物理量センサ及びこれを備えた温度補償装置並びに温度補償方法
【課題】事前の煩雑な設計を要することなく広い温度範囲で温度補償可能な物理量センサ及びこれを備えた温度補償装置並びに物理量センサの温度補償方法を提供すること。
【解決手段】表裏反転した姿勢とされることにより、同等の絶対値を有しかつ正負逆符号の信号をそれぞれ出力する加速度センサ3及び加速度センサ4と、加速度センサ3を表向きに支持するとともに、加速度センサ4を裏向きに支持する基板2とを備えている。
【解決手段】表裏反転した姿勢とされることにより、同等の絶対値を有しかつ正負逆符号の信号をそれぞれ出力する加速度センサ3及び加速度センサ4と、加速度センサ3を表向きに支持するとともに、加速度センサ4を裏向きに支持する基板2とを備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物理量センサの温度特性を補償するための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば産業機械や家電製品では、物理量センサによって所定の物理量が検出され、その検出情報に基づいてデータ処理や各種制御が行われている。
【0003】
この種の物理量センサは、温度特性を有する。具体的に、物理量センサは、検出すべき物理量が同一であっても、検出対象物の温度や雰囲気の温度に応じて検出値が変化する特性を持つ。例えば、加速度センサにおいては、検出対象物の加速度が一定であっても気温の影響を受けて当該センサの出力値が変化することがある。また、角速度を検出するジャイロセンサ(ジャイロスコープ)においても同様である。
【0004】
このような温度特性を補償するための構成として、例えば、特許文献1に記載の物理量センサ感度温度補償回路が知られている。特許文献1の補償回路は、温度検出部と、この温度検出部からの温度検出電圧の値に応じて変化する増幅率を有する可変増幅部と、この可変増幅部の出力電圧に対応した電流を圧力センサに流す駆動部とを備え、前記可変増幅部の増幅率が前記圧力センサの温度特性に伴う出力の変動を打ち消すように予め設定されている。
【0005】
また、温度特性を補償する別の構成として、例えば、特許文献2に記載のセンサ回路が知られている。特許文献2のセンサ回路は、ゲージ抵抗からなる圧力検出素子を有するセンシング部と、このセンシング部からの出力を増幅するオペアンプとを備えている。特許文献2のセンサ回路は、予め調べられたオペアンプの室温特性及び高温特性に基づいて、オペアンプの温度特性を打ち消すようにゲージ抵抗の温度特性を制御することにより、オペアンプからの出力、つまり、物理量センサの出力について温度補償を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−281374号公報
【特許文献2】特開2006−112950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の補償回路では、圧力センサの温度特性に伴う出力の変動を打ち消すように可変増幅部の増幅率を予め設定することにより温度特性が補償されているが、このような増幅率の設定条件を広い温度範囲内で満たす可変増幅部を準備するのは困難である。
【0008】
また、特許文献1の補償回路では、可変増幅部の増幅率を設定するために、予め圧力センサの温度特性を調べておく必要があるため、事前の設計が煩雑になるという問題もある。
【0009】
同様に、特許文献2のセンサ回路では、オペアンプの室温特性と高温特性とを予め調べておく必要があるため、事前の設計が煩雑になる。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、事前の煩雑な設計を要することなく広い温度範囲で温度補償可能な物理量センサ及びこれを備えた温度補償装置並びに物理量センサの温度補償方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は、所定の物理量を検出するための物理量センサであって、前記物理量の検出信号を出力する第1センサと、前記第1センサと同一のセンサであって、前記第1センサとは表裏反転した姿勢にあることで、前記第1センサの検出信号と同等の絶対値を有しかつ前記第1センサの検出信号と正負逆符号の信号を出力する第2センサと、前記第1センサ及び前記第2センサを互いに表裏反転した姿勢で支持する支持部材とを備えていることを特徴とする物理量センサを提供する。
【0012】
本発明によれば、表裏反転した姿勢とされることにより同等の絶対値を有しかつ正負逆符号の信号を出力する第1センサ及び第2センサが表裏反転した姿勢で支持されているため、事前の煩雑な設計を要することなく広い温度範囲で温度補償可能な物理センサを得ることができる。その理由は以下の通りである。
【0013】
本発明に係る物理量センサでは、第1センサ及び第2センサが近傍位置に支持されていることにより当該両センサが近い温度環境下に置かれており、さらに、これら両センサは、互いに表裏反転した姿勢で支持部材に支持されていることにより同等の絶対値を有しかつ正負逆符号の信号を出力することになる。ここで、両センサからの出力信号には、検出対象となる物理量の検出値である真値と、環境温度に起因した誤差とがそれぞれ含まれている。各出力信号における真値は、それぞれ正負逆符号の信号であるのに対し、各出力信号における誤差は、それぞれ同符号、つまり一方の出力信号に含まれる誤差が正の符号であれば、他方の出力信号に含まれる誤差も正の符号である。したがって、第1センサ及び第2センサからの各出力信号の合算値を求めることにより、環境温度に起因した誤差を2倍した値を得ることができ、この値に基づき前記誤差を特定することが可能となる。つまり、本発明に係る物理量センサでは、共通の温度特性を有する同一の第1センサ及び第2センサを用いることにより、真値及び誤差の大きさを共通とする2つの検出値に基づいて誤差を特定することができるため、予め両センサの温度特性を調べるといった事前の煩雑な設計が不要となる。さらに、本発明によれば、共通の温度特性を有する第1センサ及び第2センサを用いているため、これら両センサの使用時の温度として許容される全ての温度範囲において前記温度補償を行うことができる。
【0014】
前記物理量センサにおいて、前記支持部材は、板状の部材であり、前記第1センサ及び前記第2センサは、前記支持部材をその板厚方向に挟むように前記支持部材の表面及び裏面にそれぞれ支持されていることが好ましい。
【0015】
この構成によれば、第1センサ及び第2センサが支持部材を板厚方向に挟むように配置されているため、支持部材上に両センサを横並びに配置する場合に比べて物理量センサ全体の必要面積を削減することができる。
【0016】
前記物理量センサにおいて、前記支持部材のうち前記第1センサ及び第2センサに挟まれた部分の少なくとも一部には、前記支持部材をその板厚方向に貫通する貫通孔が形成されていることが好ましい。
【0017】
この構成によれば、貫通孔を通して支持部材の表裏両側にわたる気体の流通が許容されるため、この貫通孔を挟むように配置された第1センサ及び第2センサの温度環境をより近づけることができる。したがって、この構成によれば、第1センサ及び第2センサからの各検出信号にそれぞれ含まれる誤差の値を近づけることができるため、当該各誤差の合算値の平均として算出される各センサについての誤差に相当する値を実際の誤差に近づけることができ、各センサにおける温度補償の精度を向上することが可能となる。
【0018】
前記物理量センサにおいて、前記貫通孔は、前記支持部材のうちの前記第1センサ及び第2センサに挟まれた部分以外の領域まで延びて形成されていることが好ましい。
【0019】
この構成によれば、各センサの間に挟まれた領域とその外側の領域との間の空気の流通が許容されるため、各センサ間の領域と各センサの周囲との温度環境を近づけることができる。
【0020】
また、本発明は、前記物理量センサと、前記物理量センサの第1センサからの第1検出信号と第2センサからの第2検出信号との合算値に基づいて、前記第1検出信号及び第2検出信号にそれぞれ含まれる環境温度に起因した誤差に相当する値である誤差相当値を算出するとともに、前記第1検出信号、第2検出信号の少なくとも一方から前記誤差相当値を除いた値である温度補償値を算出する算出部とを備えていることを特徴とする温度補償装置を提供する。
【0021】
