説明

現場で巻き付けられる成形磁石端コイルとその製造方法

【課題】別個に成形した端コイルの利点を保持し、欠点を除いた端コイルとその製造方法を提供する。
【解決手段】円筒形巻型に巻き付けたコイルと、巻型の端部に取付けた環状端コイル20を備え、端コイルの半径方向の内側又は軸方向の外側に巻型が存在しない電磁石を製造すべく、巻型端部に臨時型を保持し、臨時型の内部の巻型の端面に接合面剥離材料を塗布し、型の内部と巻型の端面の接合面剥離材料で形成した空洞内に端コイル用の線材を巻回し、端コイルの半径方向の外側表面の軸方向の内側部分に段差形状部分46を設け、更に巻型から段差形状部分の半径方向の外側表面を越えて段差形状部分の軸方向の外側表面上に延び、保持手段50で巻型に固定され、段差形状部分を圧縮状態に保つ保持片48を設け、硬化液体含浸材料で端コイル及び段差形状部分を含浸し、含浸材料の硬化後、環状臨時型を取り除く。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁石コイル、電磁石用の端コイルに関する。本発明は、特に核磁気共鳴法(NMR)又は磁気共鳴画像法(MRI)のような画像処理システムにおいて用いられる超伝導磁石用の端コイルとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
機械加工された巻型に形成されたスロットに「現場で」線材を巻き付けることで、核磁気共鳴(NMR)又は磁気共鳴画像法(MRI)といった画像処理システムで使用される電磁石用のコイルを製造するのが一般的である。また既知のように、電磁石の中心の方に配置されるコイルの直径よりも直径の小さい端コイルを製作することによって、必要とされる磁界の均質性を一層容易に実現可能である。
【0003】
こうした構成は、こうしたコイルを配置して保持するのに適した位置及び直径のスロットを備えた巻型を設けることによって実現された。しかしながら、核磁気共鳴(NMR)又は磁気共鳴画像法(MRI)のような画像処理システム用の超伝導磁石用の分野では、人間の患者又は病気の動物、又は、画像化すべき他の対象に接近しやすくし、画像処理システム内に収容された際の患者の閉所恐怖症を軽減し、更に、当該技術において周知の極低温容器及び外部真空容器のような他のシステム部品のコストを低下させるために、できるだけ電磁石の全長を短くすることが必要とされる。更に、コイルの巻き付けに用いられる線長をできるだけ短くすることも必要とされる。これは、主として、単位長当たりの超伝導体線の費用が高いためであるが、システム全体の重量を軽くするのにも役立ち、それによって、更にサスペンション部品の機械的強度要件が緩和されるので、それを利用して、サスペンション部品の寸法を縮小することも可能になり、磁石及びその冷却システムに対する熱流束が減少する。
【0004】
これらに対する既知の解決法は、個別に成形された端コイルの利用を含む。この構成の場合、長さを短縮した内部巻型を利用され、端コイルは巻き付けない。内部巻型は、一般に、その外部表面に形成したスロットにコイルを巻き付けたアルミニウム管である。コイルは、一般に現場で樹脂含浸が施される。端コイルは独立した型内で巻かれる。こうして巻かれた端コイルは、硬化可能な熱硬化性樹脂で含浸される。成形コイルは、次に型から取り外され、独立部品として内部巻型の端部に取り付けられる。一般に、端巻型を設けることができる。これらは、内部磁石の端コイル及び外部遮蔽コイルを支持すべく、正確に機械加工した機械的装置となし得る。それらは、任意の正確な機械的処理、一般には巻型部品をボルトで留めることで、組立中に内部巻型に取り付け得る。この構成の利点は、巻型材料が端コイルの内部表面又は端面に設けられない事実を含む。半径方向の内部表面に巻型材料が存在しないので、端コイルの内径を内部巻型の内径まで縮小でき、長さを短縮し、従って、全てのコイルを一体巻型の外部表面に巻き付ける構成に比べ、必要な超伝導線の費用も低下する。端コイルの軸方向端面に巻型材料が存在しない故、従来端コイルの各軸方向端を越えて設けていた巻型材料の長さ寸法だけ、電磁石の全長を短縮できる。
