説明

物理量検出装置

【課題】広いダイナミックレンジと高い検出精度とを両立させ、さらにユーザが所望する測定範囲において精度よく物理量を検出できる物理量検出装置を提供する。
【解決手段】物理量を測定する測定手段6と、測定手段で測定された物理量に応じた変換係数を使って、前記測定された物理量を一次信号7に変換する変換手段と、変換係数を参照して変換した一次信号に基づき前記物理量復元する復元手段とを具える物理量検出装置を提供する。他の物理量に変換する際の変換係数を、該物理量に応じて変化させることによって、例えば1本の信号伝達線であっても、広範囲の物理量の中で要求される範囲を精度良く測定することが可能となる。即ち、ユーザが所望する範囲において変換係数を高くするなどして当該範囲の分解能を高くすることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は物理量検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、物理量の測定装置として、例えば電圧値を検出して、検出した電圧値をディジタル信号に変換して出力する電圧検出回路等の、検出したアナログ値をデューティー信号、位相信号、周波数信号などのディジタル値として出力する検出回路が知られている。このような従来の検出回路には、例えば、特開2003−244801号公報(特許文献1を参照されたい。)に記載されているようなハイブリッド車両の電源電圧を検出するセンサがある。
【特許文献1】特開2003−244801号公報(段落0013-0015、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述したような従来の検出回路では、例えばハイブリッド車の駆動モータ制御用インバータ装置のように、モータ駆動用電源の電源電圧を検知して、制御や保護に利用するシステムにおいて、検出対象となる電源電圧が非常に広い範囲に及ぶために、全ての範囲を精度高く測定するのが困難であった。即ち、測定範囲の物理量として広範囲の連続量をそれぞれ個別のディジタル値に対応させるという構成になっていたため、広いダイナミックレンジと高い検出精度を両立することが困難であった。特に、検出装置の現実的な使用に際しては、用途によって、ユーザが所望する精度よく測定したい範囲が幾つかの範囲に限定される場合などが多いが、従来技術ではセンサが取得可能な全ての測定範囲において高い測定精度を目標とするため、ユーザが所望する測定範囲においても他の測定範囲と同じように平均的な測定精度しか得られないという問題があった。
従って、本発明は、広いダイナミックレンジと高い検出精度とを両立させ、さらにユーザが所望する測定範囲において精度よく物理量を検出できる物理量検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上述した諸課題を解決すべく、第1の発明による物理量検出装置は、
物理量を測定する測定手段(回路)と、
演算手段(マイコン、DSP、CPU、MPUなど)を用いて前記測定手段で測定された物理量に応じた変換係数を使って、前記測定された物理量を一次信号に変換する変換手段(回路)と、
前記変換係数を参照して前記演算手段を用いて前記変換した一次信号に基づき前記物理量(即ち、最終的な測定値として利用する二次信号に変換する)を復元する復元手段(回路)と、
を具える。
【0005】
また、第2の発明による物理量検出装置は、
前記変換手段が、
前記測定された物理量の範囲を複数に分割し、この分割された物理量の範囲が切り替わるときに非連続値を取るように(例えば、1つの物理量範囲で一次信号のダイナミックレンジを全て使い切り、次の範囲ではまたダイナミックレンジの最下位の数値から使い始め、最上位の数値まで使うという形式で一次信号に変換する)、前記測定された物理量を前記一次信号に変換する、
前記復元手段が、
前記一次信号の変化に基づき前記測定された物理量の範囲の切り替わりを判定し、その判定結果にも基づき、前記変換した一次信号から前記物理量(二次信号)を復元する、
ことを特徴とする。
【0006】
また、第3の発明による物理量検出装置は、
前記物理量の範囲が、範囲ごとに異なる幅を持つ(例えば領域1は0−5の範囲、領域2は5−15の範囲などという形式)、
ことを特徴とする。
また、第4の発明による物理量検出装置は、
前記変換手段が、
前記分割された範囲別に規定された変換係数を使う、
ことを特徴とする。
また、第5の発明による物理量検出装置は、