本発明に係る温度補償装置によれば、算出部を備えているため、第1検出信号と第2検出信号との合算値に基づいて誤差相当値を算出することができる。その理由は以下の通りである。両センサからの出力信号には、検出対象となる物理量の検出値である真値と、環境温度に起因した誤差とがそれぞれ含まれている。ここで、第1検出信号に含まれる真値と第2検出信号に含まれる真値とは正負逆符号であるのに対し、第1検出信号に含まれる誤差と第2検出信号に含まれる誤差とはそれぞれ同符号である。したがって、各検出信号を合算することにより環境温度に起因した誤差に相当する値である誤差相当値を2倍した値を得ることができ、この値に基づいて各検出信号に含まれる温度補償値を算出することが可能となる。
【0022】
そして、本発明に係る温度補償装置では、共通の温度特性を有する同一の第1センサ及び第2センサを用いることにより、真値及び誤差の大きさを共通とする2つの検出値に基づいて誤差相当値を特定することができるため、予め両センサの温度特性を調べるといった事前の煩雑な設計が不要となる。さらに、本発明によれば、共通の温度特性を有する第1センサ及び第2センサを用いているため、これら両センサの使用時の温度として許容される全ての温度範囲において前記温度補償を行うことができる。
【0023】
さらに、本発明は、所定の物理量を検出する物理量センサの温度補償を行うための方法であって、同一のセンサであって互いに表裏反転した姿勢とされることで同等の絶対値を有しかつ正負逆符号の信号をそれぞれ出力する第1センサ及び第2センサを、それぞれ表裏逆向きの姿勢で互いに隣接して配置する配置工程と、前記第1センサによる第1検出信号及び前記第2センサによる第2検出信号を取得する取得工程と、前記第1検出信号と前記第2検出信号との合算値に基づいて、第1検出信号及び第2検出信号にそれぞれ含まれる環境温度に起因した誤差に相当する値である誤差相当値を算出する誤差算出工程と、前記第1検出信号、前記第2検出信号の少なくとも一方から前記誤差相当値を除いた値である温度補償値を求める真値算出工程とを含むことを特徴とする物理量センサの温度補償方法を提供する。
【0024】
本発明に係る温度補償方法によれば、適切な温度補償値を行うことができる。その理由は以下の通りである。
【0025】
本発明に係る温度補償方法では、第1センサ及び第2センサを隣接して配置することにより当該両センサを近い温度環境下に置くことができ、さらに、これら両センサを互いに表裏逆向きに配置することにより同等の絶対値を有しかつ正負逆符号の信号が出力される。ここで、両センサからの出力信号には、検出対象となる物理量の検出値である真値と、環境温度に起因した誤差とがそれぞれ含まれている。各出力信号における真値は、それぞれ正負逆符号の信号であるのに対し、各出力信号における誤差は、それぞれ同符号、つまり一方の出力信号に含まれる誤差が正の符号であれば、他方の出力信号に含まれる誤差も正の符号である。したがって、誤差算出工程において第1センサ及び第2センサからの各出力信号の合算値を算出するとともにこの合算値の平均を求めることにより、各検出信号にそれぞれ含まれる環境温度に起因した誤差に相当する誤差相当値を算出することができ、真値算出工程において検出信号から誤差相当値を除いた温度補償値を求めることができる。つまり、本発明に係る温度補償方法では、共通の温度特性を有する同一の第1センサ及び第2センサを用いることにより、真値及び誤差の大きさを共通とする2つの検出値に基づいて誤差相当値を特定することができるため、予め両センサの温度特性を調べるといった事前の煩雑な設計が不要となる。さらに、本発明によれば、共通の温度特性を有する第1センサ及び第2センサを用いているため、これら両センサの使用時の温度として許容される全ての温度範囲において前記温度補償を行うことができる。
【0026】
前記温度補償方法において、前記配置工程では、板状の支持部材をその板厚方向に挟むように当該支持部材の表裏両面上にそれぞれ前記第1センサ及び第2センサを配置することが好ましい。
【0027】
この方法によれば、大きな面積を要することなく両センサを表裏逆向きの姿勢で互いに隣接して配置することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、事前の煩雑な設計を要することなく広い温度範囲で温度補償可能な物理量センサ及びこれを備えた温度補償装置並びに物理量センサの温度補償方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態に係る温度補償装置の全体構成を示す側面図である。
【図2】図1の温度補償装置の平面図である。
【図3】図1の加速度センサの検出原理を説明するための概略断面図である。
【図4】各加速度センサによる検出信号の一例を示すグラフである。
【図5】両加速度センサの温度特性を示すグラフである。
【図6】両加速度センサによる検出信号と、これらの検出信号から誤差を除いた真値とを示すグラフである。
【図7】検出値と温度補償値との関係を示すグラフである。
【図8】基板に形成される貫通孔の変形例を示す平面図である。
【図9】基板に形成される貫通孔の変形例を示す平面図である。
【図10】基板に形成される貫通孔の変形例を示す平面図である。
【図11】本発明の別の実施形態に係る温度補償装置の平面図である。
【図12】図11のXII−XII線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して説明する。
【0031】
図1は、本発明の実施形態に係る温度補償装置の全体構成を示す側面図である。図2は、図1の温度補償装置の平面図である。
【0032】
図1及び図2を参照して、温度補償装置1は、基板2と、この基板2の表面に実装された第1加速度センサ3と、前記基板2の裏面に実装された第2加速度センサ4と、両加速度センサ3、4から出力された検出信号に基づいて演算を行う演算部5とを備えている。
【0033】
基板2は、表面及び裏面に所定の回路パターン(図示せず)がそれぞれ形成されたプリント基板であり、第1加速度センサ3及び第2加速度センサ4の支持部材を兼ねる。この基板2には、当該基板2を板厚方向に貫通して表裏両側を互いに連通する貫通孔が形成されている。具体的に、前記貫通孔は、平面視円形の円形貫通部2aと、この円形貫通部2aから放心方向に延びる4つの直線貫通部2bとを有する。各直線貫通部2bは、円形貫通部2aの中心軸回りの90°毎に設けられている。
【0034】
第1加速度センサ3及び第2加速度センサ4は、これらセンサ3、4を支持する基板2が取り付けられる被検体の加速度を検出するものである。これら第1加速度センサ3及び第2加速度センサ4は、前記基板2をその板厚方向に挟むように、互いに表裏反転した姿勢で基板2の表裏両面にそれぞれ実装されている。
【0035】
具体的に、第1加速度センサ3は、加速度を検出するためのセンサ本体3bと、このセンサ本体3bに電力を供給するとともにセンサ本体3bからの電気信号を基板2に出力するための複数(本実施形態では16本)のリード部3aとを備えている。センサ本体3bは、表裏の面が正方形とされた直方体の形状を有する。各リード部3aは、前記センサ本体3bの4つの側面に対しそれぞれ4本ずつ設けられている。なお、センサ本体3bは、表裏の面が正方形とされた直方体のものに限定されることはなく、表裏の面が長方形とされた直方体を含む他の立体的形状のものでもよい。
【0036】
第2加速度センサ4は、前記第1加速度センサ3と同一のセンサである。具体的に、第2加速度センサ4は、加速度を検出するためのセンサ本体4bと、このセンサ本体4bに電力を供給するとともにセンサ本体4bからの電気信号を基板2に出力するための複数(本実施形態では12本)のリード部4aとを備えている。この第2加速度センサ4の構成は、基板2に対して表裏の姿勢を反転させている点を除き、前記第1加速度センサ3と同様である。
【0037】
ここで、基板2に対する両加速度センサ3、4の取付位置について説明する。両加速度センサ3、4は、センサ本体3b、4bの間で前記円形貫通部2aを挟み、かつ、センサ本体3b、4bの4つの角が前記各直線貫通部2bの上に位置するように基板2の表面及び裏面に取り付けられている。ここで、各直線貫通部2bは、各センサ本体3b、4bにより挟まれた領域の外側まで延びて形成されている。つまり、各直線貫通部2bは、それぞれの先端部がセンサ本体3bの4つの角よりも外側に位置することができる長さを有する。このように、センサ本体3b、4b間に挟まれた領域に円形貫通部2aが形成されていることにより、当該円形貫通部2aを通して基板2の表裏にわたり空気が移動することができるため、各加速度センサ3、4の環境温度を近づけることができる。しかも、本実施形態では、各センサ本体3b、4bにより挟まれる領域の外側の領域まで各直線貫通部2bが延びているため、この直線貫通部2bのうちのセンサ本体3b、4bの外側に配置された部分を通して各加速度センサ3、4の周囲と円形貫通部2aとの間の気体の流通が許容される。
【0038】
