説明

玉軸受

【課題】高速回転した場合に、玉の公転部分に発生するエアカーテン作用を小さくし、軸受内を貫通する油を十分に確保して発熱を抑制することができる玉軸受を提供する。
【解決手段】内周面に外輪軌道溝11aを有する外輪11と、外周面に内輪軌道溝12aを有する内輪12と、両軌道溝間11a,12aに転動自在に配設された複数の玉13と、玉13をポケット部(ポケット)17内に転動自在に収容する保持器14と、を備え、油潤滑される玉軸受30であって、外輪11及び内輪12の両軌道溝11a,12aの軸方向両側には、肩部11b,11c,12b,12cがそれぞれ形成されており、軸方向一側の外輪11及び内輪12の少なくとも一方の肩部11bは、その軸方向端部から内部に向かって拡径されており、且つ、軸方向一側における空間体積が、軸方向他側における空間体積より小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、玉軸受に関し、より詳細には、自動車の自動変速機やハイブリッド車駆動モータの回転支持軸や、工作機械等の各種回転機械装置の回転部分を支持する玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車の自動変速機やハイブリッド車駆動モータ等の装置では、ポンプ等で潤滑油を圧送して供給する強制循環給油方式等で、潤滑油が外部から玉軸受に供給される。
【0003】
従来の玉軸受としては、例えば、図16に示すような玉軸受100が広く使用されている(例えば、特許文献1参照)。この玉軸受100は、内周面に外輪軌道面101aを有する外輪101と、外周面に内輪軌道面102aを有する内輪102と、外輪軌道面101aと内輪軌道面102aとの間に転動可能に配設される複数の玉103と、複数の玉103を円周方向に略等間隔に保持する冠型保持器104と、を備える。
【0004】
冠型保持器104は、合成樹脂の射出成形により形成されており、図17に示すように、円環状のリム部105と、リム部105の軸方向端面に円周方向に所定の間隔を存して複数配置される柱部106と、柱部106間に互いに隣り合うように形成され、複数の玉103を円周方向に略等間隔で転動可能に保持するポケット部107と、ポケット部107の内周面の円周方向両端部に形成される一対の爪部108と、一対の爪部108の各先端間に形成される開口部109と、を備える。そして、開口部109から玉103を一対の爪部108を押し広げつつポケット部107に押し込むことによって、ポケット部107内に玉103が微小なすきまを介して転動可能に保持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−214436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、この種の軸受が高速回転で使用されて玉が高速で回転すると、その公転空間への油の流入速度が低下するという、所謂、エアカーテン作用が発生する。その結果、油が滞留し、油による抜熱作用が低下するので、発熱により軸受温度が上昇するという問題があった。この発熱の増大は、自己潤滑性、低摩擦性等の観点から好適な樹脂製保持器にとって強度低下をもたらす大きな要因となるため、改善すべき問題である。
【0007】
特に、ハイブリッド車駆動モータに用いられる玉軸受は、dmN70万以上の高速で回転するため、軸受周辺空気が連れ回ることで生じるエアカーテンの層も増大する傾向が強く、潤滑油が軸受内部に導入し難く、潤滑不足による焼き付きが発生する可能性があった。
【0008】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、高速回転した場合に、玉の公転部分に発生するエアカーテン作用を小さくし、軸受内を貫通する油を十分に確保して発熱を抑制することができる玉軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1)内周面に外輪軌道溝を有する外輪と、外周面に内輪軌道溝を有する内輪と、両軌道溝間に転動自在に配設された複数の玉と、玉をポケット内に転動自在に収容する保持器と、を備え、油潤滑される玉軸受であって、外輪及び内輪の両軌道溝の軸方向両側には、肩部がそれぞれ形成されており、軸方向一側の外輪及び内輪の少なくとも一方の肩部は、その軸方向端部から内部に向かって拡径されており、且つ、軸方向一側における空間体積が、軸方向他側における空間体積より小さいことを特徴とする玉軸受。
