説明

玉軸受

【課題】玉軸受の小ボールの摩擦抵抗および転動時の音圧を低減させる。
【解決手段】内面が球面状の案内面13に形成された凹所11を有するハウジング10と、凹所11に収容される大ボール40と、凹所11に収容された大ボール40と案内面13との間に配置され、大ボール40を回転自在に支持する複数の小ボール30と、凹所11の開口周縁部を塞ぐ円環状の蓋部材50と、凹所11内に、案内面13に沿って揺動可能に配置され、複数の小ボール30を互いに非接触の状態で回転自在に保持するリテーナ20とを備える。小ボール30どうしが接触しない状態で回転自在にリテーナ20で保持し、なおかつリテーナ20を案内面13に沿って揺動可能とすることにより、大ボール40の自転に伴う小ボール30の転動時の摩擦抵抗を低減させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハウジングの凹所に収容した大ボールを複数の転動する小ボールで自転可能に支持する形式の玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
ある種の移動体を全方位に円滑に移動可能に支持するための玉軸受が提供されている(特許文献1〜3)。この種の玉軸受は、ハウジングに形成した凹所の球面状の内面に複数の小ボールが転動自在に配列され、大ボールが、小ボールに接触し、かつ一部が凹所の開口から突出する状態に凹所内に収容され、大ボールの自転と小ボールの転動がともに起こって移動体を全方位に移動可能に支持する構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開8−128444号公報
【特許文献2】特開2000−211717号公報
【特許文献3】特開平7−164078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の玉軸受にあっては、凹所の内面に小ボールが密に配列されているため小ボールどうしが接触し、これによって摩擦抵抗が生じて大ボールが円滑に自転し難くなったり、転動する小ボールの接触音の音圧が大きかったりする問題が起こっていた。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、小ボールの摩擦抵抗および転動時の音圧を低減させることができる玉軸受を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の玉軸受は、内面が球面状の案内面に形成された凹所を有するハウジングと、前記凹所に収容される大ボールと、前記凹所に収容された前記大ボールと前記案内面との間に配置され、大ボールを回転自在に支持する複数の小ボールと、前記凹所の開口周縁部を塞ぐ円環状の蓋部材と、前記凹所内に、前記案内面に沿って揺動可能に配置され、複数の前記小ボールを互いに非接触の状態で回転自在に保持するリテーナとを備えることを特徴とする玉軸受。
【0007】
本発明の玉軸受においては、複数の小ボールが互いに非接触の状態でリテーナに保持されているため、小ボールどうしの接触による摩擦抵抗が生じない。また、小ボールを保持するリテーナは凹所内で拘束されず揺動可能となっているため、リテーナが揺動することで小ボールとリテーナ間の摩擦抵抗も生じにくい。これらのことから小ボールおよびリテーナは大ボールの自転に応じて自由に動きやすく、このため、小ボールの摩擦抵抗および転動時の音圧が低減する。
【0008】
本発明では、前記リテーナは、前記案内面の周方向に沿った円環状に形成されている形態を含む。この形態においては、前記小ボールがリテーナの円周方向に等間隔をおいて配置されている形態が挙げられる。
【0009】
また、本発明では、前記リテーナは複数の単位リテーナで構成され、これら単位リテーナに、少なくとも1つの前記小ボールが保持されている形態を含む。この形態においては、単位リテーナが円板状に形成されている形態や、単位リテーナの中心に小ボールが保持されている形態が挙げられる。
【0010】
リテーナが複数の単位リテーナで構成される形態によれば、大ボールの自転が単位リテーナの揺動を惹起し、単位リテーナが一方向に揺動して蓋部材に当接した場合、その単位リテーナが後続する他の単位リテーナに押されて移動していくといったように、複数の単位リテーナに循環動作を生じさせることが可能となる。このように単位リテーナが循環すると単位リテーナは蓋部材があっても拘束されることなく揺動が可能となり、小ボールの摩擦抵抗および転動時の音圧の低減を効果的に得ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、小ボールの摩擦抵抗および転動時の音圧を低減させることができる玉軸受が提供されるといった効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施形態に係る玉軸受の斜視図である。
【図2】同玉軸受の平面図である。
【図3】図2のIII−III断面図である。
【図4】同玉軸受の分解組み立て図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る玉軸受の斜視図である。
【図6】同玉軸受の平面図である。
【図7】図6のVII−VII断面図である。
【図8】同玉軸受の分解組み立て図である。
【図9】第2実施形態の変形例であって、単位リテーナを多数備える玉軸受の斜視図である。