以下、第1加速度センサ3及び第2加速度センサ4における加速度の検出原理について図3を参照して説明する。
【0039】
第1加速度センサ3及び第2加速度センサ4のセンサ本体3b及び4bは、前記基板2に固定される固定部A1と、この固定部A1内に設けられた可動部A2と、前記固定部A1に対して可動部A2を3軸方向(X軸、Y軸及びZ軸方向)に沿って相対変位可能に支持する支持部A3と、前記固定部A1に対する可動部A2の変位量を検出する図外の検出部とをそれぞれ備えている。前記検出部は、例えば、固定部A1に設けられた電極と可動部A2に設けられた電極との相対変位による静電容量の変化を検出することにより、又は、支持部A3の歪み量を検出することにより、固定部A1に対する可動部A2に対する変位量を検出する。そして、両加速度センサ3、4では、例えば、固定部A1の上面側へ向けた可動部A2の変位をZ軸方向の「正」、固定部A1の下面側へ向けた可動部A2の変位をZ軸方向の「負」として検出信号を出力するように構成されているため、固定部A1の上下の向きを反転させることにより、加速度センサ3、4による検出信号の正負の符号が逆転することになる。具体的に、各加速度センサ3、4による検出信号は、例えば図4に示すようになる。
【0040】
図4は、各加速度センサ3、4による検出信号の一例を示すグラフである。図4では、可動部A2の変位方向のX−Y平面と前記基板2の表裏面とが平行となるように両加速度センサ3、4が実装された基板2を、一定の温度条件下でX軸又はY軸回りに回転させたときにおけるZ軸方向の検出信号が示されている。図4に示すように、加速度センサ3の検出信号L1と、この加速度センサ3とは表裏逆向きに配置された加速度センサ4の検出信号L2とは、正負逆符号の信号となる。
【0041】
図5は、両加速度センサ3、4の温度特性を示すグラフである。なお、図5の横軸は温度を示し、図5の縦軸は出力誤差(任意単位)を示す。図5に示すように、両加速度センサ3、4は、環境温度が25℃のときに誤差が0(つまり、真値)となり、25℃からの温度変化に比例して出力誤差が増減する温度特性を持つ。図5に示す例では、環境温度が1℃増加することにより誤差の値が1増加する。
【0042】
図6は、両加速度センサ3、4による検出信号と、これらの検出信号から誤差を除いた真値とを示すグラフである。図6の横軸は時間であり、図6の縦軸は両加速度センサ3、4の出力である。また、図6は、図4に示すグラフと同様の条件で基板2を回転させるとともに、25℃から所定の割合(例えば、毎秒0.01℃)で温度を上昇させた場合における両加速度センサ3、4の検出信号L11、L21を示す。なお、図6のL12、L22は、両加速度センサ3、4により得られるべき真の値(以下、真値と称す)、つまり、25℃の温度条件下で検出された検出信号を示している。図6から分かるように、環境温度が上昇すること(時間が経過すること)に応じて加速度センサ3の検出信号L11と真値L12との誤差が大きくなり、同様に、加速度センサ4の検出信号L21と真値L22との誤差も大きくなる。また、温度上昇に伴う誤差は、正符号の信号L11及び負符号の信号L21の何れに対しても正側にシフトさせる方向に働くことが分かる。つまり、各角速度センサ3、4の検出信号L11、L21に含まれる真値L12、L22はそれぞれ正負逆符号の信号であるのに対し、誤差はそれぞれ同符号の信号である。
【0043】
このような温度特性を利用して、前記演算部5(図1参照)は、前記両加速度センサ3、4からそれぞれ出力された検出信号L11、L21に基づいて、当該検出信号L11、L21に含まれる環境温度に起因した誤差を除いた値である真値L12、L22に相当する温度補償値を算出する。具体的に、演算部5は、以下の式(1)〜(3)を基礎として演算を進める。
【0044】
S11=S12+err ・・・(1)
S21=S22+err ・・・(2)
S12=−S22 ・・・(3)
なお、式(1)において、S11は加速度センサ3の検出値であり、S12は検出値S11に含まれる真値に相当する値である温度補償値である。式(2)において、S21は加速度センサ4の検出信号であり、S22は検出値S21に含まれる真値に相当する値である温度補償値である。式(1)及び(2)において、errは検出値S11、S21に含まれる誤差に相当する誤差相当値である。
【0045】
具体的に、式(1)は、加速度センサ3の検出値S11には温度補償値S12と誤差相当値errが含まれることを意味し、式(2)は、加速度センサ4の検出値S21には温度補償値S22と誤差相当値errが含まれることを意味し、式(3)は、各加速度センサ3、4の温度補償値S12、S22が逆符号の同一の値であることを意味する。
【0046】
そして、式(1)の検出値S11と式(2)の検出値S21とを合算するとともに、これに式(3)を代入することにより、以下の式(4)が得られ、この式(4)から式(5)が得られる。
【0047】
S11+S21=2×err ・・・(4)
err=(S11+S21)÷2 ・・・(5)
そして、演算部5は、前記式(5)に基づいて誤差相当値errを算出するとともに、この誤差相当値errを検出値S11及び検出値S21から減じて温度補償値S12及び温度補償値S22を算出する。
【0048】
図7は、検出値と温度補償値との関係を示すグラフである。具体的に、図7は、図6に示すグラフと同様に基板2を回転させるとともに所定の割合(毎秒0.01℃)で温度を上昇させる条件下において、温度上昇と同様のタイミングで演算部5により算出された温度補償値L13を示す。この温度補償値L13は、図6に示す真値L12と略同等の軌跡を辿っていることが分かる。なお、図7のL3は、前記式(5)で得られた誤差相当値errの値を示しており、温度上昇に伴い増加する。
【0049】
なお、本実施形態では、温度補償値S12、S22の双方を算出しているが、少なくとも一方を算出すればよい。
【0050】
以下、温度補償装置1を用いた温度補償の方法について説明する。
【0051】
まず、基板2をその板厚方向に挟むように当該基板2の表裏両面に支持された各加速度センサ3、4を準備することにより、各加速度センサ3、4をそれぞれ表裏逆向きの姿勢で互いに隣接して配置する(配置工程)。
【0052】
次いで、各加速度センサ3、4から出力された検出値S11、S21を演算部5において取得する(取得工程)。
【0053】
演算部5においては、各検出値S11、S21を前記式(5)に代入することにより誤差相当値errを算出するとともに(誤差算出工程)、この誤差相当値errを検出値S11、S21から減ずることにより、温度補償値S12、S12を算出する(真値算出工程)。
【0054】
以上説明したように、前記実施形態によれば、表裏反転した姿勢とされることにより同等の絶対値を有しかつ正負逆符号の信号を出力する加速度センサ3、4が表裏反転した姿勢で基板2に支持されているため、事前の設計を要することなく広い温度範囲で温度補償可能な温度補償装置1を得ることができる。その理由は以下の通りである。
【0055】
前記実施形態に係る温度補償装置1では、各加速度センサ3、4が基板2を挟んで互いに近傍となる位置に支持されていることにより当該両加速度センサ3、4が近い温度環境下に置かれており、さらに、これら両加速度センサ3、4は、互いに表裏反転した姿勢で支持されていることにより同等の絶対値を有しかつ正負逆符号の信号を出力することになる。ここで、両加速度センサ3、4からの検出値S11、S21には、真値(図6のL12)と、誤差とがそれぞれ含まれている。各出力値S11、S21における真値は、それぞれ正負逆符号の信号であるのに対し、各出力値S11、S21における誤差は、それぞれ同符号である。したがって、各出力値S11、S21の合算値を求めることにより、環境温度に起因した誤差に相当する誤差相当値errを2倍にした値を得ることができ、この値に基づき誤差相当値errを特定することが可能となる。つまり、前記実施形態に係る温度補償装置1では、共通の温度特性を有する同一の加速度センサ3、4を用いることにより、真値及び誤差の大きさを共通とする2つの検出値S11、S21に基づいて誤差相当値errを特定することができるため、予め両加速度センサ3、4の温度特性を調べるといった事前の煩雑な設計が不要となる。さらに、前記温度補償装置1によれば、共通の温度特性を有する各加速度センサ3、4を用いているため、これら両加速度センサ3、4の使用時の温度として許容される全ての温度範囲において温度補償を行うことができる。
【0056】
前記実施形態のように、両加速度センサ3、4が基板2をその板厚方向に挟むように基板2の表面及び裏面にそれぞれ支持されている構成によれば、基板2上に両加速度センサ3、4を横並びに配置する場合に比べて装置全体の必要面積を削減することができる。