(2)軸方向一側の内輪の肩部外周面は、軸方向端部から内部に向かって拡径するように形成されるテーパ面を有し、軸方向一側の外輪の肩部内周面は、軸方向端部から内部に向かって拡径するように形成されるテーパ面を有することを特徴とする(1)に記載の玉軸受。
(3)両軌道溝は、軸受の軸方向中間位置に対して軸方向他側寄りにオフセットしていることを特徴とする(1)又は(2)に記載の玉軸受。
(4)保持器は、円環状のリム部が、軸方向一側に配置されることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1つに記載の玉軸受。
(5)保持器が、円環状のリム部と、リム部の軸方向端面に円周方向に所定の間隔を存して複数配置され、軸方向に突出する柱部と、柱部間に形成され、複数の玉を円周方向に略等間隔で転動可能に保持するポケット部と、を有する冠型保持器であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1つに記載の玉軸受。
(6)保持器が2点以上の樹脂注入ゲートを有する成形金型により製作されることを特徴とする(5)に記載の玉軸受。
【発明の効果】
【0010】
本発明の玉軸受によれば、内輪及び外輪の両軌道溝の軸方向両側には、肩部がそれぞれ形成されており、軸方向一側の内輪及び外輪の少なくとも一方の肩部は、その軸方向端部から内部に向かって拡径されており、且つ、軸方向一側における空間体積が、軸方向他側における空間体積より小さいため、高速回転した場合に玉の公転部分に発生するエアカーテン作用を小さくすることができ、軸受内を貫通する油を十分に確保して発熱を抑制することができる。
【0011】
なお、本発明の軸方向一側の空間体積とは、外輪の内周面と内輪の外周面間に形成される軸受空間のうち、軸方向一側の軸方向端部から両軌道溝(玉列)の軸方向中間位置までの空間体積であり、軸方向他側の空間体積とは、この軸受空間のうち、軸方向他側の軸方向端部から両軌道溝(玉列)の軸方向中間位置までの空間体積を言う。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る玉軸受の第1実施形態を説明するための要部断面図である。
【図2】図1に示す玉軸受の潤滑油の流れを説明するための要部断面図である。
【図3】第1実施形態の玉軸受の第1変形例を説明するための要部断面図である。
【図4】第1実施形態の玉軸受の第2変形例を説明するための要部断面図である。
【図5】第1実施形態の玉軸受の第3変形例を説明するための要部断面図である。
【図6】第1実施形態の玉軸受の第4変形例を説明するための要部断面図である。
【図7】第1実施形態の玉軸受の第5変形例を説明するための要部断面図である。
【図8】第1実施形態の玉軸受の第6変形例を説明するための要部断面図である。
【図9】第1実施形態の玉軸受の第7変形例を説明するための要部断面図である。
【図10】本発明に係る玉軸受の第2実施形態を説明するための要部断面図である。
【図11】第2実施形態の玉軸受の第1変形例を説明するための要部断面図である。
【図12】本発明に係る玉軸受の第3実施形態を説明するための要部断面図である。
【図13】第3実施形態の玉軸受の第1変形例を説明するための要部断面図である。
【図14】第3実施形態の玉軸受の第2変形例を説明するための要部断面図である。
【図15】第3実施形態の玉軸受の第3変形例を説明するための要部断面図である。
【図16】従来の玉軸受を示す要部断面図である。
【図17】従来の玉軸受に組み込まれる冠型保持器を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る玉軸受の各実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明において、本実施形態の玉軸受に組み込まれる冠型保持器の基本構造については、図17に示す従来の冠型保持器と同様であるので、参照されたい。
