説明

玩具用クラッチ

【課題】クラッチ機構内の歯車の回動を安定させ、不要な接触抵抗を無くす。
【解決手段】入力歯車であるドライブギア3と、ドライブギア3に噛合可能なピニオンギア6と、ドライブギア3の中心軸線を中心に一方向及び他方向に回動可能に設けられ、ピニオンギア6をドライブギア3と噛合状態に支持し、当該ドライブギア3の回動方向に応じた方向に回動する板状部材5と、ドライブギア3の中心軸又はその延長線を中心に回動可能な出力体であるホイール4とを備え、前記ホイール4には、板状部材5が一方向へ回動する際に、前記ピニオンギア6を係止して当該ホイール4を当該板状部材5と同じ方向に回動させる第一の係止部41と、板状部材5が他方向へ回動する際に、当該ホイール4の回転抵抗によって板状部材5を係止して前記ピニオンギア6を空転状態に保持する第二の係止部42とが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、玩具用のクラッチ機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、自動車玩具でも比較的高速で走行させる場合には、コーナリングをスムーズにするために差動歯車(デファレンシャルギア)を必要とする。
【0003】
ところが、実用車に搭載される差動歯車の自動車玩具への適用は、その構造が複雑なために高価となり、不適当である。
【0004】
そこで、例えば特許文献1に記載されているような、ドライブギアとフリーピニオンとを、当該フリーピニオンが動力伝達可能な空間及び空転可能な空間を有するホイール内に配した比較的簡単な構造のクラッチ機構を差動歯車に代用する方法が提案されている。
【特許文献1】特公平6−98228号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の発明では、ドライブギアが逆回転したときに当該ドライブギアとフリーピニオンとの摩擦抵抗によってフリーピニオンが空転位置へ逃げるようにしているので、当該フリーピニオンの回動の安定性に欠け、更に歯車の接触音が出てしまっていた。
【0006】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、従来に比べ、安定した歯車の回動が得られ、不要な接触抵抗を避けることのできる玩具用クラッチの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、玩具用クラッチであって、
入力歯車である太陽歯車と、
前記太陽歯車に噛合可能な遊星歯車と、
前記太陽歯車の中心軸線を中心に一方向及び他方向に回動可能に設けられ、前記遊星歯車を当該太陽歯車と噛合状態に支持し、当該太陽歯車の回動方向に応じた方向に回動するアームと、
前記太陽歯車の中心軸線又はその延長線を中心に回動可能な出力体である回転体と、を備え、
前記回転体には、
前記アームが一方向に回動する際に、前記遊星歯車を係止して当該回転体を当該アームと同じ方向に回動させる第一の係止部と、
前記アームが他方向に回動する際に、当該回転体の回転抵抗によって当該アームを係止して前記遊星歯車を空転状態に保持する第二の係止部と、が設けられていることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の玩具用クラッチであって、
前記回転体は、前記遊星歯車に対し前記アームの反対側に配設され、
前記遊星歯車と前記アームとの間に、当該遊星歯車を前記回転体側へ付勢する付勢部材を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、太陽歯車の回動方向に応じてアームが一方向に回動すると、当該アームが太陽歯車の中心軸線を中心に遊星歯車を公転させ、回転体の第一の係止部が当該遊星歯車を係止して回転体をアームと同じ方向へ回動させる。すなわち、太陽歯車から回転体へ動力が伝わる。また、太陽歯車の異なる方向への回動によってアームが他方向に回動すると、同じく当該アームが遊星歯車を公転させ、第二の係止部が回転体の回転抵抗によってアームを係止して当該遊星歯車を空転状態に保持する。すなわち、太陽歯車から回転体へ動力が伝わらない。このように、太陽歯車が逆方向へ回動したときにアームがこの回動に応じた方向へ遊星歯車を公転させるので、従来に比べ、遊星歯車の空転時における当該遊星歯車の回動を安定させ、不要な接触抵抗を避けることができる。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、回転体は遊星歯車に対しアームの反対側に配設され、遊星歯車とアームとの間に遊星歯車を回転体側へ付勢する付勢部材を備えているので、遊星歯車の回動を更に安定させて滑らかにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照して説明する。
