説明

特に窒素酸化物(NOX)のトラッピングのために使用される、アルミナ、セリウムおよびバリウムおよび/またはストロンチウムに基づく組成物

【課題】ガス状流体中に含まれる窒素酸化物のトラッピング(tapping)を可能にするアルミナベース組成物を提供する。
【解決手段】この組成物は、アルミナ、セリウムおよびバリウム、ストロンチウムまたはこれら2つの元素の会合を含む群から選択される二価の金属Mによって形成され、組成物の全重量に対する酸化物の重量で表される元素Mの重量の少なくとも10%含み、および式MAlの金属元素Mのアルミン酸塩化合物を含まないことを特徴とする。言い換えれば、この化合物は、空気中で700℃において2時間焼成した後に、組成物のX線回折で検出不能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス流体中に含まれる窒素酸化物をトラッピングするためのアルミナベースの組成物に関する。
【0002】
本発明は、より具体的に、例えばガソリンエンジンまたはディーゼルエンジンなどの内燃エンジンの排出ガス処理のための装置に使用することもできる組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
特に、環境保護の観点から産業または家庭の放出物もしくは排出物の処理についてますます厳しい基準が要求され課されている。
【0004】
特に、輸送およびエンジンの分野では、有害なガス放出物についての基準の締めつけによって、窒素酸化物、より具体的にはNOおよびNO(これ以降NOxという記号で示す)に関する効率的で耐久性のある触媒低減システムの開発が強く求められている。
【0005】
内燃エンジン、特にガソリンエンジンの排出ガス中の窒素酸化物放出を低減するために、多くの解決策が既に提案されている。
【0006】
従って、炭化水素、COおよびNOxのレベルを同時に低減することのできる「三元」触媒が多年にわたって利用可能であった。
【0007】
しかし、希薄混合気(濃度(richness)としても知られている、燃料/酸化剤比が、化学量論比未満)でディーゼルエンジンまたはガソリンエンジンが走行している場合、「三元」触媒はNOxに対しては適切ではない。
【0008】
これら酸化条件の下で生成されたNOxを低減するために、システムはNOxトラップを含むことが提案されている。これらのシステムは、窒素酸化物(NOおよびNO)が、第1段階において、基本的に硝酸塩の形態で触媒の表面に保存され、次いで第2段階で窒素に転換される複雑な機構に基づいている。この転換は、特にエンジンの走行形態を、混合物の濃度を増加して、NOxを窒素に転換するのに有利な、濃厚で還元性の媒体になるように改質することで得られる。
【0009】
しかし、窒素酸化物トラッピングのために提案されている既知のシステムには、重大な欠点がある。
【0010】
温度によって制限される作動領域(作動ウィンドウ)。良好なNOxトラッピングシステムは、約200℃から約600℃の間で最適に作動しなければならないと考えられる。
【0011】
熱的安定性の欠如に関連する不十分な耐久性。
【0012】
主要なシステムは、例えば、バリウム化合物をアルミナによって構成される多孔性支持体に含浸させることで得られるバリウムなど、アルミナに基づくトラッピング組成物を含む。これらシステムは、基本的に触媒が新しいときは高いNOx保存能力を有していることが知られているが、この能力は急速に失われるので、これらシステムの使用が大きく制限される。この現象は、バリウムのアルミナに対する比率が高くなると比例的に速くなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の1つの目的は、良好な安定性の特性、特に熱的安定性を有し、良好な効果を非常に広範囲な温度範囲またはウィンドウにわたって、特に約200℃、あるいはそれより低い温度において有する、窒素酸化物トラッピングシステムのために使用することのできる組成物を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的を達成するために、本発明は、アルミナ、セリウムに基づき、およびバリウム、ストロンチウムまたはこれらの2つの元素の組合せを含む群から選択される二価金属Mに基づき、これが組成物の全重量に対する酸化物の重量として表される元素Mを少なくとも10重量%含み、式MAlの金属元素Mのアルミン酸塩化合物を含んでいない、すなわち、この化合物が、前記組成物を700℃の温度において空気中で2時間焼成した後、組成物のX線回折で検出不能である化合物であることを特徴とする固体組成物を提案する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】X線回折図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