【0014】
(第1実施形態)
まず、図1を参照して、本発明に係る玉軸受の第1実施形態について説明する。図1は本発明に係る玉軸受の第1実施形態を説明するための要部断面図、図2は図1に示す玉軸受の潤滑油の流れを説明するための要部断面図、図3〜図9は第1実施形態の玉軸受の第1〜第7変形例を説明するための要部断面図である。
【0015】
本実施形態の玉軸受10は、図1に示すように、ハウジング1に内嵌され、内周面に外輪軌道溝11aを有する外輪11と、回転軸2に外嵌され、外周面に内輪軌道溝12aを有する内輪12と、外輪軌道溝11aと内輪軌道溝12aとの間に転動可能に配設される複数の玉13と、複数の玉13を円周方向に略等間隔に保持する合成樹脂製の冠型保持器14と、を備える。
【0016】
冠型保持器14は、2点以上の樹脂注入ゲートを有する射出成形金型により製作され、円環状のリム部15と、リム部15の軸方向端面に円周方向に所定の間隔を存して複数配置され、軸方向に突出する柱部16と、柱部16間に互いに隣り合うように形成され、複数の玉13を円周方向に略等間隔で転動可能に保持するポケット部17と、ポケット部17の内周面の円周方向両端部に形成される一対の爪部18と、一対の爪部18の各先端間に形成される開口部19と、を備える。そして、開口部19から玉13を一対の爪部18を押し広げつつポケット部17に押し込むことによって、ポケット部17内に玉13が微小なすきまを介して転動可能に保持される。
【0017】
冠型保持器14の合成樹脂材料としては、例えば、46ナイロンや66ナイロン等のポリアミド系樹脂の他に、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアミドイミド(PAI)、熱可塑性ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン
(PEEK)、ポリエーテルニトリル(PEN)等が挙げられる。また、これらの樹脂材料に10〜50重量%の繊維状充填材(例えば、ガラス繊維や炭素繊維等)を適宜添加することにより、冠型保持器14の剛性及び寸法精度を向上させることができる。
【0018】
そして、本実施形態では、冠型保持器14の外周面と外輪11の内周面との隙間を外径側隙間C1とし、冠型保持器14の内周面と内輪12の外周面との隙間を内径側隙間C2とした場合に、外径側隙間C1>内径側隙間C2の関係を満足し、且つ内輪12の潤滑油流入側の端面(図1の右端面)と内輪12の外周面との間に、潤滑油流入用の切欠き部20が設けられる。
【0019】
このように構成された玉軸受10では、図2の矢印Aに示すように、潤滑油は、冠型保持器14の外周面と外輪11の内周面との隙間及び内輪12の切欠き部20から軸受10内に流入し、保持器14の外周面と外輪11の内周面との間、及び保持器14の内周面と内輪12の外周面との間に十分に行き渡り、軸受10内を潤滑したのち外部に流出される。
【0020】
以上説明したように、本実施形態の玉軸受10よれば、冠型保持器14の外周面と外輪11の内周面との隙間を外径側隙間C1とし、冠型保持器14の内周面と内輪12の外周面との隙間を内径側隙間C2とした場合に、外径側隙間C1>内径側隙間C2の関係を満足するため、高速回転時の遠心力により保持器14が捩れ変形したとしても、保持器14が外輪11よりも先に内輪12に摺接するので、保持器14がシャープエッジである外輪11の溝肩部に摺接するのを回避することができる。
【0021】
また、本実施形態の玉軸受10よれば、内輪12の潤滑油流入側の端面と内輪12の外周面との間に潤滑油流入用の切欠き部20が設けられるため、切欠き部20から流入した潤滑油が保持器14の内周面と内輪12の外周面との間に十分に行き渡るので、軸受10の回転トルクの増加や焼付きの発生を防止することができる。
【0022】
また、本実施形態の玉軸受10よれば、冠型保持器14が、2点以上の樹脂注入ゲートを有する射出成形金型により製作されるため、保持器を1点の樹脂注入ゲートを有する射出成形金型により製作する場合と比較して、保持器14の真円度を向上することができるので、保持器14が外輪11に摺接する要因を低減することができる。