【0005】
図1は、例えばガラス繊維又はガラス玉を含む熱硬化性樹脂を含浸させた外側クラスト層2を装着したコイル20を具備した、既知構成の四分の一断面図を示す。これは、熱拡散障壁の働きをする。このクラストは、段差形状部分3も形成する。構造ウェブ4は、巻型に機械的に連結される。一般にアルミニウム合金からなるスラストリング5が、ウェブ4に溶接される(6)。スラストリング5は端コイルを正しい位置に保つ外被を有する。コイル20は、スラストリング内に収められる。コイルの軸方向位置を調整し、磁石の両端間における非対称性を補償するため、バランスシム9を設けることが可能である。コイルクランプリング7が、クラスト2の段差3に押し当てられて、スラストリング5に逆らってコイルを所定位置に保持する。ボルト8のような締結装置によって、クランプリングが段差3に押し付けられる。電構成の軸は、線A−Aに対して平行である。
【0006】
既知の成形端コイルは、特にコイルの内側半径に近い巻き部分がクエンチを被る可能性がある。磁界強度は、内側半径において特に高く、通常コイルの外側半径に生じる磁界強度の2倍になる。
【0007】
成形コイルが比較的不正確なことは公知である。これは、硬化中の含浸材料の収縮が異なることで生じる。巻型に取り付けた成形コイルを利用すると、コイルと巻型との接触にむらを生じる。動作時、磁石コイルは、極めて強い力に曝される。接触にむらがあると、これら力により、コイル又は巻型の局部応力の強い箇所が変形する可能性がある。この降伏によりクエンチを生じる可能性がある。強い力とむらのある接触の組み合わせは、コイルの若干の周方向移動を生じさせる可能性もあり、そのため、やはりクエンチ、即ち磁界特性の最適状況からの逸脱を生じさせる可能性がある。従って、巻型に対し成形コイルをぴったりと、堅く、正確に装着することを保証すべく、シムを用いるのが一般的である。
【0008】
外部コイルの軸方向位置を調整するためのバランスシムは、従来の磁石構成において既知のところである。一般に、受信含浸成形コイルは端コイルとして用いられる。それらの軸方向位置は、組立中、設計仕様を目指して裸磁石の均質性を向上させるために変化させ得る。Mylar(登録商標)ポリエステルシートのような電気的に絶縁性の非磁性材料によるシムが、端コイルと巻型の間に配置される。シートの数及び厚さは、コイル位置を調整して、裸磁石の均質性を最適化すべく選択される。軸方向シムの主目的は、成形コイルの使用によって導入されるエラーを補正することにある。
【0009】
コイル及びその巻型の隣接する半径方向表面が、円形ではない場合もある。成形コイルの内径がその外部表面と同心ではない場合もある。
【0010】
クエンチトレーニング挙動を改善すべく、その半径方向の外側表面A2にコイルをしっかりと把持するアルミニウム製巻型外被を設けることは公知である。
【0011】
しかしながら、こうした構成には、幾つかの欠点があり、次に、その幾つかについて簡単に説明する。
【0012】
磁石組立体が、僅か4Kの動作温度まで冷却されると、一般にアルミニウム又はアルミニウム合金製の巻型は、一般に主として銅からなる端コイルに対し直径が収縮する。このため、コイルを所定位置に確実に保持することを目的とした、巻型によるコイルのしっかりとした把持が施される。しかし端コイルが動作中に移動する場合、所謂スティックスリップ事象の場合、このしっかりとした把持が、事実上クエンチ事象の原因になり得る。動作に対するスティックスリップ事象の影響は、トレーニング、即ち磁石内で電流が一定比率で増減を繰返し、コイルが安定位置に落ち着くことにより軽減し得る。
【0013】