図1に、本実施の形態における玩具用クラッチ1の分解斜視図を示す。玩具用クラッチ1は、図示しない動力源に連結される連結軸2と、この連結軸2に固定される駆動軸31を有するドライブギア3(太陽歯車)と、駆動軸31を同心状に回動可能に挿通させた円板状のホイール4(回転体)とを備えており、動力源からホイール4への回転動力の伝達を行う。
【0012】
連結軸2とドライブギア3との間には、駆動軸31を挿通させた孔部を有する板状部材5(アーム)が配設されている。また、ドライブギア3には、駆動軸31と略平行なピニオン軸61を有するピニオンギア6(遊星歯車)が噛合しており、このピニオン軸61は、板状部材5における駆動軸31の挿通孔とは別の孔部に回動可能に挿通されている。そして、板状部材5とピニオンギア6との間には、当該ピニオンギア6をホイール4側へ付勢する金属製の付勢ばね7が設けられている。
【0013】
板状部材5は、駆動軸31に対し回動可能であるとともに、当該駆動軸31との挿通孔での接触摩擦によりドライブギア3に追従して回動するようになっている。そして、この板状部材5の回動により、ピニオンギア6はドライブギア3と噛合したまま駆動軸31を中心にドライブギア3の周りを公転するようになっている。また、板状部材5は、ピニオンギア6の外径より一回り広い幅となっている。
【0014】
ホイール4は、鋭角部41aを有し断面が略扇形の柱状の第一の係止部41と、円柱状の第二の係止部42とを、ドライブギア3が配設される側の面におけるピニオンギア6の公転軌道上に備えている。第一の係止部41は、ピニオンギア6の厚さの半分ほどの高さとなっており、ピニオンギア6と接触した場合に鋭角部41aが当該ピニオンギア6の歯間に接触してその回動を係止するように設けられる。第二の係止部42は、ピニオンギア6の厚さよりも若干高くなっており、板状部材5の側面に接触してその回動を係止するように設けられる。これら第一の係止部41と第二の係止部42とは、ホイール4の面上において、板状部材5及びピニオンギア6を挟むように配設される。
【0015】
付勢ばね7を除く上述の全ての構成部品は、特に限定はされないが、いずれも硬質の樹脂で形成されている。
【0016】
続いて、図2(a),(b)を参照して玩具用クラッチ1の動作を説明する。
図2(a),(b)は玩具用クラッチ1を連結軸2側から見た図である。本図では、簡単のために連結軸2,付勢ばね7の図示を省略し、板状部材5を透過表示してある。
【0017】
まず、動力源からホイール4へ回転動力が伝達される場合の玩具用クラッチ1の動作について、図2(a)を参照して説明する。
動力源に連結された連結軸2により、駆動軸31を介してドライブギア3が図の左回り(矢印L)方向へ回動する。すると、ドライブギア3と噛合するピニオンギア6が自転するとともに、板状部材5がドライブギア3に追従して駆動軸31を中心にL方向へ回動する。そして、この板状部材5の回動は、ピニオンギア6を同方向へ公転させて第一の係止部41に接触させる。第一の係止部41は、その鋭角部41aがピニオンギア6の歯間に接触して当該ピニオンギア6の回動を係止し、この接触によって当該ピニオンギア6を介してドライブギア3から回転動力を受ける。こうして、ホイール4が図の左回り(矢印A)方向へ回動する、すなわち動力源からホイール4へ回転動力が伝達される。
【0018】
次に、動力源からホイール4へ回転動力が伝達されない場合の玩具用クラッチ1の動作について、図2(b)を参照して説明する。
動力源に連結された連結軸2により、駆動軸31を介してドライブギア3が図の右回り(矢印R)方向へ回動する。すると、ドライブギア3と噛合するピニオンギア6が自転するとともに、板状部材5がドライブギア3に追従して駆動軸31を中心にR方向へ回動する。そして、ホイール4の第二の係止部42が当該板状部材5の側面と接触し、この接触によって第二の係止部42に伝わる回転動力がホイール4の自重その他の回転抵抗より小さいために、ホイール4が回動することなく板状部材5の回動は係止される。この際、板状部材5の回動はピニオンギア6を同方向へ公転させるが、板状部材5がピニオンギア6の外径より広い幅となっているため、当該ピニオンギア6は第二の係止部42と接触することなく空転する。こうして、第二の係止部42は回転動力を受けずホイール4は回動しない、すなわち動力源からホイール4へ回転動力が伝達されない。
【0019】
このように、玩具用クラッチ1によれば、ドライブギア3の回動方向の切り替えによりホイール4への回転動力の伝達を操作することができる。この玩具用クラッチ1では、ドライブギア3の逆方向(R方向)への回動時に、板状部材5がこれに追従して回動しピニオンギア6を公転させるので、ドライブギアとピニオンギアとの摩擦抵抗によって当該ピニオンギアを空転位置へ逃がしていた従来の構造に比べ、ピニオンギア6の空転時における当該ピニオンギア6の回動を安定させ、周辺部品との不要な接触抵抗を避けることができる。また、ピニオンギア6の空転空間を形成するケースが不要となり、構成をコンパクトにできる。
【0020】
また、ピニオンギア6をホイール4側へ付勢する付勢ばね7が設けられているので、ピニオンギア6の回動を更に安定させて滑らかにすることができる。