【0023】
また、本実施形態の玉軸受10によれば、保持器として射出成型金型で製作される冠型保持器14を採用しているため、2つの合成樹脂製の環状部材を軸方向に凹凸嵌合により組み合わせた保持器と比較して、製造コストを大幅に低減することができる。
【0024】
なお、本実施形態の第1変形例として、図3に示すように、外輪11の潤滑油流入側の端面に、軸受開口の一部を覆って軸受10内への潤滑油の流入を抑制する遮蔽板(遮蔽部材)21を設けるようにしてもよい。これにより、冠型保持器14の外周面側からの潤滑油の流入が抑制されて、冠型保持器14の内周面と内輪12の外周面との間に潤滑油をより効果的に流入させることができる。この場合、図3の矢印Bに示すように、冠型保持器14の内周面側から流入した潤滑油は遠心力により外周面側にも供給されるため、外周面側が潤滑不足に陥ることはない。
【0025】
また、本実施形態の第2変形例として、図4に示すように、遮蔽部材として、外輪11の潤滑油流入側の端部の内周面に、軸受開口の一部を覆って軸受内への潤滑油の流入を抑制するシールド板22を装着するようにしてもよい。
【0026】
また、本実施形態の第3変形例として、図5に示すように、遮蔽部材として、外輪11
が内嵌されるハウジング1に、軸受開口の一部を覆って軸受内への潤滑油の流入を抑制す
る遮蔽板23を一体に設けるようにしてもよい。
【0027】
また、本実施形態の第4変形例として、図6に示すように、冠型保持器14の内周面を、内輪12の潤滑油流入側(切欠き部20側)の端面に向けて次第に縮径するテーパ面24とするようにしてもよい。これにより、軸受回転時の遠心力により潤滑油の流入及び流出をし易くすることができるため、軸受10内の潤滑油量を適正に維持することができ、軸受10の回転トルクを低減することができる。
【0028】
また、本実施形態の第5変形例として、図7に示すように、内輪12の外周面と切欠き部20との境部にR面取り部25を設けるようにしてもよい。これにより、高速回転時の遠心力により冠型保持器14が捩れ変形し、内輪12に接触したとしても、冠型保持器14の内周面とR面取り部25とが摺接するため、冠型保持器14の回転が妨げられ難く、シャープエッジによる保持器摩耗を抑制することができる。
【0029】
また、本実施形態の第6変形例として、図8に示すように、冠型保持器14のリム部15側の端面と冠型保持器14の内周面との間、及び冠型保持器14のリム部15側の端面と冠型保持器14の外周面との間にそれぞれ面取り部26を設けるようにしてもよい。この場合、切欠き部20側の軸受端面を基準面とし、基準面からの面取り部26の軸方向長さ(保持器面取り長さ)L1<基準面からの切欠き部20の軸方向長さ(内輪面取り長さ)L2として、切欠き部20が冠型保持器14の面取り部26より軸方向内側に延びて配置されるようにする。これにより、軸受10内への潤滑油の流入が冠型保持器14の面取り部26により妨げられることがなくなるので、切欠き部20から軸受10内に潤滑油を効率よく流入させることができる。
【0030】
また、本実施形態の第7変形例として、図9に示すように、切欠き部20と内輪12の外周面との間に段差部27を設けるようにしてもよい。
【0031】
(第2実施形態)
次に、図10及び図11を参照して、本発明に係る玉軸受の第2実施形態について説明する。図10は本発明に係る玉軸受の第2実施形態を説明するための要部断面図、図11は第2実施形態の玉軸受の第1変形例を説明するための要部断面図である。なお、第1実施形態と同一又は同等部分については、同一符号を付して説明を省略或いは簡略化する。
【0032】
本実施形態の玉軸受30では、図10に示すように、外輪11の内周面と内輪12の外周面間に形成される軸受空間のうち、両軌道溝11a,12aの軸方向中間位置Pに対して、保持器14のリム部15が位置する側である軸方向一側の軸方向端部11d,12dから両軌道溝11a,12a(玉列)の軸方向中間位置Pまでの空間体積は、軸方向他側の軸方向端部11e,12eから両軌道溝11a,12a(玉列)の軸方向中間位置Pまでの空間体積より小さい。