前記変換手段が、
分割された物理量の範囲を切り替えるときに、ヒステリシス制御ができる閾値を使用して切り替えを行ない(即ち、所定の閾値、例えばプラス側0.1、マイナス側0.1などのような合わせて0.2のヒステリシス幅を設け、この閾値を使用して切り替えを行なう)、
前記復元手段が、
前記測定された物理量の範囲の切り替わりを判定するときに、前記ヒステリシス制御ができる閾値に応じて判定を行なう(即ち、規定されたヒステリシス幅に応じて変化する一次信号の増減分を加味して判別を行なう)、
ことを特徴とする。
【0007】
また、第6の発明による物理量検出装置は、
前記測定手段で測定された物理量が異常である場合に、所定の期間、前記測定された物理量を格納する格納手段(メモリ、サンプルホールド回路など)をも具える(即ち、所定の閾値を使って異常かどうか判別し、測定手段側の異常を検出した場合は、異常値から正常値に復帰するまで測定値を保持する)、
ことを特徴とする。
上述したように本発明の解決手段を装置として説明してきたが、本発明はこれらに実質的に相当する方法、プログラム、プログラムを記録した記憶媒体としても実現し得るものであり、本発明の範囲にはこれらも包含されるものと理解されたい。
【発明の効果】
【0008】
第1の発明では、例えば、広い範囲の物理量を測定する測定装置において該物理量を一旦他の物理量(本明細書では一次信号と呼ぶ)に変換して伝達し受信側で伝達し、受信側で復元する方式に適用可能なものであり、他の物理量に変換する際の変換係数を、該物理量に応じて変化させることによって、例えば1本の信号伝達線であっても、広範囲の物理量の中で要求される範囲を精度良く測定することが可能となる。即ち、ユーザが所望する範囲において変換係数を高くするなどして当該範囲の分解能を高くすることが可能となる。換言すれば、センサ(測定手段)自体の感度・精度を向上させることなく、測定された物理量に対する処理技法によって測定精度を向上させることを可能にするものである。
【0009】
また、第2の発明では、測定範囲を複数に分割することで非連続値として処理・伝達し、復元側では信号の変化量に応じて、測定範囲の切り替え判断を行なうことによって、一次信号(伝達信号)のダイナミックレンジを最大限に活用することが可能となり、さらに広範囲の物理量を精度良く測定できる。
また、第3の発明では、互いに異なる測定範囲に分割することによって、非連続となる分割点付近の物理量を、精度が不要な物理量近傍とすることができるため、ユーザが高い測定精度を所望する物理量範囲においては連続値として一次信号を得ることができるため、その所望する範囲において測定精度を向上させることが可能となる。
【0010】
また、第4の発明では、分割されたそれぞれの測定範囲での変換係数(ゲイン)を互いに異なる値とすることによって、測定範囲ごとに異なる測定精度とすることができ、必要に応じて最適な物理量範囲の精度向上が可能となる。
また、第5の発明では、非連続点の切り替え判別にヒステリシスを設けることによって、切り替え付近における物理量の振動的な変化に対しても、切り替えが連続的に発生することを抑えることができ、ひいては適正な測定精度を保持することが可能となる。
また、第6の発明では、測定手段(検出回路)側の異常を検出した場合は、異常が復帰するまで測定値を保持することによって、測定手段側のみの停止時も、測定範囲を誤判断することなく、計測が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以降、諸図面を参照しつつ、本発明の実施態様を詳細に説明する。本発明の原理は、様々な物理量(例えば、電流、照度、温度、濃度、におい、音の高低、ボリュームなど)に適用可能であるが、具体例として最も用途が多いと考えられる電圧に適用したものを説明する。本発明を電圧という物理量に適用した場合、連続する電圧範囲を複数に分け、同一の信号線で検出信号を非連続値として伝達することで、等価的に検出回路のダイナミックレンジを拡大するのと同様の効果が得られ、広範囲の電圧値を精度良く測定することが可能になる。より詳細には、本発明をハイブリッド車両の駆動用モータの制御に適用した場合の説明を行なう。
