説明

物品およびこれを処理する方法

【課題】疲労応力と磨耗の両方に対して高い耐性を有するチタン部品を提供する。
【解決手段】チタン基材14上に金属層16を形成する。次に、金属層16とチタン基材14を一緒に拡散し、拡散領域をつくる。この拡散で、金属層16の微細空孔を満たすように原子が移動することによって、金属層16が強固になる。その後、ピーニングや圧延などの機械加工によって、金属層16、拡散領域さらには少なくとも部分的にチタン基材14の内部まで延びるような残留応力領域24をつくる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン部品に関し、詳しくは、疲労しやすい部品において改善された接着を得る方法およびその方法で得られる物品に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン合金は、スチールなどの他の合金と比較して、高い強度と比較的軽量であることを兼ね備える目的で使用されることが多い。チタン合金の部品は、疲労応力や他の部品との磨耗などを受ける比較的厳しい使用条件に晒されることがある。例えば、耐疲労性を向上させるためには、チタン合金部品にピーニング(peening)を施すことによって残留圧縮面領域(residual compressive surface zone)をつくり、この領域で、加わる疲労引張応力(fatigue tensile stresses)を相殺させることができる。あるいは、耐摩耗性を向上させるためには、チタン合金部品に、相対的に硬い材料を使ってめっきを施すことができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ピーニングとめっきは、それぞれ耐疲労性と耐摩耗性の向上に有効である。しかし、疲労と磨耗を受ける複合的な条件に対して、ピーニングとめっきは両立しない。例えば、チタン合金とめっき金属との接着性を改善するために、めっき後に高温で熱処理が行われるが、この熱処理によって、耐疲労性を向上させるためのピーニングから得られたチタン合金部品内の残留圧縮応力(residual compressive stress)が緩み、それによって、ピーニングの有益な効果が失われてしまう。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の方法の一例は、チタン基材上に金属層が設けられた物品を機械加工し、金属層の内部さらには少なくとも部分的にチタン基材の内部まで延びる残留応力領域をつくることを特徴とする。
【0005】
他の態様においては、本発明の方法の一例は、チタン基材上に金属層を形成して物品を提供するステップと、金属層の少なくとも一部と金属基材の少なくとも一部とを一緒に拡散処理して拡散領域をつくるステップと、物品を機械加工するステップと、金属層、拡散領域さらには少なくとも部分的にチタン基材の内部まで延びる残留応力領域を確保するステップと、を含む。
【0006】
本発明の物品の一例は、チタン基材と、該チタン基材上に配置された金属層と、を含む。残留応力領域が、金属層の内部さらには少なくとも部分的にチタン基材の内部まで延在する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図2に示す方法で形成される物品の一例を示す図。
【図2】図1に示す物品を処理する方法の一例を示す図。
【図3】図4に示す方法で形成される物品の他の例を示す図。
【図4】図3に示す物品を処理する方法の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は、図2に示す一例としての方法12により処理されている一例としての物品10を示す。本明細書中で説明するように、この例の方法12は、物品10の異なる材料間の接着性を改善するために使用することができる。図示した例においては、物品10は、チタン基材14(図1)と、該チタン基材14上の金属層16と、を含む。この例においては、物品10を概略的に示しているが、物品10は、疲労および/または磨耗の条件を受ける種々の物品(すなわち、疲労しやすい物品)とすることができる。例えば、物品10は、航空機に使用されるアクチュエータなどの航空宇宙部品とすることができる。しかし、物品10は、特定の種類に限定されないことを理解されたい。
【0009】
例示的な方法12は、物品10におけるチタン基材14と金属層16との接着性を改善するために使用することができる。これに関し、方法12は、物品10を機械加工するステップ20と、金属層16の内部さらには少なくとも部分的にチタン基材14の内部まで延びる残留応力領域24を確保するステップ22と、を含む。残留応力領域24は、物品10の外面に圧縮応力を与え、それによって、物品10の耐疲労性を向上させる。
【0010】
ステップ20における機械加工は、特定の方式のプロセスに限定されない。一例としては、(図1の矢印26で示す)機械加工は、ピーニングを含む。他の例においては、機械加工26は、圧延(rolling)やバニシ仕上げ(burnishing)を含む。残留応力領域24が、物品10の内部、例えばチタン基材14の内部まで延びるような所望の深さ28となるように、機械加工の強度を制御することができる。例えば、ピーニングを用いる場合、所望の深さ28を実現するように、ピーニング媒体の寸法およびピーニングプロセスの強度を選択することができる。ピーニング媒体の寸法およびピーニングプロセスの強度は、金属層16の厚さや金属層16として選択された金属の種類に依存する。少なくとも一例においては、金属層16は、ニッケルであり、その厚さは、約0.005インチ(約0.127ミリメートル)よりも薄い。他の例においては、その厚さは、約0.0001インチ〜約0.0005インチ(約0.00254ミリメートル〜約0.0127ミリメートル)であり、特には0.0003インチ(約0.00762ミリメートル)とすることができる。残留応力領域24の深さ28は、約0.115インチ(約2.921ミリメートル)である。一例としては、この例の深さ28は、0.02インチ(約0.51ミリメートル)のショット寸法(shot size)と、0.015のアルメン強度(Almen intensity)と、を使って実現することができる。
