説明

物性評価装置

【課題】打撃ポイントに作業者の手が届きにくい場合にも、Hertzの弾性接触論に基づいた対象物の物性評価を簡易に可能とする物性評価装置を提供する。
【解決手段】物性評価装置1は、作業者が後端側を保持するための棒体3と、棒体3の前端部に連結され、加速度センサー15と球面形状の打撃面13aとを有する金属製のハンマー13と、ハンマー13の打撃面13aが対象物(岩盤53)に衝突したときに加速度センサー15で得られる加速度データに基づいて、対象物の変形特性を演算するコンピュータと、を備え、ハンマー13は、棒体3に対し、打撃面13aと対象物との衝突方向に移動可能であるように支持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物の物性を評価する物性評価装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、このような分野の技術として、下記特許文献1に記載の非破壊測定装置が知られている。この装置は、コンクリート構造物の表面に打撃を加えるボール型のハンマーと、このハンマーで打撃を加えたときの衝撃信号を採取するためのセンサーと、センサーで採取した衝撃信号から、Hertzの弾性接触論に基づいて、コンクリート構造物の剛性を導き出す制御装置と、を備えている。また、この分野の他の技術として、専用の機器を用いてコンクリートに打撃を与えて、コンクリートの強度を推定するシュミット式ハンマー試験法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−150946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の装置では、作業者がハンマーの把手を把持し対象物表面の打撃すべき点(以下、「打撃ポイント」)を打撃する作業が必要である。例えば、施工中のトンネルの切羽における岩盤の特性を評価したい場合は、当該岩盤を打撃する必要がある。しかしながら、切羽付近には落石、肌落ち等の危険があるので、労働災害防止の観点から、作業者が切羽に近づくことは避けるべきである。従って、打撃ポイントは作業者の手が届かない位置にあり、特許文献1の方法を用いることは困難である。また、例えば、トンネルの側壁の特性を評価したい場合などは、トンネル側壁の高い位置を打撃する必要がある場合もある。この場合に、打撃ポイントに作業者の手が届かない場合には、トンネル内に足場を組み作業しなければならず、手間と時間がかかってしまう。また、打撃ポイントに作業者の手が届かない場合には、シュミット式ハンマー試験法を応用することもできない。
【0005】
そこで、本発明は、打撃ポイントに作業者の手が届きにくい場合にも、Hertzの弾性接触論に基づいた対象物の物性評価を簡易に可能とする物性評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の物性評価装置は、対象物の物性を評価する物性評価装置であって、作業者が後端側を保持するための棒体と、棒体の前端部に連結され、加速度センサーと球面形状の打撃面とを有するハンマーと、ハンマーの打撃面が対象物に衝突したときに、加速度センサーから、対象物の変形特性を演算するための加速度データを取得する加速度データ取得手段と、を備え、ハンマーは、棒体に対し、打撃面と対象物との衝突方向に移動可能であるように支持されていることを特徴とする。
【0007】
本発明の物性評価装置によれば、打撃ポイントに作業者の手が届きにくい場合においても、作業者は棒体の後端側を保持した状態で棒体の前端部を打撃ポイントに近づけ、棒体の前端部に連結されたハンマーを打撃ポイントに衝突させることができる。そして、加速度センサーで衝突時の加速度データが得られる。その後の工程においては、得られた上記加速度データに基づき、Hertzの弾性接触論に基づいて対象物の変形特性が演算される。ここで、Hertzの弾性接触論に適用可能な適切な加速度データを得るためには、衝突の瞬間に反発によるハンマーの動きが許容される状態で、ハンマーと対象物とを衝突させる必要がある。本発明の物性評価装置によれば、ハンマーは、棒体に対し、打撃面と対象物との衝突方向に移動可能であるように支持されているので、衝突の瞬間には、対象物からの反発によるハンマーの動きが許容された状態であり、Hertzの弾性接触論に適用可能な適切な加速度データを得ることができる。