式MAlの化合物を含んでいないことは、空気中で800℃において2時間、さらに有利には空気中で900℃において2時間焼成した後の本発明の組成物の有利な特徴である。
【0017】
本発明の1つの特徴により、元素セリウムおよびMは、主として酸化物の形態、炭酸塩の形態、またはアルミナ中の固溶体の形態で組成物中に存在する。これら様々な形態は、組成物中に一緒に存在し得る。
【0018】
これらの元素の他の形態も少量存在し得る。
【0019】
本発明の1つの好ましい特徴により、酸化物として表される元素Mの濃度は、全組成物に対して10重量%から25重量%の間、より好ましくは15重量%から22重量%の間が有利である。
【0020】
本発明の別の特徴により、組成物の全重量に対する酸化セリウムの重量で表されるセリウムの濃度は、2%以上、有利には2%から15%(限界値を含む)である。
【0021】
本発明の組成物は、構成している様々な元素が、組成物中に実質的に均一に分布していることが有利である特徴を有する。この均一な分布は、走査型および/または透過型電子顕微鏡によって実証することができる。
【0022】
この点において、SEM/ESD分析は、寸法が100nmを超える酸化セリウム凝集塊が存在しないことを示している。この分析は、この組成物の他の成分と相互作用している細かく分割された酸化セリウム粒子も明らかにしている。
【0023】
TEM分析は、酸化セリウム粒子が10nmを超えない平均寸法を有し、この寸法が生成物の調整中に使用される焼成温度に依存することを有効に示している。10nmの粒子寸法は、空気中で1000℃において2時間焼成した生成物のXRD分析によって確認され、この寸法は、同じ技法を使用して測定して、より低い温度、例えば900℃または600℃において、それぞれ空気中で2時間焼成した生成物に関して、例えば7nmを超えない、またはさらにより具体的には6nmを超えない、もっと小さな寸法とすることもできる。
【0024】
従って、かかる組成物は、1つまたは複数の酸化物、特にセリウムおよび/または元素Mをアルミナによって構成されることが有利である支持体上に含浸させる標準的方法によっては得ることができない。
【0025】
一方、様々な金属元素の実質的な均一分布を有する固体組成物を得るための全ての製造方法(これの一部は後述する)は、本発明において使用するのに適している。
【0026】
「式MAlのアルミン酸塩化合物を含まない」という表現は、700℃の温度において2時間焼成した組成物についてのX線回折において、化合物MA1に相当するピークが含まれていないことを意味すると理解されなければならない。従って、Mがバリウムを表す場合、BaA1化合物(ICCD−PDFシート(回折データのための国際センター−粉末回折データファイル)No.730202を参照として使用)に相当するピークが、得られたX線回折図には含まれていない。
【0027】
窒素酸化物のトラッピングのためのシステムで使用する前であるが、空気中、700℃で2時間焼成した後の組成物に関するX線回折図がこれらのピークを示さず、その組成物が既述の組成物に一致する場合、この組成物は本発明に合致する。
【0028】
以下に説明する試験によって証明されるように、900℃または1000℃において2時間焼成した後、MA1構造に相当する化合物または相を含まないことは、高比表面積の組成物を得ることを可能にする。さらに、窒素酸化物のトラッピングのためのシステムにおける組成物の使用中のこの比表面積の低下は低い。
【0029】
本発明による組成物は、空気中で900℃において2時間焼成した後、有利に80m/g以上の比表面積を有しており、90m/g超の比表面積を有していると有利である。これら組成物は、空気中で1000℃において2時間焼成した後に、70m/g以上の比表面積を有していることが好ましく、80m/g超の比表面積を有していることがより好ましい。
【0030】
「比表面積」という用語は、Journal of the American Chemical Society、60、309(1938)において記述されているBraunauer−Emmett−Teller法から確立されたASTMD3663−78標準に従った窒素吸着により測定したBET表面積を意味する。
【0031】
本発明の新規の特徴によれば、化合物Mはバリウムであることが好ましい。
【0032】
本発明の別の好ましい特徴によれば、組成物は以下にPの文字で表す他の金属元素を含むこともできる。
【0033】
これらの金属元素は、鉄、ジルコニウム、マンガン、カルシウム、カリウム、マグネシウムおよび希土類金属を含む群から選択される。
【0034】
