説明

物質を生産するために細胞を培養する方法

【課題】物質を生産するために細胞を培養する方法を提供する。
【解決手段】培養液中のグルコースを制限するように栄養培地を供給しながら、物質を生産する細胞株が培養される。グルコース制限度DGL=qGlc/qGlcmaxである(qGlc=観察されている現在の比グルコース消費速度;qGlcmax=これらの細胞の既知の最大比グルコース消費速度)。DGLは限界0と1の間にあり、0は完全に制限されていることを意味し、1は、制限が行われていないか、またはグルコースが完全に過剰であることを意味する。DGLは細胞の維持のみをもたらすDGLより高いか、またはそれに等しく、<0.5である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の特徴付けられた部分に従って物質を生産するために細胞を培養する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
物質(特に、タンパク質)を生産する発酵プロセスでは細胞培養物が用いられる。細胞培養物が遺伝子組換えされておらず、それ自身の代謝産物を形成するプロセスと、生物が多量の自身の物質(例えば、タンパク質)を生産するように、または外来物質を生産するように遺伝子組換えされているプロセスは区別される。このプロセスにおいて、物質を生産する生物には、生物の生存を保証し、望ましい標的化合物の生産を可能にする栄養培地が供給される。これらの目的のために、発酵を可能にする非常に多くの培地が知られている。これらの培地の最も重要な成分の1つがグルコースである。先行技術によれば、標的化合物の収量を最適化するために、発酵調製物中のグルコースの最低濃度を維持する努力が定期的になされる。日本国特許出願001 101 882 A(特許文献1)は哺乳動物細胞の培養プロセスを開示し、このプロセスでは0.2mmol/lのグルコース最低濃度が維持される。US5443968(特許文献2)はグルコースが制限される培養プロセスを開示する。しかしながら、このプロセスを用いても、非制限供給と比較して、細胞の比生産速度(specific production rate)は速くならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】日本国特許出願001 101 882 A
【特許文献2】US5443968
【発明の概要】
【0004】
本発明の目的は、生成物に関する個々の細胞の生産性を高め、高い細胞密度を可能にする細胞培養プロセスを作ることである。このプロセスを用いると、生成物の高い空間/時間収量(space/time yield)が可能になるはずである。
【0005】
前記のプロセスは実施するのに非常に簡単であり、測定および管理に最小限の労力しか伴わず、非常に経済的なはずである。請求項1の特徴付けられた部分に基づいて、驚くべきことに、本発明の目的は、培養液中のグルコースを制限するように栄養培地を供給しながら、物質を生産する細胞株を培養することによって達成される。グルコース制限度(degree of glucose limitation)は、観察された比グルコース消費速度(specific glucose consumption rate)と、これらの細胞の既知の最大比グルコース消費速度の比と定義することができる。グルコース制限度DGL=qGlc/qGlcmaxである(qGlc=現在観察されている比グルコース消費速度;qGlcmax=これらの細胞の既知の最大比グルコース消費速度)。DGLは限界DGLmaintenanceと1との間にあり、ここでDGLmaintenanceは増殖が完全に制限されていることを意味し、1は制限が全く行われていないか、またはグルコースが完全に過剰であることを意味する。
【0006】
グルコース制限は、培養液中の残存グルコース濃度が0mmol/lより多いが1mmol/lより少ない、好ましくは0.5mmol/lより少ない定常濃度まで連続的に低下することと関連している。DGLが下がると培養容器中の生細胞密度がさらに増加するのが観察される。グルコース制限が細胞密度を増加させるにつれて、細胞密度は最大値に集束する。結果として、グルコース制限度は最小値に集束する。本発明によるDGLは、細胞の維持(維持代謝)につながるDGL(DGLmaintenance=qGlcmaintenance/qGlcmax (qGlcmaintenance=純粋な維持代謝の場合に観察される比グルコース消費速度;qGlcmax=これらの細胞の既知の最大比グルコース消費速度))より大きいか、またはそれに等しく、かつ0.5未満であり、好ましくは0.4未満であり、特に好ましくは0.3未満である。
【0007】
しかしながら、グルコース濃度が減少する時に、溶液中の細胞濃度は減少しないという特徴がある。グルコース制限が増加するにつれて(すなわち、DGL値が減少するにつれて)、細胞の比生産性は増加する。培養容器中の生細胞密度は減少しないので、これは、空間/時間収量の増加につながる。グルコース制限の発生は、現象上、比乳酸形成速度の減少と関連している。乳酸形成速度は最小値に集束する。結果として、培養容器中の残存乳酸濃度は最大値0まで減少する。従って、グルコース制限は細胞代謝の転換と関連している。
