光体粒子の転写率99[%]以上を達成できた。言い換えると、本実施例の多数の点状凹部21を有する版20を用いて蛍光体層R、G、Bをパターニングすれば、版20を洗浄するクリーニング工程が不要となり、装置の製造コストも低減できる。
【0040】
なお、本実施例の版20は、金属板にドライフィルムレジストを2層重ねて径の異なる多数の孔をそれぞれ形成して製造したが、3層以上のドライフィルムレジストを重ねて径を徐々に異ならせた孔をそれぞれ形成するようにしても良い。いずれにしても、形成される点状凹部21の底部の径が最小となり、版20の表面20aに開口した点状凹部21の開口径が最大となるように傾斜を付けるとともに、点状凹部21の最大開口径が底部の最小径に点状凹部21の深さを足した値以上となるように、点状凹部21の形状を調整すれば良い。また、感光層としては、ここで説明したドライフィルムレジストの代りに感光性のペーストを複数回に分けて塗布しても良い。
【0041】
次に、この発明の第2の実施例に係る点状凹部21の形成方法について、図13に示すフローチャートを参照して説明する。
まず、金属板(基材)の表面に、図示しないコーターなどを用いて、8[μm]の厚さで比較的感度の高い感光性ペーストを塗布する。そして、この感光性ペーストの層を乾燥させて第1の感光層を形成する(ステップ1)。
【0042】
そして、ステップ1で形成した第1の感光層の上に重ねて、図示しないコーターによって、12[μm]の厚さで第1の感光層より感度の低い感光性ペーストを塗布して乾燥させ、第2の感光層を形成する(ステップ2)。
【0043】
この後、100[μm]×200[μm]の矩形の多数の開口パターンを有する図示しないマスクを介して、第1および第2の感光層を同時に露光し、露光した第1および第2の感光層を現像する(ステップ3)。このように、感度の違う感光層を重ねて一緒に露光・現像することで、各層に形成される孔の径を異ならせることができる。
【0044】
具体的には、本実施例の方法で形成した点状凹部21は、上述した第1の実施例と同様に底部の径が最小で開口径が最大となるとともに、底部の径が88[μm]×187[μm]となり、開口径が110[μm]×210[μm]となった。なお、点状凹部21の深さは、各層の厚さを足した20[μm]となった。言い換えると、本実施例の方法で形成した点状凹部21も、開口径が底部の径に深さを足した値以上となった。
【0045】
このように形成した多数の点状凹部21を有する版20についても、パターンの転写効率を調べたところ、±10[μm]/1[m]の位置精度を確保した上で、転写率99[%]以上を達成できた。言い換えると、本実施例の版20を用いた場合であっても、版20のクリーニング工程が不要となり、装置の製造コストを低減できる。
【0046】
次に、第3の実施例に係る点状凹部21の形成方法について、図14に示すフローチャートを参照して説明する。
まず、金属板(基材)の表面に、図示しないコーターなどを用いて、20[μm]の厚さで高抵抗材料を塗布する。そして、この高抵抗材料の層を乾燥させて均一な厚さの高抵抗層を形成する(ステップ1)。
【0047】
次に、ステップ1で形成した高抵抗層の上に、点状凹部21に対応する115[μm]×215[μm]の矩形の多数の開口パターンを有する図示しない金属製のマスキングシート(マスク)をセットする。そして、このマスキングシートを介して高抵抗層をサンドブラスト処理し(ステップ2)、高抵抗層をその表面側から部分的に削り取り、高抵抗層を貫通した多数の点状凹部21を形成する。
【0048】
この方法で形成した点状凹部21は、上述した第1および第2の実施例と同様に、金属板に露出した底部の径が最小で版20の表面20aに開口した開口径が最大となるとともに、底部の径が85[μm]×185[μm]となり、開口径が115[μm]×215[μm]となった。なお、点状凹部21の深さは、高抵抗層の厚さに一致する20[μm]である。言い換えると、本実施例の方法で形成した点状凹部21も、開口径が底部の径に深さを足した値以上となった。
【0049】
このように形成した多数の点状凹部21を有する版20についても、パターンの転写効率を調べたところ、±10[μm]/1[m]の位置精度を確保した上で、転写率99[%]以上を達成できた。言い換えると、本実施例の版20を用いた場合であっても、版20のクリーニング工程が不要となり、装置の製造コストを低減できる。また、本実施例の方法で点状凹部21を形成する場合、版20の高抵抗層の材料に感光性を持たせる必要がないため、材料の選択の自由度を高めることができる。
【0050】
次に、第4の実施例に係る点状凹部21の形成方法について、図15に示すフローチャートを参照して説明する。
まず、金属板(基材)の表面に、図示しないコーターなどを用いて、20[μm]の厚さで感光性ペーストを塗布する。そして、この感光性ペーストの層を乾燥させて感光層を形成する(ステップ1)。
【0051】
次に、ステップ1で形成した感光層の上に、点状凹部21に対応する115[μm]×215[μm]の矩形の多数の開口パターンを有する図示しないマスクをセットし、感光層を露光する(ステップ2)。
【0052】
そして、この後、マスクを剥がして感光層の表面から現像液を3乃至5[kgf]の圧力でスプレーし、点状凹部21を現像する(ステップ3)。
【0053】