【0033】
また、外輪11及び内輪12の両軌道溝11a,12aの軸方向両側には、肩部11b,11c,12b,12cがそれぞれ形成されている。両軌道溝11a,12aの軸方向中間位置Pに対して、保持器14のリム部15が位置する側である軸方向一側における外輪11の肩部11bの内周面は、軸方向端部11dから内部に向かって拡径するように形成されるテーパ面31を有する。さらに、軸方向一側における内輪12の肩部12bの外周面は、軸方向端部12dから内部に向かって拡径するように形成されるテーパ面32を有する。
【0034】
なお、各テーパ面31,32の傾斜は、軸方向一側における空間体積が軸方向他側における空間体積より小さいという関係が成立するものにおいて、任意に設定される。
【0035】
また、玉軸受30は、図示しないポンプ等による強制循環給油によって、潤滑油が常に軸方向一方から供給されている。玉軸受30は、冠型保持器14のリム部15が配置される軸方向一側が油流入側を向くようにして配置され、潤滑油は、軸方向一側から軸受内部に流入した後、軸方向他側から流出される。なお、図10中、矢印は油流の方向を示している。
【0036】
このようにして、強制循環給油路内に配置される玉軸受30は、高速回転で使用されることで発生するエアカーテン作用を抑制することができ、軸受自身により油流を形成することができる。また、一対のテーパ面31,32は、流出側に向かってテーパ面31,32での周速が増加し、遠心力によるポンプ作用によって油流を加速する方向に傾斜されているので、油による抜熱効果を促進することができる。
【0037】
なお、本実施形態では、外輪11の肩部11bにテーパ面31を形成すると共に、内輪12の肩部12bにテーパ面32を形成することによって、軸方向一側における空間体積が軸方向他側における空間体積より小さいという関係を成立させているが、これに限定されず、外輪11の肩部11c及び内輪12の肩部12cの少なくとも一方にテーパ面を形成することによって、上記関係を成立させるようにしてもよい。また、外輪11の肩部11cの内周面を一様な径で拡径することによって、上記関係を成立させるようにしてもよい。そして、これらの場合、外輪11及び内輪12にテーパ面31,32を形成しなくてもよいが、上記関係を更に満足させることができるので、テーパ面31,32を形成した方がより好ましい。
【0038】
なお、本実施形態の第1変形例として、図11に示すように、両軌道溝11a,12aの軸方向中間位置Pを、玉軸受30の軸方向中間位置Qから軸方向他側にオフセットし、軸方向一側の外輪11及び内輪12の肩部11b,12bのテーパ面31,32を第1実施形態よりも長く形成してもよい。これにより、遠心力によるポンプ作用によって、玉13の公転部分に潤滑油を押し込む力を大きくすることができ、油による抜熱効果をより促進させることができる。
【0039】
また、軸方向一側の外輪11及び内輪12の肩部11b,12b間に配置される保持器14のリム部15を軸方向に長く形成することで、軸方向一側の空間容積が軸方向他側の空間容積よりも大きくならないように調整されているので、軸受の高速回転によるエアカーテン作用を低下させている。なお、保持器14は、リム部15を軸方向に長く形成することで、剛性を高くすることができる。ただし、各肩部11b,12bのテーパ面31,32の形状は、外輪11と保持器14の干渉や、内輪12の端部薄肉化によって生産性が低下するのを防止しながら設計する必要がある。
なお、その他の構成及び作用については、第1実施形態のものと同様である。
【0040】
なお、軸方向一側の外輪又は内輪の肩部に、軸方向端部から内部に向かって拡径するように形成されるテーパ面は、軌道溝と隣接する位置まで形成されてもよく、軌道溝から若干離れた近傍位置まで形成されてもよい。
また、軸方向一側の外輪又は内輪の肩部を、軸方向端部から内部に向かって拡径する形状は、本実施形態のようにテーパ形状であってもよいが、曲面形状とすることもできる。
【0041】
また、上記実施形態では、冠型保持器14のリム部15の体積で、玉軸受10内の空間体積を調整しているが、保持器として、円環部の軸方向幅の異なるもみ抜き型保持器を用いて、本発明の空間体積を調整するようにしてもよい。