成形端コイルは、電磁石の残りの部分とは別個に巻き付けねばならず、このために機械の調整時間が長くなり、巻きバランシングがより困難になる。巻きバランシングは、設計からの、製造された磁石の偏差を補償し、なおかつ設計磁界をほぼ実現すべく、磁石の組立中に実施される一連の工程に対し与えられた名称である。磁石は、高い精度で組立ねばならず、しかも、個々の部品の製造公差を考慮せねばならない。一般に、アルミニウム製巻型に、銅ベースの超伝導線材を巻き付けるスロットを機械加工にて形成する。
【0014】
一連の巻きバランシングにおいて、下記の工程が実施される。スロットの形成寸法及び線材の実際の断面が相俟って、層当たりの所望の巻数に対応できないか、又は、スロットの軸方向距離を完全に埋めるには、より多くの巻数及び/軸方向シムが必要になる可能性がある。いかなる範囲の移動でも、動作中の磁石にクエンチを生じる可能性があるので、その軸方向に沿って各スロットを完全に埋めることが重要である。巻型に形成したスロットの寸法が、正確を測定し、用いる超伝導線材に対する断面の正確な測定値と比較する。コイルを少なくとも部分的に巻きつけて、その後、寸法と巻数を測定する。これら測定値が分かると、完成した磁石のシミュレーションを実施して、予測均質性を得ることができる。スロットを完全に埋めるには、設計仕様から層当たりの巻数を変更せねばならない場合もある。これに関して、線材の断面がその長さに沿って一定でない可能性があるので、これに注意を払わねばならず、層が異なれば巻数を変える場合もある。予測磁界をその設計の裸磁石の均質性に戻すため、磁石のコイルのうち任意のものに対して巻数を増減することができる。完全な巻きだけを増減するのが望ましく、裸磁石の設計均質性を実現すべく、部分巻きによらず、2つ以上のコイルの巻数を調整することが必要になる場合もあり得る。設計磁界を実現するための、磁石のコイルの巻数に対するこの調整は、巻きバランシングとして既知である。
【0015】
成形端コイルを用いる場合、巻きバランシングに関与することはできず、磁石の他のコイルを調整して、成形端コイルにおける誤差を補償することが必要になる。
【0016】
端コイル用の典型的な数個割り型の複数部分に対する積重ね公差と端コイルのゲル化、硬化及び冷却中に樹脂含浸剤の不均一な収縮のため、完成した端コイルの外部円筒状表面は、一般に、真円でもなく、端コイルの巻線の内部円筒状表面と同心でもない。
【0017】
端コイル表面の寸法と仕上げは正確に制御できないので、比較的高くつくシム入れ工程を利用し、端コイルと磁石の残りのコイルを保持する巻型との所望のぴったりした嵌め合いを実現することが必要になる。これは、制御が困難な時間のかかる工程である。端コイルと巻型の嵌め合いが十分に良好でないと、このためにクエンチ事象を起こす可能性がある。例えば、弱い摩擦接合の破綻によって生じるコイルの既知のスティックスリップ移動及び動作中におけるコイルの突然の移動が、コイルの移動中の摩擦で生じる熱のためにクエンチを起こす可能性がある。同様に、巻型に対する端コイルの接触にむらがあると、比較的強い局部応力が生じ、コイルと巻型の一方又は両方を変形させる可能性がある。これらの効果は、クエンチ事象を助長する可能性がある。
【0018】
かかる欠陥の累積により、端コイルが磁石コイルの残りと同心をなすことは稀になり、横断均質性の制御が不全になる。
【0019】
更に、端コイルの形成に一般に用いられる数個割り型は頻繁な再塗装を必要とし、このため、製造時間及びコストが増すことになる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の目的は、別個に成形される端コイルの利点を保持し、同時に上述の欠点に少なくとも部分的に対処可能な、新規な端コイル構造と形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