まず、図1に本発明の適用対象であるハイブリッド車両の駆動用モータの制御システムのブロック図を示し、この制御システムの作動概要を説明する。ハイブリッド車両は、車両の駆動源として、モータとエンジンを協調制御し、排気ガスのクリーン化や燃費向上を狙う車両であり、ここではこれらの車両駆動源の一つである、モータを制御するインバータ装置1に適用したものである。本システムにおいては、モータ駆動の電源2として、配電系の損失を低減するため、通常の車両に使用される12Vないしは24Vではなく、電源電圧を約400Vとしている。また、本システムで採用しているのは3相交流同期モータ3であり、高回転時に誘起電圧を抑えて駆動させ電流を正常に通電させるために、弱め界磁電流を通電するが、インバータ装置1の電力変換効率を重視するために、電源電圧に応じて通電する弱め界磁電流を、必要最低限に留める必要がある。電源電圧はその供給源であるバッテリの充電状況や周辺温度、負荷電流などにより、±100V程度の変動があることを想定して設計するが、前述した理由により、通常の制御時に精度良く電源電圧を計測することが求められている。
【0012】
一方、モータ駆動用電源2の電源投入の際は、インバータ装置1の入力平滑コンデンサ4が所定の容量であるかを診断するために、電源電圧の上昇カーブを計測するが、この場合は、通常モータ制御で使用する電源電圧範囲よりも低い領域(例えば60V〜200V)での計測が要求される。また、モータ駆動用電源2の遮断の際には、インバータ装置1の入力平滑コンデンサ4の放電が確実に行なわれたことを確認するために、安全な電圧(例えば60V)まで電圧が低下したことを計測するが、前述同様に通常モータ制御で使用する電源電圧範囲よりも低い街域での計測が要求される。以上の述べたとおり、ハイブリッド車両に適用される高電圧インバータ装置1では、通常モータ駆動で使用される電源電圧範囲と、それよりも遥かに低い電源電圧範囲の両方を計測する必要があり、電圧検知回路には広いダイナミックレンジが要求される。
【0013】
しかしながら、上述した2つの電圧範囲は非常に広範囲に及ぶために、モータ駆動ノイズに対するS/N比が悪いことに加え、電圧検知信号を読み込むCPU5の離散処理の影響で、弱め界磁制御に要求される精度の高い電圧検知回路を実現することは、困難であった。
本発明は、上記問題点などを鑑みてなされたものであり、電源電圧範囲を複数に分けて、同一の信号線で検出信号を非連続値として伝達することにより、等価的に検出回路6のダイナミックレンジを拡大することで、要求される精度を実現しようとするものである。図1を用いて、本発明の動作を説明する。本実施例におけるシステムは、モータ駆動用電源2の電圧を検出して2値信号に変換する検出回路6と、検出回路6から出力される2値信号を信号経路を介して受け取り、電源電圧に換算した後に弱め界磁や放電処理に利用する制御回路8から成る。制御回路8はモータ電流やモータ軸角度に基づき、インバータ回路9を駆動するPWM信号を生成し、要求されるモータ駆動トルクが発生できるように、インバータ回路9のスイッチング素子を駆動する。
【0014】
以下、検出回路6の作動について、詳細に説明する。本実施例における検出回路6は、モータ駆動電源電圧を対応するDUTY信号7(一次信号)に変換する。この際、従来であれば、図2のように、一定の変換係数を使って測定電圧とDUTY比の対応が1対1になるように変換されていた。しかしながらこのような構成とした場合、例えば検出回路6を構成するコンパレータのオフセット電圧や、制御回路8側での信号読み込み端子の寄生容量による信号遅れ、回路雑音による微小な変換結果の変動、モータ駆動ノイズによる雑音などの、検出電圧によらず定量的に発生する誤差要因があるため、測定対象の変化幅が広い場合はS/Nが悪くなり、制御回路8で精度良く認識することが難しかった。そこで、本実施例では電圧範囲を2つの領域に分け、同一のDUTY比に対して2つの電圧が対応するように構成している(図3)。これにより等価的に検出する電圧範囲を狭くすることでS/Nを向上でき、上述した定量的に発生する誤差要因による精度悪化を抑えることが可能となる。また、図3に示すように、領域1、2の境界値Vdを中心とするヒステリシス幅を設けてヒステリシス制御することによって境界値付近での煩雑な切り替えを防止する。
【0015】
次に、図1を用いて、検出回路6の具体的な作動について説明する。まず検出対象となるモータ駆動用電源2電圧を抵抗分圧することで、検出回路6の電源電圧範囲まで低下させる。次に、三角波発振回路10により生成された三角波と分圧された電圧を第一のコンパレータ11で比較し、電圧に対応したDUTY信号7(一次信号)を生成する。本発明ではこれに加え、分圧された電圧に対して、第二のコンパレータ12を設け、基準電圧(Vref)に対する大小を判断する。第二のコンパレータ12の出力は上述の三角波発振回路10の基準電圧に接続され、第二のコンパレータ12の出力電圧によって、出力される三角波のオフセット電圧が変化するように構成されている。これにより、図3で説明した特性を実現している。