【0042】
(第3実施形態)
次に、図12〜15を参照して、本発明に係る玉軸受の第3実施形態について説明する。図12は本発明に係る玉軸受の第3実施形態を説明するための要部断面図、図13〜図15は第3実施形態の玉軸受の第1〜3変形例を説明するための要部断面図である。なお、第1及び第2実施形態と同一又は同等部分については、同一符号を付して説明を省略或いは簡略化する。
【0043】
本実施形態に係る玉軸受40は、回転数がインバータ制御されるハイブリッド車用駆動モータなどの回転支持軸を支持する軸受であり、図12に示すように、外輪11とハウジング1との間に、電気的絶縁性を有する絶縁スリーブ(絶縁層)41が介設される。この絶縁スリーブ41は、外輪11の軸方向幅と略同じ幅を有する円環部42と、この円環部42の一方の側面から径方向内方に延出して形成される穴付円板部43と、を有する。
【0044】
外輪11は、絶縁スリーブ41の円環部42に内嵌されると共に、その軸方向端部11eが絶縁スリーブ41の穴付円板部43に当接され、穴付円板部43の側面(外輪11と当接する側面)と内周面との間には、径方向外方に向かうに従って外輪11の軸方向端部11eに次第に接近するテーパ面44が形成される。
【0045】
絶縁スリーブ41の材料としては、電気的絶縁性を有する種々の材料が使用可能であり、例えば、下記のものが挙げられる。
(1)ガラス繊維を含有したポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂。
(2)ガラス繊維と非繊維質の絶縁性無機充填材とを含有したポリフェニレンサルファイド樹脂により形成し、ガラス繊維と非繊維質の絶縁性無機充填材のポリフェニレンサルファイド樹脂に対する含有量が、重量比でそれぞれ25〜60%と10〜40%に設定され、且つ両者の総含有量が重量比で40〜70%に設定されたもの。
(3)絶縁被膜はマトリックス樹脂の強化に貢献する繊維材〔A]と、熱伝導率が10W/m・K以上で且つ比抵抗が1010Ω・cm以上の充填材〔B〕とを含み、充填材〔B〕の含有量が10〜40重量%で、且つ、両者の合計〔A+B〕が30〜50重量%である。もしくは充填材[B〕の含有量が10〜50重量%で、且つ両者の合計〔A+B〕が20重量%以上60重量%未満であるもの。
(4)絶縁被膜は、比抵抗が1×10Ω・cm以上で、且つ熱伝導率が0.5w/m・k以上の合成樹脂組成物からなり、この合成樹脂組成物は、マトリックス樹脂の強化に貢献する熱伝導率が10w/m・k未満で、且つ比抵抗が1×10Ω・cm以上の繊維材と、飽和磁化が20emu/g以上で、且つ比抵抗が1×10Ω・cm以上の磁性充填材とを含み、繊維材及び磁性充填材の合計が50〜75重量%であり、絶縁被膜は非磁性高熱伝導性充填材を含有し、この非磁性高熱伝導性充填材はアルミナ繊維であり、磁性充填材はフェライトであり、繊維材はグラスファイバ(GF)繊維、チタン酸カリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー(アルゴナイト)、塩基性硫酸マグネシウムウィスカー、及びアラミド繊維のいずれかであるもの。
(5)誘電率が1kHz時に3〜6.2のポリエステル系エラストマ、誘電率が1kHz時に3.5〜5のポリアミド系エラストマ、誘電率が1kHz時に3〜5のシリコンゴム、及び誘電率が1kHz時に2〜3のフッ素ゴムのいずれか。
(6)絶縁層が、フラン樹脂、エポキシ樹脂、及びポリアミドイミド樹脂の内から選択される樹脂バインダーを含むポリ四弗化エチレンの焼き付け皮膜や、ガラス繊維を含むポリフェニレンサルファイド樹脂製のスリーブ。
(7)下記の5つの条件を満足する転がり軸受で、
条件A:外輪の外周部の全面に熱可塑性エラストマの層が形成されている。
条件B:熱可塑性エラストマの層は、硬さが60〜90[HDA]であり、且つ厚さが0.5〜5mmである。
条件C:熱可塑性エラストマの層は、熱伝導率が10W/m・k以上で且つ比抵抗が1×10Ω・cm以上の熱伝導性フィラーを含有する。
条件D:熱可塑性エラストマの層の外周囲の全面にわたって凹凸が設けられている。