【0008】
これに関して、グルコース制限を開始する前に、他の基質による他の制限は無いことが重要である。従って、増殖培地は、最初にグルコースが制限されるような培地でなければならない。
【0009】
本発明による方法は、ある特定の細胞密度での空間/時間収量を増大させる。本発明による方法は、グルコースが主に維持代謝に用いられるように(従って、生成物に用いられ、細胞増殖には用いられないように)、細胞1個あたりに利用可能なグルコースの量を減少させる。これに関して、本発明による方法は、グルコース供給の調節を必要とせず、従って、この方法は、手間のかかるグルコース調節を省くことができるので非常に簡単である。培地の流入はより少ししか必要とされず、グルコースはより少ししか必要とされないので、グルコースの費用が節約される。さらに、非常に高い生成物濃度が得られる。これにより処理費用を削減することができる。特に、本発明による方法は、本発明による方法を行うために細胞をさらに遺伝子組換えすることなく、タンパク質の生産を増大することができる。生成物力価(product titre)が増加するので、より少ない培養量で所望の量の生成物を生産することができ、これにより資本支出が削減される。
【0010】
本発明による方法は、以下のプロセス段階を用いて実施することができる。
【0011】
細胞は、好ましくは、(例えば、スピンフィルターを用いて)細胞を保持しながら連続プロセス(灌流培養)で培養すべきである。このために、全ての標準的なタイプの培養容器(例えば、攪拌槽)および細胞保持装置(例えば、スピンフィルター)、超音波、または沈降機が適している。培養装置は、好ましくは、高い細胞密度を可能にするものでなければならない。グルコース制限が行われている時に細胞密度が低下しないように、細胞を保持することが好ましい。結果として、生細胞密度が増加し、グルコース供給が一定に保たれるので、DGLはさらに下がる。細胞密度が高くなると、最大増殖速度のオーダーの所定の流速で、DGLを0.4の値より下に下げることができる。従って、例えば、CHO MUC2-GFP-C-term細胞ならびにCHO/MUC1-IgG2a PH3744/25細胞の場合、0.03〜0.05h-1の流速を使用することができる。
【0012】
従って、DGLを下げるために、グルコース供給方法は以下のようなものでもよい:グルコース制限を避けるために、生細胞密度が増加する時には、供給グルコースの量は増やさない。逆に、プロセスの間、供給グルコースの量は開始から一定に保つ。供給グルコースの量は、DGLが、必要とされる値より下に(すなわち、<0.5未満、好ましくは<0.4未満、特に好ましくは<0.3未満のDGL)なるように選択すべきである。結果として、供給グルコースの量は、従来の非グルコース制限プロセス対照の場合に予想生細胞数がこの系において最大限に消費することができる量の好ましくは50%以下、特に好ましくは35%以下である。細胞代謝物の変換(乳酸の代謝および生産)の後、供給グルコースの量はゆっくりと増加することがあるが、DGLは0.5を超えてはならない(好ましくは、0.4を超えてはならない)。これにより生細胞密度がさらに増加して、一定した高生産性、従って、高い空間/時間収量が得られる。連続プロセスでは、供給グルコースの量は、培地の流入速度および供給培地のグルコース濃度に影響されることがある。プロセス間の供給グルコースの質量流量は増加しないか、またはDGLが0.5未満の値、好ましくは0.4未満の値に達する、もしくはその値より下であり、この値をもはや上回らないような程度にしか増加しない。
【0013】
本発明の有利なさらなる発展を、独立した特許請求の範囲に示す。
【0014】
発明の詳細を以下で説明する。
【0015】
図面は実験結果の例を示す。
【0016】
さらに、表1は、CHO MUC1/IgG2a PH3744細胞を用いた本発明による方法の使用から得られた実験データを示す。
【0017】
表2は、CHO MUC2-GFP-C-term細胞を用いた本発明による方法の使用から得られた実験データを示す。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】灌流反応器におけるCHO MUC1/IgG2a PH3744/25細胞からのMUC1-IgG2a生産に関する、プロセス時間[h]に対する生細胞数[ml-1]の増加および培地流速[h-1]のプロット。
【図2】灌流反応器におけるMUC1-IgG2aの比生産性[μg/hE9細胞]およびDGL対プロセス時間。
【図3】灌流反応器におけるCHO MUC1/IgG2a PH3744/25細胞からのMUC1-IgG2a生産に関する、プロセス時間[h]に対してプロットされた生細胞数[ml-1]の増加および残存グルコース[mM]。
【図4】灌流反応器におけるCHO MUC1/IgG2a PH3744/25細胞からのMUC1-IgG2a生産に関する、プロセス時間[h]に対してプロットされたグルコース濃度および乳酸濃度ならびに培地流入物中のグルコース濃度[mmol/l]。
