説明

状態判定装置および状態判定方法

【課題】制御系の状態判定を行う際にオーバーシュート量を従来よりも適切な判定指標として利用できるようにする。
【解決手段】状態判定装置は、制御量PVが設定値SPに到達する直前の特定時間Tx内における制御量PVの変化量と制御量のオーバーシュート量との比率Rを算出する算出部1〜6と、比率Rを判定指標としてPID制御系の状態を判定する判定部7,8とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィードバック制御系に係り、特にフィードバック制御系の状態を判定する状態判定装置および状態判定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
簡単な構成で、かつ低コストで制御ループ(フィードバック制御系)の異常を精度よく検出する技術として、異常検出装置が提案されている(例えば特許文献1参照)。この異常検出装置は、設定値と制御対象の制御量との偏差がしきい値を越えているか否かを判定することにより制御系の異常を検出するものであり、数値指標を用いて制御系の状態を判定していることになる。
【0003】
また、上記の偏差に関連する数値指標として、図19に示すように設定値SPのステップ変更に伴うステップ応答時の制御量PVのオーバーシュート量ovや、制御系の不安定化に伴うハンチング現象時のハンチング上下動幅htなどが、制御系の状態判定に用いられることもある。
【0004】
【特許文献1】特開2004−70932号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術では、数値指標を用いて制御系の状態を判定しているが、オーバーシュート量は常に単純な数量比較で判定できるものではない。オーバーシュート量を単純な数量比較で判定できない理由を以下に説明する。
【0006】
まず、設定値SPと制御量PVとの偏差に基づいて算出される操作量MVの出力に上下限値の制約がなく、かつ制御対象の特性が線形の系である場合を想定する。このような場合における設定値SP1の変更に伴う制御量PV1のステップ応答と、設定値SP1の変更幅を2としたときに変更幅が1となる設定値SP2の変更に伴う制御量PV2のステップ応答を図20に示し、設定値SP1の変更に伴う操作量MV1の変化と設定値SP2の変更に伴う操作量MV2の変化を図21に示す。
【0007】
図20に示した設定値SP1の変更に伴う制御量PV1のステップ応答と設定値SP2の変更に伴う制御量PV2のステップ応答とを比べると、図21に示すように操作量MV1,MV2の動きに制約がないので、オーバーシュートが発生するまで制御量PV1,PV2は、設定値SP1,SP2のステップ変更幅に比例する応答を示す。例えば制御ループを制御するコントローラがPID制御則に基づくものであり、かつ同じPIDパラメータで同じ状態の制御対象であるならば、制御系の安定性や即応性というような制御特性は全く同じでありながら、オーバーシュート量は設定値SPのステップ変更幅に比例して異なる。
【0008】
図20の例では、制御量PV1のオーバーシュート量ov1と制御量PV2のオーバーシュート量ov2との比は2:1であり、設定値SP1の変更幅と設定値SP2の変更幅の比に等しくなる。したがって、図20、図21の場合は、単純に言えば設定値SPのステップ変更幅が大きいほど、オーバーシュート量が大きくなるのが正しいということになる。
【0009】
なお、実質的にステップ応答が完了して、制御量PVに不安定化によるハンチングが残る場合は、そのハンチングの上下動幅は設定値SPのステップ変更幅に無関係に同じ量になる。図20の例では、制御量PV1のハンチング上下動幅ht1と制御量PV2のハンチング上下動幅ht2との比は1:1である。
【0010】
次に、操作量MVの出力に上下限値の制約があり、制御対象の特性が線形の系である場合を想定する。例えばヒータにより加熱を行う温度制御系では、加熱工程すなわち昇温工程においては、ヒータ出力すなわち操作量MVを最大にするのが通常的な挙動である。このような場合における設定値SP1の変更に伴う制御量PV1のステップ応答と、設定値SP1の変更幅を2としたときに変更幅が1となる設定値SP2の変更に伴う制御量PV2のステップ応答を図22に示し、設定値SP1の変更に伴う操作量MV1の変化と設定値SP2の変更に伴う操作量MV2の変化を図23に示す。
【0011】
図22に示した設定値SP1の変更に伴う制御量PV1のステップ応答と設定値SP2の変更に伴う制御量PV2のステップ応答とを比べると、図23に示すように操作量MV1,MV2はどちらも同じ最大出力を維持することになる。つまり、操作量MV1,MV2が出力上限値で制限される状態、いわゆる出力飽和と言われる状態となっている。この場合、制御量PV1,PV2の応答については、図22に示すように応答前半はどちらも同じ割合で上昇する。
【0012】
そして、制御量PV1が設定値SP1に接近すると、制御量PV1の上昇の割合が低下し、結果的に制御量PV1のオーバーシュート量ov1は制御量PV2のオーバーシュート量ov2に比べて少なめになる(ov1:ov2≠2:1、ov1<ov2)。したがって、図22、図23の場合は、単純に言えば設定値SPのステップ変更幅が大きいほど、オーバーシュート量が小さくなるのが正しいということになる。
【0013】
なお、実質的にステップ応答が完了して、制御量PVに不安定化によるハンチングが残る場合は、そのハンチングの上下動幅は設定値SPのステップ変更幅に無関係に同じ量になる。図22の例では、制御量PV1のハンチング上下動幅ht1と制御量PV2のハンチング上下動幅ht2との比は1:1である。
【0014】