条件E:条件Dの凹凸が、外輪の幅方向に連続するヘリンボン状の凹部、菱形状に連続する帯状の凹部、又は不規則に散在する不定形の突起により形成されている。また、熱可塑性エラストマの層は、外周面の凹凸の高さ(深さ)が5〜100μmであるもの。
(8)絶縁被膜PPS樹脂と、直径5〜9μmのガラス繊維と、比抵抗が1×1010Ω・cm以上で且つ熱伝導率が10W/m・k以上の熱伝導性物質と、を含む樹脂組成物からなり、この樹脂組成物中のガラス繊維の含有率は15〜40質量%で、熱伝導性物質の含有率は15〜45質量%のもの。
【0046】
内輪12が外嵌する回転軸2には、回転軸2の外周面に開口する給油孔45が形成されており、玉軸受40は、絶縁スリーブ41のテーパ面44と回転軸2の給油孔45が、軸方向略同一位置となるように配置される。
【0047】
以上説明したように、本実施形態の玉軸受40によれば、外輪11とハウジング1との間に絶縁スリーブ41を設けて、ハウジング1と回転軸2との間を電気的に絶縁するため、インバータ制御時の高周波誘導に起因して、ハウジング1と回転軸2との間に大きな電位差が生じたとしても、玉軸受40内に電流が流れることがなく、両軌道溝11a,12aと玉13の転動面に発生する電食を防止することができる。また、耐久性に優れ、ハイブリッド車駆動モータ用玉軸受として用いるのに好適な玉軸受40を得ることができる。
【0048】
また、本実施形態の玉軸受40によれば、給油孔45から供給される潤滑油は、図12の矢印で示すように、絶縁スリーブ41のテーパ面44で玉軸受10側に案内されるため、例え、玉軸受10が高速回転で使用されてエアカーテン作用が発生したとしても、玉軸受10内を貫通する油を十分に確保することができ、玉軸受10の回転トルクの増加や焼付きの発生を防止することができる。
なお、その他の構成及び作用については、第1及び第2実施形態のものと同様である。
【0049】
なお、図12では、保持器が省略されているが、保持器としては、冠型保持器、波型プレス保持器などが使用可能である。冠型保持器の場合、リム部の向きは特に限定されないが、軸受を貫通する潤滑油量を考慮すると、リム部は給油孔側に配置される方が好ましい。また、本実施形態では、絶縁スリーブ41は、外輪11側に配置されているが、これに限定されず、内輪12側に配置されていてもよく、或いは外輪11及び内輪12の両方に配置されていてもよい。
【0050】
なお、本実施形態の第1変形例として、図13に示すように、絶縁スリーブ41のテーパ面44に代えて、絶縁スリーブ41の穴付円板部43の内周面に、回転軸2の給油孔45に対向する段差部46を設けるようにしてもよい。
【0051】
また、本実施形態の第2変形例として、図14に示すように、絶縁スリーブ41の穴付円板部43の軸方向厚さを厚くすると共に、冠型保持器14のリム部15の軸方向肉厚を厚くして、冠型保持器14を玉軸受10から軸方向外方に突出させる、或いは、回転中のガタツキによって冠型保持器14を玉軸受10から軸方向に突出させるようにしてもよい。
【0052】
なお、本変形例では、冠型保持器14のリム部15は、回転軸2の給油孔45の上方に位置させる。これにより、給油孔45から供給される潤滑油は、リム部15の内周面に当たり、軸受内に供給され易くなる。また、リム部15の軸方向肉厚を厚く形成することによって、冠型保持器14の強度が向上されるので、破損を防止することができる。なお、外輪11及び内輪12の軌道溝11a,12aを、外輪11及び内輪12の軸方向中心位置より図14の右側にオフセットして形成すれば、冠型保持器14のリム部15の軸方向肉厚を更に厚くすることが可能である。
【0053】
また、本実施形態の第3変形例として、図15に示すように、絶縁スリーブ41の穴付円板部43を、更に径方向内方に延ばして、シール機能を持たせるようにしてもよい。また、本変形例では、絶縁スリーブ41内に金属などからなる芯金47が入れられており、穴付円板部43が補強されている。また、本変形例では、絶縁スリーブ41の外周面にOリング48,48が配設されており、ハウジング1との間のクリープの発生が防止されている。さらに、本変形例では、絶縁スリーブ41の外周角部に面取り部49が形成されており、玉軸受40のハウジング1への挿入性が向上されている。