【0008】
また、加速度データ取得手段は、取得した加速度データに基づいて対象物の変形特性を演算する演算手段を有することとしてもよい。また、加速度データ取得手段は、取得した加速度データを電子データとして保存する電子記憶媒体であってもよい。
【0009】
具体的には、棒体とハンマーとの連結部は、ハンマーを、棒体に対し当該棒体の延在方向に平行移動可能とする移動許容部と、ハンマーを、前方に向けて付勢する付勢部と、を有する構成としてもよい。
【0010】
この構成の場合、作業者は、棒体の後端側を保持して棒体の前端側で対象物の打撃ポイントを突く動作によって、棒体の前端部に連結されたハンマーを打撃ポイントに衝突させることができる。ハンマーは、移動許容部により、棒体に対して当該棒体の延在方向に平行移動可能とするように連結されているので、反発によるハンマーの動きが許容された状態で対象物に衝突する。よって、Hertzの弾性接触論に適用可能な適切な加速度データを得ることができる。
【0011】
また、上記の突く動作の際に、棒体は前方に素早く加速されるので、ハンマーは慣性により棒体に対して後方に移動しようとする。このとき、ハンマーが移動許容部の移動許容範囲の後端限界に到達してしまうと、衝突の瞬間におけるハンマーの動きが制限されてしまい、Hertzの弾性接触論に適用可能な適切な加速度データを得ることができなくなる。そこで、付勢部を設けることにより、棒体の加速の際にハンマーを前方に付勢し、ハンマーが移動許容範囲の後端限界に到達することを避けることができる。よって、棒体が素早く加速された場合にも、Hertzの弾性接触論に適用可能な適切な加速度データを得ることができる。
【0012】
また、具体的には、棒体とハンマーとの連結部は、一端にハンマーが設けられ、他端が棒体に対し当該棒体の延在方向に平行な面内で回転可能であるように支持されている棒状部材を有する構成としてもよい。
【0013】
この構成の場合、作業者は、棒体の後端側を保持し、棒状部材を回転させてハンマーを揺動させ、ハンマーを打撃ポイントに衝突させることができる。棒状部材が回転可能であることから、ハンマーは、回転の接線方向への動きが許容された状態で対象物に衝突する。よって、Hertzの弾性接触論に適用可能な適切な加速度データを得ることができる。
【0014】
また、本発明の物性評価装置においては、棒体の長さが2m以上であることが好ましい。施工中のトンネルの切羽の評価に物性評価装置を適用する場合を考えると、一般的に、切羽から2m以内のエリアは肌落ち、落石等による災害のおそれがあり、作業者は、切羽から2m以内に近づくことは特に避けるべきと考えられる。上記構成によれば、施工中のトンネルの切羽の変形特性の評価を行う場合にも、作業者は、切羽から2m以上離れて作業を行うことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の物性評価装置によれば、打撃ポイントに作業者の手が届きにくい場合にも、Hertzの弾性接触論に基づいた対象物の物性評価を簡易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る物性評価装置の第1実施形態及びその使用態様を示す図である。
【図2】図1に示す物性評価装置の打撃部を拡大して示す一部破断側面図である。
【図3】本発明に係る物性評価装置の第2実施形態の打撃部を拡大して示す側面図である。
【図4】(a)〜(d)は、本発明者らの試験1で得られた各加速度データの波形を示す図である。
【図5】本発明者らによる他の試験2の結果を示すグラフである。
【図6】本発明者らによる更に他の試験3の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る物性評価装置の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0018】
(第1実施形態)