この方法で形成した点状凹部21も、上述した第1乃至第3の実施例と同様に、金属板に露出した底部の径が最小で版20の表面20aに開口した開口径が最大となるとともに、底部の径が85[μm]×185[μm]となり、開口径が115[μm]×215[μm]となった。なお、点状凹部21の深さは、高抵抗層の厚さに一致する20[μm]である。言い換えると、本実施例の方法で形成した点状凹部21も、開口径が底部の径に深さを足した値以上となった。
【0054】
このように形成した多数の点状凹部21を有する版20についても、パターンの転写効率を調べたところ、±10[μm]/1[m]の位置精度を確保した上で、転写率99[%]以上を達成できた。言い換えると、本実施例の版20を用いた場合であっても、版20のクリーニング工程が不要となり、装置の製造コストを低減できる。
【0055】
この他にも、いろいろな手段で形状を異ならせたいくつかの点状凹部21を形成して転写効率を調べたが、いずれの場合においても、点状凹部21の版20の表面20aに開口した開口径が最大となり、点状凹部21の底部の径が最小となり、且つ最大開口径が最小径に点状凹部21の深さを足した値以上となる形状にした場合に、転写効率が99[%]以上となることが分かった。
【0056】
言い換えると、点状凹部21の底部の径をD1とし、表面20aに開口した開口径をD2とし、点状凹部21の深さをTとして、D1、D2、Tを種々変更して転写率を調べたところ、図16に示すように、D1が点状凹部21の最小の径となり、D2が点状凹部21の最大の径となり、且つD2≧D1+Tを満たす形状の点状凹部21を形成した版を用いた場合に転写率が99[%]以上となることが分かった。
【0057】
これに対し、比較例1として、金属板の表面に20[μm]の厚さの感光層を形成して、100[μm]×200[μm]の多数の開口を有するマスクを介して露光および現像し、底部の最小径が90[μm]×190[μm]で最大開口径が100[μm]×200[μm]の点状凹部を有する版を作成した。この点状凹部は、言うまでもなく、上述した数式(D2≧D1+T)を満たしておらず、本発明の範囲から外れている。このため、このような多数の点状凹部を有する版を用いて蛍光体層を形成して、転写効率を調べたところ、±10[μm/1m]の位置精度を実現できたものの、転写率が89[%]となってしまった。
【0058】
本願発明の効果をより分かり易く説明するため、上述した第1の実施例で説明した方法により作成した版と上述した比較例1で説明した方法で作成した版を用いて蛍光体層を転写した後の1つの点状凹部の状態を比較した。図17には、転写後の第1実施例の版の1つの点状凹部を拡大した平面図を模式的に示してあり、図19には、転写後の比較例1の版の1つの点状凹部を拡大した平面図を模式的に示してある。これによると、本願の第1実施例の版では転写後に残留する蛍光体粒子は殆ど無いことが分かるが、比較例1の版では点状凹部のエッジ部近くに多くの蛍光体粒子が残留していることが分かる。
【0059】
つまり、比較例1の版は、図20に断面図を示すように、点状凹部の底部の径と開口径が殆ど変わらないため、被転写媒体との間に電界を形成してクーロン力を作用させたときに、点状凹部の角部に付着している蛍光体粒子が十分に剥離されずに残ってしまう。これに対し、本願の第1実施例の版は、図18に示すように、底部の径と開口径が比較的大きく異ならせてあるため、点状凹部の側面に比較的大きなテーパーが付けられており、点状凹部の角部が比較的大きな角度となっている。このため、角部に付着している蛍光体粒子を比較的容易に剥離させることができる。よって、比較例1と比較しても、本願の第1実施例の版を用いた場合、転写効率を高めることができる。
【0060】
なお、この発明は、上述した実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上述した実施の形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の発明を形成できる。例えば、上述した実施の形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除しても良い。更に、異なる実施の形態に亘る構成要素を適宜組み合わせても良い。
【0061】
例えば、上述した実施の形態では、SEDの前面基板に蛍光体層R、G、Bを形成するための版について説明したが、これに限らず、カラーフィルターや遮光層を形成するための版に本発明を適用しても良い。また、SEDなどの平面型表示装置の製造に用いる版以外の印刷版にも本発明を適用できる。
【0062】
また、上述した実施の形態では、平面型表示装置として、表面伝導型の電子放出素子を有するSEDについて代表して説明したが、これに限定されるものではなく、どのような構造の電子放出素子をもつものであっても本発明を適用することができる。例えば、pn型の冷陰極素子あるいは電界放出型の電子放出素子のような他の電子放出素子を用いた表示装置に本発明を適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】この発明の実施の形態に係る版を用いて製造されるSEDの真空外囲器を示す外観斜視図。
【図2】図1の真空外囲器を線分II−IIに沿って切断した断面斜視図。
【図3】図2の断面を部分的に拡大して示す部分拡大断面図。
【図4】この発明の実施の形態に係る版を示す概略平面図。