【0057】
前記実施形態のように、基板2のうち両加速度センサ3、4に挟まれた部分に円形貫通部2a及び直線貫通部2bが設けられた構成によれば、これら貫通部2a、2bを通して基板2の表裏両側にわたる気体の流通が許容されるため、これら貫通部2a、2bを挟むように配置された両加速度センサ3、4の温度環境をより近づけることができる。したがって、前記実施形態によれば、両加速度センサ3、4からの検出値S11、S21にそれぞれ含まれる誤差の値を近づけることができるため、当該各誤差の合算値の平均として算出される各加速度センサ3、4について誤差相当値errを実際の誤差に近づけることができ、各加速度センサ3、4における温度補償の精度を向上することができる。
【0058】
前記実施形態に係る直線貫通部2bは、基板2のうちの両加速度センサ3、4に挟まれた部分以外の領域まで延びているので、各加速度センサ3、4間に挟まれた領域とその外側の領域との間の空気の流通を許容し、これにより、各加速度センサ3、4間の領域と各加速度センサ3、4の周囲との温度環境を近づけることができる。
【0059】
なお、前記実施形態では、図2に示すように基板2に円形貫通部2a及び直線貫通部2bが形成されているが、基板2に形成される貫通孔は、これに限定されない。図8〜図10は、基板2に形成される貫通孔の変形例を示すものである。
【0060】
図2に示す貫通孔は、1つの円形貫通部2aから4本の直線貫通部2bが延びる形状を有しているが、図8に示す貫通孔では、4本の直線貫通部2bがそれぞれ4つの円形貫通部2cに終端し、各円形貫通部2cは、それぞれ各センサ本体3b、4bの間に挟まれる領域に形成されている。一方、各直線貫通部2bは、図2に示すものと同様に、各センサ本体3b、4b間で挟まれる領域から外側に延びている。したがって、図8に示す貫通孔によっても、各円形貫通部2cを通して基板2の表裏にわたる気体の流通が許容されるとともに、各直線貫通部2bを通して各加速度センサ本体3、4の周囲と各円形貫通部2cとの間の気体の流通が許容される。しかも、図8に示す各円形貫通部2cは、図2に示す円形貫通部2aよりも小さい開口面積を有するから、基板2の強度を高く保持しつつ前記気体の流通を確保することができる。
【0061】
また、図9に示すように、センサ本体3b、4bの隣り合う各リード部3a間の隙間に沿って互いに平行に延びる複数の直線貫通部2dを基板2に形成することもできる。各直線貫通部2dの中間部は、各センサ本体3b、4b間で挟まれる領域内に配置されている一方、各直線貫通部2dの両端部は、各センサ本体3b、4b間で挟まれる領域の外側に配置されている。このように複数の直線貫通部2dが所定方向に平行して延びているため、基板2に荷重が与えられることが想定される場合に、当該荷重の方向と各直線貫通部2dの延びる方向とを合致させることにより、基板2の強度不足を回避することができる。具体的に、荷重の方向と各直線貫通部2dの延びる方向とを合致させることにより、これらの方向を合致させない場合と比較して当該荷重の方向と直交する方向における貫通孔の領域を狭くすることができるため、基板2の強度不足を回避することができる。
【0062】
図10に示す直線貫通部2eでは、その一端部がセンサ本体3b、4bの外側に配置されるとともにその他端部がセンサ本体3b、4bの間に配置されている。また、基板2のうち各センサ本体3b、4bに挟まれた部分には、4つの円形貫通部2fが形成され、これら円形貫通部2fがそれぞれ前記直線貫通部2eの他端部に接続されている。図10に示す貫通孔では、図9に示す貫通孔と比べて、直線貫通部2eの1本当たりの長さを短くすることができるため、強度不足の対策がより容易である。
【0063】
また、前記実施形態では、リード部3aを有する加速度センサ3、4について説明したが、図11及び図12に示すように、球状端子6aを有する加速度センサ6を採用することもできる。
【0064】
具体的に、本実施形態に係る温度補償装置8は、前記基板2と、この基板2をその厚み方向に挟むように当該基板2の表裏両面にそれぞれ実装された一対の加速度センサ6とを備えている。加速度センサ6は、センサ本体6bと、このセンサ本体6bから突出する球状端子6aとを有する、いわゆるBGA(ball grid allay)型の電子部品である。本実施形態において、基板2には、球状端子6aに接触するための複数のパッド2hが設けられている。また、基板2には、各加速度センサ6のセンサ本体6bにより挟まれる位置であって、前記各パッド2hが設けられていない位置で基板2を表裏に貫通する複数の(本実施形態では4つの)円形貫通孔2gが形成されている。これら円形貫通孔2gを通して基板2の表裏にわたる気体の流通が許容されるため、各加速度センサ6の環境温度を近づけることができる。
【0065】
なお、前記各実施形態では、基板2の表裏の両面に、表裏逆向きに加速度センサ3、4、6をそれぞれ設ける構成について説明したが、基板2の表裏一方の面に対して表裏逆向きに加速度センサ3、4、6を互いに隣接して配置することもできる。この構成においても、隣接した加速度センサ3、4、6同士の環境温度が同等となるため、前記各実施形態で説明した方法によって各加速度センサ3、4、6の温度補償を行うことができる。
【0066】
また、前記各実施形態では、表裏反転した姿勢とされることにより、同等の絶対値を有しかつ正負逆符号の信号をそれぞれ出力するセンサとして、加速度センサ3、4、6を例示しているが、被検体の角速度を検出するためのジャイロセンサ(ジャイロスコープ)も同様の特性を有するため、上述した温度補償を行うことができる。
【符号の説明】
【0067】
L11、L21 検出信号
L12、L22 真値
L13 温度補償値
S11、S21 検出値
S12、S22 温度補償値
err 誤差相当値
1、8 温度補償装置
2 基板(支持部材)
2a、2c、2f 円形貫通部
2b、2d、2e 直線貫通部
2g 円形貫通孔
3、4、6 加速度センサ(第1センサ、第2センサの一例)
5 演算部
【技術分野】
【0001】
本発明は、物理量センサの温度特性を補償するための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば産業機械や家電製品では、物理量センサによって所定の物理量が検出され、その検出情報に基づいてデータ処理や各種制御が行われている。
【0003】
この種の物理量センサは、温度特性を有する。具体的に、物理量センサは、検出すべき物理量が同一であっても、検出対象物の温度や雰囲気の温度に応じて検出値が変化する特性を持つ。例えば、加速度センサにおいては、検出対象物の加速度が一定であっても気温の影響を受けて当該センサの出力値が変化することがある。また、角速度を検出するジャイロセンサ(ジャイロスコープ)においても同様である。
【0004】
このような温度特性を補償するための構成として、例えば、特許文献1に記載の物理量センサ感度温度補償回路が知られている。特許文献1の補償回路は、温度検出部と、この温度検出部からの温度検出電圧の値に応じて変化する増幅率を有する可変増幅部と、この可変増幅部の出力電圧に対応した電流を圧力センサに流す駆動部とを備え、前記可変増幅部の増幅率が前記圧力センサの温度特性に伴う出力の変動を打ち消すように予め設定されている。
【0005】
また、温度特性を補償する別の構成として、例えば、特許文献2に記載のセンサ回路が知られている。特許文献2のセンサ回路は、ゲージ抵抗からなる圧力検出素子を有するセンシング部と、このセンシング部からの出力を増幅するオペアンプとを備えている。特許文献2のセンサ回路は、予め調べられたオペアンプの室温特性及び高温特性に基づいて、オペアンプの温度特性を打ち消すようにゲージ抵抗の温度特性を制御することにより、オペアンプからの出力、つまり、物理量センサの出力について温度補償を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−281374号公報
【特許文献2】特開2006−112950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の補償回路では、圧力センサの温度特性に伴う出力の変動を打ち消すように可変増幅部の増幅率を予め設定することにより温度特性が補償されているが、このような増幅率の設定条件を広い温度範囲内で満たす可変増幅部を準備するのは困難である。
【0008】
また、特許文献1の補償回路では、可変増幅部の増幅率を設定するために、予め圧力センサの温度特性を調べておく必要があるため、事前の設計が煩雑になるという問題もある。
【0009】