図1に示す物性評価装置1は、評価対象物を打撃し、打撃時の衝撃波形を解析して評価対象物の変形特性を評価する装置である。物性評価装置1は、例えば、施工中のトンネル90の切羽51の岩盤53を評価対象物とし、当該岩盤53の変形係数(応力と歪みの関係)を得ることができる。そして、得られた岩盤53の変形係数に基づいて、切羽51付近に施すべき支保工の仕様を適切に設定することができる。
【0019】
図1に示すように、物性評価装置1は、直線状に延在する棒体3を備えている。棒体3の長さは2m以上であり、棒体3としては、例えば、金属パイプ等が用いられる。棒体3の一端部には、岩盤53の打撃ポイント53aを打撃する打撃部5が設けられている。図に示されるように、作業者Aは、棒体3の他端部を保持して、物性評価装置1を使用する。以下、棒体3の延在方向を前後方向として、打撃部5が設けられた側の端部を「前端部」、作業者Aに保持される側の端部を「後端部」として、「前」、「後」の概念を含む語を位置関係の説明に用いるものとする。
【0020】
物性評価装置1は、更に、打撃部5で得られる衝撃波形(加速度データ)を取得するとともに、当該衝撃波形を解析し岩盤53の変形係数を算出するコンピュータ(加速度データ取得手段、演算手段)7を備えている。コンピュータ7としては、所定の評価プログラムを格納した市販のパーソナルコンピュータを用いることができる。
【0021】
次に、図2を参照し、打撃部5の構成について説明する。図に示すように、打撃部5は、棒体3の前方に位置するハンマー13を備えると共に、棒体3とハンマー13とを連結する連結部として、スライド機構(移動許容部)13と付勢部17とを備えている。
【0022】
ハンマー13は例えば直径5cm程度の金属製の球体であり、球面形状をなすハンマー13の前面が、打撃ポイント53aに衝突する打撃面13aを構成する。なお、後述するHertzの弾性接触論を適用する上では、ハンマー13全体を球形とすることは必須ではなく、少なくとも打撃面13aが球面形状をなすようにすればよい。また、ハンマー13が金属製であることも必須ではなく、ハンマー13の材料は、ゴム、木、プラスチック、セラミック等であってもよい。ハンマー13の後面には、加速度センサー15が取り付けられている。加速度センサー15は、打撃面13aと打撃ポイント53aとの衝突時に、衝突方向における加速度を計測する。すなわち、ハンマー13で打撃ポイント53aが打撃されたとき、加速度センサー15は、打撃面13aと岩盤53との衝突により発生する衝撃波形を加速度波形として検知する。そして、検知された加速度波形は、加速度信号として、データケーブル15a等を介してコンピュータ7に送信される。
【0023】
スライド機構11は、棒体3の前端の中空部に設けられており、固定側レール11bと、固定側レール11bに対して前後移動可能に係合された移動側レール11aとを備えている。固定側レール11bは棒体3の中空部内壁面に固定されており、移動側レール11aの前端は棒体3の前端開口から前方に突出している。ハンマー13は、移動側レール11aの前端に取り付けられている。このような構造により、ハンマー13は、棒体3に対して、前後方向(棒体3の延在方向)に平行移動可能である。また、スライド機構11では、所定のストッパ機構(図示省略)により移動側レール11aの前後移動範囲が制限されているので、ハンマー13の移動範囲には、前端限界と後端限界とが存在する。
【0024】
スライド機構11としては、例えば、固定側レール11bと移動側レール11aとの間にボールを挟んだ構造をもつ公知のスライドレール部品を用いればよい。また、スライド機構11は、ハンマー13を前後移動可能に支持するものであれば、他の構造でもよい。
【0025】
更に、打撃部5は、ハンマー13を前方に向けて付勢する付勢部17を備えている。付勢部17は、ヒンジ結合で開閉可能な2本のアーム19と、アーム19を開く方向に付勢するねじりバネ21と、を備えている。2本のアーム19の先端は、それぞれ、移動側レール11a及び棒体3の外壁面にヒンジ結合されているので、ねじりバネ21の付勢力は、ハンマー13を前方に付勢する力として作用する。なお、ハンマー13が前端限界の位置にあるときに、ねじりバネ21が発生する力がゼロになるように調整されており、ハンマー13が前端限界の位置から後退したときに、ねじりバネ21がハンマー13を前方に押し出す力を発揮する。