【0054】
なお、本変形例では、玉軸受40の左側に絶縁スリーブ41の穴付円板部43が配置されているが、玉軸受40の軸方向両側に配置されるようにしてもよい。
【0055】
なお、本発明は、上記各実施形態に例示したものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
例えば、上記各実施形態では、玉軸受が内輪回転、外輪固定で使用される一般的な場合について説明したが、本発明は、内輪固定、外輪回転で使用される場合にも適用可能である。
また、上記各実施形態では、保持器は玉案内方式としたが、外輪案内、或いは、内輪案内であってもよい。
また、玉軸受は、深溝玉軸受、或いは、アンギュラ深溝玉軸受であってもよい。
また、上記各実施形態は、実施可能な範囲において組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0056】
1 ハウジング
2 回転軸
10 玉軸受
11 外輪
11a 外輪軌道溝
12 内輪
12a 内輪軌道溝
13 玉
14 冠型保持器
15 リム部
16 柱部
17 ポケット部
19 開口部
20 切欠き部
21 遮蔽板(遮蔽部材)
22 シールド板(遮蔽部材)
23 遮蔽板(遮蔽部材)
24 テーパ面
25 R面取り部
26 面取り部
C1 外径側隙間
C2 内径側隙間
30 玉軸受
31 テーパ面
32 テーパ面
P 軌道溝の軸方向中間位置
Q 軸受の軸方向中間位置
40 玉軸受
41 絶縁スリーブ(絶縁層)
42 円環部
43 穴付円板部
44 テーパ面(ガイド部)
45 給油孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に外輪軌道溝を有する外輪と、外周面に内輪軌道溝を有する内輪と、前記両軌道溝間に転動自在に配設された複数の玉と、前記玉をポケット内に転動自在に収容する保持器と、を備え、油潤滑される玉軸受であって、
前記外輪及び内輪の両軌道溝の軸方向両側には、肩部がそれぞれ形成されており、軸方向一側の前記外輪及び内輪の少なくとも一方の肩部は、その軸方向端部から内部に向かって拡径されており、且つ、
前記軸方向一側における空間体積が、前記軸方向他側における空間体積より小さいことを特徴とする玉軸受。
【請求項2】
前記軸方向一側の前記内輪の肩部外周面は、前記軸方向端部から内部に向かって拡径するように形成されるテーパ面を有し、
前記軸方向一側の前記外輪の肩部内周面は、前記軸方向端部から内部に向かって拡径するように形成されるテーパ面を有することを特徴とする請求項1に記載の玉軸受。
【請求項3】
前記両軌道溝は、軸受の軸方向中間位置に対して前記軸方向他側寄りにオフセットしていることを特徴とする請求項1又は2に記載の玉軸受。
【請求項4】
前記保持器は、円環状のリム部が、前記軸方向一側に配置されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の玉軸受。
【請求項5】
前記保持器が、円環状のリム部と、前記リム部の軸方向端面に円周方向に所定の間隔を存して複数配置され、軸方向に突出する柱部と、前記柱部間に形成され、複数の玉を円周方向に略等間隔で転動可能に保持するポケット部と、を有する冠型保持器であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の玉軸受。
【請求項6】
前記保持器が2点以上の樹脂注入ゲートを有する成形金型により製作されることを特徴とする請求項5に記載の玉軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−29203(P2013−29203A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−221477(P2012−221477)
【出願日】平成24年10月3日(2012.10.3)
【分割の表示】特願2008−285263(P2008−285263)の分割
【原出願日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】