以上のように、オーバーシュート量は設定値SPのステップ変更幅に応じて変動するので、従来の技術のようにオーバーシュート量をしきい値と単純に比較したとしても、制御系の状態を正しく判定することはできないという問題点があった。従来の技術のように制御系の状態判定指標として単純にオーバーシュート量を用いると、設定値SPのステップ変更幅が異なる場合に状態判定指標としては全く不適切なものになってしまう場合があった。
【0015】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、略線形な特性の制御対象とPIDコントローラとからなるPID制御系についてオーバーシュート量を判定指標として制御系の状態判定を行なう際に、オーバーシュート量を従来よりも適切な判定指標として利用することができる状態判定装置および状態判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の状態判定装置は、制御量が設定値に到達する直前の特定時間内における前記制御量の変化量と前記制御量のオーバーシュート量との比率を算出する算出部と、前記比率を判定指標としてPID制御系の状態を判定する判定部とを備えるものである。
また、本発明の状態判定装置の1構成例において、前記算出部は、前記PID制御系のステップ応答における前記制御量を時系列データとして記憶する時系列データ記憶部と、前記PID制御系のステップ応答における前記設定値と前記時系列データ記憶部に記憶された制御量の時系列データとから、前記ステップ応答において前記制御量が前記設定値に到達した時点を検出する到達点検出部と、この到達点検出部によって検出された時点を起点として、この起点から予め規定された前記特定時間だけ過去の時間内における前記制御量の変化量を検出する特定時間内変化量検出部と、前記設定値と前記時系列データ記憶部に記憶された制御量の時系列データとから、前記ステップ応答における前記制御量のオーバーシュート量を検出するオーバーシュート検出部と、前記制御量の変化量と前記オーバーシュート量との比率を算出する比率算出部とからなり、前記判定部は、前記PID制御系が特定の状態にある場合の前記比率の数値範囲を示す判定基準を予め記憶する判定基準記憶部と、前記比率算出部によって算出された比率と前記判定基準とを比較して、前記PID制御系の状態が前記特定の状態にあるか否かを判定する状態判定部とからなるものである。
【0017】
また、本発明の状態判定装置の1構成例は、さらに、前記設定値と前記時系列データ記憶部に記憶された制御量の時系列データとから、前記ステップ応答における制御量のオーバーシュート発生後のハンチング上下動幅とハンチング周期とを検出するハンチング検出部を備え、前記判定部は、前記比率に加えて前記ハンチング上下動幅と前記ハンチング周期とを判定指標として前記PID制御系の状態を判定するものである。
また、本発明の状態判定装置の1構成例において、前記判定部は、前記PID制御系が特定の状態にある場合の、前記比率の数値範囲を示す比率判定基準と前記ハンチング上下動幅の数値範囲を示すハンチング上下動幅判定基準と前記ハンチング周期の数値範囲を示すハンチング周期判定基準とを予め記憶する判定基準記憶部と、前記比率算出部によって算出された比率と前記比率判定基準とを比較し、前記ハンチング検出部によって検出されたハンチング上下動幅と前記ハンチング上下動幅判定基準とを比較し、前記ハンチング検出部によって検出されたハンチング周期と前記ハンチング周期判定基準とを比較して、前記PID制御系の状態が前記特定の状態にあるか否かを判定する状態判定部とからなるものである。
【0018】
また、本発明の状態判定方法は、制御量が設定値に到達する直前の特定時間内における前記制御量の変化量と前記制御量のオーバーシュート量との比率を算出する算出手順と、前記比率を判定指標としてPID制御系の状態を判定する判定手順とを備えるものである。
また、本発明の状態判定方法の1構成例において、前記算出手順は、前記PID制御系のステップ応答における前記制御量を時系列データとして記憶する時系列データ記憶手順と、前記PID制御系のステップ応答における前記設定値と前記時系列データ記憶手順で記憶された制御量の時系列データとから、前記ステップ応答において前記制御量が前記設定値に到達した時点を検出する到達点検出手順と、この到達点検出手順によって検出された時点を起点として、この起点から予め規定された前記特定時間だけ過去の時間内における前記制御量の変化量を検出する特定時間内変化量検出手順と、前記設定値と前記時系列データ記憶手順で記憶された制御量の時系列データとから、前記ステップ応答における前記制御量のオーバーシュート量を検出するオーバーシュート検出手順と、前記制御量の変化量と前記オーバーシュート量との比率を算出する比率算出手順とからなり、前記判定手順は、前記比率算出手順によって算出された比率と前記PID制御系が特定の状態にある場合の前記比率の数値範囲を示す予め設定された判定基準とを比較して、前記PID制御系の状態が前記特定の状態にあるか否かを判定するようにしたものである。
【0019】
また、本発明の状態判定方法の1構成例は、さらに、前記設定値と前記時系列データ記憶手順で記憶された制御量の時系列データとから、前記ステップ応答における制御量のオーバーシュート発生後のハンチング上下動幅とハンチング周期とを検出するハンチング検出手順を備え、前記判定手順は、前記比率に加えて前記ハンチング上下動幅と前記ハンチング周期とを判定指標として前記PID制御系の状態を判定するようにしたものである。