これら目的は、「現場巻き付け」と成形コイルの両方の技術の幾つかの特徴を組み合わせた、端コイル製造方法及び構造を用いることで達成される。
【0022】
従って、本発明は、請求項1から13に規定の方法と装置を提供する。
【0023】
次に、添付の図面に基づき、例示のためだけに示す本発明の幾つかの実施形態を参照しで、本発明の以上の及びその他の目的、特性及び利点について説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
慣例的に、矩形電磁石コイルの表面について言及する。半径方向の内側表面と外側表面及び内側半径と外側半径を、各々A1及びA2と呼ぶ。軸方向の内側表面と外側表面及び内側位置と外側位置を、各々B1及びB2と呼ぶ。これらの表示を、図2の端コイル20の適合する面に記入してある。
【0025】
図2に示すように、本発明に従い、臨時型22に巻き付けた端コイル20を形成する。この臨時型は、一体式環状臨時型が望ましい。これは、軸方向において、巻き付けたコイルを保持するための保持壁22aより巻型に近い隆起部分がないようにし、成形終了後、型を単にスライドさせれば、確実に巻型から離せるようにすることで実現できる。成形端コイルの線材消費の削減及び長さ短縮の利点を実現すべく、完成時に、端コイル20の下又はそのB2面には巻型材料が存在しない。
【0026】
図2に例示のように、巻型12には、各端部の近くに窪んだ段差形状部分24を設けている。この実施形態の場合、窪んだ段差構造24を、巻型の半径方向の内側部分に設けており、巻型の端部近くの比較的内径の大きい領域と、巻型の端部から遠い比較低内径の小さい領域を含んでいる。環状臨時型22との滑り嵌めを確実にすべく、比較的大きい内径は、端コイルの半径方向の内側(A1)表面の形成に用いる臨時型の環状表面の半径と同じ大きさしかない。臨時型の半径方向の内側エッジに相補形表面26を設けており、従って臨時型を巻型の端部に押し付け、これに伴い型の一部が巻型の内部に入り込んで、相補形表面26が窪んだ段差形状部分に接触するようになし得る。
【0027】
この窪んだ段差形状部分24は、巻型12の内周を途切れることなく延びても、巻型の内周を断続的に延びてもよい。臨時型22の相補性表面26は、段差形状部分24に適応するよう、連続的での断続的でもよい。巻型12の内側表面に沿った臨時型からの液体含浸剤の漏出を阻止すべく、臨時型の凹部30に圧縮性シール28、最適には連続Oリングを設けるとよい。臨時型22が巻型の所定位置につくと、シール28は、巻型12と凹部30の間に、圧縮力下に保持される。
【0028】
代替実施形態の場合、臨時型の環状表面に同様の窪んだ段差形状部分を設け、巻型の軸方向の外側エッジに同様の相補形表面を設けることが可能である。
【0029】
本発明の端コイルは、図2〜5に基づき、以下に記載の方法で製造可能である。
【0030】
環状臨時型22を、スライドさせて所定位置につけることで、巻型12の各端部に取り付け、各型の相補形表面を対応する段差形状部分24に接触させる。各シール28を圧縮して、巻型12と各々の臨時型22との間を密封する。巻型12上の所定位置に臨時型22を保持すべく、機械的保持手段が必要である。図2に例示の如く、これは、可能なら臨時型の軸方向の内側B1端に、半径方向の内側に延びる保持リム32を臨時に設けることで構成するのが好都合である。複数の機械的拘束手段34が、向かい合った臨時型の保持リム32間に張力を加える作用をし、巻型に対してそれらを所定位置に保持する。図2に示すように、機械的拘束手段はネジ付きバー34の形態をとり得る。この場合、拘束手段は保持リムを押しやるナット38による張力を受けて保持され、保持リム32の孔36を通る保持リムの代わりに、臨時型の内側表面に個別支持ラグを設けてもよい。こうしたラグ又はリムに孔をあけて、ネジ付きバー34のような機械的拘束手段の通過を可能にするか、U字形の切欠きを設けて、必ずしもバーからナットを外さなくても、ネジ付きバー34又はナット38等の拘束手段の挿入及び除去を可能になし得る。他の機械的拘束手段を設け、臨時型に適切に接合してもよく、当該技術者には明らかである。