【図5】灌流反応器におけるCHO MUC1/IgG2a PH3744/25細胞からのMUC1-IgG2a生産に関する、MUC1-IgG2a濃度[μg/ml]およびqMUC1-IgG2a[μg/hE9細胞]の対時間増加[h]。
【図6】灌流反応器におけるCHO MUC2-GFP-C-term細胞からのMUC2-GFP-C-term産生に関する、生細胞数[ml-1]の増加および培地流速[h-1]のプロット対プロセス時間。
【図7】灌流反応器におけるMUC2-GFP-C-termの比生産性[nmol/hE9細胞]およびDGL対プロセス時間。
【図8】灌流反応器におけるCHO MUC2-GFP-C-term細胞からのMUC2-GFP-C-term生産に関する、プロセス時間[h]に対してプロットされた生細胞数[ml-1]の増加および残存グルコース[mM]。
【図9】灌流反応器におけるCHO MUC2-GFP-C-term細胞からのMUC2-GFP-C-term生産に関する、プロセス時間[h]に対してプロットされたグルコース濃度および乳酸濃度ならびに培地流入物中のグルコース濃度[mmol/l]。
【図10】灌流反応器におけるCHO MUC2-GFP-C-term細胞からのMUC2-GFP-C-term生産に関する、MUC2-GFP-C-term濃度[nM]およびqMUC2-GFP-C-term[nmol/(hE9細胞)の対時間増加[h]。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明による手順は様々な生産用細胞株を用いて実施することができる。細胞株は野生型として用いられてもよく、遺伝子組換え細胞として用いられてもよい。遺伝子組換えは、例えば、同じ生物もしくは別の生物のさらなる遺伝子をDNAもしくはベクターに挿入することによって行われてもよく、またはより効果的なプロモーター(例えば、CMVプロモーター)の組込みによる遺伝子の活性もしくは発現の増幅であってもよい。遺伝子は様々なタンパク質(例えば、融合タンパク質または抗体などのタンパク質)をコードすることができる。
【0020】
例として以下の細胞株を挙げる:哺乳動物細胞(例えば、CHO細胞株(例えば、CHO-K1)、BHK(例えば、BHK-21)、ハイブリドーマ、NS/O、他のミエローマ細胞)、および昆虫細胞、または他の高等細胞。好ましくは生産が増殖とつながっていない細胞を使用することが特に好ましい。
【0021】
本発明による手順によって生産性を上げることができる組換えCHO細胞株は、糖タンパク質MUC1-IgG2aを分泌するのに使用することができる細胞株CHO MUC1/IgG2a,PH3744/25である。別のCHO細胞株、すなわち、CHO MUC2-GFP-C-termは、本発明による手順に供されると、多量の融合タンパク質MUC2-GFP-C-termを分泌することができる。
【0022】
原則的に、任意のグルコース含有培地を、他の成分に関して制限を行わない培地として使用することができる。ProCHO4-CDMを一例として挙げる。グルコースしか制限されないように本発明による手順のために最適化された、既知の配合に基づく培地(例えば、IMDM、DMEM、またはHam's F12)も使用することができる。これは、例えば、グルコースに対して他の成分を高濃度にすることによって達成することができる。一般的に、培地とは別々にグルコースを添加することもできる。
【0023】
pHは好ましくは6.7〜7.7であり、特に好ましくは7〜7.3である。しかしながら、他のpH範囲も考えられる。
【0024】
温度の範囲は、CHO MUC1-IgG2aの場合、好ましくは35℃〜38.5℃であり、特に好ましくは37℃である。他の温度範囲も考えられる(例えば、生成物が不可逆的に破壊されない<35℃)。
【0025】
一般的に、本発明による培養方法を用いて、糖タンパク質、融合タンパク質、抗体、およびタンパク質などの物質を生産することができる。例えば、MUC1-IgG2a、MUC2-GFP-C-term、EPO、インターフェロン、サイトカイン、増殖因子、ホルモン、PA、免疫グロブリン、または免疫グロブリン断片を挙げることができる。
【0026】
図1は、灌流反応器におけるCHO/MUC1-IgG2a細胞の生細胞密度(cv)および培地流速(D)対プロセス時間(h)の時間経過を示す。この図において、
■は、培地流速(1/h)であり、
●は、生細胞密度(1/ml)である。
【0027】
図2は、灌流反応器におけるMUC1-IgG2aの比生産性(qMUC1-IgG2a)およびDGL対プロセス時間を示す。
-----は、比生産性(μg/hE9細胞)であり、
は、DGL(グルコース制限度)である。
【0028】
図3は、CHO MUC/IgG2a PH3744/25におけるMUC1-IgG2の生産に関して、プロセス時間[h]に対して生細胞数[ml-1]を左側にプロットし、残存グルコース濃度[mM]を右側にプロットしたグラフを示す。
□は、生細胞数であり、