また、本発明の状態判定方法の1構成例において、前記判定手順は、前記比率算出手順によって算出された比率と前記PID制御系が特定の状態にある場合の前記比率の数値範囲を示す予め設定された比率判定基準とを比較し、前記ハンチング検出手順によって検出されたハンチング上下動幅と前記PID制御系が特定の状態にある場合の前記ハンチング上下動幅の数値範囲を示す予め設定されたハンチング上下動幅判定基準とを比較し、前記ハンチング検出手順によって検出されたハンチング周期と前記PID制御系が特定の状態にある場合の前記ハンチング周期の数値範囲を示す予め設定されたハンチング周期判定基準とを比較して、前記PID制御系の状態が前記特定の状態にあるか否かを判定するようにしたものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、制御量が設定値に到達する直前の特定時間内における制御量の変化量と制御量のオーバーシュート量との比率を算出して、この比率を判定指標としてPID制御系の状態を判定することにより、略線形な特性の制御対象とPIDコントローラとからなるPID制御系について状態判定を行なう際に、オーバーシュート量を従来よりも適切な判定指標として利用することができる。
【0021】
また、本発明では、PID制御系が特定の状態にある場合の比率の数値範囲を示す判定基準を判定基準記憶部に予め登録しておき、算出した比率と判定基準とを状態判定部で比較することにより、PID制御系の状態が予め規定された特定の状態にあるか否かを判定することができる。
【0022】
また、本発明では、さらにステップ応答における制御量のオーバーシュート発生後のハンチング上下動幅とハンチング周期とを検出して、比率に加えてハンチング上下動幅とハンチング周期とを判定指標としてPID制御系の状態を判定することにより、より適切な状態判定を行うことができる。
【0023】
また、本発明では、PID制御系が特定の状態にある場合の、比率の数値範囲を示す比率判定基準とハンチング上下動幅の数値範囲を示すハンチング上下動幅判定基準とハンチング周期の数値範囲を示すハンチング周期判定基準とを判定基準記憶部に予め登録しておき、算出した比率と比率判定基準とを状態判定部で比較し、検出したハンチング上下動幅とハンチング上下動幅判定基準とを状態判定部で比較し、検出したハンチング周期とハンチング周期判定基準とを状態判定部で比較することにより、PID制御系の状態が予め規定された特定の状態にあるか否かを判定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
[発明の原理]
図1は本発明の原理を説明するための図である。図1において、ovはオーバーシュート量、htはハンチング上下動幅、hcはハンチング周期、Txは制御量PVが設定値SPに到達する直前の特定時間、ΔPVは特定時間Tx内における制御量PVの変化量である。本発明は、オーバーシュート量ovを制御系の状態判定指標とすることに際し、コントローラがPIDコントローラであり、PIDパラメータが同じであることを前提条件とし、原理の説明上、まずは制御対象が同じ状態にあるものと仮定する。
【0025】
このような前提条件の下で、制御量PVが設定値SPに到達する直前の特定時間Tx内における制御量PVの変化量ΔPVと制御量PVのオーバーシュート量ovとの比率R=ov/ΔPVあるいはR’=ΔPV/ovを算出すると、制御対象が概ね線形な特性であれば、比率RあるいはR’は操作量MVの出力飽和の有無や設定値SPのステップ変更幅とは無関係にほぼ同じ値になる。あくまでも、ほぼ同じ値になるというものであり、完全に同じ値になるとは限らない。しかし、このような特性に着目すれば、比率RあるいはR’を判定指標とすることにより、従来よりも適切にオーバーシュートを判定できるようになる。
【0026】
制御量PVが設定値SPに到達する直前の特定時間Tx内における制御量PVの変化量ΔPVとオーバーシュート量ovとの比率R=ov/ΔPVあるいはR’=ΔPV/ov)が、設定値SPのステップ変更幅とは無関係にほぼ同じ値になる理由を説明する。
まず、操作量MVに出力飽和が発生していない場合、PIDコントローラはいわゆる線形コントローラであるので、図20に示すように少なくともオーバーシュートの発生までは制御量PV1とPV2とは相似な応答波形を示す。したがって必然的に、上記の比率RあるいはR’は、設定値SP1,SP2のステップ変更幅とは無関係にほぼ同じ値になる。
【0027】
次に、操作量MVに出力飽和がある場合であるが、図22、図23に示すようにPIDコントローラは、制御量PV1,PV2が設定値SP1,SP2に近づく状況に応じて、操作量MV1,MV2を出力飽和の状態から最終的な平衡点近傍へと推移させていく。具体的には、PID演算の比例動作は偏差(SP1−PV1あるいはSP2−PV2)の変化量に比例して操作量MVの増減値を決定し、微分動作は偏差の変化量の変化量に比例して操作量MVの増減値を決定し、積分動作は偏差に比例して操作量MVの増減値を決定する。
【0028】
その結果、制御量PVが設定値SPに到達する直前の制御量PVの変化率が、操作量MVの変化率を決定する主要因になる。操作量MVの最終的な平衡点近傍への到達の遅れ、すなわち実質的に操作量MVの変化の遅れによって発生するのがオーバーシュートであるから、操作量MVの変化率を決定する制御量PVの変化率(特定時間Tx内における制御量PVの変化量)とオーバーシュート量とが、ほぼ比例するようになる。したがって、上記の比率RあるいはR’は、設定値SPのステップ変更幅とは無関係にほぼ同じ値になる。なお、シミュレーションにより実験的に本発明の原理を裏付けたデータを、以下の実施の形態に記載する。
【0029】