【0031】
支持壁22aの内側表面に、その機能については図4に関する説明で明らかにする、図2に示した押圧板40による被覆を施すことができる。端コイル20のB1表面の形成を目的とした型の内側表面は、MYLAR(登録商標)ポリエステルシート又はポリテトラフルオロエチレンPTFE等の低摩擦接合面剥離材料による被覆を施し得る。該材料の存在に伴い、巻型に対する端コイル20の接着結合を防止できる。巻型とコイルを動作温度迄冷却すると、端コイルに応力を生じる可能性があり、更に、コイルの動作中、こうした接着結合がはずれ、その結果、コイルに、クエンチの発生には十分な、僅かではあるが、急速な移動が生じる可能性があるので、こうした接着結合は回避すべきである。
【0032】
臨時型を所定位置におき、押圧板40及び低摩擦接合面剥離材料42の被覆を施すと、コイル20自体の巻きつけに取り掛かれる。この工程は、任意の標準的なコイル巻線と同様に実施する。望ましい実施形態では、コイルを乾燥状態で巻回する。代替的に、巻きつけ直前にコイルの線材に樹脂塗装を施し、直接樹脂含浸コイルを製造してもよい。
【0033】
電磁石全体、端コイル20および巻型12の他のコイルは、単一の巻き付けプロセスで巻き付け得る。コイルの巻きつけ終了後、図3の如く、例えばガラステープ等の熱拡散障壁材44を、端コイルに重ねて巻き付ける。
【0034】
動作中、端コイル20を所定位置に保持すべく、端コイルの半径方向における外側A2表面の軸方向の内側部分に段差構造46を形成する。これは、予め熱拡散障壁材44で被覆しておくと望ましい、端コイルの半径方向における外側A2表面の関連部分の周りに幾つかのガラス繊維層を巻き付けることで設け得る。段差形状部分46を圧縮状態に保持する保持片48を設けており、該保持片の圧延縁が、端コイルを軸方向に保持する働きをする。保持片48は、非磁性シート材料等の弾性シート材料で形成するとよい。保持片の、少なくとも段差形状部分46を支持する表面は、ポリテトラフルオロエチレンPTFE等の低摩擦接合面剥離材料42で塗装すべきである。保持片は、端コイル20のA2外周に配置された一連の円弧構造として形成できる。ネジ50等の幾つかの保持手段を設け、保持片が段差形状部分46に押し付け、段差形状部分を圧縮状態に保持する。
【0035】
端コイル20を現場で巻き付ける故、保持片48は巻き付け後に取り付ける。保持片は端コイルの周囲に連続的又は断続的に配置した、1つ以上の比較的薄い圧延クランプ円弧構造を含み得る。保持片の材料、形状及び寸法は、磁石構造毎に最適化できる。
【0036】
次に、熱硬化性樹脂材料を用いて、コイル及び端コイル20を取り付けた巻型12全体を真空含浸する。図3は、巻型12、端コイル20およびその周りに一時的に取り付けた含浸タンク52を示す。型22の端面の凹部54に、含浸タンク52を密封し、含浸材料の漏出を阻止又は減少させる圧縮性シール56を収容している。保持壁22aに開口58を設け、押圧板40により覆うとよい。含浸中、開口58はモデリングクレイのような仮充填材料60により充填するか又は塞いでおくとよい。この充填材料60は、押圧板40と連係し、含浸材料が開口58に侵入するのを阻止する。巻型12、コイル及び端コイル20の真空含浸は、当該技術における慣例どおりに進める。余分な含浸材料は、完全に硬化する前に剥ぎ取る。
【0037】
含浸材料は、低摩擦接合面剥離材料42により巻型への接着結合が、そして型22の表面に施される公知の剥離塗装により臨時型への接着結合が阻止される。含浸材料は、剥離塗装の存在、押圧板材料の性質、又は少なくとも入り込んで含浸材料と接触する押圧板表面材料の性質に伴い、押圧板40への接着結合が阻止される。含浸材料は、低摩擦接合面剥離材料により保持片48への接着結合が阻止される。