これら回路の作動を数式で表現すると、低電圧側の電圧領域を領域1、高電圧側の電圧鋲域を領域2とすると、領域1および領域2における電源電圧−DUTY比変換式は、モータ駆動用電源電圧をvolt_HVとすると、
領域1のDUTY比=OFFSET1+volt_HV×GAIN1 式1
領域2のDUTY比=OFFSET2+volt_HV×GAIN2 式2
で表すことができる。なお、本実施例においては、第二のコンパレータ12は±βのヒステリシスを設けてあり、電圧領域の閾値電圧(Vd)付近の振動的な変化に対して、頻繁に領域の切り替わりが発生しないように考慮されている。このとき、モータ駆動電源電圧の分圧比をα、第二のコンパレータ12のヒステリシス幅を±β、基準電圧をVrefとすると、分割される電圧領域の閾値電圧Vdは、
Vd=(Vref±β)/α 式3
で表すことができる。
【0016】
なお、本実施例のシステムでは、モータ制御に使用する電源電圧鞄園が300V〜450V、電源投入時の平滑コンデンサ4の容量診断に使用する電圧範囲が60V〜150V、電源遮断時の放電判断に使用する電圧範囲が24V以下としており、分割される電圧領域の閥値電圧Vdは250V、第二のコンパレータのヒステリシス幅βは±25Vとしている。このように閾値電圧Vdは検出電圧の使用目的とそれらの範囲によってグルーピングし、その境界電圧付近に設定する。また、第二のコンパレータ12のヒステリシス幅〈β)は、電源電圧に通常重畳される変動や、回路が受けるノイズの量を上回るように設定する。
また、検出回路6が出力するDUTY信号7の周波数は、電源電圧の変動が十分検出できるように設定する。本実施例では、DUTY信号7の周波数は約1KHzとしている。
さらに、本実施例では検出する電圧範囲を2分割したが、必要に応じて3分割以上としてもよい。加えて、本実施例では分割する2つの電圧領域は等分とし、各電圧領域における、電圧の変化に対するDUTY比の変化率を同等としたが、それぞれの電圧領域における使用目的・要求精度に応じて、異なる分割範囲やDUTY変化率としてもよい(図4)。図4では、領域1,2,3はそれぞれ異なる幅の領域であり、領域の境界に設けるヒステリシス幅1,2もそれぞれ異なる幅に設定してある。
【0017】
続いて、上述した検出回路6が出力するDUTY信号7を受信し、弱め界磁や平滑コンデンサ4の容量診断、放電判断処理などを実施する、制御回路8の説明をする。制御回路8は、インバータ装置1のモータ制御回路と共用している。モータ制御では、上位システムから要求される駆動トルクが出力できるように、モータ駆動用電源2の電圧、モータ電流、モータ回転数などに応じて、インバータ回路9のスイッチング素子を駆動するためのPWM信号14を生成する。
この際、モータ回転数が上昇した時に発生するモータ誘起電圧が、モータ駆動用電源2の電源電圧を超えると、本来必要な駆動トルクを発生させる電流(q軸電流)が流せなくなるため、誘起電圧を発生させる原因となる磁界を打ち消す方向に、弱め界磁電流(d軸電流)を流す。しかしながら、弱め界磁電流は駆動トルクに対しては効果が無いため、インバータの電力変換効率、すなわち車両の燃費を向上させるためには、必要最低限に抑える必要がある。そのためにモータ駆動用電源2の電圧を精度良く読み取る必要があり、それに応じて必要最低限の弱め界磁電流を演算して出力する。
【0018】
また、モータ駆動用電源2の電源投入時は、インバータ装置1の平滑コンデンサ4の突入電流を防止するため、電源投入初期には抵抗負荷15を介して平滑コンデンサ4に充電するが、この際に平滑コンデンサ4の充電に伴う電圧上昇カーブを読み取ることで、平滑コンデンサ4の容量を算出することができ、経時劣化などで容量が低下していないか診断を実施する。このために、上述した検出回路6が出力するDUTY信号7を用いて、平滑コンデンサ4の両端電圧を検出している。
さらに、モータ駆動用電源2の電源遮断時は、平滑コンデンサ4に充電された電荷を確実に放電する必要があるが、放電用の回路もしくは制御が正常に機能していることを確認するために、モータ駆動用電源2の電源遮断後に、所定の時間以内に安全な電圧まで低下したことを確認している。このためにも、上述した検出回路6が出力するDUTY信号7を用いて電圧を検出している。
【0019】