[第1の実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図2は本発明の第1の実施の形態に係る状態判定装置の構成を示すブロック図である。本実施の形態によれば、オーバーシュート量に基づき、制御系の状態が予め規定された特定の状態にあるか否かを判定することができる。
【0030】
本実施の形態の状態判定装置は、PID制御系のステップ応答における設定値SPの値を記憶する設定値SP記憶部1と、PID制御系のステップ応答における制御量PVを時系列データとして記憶する時系列PVデータ記憶部2と、設定値SP記憶部1に記憶された設定値SPと時系列PVデータ記憶部2に記憶された制御量PVの時系列データとから、制御量PVが設定値SPに到達した時点を検出するSP到達点検出部3と、SP到達点検出部3によって検出された制御量PVが設定値SPに到達した時点を起点として、予め規定された特定時間Txだけ過去の時間内における制御量PVの変化量ΔPVを検出する特定時間Tx内変化量検出部4と、設定値SP記憶部1に記憶された設定値SPと時系列PVデータ記憶部2に記憶された制御量PVの時系列データとから、ステップ応答における制御量PVのオーバーシュート量ov(制御量PVの極大値と設定値SPとの差)を検出するオーバーシュート検出部5と、制御量PVの変化量ΔPVとオーバーシュート量ovとに基づき比率R=ov/ΔPVを算出する比率R算出部6と、制御系が特定の状態にある場合の比率Rの数値範囲を示す判定基準を予め記憶する判定基準記憶部7と、比率R算出部6によって算出された比率Rと判定基準とを比較して、制御系の状態が特定の状態にあるか否かを判定する状態判定部8とを備えている。
【0031】
次に、本実施の形態の状態判定装置の動作を図3を用いて説明する。まず、SP到達点検出部3は、設定値SP記憶部1に記憶された設定値SPと時系列PVデータ記憶部2に記憶された制御量PVの時系列データとから、設定値SPの変更に伴うステップ応答において制御量PVが設定値SPに到達した時点を検出する(図3ステップS100)。
設定値SPは例えば図示しないコントローラのオペレータによって設定され、制御量PVは図示しないセンサによって検出される。
【0032】
特定時間Tx内変化量検出部4は、制御量PVが設定値SPに到達した時点を起点として、この起点から予め規定された特定時間Txだけ過去の時間内における制御量PVの変化量ΔPVを検出する(ステップS101)。
オーバーシュート検出部5は、設定値SP記憶部1に記憶された設定値SPと時系列PVデータ記憶部2に記憶された制御量PVの時系列データとから、ステップ応答における制御量PVのオーバーシュート量ovを検出する(ステップS102)。
【0033】
比率R算出部6は、特定時間Tx内変化量検出部4が検出した制御量PVの変化量ΔPVとオーバーシュート検出部5が検出したオーバーシュート量ovとに基づき、比率R=ov/ΔPVを算出する(ステップS103)。
状態判定部8は、比率R算出部6が算出した比率Rと判定基準記憶部7に予め記憶されている判定基準とを比較して、制御系の状態が予め規定された特定の状態にあるか否かを判定する(ステップS104)。本実施の形態では、状態判定部8は、比率Rが判定基準内の値であれば、制御系の状態が特定の状態にあると判定する。
【0034】
以下、図3〜図16を用いて本実施の形態の効果を説明する。図4〜図9は、以下の伝達関数Gpで表される制御対象に対する制御のシミュレーション結果を示す図である。ここでは、制御対象のむだ時間Lpを10sec、時定数Tpを100secとしている。式(1)におけるsはラプラス演算子である。
Gp=exp(−Lps)/(1+Tps)=exp(−10s)/(1+100s)
・・・(1)
【0035】
このシミュレーションにおけるPIDコントローラは、次式の伝達関数式のようなPID制御演算を行って操作量MVを算出して制御対象に出力する。
MV=(100/Pb){1+(1/Tis)+Tds}(SP−PV)
=(100/11){1+(1/20s)+6s}(SP−PV) ・・・(2)
【0036】
Pb,Ti,TdはPIDパラメータであり、Pbは比例帯、Tiは積分時間、Tdは微分時間である。ここでは、Pb=11%、Ti=20sec、Td=6secとしている。操作量MVの上限値は100%であり、下限値は0%である。式(1)に示すような伝達関数式の制御対象と式(2)に示すような制御演算を行うPIDコントローラとにより得られる制御系の状態を状態Aとする。PIDコントローラと制御対象とからなる制御系のブロック線図を図10に示す。
【0037】
図4(A)、図4(B)、図5(A)、図5(B)は、上記状態Aでのステップ応答における制御量PVの変化の様子を示す図である。図4(A)、図4(B)、図5(A)、図5(B)は、いずれも設定値SP=0、制御量PV=0の初期状態から設定値SPをステップ変更した場合を示している。図4(A)の場合は設定値SP=45に変更し、図4(B)の場合は設定値SP=60に変更し、図5(A)の場合は設定値SP=75に変更し、図5(B)の場合は設定値SP=90に変更するといったように、それぞれ異なる設定値SPに変更している。
【0038】
図4(A)、図4(B)、図5(A)、図5(B)の応答波形は一目瞭然に相似な形状にはなっていない。なお、図4(A)、図4(B)、図5(A)、図5(B)の尺度で見る限りオーバーシュートは発生していないが、後述のように実際にはオーバーシュートは発生している。
【0039】
図6(A)、図6(B)、図7(A)、図7(B)は、それぞれ図4(A)、図4(B)、図5(A)、図5(B)のステップ応答に対応する操作量MVの変化の様子を示す図である。図6(A)、図6(B)、図7(A)、図7(B)は、いずれも操作量MVの出力飽和が発生していることを示している。
【0040】