「希土類金属」という用語は、イットリウムを含むランタニドグループに属する元素を意味する。
【0035】
これら金属元素は、単独でまたは組合せで組成物中に存在することもできる。例えば鉄またはマンガンなどの金属元素は、NOのNOへの酸化を促進するために、単独でまたは組合せで存在すると有利なこともある。他の元素、特にランタニド族に属する元素は、特に組成物の熱的安定性を改善するために存在することもできる。
【0036】
本発明の好ましい金属元素Pとしては、ランタン、プラセオジミウム、ネオジミウム、イットリウム、ジルコニウム、鉄およびマンガン、およびこれらの組合せを挙げることもできる。
【0037】
これら金属元素は、組成物中に主に酸化物または炭化物またはアルミナ中の固溶体および/または酸化セリウムの形態で存在する。これら様々な形態は、組成物中に一緒に存在することもできる。
【0038】
このリストは手引きとして与えられるもので、包括的なものではない。従って、本発明の組成物のある性質を改良することを可能にするするいかなる金属元素も使用に適している。しかし、有害な化合物を発生する金属元素またはそれ自体が環境に対して毒性である金属元素は望ましくない。
【0039】
組成物中の元素Pおよびセリウムの全重量濃度は5重量%以上であり、セリウム酸化物の濃度は、全組成物の2%以上であることが有利である。これらの濃度は、全組成物の重量に対する元素の酸化物の重量として表される。
【0040】
ドーピング元素Pとセリウムの濃度は、5%から15%の間(限界値を含む)であると有利である。
【0041】
本発明の組成物は、約200℃以上の温度において、広範囲な温度範囲、例えば、約200℃から約600℃の間、より具体的には200℃から500℃で、非常に高い窒素酸化物のトラッピング能力を有する。
【0042】
本発明の組成物は、触媒的に活性な元素の担体として有利に使用することもできる。従って、排出ガス処理の場合、一酸化窒素の二酸化窒素への酸化のための、触媒的に活性な元素は、担持触媒製造の標準的方法により本発明の組成物の表面上に堆積される。
【0043】
しかし、本発明のある組成物は、前のパラグラフで記述した触媒的に活性な元素無しで、NOのNOへの酸化を促進する性質を有している。この性質は、鉄および/またはマンガンが存在するときに特に存在し効率的である。従って、かかる組成物は、触媒的に活性な元素を含まないかまたは少量の存在とすることができる。
【0044】
本発明の組成物は、他の触媒システム、特に窒素酸化物を環境に対して毒性または有害ではない化合物に還元するためのシステムと組み合わせてもよい。
【0045】
本発明の組成物は、粉末、顆粒もしくはビーズの形態、または特にハニカム形態の押し出し品の形態として使用することもできる。
【0046】
これらは、特に耐熱性のハニカム形態の緻密構造体、例えばセラミックまたは金属構造物など、のための被覆として使用することもできる。かかる表面被覆は、「ウオッシュコート(wash−coat)」という用語で呼ばれる。
【0047】
本発明の組成物を製造するための方法の実施形態の例としては、出発原料にアルミナ前躯体を使用し、これを元素Mおよびセリウムの可溶性化合物またはゾルもしくはゲルと混合する方法を挙げることもできる。
【0048】
「アルミナ前躯体」という用語は、例えば、ベーマイトゲルなどの任意の前躯体を意味し、これは空気中で500℃から700℃の間において焼成した後、遷移アルミナに相当する化合物となる(X線回折によって実証される)。
【0049】
これら組成物を得るための方法の第1の実施形態は、
−混合物を液体媒体中で調製して、可溶性セリウム化合物、アルミナ前躯体および場合によって元素Mおよび/またはPの可溶性化合物を含有させる段階と、
−混合物を加熱する段階と、
−形成された固体を回収し分離する段階と、
−得られた固体を所定の温度において所定の時間焼成する段階とを含む。
【0050】
元素Mおよび/またはPは、可溶性化合物の形態またはゲルもしくはコロイド溶液の形態のいずれかの方法の任意の段階で導入することができる。従って、方法の一変形形態において、元素MおよびPは、熱処理の段階の後媒体へと導入されるかまたはセリウム/アルミナ混合物の加熱によって導入される。
【0051】
「セリウムおよび元素MまたはPの可溶性化合物」という用語は、混合物の調製に使用される、溶剤に可溶性の化合物を意味する。好ましくは溶剤が水であると有利である。
従って、これら化合物は、上述の元素の硫酸塩、硝酸塩、塩化物または酢酸塩から選択することもできる。また、本発明の状況から逸脱することなく、コロイド溶液としても知られている様々な元素の水性ゲルまたはゾルを使用することも可能である。
【0052】