【0021】
[実施例]
このような玩具用クラッチ1の実施例としては、例えば、図3に示すような自動車玩具の駆動輪への適用が挙げられる。以下にこの実施例について説明する。
【0022】
図3は、右後輪がホイール4となるよう玩具用クラッチ1を配設した自動車玩具9の左曲がりのカーブ走行時の様子を示している。なお、自動車玩具9においては前輪が操舵輪、後輪が駆動輪となっている。一般に、本図のようなカーブ走行時においては、駆動輪の内外輪が同じ駆動速度であると、内外輪の行程差により当該内外輪のどちらがスリップしてしまう。本自動車玩具9においては、玩具用クラッチ1が以下のように動作することにより、これら内外輪の速度差を吸収してスリップの発生を防止することができる。
【0023】
図3に示すカーブ走行時の自動車玩具9では、内外輪の行程差により駆動輪の外輪である右後輪のホイール4の回転数が駆動軸31の回転数より早くなる。すると、図2(a)におけるA方向にホイール4が先行するために、ピニオンギア6と第一の係止部41とが離間し、図2(b)に示す状態となる。こうして、ホイール4が空転可能となることにより内外輪の速度差を吸収して、駆動輪のスリップを防止することができる。なお、駆動輪の内輪に玩具用クラッチ1を配設し、同様にカーブ時にホイール4を空転させても、同じ効果を得ることができる。このように、自動車玩具9では、玩具用クラッチ1が差動歯車と同様の働きをすることにより、円滑なコーナリングが可能となる。
【0024】
また、上記のように内外輪の工程差によらずに、例えば、内外輪いずれかのホイール4の駆動源(例えば電動モータ)を逆回転させることによっても、同様に当該ホイール4への動力の伝達を遮断することができる。
【0025】
以上のように、玩具用クラッチ1によれば、ドライブギア3の回動方向の切り替えによりホイール4への回転動力の伝達を操作することができる。この玩具用クラッチ1では、ドライブギア3の逆方向(図2(b)のR方向)への回動時に、板状部材5がこれに追従して回動しピニオンギア6を公転させるので、従来に比べ、ピニオンギア6の空転時における当該ピニオンギア6の回動を安定させ、周辺部品との不要な接触抵抗を避けることができる。また、ピニオンギア6の空転空間を形成するケースが不要となり、構成をコンパクトにできる。
【0026】
また、ピニオンギア6をホイール4側へ付勢する付勢ばね7が設けられているので、ピニオンギア6の回動を安定させて滑らかにすることができる。
【0027】
なお、ホイール4をギアとして更に別の部品に回転動力を伝達するようにしてもよい。また、板状部材5は、駆動軸31とピニオン軸61とを回動可能に支持するとともに第二の係止部42に接触してピニオンギア6を空転可能にできればよく、例えば、第二の係止部42側だけがピニオンギア6の外径より広い形状であってもよい。その他の点についても、上記の実施の形態に限定されず、適宜変更可能であるのは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本実施の形態における玩具用クラッチの分解斜視図である。
【図2】(a)図1の玩具用クラッチにおいてホイールへ回転動力が伝達される動作を示す図であり、(b)ホイールへ回転動力が伝達されない動作を示す図である。
【図3】本実施例における玩具用クラッチを備えた自動車玩具のカーブ走行時の様子を示す図である。
【符号の説明】
【0029】
1 玩具用クラッチ
3 ドライブギア(太陽歯車)
4 ホイール(回転体)
5 板状部材(アーム)
6 ピニオンギア(遊星歯車)
7 付勢ばね(付勢部材)
41 第一の係止部
42 第二の係止部
L 左回り方向(一方向)
R 右回り方向(他方向)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力歯車である太陽歯車と、
前記太陽歯車に噛合可能な遊星歯車と、
前記太陽歯車の中心軸線を中心に一方向及び他方向に回動可能に設けられ、前記遊星歯車を当該太陽歯車と噛合状態に支持し、当該太陽歯車の回動方向に応じた方向に回動するアームと、
前記太陽歯車の中心軸線又はその延長線を中心に回動可能な出力体である回転体と、を備え、
前記回転体には、
前記アームが一方向に回動する際に、前記遊星歯車を係止して当該回転体を当該アームと同じ方向に回動させる第一の係止部と、
前記アームが他方向に回動する際に、当該回転体の回転抵抗によって当該アームを係止して前記遊星歯車を空転状態に保持する第二の係止部と、が設けられていることを特徴とする玩具用クラッチ。
【請求項2】
前記回転体は、前記遊星歯車に対し前記アームの反対側に配設され、
前記遊星歯車と前記アームとの間に、当該遊星歯車を前記回転体側へ付勢する付勢部材を備えたことを特徴とする請求項1に記載の玩具用クラッチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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