【0038】
含浸中、端コイル20を、環状臨時型22により巻型12と同心をなすよう保持する。保持片48とその関連段差形状部分46は、各端コイルに適応するよう、個別に形成することになる。この結果、端コイル20を正確に配置でき、低摩擦接合面剥離材料42を介して巻型12と完全に接触することになる。この結果、位置調整のためのシム入れが不要になり、動作中にクエンチを生じる確率が低下する。
【0039】
図4に例示の如く、含浸工程の完了後、含浸タンク52を取り除く。環状臨時型22を巻型に保持する機械的拘束手段34も除去する。開口58に充填した任意の充填材料60も除去する。含浸材料の硬化後、型と押圧板の間に力を加え、押圧板と端コイルから型を離し、もって、環状臨時型を除去可能とする手段を設けている。開口58はネジ付きが望ましく、単純なボルト62であってよいねじ込み工具をネジ付き開口58にねじ込める。ねじ込み工具は、保持壁22aを貫通し、押圧板40の外側表面、従って含浸端コイル20の軸方向の外側のB2表面を押しやるのに十分な長さを持つ。ねじ込み工具を更に締めると、環状臨時型22が巻型12及び端コイル20から引き離され、端コイル20は巻型12及び電磁石の残りの部分に対し正確に位置決めされた状態に保持され、合わせ面B1が、軸方向の外側表面B2又は半径方向の内側表面A1に巻型材料のない状態で、低摩擦接合面剥離材料42を介して所定位置にしっかりと保持された巻型と完全に機械的に接触し、端コイルの最小半径(従って最小線材要件)と電磁石の最短全長が確保できる。
【0040】
図5に例示の如く、図4の巻型と端コイル組立体は、核磁気共鳴(NMR)や磁気共鳴画像法(MRI)に用いる画像処理システム等の完全なシステムに組み付け可能である。例えば電磁石は、動作温度迄冷却すべく、従来の構造の極低温容器64内に収容できる。
【0041】
本発明の方法及び構造では、端コイルを、端コイルの半径方向の外側表面A2において巻型と正確に同心をなすように保持するが、これは、電磁石設計の際、磁界強度が一般にこの位置で最低になるため、線材の超伝導状態がこの表面において最も安定するので望ましい。本発明の方法と構造によれば、単一プロセスで、単一コイル巻機により巻型12のコイルと端コイル20を含む電磁石全体を巻き、必要に応じ巻きバランシングをとれる。巻きバランシングの例については、前記のとおりである。
【0042】
本発明による端コイル形成の方法及び構造によれば、少なくとも次の利点が得られる。
【0043】
巻型12と端コイル20を含む電磁石全体は、単一の巻き付け作業で巻回可能である。
【0044】
従来の個別成形端コイル構成において必要とされた巻型に対する端コイルの取り付け作業及び位置調整のシム入れ作業は不要となる。
【0045】
端コイルのアライメント及び位置が、巻型との正確な接合によって固定されるので、裸磁石の横断均質性が、従来の個別成形端コイル構成に比べて向上する。本発明の方法によれば、製造中における端コイルの正確な形成も確実になる。
【0046】
環状臨時型22の費用及びその再塗装費用は、型に含まれる部品が従来よりも少なくなるので、従来の個別成形端コイル構成に比べて低下する。
【0047】
線材消費の減少利点は、従来の個別成形コイル製造法と同じである。
【0048】
従来の個別成形コイル製造法の場合のように、巻型に巻き付けられる端コイルに比べ、巻型12を短縮でき、従って必要とされる機械加工が少なくなり、費用が低下する。
【0049】
本発明の方法及び装置は、磁石組立体の寸法が従来の個別成形コイル製造法によって製造されるものと同じ大きさしかないので、既存の極低温容器64内において現行製品に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】従来の個別成形端コイルを備える電磁石の四分の一の部分縦断面図である。