「ゲル」および「ゾル」という用語は、セリウム、元素MまたはPの化合物に基づくコロイド状寸法、すなわち約1nmから約500nmの間の寸法、の微細固体粒子で構成される任意のシステムを意味し、この化合物は一般的に水性液相に懸濁している酸化物および/または水和酸化物である。前記粒子は、場合によっては、例えば硝酸塩、酢酸塩、塩化物またはアンモニウムイオンなど、残量の結合したまたは吸着したイオンを含有することもできる。かかるゾルまたはゲルにおいて、元素は全部がコロイド形態でも、あるいはイオンとコロイドの形態でもよいことに留意されたい。
【0053】
好ましくは少なくとも99%の、より具体的には少なくとも99.5%の高純度の化合物を使用すると有利である。
【0054】
元素セリウム、MおよびPの化合物の水溶液は、場合によっては塩基または酸を加えることによって調節することができる初期遊離酸度を有することもできる。遊離酸度を調節するのに適した塩基には、例えば、アンモニア水または水酸化物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)を挙げることもでき、アンモニア水が好ましい。遊離酸度を調節するのに適した酸には、硝酸を挙げることもできる。
【0055】
一旦初期混合物がこの様にして得られたならば、これは次いで本発明による方法の第2段階に従って加熱される。
【0056】
この加熱または熱処理が行われる温度は、好ましくは少なくとも70℃、より具体的には少なくとも100℃である。従って、100℃から反応媒体の臨界温度の間、特に100℃から350℃、好ましくは100℃から200℃の間である。
【0057】
加熱操作は、上記の物質を含有する液体媒体を密封チャンバー(オートクレーブ型の密封反応装置)に導き、所要圧力は反応媒体の加熱から得られた圧力(自己圧力)だけで行うこともできる。上で示した温度条件の下、水性媒体中で、密閉反応装置中の圧力は例示的な目的で、1バール(10Pa)超から165バール(1.65x10Pa)の間、好ましくは5バール(5x10Pa)から165バール(1.65x10Pa)の間にわたるということもできる。いうまでもなく、その後の加熱によって加えられる外圧を適用することも可能である。
【0058】
加熱は、解放型反応装置中で、約100℃の領域で同様に行うこともできる。
【0059】
加熱は、空気中または不活性もしくは非酸化性ガス、好ましくは窒素ガス、の雰囲気中のいずれかで行うこともできる。
【0060】
処理時間は重要ではなく、例えば1時間から48時間、好ましくは2時間から24時間などの広い範囲の中で変えることもできる。同様に、温度上昇はある速度で行われるが、これは重要ではなく、媒体を加熱することによって、例えば、30分から4時間において、設定した反応温度に達する。これらの値は、全く手引きとして与えられるものである。
【0061】
加熱段階の後、固体生成物は回収される。固体生成物は、例えばろ過、傾斜、水切り、遠心分離または噴霧などの固体−液体分離の任意の標準的技法により、媒体から分離することもできる。噴霧が好ましい技法である。
【0062】
回収した生成物は、次いで場合によっては洗浄を施すこともできる。
【0063】
本発明の方法の最終段階において、回収された固体生成物は焼成される。この焼成は、得られた生成物の結晶化度が発展する可能性があり、また、本発明による組成物のために予定されているその後の作業温度に応じて、使用する焼成温度が高くなると生成物の比表面積が比例して低くなるという事実を考量して、調節および/または選択することもできる。かかる焼成は、一般的に空気中で行われるが、焼成を、例えば不活性ガスまたは制御された雰囲気(酸化性または還元性)で行うことも除外されないことは明らかである。
【0064】
実際には、一般的に焼成温度は300℃から1000℃の範囲の値に制限される。
【0065】
本発明の組成物は、第2の変形方法によって得ることもでき、この方法は、また液体媒体中で、セリウムの可溶性化合物、元素Mおよび任意選択元素Pのアルミナ前躯体との混合物を形成する。
【0066】
この混合物は、好ましくは噴霧によって、直接乾燥すると有利である。回収された固体生成物を、場合によっては洗浄した後、第1の実施形態において示したのと類似の条件の下、空気中で焼成する。
【0067】
第1実施形態と同様に、元素セリウム、MまたはPのゲルもしくはゾルを可溶性化合物の代わりに使用することもできる。
【0068】
これらの方法において、出発混合物は、その後水ストック中で導入される初期に固体形態である化合物か、またはこれらの化合物の水溶液を直接使用し、その後任意の順序で前記溶液を混合するかのいずれかにより、分け隔てなく得ることもできる。
【0069】