同様に、特許文献2のセンサ回路では、オペアンプの室温特性と高温特性とを予め調べておく必要があるため、事前の設計が煩雑になる。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、事前の煩雑な設計を要することなく広い温度範囲で温度補償可能な物理量センサ及びこれを備えた温度補償装置並びに物理量センサの温度補償方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は、所定の物理量を検出するための物理量センサであって、前記物理量の検出信号を出力する第1センサと、前記第1センサと同一のセンサであって、前記第1センサとは表裏反転した姿勢にあることで、前記第1センサの検出信号と同等の絶対値を有しかつ前記第1センサの検出信号と正負逆符号の信号を出力する第2センサと、前記第1センサ及び前記第2センサを互いに表裏反転した姿勢で支持する支持部材とを備えていることを特徴とする物理量センサを提供する。
【0012】
本発明によれば、表裏反転した姿勢とされることにより同等の絶対値を有しかつ正負逆符号の信号を出力する第1センサ及び第2センサが表裏反転した姿勢で支持されているため、事前の煩雑な設計を要することなく広い温度範囲で温度補償可能な物理センサを得ることができる。その理由は以下の通りである。
【0013】
本発明に係る物理量センサでは、第1センサ及び第2センサが近傍位置に支持されていることにより当該両センサが近い温度環境下に置かれており、さらに、これら両センサは、互いに表裏反転した姿勢で支持部材に支持されていることにより同等の絶対値を有しかつ正負逆符号の信号を出力することになる。ここで、両センサからの出力信号には、検出対象となる物理量の検出値である真値と、環境温度に起因した誤差とがそれぞれ含まれている。各出力信号における真値は、それぞれ正負逆符号の信号であるのに対し、各出力信号における誤差は、それぞれ同符号、つまり一方の出力信号に含まれる誤差が正の符号であれば、他方の出力信号に含まれる誤差も正の符号である。したがって、第1センサ及び第2センサからの各出力信号の合算値を求めることにより、環境温度に起因した誤差を2倍した値を得ることができ、この値に基づき前記誤差を特定することが可能となる。つまり、本発明に係る物理量センサでは、共通の温度特性を有する同一の第1センサ及び第2センサを用いることにより、真値及び誤差の大きさを共通とする2つの検出値に基づいて誤差を特定することができるため、予め両センサの温度特性を調べるといった事前の煩雑な設計が不要となる。さらに、本発明によれば、共通の温度特性を有する第1センサ及び第2センサを用いているため、これら両センサの使用時の温度として許容される全ての温度範囲において前記温度補償を行うことができる。
【0014】
前記物理量センサにおいて、前記支持部材は、板状の部材であり、前記第1センサ及び前記第2センサは、前記支持部材をその板厚方向に挟むように前記支持部材の表面及び裏面にそれぞれ支持されていることが好ましい。
【0015】
この構成によれば、第1センサ及び第2センサが支持部材を板厚方向に挟むように配置されているため、支持部材上に両センサを横並びに配置する場合に比べて物理量センサ全体の必要面積を削減することができる。
【0016】
前記物理量センサにおいて、前記支持部材のうち前記第1センサ及び第2センサに挟まれた部分の少なくとも一部には、前記支持部材をその板厚方向に貫通する貫通孔が形成されていることが好ましい。
【0017】
この構成によれば、貫通孔を通して支持部材の表裏両側にわたる気体の流通が許容されるため、この貫通孔を挟むように配置された第1センサ及び第2センサの温度環境をより近づけることができる。したがって、この構成によれば、第1センサ及び第2センサからの各検出信号にそれぞれ含まれる誤差の値を近づけることができるため、当該各誤差の合算値の平均として算出される各センサについての誤差に相当する値を実際の誤差に近づけることができ、各センサにおける温度補償の精度を向上することが可能となる。
【0018】
前記物理量センサにおいて、前記貫通孔は、前記支持部材のうちの前記第1センサ及び第2センサに挟まれた部分以外の領域まで延びて形成されていることが好ましい。
【0019】
この構成によれば、各センサの間に挟まれた領域とその外側の領域との間の空気の流通が許容されるため、各センサ間の領域と各センサの周囲との温度環境を近づけることができる。
【0020】
また、本発明は、前記物理量センサと、前記物理量センサの第1センサからの第1検出信号と第2センサからの第2検出信号との合算値に基づいて、前記第1検出信号及び第2検出信号にそれぞれ含まれる環境温度に起因した誤差に相当する値である誤差相当値を算出するとともに、前記第1検出信号、第2検出信号の少なくとも一方から前記誤差相当値を除いた値である温度補償値を算出する算出部とを備えていることを特徴とする温度補償装置を提供する。
【0021】
本発明に係る温度補償装置によれば、算出部を備えているため、第1検出信号と第2検出信号との合算値に基づいて誤差相当値を算出することができる。その理由は以下の通りである。両センサからの出力信号には、検出対象となる物理量の検出値である真値と、環境温度に起因した誤差とがそれぞれ含まれている。ここで、第1検出信号に含まれる真値と第2検出信号に含まれる真値とは正負逆符号であるのに対し、第1検出信号に含まれる誤差と第2検出信号に含まれる誤差とはそれぞれ同符号である。したがって、各検出信号を合算することにより環境温度に起因した誤差に相当する値である誤差相当値を2倍した値を得ることができ、この値に基づいて各検出信号に含まれる温度補償値を算出することが可能となる。
【0022】
そして、本発明に係る温度補償装置では、共通の温度特性を有する同一の第1センサ及び第2センサを用いることにより、真値及び誤差の大きさを共通とする2つの検出値に基づいて誤差相当値を特定することができるため、予め両センサの温度特性を調べるといった事前の煩雑な設計が不要となる。さらに、本発明によれば、共通の温度特性を有する第1センサ及び第2センサを用いているため、これら両センサの使用時の温度として許容される全ての温度範囲において前記温度補償を行うことができる。
【0023】
さらに、本発明は、所定の物理量を検出する物理量センサの温度補償を行うための方法であって、同一のセンサであって互いに表裏反転した姿勢とされることで同等の絶対値を有しかつ正負逆符号の信号をそれぞれ出力する第1センサ及び第2センサを、それぞれ表裏逆向きの姿勢で互いに隣接して配置する配置工程と、前記第1センサによる第1検出信号及び前記第2センサによる第2検出信号を取得する取得工程と、前記第1検出信号と前記第2検出信号との合算値に基づいて、第1検出信号及び第2検出信号にそれぞれ含まれる環境温度に起因した誤差に相当する値である誤差相当値を算出する誤差算出工程と、前記第1検出信号、前記第2検出信号の少なくとも一方から前記誤差相当値を除いた値である温度補償値を求める真値算出工程とを含むことを特徴とする物理量センサの温度補償方法を提供する。
【0024】
本発明に係る温度補償方法によれば、適切な温度補償値を行うことができる。その理由は以下の通りである。
【0025】
本発明に係る温度補償方法では、第1センサ及び第2センサを隣接して配置することにより当該両センサを近い温度環境下に置くことができ、さらに、これら両センサを互いに表裏逆向きに配置することにより同等の絶対値を有しかつ正負逆符号の信号が出力される。ここで、両センサからの出力信号には、検出対象となる物理量の検出値である真値と、環境温度に起因した誤差とがそれぞれ含まれている。各出力信号における真値は、それぞれ正負逆符号の信号であるのに対し、各出力信号における誤差は、それぞれ同符号、つまり一方の出力信号に含まれる誤差が正の符号であれば、他方の出力信号に含まれる誤差も正の符号である。したがって、誤差算出工程において第1センサ及び第2センサからの各出力信号の合算値を算出するとともにこの合算値の平均を求めることにより、各検出信号にそれぞれ含まれる環境温度に起因した誤差に相当する誤差相当値を算出することができ、真値算出工程において検出信号から誤差相当値を除いた温度補償値を求めることができる。つまり、本発明に係る温度補償方法では、共通の温度特性を有する同一の第1センサ及び第2センサを用いることにより、真値及び誤差の大きさを共通とする2つの検出値に基づいて誤差相当値を特定することができるため、予め両センサの温度特性を調べるといった事前の煩雑な設計が不要となる。さらに、本発明によれば、共通の温度特性を有する第1センサ及び第2センサを用いているため、これら両センサの使用時の温度として許容される全ての温度範囲において前記温度補償を行うことができる。
【0026】