【図5】図4の版を現像する動作を説明するための動作説明図。
【図6】図4の版を現像する動作を説明するための動作説明図。
【図7】図4の版で現像したパターンを転写する動作を説明するための動作説明図。
【図8】図4の版で現像したパターンを転写する動作を説明するための動作説明図。
【図9】図4の版で現像したパターンを転写する動作を説明するための動作説明図。
【図10】図4の版の点状凹部を部分的に拡大して示す部分拡大平面図。
【図11】図10の線分XI-XIに沿って点状凹部を切断した版の部分拡大断面図。
【図12】この発明の第1の実施例に係る点状凹部を形成する方法を説明するためのフローチャート。
【図13】この発明の第2の実施例に係る点状凹部を形成する方法を説明するためのフローチャート。
【図14】この発明の第3の実施例に係る点状凹部を形成する方法を説明するためのフローチャート。
【図15】この発明の第4の実施例に係る点状凹部を形成する方法を説明するためのフローチャート。
【図16】版の転写効率と点状凹部の形状との関係を示すグラフ。
【図17】第1の実施例で説明した方法により形成した点状凹部の転写後の状態を示す模式図。
【図18】図17の点状凹部を切断した部分拡大断面図。
【図19】比較例1で説明した方法により形成した点状凹部の転写後の状態を示す模式図。
【図20】図19の点状凹部を切断した部分拡大断面図。
【符号の説明】
【0064】
1…SED、2…前面基板、4…背面基板、6…側壁、8…スペーサ、10…真空外囲器、12…蛍光体スクリーン、14…メタルバック、16…電子放出素子、18…配線、20…版、20a…表面、21…点状凹部、D1…底部の径、D2…開口径、T…深さ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
整列配置された多数の点状凹部を表面に有し、これら多数の点状凹部内に帯電した現像剤粒子を集めて、この集めた現像剤粒子に電界を作用させ、上記表面に対向した被転写媒体にこの現像剤粒子によるパターンを転写する版であって、
上記多数の点状凹部は、底部の径が最小で上記被転写媒体に向けて開口した側の開口径が最大であり、且つ上記被転写媒体側の開口径が上記底部の径に該点状凹部の深さを足した値以上であることを特徴とする版。
【請求項2】
請求項1に記載の版を製造する方法であって、
基材の表面に感光層を積層し、上記点状凹部を形成するためのパターンを有するマスク介して上記感光層を露光し、露光した感光層のパターンを現像する工程を2回以上繰り返すことを特徴とする版の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の版を製造する方法であって、
基材の表面に第1の厚さを有する第1の感光層を積層し、上記点状凹部を形成するための第1の開口を有する第1のマスクを介して上記第1の感光層を露光し、この露光した第1の感光層を現像して第1の孔を形成し、
上記第1の感光層の上に第2の厚さを有する第2の感光層を積層し、上記第1の孔に一致する第2の開口を有する第2のマスクを介して上記第2の感光層を露光し、この露光した第2の感光層を現像して上記第1の孔に一致した第2の孔を形成することを特徴とする版の製造方法。
【請求項4】
上記第2の孔の径は、上記第1の孔の径に上記第1の厚さおよび第2の厚さを足した値以上であることを特徴とする請求項3に記載の版の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の版を製造する方法であって、
基材の表面に第1の感光層を積層し、その上に上記第1の感光層より感度の低い第2の感光層を積層し、上記点状凹部を形成するためのパターンを有するマスクを介して上記第1および第2の感光層を同時に露光し、露光した第1および第2の感光層を現像することを特徴とする版の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の版を製造する方法であって、
上記点状凹部の開口と同じパターンを有するマスクを高抵抗層の表面に重ね、このマスクを介して上記高抵抗層をサンドブラスト処理により部分的に削り取ることを特徴とする版の製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載の版を製造する方法であって、
基材の表面に感光層を積層し、上記点状凹部を形成するためのパターンを有するマスクを介して上記感光層を露光し、露光した感光層の表面に現像液を吹き付けて上記点状凹部を現像することを特徴とする版の製造方法。
【請求項8】
上記現像液を上記感光層に吹き付ける圧力は、3乃至5[kgf]であることを特徴とする請求項7に記載の版の製造方法。
【請求項9】
上記感光層は、感光性のペースト、またはドライフィルムレジストにより形成されることを特徴とする請求項2〜5、7、8のいずれか1項に記載の版の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2008−155419(P2008−155419A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−344816(P2006−344816)
【出願日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】