【0026】
以上の構成に基づき、作業者Aは、図1に示されるように、棒体3の後端側を保持し、打撃ポイント53aを突く動作によって、ハンマー13で打撃ポイント53aを打撃することができる。そして、前述のとおり、打撃時の衝撃波形が反映された加速度信号が、データケーブル15a等を介して加速度センサー15からコンピュータ7に送信される。
【0027】
続いて、コンピュータ7は、予め格納された所定の評価プログラムを実行することにより、上記加速度信号(衝撃波形)に基づき、Hertzの弾性接触論を用いて、岩盤53の弾性係数を算出する。Hertzの弾性接触論によれば、球体を弾性体表面に衝突させたときの球体と弾性体平面との接触時間は、次式(1)で表される。
【数1】

【0028】
但し、
:球体の弾性係数
μ:球体のポアソン比
R :球体の半径
M :球体の質量
:弾性体の弾性係数
μ:弾性体のポアソン比
:衝突速度
である。
【0029】
特許文献1では、以上のようなHertzの弾性接触論を、コンクリート構造物の剛性の測定に利用することが開示されている。本実施形態では、岩盤53の変形係数を測定する場合にHertzの弾性接触論を適用する。すなわち、本実施形態では、上記のHertzの弾性接触論において、上記球体にハンマー13を当てはめ、上記弾性体に岩盤53を当てはめる。この場合、式(1)において、E,μ,R,Mは既知である。また、岩石53のポアソン比μとしては、一般的な岩盤のポアソン比として0.2の値を用いればよい。更に、T及びVは、加速度信号で表される衝撃波形から算出することができる。従って、加速度信号が得られれば、式(1)に基づいて、未知量である岩盤53の弾性係数(変形係数)Eを算出することができる。
【0030】
続いて、物性評価装置1による作用効果について説明する。
【0031】
一般に、切羽付近には落石、肌落ち等の危険があるので、労働災害防止の観点から、作業者Aが施工中のトンネル90の切羽51に近づくことは避けるべきである。例えば、下記のプレスリリース中には「トンネル切羽近傍での労働災害の80%以上が切羽から2m以内で起こるといわれています。」との記載があり、作業者Aが切羽から2m以内のエリアに立ち入ることは特に避けるべきと考えられる。従って、作業者Aは、打撃ポイント53aから2m以内には近寄ることはできない。
〔プレスリリース〕鹿島建設株式会社 プレスリリース,「切羽より2m離れた位置から火薬を装填」,2008年10月7日,
(URL:http://www.kajima.co.jp/news/press/200810/7c1-j.htm)
【0032】
これに対し、物性評価装置1によれば、棒体3の前端部に打撃部5を設けた構成により、作業者Aは棒体3の後端側を保持した状態で棒体3の前端部を打撃ポイント53aに近づけ、作業者A自身は打撃ポイント53aに近寄ることなく、ハンマー13で打撃ポイント53aを打撃することができる。特に、棒体3の長さを2m以上としているので、作業者Aは、特に立ち入りを避けるべきエリア(切羽から2m以内)に立ち入る必要がない。また、棒体3のうち作業者Aが保持する分の長さを考慮し、棒体3全体の長さを2.5m以上にしてもよい。
【0033】
但し、棒体3が長すぎる場合には、作業者Aによる取り扱いが困難になったり、棒体3の撓みによって適切な打撃方向で打撃できなくなったりする問題がある。よって、棒体3の長さは3.5m以下とすることが好ましい。すなわち、棒体3の長さは2.0〜3.5mにすることが好ましく、その中でも例えば、2.8〜3.2mにすることが更に好ましい。
【0034】