【0011】
金属層16は、周期表から選択された種々の遷移金属とすることができる。上記の例においては、金属層16は、ニッケル、コバルト、銅またはこれらの組み合わせであるが、金属層16は、他の種類の遷移金属またはそれらの混合物としてもよい。同様に、チタン基材14は、種々のチタン合金とすることができる。一例としては、チタン合金は、約5.5重量%〜約6.75重量%のアルミニウムと、約3.5重量%〜約4.5重量%のバナジウムと、残部のチタンと、を含む。このチタン合金は、該チタン合金の特性に物質的に影響を与えない量の他の元素、不純物元素、または測定ないし検出できない程度の元素を含み得る。組成または他の値に関して本明細書中に用いる「約」という語句は、当技術分野で通常許容される範囲の変動や誤差などの所定の値に生じうる変動について言及するものである。
【0012】
方法12は、選択的に、金属層16の少なくとも一部と、チタン基材14の少なくとも一部と、を一緒に拡散させるステップ30を含み得る。この拡散は、例えば、金属層16として選択された金属の種類と、チタン基材14と、に対応する拡散温度で行うことができる。金属層16が、銅、コバルトまたはニッケルである例においては、拡散温度を少なくとも約1400°F(約760℃)とし、真空下で拡散させることができる。金属層16として他の金属が選択される場合には、選択された金属とチタンとの時間−温度相転移曲線(time−temperature−transition diagram)からの所望の金属間相に基づいて、拡散温度を選択することができる。
【0013】
拡散時間は、所望の拡散の程度に依存する。いくつかの例においては、拡散時間は、数分から24時間であるが、この時間よりも長くすることもあれば短くすることもある。ステップ30での拡散後、物品10は、上述したように、ステップ20で機械加工することができる。物品10を機械加工する前の拡散によって、機械加工においてチタン基材14から金属層16が剥離することを制限ないし回避する。さらには、この拡散によって、金属層16内の微細空孔を満たすように原子が移動し、金属層が強固になる。
【0014】
ステップ22で残留応力領域24をつくった後、金属層16上に第2の金属層31を形成してもよい。一例においては、第2の金属層31は、金属層16の遷移金属とは異なる遷移金属を含み得るが、金属層16と同じ遷移金属としてもよい。
【0015】
図3は、図4に示す一例としての方法112によって処理されるときの他の例の物品110を示す。この開示例においては、同様の参照番号は同様の適切な要素を指し、100または100の倍数を加算した参照番号は、修正された要素を指す。修正された要素は、特に示さない限り、対応する要素と同様の特性および利点を有する。前例と同様に、方法112を用いて、物品110の耐疲労性を向上させることができる。この例においては、物品112は、チタン基材114(図3)と、このチタン基材上114上に設けられた金属層116と、を含む。
【0016】
方法112は、チタン基材114上に金属層116を形成するステップ150(図4)と、金属層116の少なくとも一部をチタン基材114の内部に拡散させるステップ152と、を含む。例えば、ステップ150およびステップ152は、物品110を機械加工するステップ120(前例のステップ20と同様)と、残留応力領域124を確保するステップ122(前例のステップ22と同様)と、の前に行われる。
【0017】
この例においては、金属層116は、適切な方式の形成プロセスを用いて形成することができる。形成方法としては、例えば、ニッケルストライクめっき(nickel striking)、物理蒸着法、化学蒸着法、溶射(thermal spray)などがある。他の方式のプロセスを代替的に用いることもでき、ステップ150は、特定の方式の形成プロセスに限定されない。ストライクめっきプロセスを用いる場合、例えばニッケルストライク材料から金属層116を形成する場合には、ニッケルストライク溶剤を使用する。ニッケルストライク溶剤としては、例えば、塩化ニッケル、硫酸ニッケル、スルファミン酸ニッケルまたはこれらの組み合わせが、酸とともに使用される。酸としては、例えば、塩酸、スルファミン酸、硫酸またはこれらの組み合わせがある。
【0018】
チタン基材114上に金属層116を形成した後、ステップ152で、金属層116とチタン基材114を一緒に拡散処理し、拡散領域154を形成する。この拡散は、上記の例と同様に、金属層116として選択された金属の種類と、チタン基材と、に対応する温度で行うことができる。金属層116として、コバルト、ニッケルまたは銅を使用する例においては、温度は、少なくとも1400°F(760℃)とし、拡散時間は、金属層116として選択された金属の種類に対応する時間とする。この例においては、金属層116の最外面領域155に実質的に何の組成変化もなく、ほぼ形成されたままの状態で残るように、金属層116の一部がチタン基材114に拡散する。金属層116として他の金属が選択される場合には、選択された金属とチタンとの時間−温度相転移曲線からの所望の金属間相に基づいて、拡散温度を選択することができる。