前記温度補償方法において、前記配置工程では、板状の支持部材をその板厚方向に挟むように当該支持部材の表裏両面上にそれぞれ前記第1センサ及び第2センサを配置することが好ましい。
【0027】
この方法によれば、大きな面積を要することなく両センサを表裏逆向きの姿勢で互いに隣接して配置することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、事前の煩雑な設計を要することなく広い温度範囲で温度補償可能な物理量センサ及びこれを備えた温度補償装置並びに物理量センサの温度補償方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態に係る温度補償装置の全体構成を示す側面図である。
【図2】図1の温度補償装置の平面図である。
【図3】図1の加速度センサの検出原理を説明するための概略断面図である。
【図4】各加速度センサによる検出信号の一例を示すグラフである。
【図5】両加速度センサの温度特性を示すグラフである。
【図6】両加速度センサによる検出信号と、これらの検出信号から誤差を除いた真値とを示すグラフである。
【図7】検出値と温度補償値との関係を示すグラフである。
【図8】基板に形成される貫通孔の変形例を示す平面図である。
【図9】基板に形成される貫通孔の変形例を示す平面図である。
【図10】基板に形成される貫通孔の変形例を示す平面図である。
【図11】本発明の別の実施形態に係る温度補償装置の平面図である。
【図12】図11のXII−XII線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して説明する。
【0031】
図1は、本発明の実施形態に係る温度補償装置の全体構成を示す側面図である。図2は、図1の温度補償装置の平面図である。
【0032】
図1及び図2を参照して、温度補償装置1は、基板2と、この基板2の表面に実装された第1加速度センサ3と、前記基板2の裏面に実装された第2加速度センサ4と、両加速度センサ3、4から出力された検出信号に基づいて演算を行う演算部5とを備えている。
【0033】
基板2は、表面及び裏面に所定の回路パターン(図示せず)がそれぞれ形成されたプリント基板であり、第1加速度センサ3及び第2加速度センサ4の支持部材を兼ねる。この基板2には、当該基板2を板厚方向に貫通して表裏両側を互いに連通する貫通孔が形成されている。具体的に、前記貫通孔は、平面視円形の円形貫通部2aと、この円形貫通部2aから放心方向に延びる4つの直線貫通部2bとを有する。各直線貫通部2bは、円形貫通部2aの中心軸回りの90°毎に設けられている。
【0034】
第1加速度センサ3及び第2加速度センサ4は、これらセンサ3、4を支持する基板2が取り付けられる被検体の加速度を検出するものである。これら第1加速度センサ3及び第2加速度センサ4は、前記基板2をその板厚方向に挟むように、互いに表裏反転した姿勢で基板2の表裏両面にそれぞれ実装されている。
【0035】
具体的に、第1加速度センサ3は、加速度を検出するためのセンサ本体3bと、このセンサ本体3bに電力を供給するとともにセンサ本体3bからの電気信号を基板2に出力するための複数(本実施形態では16本)のリード部3aとを備えている。センサ本体3bは、表裏の面が正方形とされた直方体の形状を有する。各リード部3aは、前記センサ本体3bの4つの側面に対しそれぞれ4本ずつ設けられている。なお、センサ本体3bは、表裏の面が正方形とされた直方体のものに限定されることはなく、表裏の面が長方形とされた直方体を含む他の立体的形状のものでもよい。
【0036】
第2加速度センサ4は、前記第1加速度センサ3と同一のセンサである。具体的に、第2加速度センサ4は、加速度を検出するためのセンサ本体4bと、このセンサ本体4bに電力を供給するとともにセンサ本体4bからの電気信号を基板2に出力するための複数(本実施形態では12本)のリード部4aとを備えている。この第2加速度センサ4の構成は、基板2に対して表裏の姿勢を反転させている点を除き、前記第1加速度センサ3と同様である。
【0037】
ここで、基板2に対する両加速度センサ3、4の取付位置について説明する。両加速度センサ3、4は、センサ本体3b、4bの間で前記円形貫通部2aを挟み、かつ、センサ本体3b、4bの4つの角が前記各直線貫通部2bの上に位置するように基板2の表面及び裏面に取り付けられている。ここで、各直線貫通部2bは、各センサ本体3b、4bにより挟まれた領域の外側まで延びて形成されている。つまり、各直線貫通部2bは、それぞれの先端部がセンサ本体3bの4つの角よりも外側に位置することができる長さを有する。このように、センサ本体3b、4b間に挟まれた領域に円形貫通部2aが形成されていることにより、当該円形貫通部2aを通して基板2の表裏にわたり空気が移動することができるため、各加速度センサ3、4の環境温度を近づけることができる。しかも、本実施形態では、各センサ本体3b、4bにより挟まれる領域の外側の領域まで各直線貫通部2bが延びているため、この直線貫通部2bのうちのセンサ本体3b、4bの外側に配置された部分を通して各加速度センサ3、4の周囲と円形貫通部2aとの間の気体の流通が許容される。
【0038】
以下、第1加速度センサ3及び第2加速度センサ4における加速度の検出原理について図3を参照して説明する。
【0039】
第1加速度センサ3及び第2加速度センサ4のセンサ本体3b及び4bは、前記基板2に固定される固定部A1と、この固定部A1内に設けられた可動部A2と、前記固定部A1に対して可動部A2を3軸方向(X軸、Y軸及びZ軸方向)に沿って相対変位可能に支持する支持部A3と、前記固定部A1に対する可動部A2の変位量を検出する図外の検出部とをそれぞれ備えている。前記検出部は、例えば、固定部A1に設けられた電極と可動部A2に設けられた電極との相対変位による静電容量の変化を検出することにより、又は、支持部A3の歪み量を検出することにより、固定部A1に対する可動部A2に対する変位量を検出する。そして、両加速度センサ3、4では、例えば、固定部A1の上面側へ向けた可動部A2の変位をZ軸方向の「正」、固定部A1の下面側へ向けた可動部A2の変位をZ軸方向の「負」として検出信号を出力するように構成されているため、固定部A1の上下の向きを反転させることにより、加速度センサ3、4による検出信号の正負の符号が逆転することになる。具体的に、各加速度センサ3、4による検出信号は、例えば図4に示すようになる。
【0040】
図4は、各加速度センサ3、4による検出信号の一例を示すグラフである。図4では、可動部A2の変位方向のX−Y平面と前記基板2の表裏面とが平行となるように両加速度センサ3、4が実装された基板2を、一定の温度条件下でX軸又はY軸回りに回転させたときにおけるZ軸方向の検出信号が示されている。図4に示すように、加速度センサ3の検出信号L1と、この加速度センサ3とは表裏逆向きに配置された加速度センサ4の検出信号L2とは、正負逆符号の信号となる。
【0041】
図5は、両加速度センサ3、4の温度特性を示すグラフである。なお、図5の横軸は温度を示し、図5の縦軸は出力誤差(任意単位)を示す。図5に示すように、両加速度センサ3、4は、環境温度が25℃のときに誤差が0(つまり、真値)となり、25℃からの温度変化に比例して出力誤差が増減する温度特性を持つ。図5に示す例では、環境温度が1℃増加することにより誤差の値が1増加する。
【0042】
図6は、両加速度センサ3、4による検出信号と、これらの検出信号から誤差を除いた真値とを示すグラフである。図6の横軸は時間であり、図6の縦軸は両加速度センサ3、4の出力である。また、図6は、図4に示すグラフと同様の条件で基板2を回転させるとともに、25℃から所定の割合(例えば、毎秒0.01℃)で温度を上昇させた場合における両加速度センサ3、4の検出信号L11、L21を示す。なお、図6のL12、L22は、両加速度センサ3、4により得られるべき真の値(以下、真値と称す)、つまり、25℃の温度条件下で検出された検出信号を示している。図6から分かるように、環境温度が上昇すること(時間が経過すること)に応じて加速度センサ3の検出信号L11と真値L12との誤差が大きくなり、同様に、加速度センサ4の検出信号L21と真値L22との誤差も大きくなる。また、温度上昇に伴う誤差は、正符号の信号L11及び負符号の信号L21の何れに対しても正側にシフトさせる方向に働くことが分かる。つまり、各角速度センサ3、4の検出信号L11、L21に含まれる真値L12、L22はそれぞれ正負逆符号の信号であるのに対し、誤差はそれぞれ同符号の信号である。
【0043】