◇は、グルコースである。
【0029】
図4において、グルコース濃度および乳酸濃度ならびに培地流入物中のグルコース濃度[mmol/l]がプロセス時間[h]に対してプロットされている。この図において、
□の曲線は、乳酸濃度曲線であり、
◇の曲線は、グルコース濃度曲線であり、
×は、培地流入物中のグルコース濃度(23.9mmol/l)である(流速D=0.035h-1)。
【0030】
図5において、時間[h]に対してMUC1-IgG2aの濃度[μg/ml]がグラフの左側にプロットされ、qMUC1-IgG2a[μg/(hE9細胞)]がグラフの右側にプロットされている。この図において、
●は、MUC1-IgG2aの比生産性q(μg/hE9細胞)であり、
◇は、MUC1-IgG2aの濃度(mg/ml)である。
【0031】
図6は、灌流反応器におけるCHO/MUC2-GFP細胞の生細胞密度(cv)および培地流速(D)対プロセス時間(h)の時間経過を示す。
■は、培地流速(1/h)であり、
●は、生細胞密度(1/ml)である。
【0032】
図7は、灌流反応器におけるMUC2-GFP-C-termの比生産性(qMUC2-GFP-C-term)およびDGL対プロセス時間を示す。この図において、
-----は、比生産性(nmol/hE9細胞)であり、
は、DGL(グルコース制限度)である。
【0033】
図8は、CHO MUC/IgG2a PH3744/25におけるMUC2-GFP-C-termの生産に関して、プロセス時間[h]に対して生細胞数[ml-1]を左側にプロットし、残存グルコース濃度[mM]を右側にプロットしたグラフを示す。グラフにおいて、
□は、生細胞数であり、
◇は、グルコースである。
【0034】
図9において、グルコース濃度および乳酸濃度ならびに培地流入物中のグルコース濃度[mmol/l]がプロセス時間[h]に対してプロットされている。この図において、
□の曲線は、乳酸濃度曲線であり、
◇の曲線は、グルコース濃度曲線であり、
×は、培地流入物中のグルコース濃度(23.9mmol/l)である(流速D=0.035h-1)。
【0035】
図10において、時間[h]に対してMUC2-GFP-C-termの濃度[nM]がグラフの左側にプロットされ、qMUC2-GFP-C-term[nmol/(hE9細胞)]がグラフの右側にプロットされている。この図において、
●は、MUC2-GFP-C-termの比生産性q(nmol/hE9細胞)であり、
◇は、MUC2-GFP-C-termの濃度(nM)である。
【0036】
図1は、グルコース供給に関する本発明による手順を一例として示す。一定量のグルコースを連続灌流培養物に供給する。示された実施例において、これは、一定の培地流速(この場合、培地流入物中のグルコース濃度は一定である)によって達成された。培地流速は、生細胞密度の増加と共に増加しない。このプロセスは連続プロセスを開始する前にバッチとして開始した。
【0037】
図2は、この手順においてDGLがプロセスの間に減少し、最終的に、0.4より下の値に達することを示している。これが起こると、比生産性が増大し、最終的に、DGL値が0.4より下になる前の値より4倍高い値に達する。
【0038】
図3は、時間経過の間に、生細胞密度が最大値に向かう傾向があり、次いで、この最大値が維持されると同時に、残存グルコース濃度が0に向かう傾向があることを示す。グルコースが供給されていても、これが起こる。残存グルコース濃度が低下する間に、生物の比グルコース取り込み速度(specific glucose uptake rate)は減少し始める。これが起こると、生細胞数はなお増加することができる。比グルコース取り込み速度の低下と同時に、比乳酸形成速度(specific lactate formation rate)も減少する。最初に、培養容器中の乳酸濃度はゆっくりと増加し、次いで、乳酸濃度は減少する。最後に、図4に示したように、培養容器中の乳酸濃度は0に向かう傾向がある。従って、細胞代謝はかなり転換する。図5に示したように、この細胞代謝の転換は、細胞代謝が転換する前と比較して約4倍の比生産性の増大と関連している。説明された期の間に、比生産性が増大することと、細胞密度が少なくとも一定に保たれるか、または依然として増殖するために、図5に示したように、最終的に培養上清中の生成物力価が著しく増加し、従って、空間/時間収量が増大する。
【0039】
表1は、MUC1-IgG2aの発酵に関するデータを示す。
【0040】
図1〜5と同様に、図6〜10は、CHO MUC2-GFP-C-term細胞を用いて本発明による方法を使用した結果を示す。
【0041】
表2は、MUC2-GFP-C-termの発酵に関するデータを示す。
【0042】
生産技術に関して、本発明による方法は、前記で述べた灌流法に加えてフェドバッチ(流加プロセス)として操作することもできる。
【0043】
フェドバッチ操作では、DGLが好ましくは0.5の値より下に、特に好ましくは0.4の値より下に、さらに好ましくは0.3の値より下に下がるように、一回でもしくは反復して、またはバッチ式もしくは連続的に、グルコース含有培地または別個のグルコース溶液が生産培養物に供給される。この場合、反復フェドバッチも可能である。