また、Hertzの弾性接触論に適用可能な適切な加速度データを得るためには、打撃の瞬間の反発によるハンマー13の動きが許容される状態で、岩盤53を打撃する必要がある。すなわち、打撃の瞬間においては、ハンマー13が岩盤53から弾性的に跳ね返る動きが妨げられてはならない。ここで、棒体3の前端部に単純にハンマー13を固定した構造を考える。この構造の装置によれば、作業者Aが打撃ポイント53aを突く動作を行った際に、ハンマー13と岩盤53との衝突直後から更に一定時間だけ前方に押さえ込む動作になり易く、すなわち、ハンマー13が跳ね返る動きが妨げられる状態になり易い。更に、ハンマー13が作業者Aから離れた位置にあり目視し難いので、ハンマー13の打撃の状態を作業者Aが微調整することも難しい。従って、棒体3の前端部に単純にハンマー13を固定した構造では、Hertzの弾性接触論に適用可能な適切な加速度データを得ることが困難である。
【0035】
これに対し、物性評価装置1によれば、ハンマー13は、棒体3に対し、衝突方向(前後方向)に移動可能であるように支持された構成を採用している。具体的には、ハンマー13は、棒体3に対しスライド機構11を介して連結されているので、打撃の瞬間には、岩盤53からの反発によるハンマー13の後方への動きが許容された状態である。よって、Hertzの弾性接触論に適用可能な適切な加速度データを得ることができる。
【0036】
また、上記の突く動作の際に、棒体3は前方に素早く加速されるので、ハンマー13は、慣性により棒体3に対して後方に移動しようとする。このとき、ハンマー13が後端限界に到達してしまうと、打撃の瞬間におけるハンマー13の後方への動きが制限されてしまい、Hertzの弾性接触論に適用可能な適切な加速度データを得ることができなくなる。
【0037】
これに対し、物性評価装置1においては、付勢部17を設けることにより、棒体3の加速の際に、付勢部17によってハンマー13が前方に付勢されるので、ハンマー13が後端限界に到達することを避けることができる。よって、棒体3が素早く加速された場合にも、反発によるハンマーの後方への動きを確保し、Hertzの弾性接触論に適用可能な適切な加速度データを得ることができる。
【0038】
なお、打撃の瞬間においては、付勢部7による前方への付勢力が作用しており、ハンマー13の後方への移動を僅かに妨げることになるが、当該付勢力は、打撃の衝撃力に比較して極めて小さく、上記付勢力の影響は無視することができる。
【0039】
(第2実施形態)
続いて、本発明の物性評価装置の第2実施形態について説明する。本実施形態の物性評価装置101は、打撃部5に代えて、図3に示す打撃部105を、棒体3の先端部に備えたものである。物性評価装置101のそれ以外の構成については、第1実施形態の物性評価装置1と同一であるので、重複する説明を省略する。また、図3においても、図1又は図2と同一又は同等の構成要素については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0040】
図3に示すように、打撃部105は、棒体3とハンマー13とを連結する連結棒材(棒状部材)111を備えている。連結棒材111の上端は、ヒンジ部111aにおいて棒体3に回転可能に支持されている。連結棒材111は、ヒンジ部111aを中心として、鉛直面内(棒体3の延在方向に平行な面内)で回転可能である。連結棒材111の下端には、ハンマー13が取り付けられている。加速度センサー15は、ハンマー13の回転軌道の接線方向における加速度を検出する。連結棒材111には、棒体3と同程度の長さの紐113が取り付けられている。以上の構成により、ハンマー13は、ヒンジ部111aを中心として前後方向に揺動可能である。
【0041】
物性評価装置101を使用するにあたり、作業者Aは、図1と同様に、物性評価装置101の棒体3をほぼ水平にして後端部を保持した状態とする。作業者Aは、紐113の後端部を引くことにより、連結棒材111を傾斜させハンマー13を後方に引くことができる。この状態で、棒体3の先端を岩盤53に近づけ(又は、岩盤53に接触させ)、紐113を解放すれば、ハンマー13は自重により前方に揺動し、打撃面13aと打撃ポイント53aとが衝突する。作業者Aは以上のような操作により、ハンマー13で打撃ポイント53aを打撃することができる。
【0042】