次に、制御回路8がDUTY信号7を受信した後に、モータ駆動用電源2の電源電圧に換算する作動について、図1を用いて説明する。
DUTY信号は制御回路8に内蔵されるCPU5の割り込み端子に入力され、立上りおよび立下り信号発生に伴い、CPU5内の割り込み処理を起動する。割り込み処理内ではCPU5内のフリーランカウンタ値をキャプチャし、前回キャプチャ値および、今回割り込み時のエッジ方向から、入力されているDUTY信号7のDUTY比を計算する。なお、実際の使用にあたっては、外来ノイズ等の影響で、突発的に検出回路6が出力したDUTY信号7が示すDUTY比とは異なる値を検出する可能性があるため、ノイズ除去のための処理も行なっている。
【0020】
ここで、本実施例では電圧の時間変化に対して、DUTY比が不連続となる点が存在しているため、この不連続点における電圧換算処理について、図5〜図7を用いて説明する。
本実施例では前述のDUTY比演算は、DUTY信号7のエッジ割り込み処理内で実施するが、算出されたDUTY比は所定のレジスタに格納され、これとは別に実施される制御割り込み処理内で参照される。まず、図5に示すフローチャートを用いて、本実施例に関連する初期化ルーチンの作動について説明する。最初に、異常検知回数カウンタや、各種フラグなどの変数を初期化する(ステップS1)。次に、後述する電圧換算ルーチン内で使用するゲイン変数(gain)およびオフセット変数(offset)に、検出する電源電圧の初期値が含まれる領域のゲイン(GAIN1)およびオフセット(OFFSET1)をセットする(ステップS2、S3)。次にCPU5内部の時刻を示すフリーランカウンタをスタートする(ステップS4)。なお、このフリーランカウンタのカウントアップに用いるクロック周波数は、分解能を高めるために検出回路6が出力するDUTY信号7の周波数よりも十分高く設定する必要があり、本実施例においては、約100倍の周波数としている。次に、モータの制御演算を行なう周期を決める、制御演算割り込みタイマの初期化とスタートを行なう(ステップS5、S6)。この制御演算割り込みのなかで、DUTY比からモータ拓区動用電源2の電圧に換算する処理を行なう。最後に、DUTY信号7のエッジ割り込み許可(ステップS7)と、制御演算割り込みの許可を行なう(ステップS8)。
【0021】
次に、図6に示すフローチャートを用いて、DUTY信号7のDUTY比を算出する、DUTY比演算ルーチンの作動について説明する。本ルーチンはDUTY信号7のエッジ割り込みにより起動される。まず、フリーランカウンタの値(freerun)を現在時刻を示す変数(tim_0)に代入する(ステップK1)。次にDUTY信号7のエッジが立ち上がりであるか否かを判定する(ステップK2)。条件を満たさない(立ち下がり)場合は、前回割り込み時刻を示す変数(tim_1)と今回割り込み時刻を示す変数(tim_0)の差を、Hi時間を示す変数(wd_H)に代入する(ステップK3)。また、条件を満たす(立ち上がり)場合は、
その時点で計測が終了しているのはLoレベルであった時間であるため、前回割り込み時刻を示す変数(tim_1)と今回割り込み時刻を示す変数(tim_0)の差を、Lo時間を示す変数(wd_L)に代入し(ステップK4)、DUTY信号7の周期が所定の周期(PRD±TH1)の範囲内に収まっているか判定する(ステップK5)。この判定は立下りエッジ毎に行ない、条件を満たさない(正常範囲内)場合は、周期異常累積回数を示す変数(cnt_prderr)を初期化して(ステップK6)、DUTY比演算結果を変数(dty_d0)に格納してメインのルーチンヘ戻るが(ステップK7)、条件を満たす場合(正常範囲を逸脱した場合)は、周期異常累積回数を示す変数(cnt_prderr)を1つ増分する(ステップK8)。この場合は、前回のDUTY比演算結果(dty_d1)をそのまま今回値(dty_dO)に流用する(図示せず)。
【0022】
さらに、異常の連続累積回数がTH2回以上となるか否かを判定し(ステップK9)、条件を満たす場合は、ノイズの影響や回路故障により正常なDUTY比演算ができなくなったと判断し、異常処理を行なう。異常処理では、DUTY信号7の周期異常を示すフラグ(err_prd)に1をセットした後(ステップK10)、運転者に異常を報知する警告灯16を点灯し(ステップK11)、DUTY信号7のエッジ割り込みを禁止する(ステップK12)。さらに、通常システム遮断時に安全な電圧まで低下したことを判定する放電判定処理の実施方法を、電圧判定から時間判定に変更する(ステップK13)。