【0019】
その後、物品110は、ステップ120で、図3の矢印126で示すように機械加工され、金属層116、拡散領域154さらには少なくも部分的にチタン基材114の内部まで延びる残留応力領域124が形成される。
【0020】
上記のように、残留応力領域124が、物品110の内部、例えばチタン基材114の内部まで延びるような所望の深さ128となるように、ステップ120における機械加工の強度を制御することができる。
【0021】
図示した例に特徴の組み合わせを示しているが、この開示の様々な実施例の利点を実現するために、すべての特徴を組み合わせる必要はない。換言すれば、本開示の実施例によって設計されたシステムは、いずれか1つの図に示される特徴のすべて、または各図に概略的に示される部分のすべてを含む必要はない。さらに、一実施例の選択された特徴を他の実施例の選択された特徴と組み合わせることができる。
【0022】
前述の記述は、例示するためのものであり、本質を限定するものではない。当業者であれば、本開示の本質を逸脱することなく、いくつかの変更および修正がなされ得ることを理解されるであろう。
【符号の説明】
【0023】
10…物品
14…チタン基材
16…金属層
110…物品
114…チタン基材
116…金属層
154…拡散領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン基材上に金属層が設けられた物品を機械加工し、
前記金属層を通って少なくとも部分的に前記チタン基材の内部まで延びる残留応力領域をつくることを特徴とする、物品を処理する方法。
【請求項2】
前記物品の機械加工は、前記物品にピーニングを施すことを含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記機械加工の前に、前記金属層の少なくとも一部と、前記チタン基材の少なくとも一部と、を一緒に拡散させるステップをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記金属層として選択された金属の種類と、前記チタン基材と、に対応する拡散温度で拡散させることを含む請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記残留応力領域が前記チタン基材の内部まで延びるような深さとなるように、前記機械加工の強度を制御することをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項6】
チタン基材上に金属層を形成し、物品を提供するステップと、
前記金属層の少なくとも一部と、前記チタン基材の少なくとも一部と、を一緒に拡散させ、拡散領域をつくるステップと、
前記物品を機械加工するステップと、
前記金属層、前記拡散領域さらには少なくとも部分的に前記チタン基材の内部まで延びる残留応力領域を確保するステップと、
を含む、物品を処理する方法。
【請求項7】
少なくとも一種類の遷移金属から前記金属層を形成することを含む請求項6に記載の方法。
【請求項8】
コバルト、銅、ニッケルおよびこれらの組み合わせからなる群から選択された金属から前記金属層を形成することを含む請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記金属層として選択された金属の種類と、前記チタン基材と、に対応する拡散温度で拡散させることを含む請求項6に記載の方法。
【請求項10】
チタン基材と、
前記チタン基材上に設けられた金属層と、
前記金属層を通って少なくとも部分的に前記チタン基材の内部まで延びる残留応力領域と、
を備える物品。
【請求項11】
前記金属層は、遷移金属を含むことを特徴とする請求項10に記載の物品。
【請求項12】
前記金属層上に設けられた第2の金属層をさらに備え、該第2の金属層は、前記金属層の遷移金属とは異なる遷移金属を含むことを特徴とする請求項11に記載の物品。
【請求項13】
前記金属層は、コバルト、銅、ニッケルおよびこれらの組み合わせからなる群から選択された金属を含むことを特徴とする請求項10に記載の物品。
【請求項14】
前記チタン基材は、約5.5重量%〜約6.75重量%のアルミニウムと、約3.5重量%〜約4.5重量%のバナジウムと、残部のチタンと、からなることを特徴とする請求項10に記載の物品。
【請求項15】
前記金属層の厚さは、約0.005インチ(約0.127ミリメートル)よりも薄く、前記残留応力領域の深さは、少なくとも約0.115インチ(約2.921ミリメートル)であることを特徴とする請求項10に記載の物品。
【請求項16】
前記金属層がニッケルを含み、前記チタン基材は、約5.5重量%〜約6.75重量%のアルミニウムと、約3.5重量%〜約4.5重量%のバナジウムと、残部のチタンと、からなることを特徴とする請求項10に記載の物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−31367(P2010−31367A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−150699(P2009−150699)
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(500107762)ハミルトン・サンドストランド・コーポレイション (165)
【氏名又は名称原語表記】HAMILTON SUNDSTRAND CORPORATION
【住所又は居所原語表記】One Hamilton Road, Windsor Locks, CT 06096−1010, U.S.A.
【Fターム(参考)】