この物性評価装置101によれば、棒体3の前端部に打撃部105を設けた構成により、作業者A自身は打撃ポイント53aに近寄ることなく、ハンマー13で打撃ポイント53aを打撃することができる。また、ハンマー13は前後に揺動可能であるので、打撃の瞬間において、岩盤53からの反発による衝突方向(ハンマー13の回転軌道の接線方向)へのハンマー13の動きも許容されている。よって、Hertzの弾性接触論に適用可能な適切な加速度データを得ることができる。
【0043】
また、紐113を引く量を調整することにより、打撃時のハンマー13の振り幅を容易に調整することができ、打撃エネルギーを容易に調整することができる。
【0044】
本発明は、上述の第1及び第2実施形態に限定されるものではない。例えば、実施形態では、物性評価装置をトンネルの切羽の評価に適用する例を説明しているが、本発明の物性評価装置は、トンネルの側壁コンクリートの評価にも用いることができる。また、トンネル施工においては、発破や機械による掘削の後、切羽だけでなく切羽近傍の側壁部でも岩盤が剥き出しになる。この側壁部に露出した岩盤の評価にも、本発明の物性評価装置を適用することができる。ここで切羽近傍の側壁部とは、切羽よりも手前の側壁の部分であり、切羽から見てトンネル軸方向に所定距離以内である範囲を指す。上記所定距離は、例えば、0.5m〜2.0mである。上記のような、トンネル側壁コンクリートや側壁部の岩盤の評価においても、高い位置の打撃を必要とする場合があり、従来であれば、打撃ポイントに作業者の手が届かない場合には、トンネル内に足場を組んで作業しなければならず、手間と時間がかかっていた。ところが、本発明の物性評価装置によれば、作業者の手が届きにくい打撃ポイントを打撃し適切な加速度データが得られるので、作業効率の向上を図ることができる。
【0045】
また、第1及び第2実施形態では、加速度信号がデータケーブル15aを介して加速度センサー15からコンピュータ7に送信されるが、加速度センサー15からコンピュータ7に、無線通信によって加速度信号を送信してもよい。この場合、データケーブル15aが省略され、作業者Aの行動範囲の制限が軽減される。
【0046】
また、演算手段を備えたコンピュータ7に代えて、加速度データ(衝撃波形)を保存・蓄積可能な電子記憶媒体を採用し、得られた加速度データを電子データとして電子記憶媒体に保存・蓄積していくこととしてもよい。なおこの場合、電子記憶媒体に蓄積された加速度データを、後でまとめてコンピュータでバッチ処理する運用が考えられる。一般的に電子記憶媒体は、演算機能を備えたコンピュータ7に比べて小型・軽量のものが多いので、電子記憶媒体を棒体3に取り付けることも可能である。小型・軽量の電子記憶媒体を採用することにより、作業者Aによる物性評価装置1,101の取り扱い負担が軽減される。電子記憶媒体としては、半導体メモリやハードディスク装置等を用いることができる。
【0047】
続いて、物性評価装置1,101による上記の効果を確認するために本発明者らが行った試験について説明する。
【0048】
〔試験1〕
本発明者らは、物性評価装置1と、物性評価装置101と、棒体3の前端部に単純にハンマー13を固定した構造の装置(以下「比較装置」)と、前述の特許文献1の装置(以下「参考装置」)と、を用いて、それぞれ対象物を打撃する試験を行った。物性評価装置1及び参考装置の打撃対象物は泥岩であり、比較装置の打撃対象物はモルタルである。物性評価装置1、物性評価装置101、比較装置、及び参考装置を用いて、打撃により得られた加速度データ(衝撃波形:横軸が時間で縦軸が加速度)を、それぞれ、図4(a),(b),(c),(d)に示した。
【0049】
図4(d)に示すように、参考装置では、球体のハンマーの側方に延びる把手を把持し、ハンマーを振る動作により対象物を打撃するので、打撃の瞬間にハンマーの跳ね返る動きが妨げられる状態にはなり難く、理想的な加速度データが得られている。
【0050】
これに対し、図4(c)に示すように、比較装置で得られる加速度データは、振動を示す波形でHertzの弾性接触論には適用不可能なものであり、対象物の変形係数の解析は不可能であった。これは、打撃直後に更に前方にハンマー13を押さえ込むような動作に起因するものと考えられる。
【0051】