以上の処理終了後、現在時刻を示す変数(tim_0)の値を前回割り込み時刻を示す変数(tim_1)に代入し(ステップK14)、DUTY比急変判定処理に進む。DUTY比急変判定処理では、前4回のDUTY比演算結果の平均値と今回DUTY比演算結果の差が所定値(TH3)以上であるか否かを判定する(ステップK15)。条件を満たさない、即ち、差が所定値(TH3)以上でなければ、連続的に変化する電源電圧値を適正に捉えていると判断し、算出DUTY比急変検知回数(cnt_alt)をゼロで初期化し(ステップK15)、平均値演算処理を実施して終了する(ステップK17)。
ステップK15で条件を満たす場合は、算出DUTY比急変検知回数(cnt_alt)を1つ増分し(ステップK18)、その後、算出DUTY比急変検知回数が所定値(TH4)以上であるか否かを判定する(ステップK19)。
ステップK19で条件を満たさない場合、即ち、差が所定値(TH3)を連続して越えている回数がTH4回未満であれば、ノイズなどの影響で一時的にDUTY信号7の伝達に失敗したと判断し、前回演算したDUTY比の値(dty_d1)を今回値(dty_dO)に代入(ステップK20)した後に、平均値演算処理を実施して終了する(ステップK17)。
ステップK19で条件を満たす場合、即ち、差が所定値(TH3)を越えている状態がTH4回以上連続した場合は、検出回路6の出力するDUTY信号7の不連続点を通過したものと判断し、平均値演算用の過去のDUTY比を示す変数(dty_d1〜dty_d3)に今回のDUTY比演算結果(dty_dO)を代入して終了する(ステップK21)。なお、以上説明したDUTY比演算ルーチン内で使用した今回のDUTY比演算結果を示す変数(dty_dO)は、後述する制御演算ルーチン内で電源電圧換算を行なう処理でも使用する引数である。
【0023】
続いて、図7に示すフローチャートを用いて、制御演算内で実施する電圧換算ルーチンの作動について説明する。まず、DUTY信号7の周期異常を示す周期異常フラグ(err_prd)、または後述するエリア判定異常を示すエリア判定異常フラグ(err_ara)が異常を示しているか否かを判定する(ステップP1、P2)。いずれかが異常を示している場合は、引数であるdty_dOの値もしくは、電圧換算結果は信頼できないと判断し、電圧換算結果を示す変数(volt_HV)にモータ電源電圧が取り得る最低電圧(min_HV)を代入してモータ制御を継続する(ステップP3)。このとき本システムではモータ制御を継続することを重視しているために電力変換効率の向上は断念して最大の弱め界磁電流を流すように制御する。ステップP1、P2の判別条件を満たさない場合、即ち、いずれも異常でない場合は、引数であるdty_dOを電圧換算ルーチンで今回使用するDUTY比を示す変数(dty_vO)に代入する(ステップP4)。
そして、前回使用したDUTY比を示す変数(dty_v1)との差が所定値(TH5)を超えるか否かを判定し(ステップP5、P6)、条件を満たす、即ち、超える場合は、その極性に応じて換算に使用するゲイン変数(gain)およびオフセット変数(orfset)に判定した領域のゲイン(GAIN1またはGAIN2)およびオフセット(OFFSET1またはOFFSET2)を代入する(プラス側の極性の場合はステップP7、マイナス側ではステップP8)。
【0024】
なお、本システムではシステムの作動状態を示すフラグを持っており、平滑コンデンサ4の容量診断、放電判定、モータ制御の実施中か否かをそれぞれ判定し(ステップP9、P10、P11)、条件を満たす、即ち、上記の作業を実施中である場合には、それらの作動状態と、換算に使用するゲイン変数(gain)に代入された値が一致するか否かを診断する(ステップP12、P13)。ステップP12、P13で条件を満たす、即ち、一致する場合には、領域判定失敗フラグ(err_ara)を初期化し(ステップP14)、元のルーチンに戻る。ステップP12、P13で条件を満たさない、即ち、一致しない場合には、エリア判定異常回数のカウンタ(cnt_araerr)を1つ増分する(ステップP14、P15)。
その後、このカウンタ(cnt_araerr)が所定回数(TH6)以上であるか否かを判定する(ステップP16、P17)。ステップP16、P17で条件を満たさない、即ち、所定回数(TH6)未満である場合には、ゲイン変数(gain)およびオフセット変数(offset)を修正する(ステップP18、P19)。