このような温度特性を利用して、前記演算部5(図1参照)は、前記両加速度センサ3、4からそれぞれ出力された検出信号L11、L21に基づいて、当該検出信号L11、L21に含まれる環境温度に起因した誤差を除いた値である真値L12、L22に相当する温度補償値を算出する。具体的に、演算部5は、以下の式(1)〜(3)を基礎として演算を進める。
【0044】
S11=S12+err ・・・(1)
S21=S22+err ・・・(2)
S12=−S22 ・・・(3)
なお、式(1)において、S11は加速度センサ3の検出値であり、S12は検出値S11に含まれる真値に相当する値である温度補償値である。式(2)において、S21は加速度センサ4の検出信号であり、S22は検出値S21に含まれる真値に相当する値である温度補償値である。式(1)及び(2)において、errは検出値S11、S21に含まれる誤差に相当する誤差相当値である。
【0045】
具体的に、式(1)は、加速度センサ3の検出値S11には温度補償値S12と誤差相当値errが含まれることを意味し、式(2)は、加速度センサ4の検出値S21には温度補償値S22と誤差相当値errが含まれることを意味し、式(3)は、各加速度センサ3、4の温度補償値S12、S22が逆符号の同一の値であることを意味する。
【0046】
そして、式(1)の検出値S11と式(2)の検出値S21とを合算するとともに、これに式(3)を代入することにより、以下の式(4)が得られ、この式(4)から式(5)が得られる。
【0047】
S11+S21=2×err ・・・(4)
err=(S11+S21)÷2 ・・・(5)
そして、演算部5は、前記式(5)に基づいて誤差相当値errを算出するとともに、この誤差相当値errを検出値S11及び検出値S21から減じて温度補償値S12及び温度補償値S22を算出する。
【0048】
図7は、検出値と温度補償値との関係を示すグラフである。具体的に、図7は、図6に示すグラフと同様に基板2を回転させるとともに所定の割合(毎秒0.01℃)で温度を上昇させる条件下において、温度上昇と同様のタイミングで演算部5により算出された温度補償値L13を示す。この温度補償値L13は、図6に示す真値L12と略同等の軌跡を辿っていることが分かる。なお、図7のL3は、前記式(5)で得られた誤差相当値errの値を示しており、温度上昇に伴い増加する。
【0049】
なお、本実施形態では、温度補償値S12、S22の双方を算出しているが、少なくとも一方を算出すればよい。
【0050】
以下、温度補償装置1を用いた温度補償の方法について説明する。
【0051】
まず、基板2をその板厚方向に挟むように当該基板2の表裏両面に支持された各加速度センサ3、4を準備することにより、各加速度センサ3、4をそれぞれ表裏逆向きの姿勢で互いに隣接して配置する(配置工程)。
【0052】
次いで、各加速度センサ3、4から出力された検出値S11、S21を演算部5において取得する(取得工程)。
【0053】
演算部5においては、各検出値S11、S21を前記式(5)に代入することにより誤差相当値errを算出するとともに(誤差算出工程)、この誤差相当値errを検出値S11、S21から減ずることにより、温度補償値S12、S12を算出する(真値算出工程)。
【0054】
以上説明したように、前記実施形態によれば、表裏反転した姿勢とされることにより同等の絶対値を有しかつ正負逆符号の信号を出力する加速度センサ3、4が表裏反転した姿勢で基板2に支持されているため、事前の設計を要することなく広い温度範囲で温度補償可能な温度補償装置1を得ることができる。その理由は以下の通りである。
【0055】
前記実施形態に係る温度補償装置1では、各加速度センサ3、4が基板2を挟んで互いに近傍となる位置に支持されていることにより当該両加速度センサ3、4が近い温度環境下に置かれており、さらに、これら両加速度センサ3、4は、互いに表裏反転した姿勢で支持されていることにより同等の絶対値を有しかつ正負逆符号の信号を出力することになる。ここで、両加速度センサ3、4からの検出値S11、S21には、真値(図6のL12)と、誤差とがそれぞれ含まれている。各出力値S11、S21における真値は、それぞれ正負逆符号の信号であるのに対し、各出力値S11、S21における誤差は、それぞれ同符号である。したがって、各出力値S11、S21の合算値を求めることにより、環境温度に起因した誤差に相当する誤差相当値errを2倍にした値を得ることができ、この値に基づき誤差相当値errを特定することが可能となる。つまり、前記実施形態に係る温度補償装置1では、共通の温度特性を有する同一の加速度センサ3、4を用いることにより、真値及び誤差の大きさを共通とする2つの検出値S11、S21に基づいて誤差相当値errを特定することができるため、予め両加速度センサ3、4の温度特性を調べるといった事前の煩雑な設計が不要となる。さらに、前記温度補償装置1によれば、共通の温度特性を有する各加速度センサ3、4を用いているため、これら両加速度センサ3、4の使用時の温度として許容される全ての温度範囲において温度補償を行うことができる。
【0056】
前記実施形態のように、両加速度センサ3、4が基板2をその板厚方向に挟むように基板2の表面及び裏面にそれぞれ支持されている構成によれば、基板2上に両加速度センサ3、4を横並びに配置する場合に比べて装置全体の必要面積を削減することができる。
【0057】
前記実施形態のように、基板2のうち両加速度センサ3、4に挟まれた部分に円形貫通部2a及び直線貫通部2bが設けられた構成によれば、これら貫通部2a、2bを通して基板2の表裏両側にわたる気体の流通が許容されるため、これら貫通部2a、2bを挟むように配置された両加速度センサ3、4の温度環境をより近づけることができる。したがって、前記実施形態によれば、両加速度センサ3、4からの検出値S11、S21にそれぞれ含まれる誤差の値を近づけることができるため、当該各誤差の合算値の平均として算出される各加速度センサ3、4について誤差相当値errを実際の誤差に近づけることができ、各加速度センサ3、4における温度補償の精度を向上することができる。
【0058】
前記実施形態に係る直線貫通部2bは、基板2のうちの両加速度センサ3、4に挟まれた部分以外の領域まで延びているので、各加速度センサ3、4間に挟まれた領域とその外側の領域との間の空気の流通を許容し、これにより、各加速度センサ3、4間の領域と各加速度センサ3、4の周囲との温度環境を近づけることができる。
【0059】
なお、前記実施形態では、図2に示すように基板2に円形貫通部2a及び直線貫通部2bが形成されているが、基板2に形成される貫通孔は、これに限定されない。図8〜図10は、基板2に形成される貫通孔の変形例を示すものである。
【0060】
図2に示す貫通孔は、1つの円形貫通部2aから4本の直線貫通部2bが延びる形状を有しているが、図8に示す貫通孔では、4本の直線貫通部2bがそれぞれ4つの円形貫通部2cに終端し、各円形貫通部2cは、それぞれ各センサ本体3b、4bの間に挟まれる領域に形成されている。一方、各直線貫通部2bは、図2に示すものと同様に、各センサ本体3b、4b間で挟まれる領域から外側に延びている。したがって、図8に示す貫通孔によっても、各円形貫通部2cを通して基板2の表裏にわたる気体の流通が許容されるとともに、各直線貫通部2bを通して各加速度センサ本体3、4の周囲と各円形貫通部2cとの間の気体の流通が許容される。しかも、図8に示す各円形貫通部2cは、図2に示す円形貫通部2aよりも小さい開口面積を有するから、基板2の強度を高く保持しつつ前記気体の流通を確保することができる。
【0061】
また、図9に示すように、センサ本体3b、4bの隣り合う各リード部3a間の隙間に沿って互いに平行に延びる複数の直線貫通部2dを基板2に形成することもできる。各直線貫通部2dの中間部は、各センサ本体3b、4b間で挟まれる領域内に配置されている一方、各直線貫通部2dの両端部は、各センサ本体3b、4b間で挟まれる領域の外側に配置されている。このように複数の直線貫通部2dが所定方向に平行して延びているため、基板2に荷重が与えられることが想定される場合に、当該荷重の方向と各直線貫通部2dの延びる方向とを合致させることにより、基板2の強度不足を回避することができる。具体的に、荷重の方向と各直線貫通部2dの延びる方向とを合致させることにより、これらの方向を合致させない場合と比較して当該荷重の方向と直交する方向における貫通孔の領域を狭くすることができるため、基板2の強度不足を回避することができる。
【0062】
図10に示す直線貫通部2eでは、その一端部がセンサ本体3b、4bの外側に配置されるとともにその他端部がセンサ本体3b、4bの間に配置されている。また、基板2のうち各センサ本体3b、4bに挟まれた部分には、4つの円形貫通部2fが形成され、これら円形貫通部2fがそれぞれ前記直線貫通部2eの他端部に接続されている。図10に示す貫通孔では、図9に示す貫通孔と比べて、直線貫通部2eの1本当たりの長さを短くすることができるため、強度不足の対策がより容易である。