【0044】
プロセスは、灌流プロセスならびにフェドバッチプロセスにおいて一般に知られている全ての手順で開始することができる。従って、本発明による手順を開始する前に、細胞を保持して、または細胞を保持せずに、バッチ法、フェドバッチ法、または連続法として、培養を操作することができる。
【0045】
(表1)MUC1-IgG2a発酵のデータ

【0046】
(表2)MUC2-GPP-C-term発酵のデータ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
物質を生産するために細胞を培養する方法であり、物質を生産する細胞がグルコース制限(DGL)下で培養され、ここでDGL(DGL=qGlc/qGlcmax、qGlc=観察された現在の比グルコース消費速度およびqGlcmax=これらの細胞の既知の最大比グルコース消費速度)が細胞の維持のみをもたらすDGL(DGLmaintenance)より大きく、かつ<0.5であり、ここでDGLmaintenance=qGlcmaintenance/qGlcmax (式中、qGlcmaintenance=純粋な維持代謝のための観察された比グルコース消費速度およびqGlcmax=これらの細胞の既知の最大比グルコース消費速度)であることを特徴とする方法。
【請求項2】
DGLが<0.4または<0.3であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
供給されるグルコースの量が、グルコースの無い最大予想細胞数が最大限に消費することができる量の50%以下であることを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
供給されるグルコースの量が、グルコースの無い最大予想細胞数が最大限に消費することができる量の35%以下であることを特徴とする、請求項3記載の方法。
【請求項5】
CHO(例えばCHO-K1)、BHK(例えばBHK-21)、ハイブリドーマ、ミエローマ細胞(例えばNS/O)、他の哺乳動物細胞、および昆虫細胞または他の高等細胞を含む細胞株の群から1つの成分が用いられることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
生産される物質がタンパク質またはポリペプチドであることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
生産される物質が、融合タンパク質、MUC1-IgG2a、MUC2-GFP-C-term、EPO、インターフェロン、サイトカイン、増殖因子、ホルモン、PA、免疫グロブリン、免疫グロブリン断片、または他の糖タンパク質であることを特徴とする、請求項6記載の方法。
【請求項8】
グルコース制限が行われる前に、他の栄養成分に関して制限を行わないグルコース含有培地が用いられることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
グルコースが他の基質とは別々に供給されることを特徴とする、請求項8記載の方法。
【請求項10】
pH6.7〜7.7の範囲で行われることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
生成物の不可逆的な破壊が起こらない温度範囲で行われることを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
少なくとも部分的な細胞保持を伴う連続プロセスで操作されることを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
フェドバッチ(fed-batch)プロセスで行われることを特徴とする、請求項1から12のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
バッチプロセスとして開始し、フェドバッチプロセスまたは連続プロセスとして継続することを特徴とする、請求項1〜13のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
生産が増殖とつながっていない細胞を用いて行われることを特徴とする、請求項1から14のいずれか一項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−110331(P2010−110331A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−9094(P2010−9094)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【分割の表示】特願2004−554195(P2004−554195)の分割
【原出願日】平成15年11月7日(2003.11.7)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】