ステップP16、P17で条件を満たす、即ち、所定回数(TH6)以上である場合(不一致回数を連続して検出したケース)には、領域判定処理に失敗したと判断し、領域判定失敗を示す領域判定失敗フラグ(err_ara)をセットし(ステップP21)、警告灯点灯や放電判定演算を時間判断に変更するなどの所定の処理(ステップP22、P23)を行なった後に、換算結果を示す変数(volt_HV)にモータ電源電圧が取り得る最低電圧(min_HV)を代入して(ステップP3)、換算処理を終了する。
【0025】
上述したようにステップP13で異常検知されなかった場合、または、ステップP17、P18で異常検知回数が所定値(TH6)に満たなかった場合は、元のルーチンに戻り、ゲイン変数(gain)およびオフセット変数(offset)を用いてモータ電源電圧換算の演算を実施し(ステップP24)、前回のDUTY比を示す変数(dty_v1)に今回のDUTY比を示す変数(dty_vO)を代入し(ステップP25)、電圧換算処理を終了する。
なお、本実施例においては、システムの作動状態を示すフラグと、CPU5が判断している電圧範囲の整合性を診断しているが、このような診断ができない場合は、検出回路6側の電源瞬断などによってDUTY信号7が途切れるなどすると、測定範囲を誤判断する可能性がある。このような場合は、例えば図1に併記しているように、検出回路6の電源が正常に作動していることを示す信号線18を設け、この信号が異常を示している間は、瞬断の可能性がある時間までは換算された電圧値の保持、それ以上の異常を継続して検知した場合は、モータ電源電圧が取り得る最低電圧(mim_HV)とする方法をとることもできる。
【0026】
本発明を諸図面や実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形や修正を行なうことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形や修正は本発明の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、平均回数やタイマの設定値などの設定値は、本実施例における採用値であり、適用するシステム、環境によって他の値をとる可能性があることは言うまでもない。また、本実施例ではハイブリッド車のモータ駆動用電源電圧の検出回路に適用したが、これは単なる一例に過ぎず、電流や温度など変化範囲の広い様々なアナログ量を検知する他のシステム(電流計、温度計、濃度計、匂いセンサなど)に適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の適用対象であるハイブリッド車両の駆動用モータの制御システムのブロック図である。
【図2】従来の電圧−DUTY比変換特性を示す図である。
【図3】実施例の電圧−DUTY比変換特性を示す図である。
【図4】電圧−DUTY比変換特性の他の例を示す図である。
【図5】実施例の初期化ルーチンの動作を説明するフローチャートである。
【図6】実施例のDUTY比演算ルーチンの動作を説明するフローチャートである。
【図7】実施例の電圧換算ルーチンの動作を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0028】
1 ハイブリッド車のモータ駆動用インバータ装置
2 モータ駆動の電源
3 相交流同期モータ
4 平滑コンデンサ
5 CPU
6 検出回路
7 信号経路(検出回路が出力する2値信号の伝達線)
8 制御回路
9 インバータ回路
10 三角波発振回路
11 第一のコンパレータ
12 第二のコンパレータ
13 上位システム
14 スイッチング素子駆動用PWM信号
15 突入電流防止用抵抗
16 警告灯
17 検出回路の電源診断回路
19 検出回路の電源診断信号線
Vref 基準電圧
Vd 実施例における領域分割電圧中心値
α 検出回路の抵抗分圧比
β 検出回路の電圧ヒステリシス幅(片側)
freerun CPU内部のDUTY比計測用フリーランクイマの値
tim_O DUTY比演算ルーチンにおける、DUTYエッジ割り込み時の時刻
tim_1 DUTY比演算ルーチンにおける、DUTYエッジ割り込み時の時刻前回値
Wd_L DUTY比演算ルーチンにおける、DUTY信号Lo幅検出時間
Wd_H DUTY比演算ルーチンにおける、DUTY信号Hi幅検出時間
PRD DUTY信号の標準的な1周期時間
av_dty DUTY比演算ルーチンにおける、DUTY比平均値