図8(A)、図8(B)、図9(A)、図9(B)は、それぞれ図4(A)、図4(B)、図5(A)、図5(B)のステップ応答を拡大した図である。図8(A)、図8(B)、図9(A)、図9(B)は、いずれも制御量PVが設定値SPに到達した時点を起点として、予め規定された特定時間Tx=13secだけ過去の時間内における制御量PVの変化量ΔPVと、その後のオーバーシュート量が把握しやすいように拡大されている。なお、特定時間Tx=13secはPIDパラメータを参考に決定しており、この例では積分時間Tiと微分時間Tdとの平均値を採用しているが、厳密にこの値を採用しなければならないというわけではない。
【0041】
図8(A)の場合について算出した比率Rを式(3)に示し、図8(B)の場合について算出した比率Rを式(4)に示し、図9(A)の場合について算出した比率Rを式(5)に示し、図9(B)の場合について算出した比率Rを式(6)に示す。
R=ov/ΔPV=0.21/1.85=0.114 ・・・(3)
R=ov/ΔPV=0.14/1.25=0.112 ・・・(4)
R=ov/ΔPV=0.09/0.77=0.117 ・・・(5)
R=ov/ΔPV=0.035/0.3=0.117 ・・・(6)
【0042】
式(3)〜式(6)の数値を見る限りでは、制御系が状態Aにあるか否かをオーバーシュートにより判定するための判定基準を0.11〜0.12として判定基準記憶部7に登録しておけば、適切な判定ができることになる。すなわち、状態判定部8は、比率R算出部6が算出した比率Rが判定基準0.11〜0.12の範囲内にあれば、制御系の状態が予め規定された状態Aであると判定する。ただし実用的には、判定基準はステップ応答の再現性を考慮して、広めに設定することが好ましい。
【0043】
次に、制御系が状態Aと異なる状態にある場合について説明する。図11〜図16は、以下の伝達関数Gpで表される制御対象に対する制御のシミュレーション結果を示す図である。ここでは、制御対象のむだ時間Lpを11sec、時定数Tpを100secとしており、状態Aの場合よりもむだ時間Lpが1sec長い。
Gp=exp(−Lps)/(1+Tps)=exp(−11s)/(1+100s)
・・・(7)
【0044】
このシミュレーションにおけるPIDコントローラは、式(2)の伝達関数式のようなPID制御演算を行って操作量MVを算出して制御対象に出力する。PIDパラメータの値と操作量MVの上下限値は状態Aの場合と全く同じである。式(7)に示すような伝達関数式の制御対象と式(2)に示すような制御演算を行うPIDコントローラとにより得られる制御系の状態を状態Bとする。
【0045】
図11(A)、図11(B)、図12(A)、図12(B)は、上記状態Bでのステップ応答における制御量PVの変化の様子を示す図である。図11(A)、図11(B)、図12(A)、図12(B)は、いずれも設定値SP=0、制御量PV=0の初期状態から設定値SPをステップ変更した場合を示している。図11(A)の場合は設定値SP=45に変更し、図11(B)の場合は設定値SP=60に変更し、図12(A)の場合は設定値SP=75に変更し、図12(B)の場合は設定値SP=90に変更するといったように、それぞれ異なる設定値SPに変更している。
【0046】
図13(A)、図13(B)、図14(A)、図14(B)は、それぞれ図11(A)、図11(B)、図12(A)、図12(B)のステップ応答に対応する操作量MVの変化の様子を示す図である。図13(A)、図13(B)、図14(A)、図14(B)は、いずれも操作量MVの出力飽和が発生していることを示している。
【0047】
図15(A)、図15(B)、図16(A)、図16(B)は、それぞれ図11(A)、図11(B)、図12(A)、図12(B)のステップ応答を拡大した図である。図15(A)、図15(B)、図16(A)、図16(B)は、いずれも制御量PVが設定値SPに到達した時点を起点として、予め規定された特定時間Tx=13secだけ過去の時間内における制御量PVの変化量ΔPVと、その後のオーバーシュート量が把握しやすいように拡大されている。
【0048】
図15(A)の場合について算出した比率Rを式(8)に示し、図15(B)の場合について算出した比率Rを式(9)に示し、図16(A)の場合について算出した比率Rを式(10)に示し、図16(B)の場合について算出した比率Rを式(11)に示す。
R=ov/ΔPV=0.132/2.6=0.051 ・・・(8)
R=ov/ΔPV=0.045/1.14=0.040 ・・・(9)
R=ov/ΔPV=0.03/0.7=0.043 ・・・(10)
R=ov/ΔPV=0.011/0.27=0.041 ・・・(11)
【0049】
式(8)〜式(11)の数値を見る限りでは、制御系が状態Bにあるか否かを判定するための判定基準を0.04〜0.06として判定基準記憶部7に登録しておけば、適切な判定ができることになる。すなわち、状態判定部8は、比率R算出部6が算出した比率Rが判定基準0.04〜0.06の範囲内にあれば、制御系の状態が予め規定された状態Bであると判定することになり、制御系が状態Aである可能性は適切に否定される。
【0050】
以上のように、本実施の形態によれば、比率R(あるいはR’)を判定指標として制御系の状態を判定することにより、略線形な特性の制御対象とPIDコントローラとからなる制御系について状態判定を行なう際に、オーバーシュート量を従来よりも適切な判定指標として利用することができる。
【0051】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。図17は本発明の第2の実施の形態に係る状態判定装置の構成を示すブロック図であり、図2と同様の構成には同一の符号を付してある。本実施の形態によれば、実質的にオンラインでの制御系の状態判定が可能になる。