【図2】本発明による電磁石の四分の一の部分縦断面図である。
【図3】本発明による電磁石の四分の一の部分縦断面図である。
【図4】本発明による電磁石の四分の一の部分縦断面図である。
【図5】本発明による電磁石の四分の一の部分縦断面図である。
【符号の説明】
【0051】
12 巻型、20 端コイル、22 臨時型、22a 保持壁、24 段差形状部分、26 相補形表面、28 圧縮性シール、30 臨時型の凹部、32 保持リム、34 機械的拘束手段、36 保持リムの孔、38 ナット、40 押圧板、42 低摩擦接合面剥離材料、44 熱拡散障壁材、46 段差形状部分、48 保持片、50 含浸タンク、54 型端面の凹部、56 圧縮性シール、58 開口、60 充填材、62 ねじ込み工具、64 極低温容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形巻型に巻き付けられた1つ以上のコイルと、前記巻型の端部に取り付けられた環状端コイル(20)を備え、前記端コイルの半径方向の内側(A1)又は軸方向の外側(B2)には前記巻型のどの部分も存在しないようになっている、電磁石を製造するための方法であって、以下の工程を含む方法。
(a)前記巻型の端部に環状臨時型(22)を配置する工程、
(b)前記巻型の端部の所定位置に前記臨時型を保持する(32、34、36、38)工程、
(c)前記臨時型の内部にさらされた、前記巻型の端面に接合面剥離材料(42)を塗布する工程、
(d)前記型の内部及び前記巻型の端面の前記接合面剥離材料(42)によって形成される空洞内に前記端コイルを形成する線材を巻き付ける工程、
(e)前記端コイルの半径方向の外側表面の軸方向の内側部分に段差形状部分(46)を設ける工程、
(f)前記巻型から前記段差形状部分の半径方向の外側表面を越えて延び、更に、前記段差形状部分の軸方向の外側表面上に少なくも部分的に延びており、保持手段(50)によって前記巻型に固定されて、前記段差形状部分を圧縮状態に保つ保持片(48)を設ける工程、
(g)硬化液体含浸材料で前記端コイル及び前記段差形状部分を含浸する工程、および
(h)前記含浸材料の硬化後、前記環状臨時型を取り除く工程。
【請求項2】
前記型が、前記端コイルの半径方向の内側(A1)表面を形成する環状表面と、前記端コイルの軸方向の外側(B2)表面を形成する保持壁(22a)を備え、かつ前記端コイルの軸方向の内側(B1)表面が、前記巻型の端部と、前記巻型の端面の前記接合面剥離材料(42)によって形成されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
熱拡散障壁材(44)が、前記段差形状部分を設ける前に、前記端コイルの半径方向の外側表面に巻き付けられることを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
含浸工程が、以下の工程を含むことを特徴とする請求項1から3の1つに記載の方法。
前記巻型及び前記端コイルのまわりに含浸タンク(52)を配置する工程、
全てのコイル及び前記段差形状部分が含浸材料によって含浸されるまで、真空下において含浸材料を注入する工程、および
前記含浸材料が完全に硬化する前に、余分な含浸材料と含浸タンクを除去する工程。
【請求項5】
前記含浸工程が、巻き付け前に前記端コイルの形成に用いる線材を含浸材料で塗装し、巻き付け時に前記端コイルを前記含浸材料で含浸する工程を含み、
前記段差形状部分を、前記端コイルに含浸材料を巻き付けることにより形成し、巻き付け時に前記段差形状部分を含浸する
ことを特徴とする請求項1から4の1つに記載の方法。
【請求項6】
前記巻型の端部に前記環状臨時型(22)を配置する工程が、以下の補助的な工程を含むことを特徴とする請求項2から5の1つに記載の方法。