前に示したように、本発明の組成物は、主な機能がNOのNOへの酸化を促進することである触媒元素と一般的に組み合わされる。これら触媒元素は既知であり、一般的に金属、とりわけ貴金属である。「貴金属」という用語は、金、銀、白金鉱物または白金族金属、すなわち、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムおよび白金を意味する。これらの金属は、単独でまたは組み合わせて使用することもできる。白金が特に使用され、単独でまたは特にロジウムおよび/またはパラジウムと組み合わせて使用され、組合せの場合、白金が他の金属に比較して支配的な割合で使用される。
【0070】
触媒元素の量は、例えば貴金属の場合、0.05%から10%の間、好ましくは0.1%から5%の間でよく、この量は組成物に触媒元素を加えた全体の質量に対する金属形態中の金属の質量で表される。
【0071】
しかし、前で述べたように、組成物がNOのNOへの酸化を促進する、例えばマンガンおよび/または鉄などの元素Pを含んでいる場合、この触媒元素は不在かまたは非常に少量、とりわけ0.05%未満とすることもできる。
【0072】
前に説明した金属は、任意の既知の方法、例えば、白金のアミノ錯体としての前記触媒の前躯体を含む水溶液を用いた組成物の含浸などを経由して本発明の組成物へ導入することもできる。
【0073】
本発明によって処理することのできるガスは、例えば、ガスタービン、発電所ボイラーまたは内燃エンジンに由来するガスである。後者の場合、特に希薄混合気で走行しているディーゼルエンジンまたはガソリンエンジンのガスである。
【0074】
本発明の方法で使用される組成物は、これが高い酸素含有量有するガスと接触して置かれる場合、NOxトラップとして機能する。「高い酸素含有量を有するガス」という用語は、燃料または可燃物の化学量論的燃焼に必要な量に対して過剰な酸素量を有するガスを意味し、より具体的には化学量論的値λ=1に対する酸素の過剰を有するガスを意味する。値λは、特に内燃エンジンの分野において、それ自体が既知である方法により、空気/燃料比に関連づけられる。かかるガスは希薄混合気(リーンバーン)で走行している自動車からのガスであり、希薄混合気は(容積で表して)少なくとも2%の酵素含有量を有し、同じく例えばディーゼル型のエンジンからのガスは、もっと高い酸素含有量、すなわち容積で少なくとも5%、あるいは5%超、とりわけ少なくとも10%より多く、この含有量は、例えば5%から20%の間とすることがおそらく可能である。
【0075】
本発明の方法の実施において、NOxトラップとして使用することもできる組成物は、例えばガス中のλの値が1以下の場合に有効な三元触媒などの補完的な汚染制御システム、あるいは炭化水素注入のためのシステム、ディーゼルエンジンのための排気ガスリサイクル(EGRシステム)などと組み合わせることもできる。
【0076】
組成物、または組成物を含む触媒は、他の汚染制御システム、例えば、粒子フィルター、酸化触媒、水素化脱硫触媒、NOx減少システムまたは装置(特に尿素またはアンモニアでの還元により)などと組み合わせることもできる。
【0077】
この組成物は、組成物に基づく被覆(ウオッシュコート)を含む装置中で、例えば金属モノリスまたはセラミック基材などの種類の基材上で使用することもできる。
【0078】
従って本発明は、NOxトラップとして前に説明した組成物を含むことを特徴とする、上で説明した方法を実施するための装置に関連する。この装置は、この組成物を含む触媒元素を含むリーンバーンディーゼルまたはガソリンエンジンによって動力が供給される自動車両に搭載される排気系統であることもできる。
【0079】
本発明の他の詳細および利点は、以下に示す実施例に照らしてより明らかとなろう。この実施例は単に手引きとして与えられるものであり、以下に説明する組成物AおよびFについて得られたX線回折図を示す図1を参照している。
【0080】
以下の実施例において、組成物中の元素の濃度は、組成物の全重量に対する酸化セリウム(CeO)または酸化バリウム(BaO)の重量として表される。
【0081】
実施例1
組成物Aの調製
ベーマイト(Sasol Pural SB1)40.0gを、磁石棒およびpH電極を備えたビーカー中の脱イオン水320gに撹拌しながら加える。硝酸を加えることによって、懸濁液のpHを2とする。
【0082】
全酸化物250g/lにおいて硝酸セリウム5.705gを、前に形成したベーマイトゲル177gに加える。得られた懸濁液のpHは約1.3である。この懸濁液を100℃において2時間加熱する。
【0083】
この時間の間に、硝酸バリウム6.90gを、磁石棒を備えたビーカー中で脱イオン水120gと混合する。この溶液のpHを、硝酸を加えることによってpH1.9とする。
【0084】
この硝酸バリウム溶液を、次いで撹拌しながら上述の懸濁液に加えて冷却する。