dty_dO DUTY比演算ルーチンにおける、DUTY比平均値演算用DUTY比値
dtY_d1 DUTY比演算ルーチンにおける、DUTY比平均値演算用DUTY比前回値
dty_d2 DUTY比演算ルーチンにおける、DUTY比平均値演算用DUTY比前々回値
dty_d3 DUTY比演算ルーチンにおける、DUTY比平均値演算用DUTY比前々々回値
TH1 DUTY比演算ルーチンにおける、周期異常検知の時間閾値
TH2 DUTY比演算ルーチンにおける、周期異常検知の回数閾値
TH3 DUTY比演算ルーチンにおける、DUTY比急変異常検知のDUTY閾値
TH4 DUTY比演算ルーチンにおける、DUTY比急変異常検知の回数閾値
cnt_Prderr DUTY比演算ルーチンにおける、DUTY比信号周期異常検知回数
cnt_alt DUTY比演算ルーチンにおける、算出DUTY比急変検知回数
err_prd DUTY信号周期異常検知フラグ
err araerr 電圧換算ルーチンにおける、領域判定異常検知回数
err ara 電圧換算ルーチンにおける、領域判定異常検知フラグ
volt_HV 電圧換算結果
min_HV モータ駆動用電源電圧の取り得る最低電圧
dly_vO 電圧換算ルーチンにおける、DUTY比値
dty_v1 電圧換算ルーチンにおける、DUTY比前回値
TH5 電圧換算ルーチンにおける、領域切り替え判断閾値
TH6 電圧換算ルーチンにおける、領域判定異常検知の回数閾値
offset 電圧換算ルーチンにおける、換算用オフセット
Gain 電圧換算ルーチンにおける、換算用ゲイン
OFFSET1 実施例におけるDUTY変換特性領域1のオフセット値
OFFSET2 実施例におけるDUTY変換特性街域2のオフセット値
GAIN1 実施例におけるDUTY変換特性領域1のゲイン値
GAIN2 実施例におけるDUTY変換特性領域2のゲイン値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物理量検出装置であって、
測定手段で測定された物理量に応じた変換係数を使って、前記測定された物理量を一次信号に変換する変換手段と、
前記変換係数を参照して前記変換した一次信号に基づき前記物理量を復元する復元手段と、
を具える物理量検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の物理量検出装置において、
前記変換手段が、
前記測定された物理量の範囲を複数に分割し、この分割された部地理量の範囲が切り替わるときに非連続値を取るように、前記測定された物理量を前記一次信号に変換する、
前記復元手段が、
前記一次信号の変化に基づき前記測定された物理量の範囲の切り替わりを判定し、その判定結果にも基づき、前記変換した一次信号から前記物理量を復元する、
ことを特徴とする物理量検出装置。
【請求項3】
請求項2に記載の物理量検出装置において、
前記物理量の範囲が、範囲ごとに異なる幅を持つ、
ことを特徴とする物理量検出装置。
【請求項4】
請求項3に記載の物理量検出装置において、
前記変換手段が、
前記分割された範囲別に規定された変換係数を使う、
ことを特徴とする物理量検出装置。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか1項に記載の物理量検出装置において、
前記変換手段が、
分割された物理量の範囲を切り替えるときに、ヒステリシス制御ができる閾値を使用して切り替えを行ない、
前記復元手段が、
前記測定された物理量の範囲の切り替わりを判定するときに、前記ヒステリシス制御ができる閾値に応じて判定を行なう、
ことを特徴とする物理量検出装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の物理量検出装置において、
前記測定手段で測定された物理量が異常である場合に、所定の期間、前記測定された物理量を格納する格納手段をも具える、
ことを特徴とする物理量検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−300641(P2006−300641A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−120926(P2005−120926)
【出願日】平成17年4月19日(2005.4.19)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】