【0052】
本実施の形態の状態判定装置は、設定値SP入力部9と、制御量PV入力部10と、設定値SPと制御量PVに基づきPID制御演算により操作量MVを算出するPID演算部11と、操作量MV出力部12と、時系列PVデータ記憶部2と、外部から状態判定の実行を指示する判定指示信号を受ける判定指示信号入力部13と、設定値SPと時系列PVデータ記憶部2に記憶された制御量PVの時系列データとから、制御量PVが設定値SPに到達した時点を検出するSP到達点検出部3aと、特定時間Tx内変化量検出部4と、オーバーシュート検出部5と、比率R算出部6と、設定値SPと時系列PVデータ記憶部2に記憶された制御量PVの時系列データとから、ステップ応答における制御量PVのオーバーシュート発生後のハンチング上下動幅htとハンチング周期hcとを検出するハンチング検出部14と、制御系が特定の状態にある場合の、比率Rの数値範囲を示す比率判定基準とハンチング上下動幅htの数値範囲を示すハンチング上下動幅判定基準とハンチング周期hcの数値範囲を示すハンチング周期判定基準とを予め記憶する判定基準記憶部7aと、比率Rと比率判定基準とを比較し、ハンチング上下動幅htとハンチング上下動幅判定基準とを比較し、ハンチング周期hcとハンチング周期判定基準とを比較して、制御系の状態が予め規定された特定の状態にあるか否かを判定する状態判定部8aとを備えている。
【0053】
本実施の形態は、状態判定装置とPIDコントローラとを一体にしたものであり、設定値SP入力部9と制御量PV入力部10とPID演算部11と操作量MV出力部12とはPIDコントローラを構成している。PIDコントローラと制御対象とからなる制御系のブロック線図は図10に示したとおりである。
【0054】
次に、本実施の形態の状態判定装置の動作を図18を用いて説明する。設定値SPは、オペレータによって設定され、設定値SP入力部9を介してPID演算部11とSP到達点検出部3aとオーバーシュート検出部5とハンチング検出部14とに入力される(ステップS200)。
【0055】
制御量PVは、図示しないセンサによって検出され、制御量PV入力部10を介してPID演算部11と時系列PVデータ記憶部2とに入力される(ステップS201)。
時系列PVデータ記憶部2は、制御量PV入力部10から入力された制御量PVを時系列データとして記憶する(ステップS202)。
【0056】
PID演算部11は、設定値SPと制御量PVに基づき次式の伝達関数式のようなPID制御演算を行って操作量MVを算出し、操作量MVを操作量MV出力部12に出力する(ステップS203)。
MV=(100/Pb){1+(1/Tis)+Tds}(SP−PV)
・・・(12)
なお、PID演算部11は、算出した操作量MVが所定の下限値OLより小さい場合、操作量MV=OLとし、算出した操作量MVが所定の上限値OHより大きい場合、操作量MV=OHとする操作量上下限処理を行う。
【0057】
操作量MV出力部12は、PID演算部11によって算出された操作量MVを制御対象に出力する(ステップS204)。
オペレータから制御の終了が指示されていない場合(ステップS205においてNO)、SP到達点検出部3aは、判定指示信号入力部13から判定指示信号が入力されたか否かを判定する(ステップS206)。判定指示信号は、ステップ応答の実行を確認してオペレータが手動で判定指示信号入力部13に入力する。ただし、設定値SPの変更を検出して自動的に判定指示信号を生成する手段を設けて、判定指示信号の入力を自動化することも可能である。
【0058】
判定指示信号入力部13から判定指示信号が入力された場合、SP到達点検出部3aは、設定値SP入力部9から入力された設定値SPと時系列PVデータ記憶部2に記憶された制御量PVの時系列データとから、設定値SPの変更に伴うステップ応答において制御量PVが設定値SPに到達した時点を検出する(ステップS207)。
【0059】
特定時間Tx内変化量検出部4は、制御量PVが設定値SPに到達した時点を起点として、この起点から予め規定された特定時間Txだけ過去の時間内における制御量PVの変化量ΔPVを検出する(ステップS208)。
オーバーシュート検出部5は、設定値SP入力部9から入力された設定値SPと時系列PVデータ記憶部2に記憶された制御量PVの時系列データとから、ステップ応答における制御量PVのオーバーシュート量ovを検出する(ステップS209)。
【0060】
比率R算出部6は、特定時間Tx内変化量検出部4が検出した制御量PVの変化量ΔPVとオーバーシュート検出部5が検出したオーバーシュート量ovとに基づき、比率R=ov/ΔPVを算出する(ステップS210)。
ハンチング検出部14は、設定値SP入力部9から入力された設定値SPと時系列PVデータ記憶部2に記憶された制御量PVの時系列データとから、ステップ応答における制御量PVのオーバーシュート発生後のハンチング上下動幅htとハンチング周期hcとを検出する(ステップS211)。
【0061】
状態判定部8aは、比率R算出部6が算出した比率Rと判定基準記憶部7aに予め記憶されている比率判定基準とを比較し、ハンチング検出部14が検出したハンチング上下動幅htと判定基準記憶部7aに予め記憶されているハンチング上下動幅判定基準とを比較し、さらにハンチング検出部14が検出したハンチング周期hcと判定基準記憶部7aに予め記憶されているハンチング周期判定基準とを比較して、制御系の状態が予め規定された特定の状態にあるか否かを判定する(ステップS212)。
【0062】