【0085】
この様にして得られた懸濁液を、Buchi型の装置上に噴霧する。得られた粉末を空気中で500℃において2時間焼成する。
【0086】
組成物Aは、以下を含有する。
A1:75%
Ce:5%
Ba:20%
【0087】
この組成物は、以下の性質を有する。
−空気中で900℃で2時間焼成した後の比表面積:81m/g
−空気中で1000℃で2時間焼成した後の比表面積:73m/g
900℃において2時間焼成した組成物についてのX線回折図を得た。これを図1に示す。BaAl相の特性ピークが存在しない。
【0088】
実施例2
組成物Bの調製
この組成物は、実施例1において記載された方法に従って調製した。
【0089】
組成物Bは、以下を含有する。
A1:80%
Ce:5%
Ba:15%
【0090】
この組成物は、以下の性質を有する。
−空気中で900℃で2時間焼成した後の比表面積:110m/g
−空気中で1000℃で2時間焼成した後の比表面積:90m/g
【0091】
実施例3
組成物Cの調製
この組成物は、実施例1において記載された方法に従って調製した。
【0092】
組成物Cは、以下を含有する。
A1:85%
Ce:5%
Ba:10%
【0093】
この組成物は、以下の性質を有する。
−空気中で900℃で2時間焼成した後の比表面積:124m/g
−空気中で1000℃で2時間焼成した後の比表面積:96m/g
【0094】
実施例4
組成物Dの調製
硝酸バリウム6.90gおよび欧州特許第208581号に記載されている酸化セリウムゾル6.173mlを、実施例1に記載されているように調製したベーマイトゲル177gに加え、硝酸でpH1.5に酸性化する。次いで懸濁液を、Buchi型の装置上に噴霧する。得られた粉末を空気中で500℃で2時間焼成する。
【0095】
組成物Dは、以下を含有する。
A1:75%
Ce:5%
Ba:20%
【0096】
この組成物は、以下の特性を有する。
−空気中で900℃で2時間焼成した後の比表面積:101m/g
−空気中で1000℃で2時間焼成した後の比表面積:82m/g
【0097】
実施例5
組成物Eの調製
全酸化物496g/lにおける硝酸セリウム3.457gを、磁石棒を備えたビーカーに入れる。この溶液に、硝酸バリウム6.90gおよび脱イオン水120gの溶液を撹拌しながら加える。次いでこの溶液を、実施例1に記載されているように調製したベーマイトゲル177gに加える。この様にして得られた懸濁液をBuchi型の装置上に噴霧する。得られた粉末を空気中で500℃で2時間焼成する。
【0098】
組成物Eは、以下を含有する。
A1:75%
Ce:5%
Ba:20%
【0099】
この組成物は、以下の性質を有する。
−空気中で900℃で2時間焼成した後の比表面積:102m/g
−空気中で1000℃で2時間焼成した後の比表面積:86m/g
900℃で2時間焼成した後の組成物BからEについて得られた回折図は、本明細書には示されていないが、BaAl相の特性ピークを含んでおらず、組成物Aの回折図と類似している。
【0100】
比較例6
乾式含浸法を介しての組成物Fの調製
硝酸バリウム(Prolabo Rectapur 99%)3.45g、脱イオン水17.5gおよび全酸化物496g/lにおける硝酸セリウム溶液1.729gを含有する溶液を、磁石棒を備えたビーカー中で80℃に加熱する。
【0101】
この溶液を、実施例1のSBIベーマイトゲルを空気中で1000で2時間焼成することによって得られたアルミナ15.69g上に80℃で含浸させる。
【0102】
次いで含浸したアルミナを、100℃で3時間乾燥する。この手順を、80℃で同量の硝酸バリウムと硝酸セリウムの溶液で2回繰り返す。この様にして得られたアルミナを100℃で3時間乾燥する。得られた粉末を空気中で500℃で2時間焼成する。
A1:75%
Ce:5%
Ba:20%
【0103】
この組成物は、以下の特性を有する。
−空気中で900℃で2時間焼成した後の比表面積:69m/g
−空気中で1000℃で2時間焼成した後の比表面積:67m/g
空気中で900℃で2時間焼成した後の組成物Eについて得られた回折図を図1に示すが、BaAl相の特性ピークを含んでいる。
【0104】
実施例7
触媒試験
この実施例は、前述の実施例の組成物から調製した1重量%の白金を含有する触媒組成物の、以下の方法によるNOx貯蔵能力の測定結果を示す。
【0105】
上の実施例の1つによる化合物5gをビーカーに入れ、水(50ml)で覆い、その後白金テトラアミン水酸化物塩の溶液(16g/lにおいて3.125ml)を加える。ロータリーエバポレーター上で蒸発した後、この様にして得られた触媒組成物を120℃のオーブンで2時間乾燥し、次いで空気中で500℃で2時間焼成し、90%空気/10%HO混合物中で700℃で4時間成熟させる。