【0063】
また、前記実施形態では、リード部3aを有する加速度センサ3、4について説明したが、図11及び図12に示すように、球状端子6aを有する加速度センサ6を採用することもできる。
【0064】
具体的に、本実施形態に係る温度補償装置8は、前記基板2と、この基板2をその厚み方向に挟むように当該基板2の表裏両面にそれぞれ実装された一対の加速度センサ6とを備えている。加速度センサ6は、センサ本体6bと、このセンサ本体6bから突出する球状端子6aとを有する、いわゆるBGA(ball grid allay)型の電子部品である。本実施形態において、基板2には、球状端子6aに接触するための複数のパッド2hが設けられている。また、基板2には、各加速度センサ6のセンサ本体6bにより挟まれる位置であって、前記各パッド2hが設けられていない位置で基板2を表裏に貫通する複数の(本実施形態では4つの)円形貫通孔2gが形成されている。これら円形貫通孔2gを通して基板2の表裏にわたる気体の流通が許容されるため、各加速度センサ6の環境温度を近づけることができる。
【0065】
なお、前記各実施形態では、基板2の表裏の両面に、表裏逆向きに加速度センサ3、4、6をそれぞれ設ける構成について説明したが、基板2の表裏一方の面に対して表裏逆向きに加速度センサ3、4、6を互いに隣接して配置することもできる。この構成においても、隣接した加速度センサ3、4、6同士の環境温度が同等となるため、前記各実施形態で説明した方法によって各加速度センサ3、4、6の温度補償を行うことができる。
【0066】
また、前記各実施形態では、表裏反転した姿勢とされることにより、同等の絶対値を有しかつ正負逆符号の信号をそれぞれ出力するセンサとして、加速度センサ3、4、6を例示しているが、被検体の角速度を検出するためのジャイロセンサ(ジャイロスコープ)も同様の特性を有するため、上述した温度補償を行うことができる。
【符号の説明】
【0067】
L11、L21 検出信号
L12、L22 真値
L13 温度補償値
S11、S21 検出値
S12、S22 温度補償値
err 誤差相当値
1、8 温度補償装置
2 基板(支持部材)
2a、2c、2f 円形貫通部
2b、2d、2e 直線貫通部
2g 円形貫通孔
3、4、6 加速度センサ(第1センサ、第2センサの一例)
5 演算部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の物理量を検出するための物理量センサであって、
前記物理量の検出信号を出力する第1センサと、
前記第1センサと同一のセンサであって、前記第1センサとは表裏反転した姿勢にあることで、前記第1センサの検出信号と同等の絶対値を有しかつ前記第1センサの検出信号と正負逆符号の信号を出力する第2センサと、
前記第1センサ及び前記第2センサを互いに表裏反転した姿勢で支持する支持部材とを備えていることを特徴とする物理量センサ。
【請求項2】
前記支持部材は、板状の部材であり、
前記第1センサ及び前記第2センサは、前記支持部材をその板厚方向に挟むように前記支持部材の表面及び裏面にそれぞれ支持されていることを特徴とする請求項1に記載の物理量センサ。
【請求項3】
前記支持部材のうち前記第1センサ及び第2センサに挟まれた部分の少なくとも一部には、前記支持部材をその板厚方向に貫通する貫通孔が形成されていることを特徴とする請求項2に記載の物理量センサ。
【請求項4】
前記貫通孔は、前記支持部材のうちの前記第1センサ及び第2センサに挟まれた部分以外の領域まで延びて形成されていることを特徴とする請求項3に記載の物理量センサ。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の物理量センサと、
前記物理量センサの第1センサからの第1検出信号と第2センサからの第2検出信号との合算値に基づいて、前記第1検出信号及び第2検出信号にそれぞれ含まれる環境温度に起因した誤差に相当する値である誤差相当値を算出するとともに、前記第1検出信号、第2検出信号の少なくとも一方から前記誤差相当値を除いた値である温度補償値を算出する算出部とを備えていることを特徴とする温度補償装置。
【請求項6】
所定の物理量を検出する物理量センサの温度補償を行うための方法であって、
同一のセンサであって互いに表裏反転した姿勢とされるで同等の絶対値を有しかつ正負逆符号の信号をそれぞれ出力する第1センサ及び第2センサを、それぞれ表裏逆向きの姿勢で互いに隣接して配置する配置工程と、
前記第1センサによる第1検出信号及び前記第2センサによる第2検出信号を取得する取得工程と、
前記第1検出信号と前記第2検出信号との合算値に基づいて、第1検出信号及び第2検出信号にそれぞれ含まれる環境温度に起因した誤差に相当する値である誤差相当値を算出する誤差算出工程と、
前記第1検出信号、前記第2検出信号の少なくとも一方から前記誤差相当値を除いた値である温度補償値を求める真値算出工程とを含むことを特徴とする物理量センサの温度補償方法。
【請求項7】
前記配置工程では、板状の支持部材をその板厚方向に挟むように当該支持部材の表裏両面上にそれぞれ前記第1センサ及び第2センサを配置することを特徴とする請求項6に記載の物理量センサの温度補償方法。
【請求項1】
所定の物理量を検出するための物理量センサであって、
前記物理量の検出信号を出力する第1センサと、
前記第1センサと同一のセンサであって、前記第1センサとは表裏反転した姿勢にあることで、前記第1センサの検出信号と同等の絶対値を有しかつ前記第1センサの検出信号と正負逆符号の信号を出力する第2センサと、
前記第1センサ及び前記第2センサを互いに表裏反転した姿勢で支持する支持部材とを備えていることを特徴とする物理量センサ。
【請求項2】
前記支持部材は、板状の部材であり、
前記第1センサ及び前記第2センサは、前記支持部材をその板厚方向に挟むように前記支持部材の表面及び裏面にそれぞれ支持されていることを特徴とする請求項1に記載の物理量センサ。
【請求項3】
前記支持部材のうち前記第1センサ及び第2センサに挟まれた部分の少なくとも一部には、前記支持部材をその板厚方向に貫通する貫通孔が形成されていることを特徴とする請求項2に記載の物理量センサ。
【請求項4】
前記貫通孔は、前記支持部材のうちの前記第1センサ及び第2センサに挟まれた部分以外の領域まで延びて形成されていることを特徴とする請求項3に記載の物理量センサ。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の物理量センサと、
前記物理量センサの第1センサからの第1検出信号と第2センサからの第2検出信号との合算値に基づいて、前記第1検出信号及び第2検出信号にそれぞれ含まれる環境温度に起因した誤差に相当する値である誤差相当値を算出するとともに、前記第1検出信号、第2検出信号の少なくとも一方から前記誤差相当値を除いた値である温度補償値を算出する算出部とを備えていることを特徴とする温度補償装置。
【請求項6】
所定の物理量を検出する物理量センサの温度補償を行うための方法であって、
同一のセンサであって互いに表裏反転した姿勢とされるで同等の絶対値を有しかつ正負逆符号の信号をそれぞれ出力する第1センサ及び第2センサを、それぞれ表裏逆向きの姿勢で互いに隣接して配置する配置工程と、
前記第1センサによる第1検出信号及び前記第2センサによる第2検出信号を取得する取得工程と、
前記第1検出信号と前記第2検出信号との合算値に基づいて、第1検出信号及び第2検出信号にそれぞれ含まれる環境温度に起因した誤差に相当する値である誤差相当値を算出する誤差算出工程と、
前記第1検出信号、前記第2検出信号の少なくとも一方から前記誤差相当値を除いた値である温度補償値を求める真値算出工程とを含むことを特徴とする物理量センサの温度補償方法。
【請求項7】
前記配置工程では、板状の支持部材をその板厚方向に挟むように当該支持部材の表裏両面上にそれぞれ前記第1センサ及び第2センサを配置することを特徴とする請求項6に記載の物理量センサの温度補償方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−8000(P2012−8000A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−144117(P2010−144117)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
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