前記巻型の端部に近い比較的内側半径の大きい領域と、前記巻型の端部から遠い比較的半径の大きい領域を含む、前記巻型の前記半径方向の内側表面に窪んだ段差形状部分(24)を設ける工程であって、前記比較的大きい内径が、前記端コイルの前記半径方向の内側(A1)表面を形成する前記臨時型の前記環状表面の半径と同じ大きさしかないことを特徴とする工程、
前記臨時型の軸方向の内側エッジに相補形表面(26)を設ける工程、および
前記臨時型を前記巻型の端部に押し付け、もって前記型の一部を前記巻型の内部に入り込ませ、前記相補形表面(26)を前記窪んだ段差形状部分に接触させる工程。
【請求項7】
前記巻型の端部に前記環状臨時型(22)を配置する工程が、以下の補助的な工程を含むことを特徴とする請求項2から5の1つに記載の方法。
前記型の軸方向の内側端部に近い比較的外側半径の小さい領域と、前記型の軸方向の内側端部から遠い比較的半径の大きい領域を含む、前記臨時型の前記半径方向の外側表面に窪んだ段差形状部分を設ける工程であって、前記比較的小さい外径が、前記巻型の内側半径と同じほど小さいことを特徴とする工程、
前記巻型の軸方向の外側エッジに相補形表面を設ける工程、および
前記臨時型を前記巻型の端部に押し付け、もって、前記型の一部を前記巻型の内部に入り込ませ、前記相補形表面を前記窪んだ段差形状部分に接触させる工程。
【請求項8】
前記窪んだ段差形状部分(24)及び/又は前記相補形表面(36)が、前記巻型の内周において断続的であることを特徴とする請求項6又は請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記臨時型を機械的拘束手段によって所定位置に保持することを特徴とする請求項6又は請求項7記載の方法。
【請求項10】
臨時型を電磁石コイル巻型の何れかの端部に配置し、機械的拘束手段(34)を用いて前記臨時型を互いに引きつけ、それらを前記巻型の両端に押し付けて保持することを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記段差形状部分を、前記端コイルの前記半径方向の外側表面(A2)の軸方向の内側部分にクロス層を巻き付けることで形成することを特徴とする請求項1から10の1つに記載の方法。
【請求項12】
前記型が、前記端コイルの半径方向の内側(A1)表面を形成する環状表面と、前記端コイルの軸方向の外側(B2)表面を形成する保持壁(22a)を備えることと、
押圧板(40)が前記型内に設けられており、前記押圧板が、前記保持壁の軸方向の内側表面に接触し、前記保持壁の軸方向の内側表面を覆っていることと、
開口(58)が前記保持壁に設けられており、前記押圧板により覆われていることと、
前記含浸材料の硬化後、前記型と前記押圧板の間に力を加えて、前記押圧板及び前記端コイルから前記型を離し、もって、前記環状臨時型を取り除き得るようにするための手段(62)を備えることと
を特徴とする請求項1から11の1つに記載の方法。
【請求項13】
前記型と前記押圧板の間に力を加える前記手段が、前記開口内のネジ山と、前記ネジ山とかみ合うネジ付き工具(62)を含み、前記ネジ付き工具を前記開口にねじ込んで通すと、必要な力を印加可能であることを特徴とする請求項12記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−147665(P2008−147665A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−316003(P2007−316003)
【出願日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【出願人】(505409214)シーメンス マグネット テクノロジー リミテッド (33)
【Fターム(参考)】