【0106】
NOx貯蔵能力の測定は、以下の条件で行なわれる。
【0107】
上のように調製した触媒組成物を反応装置に導入し、次いで以下の組成を有するガス流中で、300℃で12時間予熱する。
(9%O+10%HO+2%SO+79%N(1000ppmSOに相当する)。
【0108】
反応装置を分離し、N流の下で室温に冷却する。この様に硫酸塩化した触媒組成物を新しい反応装置に導き、以下の組成を有する還元性ガス流の下で、150℃から600℃に加熱する。
(4.9%O+10%CO+5%CO+10%HC(N中、2500pmのC+2500pmのC)+5%HO+65.1%N)。
【0109】
上のように調製した触媒組成物を、次いで還元性流の下、600℃で20分間保持する。
【0110】
この処理の目的は、硫酸塩化−脱硫酸塩化サイクルを模擬することであり、
−反応装置を分離し、次いで静的に室温に冷却し、
−Magna 560 Nicoletフーリエ変換赤外(FT−IR)スペクトロメーターにより連続的に分析して、窒素中に10%O+5%HO+10%CO+300ppmNOの組成物を有する反応流を、(NO+NO)分析の安定化の後に、予め所望の反応温度に設定されている触媒反応装置に導入し、
−反応装置出口におけるNOおよびNOそれぞれの濃度をFTIRスペクトロメーターにより連続的に決定し、
反応流が触媒組成物上に到着した後のNOおよびNOの1分間にわたる濃度を積分することでトラップされたNOxの量を計算することを可能にする。結果は、供給されたNOxの量に対する1分間でトラップされたNOxの質量(%)で表される。
−次いで、所望の温度において触媒組成物の他の試料について測定する。
【0111】
表1に、200℃、300℃、350℃および400℃の温度においてトラップされたNOxの量を示す。この表の触媒組成物1および2は、組成物A(試験7a)および組成物F(比較試験7b)に関して、それぞれ前に説明した方法により、白金による含浸後に得られた生成物に対するものである。
【0112】
【表1】

【0113】
表1の結果から、本発明の組成物は、200℃から400℃の間の温度範囲を通して最大の効果を有しているが、一方比較組成物Fでは、この最大効果が、むしろ300℃と400℃にあることが分かる。この様に、本発明の触媒組成物は、温度範囲を通して特に有効であり、200℃から300℃さらに良好には200℃および250℃の低温度においてとりわけ効果的である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物の全重量に対する元素Mの酸化物の重量で表される元素Mを少なくとも10重量%含み、式MAlの化合物が、空気中で700℃の温度で2時間焼成した組成物においてX線回折で検出不能であることを特徴とする、アルミナ、セリウムに基づき、およびバリウム、ストロンチウムまたはこれら2つの元素の組合せを含む群から選択される金属元素Mに基づく固体組成物。
【請求項2】
元素Mの濃度が、組成物の全重量に対して前記元素Mの酸化物が10重量%から25重量%の間であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
元素Mの上述の濃度が、15重量%から22重量%の間であることを特徴とする、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
900℃で2時間焼成した後、少なくとも80m/gの比表面積を有することを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
900℃で2時間焼成した後、少なくとも90m/gの比表面積を有することを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
1000℃で2時間焼成した後、少なくとも70m/gの比表面積を有することを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
1000℃で2時間焼成した後、少なくとも80m/gの比表面積を有することを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
組成物の全重量に対する酸化セリウムの重量として表されるセリウムの濃度が、2重量%以上であることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
空気中で800℃で2時間焼成した組成物についてのX線回折によって検出可能な、いかなる式MAlの化合物も含まないことを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