対して、図4(a)に示すように、物性評価装置1によれば、参考装置と同様の理想的な加速度データが得られた。これは、打撃の反発によるハンマー13の動きが許容された状態で打撃が行われたことによるものであり、スライド機構11及び付勢部17の作用に起因するものと考えられる。
【0052】
同様に、図4(b)に示すように、物性評価装置101によっても、参考装置と同様の理想的な加速度データが得られた。これは、打撃の反発によるハンマー13の動きが許容された状態で打撃が行われたことによるものであり、ハンマー13を容易に回転可能とした構成に起因するものと考えられる。以上より、物性評価装置1,101による上記の効果が確認された。
【0053】
〔試験2〕
本発明者らは、約2000mが既掘削のトンネルの側壁面において、強度が3通りに異なると考えられる測定地点を、合計10地点選定した。各測定地点は、互いに異なる3種類の岩級区分の地点から選定したものであり、岩級区分がB級以上に相当する地点で3点、岩級区分がB〜CI級に相当する地点で5点、及び岩級区分がCII〜D級に相当する地点で2点が選定された。各地点の岩級区分は、地質技術者の観察により事前に判定したものである。また、トンネル側壁面の岩種は玄武岩である。
【0054】
一方、下記の文献1には、地山の岩級区分と変形係数との関係が下表1のように示されている。
文献1:「土木研究所資料 トンネル掘削時地盤変状の予測・対策マニュアル(案)」,建設省土木研究所 トンネル研究室,平成6年2月、p.20.
【表1】

【0055】
また、表1に示すような岩級区分と変形係数との関係は、下記の文献2(特に、第112頁の表−7)の記載に照らしても、妥当なものと考えられる。
文献2:菊地宏吉ら、「ダム基礎岩盤の耐荷性に関する地質工学的総合評価」、応用地質、日本応用地質学会、1984年、特別号、p.103−118.
【0056】
本発明者らは、前述の参考装置と、物性評価装置1と、物性評価装置101と、を用いて、それぞれの測定地点における側壁面の変形係数を求めた。各装置における各測定地点の変形係数の測定値は、測定地点の岩級区分毎に分けてそれぞれ平均し、図5にグラフとして示している。
【0057】
この試験の結果、図5に示されるように、各装置を用いた測定によれば、上記表1に鑑みて、各地点の岩級区分に対応する妥当な変形係数が測定値として得られた。すなわち、上記の各装置によって、変形係数測定の妥当な結果が得られることが判明し、物性評価装置1,101によれば、参考装置と同様に、対象物の正しい変形係数が測定可能であることが確認された。
【0058】
〔試験3〕
本発明者らは、トンネルの側壁面において2箇所(トンネルの右側面と左側面)の測定地点を選定した。選定した測定地点の側壁面は何れも泥岩である。そして、物性評価装置1を用いて各測定地点の変形係数を求めた。更に別途、地盤工学会基準(JGS1421-2003)として定められた「孔内水平載荷試験方法」を用いて各測定地点の変形係数を求めた。各方法で求められた変形係数を図6に示している。
【0059】
図6に示されるように、物性評価装置1を用いた場合、測定地点(1)、(2)ともに、孔内水平載荷試験とほぼ同じ変形係数が得られた。従って、物性評価装置1による変形係数の測定値は、孔内水平載荷試験と同等の信頼性を有すると考えられる。よって、物性評価装置1による変形係数の測定は、孔内水平載荷試験と同様の目的に使用することができる。また、前述の参考装置や物性評価装置101についても同様に、孔内水平載荷試験と同等の信頼性を有し、孔内水平載荷試験と同様の目的に使用することができると考えられる。以下、物性評価装置1,101及び前述の参考装置をまとめて「物性評価装置1等」と称する。
【0060】
また、測定値の信頼性が孔内水平載荷試験と同等であれば、物性評価装置1等による変形係数測定の目的・用途を、孔内水平載荷試験と同等に広げることができる。例えば、物性評価装置1等による変形係数測定の用途の例として、以下、トンネルの建設に適用する例を考える。トンネルの建設において、地質コンサルタントが担当する計画および調査段階では、通常、掘削の対象になる地山全体の弾性波速度分布を弾性波探査で調査し、その速度値を基に地山評価を行う。その他、ボーリングや必要に応じて電気探査などが行われる。
【0061】