このとき、状態判定部8aは、比率Rが比率判定基準内の値であるか否か、ハンチング上下動幅htがハンチング上下動幅判定基準内の値であるか否か、ハンチング周期hcがハンチング周期判定基準内の値であるか否かを確認するが、比率Rとハンチング上下動幅htとハンチング周期hcのうち少なくとも1つが対応する判定基準内の値でない場合は、制御系が予め規定された特定の状態にはないと判定し、比率Rとハンチング上下動幅htとハンチング周期hcがいずれも対応する判定基準内の値であれば、制御系の状態が予め規定された特定の状態にあると判定する。
【0063】
以上のようなステップS200〜S212の処理が例えばオペレータによって制御の終了が指示されるまで(ステップS205においてYES)、制御周期毎に繰り返し実行される。
【0064】
本実施の形態によれば、比率R(あるいはR’)を算出すると共に、ステップ応答における制御量のオーバーシュート発生後のハンチング上下動幅htとハンチング周期hcとを検出して、比率Rに加えてハンチング上下動幅htとハンチング周期hcとを判定指標としてPID制御系の状態を判定することにより、第1の実施の形態に比べてPID制御系のより適切な状態判定を行うことができる。また、本実施の形態では、状態判定装置をコントローラと一体で動作させることにより、実質的にオンラインでの状態判定が可能になる。
【0065】
なお、第1、第2の実施の形態で説明した状態判定装置及びPIDコントローラは、CPU、記憶装置及びインタフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。CPUは、記憶装置に格納されたプログラムに従って第1、第2の実施の形態で説明した処理を実行する。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、フィードバック制御系に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の原理を説明するための図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る状態判定装置の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る状態判定装置の動作を示すフローチャートである。
【図4】制御対象に対する制御のシミュレーション結果を示す図であり、ステップ応答における制御量の変化の様子を示す図である。
【図5】制御対象に対する制御のシミュレーション結果を示す図であり、ステップ応答における制御量の変化の様子を示す図である。
【図6】制御対象に対する制御のシミュレーション結果を示す図であり、図4のステップ応答に対応する操作量の変化の様子を示す図である。
【図7】制御対象に対する制御のシミュレーション結果を示す図であり、図5のステップ応答に対応する操作量の変化の様子を示す図である。
【図8】制御対象に対する制御のシミュレーション結果を示す図であり、図4のステップ応答を拡大した図である。
【図9】制御対象に対する制御のシミュレーション結果を示す図であり、図5のステップ応答を拡大した図である。
【図10】PIDコントローラと制御対象とからなるPID制御系のブロック線図である。
【図11】制御対象に対する制御の他のシミュレーション結果を示す図であり、ステップ応答における制御量の変化の様子を示す図である。
【図12】制御対象に対する制御の他のシミュレーション結果を示す図であり、ステップ応答における制御量の変化の様子を示す図である。
【図13】制御対象に対する制御の他のシミュレーション結果を示す図であり、図11のステップ応答に対応する操作量の変化の様子を示す図である。
【図14】制御対象に対する制御の他のシミュレーション結果を示す図であり、図12のステップ応答に対応する操作量の変化の様子を示す図である。
【図15】制御対象に対する制御の他のシミュレーション結果を示す図であり、図11のステップ応答を拡大した図である。
【図16】制御対象に対する制御の他のシミュレーション結果を示す図であり、図12のステップ応答を拡大した図である。
【図17】本発明の第2の実施の形態に係る状態判定装置の構成を示すブロック図である。
【図18】本発明の第2の実施の形態に係る状態判定装置の動作を示すフローチャートである。
【図19】従来の異常検出装置で用いられる数値指標であるオーバーシュート量とハンチング上下動幅を示す図である。
【図20】従来の異常検出装置の問題点を説明するための図であり、設定値の変更に伴うステップ応答を示す図である。
【図21】従来の異常検出装置の問題点を説明するための図であり、図20の設定値の変更に伴う操作量の変化を示す図である。
【図22】従来の異常検出装置の問題点を説明するための図であり、設定値の変更に伴うステップ応答を示す図である。
【図23】従来の異常検出装置の問題点を説明するための図であり、図22の設定値の変更に伴う操作量の変化を示す図である。
【符号の説明】
【0068】
1…設定値SP記憶部、2…時系列PVデータ記憶部、3,3a…SP到達点検出部、4…特定時間Tx内変化量検出部、5…オーバーシュート検出部、6…比率R算出部、7,7a…判定基準記憶部、8,8a…状態判定部、9…設定値SP入力部、10…制御量PV入力部、11…PID演算部、12…操作量MV出力部、13…判定指示信号入力部、14…ハンチング検出部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PID制御系の状態判定装置であって、
制御量が設定値に到達する直前の特定時間内における前記制御量の変化量と前記制御量のオーバーシュート量との比率を算出する算出部と、
前記比率を判定指標として前記PID制御系の状態を判定する判定部とを備えることを特徴とする状態判定装置。
【請求項2】