【図10】同玉軸受の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
(1)第1実施形態
図1〜図4は、本発明の第1実施形態に係る玉軸受1をそれぞれ示しており、図1は斜視図、図2は平面図、図3は図2のIII−III断面図、図4は分解組み立て図である。
【0014】
第1実施形態の玉軸受1は、凹所11を有するハウジング10と、ハウジング10の凹所11に収容されるリテーナ20、小ボール30および大ボール40と、蓋部材50とを備えている。ハウジング10は円筒状の外形を有しており、軸方向の一端面側に凹所11が開口している。凹所11はハウジング10の一端面側の中央に形成されており、凹所11の周囲には、円環状の縁部12が形成されている。凹所11の内面は、半球面状の案内面13として構成されている。
【0015】
リテーナ20は、案内面13の周方向に沿った円環状であって低背円錐筒状に形成されたものであり、図3に示すように凹所11内に案内面13に沿って同軸的に配置されると、凹所11の深さの半分程度から下方に位置し、かつ凹所11の底部には達しない状態に収容される。リテーナ20の上縁を形成する外径は凹所11の開口縁14の径よりも小さく、また、内径は適宜に設定されている。リテーナ20の外周面(下面)は案内面13に倣った湾曲面に形成されており、その外周面が案内面13を摺動することで、リテーナ20は案内面13に沿って自身の円周方向に回転可能、かつ全方位に揺動可能となっている。
【0016】
リテーナ20には、複数の円形状の孔21が円周方向に等間隔をおいて形成されており、これら孔21に小ボール30が1つずつ回転自在に収容されている。この実施形態では、小ボール30は3つに設定されている。リテーナ20の肉厚は小ボール30の直径よりも幾分小さく設定されており、したがって各孔21に小ボール30が収容されると、小ボール30の一部がリテーナ20の内周面(上面)から突出するようになっている。なお、リテーナ20の外周面からも小ボール30の一部が突出するように構成して、リテーナ20の外周面が案内面13に沿って非接触な状態で移動(揺動)できるようにしてもよい。
【0017】
大ボール40は凹所11の開口15の径よりも幾分小さく、凹所11内に、小ボール30に乗って接触した状態に収容される。すなわち、小ボール30は凹所11に収容された大ボール40と案内面13との間に配置される。大ボール40はこの収容状態で凹所11とほぼ同心状となるが、その中心は、凹所11の開口14よりも若干凹所11側に位置する。そして大ボール40は、縁部12に複数のねじ51で固定され開口周縁部(大ボール40と開口縁14との間)を覆う円環状の板材からなる蓋部材50によって、凹所11から抜けることが防止された状態とされている。このようにしてハウジング10内に収容された大ボール40は、一部が凹所11の開口15から突出し、かつ全方位に自転可能となっている。リテーナ20の内周面は、大ボール40の表面がリテーナ20の内周面に接触しないように、大ボール40の表面に倣った湾曲面に形成されている。
【0018】
なお、上記各構成要素の材料は特に限定されないが、例えば、小ボール30および大ボール40は鋼球等の金属や樹脂、あるいはセラミック等が用いられ、リテーナ20は樹脂により構成される。また、小ボール30の数は3つであるが、これに限定はされず、3つ以上の数であれば適用可能であり、リテーナ20の円周方向に等間隔をおいて配置されることがバランスの点から好ましい。
【0019】
第1実施形態の玉軸受1は、例えば物品の搬送路にハウジング10が埋め込まれ、大ボール40が上方に突出する状態として多数が配列され、物品が大ボール40上を転がるようにして搬送される搬送用支持体として用いられる。あるいは、ステータの内部に球体状のロータが収容された球面モータにおいて、大ボール40でロータを回転可能に支持するようにステータに複数配置するといった形態で採用することもできる。
【0020】
この実施形態の玉軸受1においては、大ボール40が被支持部材(上記物品やロータなど)から荷重を受けながら自転して、その被支持部材を支持する。大ボール40が自転するに伴い、各小ボール30が孔21内において転動し、大ボール40は円滑に自転する。
【0021】
ここで、複数の小ボール30はリテーナ20の孔21内に1つずつ回転自在に保持されて互いに非接触の状態となっている。このため、回転する小ボール30どうしが接触することによる摩擦抵抗が生じない。また、小ボール30を保持するリテーナ20は凹所11内で拘束されず揺動可能となっているため、リテーナ20は大ボール40の自転に応じて凹所11内を案内面13に沿って揺動する。このため、小ボール30とリテーナ20間の摩擦抵抗も生じにくい。これらのことから小ボール30およびリテーナ20は大ボール40の自転に応じて案内面13上を自由に動きやすく、このため、小ボール30の摩擦抵抗および転動時の音圧が低減する。
【0022】
(2)第2実施形態
次に、図5〜図8を参照して本発明の第2実施形態を説明する。
これら図に示す第2実施形態の玉軸受2も、第1実施形態と同様に、内面が球面状の案内面13とされた凹所11を有するハウジング10と、ハウジング10の凹所11に収容されるリテーナ、小ボール30および大ボール40と、蓋部材50とを備えているが、第1実施形態とは、リテーナが複数の円板状の単位リテーナ25で構成され、各単位リテーナ25の中心に小ボール30が保持されている点が異なっている。
【0023】