その後、トンネルの支保構造を設計する段階にあたっては、標準設計を適用してもよい。すなわち、企業者ごとに、地山等級に対応する典型的な支保構造が,過去の施工実績に基づいて定められており、その定め(標準設計)を支保構造の設計に適用してもよい。また、支保構造を設計する他の手法としては、解析的手法を適用してもよい。すなわち、理論解析や数値解析(FEM等)等により支保構造の設計を行ってもよい。このとき、当該理論解析や当該数値解析に使用される地山の変形係数として、前述の孔内水平載荷試験の結果が用いられてもよいが、これに代えて、物性評価装置1等による変形係数の測定値を使用することもできると考えられる。つまり、地山評価における理論解析や数値解析(FEM等)にも物性評価装置1等による変形係数の測定値を使用することができると考えられる。
【0062】
さらに、トンネルの施工段階では、実際の地山が、当初予測評価された地山の通りであったか否かを再評価しながら、合理性・経済性の観点に立ち、必要に応じて支保構造を変更する場合もある。このとき、物性評価装置1等による変形係数の測定は、孔内水平載荷試験に代えて、地山の再評価の一手法として採用することができる。
【0063】
なお、孔内水平載荷試験は、ボーリングの必要があるなど比較的手間が大きく、1地点当たりの測定時間も比較的長くなる。これに比較して、物性評価装置1等による変形係数の測定は、測定作業がより簡易であり、測定の手間も比較的小さく、必要な測定時間も短い点において、孔内水平載荷試験よりも優れている。よって、物性評価装置1等による変形係数の測定は、孔内水平載荷試験に比べて、測定地点を多くすることが比較的容易であり、より詳細な地山の評価及び再評価が可能になる。
【符号の説明】
【0064】
1…物性評価装置、3…棒体、5…打撃部、7…コンピュータ(加速度データ取得手段、演算手段)、11…スライド機構(連結部、移動許容部)、13…ハンマー、13a…打撃面、15…加速度センサー、17…付勢部(連結部、付勢部)、A…作業者。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の物性を評価する物性評価装置であって、
作業者が後端側を保持するための棒体と、
前記棒体の前端部に連結され、加速度センサーと球面形状の打撃面とを有するハンマーと、
前記ハンマーの打撃面が前記対象物に衝突したときに、前記加速度センサーから、前記対象物の変形特性を演算するための加速度データを取得する加速度データ取得手段と、
を備え、
前記ハンマーは、
前記棒体に対し、前記打撃面と前記対象物との衝突方向に移動可能であるように支持されていることを特徴とする物性評価装置。
【請求項2】
前記加速度データ取得手段は、
取得した前記加速度データに基づいて前記対象物の変形特性を演算する演算手段を有することを特徴とする請求項1に記載の物性評価装置。
【請求項3】
前記加速度データ取得手段は、
取得した前記加速度データを電子データとして保存する電子記憶媒体であることを特徴とする請求項1に記載の物性評価装置。
【請求項4】
前記棒体と前記ハンマーとの連結部は、
前記ハンマーを、前記棒体に対し当該棒体の延在方向に平行移動可能とする移動許容部と、
前記ハンマーを、前方に向けて付勢する付勢部と、を有することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の物性評価装置。
【請求項5】
前記棒体と前記ハンマーとの連結部は、
一端に前記ハンマーが設けられ、他端が前記棒体に対し当該棒体の延在方向に平行な面内で回転可能であるように支持されている棒状部材を有することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の物性評価装置。
【請求項6】
前記棒体の長さが2m以上であることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の物性評価装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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