請求項1記載の状態判定装置において、
前記算出部は、
前記PID制御系のステップ応答における前記制御量を時系列データとして記憶する時系列データ記憶部と、
前記PID制御系のステップ応答における前記設定値と前記時系列データ記憶部に記憶された制御量の時系列データとから、前記ステップ応答において前記制御量が前記設定値に到達した時点を検出する到達点検出部と、
この到達点検出部によって検出された時点を起点として、この起点から予め規定された前記特定時間だけ過去の時間内における前記制御量の変化量を検出する特定時間内変化量検出部と、
前記設定値と前記時系列データ記憶部に記憶された制御量の時系列データとから、前記ステップ応答における前記制御量のオーバーシュート量を検出するオーバーシュート検出部と、
前記制御量の変化量と前記オーバーシュート量との比率を算出する比率算出部とからなり、
前記判定部は、
前記PID制御系が特定の状態にある場合の前記比率の数値範囲を示す判定基準を予め記憶する判定基準記憶部と、
前記比率算出部によって算出された比率と前記判定基準とを比較して、前記PID制御系の状態が前記特定の状態にあるか否かを判定する状態判定部とからなることを特徴とする状態判定装置。
【請求項3】
請求項1記載の状態判定装置において、
さらに、前記設定値と前記時系列データ記憶部に記憶された制御量の時系列データとから、前記ステップ応答における制御量のオーバーシュート発生後のハンチング上下動幅とハンチング周期とを検出するハンチング検出部を備え、
前記判定部は、前記比率に加えて前記ハンチング上下動幅と前記ハンチング周期とを判定指標として前記PID制御系の状態を判定することを特徴とする状態判定装置。
【請求項4】
請求項3記載の状態判定装置において、
前記判定部は、
前記PID制御系が特定の状態にある場合の、前記比率の数値範囲を示す比率判定基準と前記ハンチング上下動幅の数値範囲を示すハンチング上下動幅判定基準と前記ハンチング周期の数値範囲を示すハンチング周期判定基準とを予め記憶する判定基準記憶部と、
前記比率算出部によって算出された比率と前記比率判定基準とを比較し、前記ハンチング検出部によって検出されたハンチング上下動幅と前記ハンチング上下動幅判定基準とを比較し、前記ハンチング検出部によって検出されたハンチング周期と前記ハンチング周期判定基準とを比較して、前記PID制御系の状態が前記特定の状態にあるか否かを判定する状態判定部とからなることを特徴とする状態判定装置。
【請求項5】
PID制御系の状態判定方法であって、
制御量が設定値に到達する直前の特定時間内における前記制御量の変化量と前記制御量のオーバーシュート量との比率を算出する算出手順と、
前記比率を判定指標として前記PID制御系の状態を判定する判定手順とを備えることを特徴とする状態判定方法。
【請求項6】
請求項5記載の状態判定方法において、
前記算出手順は、
前記PID制御系のステップ応答における前記制御量を時系列データとして記憶する時系列データ記憶手順と、
前記PID制御系のステップ応答における前記設定値と前記時系列データ記憶手順で記憶された制御量の時系列データとから、前記ステップ応答において前記制御量が前記設定値に到達した時点を検出する到達点検出手順と、
この到達点検出手順によって検出された時点を起点として、この起点から予め規定された前記特定時間だけ過去の時間内における前記制御量の変化量を検出する特定時間内変化量検出手順と、
前記設定値と前記時系列データ記憶手順で記憶された制御量の時系列データとから、前記ステップ応答における前記制御量のオーバーシュート量を検出するオーバーシュート検出手順と、
前記制御量の変化量と前記オーバーシュート量との比率を算出する比率算出手順とからなり、
前記判定手順は、前記比率算出手順によって算出された比率と前記PID制御系が特定の状態にある場合の前記比率の数値範囲を示す予め設定された判定基準とを比較して、前記PID制御系の状態が前記特定の状態にあるか否かを判定することを特徴とする状態判定方法。
【請求項7】
請求項5記載の状態判定方法において、
さらに、前記設定値と前記時系列データ記憶手順で記憶された制御量の時系列データとから、前記ステップ応答における制御量のオーバーシュート発生後のハンチング上下動幅とハンチング周期とを検出するハンチング検出手順を備え、
前記判定手順は、前記比率に加えて前記ハンチング上下動幅と前記ハンチング周期とを判定指標として前記PID制御系の状態を判定することを特徴とする状態判定方法。
【請求項8】
請求項7記載の状態判定方法において、
前記判定手順は、前記比率算出手順によって算出された比率と前記PID制御系が特定の状態にある場合の前記比率の数値範囲を示す予め設定された比率判定基準とを比較し、前記ハンチング検出手順によって検出されたハンチング上下動幅と前記PID制御系が特定の状態にある場合の前記ハンチング上下動幅の数値範囲を示す予め設定されたハンチング上下動幅判定基準とを比較し、前記ハンチング検出手順によって検出されたハンチング周期と前記PID制御系が特定の状態にある場合の前記ハンチング周期の数値範囲を示す予め設定されたハンチング周期判定基準とを比較して、前記PID制御系の状態が前記特定の状態にあるか否かを判定することを特徴とする状態判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2007−264720(P2007−264720A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−85261(P2006−85261)
【出願日】平成18年3月27日(2006.3.27)
【出願人】(000006666)株式会社山武 (1,808)
【Fターム(参考)】