単位リテーナ25は凹所11の案内面13に沿って湾曲した円板状に形成されたもので、凹所11内に、円周方向に若干の間隔をおいて複数(この場合3つ)が案内面13に沿って摺動可能に配列されている。これら単位リテーナ25の中心には円形状の孔26が形成されており、この孔26に、小ボール30が回転自在に保持されている。単位リテーナ25の肉厚は小ボール30の直径よりも幾分小さく設定されており、小ボール30の一部が単位リテーナ25の内周面(上面)から突出している。単位リテーナ25の外周面(下面)は案内面13に倣った湾曲面に形成されており、その外周面が案内面13を摺動することで、単位リテーナ25は小ボール30を中心に回転可能、かつ案内面13に沿って全方位に揺動可能となっている。なお、単位リテーナ25の外周面からも小ボール30の一部が突出するように構成することにより、単位リテーナ25の外周面が案内面13に沿って非接触な状態で移動(揺動)できるようにしてもよい。
【0024】
大ボール40は、凹所11内に、小ボール30に乗って接触した状態に収容され、その収容状態が蓋部材50で保持される。このようにハウジング10内に収容された大ボール40は、一部が凹所11の開口15から突出し、かつ全方位に自転可能となっている。単位リテーナ25の内周面は、自転する大ボール40の表面が接触しないように、大ボール40の表面に倣った湾曲面に形成されている。
【0025】
第2実施形態の玉軸受2も、第1実施形態と同様に小ボール30が単位リテーナ25に保持されていて小ボール30どうしが接触しないことや、単位リテーナ25が揺動することによって、小ボール30の摩擦抵抗および転動時の音圧が低減するという効果が得られる。
【0026】
これに加え第2実施形態では、大ボール40が図7において矢印A方向に自転した場合、この大ボール40の自転に伴って単位リテーナ25も同方向に少しずつ案内面13をせり上がるように揺動する動きが惹起される。するとその単位リテーナ25はやがて蓋部材50の下面に当接して揺動が規制されようとするが、後続する他の単位リテーナ25に押されて蓋部材50の下面に当接する単位リテーナ25は開口縁14の周方向に逃げるように移動する。
【0027】
このような動作が連続的に起こることにより、複数の単位リテーナ25が場所を入れ替わるようにして案内面13に沿って揺動する循環動作が生じる。単位リテーナ25が次々と循環すると単位リテーナ25は蓋部材50があっても拘束されることなく揺動し、これによって小ボール30の摩擦抵抗および転動時の音圧の低減を効果的に得ることができる。単位リテーナ25の循環動作は単位リテーナ25が円板状であって、小ボール30を中心に自転し、かつ自身が案内面13に沿って揺動可能であることにより起こる。
【0028】
なお、複数の単位リテーナ25でリテーナを構成する場合には、単位リテーナ25の数は図5〜図8に示すように最低でも3つとされるが、その数はある程度多い方が循環動作が生じやすいため、好ましくは6個以上、より好ましくは9個以上とされる。図9および図10は、単位リテーナ25が9個以上(図示例では17個)具備された変形例の玉軸受3を示しており、この場合には数の多さに応じて単位リテーナ25の径は小さくなっており、単位リテーナ25は互いに接触するように密な状態に凹所11に収容されている。このように単位リテーナ25が多いと、上記循環動作がより安定して生じるといった利点がある。
【符号の説明】
【0029】
1,2,3…玉軸受、10…ハウジング、11…凹所、13…案内面、20…リテーナ、25…単位リテーナ、30…小ボール、40…大ボール、50…蓋部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内面が球面状の案内面に形成された凹所を有するハウジングと、
前記凹所に収容される大ボールと、
前記凹所に収容された前記大ボールと前記案内面との間に配置され、大ボールを回転自在に支持する複数の小ボールと、
前記凹所の開口周縁部を塞ぐ円環状の蓋部材と、
前記凹所内に、前記案内面に沿って揺動可能に配置され、複数の前記小ボールを互いに非接触の状態で回転自在に保持するリテーナと、
を備えることを特徴とする玉軸受。
【請求項2】
前記リテーナは、前記案内面の周方向に沿った円環状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の玉軸受。
【請求項3】
前記小ボールは、前記リテーナの円周方向に等間隔をおいて配置されていることを特徴とする請求項2に記載の玉軸受。
【請求項4】
前記リテーナは複数の単位リテーナで構成され、これら単位リテーナに、少なくとも1つの前記小ボールが保持されていることを特徴とする請求項1に記載の玉軸受。
【請求項5】
前記単位リテーナは円板状に形成されていることを特徴とする請求項4に記載の玉軸受。
【請求項6】
前記単位リテーナの中心に前記小ボールが保持されていることを特徴とする請求項4または5に記載の玉軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−225474(P2012−225474A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95641(P2011−95641)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(000114215)ミネベア株式会社 (846)
【Fターム(参考)】