空気中で900℃で2時間焼成した組成物についてのX線回折によって検出可能ないかなる式MAlの化合物も含まないことを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
セリウムおよび元素Mが、酸化物および/または炭酸塩および/またはアルミナ中の固溶体の形態で存在することを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
希土類金属、カリウム、マグネシウム、鉄、ジルコニウム、マンガンおよびカルシウム、またはこれらの元素の1つまたは複数の組合せを含む群から選択される少なくとも1つの金属元素Pを含むことを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
セリウムおよび元素Pの重量濃度が、酸化物の重量で表して全組成物の5%から15%の間であり、セリウムの濃度が酸化物で表して2重量%以上であることを特徴とする、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
元素Pが、ランタン、プラセオジミウム、ネオジミウム、イットリウム、カルシウム、カリウム、マンガンおよび鉄、またはこれらの元素の幾つかの組合せを含む群から選択されることを特徴とする、請求項12または13に記載の組成物。
【請求項15】
元素Pが、酸化物および/または炭酸塩および/またはアルミナ中の固溶体および/または酸化セリウム中の固溶体の形態で存在することを特徴とする、請求項12から14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか一項に記載の組成物および前記組成物上に堆積した触媒的に活性な元素を含むことを特徴とする触媒。
【請求項17】
触媒的に活性な元素が、貴金属および白金鉱物または白金族に属する金属から選択されることを特徴とする、請求項16に記載の触媒。
【請求項18】
触媒的に活性な元素が、白金、パラジウムおよびロジウムを、単独でまたは組合せで含む群から選択されることを特徴とする、請求項11に記載の触媒。
【請求項19】
少なくとも1つの元素Pが、鉄およびマンガン、またはこれらの組合せを含む群から選択される請求項12から15のいずれか一項に記載の組成物を含むことを特徴とする、窒素酸化物の酸化のための触媒。
【請求項20】
白金鉱物金属から選択される触媒的に活性な元素を含むことを特徴とする、請求項19に記載の触媒。
【請求項21】
−液相中にセリウムの可溶性またはゾル/ゲル化合物、アルミナ前躯体および場合によっては元素Mの可溶性またはゾル/ゲル化合物、および元素Pの可溶性またはゾル/ゲル化合物を含む混合物を形成する段階と、
−前記混合物を加熱する段階と、
−固体生成物を回収する段階と、
−前記固体生成物を焼成する段階と
であることを特徴とする、請求項1から15のいずれか一項に記載の組成物を調製する方法。
【請求項22】
元素Mおよび/または元素Pの可溶性またはゾル/ゲル化合物が、初期の混合物加熱段階の後で前記混合物に加えられることを特徴とする、請求項21に記載の調製方法。
【請求項23】
固体生成物の回収が、セリウム、アルミナ、元素Mおよび場合によっては元素Pを含有する混合物の噴霧によって得られることを特徴とする、請求項21及び22に記載の方法。
【請求項24】
−液体媒体中で、アルミナ前躯体、セリウムの可溶性化合物またはゾル/ゲル、元素Mの可溶性化合物またはゾル/ゲル、場合によっては元素Pの可溶性化合物またはゾル/ゲルを含有する混合物を調製する段階と、
−前記固体生成物を回収する段階と、
−前記固体生成物を焼成する段階と
であることを特徴とする、請求項1から15のいずれか一項に記載の組成物を製造する方法。
【請求項25】
固体生成物の回収が、混合物の噴霧によって行われることを特徴とする、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
請求項1から15のいずれか一項に記載の組成物をトラップとして含むことを特徴とする、窒素酸化物(NOx)トラッピングのための装置。

【図1】
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【公開番号】特開2012−167010(P2012−167010A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−88114(P2012−88114)
【出願日】平成24年4月9日(2012.4.9)
【分割の表示】特願2009−510405(P2009−510405)の分割
【原出願日】平成19年5月7日(2007.5.7)
【出願人】(508183151)ロデイア・オペラシヨン (70)
【Fターム(参考)】